JP4679057B2 - 水素貯蔵のための組成物及び方法 - Google Patents

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Description

本発明は、その全体が参照としてここに組み込まれる2001年10月30日に出願した仮出願第60/330,749号、及び2002年9月26日に出願した仮出願第60/413,557号の利益を請求する。
本発明は、全米科学財団(National Science Foundation)より授与された助成金交付番号EAR−8920239、及びNASAより授与された助成金交付番号NAG5−6891に基づく政府支援によって行われた。政府は、本発明の一定の権利を有する。
本発明は、水素貯蔵、より詳細には、水素貯蔵のための組成物及び方法に関する。
水素は、長い間、有望な燃料源として、従来の炭化水素燃料の代替品及び燃料電池などの代替エネルギー技術のための燃料の両方として考えられてきた。最も軽い元素である水素は、極めて高いエネルギー対重量比を有しており、一酸化炭素又は二酸化炭素の副産物を発生させずにクリーンに燃焼させることができる。遺憾ながら、有効量の水素の貯蔵及び輸送には、水素を燃料として商用で使用するのに著しい障害になる困難な問題が存在する。
大量の水素を貯蔵するための一般的な技術は、水素を気相から液相へ圧縮及び冷却することによる液化プロセスである。周囲圧力では、水素ガスは20K(すなわち、−253C)で液化し、約70g/Lの水素ガスを液相で貯蔵することができる。しかし、液化プロセスはエネルギーを大量に消費する。例えば、水素ガスを液体に圧縮するのに使用するエネルギーは、ガス自体に含まれるエネルギーの40%もの量であることがある。言い換えれば、水素ガスから消費され得るエネルギーの約40%に相当する追加量のエネルギーが、水素を液化するために必要とされる。さらに、液化した水素ガスが蒸発し、増大したガス圧によって問題が引き起こされるのを防ぐために、液体水素を20Kで維持するべきである。液体水素を20Kで維持するには、特別に設計された断熱容器と極めて慎重な取り扱いを要する。
水素を貯蔵するための別の一般的な技術は、適当な容器内にガスを圧縮することである。例えば、35MPaまで加圧したガスタンクには、15g/Lの水素を貯蔵することができる。しかし、加圧ガスタンクは重くて扱いにくい。さらに、輸送及び使用の状況を慎重に制御して、高圧縮揮発性ガスのすべての安全上の問題に対処しなければならない。
水素貯蔵のための他の技術には、水素分子をホスト材料と化学的に結合させることを含む。このタイプの水素貯蔵は積極的に研究されており、様々な材料が水素の適当な貯蔵ホストとして示されている。例えば、金属及び炭素のナノチューブのどちらも適当なホスト材料として報告されている。しかし、水素貯蔵の商用化を実現する前に、金属水素化物から水素を放出するために高温が必要とされることなど、依然として克服すべき多くの技術的な問題が残っている。
ガスハイドレートは、低温で高圧又は周囲圧力のいずれかにおいて形成されるHOフレーム構造に閉じ込められた「ゲスト」ガス分子を有する固体化合物である。1組のガスハイドレートでは、水分子が「ゲスト」ガス分子の周りに水素結合した「ケージ」を形成して、ケージ構造がsI、sII又はsH型のいずれかであるクラスレートを形成する。他のガスハイドレートでは、「ゲスト」ガス分子が氷の特定相の構造空隙を満たし、一般に「filled ice」と称されている。Vosら、「高圧における新規なH−HOクラスレート(Novel H−HO Clathrates at High Pressures)」、Physical Review Letters、71、3150〜3153頁、1993年で論じられているように、高圧においてC1及びC2と表される2種類のガスハイドレートが報告されており、この開示は、その全体を参照によりここに組み込む。C1及びC2型のガスハイドレートは、C1で約23g/L、C2で約110g/Lなど、かなりの量の水素を貯蔵するが、安全上のリスクだけでなく、これらの化合物を形成し貯蔵するのにC1で700MPaより大きい圧力、C2で2250MPaより大きい圧力など極めて高い圧力が必要とされることから、商用にも適さない。
