JP4674395B2 - 軸受検査方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、通常回転状態において軸要素と軸受要素との間が非接触状態に保持される動圧軸受等の軸受の検査方法に関するものである。さらに詳しくは、かかる軸受において、回転数の上昇に伴って双方の要素が非接触状態に切り換わる浮上回転数、あるいは回転数の減少に伴って双方の要素が接触状態に切り換わる接触回転数を検出するのに適した軸受検査方法に関するものである。また、かかる軸受における異常接触回転状態を検出するのに適した軸受検査方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
動圧軸受は、軸要素と軸受要素の間にオイル、空気等の流体による動圧発生用の溝が形成された構成となっており、これら軸要素および軸受要素が相対回転すると、その回転速度の増加に伴って動圧も増加し、所定回転数(浮上回転数)を超えると、流体膜によって軸要素が軸受要素から浮上して非接触回転状態に移行する。逆に、回転速度が所定回転数(接触回転数)よりも低下すると、再び接触回転状態に切り換わる。このような動圧軸受は、例えば、ハードディスクドライブ用モータ等のような高速回転モータの軸受として用いられている。
【0003】
このような浮上回転数あるいは接触回転数が高い程、モータ起動時あるいは停止時において接触回転状態がより長く続くことになる。接触回転状態が長い程、モータ断続駆動時における軸受部分の摩耗量が増加し、軸受寿命が低下してしまう。また、潤滑油は高温になる程、その粘性が低下するので、高温になればなる程、浮上回転数あるいは接触回転数が高くなり、軸受部分の摩耗量が著しく低下する危険性がある。従って、常温での浮上回転数あるいは接触回転数を、モータ定格回転数に対して十分に低い値となるようにしておく必要がある。このため、動圧軸受の浮上回転数あるいは接触回転数は、重要な特性検査項目の一つとされている。
【0004】
従来における動圧軸受の接触回転数の測定は一般にAE(Acoustic Emission)法によって行われている。このAE法とは、金属接触によって発生する音響エネルギーを振動センサで検出して電圧に変換する方法である。かかる検出方法は、例えば、特開平10−307081号公報に開示されている。また、このAE法は、軸受一般の損傷状態や寿命を測定するための軸受診断方法としても採用されており、このような方法は、例えば、特開平8−159151号公報、同7−134063号公報に開示されている。
【0005】
図11には、AE法によって、オイル動圧軸受を備えたモータから得られるAE波形の一例を、モータ回転数の変化状態と共に示してある。AE波形は、モータ軸受部分からAEセンサによって検出される振動の強さを電圧に変換して、オシロスコープの画面上で観察される。また、モータ回転数はタコメータ等による回転数計測値(タコメータの場合は電圧値)である。
【0006】
モータが定常回転している状態(図の時点AからBまでの区間)では、モータ駆動電流のスイッチングノイズが圧倒的に優勢であるので、軸受部分で発生する接触音の検出が困難である。従って、測定は、モータ駆動を停止してから、惰性回転が停止するまでの間(図の時点Bから時点Dまでの区間)に実施される。
【0007】
駆動を停止した時点B以後においてはスイッチングノイズが無くなるので、AEセンサは実質的に軸受部分から発生する振動エネルギのみを検出可能となる。駆動停止直後から或る程度回転数が低下するまでの間(図の時点Bから時点Cまでの区間)では、軸受部分は油膜によって浮上した状態が維持されるので、検出される振動エネルギレベルは非常に低く、したがって、検出波形の振幅も小さい。
【0008】
しかるに、回転数が低下して時点Cを超えると、油膜による浮上力がもはや軸受回転部分の重量を支えきれなくなり、軸受回転部分が非接触回転状態から接触回転状態に移行する。この結果、接触音が発生するので、軸受部分から検出されるAE波形の振幅が増加する。この後は、AE波形の振幅は回転数の低減と共に減少して、回転が完全に止ると共に零になる(図の時点D)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、AE法を利用して、動圧軸受の浮上あるいは接触回転数や、一般的な軸受の異常を検出する方法では次のような問題点がある。
【0010】
まず、動圧軸受、例えばオイル動圧軸受では、金属間(軸要素と軸受要素)が潤滑オイルによって潤滑されているので、それらが接触している状態での接触音が極めて微弱であり、検出信号からノイズを完全に除去することが困難である。このために、精度良く、接触回転数等を検出することができない。
