本発明は、燃料集合体に係り、特に沸騰水型原子炉に適用するのに好適なスペクトルシフトロッド(以下、SSRという)を有する燃料集合体に関する。
従来の沸騰水型原子炉(BWR)では、中性子の減速効果を促進させるために飽和水が流れる水ロッドを有する燃料集合体を炉心内に装荷している。従来のBWRの運転条件では、ウラン原子に対する水素原子の数が多いほど、即ち、水素原子数とウラン原子数の比(以下、H/U比と称する)が大きいほど反応度が高くなって炉心に装荷された核燃料物質を有効に活用できる。このため、燃料集合体に水ロッドを設けることによって、ウラン原子に対する水中の水素原子数を増加させ、H/U比を増加させている。
しかし、更なる核燃料物質の有効利用を図るためには、核燃料物質の燃焼に伴って炉心のH/U比を変化させて反応度を制御することが望ましい。このようなBWRの運転方法の一つとしてスペクトルシフト運転法がある。スペクトルシフト運転法は、十分に反応度が余っている運転サイクルの初期に炉心のボイド率を高めてウラン238をプルトニウム239に核変換し、ウラン235及びプルトニウム239が燃焼して反応度が不足してくる運転サイクルの末期にボイド率を低くしてウラン235及び核変換によって蓄積されたプルトニウム239を効率良く燃焼させる方法である。
このスペクトルシフト運転法を効果的に実現するために、SSRを備えた燃料集合体が提案されている(例えば、特開昭63−73187号公報及び特開平1−187494号公報参照)。SSRは、水ロッドの一種であり、上昇通路及び上昇通路の上端部に接続される下降通路を有している。上昇通路及び下降通路により逆U字状の通路が形成される。その燃料集合体は、複数の燃料棒を有し、燃料棒の下端部を下部タイプレートで保持し、燃料棒の上端部を上部タイプレートで保持している。少なくとも1本のSSRが燃料棒の間に配置されている。SSRの上昇通路の下端部が下部タイプレートに保持され、上昇通路の下端に形成される第1開口部は下部タイプレートの燃料保持部よりも下方の領域に開放されている。上昇通路と下降通路の接続部付近が上部タイプレートに保持される。下降通路の下端に形成される第2開口部は、下部タイプレートの燃料保持部よりも上方に位置しており、その燃料保持部付近に配置されている。
BWRは、炉心流量を変化させることによって原子炉出力を制御することができる。反応度が余っている運転サイクルの初期では炉心流量を低くして炉心平均ボイド率を大きくする。反応度が不足する運転サイクルの末期で炉心流量を増加させて炉心平均ボイド率を小さくする。SSRの上昇通路内の冷却水はガンマ線及び中性子線の照射によって加熱されて蒸気になり、上昇通路内に水領域及び蒸気領域が形成される。上昇通路内で水領域と蒸気領域の境界に冷却水の液面が形成される。上昇通路内で発生した蒸気は、下降通路内を下降し、第2開口部からSSRの外側に放出される。上昇通路内の液面の位置は、炉心流量の増大に伴って上昇する。炉心流量がある流量以上になると、上昇通路内が冷却水で満たされた状態になる。このとき、下降通路内も冷却水で満たされる。
上昇通路内に蒸気領域が形成されている状態では、その蒸気領域が存在する燃料集合体の上部で核分裂性物質であるプルトニウム239が生成されこのプルトニウム239が蓄積される。炉心流量が増大して上昇通路内の蒸気領域が消滅した状態では、燃料集合体の上部に蓄積されたプルトニウム239が効率良く燃焼される。
特開昭63−73187号公報
特開平1−187494号公報
SSRによるスペクトルシフト効果を増加させるには、SSRの上昇通路の流路断面積を増大させ、燃料集合体の横断面積に対するSSRの上昇通路の流路断面積の割合を増加させることが望ましい。上昇通路の流路断面積の増大により燃料経済性が向上する。しかしながら、発明者らの検討の結果、上昇通路の流路断面積の増大によって、新たな課題が生じることが分かった。発明者らが見出した新たな課題は、上昇通路で発生する蒸気の量が多くなることに起因するものである。下降通路の第2開口部から放出される蒸気が燃料集合体入口から流入するサブクール水によって凝縮されず、飽和水領域に達する放出蒸気量が増加する。このため、燃料集合体の軸方向におけるボイド率が全体的に増加する。
