ところが、フィルタ又は触媒として使用されるハニカム構造体に性能の向上が求められ、セルが小さく隔壁が薄くなるに従って、研削加工、放電加工が困難になるという問題に直面した。即ち、ハニカム構造体は、セルの大きさを小さく隔壁を薄くすると有効面積が大きくなるので、フィルタ又は触媒としての性能向上に寄与することとなるが、それは、成形に使用する口金において、スリットの数が多くなるとともに、スリットの幅が小さくなり、スリット相互間の寸法が小さくなることを意味し、従来の加工手段による対応が難しくなってきたのである。
具体的には、研削加工の場合には、超硬合金に対し、幅80μm以下、深さ3mmのスリットを形成することが可能な砥石は、汎用品として存在しない。仮に特別に作ったとしても、数が多く幅が狭いスリットを形成するために膨大な時間がかかる上に、加工自体の困難性が増し、スリットが曲がったりして所望のスリットが得られないおそれが高い。放電加工においても同様であり、幅80μm以下、深さ3mmのスリットを加工するためには、幅40μmで高さが4mm以上の電極が必要となるが、このような電極は汎用品として存在しない。特に、超硬合金を放電加工するためには、銅タングステンや銀タングステンの電極が用いられるが、この場合、上記のような寸法の電極を製作すること自体が困難であり、特別に作ることも難しい。電極の材料がグラファイトであれば、作製することが出来ると考えられるが、グラファイトからなる電極では、超硬合金を高精度に放電加工することが不可能である。又、ワイヤー放電等の手段を採ることも考えられるが、今後、更に数が増加し幅が狭くなるスリットを形成するのに、膨大な時間を要し、現実的ではない。
ところで、先に挙げた特許文献1及び特許文献2では、一体材料に対して加工を施してスリット及び裏孔を形成するのではなく、部材を組み立てて口金を得る組立方式が提案されている。組立方式によれば、原理的にスリットの幅を限りなくゼロにすることが可能であり、作製に要する時間もスリットの幅には関係ない。
しかし、特許文献1及び特許文献2に挙がっている組立方式では、従来の研削加工や放電加工に比べて、スリットの幅寸法の精度が低いため、隔壁やそれによって形成されるセルの形状や寸法が均一なハニカム構造体を得ることが出来ない、という改善すべき点があるものと考えられる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、今後、更にセルを小さく隔壁を薄くすることが求められているハニカム構造体を、高精度に成形することが可能な成形用口金を提供することを課題とする。この課題を解決するために、研究が重ねられた結果、以下の手段を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、先ず、成形原料を導入し押出してハニカム成形体を成形する口金であって、並行して設けられた複数の六角柱Aと、その複数の六角柱Aの間に配設された複数の六角柱Bと、を具備し、その六角柱Bで間隔が規定された六角柱A相互間のスリットで、成形原料の流路を構成する押出成形用口金が提供される。
複数の六角柱Aは同一の大きさであり、複数の六角柱Bも同一の大きさである。そして、六角柱Aと六角柱Bとは、ともに正六角柱である。成形原料の流路は、六角柱Bで間隔が規定された六角柱A相互間のスリットで構成されるから、成形原料の進行方向に垂直な断面においてスリットは六角形となる。即ち、本発明に係る押出成形用口金は、六角形のセルを有するハニカム成形体を押出成形するために使用するものである。成形原料は、六角柱Bで間隔が規定された六角柱A相互間のスリットの一方から導入され他方に押し出される。