【0011】
また、AE法の場合には、接触音検出用のセンサを、直接に軸受部分、あるいは軸受が組み込まれているモータ構成部品に接触させる必要があり、センサの接触が不完全であると、接触音の検出精度が低下するので、軸受の良品、不良品の判定を適切に行なうことができなくなる。
【0012】
さらに、検出感度のばらつきが大きいので、検出信号波形に基づく軸受の良否判定が困難である。例えば、軸受が非接触回転状態から接触回転状態に切り換わると、金属接触音が検出され、検出信号レベルが増加するが、その検出信号レベルのばらつきが大きいので、接触回転に切り換わったことの判別基準となるしきい値電圧の設定が困難である。この結果、自動検査ができず、人間の感覚に頼らざるを得ない。これでは、良品・不良品判定があいまいになってしまう。
【0013】
一方、検査対象の軸受が組み込まれているモータが駆動中の場合には、駆動電流によるノイズの方が圧倒的に大きいので、軸受が接触したことを表わす接触波形を観察することができない(図11の時点Aから時点Bまでの区間参照)。従って、従来では、前述したように、モータの駆動電流を切り、モータを惰性で回転させながらそれが停止するまでの間でしか軸受の検査ができない。このような検査には数十秒から1分程度必要であるので、大量生産の検査には不向きである。
【0014】
また、ハードディスクドライブ用モータ等では、その検査において塵等が付着する汚染を防止する必要があるために、その製造工程ではハードディスクを搭載できない場合がある。AE法を採用する場合には、ハードディスクを搭載してイナーシャを大きくしないと、軸受の接触エネルギが検出可能なレベルまで増加できない。このため、検査出来ない場合もある。
【0015】
本発明の課題は、このような従来の軸受検査方法の問題点に鑑みて、AE法を採用することなく、軸受の回転状態を検出可能な軸受検査方法を提案することにある。
【0016】
また、本発明の課題は、精度良く、軸受の接触回転数、異常接触回転等を検出可能な軸受検査方法を提案することにある。
【0017】
さらに、本発明の課題は、センサを軸受構成部品等に直接に接触させることなく軸受の回転状態を検出可能な軸受検査方法を提案することにある。
【0018】
さらにまた、本発明の課題は、ハードディスクドライブ用モータに組み込まれている動圧軸受を検査するのに適した軸受検査方法を提案することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明は、同軸状態に配置された軸要素および軸受要素を所定の相対回転数以上では非接触状態に保持可能な軸受における、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態にあるか否かを検査するための軸受検査方法であって、前記軸要素および前記軸受要素を相対回転させ、相対回転状態におけるこれら軸要素および軸受要素間のインピーダンスを検出し、このインピーダンス変化に基づき、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態にあるか否かを判別することを特徴としている。
【0020】
すなわち、軸要素と軸受要素が非接触回転状態の場合には、それらの間に一定のギャップが形成されていると共にそこに流体の膜が形成されているのであるから、それを一定の抵抗および容量として捉えることができ、逆に、接触回転状態の場合には、軸要素および軸受要素は直接に接触しているので、それらの間には実質的に抵抗および容量が無い状態として捉えることができることに着目し、このような電気的な変化を検出することにより、軸要素および軸受要素の回転状態を検出可能としているのである。
【0021】
従って、AE法を採用することなく回転状態を検出可能である。また、抵抗および容量等のインピーダンス変化を検出しているので、AE法の場合のように軸受が組み込まれているモータの駆動電流のスイッチングノイズが検出の障害となることもない。さらには、検出信号レベルを十分なものとすることができ、検出精度のばらつきも抑制可能であるので、精度のよい回転状態検出を行なうことが可能になる。
【0022】
インピーダンス変化として、軸受部分の抵抗変化あるいは静電容量変化、またはそれらの双方の変化を検出すればよい。
【0023】
ここで、前記軸要素および前記軸受要素の相対回転数を変化させながら、前記インピーダンス変化を検出し、検出されたインピーダンス変化に基づき、前記軸要素および前記軸受要素が接触回転状態から非接触回転状態に切り換わった時点、あるいは、これらが非接触回転状態から接触回転状態に切り換わった時点の相対回転数を検出すればよい。
