この発明は、レーザ発振方法・レーザ装置およびレーザ装置アレイに関する。
この発明のレーザ装置やレーザ装置アレイは、光プリンタ用の光源や、ディスプレイ用の光源などに適用することができる。
従来、「レーザ媒質となる元素を添加したコア」と「レーザ媒質となる元素を含まないクラッド」からなるレーザ結晶と、このレーザ結晶を挟むように配置された共振器面とを有するレーザ共振器のレーザ結晶に、側面から励起光を照射してレーザ結晶を励起してレーザ発振を行わせるレーザ装置が知られている(特許文献1等)。
この種のレーザ装置は、レーザ結晶の肉厚が「1mm以下という非常に薄く小さい」ものであるところからマイクロチップレーザと呼ばれている。
このようなレーザ装置においては、励起光強度:Aに対する「レーザ結晶からのレーザ発振出力光強度:B」の比である「発振効率:B/A」を如何に高めるかが大きな課題である。
コアに添加されたレーザ媒質は「特定の波長領域の光を吸収する特性」を有するので、この吸収波長域と略同じ波長域をカバーするように「励起光の波長域」を設定すべきであるが、光源として用いられる半導体レーザやLEDの発光波長域は「レーザ媒質の吸収波長域」よりも広く、吸収波長域外の波長成分の光はレーザ発振に寄与しないため、レーザ発振出力光強度:Bに対して励起光強度:Aが大きい。このため、発振効率を高めることが困難である。
なお、この発明においては「時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイスによる光の波長シフト」を行うが、「時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質による波長シフトの原理」は非特許文献1、2により知られている。
特許第3503588号
白井、朝倉「光散乱に伴うスペクトル変化現象」、学術雑誌:光学 p.134 1995年3月
白井「ランダム媒質による光多重散乱とスペクトル変化」、学術雑誌:光学 p.459 1998年8月
この発明は、上述したところに鑑み、上記レーザ装置における発振効率を高めるレーザ発振方法の実現、このレーザ発振方法を実施するレーザ装置の実現を課題とする。この発明はまた、上記レーザ装置を複数個、アレイ状に配列したレーザ装置アレイの実現を課題とする。
この発明のレーザ発振方法は「レーザ媒質となる元素を添加したコアと、レーザ媒質となる元素を含まないクラッドからなるレーザ結晶と、このレーザ結晶を挟むように配置された共振器面とを有するレーザ共振器のレーザ結晶に、半導体レーザまたは発光ダイオードからなる励起光源から射出した励起光を、励起光学系を介して入射させてレーザ結晶を励起するレーザ発振方法」であって、以下の点を特徴とする(請求項1)。
すなわち、励起光源から射出した励起光のうち「レーザ結晶の励起に寄与しない波長の光」を分光手段により励起光学系の光路から分離し、分離された光の周波数を「時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質で構成されるデバイス」によりシフトして「レーザ結晶の励起に寄与する光」とし、レーザ結晶へ入射させる。
この発明のレーザ装置は、請求項1記載のレーザ発振方法を実施する装置であって、レーザ共振器と、励起光源と、第1励起光学系および第2励起光学系と、分光手段と、周波数シフト手段とを有する。
「レーザ共振器」は、レーザ結晶と共振器面とを有する。
「レーザ結晶」は、コアとクラッドとからなり、コアには「レーザ媒質となる元素」が添加されるが、クラッドは「レーザ媒質となる元素」を含まない。
「共振器面」は、レーザ結晶を挟むように配置される。共振器面は、レーザ結晶の対向する端面に形成された反射膜および反射透過膜であることができる。
「励起光源」は、レーザ結晶を励起させる励起光を放射する光源であり、具体的には半導体レーザや発光ダイオード(LED)が「発光源」として用いられる。半導体レーザや発光ダイオードは、その発光部がアレイ配列した所謂「半導体レーザアレイ」や「発光ダイオードアレイ」であることができる。
