JP4702267B2 - 析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に係り、特に、蒸気タービン動翼に関するものである。
火力発電用蒸気タービンに用いられる低圧段動翼は、蒸気タービンの効率を高めるために、終段動翼の翼長を長くする方法が採られている。
翼長の長い終段を含む低圧段動翼には、高強度・高靭性および高耐食性が要求され、さらにエロージョン対策のために焼入れ硬化性などが求められる。
このような要求に対応するため、高Crを含有する特許文献1や特許文献2に記載のような12Cr鋼や、特許文献3や特許文献4に記載のように析出硬化型のマルテンサイト鋼などが蒸気タービンの低圧段動翼として使用されている。
特開2001−098349号公報 特開2005−171339号公報 特開2005−194626号公報 USP5,681,528
信頼性が高いエロージョン対策として、動翼の先端へのステライト接合があり、広く用いられている。
しかし、多くの析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、ステライト溶合の後に応力除去焼きなまし(SR)処理を行った場合、強度特性を得るための時効温度よりも高い温度でSR処理を行う必要があり、強度低下が生じる。
ステライト接合する部分に限定してSR処理を実施する場合は、必ずしもその限りではないが、蒸気タービンに使用する多数の動翼に対して、効率よく部分的にSR処理を施すことができるような装置がないため、一般的には、炉内で、動翼の全体を熱処理する方法が用いられている。
そのため、SR処理の温度以上の時効温度で強度が得られる、高強度・高靭性を有する析出硬化型マルテンサイト鋼が必要となる。
特許文献3および特許文献4において、高い時効温度での高強度を得る材料が確認されている。しかし、これらの材料は、フェライト形成元素で計算されるCr当量が高くなり、δフェライトを生成し易くなり、また、オーステナイト形成元素で計算されるNi当量が高くなり、残留オーステナイトを生成し易くなるなど、マルテンサイト組織の安定性を欠く。
そこで、本発明は、マルテンサイト組織の安定性に優れ、高強度・高靭性を有する析出硬化型マルテンサイト鋼を提供するものである。
本発明の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、質量で、C:0.05% 以下,Si:0.10%以下,Mn:0.10%以下,Ni:8.00〜10.00%,Cr:
11.00〜12.50%,Mo:0.80〜2.00%,Cu:2.50〜3.50%,Nb:0.10〜0.30%,Ti:1.00〜2.00%,P:0.01%以下,S:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなることを特徴とする。
そして、Mo,CuおよびTiの総和が4.3〜7.5%であり、このときの割合がCu:35〜65%,Ti:15〜35%,Mo:15〜35%であることが望ましい。
こうした、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、蒸気タービン動翼、特に、低圧段の蒸気タービン動翼に用いられることが望ましい。
また、本発明は、Mo,CuおよびTiを含む析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた蒸気タービン動翼であって、Mo,CuおよびTiの割合が、Cu:35〜
65%,Ti:15〜35%,Mo:15〜35%であるとも表現することができ、このとき、Mo,CuおよびTiの総和が、質量で、4.3〜7.5%であることが望ましい。
そして、Mo,CuおよびTiの含有量は、質量で、Mo:0.80〜2.00%,Cu:2.50〜3.50%,Ti:1.00〜2.00%を含み、他には、C,Si,Mn,
Ni,Cr,Nb,P,Sの元素を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなることが望ましい。
C,Si,Mn,Ni,Cr,Nb,P,Sの含有量は、質量で、C:0.05% 以下,Si:0.10%以下,Mn:0.10%以下,Ni:8.00〜10.00%,Cr:
11.00〜12.50%,Nb:0.10〜0.30%,P:0.01%以下,S:0.01%以下を含むことが望ましい。
なお、本実施形態の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、低圧の蒸気タービンの後段動翼、特に最終段動翼に使用することが望ましい。
