ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、眼用レンズの製造ラインにおける加工や検査の工程の現場において、紙片からなる指図書の管理等の煩雑な作業を不要となし得て、効率的に且つ正確に規格値などの処理指示情報を確認できて、優れた作業効率が達成される、眼用レンズの新規な製造システムおよび製造方法を提供することにある。
また、本発明は、中間加工状態や加工済状態の眼用レンズを個別に識別することが出来、その個別の識別情報に基づいて加工や検査の状態を個別に管理等することの出来る、眼用レンズの新規な製造システムおよび製造方法を提供することも、目的とする。
更にまた、本発明は、眼用レンズにおける個別の各種データをコンピュータを利用して総合的に管理することが出来ると共に、たとえコンピュータにアクシデントが発生した場合でも、各工程の現場における作業への悪影響を可及的に回避することが出来る、眼用レンズの新規な製造システムおよび製造方法を提供することも、目的とする。
かかる課題を解決するためになされた「眼用レンズの製造ライン」に係る本発明の特徴とするところは、(a)多数の眼用レンズを連続的に製造するシステムであって、(b)前記眼用レンズを中間加工状態又は加工済状態で個別に収容する収容部を備えた容器と、(c)該容器を複数の工程領域に搬送する搬送手段と、(d)該容器に設けられて、情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する個別情報記憶手段と、(e)前記搬送手段による前記容器の搬送経路上の複数箇所に設けられて、前記個別情報記憶手段に対して情報を書込/読出するためのリーダ・ライタ装置と、(f)前記多数の眼用レンズを各別に管理する識別情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する識別情報記憶手段と、該識別情報に関連付けられて該眼用レンズ毎の処理指示情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する処理指示情報記憶手段と、該識別情報に関連付けられて該眼用レンズ毎の処理完了情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する処理完了情報記憶手段とを、含んで構成されて前記個別情報記憶手段とは別に設置された総合情報記憶手段と、(g)該総合情報記憶手段にアクセスして、前記識別情報記憶手段と前記処理指示情報記憶手段と前記処理完了情報記憶手段に対して前記識別情報と前記処理指示情報と前記処理完了情報を書込/読出すると共に、前記リーダ・ライタ装置にアクセスして、前記個別情報記憶手段に対して該識別情報と該処理指示情報と該処理完了情報を書込/読出する管理コンピュータとを、有し、前記搬送手段で前記容器が搬送される複数の工程領域が、該容器の複数に収容された前記眼用レンズの複数個を同時に処理するバッチ処理工程を含んでいると共に、該バッチ処理工程において、前記個別情報記憶手段の複数個にそれぞれ記憶された情報を書込/読出可能にまとめて記憶する個別情報統合記憶手段を有している眼用レンズ製造システムにある。
本発明に従う構造とされた眼用レンズ製造システムでは、眼用レンズに加工や検査を施す複数の領域に順次に搬送される容器において、収容部ひいてはそこに収容された眼用レンズを、容器に付された個別情報記憶手段の識別情報により、各別に識別することができる。しかも、かかる個別情報記憶手段には、従来の指図書に記載されていた設計値や規格値等の処理指示情報が、容器に収容された眼用レンズに各対応する個別のデータとして記憶されている。
それ故、眼用レンズに加工や検査を施す各工程の領域など、適当な箇所に設置したリーダ・ライタ装置によって、当該眼用レンズにおける設計値や規格値などを、必要とする時に速やかに入手することが可能となる。これにより、従来の紙片からなる指図書の整理や管理という煩雑な作業が不要となると共に、他の眼用レンズの値ととり間違えたり、指図書を紛失したりすることもなくなる。
さらに、コンピュータネットワークを通じたデータ送受信を必要とすることなく、加工や検査の各工程の領域で、容器に付された個別情報記憶手段から設計値や規格値などを直接に入手することができる。それ故、コンピュータネットワークにおけるデータ送受信量が軽減されると共に、コンピュータシステムにアクシデントが発生しても、現場への影響が可及的に回避される。即ち、眼用レンズに加工や検査を施す工程の現場では、容器に付された個別情報記憶手段から直接に得られる情報に基づいて作業を継続することが可能となるのである。
加えて、各容器に付された個別情報記憶手段には、各工程で施された加工や検査の結果の情報として、例えば各加工や検査の実施の有無を含む処理完了情報まで記憶される。この処理完了情報は、加工や検査を施す各工程の現場で、リーダ・ライタ装置によって直接に行われることとなる。
