JP4715317B2 - 変速機のクラッチ構造 - Google Patents

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Description

本発明は、多板式に構成された変速機のクラッチ構造であって、自動車に搭載される変速機の技術分野に属する。
一般に、自動車に搭載される自動変速機は、変速歯車機構の動力伝達経路を多板式に構成されたクラッチ等の複数の摩擦締結装置の選択的作動により切り換えて、所定の変速段に変速するように構成されたものであるが、前記クラッチとして、例えば特許文献1に開示されているものがある。
即ち、この種のクラッチは、ドラム部材と、該ドラム部材の内側に該部材と同心状に相対回転可能に配置されたハブ部材と、両面に摩擦材が設けられた摩擦プレートと、該摩擦プレートと対接するメインティングプレートとを有し、該摩擦プレートとメインティングプレートとが、ハブ部材とドラム部材とに交互にスプライン嵌合された構造である。そして、ドラム部材にはピストンが備えられ、ピストン背部の油圧室への油圧の供給制御により、前記摩擦プレートとメインティングプレートとが圧着され、ドラム部材とハブ部材とが動力伝達状態になる。また、ピストンはリターンスプリングにより解放側に付勢されている。
また、前記ハブ部材には、摩擦プレートの内周側から潤滑油を供給する油孔が設けられていると共に、前記摩擦プレートに設けられた摩擦材の表面には、供給された潤滑油が流れる所定の油溝が設けられることがあり、潤滑油によって摩擦による加熱や摩耗が防止されるようになっている。
ところで、特許文献1、2に開示されているように、前記クラッチはニュートラルアイドル制御時等にスリップ制御が行われる場合がある。即ち、近年の自動変速機では、例えばDレンジのアイドル停車時に、クラッチが解放状態に制御され、エンジンの負荷を低減させることにより燃費改善を図ることがある。さらに、このようにクラッチを完全にニュートラル状態にしてしまうと、発進時の応答性が低下するので、これを回避するために、クラッチを微係合状態にするスリップ制御を行うことにより燃費改善と発進性とを両立させることがあり、このようなスリップ制御では、油圧室に供給する油圧の調整により、クラッチ締結力の微妙な制御が行われる。
特開平10−252777号公報 特開2004−251310号公報 特開2004−211801号公報
ところで、前述のような油圧によりピストンの押付け力を制御する構成においてスリップ状態が行われる場合は、ピストンに作用する油圧とリターンスプリングによる反発力との釣り合いにより摩擦プレートとメインティングプレートとの接触状態(クラッチクリアランス)が決定される。このとき、制御油圧のばらつきが生じると、ピストンの押付け力のばらつきとなって、クラッチクリアランスが変動することになる。そして、クラッチクリアランスのばらつきは、引き摺りトルクのばらつき、即ちクラッチ締結力のばらつきとなり、車体の振動等の問題を引き起こす原因になる。
また、プレートの枚数を減少させることによってトルク容量を小さくし、油圧の変動に対する締結力の変動を減少させることが考えられるが、多板式のクラッチでは、完全締結時に十分な締結力を確保するために多枚数のプレートで構成せざるを得ず、このためトルク容量が大きくなるので油圧に対する締結力の変動が敏感にならざるを得ない。
一方、潤滑油の流動により摩擦プレートとメインティングプレートとを引き離す作用が大きい油溝パターンを摩擦材に形成し、スリップ制御時のクラッチクリアランスを増大させ、油圧のばらつきに対して締結力の変動を抑制することが考えられる。しかしながら、全ての摩擦材にこのような油溝パターンが形成されている場合、発進時の応答性が低下するという問題が生じる。
そこで、本発明は、変速機のクラッチ構造において、発進時の応答性を確保すると共に、スリップ制御の安定性及び精度向上を図ることを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、ドラム部材と、該ドラム部材の内側に該部材と同心状に相対回転可能に配置されたハブ部材と、両面に環状をなす単一の摩擦材がそれぞれ設けられた摩擦プレートと、該摩擦プレートと対接するメインティングプレートとを有し、該摩擦プレートとメインティングプレートとが、前記ドラム部材に備えられたピストンとリテーニングプレートとの間で、ハブ部材とドラム部材とに交互にスプライン嵌合されていると共に、前記ピストン背部の油圧室への作動圧の供給制御によりクラッチのスリップ制御が行われる変速機のクラッチ構造であって、前記ハブ部材には、摩擦プレートの内周側から潤滑油を供給する潤滑油供給手段が設けられていると共に、各摩擦プレートの摩擦材には、該潤滑油供給手段から供給された潤滑油が流れる油溝が設けられ、かつ、該油溝として、これを通る潤滑油の流れによる摩擦プレートとメインティングプレートとを引き離す作用が小さい第1のパターンの油溝が全面にわたって形成された摩擦材と、この作用が第1のパターンよりも大きくなる第2のパターンの油溝が全面にわたって形成された摩擦材とが混在していると共に、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材は、メインティングプレートへの接触面積が、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材の接触面積より大きいことを特徴とする。
