以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。なお、以下の説明では、排熱回収機関としてスターリングエンジンを用い、熱機関である内燃機関の排ガスから熱エネルギーを回収する場合を例とする。なお、排熱回収機関としては、スターリングエンジンの他、ブレイトンサイクルを利用した排熱回収装置等を用いることができる。また、熱機関の種類は問わない。
この実施形態は、次の点に特徴がある。すなわち、熱機関である内燃機関と、排熱回収機関であるスターリングエンジンとの間に、排熱回収機関が発生する出力を前記熱機関に伝達し、かつ、内燃機関の回転数に対するスターリングエンジンの回転数の比(回転数比)を変更する回転数比変更手段を設ける。そして、熱機関が発生する熱機関出力と排熱回収機関が発生する排熱回収機関出力とを合成した合成出力に対して要求される要求出力よりも、熱機関出力及び排熱回収機関出力の和の方が大きくなった場合、かつ熱機関が発生する出力が最小値となった場合に、スターリングエンジンの回転数を変更する。まず、この実施形態に係る排熱回収機関の構成を説明する。
図1は、この実施形態に係る排熱回収機関であるスターリングエンジンを示す断面図である。この実施形態に係る排熱回収機関であるスターリングエンジン100は、いわゆるα型の直列2気筒スターリングエンジンである。そして、第1シリンダである高温側シリンダ101内に収められた第1ピストンである高温側ピストン103と、第2シリンダである低温側シリンダ102内に収められた第2ピストンである低温側ピストン104とが直列に配置されている。
高温側シリンダ101と低温側シリンダ102とは、基準体である基板111に、直接、又は間接的に支持、固定されている。この実施形態に係るスターリングエンジン100においては、この基板111が、スターリングエンジン100の各構成要素の位置基準となる。このように構成することで、前記各構成要素の相対的な位置精度を確保できる。また、後述するように、この実施形態に係るスターリングエンジン100は、高温側シリンダ101と高温側ピストン103との間、及び低温側シリンダ102と低温側ピストン104との間に気体軸受GBを介在させる。
基準体である基板111に、高温側シリンダ101と低温側シリンダ102とを直接又は間接的に取り付けることにより、ピストンとシリンダとのクリアランスを精度よく保持することができるので、気体軸受GBの機能を十分に発揮させることができる。さらに、スターリングエンジン100の組み立ても容易になる。
高温側シリンダ101と低温側シリンダ102との間には、略U字形状のヒータ(加熱器)105と再生器106とクーラー107とで構成される熱交換器108が配置される。このように、ヒータ105を略U字形状にすることによって、内燃機関の排ガス通路内のような比較的狭い空間にも、ヒータ105を容易に配置することができる。また、このスターリングエンジン100のように、高温側シリンダ101と低温側シリンダ102とを直列に配置することにより、内燃機関のヒータケース3のような筒状の空間にもヒータ105を比較的容易に配置することができる。
ヒータ105の一方の端部は高温側シリンダ101側に配置され、他方の端部は再生器106側に配置される。再生器106は、一方の端部がヒータ105側に配置され他方の端部はクーラー107側に配置される。クーラー107の一方の端部は再生器106側に配置され、他方の端部は低温側シリンダ102側に配置される。
また、高温側シリンダ101、低温側シリンダ102及び熱交換器108内には作動流体(この実施形態では空気)が封入されており、ヒータ105から供給される熱及びクーラー107で排出する熱によってスターリングサイクルを構成し、スターリングエンジン100を駆動する。
ここで、例えば、ヒータ105、クーラー107は、熱伝導率が高く耐熱性に優れた材料のチューブを複数束ねた構成とすることができる。また、再生器106は、多孔質の蓄熱体で構成することができる。なお、ヒータ105、クーラー107及び再生器106の構成は、この例に限られるものではなく、排熱回収対象の熱条件やスターリングエンジン100の仕様等によって、好適な構成を選択することができる。
熱交換器108は、少なくともヒータ105が中空のヒータケース3内に配置される。中空のヒータケース3は、排熱回収対象である熱機関の排出する排ガスExが通過する排気通路を構成する。ヒータ105は、ヒータケース3を流れる排ガスExからの熱エネルギーによってヒータ105内を流れる作動流体を加熱する。なお、ヒータケース3内には、熱交換器108の再生器106を配置してもよい。
