しかし、従来のプリンタでは各画素ごとに表現可能な階調値の範囲が比較的狭く、更に滑らかな階調表現を実現することが困難であった。例えば、駆動信号の種類を変更して多階調を表現するプリンタにおいては、各画素ごとに出力可能な駆動信号の種類に制限があった。つまり、各画素にドットを形成可能なタイミングで出力可能な駆動波形の数には、主走査中のヘッドの移動速度に応じた上限が存在する。駆動波形の数を十分に増やすためには、ヘッドの移動速度を遅くする必要が生じ、印刷速度の低下という別の課題を招く。
種類の異なる駆動信号を出力する回路を各ノズルごとに並列で備えたり、各ノズルごとに複数の駆動素子を備えることも可能ではある。しかしながら、一般に印刷速度の向上を図るため、ヘッドには多数のノズルが備えられているのが通常であり、各ノズルごとに並列して回路を備えるものとすれば、印刷装置の製造コストを大幅に増大させるという別の課題を生じることになる。
かかる状況下にあって、各画素ごとに表現可能な濃度の範囲を広げる場合には、それぞれのドットで表現される濃度評価値の開きが大きくなる。また、滑らかな階調表現を実現するために、各ドットで表現される濃度評価値の差分を小さくすれば、各画素ごとに表現可能な濃度の範囲が狭くなる。いずれにしても、幅広い範囲で十分滑らかな階調表現を実現することができなかった。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、各画素ごとに多階調の濃度を表現可能な印刷装置および印刷方法において、さらに幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現する技術を提供することを目的とする。
上述の課題を解決するため、本発明は、次の構成を採用した。本発明の印刷装置は、駆動信号に応じてドットを形成可能なヘッドを印刷媒体の一方向に相対的に往復動する主走査を行いながら、印刷データに応じて各画素ごとにドットを形成することで該印刷媒体上に画像を印刷する印刷装置であって、濃度評価値の異なるドットを形成可能な駆動信号を出力する第1の駆動手段と、前記第1の駆動手段により形成されるドット同士の濃度評価値の差分を補間する濃度評価値のドットを形成可能な駆動信号を出力する第2の駆動手段と、前記印刷データと、前記第1の駆動手段および第2の駆動手段のそれぞれから出力される駆動信号との対応関係を記憶する記憶手段と、該対応関係に基づいて前記第1の駆動手段および第2の駆動手段を制御してドットを形成する形成手段とを備えることを要旨とする。
かかる印刷装置によれば、第1の駆動手段から出力される駆動信号により形成されるドットと、第2の駆動手段から出力される駆動信号により形成されるドットとを重ね合わせて多様なドットを形成することができる。第2の駆動手段により形成されるドットは、第1の駆動手段により形成されるドットの濃度の間隔を補間することができる。例えば、第1の駆動手段がドットの面積を変えることにより、濃度評価値が異なる2種類のドットを形成可能である場合を考える。ここでは、濃度評価値が高い側のドットを大ドットと呼び、濃度評価値が低い側のドットを小ドットと呼ぶものとする。第2の駆動手段は、大ドットと小ドットにより表現可能な濃度の間隔を補間できる1種類のドットを形成するものとする。
このように設定された第1の駆動手段および第2の駆動手段を用いれば、各画素ごとに、以下の6段階の濃度評価値を表現可能となる。
ドットの非形成;第2の駆動手段によるドットの形成;小ドットの形成;小ドットおよび第2の駆動手段によるドットの形成;大ドットの形成;大ドットおよび第2の駆動手段によるドットの形成;
このように本発明の印刷装置によれば、第1の駆動手段により表現可能な濃度の範囲を広げることができるとともに、第2の駆動手段により、細かな間隔での濃度表現を実現することができる。従って、両者を組み合わせて各画素にドットを形成することにより、幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現することができ、画質を大きく向上することができる。しかも、上記階調表現を実現するに当たり、駆動信号の出力回路を多数用意する必要がないため、印刷装置の製造コストの極端な増大を招くことがない。
上述の例では、第1の駆動手段により2種類のドットを形成し、第2の駆動手段により1種類のドットを形成する場合を例にとって説明した。本発明はかかる場合のみに限定されるものではない。第1の駆動手段により3種類以上のドットを形成するものとしてもよい。また、第2の駆動手段により2種類以上のドットを形成するものとしてもよい。
第2の駆動手段は、第1の駆動手段により形成されるドット同士の濃度評価値の差分を補間するドットを形成する。この意味について更に詳しく説明する。差分とは、第1の駆動手段により形成されるドットのうち濃度評価値が近接するドット同士の差分を意味する。例えば、大ドットと小ドットのように濃度の異なる2種類のドットを形成する場合、差分としては、小ドットの濃度評価値とドットを非形成とした場合の濃度評価値との差分、および大ドットの濃度評価値と小ドットの濃度評価値との差分の2つが挙げられる。第1の駆動手段により形成されるドットの種類が増えれば、それに応じて差分の値も増える。なお、これらの差分は一致している必要はない。逆に全ての差分が異なっている必要もない。
第2の駆動手段は、こうして得られる差分よりも有意に小さい濃度評価値のドットを形成する。上述の通り、差分の値は第1の駆動手段により形成されるドットの種類に応じて複数存在する。第2の駆動手段で形成されるドットは、これら全ての差分値を補間可能であることが望ましいが、一部の差分値のみを補間するものとしてもよい。また、補間とは、必ずしも上記差分値を等分割した濃度評価値のドットを形成することを意味するものではない。例えば、ある差分値を補間するドットを一つ形成する場合、そのドットの濃度評価値は前記差分値を二等分する値に限らず、該差分値よりも小さい範囲で任意に設定可能である。さらに、第2の駆動手段は、必ずしも前記差分を補間するドットのみを形成する必要はない。つまり、前記差分値よりも大きい濃度評価値を有するドットをも形成可能としても構わない。
なお、濃度評価値は各画素ごとに表現される濃度を評価する種々のパラメータを採用することができる。例えば、駆動信号に応じて吐出されるインク重量をパラメータとして濃度評価値を表すものとしてもよい。また、印刷媒体上に形成されたドットにより表現される濃度をパラメータとして濃度評価値を表すものとしてもよい。
このように本発明の印刷装置において、前記第1の駆動手段および第2の駆動手段により形成されるドットは種々の関係に設定することが可能であるが、前記第1の駆動手段により形成可能なドットは、ドット同士の濃度評価値の差分が一定となる複数のドットであり、前記第2の駆動手段により形成可能なドットは、少なくとも前記差分を等間隔に補間する濃度評価値のドットを含むものとすることが好ましい。
