JP4686808B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は鉛蓄電池の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
正、負極格子体にPb−Sn−Ca系合金を用いた鉛蓄電池は、自己放電が少なく、保存特性に優れ、使用中の減液が少ない等の特徴があり、広く使用されている。
【0003】
一方、鉛蓄電池のセパレータには、従来から多用されてきたガラス繊維を主体とするガラスマットとパルプを主成分としたセパレータを併合した平板状のセパレータに代り、電気抵抗が小さく、低コストである微孔性のポリエチレン等の合成樹脂フィルムあるいはシートからなるセパレータが広く用いられている。この合成樹脂製のセパレータは、正極板の活物質の脱落による極板下部での内部短絡の防止や生産性の向上を目的として、正負いずれかの極板を包み込む袋状の構成としたものが一般的である。また、このセパレータは0.2mm前後の厚みであるが、正、負極板間を所定の距離に維持するため、線状の複数のリブが形成されており、通常、リブは正極板による酸化劣化を直接受けないよう正極板に接する面に設けられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
正極板をセパレータで包み込む場合、正極板は格子の酸化による体積膨張のためにセパレータにストレスを与え、最後にはセパレータが破損し、内部短絡を招いてしまうことがある。従って、一般的に、正極板に比較して体積変化の少ない負極板をセパレータで包み込む方が電池寿命に有効的であると考えられる。
【0005】
しかしながら、特に最近の自動車用鉛蓄電池は自動車の電装部品の増加等によって、電池がより放電傾向で使用される傾向があり、このような点を想定した寿命試験において、Pb−Sn−Ca合金からなる格子を正極板および負極板に用い、負極板をセパレータで包み込む構成の電池で寿命が短くなることが解ってきた。この原因を詳細に調べたところ、正極板を袋状セパレータで包み込む場合に比べて、負極板を包み込んだ構成の電池は、定電圧充電時の末期の電流値が小さく、特に正極での充電量が不足することが明らかとなった。このため、電池の充電状態が徐々に下がることで正極の放電性能が低下し、見かけ上早期に寿命に至っていた。つまり、使用中の充電受け入れ性の低下による寿命低下が見られた。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであり、このような寿命低下を抑制することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1の発明はPb−Sn−Ca合金からなるエキスパンド格子を正極板および負極板に用い、負極板を袋状のセパレータで包み込んだ構成の鉛蓄電池であって、正極板に用いたエキスパンド格子の表面または表面の一部に、1.0質量%から10.0質量%のSbを含有する鉛合金層を備え、前記極板群が有する正極活物質の化学当量を前記極板群が有する負極活物質の化学当量よりも少なく構成し、前記セパレータは微孔性のポリオレフィン系樹脂からなるとともにそのベース厚みを0.10mm以上、0.30mm以下とし、前記正極板と対向する面に上下方向に複数本のリブを形成したことを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態による鉛蓄電池の正極板に用いる格子は、Pb−Sn−Ca合金を圧延加工することで連続したシート状とし、これに複数のスリットを入れて引き伸ばす所謂エキスパンド加工によって網目状に展開することによって形成される。
【0009】
本発明は、図1のように、Pb−Sn−Ca合金をシート状に圧延ローラ7を用いて圧延加工する際、1.0質量%〜10.0質量%のSbを含有する鉛合金2を上記鉛合金シート1の表面に配して、共に圧延加工することにより圧延鉛合金シート3を得る。この圧延鉛合金シート3の表面上にSbを含有した鉛合金層を形成することができる。ここでSbを含有する鉛合金としてはSbの含有量が15質量%以下とすることが圧延鉛合金シート1と圧延鉛箔2との間の密着性を確保する上で好ましい。しかしながら、Sb含有量が15質量%の場合には、10質量%の場合に比較して試験中の減液量が1.5倍となり、正極ならびに負極格子体にPb−Sn−Ca系合金を用いた鉛蓄電池本来のメリットである減液特性が低下するため、正極格子表面のPb−Sb合金層のSb濃度は1.0〜10質量%とする。
【0010】
