JP4677854B2 - 高周波焼入れ用炭素鋼材および機械構造用部品 - Google Patents
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他方、近年の環境問題の観点から、自動車部品に対する軽量化の要求が益々高まっており、該部品の薄肉化を実現するために、その素材のさらなる高強度化が望まれている。
以下、本発明を導くに到った知見について、詳しく説明する。
耐疲労強度が要求される機械構造用部品用(特に、自動車部品用)の鋼種では、ショットピーニング、浸炭法および高周波焼入れ処理による表面硬化層の形成により、所望特性を達成している。特に、高周波焼入れ法は、短時間処理によって均質な表面硬化層が得られること、高い圧縮残留応力を付与できる等のメリットが多い。この高周波焼入れ法では、熱間圧延等で形成した素材を所定の形状に切削加工後、急速加熱次いで急速冷却によって微細なマルテンサイト組織を得るものである。特に、急速加熱工程では、熱間圧延後の組織から短時間でオーステナイト域へ逆変態させるために、適正な加熱温度の選択や、多段の加熱および冷却処理によって、極めて微細なオーステナイト粒径を有する焼入れマルテンサイト組織を得ることが可能である。
一方、素鋼溶製時には程度の差はあるが合金元素の偏析が(特に、析出物となっていない固溶状態の元素に対し)起っている。このため、拡散焼鈍あるいは熱間加工によって組成並びに組織の均一化をはかるのが一般的であるが、厚板や棒鋼等では熱間加工度が小さいために、一次素材成形過程での組織や組成の均質化が困難な場合がある。特に、発明者らが主として検討したMoおよびWの添加は、高周波焼入れ前組織としてベイナイト相を得ることが可能である反面、素鋼溶製時の元素偏析が著しく、1200℃程度の熱処理では凝固時の偏析が解消されないことが多かった。実際、高炭素鋼へMo添加を行った場合、添加するMo濃度が0.15質量%を超えると、素材溶製時に形成された固溶Moの偏析が熱間圧延によって圧延方向(L方向)断面において帯状に分布しやすいことを確認した。
この偏析の一例として、図1に、0.6質量%Mo添加鋼における高周波焼入れ前組織中のMo濃度不均一が明らかな場合の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)のMoマッピング像を示す。このマッピング像は、L方向断面、かつ表面から深さ0.25mmの領域を測定したものである。なお、図示の鋼材は、上記範囲のMoの他、0.4質量%C, 0.35質量%Si, 0.7質量%Mn, 0.025質量%Al, 0.0045質量%Nを含む鋼スラブを出発材として、粗圧延後に1250℃×30分の鋳片加熱処理を実施した後、24mmφまでの棒鋼圧延工程を経た、高周波焼入れ直前の鋼材である。
図1(a)において、明るく白い部分がMoのX線強度が強い(即ち、固溶Mo濃度が高い)領域であり、グレー部分がMoのX線強度が弱い(即ち、固溶Mo濃度が低い)領域である。又この例では、濃度不均一の幅は、最大100μm(B−B′)である。例えば、圧延方向に垂直な直線(A−A’)上のMoのX線強度プロファイルを描けば、図1(b)に示す結果が得られる。
この図1(b)において、直線(A−A’)上でのMo強度の最大値は、図1(a)における白い領域のある点(c)として存在する。一方、Mo強度の最小値は、図1(b)におけるグレー領域のある点(d)として存在する。こうしたラインプロファイルを全視野にわたって描くことで、視野中の最大値と最小値が抽出できる。但し、組織内には明らかなボイドや析出物(図1(b)における(e))により、固溶Moあるいは固溶Wの組成を反映しない場合があるため、これらの値は評価の対象から除外する。
ちなみに、本鋼種ではしばしば数100nmからミクロンオーダーの粗大なMo系析出物が存在するが、これらは母相の組成から大きく外れており、TiやMoを極端に多く含むことから容易に判断できる。また、組成の変化は、例えば図2(a)および(b)における2種の析出物(Ti、Mo)(C、N)と(Fe、Mo)23C6の分析結果が示すように、例えばエネルギー分散X線分光(EDX)スペクトルより判断できる。以後は特に断らなければ、Mo濃度およびW濃度は、固溶Mo濃度および固溶W濃度を夫々示すものとする。