「第1励起光学系」は、励起光源から射出した励起光をレーザ結晶へ入射させる光学系である。
「分光手段」は、励起光源から射出した励起光のうち「レーザ結晶の励起に寄与しない波長成分の光」を第1励起光学系の光路から分離する手段である。
「周波数シフト手段」は、分光手段により分離された光の周波数をシフトさせ、レーザ結晶の励起に寄与する光とする手段であり、時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイスである。
「第2励起光学系」は、周波数シフト手段により周波数をシフトされた光をレーザ結晶へ入射させる光学系である。
請求項2記載のレーザ装置における分光手段としては、分光プリズムを用いることもできるし(請求項3)、「スーパープリズム効果をもつフォトニック結晶を用いたもの」を用いることもできる(請求項4)。
請求項2〜4の任意の1に記載のレーザ装置における「時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイス」は、「微小な球体が液体中にランダムに配置され、熱による球体のゆらぎで時間的・空間的なゆらぎを起こすように構成され、時間的・空間的なゆらぎを起こすための熱を制御することによりシフト量を調整するもの」であることができる(請求項5)。
この発明の「レーザ装置アレイ」は、請求項2〜5の任意の1に記載のレーザ装置を複数個、アレイ状に配列してなる(請求項6)。請求項6記載のレーザ装置アレイにおける「アレイ状に配列された複数個のレーザ装置の2以上」は、レーザ光射出側の共振器面を構成する反射透過面の「分光透過率のピーク波長」の異なるものであることができる(請求項7)。
この場合、アレイを構成するレーザ装置が2以上にグループ分けされ、同一グループに属するレーザ装置は「レーザ光射出側の共振器面を構成する反射透過面の分光反射率が同一」であり、異なるグループに属するレーザ装置は「レーザ光射出側の共振器面を構成する反射透過面の分光透過率のピーク波長が相互に異なる」ようにしてもよいし、請求項8記載のレーザ装置アレイのように「アレイ状に配列された複数個のレーザ装置のそれぞれが、レーザ光射出側の共振器面を構成する反射透過面の分光透過率のピーク波長の異なるもの」であるようにしてもよい(請求項8)。上述のグループ分けにおける「グループ」は「単一のレーザ装置を含む」ものも含まれることを付記しておく。なお、請求項7、8のレーザ装置アレイとも、レーザ結晶を挟む共振器面のうち、レーザ光射出側と逆の側の共振器面の分光反射率は「射出させるレーザ光の波長に対して100%」とする。
請求項7または8記載のレーザ装置アレイにおける「複数個のレーザ装置」は、同一基板上にアレイ配列されていることが好ましい(請求項9)が、もちろん、別個の基板に1以上のレーザ装置を配設したものをアレイ配列してレーザ装置アレイを構成してもよい。
非特許文献1、2に示されたように「時間的・空間的にゆらぎをもつ散乱媒質(媒質の応答を記述する誘電分極率が、空間位置と時間に関するランダム関数となるような媒質を謂う。)」に光を入射させて散乱させると、散乱された光のスペクトルは一般に「入射光のスペクトル」とは異なる。
即ち、入射光はこの散乱媒質との相互作用の過程で時間的ゆらぎと空間的ゆらぎの作用を受ける。単色光が「時間的ゆらぎ」をもった散乱媒質に入射すると、散乱媒質を構成する微小要素の相対運動に起因して「散乱光のスペクトル」は幅をもった分布となる。この「幅の広がったスペクトルの光」が散乱媒質の「空間的ゆらぎ」と相互作用すると「スペクトルのピーク波長」が偏移する現象がある。この発明では、周波数シフト手段に、この現象を利用する。
この発明のレーザ発振方法では、レーザ結晶に入射される励起光のうち「レーザ結晶の励起に寄与しない波長の光」を分光手段により励起光学系の光路から分離し、分離された光の周波数をシフトして「レーザ結晶の励起に寄与する光」としてレーザ結晶に入射させるので、励起光源から放射される励起光における「レーザ結晶の励起に寄与する成分」が増大し、レーザ結晶の発振効率を向上させることができる。従って、この方法を実施するレーザ装置やこれをアレイ配列したレーザ装置アレイでは、レーザ装置における発振効率がよく、発振レーザ光の強度を有効に強くすることができる。