燃料集合体平均ボイド率が事前の評価よりも増加した場合には、燃料集合体の燃焼特性が変化するため、BWRプラントの運転前に解析によって燃料集合体の軸方向におけるボイド率分布を再度算出し、運転サイクルに対する適切な制御棒計画(運転サイクル初期での各制御棒の挿入量、及び制御棒引き抜き時における制御棒引き抜き量及び引き抜きタイミング)を再決定する必要がある。SSRの下降通路から放出される蒸気がサブクール水によって凝縮されない場合、特にSSRの下端通路から放出される蒸気量が多い場合には、事前の評価との乖離が大きくなるため、適切な制御棒計画を作成するまでにかなりの時間を要することになる。
本発明の目的は、適切な制御棒計画をより短時間に作成でき、下降管の流力振動が抑制される燃料集合体を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、内部に上昇通路を形成する上昇通路形成部材、上端部で上昇部材形成部材に接続されて内部に前記上昇通路に連絡される下降通路を形成する下降通路形成部材を有し、燃料棒に取り囲まれて配置される水ロッドとを備え、
上昇通路形成部材の下端部が、燃料棒の下端部を保持する、下部タイプレートの燃料保持部に保持され、上昇通路と燃料保持部より下方の領域とを連通する第1開口部が、上昇通路形成部材の下端部に形成され、下降通路に連絡されて燃料保持部よりも上方の領域に開放される複数の第2開口部が、燃料集合体の燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって50cmの位置との間で前記下降通路形成部材に形成され、第2開口部の開口面積が下降通路の流路断面積よりも小さくなっており、複数の第2開口部の開口面積の合計が、下降通路の流路断面積より大きくなっていることにある。
開口面積が下降通路の流路断面積よりも小さい複数の第2開口部が、燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって50cmの位置との間(以下、これらの間の領域を非沸騰領域という)で下降通路形成部材に形成されているので、第2開口部から放出された蒸気泡の大きさが小さくなり、非沸騰領域で凝縮され易くなる。このため、燃料集合体の軸方向ボイド率分布が増大することを防止することができ、スペクトルシフトロッドを有する燃料集合体を炉心に装荷した原子炉に対する適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができる。さらに、複数の第2開口部の開口面積の合計が、下降通路の流路断面積よりも大きくなっていることにより、第2開口部から放出される蒸気流の流速が遅くなるので、下降管の流力振動が抑制される。
好ましくは、それぞれの前記第2開口部の開口面積をS(mm2)、及び燃料集合体の燃料有効長の下端からの高さをT(cm)としたとき、開口面積Sが、
0<S≦3.12×10-4×(50−T)2+5.82×10-2×(50−T)を満足していることが望ましい。開口面積Sが上記の条件を満足することによって、第2開口部から放出された蒸気泡が非沸騰領域で完全に凝縮される。このため、スペクトルシフトロッドを有する燃料集合体を炉心に装荷した原子炉に対する適切な制御棒計画の作成に要する時間をさらに短縮することができる。
本発明によれば、スペクトルシフトロッドを有する燃料集合体を炉心に装荷した原子炉に対する適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができ、下降管の流力振動が抑制される。
発明者らは、SSRを有する燃料集合体の特性を検討し、この検討結果に基づいて本発明を生み出した。
この検討結果を説明する前に、SSRの機能を、図6を用いて簡単に説明する(SSRの機能の詳細は特開平1−187494号公報の3頁上部右欄18行から4頁上部右欄17行の記載を参照)。SSR20は、燃料集合体の下部タイプレートに形成された燃料保持部29及び上部タイプレート(図示せず)に保持される。SSR20は、上昇通路22を内部に形成する上昇管21及び内部に下降通路24を形成する下降管23を有する。上昇管21と下降管23は上端部で互いに接続されているので、上昇通路22も下降通路24と接続される。上昇通路22の入口である開口部25は燃料保持部29よりも下方の領域に開口している。下降通路24の出口である開口部26は、燃料保持部29よりも上方で開口する。
