JP4716332B2 - 伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板並びにその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車や各種産業機械、構造物において、強度と加工性、特に伸びフランジ性、及び表面性状が必要な部品の材料として用いられる、強度クラスが980MPa以上の熱延鋼板に関する。
(1)表面性状
熱延鋼板は、圧延ままでは表面にスケールを呼ばれる酸化鉄が付着している。固溶強化能の高いSiを多量に添加した場合、Siを含有する赤スケールと呼ばれる縞状のスケールが形成される。赤スケールが形成されると鋼板表面に微小な凹凸が形成されるため、酸洗後も凹凸が縞状模様として残存し、鋼板の表面性状に悪影響を及ぼす。この凹凸が形成されるのを防止する手段として、赤スケールの低減又は加熱温度とデスケーリング温度の制御が有効であることが知られている。
下記特許文献1には、Si添加量を0.1%以下に制限することにより、赤スケール起因の表面疵の発生を防止して、表面性状に優れた熱延鋼板を製造することが記載されている。下記特許文献2には、熱延の前に、1170〜1350℃、雰囲気中酸素濃度2%以下の雰囲気下で30〜60分加熱し、デスケーリングを行い、さらに1050〜1170℃の温度で水蒸気を100〜900秒噴射して再加熱し、再デスケーリングを行うことにより、表面性状に優れた熱延鋼板を製造することが記載されている。下記特許文献3には、高濃度のSiを添加しても、熱延前に1200〜1280℃で75分以上加熱保持し、仕上げ圧延直前の最終デスケーリング前のスラブ表面温度を1180℃以下として最終デスケーリングを行うことで、表面性状に優れた熱延鋼板を製造できることが記載されている。しかし、いずれの技術でも、980MPa級の熱延鋼板で良好な強度−加工性バランスを両立させることができない。
(2)強度−加工性
一方、強度クラスが980MPa以上の熱延鋼板において、強度と良好な伸びフランジ性を両立させるには組織の均一性を高めることが有効であり、かつその組織としてベイナイトを主体とする組織が有効であることが知られている。
伸びフランジ性改善に関する従来技術として、下記特許文献4には、Nb,Tiのいずれかを添加しつつ、加熱温度1200℃以下で加熱し、その後熱間圧延することで、平均粒径3.0μm以下の微細ベイナイトを主体とする組織にし、強度−伸びフランジ性を両立させることが記載されている。しかし、熱間圧延加熱温度を低温に制限する必要があるため、Siを添加した場合に、高い強度と優れた加工性及び表面性状を兼備することができない。
特開2005−206864号公報 特開2005−193291号公報 特開2002−194442号公報 特開2000−109951号公報
本発明は、従来技術の上記問題点に鑑みてなされたもので、980MPa以上の強度クラスの熱延鋼板において、良好な伸び、伸びフランジ性及び表面性状を確保することを目的とする。
本発明者らは、(1)Si添加鋼の地鉄−スケール間に存在するSi濃化した領域が、鋼板表面に不均一に存在することが鋼板表面の凹凸の要因であること、(2)伸び、伸びフランジ性の改善に対し、ベイナイト組織とすることが有効であること、さらにベイナイトのラス間に形成される硬質なMA(マルテンサイト及び/又はオーステナイト)が変形時に亀裂の発生起点になること、MAの形成にNb,Moなどの4A属〜6A属の元素が寄与すること、を突き止めた。
さらに、980MPa以上の強度クラスの鋼板において、良好な伸び、伸びフランジ性及び表面性状を兼備させるには、(1)Si濃化領域を鋼板表面に均一に存在させることで表面性状が良化すること、(2)Nb,Moなどの元素を添加せず、Bを添加することにより、伸び、伸びフランジ性を劣化させるMAを抑制しつつ、ベイナイト組織を作り込むことができ、伸び、伸びフランジ性を改善することができること、(3)Si濃化領域を鋼板表面に均一に存在させるためには、熱延加熱温度を高温化する必要があるが、高温に加熱した際に組織が粗大化するのを、Ti,Nの適切な添加によりTiNを形成させて防止し微細な組織を得ることで、伸び、伸びフランジ性及び表面性状を兼備することができること、を見出した。本発明はこの知見を元になされたものである。