第1の駆動手段および第2の駆動手段により形成されるドットを上記関係で設定すれば、幅広い範囲で均等な階調を表現することが可能となる。例えば、第1の駆動手段により形成されるドットの濃度評価値の差分が一定の値DTである場合を考える。第2の駆動手段によるドットの濃度評価値はこの差分値DTを二等分する値DT/2であるものとする。かかる濃度評価値のドットを組み合わせて形成すれば、各画素ごとにDT/2の間隔で多段階の濃度を表現することが可能となる。一般に第2の駆動手段によるドットの濃度評価値が前記差分値DTをn等分(nは自然数)する場合には、DT/nの均等な間隔で多段階の濃度を表現することが可能となる。
本発明の印刷装置では、第1の駆動手段と第2の駆動手段とでそれぞれ濃度評価値の異なるドットのみを形成するものとしてもよいが、前記第1の駆動手段により形成されるドットと、前記第2の駆動手段により形成されるドットの一部が共通するものとすることもできる。
このように双方の駆動手段により形成されるドットの一部を共通させれば、共通のドットを柔軟に使用することが可能となる。例えば、画像の印刷時に多用される種類のドットを共通のドットとして設定すれば、そのドットを第1の駆動手段と第2の駆動手段の双方により形成することが可能となり、ドットの形成効率を向上することが可能である。また、いわゆる文字の印刷など、2値的な印刷を実行する際に用いるドットを共通のドットとして設定すれば、2値画像の印刷速度を向上することができる。
さらに、共通のドットを第1の駆動手段と第2の駆動手段とで形成することにより、バンディングと呼ばれる濃淡ムラの発生を抑制することも可能である。一般にインクを吐出してドットを形成するヘッドの場合、ヘッドに備えられたノズルのインクの吐出特性に起因して、ドットの形成位置にずれが生じる場合がある。かかるずれがラスタ全体に亘って生じると、バンディングとして視認される。バンディングを軽減する技術としてインクの吐出特性が異なる複数のノズルを用いて各ラスタを形成するオーバラップ方式と呼ばれる記録方法が知られている。上述の印刷装置によれば、共通のドットについては第1の駆動手段により駆動されるノズルと第2の駆動手段により駆動されるノズルの2つを用いて形成することが可能となる。従って、共通のドットが多用される領域においてバンディングの発生を抑制することができる。
共通のドットを含む設定とする場合には、さらに、前記印刷媒体を前記主走査の方向に交差する方向に前記ヘッドに対して相対的に移動する副走査を行う副走査手段を備え、前記共通するドットは、前記副走査方向における前記画素の間隔と略同一の径のドットであるものとすることが望ましい。
先に説明した通り、バンディングはドットの形成位置が副走査方向にずれることによって生じる濃淡ムラである。かかる濃淡ムラは、副走査方向に形成されるドットのピッチ、即ち画素の間隔と、ドットの径とが略同一である場合に視認されやすいことが知られている。例えば、ドットの径が画素の間隔よりも非常に大きい場合には、ドットの形成位置が若干ずれても隣接するドットとの間に隙間が生じにくいため、顕著な濃淡ムラは生じにくい。また、ドットの径が画素の間隔よりも非常に小さい場合には、ドットの形成位置がずれるか否かに関わらず、隣接するドットとの間に隙間が生じているため、顕著な濃淡ムラは生じにくい。ドットの径が画素の間隔と略同一の場合には、形成位置のわずかなずれによって隣接するドットとの隙間が生じやすく、顕著な濃淡ムラを生じやすい。
画素の間隔と略同一の径のドットを共通のドットとして設定すれば、先に説明したオーバラップ方式による記録を適用することが可能となり、顕著なバンディングの発生を抑制することができる。従って、画質を大きく向上することができる。
本発明の印刷装置において、前記形成手段も種々の構成を採ることができる。例えば、第1の駆動手段によってドットを形成するノズルと、第2の駆動手段によってドットを形成するノズルとを並列で備えるヘッドを用いてドットを形成する手段としてもよい。
このように形成手段は、種々の構成を適用可能であるが、特に、前記形成手段は、前記主走査方向に配列された各画素に対して、前記第1の駆動手段および第2の駆動手段を予め定めた第1の関係で対応づけてドットを形成する第1の主走査手段と、前記各画素に対して、前記第1の関係とは異なる関係で、前記第1の駆動手段および第2の駆動手段を対応づけてドットを形成する第2の主走査手段とを備える手段であるものとすることが望ましい。
こうすれば、第1の主走査において各画素に第1の関係で対応づけられた駆動手段を用いてドットを形成することができる。第2の主走査では、第2の関係で対応づけられた駆動手段を用いてドットを形成することができる。第1の関係と第2の関係は、それぞれ異なる駆動手段が各画素に対応するように設定されている。従って、上記2回の主走査により、各画素には第1の駆動手段によるドットと、第2の駆動手段によるドットの双方を形成することができる。つまり、2つの駆動手段により各画素にドットを形成するに際し、ヘッドに備えられるノズル数を増やす必要がない。
第1の関係と第2の関係の設定は種々可能であり、例えば、全ての画素に第1の駆動手段を対応づける関係を第1の関係とし、全ての画素に第2の駆動手段を対応づける関係を第2の関係とすることができる。こうすれば、第1の主走査においては第1の駆動手段のみを用いて各画素にドットを形成し、第2の主走査においては第2の駆動手段のみを用いて各画素にドットを形成することになる。かかる関係によれば、第1の駆動手段と第2の駆動手段との使い分けを容易に行うことができる利点がある。
別の設定例として、例えば、奇数番目の画素に第1の駆動手段を対応づけ、偶数番目の画素に第2の駆動手段を対応づける関係を第1の関係とし、偶数番目の画素に第1の駆動手段を対応づけ、奇数番目の画素に第2の駆動手段を対応づける関係を第2の関係とすることもできる。奇数番目の画素について見れば、第1の主走査では第1の駆動手段によりドットが形成され、第2の主走査では第2の駆動手段によりドットが形成されることになる。偶数番目の画素について見れば、第1の主走査では第2の駆動手段によりドットが形成され、第2の主走査では第1の駆動手段によりドットが形成されることになる。かかる関係によれば、第1の駆動手段または第2の駆動手段のみによってドットが形成される領域においても、各ラスタは2つの異なるノズルによって形成されることになるから、先に説明したオーバラップ方式による記録を実現することができ、バンディングの発生を抑制することができる。
以上で説明した本発明の印刷装置では、第1の駆動手段と第2の駆動手段とを組み合わせてドットを形成する場合を示した。3つ以上の駆動手段によるドットを組み合わせて形成するものとして構成する場合も可能である。3つ以上の駆動手段を用いる印刷装置は、少なくとも上記説明における第1の駆動手段と第2の駆動手段とを包含するものであるため、本発明の印刷装置の一態様に過ぎない。