燃料集合体に供給される冷却水の大部分は、燃料保持部29に形成される多数の貫通孔30を通って燃料棒保持部29より上方で燃料棒相互間に形成された冷却水通路に供給される。残りの冷却水は、開口部25を通って上昇通路22内に導かれる。上昇通路22内に流入した冷却水は、核燃料物質の核分裂によって発生したガンマ線及び中性子線の照射を受けて加熱されて沸騰する。この沸騰によって上昇通路22内で蒸気が発生する。蒸気は、上昇通路22内を上昇し、上昇通路22の上端部で反転して下降通路24内を下降する。蒸気は、開口部26から、燃料棒相互間に存在する冷却水通路に放出される。蒸気の発生により、冷却水領域27及び蒸気領域28が上昇通路22内に形成され、上昇通路22内に液面L1が形成される。液面L1の位置は、冷却水が燃料保持部29の貫通孔30を通過する際の圧力損失に依存する。具体的には、液面L1は、液面L1と開口部26との静水頭差が、冷却水が貫通孔30を通過する際の圧力損失(図6のΔP)に等しくなる位置に形成される。SSR20の上昇通路22内に形成される液面L1の、燃料保持部29の圧力損失に対する関係を図3に示す。燃料保持部29の圧力損失と上昇通路22内の液面L1の位置はほぼ比例し、炉心流量を制御することで上昇通路22内の液面L1の位置を制御することができる。
BWRの運転サイクルにおいて、炉心流量が増大するに伴って圧力損失ΔPが増大し、上昇通路22内の液面L1が上昇する。炉心流量がある値以上に増大すると、SSR20内の蒸気領域28が消滅し、上昇通路22及び下降通路24内が全て冷却水領域27になる。炉心流量を低くしている運転サイクル初期では上昇通路22内の液面L1より上方の蒸気領域28でボイド率が100%となり、炉心流量を増加させる運転サイクル末期では上昇通路22及び下降通路24が冷却水で満たされるため、SSR20内のボイド率が0%となる。したがって、燃料集合体のH/U比を大きく変化させることが可能となり、動的な機器を用いることなく大幅なスペクトルシフト運転が実現できる。
更なるスペクトルシフト効果の増大による燃料経済性の向上は、SSR20の上昇通路22の流路断面積を増大させて燃料集合体の横断面積に占める上昇通路22の流路断面積の割合を増加させることによってもたらされる。下降通路24の流路断面積は上昇通路のそれよりも小さい。しかしながら、上昇通路22の流路断面積の割合を増大させた場合には、上昇通路22内で発生する蒸気量が増大し、新たな課題が発生することを、発明者らは見出した。上昇通路22内で発生する蒸気量が少ない場合には、開口部26から放出される蒸気量が少なく、放出蒸気による炉心軸方向ボイド率分布の全体的な増加量が小さいために問題にはならなかった。上昇通路22の流路断面積の割合が増加して蒸気の発生量が増大した場合には、開口部26から放出された蒸気が上記のサブクール水によって凝縮されずに飽和水領域に達する蒸気量が多くなる。この影響により、燃料集合体の軸方向におけるボイド率分布が全体的に増加する傾向となった。燃料集合体平均ボイド率が事前の評価よりも大きく増加した場合には、燃料集合体の燃焼特性が変化するため、BWRプラントの運転前に解析によって燃料集合体の軸方向におけるボイド率分布を再度算出する必要がある。もし、軸方向におけるボイド率分布を再度算出しない場合には、運転サイクル初期の制御棒の挿入量、運転サイクル初期から運転サイクル末期にかけての制御棒引抜量、制御棒の引抜きタイミング、運転サイクル初期から運転サイクル末期までの期間である連続運転期間の評価精度に影響し、炉心管理が複雑となる。
発明者らは、サブクール水によって凝縮されずに飽和水領域に達する蒸気の量を低減するための対策を考えた。そこで、まず、サブクール水による蒸気の凝縮が効果的に行われない原因の把握に努めた。この結果、下降通路24の開口部26から放出される蒸気の気泡が大きいことが、飽和水領域に達する蒸気の増加をもたらす原因であることを突き止めた。すなわち、下降通路24から放出される蒸気が大きな気泡になると、サブクール水との接触によっても、放出された蒸気が完全に凝縮しなくなる。サブクール水による蒸気の凝縮を促進させるためには、開口部26の面積を小さくすれば良いことに発明者らは気がついた。このため、発明者らは、下降通路24に複数の開口部26を形成して一個あたりの開口部26の面積を減少することによって、放出する蒸気の気泡の大きさを小さくし、蒸気泡の凝縮を促進させれば良い、との発想に至った。
この発想を定量化するために、下降通路24の開口部26から放出される蒸気泡の凝縮機構について詳細に検討した結果について説明する。BWRの炉心に装荷された燃料集合体の燃料保持部29から燃料集合体内に流入する冷却水はサブクール水31で、サブクール度は通常約10℃である。上昇通路22内で発生した蒸気は下降通路24の開口部26から蒸気泡として放出され、燃料棒間を流れるサブクール水31と接触する。サブクール水31との接触によって蒸気泡が凝縮される。しかしながら、凝縮面の面積、即ち蒸気泡の表面積が蒸気泡の体積に比べて小さすぎる場合には、下降通路24の開口部26から放出された蒸気泡は、凝縮される前に、燃料集合体の上端まで到達する。このため、燃料集合体の軸方向ボイド率が全体的に増加する。