本発明者らの一人は、C1及びC2が、例えば、従来のsI、sII又はsHクラスレートケージ構造をもたないため、「新規なクラスレート」として記載されているVosらの論文の共著者である。この論文では、C1及びC2を「クラスレート」と称しているが、その後C1及びC2は、少なくともいくつかの一般的な定義に基づき、実際には従来の「クラスレート」ではないことが確認されている。したがって、いかなる混乱を避けるために、また本出願において、本明細書では「クラスレート」という用語を、後述の発明を実施するための最良の形態(detailed description of the preferred embodiments)で定義するものとする。
水素貯蔵のメカニズムは、依然として水素を一般燃料として実用するための主要な課題である。
したがって、本発明は、関連技術の制限及び欠点による1つ又は複数の問題をほぼ回避する水素貯蔵のための組成物及び方法を対象とする。
本発明の目的は、周囲圧力又は周囲圧力付近で、かつ中低温で、水素貯蔵するための組成物及び方法を提供することである。
本発明の別の特徴及び利点は、以下の説明に記載され、一部その説明から明らかになり、又は本発明の実施によってわかるであろう。本発明の目的及び他の利点は、本明細書の記載による説明や特許請求の範囲並びに添付図で特に示した構造によって実現され達成されるはずである。
本発明による水素貯蔵のための方法の例示的な実施形態には、封じ込め体積(containment volume)に水及び水素ガスを供給すること、水及び水素ガスの温度を下げて第1の低温及び第1の圧力で水素クラスレートを形成すること、並びに250Kまでの温度範囲内の第2の低温で水素クラスレートを維持して水素貯蔵を行うことが含まれる。
別の例示的な実施形態では、水素貯蔵のための方法には、指定体積を有する封じ込め体積を供給すること、封じ込め体積を部分的に水で充填すること、水素ガスを指定体積に供給すること、250K以下の低温範囲内の第1の低温に封じ込め体積を冷却して水素ハイドレートを形成すること、並びに35MPa〜0.01MPaの圧力範囲内で水素ハイドレートを維持して水素貯蔵を行うことが含まれる。
別の例示的な実施形態では、水素貯蔵のための方法には、指定体積を有する封じ込め体積を供給すること、封じ込め体積を部分的に水で充填すること、水素ガスを封じ込め体積に供給すること、100〜600MPaの圧力範囲内の第1の圧力まで封じ込め体積を加圧すること、77K〜250Kの中低温範囲内の第1の低温まで封じ込め体積を冷却して水素ハイドレートを形成すること、35MPa〜0.01MPaの圧力範囲内の低い圧力まで封じ込め体積内の第1の圧力を低下させること、並びに中低温範囲内で水素ハイドレートを維持して水素貯蔵を行うことが含まれる。
別の例示的な実施形態では、低圧水素クラスレートには、HO分子、H分子、及びH分子の周りに構築されたHO分子の水素結合フレーム構造の多面体ケージを含む単位格子が含まれる。
前述の一般的な説明と以下の詳細な説明のどちらも例示的なものであって、特許請求の範囲に記載のように本発明のさらなる説明を提供するものであることを理解されたい。
本発明をさらに理解させるために含め、組み込み、本明細書の一部を構成する添付図は、本発明の実施形態を例示し、本明細書と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。本発明のこれら及び他の目的は、以下の図を参照した、以下の本発明の実施形態の詳細な説明から明らかになるはずである。
本発明による水素貯蔵法では、大量の水素を貯蔵できる水素クラスレートなどの水素ハイドレートを形成する。例えば、本発明の例示的な実施形態の水素クラスレートは、約77K〜250Kの中低温で、かつ35MPa〜10kPaの中圧から周囲圧力で約50g/L貯蔵することができる。図1Aは、本発明の実施形態によって水素ハイドレートを形成するための水素貯蔵法100の高レベルフローチャートである。
方法100は、よく知られているMao−Bellセル中で、又はガスタンクなどの他のいかなる適当な圧縮装置中で行うことができる。Mao−Bellセルは、適切な分析法を用いてセル内で化合物の特性の観察を可能にしながら、何百GPaなど、極めて高圧が得られるように設計されている。Mao−Bellセルによってもたらされる極度の高圧も分析条件も本発明には必要とされていないが、Mao−Bellセルの使用はなお有利であり得る。例えば、使用者はMao−Bellセル中で方法100を行って、この方法のパラメータ及び得られた水素ハイドレートの水素含有量を確かめてから、200MPa以下の圧力をもたらし得るコンプレッサを備えたガスタンクなどのより通常の圧縮装置を用いてこの方法を生産スケールに展開することができる。