(1)質量%で、C:0.3〜0.6%、Mo:0.15〜0.8%、S:0.05%以下、Mn:0.2〜2%、Si:1%以下、 P:0.02%以下、 Al:0.5%以下および N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼材であって、任意の断面領域におけるMoのX線強度の最大値(Imax)と最小値(Imin)との比Imax / Imin が3以下であることを特徴とする疲労特性に優れた高周波焼入れ用炭素鋼材。
C:0.3〜0.6%
Cは、焼入れ性への影響が大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて、疲労強度を向上させる上で非常に有用である。しかしながら、C含有量が0.3%に満たないと、疲労強度を維持するための焼入れ深さを確保しにくくなることから、C含有量は0.3%以上とする。一方、C含有量が0.6%を超えると切削性や冷間鍛造性が低下する。さらに、高周波焼入れ前のノルマ処理後の組織が粗いフェライト+パーライト混相となるため、高周波焼入れ処理後の組織が不均一となる。したがって、C含有量は0.3〜0.6%の範囲とする。
Moは、本発明において極めて重要な元素である。MoはCおよびP等の粒界偏析を軽減して素材の粒界強度を高めることで疲労強度等の機械的特性を向上させる働きがある。また、一般的に焼入れ性向上に有用な元素であり、高周波焼入れ前のノルマ処理後の組織においてベイナイト相生成を促進し、セメンタイトの微細分散を実現する。さらに、Moはフェライト安定化元素として高周波焼入れ時の逆変態を遅延させる働きがあると考えられる。こうした効果を得るには、0.15%以上の添加が必要である。
W:0.25〜1.6%
Wは、Moとほぼ同様の効果が期待できる重要元素である。Wは、Moに対して質量数でほぼ約2倍弱となるため、Wの添加範囲は0.25〜1.6%とする。上下限の限定理由はMoの場合と同様である。さらに、好適にはWの添加範囲は0.5〜1.2%とする。
Mnは、焼入性を向上させて焼入れ硬化層を確保する上で有効な元素である。さらに、固溶強化により母相の強度上昇にも有効であるうえ、鋼中SをMnSとして固定し、切削性を向上させる役割も有する。0.2%以下の添加ではこうした効果が得られない。しかしながら、2%を超えて添加すると焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、素材軟化による疲労強度低下につながることから、Mn含有量は0.2〜2.0%の範囲とする。
Sは、鋼中でMnSを形成し切削性を向上させる働きが期待できるが、0.05%を超えて添加するとPと同様に粒界に偏析して疲労強度等の機械的特性の低下を招くため、Sの含有量は0.05%以下に制限する。
Si:1%以下
Siは、製鋼時の脱酸元素として有用である上に、フェライト中に固溶して鋼強度を向上させる効果を有する。さらには、高強度鋼の破壊形態が粒界破壊へ遷移することを抑制する効果も期待されることから、好ましくは0.01%以上で添加することができる。しかしながら、Si含有量が1%を超えると、硬度が上昇し切削性や冷間鍛造性の低下を招く。従って、Si含有量は1%以下とする。
Pは、高温加熱時のオーステナイト粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより疲労強度等の機械的特性を著しく低下させるうえ、製造工程中の焼割れ等も助長することから0.02%以下に制限する。
Alは、製鋼時の脱酸元素として有用である上に、フェライト中に固溶して鋼強度を向上させることから添加することができる。これらの効果を得るには、好ましくは0.05%以上で添加する。しかしながらAl含有量が0.5%を超えると、粗大なAlN等が素材中に残存しやすくなり疲労強度の低下を招く。従って、Al含有量は0.5%以下とする。
Nは、過剰に存在すると靭性の低下を招くことがあるため、上限を0.01%以下とする。なお、Ti等の窒化物形成能の大きな元素と共存すると、MN型析出物を形成してオーステナイト域での粒成長抑制に効果を発揮することから、0.01%以下であれば無添加にする必要はない。
Tiは、MN型析出物を形成してオーステナイト域での粒成長抑制に効果を発揮することから、添加することができる。これらの効果を得るには、好ましくは0.01%以上で添加する。しかしながら、0.05%以上添加した場合、Moを含有する(Ti,Mo)(C,N)の析出量が増大し、固溶Moの効果が低減することから0.05%未満とする。
