JP4697660B2 - 高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
組成式:[Ti1-(E+F) AlE ZrF]N(ただし、原子比で、Eは0.45〜0.65、Fは0.05〜0.15を示す)、
を満足するTiとAlとZrの複合窒化物[以下、(Ti,Al,Zr)Nで示す]層からなる硬質被覆層を2〜6μmの平均層厚で蒸着形成してなる被覆超硬工具が知られており、前記(Ti,Al,Zr)N層は、構成成分であるAlによって高温硬さと耐熱性、同Tiによって高温強度、さらに同Zrによって耐熱塑性変形性を具備することから、切削時に相対的に高い発熱を伴う合金工具鋼や軸受鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の切削加工に用いた場合にも、すぐれた耐摩耗性を示すことも知られている。
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを切削時に相対的に高い発熱を伴う合金工具鋼や軸受鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の切削加工を通常の切削加工条件で行うのに用いる場合には、上記の通り切刃部は通常の正常摩耗形態を呈し、問題はなく、所定の耐摩耗性を発揮するが、特に前記高硬度鋼の切削加工を、一段と高い熱発生を伴なう高速切削加工条件で行うのに用いた場合には、硬質被覆層である(Ti,Al,Zr)N層に偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し、この結果摩耗進行が著しく促進するようになることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に上記の高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具を開発すべく、上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層を構成する(Ti,Al,Zr)N層に着目し、研究を行った結果、
(a)上記の従来硬質被覆層を構成する(Ti,Al,Zr)N層において、これに上記の高硬度鋼の高速切削加工に際して、熱塑性変形を十分満足に抑制することのできる高い耐熱塑性変形性を確保する目的で、さらに多くのZr成分を含有させると、構成成分であるTiおよびAl成分の少なくともいずれかの含有割合が低下することになるが、この場合、Ti成分が低下すれば高温強度が、またAl成分が低下すれば高温硬さと耐熱性が低下するようになるのは避けられず、したがって、Zr成分の含有割合は必然的に0.05〜0.15原子%程度の含有割合とならざるを得ないこと。
(b)上記(a)の(Ti,Al,Zr)N層において、Zr含有割合をきわめて高く、一方Zr成分の含有割合を高めた分、Al含有割合を低くした(Ti,Al,Zr)N層(以下、薄層Aという)と、前記薄層Aに比してZr含有割合は低いが、相対的にAl含有割合を高くし、所定の相対的に高い高温硬さと耐熱性とを備えた(Ti,Al,Zr)N層(以下、薄層Bという)を、それぞれの一層平均層厚を5〜20nm(ナノメーター)の薄層とした状態で交互積層すると、この交互積層構造の(Ti,Al,Zr)N層は、高Zr含有の薄層Aのもつすぐれた耐熱塑性変形性を損なうことなく、しかも、相対的にAl含有割合が高い薄層Bによってその高温硬さと耐熱性とが補われることにより、すぐれた耐熱塑性変形性を具備すると同時に相対的に高い高温硬さと耐熱性とを保持した交互積層構造の(Ti,Al,Zr)N層となること。
ここで、薄層A、薄層Bの組成式は、次のとおりである。
薄層Aの組成式:「Ti1-(A+B)AlAZrB]N(但し、原子比で、Aは0.20〜0.35、Bは0.35〜0.50を示す)
薄層Bの組成式:[Ti1-(C+D)AlCZrD]N(但し、原子比で、Cは0.50〜0.65、Dは0.01〜0.10を示す)
組成式:[Ti1-(E+F)AlEZrF]N(ただし、原子比で、Eは0.50〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足する、単一相構造の(Ti,Al,Zr)N層、
を設けた構造にすると、硬質被覆層は全体として、一段とすぐれた耐熱塑性変形性に加えて、高温硬さと耐熱性、さらに高温強度を具備したものとなるので、この硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆切削工具は、上記の高熱発生を伴う高硬度鋼の高速切削加工でも、偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された超硬基体の表面に、あるいは、高速度工具鋼基体の表面に、
(a)いずれも(Ti,Al,Zr)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも5〜20nm(ナノメ−タ−)の層厚を有する薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Ti1-(A+B)AlAZrB]N(ただし、原子比で、Aは0.20〜0.35、Bは0.35〜0.50を示す)を満足する(Ti,Al,Zr)N層、
上記薄層Bは、
組成式:[Ti1-(C+D)AlCZrD]N(ただし、原子比で、Cは0.50〜0.65、Dは0.01〜0.10を示す)を満足する(Ti,Al,Zr)N層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Ti1-(E+F)AlEZrF]N(ただし、原子比で、Eは0.50〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足する(Ti,Al,Zr)N層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具に特徴を有するものである。
(a)下部層の組成式および層厚
