JP4677332B2 - 含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材 - Google Patents

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本発明は金属粉末を焼結した含油軸受をはじめとした金属摺動部材、とくにフッ素系潤滑油を用いた金属摺動部材の高温又は低温あるいは低圧・化学溶剤雰囲気といった特殊な環境にて作動する機械類の摺動部位等に用いられる場合において、摺接表面が高温化した際にルイス酸触媒との反応を抑制し、十分な耐熱・耐摩耗性を備えた金属摺動部材を提供することを目的とする。
近年、高精度・高出力化する自動車あるいは船舶用エンジン周辺、とくにEGR(Exhaust Gas Recirculation)やETC(Electronic Throttle Control)システム等をはじめとし、通常120℃以上の高温環境下において用いられる小型モータが増加しているが、このような高温環境での使用には、炭化水素をベースとした汎用の潤滑油を含浸させたモータを用いても蒸発による油量不足や酸化による重合を惹き起こして固化するために耐久性の面において不適合であるところから、パーフルオロポリエーテル(PFPE)オイルを潤滑油として用いることが多い(例えば特開2003−147380号公報・特開平5−240251号公報参照)。
また、上記パーフルオロポリエーテルオイルとしては、熱安定性および蒸発特性に優れ、また化学的安定性にも優れた直鎖型フッ素オイルとして「フォンブリン(商品名)」〔ソルベイソレクシス社製〕が知られている。これは上記したように耐熱性に優れるのみならず、蒸発量が少なく、粘度指数が高いこと、しかも製造工程での収率が良いところから比較的安価であるために多く用いられている。
しかし、上記したフォンブリンの最大の欠点は、高温下ではルイス酸触媒と反応して急激に分解を起こし、フッ化水素を発生しながら蒸発する性質があることである。ルイス酸触媒は、塩化アルミニウムに代表されるように高温下でのルイス酸触媒能を有し、特に素材中に鉄その他の金属物質やグラファイトなどルイス酸触媒能を有する材料を含んだ金属焼結含油軸受など金属摺動材について用いた場合に、摺動面に発生した高熱によってフォンブリンがこれらルイス酸触媒能を有する材質と反応してフッ化水素を生じ、軸受その他の金属摺動材が急速に腐食を起こし、異常磨耗を生じたものとみられるトラブルが近年多発している。
このために、これまでは材質について比較的ルイス酸触媒能の低い青銅の使用のみに限定し、グラファイトも一切添加しない粉末焼結軸受材を代用使用することを試みてきたが、使用条件次第では異常磨耗を生じ、またエンジン周りに用いられるところから振動による叩き磨耗が激しく耐久性の面で十分ではないことが確認されている。
特開2003−147380号公報 特開平5−240251号公報
しかし、例えば自動車や船舶用エンジンの振動による衝撃等に十分耐えられるようにするためには素材中に鉄やグラファイト等のルイス酸触媒能を有する物質を含有することは避けられない。したがって、問題は上記した触媒能を有する物質の触媒反応を如何にして抑制するかが大きな課題となるところである。
そこで本発明は、エンジン等の振動による衝撃叩き摩耗に十分耐えられるよう、素材中に鉄やグラファイト等のルイス酸触媒能を有する物質を含みながら、しかも高温下において上記ルイス酸触媒反応を抑制して耐久性を著しく向上させるようにすることを目的とするものであって、具体的にはパーフルオロポリエーテル(PFPE)などフッ素系潤滑油を用いる摺動用金属素材中に含窒素化合物を混合させてなることを特徴とした焼結含油軸受材などの含窒素化合物混合金属摺動部材に関する。
本発明は上記したように、パーフルオロポリエーテル(PFPE)などフッ素系潤滑油を用いる摺動用金属素材中に含窒素化合物を混合させてなるものであるために、金属摺動部材の基材中に鉄やグラファイト粉など強いルイス酸触媒能を有する素材を含有させてあっても、これを高温下に晒した場合にルイス酸が含窒素化合物の窒素原子を捕捉して不活性化され、その結果上記したルイス酸触媒反応が抑制されてフッ素系潤滑油の分解を阻止し、摺接面腐食を無くしてこれが主因とみられる摺動面の異常磨耗を無くすことにより耐久性を著しく向上させることができる。
以下において本発明の具体的な内容を説明すると、本発明が適用可能な金属摺動部材としては主に粉末焼結含油軸受材が中心であるが、このほかにも粉末冶金法によって製造される焼結機械部品のうち、摺動性が要求されるもの、例えば滑り軸受や流体動圧軸受といった別の種類の軸受、あるいは歯車や油圧部品、ポンプ、原動機、変速機、タービン、空気圧縮機、工作機器、冷凍機等といった各種の機械類のうち、特に熱的・化学的に安定なフッ素系のオイルが潤滑剤として必要とされるところの、高温・低温・低圧・化学溶剤雰囲気といった特殊な環境にて作動する機械類の摺動部位に用いられるあらゆる摺動部材について適用することが可能である。
これらの金属摺動部材の原料粉としては、例えば鉄系や青銅を含有させた銅系のものなど既知の材質の多くをそのまま用いることができるが、例えば自動車や船舶などのエンジン周りに用いられる小型モータのように振動による叩き磨耗などに十分に耐えうるようにするためには鉄などのある程度硬度を保持できる材料や、グラファイトなどの固体潤滑剤としての特性を有する材料の使用が必須となる。
