JP4508772B2 - 蒸気タービンロータの補修方法、肉盛溶接材料及び蒸気タービン - Google Patents
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特許文献1には、肉盛溶接にとって望ましい材料として、Cが0.04〜0.22wt%、Mnが0.15〜1.0wt%、Siが0.15〜1.0wt%、Pが0.0〜0.02wt%、Sが0.0〜0.016wt%、Niが0.0〜0.8wt%、Crが4.00〜19.0wt%、Moが0.43〜2.1wt%、Vが0.09〜0.5wt%、Nbが0.03〜0.20wt%、Alが0.0〜0.08wt%、Cuが0.0〜0.20wt%、Nが0.005〜0.06wt%、Feが残部を占める合金が開示されている。
1)タービンロータが応力腐食あるいは腐食疲労によって亀裂等の損傷を受けているのであるから、肉盛溶接に用いる材料は、タービンロータに用いられる材料よりも耐食性が優れることが望ましい。
2)タービンロータは低合金鋼から構成されている。この低合金鋼は、炭素を多く含む材料であるため、肉盛溶接時の熱によって焼きが入る熱影響部が発生する。この熱影響部は、硬くかつ脆くなってしまうため、焼もどしを行う必要がある。
3)肉盛溶接部は、タービンロータと同等以上の機械的強度を備えていることが必要である。
1)溶接材料としてタービンロータと同じ成分の材料を用いることは、溶接性の観点からは望ましいが、低合金鋼では十分な耐食性を得ることができない。また、十分な機械的強度も得られない。
2)耐食性の高い材料としてステンレス鋼を用いることが考えられるが、ステンレス鋼は機械的強度が十分でない。また、ステンレス鋼は、一般に炭素量が少ない。そのために、溶接後に応力除去焼鈍を行うと、タービンロータ材から溶接材料側に炭素が移動するカーボンマイグレーション現象が発生する。そうすると、溶接材料に隣接するタービンロータ材の組織がベイナイトからフェライトへ変化してしまい、その部分の強度が低下してしまう。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、耐食性、機械的強度の優れる溶接材料、さらにはその溶接材料を用いてタービンロータを補修する方法を提供することを目的とする。また本発明は、そのような溶接材料を用いて補修されたタービンを提供することを目的とする。
Cr当量=Cr含有量(%)+6×Si含有量(%)+4×Mo含有量(%)+1.5×W含有量(%)+5×Nb含有量(%)−40×C含有量(%)−2×Mn含有量(%)−4×Ni含有量(%)−30×N含有量(%)
Cr当量=Cr含有量(%)+6×Si含有量(%)+4×Mo含有量(%)+1.5×W含有量(%)+5×Nb含有量(%)−40×C含有量(%)−2×Mn含有量(%)−4×Ni含有量(%)−30×N含有量(%)
本発明は低圧タービンに適用される。低圧タービン1の一例を図1に示す。図1に示すように、低圧タービン1は、タービンロータ2と翼3とを構成要素として含む。低圧タービン1の駆動中には、翼3には遠心力により円周方向への張力が加わり、翼3を結合するタービンロータ2の翼溝部21には高い応力が加わり、図2に示すように応力腐食割れA等の損傷を起こすことがある。本発明は、このような損傷を補修する肉盛溶接材料、補修方法及び補修されたタービンに関するものである。
始めに、本発明の肉盛溶接材料(以下、肉盛溶接材料を、単に「溶接材料」という)を説明する。
本発明の溶接材料は、重量比でC:0.01〜0.05%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.1〜0.8%、Ni:3.5〜6%、Cr:12〜16%、Mo:0.01〜0.5%、Cu:3〜5%、Nb:0.03〜0.5%、N:0.005〜0.1%、残部Fe及び不可避的不純物から構成される。この溶接材料は、マルテンサイト組織を有する。以下、各元素の限定理由を説明する。
