JP4674328B2 - ウィスカー状金属化合物及びウィスカー状金属複合酸化物並びにそれらの製造方法 - Google Patents

ウィスカー状金属化合物及びウィスカー状金属複合酸化物並びにそれらの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温材料、制動材料、プラスチック、ゴム等の補強フィラー、電磁波吸収材料等として有用なウィスカー状金属複合酸化物、及びそのウィスカー状金属複合酸化物の前駆体として有用なウィスカー状金属化合物、並びにそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スピネルは立方晶型の結晶構造を有し、熱力学的に安定な化合物として知られており、高温材料として見直されつつある。このスピネルの製造方法として、近年、金属アルコキシド化合物やメカノケミカル反応を利用した方法が盛んに研究なされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、金属アルコキシド化合物やメカノケミカル反応を利用した方法の場合、コストの面、手間の面から実用性が低いという問題があった。また、得られるスピネルの形態は、均一でなく、形態が制御されたものではなかった。
【0004】
本発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、形態が制御され、高温材料等として好適に使用することができるウィスカー状金属複合酸化物、及びそのウィスカー状金属複合酸化物の前駆体として有用なウィスカー状金属化合物、並びにそれらを容易かつ安価に製造することができるウィスカー状金属化合物及びウィスカー状金属複合酸化物の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、有機酸金属化合物としてのギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸亜鉛又はプロピオン酸ニッケルのいずれか一つと、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方とを混合して水熱処理することにより生成され、有機酸金属化合物に由来するいずれか一種の金属元素がドープされてなることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、有機酸金属化合物としてのギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸亜鉛又はプロピオン酸ニッケルのいずれか一つと、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方とを混合して水熱処理することにより、有機酸金属化合物に由来するいずれか一種の金属元素がドープされることを要旨とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1のウィスカー状金属化合物を焼成することにより製造されるウィスカー状金属複合酸化物であって、下記式(1)で表され、スピネル型構造を有することを要旨とする。
AB2−x …(1)
(式中、Aはマグネシウム、マンガン、ニッケル又は亜鉛原子、Bは鉄原子、Cはアルミニウム原子を示し、xは0<x≦2の範囲である。)
請求項4に記載の発明は、請求項1のウィスカー状金属化合物を500〜1600℃の温度で焼成することを要旨とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態におけるウィスカー状金属化合物は、ギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸亜鉛又はプロピオン酸ニッケルのいずれか一つ(以降、これらをまとめて有機酸金属化合物ともいう)と、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方とを混合して水熱処理することにより製造される。
【0009】
ここで、ウィスカー状金属化合物とは、水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の少なくとも一方と有機酸金属化合物とを混合して水熱処理したときに生成する反応生成物であり、有機酸金属化合物に由来するいずれか一種の金属元素がドープされてなるウィスカー状の形態を有するAlOOH(ベーマイト)又はFeOOHをいう。水酸化アルミニウムと有機酸金属化合物とを混合して水熱処理した場合にはウィスカー状ベーマイトが得られ、水酸化鉄と有機酸金属化合物とを混合して水熱処理した場合にはウィスカー状FeOOHが得られる。また、水酸化アルミニウムと水酸化鉄と有機酸金属化合物とを混合して水熱処理した場合にはウィスカー状ベーマイトとウィスカー状FeOOHの混合物が得られる。
【0010】
ウィスカー状金属化合物には、有機酸金属化合物に由来するマグネシウム、マンガン、ニッケル及び亜鉛原子から選ばれるいずれか一種の金属元素がドープしている。ここでドープとは、ウィスカー状金属化合物に結合又はインターカレートしていることをいう。
【0011】
また、ウィスカー状ベーマイトは、400〜500℃の温度範囲において脱水による吸熱が起こる。これは、高純度ベーマイトの場合(540℃)に比べて低い温度であり、熱力学的に導かれる理論値(390℃付近)に近い値である。吸熱が低い温度で起こる理由としては、微細な結晶に制御されたことにより容易に脱水が起こるようになったためと推測される。
【0012】