本発明に係る伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板は、質量%で、C:0.03%以上、0.20%以下、Si:0.1%を越え、2.0%以下、Mn:1.0%以上、3.0%以下を含み、P:0.05%以下、S:0.05%以下であり、V:0.010%以下、Zr:0.010%以下、Nb:0.005%以下、Mo:0.010%以下、Ta:0.010%以下、Hf:0.010%以下、W:0.010%以下、かつこれら7元素の合計が0.02%以下であり、N:0.0020%以上、0.010%以下で、かつNの質量%を[N]としたとき、Ti:3.4[N]−0.01%以上、3.4[N]以下であり、B:0.0003%以上、0.0050%以下を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、主要組織がベイナイトでその分率が90%以上、第2相としてマルテンサイト及び/又はオーステナイトの分率が5%以下、ベイナイトブロックの平均粒径(以下、ベイナイトブロックサイズともいう)が8μm以下、熱延鋼板の地鉄−スケール界面でSi濃度が5%以上となる領域の割合が90%以上であることを特徴とする。
ここで、ベイナイトブロックとは、ベイナイト中の下部組織で結晶方位の揃った領域を指し、本発明では、ベイナイト組織の隣り合うフェライト間の方位差が15°以上となる大傾角粒界をブロック境界とし、ブロック境界で囲まれた領域をベイナイトブロックと定義する。ベイナイトブロックはEBSP検出器を備えたSEMを用いて同定できる。ベイナイトブロックの平均粒径(ベイナイトブロックサイズ)は、各ベイナイトブロック粒の面積から円相当径を求めて平均化した値である。
上記熱延鋼板は、必要に応じて、さらにAl:0.001%以上、1.0%以下、Ca:0.0001%以上、0.1%以下、Mg:0.0001%以上、0.1%以下、Ce:0.0001%以上、0.1%以下、Te:0.0001%以上、0.1%以下、La:0.0001%以上、0.1%以下の1種又は2種以上を含み、又は/及びCr:0.01%以上、5.0%以下、Cu:0.01%以上、5.0%以下、Ni:0.01%以上、5.0%以下の1種又は2種以上を含むことができる。
また、本発明に係る伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板の製造方法は、上記組成の鋼を、加熱温度1200℃以上、1350℃以下で加熱時間75分以上、5時間以下加熱保持した後、熱間圧延を行い、最終デスケーリング前温度を1150℃以下として最終デスケーリングを行った後、圧延終了温度を1000℃以下のオーステナイト単相域として熱間仕上げ圧延を行い、300℃以上、500℃以下に急冷し、その際に500℃までの平均冷却速度を20℃/s以上とし、続いて上記温度範囲で巻き取ることを特徴とする。
本発明によれば、980MPa以上の熱延鋼板において、良好な伸び、伸びフランジ性及び優れた表面性状を確保することができる。
本発明に係る熱延鋼板は、自動車や各種産業機械、構造物において、強度と加工性、特に伸びフランジ性、及び優れた表面性状が必要な部品の材料として好適に用いることができる。
まず、本発明に係る熱延鋼板の組成及び組織限定理由について説明する。
・C:0.03%以上、0.20%以下
Cは、フェライト形成を抑制し、ベイナイト形成を促進して強度向上に有効な元素である。しかし、0.20%を越えると強度が高くなりすぎて伸び、伸びフランジ性が劣化し、一方、0.03%未満ではフェライトが形成されてベイナイト分率が低下し、必要な強度が得られない。好ましくは、0.05%以上、0.15%以下、さらに好ましくは0.07%以上、0.12%以下である。