この実施形態において、排ガスExは、高温側シリンダ101側から低温側シリンダ102側に向かって流れる。これによって、熱機関から排出された排ガスExは、温度低下が抑えられた状態でヒータ105に供給されるので、排ガスExの熱エネルギーを効率よく回収することができる。
上述したように、高温側ピストン103と低温側ピストン104とは、高温側シリンダ101と低温側シリンダ102内に気体軸受GBを介して支持されている。すなわち、ピストンリングを介さないで、ピストンをシリンダ内に支持する構造である。これによって、ピストンとシリンダとの摩擦を低減して、スターリングエンジン100の熱効率を向上させることができる。また、ピストンとシリンダとの摩擦を低減することにより、例えば、内燃機関の排熱回収のような低熱源、低温度差の運転条件下においても、スターリングエンジン100を運転して熱エネルギーを回収できる。
図1に示すように、スターリングエンジン100を構成する高温側シリンダ101、高温側ピストン103、コンロッド109、クランク軸110等の各構成要素は、筺体100Cに格納される。ここで、スターリングエンジン100の筺体100Cは、クランクケース114Aと、シリンダブロック114Bとを含んで構成されている。筺体100C内は、加圧手段115により加圧される。これは、高温側及び低温側シリンダ101、102、及び熱交換器108内の作動流体を加圧して、スターリングエンジン100からより多くの出力を取り出すためである。
また、この実施形態に係るスターリングエンジン100では、筺体100Cにはシール軸受116が取り付けられており、クランク軸110がシール軸受116により支持される。クランク軸110の出力は、オルダムカップリングのようなフレキシブルカップリング118を介して筺体100Cの外部へ取り出される。次に、この実施形態に係る排熱回収装置の構成を説明する。
図2は、この実施形態に係る排熱回収装置の構成を示す全体図である。この実施形態に係る排熱回収装置10は、排熱回収機関と、熱機関の出力軸と排熱回収機関の出力軸との間に設けられる回転数比変更手段とを含んで構成される。この実施形態においては、排熱回収機関として、上述したスターリングエンジン100を用い、また、熱機関としてはレシプロ式の内燃機関1を用いる。そして、回転数比変更手段としては、変速装置(以下排熱回収機関用変速装置)5を用いる。
排熱回収機関用変速機5は、その変速比を変更することにより、内燃機関1の出力軸1sの回転数(以下熱機関回転数)Neに対するスターリングエンジン100のクランク軸110の回転数(以下排熱回収機関回転数)Nsの比(以下回転数比)Ns/Neを容易に変更できる。排熱回収機関用変速機5には、例えば、ベルト式のCVT(Continuous Variable Transmission)やトロイダル式のCVT、あるいは有段の回転数比可変装置を用いることができる。排熱回収機関用変速機5は、この実施形態に係る運転制御装置30によって回転数比Ns/Neが変更される。
スターリングエンジン100を用いて回収した排ガスExの熱エネルギーは、スターリングエンジン100で運動エネルギーに変換され、出力として取り出される。スターリングエンジン100の出力軸であるクランク軸110は、カップリング8を介して排熱回収機関用変速機5の入力軸5sと接続される。これによって、スターリングエンジン100が発生する出力はカップリング8を介して排熱回収機関用変速機5に伝達される。なお、クランク軸110と入力軸5sとの間に出力断続手段としてクラッチを設けてもよい。
内燃機関1の出力軸1sは、熱機関用変速装置4に入力される。熱機関用変速装置4は、内燃機関1の出力と、排熱回収機関用変速機5から出力されるスターリングエンジン100の出力とを合成して、出力軸9に出力する。出力軸9は、差動ギヤ6に合成した出力を出力する。差動ギヤ6は、出力軸9から入力された出力を第1駆動軸6S_Aと第2駆動軸6S_Bとに分割して出力する。これによって、第1駆動軸6S_Aに取り付けられる第1駆動輪7A及び第2駆動軸6S_Bに取り付けられる第2駆動輪7Bが駆動される。
ここで、内燃機関1の出力軸1sの近傍には、熱機関回転数センサ41が設けられる。これによって、熱機関回転数Neが計測される。熱機関回転数センサ41は、機関ECU(Electronic Control Unit)50接続されている。また、機関ECU50には、この他に、アクセル開度センサ40、車速センサ42、エアフローメータ43等の情報検出手段が接続されている。機関ECU50及び機関ECUが備える運転制御装置30は、これらの情報検出手段から取得される情報に基づいて、内燃機関1の運転制御、熱機関用変速装置4、あるいは排熱回収機関用変速機5を制御する。