【0024】
この場合、軸受の浮上回転数の検出に当たっては、前記相対回転数を零から上昇させながら、前記軸要素および前記軸受要素が接触状態から非接触状態に切り換わった時点の前記相対回転数を浮上回転数として検出すればよい。
【0025】
また、接触回転数の検出に当たっては、前記相対回転数を定常回転から降下させながら、前記軸要素および前記軸受要素が非接触状態から接触状態に切り換わった時点の前記相対回転数を接触回転数として検出すればよい。
【0026】
次に、本発明の方法では、前記インピーダンス変化に基づき、前記軸要素と前記軸受要素が異常接触回転状態にあるか否かを判別することができる。
【0028】
また、前記相対回転数が一定の場合に、前記インピーダンス変化が周期的に発生するときには、前記異常接触回転状態が、前記軸要素あるいは前記軸受要素自体に起因するもの、または異物が同期して回転していることに起因するものであると判別することができる。
【0029】
ここで、本発明の方法では、前記インピーダンス変化を、前記軸要素および前記軸受要素に対して非接触状態で検出することができる。
【0030】
本発明の方法は、前記軸要素および前記軸受要素の間に流体による動圧発生用の溝が形成されている動圧軸受の検査に用いることができる。
【0031】
また、回転電機におけるロータを、ステータに対して回転自在の状態で支持している回転電機の軸受の検査に用いることができる。
【0037】
本発明の軸受検査方法による検査対象の軸受としては、前記軸要素および前記軸受要素の間に、潤滑流体による動圧発生用の溝が形成された動圧軸受を挙げることができる。
【0038】
この場合、当該動圧軸受は、ハードディスクドライブ用モータにおけるロータをステータに対して回転自在の状態で支持している軸受として組み込まれているものを検査対象とすることができる。
【0039】
また、この場合において、前記ハードディスクドライブ用モータとしては、ベース板と、ハードディスクが搭載されるディスクハブとを備えており、前記ベース板には前記軸受要素としてのスリーブが形成され、前記ディスクハブの中心には前記軸要素としての回転軸が形成されている構成のものがある。
【0040】
逆に、ベース板に前記軸要素としての支軸が固定され、前記ディスクハブの中心に前記軸受要素としてのスリーブが形成された構成のものもある。
【0041】
このようなハードディスクドライブ用モータにおいては、前記ベース板あるいは前記ディスクハブに近接配置されたモータケースを備えた構成のものが知られている。この場合には、当該モータケースを、前記励振用電極あるいは前記検出用電極として用いれば、電極の一つを配置することを省略できる。
【0042】
また、ハードディスクドライブ用モータにおいては、前記ベース板にカウンタプレートが配置され、このカウンタプレートと前記回転軸の一端面との間に動圧スラスト軸受部分が構成された構成のものが知られている。この場合には、前記カウンタプレートを、前記ベース板から電気的に絶縁して、前記励振用電極あるいは前記検出用電極として用いることができる。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した軸受検査装置の実施例を説明する。本例の軸受検査装置は、オイル動圧軸受が組み込まれているハードディスクドライブ用モータの軸受部分を検査するためのものである。
【0044】
図1は、本例の軸受検出装置を取り付けた状態のハードディスクドライブ用モータを示す概略構成図であり、図2はその半断面図である。まず、これらの図を参照して、本例のハードディスクドライブ用モータ1の概略構成を説明する。モータ1はベース板2を備え、このベース板2にはスリーブ3が直立状態で固着されており、このスリーブ3には回転軸4が回転自在の状態で同軸状に挿入されている。
【0045】
回転軸2の上端部分はスリーブ3から上方に突き出ており、この上端部分には、下方に開口した略カップ状のディスクハブ5が同心状態に固着されている。このディスクハブ5の外周部分に、想像線で示すようにハードディスク6が搭載される。また、ディスクハブ5の下端部分の内周面にはリング状のロータ7aが装着されており、このロータ7aに取り囲まれる状態で、ベース板の側にはステータコアおよびコイルからなるステータ7bが取り付けられている。
【0046】