適当なMao−Bellセルは、米国特許第4,339,252号及び第4,386,950号に開示されており、これらの開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれている。一般に、Mao−Bellセルは、間にメタルガスケットを備えた2つのダイヤモンドアンビルを含む構造を使用して高圧を得る。水素ハイドレートは、2つのダイヤモンドアンビル間に形成する。本発明の水素ハイドレートは、比較的低圧で存在し得る。したがって、Mao−Bellセルを用いる方法100の実施形態には、ばねがダイヤモンドアンビルの負荷に対抗するようにMao−Bellセルに適合された引き戻しばねを含めることができる。この引き戻しばねは、完全で円滑な減圧において、メタルガスケットから少なくとも1つのダイヤモンドアンビルを引き抜くのを助けることができる。
方法100を開始する前に、使用者は、Mao−Bellセルに使用されているメタルガスケットをあらかじめくぼませるか、穴をあけてもよい。例えば、厚さ0.25mmのメタルガスケットに穴をあけて、直径約0.25〜0.4mmのセンター穴にする。続いて、この穴をあけた厚さ0.25mmのメタルガスケットは、Mao−Bellセルに使用されているそれぞれのダイヤモンドアンビル上の1組の直径0.7mmのキューレット間で使用することができる。これらの寸法は、生成すべき水素ハイドレートの体積に応じて適切に変動させることができる。メタルガスケットは、必ずしもあらかじめくぼませる、又は穴をあける必要があるとは限らない。例えば、メタルガスケットは、特に所与のサイズの水素ハイドレートを形成するという課題のために予備成形又は製造してもよい。他の類似の金属もガスケットに使用できるが、T301ステンレス鋼及びBeCuなどの金属は、特に本発明による方法で使用するメタルガスケットに適している。
図1AのステップS104aに述べるように、封じ込め体積を部分的に水で充填する。例えば、標準的なガスタンクは、ガスタンクの体積の20〜70%の範囲の量の水で充填することができる。この水は、蒸留水、脱イオン(DI)水、又はその後の処理に悪影響を及ぼす若しくはハイドレートの形成を妨げ得る不純物を含まない他のいかなる種類の比較的純粋な水であってもよい。
或いは、図1AのステップS104bに述べるように、封じ込め体積を部分的に水で充填するステップには、水の他にルビー粒子などの圧力較正材料を封じ込め体積に供給することを含めてもよい。この圧力較正材料は、水又は続いて封じ込め体積内に導入する水素ガスのどちらとも反応しない。圧力較正材料を封入すると、ダイヤモンドアンビルの窓を通して蛍光分光法などの外部機器法によって封じ込め体積内の圧力の独立した検証が可能になる。分光法又は他の分析法を行うことができるような窓が存在する場合、圧力較正材料は、ガスタンクなどのより通常の圧縮装置に使用することもできる。
図1AのステップS106に述べるように、水の他に水素ガスを封じ込め体積に供給する。封じ込め体積にMao−Bellセルを使用する場合、Mao−Bellセルを圧力容器中に配置してから、Mao−Bellセル内の封じ込め体積を充填する。Mao−Bellセルと標準的なガスタンクのどちらの場合においても、封じ込め体積の残りの体積に水素ガスを例えば200MPaの圧力で供給する。方法100は、封じ込め体積に最初に水を加えることを説明しているが、代替法は、水素ガスを供給した後に水を加えてもよい方法である。しかし、封じ込め体積に水素ガスを供給してから水を供給すると、水素ガスを供給した圧力よりも高い圧力下で封じ込め体積に水を供給する必要がある。
水と水素ガスを封じ込め体積に供給した後、図1AのステップS108に述べるように、封じ込め体積内の圧力を上げ、封じ込め体積の温度を下げて、水分子によって形成されたケージに水素が含まれる水素クラスレートなどの水素ハイドレートを形成する。ガスタンクの場合には、ガスタンク内に増量の水素をポンプで送り込むことによって圧力を上げることができる。Mao−Bellセルの場合には、メタルガスケットと一緒に上部及び下部のアンビルを使用してセル内の封じ込め体積を圧縮する。両方の場合において、液体窒素中に浸漬することによって、又は液体窒素流を用いた熱交換器によって、液体窒素を冷却するのに使用することができる。水素ガスと水の圧力が上がり、温度が下がるにつれて、水素クラスレートが形成する。クラスレートハイドレートとしても知られているクラスレートは、水素結合した水分子から作られたホスト構造内のケージをゲスト分子が完全に又は部分的に占有している、あるクラスの固体である。クラスレートの例には、原型sI、sII、又はsHクラスレート結晶構造を含む。通常、クラスレートには少なくとも2種の異なるケージ構造が含まれる。形成プロセス中の圧力及び温度条件に応じて、一部の残留水及び/又は水素は、封じ込め体積内に残留することがある。水素ハイドレートが形成した後、封じ込め体積に適切な窓が含まれる場合、ラマン分光法、X線回折、及び蛍光分光法などの計測手法を使用して存在する相を確かめることができる。圧力及び温度は、100〜600MPa及び77Kなどの指定値で数時間保持して、水素ハイドレートを例えば水素クラスレートとして安定化させることができる。