以下、発明の実施の形態を具体的な実施例により説明する。
図1に即して実施例1を説明する。
図1(a)は、実施例1のレーザ装置の上面図である。符号10はレーザ装置、符号11はベース基板、符号13はサブマウント、符号15は半導体レーザアレイ、符号17、19はコリメートレンズを構成するレンズ、符号21は分光プリズム、符号23は集光レンズ、符号25はサブマウント、符号27はレーザ結晶、符号29は周波数シフト手段、符号31は反射鏡をそれぞれ示す。
半導体レーザアレイ15は「励起光源」であり、ベース基板11上に設けられたサブマウント13上に設けられている。半導体レーザアレイ15は、中心波長が808nmである19個の半導体レーザ発光部が、図1(a)の上下方向に1列に配列したものである。これら19個の半導体レーザ発光部は一括駆動され、その個々から発散性のレーザ光を励起光として放射する。
放射されるレーザ光の発散角は、図1(a)において図面に直交する方向において大きい。各半導体レーザ発光部から放射されたレーザ光はレンズ17に入射する。レンズ17は、シリンダレンズであってベース基板11上に設けられ、図1(a)の図面に直交する方向にのみ正のパワーを持ち、この方向において、入射レーザ光を平行光束化する。
レンズ19は、図1(a)の図面に直交する方向を母線方向とするシリンダレンズを複数個、図の上下方向にアレイ配列して一体化したシリンダレンズアレイであってベース基板11上に設けられ、個々のシリンダレンズごとに、透過光束を図1(a)の上下方向において平行光束化する。
このようにして、レンズ19から、そのシリンダレンズアレイごとに平行光束化されたレーザ光が射出する。前述の如く、個々の半導体レーザ発光部から放射されるレーザ光の発散角は、図1(a)の図面に直交する方向において大きいので、レンズ17は「焦点距離の短いシリンダレンズ」とし、図1(a)の上下方向においては各レーザ光の発散角が小さいので、レンズ19においてアレイ配列されたシリンダレンズは焦点距離の長いものとしている。そして、レンズ19のシリンダレンズアレイの各シリンダレンズにより平行光束となった励起光の光束断面が「略円形状」となるように、レンズ17、19の焦点距離を調整している。
レンズ19から複数の平行光束として射出した「励起光」は、続いて分光プリズム21に入射する。分光プリズム21はベース基板11上に設けられ、励起光を透過させるとともに、励起光の光路を曲げ、周波数分布に従って分光する。
図1(a)において、符号LEで示す励起光束は、分光プリズム21により光路を曲げられた光束のうち「レーザ結晶の励起に寄与する波長成分(808nm近傍の波長領域)の光束」であり、この励起光束LEは集光レンズ23に入射する。集光レンズ23はベース基板11に設けられ、入射してくる励起光束LEを集光させ、励起光としてレーザ結晶27に照射する。
レーザ結晶27は、断面矩形状のコア27Aと、これを囲繞する断面矩形状のクラッド27Bとからなり、ベース基板11に設けられたサブマウント25上に設けられている。
図1(b)は、半導体レーザアレイ15からレーザ結晶27に至る励起光の光路を、説明図的に示す図である。
サブマウント25上に設けられたレーザ結晶27は、ベース基板11の面に直交する方向から見ると、図1(a)に示すように矩形形状であり、中心部のコア27Aは「レーザ媒質となる元素」を添加され、コア27Aを囲繞するクラッド27Bは「レーザ媒質となる元素」を含まない。コア27Aの部分は「NdをドープしたYAG」で、図1(a)に現れた矩形形状は1辺が0.5mmの正方形形状、高さ(図1(b)における上下方向の高さ)は1mmである。
クラッド27Bの部分は、セラミックスYAGで形成され、図1(a)に現れた矩形形状は1辺が1mmの正方形形状、高さ(図1(b)における上下方向の高さ)は1mmである。従って、レーザ結晶27の全体は1辺が1mmの立方体である。レーザ結晶27はレーザ発振する波長が1064nmである。