本発明は、以下に示す通り、印刷方法の発明として構成することもできる。即ち、本発明の印刷方法は、駆動信号に応じてドットを形成可能なヘッドを印刷媒体の一方向に相対的に往復動する主走査を行いながら、印刷データに応じて各画素ごとにドットを形成することで該印刷媒体上に画像を印刷する印刷方法であって、(a) 第1の駆動信号および第2の駆動信号の出力態様と印刷データとの予め設定された関係に基づいて、各画素ごとに第1の駆動信号および第2の駆動信号の出力態様を設定する工程と、(b) 前記ヘッドに前記第1の駆動信号および第2の駆動信号を前記設定された出力態様で出力して、各画素ごとにドットを形成する工程とを備える印刷方法であって、前記第1の駆動信号は、濃度評価値の異なるドットを形成可能な駆動信号であり、前記第2の駆動信号は、前記第1の駆動信号により形成されるドット同士の濃度評価値の差分を補間する濃度評価値のドットを形成可能な駆動信号である印刷方法である。
上記印刷方法によれば、先に印刷装置で説明したと同様の作用に基づき、幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現することができる。従って、高画質な印刷を行うことができる。なお、上記印刷方法において、先に印刷装置で説明した種々の付加的要素を備えるものとしても構わない。
本発明は、以下に示すプログラムを記録した記録媒体として構成することもできる。即ち、本発明の記録媒体は、濃度評価値の異なるドットを形成可能な第1の駆動信号および該第1の駆動信号により形成されるドット同士の濃度評価値の差分を補間する濃度評価値のドットを形成可能な第2の駆動信号に応じてドットを形成可能なヘッドを用いて、印刷データに応じて各画素ごとにドットを形成することにより、該印刷媒体上に画像を印刷する印刷装置を駆動するプログラムをコンピュータ読みとり可能に記録した記録媒体であって、前記第1の駆動信号および第2の駆動信号の出力態様と前記印刷データとの予め設定された関係を表すデータと、該データに基づいて、各画素ごとに第1の駆動信号および第2の駆動信号の出力態様を設定する機能とを実現するプログラムを記録した記録媒体である。
上記記録媒体に記録されたプログラムがコンピュータにより実行されると、先に印刷装置で説明した通り、幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現でき、画質を向上することができる。なお、上記プログラムは、上記機能を実現する単独のプログラムとして構成してもよいし、印刷装置を駆動するためのプログラムの一部として構成してもよい。また、先に印刷装置で説明した種々の付加的要素を実現するプログラムとして構成することも可能である。
上述の記憶媒体としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、パンチカード、バーコードなどの符号が印刷された印刷物、コンピュータの内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置などコンピュータが読取り可能な種々の媒体を利用できる。また、上記機能を実現させるプログラムを通信経路を介して供給するプログラム供給装置としての態様も含む。
(1)装置の構成:
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。図1は、本発明の実施例としてのプリンタPRTを用いた印刷システムの構成を示す説明図である。プリンタPRTは、コンピュータPCに接続され、コンピュータPCから印刷データを受け取って印刷を実行する。プリンタPRTはコンピュータPCがプリンタドライバと呼ばれるソフトウェアを実行することにより動作する。コンピュータPCは、外部のネットワークTNに接続されており、特定のサーバSVに接続することにより、プリンタPRTを駆動するためのプログラムおよびデータをダウンロードすることも可能である。また、フレキシブルディスクドライブFDDやCD−ROMドライブCDDを用いて、必要なプログラムおよびデータをフレキシブルディスクやCD−ROMなどの記録媒体からロードすることも可能である。
図1にプリンタPRTの機能ブロックの構成を併せて示した。プリンタPRTには、入力部91、バッファ92、主走査部93、副走査部94、第1駆動部95a、第2駆動部95bが備えられている。また、これらの機能ブロックが参照するテーブルとして、駆動態様テーブル97および形成態様テーブル96が備えられている。
入力部91は、コンピュータPCから印刷データおよび印刷モードデータを受け取り、バッファ92に一旦記憶する。コンピュータPCから与えられる印刷データは、2次元的に配列された各画素ごとに表現されるべき濃度を与えるデータである。主走査部93は、印刷データに基づいてプリンタPRTのヘッドを一方向に往復動する主走査を行う。この際、第1駆動部95a、第2駆動部95bを用いてドットを形成する。主走査部93が第1駆動部95a、第2駆動部95bを用いる態様は、主走査ごとに定まっており、駆動態様テーブル97に予め記憶されている。
第1駆動部95a、第2駆動部95bは印刷データに応じてプリンタPRTのヘッドを駆動し、ドットを形成する。後述する通り、第1駆動部95a、第2駆動部95bはそれぞれ異なる種類のドットを形成し、両者で形成されるドットを組みあわせて印刷データに応じた濃度を表現する。第1駆動部95a、第2駆動部95bのそれぞれで形成するドットと印刷データとの対応関係は、形成態様テーブル96に予め記憶されている。
副走査部94は、主走査が終了する度に印刷用紙を主走査方向に直交する方向に搬送する副走査を行う。本実施例では、各ラスタを2回の主走査で形成する送り量で副走査を実行する。この送り量は、ヘッドに備えられたノズルのピッチおよび印刷の解像度に応じて予め設定されている。
次に、図2によりプリンタPRTの概略構成を説明する。図示するように、このプリンタPRTは、紙送モータ23によって用紙Pを搬送する機構と、キャリッジモータ24によってキャリッジ31をプラテン26の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ31に搭載された印字ヘッド28を駆動してインクを吐出する機構と、これらの紙送モータ23,キャリッジモータ24,印字ヘッド28および操作パネル32との信号のやり取りを司る制御回路40とから構成されている。
キャリッジ31をプラテン26の軸方向に往復動させる機構は、プラテン26の軸と並行に架設されキャリッジ31を摺動可能に保持する摺動軸34と、キャリッジモータ24との間に無端の駆動ベルト36を張設するプーリ38と、キャリッジ31の原点位置を検出する位置検出センサ39等から構成されている。
このキャリッジ31には、黒インク(K)用のカートリッジ71とシアン(C)、ライトシアン(LC)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(LM)、イエロ(Y)の5色のインクを収納したカラーインク用カートリッジ72が搭載可能である。キャリッジ31の下部の印字ヘッド28には計6個のインク吐出用ヘッド61〜66が形成されている。キャリッジ31にカートリッジ71、72を装着すると、各インクカートリッジからヘッド61〜66にインクが供給される。
