以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明に係る実施の形態におけるモータ制御装置の概略構成を示すブロック図、図2は該モータ制御装置の詳細な構成を示すブロック図、図3は該モータ制御装置により制御する三相ブラシレスDCモータの構造を詳細に示す図である。なお、本実施の形態では、モータ制御装置を、モータ駆動で走行する所謂電気自動車である電動車輌に搭載した形で説明を進めるが、当該モータ制御装置は、モータと共にエンジンを搭載するハイブリッド車にも適用可能であることは勿論である。
図1及び図2に示すように、モータ制御装置10は、制御部45と、該制御部45に接続されたドライブ回路51と、該ドライブ回路51に接続されたインバータ40と、該インバータ40から駆動信号を供給される三相ブラシレスDCモータ(以下、「ブラシレスDCモータ」或いは「モータ」とも言う)31と、該モータ31のロータ21の回転数を検知するモータ回転検知センサ73と、該モータ31におけるロータ21の磁極位置を検知するホール素子43と、該ホール素子43からの検知信号に基づいて磁極位置を検出する磁極位置検出回路44と、を有している。この磁極位置検出回路44は、三相ブラシレスDCモータ31内の磁極位置を検出する磁極位置検出手段を構成している。
制御部45は、モータ回転数検出手段69と、要求トルク検出手段70と、モード切換え手段71と、制御磁極位置算出処理手段72と、トルク指令値演算手段74と、PWM信号生成手段(駆動信号生成手段)75と、を有している。
モータ回転数検出手段69は、モータ回転検知センサ73による三相ブラシレスDCモータ31のロータ21の回転数の検知結果に基づき、該モータ31の回転数を逐次検出する。
要求トルク検出手段70は、ドライバにより踏み込まれたアクセルの開度(アクセル開度)に基づき、該アクセル開度に対応する、ブラシレスDCモータ31への要求トルクを逐次検出(算出)して出力する。
トルク指令値演算手段74は、要求トルク検出手段70からの検出要求トルクに基づいてトルク指令値を演算してPWM信号生成手段75に送信する。そして、トルク指令値演算手段74は、モータ回転数検出手段69により所定数(例えば20[rpm])以上のモータ回転数が検出されて要求トルクの値となるように演算されたトルク指令値が上限値(例えば80[Nm])を超える際には、該上限値をトルク指令値とする。また、トルク指令値演算手段74は、モータ回転数検出手段69により所定数(例えば20[rpm])未満のモータ回転数が検出されて要求トルクより高い値となるように演算されたトルク指令値が上限値(例えば85[Nm])を超える際には、該上限値を超えた値をトルク指令値とする。
従って、所定数以上のモータ回転数の検出に伴って要求トルクの値に演算されたトルク指令値が上限値を超える際は該上限値となるようにトルク指令値を演算することにより、三相ブラシレスDCモータ31を搭載した電動車輌の通常走行の間、即ち、極低速以外の状態で回転数が安定していてモータ31の磁極位置の検出が円滑に行われる間は、上限値と同等のトルク指令値に基づいてモータ31を駆動することで、円滑な走行性能を確保することができる。また、所定数未満のモータ回転数の検出に伴って要求トルクより高い値に演算されたトルク指令値が上限値を超える際は該上限値を超えた値となるようにトルク指令値を演算することにより、上記ブラシレスDCモータ31を搭載した電動車輌の登坂走行開始の比較的短い期間、即ち、極低速状態で回転数が安定せずモータ磁極位置検出が困難である短期間だけ、上限値を超えた値のトルク指令値に基づいてモータ31を駆動することで、円滑な走行性能を確保することができる。また、トルク指令値演算手段74は、制御磁極位置算出処理手段72により磁極位置を所定範囲(例えば、図17(c)における0〜α度の範囲)で変更した場合に、三相ブラシレスDCモータ31が出力する出力トルクが要求トルクとなるようにトルク指令値を演算する。これにより、モータトルクを有効に出力できる。
また、PWM信号生成手段75は、トルク指令値演算手段74により演算されたトルク指令値を受信すると、該トルク指令値に基づいて電流指令値を発生させ、検出された磁極位置θ、U相V相の検出された信号SGU、SGV及び電流指令値に基づくパルス幅のV相、U相及びW相のパルス幅変調信号(PWM信号)SU,SV,SWを発生させて、ドライブ回路51に送信する。このPWM信号生成手段75は、三相ブラシレスDCモータ31の通常走行時における通常制御時には、トルク指令値演算手段74からのトルク指令値に従って電流信号(駆動信号)IU,IV,IWを生成する第1生成制御を実行させるためのPWM信号SU,SV,SWを生成し、また、モータ回転数検出手段69により所定数未満の回転数が検出された状態で要求トルク検出手段70により所定値以上の要求トルクが検出された際には、トルク指令値演算手段74からのトルク指令値より高いトルク指令値に基づいて電流信号IU,IV,IWを生成する第2生成制御(即ち、図16におけるステップS13の登坂制御)を実行させるためのPWM信号SU,SV,SWを生成する。そして、PWM信号生成手段75は、モータ回転数検出手段69により所定数以上の回転数が検出された際、第2生成制御を第1生成制御に切り換えるためのPWM信号SU,SV,SWを生成する。更に、PWM信号生成手段75は、モータ回転数検出手段69により所定数未満の回転数が検出され、かつ要求トルク検出手段70により所定値未満の要求トルクが検出された際、第2生成制御を第1生成制御に切り換えるためのPWM信号SU,SV,SWを生成する。