任意の所望の「保持」期間が完了した後、図1AのS110aに述べるように、水素ハイドレートを急冷する。例えば、水素ハイドレートが水素クラスレートである場合には、図1AのS110bに述べるように、水素クラスレートは、77K〜250Kの範囲の中低温まで等圧で急冷することができる。「中低温」という用語は、液体窒素又は他の種類の冷却液体の適用によって維持できる77Kより高いいかなる低温も包含することを指す。
さらに、又は別の方法としては、水素ハイドレートは、図1AのS110cに述べるように、中圧又は周囲圧力まで等温で圧力を下げることができる。例えば、約35MPa〜周囲圧力約0.01MPaの圧力は、中圧である。方法100では、水素ハイドレートを等圧で中低温まで急冷し、次いで水素ハイドレートを等温で中圧まで圧力を下げることを示しているが、水素ハイドレートは、最初に等温で中圧まで圧力を下げ、次いで等圧で中低温まで急冷してもよい。
図1AのステップS112に述べるように、水素ハイドレートを中低温及び/又は中圧〜周囲圧力で所望する限りの間維持して、水素の貯蔵を行う。水素クラスレートなどの水素ハイドレートは中低温及び周囲圧力で安定なので、水素ハイドレートは、例えば自動車用燃料電池中の燃料源として利用することができる。貯蔵した水素ガスは、水素ハイドレートが分解し水素を放出する温度である約140Kより高い温度まで水素ハイドレートを加温することによって放出される。或いは、水素ガスを定速で放出させる100〜150Kの緩やかな加温プロセスによって、制御放出を行うこともできる。例えば、図1Bは、氷の相図に関する、sIIクラスレートを使用する水素貯蔵プロセスを示す。もちろん、水素はより高圧でより高温まで貯蔵することができる。例えば、本発明による水素ハイドレートは、35MPaの圧力で25Kまで水素を貯蔵することができる。
上記で指摘したように、方法100は、気体及び液体を200MPa以下の圧力まで圧縮できるいかなる圧縮装置でも行うことができる。例えば、水素ハイドレートは、標準的な金属タンク、標準的な圧力容器、又は気体貯蔵に使用できる他のいかなる種類のタンク中で、気体又は液体コンプレッサによって圧縮を行って形成することができる。例えば、適当な圧縮装置には、200MPa(すなわち、30,006psi)の圧力をもたらすことが可能なコンプレッサである、メリーランド州JessupにあるNewport Scientific,Inc.によって販売されているRemote Diaphragm Compressor Headなどのコンプレッサ、及びペンシルベニア州ErieにあるHigh Pressure Equipment Companyによって販売されているもののような圧力容器が含まれる。
上記のように、方法100は、比較的高圧及び低温における水素ハイドレートの形成を含む。しかし、図1Cの方法120に示すように、高圧を使用しないで、低温で水素ハイドレートを形成し安定化させることが可能である。図1CのステップS124aに述べるように、封じ込め体積を部分的に水で充填する。或いは、図1CのステップS124bに述べるように、封じ込め体積を部分的に水で充填するステップには、水の他にルビー粒子などの圧力較正材料を封じ込め体積に供給することを含めてもよい。
最初のうち、方法120は方法100と類似している。しかし、方法120は、図1CのステップS125に述べるように、種結晶材料を封じ込め体積に加える点で異なる。別の方法としては、図1CのステップS126に述べるように、封じ込め体積に水素ガスを供給するステップを行ってから、封じ込め体積に種結晶材料を加えてもよい。例えば、水素ハイドレートが77K〜250Kの温度範囲の低温及び10〜100kPaなどの周囲圧力付近で形成するように、5体積%未満の少量の「種結晶」材料を水素混合物に加えることができる。