本発明は、マルテンサイト組織の安定性に優れ、高強度・高靭性を有する析出硬化型マルテンサイト鋼を提供することができる。
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
(成分限定理由)
Cは、微細炭化物の析出による強度向上やδフェライトの生成の抑制に効果があるが、残留オーステナイトの生成や耐食性を低下させる要因となる。そのため、0.05% 以下、特に、十分な耐食性を配慮する場合には、0.02% 以下とすることが望ましい。
Siは、脱酸材の効果があるが、過剰含有は脆化特性の悪化やδフェライトの生成を促進させる原因となる。そのため、0.10%以下とすることが望ましく、さらに0.05%以下とし、Siの含有量を低く抑えることが望ましい。
Mnは、Siと同様に脱酸材の効果があり、δフェライトの生成の抑制に効果があるが、過剰含有は脆化特性の悪化や残留オーステナイトを生成させる原因となる。そのため、0.10%以下とすることが望ましく、さらに0.05%以下とし、Siと同様にMnの含有量も低く抑えることが望ましい。
Niは、微細金属間化合物の形成による強度向上やδフェライトの生成の抑制,靭性の向上に効果があるが、過剰含有は残留オーステナイトを生成させる原因となる。材料の特性と組織の安定性とのバランスから8.00%〜10.00%とすることが望ましい。
Crは、耐食性を高め、腐食環境下で使用する蒸気タービンの動翼の材料には欠くことのできない元素である。ただし、含有量が多くなるとδフェライトの生成を促進させる原因となる。材料の特性と組織の安定性とのバランスから11.00%〜12.50%とすることが望ましい。
Nbは、Cと結合して微細な炭化物を形成し、強度を高め、また、組織の微細化に効果がある。0.30% を超える含有では、δフェライトの生成を促進させる原因となり、マルテンサイト組織の安定性を欠くことになる。そのため、0.10〜0.30%とすることが望ましい。
PおよびSは、不純物元素で、脆化を引き起こす原因となるため可能な限り、含有量を低くすることが望ましいが、完全に含有させないことは難しく、0.03% 以下とすることが望ましく、さらに0.01% 以下とし、PおよびSの含有量を低く抑え、可能な限り低減することが望ましい。
Moは、固溶強化により強度を高め、焼戻し脆化防止および焼戻し軟化防止の効果があり、耐食性を向上させる元素である。但し、0.80% 未満では十分な固溶の効果が得られず、2.00% を超える含有ではδフェライトの生成を促進させる原因となり、マルテンサイト組織の安定性を欠くことになる。そのため、0.80%〜2.00%とすることが望ましい。
Cuは、耐食性向上に優れた特性を示し、また、組織中に微細なCu−rich相が分散析出することで強度向上の効果が得られる。しかし、過剰含有は熱間加工性や、強度・靭性を低下させ、δフェライトの生成を促進させる原因となる。このため、2.50〜
3.50%とすることが望ましい。
Tiは、Niと結合して微細金属間化合物を形成して、強度を高める効果がある元素である。しかし、過剰含有は、靭性を低下させるため、1.00〜2.00%とすることが望ましい。
(材料組成設計)
低圧の蒸気タービンの最終段動翼は、特に、引張強度や疲労強度と靭性および耐食性が必要である。
また、δフェライトや残留オーステナイトなどの組織偏析があると疲労強度を低下させる。そのため、回転体である動翼の材料は、組織の安定性が不可欠である。
さらに、エロージョンシールドの溶接後のSR処理を行っても、強度低下を引き起こさないように高い時効温度での引張強度を得る必要がある。
本発明の材料組成設計の基本的な考えは、質量で、C:0.05%以下,Si:0.10%以下,Mn:0.10%以下,Ni:8.00〜10.00%,Cr:11.00〜12.50%の組成をベース組成として、Mo,Cu,Nb,Tiの含有量を適正化して、ステンレス鋼の強度を強化するところにある。
ベース組成は、優れた耐食性を得るため、Crの含有量を11.00〜12.50%とする必要があり、強化のために加えるフェライト形成元素である、Mo,Nb,Tiを必要量添加してもδフェライトの生成を抑制できる範囲とした。
また、γ領域の拡大によるマルテンサイトの安定化やδフェライトの生成の抑制、金属間化合物析出および靭性強化などに必要な元素であるため、Niの含有量を8.00〜
10.00% とする必要があり、強化のために加えるオーステナイト形成元素であるCuを必要量添加しても残留オーステナイトの生成を抑制できる範囲とした。
なお、強度の強化は、Mo,Cu,Nb,Tiの添加で析出硬化させるという考えである。
