本発明は、ばね上部とばね下部との相対移動に対する抵抗力を発生可能な電磁式ショックアブソーバに関する。
近年では、電磁式モータの力に依拠して、ばね上部とばね下部との相対移動に対して力を発生させる電磁式ショックアブソーバが検討されており、例えば、下記特許文献に記載の電磁式ショックアブソーバが存在する。その電磁式ショックアブソーバを含んで構成される車両用の電磁式サスペンション装置は、いわゆるスカイフック理論に基づく振動減衰特性を容易に実現できる等の利点から、高性能な装置として期待されている。
特開2005−264992号公報
特開2005−256927号公報
特開2006−143146号公報
上記特許文献に記載の電磁式ショックアブソーバ(以下、単に「アブソーバ」という場合がある)は、電磁式モータの回転力を、ばね上部とばね下部との相対移動に対する抵抗力に変換するためにねじ機構が採用されている。特許文献2,3に記載のアブソーバは、電磁式モータがねじロッドに回転力を付与可能な構造とされているのに対して、特許文献1に記載のアブソーバは、ナットに回転力を付与可能な構造とされている。ナットを回転させる構造のアブソーバの場合、例えば、中空形状のモータ軸を採用してねじロッドを貫通させる構造とすること等によって、アブソーバの軸線方向のコンパクト化、あるいは、ストローク範囲の増加を図ることが可能であり、そのような観点からすれば、ねじロッドが回転する構造のアブソーバに比較して、ナットを回転させる構造のアブソーバの方が望ましい。そのようなナットを回転させる構造のアブソーバは、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、その電磁式ショックアブソーバの実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い電磁式ショックアブソーバを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の電磁式ショックアブソーバは、ばね上部とばね下部との一方に連結されるねじロッドと、(a)ばね上部とばね下部との他方に連結される躯体と(b)ねじロッドをそれの軸線回りの回転を禁止しつつ軸線方向の移動を許容する状態で保持するロッド保持具と(c)躯体に回転可能に支持されたナットと(d)ナットに連結されたモータ軸を有してナットに回転力を付与可能な電磁式モータとを含んで構成されるナット所有ユニットとを備え、設定された大きさを超える回転力がねじロッドとナットとの間に作用した場合に、ナットのモータ軸に対する回転と、ロッド保持具の躯体に対するねじロッドの軸線回りの回転との少なくとも一方を許容することを特徴とする。
本発明の電磁式ショックアブソーバによれば、外部から大きな力の入力があった場合でも、ねじロッドとナットとの間に作用する力を設定された大きさに制限できるため、ねじロッドとナットとの耐久性が向上し、信頼性の高い電磁式ショックアブソーバが実現する。そのような利点を有することで、本発明の電磁式ショックアブソーバは実用性の高いものとなる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(3)項の技術的特徴による限定を加えたものが請求項2に、請求項1または請求項2に(13)項の技術的特徴による限定を加えたものが請求項3に、請求項3に(14)項の技術的特徴による限定を加えたものが請求項4に、請求項4に(15)項の技術的特徴による限定を加えたものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれかに(6)項の技術的特徴による限定を加えたものが請求項6に、請求項1ないし請求項6のいずれかに(8)項および(9)項の技術的特徴による限定を加えたものが請求項7に、それぞれ相当する。
(1)ばね上部とばね下部との一方に連結され、雄ねじが形成されたねじロッドと、
(a)ばね上部とばね下部との他方に連結される躯体と、(b)その躯体に支持され、前記ねじロッドを、それの軸線回りの回転を禁止しつつ軸線方向の移動を許容する状態で保持するロッド保持具と、(c)雌ねじが形成されて前記ねじロッドと螺合するとともに、前記躯体に回転可能に支持されたナットと、(d)そのナットに連結されたモータ軸を有し、そのナットに回転力を付与可能な電磁式モータとを含んで構成されるナット所有ユニットと
を備え、ばね上部とばね下部との接近・離間に応じて、前記ナットの回転を伴って前記ねじロッドと前記ナット所有ユニットとが相対移動し、前記電磁式モータが前記ナットに付与する回転力によって前記ねじロッドと前記ナット所有ユニットとの相対移動に対する抵抗力を発生可能に構成された電磁式ショックアブソーバであって、
前記ナット所有ユニットが、
設定された大きさを超える回転力が前記ねじロッドと前記ナットとの間に作用した場合に、前記ナットの前記モータ軸に対する回転と、前記ロッド保持具の前記躯体に対する前記ねじロッドの軸線回りの回転との少なくとも一方を許容する相対回転許容機構を有することを特徴とする電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様では、ねじロッドとナットとを含んで構成されるねじ機構が採用され、電磁式モータが、モータ軸に連結されたナットに回転力を付与可能な構造の電磁式ショックアブソーバを前提としている。さらに、本項に記載の電磁式ショックアブソーバは、上記ばね上部とばね下部との他方に連結されてねじ機構のナットを含んで構成されるナット所有ユニットが、ばね上部とばね下部との一方に連結されたねじロッドを、それの軸線回りの回転を禁止しつつ軸線方向の移動を許容する状態で保持するロッド保持具を有するものとされている。