図1(c)は、レーザ共振器の構造を説明するための図である。上記の如く、レーザ結晶27は「1辺:1mmの立方体形状」であり、サブマウント25に面する側の端面には共振器面27Cが形成され、反対側の端面には共振器面27Dが形成されている。共振器面27Cは「反射率:100%の反射膜」であり、共振器面27Dは「反射率:97%の反射透過膜(前述の反射透過面に相当する。)」であり、これら共振器面27C、27Dはレーザ結晶27の上記端面に、レーザ結晶27を挟むようにコーティングにより形成されている。
図1(b)に示すように、励起光がレーザ結晶27の側面からコア27Aに入射すると、波長:808nm近傍の励起光が、コア27Aに添加された「レーザ媒質となる元素」に吸収されてこの元素を高いエネルギ順位に励起し、励起された元素が「より低いエネルギ準位」に戻るときに波長:1064nmの光を放出する。この光は、共振器面27C、27D間で反射されつつ、レーザ媒質となる元素の励起と誘導放出とを惹起する。このようにしてレーザ発振が生じ、一部が共振器面27Dを透過してレーザ光Lとして取り出される。
図1(a)において、符号LOで示す光は、分光プリズム21により分光され、励起光束LEの光路から分離した光である。この光LOは、励起光として使用される励起光束LEとは異なる周波数(レーザ媒質となる元素に吸収されない周波数)をもち「レーザ結晶27の発振に寄与しない光」である。
すなわち、光LOは、励起光源15から放射された励起光のうちで、レーザ結晶の励起に寄与しない周波数成分の光である。
図1に示す実施例1においては、光LOは周波数シフト手段29に入射する。周波数シフト手段29は「空間的・時間的ゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイス」であり、図1(d)に示すように、透明な直方体状の容器29Aに「透明な液体中に、この液体と屈折率の異なる微小球体を分散によりランダムに配置した分散液29Bを封入した周波数シフト部」と、この周波数シフト部を可調整に加熱する加熱手段29Cとを有し、ベース基板11上に設けられている。
この散乱媒質による周波数シフト量は、「非特許文献2」中の式(19)と式(20)と式(21)の散乱光スペクトルの式から得ることができる。媒質の相関間隔を「σ」とし、媒質の相関時間を「τ」とすると、「散乱媒質の周波数」は、非特許文献2中の上記式(19)と式(21)から、
{(σ/c)2+τ2}/{(σ/c)2cosθ+τ2}}ω0
となる。ここに、「c」は光速、「θ」は散乱角、「ω0」は入射光の周波数である。
光LOを周波数シフト部に入射させ、加熱手段29Cにより分散液29Bを加熱すると、分散液中の微小球体が熱により時間的・空間的にゆらぎを生じ、相関間隔:σと相関時間:τが変化することにより、光LOは「波長をシフトされた光」として周波数シフト手段29から射出する。
たとえば、入射光の周波数:ω0が2.33×1015(波長808nmに対応する。)、散乱角:θが80度の場合、σ=1.2×10−5m、τ=5.0×10−13secでは、シフトされた周波数は「2.32×1015(波長812nmに対応する。)」となり、σ=2.4×10−6m、τ=2.5×10−12secでは、シフトされた周波数は「2.33×1015(波長808.01nmに対応する。)」となる。即ち、相関間隔:σが大きく、相関時間:τが小さいほど「周波数シフト量」は大きくなる。
なお、上記周波数の式は「非特許文献2」中の式(19)の「単一散乱光スペクトル」を元に数値化したが、「非特許文献2」中の式(20)の「多重散乱光スペクトル」では単一散乱光スペクトルよりもシフト量がさらに大きくなる。実際には、単一散乱光と多重散乱光の分離はできず、和となったスペクトルとなる。
このように、波長のシフト量は相関間隔:σと相関時間:τで定まるので、加熱手段29Cによる加熱量を制御することにより周波数のシフト量を調整でき、この調整により、光LOの周波数を「レーザ結晶の励起に寄与する周波数を持った光」に変換することができる。このように「レーザ結晶の励起に寄与する周波数を持った光に変換された光」は、反射鏡31により反射されてレーザ結晶27のコア27Aに照射され、レーザ結晶27の励起に寄与する。