有機酸金属化合物と、水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の少なくとも一方との混合割合は、有機酸金属化合物が水酸化アルミニウムと水酸化鉄の合計量に対して10〜60モル%の範囲となるように設定するのが好ましい。有機酸金属化合物が水酸化アルミニウムと水酸化鉄の合計量に対して10モル%未満の場合は、反応生成物の形態をウィスカー状に制御できないおそれがある。逆に60モル%を超えると、有機酸金属化合物が過剰であることから経済的でない。
【0013】
水熱処理の際の温度は、110〜250℃の範囲が好ましく、170〜220℃の範囲がより好ましい。110℃未満では、反応生成物の形態をウィスカー状に制御できないおそれがあり、逆に250℃を超えると不経済となるため好ましくない。
【0014】
また、処理時間は、好ましくは2〜48時間、より好ましくは12〜48時間、特に好ましくは24〜48時間である。2時間で反応はほぼ完結するが、さらに処理時間を延長させることで、反応生成物の結晶を大きく成長させることができる。
【0015】
なお、反応生成物の結晶サイズを大きくするためには、反応原料である水酸化アルミニウム又は水酸化鉄の一次粒子サイズを大きくすればよい。
次に、ウィスカー状金属複合酸化物について説明する。
【0016】
本実施形態におけるウィスカー状金属複合酸化物は、ウィスカー状金属化合物を焼成することにより製造されるウィスカー状金属複合酸化物であって、下記式(1)で表され、スピネル型構造、即ちスピネル(MgAl)と同型の結晶構造を有している。
【0017】
AB2-xx4 …(1)
式中、Aはマグネシウム、マンガン、ニッケル又は亜鉛原子、Bは鉄原子、Cはアルミニウム原子を示す。また、xは0<x≦2の範囲である。)
本実施形態におけるウィスカー状金属複合酸化物は、上記のウィスカー状金属化合物を焼成することにより製造される。
【0018】
このときの焼成温度は、500〜1600℃、好ましくは500〜1200℃の範囲に設定される。一般的に500℃未満ではウィスカー状金属複合酸化物を得ることが困難であり、1600℃を超えると不経済である。
【0019】
また、焼成時間は、1〜3時間が好ましい。1時間未満では焼成が不十分となるおそれがあり、逆に3時間を超えると不経済的となるため好ましくない。
なお、一部、水熱処理のみでウィスカー状金属複合酸化物が生成される場合(例えばZnFe1.8Al0.24)がある。この場合はウィスカー状金属複合酸化物を得るために焼成を必要としない。
【0020】
以上詳述した本実施形態によれば次のような効果が発揮される。
・ 本実施形態におけるウィスカー状金属複合酸化物は、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方と有機酸金属化合物とを混合して水熱処理することにより得られ、有機酸金属化合物に由来するいずれか一種の金属元素がドープされてなるウィスカー状金属化合物を500〜1600℃の温度で焼成することにより製造される。このため、金属アルコキシド化合物やメカノケミカル反応を利用した製造方法に比べて容易かつ安価にウィスカー状金属複合酸化物を製造することができる。
【0021】
・ 本実施形態におけるウィスカー状金属複合酸化物は、スピネル型構造を有しているため難焼結性であり、高温材料等として好適に使用することができる。具体的には、バルキーであるため保温を兼ねた耐火物として好適に使用することができる。また、キャスタブル耐火物の補強材としても使用できる。従来より耐火を目的に使用されているアルミナファイバーは、アルカリとの反応により劣化が進行するためアルミナセメントを結合剤とするキャスタブル耐火物に対して補強材として用いることは問題があった。それに対し、本実施形態におけるウィスカー状金属複合酸化物は、アルカリとの反応性が低いためキャスタブル耐火物の補強材として好適に使用することができるほか、プラスチックや金属製の耐酸容器のフィラーとしても好適に使用することができる。
【0022】
・ ウィスカー状FeOOH又はウィスカー状ベーマイトとウィスカー状FeOOHの混合物を焼成することにより得られるウィスカー状金属複合酸化物は、電磁波吸収材料や磁性材料としても好適に使用することができる。
【0023】
・ 本実施形態におけるウィスカー状金属化合物は、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方と有機酸金属化合物とを混合し、これを水熱処理することにより製造される。このため、容易かつ安価にウィスカー状金属化合物を製造することができる。
【0024】
・ 本実施形態におけるウィスカー状金属化合物は、500〜1600℃の温度で焼成することによりウィスカー状金属複合酸化物となる。このため、ウィスカー状金属化合物は、ウィスカー状金属複合酸化物の前駆体として有用である。また、400〜500℃の温度範囲において脱水による吸熱が起こるため、耐火・防炎用プラスチックフィラーに活用することが可能である。
【0025】
・ 従来のスピネルの製造方法として、マグネシア(MgO)とアルミナ(Al2O)の粉体同士を高温で反応させる方法が知られている。しかし、この場合の反応条件は通常1300℃で12〜13時間である。それに対して、本実施形態の場合は、ウィスカー状金属化合物(ベーマイト)を500℃という低温での焼成することによってもスピネルを製造することが可能であり、経済的である。
【0026】
【実施例】
次に、実施例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