Cは鋼にとって重要な元素である。しかし、C量が多くなると本来はマトリックスに存在して耐食性向上に寄与するCrと炭化物を形成する傾向が強くなり、耐食性を劣化させる。そこで本発明ではCの上限を0.05%とする。ただし、C量が極端に少なくなると素材製造時に多大な工数を必要とするので、製造コストを考慮して0.01%以上とする。好ましいC量は0.02〜0.04%である。
鋼の中で脱酸剤として機能する。Siは溶鋼の時の他に、溶接時にも脱酸剤として機能することがある。つまり、溶接時に溶接金属は大気に触れる可能性があり、この時に大気中の酸素に対する脱酸剤として機能することがある。溶湯の脱酸処理を真空中で行う場合であっても、Siを所定量含有させることが望ましい。以上の効果を発揮するために、Siは0.01%以上含有する。ただし、含有量が多くなると靭性が低下するために、0.6%を上限とする。好ましいC量は0.05〜0.3%である。
Mnはマトリックス中に固溶して焼入れ性を高める作用がある。また、その結果として、δ−フェライトの生成を抑制する作用がある。さらに、Siと同様の脱酸剤としての効果も有する。Mn含有量が0.1wt%以下ではその効果を十分得ることができない。ただし、0.8%を超えてもその量に見合う効果を得ることができないため、本発明ではMn含有量を0.1〜0.8%にする。好ましいMn含有量は0.2〜0.6%、さらに好ましいMn含有量は0.3〜0.5%である。
Niもマトリックスを構成する元素であり、焼入れ性を高めて均一なマルテンサイト組織とするのに寄与する。特に、δ−フェライト生成の抑制に有効に寄与する。また、NiはCuとともに金属間化合物を構成して材料の機械的強度を向上する機能を有している。さらに、Niが所定量含まれていると応力除去焼鈍時にマルテンサイト組織の一部が逆変態オーステナイト相となって溶接金属の靭性向上に寄与する。ただし、含有量が多くなりすぎると、マルテンサイト組織が不安定となり、オーステナイト組織に変わってしまうことになり、十分な機械的強度を得ることができない。また、オーステナイト組織にならないとしても、逆変態オーステナイト組織が多くなりすぎて機械的強度の確保が難しくなる。そこで、Ni含有量は3.5〜6%とする。好ましいNi含有量は4〜5.5%、特に好ましいNi含有量は4.5〜5.4%である。
Crもマトリックスを構成する元素である。Crは耐食性を確保する上で大切な元素であり、その量が少ないと十分な耐食性が得られない。また、Ni含有量とのバランスにもよるが、その量が少ないとマルテンサイト組織が安定とはならずにオーステナイト組織となってしまい、十分な機械的強度を得ることができない。一方、Cr含有量が多すぎると組織中にδ−フェライトが出現し、延性、靭性を低下させる。そこで本発明では、Cr含有量を12〜16%とする。好ましいCr含有量は13〜15.5%、さらに好ましいCr含有量は14〜15%である。
Moは耐孔食性に有効な元素である。また、MoはCとの親和力が強いため、前述のカーボンマイグレーションの抑制に有効である。これらの効果を得るために本発明では0.01%以上含有するが、その含有量が多くなりすぎると、他の元素とのバランスにもよるが、δ−フェライトの生成を助長する。そこで本発明では、Mo含有量を0.01〜0.5%とする。好ましいMo含有量は0.1〜0.4%、さらに好ましいMo含有量は0.1〜0.3%である。
CuはNiとともに金属間化合物を形成して機械的強度の確保に寄与する。この効果を十分に享受するためには3%以上含有させることが必要である一方、5%を超えてもその量に見合う効果を期待することができない。そこで本発明では、Cu含有量を3〜5%とする。好ましいCu含有量は3.2〜4.5%、さらに好ましいCu含有量は3.5〜4%である。
Nbは結晶粒を微細化して機械的強度を向上する。また、Nbは、Cとの親和力が強く、前述のカーボンマイグレーションを抑制する作用を有している。Nb含有量が0.03%未満ではこれらの効果を十分に享受することができず、また0.5%を超えると粗大なNbCが析出して靭性を低下させる。そこで本発明では、Nb含有量を0.03〜0.5%とする。好ましいNb含有量は0.05〜0.3%、さらに好ましいNb含有量は0.07〜0.2%である。