それ故、コンピュータシステムやそのネットワークにアクシデントが発生して、管理コンピュータとの通信等ができなくなった場合でも、現場への影響が一層有利に回避される。即ち、眼用レンズに対する各個別の加工や検査の完了・未了等の情報は、アクシデントが解消するまでは、個別情報記憶手段に記憶させておくことが出来る。それ故、アクシデントが解消した後から、個別情報記憶手段に記憶しておいた処理完了情報を管理コンピュータが確認することで、現場での加工や検査を出来るだけ中断することなく対応することが可能となるのである。
また、本発明の眼用レンズ製造システムでは、各個別情報記憶手段に記憶された各種情報が、総合情報記憶手段にも記憶されるようになっている。それ故、後から何等かの問題が発見された場合でも、この総合情報記憶手段に記憶した情報に基づいて問題の対象となる眼用レンズを効率的に割り出すことが可能となる。そして、容器に付された個別情報記憶手段の情報と対応づけて特定の眼用レンズだけを正確に選択し、再加工や再検査或いは廃棄等の処分を効率的且つ的確に行うことが可能となるのである。
なお、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいて、眼用レンズを収容する容器は、眼用レンズを個別に、即ち個々の眼用レンズを相互に識別可能に収容するものであれば良い。具体的には、例えば、一つの眼用レンズを収容する収容箇所を一つだけ備えた独立形の他、複数の眼用レンズを個別に収容する複数の収容箇所を備えたパレット形のものであっても良い。
また、かかる容器は、眼用レンズの製造に際して、複数の加工工程や検査工程に眼用レンズを供するに際して、全ての工程に亘って単一のものが使用される必要はない。途中の工程で、別の容器に移しかえたり、必要に応じて元の容器に戻したりしても良い。或いは、特定の幾つかの工程だけで眼用レンズを個別に識別管理等する必要がある場合には、かかる工程だけで容器を採用して個別に識別管理し、それ以外の工程では、ロット単位で眼用レンズを管理することも可能である。
本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいて、容器を搬送する搬送手段としては、ベルトコンベア等の各種コンベアが好適に採用されるが、特に限定されるものでなく、例えば特定の幾つかの工程だけをクリーンルーム等の特別なスペースで実施する場合などでは、人手による搬送も組み合わせて採用され得る。
本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいて、個別情報記憶手段は、電気信号によって情報を記録したり読み出すことが出来るもの、更に好適には複数回の書き換えが出来るものが採用される。なお、容器として、前述のように複数の収容部を備えたパレット形のものを用いる場合には、個別情報記憶手段は、各収容部を個別に識別してデータ保存等し得るものであれば良く、物理的に収容部に一つずつ独立して対応した個別情報記憶手段を採用する必要はない。
また、かかる個別情報記憶手段として、具体的には、電子タグ等と称されて市販されているものなどが採用可能であり、特に、リード・ライト用の電気信号を接触式で通電する端子を備えたものよりも、電磁波等により非接触で電気信号を送受信してリード・ライトすることの出来るものが望ましい。それ故、ICチップと共にデータを送受信するためのアンテナを内蔵した無線ICタグ(無線ICチップと称される小型のものを含む)が好適に採用される。形状や大きさ、具体的構造等は何等限定されるものでなく、電源内蔵式でも電源を備えていないものでも良い。
更にまた、個別情報記憶手段は、容器に取り付けられて容器と共に各工程領域に搬送されるものである。具体的には、容器に埋設状態で取外し不可能とされている他、容器に対して着脱可能に取り付けられていても良い。取外し不能であれば信頼性が向上するが、例えば容器と個別情報記憶手段の再利用回数が異なる場合等では、後者の着脱可能な構造が望ましい場合もある。
また、本発明において、個別情報記憶手段に対して記憶情報のアクセスを行うためのリーダ・ライタ装置は、固定式の他、可搬式や小型のハンディー式のものも採用可能である。特に個別情報記憶手段として無線ICタグを採用する場合には、一般に、通信用のアンテナと、情報をのせた電磁波を送受信するためのアンテナ手段と、送信用の電磁波を変調したり受信した電磁波を復調するためのコントローラ手段と、送信する情報や受信した情報を表示するモニタ等の表示手段とを備えたシステムから構成されたリーダ・ライタ装置が採用される。