内燃機関1及び排熱回収装置10は、例えば、乗用車やトラック等の車両に搭載されて、前記車両の出力発生源となる。そして、内燃機関1は、前記車両の走行中においては主たる出力発生源として常に出力を発生する。また、スターリングエンジン100は、排ガスExの温度がある程度の温度にならないと、必要最小限の出力を生み出すことができない。したがって、スターリングエンジン100は、排ガスExの温度が所定温度を超えたら内燃機関1の排ガスExから回収した熱エネルギーによって出力を発生し、内燃機関1とともに前記車両を駆動する。このように、スターリングエンジン100は、前記車両の従たる出力発生源となる。
図3は、スターリングエンジンの出力Pと回転数との関係を説明する概念図である。図4−1、図4−2は、排熱回収機関回転数Nsを熱機関回転数Neよりも小さくする手法を説明する概念図である。図5−1、図5−2は、排熱回収機関回転数Nsを熱機関回転数Neよりも大きくする手法を説明する概念図である。
この実施形態に係る排熱回収装置10では、スターリングエンジン100の出力は内燃機関1の出力と同軸で取り出される。スターリングエンジン100は入熱に対する出力(回転数)の応答性が低いため、熱機関回転数Neの変化が速い場合には、排熱回収機関回転数Nsの上昇が熱機関回転数Neの変化に追従できないことがある。その結果、内燃機関1及びスターリングエンジン100に要求される出力と、熱機関用変速装置4で合成されて出力軸9から取り出される内燃機関1の出力及びスターリングエンジン100の出力とに相違が生ずることがある。これを回避するため、この実施形態に係る排熱回収装置10は、排熱回収機関用変速機5を用いて、熱機関用変速装置4で内燃機関1の出力と合成されるスターリングエンジン100の出力を調整する。
図3に示すように、スターリングエンジン100の出力Psは、排熱回収機関回転数Nsの上昇とともに上昇し、ある排熱回収機関回転数で最大出力となる。さらに排熱回収機関回転数Nsを上昇させると、スターリングエンジン100の出力Psは低下する。そして、排熱回収機関回転数NsがNs_1になるとスターリングエンジン100が発生する出力はPs_min_lとなり、排熱回収機関回転数NsがNs_2になるとスターリングエンジン100が発生する出力は0となる。さらに、排熱回収機関回転数NsをNs_2よりも大きくすると、スターリングエンジン100の出力Psは負の値になる。すなわち、スターリングエンジン100を駆動するための動力が必要になる。このように、スターリングエンジン100の出力Psは、排熱回収機関回転数Nsとともに変化する。
なお、スターリングエンジン100が最大出力Ps_maxを発生する回転数Ns_pよりも高回転側で、スターリングエンジン100の出力Psは最小(負の値)となり、その値はPs_min_hである。このときの排熱回収機関回転数NsはNs_maxである。Ps_min_hは、例えば、スターリングエンジン100が回転限界に達したときの出力とすることができる。また、スターリングエンジン100が最大出力Ps_maxを発生する回転数Ns_pよりも低回転側においては、スターリングエンジン100が発生する出力Psの最小値はPs_min_lとなる。
この実施形態に係る排熱回収装置10は、排熱回収機関用変速機5の変速比を変更することで回転数比Ns/Neを変更して、排熱回収機関回転数Nsを変化させ、これによってスターリングエンジン100の出力を調整する。図4−1〜図5−2は、スターリングエンジン用プーリ21と内燃機関用プーリ22とに掛けられたベルト23を介して、スターリングエンジン100の出力を内燃機関1の出力とともに出力軸1sから取り出す構成を示している。この構成では、スターリングエンジン用プーリ21の半径(STプーリ半径)又は内燃機関用プーリ22の半径(EGプーリ半径)のうち少なくとも一方を変更することで変速比を変更でき、その結果、回転数比Ns/Neが変更される。ここで、スターリングエンジン用プーリ21は、スターリングエンジン100のクランク軸110に連結される入力軸5sに取り付けられており、内燃機関用プーリ22は、内燃機関1の出力軸1sに取り付けられている。
図4−1、図5−1に示す状態は、排熱回収機関回転数NsがNs_p、熱機関回転数NeがNe1であり、STプーリ半径がrs1、EGプーリ半径がre1である。そして、排熱回収機関回転数がNs_pのとき、スターリングエンジン100は最大出力を発生しているとする。この状態からスターリングエンジン100の出力を減少させるためには、図3から分かるように、回転数比Ns/Neを変更することによって排熱回収機関回転数NsをNs_pよりも低下させるか、上昇させるかの二通りの方法がある。