ここで、回転軸4の外周面とスリーブ3の内周面の間には、動圧発生用の溝が形成されていると共に潤滑油が充填されて、動圧軸受が形成されている。また、回転軸4の下端部にはリング状のスラスト軸受部材8が固着されており、回転軸下端面4aおよびスラスト軸受部材8の下面と、ベース板側に取り付けたカウンタプレート9の上面9aとの間にも動圧スラスト軸受が形成されている。従って、本例のモータ1では、回転軸4およびスラスト軸受部材8が軸要素として機能し、スリーブ3およびカウンタプレート9が軸受要素として機能する。
【0047】
モータ1を駆動して回転軸4を回転させると、回転軸4とスリーブ3の間、および回転軸4とカウンタプレート9の間に潤滑油による動圧が発生する。回転数がある値を超えると、回転軸4がスリーブ3およびカウンタプレート9から浮上して、当該回転軸4が非接触状態で回転する。回転数が低下して所定の値を下回ると、再び回転軸4がスリーブ3およびカウンタプレート9に接触した状態で回転する。このような動圧軸受機構は公知であるので、その詳細な構造および作用については説明を省略する。
【0048】
なお、モータ各部分は次のような素材から一般的に形成されている。ベース板2はアルミニウム製であり、スリーブ3は銅あるいはステンレススチール製であり、回転軸4はステンレススチール製であり、スラスト軸受部材8は銅あるいはステンレススチール製であり、カウンタプレート9はステンレススチール製である。
【0049】
次に、この構成のハードディスクスドライブ用モータ1の接触回転数等を検査するための軸受検査装置10は、モータ1の動圧軸受部分の接触状態および非接触状態をインピーダンス変化として検出するものであり、本例では、抵抗および容量変化に基づき検出している。
【0050】
すなわち、動圧軸受部分に使用されている潤滑油は、体積抵抗率が108ないし1010Ωcm程度であり、回転軸4が浮上している状態(非接触回転状態)での油膜部分の電気抵抗は数Mないし数百MΩとなる。また、浮上時には絶縁体としての潤滑油を挟み、回転軸4とスリーブ3が近接した状態、換言すると金属同士が近接した状態になるので、数百pF程度の静電容量を持つことになる。
【0051】
これに対して、接触回転状態では短絡状態になり、抵抗値が数KΩ以下となるので、抵抗および静電容量が共に変化する。本例の軸受検査装置10は、これらの抵抗および容量の変化を非接触状態で検出することにより、回転軸4が接触回転状態にあるか否か、その接触回転数、異常回転であるか否かを検査可能となっている。
【0052】
まず、図1、2を参照して本例の軸受検査装置10の全体構成を説明すると、本例の軸受検査装置10は、励振用電極11と、検出用電極12と、励振用電極11に交流電圧を印加する交流電圧源13と、検出用電極12から検出される検出電圧波形を表示するオシロスコープ14を有している。励振用電極11は、モータ1のディスクハブ5およびベース板2に近接配置したリング状の電極であり、当該電極11とベース板2の間に交流電圧を印加して電界を発生させるためのものである。この電極11の内周面は同軸状態でディスクハブ5の外周面に対峙している。
【0053】
検出用電極12は同じくリング状の電極であり、ディスクハブ5の円形上端面5aに対して同軸状態で近接配置されている。この検出用電極12は直列接続されたインダクタL1を介して接地されている。このインダクタL1に発生する電圧がオシロスコープ14によって表示可能となっている。
【0054】
ここで、図3は、本例の軸受検査装置10による検査時においてモータ1との間で構成されている動圧軸受部分の抵抗・容量変化を検出するためのインピーダンス検出回路構成を示す説明図であり、図4はその等価回路図である。
【0055】
これらの図に示すように、励振用電極11および検出用電極12を用いて、動圧軸受部分は、抵抗R1と、容量C1と、接触および非接触状態を表わすスイッチSWが並列接続された回路構成と等価であるように構成されている。また、電極11はベース板1およびディスクハブ5に近接配置されているので、それらの間は所定の静電容量を持ったコンデンサC5、C2に置き換えることができ、同様に、電極12はディスクハブ5に近接配置されているので、それらの間は所定の静電容量を持ったコンデンサC4に置き換えることができる。さらに、電極11、12間も同様に所定容量のコンデンサC3に置き換えることができる。この結果、本例の軸受検査装置10によるモータ1の検査時においては、図4に示すような等価回路が構成されることになる。
【0056】
次に、本例の軸受検査装置10による検査手順を説明する。まず、電極11、12を不図示の治具によって保持して、図1、2に示すようにベース板2、ディスクハブ5に対して近接配置する。この状態で、交流電圧電源13を駆動して、電極11およびベース板2の間に交流電圧を印加する。なお、交流電圧波形としては正弦波、矩形波、鋸歯状波等の各種の交流電圧波形を採用することができる。