本発明において、総合情報記憶手段としては、公知の各種の電気信号記憶媒体が採用可能であり、例えばハードディスクや光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体式の各種記憶媒体が挙げられる。また、総合情報記憶手段は、それ自体が独立した演算処理装置を備えており、管理コンピュータとLAN等の通信手段で情報の送受信可能とされているものの他、管理コンピュータの演算処理装置に対してIDE、USB、IEEE、SCSI等で直接に接続された内蔵形や外付形のものであっても良い。
また、総合情報記憶手段における識別情報記憶手段、処理指示情報記憶手段、処理完了情報記憶手段は、物理的に独立して構成されている必要はなく、実質的にそれら各機能を備えていれば良い。
本発明において、識別情報記憶手段の記憶情報は、容器ひいては眼用レンズを一つずつ個別に識別し得る識別情報を含む。この識別情報は、例えば市販のIDチップ等に記録されているデータを利用できる。具体的には、複数の数字や記号等の組み合わせによって識別するものなど、読み出すことによって人間にも認識可能なデータに変換可能なデータが望ましい。
本発明において、処理指示情報記憶手段の記憶情報は、加工や検査に際して予め指示値として与えられる設計データ及び/又は規格データを含む。具体的には、従来から指図書で与えられていた設計値乃至は指図値としての後面曲率半径(BC)、屈折力(POWER)、レンズ外径寸法(DIA)、中央厚寸法(CT)などの具体値を含む。
本発明において、処理完了情報記憶手段の記憶情報は、加工や検査を実施したことの完了信号として、外部から書き込まれた確認データを含む。具体的には、各加工や工程を終了したことを表す特定のフラグ等の信号によって記憶されたデータを含む。
なお、これら処理指示情報記憶手段や処理完了情報記憶手段の記憶情報は、識別情報記憶手段の記憶情報と関連付けられており、それによって、上述の如き各情報が、個別の眼用レンズ毎に区別されて記憶され、管理されることとなる。
また、本発明において、管理コンピュータは、総合情報記憶手段およびリーダ・ライタ装置へのアクセスのための適当なデータ送受信手段を備えている。このデータ送受信手段としては、例えばパラレルやシリアル、USB,IEEE等での直接的な接続であっても良いが、好適には、有線や無線のLAN機構からなる電気信号の送受信用の通信装置と回線によって構成される。
そして、管理コンピュータは、総合情報記憶手段と個別情報記憶手段との間で、データのやりとりを行わせる。例えば、一方の記憶手段から読み取ったデータを他方の記憶手段に記憶させたり、両方の記憶手段から読み取った各データを比較したり、外部から入力されたデータを両方の記憶手段にそれぞれ記憶させたりすることが、出来るような構成が望ましい。
また、本発明においては、個別情報統合記憶手段を採用したことにより、例えば加熱滅菌処理など、多数個の眼用レンズをまとめて同時に加工するに際して、各眼用レンズに対する管理精度を維持しつつ、その加工を効率的に行うことが可能となる。即ち、一つ若しくは少数の収容部を備えた小型の容器から、より多くの収容部を備えた容器に眼用レンズを移しかえて、この大型の容器で纏めて多数の眼用レンズをバッチ処理する際には、小型の容器に付された小容量の個別情報記憶手段から、大型の容器に付された大容量の個別情報記憶手段に対して、全ての眼用レンズの情報を移行させる。これにより、少数ずつの管理と多数の同時管理とを、工程に応じて使い分けることが可能となる。
なお、例えば、バッチ処理が終わって、再び個別の処理工程に供される場合には、大型の容器に付された大容量の個別情報記憶手段から、小型の容器に付された小容量の個別情報記憶手段に、各眼用レンズの情報が移行せしめられ得る。
ところで、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記多数の眼用レンズの連続的な製造に際して前記個別情報記憶手段が繰り返して使用されるようになっていると共に、該個別情報記憶手段の繰り返し使用回数を記憶する使用回数記憶手段が、該個別情報記憶手段と前記総合情報記憶手段の少なくとも一方に設けられている構成が、好適に採用される。
このような使用回数記憶手段を採用することにより、有限の使用回数が設定されたICチップ等を採用する場合に、使用回数を正確に管理することが出来る。即ち、この使用回数記憶手段に記憶された実際の使用回数を、個別情報記憶手段のメーカー等から指示された使用回数の制限値と比較して管理し、当該制限値に至った場合には個別情報記憶手段を交換する。これにより、個別情報記憶手段の誤作動を防止して、管理の信頼性を更に向上させることが出来る。また、実際の使用回数が制限回数に至っていないかを、管理コンピュータで比較検査するようにすれば、使用回数の管理を効率的に行うことが可能となる。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記識別情報が、前記眼用レンズに付される製造番号データを含んでいると共に、該製造番号データが前記個別情報記憶手段に記憶される前記情報の一つとされている構成が、好適に採用される。