本発明に係る押出成形用口金においては、六角柱Bは、六角柱Aより、軸方向の長さが短く、(複数のうちの)1つの六角柱Bが、(複数のうちの)3つの六角柱Aの間に配設されるとともに、(六角柱Aの)隣接する2つの側面に跨って、中心軸と隣接する2つの側面が接する辺とを結ぶ面において中心軸から(隣接する2つの側面が接する)辺に向かって垂直になるように、且つ、(六角柱Aの)底面には通じないように、(複数のうちの)3つの六角柱Aに形成された引込平面に、(複数のうちの)1つの六角柱Bの1つおきの3つの側面が接していることが好ましい。
本発明に係る押出成形用口金においては、複数の六角柱Aが、同一方向を向いて、相互に側面を対向させて配列されるとともに、(複数のうちの)3つの六角柱Aの中心軸を円周上に含む円の中心に(複数のうちの)1つの六角柱Bの中心軸が位置するように、六角柱Bが配設されることが好ましい。
本発明に係る押出成形用口金は、複数の六角柱Aと複数の六角柱Bとを、それらの外側から、六角柱A及び六角柱Bの材料より熱膨張係数が大きい材料で形成された周面部材で囲い、焼きばめによって六角柱A及び六角柱Bを固定してなるものであることが好ましい。
本発明に係る押出成形用口金は、既述のように、六角柱Bは、六角柱Aより、軸方向の長さが短く、1つの六角柱Bが、3つの六角柱Aの間に配設されるとともに、隣接する2つの側面に跨って、中心軸と、側面のみを形成する辺と、を結ぶ方向に垂直になるように、且つ、底面には通じないように、3つの六角柱Aに形成された引込平面に、1つの六角柱Bの1つおきの3つの側面が接していることが好ましい。そして、この場合には、六角柱Aの中心軸の位置度が、±2μmであるように、六角柱Aを正確に位置決めしたものとなる。
位置度とは、データム又は、他の形体に関連して定められた論理的に正確な位置からの点、直線形体又は、平面形体の狂いの大きさをいい(日本工業規格 B0621)、本明細書における六角柱の中心軸の位置度とは、押出成形用口金において論理的に正確な六角柱の中心軸の位置からの、実際の押出成形用口金における六角柱の中心軸の位置の、狂いの大きさをいう。
本発明に係る押出成形用口金は、六角柱Aが、炭化タングステン基超硬合金材料で構成されたものであることが好ましい。
炭化タングステン基超硬合金は、少なくとも炭化タングステンを含む合金である。炭化タングステン基超硬合金としては、炭化タングステンを、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、及びクロム(Cr)からなる群より選択される少なくとも1つの金属で焼結した合金であることが好ましい。このような炭化タングステン基超硬合金は、耐摩耗性や機械的強度に特に優れている。炭化タングステン基超硬合金としては、例えば、コバルト(Co)を結合材として使用した炭化タングステン基超硬合金を挙げることが出来、具体的には、WC−Co(Co含有率0.1〜50質量%)等の合金がある。
次に、本発明によれば、複数の六角柱Aと、その六角柱Aより軸方向の長さが短い複数の六角柱Bと、を作製する工程1と、複数の六角柱Aの各々について、隣接する2つの側面に跨って、中心軸と隣接する2つの側面が接する辺とを結ぶ面において中心軸から(隣接する2つの側面が接する)辺に向かって垂直になるように、且つ、底面には通じないように、引込平面を形成する工程2と、(引込平面を形成した)複数の六角柱Aを、同一方向に向けて、相互に側面を対向させて配列するとともに、(複数のうちの)3つの六角柱Aの中心軸を円周上に含む円の中心に、(複数のうちの)1つの六角柱Bの中心軸が位置するように、且つ、(複数のうちの)3つの六角柱Aに形成された引込平面に、(複数のうちの)1つの六角柱Bの1つおきの3つの側面が接するように、複数の六角柱Bの配設をする工程3と、複数の六角柱Aと(上記配設をした)複数の六角柱Bとを、それらの外側から、六角柱A及び六角柱Bの材料より熱膨張係数が大きい材料で形成された周面部材で囲い、焼きばめによって六角柱A及び六角柱Bを固定する工程4と、を有する押出成形用口金の製造方法が提供される。