排熱回収機関回転数Nsを低下させる場合、図4−2に示すように、STプーリ半径をEGプーリ半径よりも大きくする。図4−2に示す例では、EGプーリ半径をre1に維持したまま、STプーリ半径をrs1からrs2に変更する(rs1<rs2)。これによって、回転数比Ns/Neが変更されるので、排熱回収機関回転数NsをNs_pからNs2に低下させることができる(Ns_p>Ns2)。その結果、スターリングエンジン100の出力を低下させることができる(図3参照)。
また、排熱回収機関回転数Nsを上昇させる場合、図5−2に示すように、STプーリ半径をEGプーリ半径よりも小さくする。図5−2に示す例では、EGプーリ半径をre1に維持したまま、STプーリ半径をrs1からrs3に変更する(re1>rs3)。これによって、回転数比Ns/Neが変更されるので、排熱回収機関回転数NsをNs_pからNs3に上昇させることができる(Ns_p<Ns3)。その結果、スターリングエンジン100の出力を低下させることができる(図3参照)。この実施形態では、排熱回収機関回転数Nsを上昇させることによってスターリングエンジン100の出力を低下させる手法も用いるので、スターリングエンジン100の出力をPs_min_lよりも小さく、さらには0よりも小さくすることができる。これによって、この実施形態に係る排熱回収装置10では、排熱回収機関回転数Nsを低下させる手法を単独で用いる場合と比較して、スターリングエンジン100の出力の調整幅を大きくすることができる。次に、この実施形態に係る排熱回収装置を制御する運転制御装置30について説明する。
図6は、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御に用いる運転制御装置の構成を示す説明図である。図6に示すように、この実施形態に係る運転制御装置30は、機関ECU50に組み込まれて構成されている。機関ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)50pと、記憶部50mと、入力ポート55、出力ポート56と、入力インターフェース57、出力インターフェース58とから構成される。
なお、機関ECU50とは別個に、この実施形態に係る運転制御装置30を用意し、これを機関ECU50に接続してもよい。そして、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御を実現するにあたっては、機関ECU50が備える、スターリングエンジン100等に対する制御機能を、前記運転制御装置30が利用できるように構成してもよい。
運転制御装置30は、運転条件判定部31と、出力制御部32とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る運転制御を実行する部分となる。この実施形態において、運転制御装置30は、機関ECU50を構成するCPU50pの一部として構成される。また、CPU50pには、内燃機関制御部53hが備えられており、これによって内燃機関1の運転を制御する。
CPU50pと、記憶部50mとは、バス541〜543を介して、入力ポート55及び出力ポート56を介して接続される。これにより、運転制御装置30を構成する運転条件判定部31と出力制御部32とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、運転制御装置30は、機関ECU50が有する内燃機関1やスターリングエンジン100等の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、運転制御装置30は、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御を、機関ECU50が予め備えている運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート55には、入力インターフェース57が接続されている。入力インターフェース57には、アクセル開度センサ40、熱機関回転数センサ41、車速センサ42、エアフローメータ43その他の、排熱回収装置の運転制御に必要な情報を取得する情報検出手段が接続されている。これらの情報検出手段から出力される信号は、入力インターフェース57内のA/Dコンバータ57aやディジタル入力バッファ57dにより、CPU50pが利用できる信号に変換されて入力ポート55へ送られる。