次に圧延鉛合金シート3の圧延方向に平行に複数のスリットを千鳥状に形成し、その後スリット部を展開伸張することによりエキスパンド網目部が形成される。このエキスパンド網目部に活物質ペーストが充填された後、所定の形状に切断、熟成乾燥して正極板4が得られる。負極板に関しても正極板と同様の製造工程を経るが、圧延鉛合金シート上にはSbを含有する鉛合金層を形成しないものを用いる。この正極板4と負極板5および微孔性ポリオレフィン樹脂、一般的には微孔性ポリエチレン製のセパレータ6を用い、図2に示すように、負極板を袋状のセパレータ6で包み込む形で極板群を構成するものである。このセパレータ6は正極板4との対向する面に正極板4とセパレータ6のベース部6aとの接触を避ける目的で上下方向に複数本のリブ6bが形成されている。そして後述する本発明の作用効果に鑑み、セパレータ6のベース部6aの厚みを0.10mm以上、0.30mm以下に薄く構成する。このような構成であればSbの負極への移行が円滑となり、正極での充電不足をより抑制することができる。また、極板群が有する正極活物質の化学当量を負極活物質の化学当量よりも小さくする。これにより、前述した他の構成とあいまって充電時の正極の分極を増大させ、正極での充電不足を抑制することができる。さらに、本発明の深放電寿命特性改善効果を特に顕著に得るためにはエキスパンド格子表面に形成した表面層中に含有するSb量を1.0質量%〜10.0質量%とする。以降の工程は常法にしたがって本発明の鉛蓄電池が構成される。
【0011】
このような本発明の構成によれば鉛蓄電池の各使用段階で以下の作用により、深放電寿命を改善することができると推測される。
【0012】
(1)寿命初期の段階
すなわち鉛蓄電池の使用をはじめて間もない時期においては負極板には実質上Sbが存在しないので優れた減液性能を確保することができる。また、正極格子表面に存在するSbは正極活物質中に溶出して活物質間の結合を強固とし、特に深い放電が行われる場合でも正極活物質の劣化を抑制することができる。
【0013】
(2)寿命中期以降の段階
正極格子の酸化腐食により正極板の膨張が進行するが正極板はセパレータに被覆されていないのでセパレータと正極板とが干渉してセパレータに穴や亀裂が入ることによる正極板と負極板間の短絡を発生させることはない。負極板の極板面はセパレータに覆われた構成により見かけ上、負極板周囲の電解液の拡散が正極板のそれに比較してより制限された状態となるため、充電時での負極の分極は増大する。通常、鉛蓄電池の充電は定電圧制御で行われるため、充電時におけるこのような負極分極の増大は正極での分極は少なくなる。結果として正極での充電電流が低下し、正極活物質の充電電気量が充分に確保できない状態となっていた。本発明の構成によれば、寿命進行にしたがって、正極格子表面から溶出したSbはセパレータを通過して序々に析出することによって負極の分極を低下させることができる。負極の分極は前述した定電圧充電条件化で正極の分極の増大を引き起こし、正極での充電電気量を必要充分に確保することができる。
【0014】
このようにSbの負極への効果は正極での充電不足が顕著となる寿命中期以降に作用し、正極での充電不足を解消することにより深い放電における電池寿命の低下を抑制するものと推測される。
【0015】
【実施例】
次に本発明の実施例を示す。
【0016】
<実施例1>
図1のように、連続的に鋳造した15mm厚のPb−0.07質量%Ca−1.3質量%Sn−Pb合金スラブ1を段階的に圧延して厚み1.2mmの鉛合金シート3を作製した。この際、厚み0.2mmのPb−7質量%Sb合金の圧延箔2をシート3の表面に重ね合わせて同時に圧延することにより付与した。比較のため、この圧延箔2を重ね合わせないシートも作製した。これらの2種類のシートをエキスパンド加工して網目部を形成し、この網目部に活物質ペーストを充填することにより2種類の正極板、すなわち、正極格子表面上にSbを含有する鉛合金層を正極板4とこの鉛合金層を形成しなかった正極板を得た。負極板5はPb−0.07質量%Ca−0.3質量%Sn合金の厚み0.8mmの鉛合金シートを同様にエキスパンド加工して得た。一方、セパレータ6はベース部6aでの厚み0.20mm、リブ6bを含めた総厚みが1.25mmの微孔性ポリエチレン製シートを用い、リブ6bのある面を内側にして正極板を包み込む形とリブを外側にして負極板を包み込む形の2種類の袋状セパレータを作製した。また単位セルあたりの正極活物質量を2200gと一定とし、負極活物質量を変化させることにより正極板と負極板の活物質充填量の比率を様々に変化させて作成した。
【0017】
上記正極板とセパレータをそれぞれ組み合わせて、セル当たり正極板5枚、負極板6枚からなる55D23形の自動車用鉛蓄電池(12V48Ah)を表1のような構成の組み合わせで作成し試験に供した。
【0018】
【表1】
【0019】
これらの電池について、次のようなパターンの寿命試験を実施した。この寿命試験は、前述したように深い放電が入る放電傾向の使われ方を想定した次のような寿命試験(以下深放電寿命試験)とした。すなわち75℃雰囲気中にて、JISD5301軽負荷寿命試験におけるサイクル時の放電および充電の時間を各々8分および16分として、280サイクル毎に356A放電を行い、この時の30秒目の端子電圧にて寿命を判定した。この試験結果を表1に示した。
【0020】