このようにして、励起光源である半導体レーザアレイ15から放射された励起光中に含まれていた「レーザ結晶の励起に寄与しない波長成分の光LO」を励起光の光路から分離し、レーザ結晶の励起に寄与する周波数を持った光に変換してレーザ結晶に照射することにより、発振効率を有効に高めることができる。
なお、ベース基板11の適宜の部位、たとえば裏面側に、ペルチェ素子や空冷ユニットなどの温度制御手段(図示されず)が設けられ、半導体レーザアレイ15やレーザ結晶27の温度制御を行うようになっている。
この実施例1では、上記の如く、レンズ17、19によりコリメートされた励起光は、互いに平行な平行光束がアレイ状に配列しているが、フライアイレンズ等によるインテグレータを用い、アレイ配列した励起光を1つの光束として合成してもよい。励起光を合成処理する光学系としては、上記のものに限らず、特開平7−98402等により公知のレンズ系を使用することもできる。
また、分光プリズム21により分光した光LOを、レンズ等により集光し、あるいはコリメートして周波数シフト手段29に入射させてもよいし、周波数シフト手段29により周波数をシフトされた「レーザ結晶の励起に寄与する光」をレンズ等の集光手段で、レーザ結晶27のコア部に集光させるようにしてもよい。この集光手段として、反射鏡31を凹面鏡として形成してもよい。
図1に示した実施例1のレーザ装置は、レーザ媒質となる元素を添加したコア27Aと、レーザ媒質となる元素を含まないクラッド27Bとからなるレーザ結晶27と、このレーザ結晶を挟むように配置される共振器面27C、27Dとを有するレーザ共振器と、半導体レーザからなる励起光源15と、この励起光源から射出した励起光をレーザ結晶27へ入射させる第1励起光学系17、19、23と、励起光のうち、レーザ結晶の励起に寄与しない波長成分の光LOを第1励起光学系の光路から分離する分光手段21と、この分光手段により分離された光LOの周波数をシフトさせ、レーザ結晶27の励起に寄与する光とする周波数シフト手段29と、この周波数シフト手段により周波数をシフトされた光をレーザ結晶27へ入射させる第2励起光学系31とを有し、周波数シフト手段29が、時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイスである(請求項2)。
また、分光手段21として分光プリズムが用いられている(請求項3)。周波数シフト手段29である「時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイス」は、微小な球体が液体中にランダムに配置され、熱による上記球体のゆらぎで時間的・空間的なゆらぎを起こすように構成され、上記時間的・空間的なゆらぎを起こすための熱を制御することによりシフト量を調整するものである(請求項5)。
図2に即して実施例2を説明する。煩雑を避けるため、混同の恐れが無いと思われるものについては、図1におけるのと同一の符号を付した。これらについての説明は、実施例1における説明を援用する。
図2(a)は、実施例2のレーザ装置の上面図である。符号100はレーザ装置、符号13、25はサブマウント、符号15は励起光源である半導体レーザアレイ、符号17、19はコリメートレンズを構成するレンズ、符号211、212は「縮小光学系」を構成するレンズ、符号213は分光手段、符号23は集光レンズ、符号29A、29Bは周波数シフト手段、符号31A、31Bは反射鏡、符号270はレーザ結晶をそれぞれ示している。これらは同一のベース基板11上に装荷されている。
サブマウント13上に設けられた励起光源である半導体レーザアレイ15は、実施例1で用いられているものと同じものであり、中心波長が808nmである19個の半導体レーザ発光部を図2(a)の上下方向に1列に配列したものである。これら19個の半導体レーザ発光部は一括駆動されてその個々から発散性のレーザ光を励起光として放射する。