・Si:0.1%を越え、2.0%以下
Siは加熱中にファイアライト(FeSiO)を形成し、鋼板の表面性状を劣化させる。そのため、良好な表面性状を得るとの観点からは添加量を下げた方がよいが、反面、固溶強化により高強度を確保しながら伸び、伸びフランジ性を確保できる。しかし、Siはフェライト形成元素であるため、過剰に添加するとフェライトが形成され、ベイナイト分率を低下させ、伸びフランジ性が低下する。以上の観点から、Si含有量は0.1%を越え、2.0%以下とする。好ましくは0.1%を越え、1.8%以下、さらに好ましくは0.2%以上、1.6%以下である。
・Mn:1.0%以上、3.0%以下
Mnはフェライトの形成を抑制し、ベイナイトの形成を促進して強度向上及び伸び、伸びフランジ性向上に有効な元素である。しかし、3.0%を越えると焼き入れ性が高くなり過ぎてマルテンサイトが形成され、特に伸びフランジ性が劣化する。一方、1.0%未満であるとフェライトが形成されて強度が得られず、伸びフランジ性も劣化する。好ましくは1.2%以上、2.7%以下、さらに好ましくは1.5%以上、2.4%以下である。
・P:0.05%以下
Pは粒界に偏析し、粒界強度を低下させて粒界破壊を促進するため、伸び、伸びフランジ性が劣化する。従って、0.05%以下に制限し、好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.02%以下に制限する。
・S:0.05%以下、
SはMnSなどの硫化物を形成し、この硫化物が穴広げ試験時の破壊の起点となるため、伸び、伸びフランジ性が劣化する。従って、0.05%以下に制限し、好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.02%以下に制限する。
・V:0.010%以下
・Zr:0.010%以下
・Nb:0.005%以下
・Mo:0.010%以下
・Ta:0.010%以下
・Hf:0.010%以下
・W:0.010%以下、かつこれら7元素の合計が0.02%以下
これらの元素は添加することでフェライトの形成を強く抑制し、ベイナイト形成を促進する作用がある。しかし、ベイナイトのラス間に微細なMA(マルテンサイト及び/又はオーステナイト)が形成され、これが穴広げ試験時の破壊の起点となるため、伸びフランジ性を低下させる。そのため添加量を低減することが望ましい。良好な伸びフランジ性を得る上では添加しない方がよく、添加する場合でも、V,Zr,Mo,Ta,Hf,Wは個別にそれぞれ0.010%以下、Nbは0.005%以下、合計で0.02%以下に抑える必要がある。好ましくは、V,Zr,Mo,Ta,Hf,Wは個別にそれぞれ0.005%未満、Nbは0.003%未満に抑え、合計では0.015%以下、さらに好ましくは合計0.010%以下に抑える。
・B:0.0003%以上、0.0050%以下
Bは鋼中に固溶状態で存在することによりフェライト変態を強く抑制する元素であり、ベイナイト主体の組織を形成する上で非常に有効な元素である。ベイナイト主体の組織を形成することで伸びフランジ性改善に寄与する。しかし、0.0003%未満であると、焼き入れ性改善効果(フェライト形成抑制効果)が得られず、一方、0.0050%を越えるとフェライト形成抑制効果が得られなくなり、いずれにしても強度及び伸びフランジ性が劣化する。好ましくは0.0005%以上、0.0040%以下、さらに好ましくは0.0005%以上、0.003%以下である。
・N:0.0020%以上、0.010%以下
Nは、Tiを結合することにより、高温でも安定なTiNを形成し、熱延加熱で1200℃以上に加熱した際にオーステナイト粒の粗大化を防止し、その結果、最終組織が微細化して伸び、伸びフランジ性が改善する。添加量が少なすぎるとTiNによるオーステナイト粒の粗大化防止効果が不足し、一方、多すぎるとTiNが粗大化して伸びフランジ性を劣化させたり、Bと結合して固溶状態のBを減少させることにより、Bのフェライト抑制効果を低下させる。この観点から、N添加量は0.0020%以上、0.010%以下とする。好ましくは0.0025%以上、0.008%以下、さらに好ましくは0.0030%以上、0.006%以下である。
