以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図4は、本発明の一実施の形態に係る薄膜デバイスの応用例としての薄膜インダクタ10の構成を表しており、図1は平面構成および図2〜図4は断面構成をそれぞれ示している。ここで、図2〜図4は、それぞれ図1に示したII−II線、III−III線およびIV−IV線に沿った断面を示している。なお、以下の説明では、基板11に近い側を「下」、基板11から遠い側を「上」とそれぞれ呼称する。
この薄膜インダクタ10は、図1〜図4に示したように、基板11上に、下部磁性膜12と、絶縁膜15により埋設された上部磁性膜13および薄膜コイル14とが積層された構成を有している。下部磁性膜12および上部磁性膜13は、互いに対向配置されており、薄膜コイル14は、上部磁性膜13に巻き付けられたソレノイド型構造を有している。
基板11は、下部磁性膜12、上部磁性膜13および薄膜コイル14を支持するものであり、例えば、ガラス、シリコン(Si)、酸化アルミニウム(Al2 O3 ;いわゆるアルミナ)、セラミックス、フェライト、半導体または樹脂などにより構成されている。なお、基板11の構成材料は、必ずしも上記した一連の材料に限らず、他の材料により構成されていてもよい。
下部磁性膜12および上部磁性膜13は、それぞれインダクタンスを高める第1および第2の磁性膜であり、例えば、コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)系合金またはニッケル鉄合金(NiFe)などの導電性磁性材料により構成されている。このコバルト系合金としては、例えば、コバルトジルコニウムタンタル(CoZrTa)系合金またはコバルトジルコニウムニオブ(CoZrNb)系合金などが挙げられる。
薄膜コイル14は、一端(端子14T1)と他端(端子14T2)との間にインダクタを構成するものであり、例えば、銅(Cu)などの導電性材料により構成されている。なお、図1〜図4では、例えば、薄膜コイル14のターン数=4ターンの場合を示しているが、そのターン数は任意に設定可能である。
この薄膜コイル14は、複数の短冊状の下部コイル部分14Aおよび上部コイル部分14Bと、複数の柱状の中間コイル部分14Cとが直列に接続されたものである。下部コイル部分14Aは、下部磁性膜12と上部磁性膜13との間の階層(下階層)に配列された第1のコイル部分である。上部コイル部分14Bは、上部磁性膜13を挟んで下部コイル部分14Aと反対側の階層(上階層)に配列された第2のコイル部分であり、下部コイル部分14Aの一端または他端と重なるように配置されている。これらの下部コイル部分14Aおよび上部コイル部分14Bは、例えば、矩形型の断面形状を有しており、互いに等しい幅Wを有している。中間コイル部分14Cは、下階層と上階層との間の階層に配置された第3のコイル部分であり、下部コイル部分14Aおよび上部コイル部分14Bが互いに重なる箇所に位置している。
下部コイル部分14Aの厚さTAは、上部コイル部分14Bの厚さTBよりも大きくなっている。すなわち、厚さTAに対する厚さTBの比(厚さ比)TB/TAは、TB/TA<1の範囲である。この厚さ比TB/TAは、任意に設定可能である。特に、厚さ比TB/TAは、例えば、薄膜コイル14の直流抵抗が増大することを抑制する観点から、0.1<TB/TA<1の範囲であるのが好ましい。
絶縁膜15は、薄膜コイル14を下部磁性膜12および上部磁性膜13から電気的に分離するものであり、例えば、酸化ケイ素(SiO2 )などの絶縁性非磁性材料や、ポリイミドまたはレジストなどの絶縁性樹脂材料により構成されている。この絶縁膜15は、例えば、下部磁性膜12上に設けられた下部絶縁膜15Aと、その下部絶縁膜15A上に下部コイル部分14Aを埋設するように設けられた下部コイル絶縁膜15Bと、その下部コイル絶縁膜15B上に上部磁性膜13を埋設するように設けられた上部絶縁膜15Cと、その上部絶縁膜15C上に上部コイル部分14Bを埋設するように設けられた上部コイル絶縁膜15Dとを含んでいる。これらの下部コイル絶縁膜15Bおよび上部絶縁膜15Cでは、下部コイル部分14Aおよび上部コイル部分14Bが互いに重なる箇所ごとにコンタクトホール15Hが設けられており、各コンタクトホール15Hに中間コイル部分14Cが埋め込まれている。なお、一連の絶縁膜15A〜15Dの構成材料は、必ずしも同一に限らず、個別に設定可能である。
本実施の形態に係る薄膜デバイスとしての薄膜インダクタ10では、上部磁性膜13に巻き付けられたソレノイド型の薄膜コイル14において、下部磁性膜12および上部磁性膜13により挟まれている下部コイル部分14Aの厚さTAが、下部磁性膜12および上部磁性膜13により挟まれていない上部コイル部分14Bの厚さTBよりも大きくなっているので(厚さ比TB/TA<1)、以下の理由により、Q値を向上させることができる。