上記のような構造の電磁式ショックアブソーバにおいて、例えば、路面の凹凸等によりばね下部が急に動作させられて外部から大きな力の入力があった場合には、ねじロッドとナット所有ユニットとが高速で相対移動することになるが、ねじロッドの軸線方向の移動に対して、モータ軸に連結されたナットの回転が追従できず、ねじロッドとナットとの間には大きな力が作用してしまうことになる。本項の態様によれば、相対回転許容機構によって、ねじロッドとナットとの間に設定された大きさを超える回転力が作用した場合に、ナットがモータ軸に対して回転させられる、あるいは、ロッド保持具が躯体に対して回転させられることでねじロッドが回転させられることになる。つまり、本項の態様によれば、相対回転許容機構によって、ねじ機構に作用する力を制限することが可能であり、ねじ機構の耐久性を向上させ、信頼性の高い電磁式ショックアブソーバが実現されることとなる。
本項の態様における「相対回転許容機構」は、その具体的な構造が特に限定されるものではなく、例えば、外部入力の作用によって相対回転を許容する構造とされたものであってもよく、また、制御によって作動して相対回転を許容する構造とされたものであってもよい。具体的には、前者は、2部材間に生じる摩擦力等のような2部材の相対回転を禁止する力が、外部からの入力に依拠して2部材間に作用する力に負けて、2部材の相対回転を許容するような構造を採用可能である。また、後者は、電磁式クラッチ等のような機構を備えさせてそれを制御することにより2部材の相対回転を許容する構造を採用可能である。なお、相対回転許容機構を制御によって作動させるものとすれば、そのための駆動回路等も必要となることから、シンプルな電磁式ショックアブソーバを実現するという観点からすれば、相対回転許容機構は、外部入力の作用によって相対回転を許容する構造のものの方が望ましい。
また、先に述べたねじロッドの軸線方向の移動に対するナットの回転の追従性を考慮すれば、モータ軸に連結されてモータ軸とともに回転する部分の重量は、可及的に小さい方が望ましい。そのため、相対回転許容機構が、例えば、後に説明する2部材の間に介装する摩擦連結部材等の何らかの部材を有する場合を考えれば、ナットのモータ軸に対する回転を許容する構造の相対回転許容機構の場合、その部材の重量だけ、モータ軸とともに回転する部分の重量が大きくなる。つまり、上記の追従性という観点からすれば、相対回転許容機構は、ナットのモータ軸に対する回転を許容する構造のものに比較して、ロッド保持具の躯体に対する回転を許容する構造のものの方が望ましい。
本項の態様における「ロッド保持具」は、それの具体的な構造が特に限定されるものではない。例えば、ロッド保持具にキーを設け、ねじロッドに軸線方向に延びるキー溝(ガイド溝)を設け、それらが嵌合するような構造とされてもよく、また、後に説明するように、ロッド保持具とねじロッドとがスプライン嵌合する構造とされてもよい。ちなみに、ロッド保持具は、ばね上部とばね下部との他方に連結されて、ばね上部とばね下部との一方に連結されたねじロッドの回転を禁止するものであるため、ロッド保持具をばね上部とばね下部との一方とナットとの間に設ければ、ねじロッドとナット所有ユニットとの相対移動時にねじロッドがナットから受ける回転力を、ばね上部とばね下部との一方に伝達させないようにすることが可能である。換言すれば、ねじロッドが、ばね上部とばね下部との一方とロッド保持具との間で捩られることを回避することが可能である。
本項の態様の電磁式ショックアブソーバは、単に抵抗力のみを発生可能なものに限定されず、例えば、ばね上部とばね下部とを積極的に相対動作させる推進力や、外部からの入力に対してばね上部とばね下部とを相対動作させないようにする力をも発生可能なものとされてもよい。その場合、本項の態様の電磁式ショックアブソーバは、ばね上振動に対する減衰力を発生させるいわゆるスカイフックダンパ理論に基づいた制御や、車体のロールやピッチの抑制を目的とした車体の姿勢制御等を実行することも可能である。
ちなみに、本明細書において「連結」という文言は、直接的に接続されることのみを意味するものではなく、何らかの部品,部材,ユニット等を介し、間接的に接続されることをも意味する。例えば、ねじロッド,ナットがばね上部,ばね下部と連結されるとは、それらが直接的に連結される場合の他、それらの間にスプリング,液圧式ダンパ等を介して連結されるような場合も含まれる。
(2)前記ねじロッドが、前記ばね上部とばね下部との一方に対する回転が許容される状態で連結された(1)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
相対回転許容機構によってロッド保持具の躯体に対する回転が許容される場合には、ねじロッドがロッド保持具によって保持されている箇所において回転させられることになるが、本項に記載の態様では、ねじロッドがばね上部とばね下部との一方に回転可能とされているため、ねじロッドが、ばね上部とばね下部との一方に連結される箇所とロッド保持具との間で捩られることがない。そのため、相対回転許容機構によってロッド保持具の躯体に対する回転が許容される場合には、本項の態様が有効である。換言すれば、相対回転許容機構によってロッド保持具の躯体に対する回転が許容される場合には、ねじロッドのばね上部とばね下部との一方に対する円滑な回転を許容する機構(以下、「ロッド回転円滑化機構」という場合がある)を設けることが望ましい。
(3)前記相対回転許容機構が、