上記の通り、硬質被覆層を構成する(Ti,Al,Zr)N層におけるAl成分には高温硬さおよび耐熱性を向上させ、一方同Ti成分には高温強度、さらに同Zr成分には耐熱塑性変形性を向上させる作用があり、下部層ではAl成分の含有割合を相対的に多くして、高い高温硬さと耐熱性を維持するが、Alの含有割合を示すE値がTiとZrとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.50未満では、高硬度鋼の高速切削加工に要求されるすぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、摩耗進行促進の原因となり、一方Alの割合を示すE値が同0.65を越えると、高温強度が急激に低下し、この結果チッピング(微少欠け)などが発生し易くなることから、E値を0.50〜0.65と定めた。
また、Zrの割合を示すF値がTiとAlの合量に占める割合で、0.01未満では、所定の耐熱塑性変形性を確保することができず、一方同F値が0.10を超えると、下部層の具備する上記のすぐれた特性、すなわち高温硬さと耐熱性、および高温強度が急激に低下するようになることから、F値を0.01〜0.10と定めた。
さらに、その平均層厚が2μm未満では、自身のもつすぐれた高温硬さおよび耐熱性を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が6μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜6μmと定めた。
上部層の薄層Aの(Ti,Al,Zr)NにおけるZr成分には、上記の通りその含有割合をできるだけ高くして、耐熱塑性変形性を一段と向上させ、もって高熱発生を伴う高硬度鋼の高速切削加工で偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生を防止する作用があるが、その含有割合を示すB値がTiとAlの合量に占める割合で、0.35未満では前記作用に所望のすぐれた効果を確保することができず、一方同B値が0.50を越えると、隣接して相対的に高温硬さおよび耐熱性のすぐれた薄層Bが存在しても、上部層の高温硬さおよび耐熱性、さらに高温強度の低下は避けられず、摩耗が促進するようになったり、チッピングが発生し易くなったりすることから、B値を0.35〜0.50と定めた。
また、Alの割合を示すA値がTiとZrの合量に占める割合で、0.20未満では、最低限の高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、摩耗促進の原因となり、一方同A値が0.35を超えると、高温強度が急激に低下するようになり、チッピング発生の原因となることから、A値を0.20〜0.35と定めた。
上部層の薄層Bにおいては、上記薄層Aに比してZr成分の含有割合を相対的に低くし、かつAl成分の含有割合を相対的に高く維持することで、前記薄層Aに不足する高温硬さと耐熱性を具備せしめ、隣接する薄層Aの高温硬さおよび耐熱性不足を補強し、もって、前記薄層Aの有するすぐれた耐熱塑性変形性を損なうことなく、しかも、前記薄層Bの有する相対的にすぐれた高温硬さと耐熱性を具備した上部層を形成するものである。
薄層Bの組成式におけるAlの含有割合を示すC値が0.50未満になると、所定の相対的にすぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、摩耗進行が促進するようになり、一方同C値が0.65を越えると、上部層全体の高温強度低下は避けられず、チッピング発生の原因となることから、C値を0.50〜0.65と定めた。
また、Zrの割合を示すD値がTiとAlの合量に占める割合で、0.01未満では、上部層全体の耐熱塑性変形性の低下が避けられず、一方同D値が0.10を超えると、上部層全体の高温強度が急激に低下するようになることから、D値を0.01〜0.10と定めた。
それぞれの一層平均層厚が5nm未満ではそれぞれの薄層を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果上部層に所望のすぐれた耐熱塑性変形性、さらに所定の相対的に高い高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、またそれぞれの一層平均層厚が20nmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば高温硬さと耐熱性不足、薄層Bであれば耐熱塑性変形性不足が層内に局部的に現れ、これが原因でチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進するようになることから、それぞれの一層平均層厚を5〜20nmと定めた。
すなわち、薄層Bは、薄層Aの有する特性のうちの不十分な特性を補うために設けたものであるが、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚が5〜20nmの範囲内であれば、薄層Aと薄層Bの交互積層構造からなる上部層は、すぐれた耐熱塑性変形性を具備し、しかもこれを損なうことなく所定の高温硬さ、耐熱性を具備したあたかも一つの層であるかのように作用するが、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚が20nmを越えると、薄層Aの高温硬さ、耐熱性不足、あるいは、薄層Bの熱伝導性不足が層内に局部的に現れるようになり、上部層が全体として一つの層としての良好な特性を呈することができなくなるため、薄層A、薄層Bそれぞれの一層平均層厚を5〜20nmと定めた。
薄層Aと薄層Bの一層平均層厚を5〜20nmの範囲内とした交互積層構造からなる上部層を下部層表面に形成することにより、優れた耐熱塑性変形性、高温硬さ、耐熱性および高温強度を兼ね備えた硬質被覆層が得られる。