・Ti:3.4[N]−0.01%以上、3.4[N]以下
TiはNと結合し、TiNを形成する。TiNが存在することにより加熱温度が1200℃以上であっても、オーステナイト粒の粗大化を防止でき、最終組織を微細均一にすることができる。また、不可避的に存在するNをTiNに固定し、B添加による焼き入れ性改善効果(フェライト形成抑制効果)を発現するために必要な元素である。一方、Nに対しTiの割合が多く固溶Tiが残存するようになると、TiNが粗大化し、オーステナイト粒の粗大化防止効果が低下し、最終組織が粗大になり、伸び、伸びフランジ性が劣化するため、N量に合わせた添加量に調整する必要がある。以上の観点から、Ti添加量は3.4[N]−0.01%以上、3.4[N]以下とする。好ましい範囲は3.4[N]−0.008%以上、3.4[N]以下、さらに好ましい範囲は3.4[N]−0.004%以上、3.4[N]以下である。
・Al:0.001%以上、1.0%以下
・Ca:0.0001%以上、0.1%以下
・Mg:0.0001%以上、0.1%以下
・Ce:0.0001%以上、0.1%以下
・Te:0.0001%以上、0.1%以下
・La:0.0001%以上、0.1%以下
これらの元素は酸化物系介在物を微細化することで伸びフランジ性を改善する作用があるため、1種又は2種以上を必要に応じて添加する。しかし、上限値を越えると効果が飽和し、下限値未満であると効果が得られない。
・Cr:0.01%以上、5.0%以下
・Cu:0.01%以上、5.0%以下
・Ni:0.01%以上、5.0%以下
これらの元素はフェライト形成を抑制し、ベイナイト組織形成に寄与するため、1種又は2種以上を必要に応じて添加する。しかし、上限値を越えると効果が飽和し、下限値未満であると効果が得られない。
・ベイナイト分率:90%以上
ベイナイトは均質な組織であるため、ベイナイト主体組織になると亀裂の発生起点が少なくなり、伸び、伸びフランジ性が改善する。好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上である。理想的には100%ベイナイト組織になることが望ましい。
・マルテンサイト及び/又はオーステナイト(MA)分率:5%以下
硬質なMAは穴広げ試験時に亀裂の発生サイトとなり、伸びフランジ性を劣化させる。そのため、MA分率は低減させることが望ましい。好ましい範囲は3%以下、さらに好ましくは2%以下である。
なお、MAのほかにも、主相であるベイナイト以外の組織(フェライト、パーライト)が存在し得る。これらの組織が存在すると硬質相との界面に歪みが集中し、界面が割れの発生起点になるため、ベイナイト及びMAを除くその他組織については、面積分率10%以下とする。好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。
ベイナイトブロックの平均粒径:8μm以下
ベイナイトブロックとは、ベイナイト中の下部組織で結晶方位の揃った領域を指す。ブロックを微細化すると、ブロック界面に集中する応力が低下し、ブロック界面に集中する応力が低下し、ブロック界面からの破壊が抑制され、伸び、伸びフランジ性が改善する。ベイナイトブロックの平均粒径(ベイナイトブロックサイズ)が8μmより大きいと、良好な伸び、伸びフランジ性が得られない。ベイナイトブロックの平均粒径の好ましい範囲は6μm以下、さらに好ましい範囲は5μm以下であり、微細である程好ましいが、現実的なプロセスで得られるベイナイトブロックの平均粒径の下限は1μm程度である。
・地鉄−スケール界面でのSi濃度5%以上の領域の割合:90%以上