なお、前記クラッチ構造は、変速用のクラッチの他、トルクコンバータ等の流体伝動装置の入力側と出力側とを連結するロックアップクラッチであって多板式に構成されたものが対象となる。
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の変速機のクラッチ構造において、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の数は、全摩擦プレートを通じて、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材の数より少ないことを特徴とする。
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の変速機のクラッチ構造において、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の数は1つであることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の変速機のクラッチ構造において、複数の摩擦プレートのうちの端部に位置する摩擦プレートの端部側の面の摩擦材は、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材であることを特徴とする。
一方、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の変速機のクラッチ構造において、複数の摩擦プレートのうちのリテーニングプレート側の端部に位置する摩擦プレートの端部側の面の摩擦材が、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材であることを特徴とする。
まず、請求項1に記載の発明によれば、スリップ制御の際に、ピストンの押付けにより、摩擦プレートとメインティングプレートとが圧着されるが、このとき、摩擦プレートの摩擦材として、摩擦プレートとメインティングプレートと引き離す作用が小さい第1のパターンの油溝が形成された摩擦材と、この作用が第1のパターンよりも大きくなる第2のパターンの油溝が形成された摩擦材とが混在して設けられており、第1のパターンの油溝は、プレート同士を引き離す作用が小さい結果、接触面(以下、「第1の摩擦面」という)のクラッチクリアランスが小さくなって、大きな引き摺りトルクを発生させると共に、第2のパターンの油溝は、プレート同士を引き離す作用が大きい結果、接触面(以下、「第2の摩擦面」という)のクラッチクリアランスが大きくなり、比較的小さな引き摺りトルクを発生させる。
このような構成により、要求される伝達トルクに対して第1の摩擦面と第2の摩擦面とのトルク分担率が異なるよう構成される。つまり、伝達トルクは専ら第1の摩擦面に分担される。また、第2の摩擦面のトルク分担は小さいが、油圧のばらつきによるピストンの押付け力の変動が第2の摩擦面における拡大されたクラッチクリアランスの変動により吸収されて、クラッチ締結力の変動が抑制される。また、スリップ制御におけるトルク伝達を専ら第1の摩擦面の引き摺りトルクが担う構成においては、トルク伝達に寄与する接触面数が減少し、油圧のばらつきに対する締結力の変動が抑制される。
この結果、第1の摩擦面による引き摺りトルクにより、発進時に必要なクリープ力を作用させることができるので、応答性が確保されると共に、第2の摩擦面における拡大されたクラッチクリアランスにより油圧のばらつきに対する締結力の変動が抑制されて、スリップ制御の安定性及び制御精度が向上する。
さらに、スリップ制御時にはジャダーと呼ばれるクラッチのスティックスリップ振動を生じる問題があるが、前述のように第1、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材を混在させることにより共振現象の発生が抑制され、ジャダーが抑制されることになる。
そして、特にこの発明によれば、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の接触面積が第2のパターンの油溝が形成された摩擦材の接触面積よりも大きいので、油圧のばらつきに対するクラッチ締結力の変動が一層小さくなる。さらに、接触面積が大きいことにより第1の摩擦面のトルク分担率が大きくなるが、接触面圧を低減させることができるので発熱が抑制され、さらに、接触面積が大きいと熱吸収面が増加することになって摩擦面の冷却が促進され、第1の摩擦面と第2の摩擦面との温度負荷に対するバランスをとる設定が可能になって、クラッチ全体としての耐久性が確保されることになる。