図3は、ヘッド61〜66におけるノズルNzの配列を示す説明図である。これらのノズルは、各色ごとにインクを吐出する6組のノズルアレイから成っており、各ノズルアレイには48個のノズルNzが一定のノズルピッチkで千鳥状に配列されている。各ノズルアレイの副走査方向の位置は互いに一致している。
インクを吐出する機構について説明する。図4はインク吐出用ヘッド28の内部の概略構成を示す説明図である。図示の都合上K、C、LCの3色について示した。ヘッド61〜66には、各ノズルごとにピエゾ素子PEが配置されている。図4に示すように、ピエゾ素子PEは、ノズルNzまでインクを導くインク通路68に接する位置に設置されている。ピエゾ素子PEは、周知のように、電圧の印加により結晶構造が歪み、極めて高速に電気−機械エネルギの変換を行う素子である。本実施例では、ピエゾ素子PEの両端に設けられた電極間に所定時間幅の電圧を印加することにより、ピエゾ素子PEが電圧の印加時間だけ伸張し、図中の矢印で示すようにインク通路68の一側壁を変形させる。この結果、インク通路68の体積はピエゾ素子PEの伸張に応じて収縮し、この収縮分に相当するインクが、粒子Ipとなって、ノズルNzの先端から高速に吐出される。このインク粒子Ipがプラテン26に装着された用紙Pに染み込むことにより印刷が行われる。
本実施例のプリンタPRTは、ピエゾ素子PEに異なる波形で電圧を印加することにより、インク量の異なるドットを形成可能としている。この原理について説明する。図5は、インクが吐出される際のノズルNzの駆動波形と吐出されるインクIpとの関係を示した説明図である。図5において破線で示した駆動波形が通常のドットを吐出する際の波形である。区間d2において一旦、基準電圧よりも低い電圧をピエゾ素子PEに印加すると、インク通路68の断面積を増大する方向にピエゾ素子PEが変形する。ノズルへのインクの供給速度には限界があるため、インク通路68の拡大に対してインクの供給量が不足する。この結果、図5の状態Aに示した通り、インク界面MeはノズルNzの内側にへこんだ状態となる。図5の実線で示す駆動波形を用い、区間d1に示すように電圧を急激に低くすると、インクの供給量はさらに不足した状態となる。従って、状態aで示す通りインク界面は状態Aに比べて大きく内側にへこんだ状態となる。
次に、ピエゾ素子PEに高い電圧を印加すると(区間d3)、先に説明した原理に基づいてインクが吐出される。このとき、インク界面があまり内側にへこんでいない状態(状態A)からは状態Bおよび状態Cに示すごとく大きなインク滴が吐出され、インク界面が大きく内側にへこんだ状態(状態a)からは状態bおよび状態cに示すごとく小さなインク滴が吐出される。このように、駆動電圧を低くする際(区間d1,d2)の変化率に応じて、ドットのサイズを変化させることができる。
プリンタPRTは、駆動波形を出力するための発信器を2つ備える。図6は第1の発信器による駆動波形により形成されるドットの様子を示す説明図である。図示する通り第1の発信器は、2種類の駆動波形A1,A2を連続的に出力する。駆動波形A1は4ngのインク滴を吐出してドット(以下、A小ドットと呼ぶ)を形成する波形であり、駆動波形A2は8ngのインク滴を吐出してドット(以下、A中ドットと呼ぶ)を形成する波形である。駆動波形セットA、即ち第1の発信器による駆動波形A1,A2を用いると、図6に示す4段階の濃度を表現することができる。即ち、駆動波形A1,A2の双方をオフとすることにより「ドットの非形成」、駆動波形A1のみをオンにすることにより「A小ドットの形成」、駆動波形A2のみをオンにすることにより「A中ドットの形成」、駆動波形A1,A2の双方をオンにすることにより「12ngのインクによるドット(以下、A大ドットと呼ぶ)の形成」で濃度を表現することができる。
第2の発信器は、第1の発信器よりもインク量の少ないドットを形成する駆動波形B1,B2を出力する。駆動波形の出力態様は、第1の発信器と同様であり、駆動波形B1,B2を各画素に連続的に出力する。駆動波形B1は1ngのインク滴を吐出してドット(以下、B小ドットと呼ぶ)を形成する波形であり、駆動波形B2は2ngのインク滴を吐出してドット(以下、B中ドットと呼ぶ)を形成する波形である。駆動波形B1,B2を共にオンにすることにより、3ngのインクによるドット(以下、B大ドットと呼ぶ)を形成することができる。駆動波形セットB、即ち駆動波形B1,B2により、第1の発信器と同様、「ドットの非形成」、「B小ドットの形成」、「B中ドットの形成」、「B大ドットの形成」の4段階の濃度を表現することができる。
図7は駆動波形セットA、駆動波形セットBのそれぞれにより形成されるドットの組みあわせにより表現される濃度を示す説明図である。駆動波形セットAでは、先に説明した通り、濃度評価値、ここではインク重量が0,4,8,12の4段階を表現することができる。一方、駆動波形セットBでは、濃度評価値が0,1,2,3の4段階を表現することができる。駆動波形セットBによるドットの濃度評価値は、駆動波形セットAによるドットの濃度評価値の差分を補間するように設定されている。つまり、駆動波形セットAによるドット同士の濃度評価値の差分は一定の値4であり、駆動波形セットBによるドットの濃度評価値は、この差分値を4等分した濃度を表現することができる。
このように設定された2種類の駆動波形セットを組みあわせることにより、図7に示す通り、濃度評価値0〜15までの範囲で値1の間隔で均等な濃度を表現することができる。つまり、駆動波形セットAによるドットを非形成としつつ、駆動波形セットBで各ドットを形成すれば、濃度評価値0,1,2,3の4段階を表現することができる。駆動波形セットAによりA小ドットを形成しつつ、駆動波形セットBで各ドットを形成すれば、濃度評価値4,5,6,7の4段階を表現することができる。駆動波形セットAによりA中ドットを形成しつつ、駆動波形セットBで各ドットを形成すれば、濃度評価値8,9,10,11の4段階を表現することができる。駆動波形セットAによりA大ドットを形成しつつ、駆動波形セットBで各ドットを形成すれば、濃度評価値12,13,14,15の4段階を表現することができる。
コンピュータPCからプリンタPRTには、各画素ごとに上述の16段階のうちいずれの濃度を表現すべきかを特定する印刷データが出力される。プリンタPRTの制御回路は、図7に示すテーブルを参照して、印刷データの階調値TNに応じて駆動波形セットAおよび駆動波形セットBで形成すべきドットの種類を特定する。
図8は駆動波形セットA,Bの双方を用いて各画素にドットを形成する様子を示す説明図である。図中のp1〜p6のマスはそれぞれ画素を示している。図中のアルファベット「A」または「B」を付した部分が駆動波形セットに対応する。図8では模式的に示したが、Aを付した部分に図6に示した2つの駆動波形が含まれている。Bを付した部分についても同様である。