本発明に係る押出成形用口金の製造方法は、六角柱Aの中心軸の位置度が、±2μmであるように、六角柱Aを正確に位置決めして、押出成形用口金を製造することが可能である。
本発明に係る押出成形用口金の製造方法においては、六角柱Aを、炭化タングステン基超硬合金材料を用いて作製することが好ましい。
本発明に係る押出成形用口金は、並行して設けられた複数の六角柱Aと、その複数の六角柱Aの間に配設された複数の六角柱Bと、を具備し、その六角柱Bで間隔が規定された六角柱A相互間のスリットで、成形原料の流路を構成するものであり、複数の六角柱Aと複数の六角柱Bとを組み立ててなるものである。そのため、容易に補修することが出来る。
ハニカム構造体を得るためにハニカム成形体を成形する上で、口金のスリットの幅の寸法は、重要である。1つの口金の中には多くのスリットが存在するが、1つでも寸法公差を外れると、その口金は使用することが出来ない。又、公差内であっても寸法に偏りがあると(例えば、右側半分が上限公差寄り、左側半分が下限公差寄りの場合には)、押出成形されたハニカム成形体は、曲がって、不良品となり得る。このような場合、従来の(一体材料を加工してなる)口金では、最初から作り直すしかなかったが、本発明に係る押出成形用口金は、六角柱Aと六角柱Bを組立したものであるので、不具合があっても、その部分の六角柱A及び/又は六角柱Bを交換すれば、こと足り、スリットの幅の寸法精度の高い口金を、効率よく得ることが出来る。
本発明に係る押出成形用口金は放電加工を伴うものではないので、スリットの幅に合わせた電極を用意する必要はない。本発明に係る押出成形用口金は、六角柱Aと六角柱Bを組立したものであるので、スリット幅を限りなく小さくすることが可能であり、製作に要する時間もスリットの幅に影響されない。そのため、成形対象である、フィルタ又は触媒として使用されるハニカム構造体において、セルが小さく隔壁が薄くなっても、本発明に係る押出成形用口金は、短時間で作製することが可能である。
本発明に係る押出成形用口金は、好ましい態様において、六角柱Bは、六角柱Aより、軸方向の長さが短く、(複数のうちの)1つの六角柱Bが、(複数のうちの)3つの六角柱Aの間に配設されるとともに、(六角柱Aの)隣接する2つの側面に跨って、中心軸と隣接する2つの側面が接する辺とを結ぶ面において中心軸から(隣接する2つの側面が接する)辺に向かって垂直になるように、且つ、(六角柱Aの)底面には通じないように、(複数のうちの)3つの六角柱Aに形成された引込平面に、(複数のうちの)1つの六角柱Bの1つおきの3つの側面が接しており、これによって、六角柱Aの位置決めをしている。
即ち、本発明に係る押出成形用口金では、六角柱Aと六角柱Bを、嵌め込み等の機械的結合手段を用いて固定しておらず、外側からの締め付け力によって、自動的に位置が調芯されるようにしている。(複数のうちの)1つの六角柱Bの3面を、(複数のうちの)3つの六角柱Aに形成された引込平面で把持しており、位置決めにかかり、センタリング効果が期待出来る。そして、その結果、六角柱Aの中心軸の位置度として±2μmを達成することが出来、ひいては、六角柱A相互間のスリットの幅の寸法精度を高くすることが出来る。スリットを通過した成形原料が、ハニカム成形体(ハニカム構造体)においてセルを形成する隔壁となるから、本発明に係る押出成形用口金を使用すれば、隔壁やそれによって形成されるセルの形状や寸法が均一なハニカム構造体を得ることが可能となる。