このような製造番号データを個別情報記憶手段に記憶させておくことにより、製造された眼用レンズに対して、そのパッケージ等に付される製造番号データを、管理コンピュータ等の上位コンピュータを介することなく、個別情報記憶手段から直接に入手することが出来る。それ故、この製造番号データを印刷したりする工程を効率的に且つ正確に行うことが出来る。
なお、この製造番号データは、個別情報記憶手段に記憶された眼用レンズの識別情報の一つとして、総合情報記憶手段にも記憶されることが望ましい。これにより、眼用レンズの出荷用パッケージングによる包装の後、該眼用レンズの加工や検査の際に使用された個別情報記憶手段の識別情報が消去された場合でも、総合情報記憶手段に記憶されたデータに基づいて、包装された眼用レンズについても追跡して管理等することが可能となるのである。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記処理指示情報が、前記眼用レンズにおける製品規格データを含んでいると共に、該製品規格データが前記個別情報記憶手段に記憶される情報の一つとされている構成が、好適に採用される。
このような製品規格データを個別情報記憶手段に記憶させておくことにより、この個別情報記憶手段に記憶された規格データを、加工や検査の工程の現場で読み取って、それを目標値とした加工や検査を実施することが出来る。それ故、各加工や検査の工程でいちいち総合情報記憶手段から情報を入手する必要がなくなり、送受信の回線負担等が軽減される。また、例えば管理コンピュータや総合情報記憶手段、或いはデータ送受信システム等のコンピュータシステムにアクシデントが発生した場合でも、個別情報記憶手段に記憶させた製品規格データを現場で直接に利用して加工や検査の作業を続行することが可能となる。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記処理完了情報が、前記眼用レンズに対して予め定められた加工,作業,測定等の複数工程での処理を完了したことを各工程毎に示す工程完了データを含んでいると共に、該工程完了データが前記個別情報記憶手段に記憶される情報の一つとされている構成が、好適に採用される。
このような工程完了データを個別情報記憶手段に記憶させておくことにより、例えば、コンピュータシステムにアクシデントが発生した場合でも、個別情報記憶手段に記憶させた工程完了データを、後から管理コンピュータで確認したり、或いは総合情報記憶手段に送信して記憶させることが可能となる。それ故、かかるアクシデントの発生状況下でも、現場では、加工や検査の工程を行って完了し、必要に応じて更に次の工程も行うことが可能となる。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記処理完了情報が、前記眼用レンズに対して予め定められた加工,作業,測定等の複数工程での処理を施した時間を各工程毎に示す工程時間データを含んでいると共に、該工程時間データが前記個別情報記憶手段に記憶される情報の一つとされている構成が、好適に採用される。
このような工程完了データを個別情報記憶手段に記憶させておくことにより、例えば、コンピュータシステムにアクシデントが発生した場合でも、個別情報記憶手段に記憶させた工程時間データを、後から管理コンピュータで確認したり、或いは総合情報記憶手段に送信して記憶させることが可能となる。それ故、例えば品質管理上等の理由から、特定の工程或いは特定の工程から別の特定の工程までの作業時間に制限があるような場合において、そのようなアクシデントが発生した場合でも、現場では、加工や検査の工程を継続して順次に行って完了することが出来る。そして、アクシデントの解消後に、個別情報記憶手段に記憶せしめた工程完了データを利用して、作業時間上の制限値を満足しているか否かを良否判定することが出来る。従って、アクシデント発生時に各工程での作業を停止することに起因する不良品の大量発生を回避することが可能となるのである。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記処理完了情報が、前記眼用レンズに対して予め定められた加工,作業,測定等の複数工程での処理を施した作業者を各工程毎に示す作業者データを含んでいると共に、該作業者データが前記個別情報記憶手段に記憶される情報の一つとされている構成が、好適に採用される。