すなわち、本実施の形態では、PWM信号生成手段75が、ブラシレスDCモータ31の通常制御時にはトルク指令値演算手段74からのトルク指令値に従ってインバータ40に電流信号IU,IV,IWを生成させる第1生成制御を実行し、かつモータ回転数検出手段69により所定数(例えば20[rpm])未満の回転数が検出された状態で要求トルク検出手段70により所定値(例えば80[Nm])以上の要求トルクが検出された際にはトルク指令値演算手段74からのトルク指令値より高いトルク指令値に基づいてインバータ40に駆動信号を生成させる第2生成制御を実行する。
モード切換え手段71は、U相,V相,W相の全ての信号相を用いてブラシレスDCモータ31を駆動制御する三相変調制御モードと、これらU相,V相,W相のうち2つの相を用いてブラシレスDCモータ31を駆動制御する二相変調制御モードとを、所定の条件に応じて切り換える。すなわち、モード切換え手段71は、モータ回転数検出手段69にて逐次検出されるブラシレスDCモータ31の回転数と、要求トルク検出手段70にて逐次検出される要求トルクとを常に入力し、モータ回転数検出手段69により所定数未満の回転数が検出され(つまり、極低速状態か停止状態)、かつ、要求トルク検出手段70により所定値以上の要求トルクが検出された場合には、上記PWM信号生成手段75による第2生成制御(即ち登坂制御)の実行直後、二相変調制御モードを三相変調制御モードに切り換えるように制御する。
また、モード切換え手段71は、三相変調制御モードに切り換えた後、モータ回転数検出手段69により所定数以上の回転数が検出された場合には、極低速状態や停止状態ではない通常走行状態であると判定して、三相変調制御モードを二相変調制御モードに切り換える。或いは、モード切換え手段71は、三相変調制御モードに切り換えた後、モータ回転数検出手段69により所定数未満の回転数が検出され、かつ要求トルク検出手段70により所定値未満の要求トルクが検出された場合には、三相変調制御モードを二相変調制御モードに切り換える。
制御磁極位置算出処理手段72は、三相ブラシレスDCモータ31の、実際の磁極位置(実磁極位置)とホール素子43により検出される検出磁極位置θとが一致しない状態に対処するため、磁極位置検出回路44から送信される各検出パルス及び検出磁極位置θに基づいて制御磁極位置の算出処理を実行し、制御用として認識される制御磁極位置θcを算出する。制御磁極位置算出処理手段72は、モータ回転数検出手段69により所定数(例えば20[rpm])未満の回転数が検出された際には、検出された磁極位置を所定範囲(例えば、図17(b),(c)における0〜α度の範囲)で変更することによって制御用磁極位置を算出する。そして、PWM信号生成手段75は、上記制御用磁極位置に基づいてインバータ40に電流信号(駆動信号)IU,IV,IWを生成させる。上記所定範囲は、モータ回転数検出手段69により検出された所定数のモータ回転数(例えば、図17(a)におけるa1)未満の回転数に対応する。
このように、磁極位置検出回路44がモータ31内の磁極位置を検出し、制御磁極位置算出処理手段72が、モータ回転数検出手段69により所定数未満の回転数が検出された際には検出された磁極位置を所定範囲で変更することによって制御用磁極位置を算出し、PWM信号生成手段75が制御用磁極位置に基づいて電流信号IU,IV,IWを生成するので、モータ回転数が所定数未満になって磁極位置の正確な検出が困難になった場合、要求トルクよりも高いトルク指令値に基づいてモータ界磁角を所定範囲で振ることができ、モータトルクを有効に出力できる。そして、上記所定範囲が、モータ回転数検出手段69により検出された上記所定数のモータ回転数未満の回転数に対応するので、要求トルクよりも高いトルク指令値に基づいてモータ界磁角を振ることができ、本来の目標であるトルク指令値に基づくトルクと同等のトルクを出力させることができる。
ドライブ回路51は、制御部45から受信したPWM信号SU,SV,SWに基づき、インバータ40内の後述するトランジスタTr1〜Tr6をそれぞれオン/オフ作動させるための制御パルス(作動信号)を発生させて、該インバータ40に送信する。この制御パルスは、Nチャネル型MOSFETであるトランジスタTr1〜Tr6の各ゲートに印加される電圧信号であり、各パルス生成区間におけるオン(ハイ)のデューティ比が変調されている。インバータ40のトランジスタTr1〜Tr6は、ゲートに印加される制御パルスがハイの間だけオンとなってソース・ドレイン間の電流路に電流を流す。このように、トランジスタTr1〜Tr6がそれぞれにオン/オフ作動してチョッパリングすることで、バッテリ14から供給される電流から電流信号IU,IV,IWを生成して、U相,V相,W相の各通電路から各ステータコイル11〜13に供給し、それにより、ブラシレスDCモータ31を回転駆動させる。
インバータ40は、内部に3相のスイッチング回路を有しており、バッテリ14からの直流電圧を3相の電流信号IU,IV,IWに変換する機能を備える。このスイッチング回路では、トランジスタからなるスイッチング素子として6個のNチャネル型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用し、Tr1とTr2の対、Tr3とTr4の対、Tr5とTr6の各対としてそれぞれ直列に接続した3組のトランジスタ対A、B、Cを並列に接続することで3相回路として構成している。
なお、本実施の形態では、Nチャネル型MOSFETを用いてインバータ40のスイッチング回路を構成しているが、論理や回路構成の仕様によっては、Nチャネル型MOSFET以外の半導体、即ち、Pチャネル型MOSFET、或いは、電解効果型ではない通常のNチャネル型MOSトランジスタやPチャネル型MOSトランジスタ、更には、npn型やpnp型のバイポーラトランジスタなどを用いてスイッチング回路を構成できることは勿論である。