開口部26から放出された蒸気泡を燃料保持部29の貫通孔30から流入するサブクール度10℃のサブクール水31によって完全に凝縮させるためには、サブクール水31が燃料棒の発熱によって加熱されて飽和水になるまでの領域範囲(非沸騰領域)内で蒸気泡を完全に凝縮させる必要がある。現行のBWRにおける非沸騰領域は、燃料集合体の燃料有効長の下端から上方に向かって約50〜60cmまでの範囲である。この非沸騰領域の燃料集合体の軸方向における長さを非沸騰長という。非沸騰長は、炉心入口における冷却水のサブクール度、炉心流量及び燃料棒の発熱密度に依存する。冷却水のサブクール度は炉心に冷却水を供給する再循環ポンプのキャビテーションを防止するように決定される。炉心流量は再循環ポンプの性能によって決定される。また、燃料棒の発熱密度は燃料棒を物理的に除熱可能な発熱密度に制約がある観点から決定されている。これらの3つの設計値はいずれも大幅な変更が難しいので、非沸騰長はあらゆるBWRに対して同程度(50cm)になる。
燃料集合体の燃料有効長(燃料棒内における核燃料物質の充填領域の、燃料集合体の軸方向における長さ)の下端を基準点としたとき、下降通路24の開口部26の、その基準点からの高さT(cm)を、(1)式
0≦T≦50 ……(1)
の範囲に設定することにより、開口部26から放出される蒸気泡を非沸騰領域内に放出させることが可能となる。したがって、蒸気泡を凝縮させることができ、燃料集合体の軸方向ボイド率の全体的な増加を抑制することができる。これにより、SSRから放出される蒸気のボイド率に対する影響を軽減できるので、沸騰水型原子炉の運転サイクルに対する適切な制御棒計画(運転サイクル初期での各制御棒の挿入量、及び制御棒引き抜き時における制御棒引き抜き量及び引き抜きタイミング)を作成するために行われる解析における繰り返し計算を少なくすることができる。すなわち、解析により軸方向のボイド率分布を求める計算の繰り返し数を低減できる。したがって、SSRを有する燃料集合体を炉心に装荷した原子炉に対する適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができる。
下降通路24の開口部26から放出される蒸気泡を、燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって50cmの位置の間の非沸騰領域において完全に凝縮することができれば、燃料集合体の軸方向ボイド率の全体的な増加を完全に防止することができる。これにより、上記の適切な制御棒計画の作成に要する時間を更に短縮することができる。そこで、発明者らは、その非沸騰領域で凝縮可能な蒸気泡の大きさについて詳細二相流計算を用いて検討した結果、以下に示す新たな知見を得ることができた。
開口部26から放出された蒸気泡の断面積S1(mm2)と蒸気泡が凝縮するまでに上昇する距離L(cm)の関係を図4に示す。蒸気泡の断面積S1、即ち、蒸気泡の直径が増加するにつれて蒸気泡の体積に対する蒸気泡の表面積の割合が減少する。この割合の減少により蒸気泡の凝縮に要する時間が増加し、蒸気泡の上昇距離が増加する。この結果が図4に示されている。
次に、下降通路24の開口部26の開口面積S(mm2)と蒸気泡の断面積S1(mm2)の関係について検討した。この検討結果が図5に示されている。発明者らは、開口部26から放出された蒸気泡の断面積S1が開口部26の開口面積Sよりも大きくなること、断面積S1に対する開口面積Sの比率は約25倍、それらの直径の比で約5倍になることを新たに発見した。発明者らは、開口部26の開口面積S(mm2)と開口部26から放出された蒸気泡が凝縮するまでに上昇する距離L(cm)の関係を調べるために、図4及び図5に示す各特性を近似関数でフィッティングすることを考えた。得られた近似関数を(2)式及び(3)式に示す。
S1=0.0077×L2+1.4366×L ……(2)
S=0.0405×S1 ……(3)
(2)式及び(3)式から蒸気泡の断面積S1を消去することによって、開口部26の開口面積S(mm2)と蒸気泡が凝縮するまでに上昇する距離L(cm)に関する(4)式が得られた。
S=3.12×10-4×L2+5.82×10-2×L ……(4)