2部材の間に介装されて摩擦力によってそれら2部材の相対動作を禁止するとともにその摩擦力に打ち勝つ力によるその相対動作を許容する摩擦連結部材を有し、その摩擦連結部材の機能を利用して前記ナットの前記モータ軸に対する回転と、前記ロッド保持具の前記躯体に対する前記ねじロッドの軸線回りの回転との少なくとも一方を許容する構造とされた(1)項または(2)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、相対回転許容機構を外部入力の作用によって2部材の相対回転が許容される構造の一種を採用した態様である。詳しくは、設定された大きさの回転力が、摩擦連結部材によって生じる摩擦力に応じた大きさの力とされ、その摩擦力に応じた力より大きな回転力がねじロッドとナットとの間に作用した場合に、ナットがモータ軸に対して回転する、あるいは、ロッド保持具が躯体に対して回転する構造である。なお、本項にいう「摩擦連結部材」は、例えば、トレランスリングや、弾性力に依拠して摩擦力を生じさせるゴム製のブッシュ等を採用可能である。本項の態様によれば、比較的シンプルで、コンパクトな構造の電磁式ショックアブソーバを実現することができる。
(4)前記ナット所有ユニットが、前記躯体に回転可能に支持されて前記ナットを保持するナット保持具を有し、前記モータ軸がそのナット保持具を介して前記ナットに連結される構造とされ、
前記相対回転許容機構が、前記ナットの前記ナット保持具に対する回転を許容することで、前記ナットの前記モータ軸に対する回転を許容する構造とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、ナットとモータ軸との連結構造を具体的に限定した態様であり、本項の態様によれば、ナットのモータ軸に対する回転を許容する構造を簡便に構成することが可能である。
(5)前記ナット保持具が、前記ナットを一端部の内側に収容して保持するとともに前記ねじロッドを貫通させる中空のものとされ、
そのナット保持具が前記モータ軸として機能するものとされた(4)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、ナット保持具とモータ軸とが一部品化された態様である。本項に記載の態様において、電磁式モータは、中空形状のモータ軸を有するものと考えることが可能であり、そのモータ軸の内部にナットを収容させるとともにねじロッドを貫通させた構造とされていることから、電磁式ショックアブソーバの軸線方向におけるコンパクト化を図ることが可能となる。
(6)前記ねじロッドが、前記ばね上部とばね下部との一方としてのばね下部に連結され、前記ナット所有ユニットの前記躯体が、前記ばね上部とばね下部との他方としてのばね上部に連結される(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項の態様によれば、電磁式モータがばね上部に支持されることから、ばね下部から伝達される振動や衝撃の電磁モータへの伝達を緩和することが可能となる。
(7)前記ねじロッドが、外周面に軸線方向に延びるスプライン溝が形成されたものであり、
前記ロッド保持具が、そのねじロッドと、それの軸線方向の移動を許容する状態でスプライン嵌合するものである(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項の態様によれば、ねじロッドの回転禁止と軸線方向の移動の許容とを、容易に実現することが可能である。例えば、ボールスプライン機構を採用すれば、ねじロッドとロッド保持具との相対移動が、滑らかなものとなる。
(8)当該電磁式ショックアブソーバが、
前記ばね上部とばね下部との一方と前記ねじロッドとを弾性的に連結するスプリングを備えた(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項の態様における「スプリング」は、サスペンション装置が一般的に備えるスプリングであるばね上部とばね下部とを弾性的に連結するメインスプリングとは異なるものである。本項の態様のスプリングは、例えば、主として、比較的周波数の高い振動に対処することを目的として設けることが可能である。本項の態様によれば、スプリングによって、ばね下部から入力されるばね上部へ伝達される衝撃を緩和することが可能である。また、先に述べたねじロッドをばね下部に連結する態様を採用し、ねじロッドとばね下部とをスプリングによって連結するようにすれば、モータに伝達される衝撃が緩和されるため、信頼性の高い電磁式ショックアブソーバが実現する。なお、スプリングには、どのような構造のものをも採用可能であるが、アブソーバが後に説明する液圧式ダンパをも備える場合には、例えば、コイルスプリングを採用し、シリンダ装置とされた液圧式ダンパがコイルスプリングを貫通して(例えば、コイルスプリングの中に)配置されるように構成すれば、コンパクトな電磁式ショックアブソーバが実現する。
(9)当該電磁式ショックアブソーバが、
前記スプリングと並設されて前記ばね上部とばね下部との一方と前記ねじロッドとの相対変位に対する抵抗力を発生させる液圧式ダンパを備えた(8)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
(10)前記液圧式ダンパが、
前記ばね上部とばね下部との一方と前記ねじロッドとの一方に連結され、内部に作動液を収容するハウジングと、
そのハウジング内を2つの液室に区画するとともにそのハウジング内を移動可能なピストンと、
そのピストンの移動に伴う前記2つの液室間の作動液の流通を、その流通に対して抵抗を付与する状態で許容する作動液流通許容機構と、
一端部が、前記ピストンに連結され、他端部が、前記ハウジングから延び出して前記ばね上部とばね下部との他方と前記ねじロッドとの他方に連結されるピストンロッドと
を有する(9)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