特許文献1には、複数のダイス要素が配列固定してなるダイス構成体を更に支持部材により固定したハニカム構造体成型用ダイスが開示されている。押出と圧着に着目し、確実なハニカム形状の成形を実現すべく特許文献1に開示されたハニカム構造体成型用ダイスは、組立方式によるものである。しかし、このハニカム構造体成型用ダイスは、各ダイス要素が連結棒により連結されているものであり、連結棒を嵌め込むための機械加工による溝が必要である。そのため、溝の位置によって組合わせ位置が強制的に決まってしまう。又、各ダイス要素の位置精度を向上させるためには、連結棒と溝の嵌め合いを隙間なく加工する必要があるが、そうすると、一度嵌め合わせたものが分解出来なくなる。一方、分解し易くするためには、連結棒と溝の嵌め合いの隙間を大きく取ればよいが、そうすると各ダイス要素の位置精度が低下してしまう。従って、ダイス要素の中心軸の位置度は±5μm程度になるものと推定され、隔壁とセルの形状や寸法が均一なハニカム構造体を得ることが困難であると思われる。本発明に係る押出成形用口金では、六角柱Aと六角柱Bを機械的に固定させていないから、このような問題は生じない。
特許文献2では、複数の細長い線材を束ねて接合したハニカム成形体の成形ダイが開示されている。これも組立方式によるものである。線材の接合方法としては、拡散接合法や半田付け、ロー付け、機械的固定が開示されている。このハニカム成形体の成形ダイは、壁厚が薄い(50μm以下)ハニカム成形体を成形し得る成形ダイの提供を目的としており、成形ダイを分割することによる成形に対する高精度化や、耐磨耗性の高いセラミックスや超硬合金でも高精度に製造出来る点が、効果として挙げられている。しかし、この成形ダイにおいて、成形原料の流れ方向に押出の力がかかった場合に、各々の線材がずれないように接合力を確保しなければならず、この接合力は、高温で接合するプロセス(例えば拡散接合等)は接合力は高いが高温を加える必要があるため、線材の変形を引き起こしてしまうし、一方、低温で接合するプロセス(例えばはんだ付けや接着剤等)は変形するほど高温に上げる必要はないが、接合力は低く、高速、あるいは粘性の高い坏土の成形時の押し出し力に耐えられず、隔壁とセルの形状や寸法が均一なハニカム構造体を得ることが困難であると思われる。
本発明に係る押出成形用口金では、六角柱Bの側面が接する六角柱Aの引込平面は、六角柱Aの、隣接する2つの側面に跨って、中心軸と隣接する2つの側面が接する辺とを結ぶ面において中心軸から(隣接する2つの側面が接する)辺に向かって垂直になるように、且つ、底面には通じないように、形成されているから、六角柱Bは、六角柱A相互間のスリットの幅を決めるスペーサの役割の他に、複数の六角柱Aの、成形原料の流れ方向におけるずれを防止するストッパの役割を果たしている。そのため、特許文献2に開示された成形ダイのように、スリットの幅寸法の精度の低下をきたすおそれはない。
本発明に係る押出成形用口金は、好ましくは、複数の六角柱Aと複数の六角柱Bとを、それらの外側から、六角柱A及び六角柱Bの材料より熱膨張係数が大きい材料で形成された周面部材で囲い、焼きばめによって六角柱A及び六角柱Bを固定してなるものであるので、組立、分解が容易に行える。組立方式を採用しても、部材どうしを固着させてしまっては、口金に不具合が起こったときに、容易に分解することが出来ず、結局は、作り直しする必要が生じるが、本発明に係る押出成形用口金によれば、周面部材を外すことで、簡単に分解することが可能である。
本発明に係る押出成形用口金の製造方法は、本発明に係る押出成形用口金の好ましい態様を、容易に、効率よく、製造し得る点に、優れた効果を奏する。
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係る押出成形用口金について説明する。図1〜図6は、本発明に係る押出成形用口金の一の実施形態を示す図であり、そのうち、図1は、全体の外観を示す斜視図である。図1に示されるように、押出成形用口金1は、全体として2つの端面21,22とそれらをつなぐ周面23で構成される円柱形の外観を呈しており、概略六角柱状を呈する中央の口金本体部2と、その外側(周面23の側)で口金本体部2を囲う周面部材8と、で構成される。更に、周面部材8は、最外に位置する円筒状の外周部材4と、その外周部材4と口金本体部2との隙間を埋めるスペーサ3と、で構成される。