半導体レーザアレイ15から放射された励起光は、実施例1と同様、レンズ17、19によるコリメートレンズでコリメートされ、その後「レンズ211、212により構成される縮小光学系」により光束径を縮小されて分光手段213に入射する。
分光手段213は「スーパープリズム効果をもつフォトニック結晶を用いたもの」である。「フォトニック結晶」は、周知の如く、使用波長に対して透明な材料による「2次元周期構造」をもつものである。実施例2においては、TiO2基板に対して「微細な円柱状の中空部」を空間的に2次元の周期的構造として微細加工したものを用いている。
このフォトニック結晶は波長:808nmの光はそのまま直進的に透過させ、波長差:1%の光を50度分光する作用(スーパープリズム効果)を持つ。図2(c)は、分光手段213を説明するための図である。この図において、符号213Aで示す部分が上述の「波長:808nmの光はそのまま直進的に透過させ、波長差:1%の光を50度分光する作用を持つフォトニック結晶」であり、その入射側面と射出側面には「屈折率が徐々に変化」する構造213B、213Cが設けられている。
屈折率が徐々に変化する構造213B、213Cは「光の波面に対して徐々に屈折率が変化するような山型の構造」である。
光束径を縮小された励起光が分光手段213に入射すると「波長:808nm近傍の波長を持ちレーザ結晶270の励起に寄与」する光束LE0は分光手段213を略直進的に透過し、集光レンズ23により集光されつつレーザ結晶270に入射する。
図2(e)に示すようにレーザ結晶270はコア271とクラッド272とからなる。コア271は「NdをドープしたYAG」により構成され「直径:0.5mm、高さ:1mmの円柱状」である。コア271を囲繞するクラッド272は「セラミックスYAG」で形成され、コア271を含む直径:1mm、高さ:1mmの円柱状である。
円柱状のレーザ結晶270の両端面には、図2(d)に示すように、共振器面273、274が形成されている。共振器面273は「レーザ発振する波長:1064nm」に対して反射率:100%の反射膜であり、共振器面274は上記波長に対し反射率:97%の反射透過膜であり、これらはコーティングにより形成されている。
コア271、クラッド272とも材質は、実施例1のレーザ結晶27と同一であるので、光束LE0がレーザ結晶270の側面から入射してコア271に集光すると、808nm近傍の波長領域の光が吸収され、実施例1の場合と同様にレーザ発振して、発振波長:1064nmのレーザ光Lが共振器面274から放射される。
一方、波長:808nmに対して波長差を持つ成分の光LO1、LO2は「レーザ結晶270の励起に寄与しない波長成分の光」であり、分光手段213により分光されて、それぞれ、周波数シフト手段29A、29Bに入射する。
周波数シフト手段29A、29Bは、実施例1において用いられている周波数シフト手段29と同一のものである。周波数シフト手段29A、29Bに入射した光LO1、LO2は、空間的・時間的ゆらぎの作用を受けて周波数がシフトされる。このとき、加熱量を制御することにより、波長が808nmの近傍となるように「周波数シフトされた光」が周波数シフト手段29A、29Bから射出するようにする。
このようにして、周波数シフト手段29A、29Bから射出した光は「レーザ結晶270の励起に寄与する光」として反射鏡31A、31Bにより反射され、レーザ結晶270に照射され「レーザ結晶の励起」に寄与し、発振効率を有効に向上させる。
実施例2における周波数シフト手段29A、29B、反射鏡31A、31Bは、縮小光学系を構成するレンズ211、212および集光レンズ23の共通光軸に対して対称的に配置されている。
実施例2では、上記の如く、レンズ17、19によりコリメートされた励起光は、互いに平行な平行光束がアレイ状に配列しているが、フライアイレンズ等によるインテグレータを用い、アレイ配列した励起光を1つの光束として合成したのち、縮小光学系に入射させてもよく、励起光を合成処理する光学系としては、上記のものに限らず、特開平7−98402等により公知のレンズ系を使用することもできる。