プリンタPRTは、各ラスタを2回の主走査で形成する。1回目の主走査では、奇数番目の画素に駆動波形セットAによるドットを形成し、偶数番目の画素に駆動波形セットBによるドットを形成する。2回目の主走査では、駆動波形セットと画素との対応関係を逆にしてドットを形成する。即ち、奇数番目の画素に駆動波形セットBによるドットを形成し、偶数番目の画素に駆動波形セットAによる画素を形成する。2回の主走査で、各画素ごとに駆動波形セットA,Bに対応したドットを形成することができる。各画素と駆動波形セットとの対応関係は、図8に示したものに限られない。例えば、1回目の主走査では、駆動波形セットAにより全画素にドットを形成し、2回目の主走査では、駆動波形セットBにより全画素にドットを形成するものとしてもよい。
このような態様で駆動波形の出力を実現するための制御回路40の内部構成を説明する。図9は制御回路40の内部構成を示す説明図である。図示する通り、この制御回路40の内部には、CPU41,PROM42,RAM43の他、コンピュータPCとのデータのやりとりを行うPCインタフェース44と、紙送りモータ23、キャリッジモータ24および操作パネル32などとの信号をやりとりする周辺入出力部(PIO)45と、計時を行うタイマ46と、ヘッド61〜66にドットのオン・オフの信号を出力する駆動用バッファ47などが設けられており、これらの素子および回路はバス48で相互に接続されている。
印刷データの階調値TNと駆動波形セットA,Bにより形成されるドットとの対応関係は、形成態様テーブルとしてPROM42に記憶されている。形成態様テーブルには、駆動波形A1,A2のオン・オフを与える2ビットのデータと、駆動波形B1,B2のオン・オフを特定する2ビットのデータの合計4ビットからなるデータが印刷データの階調値TNごとに記憶されている。CPU41は、PCインターフェース44から印刷データを入力すると、形成態様テーブルを参照し、各駆動波形のオン・オフを示す4ビットのデータ(以下、形成態様データと呼ぶ)に変換して、駆動用バッファ47に転送する。
制御回路40には、駆動波形セットAを出力する発信器51Aと、駆動波形セットBを出力する発信器51Bが備えられている。また、これらの発信器51A,51Bからの出力をヘッド61〜66に所定のタイミングで分配して出力する分配出力器55も設けられている。発信器51A,51Bから出力された駆動波形は、切替器52を通して分配出力器55に出力される。切替器52は、PIO45を通じてCPU41により制御され、図8に示した通り、各ラスタごとに1回目の主走査に当たるのか2回目の主走査に当たるのかに応じて切り替えられる。主走査と切り替えの態様との関係は、駆動態様テーブルとしてPROM42に予め記憶されている。
先に説明した通り、CPU41は、コンピュータPCで処理された印刷データを受け取り、これを一時的にRAM43に蓄え、形成態様データに翻訳した上で駆動用バッファ47に出力する。駆動用バッファ47は、所定のタイミングでこのデータを分配器55に出力する。この結果に応じて、切替器52を通じて選択された駆動波形セットA,Bいずれかの駆動波形が各ノズルに出力され、各画素にドットが形成される。
以上説明したハードウェア構成を有するプリンタPRTは、紙送モータ23により用紙Pを搬送しつつ(以下、副走査という)、キャリッジ31をキャリッジモータ24により往復動させ(以下、主走査という)、同時に印字ヘッド28の各色ヘッド61〜66のピエゾ素子PEを駆動して、各色インクの吐出を行い、ドットを形成して用紙P上に多色の画像を形成する。
なお、本実施例では、上述の通りピエゾ素子PEを用いてインクを吐出するヘッドを備えたプリンタPRTを用いているが、他の方法によりインクを吐出するプリンタを用いるものとしてもよい。例えば、インク通路に配置したヒータに通電し、インク通路内に発生する泡(バブル)によりインクを吐出するタイプのプリンタに適用するものとしてもよい。
(2)ドット形成制御:
次に本実施例におけるドット形成処理について説明する。図10はドット形成ルーチンのフローチャートである。これは、プリンタPRTのCPU41が実行する処理である。この処理が開始されると、CPU41は、印刷データを入力する(ステップS10)。この印刷データは、コンピュータPCで処理されたデータであり、画像を構成する各画素ごとにプリンタPRTが備える各インクで表現されるべき階調値TNを値0〜15までの16段階で表したデータである。
CPU41は、このデータを入力すると、一旦、RAM43に記憶する。そして、主走査時に各ノズルに順次出力する形成態様データを各ノズルごとに駆動用バッファ47に設定する処理を実行する。本実施例では、図8で示した通り、2回の主走査で各画素に駆動波形セットAおよび駆動波形セットBによるドットを形成する。従って、駆動用バッファ47に出力するデータは、各主走査についてみれば、各画素ごとに駆動波形セットAまたは駆動波形セットBのいずれかに対応したデータである。各画素と駆動波形セットとの対応関係は、主走査ごとに変更される。
CPU41は、かかる処理を実現するため、データの設定に際し、各ノズルが形成するラスタが1回目の主走査(以下、第1主走査と呼ぶ)に相当するか否かを判定する(ステップS20)。副走査の送り量に応じて各ラスタを形成するノズルは一義的に対応する。1回目の主走査に相当するか否かの判定は、かかる対応関係に基づいて容易に行うことができる。
図11はドットの形成の様子を示す説明図である。図の左側には1回目から8回目の各主走査におけるヘッドの副走査方向の位置を示した。図示の都合上、ここでは3ドットピッチで4本のノズルを備えるヘッドを例示した。「○」または「□」のシンボルがノズルを意味し、各シンボルに付した番号は、それぞれノズル番号を意味する。シンボルの形状の意味は後述する。
かかるヘッドにおいては、図示する通り、2ドット相当の送り量で副走査を行うことにより、図中の印刷可能領域、即ち1回目の主走査において4番ノズルで形成されるラスタより下方の領域に画像を印刷することができる。1回目の主走査において1〜3番ノズルによりドットを形成しないのは、以降の主走査において隣接するラスタを形成し得ないからである。2回目〜5回目の主走査においてドットを形成しないノズルが存在するのも同様の理由による。
このようにノズルのピッチ、本数に応じて副走査の送り量を設定すると、各ラスタを構成するノズルが一義的に決まる。例えば、図中のラスタr1は、1回目の主走査で4番ノズルによりドットを形成し、4回目の主走査において2番ノズルでドットを形成することになる。ラスタr1については、4番ノズルが第1主走査に対応したノズルとなり、2番ノズルが第2主走査に対応したノズルとなる。