トランジスタ対A、B、Cの各ノードは、三相ブラシレスDCモータ31のU相、V相、W相端子にそれぞれ結線されており、各トランジスタ対A、B、Cから該モータ31へ、或いは該モータ31から各トランジスタ対A、B、Cへと通電され得るようになっている。また、トランジスタTr1〜Tr6のソース・ドレイン間には、それぞれダイオードd1、d2、d3、d4、d5、d6が接続されている。これらダイオードd1〜d6は、例えば、ブラシレスDCモータ31の逆起電力等によって生じた電流を回避させることでその対応するトランジスタを保護するように機能する。
インバータ40には、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5の各電流路の一端に正極側が、また下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6の各電流路の一端に負極側がそれぞれ導通するように、バッテリ14が接続されている。また、インバータ40とバッテリ14との間には、平滑用コンデンサ4が接続されている。このような構成を有するインバータ40は、トランジスタTr1〜Tr6を選択的にオン/オフ作動させることにより、U相,V相,W相の各信号相に対応する電流信号(駆動信号)IU,IV,IWを、バッテリ14の直流電流から生成する。
なお、本実施の形態では、3つのトランジスタTr1、Tr3、Tr5を、3相回路の上段に属するスイッチング素子として「上段スイッチング素子」と記載すると共に、3つのトランジスタTr2、Tr4、Tr6を、3相回路の下段に属するスイッチング素子として「下段スイッチング素子」と記載する。また、単に「スイッチング素子」と記載した場合は、上記トランジスタTr1〜Tr6の全体を総称して指すときと、一般名称としての単体の「スイッチング素子」を指すときとがあるものとする。
また、三相ブラシレスDCモータ31は、回転自在に配置されるロータ(回転子)21と、該ロータ21より径方向外方に配置されるステータ(固定子)22とを有しており(図3参照)、該ステータ22には、スター結線された3つの信号相であるU相、V相、W相のステータコイル11〜13が巻回されている。
ロータ21は、図3に示すように、不図示のシャフトに不図示のハブを介して取り付けられたロータコア21aと、該ロータコア21aの円周方向における複数箇所(本実施形態では12箇所)に配置された永久磁石21bと、を有している。これにより、ロータ21の円周方向の12箇所には、それぞれにN極及びS極の永久磁石21bが交互に配設されて6個の磁極対が形成される。また、ステータ22は、ステータコア23と、該ステータコア23に巻装された上記ステータコイル11〜13と、を有している。ステータコア23の円周方向における複数箇所(本実施形態では18箇所)には、それぞれ径方向外方に向けて突出するステータポール24が形成されている。なお、上記シャフトには、不図示のドラムが取り付けられ、該ドラムには小磁石が取り付けられており、該ドラムと対向させて、簡易的な磁極位置センサとしてのホール素子43(図2参照)が配設されている。
上記ホール素子43は、ロータ21の回転に伴って上記小磁石の位置を検出し、所定の角度(本実施の形態では60[°])ごとに磁極位置情報としての位置検出信号PU、PV、PWを磁極位置検出回路44に送る。
磁極位置検出回路44は、ホール素子43から受けた位置検出信号PU、PV、PWの信号レベルの組み合せに基づいて6つの検出パルスを発生させ、各検出パルスに基づいて磁極位置を検出し、この検出磁極位置θを上記検出パルスと共に制御部45に送信する。
以上のように、本モータ制御装置10では、バッテリ14から供給される直流電流がインバータ40によってU相、V相及びW相の電流信号IU,IV,IWに変換され、各相の電流信号IU,IV,IWとして各ステータコイル11〜13に供給されることで、三相ブラシレスDCモータ31が回転駆動して電動車輌が走行するように制御される。
ステータコイル11〜13は、スター結線されていることにより、各信号相のうちの2つの信号相の電流値が決まると残りの1つの信号相の電流値も決まる。従って、本実施の形態では、各相の電流信号IU,IV,IWをフィードバック制御するため、ステータコイル11、12のリード線に、U相及びV相の電流信号IU,IVを検出する電流センサ33、34が配設されており、該電流センサ33、34のセンサ出力である検出信号SGU、SGVが制御部45に送られる。
ついで、本実施の形態におけるモータ制御装置10による温度保証について説明する。本モータ制御装置10では、前述したように、モード切換え手段71が、ブラシレスDCモータ31の所定数未満の回転数が検出され、かつ所定値以上の要求トルクが検出された際には二相変調制御モードを三相変調制御モードに切り換え、また、上記モータ31の所定数以上の回転数が検出され、かつ所定値未満の要求トルクが検出された際には三相変調制御モードを二相変調制御モードに切り換えるように制御する。
すなわち、本発明の基礎となる技術においては、インバータ全体での発熱量を低減させる目的からモータ特性の全領域で二相変調制御モードを実施しているため、トランジスタ1個当たりの発熱量を考えると、下段スイッチング素子の方が上段スイッチング素子よりも高くなる。言い換えると、ブラシレスDCモータ31を搭載した電動車輌の登坂時等において、二相変調制御モードの実施状態で駆動輪に過大な負荷が作用することで該モータ31がロック状態(ストール状態)あるいは極低速状態になると、インバータ40内にて直列接続されたトランジスタ対A、B、Cの上段スイッチング素子(Tr1,Tr3,Tr5)及び下段スイッチング素子(Tr2,Tr4,Tr6)のいずれか(実際には図6及び図7から理解できるように下段スイッチング素子)に還流電流が集中して、該集中する側のスイッチング素子が特に発熱することとなる。