このような作業者データを個別情報記憶手段に記憶させておくことにより、例えば、特定の作業者に細菌汚染の疑いがある場合や、特定の作業者に作業ミスの疑いがある場合など、眼用レンズにおける人的不良の発生に対して効率的に対処することが可能となる。しかも、かかる作業者データが個別情報記憶手段に記憶されることから、例えば、コンピュータシステムにアクシデントが発生した場合でも、個別情報記憶手段に記憶させた作業者データを、後から管理コンピュータで確認したり、或いは総合情報記憶手段に送信して記憶させることが可能となる。それ故、かかるアクシデントの発生状況下でも、作業者毎の監視機能を放棄することなく、加工や検査等の各工程の作業を継続することが出来るのである。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記眼用レンズに対して予め定められた加工,作業,測定等の各工程での処理を施すに際して、処理対象となる前記眼用レンズの情報を前記個別情報記憶手段から前記リーダ・ライタ装置で読み出し、その読み出した情報に基づいて、該工程で処理に使用する装置を制御するようになっている構成が、好適に採用される。
このように加工や検査の工程で使用する加工や検査の装置を、個々の眼用レンズに応じて作動制御する手段を採用することにより、眼用レンズに固有の形状や特性に応じて加工や検査を効率的に実施することが可能となる。具体的には、例えば、加工された眼用レンズの焦点距離を検査する工程では、その検査装置におけるオートフォーカスの確認作動距離範囲を、個別情報記憶手段から得られた設計値等に応じて変更設定することで、検査装置における無駄な作動時間が省略され得る。また、レンズ表面の切削加工工程では、個別情報記憶手段から読み取った規格値等に基づいて、切削装置の主軸とバイトの相対位置を直接に数値制御することも可能であり、それによって、人為操作の介入に伴う操作ミスに起因する不良発生を回避することも可能となるのである。
また、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記個別情報記憶手段に記憶される情報が前記眼用レンズの製品規格データを含んでいると共に、前記搬送手段で前記容器が搬送される前記工程領域における処理が、該眼用レンズを検査する検査処理工程を含んでおり、かかる検査処理工程において、処理対象となる該眼用レンズの該製品規格データを該個別情報記憶手段から前記リーダ・ライタ装置で読み出し、その読み出した製品規格データと該検査処理工程で得られた検査結果データを比較することにより、該眼用レンズの良否を判定する良否判定手段と、該良品判定手段による判定結果を報知する判定結果報知手段とを、含んでいる構成が、好適に採用される。
このように良否判定手段を設けることにより、検査した結果データに基づく眼用レンズの良否判定を、一層容易な作業で効率的に且つ正確に行うことが可能となり、人為操作の介入に伴う作業ミスに起因する不良発生を回避することが出来る。
なお、製品規格データは、製品の設計値であっても良いし、一般に設計値と等しい製品の規格値であっても良い。なお、規格値の場合には、例えば屈折力(ディオプタ値)のように、一般に一定の間隔で複数段階に設定されることが多い。その場合には、目標とする製品規格データとして、単一の規格値の他、幾つかの規格値を採用し、その何れかの規格値に合致することで良品判定するようにしても良い。即ち、検出値が、予め目標としていた一つの規格値から外れている場合でも、それが1規格ずれた別の規格に合致していたら使用できるものとして、良品判定する場合も含まれる。
また、良否判定手段は、例えば、製品規格データと検査結果データを電気信号として比較演算する演算処理装置と、その結果を出力する出力装置であっても良いし、その他、例えば、製品規格データと検査結果データを出力してモニタ表示や印字し、それを人為的に判断させるものであっても良い。また、判定結果報知手段は、人が認識可能に判定結果を表示するものであれば良く、例えば、製品規格データと検査結果データをそれぞれ表示したり、それらの良否判定結果を表示するモニタ手段の他、不良発生の場合に光や音で報知する警報手段などであっても良い。
更にまた、本発明に従う眼用レンズ製造システムにおいては、前記個別情報記憶手段に記憶された情報を利用して、製品ラベルを印刷する印刷装置を含む構成が、好適に採用される。
このような印刷装置を採用することにより、容器によって眼用レンズの一つずつに関連付けられた各種情報を、製品パッケージ等に付されるラベルに対して間違いなく印刷することが出来る。しかも、印刷情報が個別情報記憶手段に記憶されていることから、例えばコンピュータシステムのアクシデント等の影響を受けることなく、ラベル印刷を安定して効率的に行うことが可能となる。
なお、製品ラベルに印刷される情報は、特に限定されるものでなく、例えば規格データの他に、測定データ等が、必要に応じて採用される。また、製品ラベルは、製品パッケージやその包装体に接着されたり、或いは添付されたりする表示体を広く包含する。