これにより、CPU50pは、内燃機関1の運転制御や、排熱回収装置の運転制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート56には、出力インターフェース58が接続されている。出力インターフェース58には、内燃機関1、熱機関用変速機4、排熱回収機関用変速機5等の運転制御に必要な制御対象が接続されている。出力インターフェース58は、制御回路581、582等を備えており、CPU50pで演算され、生成された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、機関ECU50のCPU50pは、前記センサ類からの出力信号に基づき、内燃機関1、スターリングエンジン100、熱機関用変速装置4あるいは排熱回収機関用変速機5を制御することができる。
記憶部50mには、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいはこの実施形態に係る排熱回収装置の運転制御に用いる制御データマップ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU50pへすでに記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、この実施形態に係る運転制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この運転制御装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、運転条件判定部31及び出力制御部32の機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御を説明する。次の説明では、適宜図1〜図6を参照されたい。なお、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御は、上記運転制御装置30によって実現できる。
図7は、この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御の手順を示すフローチャートである。この実施形態に係る排熱回収装置の運転制御を実行するにあたり、運転制御装置30が備える運転条件判定部は、内燃機関1の出力(熱機関出力)Peを算出する(ステップS101)。内燃機関1の出力Peは、熱機関回転数Neと内燃機関1トルクTとによって求めることができる。ここで、熱機関回転数Neは、熱機関回転数センサ41から取得することができる。また、内燃機関1のトルクTは、エアフローメータ43から取得した吸入空気量に基づいて求めた内燃機関1の負荷(負荷率)、及び熱機関回転数Neに基づいて求めることができる。
次に、運転条件判定部31は、スターリングエンジン100の出力(排熱回収機関出力)Psを算出する(ステップS102)。ここで、スターリングエンジン100は、ヒータ105から入熱される排ガスExの熱量に対して、スターリングエンジン100が最も高い出力を発生できる排熱回収機関回転数で運転することが好ましい。例えば、図3に示す例では、排熱回収機関回転数がNs_pでスターリングエンジン100を運転する。
この実施形態に係る排熱回収装置10では、スターリングエンジン100の出力は、内燃機関1の出力と同軸の出力軸9から取り出されるので、熱機関回転数Neが決定されると、排熱回収機関回転数Nsも定まる。この実施形態では、内燃機関1がある熱機関回転数で運転されている場合、排熱回収機関用変速機5の変速比を調整することで、スターリングエンジン100が排ガスExから受け取る熱量に対して、最も高い出力を発生できる排熱回収機関回転数となるようにする。したがって、排熱回収機関出力Psは、内燃機関1が排出する排ガスExの温度と、排熱回収機関回転数Nsとに基づいて算出することができる。
次に、運転条件判定部31は、内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両を運転するドライバの要求出力Pdを算出する(ステップS103)。なお、ドライバの要求出力Pdは、内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両を走行させる際に、前記車両の出力発生源に対してドライバが要求する出力である。前記車両の出力発生源は、内燃機関1及びスターリングエンジン100であり、この実施形態において、ドライバの要求出力Pdは、熱機関出力Peと排熱回収機関出力Psとを合成することによって得られる合成出力(出力発生源から取り出される出力発生源全体としての出力に相当)に対して、ドライバが要求する出力となる。以下、ドライバの要求出力Pdを要求出力という。