その層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた耐熱塑性変形性および所定の高温硬さと耐熱性を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その層厚が1.5μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その層厚を0.5〜1.5μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記薄層Bおよび下部層形成用Ti−Al−Zr合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面を前記Ti−Al−Zr合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記薄層Bおよび下部層形成用Ti−Al−Zr合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、表3,4に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Ti,Al,Zr)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層A形成用Ti−Al−Zr合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記超硬基体の表面に所定層厚の薄層Aを形成し、前記薄層A形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層Bおよび下部層形成用Ti−Al−Zr合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Bを形成した後、アーク放電を停止し、再び前記薄層A形成用Ti−Al−Zr合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成と、前記薄層Bおよび下部層形成用Ti−Al−Zr合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成を交互に繰り返し行い、もって前記超硬基体の表面に、層厚方向に沿って表3,4に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表3,4に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材: JIS・SKD11の焼入れ材(硬さ:HRC60)の丸棒、
切削速度:200 m/min.、
切り込み:1.5 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件A)での合金工具鋼焼入れ材の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は120m/min.)、
被削材:JIS・SKD61の焼入れ材(硬さ:HRC52)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:180 m/min.、
切り込み:1.0 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件B)での合金工具鋼焼入れ材の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は100m/min.)、
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC65)の丸棒、
切削速度:150 m/min.、
切り込み:1.0 mm、
送り: 0.15 mm/rev.、
切削時間: 10 分、
の条件(切削条件C)での軸受鋼焼入れ材の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)を行い、
いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
(ロ)また、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の寸法の高速度工具鋼(JIS・SKH57)素材から、機械加工にて、表7に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもった高速度工具鋼(以下、HSSという)基体(エンドミル)E−1〜E−6をそれぞれ製造した。HSS基体(エンドミル)E−1〜E−2、E−3〜E−4、E−5〜E−6の寸法・形状は、それぞれ、前記超硬基体(エンドミル)C−1〜C−3、C−4〜C−6、C−7〜C−8のそれと同じである。
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8及びHSS基体(エンドミル) E−1〜E−6の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表8に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Ti,Al,Zr)N層からなる下部層と、同じく層厚方向に沿って表8に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表8に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8及び本発明表面被覆高速度工具鋼製エンドミル(以下、本発明被覆HSSエンドミルと云う)9〜14をそれぞれ製造した。
(a−1)本発明被覆超硬エンドミル1〜3および従来被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をJIS・SKD61の焼入れ材(硬さ:HRC52)の板材、
切削速度:40 m/min.、
溝深さ(切り込み):0.3 mm、
テーブル送り: 80 mm/分、
の条件での合金工具鋼焼入れ材の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は25m/min.)を行い、