上記2つの項に記載の「液圧式ダンパ」は、スプリングを補助する目的として、つまり、主として、比較的周波数の高い振動を減衰させる目的として設けることが可能である。本項の態様によれば、ばね下共振のような高周波振動をより効果的に減衰させることが可能となる。なお、液圧式ダンパは、その構造が特に限定されるものではないが、例えば、後者の態様のように、ハウジング,ピストン等を備えたシリンダ装置としての構造を有するものとすることができる。また、後者の態様における「作動液流通許容機構」は、例えば、2つの作動液室を区画するピストンに設けられたオリフィス,絞り弁等によって構成することが可能である。
なお、アブソーバが、シリンダ装置とされた液圧式ダンパを備え、ねじロッドが液圧式ダンパのハウジングとピストンロッドとの一方に連結される構造とされた場合には、ねじロッドを含んで構成されるユニットが、前記ばね上部とばね下部との一方に連結されたハウジングとピストンロッドとの他方(前記ばね上部とばね下部との一方に連結されたもの)に対して回転が許容される構造であり、つまり、後者の態様は、先に述べたねじロッドがばね上部とばね下部との一方に対する回転が許容される状態で連結された態様の一態様となっている。
(11)前記ねじロッドが、前記ハウジングと前記ピストンロッドとの一方に同軸的に連結された(10)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様によれば、液圧式ダンパの軸線方向(概ねばね上部とばね下部とを繋ぐ直線の延びる方向)と交差する方向への突出を可及的に小さくすること、言い換えれば、径方向の寸法を可及的に小さくすることができ、比較的コンパクトな電磁式ショックアブソーバが実現可能となる。
(12)前記ねじロッドが、前記ハウジングと前記ピストンロッドとの一方に回転可能に連結された(10)項または(11)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、ねじロッドが液圧式ダンパを介してばね上部とばね下部との一方に連結される態様において、先に述べたねじロッドの円滑な回転を許容するロッド回転円滑化機構を設けた態様である。さらに、本項の態様は、相対回転許容機構によってロッド保持具の躯体に対する回転が許容され、ねじロッドが回転した場合であっても、ねじロッドに連結されたハウジングあるいはピストンロッドは回転しない構造となっている。つまり、本項の態様によれば、液圧式ダンパのハウジングとピストンロッドとの相対回転,ハウジングとピストンとの相対回転を回避することができ、液室の液密を確保するためのシール部材等への影響を抑制あるいは防止することが可能である。
(13)前記相対回転許容機構が、
設定された大きさを超える回転力が前記ねじロッドと前記ナットとの間に作用した場合に、前記ロッド保持具の前記躯体に対する前記ねじロッドの軸線回りの回転を許容することで、前記ねじロッドの回転を許容するロッド回転許容機構を有する(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、少なくともロッド保持具の躯体に対する回転を許容する構造とされた態様である。本項の態様における「ロッド回転許容機構」は、相対回転許容機構の説明で述べたように、外部入力の作用によってロッド保持具の躯体に対する回転を許容する構造とされたものであってもよく、また、電磁式クラッチ等のような機構を備えさせてそれを制御することにより回転を許容する構造とされたものであってもよい。
(14)前記ロッド回転許容機構が、
前記ロッド保持具の前記躯体に対する回転が摩擦力によって禁止させられ、その摩擦力に打ち勝つ力をそれらロッド保持具と躯体との間に生じさせる回転力が、前記ねじロッドと前記ナットとの間に作用した場合に、前記ロッド保持具の前記躯体に対する回転を許容する構造とされた(13)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、ロッド回転許容機構を外部入力の作用によってロッド保持具の躯体に対する回転を許容する構造のものに限定した態様であり、上述したように、比較的シンプルな電磁式ショックアブソーバを実現可能となる。
(15)前記ロッド保持具と前記躯体との間に弾性体が変形状態で介装され、その弾性体の弾性力によって前記ロッド保持具と前記躯体との間に摩擦力を生じさせ、その摩擦力によって前記ロッド保持具の前記躯体に対する回転を禁止するとともに、その摩擦力に打ち勝つ力によってその回転が許容される構造とされることで、前記ロッド回転許容機構が構成された(14)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
本項に記載の態様は、ロッド回転許容機構を具体的なものに限定した態様であり、弾性力に依拠してロッド保持具と躯体との間に摩擦力を生じさせる弾性体を追加するだけで、ロッド回転許容機構が構成されるため、本項の態様によれば、コンパクトな構造の電磁式ショックアブソーバが実現する。また、本項の態様は、ロッド保持具と躯体との間に設けられた弾性体によって、ロッド保持具の軸線方向のずれが、ある程度許容される。そのため、ねじロッドに対するロッド保持具の軸線方向のずれが吸収され、ねじロッドの回転を禁止しつつ移動を許容するロッド保持具の機構への影響は小さく、信頼性の高い電磁式ショックアブソーバが実現することになる。なお、本項の態様は、先に述べた相対回転許容機構が摩擦連結部材を有する態様の一態様であると考えることも可能であり、本項にいう「弾性体」には、摩擦連結部材と同様に、例えば、トレランスリングやゴム製のブッシュ等を採用可能である。
(16)前記相対回転許容機構が、