熱延加熱のときに地鉄とスケールの間に形成されるファイアライトを、鋼板表面に均一に形成させることで、酸洗後の鋼板表面の凹凸を抑制することができる。最終製品(熱延鋼板)の地鉄−スケール界面においてSiが5%以上に濃化した領域は、熱延加熱によりFe酸化物とファイアライトの化合物が形成されていたものと推側でき、この領域の割合が大きいほど、前記化合物が全面に均一に形成されていたと推測できる。Si濃度5%以上の領域の好ましい範囲は95%以上、さらに好ましい範囲は100%である。
次に、本発明に係る熱延鋼板の製造方法について説明する。
典型的な製造方法は、図1に示すように、スラブ等の鋼素材を熱間圧延加熱した後、粗圧延、仕上げ圧延を含む熱間圧延、熱間圧延後の急冷、急冷停止、巻き取りである。熱間圧延加熱後、適宜デスケーリングを行い(行わなくてもよい)、仕上げ圧延前に最終デスケーリングを行う。以下、各工程の条件を説明する。
・熱間圧延加熱条件:1200〜1350℃×75分〜5時間
熱間圧延加熱により、Siを含有する鋼では、表面に鉄酸化物とファイアライトの化合物が形成される。この化合物は1180℃で液相化するが、加熱温度が1200℃未満ではこの化合物の形成は不均一になるため(その場合、地鉄−スケール界面でSiが濃化した領域が不均一になる)、表面性状が劣化する。従って、熱間圧延加熱温度の下限値は1200℃とする。好ましくは1220℃以上、さらに好ましくは1250℃以上である。一方、加熱温度が余り高いと、オーステナイト粒径が粗大になり、最終組織が粗大になるため伸び、伸びフランジ性が低下する。従って、熱間圧延加熱温度の上限値は1350℃とし、好ましくは1320℃以下、さらに好ましくは1300℃以下である。
熱間圧延加熱において、1200℃以上に75分以上保持することにより、前記化合物を鋼板表面に均一に形成させることができる。しかし、75分未満では前記化合物の形成が十分に進まない(その場合、地鉄−スケール界面でSiが濃化した領域が不均一になる)。従って、保持時間の下限値は75分とする。一方、この保持時間は長くても特性上問題はないが、生産性が低くなるため、上限値は5時間とする。
・最終デスケーリング温度:1150℃以下
鉄酸化物とファイアライトの化合物が凝固しない状態でデスケーリングを行うと、スケールの剥離が不均一になり、部分的にスケールが残存し、表面性状が劣化する。スケールを均一に剥離させるためには、鉄酸化物とファイアライトの化合物を凝固させてからデスケーリングを行う必要があり、下限値を1150℃以下とする。一方、最終デスケーリング温度の下限値については特に指定しないが、次工程である熱間圧延仕上げ温度を制御するためには、1000℃以上であることが望ましい。
鉄酸化物とファイアライトの化合物は最終デスケーリングで均一に剥離できれば良好な表面性状が得られるので、最終デスケーリング以外では温度を規制する必要はない。
なお、デスケーリングは、通常の方法を用いればよく、その方法として例えば高圧水を噴射する方法(高圧水デスケーリング)を用いることができる。
・熱間圧延仕上げ温度:1000℃以下のオーステナイト単相域
熱間圧延仕上げ温度が1000℃を越えるとオーステナイトが粗大化し、焼き入れ性が高くなるため、マルテンサイトが形成される。従って、熱間圧延仕上げ温度は1000℃以下のオーステナイト単相域(A3点以上)とする。より具体的には、750℃以上、1000℃以下、好ましくは800℃以上、さらに好ましくは830℃以上である。
・熱間圧延仕上げ後の急冷:500℃までの平均冷却速度20℃/s以上
熱間圧延後は、フェライト変態が起こる温度域を急速に冷却することで、フェライト形成を抑制する。この冷却速度は速いことが望ましいが、速すぎると制御が困難となるため、好ましくは150℃/s未満、さらに好ましくは120℃/s未満とする。
・急冷停止、巻き取り:300℃以上、500℃以下
急冷停止温度は300℃以上、500℃以下とする。この温度域はベイナイト変態が起こる温度域であり、急冷停止後巻き取り、この温度域で保持することにより、均一なベイナイト主体の組織が得られる。急冷停止温度が500℃を越えると、MA又はパーライトが形成されるようになり、強度が低下、又は伸び、伸びフランジ性を劣化させる。一方、この温度が300℃未満であると、マルテンサイト変態が発生し、ベイナイト分率が低下して、伸びフランジ性が劣化する。