そこで、本実施の形態では、三相ブラシレスDCモータ31によるトルクアップのために該モータ31に対する給電を増加させながらも、トランジスタTr1〜Tr6の各1個当たりの発熱量を可及的に抑えるために、電流が1極集中しがちなストール領域等において、二相変調制御モードから三相変調制御モードに切り換えるように制御し、発熱をトランジスタTr1〜Tr6全体で均等化する。
図4は、本実施の形態におけるPWM信号SU,SV,SWの一例を示すグラフである。同グラフにおいて、正弦波である変調信号SUはU相に対応する電圧指令値、正弦波であるPWM信号SVはV相に対応する電圧指令値、正弦波であるPWM信号SWはW相に対応する電圧指令値であり、この順に120度ずつ位相が進んでいる。グラフにおける横軸は電気角を、縦軸は電圧レベルをそれぞれ示している。
まず、図5ないし図7に沿って、トランジスタTr1〜Tr6のゲートに印加するPWM信号SU,SV,SWによりハイレベル(High)/ロー(Low)レベルを切り換えて行う二相変調制御モードについて説明する。
図5(a),(b)は、トランジスタ対A、B、Cの上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5に印加されるPWM信号SU,SV,SWを示すタイミングチャートであり、図5(a)におけるタイミングt1は図4におけるタイミングT1に対応し、図5(b)におけるタイミングt3は図4におけるタイミングT2に対応している。図6(a)は、二相変調制御モード時の図5(a)のタイミングt1でのインバータ40内の電流の流れ状態を示し、図6(b)は、二相変調制御モード時の図5(a)のタイミングt2でのインバータ40内の電流の流れ状態を示している。また、図7(a)は、二相変調制御モード時の図5(b)のタイミングt3でのインバータ40内の電流の流れ状態を示し、図7(b)は、二相変調制御モード時の図5(b)のタイミングt4でのインバータ40内の電流の流れ状態を示している。
すなわち、図5(a)のタイミングt1では、U相のトランジスタTr1のゲートにPWM信号SUのハイレベル(High)が印加されて該トランジスタTr1がオンとなり、V相のトランジスタTr3及びW相のトランジスタTr5の各ゲートはロー(Low)レベルとなって該トランジスタTr3,Tr5の双方がオフとなる。同時に、これらとそれぞれ対をなすトランジスタTr2,Tr4,Tr6側には上記と逆の信号が印加されて、トランジスタTr2がオフ、トランジスタTr4,Tr6の双方がオンとなる。これにより、インバータ40のスイッチング回路全体では、図6(a)に示すように、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1、下段スイッチング素子であるトランジスタTr4,Tr6を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
また、図5(a)のタイミングt2では、トランジスタTr1,Tr3,Tr5のゲートが全てローレベルとなって該トランジスタTr1,Tr3,Tr5が全てオフとなる。同時に、これらとそれぞれ対をなすトランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加され、トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てハイレベルとなって該トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てオンとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図6(b)に示すように、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
更に、図5(b)のタイミングt3では、トランジスタTr1のゲートがローレベルとなって該トランジスタTr1がオフとなり、トランジスタTr3,Tr5の各ゲートはハイレベルとなって該トランジスタTr3,Tr5の双方がオンとなる。同時に、これらとそれぞれ対をなすトランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、トランジスタTr2がオン、トランジスタTr4,Tr6の双方がオフとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図7(a)に示すように、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2、上段スイッチング素子であるTr3,Tr5を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
図5(b)のタイミングt4では、トランジスタTr1,Tr3,Tr5のゲートが全てローレベルとなって該トランジスタTr1,Tr3,Tr5が全てオフとなる。同時に、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加され、該トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てハイレベルとなって該トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てオンとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図7(b)に示すように、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