各ラスタごとに第1主走査に対応するノズルを「○」で示し、第2主走査に対応するノズルを「□」で示した。図示する送り量では、3番ノズルおよび4番ノズルが常に第1主走査に対応し、1番ノズルおよび2番ノズルが常に第2主走査に対応することが分かる。ここでは、4つのノズルを備える場合を例示したが、ノズルピッチ、ノズル本数および副走査の送り量に応じて、それぞれ第1主走査に対応するノズル、第2主走査に対応するノズルを特定することができる。
なお、ここでは各ラスタを形成する最初の主走査を第1主走査、後の主走査を第2主走査として定義した。第1主走査および第2主走査は種々の定義が可能である。図11では、各ラスタが奇数回目の主走査と偶数回目の主走査との組合せで形成されている。例えば、ラスタr1は、1回目の主走査と4回目の主走査とにより形成されている。かかる場合には、奇数回目の主走査を第1主走査とし、偶数回目の主走査を第2主走査と定義してもよい。かかる定義によれば、ラスタr3については、4番ノズルが第2主走査に対応し、2番ノズルが第1主走査に対応することになる。このように定義すれば、各主走査ごとに全ノズルが第1主走査または第2主走査のいずれかに統一的に対応するため、駆動波形セットの出力の制御が容易になるという利点がある。
図10のステップS20において、第1主走査に対応すると判定されたノズルに対しては、第1主走査用データの設定を行う(ステップS30)。図8に示した通り、第1主走査では、奇数番目の画素に駆動波形セットAによるドットを形成し、偶数番目の画素に駆動波形セットBによるドットを形成する。従って、第1主走査用のデータとしては、形成態様データとして設定された4ビットのデータのうち、奇数番目の画素には駆動波形セットAに対応する2ビットのデータを設定し、偶数番目の画素には駆動波形セットBに対応する2ビットのデータを設定するのである。
第1主走査に対応しないと判定されたノズルに対しては、第2主走査用データの設定を行う(ステップS40)。第2主走査では、奇数番目の画素に駆動波形セットBによるドットを形成し、偶数番目の画素に駆動波形セットAによるドットを形成する。従って、第2主走査用のデータとしては、形成態様データとして設定された4ビットのデータのうち、奇数番目の画素には駆動波形セットBに対応する2ビットのデータを設定し、偶数番目の画素には駆動波形セットAに対応する2ビットのデータを設定するのである。
図12は各主走査用データの設定方法について示す説明図である。主走査方向の6つの画素P1〜P6を例にとって示した。図の上段には、各画素に対する印刷データの階調値TNを示した。画素P1〜P6に順に階調値0〜5が指定されているものとする。上から2段目には形成態様データとして4ビットのオン・オフを模式的に示した。4ビットのうち上位2ビットがそれぞれ駆動波形A1,A2のオン・オフを示すビットであり、下位2ビットがそれぞれ駆動波形B1,B2のオン・オフを示すビットである。白抜きのシンボルがビットのオフを意味し、塗りつぶしたシンボルがビットのオンを意味する。
形成態様データは図7に示した形成態様テーブルに基づいて設定されている。階調値0の画素P1に対しては、全ての駆動波形をオフにするため4つのビットは全てオフとなる。階調値1の画素P2に対しては、駆動波形B1のみをオンにするため、その波形に対応したビットのみがオンとなる。その他の画素についても同様にして形成態様データが設定される。
図の下段には、第1主走査および第2主走査における各画素のデータの様子を示した。いずれの主走査においても各画素ごとには駆動波形セットAまたは駆動波形セットBのいずれかに含まれる2つの駆動波形が出力される。従って、各主走査用のデータは、各画素に対応する2つの駆動波形のオン・オフを示す2ビットのデータとなる。図8に示した通り、本実施例では、第1主走査において奇数番目の画素に駆動波形セットAが出力される。従って、第1主走査では、画素P1には形成態様データの4ビットのうち、駆動波形セットAに対応する上位2ビットが主走査用データとして設定される。第2主走査では、奇数番目の画素に駆動波形セットBが出力される。従って、第2主走査では、画素P1には形成態様データの4ビットのうち、駆動波形セットBに対応する下位2ビットが主走査用データとして設定される。他の画素P2〜P6についても同様に各主走査ごとに上位2ビットまたは下位2ビットが設定される。
以上で説明した方法により、第1主走査用データおよび第2主走査用データを全ノズルに設定すると(図10のステップS50)、CPU41は主走査およびドットの形成を行う(ステップS60)。第1主走査か第2主走査かに応じて切替器52を制御して、それぞれの画素に駆動波形セットAまたは駆動波形セットBに対応したドットを形成するのである。こうして主走査が終了すると、CPU41は次に副走査を実行する(ステップS70)。既に図11で説明した通り、ノズルピッチ、ノズル本数に応じて副走査の送り量は予め設定されている。CPU41は、以上の処理を印刷が終了するまで繰り返し実行する(ステップS80)。
以上で説明した本実施例の印刷装置によれば、各画素ごとに駆動波形セットAと駆動波形セットBとを組みあわせてドットを形成することにより、幅広い範囲で、かつ細かな間隔で多段階の濃度を表現することができる。言い換えれば、駆動波形セットAにより幅広い範囲で表現される濃度の間隔を、駆動波形セットBにより補間することができる。このように細かな間隔で幅広い範囲で濃度を表現することにより、本実施例の印刷装置によれば、非常に滑らかな階調表現を実現することができ、印刷される画質を大きく向上することができる。
本実施例の印刷装置では、図8に示した態様で第1主走査および第2主走査を行うことにより、以下に示す通り、バンディングを抑制することができるという利点もある。バンディングとは、ノズルごとのインクの吐出特性に起因して生じる濃淡ムラをいう。例えば、図18(a)に示すようにドットが形成されている場合を考える。かかる場合に、図18(b)に示す通り、インクの吐出特性に起因して、上から3番目、6番目、9番目のラスタが上方にずれた位置に形成されたとする。印刷された画像には、図中のB1,B2,B3で示すようにドットが疎な部分が生じる。この部分がバンディングとして視認される。
バンディングを抑制する技術として、オーバラップ方式による記録がある。これは各ラスタを2本以上のノズルで形成する技術である。図11に示したように各ラスタを2つのノズルで主走査する送りで副走査を行いつつ、例えば、1回目の主走査では奇数番目の画素にドットを形成し、2回目の主走査では偶数番目の画素にドットを形成すればオーバラップ方式による記録となる。かかる記録を実行すると、図18(c)に示した通り、各ラスタのうち、ドットの形成位置がずれる特性を有するノズルによって形成された一部のドットのみがずれるため、バンディングを抑制することができる。