種結晶材料には、クラスレート構造を有するメタンハイドレート、エタンハイドレート又はあらかじめ形成した水素ハイドレートなどのいかなる水系クラスレートも含み得る。水素混合物の温度を下げるとクラスレートが形成するように、種結晶材料の構造は、クラスレート構造とほぼ同等であるべきである。この種結晶材料は、水素クラスレートなどの水素ハイドレートの形成を容易にするだけでなく、中低温における水素ハイドレートの安定化に役立つ。
種結晶材料と水素ガスを供給してから、図1CのステップS128に述べるように、封じ込め体積内の温度を下げて水素クラスレートを形成する。図1CのステップS130に述べるように、水素クラスレートは、中低温及び/又は中圧〜周囲圧力で所望する限りの間維持して、水素の貯蔵を行う。水素クラスレートは種結晶材料によって形成し安定化するので、水素クラスレートは、例えば自動車用燃料電池中の燃料源として周囲圧力及び中低温で利用することができる。
本発明による水素貯蔵のための方法を、以下の実施例に関してさらに説明する。
Mao−Bellセル中で水素クラスレートを形成した。以下の考察の一部分は、Mao−Bellセルの窓を通した光景であり水素クラスレートの形成を示している図2A〜2Dに言及している。図2A〜2Dに示した視野は、直径約0.4mmである。
厚さ0.174mmのT301ステンレス鋼ガスケットを、中心に0.250mm穴をあけることによって調製した。このT301ステンレス鋼ガスケットをMao−Bellセル中でダイヤモンドアンビル間に取り付け、得られたセルの30%を蒸留水で充填した。圧力較正の目的でルビー粒子を数個加えた。セルに水とルビーを加えた後、セルをガス圧力容器中に置き、セルの残りを200MPaの圧力で水素ガスで充填した。
次いで、Mao−Bellセルを300MPaの圧力まで加圧し、ほぼ周囲温度から77Kまで等圧で冷却した。図2Aに示すとおり、加圧した試料は最初に2つの部分、即ち、液状水部分200と水素ガス部分202を含んでいた。図2Bに示すとおり、水部分200は、水200内で249Kで水素クラスレートの新しい相に核形成を始めた結果、最初暗くなった。次いで、水素クラスレート204が水部分200より優勢になるにつれて、図2Cに示すとおり、水部分200は明るくなった。図2Dに示すとおり、この部分の体積は40%増大し、これは水の中に水素を取り込んだ水素クラスレート204の形成を示す。水素ハイドレート中に閉じ込められたルビー粒子は、固相クラスレートを裏付けるブロードな蛍光ピークを示した。図2Dに示すとおり、水素ガス部分202はより小さくなったことに注意されたい。
水素クラスレートの存在を一連のラマンスペクトルで確認した。図3は、水素クラスレートの形成後に測定した1組の比較例示的なラマンスペクトルである。水のスペクトル300に示すとおり、306に示された3000〜3600cm−1における液状水のブロードなラマンピークは、水素ガススペクトル304のものに比べてハイドレートスペクトル302ではシャープになっており、4本の異なるピークを示す。ハイドレート302のラマンスペクトルでは、強力な水素ビブロン308及びロトン310が現れた。水素クラスレート中の水素:水のモル比は、水素気泡のものに対する水素ラマンピークの強度から約1:2であると推定され、これは水素クラスレートの体積が40%拡大した目視と整合性があった。すなわち、約50g/Lの水素を貯蔵し、次いで後で水素クラスレートから回収することができる。3本のスペクトル300、302、304のすべての約1332cm−1における強いピークは、Mao−Bellセルのダイヤモンドアンビルに起因する。
水素クラスレートを77Kの温度及び300MPaで安定させた。水素クラスレートを安定させた後、約0.1MPaの大気圧に達するまで圧力を開放した。圧力の低下中に測定したラマンスペクトルから、ハイドレート部分の水素バイブロン(vibron)及びロトン(roton)が残っていたことが示され、これは水素貯蔵の成功を示唆している。水素クラスレートは、140Kの温度及び周囲圧力で崩壊し水素を放出する。
図4は、様々な温度及び圧力における水素クラスレートの安定性を示す、本発明による水素クラスレートの代表的なラマンスペクトルと水素ガスの比較ラマンスペクトルの1組の拡大詳細図である。特に、図4は、4000〜4100cm−1の間の水素クラスレートの一部を示し、温度及び圧力の範囲にわたって水素クラスレートのスペクトル中にQ(l)分子水素バイブロン401を示す。スペクトル400は、400MPa及び300Kにおける水素ガスのQ(l)バイブロン401を示す。スペクトル402〜418は、特定の圧力及び温度における水素クラスレートのスペクトル中において同じQ(l)バイブロン401を示す。スペクトル414及び416は、水素クラスレートが約140Kで分解し始め、156Kの温度でほぼ完全に分解することを示す。一般に、スペクトル402〜418のQ(l)バイブロンの連続した左方向へのシフトは、周囲圧力及び中低温における水素ハイドレートの安定性を示す。より具体的には、この水素クラスレートのQ(l)バイブロン401は、周囲圧力で温度が増大するにつれてより低いエネルギー側にシフトする。