表1,2に示す成分の鋼片を、表3に示す条件で、熱間圧延加熱し、加熱炉から抽出後粗圧延を施した後、各表面温度でデスケーリングを行い、仕上げ圧延後、各停止温度まで各平均冷却速度で冷却し、続いて巻き取りを模擬するため30分の保持を行った後、炉冷し、板厚3mmの熱延鋼板を製造した。
Figure 0004716332
Figure 0004716332
Figure 0004716332
得られた熱延鋼板からサンプルを採取し、組織評価、引張試験、及び穴広げ試験を下記要領で実施した。
・組織評価1(ベイナイト分率)
鋼板中心部のTD面の組織を観察した。サンプルを鏡面に研磨し、3%ナイタールで腐食後、光学顕微鏡で400倍で5視野(約30,000μm/視野)の観察を行い、ポイントカウンティング法(各視野毎に均等なメッシュで100ポイント)でベイナイト分率を求めた。
・組織評価2(ベイナイトブロックの平均粒径)
ベイナイトブロックは同一方位を示す領域であり、光学顕微鏡やSEMでは判別することができない。また、光学顕微鏡やSEMで観察したベイナイトの粒径は、ラス、ブロック、パケットのいずれを観察しているか不明であり、ブロックの粒径と一対一の対応をとることができない。そのため、ベイナイトブロックの測定はEBSP(Electron Back Scattering Pattern)などの結晶方位測定を行う必要がある。この実施例では、隣り合うフェライト間の方位差が15°以上となる大傾角粒界をブロック境界とし、ブロック境界で囲まれた領域の粒径をベイナイトブロックの粒径として測定した。装置及び観察条件は次のとおりである。
(a)観察装置;走査電子顕微鏡(Philips社製 XL30S-FEG)
(b)EBSPシステム;テクセムラボラトリーズ製 0IMシステム(ver.4.0)を使用
(c)ステップ間隔;0.25μm
(d)隣り合うフェライト間の方位差が15°以上となる点をブロック境界としてマッピング
(e)ブロック境界で囲まれた領域の面積をMicromedia社製Image-Proを用いて測定し、各粒の面積から円相当径(=2(A/π)1/2,A:粒の面積)を求めて平均化した値を平均粒径とした。
・組織評価3(マルテンサイト及び/又は残留オーステイナイト分率)
レペラ試薬で腐食後、光学顕微鏡で1000倍で5視野(約5,000μm/視野)の観察を行い、白い領域をマルテンサイト及び/又は残留オーステナイトとして画像解析を行い、当該組織の分率を求めた。
なお、ベイナイトのラス間に存在するマルテンサイト及び/又は残留オーステナイトは微細組織であり、組織評価1で得られるベイナイト分率はこのマルテンサイト及び/又は残留オーステナイトを含む。このため、組織評価1で得られるベイナイト分率と組織評価3で得られるマルテンサイト及び/又は残留オーステナイト分率を足すと100%を越える場合がある。
・組織評価4(地鉄−スケール界面でSi濃度が5%以上となる領域)
熱延鋼板の圧延方向から鋼板表面とスケールの界面を観察できるように資料を調整し、ランダムに鋼板表面・スケール界面を20点、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)分析を行い、地鉄−スケール界面のSi濃度を測定し、Si濃度が5%以上となる点数をカウントした。ただし、測定点間の間隔は1mm以上とした。
・引張試験
引張試験は、サンプルをJISZ2201記載の5号試験片に加工し、JISZ2241記載の引張試験方法に従い、引張強度及び伸びを測定した。
・穴広げ試験
伸びフランジ性は穴広げ試験で評価した。穴広げ試験は、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に従って行い、穴広げ率を測定した。
・鋼板の表面性状
鋼板の表面性状は、熱延鋼板を酸洗後、鋼板全面において縞状模様の発生面積(微小な凹凸の発生領域の面積)が5%未満のものを優良◎、5〜15%のものを良○、15%を越えるものを不良×とした。