また、請求項2に記載の発明によれば、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の数が全摩擦プレートを通じて第2のパターンの油溝が形成された摩擦材の数より少なくされているので、クラッチクリアランスが大きな第2の摩擦面の割合が高くなり、油圧のばらつきに対する締結力の変動が効果的に抑制される。
さらに、請求項3に記載の発明によれば、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の数が1つであり、この摩擦材で形成される第1の摩擦面を除く全ての接触面がクラッチクリアランスを拡大する第2の摩擦面で構成されることになって、油圧のばらつきに対する締結力の変動が一層効果的に抑制される。
一方、請求項4に記載の発明によれば、複数の摩擦プレートのうちの端部に位置する摩擦プレートの端部側の面の摩擦材は第1のパターンの油溝が形成されたものであるから、第1の摩擦面の発熱が効果的に放熱され、クラッチの耐久性が向上する。両端の摩擦プレートは、外気に最も近い上、摩擦材はピストンやリテーニングプレートなどの熱容量の大きな部材に接触するので効率的な放熱が可能である一方、中間部の摩擦プレートは熱が発散され難いので、スリップ制御時の温度分布は、両端部が最も低くなる。また、第1の摩擦面はトルク分担が大きいので摩擦による発熱量が多く、第2の摩擦面はトルク分担が小さいので摩擦による発熱量が小さい。そのため、前述のように、中間の摩擦プレートに第2のパターンの油溝が形成された摩擦材を使用することによりクラッチの中間部の発熱が抑制されると共に、発熱しやすい第1のパターンの油溝が形成された摩擦材を放熱性の良い端部の摩擦プレートに使用することにより発熱しても放熱させることができ、第1の摩擦面と第2の摩擦面との温度負荷に対するバランスをとる設定が可能になって、クラッチ全体としての耐久性が確保されることになる。
また、請求項5に記載の発明によれば、複数の摩擦プレートのうちのリテーニングプレート側の端部に位置する摩擦プレートの端部側の面の摩擦材は第1のパターンの油溝が形成されたものであるから、第1の摩擦面の発熱が効果的に放熱され、クラッチの耐久性が向上することになる。リテーニングプレートは、リテーナによってもたらされる摩擦面面圧の外周部集中などを抑制するため、リテーナに隣接させた厚肉で剛性が高められたプレートである。そして、このリテーニングプレートは熱容量が大きく、接触する摩擦材の摩擦による発熱が一層効果的に吸収される。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず、本発明の実施の形態の基本的構成を備えた参考例について説明すると、図1に示すように、自動変速機のクラッチ1は、主な構成要素として、変速機ケース2に回動自在に支持された回転軸3に固着されたクラッチドラム10と、遊星歯車機構(図示せず)の前方への延長部4にスプライン結合されたクラッチハブ11と、該ハブ11の外周側にスプライン結合された複数枚の摩擦プレート12…12と、該摩擦プレート12…12と軸方向に交互に配置されると共に前記ドラム10の内周側にスプライン結合された複数枚のメインティングプレート13…13と、前記ドラム10内に軸方向に摺動可能に収納され、該ドラム10との間に油圧室14を形成するピストン15と、回転軸3に固着され、前記ピストン15と共に遠心バランス室16を形成するプレート部材17とを有している。また、前記ピストン15には、油圧室14を密閉するためのシール部材15aが装着されている一方、前記クラッチハブ11とプレート部材17とで潤滑油室18が形成されている。
前記油圧室14には、オイルポンプハウジング5に設けられた油路5a、変速機ケース2に設けられた油路2a、及びドラム10に設けられた連通路10aを介して作動油が供給される。
また、前記遠心バランス室16には、回転軸3に設けられた油路3aを介して潤滑油が供給される。また、プレート部材17には油孔17aが設けられていると共に、該油孔17aを介して遠心バランス室16から潤滑油室18に潤滑油が供給されるようになっている。さらに、クラッチハブ11の外周部には、前記潤滑油室18と各摩擦プレート12が嵌合されるスプライン12′とを連通する複数の油孔11a…11aが設けられている。また、クラッチドラム10の外周部には、各メインティングプレート13が嵌合されるスプライン10′とクラッチドラム10の外部側とを連通する複数の油孔10b…10bが設けられている。