【0057】
交流電圧印加によって電界が発生し、ディスクハブ5に入った電気力線は、当該ディスクハブ5を経由して、近接配置されている電極12の側に流れると共に、動圧軸受部分(SW、R1、C1)およびベース板2を介して接地側に流れる。電極12の側に流れた電気力線成分はインダクタL1を介して接地側に流れる。このインダクタL1に発生する電圧が、電極12による検出電圧としてオシロスコープ14によって表示される。
【0058】
ここで、インダクタL1の電圧をオシロスコープ14で測定しながら、交流電圧の周波数を共振点に合わせるように調整することにより、検出電圧の検出感度を高めることができる。換言すると、本例のインピーダンス検出回路は、LC共振回路構成とされている。なお、このような周波数調整は、モータ1の停止中および回転中のいずれで行なってもよい。また、LC共振回路を得るためには、インダクタンスを調整するようにしてもよい。
【0059】
次に、オシロスコープ14により検出電圧波形を監視しながら、モータ1を駆動して定格駆動回転状態を形成し、次に、モータ1の駆動を止めて惰性回転させて、その回転を停止させる。図5には、得られた検出電圧波形Sを、モータ回転数(タコメータ出力電圧)および従来法であるAE法により得られるAE波形と共に示してある。
【0060】
この波形図を参照して説明すると、モータ1が定格回転状態では(時点AからBの区間)、動圧軸受部分に発生する動圧によって回転軸4が浮上した非接触回転状態になる。この非接触回転状態は、図3(b)に示すようにスイッチSWが開いた場合と等価である。従って、この状態では、ディスクハブ5に入り込んだ電気力線の大多数の成分が、検出用電極12に入り込みインダクタL1を介して接地側に流れる。よって、検出電圧は大きく、その電圧波形Sの振幅が大きい。
【0061】
モータ1の駆動を止めて惰性回転状態の移行した後も、回転軸4が浮上した非接触回転状態が継続する間、即ち、スイッチSWが開いている間は、同様な検出出力電圧が得られる(時点Bから時点Cまでの区間)。
【0062】
時点Cにおいて回転軸4がスリーブ3あるいはカウンタプレート9に接触して接触回転状態に移行すると、図3(a)に示すようにスイッチSWが閉じた場合と等価になる。この状態では、ディスクハブ5に入り込んだ電気力線の大多数の成分が、スイッチSWおよびベース板2を経由して接地側に流れる。この結果、検出用電極12による検出電圧が急激に小さくなり、したがって、その電圧波形Sの振幅も大幅に小さくなる。
【0063】
この結果、本例の軸受検査装置10の場合には、図5における本例による検出電圧波形Sと従来のAE波形を比較すると分かるように、回転軸4が非接触回転状態の間(時点Cまでの区間)では検出電圧波形に殆ど変化がなく、接触状態に移行すると、急激に波形が小さくなる。これに対して、AE波形ではモータ駆動を停止すると出力波形が小さくなり、その後、接触状態になるとそれが大きくなる。このように、本例の出力波形では、接触、非接触に応じて出力が格段に異なるので、目視によっても、誤りなく、非接触回転状態から接触回転状態に切り換わる接触回転数を精度良く検出できる。
【0064】
ここで、上記の説明ではモータ停止時に接触回転数を検出しているが、モータ起動時における動圧軸受部分の浮上回転数も同様に検出することができる。
【0065】
また、本例の軸受検査装置10では、モータ1に対して非接触状態でその動圧軸受部分の検査を行なっている。従って、塵等がモータ部品に付着してそこを汚染してしまうという弊害を回避できる。
【0066】
勿論、本発明の軸受検査方法を適用した軸受検査装置では、動圧軸受部分のインピーダンス変化を検出可能なインピーダンス検出回路を備えていればよいので、モータ部品、例えばディスクハブ5に接点を接触させる構成を採用することは可能である。例えば、回転軸12の上端部分の外周面に対して、ブラシ状の電極を接触させることにより、近接配置した電極12の代わりとすることができる。
【0067】
(インピーダンス検出回路の別の例)
上記の軸受検査装置10のインピーダンス検出回路では、動圧軸受部分の抵抗および容量の変化を検出するようにしているが、抵抗変化のみ、または静電容量変化のみを検出するように構成することもできる。さらに、検出用電極12を用いずに、励振用電極11のみによっても検出できる。
【0068】