設定された大きさを超える回転力が前記ねじロッドと前記ナットとの間に作用した場合に、前記ナットの前記モータ軸に対する回転を許容するナット回転許容機構を有する(1)項ないし(15)項のいずれかに記載の電磁式ショックアブソーバ。
(17)前記ナット回転許容機構が、
前記ナットと前記モータ軸との相対回転が摩擦力によって禁止させられ、その摩擦力に打ち勝つ力をそれらナットとモータ軸との間に生じさせる回転力が、前記ねじロッドと前記ナットとの間に作用した場合に、前記ナットの前記モータ軸に対する回転を許容する構造とされた(16)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
(18)前記ナットと前記モータ軸との間に弾性体が変形状態で介装され、その弾性体の弾性力によって前記ナットと前記モータ軸との間に摩擦力を生じさせ、その摩擦力によってそれらナットとモータ軸との相対回転を禁止するとともにその摩擦力に打ち勝つ力によってその相対回転が許容される構造とされることで、前記ナット回転許容機構が構成された(17)項に記載の電磁式ショックアブソーバ。
上記3つの項に記載の態様は、少なくともナットのモータ軸に対する回転を許容する構造とされた態様である。ナット回転許容機構は、先に述べたロッド回転許容機構と略同様の構造を採用可能であるため、2つ目の項に記載の態様によれば、シンプルな電磁式ショックアブソーバを実現可能であり、3つの項に記載の態様によれば、コンパクトな構造の電磁式ショックアブソーバが実現する。なお、3つ目の項に記載の態様では、ナットとモータ軸との間に設けられた弾性体によって、ナットとモータ軸との間のずれが許容される。そのため、本項の態様によれば、ねじ機構の軸線とモータの軸線とのずれによるねじ機構への影響は小さく、信頼性の高い電磁式ショックアブソーバが実現することになる。
以下、請求可能発明のいくつかの実施例およびその変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
≪第1実施例≫
図1に、請求可能発明の第1実施例である電磁式ショックアブソーバを含んで構成される車両用サスペンション装置10を示す。このサスペンション装置10は、独立懸架式のサスペンション装置であり、車両の前後左右の各車輪毎に、車輪を保持してばね下部の一部分を構成するサスペンションロアアーム12と、車体(タイヤハウジングの上部)に設けられてばね上部の一部分を構成するマウント部14との間に配設されている。本サスペンション装置10は、ショックアブソーバとサスペンションスプリングとが一体化されたものであり、大きくは、ショックアブソーバの主体となるアクチュエータ20と、ショックアブソーバの一構成要素である液圧式ダンパ22と、サスペンションスプリングとしてのエアスプリング24とに区分することができる。
アクチュエータ20は、ねじ溝30が形成された雄ねじ部としてのねじロッド32と、ベアリングボールを保持してねじロッド32と螺合する雌ねじ部としてのナット34とを含んで構成されるボールねじ機構と、動力源としての電磁式モータ36(以下、単に「モータ36」という場合がある)と、それらボールねじ機構およびモータ36を収容する躯体としてのケーシング38とを備えている。そのケーシング38が、外周部において、マウント部14に連結されている。
モータ36は、中空とされたモータ軸40を有しており、そのモータ軸40は、転がり軸受42,44,46によってケーシング38に回転可能に保持されている。モータ軸40の外周部には、周方向に複数の永久磁石48が固定されて配設されており、それらは、モータ36のロータを構成している。永久磁石48に対向するように、複数の極体50(コアにコイルが巻回されたもの)が、ケーシング38の内面に固定されて配設され、それらの極体50の各々がステータ極とされることで、それらはステータを構成している。このような構造とされることで、モータ36は、いわゆるDCブラシレスモータとされているのである。また、モータ軸40の下端部の内側には、ナット34が固定されており、モータ36は、ナット34に回転力を付与することが可能となっている。つまり、モータ軸40は、ケーシング38に回転可能に支持されてナット34を保持するナット保持具としても機能するものとなっている。そして、ねじロッド32が、ナット34と螺合させられて、モータ軸40内から下方に延び出した状態で配設される。
また、ケーシング38は、下端部が概して段付の筒状に形成されたものであり、その外径が小さくされた部分に、上記ナット34と同軸的に、ベアリングボールを保持するロッド保持具としてのロッドホルダ60が連結されている。そのロッドホルダ60とケーシング38との連結構造は、後に詳しく説明するため、ここでの説明はひとまず留保する。一方、ボールねじ機構の構成要素であるねじロッド32には、軸線方向に延びるスプライン溝62も形成されており、ねじロッド32とロッドホルダ60とが、スプライン嵌合できるように構成されている。つまり、アクチュエータ20は、ねじロッド32とロッドホルダ60とを含んで構成されるボールスプライン機構を備えるものとなっているのであり、通常は、そのボールスプライン機構によって、ねじロッド32がケーシング38に対して相対回転不能、かつ、軸線方向に相対移動可能とされている。ねじロッド32は、ケーシング38から下方に延び出して、ダンパ22に連結される。