また、非沸騰領域よりも上方の領域では蒸気泡を凝縮することができないため、SSR20の開口部26の、燃料有効長の下端からの高さTと蒸気泡が凝縮するまでに上昇する距離Lとの関係は、非沸騰長(50cm)を用いて(5)式のように表すことができる。
0<L≦50−T ……(5)
(4)式及び(5)式より、下降管23において高さTの位置に形成された開口面積Sの開口部26から放出される蒸気泡が非沸騰領域内で完全に消滅するための条件は(6)式で表すことができる。
0<S≦3.12×10-4×(50−T)2+5.82×10-2×(50−T) ……(6)
以上に述べたように、発明者らは、下降通路24の開口部26の開口面積Sを(6)式を満たすように決定することにより、開口部26から放出された蒸気泡が非沸騰領域の最上端に達する前に全て凝縮させることが可能となることを発見した。全開口部26の開口面積Sの合計は、下降管23の流力振動を抑制する観点から、下降通路24の流路断面積よりも大きくすることが望ましい。
以下、以上の検討によってなされた、本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である燃料集合体を、図1及び図2を用いて以下に説明する。本実施例の燃料集合体は、沸騰水型原子炉(BWR)に適用される。
本実施例の燃料集合体1は、複数の燃料棒2、下部タイプレート3、上部タイプレート5、スペクトルシフトロッド(SSR)7及びチャンネルボックス16を備えている。核燃料物質がそれぞれの燃料棒2内に充填されている。各燃料棒2は、下端部が下部タイプレート3の燃料保持部4に保持され、上端部が上部タイプレート5に保持される。燃料保持部4は下部タイプレート3の上端に位置している。空間17が下部タイプレート3内で燃料保持部4の下方に形成されている。複数の燃料棒2は、軸方向に配置された複数の燃料スペーサ6によって束ねられている。これらの燃料スペーサ6は、複数の燃料棒2の相互間に所定の間隔が形成されるように、各燃料棒2を保持する。角筒状のチャンネルボックス16が、上部タイプレート5に取り付けられ、下部タイプレート3の側壁に向かって伸びている。燃料スペーサ6で束ねられた各燃料棒2はチャンネルボックス16の内側に配置される。
SSR7は、水ロッドであり、燃料集合体1の横断面の中央部に配置されて燃料棒2の間に配置されている。SSR7は、上昇管8及び上昇管8の上端部に接続される下降管9を有する。このSSR7の詳細な構造を、図1を用いて説明する。上昇通路11が上昇管8内に形成され、下降通路12が下降管9内に形成される。上昇通路11と下降通路12は、それぞれの上端部で互いに接続されている。上昇通路11及び下降通路12は、SSR7内に逆U字状の通路を形成する。上昇管8の下端部が燃料保持部4に保持され、上昇管8の上端部が上部タイプレート5に保持されている。開口部13が、上昇管8の下端部に形成され、燃料保持部4より下方の空間17と上昇通路11を連絡している。下降管9の下端は密封されており、下降管9の下端部の側壁に複数の開口部14が形成されている。これらの開口部14は、燃料棒2の相互間及び燃料棒2とSSR7の間にそれぞれ形成される冷却水通路10と下降通路12を連絡している。開口部14の個々の開口面積は下降通路12の流路断面積よりも小さくなっている。
SSR7は全長3.7m、上昇管8の内径は25mm、下降管9の内径は上昇管8の内径の1/5である5mmである。下降通路12の流路断面積は上昇通路11のその面積の1/25である。下降管3の下端近傍、具体的には、燃料集合体1の燃料有効長下端とこの下端から上方に向かって6cmの位置との間の範囲に直径2mmの複数の開口部14が形成されている。
本実施例は、下降管9において燃料有効長の下端から上方に向かって6cmの範囲に直径2mmの開口部14を多数形成している。これらの開口部14は、下降管9の軸方向及び周方向に所定の間隔で配置されている。非沸騰領域の上端まで44cm以上の距離を移動する間に蒸気泡を凝縮させるためにSSR7の下降管9に形成する開口部14の面積Sは、(6)式にL=44cmを代入することによってS≦3.16mm2(開口部14の直径に換算すると2.01mm)となる。本実施例は、下降管9の下端部(燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって6cmの位置との間の範囲)に直径2mmの開口部14を多数形成しているので、各開口部14から放出された蒸気泡を非沸騰領域の上端に達するまでに全て凝縮させることができる。