本発明において重要なことは、高い時効温度で強度が得られるということである。具体的には、560℃以上の時効温度で1260MPa以上の強度が必要である。そのために、Mo:0.80〜2.00%,Cu:2.50〜3.50%,Nb:0.10〜0.30%,Ti:1.00〜2.00%とした。
高耐食性および高引張強度を得るためには、特に、Cu,MoおよびTiの複合添加が有効であり、その添加量の和は4.3〜7.5%の範囲が良い。さらに、これら元素の総和を100とした場合の元素の割合は、Cu:35〜65%,Ti:15〜35%,Mo:15〜35%となるようにすることが望ましい。
(熱処理)
熱処理は、固溶化処理および時効処理が施される。固溶化処理は、固溶化温度950〜1050℃で保持され強制冷却することが望ましい。時効処理は、時効温度550〜600℃で保持され強制冷却することが望ましい。
なお、本実施形態は、均一なマルテンサイト組織とすることが望ましく、それにより高強度,高靭性が得られ、引張強度,疲労強度の低下に寄与する偏析を抑えることで回転体の材料としての特性を満足する。
(動翼製造方法)
本実施形態の動翼の製造方法は、析出硬化状態で加工する方法の他に、溶体化状態で加工・曲がり取りを行い、最後に時効処理する方法も用いることができる。溶体化状態では切削性が良く、加工効率の向上が期待できる。
本実施例で説明する材料として、真空溶解炉にて20kg溶解し、250kgハンマで鍛錬比8の鍛造を行い製作した。形状は幅60mm×高さ30mm×長さ900mmである。
熱処理は、1030℃で2時間保持後に強制冷却を施し、その後538℃〜583℃の所定の温度で4時間保持後に空冷を施した。
表1に試験に用いた試料の化学組成を示す。表1−1には、各元素の組成を示し、表1−2には、Cu,Mo,Tiの総含有量及び含有比を示す。
試料の組成は、均一な全焼戻しマルテンサイト組織であり、No.1〜7に記載した材料は、すべて本発明の本実施例である材料である。
引張試験は平行部直径6mm,平行部長さ30mmの引張試験片を用いて行った。衝撃試験はVノッチ試験片を用いて行った。
Figure 0004702267
Figure 0004702267
なお、表1−2に示した内容を図示したものが、図1である。
図1は、Mo,CuおよびTiの含有バランスを示した図であり、本発明の実施例としての試料は、Cu:35〜65%(表記載では43.2〜61.9%),Ti:15〜35%(表記載では18.5〜31.2%)、およびMo:15〜35%(表記載では18.4〜30.9%)の範囲に記載されている。なお、Mo,CuおよびTiのそれぞれの組成は、Mo:0.80〜2.00%(表記載では1.10〜1.97%),Cu:2.50〜3.50%(表記載では2.67〜3.73)、およびTi:1.00〜2.00%(表記載では1.04〜1.77%)であり、Mo,CuおよびTiの総和は4.3〜7.5%(表記載では5.09〜6.38%)である。
なお、表1に示すように本発明の実施例としての試料は、いずれもδフェライトが確認されなかった。
表2は、表1に示す試料を566℃で時効処理したものの、引張強さと衝撃吸収エネルギを示したものである。本発明の実施例としての試料は、時効温度566℃で1292N/mm2 以上の強度および35J以上の衝撃吸収エネルギを満足した。
Figure 0004702267
図2および図3は、時効温度と引張強さとの関係を、及び、時効温度と衝撃吸収エネルギとの関係を、それぞれ示したものである。
図2および図3から分かるように、本発明の実施例としての試料は、所定の時効温度に対して十分な引張強さと衝撃吸収エネルギとを有する。
なお、表2では、566℃の時効温度で処理した試料に関して記載したが、図2及び図3では、539℃及び580℃の時効温度で処理した試料に関しても合わせて記載した。
539℃の時効温度の場合、引張強さは1450〜1500N/mm2 であり、衝撃吸収エネルギは28〜35Jである。
580℃の時効温度の場合、引張強さは1210〜1260N/mm2 であり、衝撃吸収エネルギは38〜62Jである。
このように本発明の実施例としての試料は、いずれもマルテンサイト組織の安定性に優れ、高強度・高靭性を有する析出硬化型マルテンサイト鋼であるといえる。
次に、図4及び図5は、本実施形態で示した高強度・高靭性マルテンサイト鋼を用いた低圧タービン動翼を示したものである。図4は、フォークタイプと呼ばれるものであり、図5は、アキシャルタイプと呼ばれるものである。
いずれの場合も、低圧段に使用される蒸気タービンの動翼0は、蒸気を受ける翼部1と根部2とを有する。
また、図6は、低圧の蒸気タービンの構造を示したものである。