Nはマトリックス中に固溶してマルテンサイト組織を安定化させる作用を有する。本発明の溶接材料は、耐食性の観点からC含有量を低く抑えており、マルテンサイト組織を安定化するためにCを補う元素の含有が必要である。この元素として本発明ではNを用いるのである。N含有量が0.005%未満では以上の効果を十分に享受することができず、0.1%を超えて含有するとマルテンサイト組織が不安定となり、オーステナイト組織が安定になるか、もしくは逆変態オーステナイト相の量が増えすぎてしまい、十分な機械的強度を得にくくなる。そこで本発明では、N含有量を0.005〜0.1%とする。好ましいN含有量は0.01〜0.05%、さらに好ましいN含有量は0.15〜0.03%である。
本発明において、タービンロータを構成する材料を限定するものではないが、以下の表1に示す組成の材料を用いることができる。
本発明は、TIG溶接(Tungsten Inert Gas Arc Welding)、サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding)を適用することができる。TIG溶接は、Arガス雰囲気中でフラックスなどを一切使用しないで溶接を行うため、溶接部の品質が高く、延性、靭性等の機械的特性が良好な溶接金属を得ることができる。しかし、TIG溶接は、溶接の効率が低く、タービンロータの補修を行う場合に、多数の工数を必要とする。これに対してサブマージアーク溶接は、TIG溶接に比べて溶接金属の品質は劣るものの、溶接効率に優れ、短時間で補修作業を終えることができる。本発明では、このように各々の特徴を有するTIG溶接(Tungsten Inert Gas Arc Welding)、サブマージアーク溶接(Submerged Arc Welding)を適宜適用することができる。
本発明において、溶接施工後に、応力除去焼鈍を行うことができる。
タービンロータにおいて、溶接による熱影響を受けた部分(熱影響部)は、硬度が上昇する。この硬度を低下するために、応力除去焼鈍を行う。熱影響部の硬度を低下させるためには応力除去焼鈍の温度を高くすればよいが、そうすると溶接金属の機械的強度が低下する。また、熱影響部の硬度及び溶接金属の機械的強度には、温度のみならず、応力除去焼鈍の時間も影響する。本発明では、熱影響部の硬度及び溶接金属の機械的強度の両者を考慮して、580〜620℃で5〜20時間保持する応力除去焼鈍を溶接後に施すことを推奨する。応力除去焼鈍の温度が580℃未満、あるいは時間が5時間未満では熱影響部の硬さを十分に低下させることができず、逆に620℃を超えるか又は20時間を超えると溶接金属の機械的強度が低下してしまうからである。望ましい応力除去焼鈍の温度は585〜615℃、さらに望ましい応力除去焼鈍の温度は590〜610℃である。また、望ましい応力除去焼鈍の温度の時間は7〜18時間、さらに望ましい応力除去焼鈍の温度の時間は8〜12時間である。
表2に示す化学組成の溶接材料、タービンロータ材料(以下、ロータ材料)を用意した。なお、表2において、溶接材料No.1(従来材)は2Cr−1Mo系の材料であり、従来から耐熱性を必要とする圧力容器等の溶接に用いられているものである。溶接材料No.2(従来材)はロータ材料と同程度のNi:3.5%含有する従来から用いられている溶接材料ある。
表2に示すロータ材料を図3に示す開先形状を有する試験片に加工した。この試験片の開先部分に、表2に示す溶接材料をTIG溶接にて溶接した後に、600℃で10時保持する応力除去焼鈍を施した。その後、溶接金属部分について表3に示す機械的特性の評価を行った。また、カーボンマイグレーション発生の有無、δ−フェライト発生の有無を確認した。その結果を表3に示す。なお、表3において、カーボンマイグレーションが発生しない場合に○を、発生した場合に×を、δ−フェライトが発生しない場合に○を、発生した場合に×を付している。さらに、カーボンマイグレーションは、ロータ材料における溶接金属との境界部分の硬さの落ち込みがHv(ビッカース硬さ)で30を超える場合にカーボンマイグレーションが発生したと判断した。
次に、溶接材料No.6は、0.2%耐力が750MPa未満と十分な機械的強度が得られない。これは、Cu含有量が2.54wt%と不足するために、機械的強度向上に有効な金属間化合物の析出量が不足しているためと解される。