表1に示した結果から従来例の電池の中で袋状セパレータ中に負極板を収納する構成の電池(B1、B2、B3)では、正極板をセパレータ中に収納する構成の電池よりも寿命低下が著しい。これは、定電圧充電時の末期の電流値が小さく、充電不足に伴う電池の充電状態の低下によるものであると推測される。一方、本発明例の電池(D1、D2、D3)では袋状セパレータで負極板を包みこむ構成を有しているが従来例の電池(B1、B2、B3)に比較して良好な寿命特性を有していることが確認できた。さらに本発明例の電池の中でも正極活物質当量を負極活物質当量よりも少なくした電池は寿命特性がさらに向上することが確認できた。また、これらの電池について劣化要因を調査したところ、従来例の電池で特に負極板をセパレータで被覆した構成を有する電池については正極活物質中の硫酸鉛の顕著な蓄積が見られたことから、正極での充電不足により寿命に至ったと考えられる。一方、負極板をセパレータで被覆した構成を有していても本発明の電池では従来例の電池に見られたような正極活物質中での硫酸鉛の顕著な蓄積は認められなかった。
【0021】
つぎに表1に示した電池について前記した深放電寿命試験とは別に過充電傾向で使われる場合を想定して過充電寿命試験を行った。この試験条件は75℃雰囲気中にて、JISD5301軽負荷寿命試験におけるサイクル時の放電を行わず、充電を連続112時間とした後に356A放電を行い、放電開始後30秒目の端子電圧が7.2V以下になった時点で寿命とした。この過充電試験の結果を同じく表1に示す。表1に示した結果から正極板をセパレータで包みこんだ電池についてはいずれも正極格子の伸びによりセパレータ底部に穴があき、これにより正極−負極間が短絡し、早期に寿命に至っていた。負極板をセパレータで包みこんだ電池については従来例、本発明例の電池とも良好な寿命特性を示していた。
【0022】
表1に示した結果から本発明の電池は過充電寿命特性と深い放電が入った場合での寿命特性(深放電寿命)の両方にすぐれた特性を得られることがわかった。
【0023】
<実施例2>
実施例1における本発明の電池D1についてセパレータ6のベース部6aの厚みを0.10mmから0.40mmに変化させた電池を作製した。これらの電池について実施例1における深放電寿命試験を行った。その結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示した結果からセパレータのベース部の厚みを0.10mm以上、0.30mm以下とすることにより、深放電寿命特性が改善することが確認できた。セパレータのベース厚みが0.35mm以上に厚くしたものは、正極板から溶出したSbの負極への移行が阻害される結果、正極板での充電不足解消という本発明の効果が低下したものと推測される。
【0026】
またさらに実施例1における本発明の電池D1について正極格子表面に形成したPb−Sb系合金中のSb濃度に関しては0.5質量%、1.0質量%、5.0質量%、7.0質量%、10質量%、15質量%として、実施例1の深放電寿命試験を行った。その結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
表3に示した結果からSb含有量が1.0%質量以上とすることが特に深放電寿命改善に有効である。しかしながら、Sb含有量が15質量%の場合には、10質量%の場合に比較して試験中の減液量が1.5倍となり、正極ならびに負極格子体にPb−Sn−Ca系合金を用いた鉛蓄電池本来のメリットである減液特性が低下するため、正極格子表面のPb−Sb合金層のSb濃度は1.0〜10質量%とする。
【0029】
以上の実施例では、正極格子表面にPb−Sb合金層を用いたが、この合金層中にさらにSnを含有させたPb−Sb−Sn合金層の場合も同様の結果が得られる。Snを含有させる理由は鉛合金シートの表面にSb系合金箔を付与させる際の生産性向上に有効な点等があげられる。
【0030】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、電池が放電傾向で使用される場合の充電受け入れ性に起因する性能低下を抑制し、深放電寿命特性の優れた鉛蓄電池を過充電寿命特性を損なうことなく得ることが可能となり、工業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉛合金シートの製造工程を示す図
【図2】(a)極板群の構成を示す断面図(b)極板群の構成を示す断面図
【符号の説明】
1 スラブ
2 圧延箔
3 鉛合金シート
4 正極板
5 負極板
6 セパレータ
6a ベース部
6b リブ
7 圧延ローラ
Claims (1)
- Pb−Sn−Ca合金からなるエキスパンド格子を正極板および負極板に用い、負極板を袋状のセパレータで包み込んだ極板群を備えた鉛蓄電池であって、正極板に用いたエキスパンド格子の表面の少なくとも一部に1.0質量%から10.0質量%のSbを含有する鉛合金層を備え、
前記極板群が有する正極活物質の化学当量を前記極板群が有する負極活物質の化学当量よりも少なく構成し、
前記セパレータは微孔性のポリオレフィン系樹脂からなるとともにそのベース厚みを0.10mm以上、0.30mm以下とし、前記正極板と対向する面に上下方向に複数本のリブを形成したことを特徴とする鉛蓄電池。
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