Mao−Bellセルを蒸留水で50%、水素ガスで50%充填すること以外は、実施例2の手順に従って水素クラスレートを調製した。水素クラスレート形成後に残っている水と水素ガスの体積から、水素クラスレート内の水素:水のモル比が約1:2であることが裏付けられる。
水素クラスレートは、ペンシルベニア州ErieにあるHigh Pressure Equipment CompanyによってシリーズR圧力容器として製造されたガスタンク中で調製し、圧縮は、メリーランド州JessupにあるNewport Scientific,Inc.のRemote Diaphragm Compressor Headによって行う。この圧力容器を水で70%充填してから、200MPaの圧力に達するまで水素ガスを圧力容器中に圧縮する。圧力容器を周囲温度付近から200Kまで等圧で冷却し、次いで十分な時間保持して水素クスレートを形成させる。水素クラスレートをさらに77Kまで冷却し、次いで等温で圧力を周囲圧力まで開放する。77Kに維持している間に水素クラスレートを圧力容器から回収し、続いて140Kまで加温することによって水素クラスレートから水素ガスを放出させる。
実施例3などの圧力容器を、周囲温度及び圧力で蒸留水及び水素ガスで30%充填する。水素クラスレートの核形成を促進するために、3体積%のメタンハイドレートを加える。この容器を低温維持装置中に沈め、77Kまで冷却する。水素クラスレートが形成するまでこの圧力容器を77Kに維持する。77Kに維持している間に水素クラスレートを圧力容器から回収し、続いて約110K〜140Kで加温することによって水素ガスを水素クラスレートから放出させる。
上記の実施例では、HO分子からなる水素結合フレーム構造の多面体ケージは、ゲスト分子の周りに構築されて固体クラスレートハイドレートを形成し、このため、ゲスト分子は、その他の場合ではゲスト分子が遊離ガスとして存在する温度及び圧力で閉じ込められる。従来のクラスレートは、水分子6個毎におよそ1つの大きい又は小さいケージを有するsI、sII、及びsHと名付けられた3つの基本形態又はセル単位に結晶化する。各ケージがゲスト分子によって一倍で占有された状態では、周囲圧力においてクラスレートは、ゲスト/HOのモル比Rが約1/6に制限されていると考えられており、これは、ヴィラードの規則(Villard’s Rule)としても知られている。
本発明の上記実施形態で論じた水素クラスレートハイドレートは、H/HOモル比のRが約1/2ほどの高さの従来のsIIクラスレートハイドレートである。これは、小さいケージが水素分子のクラスターによって二倍に占有されており、大きいケージの大部分が水素分子のクラスターによって四倍に占有されているからである。水素クラスレートは、最初の中圧における合成後、周囲圧力及び低温に対して安定又は準安定である。水素クラスレートの構造をsIIセル単位として同定するためにX線及び中性子線回折を用いた。さらに、ラマン及び赤外分光法を用いて、水素クラスレート内の水素クラスターと水ホストの分子間相互作用を調べた。
例えば、Mao−Bellセルの実験では、H及びHO試料の混合物を最初に300Kで180〜220MPaまで圧縮した。この試料を、はっきりと2つの領域、H気泡及び液状水に分離した。240Kまで冷却させると、2つの試料は反応し、単一の固体化合物を形成することが観察された。これらの相を光学顕微鏡法によってその位置で監視し、ラマン、赤外、及びエネルギー分散X線回折(EDXD)によって個々に調べた。アルミニウムセル中でD−DO試料の中性子線回折試験も実施した。