本実施例の印刷装置では、図8に示した態様でドットを形成することにより、オーバラップ方式による記録と同様の記録を行うことができる。例えば、図7にハッチングを付した階調値0,1,2,3,4,8,12については、各画素ごとに駆動波形セットAまたは駆動波形セットBのいずれかのみを用いてドットが形成される。図8に示した態様でドットを形成する場合には、第1主走査および第2主走査のいずれにおいても、駆動波形セットAおよび駆動波形セットBのそれぞれに対応したドットが形成される。従って、上述の階調領域においても、各ラスタを第1主走査に対応するノズルと第2主走査に対応するノズルの2本で形成することができる。その他の領域においては、各ラスタは必ず2つのノズルでドットが形成される。従って、本実施例の印刷装置によれば、オーバラップ方式による効果と同等の効果を得ることができ、バンディングを抑制した高画質な印刷を実現することができる。
本実施例のプリンタPRTでは、切替器52を制御して、各画素に駆動波形セットAと駆動波形セットBとを交互に出力している。この際、先に図8に示した通り、第1主走査では駆動波形セットA、駆動波形セットBの順序で出力し、第2主走査では駆動波形セットB、駆動波形セットAの順序で出力する。
各主走査で画素と駆動波形セットとの対応関係を変更する方法は、その他種々の方法が可能である。図13は、画素と駆動波形との対応関係を主走査ごとに変更する方法の変形例を示す説明図である。図中の上段に第1主走査における駆動波形を示し、下段に第2主走査における駆動波形を示した。図示する通り、駆動波形は、常に駆動波形セットA、駆動波形セットBの順序で出力される。但し、変形例では、印刷の開始時期を第1主走査と第2主走査とでずらしている。第2主走査では、本来印刷が実行される画素P1等の左側に、実際には印刷されないダミーの画素PDを設ける。この画素PDから印刷を実行するように駆動波形を出力することにより、画素P1以降では第1主走査と異なる対応関係で駆動波形が出力される。
本実施例のプリンタPRTでは、2種類の駆動波形セットを組み合わせてドットを形成する場合を例示した。これに対し、更に多くの駆動波形を組み合わせるものとしても構わない。図14は3つの駆動波形セットを組み合わせる場合の記録の様子を示す説明図である。この例では、駆動波形セットがA,B,Cの3種類用意されている。図示する通り、第1主走査では、画素P1、P2,P3に対し、駆動波形セットA,B,Cが順に対応するように駆動波形セットを出力して印刷を行う。第2主走査では、画素P1、P2,P3に対し、駆動波形セットB,C,Aが順に対応するように駆動波形セットを出力して印刷を行う。第3主走査では、画素P1、P2,P3に対し、駆動波形セットC,A,Bが順に対応するように駆動波形セットを出力して印刷を行う。一般にn個(nは2以上の整数)の駆動波形セットを組み合わせる場合、各画素と駆動波形との対応関係が異なるn回の主走査で各ラスタを形成することにより、駆動波形セットの組合せによるドットを各画素に形成することができる。
このように3つの駆動波形セットを用いる場合、駆動波形セットCにより形成されるドットの濃度評価値の間隔を駆動波形セットA,Bにより補間可能な設定とすれば、より幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現することが可能となる。本実施例では、駆動波形セットA,Bにより濃度評価値0〜15までを表現可能である(図7参照)。従って、濃度評価値16を表現可能な駆動波形Cを用意すれば、濃度評価値0〜31までの32段階の濃度を値1の間隔で表現することが可能となる。
本実施例では、駆動波形セットAにより形成されるドットの濃度評価値の差分は値4で一定となっている。また、駆動波形セットBは、この差分を4等分した濃度評価値のドットをそれぞれ形成可能としている。駆動波形セットA,Bは、かかる場合に限らず、種々の設定が可能である。駆動波形セットAは、濃度評価値の差分が不均一に変化するドットを形成するものとしてもよい。例えば、濃度評価値4、12のドットを形成するものとしてもよい。駆動波形セットBは、駆動波形セットAにより形成されるドットの濃度評価値の間隔を補間するドットを形成可能であればよく、この間隔を等分割した濃度評価値に相当するドットを形成する必要はない。例えば、図7において駆動波形セットBは、濃度評価値1,3のドットを形成するものとしてもよい。先に説明した実施例において、駆動波形セットBは、補間するドットのみを形成する必要はない。例えば、図7において、駆動波形セットBは、補間するドットに加えて濃度評価値4以上のドットを形成するものとしてもよい。駆動波形セットA,Bは図7に示した濃度評価値に対応するものに限定されず、いかなる濃度評価値に設定してもよいことはいうまでもない。
(3)第2実施例:
次に第2実施例の印刷装置について説明する。第2実施例の印刷装置のハードウェア構成は、第1実施例と同様である。第2実施例では、駆動波形セットAにより形成されるドットの濃度評価値が第1実施例と相違する。図15は第2実施例において、駆動波形セットA、駆動波形セットBのそれぞれにより形成されるドットの組みあわせにより表現される濃度を示す説明図である。第2実施例では、駆動波形セットAにより、濃度評価値0(ドットの非形成)、3,7,11の4段階を表現することができる。
駆動波形セットAでは、第1実施例と同様、2つの駆動波形A1,A2が出力される(図6参照)。駆動波形A1では濃度評価値3のドットが形成される。駆動波形A2では濃度評価値7のドットが形成される。駆動波形A1,A2の双方を駆動すると、濃度評価値11のドットが形成される。双方を同時に駆動した場合には、駆動波形A1によるインク吐出後のメニスカスの振動の影響を受け、駆動波形A2からやや多くインクが吐出されるため、双方の駆動波形をオンにした場合の濃度評価値は駆動波形A1,A2それぞれによるドットの濃度評価値の和よりも高くなる。第2実施例では、2つの駆動波形A1,A2の出力タイミングを調整して、これらのドットの形成を実現している。駆動波形セットBは第1実施例と同様、濃度評価値0,1,2,3の4段階を表現することができる。
このように設定された2種類の駆動波形セットを組みあわせることにより、図15に示す通り、濃度評価値0〜14までの範囲で値1の間隔で均等な濃度を表現することができる。但し、第1実施例(図7参照)と異なり、第2実施例では、濃度評価値3を図中にハッチングを付して示した2種類の方法で表現することができる。即ち、駆動波形セットAでドットを非形成とし、駆動波形セットBによりB大ドットを形成すれば、濃度評価値3を表現することができる。また、駆動波形セットBでドットを非形成とし、駆動波形セットAにより濃度評価値3のドットを形成するものとしてもよい。2通りの方法で形成可能とした理由については後述する。
図16は第2実施例において駆動波形セットA,Bの双方を用いて各画素にドットを形成する様子を示す説明図である。第2実施例では、第1主走査において駆動波形セットAのみを用いて各画素にドットを形成し、第2主走査において駆動波形セットBのみを用いて各画素にドットを形成する。もちろん、第1実施例と同様の対応関係(図8参照)とすることも可能である。