溶接材料No.9、12及び13は、室温衝撃エネルギーが他の材料よりも低く、靭性が劣ることがわかる。これは、靭性の劣るδ−フェライトが組織中に生成しているためである。なお、溶接材料No.9、12及び13は、表2に示すように、Cr当量が大きく、δ−フェライトが生成しやすい組成になっているためである。
逆にNb含有量が0.55wt%と多い溶接材料No.14は、室温衝撃エネルギーが他の材料よりも低く、靭性が劣る。これは、初晶の粗大なNbCが析出したことに基づいている。したがって、必要以上にNbを含有させることは避ける必要がある。
Claims (6)
- 低合金鋼から構成される蒸気タービンロータに発生した損傷部に対して、
重量比でC:0.01〜0.05%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.1〜0.8%、Ni:3.5〜6%、Cr:12〜16%、Mo:0.01〜0.5%、Cu:3〜5%、Nb:0.03〜0.5%、N:0.005〜0.1%、残部Fe及び不可避的不純物から構成され、下記で示されるCr当量が−15〜0の範囲にある材料を肉盛溶接して補修することを特徴とする蒸気タービンロータの補修方法。
Cr当量=Cr含有量(%)+6×Si含有量(%)+4×Mo含有量(%)+1.5×W含有量(%)+5×Nb含有量(%)−40×C含有量(%)−2×Mn含有量(%)−4×Ni含有量(%)−30×N含有量(%) - 前記肉盛溶接後、580〜620℃で5〜20時間保持する熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービンロータの補修方法。
- 前記肉盛溶接をTIG溶接又はサブマージアーク溶接で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気タービンロータの補修方法。
- 低合金鋼から構成される被溶接材用の肉盛溶接材料であって、
重量比でC:0.01〜0.05%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.1〜0.8%、Ni:3.5〜6%、Cr:12〜16%、Mo:0.01〜0.5%、Cu:3〜5%、Nb:0.03〜0.5%、N:0.005〜0.1%、残部Fe及び不可避的不純物から構成され、下記で示されるCr当量が−15〜0の範囲にあることを特徴とする肉盛溶接材料。
Cr当量=Cr含有量(%)+6×Si含有量(%)+4×Mo含有量(%)+1.5×W含有量(%)+5×Nb含有量(%)−40×C含有量(%)−2×Mn含有量(%)−4×Ni含有量(%)−30×N含有量(%) - 前記肉盛溶接材料が重量比でC:0.02〜0.04%、Si:0.05〜0.3%、Mn:0.2〜0.6%、Ni:4〜5.5%、Cr:13〜15.5%、Mo:0.1〜0.4%、Cu:3.2〜4.5%、Nb:0.05〜0.3%、N:0.01〜0.05%、残部Fe及び不可避的不純物から構成されることを特徴とする請求項4に記載の肉盛溶接材料。
- 低合金鋼から構成され、翼結合部を備える蒸気タービンロータと、
前記翼結合部を介して前記蒸気タービンロータと一体化される翼と、を備え、
前記翼結合部は、重量比でC:0.01〜0.05%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.1〜0.8%、Ni:3.5〜6%、Cr:12〜16%、Mo:0.01〜0.5%、Cu:3〜5%、Nb:0.03〜0.5%、N:0.005〜0.1%、残部Fe及び不可避的不純物から構成され、下記で示されるCr当量が−15〜0の範囲にある材料が肉盛溶接されていることを特徴とする蒸気タービン。
Cr当量=Cr含有量(%)+6×Si含有量(%)+4×Mo含有量(%)+1.5×W含有量(%)+5×Nb含有量(%)−40×C含有量(%)−2×Mn含有量(%)−4×Ni含有量(%)−30×N含有量(%)
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