要求出力Pdは、例えば、アクセル開度センサ40から取得するアクセル40p(図2、図6参照)の開度、及び車速センサ42から取得する、内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両の速度(車速)に基づいて算出することができる。ここで、ステップS101、ステップS102、ステップS103の順序は問わない。
熱機関出力Pe、排熱回収機関出力Ps及び要求出力Pdを求めたら、運転条件判定部31は、要求出力Pdを、熱機関出力Peと排熱回収機関出力Psとの和(Pd+Ps)と比較する(ステップS104)。Pd=Pd+Psである場合(ステップS104:Yes)、内燃機関1及び排熱回収装置10は、ドライバが要求する出力を発生している。したがって、内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両は、ドライバが要求する出力で走行していると判定できる。この場合、STARTに戻り、運転条件判定部31は、内燃機関1及び排熱回収装置10の運転状態の監視を継続する。
Pd=Pe+Psでない場合(ステップS104:No)、運転条件判定部31は、Pd<Pe+Psであるか否かを判定する(ステップS105)。Pd>Pe+Psである場合(ステップS105:No)、内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両は、ドライバが要求する出力よりも小さい出力によって走行していると判定できる。この場合、前記車両は、ドライバの意思通りに走行しているといえないので、出力発生源の出力を増加させることにより前記車両の駆動力を増加させる必要がある。
この実施形態において、出力発生源の出力を増加させるにあたっては、内燃機関1の出力又は排熱回収装置10が備えるスターリングエンジン100の出力のうち少なくとも一方を増加させればよい。この実施形態では、内燃機関1の出力のみを増加させる。スターリングエンジン100は、排ガスExからの入熱がヒータ105を経て作動流体へ伝熱するため、入熱の変化に対する応答性が悪く、急な入熱の変化に対する出力の追従が遅い。このため、運転制御装置30の出力制御部32は、出力変化の追従性が高い内燃機関1の出力Peを増加させる(ステップS106)。すなわち、熱機関出力Peが排熱回収機関出力Psに優先して変更される。これによって、熱機関用変速装置4の出力軸9から出力される、熱機関出力Peと排熱回収機関出力Psとの合成出力を、速やかに要求出力の値とすることができる。
Pd<Pd+Psである場合(ステップS105:Yes)、内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両は、ドライバが要求する出力よりも大きい出力で走行していると判定できる。この場合、前記車両は、ドライバの意思通りに走行しているとはいえないので、出力発生源の出力を減少させることにより前記車両の駆動力を減少させる必要がある。出力発生源の出力を減少させるにあたって、運転条件判定部31は、熱機関出力Peが、最小熱機関出力Pe_minになっているか否かを判定する(ステップS107)。最小熱機関出力Pe_minは、内燃機関1が発生できる最小の出力である。
Pe=Pe_minでない場合(ステップS107:No)、すなわち、Pe>Pe_minである場合、出力発生源の出力を減少させるにあたって、熱機関出力Peを減少させる余地がある。したがって、出力制御部32は、熱機関出力Peを減少させる(ステップS108)。これによって、速やかに内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両の駆動力を低下させることができるので、ドライバが要求する出力で前記車両を走行させることができる。
Pe=Pe_minである場合(ステップS107:Yes)、出力発生源の出力を減少させるにあたって、熱機関出力Peを減少させることはできない。したがって、出力発生源の出力を減少させるにあたっては、スターリングエンジン100の出力、すなわち排熱回収機関出力Psを減少させる必要がある。
排熱回収機関出力Psを減少させるにあたって、運転条件判定部31は、排熱回収機関出力Psと低回転側排熱回収機関出力最小値Ps_min_lとを比較する(ステップS109)。低回転側排熱回収機関出力最小値Ps_min_lとは、スターリングエンジン100が最大出力を発生する排熱回収機関回転数(排熱回収機関最大出力回転数)Ns_pよりも低い回転数において、スターリングエンジン100が発生できる最小の出力である。