また、分光手段213により分光した光LO1、LO2を、レンズ等により集光し、あるいはコリメートして周波数シフト手段29A、29Bに入射させてもよいし、周波数シフト手段29A、29Bにより周波数をシフトされた「レーザ結晶の励起に寄与する光」をレンズ等の集光手段で、レーザ結晶270のコア部に集光させるようにしてもよい。この集光手段として、反射鏡31A、31Bを凹面鏡として形成してもよい。
実施例1の場合と同様、ベース基板11の適宜の部分、たとえば裏面側に、ペルチェ素子や空冷ユニットなどの温度制御手段(図示されず)が設けられ、半導体レーザアレイ15やレーザ結晶27の温度制御を行うようになっている。
実施例2のレーザ装置は、レーザ媒質となる元素を添加したコア271と、レーザ媒質となる元素を含まないクラッド272とからなるレーザ結晶270と、このレーザ結晶を挟むように配置される共振器面273、274とを有するレーザ共振器と、半導体レーザまたは発光ダイオードからなる励起光源15と、この励起光源から射出した励起光を上記レーザ結晶へ入射させる第1励起光学系17、19、211、212、23と、励起光のうち、レーザ結晶の励起に寄与しない波長成分の光を第1励起光学系の光路から分離する分光手段213と、この分光手段により分離された光の周波数をシフトさせ、レーザ結晶270の励起に寄与する光とする周波数シフト手段29A、29Bと、この周波数シフト手段により周波数をシフトされた光をレーザ結晶270へ入射させる第2励起光学系31A、31Bとを有し、周波数シフト手段29A、29Bが、時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイスである(請求項2)。
また、分光手段213は「スーパープリズム効果をもつフォトニック結晶213Aを用いたもの」であり(請求項4)、時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質を有するデバイスである周波数シフト手段29A、29Bは、微小な球体が液体中にランダムに配置され、熱による球体のゆらぎで時間的・空間的なゆらぎを起こすように構成され、時間的・空間的なゆらぎを起こすための熱を制御することによりシフト量を調整するものである(請求項5)。
そして、実施例1、2のレーザ装置によれば、レーザ媒質となる元素を添加したコアと、レーザ媒質となる元素を含まないクラッドとからなるレーザ結晶と、このレーザ結晶を挟むように配置された共振器面とを有するレーザ共振器のレーザ結晶に、半導体レーザからなる励起光源から射出した励起光を、励起光学系を介して入射させてレーザ結晶を励起させるレーザ発振方法において、励起光のうち、レーザ結晶の発振に寄与しない波長の光を、分光手段により励起光学系の光路から分離し、分離された光の周波数を、時間的・空間的にゆらぎを持つ散乱媒質で構成されるデバイスによりシフトしてレーザ結晶の励起に寄与する光とし、レーザ結晶へ入射させるレーザ発振方法(請求項1)が実施される。
図3を参照して実施例3を説明する。
実施例3は、レーザ装置アレイの実施例であり、図3はレーザ装置アレイの上面図である。実施例3のレーザ装置アレイ300は、同一のベース基板110上に、3個のレーザ装置301、302、303をアレイ配列したものである。
個々のレーザ装置は、実施例2に即して説明したのと同じタイプのものであるので、各部については、レーザ装置301を代表して、図2におけるのと同一の符号を付し、これらについての説明は、実施例2の説明を援用する。
サブマウント13、25、励起光源である半導体レーザアレイ15、コリメートレンズを構成するレンズ17、19、縮小光学系を構成するレンズ211、212、分光手段213、集光レンズ23、周波数シフト手段29A、29B、反射鏡31A、31Bは、レーザ装置301、302、303とも、実施例2において用いられているものと同一のものである。
アレイ配列されたレーザ装置301、302、303において、互いに異なるのはレーザ共振器である。これら互いに異なるレーザ共振器を符号301A、302A、303Aにより表す。