次に、図8ないし図11に沿って、トランジスタTr1〜Tr6のゲートに印加するPWM信号SU,SV,SWによりハイレベル(High)/ロー(Low)レベルを切り換えて行う三相変調制御モードについて説明する。
図8(a),(b)は、トランジスタ対A、B、Cの上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5に印加されるPWM信号SU,SV,SWを示すタイミングチャートであり、図8(a)におけるタイミングt5は図4におけるタイミングT1に対応し、図8(b)におけるタイミングt9は図4におけるタイミングT2に対応している。図9(a)は、三相変調制御モード時の図8(a)のタイミングt5におけるインバータ40内での電流の流れ状態を示し、図9(b)は、三相変調制御モード時の図8(a)のタイミングt6におけるインバータ40内での電流の流れ状態を示し、図9(c)は、三相変調制御モード時の図8(a)のタイミングt7におけるインバータ40内での電流の流れ状態を示している。また、図10(a)は、三相変調制御モード時の図8(b)のタイミングt8におけるインバータ40内での電流の流れ状態を示し、図10(b)は、三相変調制御モード時の図8(b)のタイミングt9におけるインバータ40内での電流の流れ状態を示し、図10(c)は、三相変調制御モード時の図8(b)のタイミングt10におけるインバータ40内での電流の流れ状態を示している。
すなわち、図8(a)のタイミングt5では、U相のトランジスタTr1のゲートにPWM信号SUのハイレベルが印加されて該トランジスタTr1がオンとなり、トランジスタTr3,Tr5の各ゲートはローレベルとなって該トランジスタTr3,Tr5の双方がオフとなる。同時に、トランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、トランジスタTr2がオフ、トランジスタTr4,Tr6の双方がオンとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図9(a)に示すように、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1、下段スイッチング素子であるトランジスタTr4,Tr6を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
また、図8(a)のタイミングt6では、トランジスタTr1,Tr3,Tr5のゲートが全てハイレベルとなって該トランジスタTr1,Tr3,Tr5が全てオンとなる。同時に、トランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、該トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てオフとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図9(b)に示すように、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
図8(a)のタイミングt7では、トランジスタTr1,Tr3,Tr5のゲートが全てローレベルとなって該トランジスタTr1,Tr3,Tr5が全てオフとなる。同時に、トランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、該トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てオンとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図9(c)に示すように、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れることになる。
また、図8(b)のタイミングt8では、トランジスタTr1,Tr3,Tr5のゲートが全てハイレベルとなって該トランジスタTr1,Tr3,Tr5が全てオンとなる。同時に、トランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てオフとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図10(a)に示すように、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れる。
図8(b)のタイミングt9では、トランジスタTr1のゲートがローレベルとなって該トランジスタTr1がオフとなり、トランジスタTr3,Tr5のゲートがそれぞれハイレベルとなって該トランジスタTr3,Tr5の双方がオンとなる。同時に、トランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、トランジスタTr2がオン、トランジスタTr4,Tr6の双方がオフとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図10(b)に示すように、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2、上段スイッチング素子であるトランジスタTr3,Tr5を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れる。