Ps>Ps_min_lである場合(ステップS109:Yes)、排熱回収機関出力Psを減少させる余地がある。したがって、Ps>Ps_min_lである場合、出力制御部32は排熱回収機関用変速機5の変速比を変更して、排熱回収機関回転数Nsを低回転側に制御する(ステップS110)。より具体的には、排熱回収機関回転数Nsを排熱回収機関最大出力回転数Ns_pよりも低い回転数とするとともに、要求出力Pdが熱機関出力Peと排熱回収機関出力Psとの和よりも小さく、かつ熱機関出力Peが最小熱機関出力Pe_minに等しい場合よりも低回転にする。
これによって、図3に示すように、排熱回収機関出力Psを低下させることができるので、ドライバが要求する出力で前記車両を走行させることができる。特に、前記車両が減速しているときには、ドライバの要求通りの減速加速度を得ることができるので好ましい。また、排熱回収機関用変速機5の変速比を変更して排熱回収機関出力Psを定価させるので、スターリングエンジン100に対する入熱量を変更する必要はない。その結果、速やかに内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両の駆動力を低下させることができる。
Ps>Ps_min_lでない場合(ステップS109:No)、すなわち、Ps=Ps_min_lである場合、Ps_min_l以下に排熱回収機関出力Psを減少させる余地はない。したがって、Ps>Ps_min_lでない場合、出力制御部32は排熱回収機関用変速機5の変速比を変更して、排熱回収機関回転数Nsを高回転側に制御する(ステップS111)。より具体的には、排熱回収機関回転数Nsを排熱回収機関最大出力回転数Ns_pよりも高い回転数とするとともに、要求出力Pdが熱機関出力Peと排熱回収機関出力Psとの和よりも小さく、かつ熱機関出力Peが最小熱機関出力Pe_minに等しい場合よりも高回転にする。このとき、低回転側排熱回収機関出力最小値Ps_min_lよりも小さくなるまで排熱回収機関回転数Nsを上昇させる。図3に示す例では、Ns_1よりも排熱回収機関回転数Nsを大きくする。
これによって、図3に示すように、排熱回収機関出力Psを低回転側排熱回収機関出力最小値Ps_min_lよりも低下させることができるので、ドライバが要求する出力で前記車両を走行させることができる。特に、前記車両が減速しているときには、ドライバの要求通りの減速加速度を得ることができるので好ましい。また、排熱回収機関用変速機5の変速比を変更して排熱回収機関出力Psを定価させるので、スターリングエンジン100に対する入熱量を変更する必要はない。その結果、速やかに内燃機関1及び排熱回収装置10が搭載される車両の駆動力を低下させることができる。
排熱回収機関回転数Nsを高回転側に制御した(ステップS111)後、運転条件判定部31は、排熱回収機関出力Psと高回転側排熱回収機関出力最小値Ps_min_hとを比較する(ステップS112)。高回転側排熱回収機関出力最小値Ps_min_hとは、スターリングエンジン100が最大出力を発生する排熱回収機関回転数(排熱回収機関最大出力回転数)Ns_pよりも高い回転数におけるスターリングエンジン100の最小の出力である。
PsがPs_min_hに到達していない場合(ステップS112:No)、排熱回収機関出力Psをさらに減少させる余地がある。したがって、排熱回収機関出力Psをさらに低下させる要求がある場合は、排熱回収機関用変速機5の変速比を変更することによって排熱回収機関出力Psをさらに低下させることができる。Ps=Ps_min_hである場合(ステップS112:Yes)、排熱回収機関出力Psをさらに減少させることはできない。したがって、排熱回収機関出力Psをさらに低下させる要求がある場合であっても、排熱回収機関出力PsはPs_min_hとなる。
以上、この実施形態では、熱機関と排熱回収機関との間に、スターリングエンジンが発生する出力を内燃機関に伝達し、かつ、熱機関の回転数に対する排熱回収機関の回転数の比(回転数比)を変更する変速装置を設ける。そして、出力発生源である内燃機関及びスターリングエンジンに対して要求される要求出力よりも、内燃機関が発生する熱機関出力及びスターリングエンジンが発生する排熱回収機関出力の和の方が大きくなり、かつ内燃機関が発生する出力が最小値となった場合に、スターリングエンジンの回転数を変更する。これによって、スターリングエンジンの出力を小さくすることができるので、要求通りの出力を出力発生源から取り出すことができる。なお、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。