測定結果を表4及び表5に示す。表4及び表5において、ベイナイト分率はベイナイトのラス間に存在する微細なMA(マルテンサイト及び/又は残留オーステナイト)を含む。また、表4及び表5において、引張強度は980MPa以上を良好、伸びは12%以上、穴広げ率は50%以上を良好と評価した。
Figure 0004716332
Figure 0004716332
表4及び表5の測定結果を以下簡単に説明する。
No.1,2,4,5,8,9,12,13,22〜29,31,37,43,44,47は、クレーム記載の組成、ベイナイト分率、マルテンサイト及び+残留オーステナイトの分率、ベイナイトブロックサイズ、及び地鉄−スケール界面でSi濃度が5%以上となる領域の割合の各要件を満たし、良好な引張強度、伸び、伸びフランジ性(穴広げ率)及び表面性状を示す。
一方、No.3はC含有量が不足し、フェライトが形成されてベイナイト分率が低く引張強度が劣り、No.6はC含有量が過剰で、伸び及び穴広げ率が劣る。
No.7はSi含有量が不足して強度及び伸びが劣り、No.10はSi含有量が過剰で、フェライトが形成されてベイナイト分率が低く穴広げ率が劣る。
No.11はMn含有量が不足し、フェライトが形成されてベイナイト分率が低く、引張強度及び穴広げ率が劣り、No.14はMn含有量が過剰で、マルテンサイトが形成されてベイナイト分率が低下し、伸び及び穴広げ率が劣る。
No.15〜21はV,Zr,Nb,Mo,Ta,Hf,Wの1種又は2種以上の含有量が過剰で、ベイナイトのラス間に微細なMA(マルテンサイト+残留オーステイナイト)が形成され、穴広げ率が劣る。
No.30はB含有量が不足するためフェライト形成抑制効果が不足し、ベイナイト分率が低下して引張強度及び穴広げ率が劣る。No.32はB含有量が過剰でフェライト形性が抑制できず、引張強度及び穴広げ率が劣る。
No.33は[Ti]−3.4[N]が低すぎるため、ベイナイトブロックサイズが粗大化し、伸び及び穴広げ率が劣り、No.34は[Ti]−3.4[N]が高すぎるためベイナイトブロックサイズが粗大化し、伸び及び穴広げ率が劣る。
No.35はN含有量が不足するため、ベイナイトブロックサイズが粗大化して穴広げ率が劣り、No.36はN含有量が過剰でベイナイトブロックサイズが粗大化し、伸びフランジ性が劣る。
No.38は熱間圧延加熱温度が低いため、地鉄−スケール界面でSiが濃化した領域の割合が少なく、表面性状が劣り、No.39は熱間圧延加熱温度が高すぎてベイナイトブロックサイズが粗大化し、伸び及び伸びフランジ性が劣る。
No.40は熱間圧延加熱時間が短いため、地鉄−スケール界面でSiが濃化した領域の割合が少なく、表面性状が劣る。
No.41は最終デスケーリング温度が高すぎるため表面性状が劣る。
No.42は仕上げ熱延温度が高すぎるためマルテンサイトが生成してベイナイト分率が低く、ベイナイトブロックサイズが粗大化し、伸び、伸びフランジ性が劣る。
No.45は熱間圧延仕上げ後の冷却速度が小さいためフェライトが生成し、ベイナイト分率が低く強度及び伸びフランジ性が劣る。
No.46は急冷停止巻き取り模擬温度が低いためマルテンサイトが生成し、ベイナイト分率が低く伸び、伸びフランジ性が劣る。
No.48は急冷停止巻き取り模擬温度が高すぎるためベイナイト分率が低くなり、伸びフランジ性が劣る。
本発明の熱延鋼板の製造方法を示す図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.03%以上、0.20%以下、Si:0.1%を越え、2.0%以下、Mn:1.0%以上、3.0%以下を含み、P:0.05%以下、S:0.05%以下であり、V:0.010%以下、Zr:0.010%以下、Nb:0.005%以下、Mo:0.010%以下、Ta:0.010%以下、Hf:0.010%以下、W:0.010%以下、かつこれら7元素の合計が0.02%以下であり、N:0.0020%以上、0.010%以下で、かつNの