図8(b)のタイミングt10では、トランジスタTr1,Tr3,Tr5のゲートが全てローレベルとなって該トランジスタTr1,Tr3,Tr5が全てオフとなる。同時に、トランジスタTr2,Tr4,Tr6側に上記と逆の信号が印加されて、該トランジスタTr2,Tr4,Tr6が全てオンとなる。これにより、スイッチング回路全体では、図10(c)に示すように、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6を介して、図示のように電流信号IU,IV,IWが流れる。
以上説明したように、二相変調制御モードの場合、図6(a)では、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1と下段スイッチング素子であるTr4,Tr6とを経由して電流が流れ、図6(b)では、下段スイッチング素子であるTr2,Tr4,Tr6の全てを経由して電流が流れる。また、図7(a)では、上段スイッチング素子であるトランジスタTr3,Tr5と下段スイッチング素子であるTr2とを経由して電流が流れ、図7(b)では、下段スイッチング素子であるTr2,Tr4,Tr6の全てを経由して電流が流れる。これらから、二相変調制御モードによる電流信号IU,IV,IWの生成過程においては、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5に比して、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6側に還流電流が集中することが理解できる。
一方、三相変調制御モードの場合、図9(a)では、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1と下段スイッチング素子であるTr4,Tr6とを経由して電流が流れ、図9(b)では、上段スイッチング素子であるTr1,Tr3,Tr5の全てを経由して電流が流れ、図9(c)では、下段スイッチング素子であるトランジスタTr2,Tr4,Tr6を全てを経由して電流が流れる。また、図10(a)では、上段スイッチング素子であるトランジスタTr1,Tr3,Tr5の全てを経由して電流が流れ、図10(b)では、下段スイッチング素子であるTr2と上段スイッチング素子であるトランジスタTr3,Tr5を経由して電流が流れ、図10(c)では、下段スイッチング素子であるTr2,Tr4,Tr6を経由して電流が流れる。これらから、三相変調制御モードによる電流信号IU,IV,IWの生成過程においては、上段スイッチング素子側及び下段スイッチング素子側の双方に電流が均等に振り分けられる形で流れ、還流電流が一方の側に集中しないことが理解できる。
すなわち、本実施形態におけるモータ制御装置10では、ブラシレスDCモータ31を搭載した電動車輌を駆動制御する場合、登坂走行時以外の通常走行時にはU相,V相,W相のうちの2相を用いてPWM信号SU,SV,SWを生成してスイッチング素子動作時の発熱を可及的に低減し得る二相変調制御を実施しながらも、登坂時等に登坂性能を向上させる場合には、三相変調制御モードに切り換えることで、実際の電流量を過大に増加することなくモータトルクを増大させるようにしている。
ここで、本実施の形態のモータ制御装置10による制御を、図16のフローチャートを参照して説明する。すなわち、モータ制御装置10により、電動車輌に搭載された三相ブラシレスDCモータ31を制御する場合、該電動車輌の走行時にあって、モータ回転検知センサ73が該モータ31のロータ21の回転を常時検知して(ステップS11)その検知結果をモータ回転数検出手段69に送信し、該送信に基づいてモータ回転数検出手段69がブラシレスDCモータ31(即ちロータ21)の回転数を検出している。また、要求トルク検出手段70が、ドライバにより踏み込まれたアクセルの開度に基づき、ブラシレスDCモータ31への要求トルクを逐次検出している。そして、この検出要求トルクに基づき、トルク指令値演算手段74が、トルク指令値を演算してPWM信号生成手段75に送信する。
ここで、PWM信号生成手段75は、トルク指令値演算手段74からのトルク指令値に従って電流信号IU,IV,IWを生成する第1生成制御を実行してモータ31を回転駆動して、電動車輌を通常走行させている。このPWM信号生成手段75は、モータ回転数検出手段69により所定数(例えば20[rpm])未満の回転数が検出され(S11の「<極低速」側)、かつ、要求トルク検出手段70により所定値(例えば80[Nm])以上の要求トルク(例えば、アクセル開度80%以上に対応する要求トルク)が検出された(S12の「Yes」側)際には、トルク指令値演算手段74からのトルク指令値より所定値(例えば85[Nm])だけ高くなるように設定されたトルク指令値に基づき、電流信号IU,IV,IWを生成する第2生成制御(即ち登坂制御)を実行する(S13)。
そして該制御の直後、モード切換え手段71が、二相変調制御モードを三相変調制御モードに切り換える(S14)。これらにより、モータ制御装置10内では、図5ないし図7で説明した二相変調制御モードから、図8ないし図10で説明した三相変調制御モードに切り換えた形で、しかも通常のトルク指令値より所定値高いトルク指令値に基づいて電流信号IU,IV,IWが生成され、該信号がブラシレスDCモータ31の各信号相に給電される(S15)。
ここで、要求トルクをT[Nm]とおいて考えるとき、ブラシレスDCモータ31の回転数がロック又は極低速時においてホール素子43では磁極位置の正確な検出が困難であるが、本モータ制御装置10では第2生成制御(即ち登坂制御)を実施するので、図11に示すように、モータ界磁角(即ち、ロータ21におけるN極とステータ22におけるS極との間の角度(電気角))が振られるため、モータトルクが出力されて、出力トルクの平均が破線TAVEのようになる。この場合、要求トルクはTで示される。