化合物のH:HOモル比のRは、3つの別々の方法によって決定することができる。第1の方法は、Mao−Bellセルのダイヤモンドの窓を通して直接顕微鏡的観察を行って、最初の水素気泡及びHO液体、240K未満の水素クラスレート固体、並びに200MPaで280Kまで加温することによる逆反応後の気泡及び液体の体積の測定値を得ることである。これらの測定値から、H:HOモル比R=0.45が±0.05の不確かさで得られる。第2の方法は、分子の環境に対して感度が悪い、ロトン及びバイブロンの両方に関する水素ラマンスペクトルの強度を用いる。ラマン強度から、本発明の例示的な実施形態により、水素クラスレートに対してH:HOモル比のR=0.48が±0.04の不確かさで得られる。第3の方法は、アルミニウムセルの600mm試料チャンバー中に注入した液体DOに対するDによって充填すべき空間の体積比を計算することである。このような計算から、H:HOモル比のR=0.45が±0.05の不確かさで得られる。
国立シンクトロン光源(National Synchrotron Light Source)(NSLS)のX17Bビームラインでエネルギー分散X線回折(「EDXD」)を用いることによって、以下の表1に示すとおり、21本の回折ピークが観察された。

Figure 0004679057
すべて偶数又はすべて奇数のhklは、面心立方(fcc)単位格子を示す。BeCuは、試料ピークがBeCuピークと重なっていることを表す。X線データは、様々な2θ角、3.6°、4°、4.5°、5°、6°、7°、8°、9°、10°、11°、及び12°における一連のEDXDパターンをまとめて示している。試料の結晶化度が粗いため、ピーク強度は大幅に異なり、表には含めていない。低温維持装置のラマン分光法のためのサファイア窓は20keV未満のX線を吸収するので、最大EDXD幅は8Åである。ピークは、a=17.047(±0.010)Åのfcc単位格子から決定することができ、これは原型sIIクラスレート(空間群Fd3m)と整合性がある。ロスアラモス中性子科学センター(Los Alamos Neutron Science Center)(「LANSCE」)においてHIPD機器で集めた予備試験の飛行時間中性子線回折データは、表1に示すとおり、X線の結果を裏付ける。
図5Aに表されているように、sII単位格子501は、8個のヘキサカイドデカヘドロン(512)ケージ503及び16個の五角十二面体(512)ケージ505のフレーム構造を形成する136個のHO分子を含む。このsII水素クラスレートの場合、R=0.45±0.05になるように61±7個のH分子を収容するためには、24個のケージの少なくとも一部が二倍よりも多く占有されていなければならない。水素クラスレートの安定性を得るためには、自由空隙直径に対する分子直径のサイズ比は1に近いが、1未満であるべきである。2、3、4、5、及び6個のH分子が最密充填したクラスターを得るためには、クラスター直径は、それぞれ5.44、5.86、6.05、6.57、及び6.57Åである。これらのクラスター直径はすべて、512ケージの自由空隙直径6.67Åよりも小さいが、512ケージの自由空隙直径5.02Åよりも大きい。しかし、単一の大きな分子とは異なり、クラスター中の水素分子は互いに結合しておらず、512ケージは、クラスター軸が向かい側の五角面に向かって配向的に配列している場合、水素分子を容易に収容できる、それぞれの自由空隙直径が3.27Åである2個の別々のケージとして見なすことができる。したがって、図5Bに示すような各512ケージに対する4個のH、及び図5Cに示すような各512ケージに対する2個のHは、H:HOモル比R=0.47の136個のHO分子当り、512ケージ中の32個のHと512ケージ中の32個のHの合計に相当する。
ラマン分光法を用いて結合変化を特徴付けるために使用された。水素クラスレートの形成時には、3000〜3600cm−1にあるブロードな液状水OHピークが、sIIクラスレートに特徴的なシャープなピークに変換する。その間、図6に示すとおり、水素ロトンピークが300〜850cm−1に、バイブロンピークが4100〜4200cm−1に現れる。クラスレート中の水素ロトンS(0)、S(1)、及びS(2)は、純粋な水素中のそれらと振動数に関して類似しており、これはクラスレートケージ中の水素分子がなお自由な回転状態にあることを示唆する。他方では、新しいクラスレートのH−Hバイブロンは、H−HO系の他の既知の相のバイブロンとは異なる。それとは対照的に、sII水素クラスレートのバイブロンは、図7に示すとおり、4120〜4150cm−1に現れ、これは圧力ゼロにおいて4155cm−1である主Q(1)バイブロンよりも著しく低い。sII水素クラスレートを合成すると、それは注目すべき安定性又は準安定性を示す。例えば、sII水素クラスレートは200MPaで280Kまで存在しつづけた。別の圧力−温度経路に沿って、sII水素クラスレートの後に残った水素クラスレートを200MPaで78Kまで冷却し、次いで低温維持装置中で約10kPaの真空にさらした。他の圧力−温度経路は、他のタイプのハイドレートやクラスレート用に用いられることもできる。