第2実施例におけるドット形成処理ルーチンは第1実施例の場合と同様である(図10参照)。つまり、印刷データに基づいて4ビットの形成態様データを設定する。そのデータを第1主走査および第2主走査の区別に従って、駆動波形セットAまたは駆動波形セットBに対応した2ビットのデータに設定する。こうして設定されたデータに基づいてヘッドを駆動してドットを形成する。
但し、第2実施例では、濃度評価値3のドットについての処理に特徴がある。図17は第2実施例における主走査用データの設定について示す説明図である。P1〜P6までの6つの画素について形成態様データを設定し、第1主走査用のデータとしては、駆動波形セットAに対応する上位2ビットのデータを設定し、第2主走査用のデータとしては、駆動波形セットBに対応する下位2ビットのデータを設定する。
階調値3を表現する場合、駆動波形セットAのみで表現することも可能である。このように設定された形成態様データは図17中の画素P1のデータに相当する。図17のように階調値3のドットが主走査方向に並んでいる場合、仮に主走査方向の全ての画素のドットを駆動波形セットAのみで形成するものとすれば、そのラスタは第1主走査のみで形成されることになる。一方、階調値3は、駆動波形セットBのみで表現することも可能である。このように設定された形成態様データは、図17中の画素P2のデータに相当する。仮に主走査方向の全ての画素のドットを駆動波形セットBのみで形成するものとすれば、そのラスタは第2主走査のみで形成されることになる。いずれの場合においても、いわゆるオーバラップ方式による記録を実質的に実現できなくなり、バンディングが発生するおそれがある。
第2実施例では、かかる点に鑑み、階調値3に対して、奇数番目の画素では駆動波形セットAを用いてドットを形成し、偶数番目の画素では駆動波形セットBを用いてドットを形成する。つまり、階調値3に対しては、形成態様データの設定時に奇数番目の画素か偶数番目の画素かに応じて、図15に示した2つの形成態様を使い分けるのである。このように設定することにより、図17に示す通り、階調値3が主走査方向に並んでいる場合でも、奇数番目の画素は第1主走査により形成され、偶数番目の画素は第2主走査により形成することができる。従って、オーバラップ方式による記録を実現することができ、バンディングを抑制することができる。なお、2種類の形成態様と画素との対応関係は、上述の例に限定されないことはいうまでもない。
第2実施例において階調値3のみを2種類の態様で形成可能とした理由について説明する。第2実施例において、階調値3に対応するドットは、その径が画素の間隔にほぼ等しいという特徴がある。かかる径のドットはバンディングが非常に視認されやすいことが知られている。図18は画素の間隔とほぼ等しい径のドットを形成した場合の濃淡ムラの発生について示す説明図である。図18(a)中のマスが画素に相当する。副走査方向の画素の長さDPが画素の間隔と同義である。ドットの径はこの画素の間隔DPにほぼ等しい。
先に説明した通り、バンディングはドットの形成位置が副走査方向にずれることによって生じる濃淡ムラである。図18(b)に示す通り、画素の間隔とほぼ等しい径のドットを形成した場合には、ラスタの形成位置がわずかにずれることにより濃淡ムラが顕著に現れる。
図19は画素の間隔よりも小さい径のドットを形成した場合の濃淡ムラの発生について示す説明図である。左側には適正な位置に形成された場合を示し、右側にはラスタr3,r6,r9が上方にずれて形成された場合を示した。画素の間隔よりも小さい場合には、適正な位置に形成された場合においてもドット同士に隙間が生じる。従って、上記ラスタが上方にずれて形成されることにより、図中の領域BS1,BS2,BS3のように、若干ドットが疎の部分が生じても、顕著な濃淡ムラとしては視認されない。
図20は画素の間隔よりも大きい径のドットを形成した場合の濃淡ムラの発生について示す説明図である。左側には適正な位置に形成された場合を示し、右側にはラスタr3,r6,r9が上方にずれて形成された場合を示した。画素の間隔よりも大きい場合には、ドット同士が多くの部分で重複して形成される。従って、上記ラスタが上方にずれて形成されることにより、図中の領域BL1,BL2,BL3のように、若干重複が少なくなる部分が生じても、顕著な濃淡ムラとしては視認されない。
このように、画素の間隔とほぼ等しい径のドットを形成する場合には、顕著なバンディングを生じやすい。第2実施例では、かかる関係にあるドットを2種類の態様で形成可能とすることにより、オーバラップ方式による記録を確実に行えるようにし、顕著なバンディングの発生を抑制することができる。当然、第2実施例においても、第1実施例と同様、幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現することができる。これらの効果により第2実施例では、より高画質な印刷を実現することができる。
なお、第2実施例においては、階調値3を2つの態様で形成可能とした。いずれの階調値を複数の形成態様で表現するかは、ドットの径と画素の間隔とに応じて任意に設定することができる。また、第2実施例では、図17において画素の間隔とドットの径とが厳密に一致している場合を例示したが、両者は厳密に一致している必要はなく、顕著なバンディングを生じやすい径のドットが形成される階調値に対して、複数の形成態様を割り当てるものとすればよい。
以上の実施例では、インク重量を濃度評価値として用いた場合を例示した。濃度評価値は種々のパラメータによって設定可能であり、形成されたドットにより表現される明度をパラメータとして濃度評価値を設定するものとしてもよい。かかる場合においても、所定の濃度評価値のドットを形成する駆動波形セットAと、駆動波形セットAにより表現される濃度評価値の間隔を補間するドットを形成する駆動波形セットBとを組みあわせることにより幅広い範囲で滑らかな階調表現を実現することができる。
以上の実施例では、コンピュータPCから転送された印刷データをプリンタPRTで形成態様データに変換して印刷を行うものとして説明した。これに対し、形成態様データへの変換をコンピュータPCで実行しても構わない。更に、コンピュータPC側で第1主走査および第2主走査に対応したデータを設定するものとしても構わない。
以上の実施例では、各ラスタを第1主走査と第2主走査の2回で形成する場合を例示した。これに対し、ヘッドの構成を、1回の主走査で一のラスタを形成可能な2本のノズルを備えるものとし、一方のノズルでは実施例中の第1主走査に対応するドットを形成し、他方のノズルでは実施例中の第2主走査に対応するドットを形成するものとしてもよい。こうすれば、主走査の回数を増やすことなく、高速に印刷を行うことができる。
以上、本発明の種々の実施例について説明してきたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の形態による実施が可能である。例えば、上記実施例で説明した種々の制御処理は、その一部または全部をハードウェアにより実現してもよい。