図1では、口金本体部の詳細は省略され描かれておらず、口金本体部は、周面部材とともに、図2〜図6に表されている。図2は、押出成形用口金の端面(底面)近傍を表す斜視図であり、図3は、図1においてXで示される丸囲い部分の平面図であり、図4は、図1においてYで示される丸囲い部分の平面図である。図5は、口金本体部を構成する2種類の六角柱部材を示す斜視図であり、図6は、周面部材を構成するスペーサの1つを表す斜視図である。
押出成形用口金1の口金本体部2は、並行して設けられた複数の六角柱部材10(六角柱Aに相当する)と、その複数の六角柱部材10の間に配設された複数の六角柱部材11(六角柱Bに相当する)と、を具備する。六角柱部材10は、同一方向を向き、相互に、(六角柱としての)側面と側面とを、対向させて配列されている(図2、図3を参照)。
六角柱部材10,11は、3つの六角柱部材10の中心位置に1つの六角柱部材11が配置されるように設けられる。より具体的には、3つの六角柱部材10の中心軸を円周上に含む円の中心に、1つの六角柱部材10の中心軸が位置するように、六角柱部材10,11が配設される。但し、1つの六角柱部材11が配置されるのは、3つの六角柱部材10で規定される中心位置の1つおきであり、3つの六角柱部材10で規定される中心位置の全てに、1つの六角柱部材11が配置されるわけではない(図3を参照)。このような態様によって、六角柱部材11で六角柱部材10相互間の間隔が規定され、その空間がスリット5として構成される(図2〜図4を参照)。押出成形用口金1は、成形原料を導入し押出してハニカム成形体を成形する口金であり、スリット5が成形原料の流路を構成する。
六角柱部材10,11は、それぞれが同一の大きさの正六角柱の部材であり、六角柱部材11は、六角柱部材10より、軸方向(図5において上下方向)の長さが短い。六角柱部材11は、真に正六角柱の部材であり、変形部分は存在しない。一方、六角柱部材10には、その側面に引込平面15が形成されている。この引込平面15は、六角柱部材11の6つある側面のうち1つおきの3つの側面が接する面であり、六角柱部材10における引込平面15の軸方向の長さは、六角柱部材11の軸方向の長さに対応して設定される。
六角柱部材10に形成された引込平面15は、六角柱部材10の6つある側面のうち隣接する2つの側面に跨って、六角柱部材10の中心軸と隣接する2つの側面が接する辺16とを結ぶ面において中心軸から辺16に向かって垂直になるように、且つ、六角柱部材10の2つある底面には通じないように、形成されている。別言すれば、引込平面15は、辺16のうち底面に接しない中央部分を削り取るように、六角柱部材10の側面から引っ込んで、形成された平面である。
六角柱部材10の基本形では、上記引込平面15は、1本おきの辺16に対応して形成されるが(図5を参照)、スペーサ3と隣接して組み込まれる六角柱部材10では、引込平面15が隣接した辺16に対して形成される場合もある(図4を参照)。これは、スペーサ3に嵌め込むためである。スペーサ3は、押出成形用口金1では6つ備わり(図1を参照)、全体の形状は、円筒状の外周部材4と、六角形状の口金本体部2と、の隙間を、6分割した形状を呈するものであり、更に、個々のスペーサ3には張出部31が備わっている(図6を参照)。押出成形用口金1においては、このスペーサ3の張出部31に、六角柱部材10の引込平面15が嵌め込まれるのである。