蒸気タービンのロータ10の翼溝に動翼0の根部2が植設される。ロータ10には、フォークタイプの動翼が形成される場合にはフォークタイプの、アキシャルタイプの動翼が形成される場合にはアキシャルタイプの溝が形成される。
なお、本実施形態においては、動翼0として、表1記載のNo.1の組成を用いた。
そして、本実施形態では、この動翼0を低圧の蒸気タービンの最終段動翼11として使用する。
また、製造方法としては、電気炉で3トンの電極を溶解し、エレクトロスラグ再溶解後、各鍛造工程を経て、最後に43インチ翼型を用いて、型打ち鍛造を行った。
この型打ち翼を1030℃で2時間保持後、油冷を行い、次いで566℃で4時間保持の時効処理を行った。
この低圧の蒸気タービンの最終段動翼を切断調査した結果、目標特性(引張強さ≧1260N/mm2 ,衝撃吸収エネルギ≧33J)を満足すると共に、組織偏析や欠陥が無いことを確認した。
このように、本実施形態で示したマルテンサイト鋼は、健全なマルテンサイト組織を得ることができると共に、低圧蒸気タービンの最終段動翼のように厳しい蒸気条件下および応力条件下において使用しても優れた特性を有し、製造性に優れた蒸気タービンの動翼、特に、低圧段動翼を提供できる。また、合わせて蒸気タービンを提供することもできる。
なお、本実施形態で示したマルテンサイト鋼は、最終段動翼のみに使用されるものではなく、40インチ以上の翼長を有する高強度・高靭性が必要な蒸気タービンの低圧段の動翼にも使用可能である。
本発明は、火力発電用蒸気タービンに用いられる動翼に利用できる。
Cu,MoおよびTiの含有バランスを示した図。 時効温度と引張強さとの関係を示した図。 時効温度と衝撃吸収エネルギとの関係を示した図。 フォークタイプの蒸気タービン動翼を示した図。 アキシャルタイプの蒸気タービン動翼を示した図。 低圧の蒸気タービンの構造を示した図。
符号の説明
0 蒸気タービン動翼
1 翼部
2 根部
10 蒸気タービンロータ
11 最終段静翼
12 軸受け

Claims (6)

  1. 質量で、C:0.05%以下,Si:0.10%以下,Mn:0.10%以下,Ni:8.00〜10.00%,Cr:11.00〜12.50%,Mo:0.80〜2.00%,Cu:2.50〜3.50%,Nb:0.10〜0.30%,Ti:1.00〜2.00%,P:0.01%以下,S:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなることを特徴とする析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
  2. 請求項1に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼であって、
    Mo,CuおよびTiの総和が4.3〜7.5%であり、このときの割合がCu:35〜65%,Ti:15〜35%,Mo:15〜35%であることを特徴とする析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
  3. 請求項1に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を用いたことを特徴とする蒸気タービン動翼。
  4. 請求項2に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を用いたことを特徴とする蒸気タービン動翼。
  5. Mo,CuおよびTiを含む析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた蒸気タービン動翼であって、
    前記析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼が、質量で、C:0.05%以下,Si:0.10%以下,Mn:0.10%以下,Ni:8.00〜10.00%,Cr:11.00〜12.50%,Mo:0.80〜2.00%,Cu:2.50〜3.50%,Nb:0.10〜0.30%,Ti:1.00〜2.00%,P:0.01%以下,S:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物元素からなり、
    Mo,CuおよびTiの総和が、質量で、4.3〜7.5%であり、Mo,CuおよびTiの割合が、Cu:35〜65%,Ti:15〜35%,Mo:15〜35%であることを特徴とする蒸気タービン動翼。
  6. 請求項5に記載の蒸気タービン動翼を低圧段に用いたことを特徴とする蒸気タービン
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