レーザ共振器301A、302A、303Aは、実施例2のものと同じく、直径:0.5mm、高さ:1mmの円柱状のコアと、これを囲繞する直径:1mm、高さ:1mmのクラッドとからなるレーザ結晶と、その両端面に反射膜・反射透過膜として形成された共振器面とにより構成される。
これらレーザ結晶と共振器面のうち、レーザ結晶は「レーザ共振器301A、302A、303Aにおけるものとも同一のもの」である。すなわち、レーザ共振器301A、302A、303Aに共通して用いられているレーザ結晶は、コアが「NdをドープしたGdVO4」、クラッドが「GdVO4」で構成されている。
このレーザ結晶は、808nmの励起光を吸収して「912nm、1063nm、1346nmの波長を持つ3つの基本波のレーザ光」を発振できるものである。
そこで、レーザ共振器301Aのレーザ光射出側の共振器面は「912nmの波長に対して反射率:97%、波長:1063nm、1346nmに対して反射率:100%の反射透過面」とし、反対側の共振器面は「波長:912nm、1063nm、1346nmに対して反射率:100%の反射面」とし、レーザ共振器302Aのレーザ光射出側の共振器面は「1063nmの波長に対して反射率:97%、波長:912nm、1346nmに対して反射率:100%の反射透過面」とし、反対側の共振器面は「波長:912nm、1063nm、1346nmに対して反射率:100%の反射面」とし、レーザ共振器303Aのレーザ光射出側の共振器面は「1346nmの波長に対して反射率:97%、波長:1063nm、912nmに対して反射率:100%の反射透過面」とし、反対側の共振器面は「波長:912nm、1063nm、1346nmに対して反射率:100%の反射面」とする。
このようにすると、レーザ共振器301Aからは波長:912nmのレーザ光を取り出すことができ、レーザ共振器302Aからは波長:1063nmのレーザ光を取り出すことができ、レーザ共振器303Aからは波長:1346nmのレーザ光を取り出すことができる。
各レーザ装置301、302、303とも、実施例2のレーザ装置と同様に、周波数シフト手段により「励起光源から放射される励起光のうちで、レーザ結晶の励起に寄与しない波長成分の光を分光手段で分離し、周波数シフト手段で波長をシフトさせて、レーザ結晶の励起に寄与できる光としてレーザ結晶に照射する」ので、それぞれのレーザ装置における発振効率を有効に高めることができる。
ベース基板110の適宜の部分、たとえば裏面側に、ペルチェ素子や空冷ユニットなどの温度制御手段(図示されず)が設けられ、半導体レーザアレイ15やレーザ結晶27の温度制御を行うようになっている。
図3のレーザ装置アレイは、請求項2〜5の任意の1に記載のレーザ装置を複数個、アレイ状に配列してなるレーザ装置アレイ(請求項6)であり、アレイ状に配列された複数個のレーザ装置301、302、303の2以上が、レーザ光射出側の共振器面を構成する反射透過面の分光透過率のピーク波長(912nm、1063nm、1346nm)の異なるものであり(請求項7)、アレイ状に配列された複数個のレーザ装置のそれぞれが、レーザ光射出側の共振器面を構成する反射透過面の分光透過率のピーク波長の異なるものである(請求項8)。そして、複数個のレーザ装置301、302、303が、同一基板110上にアレイ配列されている(請求項9)。
もちろん、アレイ配列するレーザ装置として実施例1の装置を用いてもよく、あるいは、実施例1、2のレーザ装置を混合してアレイ配列してもよい。また、アレイ配列するレーザ装置の配列数は3個に限らず、任意である。
実施例1のレーザ装置を説明するための図である。
実施例2のレーザ装置を説明するための図である。
実施例3のレーザ装置アレイを説明するための図である。
符号の説明
15 励起光源である半導体レーザアレイ
17、19 コリメートレンズを構成するシリンダレンズ
21 分光手段としての分光プリズム
23 集光レンズ
27 レーザ結晶
27A コア
27B クラッド
29 周波数シフト手段
31 反射鏡