次に、上記押出成形用口金1を例にして、本発明に係る押出成形用口金の使用方法について説明するとともに、押出成形用口金の各部分の寸法について説明する。本発明に係る押出成形用口金は、成形原料を導入し押出してハニカム成形体を成形する口金であるから、例えば、ラム式押出成形機や二軸連続成形機等の押出成形機に取り付けて使用する。押出成形を行う際には、押出成形機に押出成形用口金1がセットされるが、そのセットは、口金本体部2以外を把持する部材(図示せず)を用いて行われる。押出成形用口金1において、成形原料の流路は、六角柱部材10相互間のスリット5で構成され、このスリット5は、端面21,22を結ぶ方向である成形原料の流路方向に垂直な断面が、六角形である。従って、押出成形用口金1を用いると、六角形のセルを有するハニカム成形体を押出成形することが出来る。
例えば、コージェライト化原料、ムライト、アルミナ、アルミニウムチタネート、リチウムアルミニウムシリケート、炭化珪素、窒化珪素からなる骨材粒子原料と、水と、を含み、必要に応じて造孔材、バインダ、分散剤等の添加剤を含む成形原料を、混合し、更に、混練し、成形して、例えば円筒状の坏土を得る。その後、この坏土を、押出成形用口金1を取り付けた上記押出成形機を用いて、念のため凝集塊を除去すべくスクリーンを通過させた後に、押出成形用口金1を通す。そうすると、坏土(成形原料)は、例えば(押出成形用口金1の)端面22側からスリット5へ導入され、端面21側へ押し出され、スリット5の形状に基づき、六角形のセルを有するハニカム成形体として成形される。端面21,22間に、即ち、坏土(成形原料)の流路の途中に、六角柱部材11が存在することになるが、坏土(成形原料)は、端面22から入り、六角柱部材11に当たって進路を変え、六角柱部材11を過ぎたところで、再び、端面21側へ向かって、スリット5内に均一に広がって端面21側へ押し出されるので、得られるハニカム成形体の隔壁は均一な厚さのものとなる。
得られたハニカム成形体を乾燥させた後に、焼成することによって、排気ガス処理用のフィルタ又は触媒として利用可能なハニカム構造体を得ることが出来る。スリット5を通過した坏土がハニカム成形体の隔壁になるから、スリット5の大きさ(幅)は、得ようとするハニカム成形体(ハニカム構造体)の仕様(隔壁の厚さ)に基づき、適宜、決定される。スリット5の大きさ(幅)は、例えば、10〜0.1mmであることが好ましく、3〜0.1mmであることが更に好ましい。このスリット5の大きさ(幅)は、六角柱部材11の大きさによって決まるから、ハニカム成形体(ハニカム構造体)の仕様(隔壁の厚さ)に基づいて、六角柱部材11の大きさが定まる。
又、(空間部分である)スリット5の周りの、坏土が通らない(実体部分である)六角柱部材11が、ハニカム成形体(ハニカム構造体)のセルの形状を規定するから、六角柱部材10の大きさは、得ようとするハニカム成形体(ハニカム構造体)の仕様(セルの大きさ)に基づき、適宜、決定される。六角柱部材10の大きさ、具体的には六角柱部材10において六角柱を形成する平行な側面間距離は、例えば、10〜0.1mmであることが好ましく、3〜0.1mmであることが更に好ましい。図1〜図6に示される態様(押出成形用口金1)においては、六角柱部材10が六角柱部材11より、平行な側面間距離が大きい(太い)が、本発明に係る押出成形用口金においては、得ようとするハニカム成形体(ハニカム構造体)の隔壁の厚さとセルの大きさによっては、六角柱B(六角柱部材11)が六角柱A(六角柱部材10)より、平行な側面間距離が大きい(太い)こともあり得る。
次に、本発明に係る押出成形用口金の製造方法について、図1〜図6に示される上記押出成形用口金1を製造する場合を例にとって、構成部材の材料とともに、説明する。押出成形用口金1を製造するために、先ず、六角柱部材10,11を作製する。