図7に示すとおり、水素クラスレートの高分解能バイブロンスペクトルは、8個の512ケージ及び16個の512ケージ中の水素分子の2つの等しい集団の帰属を裏付ける、2つのグループの同程度の強度をもつ多重線を示す。4115〜4135cm−1にあるより低い振動数群は、512ケージ中のゆるく納まった四面体分子クラスターに帰属され、4135〜4155cm−1にあるより高い振動数群は、512ケージ中に配列した2つの分子に帰属される。10kPaで78Kから加温すると、より高い振動数のバイブロンは115Kより高温で次第に消えるが、より低い振動数のバイブロン及びsII結晶構造は145Kまで存在しつづけ、SF・17HOなどの充填された512ケージ及び空の512ケージを伴うsII構造は安定なままであることが既知なので、これは上記のピーク帰属と整合性がある。10kPaで145Kより高温では、より低い振動数のバイブロンは次第に消え、結晶構造は崩壊する。
図8に示すとおり、水素クラスレートの赤外スペクトルも、水素バイブロンピークを4145cm−1に、非常に弱いピークを4125cm−1に示す。水素分子に固有のラマンバイブロン強度とは異なり、赤外バイブロン強度は環境に対して高感度である。等核分子のため、遊離水素分子は電気双極子をもたず、したがって赤外線を吸収しない。固体中で結合しているため、水素の電子密度はゆがんでおり、衝突誘起赤外吸収を示す。比較的高い4145cm−1のピーク強度は、512ケージ中に配列した二分子クラスターと整合性があり、4125cm−1のピーク強度の不足は、ゆるく収まった512ケージ中の流体様クラスターと整合性がある。圧力−温度条件を変更すると、赤外バイブロンは水素クラスレートのラマンバイブロンと同様の挙動を示す。
本発明を例示的な実施形態によって説明したが、本明細書で使用した表現は、限定表現ではなく、説明表現であることを理解されたい。本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、本発明の水素貯蔵のための組成物及び方法において様々な変更形態及び変形形態を作製できることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、本発明の変更形態及び変形形態を包含するが、それらが添付の特許請求の範囲及びそれらと同等のものの範囲内に入ることを条件とする。
比較的高圧及び低温で水素ハイドレートを生成するための本発明による方法の高レベルなフローチャートである。 氷の相図に関して示した、図1Aの方法によって水素ハイドレートを形成するプロセスを示すグラフである。 種結晶材料を用いて周囲圧力及び低温で水素ハイドレートを生成するための本発明による方法の高レベルなフローチャートである。 図2A−2Dは本発明の例示的な実施形態による水素ハイドレートの形成を示す写真である。 本発明による水素ハイドレートの形成後に測定した1組の比較例示的なラマンスペクトルを示す図である。 本発明による水素ハイドレートの代表的なラマンスペクトルの1組の拡大詳細図である。 図5Aは512ケージ及び512ケージを有するsII結晶クラスレート構造を示す図である。図5Bは512ケージ中の4個の水素分子からなる四面体クラスターを示す図である。図5Cは512ケージ中で2個の水素分子が向かい側の五角面に向かって配向しているクラスターを示す図である。 約355cm−1、390cm−1、及び815cm−1で水素分子ロトンS(0)、S(1)、及びS(2)を示す最大範囲のラマンスペクトルを示す図である。 分子水素バイブロンの領域で本発明による水素ハイドレートのラマンスペクトルを示す図である。 本発明による水素ハイドレート中の分子水素の赤外スペクトルを示す図である。

Claims (1)

  1. 水素貯蔵のための方法であって、
    封じ込めに種結晶材料としてのクラスレートを加えるとともに、水及び水素ガスを供給すること、
    水及び水素ガスの温度を下げて77K〜250Kの第1の低温及び10〜100kPaの第1の圧力で水素クラスレートを形成すること、並びに
    250K以下の温度範囲内の第2の低温で前記水素クラスレートを維持して水素貯蔵を行うこと
    を含む上記方法。
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