図6、図7には、抵抗変化のみに基づき動圧軸受部分の回転状態を検出するための軸受検査装置における電極配置位置の説明図、および回路構成を示してある。まず、図6、図7に示すように、この場合には、電極としては、交流電圧をディスクハブ5に印加するための励振用電極11aのみを備えていればよい。この電極11aは、容量C2を介してディスクハブ5に近接配置されている。この電極11aと交流電圧源13との間には抵抗R2が直列接続されている。オシロスコープ14は、抵抗R2の両端電圧を検出して表示する。なお、これらの図において図1ないし図4における各部分と対応する部位には同一符号を付し、それらの説明を省略する。
【0069】
このように構成した場合の等価回路は図7(a)に示す通りであり、回転軸4が接触状態の時は、図7(b)に示すように、電極11aからコンデンサC2を介してディスクハブ5に流れ込んだ電気力線は、その大部分の成分がベース板2を介して接地側に流れるので、抵抗R2には大電流が流れ、その両端電圧が大きな値となる。逆に、回転軸4が非接触状態では、、図7(c)に示すように、スイッチSWがオフして回路が実質的に遮断状態になるので、抵抗R2に流れる電流は少なく、したがって、検出電圧も極めて小さなものになる。
【0070】
図8には、図5における場合と同様な状態でモータ1を駆動した場合における検出電圧波形Saを、モータ回転数曲線および従来のAE波形と共に示してある。各時点AないしDの状態は図5における場合と同様である。検出電圧波形Saは、図5に示す検出電圧波形Sとは逆に、非接触回転状態では小さく、接触回転状態に切り換わると急激に大きくなる。この場合においても、従来のAE波形よりも正確に接触回転数を検出できる。
【0071】
なお、図6ないし8に示すような抵抗変化のみを検出する構成の場合には、図1ないし5に示す構成に比べて、回路構成を単純化できるという利点が得られる。また、励振用電極11のみの場合も構成が非常に簡単になる。
【0072】
また、上記の説明では、ディスクハブ5の側に交流電圧を印加するようにしているが、ベース板2の側に交流電圧を印加するようにしてもよい。また、非接触タイプの電極の代わりに、検出用端子を接触させて検出する場合には、交流電圧でなく直流電圧を印加するようにしてもよい。
【0073】
さらに、ディスクハブ5にハードディスク6が搭載された状態での検出は勿論可能であるが、ハードディスクが搭載されると、当該ハードディスクによって、電極11aとベース板2の間が確実にシールドされるという効果も得られる。
【0074】
(電極構造の変形例)
ここで、上記の各例では、電極11、12あるいは電極11aをモータ1に近接配置するようにしているが、電極部材を省略できれば、その分、検査装置の構成、配線構造を単純化できるので望ましい。電極部材を省略するための例としては、図1、2に示す構造のハードディスクドライブ用モータ1の場合には、そのカウンタプレート9を電極として利用することが考えられる。
【0075】
この場合には、図9において斜線30で示すように、スリーブ3とカウンタプレート9の間を電気的に絶縁しておき、軸受検査装置の電気接点31を、カウンタプレート9の裏面9bに接触させる構成とすればよい。なお、このカウンタプレート9は、上記の各例における励振用電極11、11aとして用いることもできるし、検出用電極12として用いることもできる。
【0076】
(動圧軸受部分の異常回転検出)
次に、上記の説明は、本発明による軸受検査装置により動圧軸受部分の接触回転数(あるいは浮上回転数)を検出する場合についてのものである。しかし、本発明による軸受検査装置では、広く、一般的な異常回転状態の検出を行なうことも可能である。
【0077】
異常回転状態の典型例としては、動圧軸受部分に金属粉等の異物が侵入している場合がある。この場合には、モータ1が定格回転状態にある場合、本来、回転軸4は非接触状態にあるが、異物のために、不規則な状態で瞬時的に接触状態に切り換わり、それに対応する検出電圧が出力されることになる。図1ないし5を参照して説明した軸受検出装置1の場合には、図10に示すように、定常駆動回転状態(浮上あるいは非接触回転状態)において、検出電圧波形Sに、瞬間的に振幅の小さな波形部分s1、s2が現れる(図10における各時点AないしD等は図5における場合と同一である)。従って、このような波形部分を目視により、あるいは、コンパレータ等を含む検出回路によって判別することにより、軸受の異物混入による異常回転の有無を検査できる。
【0078】
異常回転状態としては、異物混入以外の原因によるものがある。例えば、回転軸4とスリーブ3の製造誤差、組み付け誤差等によって偏心回転等が発生すると、それらが周期的に瞬間接触する場合がある。この場合には、定常回転状態において、上記のような波形部分s1、s2が周期的(規則的)に発生する。従って、かかる波形部分を確認することによって、異常回転状態の有無を検査することができる。