質量%を[N]としたとき、Ti:3.4[N]−0.01%以上、3.4[N]以下であり、B:0.0003%以上、0.0050%以下を含み、残部Fe及び不可避不純物からなり、主要組織がベイナイトでその分率が90%以上、第2相としてマルテンサイト及び/又はオーステナイトの分率が5%以下、ベイナイトブロックの平均粒径が8μm以下、熱延鋼板の地鉄−スケール界面でSi濃度が5%以上となる領域の割合が90%以上であることを特徴とする伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板。
    ここで、ベイナイトブロックは、ベイナイト組織の隣り合うフェライト間の方位差が15°以上となる大傾角粒界をブロック境界とし、このブロック境界で囲まれた領域と定義される。
  2. さらにAl:0.001%以上、1.0%以下、Ca:0.0001%以上、0.1%以下、Mg:0.0001%以上、0.1%以下、Ce:0.0001%以上、0.1%以下、Te:0.0001%以上、0.1%以下、La:0.0001%以上、0.1%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載された伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板。
  3. さらにCr:0.01%以上、5.0%以下、Cu:0.01%以上、5.0%以下、Ni:0.01%以上、5.0%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板。
  4. 質量%で、C:0.03%以上、0.20%以下、Si:0.1%を越え、2.0%以下、Mn:1.0%以上、3.0%以下を含み、P:0.05%以下、S:0.05%以下であり、V:0.010%以下、Zr:0.010%以下、Nb:0.005%以下、Mo:0.010%以下、Ta:0.010%以下、Hf:0.010%以下、W:0.010%以下、かつこれら7元素の合計が0.02%以下であり、N:0.0020%以上、0.010%以下で、かつNの質量%を[N]としたとき、Ti:3.4[N]−0.01%以上、3.4[N]以下であり、B:0.0003%以上、0.0050%以下を含み、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼を、加熱温度1200℃以上、1350℃以下で加熱時間75分以上、5時間以下加熱保持した後、熱間圧延を行い、最終デスケーリング前温度を1150℃以下として最終デスケーリングを行った後、圧延終了温度を1000℃以下のオーステナイト単相域として熱間仕上げ圧延を行い、300℃以上、500℃以下の温度範囲内に急冷し、その際に500℃までの平均冷却速度を20℃/s以上とし、続いて上記温度範囲内で巻き取ることを特徴とする伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板の製造方法。
  5. さらにAl:0.001%以上、1.0%以下、Ca:0.0001%以上、0.1%以下、Mg:0.0001%以上、0.1%以下、Ce:0.0001%以上、0.1%以下、Te:0.0001%以上、0.1%以下、La:0.0001%以上、0.1%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項4に記載された伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板の製造方法。
  6. さらにCr:0.01%以上、5.0%以下、Cu:0.01%以上、5.0%以下、Ni:0.01%以上、5.0%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載された伸びフランジ性及び表面性状に優れた熱延鋼板の製造方法。
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