つまり、ロック又は極低速時においてモータ磁極位置の正確な検出が困難になった場合に、基礎技術を表す図12に示すように、要求トルクに対応するトルク指令値にそのまま対応させてPWM信号SU,SV,SWを供給するように制御すると、実際に出力されるトルク(実トルク)が低減してしまう。これに対し、本実施形態の第2生成制御(即ち登坂制御)を実施した場合には、図13及び図14に示すように、通常のトルク指令値より所定値高いトルク指令値に基づいて電流信号IU,IV,IWが生成されることにより、実トルクが、本来のトルク指令値(つまり、要求トルク)と同等の状態で出力される。なお、図13のグラフにおける横軸はモータ回転数を示し、縦軸はモータトルクを示している。図14のグラフにおける横軸は時間(秒)を、左縦軸はモータトルク[Nm]を、右縦軸はロータ21の回転数[rpm]をそれぞれ示している。
ここで、図17(a),(b),(c)を参照し、上記第2生成制御におけるトルク指令値生成に関して、数式を用いてより具体的に説明する。なお、同図(a)は登坂走行(STEP1)から通常走行(STEP2)に移行する際の指令トルク(トルク指令値)とモータ回転数との相関関係を示すグラフ、同図(b)は同図(a)に示すSTEP1におけるモータ界磁角とモータトルクとの相関関係を示すグラフ、同図(c)は同図(a)に示すSTEP2におけるモータ界磁角とモータトルクとの相関関係を示すグラフである。
要求トルクをT[Nm]とおくとき、三相ブラシレスDCモータ31のロック又は極低速状態において、該モータ31のモータ磁極位置の検出は極めて困難になるため、上述の図11で説明したように、電気角の0〜α度の範囲内でモータ界磁角を振るように制御してトルクを出力する。
モータ界磁角−トルク特性は、次式(1)で表される。
そして、図17(a)に示すSTEP1(第2生成制御(登坂制御))において、モータ界磁角を0〜α度(図17(b)参照)まで振るように制御されるため、平均トルク(図11のTAVE)は次式(2)で表されるようになる。
ここで、出力トルクTstと指令トルクのトルク比をkとおくと、kは、次式(3)で表される。
そして、モータ回転数が、図17(a)におけるa1以上になると、STEP1の登坂制御は、a1からa2に向けてトルク指令値が徐々に低くなってSTEP2(通常制御)に示すようになる。STEP2に移行すると、モータ界磁角が図17(c)に示すd〜c度の範囲で振られるように制御されるため、出力トルクと指令トルクのトルク比であるkは、次式(4)で示すようになる。
上記の式(2)と式(3)から、Tst=1/k×Toが得られる。すなわち、本実施形態における登坂制御で必要となるトルク指令値Tstは、出力トルクToにトルク比kの逆数を掛けることで演算する。つまり、出力トルクToを要求トルクTに置き換え、トルク指令値Tstを、出力トルクToと、トルク比kの逆数との乗算によって演算することができる。トルク比kは0.8等の小数であるため、その逆数を用いて乗算することで、登坂制御時に必要となる高いトルク指令値Tstが得られる。
また、Δβの逆数であるΔtは、次式(5)で示すようになる。つまり、磁極位置を変更する範囲をモータ回転数が大きくなるにつれて小さくする。
このように、モータ制御装置10を用いた本実施の形態によると、高精度で高価なセンサを使用せずに、一般的で廉価なホール素子43を使用するものでありながら、電動車輌に搭載したブラシレスDCモータ31がストール状態あるいは極低速状態になった場合であっても、モータトルクを最大限有効に出力させて登坂走行させることができる。従って、コストアップを招くことなく、ドライバ(運転者)に常に一定の加速感や登坂性能を提供し、違和感を感じさせることのない運転フィーリングを実現することができる。
また、ブラシレスDCモータ31が、ロック状態或いは極低速状態になりながらも、それまで保持されていた二相変調制御モードが三相変調制御モードに切り換わることで、インバータ40内の各スイッチング素子対における上段側や下段側における還流電流が均等化され、見かけ上の電流増加が実現し、電動車輌の登坂性能が向上されつつ、一方の段のスイッチング素子対に還流電流が集中する現象が回避され、発熱量が均等化される。このため、本モータ制御装置10では、特別に冷却性能を向上させたり冷却装置の熱容量を増大させたりするような対策を採ることなく、インバータ40内の全てのスイッチング素子(Tr1〜Tr6)を熱から適正に保護することができる。そして、通常走行時には二相変調制御モードを保持し、三相変調制御モードをトルクマップの全領域には反映しないことにより、走行時全般においてのトランジスタTr1〜Tr6のスイッチングロスを抑制して、電圧利用率を向上させることができる。
これに関して図15を参照して説明する。同図は、登坂時の状況を想定して電動車輌のハンドブレーキを作動させてロックした状態で、二相変調制御時及び三相変調制御時におけるインバータ40の発熱状況等の計測結果を示したグラフである。同グラフにおける横軸は時間[sec]を示し、縦軸はインバータ40内のNチャネル型MOSFETであるスイッチング素子の実測温度[℃]を示している。
同グラフの左上部の矢印Ia、Ibは、それぞれ三相変調制御時の電流信号と二相変調制御時の電流信号とを示しており、三相変調制御時の電流信号Iaは例えば平均71.7[A]の場合を示し、二相変調制御時の電流信号Ibは例えば平均65.9[A]の場合を示す。また符号M1は、二相変調制御時(平均65.9[A])における時間と温度変化の相関関係を示し、符号M2は、三相変調制御時(平均71.7[A])における時間と温度変化の相関関係を示し、符号M3は、三相変調制御時(平均65.9[A])における時間と温度変化の相関関係を示している。更に、符号DLは、トランジスタTr1〜Tr6の熱容量の限界(デッドライン)を示している。