Bは、焼入れ性向上と粒界強化のために有効な元素であるが、本効果はBが固溶状態で存在する場合に限られる。このため、BNの形成を回避するべくTi量がTi≧3.4Nの関係を満足する場合にのみ、0.001%以上で添加することが望ましい。なお、この条件が満足される場合でも、過剰な添加によってはオーステナイト域でのノルマ処理時等に粗大なM23(C,B)6が形成して、Mo等の有効元素の固溶量低下を引き起こすことから、上限を0.005%とする。
Caは、鋼中Sを(Mn,Ca)Sの複合形態で固定し、切削性向上する働きがあり、好ましくは0.001%以上で添加する。しかし、0.010%以上添加しても、効果が飽和するため、0.010%未満とする。
本発明において最も重要な制御ポイントは、Mo等の濃度不均一を上工程で解消し、短時間の高周波焼入れ処理前の組織を均質化することである。具体的には、MoまたはWについて、上記した比(Imax)/(Imin)を3以下とすることが肝要である。
かような鋼を得るためには、上記した化学成分組成を満足する鋼を溶製して得られた鋼素材について、熱間圧延や熱間鍛造等の熱間加工の前段、すなわちスラブ加熱工程から粗圧延工程において鋳片を例えば1200℃以上の温度域に加熱する熱処理を施すことが有効である。特に、Mo(またはW)濃度が高い場合は、鋼溶製時の凝固偏析が特に顕著となるため、1300℃以上の熱処理が望ましい。
また、鋼素材溶製の製鋼工程において電磁攪拌等を実施することにより、鋳造時の組成不均一性をある程度解消することも有効と考えられる。
さらに本発明においては、高周波焼入れ後の表面硬化層にて粒度不均一を抑えたい事から、少なくとも高周波焼入れ後の表面硬化層となる深さまでにおいて、MoあるいはWのX線強度比が3以下であることが好ましい。
あるいは、前記測定領域中の任意の2点を測定して強度比を求め、それを任意の回数繰り返した際、その各強度比全てが、3以下を満たしていれば良いこととする。この強度比の組は、経験的に25組作ればほぼ平均化された情報が入手できることがわかっている。
何れの場合も、図1および図2で説明した析出物やボイド起因の強度は、強度比算出の為の対象データからは除く。
ねじり疲労試験は、最大トルク:4900 N・m(=500kgf・m)のねじり疲労試験機を用いて、両振りで応力条件を変えて行い、1×105回の寿命となる応力を疲労強度として評価した。
これらの測定および評価結果を、表2に併記する。
Claims (5)
- 質量%で、C:0.3〜0.6%、Mo:0.15〜0.8%、S:0.05%以下、Mn:0.2〜2%、Si:1%以下、 P:0.02%以下、 Al:0.5%以下および N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼材であって、任意の断面領域におけるMoのX線強度の最大値(Imax)と最小値(Imin)との比Imax / Imin が3以下であることを特徴とする疲労特性に優れた高周波焼入れ用炭素鋼材。
- 質量%で、C:0.3〜0.6%、W:0.25〜1.6%、S:0.05%以下、Mn:0.2〜2%、Si:1%以下、 P:0.02%以下、 Al:0.5%以下および N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鋼材であって、任意の断面領域におけるWのX線強度の最大値(Imax)と最小値(Imin)との比Imax / Imin が3以下であることを特徴とする疲労特性に優れた高周波焼入れ用炭素鋼材。
- 鋼材が、さらに質量%で、Ti:0.05%未満およびB:0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の疲労特性に優れた高周波焼入れ用炭素鋼材。
- 鋼材が、さらに質量%でCa:0.010%未満を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の疲労特性に優れた高周波焼入れ用炭素鋼。
- 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高周波焼入れ用炭素鋼材からなることを特徴とする疲労特性に優れた機械構造用部品。
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