このため、燃料集合体の軸方向ボイド率の全体的な増加を防止でき、SSRから放出される蒸気のボイド率に対する影響を軽減できるので、特に、事前の評価との乖離が小さくなるので、沸騰水型原子炉の運転サイクルに対する適切な制御棒計画(運転サイクル初期での各制御棒の挿入量、及び制御棒引き抜き時における制御棒引き抜き量及び引き抜きタイミング)を作成するために行われる解析における繰り返し計算を少なくすることができる。すなわち、解析により軸方向のボイド率分布を求める計算の繰り返し数を低減できる。したがって、SSR7を有する燃料集合体1を炉心に装荷した沸騰水型原子炉に対する運転サイクル(特に、運転サイクル初期)における適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができる。
複数の開口部14を通して蒸気泡を下降管9の周方向に均質に放出させることによって、水平方向に蒸気が放出される際に下降管9にかかる反力の平均値がほぼ0になるため、下降管9に発生する曲げ応力を抑制することが可能となる。さらに、複数の開口部14の合計開口面積を下降通路12の流路断面積よりも大きくすることにより、開口部14から蒸気泡が放出される際の蒸気の流速を抑制することが可能となる。このため、下降管9の流力振動を抑制できる。
本発明の他の実施例である燃料集合体を、図7を用いて以下に説明する。本実施例の燃料集合体1Aは、前述の燃料集合体1の下降管9に形成された開口部14を開口部14Aに替えた構成を有する。燃料集合体1Aの下降管9は、下端部(燃料有効長の下端から上方に向かって3cm以内の範囲)に、90°の間隔を置いて下降管9から四方に伸びる複数の分岐管18を取り付けている。これらの分岐管18は下降管9の軸方向にも複数設けられている。燃料集合体1Aの他の構造は燃料集合体1と同じである。下降管9の内径は5mmであり、分岐管18の内径は2.5mmである。1枚の仕切板19が各分岐管18内でその先端に配置され、それぞれの分岐管18に設置される。仕切板19の設置により、各分岐管18の先端に2つの開口部14Aが形成される。仕切板19によって分割された各開口部14Aの水力等価直径は1.5mmである。
本実施例は、燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって3cmの位置との間の範囲に水力等価直径1.5mmの複数の開口部14Aを形成している。非沸騰領域の上端まで47cm以上の距離を移動する間に蒸気泡を凝縮させるためにSSR7の下降管9の開口部14Aの開口面積Sは、(6)式にL=47cmを代入することによってS≦3.42mm2(開口部14Aの水力等価直径に換算すると2.09mm)となる。下降管9の下端部(燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって3cmの位置との間の範囲)に水力等価直径1.5mmの開口部14Aを多数形成しているので、本実施例はそれらの開口部14Aから放出される蒸気泡を非沸騰領域の上端に到達するまでに全て凝縮させることができる。したがって、本実施例は、燃料集合体1Aの軸方向ボイド率の全体的な増加を防止でき、燃料集合体1A内の核燃料物質を有効に燃焼させることができ、SSR7を有する燃料集合体1Aの燃料経済性が向上する。
上記の蒸気泡凝縮効果に加えて、分岐管18を採用している本実施例では、上昇通路11内で発生した蒸気が分岐管18を通過する際に分岐管18の管壁で幾らか凝縮されるため、実施例1に比べて開口部14Aから放出される蒸気の量を抑制することができる。これにより、放出される蒸気の流速をより遅くすることができ、下降管9の流力振動を抑制することが可能となる。また、下降管9の周方向において、0度と180度、及び90度と270度と、反対方向を向いた2組の分岐管18のペアを構成することにより、各分岐管18から蒸気が放出される際に下降管9に加わる反力を打ち消すことができる。このため、蒸気の放出によって、SSR7の下降管9に発生する曲げ応力を抑制することができる。
各々の分岐管18に形成された各開口部14Aの開口面積Sが(6)式で算出される面積Sよりも小さくなるようにさえすれば、1つの分岐管18に設置される仕切板19の枚数を増やし、分岐管18の中心軸から放射状に配置することも可能である。また、仕切板19の替りに、図8に示すように、直径1.5mmの複数の開口部14Eを形成した板部材32を各分岐管18の先端部に設置してもよい。この構成によっても、図7に示す下降管9で生じる効果と同様な効果を得ることができる。