酢酸マグネシウム23.1モルと水酸化アルミニウム(粒子サイズ1μm)100モルとを混合して200℃で48時間水熱処理を行い、Mg元素がドープされてなるウィスカー状ベーマイト(ウィスカー状金属化合物)を得た。得られたベーマイトのサイズを測定したところ、縦2.07μm、横0.32μm、厚さ0.07μmで、アスペクト比(縦/厚さ)は31.0であった。
【0027】
また、そのベーマイトを1000℃の温度で1時間焼成し、MgAl23(ウィスカー状金属複合酸化物)とアルミナの混合物を得た。ここで得られたMgAl23は、前駆体であるベーマイトの形態を保持しており、サイズ、アスペクト比とも前駆体であるベーマイトと同一であった。
【0028】
(実施例2〜13)
実施例1において反応原料を表1に示すように変更し、それ以外は同様に操作して目的とするウィスカー状金属化合物及びウィスカー状金属複合酸化物を得た。得られたウィスカー状金属化合物のサイズを測定し、アスペクト比を求めた結果とウィスカー状金属複合酸化物の種類を表1に示す。焼成後、ウィスカー状金属複合酸化物が混合物として得られた場合は、その混合物に含まれるウィスカー状金属複合酸化物以外の生成物についても併せて示す。なお、いずれの実施例においても、実施例1と同様、ウィスカー状金属複合酸化物は前駆体であるウィスカー状金属化合物の形態を保持しており、サイズ、アスペクト比とも前駆体であるウィスカー状金属化合物と同一であった。
【0029】
(実施例14)
酢酸亜鉛50.0モルと水酸化アルミニウム(粒子サイズ1μm)10モルと水酸化鉄100モルとを混合して200℃で48時間水熱処理し、焼成を行ったところ、ZnFe1.8Al0.2(ウィスカー状金属複合酸化物)を得た。得られたウィスカー状金属複合酸化物のサイズを測定し、アスペクト比を求めた結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
Figure 0004674328
【0031】
表1に示す結果より、各実施例で得られるウィスカー状金属化合物及びウィスカー状金属複合酸化物のアスペクト比は7以上と大きいことが示された。その中でも特に有機酸金属化合物として酢酸塩又はギ酸塩を用いた場合には、プロピオン酸塩を用いた場合よりもアスペクト比の大きい(20以上)ウィスカー状金属化合物及びウィスカー状金属複合酸化物を得られることが示された。
【0032】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 水酸化アルミニウムと水酸化鉄の少なくとも一方と複数種類の有機酸金属化合物とを混合し、これを水熱処理することによりウィスカー状金属化合物を製造してもよい。また、そのウィスカー状金属化合物を500〜1600℃、好ましくは500〜1200℃の温度で焼成することによりウィスカー状金属複合酸化物を製造してもよい。
【0033】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ マグネシウム、マンガン、ニッケル及び亜鉛から選ばれる少なくとも一種の元素がドープしたことを特徴とするウィスカー状金属化合物。このように構成した場合、ウィスカー状金属複合酸化物の前駆体として有用である。
【0034】
【発明の効果】
本発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1に記載の発明によれば、形態が制御され、ウィスカー状金属複合酸化物の前駆体として有用である。
【0035】
請求項2に記載の発明によれば、ウィスカー状金属複合酸化物の前駆体として有用なウィスカー状金属化合物を容易かつ安価に製造することができる。
請求項3に記載の発明によれば、形態が制御され、高温材料等として好適に使用することができる。
【0036】
請求項4に記載の発明によれば、高温材料等として好適に使用することができるウィスカー状金属複合酸化物を容易かつ安価に製造することができる。

Claims (4)

  1. 有機酸金属化合物としてのギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸亜鉛又はプロピオン酸ニッケルのいずれか一つと、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方とを混合して水熱処理することにより生成され、有機酸金属化合物に由来するいずれか一種の金属元素がドープされてなるウィスカー状金属化合物。
  2. 有機酸金属化合物としてのギ酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸マンガン、酢酸亜鉛又はプロピオン酸ニッケルのいずれか一つと、水酸化アルミニウムの単独又は水酸化アルミニウム及び水酸化鉄の両方とを混合して水熱処理することにより、有機酸金属化合物に由来するいずれか一種の金属元素がドープされることを特徴とするウィスカー状金属化合物の製造方法。
  3. 請求項1のウィスカー状金属化合物を焼成することにより製造されるウィスカー状金属複合酸化物であって、下記式(1)で表され、スピネル型構造を有することを特徴とするウィスカー状金属複合酸化物。
    AB2−x …(1)
    (式中、Aはマグネシウム、マンガン、ニッケル又は亜鉛原子、Bは鉄原子、Cはアルミニウム原子を示し、xは0<x≦2の範囲である。)
  4. 請求項1のウィスカー状金属化合物を500〜1600℃の温度で焼成することを特徴とするウィスカー状金属複合酸化物の製造方法。
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