ダンパ22は、作動液を収容するハウジング70と、そのハウジング70にそれの内部において液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン72と、そのピストン72に下端部が連結されて上端部がハウジング70の上方から延び出すピストンロッド74とを含んで構成されている。ハウジング70は、それの内部が、ピストン72の下側の下室76と上側の上室78とに区画されている。ハウジング70は、それの下端部に設けられたブシュ80を介してロアアーム12に連結されている。一方、ピストンロッド74は、それの上端部において、ねじロッド32の下端部に連結されている。詳しくは、ピストンロッド74の上端部には、浮動部材82が固定されており、その浮動部材82の上面側において、2つの転がり軸受84,86を介してねじロッド32の下端部に連結されている。つまり、ねじロッド32とピストンロッド74とは、同軸的に、かつ、相対回転可能に連結されている。ちなみに、ハウジング70およびピストンロッド74とは、シール88を介して摺接する状態とされており、作動液室の液密は保たれている。
ダンパ22は、ツインチューブ式のショックアブソーバに類似する構造のものとされており、ハウジング70は、外筒90と内筒92とを含んで構成され、それらの間にリザーバ室94が形成されている。なお、上記ピストン72は、その内筒92内に液密かつ摺動可能に嵌合されている。ダンパ22は、ピストン72に設けられた上下方向に貫通する連通路によって、ピストン72の移動に伴う2つの作動液室76,78の間の作動液の流通を許容するとともに、連通路に設けられた絞りによって、2つの作動液室76,78の間の作動液の流通に対する抵抗を付与するものとされている。また、下室76とリザーバ室94との間に設けられたベースバルブ体96によって、それら下室76とリザーバ室94との間の作動液の流通に対する抵抗を付与するものとされている。
ダンパ22のハウジング70には、それの外周部に環状の下部リテーナ100が設けられている。その下部リテーナ100とアクチュエータ20のケーシング38との間には、ケーシング38に上端部が固定されたアウタチューブ102と、そのアウタチューブ102に嵌入されて下端部が下部リテーナ100に固定されたインナチューブ104とを含んで構成されるシリンダ106が設けられている。そして、ピストンロッド74の上端部に固定された浮動部材82が、それに設けられたフランジ部の下面側と下部リテーナ100との間に配設された圧縮コイルスプリング108と、浮動部材82のフランジ部の上面側とインナチューブ104の上端部に形成されたフランジ部(上部リテーナとして機能する)との間に配設された圧縮コイルスプリング110とによって挟持されている。
エアスプリング24は、マウント部14に連結されるチャンバシェル120と、ロアアーム12に連結されるエアピストン筒122と、それらを接続するダイヤフラム124とを含んで構成されている。チャンバシェル120は、防振ゴム126を介してマウント部14に連結されるとともに、防振ゴム128を介してアクチュエータ20のケーシング38に連結される。エアピストン筒122は、シリンダ110を内部に収容した状態で、下端部がシリンダ110のインナチューブ108の外周部に固定されている。ダイヤフラム124が、一端部がチャンバシェル120の下端部に固定され、他端部がエアピストン筒122の上端部に固定されており、それらチャンバシェル120とエアピストン筒122とダイヤフラム124とによって圧力室130が区画形成されている。その圧力室130には、流体としての圧縮エアが封入されている。このような構造から、エアスプリング24の圧縮エアの圧力によって、ロアアーム12とマウント部14、つまり、車輪と車体との一方がそれらの他方を相互に弾性的に支持し合っているのである。なお、詳しい説明は省略するが、本サスペンション装置10は、各エアスプリング24の圧力室130内のエア量を調整することが可能とされており、エア量の調整によって、各エアスプリング24のばね長を変更し、各車輪についてのばね上部とばね下部との間の距離を変化させることが可能とされている。具体的に言えば、圧力室130のエア量を増加させてそれらの間の距離を増大させ、エア量を減少させてそれらの間の距離を減少させることが可能とされている。ちなみに、前述した圧縮コイルスプリング108,110を1つのばねと仮定した場合におけるばね定数が、エアスプリング24のばね定数よりも大きく設定されている。
次に、先の説明において留保しているところのロッドホルダ60とケーシング38との連結構造について、図2をも参照しつつ説明する。図2は、ケーシング38とそれの内部を示す平面断面図(図1におけるA−A断面)である。ロッドホルダ60とケーシング38の内面との間には、摩擦連結部材としてのトレランスリング140が介装されている。そのトレランスリング140は、バネとして機能する波形形状をした部分を有する筒状の部品でありケーシング38の内側に嵌められるものであって、その波形形状をした部分の弾性力によってケーシング38とロッドホルダ60とを連結するものである。また、トレランスリング140は、その弾性力によって生じる摩擦力によって、ケーシング38に対するロッドホルダ60の回転を禁止している。
以上のような構造から、アクチュエータ20においては、ナット34,モータ36,ケーシング38,ロッドホルダ60,アウタチューブ106,トレランスリング140を含んで、ナット所有ユニットが構成されている。また、アクチュエータ20は、ばね上部側のユニット(以下、「ばね上部側ユニット」と呼ぶ場合がある)であるナット所有ユニットと、ねじロッド32,ピストンロッド74,浮動部材82を含んで構成されるばね下部側のユニット(以下、「ばね下部側ユニット」と呼ぶ場合がある)とに区分することが可能であり、ばね上部側ユニットがマウント部14に連結されるとともに、ばね下部側ユニットが2つの圧縮コイルスプリング108,110およびダンパ22を介してサスペンションロアアーム12に連結される構造のものとなっている。