(a−2)本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC65)の板材、
切削速度:30 m/min.、
溝深さ(切り込み):0.2 mm、
テーブル送り: 70 mm/分、
の条件での軸受鋼焼入れ材の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は15m/min.)を行い、
(a−3)本発明被覆超硬エンドミル7,8および従来被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・SKD11の焼入れ材(硬さ:HRC60)の板材、
切削速度: 35 m/min.、
溝深さ(切り込み):0.3 mm、
テーブル送り: 35 mm/分、
の条件での合金工具鋼焼入れ材の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は20m/min.)を行い、
上記(a−1)〜(a−3)のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。
(b−1)本発明被覆HSSエンドミル9、10および従来被覆HSSエンドミル9、10については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をJIS・SKD61の焼入れ材(硬さ:HRC52)の板材、
切削速度:20 m/min.、
溝深さ(切り込み):0.2 mm、
テーブル送り: 50 mm/分、
の条件での合金工具鋼焼入れ材の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は10m/min.)を行い、
(b−2)本発明被覆HSSエンドミル11、12および従来被覆HSSエンドミル11、12については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC65)の板材、
切削速度:20 m/min.、
溝深さ(切り込み):0.2 mm、
テーブル送り: 50 mm/分、
の条件での軸受鋼焼入れ材の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は10m/min.)を行い、
(b−3)本発明被覆HSSエンドミル13、14および従来被覆HSSエンドミル13、14については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・SKD11の焼入れ材(硬さ:HRC60)の板材、
切削速度: 20 m/min.、
溝深さ(切り込み):0.2 mm、
テーブル送り: 25 mm/分、
の条件での合金工具鋼焼入れ材の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は10m/min.)を行い、
上記(b−1)〜(b−3)のいずれの溝切削加工試験でも、切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。
上記(a−1)〜(a−3)、(b−1)〜(b−3)の測定結果を表8,9にそれぞれ示した。
また、上記の実施例2で用いた高速度工具鋼(JIS・SKH57)素材を用い、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(HSS基体F−1、F−2)、8mm×22mm(HSS基体F−3、F−4)、および16mm×45mm(HSS基体F−5、F−6)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもった高速度工具鋼製のHSS基体(ドリル)F−1〜F−6をそれぞれ製造した。
ついで、これらの超硬基体(ドリル)D−1〜D−8及びHSS基体(ドリル)F−1〜F−6の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、表10に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Ti,Al,Y)N層からなる下部層と、同じく層厚方向に沿って表10に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表10に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明表面被覆切削工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8及び本発明表面被覆HSSドリル(以下、本発明被覆HSSドリルと云う)9〜14をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、上記の超硬基体(ドリル)D−1〜D−8及びHSS基体(ドリル)F−1〜F−6の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、同じく表11に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Ti,Al,Y)N層からなる硬質被覆層を蒸着することにより、比較表面被覆超硬製ドリル(以下、比較被覆超硬ドリルと云う)1〜8及び比較表面被覆HSSドリル(以下、比較被覆HSSドリルと云う)9〜14をそれぞれ製造した。
(c)つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および従来被覆超硬ドリル1〜8のうち、
(c−1)本発明被覆超硬ドリル1〜3および従来被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材−平面:100mm×250、厚さ:50mmの寸法を有するJIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC65)の板材、
切削速度: 40 m/min.、