【0079】
(検出電圧波形の変換)
ここで、このような異常回転状態を表わす波形部分は瞬間的に発生するので、検出電圧波形Sをそのままオシロスコープに表示しても、見落とす可能性が高い。また、前述の接触回転数の検出の場合においても、モータ回転数が低下して、軸受の接触回転数に到ると、短時間の断続的な接触から徐々に接触時間が長くなり、定常的な接触回転状態に移行する。接触回転数としては最初に現れる瞬時的な接触が始まる時点のものを採用する必要がある。従って、検出電圧波形をそのまま用いた場合には、精度良く接触回転数を検出できないおそれがある。
【0080】
例えば、図10に示すように、検出電圧波形Sを波形変換して、電圧波形Sbにように振幅の大小関係を逆転させれば、不定期に発生する波形部分s1b、s2bを見落とすことなく確認できる。また、接触回転数検出に当たっても、最初の瞬時の接触位置である波形部分s3bを見落とすことなく確認できる。
【0081】
なお、このような視覚認識を容易にする波形変換方法としては、AM復調回路、位相差検出回路、エンベロープ回路等を用いた公知の波形変換、整形方法を利用することができる。
【0082】
(検査対象の軸受)
上記の説明は、本発明を動圧軸受の検査に適用した例についてであるが、検査対象の軸受としては、動圧軸受以外の軸受でもよい。例えば、固体潤滑材等を含む焼結体からなる焼結軸受等の滑り軸受、転動体が挿入された構成のボールベアリング等の転がり軸受における異常回転を検査するために用いることもできる。さらには、検査対象の動圧軸受としては、流体としてオイルを使用しているオイル動圧軸受の他、空気、水等の高抵抗の液体、気体を用いた動圧軸受も含まれることは勿論である。
【0083】
また、上記の例はハードディスクドライブ用モータに組み込まれている動圧軸受の検査のために本発明を適用した例であるが、その他の各種機器の軸受部分の検査のために本発明を適用することができる。例えば、ポリゴンミラーを回転させながら走査を行なう光走査装置の回転部分、複写装置の感光ドラム等の回転部分、油循環用のポンプの回転部分等の検査のために本発明を適用することもできる。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の軸受検査方法では、軸受の軸要素と軸受要素が接触回転する場合と非接触回転する場合に、それらの間の電気的特性、すなわち、抵抗、容量等のインピーダンスが変化することに着目し、このインピーダンス変化に基づき、軸受の接触回転数(浮上回転数)や、異常回転状態を検査するようにしている。
【0085】
従って、本発明によれば、軸受部分から発生する音響エネルギに基づき検査する場合に比べて、精度良く、しかも短時間で検査を行なうことができる。
【0086】
また、モータ等の軸受部分を検査する場合に、モータ駆動電流のスイッチングノイズに影響されることなく検査を行なうことができ、モータの駆動状態の如何に拘らずに検査を行なうことができる。
【0087】
さらには、軸受検査を非接触状態で行なうことが可能であるので、ハードディスクドライブ用モータの軸受検査等の場合に、検査装置の側の電極をモータ部品側に接触させることに起因する塵付着等の汚染も防止できるという利点もある。
【0088】
したがって、本発明によれば、大量生産される軸受や、軸受を備えた装置の全数検査を行なうのに適した検査方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した軸受検査装置と、検査対象のハードディスクドライブ用モータを示す概略構成図である。
【図2】図1のモータの半断面図であり、軸受検査装置の電極配置位置を示すものである。
【図3】図1の軸受検査装置のインピーダンス検出回路を示す説明図であり、(a)は軸受が接触回転状態の場合の回路図であり、(b)は非接触回転状態の回路図である。
【図4】図1の軸受検査装置のインピーダンス検出回路の等価回路図である。
【図5】図1の軸受検査装置により得られる検出電圧波形を、モータ回転数および従来法により得られるAE波形と共に示す信号波形図である。
【図6】図1の軸受検査装置の別の例を説明するためのモータ半断面図である。
【図7】図6の軸受検査装置のインピーダンス検出回路を示す等価回路、軸受が接触回転状態における回路図、および軸受が非接触回転状態における回路図である。
【図8】図7のインピーダンス検出回路から得られる検出電圧波形を、モータ回転数および従来法により得られるAE波形と共に示す信号波形図である。
【図9】図1の軸受検査装置における電極配置構成の別の例を示すモータ半断面図である。