上述のような構造により、アクチュエータ20は、ばね上部とばね下部とが接近・離間する場合に、ねじロッド32とナット34とが軸線方向に相対移動可能、つまり、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとが相対移動可能とされ、その相対移動に伴って、ナット34がねじロッド32に対して回転する(モータ軸40も回転する)ことになる。モータ36は、ナット34に回転トルクを付与可能とされ、この回転トルクによって、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対移動に対して、その相対移動を阻止する方向の抵抗力を発生させることが可能である。この抵抗力をばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対移動、ひいては、ばね上部とばね下部との相対移動に対する減衰力として作用させることで、アクチュエータ20は、いわゆるショックアブソーバとして機能するものとなっている。
ちなみに、アクチュエータ20は、モータ36の回転トルクに依拠して、ばね上部側ユニットとばね下部側ユニットとの相対移動に対する推進力をも発生させることが可能とされている。そのことにより、アクチュエータ20は、ばね上部の動作に対してばね上絶対速度に比例する減衰力を作用させるいわゆるスカイフックダンパ理論に基づく制御を実行すること、旋回時の車体のロール,加速・減速時の車体のピッチ等を効果的に抑制すること、車両の車高を調整すること等が可能とされている。
また、ばね下部側ユニットとロアアーム22とは、先に述べたように、2つの圧縮コイルスプリング108,110およびダンパ22によって連結されている。本サスペンション装置10においては、アクチュエータ20,2つの圧縮コイルスプリング108,110,ダンパ22等を含んで電磁式ショックアブソーバが構成され、その電磁式ショックアブソーバは、2つの圧縮コイルスプリング108,110によって、ばね下部からばね下部側ユニットに伝達される衝撃を和らげ、ダンパ22によって、ばね下部側ユニットとばね下部との間の相対移動に対して抵抗力を発生させることで、ばね下部からばね下部側ユニットに伝達される振動を減衰することが可能とされている。
ちなみに、本実施例のサスペンション装置10における振動減衰機能に着目すれば、以下のようである。アクチュエータ20は、例えば5Hz以下の比較的周波数の低い振動に関しては、効果的にそれらの振動減衰が可能である。しかし、例えば10Hzを超えるような周波数の高い振動に対しては、効果的な振動減衰が難しい。本実施例においては、アクチュエータ20では効果的な減衰ができない範囲の振動に対して圧縮コイルスプリング108,110およびダンパ22による振動減衰が可能な構成とされており、10Hzを超えるような周波数の高い振動を効果的に減衰可能となっている。
次に、例えば、路面の凸部に車輪が乗り上げて、ばね下部が急に上方に動作させられた場合を考える。その場合、ばね下部側ユニットがばね上側ユニットに対して高速で上方に移動する、つまり、ねじロッド32がナット所有ユニットに対して高速で上方に移動することになる。ところが、そのねじロッド32の上方への移動に対して、ナット34がモータ軸40に連結されているために、ナット34の回転が追従できず、ねじロッド32とナット34との間には大きな回転力が作用する。そして、その回転力が、ロッドホルダ60とケーシング38との間、詳しくは、ロッドホルダ60とトレランスリング140との間に生じる摩擦力より大きい場合には、ロッドホルダ60の回転が許容され、そのロッドホルダ60に相対回転不能に保持されたねじロッド32が回転させられることになる。つまり、ナット所有ユニットは、ねじロッド32とナット34と間に設定された大きさを超える回転力が作用した場合にねじロッド32の回転を許容するロッド回転許容機構を有する相対回転許容機構を備えるものとされており、その相対回転許容機構によって、ねじ機構に作用する回転力が、トレランスリング140により生じる摩擦力までに制限されるのである。したがって、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、ねじ機構の耐久性が向上させられ、信頼性の高いものとなる。
なお、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、ねじロッド32とダンパ22のピストンロッド74とが、転がり軸受84,86を介して連結され、ねじロッド32のピストンロッド74に対する円滑な回転を許容するロッド回転円滑化機構を備えるものとされている。そのことにより、例えば、ねじロッド32とピストンロッド74とが固定されている場合のように、ねじロッド32とばね下部とを連結する圧縮コイルスプリング108,110等がねじロッド32の回転の抵抗になることななく、上記相対回転許容機構の作動時におけるロッドホルダ60のケーシング38に対する回転を滑らかなものとすることが可能である。また、ねじロッド32のピストンロッド74に対する回転が可能とされているため、上記相対回転許容機構によってねじロッド32が回転させられた場合であっても、ピストンロッド74およびピストン72は回転しない。そのため、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、ピストン72と摺設するハウジング70、および、ピストンロッド74が接するハウジング70に設けられたシール88の摩耗が防止されるようになっている。さらに、トレランスリング140が弾性体であるため、ケーシング38とロッドホルダ60との軸線方向のずれが許容される。そのことにより、ねじロッド32に対するロッドホルダ60の軸線方向のずれが吸収され、ボールスプライン機構への影響は小さく、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、信頼性の高いものとなる。