そして、図2に示すように、クラッチドラム10の外周部の内周側には、ピストン15側(以下、「前方」という)に4枚のメインティングプレート13…13が嵌合され、反ピストン15側(以下、「後方」という)の端部にリテーニングプレート19が嵌合されている。また、リテーニングプレート19の後部には、該リテーニングプレート19の後方への抜け落ちを規制するスナップリング20がクラッチドラム10に固着されている。そして、クラッチハブ11の外周側には、前記メインティングプレート13…13間及びメインティングプレート13とリテーニングプレート19との間に位置するように合計4枚の摩擦プレート(以下、後方側のものから第1〜第4摩擦プレートといい、順に記号12a〜12dを付す)12…12が嵌合されている。
次に、前記第1〜第4摩擦プレート12a〜12dの具体的構成について説明する。なお、第2〜第4摩擦プレート12b〜12dは同様の構成であるので、以下に第1摩擦プレート12a及び第2摩擦プレート12bについてのみを説明する。
図3〜5に示すように、第1摩擦プレート12aは、内周部12a’が歯車状に形成され、この内周部12a’がクラッチハブ11のスプライン11’に嵌合する。そして、第1摩擦プレート12aの後面には、環状の摩擦材121が設けられている。該摩擦材121には、内周縁から外周縁に至るように半径方向に設けられた複数の油溝121a…121aが形成されている(以下、摩擦材121の油溝パターンを「第1のパターン」という)。また、第1摩擦プレート12aの前面には、環状の摩擦材122が設けられている。該摩擦材122には、内周縁から外周縁に至る半径方向に設けられた複数の油溝122a…122aと、内周縁から半径方向中間部に亘って設けられた複数の油溝122b…122bとが円周方向に交互に設けられている(以下、摩擦材122の油溝パターンを「第2のパターン」という)。
また、図6に示すように、第2摩擦プレート12bは、同様に内周部12b′が歯車状に形成され、この内周部12b′がクラッチハブ11のスプライン11′に嵌合する。そして、第2摩擦プレート12dの両面には、前述の第2のパターンの油溝が形成された摩擦材122,122がそれぞれ設けられている。
一方、クラッチのスリップ制御を行うときには、前記油圧室14に、完全締結時の油圧よりも低い所定の油圧が供給され、ピストン15はリターンスプリング17b(図1参照)に抗して後方側に移動する。そして、ピストン15の後端部が最前側のメインティングプレート13に当接して、油圧に応じた所定の押付け力を作用させることになる。これによって各摩擦プレート12a〜12dに設けられた各摩擦材121,122とメインティングプレート13…13或いはリテーニングプレート19とが所定の接触状態になる。
このとき、クラッチハブ11に設けられた油孔11a…11aを介して供給された潤滑油が各摩擦材121,122とメインティングプレート13…13或いはリテーニングプレート19との接触面に供給される。第1のパターンの油溝が形成された摩擦材121による接触面(以下、「第1の摩擦面」という)においては、内周側から供給された潤滑油は、油溝121a…121aを介して外周側に流出することになる。
また、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材122による接触面(以下、「第2の摩擦面」という)においては、図5の矢印アで示すように、内周側から供給された潤滑油は、油溝122a…122aに流入したものは該油溝122a…122aを介して外周側に流出すると共に、矢印イで示すように、油溝122b…122bに流入したものは該油溝122b…122bを介して中間部に至り、ここから前後方向に滲み出て外周側に排出される。
このように、第1の摩擦面においては、潤滑油は油溝121a…121aを介して外周側に流出するので、クラッチクリアランスを拡大する作用は小さいが、第2の摩擦面においては、潤滑油が滲み出ることによって軸方向の推力F(図5参照)が発生し、この推力Fがプレート12,13同士を引き離すように作用し、クラッチクリアランスを拡大させることになる。
一方、スリップ制御におけるクラッチによる伝達トルクは、基本的には、有効半径×摩擦面1枚平均の引き摺りトルク×摩擦面数で表現される。そして、各接触面において発生する引き摺りトルクは、クラッチクリアランスなどによるオイルと気体のせん断接触状態が影響する。
図7のグラフに示すように、スリップ制御において、クラッチクリアランスが小さい第1の摩擦面に分担される引き摺りトルクは、クラッチクリアランスが大きい第2の摩擦面に分担される引き摺りトルクよりも大きくなり、点Pで示すような全ての摩擦材が同一の摩擦材で構成されているときに比べて、第1、第2摩擦面でトルク分担が明確に分かれている。そして、第1、第2の摩擦面における引き摺りトルクの合計を足し合わせたトータルの引き摺りトルクが、必要な車両のクリープ力が得られるように、第1、第2の摩擦面の割合ないし組合せが設定されることになる。