さらに上記した振動による叩き磨耗のほかに、120℃程度か、あるいはそれ以上の高温下での使用環境においては、汎用の炭化水素系潤滑油を用いた場合には蒸発や酸化重合による固化により摺動面に焼き付きや異常磨耗を生ずるために、高温環境下での熱安定性に優れた潤滑油、とくにパーフルオロポリエーテル(PFPE)などフッ素系潤滑油を用いる必要がある。
なおパーフルオロポリエーテルの具体例としては、ソルベイソレクシス社製の「フォンブリン(商品名)」のほかに、デュポン社製の側鎖型フッ素オイルである「クライトックス(商品名)」、さらにはダイキン工業株式会社製の直鎖型フッ素オイルである「デムナム(商品名)」等がある。しかし「クライトックス」は蒸発しやすく粘度指数が低いこと、また「デムナム」は製造工程での収率が悪く供給が不安定であること、等の難点がある。
さらにこれらの難点を補い合わせるために既述したフォンブリンと側鎖型フッ素オイルとを混合し、さらに増ちょう剤としてポリテトラフルオロエチレン:四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を加えた製品も存在するがフォンブリンよりも割高で、しかもフォンブリン成分が反応して軸受材などの摺動部材に腐食を惹き起こすことが確認されているところから実用性には乏しいものといえる。
パーフルオロポリエーテルは潤滑性および耐熱性、耐薬品性に優れ、化学的にきわめて安定した物質で酸化劣化を殆どおこさないところから、とくに磁気ディスク基板や宇宙機材等、さらには蒸気圧が非常に低いところから真空下やクリーンルーム内での使用、あるいは半導体プロセス装置や液晶装置の真空ポンプ油などの真空機器類、原子力関連の高温用軸受材用潤滑剤としても使用可能であり、境界潤滑下においては相手材料と反応し、エーテル基の部分で主鎖が切断され、相手材料表面にフッ素化合物を生成することができる。
しかし摺動面が高温化する焼結含油軸受材などの摺動部材について用いる場合においては、これらの原料粉中には鉄あるいはグラファイトなどの強いルイス酸触媒能を有する材料が混合されているために、高温雰囲気下では上記したフッ素系潤滑油がルイス酸触媒と反応して急激に分解し、フッ化水素を発しながら蒸発する結果、フッ化水素が周囲の水分と結びついてフッ酸を生じ、軸受材など摺動部材を腐食させる。腐食の結果発生したフッ化金属は反応前の金属に対し硬度が大きく減少するために耐摩耗性に劣り、また強力なルイス酸触媒能を有しているため、これに接するフッ素系潤滑油が連鎖的に分解反応を起こしながらさらに軸受材を腐食させ、急速に摩耗が進行することによって摺動面に異常な磨耗を生ずることになる。
そこで上記したパーフルオロポリエーテル(PFPE)などフッ素系潤滑油がルイス酸触媒能を有する鉄などの材料と接した場合に触媒と反応しないように摺動用金属素材中に含窒素化合物を混合する。ここで用いられる含窒素化合物としては、窒化鉄、窒化銅、窒化アルミニウム、窒化マグネシウム、窒化カルシウム、窒化ニオブ、窒化バリウム、窒化ガリウム等の窒化金属類のうち少なくとも1種または2種以上の混合物、あるいは窒化ホウ素、窒化ケイ素などの非金属窒化物のうち少なくとも1種又は2種以上の混合物、または金属・非金属を問わず、硝酸基やアンモニウム基、アミン基といったそれ以外の形で窒素原子を含む分子構造を有した化合物が考えられる。
なかでもボロンナイトライド(窒化ホウ素)は固体潤滑剤としての特性を有するために、これを既述した強いルイス酸触媒能を有するグラファイトの代用品として用いることも可能であり、これを用いた場合には軸受など焼結摺動部材の性能に悪影響を与えることなく、また現状の製造工程のままで量産が可能であるところから、将来的には混合材として最適材となることが大きく期待される。
さらに含窒素化合物を軸受など焼結摺動部材の原材料中に混合する場合、金属窒化物については十分なルイス酸触媒反応の抑制効果を期待するには少なくとも原料粉中に0.01重量%以上、さらに好ましくは1.0重量%以上の添加は必要であり、また略全量(略100重量%近く)を窒化金属により構成してもよい。また非金属窒化物については、上記した金属窒化物の場合と同様の理由に加え、焼結摺動部材本来の機能(摺動性・強度など)を失わないようにするためには原料粉中に0.01重量%以上、さらに好ましくは1.0重量%以上の添加が必要であるが、上限については55重量%を超えると焼結摺動部材の必要強度を十分に維持することが困難となるところから、0.01重量%、さらに好ましくは1.0重量%〜55重量%の範囲内であるのが好ましい。
なお、既述した硝酸基やアンモニウム基、アミン基といったそれ以外の形で窒素原子を含む分子構造を有した化合物についても、それが金属系のものである場合には原料粉中に0.01重量%、さらに好ましくは1.0重量%から略100重量%近くの使用が可能であり、また非金属系である場合においては0.01重量%、さらに好ましくは1.0重量%から55重量%の範囲内の添加が必要となる。
試験例
強いルイス酸触媒の特性を示す鉄粉およびボロンナイトライド粉を含む混合材料をもって複数種のサンプル材を作成し、これをフッ素系潤滑油中に一定量投入した状態で高温加熱し、一定時間経過後にこれらの重量を測定することにより、フッ素系潤滑油の残存量を計算した。なお詳細な試験条件については下記の通りである。
《試験条件》
使用原料
鉄 粉 : へガネスAB製 NC100.24
ボロンナイトライド粉 : 電気化学工業(株)製 HTD
使用フッ素オイル
ソルベイソレクシス(株)製 直鎖フッ素オイル フォンブリン M30
使用容器
φ30ガラス製シャーレ
試験温度
200℃
《試験用サンプル》
試験に供した各サンプルの原料組成および混合比率は下記の通り