図5および図6は、それぞれ第1および第2の比較例の薄膜インダクタ100,200の構成を表しており、いずれも図2に対応する断面構成を示している。これらの薄膜インダクタ100,200は、それぞれ薄膜コイル14に代えて薄膜コイル114(下部コイル部分114A,上部コイル部分114B)および薄膜コイル214(下部コイル部分214A,上部コイル部分214B)を備える点を除き、薄膜インダクタ10と同様の構成を有している。薄膜コイル114の構成は、下部コイル部分114Aの厚さTAが上部コイル部分114Bの厚さTBに等しくなっている点を除き(厚さ比TB/TA=1)、薄膜コイル14の構成と同様である。一方、薄膜コイル214の構成は、下部コイル部分214Aの厚さTAが上部コイル部分214Bの厚さTBよりも小さくなっている点を除き(厚さ比TB/TA>1)、薄膜コイル14の構成と同様である。なお、厚さTA,TBの総和は、薄膜インダクタ10,100,200において一定である。
第1の比較例の薄膜インダクタ100では、下部コイル部分114Aを挟んでいる下部磁性膜12および上部磁性膜13が互いに接近しすぎているため、それらの間において磁束の閉じこもり傾向が強まる。この場合には、下部コイル部分114Aを鎖交する渡り磁束の量が多くなるため、薄膜コイル114では交流抵抗Rが大きくなる。これにより、第1の比較例では、Q値を向上させることが困難である。
また、第2の比較例の薄膜インダクタ200では、下部磁性膜12および上部磁性膜13が第1の比較例の場合よりもさらに接近しているため、下部コイル部分214Aを差交する渡り磁束の量がより多くなり、薄膜コイル214では交流抵抗Rがより大きくなる。これにより、第2の比較例では、やはりQ値を向上させることが困難である。
これに対して、本実施の形態の薄膜インダクタ10では、下部磁性膜12および上部磁性膜13が十分に離間されているため、それらの間において磁束の閉じこもり傾向が弱まる。この場合には、下部コイル部分14Aを差交する渡り磁束の量が第1および第2の比較例の場合よりも少なくなるため、薄膜コイル14では交流抵抗Rが小さくなる。したがって、本実施の形態では、ソレノイド型の薄膜コイル14を備える場合において、Q値を向上させることができるのである。この場合には、厚さTAを厚さTBに対して相対的に大きくし、すなわち厚さ比TB/TAを小さくするほど、Q値を大きくすることができる。
特に、本実施の形態では、厚さ比TB/TAを0.1<TB/TA<1の範囲とすれば、薄膜コイル14の直流抵抗が増大しすぎることを抑制しつつ、十分なQ値を得ることができる。
なお、本実施の形態では、図2に示したように、下部磁性膜12および上部磁性膜13を分離したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、図2に対応する図7に示したように、下部磁性膜12および上部磁性膜13を互いに接続させるようにしてもよい。図7では、例えば、下部磁性膜12と上部磁性膜13との間に接続部16を設けることにより、それらの一端部同士および他端部同士を接続部16を介して接続させた場合を示している。この接続部16を構成する磁性材料は、下部磁性膜12および上部磁性膜13の構成材料と同一であってもよいし、あるいは異なってもよい。この場合には、磁路構造が閉磁路となることによりインダクタンスLが増大するため、Q値をより向上させることができる。
また、本実施の形態では、図2に示したように、下部コイル部分14Aを挟むように下部磁性膜12および上部磁性膜13を配置したことに伴い、その下部コイル部分14Aの厚さTAが上部コイル部分14Bの厚さTBよりも大きくなるようにしたが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、図2に対応する図8に示したように、上部磁性膜13に代えて下部磁性膜12を配置すると共に、上部コイル絶縁膜15D上に上部磁性膜13を配置することにより、下部コイル部分14Aに代えて上部コイル部分14Bを挟むように下部磁性膜12および上部磁性膜13を配置した場合には、その上部コイル部分14Aの厚さTBが下部コイル部分14Aの厚さTAよりも大きくなるようにしてもよい。この場合においても、図2に示した場合と同様の作用が得られるため、Q値を向上させることができる。
また、本実施の形態では、薄膜コイル14の構成を図1〜図4に示しているが、下部コイル部分14Aと上部コイル部分14Bとの間の相対的位置関係(重なりの範囲)または端子14T1,14T2の引き出し方向などは、必ずしも図1〜図4に示した場合に限られず、任意に設定可能である。