このような構成により、油圧のばらつきによるピストン15の押付け力の変動は、第2の摩擦面における拡大されたクラッチクリアランスの変動により吸収されて、クラッチ締結力の変動が抑制される。また、スリップ制御におけるトルク伝達を専ら第1の摩擦面の引き摺りトルクが担う構成においては、トルク伝達に寄与する接触面数が減少し、油圧のばらつきに対する締結力の変動が抑制される。
この結果、第1の摩擦面による引き摺りトルクにより、発進時に必要なクリープ力を作用させることができるので、応答性が確保されると共に、油圧のばらつきに対する締結力の変動が抑制されて、スリップ制御の安定性及び制御精度が向上する。
また、クラッチ締結力のばらつきは、スリップ制御における所定のエンジン負荷の抑制や車両のクリープ力の設定にばらつきを生じるが、エンジン負荷が安定することにより燃費改善を図ることができると共に、適切な車両のクリープ力を設定することができる。
さらに、スリップ制御時にはジャダーと呼ばれるクラッチのスティックスリップ振動を生じる問題があるが、前述のように第1、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材121,122を混在させることにより共振現象の発生が抑制され、ジャダーが抑制されることになる。
また、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材121の数が全摩擦プレート12…12を通じて第2のパターンの油溝が形成された摩擦材122の数より少なくされているので、接触面においてクラッチクリアランスが大きくなる割合が高くなり、油圧のばらつきに対する締結力の変動が効果的に抑制される。特に、本参考例においては、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材121の数が1つであり、この摩擦材121で形成される接触面を除く全ての接触面におけるクラッチクリアランスが大きくなって、油圧のばらつきに対する締結力の変動が一層効果的に抑制されている。
一方、摩擦プレート12a〜12dの内の端部に位置する摩擦材12a,12dを第1のパターンの油溝を形成することにより、第1の摩擦面の発熱が効果的に放熱され、摩擦材121,122の耐久性が向上することになる。両端の摩擦プレート12a,12dは、外気に最も近い上、摩擦材121,122はピストン15やリテーニングプレート19などの熱容量の大きな部材に接触するので効率的な放熱が可能である一方、中間部の摩擦プレート12b,12cは熱が発散し難いので、スリップ制御時の温度分布は、図8に示すように、両端部が最も低くなる。さらに、前記第1の摩擦面はトルク分担が大きいので発熱量が多く、第2の摩擦面はトルク分担が小さいので発熱量が小さい。そのため、前述のように、中間の摩擦プレート12b,12cに第2のパターンの油溝が形成された摩擦材122を使用することにより中間部の発熱が抑制されると共に、発熱しやすい第1のパターンの油溝が形成された摩擦材121を放熱性の良い端部の摩擦プレート12a,12dに使用することにより発熱しても放熱させることができ、第1の摩擦面と第2の摩擦面との温度負荷に対するバランスをとる設定が可能になって、クラッチ全体としての耐久性が確保されることになる
また、本参考例で示したように、摩擦プレート12a〜12dのうちのリテーニングプレート19側の端部に位置する摩擦プレート12aの端部側の摩擦材121は第1のパターンの油溝が形成されたものであるから、第1の摩擦面の発熱が効果的に放熱され、クラッチの耐久性が向上することになる。リテーニングプレート19は、リテーナによってもたらされる摩擦面の面圧の外周部集中などを抑制するため、リテーナに隣接させた厚肉で剛性が高められたプレートである。そして、このリテーニングプレート19は熱容量が大きく、接触する摩擦材121の摩擦による発熱が一層効果的に吸収される。
次に、本発明の実施の形態を説明すると、図9に示すように、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材122の内周側を切除し、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材121に比べてメインティングプレート13…13との接触面積が小さくなるように摩擦材122’…122’が構成されている。この構成によれば、第1、第2の摩擦面のトルク分担が一層明確になる。
そして、この結果、油圧のばらつきに対するクラッチ締結力の変動が一層小さくなる。さらに、接触面積が大きいことにより第1の摩擦面のトルク分担率が大きくなるが、接触面厚を低減させることができるので発熱が抑制され、さらに摩擦面積が大きいと熱吸収面が増加することになって摩擦面の冷却が促進され、第1の摩擦面と第2の摩擦面との温度負荷に対するバランスをとる設定が可能になって、クラッチ全体としての耐久性が確保されることになる。