[鉄 粉][ボロンナイトライド粉]
サンプルA 100 −
サンプルB 99 1
サンプルC 95 5
※〔重量%〕
《試験結果》
フッ素オイル2cc中に、サンプルA〜Cをそれぞれ2g投入して試験を開始した。開始後一定時間経過時点でのそれぞれのサンプルのフッ素オイル残存量について調べた結果は下記の通りであった

[400時間後] [500時間後]
粉投入なし 98.3 98.1
サンプルA 28.8 28.4
サンプルB 98.4 24.2
サンプルC 98.4 98.0
※〔%〕
《試験結果について》
サンプルAは試験開始後400時間以内にフッ素オイルの急激な蒸発が始まったのに対し、サンプルBでは400時間が経過するまで急激な蒸発は発生せず、またサンプルCでは500時間後も急激な蒸発は発生しなかった。
よって、含窒素化合物(ボロンナイトライド粉)を含むサンプル(B・C)ではフッ素オイルの急激な蒸発が抑制され、また含窒素化合物の添加量を55重量%以下の範囲内において増加するほど、蒸発を抑制する効果が増していることが確認できた。

Claims (6)

  1. パーフルオロポリエーテル(PFPE)などフッ素系潤滑油を用いる摺動用金属素材中に含窒素化合物として窒化金属類粉あるいは窒化非金属類粉を混合させてなることを特徴とした含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材。
  2. 窒化金属類粉が窒化鉄や窒化銅、窒化アルミニウム、窒化マグネシウム、窒化カルシウム、窒化ニオブ、窒化バリウム、窒化ガリウムのいずれか1種または2種以上の混合物であるところの請求項1に記載の含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材。
  3. 窒化非金属類粉がボロンナイトライド(窒化ホウ素)、窒化ケイ素のうち少なくとも1種または2種以上の混合物であるところの請求項1に記載の含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材。
  4. 摺動用金属素材中に混合する金属系含窒素化合物の添加量が少なくとも0.01重量%以上であるところの請求項1又は請求項2の何れか1に記載の含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材。
  5. 摺動用金属素材中に混合する非金属系含窒素化合物の添加量が0.01〜55重量%の範囲内であるところの請求項1又は請求項3の何れか1に記載の含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材。
  6. 耐熱性金属摺動部材が焼結含油軸受であるところの請求項1〜5の何れか1に記載の含窒素化合物を混合した耐熱性金属摺動部材。


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