【図10】異物混入に起因する異常回転時に、図1の軸受検査装置により得られる検出電圧波形と、その波形変換後の波形とを、モータ回転数と共に示す信号波形図である。
【図11】従来のAE法により得られる動圧軸受の検出電圧波形をモータ回転数と共に示す信号波形図である。
【符号の説明】
1 ハードディスクドライブ用モータ
2 ベース板
3 スリーブ
4 回転軸
5 ディスクハブ
6 ハードディスク
7a ロータ
7b ステータ
8 スライド軸受部材
9 カウンタプレート
10 軸受検査装置
11 励振用電極
12 検出用電極
13 交流電圧電源
14 オシロスコープ
C1 動圧軸受部分の静電容量
R1 動圧軸受部分の抵抗
SW スイッチ
R2 抵抗
L1 インダクタ
Claims (8)
- 同軸状態に配置された軸要素および軸受要素が所定の相対回転数以上において非接触状態に保持される軸受において、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態にあるか否かを検査するための軸受検査方法であって、前記軸要素および前記軸受要素を相対回転させ、前記軸要素および前記軸受要素の相対回転数を変化させながら、相対回転状態におけるこれら軸要素および軸受要素間のインピーダンス変化を検出し、前記インピーダンス変化に基づき、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態に切り換わった時点、あるいは、これらが非接触回転状態から接触回転状態に切り換わった時点の相対回転数を検出することを特徴とする軸受検査方法。
- 同軸状態に配置された軸要素および軸受要素が所定の相対回転数以上において非接触状態に保持される軸受において、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態にあるか否かを検査するための軸受検査方法であって、前記軸要素および前記軸受要素を相対回転させ、相対回転状態におけるこれら軸要素および軸受要素間のインピーダンス変化を前記軸要素および前記軸受要素に対して非接触状態で検出し、このインピーダンスが接触回転時と非接触回転時で変化することを用いて、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態にあるか否かを判別することを特徴とする軸受検査方法。
- 請求項1または2において、前記相対回転状態における前記軸要素および軸受要素間の抵抗変化あるいは静電容量の変化、またはそれら双方の変化を検出することを特徴とする軸受検査方法。
- 請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、前記相対回転数を零から上昇させながら、前記軸要素および前記軸受要素が接触状態から非接触状態に切り換わった時点の前記相対回転数を浮上回転数として検出することを特徴とする軸受検査方法。
- 請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、前記相対回転数を定常回転から降下させながら、前記軸要素および前記軸受要素が非接触状態から接触状態に切り換わった時点の前記相対回転数を接触回転数として検出することを特徴とする軸受検査方法。
- 同軸状態に配置された軸要素および軸受要素が所定の相対回転数以上において非接触状態に保持される軸受において、前記軸要素と前記軸受要素が接触回転状態にあるか否かを検査するための軸受検査方法であって、前記軸要素および前記軸受要素を相対回転させ、相対回転状態におけるこれら軸要素および軸受要素間のインピーダンス変化を検出し、このインピーダンスが接触回転時と非接触回転時で変化することを用いて、前記軸要素と前記軸受要素が異常接触回転状態にあるか否かを判別し、前記相対回転数が一定の場合に、前記インピーダンス変化が周期的に発生するときには、前記異常接触回転状態が、前記軸要素あるいは前記軸受要素自体に起因するものであるか、または異物が軸要素あるいは軸受要素と同期して回転しているものであると判別することを特徴とする軸受検査方法。
- 請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、前記軸受は、前記軸要素および前記軸受要素の間に流体による動圧発生用の溝が形成されている動圧軸受であることを特徴とする軸受検査方法。
- 請求項1ないし7のうちのいずれかの項において、前記軸受は、回転電機におけるロータを、ステータに対して回転自在の状態で支持している回転電機の軸受であることを特徴とする軸受検査方法。
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