六角柱部材10,11を得るために、炭化タングステン基超硬合金原料を配合した粉体を、所望の六角柱状にプレス成形し、高温で真空焼結することによって、六角柱の部材を得る。その後、ダイヤモンド砥石による研削加工により六角柱外周加工を施し精度を向上させる(工程1)。炭化タングステン基超硬合金原料として、炭化タングステンと、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、及びクロム(Cr)からなる群より選択される少なくとも1つの金属と、を挙げることが出来る。
六角柱部材10については、得られた六角柱の部材に、例えば、ダイヤモンド砥石による研削加工や放電加工(EDM加工)等の従来公知の手段を用いて、引込平面15を形成することで得られる(工程2)。六角柱部材11は、得られた六角柱の部材そのものである。尚、六角柱部材11は、市販のステンレス棒(例えばSUS603)を機械加工したものでもよい。
又、別途、6つのスペーサ3と外周部材4を、機械加工、又は、研削加工により、作製する。作製方法は、一般的な機械加工部品と同様である。スペーサ3の材料は、六角柱部材10,11と同一のものを使用し、外周部材4の材料は、六角柱部材10、11及びスペーサ3よりも熱膨張係数が大きいものを使用する。例えば、六角柱部材10、六角柱部材11、スペーサ3を、熱膨張係数が6×10−6/℃の炭化タングステン基超硬合金で作製し、外周部材4を、熱膨張係数が17×10−6/℃のSUS304(ステンレス鋼)で作製することが出来る。
次に、6つのスペーサ3と六角柱部材10,11、を端から1つずつ組み立てていく。6つのスペーサ3で囲まれた口金本体部2は、支え用リング等で、ばらばらにならないように、仮固定しておく。六角柱部材10は、同一方向に向けて、相互に側面を対向させて配列させ、3つの六角柱部材10の中心軸を円周上に含む円の中心に、1つの六角柱部材11の中心軸が位置するように、且つ、3つの六角柱部材10に形成された引込平面15に、1つの六角柱部材11の1つおきの3つの側面が接するように、六角柱部材10と六角柱部材11とを組み込む(工程3)。
次に、外周部材4のみを加熱しておき、先ほどの仮固定した部材にかぶせ組合わせる。その後、冷却する。そうすると、これらは焼きばめされ、一体化し、外周部材4の中に、スペーサ3、六角柱部材10,11が固定される(工程4)。焼きばめとは、熱膨張と収縮を利用して2つの物体を結合する手段である。再び、加熱すれば、熱膨張差から、外周部材4が緩まり、スペーサ3、六角柱部材10、及び六角柱部材11を取り外すことが可能である。
焼きばめの際、外周部材4及びスペーサ3が収縮することで、組み込まれた六角柱部材10,11に、外側から六角柱部材10,11を締め付ける押圧がかかる。六角柱部材10,11は、3つの六角柱部材10の中心軸を円周上に含む円の中心に、1つの六角柱部材11の中心軸が位置するように、且つ、3つの六角柱部材10に形成された引込平面15に、1つの六角柱部材11の1つおきの3つの側面が接するように組み込まれているから、この押圧によって、センタリング効果が発揮され、六角柱部材10及び六角柱部材11の位置は自動的に調芯され、六角柱部材10の中心軸の位置度は、±2μm以内に収まるようになる。
又、六角柱部材11は六角柱部材10に形成された引込平面15に嵌めこまれるから、六角柱部材10及び六角柱部材11の軸方向(長さ方向)、即ち、成形原料の流れ方向に対して、押出成形の際に圧力がかかっても、六角柱部材10と六角柱部材11とは、ずれることがなく、六角柱部材10及び六角柱部材11で構成される口金本体部2は、常に一体を保持し、スリット5の幅の寸法精度は低下しない。
1:押出成形用口金、2:口金本体部、3:スペーサ、4:外周部材、5:スリット、8:周面部材、10:六角柱部材、11:六角柱部材、15:引込平面、16:辺、21,22:端面、23:周面、31:張出部。