燃料集合体1Aは、下降管9に周方向に4本の分岐管18を設置しているが、8本の分岐管18を下降管9の周方向に設置することも可能である。噴出する蒸気によって生じる反力を抑制する観点から、分岐管18の本数は偶数本ずつ、すなわち、蒸気放出方向が反対方向を向いた2本の分岐管18を1つの単位として増加させるとより好ましい。
本発明の他の実施例である燃料集合体を、図9を用いて以下に説明する。本実施例の燃料集合体1Bは、前述の燃料集合体1の下降管9に形成された開口部14を開口部14Cに替えた構成を有する。燃料集合体1Bの下降管9は、下端部(燃料有効長の下端から上方に向かって6cm以内の範囲)に、45°の間隔を置いて下降管9から八方に伸びる複数のノズル33を取り付けている。これらのノズル33は下降管9の軸方向にも複数設けられている。燃料集合体1Bの他の構造は燃料集合体1と同じである。下降管9の内径が5mmであり、ノズル33先端での開口部14Cの直径が2mmである。
本実施例では、燃料有効長の下端とこの下端から上方に向って6cmの位置との間の範囲に複数のノズル33を設置している。このため、本実施例も、下降通路12の各開口部14Bから放出される蒸気を非沸騰領域の上端に到達するまでに全て凝縮させることができる。したがって、燃料集合体1Bの軸方向ボイド率の全体的な増加を防止できるので、SSR7を有する燃料集合体1Bを炉心に装荷した沸騰水型原子炉に対する運転サイクル(特に、運転サイクル初期)における適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができる。
本実施例も、各ノズル33が180°反対方向に伸びているので、実施例2と同様に、下降管9に生じる曲げ応力を抑制することができる。各開口部14Bから放出される蒸気流速を遅くすることができ、実施例2と同様に、下降管9の流力振動を抑制することが可能となる。
図10に示すように、各ノズル33の外面にフィン34を設けてもよい。フィン34の設置により、ノズル33の側壁において外部を流れるサブクール水とノズル33内を流れる蒸気間の熱貫流率を増加させることができる。したがって、ノズル33の内面での蒸気の凝縮量が増加して、開口部14Bから放出される蒸気量を大幅に低減させることができる。これにより、下降管9の、更なる流力振動抑制が実現できる。
本発明の他の実施例である燃料集合体を、図11を用いて以下に説明する。本実施例の燃料集合体1Cは、実施例2の燃料集合体1Aにおいて分岐管18を分岐管18Aに替えた構造を有する。燃料集合体1Cの他の構造は、燃料集合体1Aと同じである。複数の分岐管18Aが、燃料集合体1Cの下降管9の下端部(燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって4cmの位置との間の範囲)に、周方向に90°の間隔を置いて取り付けられている。8本の分岐管18Aを、下降管9の周方向に配置することも可能である。本実施例では、下降管9の内径が10mmであり、分岐管18Aの内径が5mmである。それぞれの分岐管18Aの側壁には、直径1.5mmの複数の開口部14Cが形成されている。
本実施例は、燃料有効長の下端とこの下端から上方に向って4cmの位置の間の範囲に直径1.5mmの複数の開口部14Cを配置している。非沸騰領域の上端まで46cm以上の距離を移動する間に蒸気泡を凝縮させるために、下降管9に形成する開口部14Dの開口面積Sは、(6)式にL=46cmを代入することによってS≦3.34mm2(直径に換算すると2.06mm)となる。したがって、燃料集合体1Cは、燃料集合体1Aと同様に、下降管9に形成された各開口部14Cから放出される蒸気を非沸騰領域の上端に達するまでに全て凝縮させることができる。燃料集合体1Cの軸方向ボイド率の全体的な増加を防止することができるので、SSR7を有する燃料集合体1Cを炉心に装荷した沸騰水型原子炉に対する運転サイクル(特に、運転サイクル初期)における適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができる。
本実施例も、下降管9に発生する曲げ応力を抑制することができる。本実施例は、各分岐管18Aに複数の開口部14Cをそれぞれ形成しているので、より多くの開口部14Cを下降管9の下端部に集中して配置することができる。このため、全開口部14Cの合計面積をより大きくすることができ、開口部14Cでの蒸気の流速が大幅に低減できる。下降管9の流力振動が著しく低減される。