送り: 0.12 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での軸受鋼焼入れ材の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は20m/min.)を行い、
(c−2)本発明被覆超硬ドリル4〜6および従来被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をJIS・SKD61の焼入れ材(硬さ:HRC52)の板材、
切削速度: 60 m/min.、
送り: 0.18 mm/rev、
穴深さ: 16 mm、
の条件での合金工具鋼焼入れ材の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は35m/min.)を行い、
(c−3)本発明被覆超硬ドリル7,8および従来被覆超硬ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・SKD11の焼入れ材(硬さ:HRC60)の板材、
切削速度: 50 m/min.、
送り: 0.25 mm/rev、
穴深さ: 32 mm、
の条件での耐熱鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)を行い、
上記(c−1)〜(c−3)のいずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。
(d)つぎに、上記本発明被覆HSSドリル9〜14および従来被覆HSSドリル9〜14のうち、
(d−1)本発明被覆HSSドリル9、10および従来被覆HSSドリル9、10については、
被削材−平面:100mm×250、厚さ:50mmの寸法を有するJIS・SUJ2の焼入れ材(硬さ:HRC65)の板材、
切削速度: 20 m/min.、
送り: 0.10 mm/rev、
穴深さ: 8 mm、
の条件での軸受鋼焼入れ材の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は10m/min.)を行い、
(d−2)本発明被覆HSSドリル11、12および従来被覆HSSドリル11、12については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をJIS・SKD61の焼入れ材(硬さ:HRC52)の板材、
切削速度: 25 m/min.、
送り: 0.15 mm/rev、
穴深さ: 16 mm、
の条件での合金工具鋼焼入れ材の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は15m/min.)を行い、
(d−3)本発明被覆HSSドリル13、14および従来被覆HSSドリル13、14については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったJIS・SKD11の焼入れ材(硬さ:HRC60)の板材、
切削速度: 25 m/min.、
送り: 0.20 mm/rev、
穴深さ: 32 mm、
の条件での耐熱鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は15m/min.)を行い、
上記(d−1)〜(d−3)のいずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。
上記(c−1)〜(c−3)、(d−1)〜(d−3)の測定結果を表10、11にそれぞれ示した。
表3〜11に示される結果から、本発明表面被覆切削工具は、いずれも硬質被覆層が、一層平均層厚がそれぞれ5〜20nmの薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有する上部層(0.5〜1.5μmの平均層厚を有す)と、単一相構造の下部層(2〜6μmの平均層厚を有す)からなり、前記下部層がすぐれた高温硬さと耐熱性、高温強度を有し、一方、前記上部層がすぐれた耐熱塑性変形性と所定の高温硬さおよび耐熱性、高温強度を有しているので、硬質被覆層はこれらのすぐれた特性を総合的に兼ね備えたものとなるので、特に高熱発生を伴なう合金工具鋼や軸受鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の高速切削加工でも、切刃部に偏摩耗の原因となる熱塑性変形の発生なく、正常摩耗形態をとり、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、硬質被覆層が単一相構造の(Ti,Al,Zr)N層からなる従来被覆超硬工具は、特に硬質被覆層の耐熱塑性変形性不足が原因で切刃部に熱塑性変形が発生し、これによって摩耗形態が偏摩耗形態をとるようになることから、摩耗の進行が速くなり、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された超硬基体の表面に、あるいは、高速度工具鋼基体の表面に、
(a)いずれもTiとAlとZrの複合窒化物からなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Ti1-(A+B)AlAZrB]N(ただし、原子比で、Aは0.20〜0.35、Bは0.35〜0.50を示す)を満足するTiとAlとZrの複合窒化物層、
上記薄層Bは、
組成式:[Ti1-(C+D)AlCZrD]N(ただし、原子比で、Cは0.50〜0.65、Dは0.01〜0.10を示す)を満足するTiとAlとZrの複合窒化物層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Ti1-(E+F)AlEZrF]N(ただし、原子比で、Eは0.50〜0.65、Fは0.01〜0.10を示す)を満足するTiとAlとZrの複合窒化物層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具。
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