上記グラフから理解できるように、三相ブラシレスDCモータ31の登坂時における極低速状態において、平均65.9[A]での二相変調制御を続行しようとすると、スイッチング素子の実測温度[℃]がデッドラインDLに近づく。しかし、本モータ制御装置10では、登坂時であると判定された際にモード切換え手段71が二相変調制御モードを三相変調制御モードに切り換えるので、温度変化曲線はM3で示すようになり、デッドラインDLから離れた状態で温度上昇することとなる。この際、本モータ制御装置10では、上記モード切換え手段71の三相変調制御モードへの切り換えに先立ってPWM信号生成手段75が、電流信号IU,IV,IWの生成を第2生成制御(登坂制御)に切り換えるように機能するので、実際には、温度変化曲線はM2で示すようになり、やはりデッドラインDLから離れた状態で温度上昇しながらも、廉価なホール素子43を用いつつモータトルクを最大限有効に出力できるという効果が得られる。
続いて、上述のような登坂走行を経過して通常走行状態に移行する場合、制御は以下のようになる。すなわち、電動車輌が登坂走行している場合に、モータ回転数検出手段69により所定数以上の回転数が検出された際(S11の「≧極低速」側)、つまり磁極位置を正確に検出できる状態に復帰した際、PWM信号生成手段75は、要求トルクに基づくトルク指令値演算手段74からのトルク指令値に基づいて電流信号IU,IV,IWを生成する第1生成制御(即ち通常制御)を実行させるようにPWM信号SU,SV,SWを生成する(S16)。そして該制御の直後、モード切換え手段71が、三相変調制御モードを二相変調制御モードに切り換える(S17)。これらにより、モータ制御装置10内では、図8ないし図10で説明した三相変調制御モードから、図5ないし図7で説明した二相変調制御モードに切り換えた形で電流信号IU,IV,IWが生成されて、ブラシレスDCモータ31の各信号相に給電される。
以上のように、トルク指令値演算手段74が、モータ回転数検出手段69により所定数(例えば20[rpm])以上の回転数が検出された際にはPWM信号生成手段75に第2生成制御を第1生成制御に切り換えさせることで、モータ31を搭載した電動車輌が通常走行になったことが的確に判定され、その時点で第2生成制御が第1生成制御に切り換えられる。また、トルク指令値演算手段74が、モータ回転数検出手段69により上記所定数未満の回転数が検出され、かつ要求トルク検出手段70により上記所定値未満の要求トルクが検出された際にはPWM信号生成手段75に第2生成制御を第1生成制御に切り換えさせることにより、モータ31を搭載した電動車輌が通常走行になったことが的確に判定され、その時点で第2生成制御が第1生成制御に切り換えられる。なお、登坂制御から通常制御への復帰を、別途設けたタイマによるカウントに従って行うように構成することも可能である。
また、モード切換え手段71が、モータ回転数検出手段69により所定数以上の回転数が検出された際に、三相変調制御モードを二相変調制御モードに復帰させることにより、電動車輌が通常走行になったことを的確に判定しその時点で制御を二相変調制御モードに切り換えることができる。更に、モード切換え手段71が、モータ回転数検出手段69により所定数未満の回転数が検出され、かつ要求トルク検出手段70により所定値未満の要求トルクが検出された際に二相変調制御モードに復帰させることにより、電動車輌が通常走行になったことを的確に判定しその時点で制御を二相変調制御モードに切り換えることができる。トルク指令値演算手段74が、所定数未満のモータ回転数の検出後に、モータ回転数検出手段69により検出されたモータ回転数に応じてトルク指令値を変更すると、三相ブラシレスDCモータ31の回転数、すなわち、車速に応じてトルク指令値が変更されることで、より的確に、要求トルクを出力することができる。
すなわち、本実施の形態によると、トルク指令値演算手段74が、所定数以上のモータ回転数が検出された際には要求トルクの値となるようにトルク指令値を演算し、所定数未満のモータ回転数が検出された際には要求トルクより高い値となるようにトルク指令値を演算するので、三相ブラシレスDCモータ31がストール状態や極低速状態になってモータ31内の磁極位置の正確な検出が困難になった場合、つまり、所定数未満のモータ回転数が検出される場合でも、要求トルクより高い値となるようにトルク指令値を補正することができる。これにより、高精度で高価なセンサを使用せずに一般的で廉価なセンサを使用しながらも、モータトルクを最大限有効に出力させ、モータ31を電動車輌に搭載した際の円滑な走行性能を確保することができる。
そして、トルク指令値演算手段74が、モータ回転数検出手段69により所定数未満のモータ回転数が検出された場合、更に要求トルク検出手段70により所定値以上の要求トルクが検出された時点で該要求トルクより高い値となるようにトルク指令値を演算するので、所定数未満のモータ回転数の検出という条件に加え、所定値以上の要求トルクの検出を更なる条件とすることで、より的確に、トルク指令値を要求トルクより高い値に演算することができる。
なお、本実施の形態では、モータ回転検知センサ73の検知に基づいてブラシレスDCモータ31の回転数を検出していたが、これに限らず、例えば、ブラシレスDCモータ31の回転数と該モータ31を搭載した電動車輌の駆動輪の回転数とが一定の関係を有する場合には、車速に基づいて上記モータ31の回転状態を検出するように構成することも可能である。
また、本実施の形態では、三相ブラシレスDCモータ31の回転数が極低速であるか否かの判断を、要求トルクが所定値未満か否かの判断より先に実施したが、要求トルクが所定値未満か否かの判断をモータ回転数の判断より先に行ってもよい。