次に、本発明に関する実施例について説明する。
有限要素法を使用した磁場解析により、図1〜図6に示したソレノイド型の薄膜コイルを備えた薄膜インダクタの諸性能を見積もったところ、図9〜図13に示した一連の結果が得られた。図9〜図12は、それぞれインダクタンスLdc(×10-6H)、インダクタンスL1M(×10-6H)、抵抗Rdc(Ω)および抵抗R1M(Ω)の厚さ比TB/TA依存性を示している。また、図13は、Q値Q1Mの厚さ比TB/TA依存性を示している。上記した「インダクタンスLdc」および「抵抗Rdc」は、いずれも静磁場解析により算出した値であり、一般的にkHzオーダーの低周波数領域における解析値にて近似できる。一方、「インダクタンスL1M」、「抵抗R1M」および「Q値Q1M」は、いずれも周波数=1MHzにおける値である。
この薄膜インダクタの諸性能を見積もる際には、以下のように一連のパラメータを設定した。すなわち、薄膜コイルについては、ライン幅=100μm,ラインスペース=20μm,ターン数=16ターン,ギャップ=5μm,下部コイル部分の厚さTAおよび上部コイル部分の厚さTBの総和=200μmとしたと共に、厚さ比TB/TAを0.1(18μm/182μm),0.43(60μm/140μm),0.67(80μm/120μm),1(100μm/100μm),1.5(120μm/80μm),2.33(140μm/60μm),4(160μm/40μm)の7段階に変化させた。厚さ比TB/TA<1(TB/TA=0.1,0.43,0.67)は図1〜図4に示した本発明、TB/TA=1は図5に示した第1の比較例、TB/TA>1(TB/TA=1.5,2.33,4)は図6に示した第2の比較例にそれぞれ対応している。また、下部磁性膜および上部磁性膜については、厚さ=10μm,透磁率μ=2000,比抵抗=100μΩcmとした。なお、図9〜図13のうち、図11では厚さ比TB/TAを7段階に変化させており(TB/TA=0.1を含む)、図11以外では厚さ比TB/TAを6段階に変化させている(TB/TA=0.1を含まない)。
図9および図10に示したように、インダクタンスLdc,L1Mは、いずれも厚さ比TB/TAが大きくなるにしたがって次第に増大した。また、図11および図12に示したように、抵抗Rdcは、厚さ比TB/TA=1を頂点とする下向き凸型の曲線を描いたと共に、抵抗R1Mは、厚さ比TB/TAが大きくなるにしたがって次第に増大した。
図10および図12に示した結果から、図13に示したように、薄膜インダクタの動作時のコイル性能を表すQ値Q1Mは、厚さ比TB/TAが小さくなるにしたがって次第に増大した。すなわち、Q値Q1Mは、厚さ比TB/TAがTB/TA≧1の範囲である第1および第2の比較例よりも、TB/TA<1の範囲である本発明において大きくなった。このことから、本発明の薄膜インダクタでは、ソレノイド型の薄膜コイルを備える場合に、下部コイル部分の厚さTAを上部コイル部分の厚さTBよりも大きくすることにより、Q値を向上させることが可能であることが確認された。
この厚さ比TB/TA<1の範囲では、特に、図11に示したように、TB/TA=0.1になると抵抗Rdcが著しく大きくなった。このことから、図11に示した結果を加味すると、本発明の薄膜インダクタでは、厚さ比TB/TAを0.1<TB/TA<1の範囲とすることにより、薄膜コイルの直流抵抗が増大しすぎることを抑制しつつ、十分なQ値を得ることが可能であることが確認された。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。具体的には、例えば、上記実施の形態および実施例では、本発明の薄膜デバイスを薄膜インダクタに応用する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、薄膜インダクタ以外の他のデバイスに応用してもよい。この「他のデバイス」としては、例えば、薄膜トランス、薄膜磁気センサまたはMEMS(micro electro mechanical systems)や、薄膜インダクタ、薄膜トランス、薄膜磁気センサまたはMEMSを含んだフィルタまたはモジュールなどが挙げられる。これらの他のデバイスに応用した場合においても、上記実施の形態および実施例と同様の効果を得ることができる。
10…薄膜インダクタ、11…基板、12…下部磁性膜、13…上部磁性膜、14…薄膜コイル、14A…下部コイル部分、14B…上部コイル部分、14C…中間コイル部分、14T1,14T2…端子、15…絶縁膜、15A…下部絶縁膜、15B…下部コイル絶縁膜、15C…上部絶縁膜、15D…上部コイル絶縁膜、15H…コンタクトホール、16…接続部、TA,TB…厚さ、W…幅。