本発明の他の実施例である燃料集合体を、図12を用いて以下に説明する。本実施例の燃料集合体1Eは、実施例2の燃料集合体1Aにおける分岐管18の開口部14Aの仕切板19をベーン35に替えた構造を有する。ベーン35は、分岐管18の先端部に設置されており、分岐管18から放出される蒸気に旋回力を与える。燃料集合体1Dの他の構造は、燃料集合体1Aと同じである。ベーン35が設置された複数の分岐管18が、燃料集合体1Dの下降管9の下端部(燃料有効長の下端とこの下端から上方に向かって4cmの位置との間の範囲)に、周方向に90°の間隔を置いて取り付けられている。ベーン35を設けた8本の分岐管18を、下降管9の周方向に配置することも可能である。本実施例では、下降管9の内径が5mmであり、分岐管18の内径が2.5mmである。
本実施例も、ベーン35から放出される蒸気の流速を遅くすることができ、下降管9の流力振動を抑制することができる。さらに、下降管9に発生する曲げ応力を抑制することもできる。
非沸騰領域の上端まで46cm以上の距離を移動する間に蒸気泡を凝縮させるために、下降管9に形成する開口部の開口面積は、(6)式にL=46cmを代入することによってS≦3.34mm2(直径に換算すると2.06mm)となる。本実施例では、分岐管18の内径が直径2.5mmであり、S≦3.34mm2を満足しない。しかしながら、本実施例は、ベーン35によって吐出される蒸気の旋回流を生じさせているので、蒸気泡の直径を微細化することができる。したがって、ベーン35から放出される蒸気泡は非沸騰領域の上端に到達するまでに完全に凝縮される。即ち、上昇通路11内で発生した蒸気が下降通路11及び分岐管18を通ってサブクール水31中に放出される際、ベーン35によって放出される蒸気流に旋回力が与えられる。この旋回力によって生じる剪断力によって分岐管18から放出される蒸気泡が細かく分割される。ベーン35を通って放出される蒸気泡の直径は、ベーン35を採用していない実施例1〜4よりも細かくすることができる。これにより、非沸騰領域の上端に到達するまでの間における蒸気泡凝縮効果を促進することができ、燃料集合体1Dの軸方向ボイド率の全体的な増加を防止できる。燃料集合体1Dの軸方向ボイド率の全体的な増加を防止することができるので、SSR7を有する燃料集合体1Dを炉心に装荷した沸騰水型原子炉に対する運転サイクル(特に、運転サイクル初期)における適切な制御棒計画の作成に要する時間を短縮することができる。
本発明の好適な一実施例である実施例1の燃料集合体のSSR付近の構成図で、(A)はSSR付近の燃料集合体の構成図、(B)はSSRの下降管の下端部の構成図である。
実施例1の燃料集合体の縦断面図である。
下部タイプレートの差圧とSSR内の液面の高さとの関係を示す特性図である。
蒸気泡が凝縮するまでに上昇する距離と蒸気泡の断面積との関係を特性図である。
蒸気泡の断面積と下降通路の開口部の面積との関係を示す特性図である。
SSRの機能を示す説明図である。
本発明の他の実施例である実施例2の燃料集合体の構成を示し、(A)実施例2の燃料集合体のSSRの下降管下端部の側面図、(B)は(A)のA−A断面図である。
実施例2の燃料集合体の他の構成例の燃料集合体のSSRの下降管下端部の側面図である。
本発明の他の実施例である実施例3の燃料集合体の構成を示し、(A)実施例3の燃料集合体のSSRの下降管下端部の側面図、(B)は(A)のB−B断面図である。
実施例3の燃料集合体の他の構成例の燃料集合体のSSRの下降管下端部の側面図である。
本発明の他の実施例である実施例4の燃料集合体の構成を示し、(A)実施例4の燃料集合体のSSRの下降管下端部の側面図、(B)は(A)のC−C断面図である。
本発明の他の実施例である実施例5の燃料集合体の構成を示し、(A)実施例5の燃料集合体のSSRの下降管下端部の側面図、(B)は(A)のD−D断面図である。
符号の説明
1,1A,1B,1C,1D…燃料集合体、2…燃料棒、3…下部タイプレート、4…燃料保持部、5…上部タイプレート、7,20…スペクトルシフトロッド、8,21…上昇管、9,23…下降管、10…冷却水通路、11,22…上昇通路、12,24…下降通路、13,14,14A,14B,14C,14E,25,26…開口部、18,18A…分岐管、19…仕切板、27…冷却水領域、28…蒸気領域、33…ノズル、34…フィン、35…ベーン、L1…液面。