上記実施例において、ねじロッド32は、ピストンロッド74に回転可能に連結されていたが、図3に示す車両用サスペンション装置150のように、ピストンロッド74に回転不能に連結される構造であってもよい。本変形例のサスペンション装置150は、ねじロッド32が、ねじロッド32の下端部に雌ねじ部が形成され、ピストンロッド74の上端部に雄ねじ部が形成されて、浮動部材82を間に挟み込む状態で締結されることにより、ピストンロッド74に固定される構造とされている。本変形例においては、相対回転許容機構が作動して、ねじロッド32が回転させられた場合には、ピストンロッド74も回転させられることになる。本変形例のサスペンション装置150は、圧縮コイルスプリング108と浮動部材82のフランジ部の下面側との間と、圧縮コイルスプリング110と浮動部材82のフランジ部の上面側との間との各々に、ロッド回転円滑化機構として機能するスラスト軸受160,162が介装されている。そのため、圧縮コイルスプリング108,110と浮動部材82との相対回転が許容され、上記実施例と同様に、上記相対回転許容機構の作動時において、ロッドホルダ60のケーシング38に対する円滑な回転が許容される。また、例えば上記スラスト軸受160,162が設けられなかった場合には、ねじロッド32とピストンロッド74との締結部に緩みが生じることが考えられるが、スラスト軸受160,162によって、ねじロッド32とピストンロッド74とが円滑に回転可能であるため、その締結部の緩みを抑制することが可能である。
≪第2実施例≫
図4に、第2実施例の電磁式ショックアブソーバを含んで構成される車両用サスペンション装置200を示す。なお、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、相対回転許容機構の構造を除き、第1実施例のショックアブソーバと略同様の構成であるため、本実施例の説明においては、第1実施例のショックアブソーバと同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
第1実施例における相対回転許容機構は、ねじロッド32の回転を許容するロッド回転許容機構を有するものとされていたが、本実施例においては、ナット34のモータ軸40に対する回転を許容するナット回転許容機構を有するものとされている。本実施例においては、ロッドホルダ60は、それに設けられたキー210とケーシング38に設けられたキー溝212によって、ケーシング38に相対回転不能に連結されている。一方、ナット34とモータ軸40との連結構造を、図5をも参照しつつ説明する。図5は、モータ軸40とそれの内部を示す平面断面図(図4におけるB−B断面)である。ナット34とモータ軸40との間には、摩擦連結部材としての円筒状のゴムブッシュ220が介装されている。そのゴムブッシュ220は、弾性力によってナット34とモータ軸40とを連結するものであり、その弾性力によって生じる摩擦力によって、モータ軸40に対するナット34の回転を禁止している。
第1実施例で述べたように、路面の凹凸等によってばね下部が急に動作させられた場合、ねじロッド32とナット34との間には大きな回転力が作用する。本実施例の電磁式ショックアブソーバにおいては、その回転力が、ナット34とモータ軸40との間のゴムブッシュ220によって生じる摩擦力より大きい場合、ナット34がモータ軸40に対して回転させられることになる。つまり、ナット所有ユニットは、上記のような構造の相対回転許容機構を備えるものとされており、その相対回転許容機構によって、ねじ機構に作用する回転力が、ゴムブッシュ220により生じる摩擦力までに制限されるのである。したがって、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、第1実施例のものと同様に、ねじ機構の耐久性が向上し、信頼性の高いものとなる。また、ゴムブッシュ220が弾性体であるため、ナット34とモータ軸40との間の傾きが許容される。そのため、ねじ機構の軸線とモータ36の軸線とのずれによるねじ機構への影響は小さく、本実施例の電磁式ショックアブソーバは、ねじ機構の耐久性が高くされ、より信頼性の高いものとなっている。
請求可能発明の第1実施例である電磁式ショックアブソーバを含んで構成されるサスペンション装置を示す正面断面図である。
図1に示すロッド保持具と躯体との連結構造を示す平面断面図(図1におけるA−A断面)である。
第1実施例の変形例である電磁式ショックアブソーバを含んで構成されるサスペンション装置を示す正面断面図である。
第2実施例の電磁式ショックアブソーバを含んで構成されるサスペンション装置を示す正面断面図である。
図4に示すナットとモータ軸との連結構造を示す平面断面図(図4におけるB−B断面)である。
符号の説明
10:車両用サスペンション装置 12:ロアアーム(ばね下部) 14:マウント部(ばね上部) 20:アクチュエータ 22:ダンパ(液圧式ダンパ) 24:エアスプリング 30:ねじ溝 32:ねじロッド 34:ナット 36:電磁式モータ 38:ケーシング(躯体) 40:モータ軸(ナット保持具) 60:ロッドホルダ(ロッド保持具) 62:スプライン溝 70:ハウジング 72:ピストン 74:ピストンロッド 82:浮動部材 84,86:転がり軸受 88:シール 108,110:圧縮コイルスプリング 140:トレランスリング(摩擦連結部材,弾性体) 150:車両用サスペンション装置 160,162:スラスト軸受 200:車両用サスペンション装置 220:ゴムブッシュ(摩擦連結部材,弾性体)