ところで、多板式のロックアップクラッチでは、スリップ制御において振動減衰作用のばらつきや減速時のフーエルカット時間の拡大によるエンジン回転維持制御などがばらつき、走行品質の低下や燃費低減作用が得られない状態になることがあるが、前述のクラッチ構造を適用することによって、前記ばらつきを抑制し、走行品質及び燃費低減作用が改善される。
一方、クラッチクリアランスを拡大させる作用が得られる油溝のパターンは、前記第2のパターンの油溝に限らず、流路抵抗が存在するように形成されていればよい。例えば図10、11に示す参考例のように、摩擦材12xの内周縁から中間部123aにまで半径方向の油溝123aが設けられ、ここから油溝123aが折り曲げられ、半径方向以外の方向に延びる油溝123aが外周縁に連通するように構成された油溝のパターン(以下、「第3のパターン」という)がある。
第3のパターンが設けられた摩擦材12xでは、潤滑油は油溝123aに流入し、中間部123aにおいて潤滑油の流動に対して流路抵抗が作用し、軸方向の推力Fを発生させつつ、油溝123aに流入し、外周側に排出されることになる。従って、第3のパターンの油溝は、クラッチクリアランスを拡大させる作用を有し、前述の第2のパターンの油溝と同様の作用が得られる。
本発明は、変速機に用いられるクラッチ構造に関し、自動車産業に広く好適である。
本発明の参考例に係るクラッチ構造の断面図である。 同クラッチ構造の要部拡大断面図である。 第1摩擦プレートの背面図である。 第1摩擦プレートの正面図である。 図4の矢印A−A線による拡大断面図である。 第2摩擦プレートの拡大断面図である。 クラッチクリアランスに対する引き摺りトルクを示すグラフである。 スリップ制御におけるクラッチの位置に対するクラッチ温度を示すグラフである。 本発明の実施の形態に係るクラッチの説明図である。 参考例として示す第3のパターンの油溝の説明図である。 図10の矢印B−B線による拡大断面図である。
符号の説明
1 クラッチ
10 クラッチドラム
11 クラッチハブ
11a 油孔
12 摩擦プレート
13 メインティングプレート
14 油圧室
15 押付けピストン
19 リテーニングプレート
121,122 摩擦材
121a,122a,122b 油溝

Claims (5)

  1. ドラム部材と、該ドラム部材の内側に該部材と同心状に相対回転可能に配置されたハブ部材と、両面に環状をなす単一の摩擦材がそれぞれ設けられた摩擦プレートと、該摩擦プレートと対接するメインティングプレートとを有し、該摩擦プレートとメインティングプレートとが、前記ドラム部材に備えられたピストンとリテーニングプレートとの間で、ハブ部材とドラム部材とに交互にスプライン嵌合されていると共に、前記ピストン背部の油圧室への作動圧の供給制御によりクラッチのスリップ制御が行われる変速機のクラッチ構造であって、
    前記ハブ部材には、摩擦プレートの内周側から潤滑油を供給する潤滑油供給手段が設けられていると共に、
    各摩擦プレートの摩擦材には、該潤滑油供給手段から供給された潤滑油が流れる油溝が設けられ、
    かつ、該油溝として、これを通る潤滑油の流れによる摩擦プレートとメインティングプレートとを引き離す作用が小さい第1のパターンの油溝が全面にわたって形成された摩擦材と、この作用が第1のパターンよりも大きくなる第2のパターンの油溝が全面にわたって形成された摩擦材とが混在していると共に、
    第1のパターンの油溝が形成された摩擦材は、メインティングプレートへの接触面積が、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材の接触面積より大きいことを特徴とする変速機のクラッチ構造。
  2. 前記請求項1に記載の変速機のクラッチ構造において、
    第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の数は、全摩擦プレートを通じて、第2のパターンの油溝が形成された摩擦材の数より少ないことを特徴とする変速機のクラッチ構造。
  3. 前記請求項2に記載の変速機のクラッチ構造において、
    第1のパターンの油溝が形成された摩擦材の数は1つであることを特徴とする変速機のクラッチ構造。
  4. 前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の変速機のクラッチ構造において、
    複数の摩擦プレートのうちの端部に位置する摩擦プレートの端部側の面の摩擦材は、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材であることを特徴とする変速機のクラッチ構造。
  5. 前記請求項4に記載の変速機のクラッチ構造において、
    複数の摩擦プレートのうちのリテーニングプレート側の端部に位置する摩擦プレートの端部側の面の摩擦材が、第1のパターンの油溝が形成された摩擦材であることを特徴とする変速機のクラッチ構造。
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