また、「眼用レンズの製造ライン」に係る本発明の別の態様は、(a)多数の眼用レンズを連続的に製造するシステムであって、(b)前記眼用レンズを中間加工状態又は加工済状態で個別に収容する収容部を備えた容器と、(c)該容器を複数の工程領域に搬送する搬送手段と、(d)該容器に設けられて、情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する個別情報記憶手段と、(e)前記搬送手段による前記容器の搬送経路上の複数箇所に設けられて、前記個別情報記憶手段に対して情報を書込/読出するためのリーダ・ライタ装置と、(f)前記多数の眼用レンズを各別に管理する識別情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する識別情報記憶手段と、該識別情報に関連付けられて該眼用レンズ毎の処理指示情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する処理指示情報記憶手段と、該識別情報に関連付けられて該眼用レンズ毎の処理完了情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する処理完了情報記憶手段とを、含んで構成されて前記個別情報記憶手段とは別に設置された総合情報記憶手段と、(g)該総合情報記憶手段にアクセスして、前記識別情報記憶手段と前記処理指示情報記憶手段と前記処理完了情報記憶手段に対して前記識別情報と前記処理指示情報と前記処理完了情報を書込/読出すると共に、前記リーダ・ライタ装置にアクセスして、前記個別情報記憶手段に対して該識別情報と該処理指示情報と該処理完了情報を書込/読出する管理コンピュータとを、有し、前記複数の工程領域のうちの適当数の工程領域にそれぞれ対応付けられた部分管理コンピュータおよび部分情報記憶手段を各複数設けて、それぞれに対応付けられた工程領域において、該部分管理コンピュータが、前記リーダ・ライタ装置と該部分情報記憶手段とにアクセスして、前記個別情報記憶手段と該部分情報記憶手段に対して前記識別情報や処理指示情報や処理完了情報を書込/読出するように構成すると共に、該複数の部分管理コンピュータを総合管理する総合管理コンピュータを設けて、これら部分管理コンピュータと総合管理コンピュータで前記管理コンピュータを構成し、該総合管理コンピュータが該個別情報記憶手段と前記総合情報記憶手段にアクセスして、それら両情報記憶手段に対して該識別情報や該処理指示情報や該処理完了情報を書込/読出するように構成したことを、特徴とする。
このように、管理コンピュータを部分管理コンピュータと総合管理コンピュータで構成すると共に中間記憶手段を採用することにより、コンピュータシステムにおけるアクシデントに対する対応の容易化や、発生被害の抑制、更にはシステムメンテナンスの作業性や効率の向上等が実現可能となる。例えば、総合管理コンピュータにアクシデントが発生した場合でも、部分管理コンピュータによってデータの紛失を防止したり、必要情報の送受信を行うことで各加工や検査の工程での作業を継続することも可能となる。
また、本発明に従う眼用レンズの製造方法の特徴とするところは、(h)多数の眼用レンズを連続的に製造する眼用レンズの製造方法であって、(i)前記眼用レンズを中間加工状態又は加工済状態で個別に収容せしめて該眼用レンズを複数の工程領域に搬送する容器として、個別情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する個別情報記憶手段を設けたものを採用すると共に、(j)該容器の搬送経路上の複数箇所には、該個別情報記憶手段に対して該個別情報を書込/読出するためのリーダ・ライタ装置を設ける一方、(k)多数の該眼用レンズを各別に管理する識別情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する識別情報記憶手段と、該識別情報に関連付けられて該眼用レンズ毎の処理指示情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する処理指示情報記憶手段と、該識別情報に関連付けられて該眼用レンズ毎の処理完了情報を電気信号として書込/読出可能に記憶する処理完了情報記憶とを、含んで構成された総合情報記憶手段を設けると共に、(l)該総合情報記憶手段にアクセスして、該識別情報記憶手段と該処理指示情報記憶手段と該処理完了情報記憶手段に対して該識別情報と該処理指示情報と該処理完了情報を書込/読出すると共に、該リーダ・ライタ装置にアクセスして、該個別情報記憶手段に対して該識別情報と該処理指示情報と該処理完了情報を書込/読出する管理コンピュータとを採用して、(m)該個別情報記憶手段に対して該処理指示情報を書き込んで記憶させた該容器に該眼用レンズを収容せしめて複数の該工程領域に順次に搬送し、それら各工程領域で該眼用レンズに所定の処理を施すに際し、該工程領域に設けられた該リーダ・ライタ装置で該個別情報記憶手段から該識別情報と該処理指示情報を読み出して利用すると共に、該個別情報記憶手段に該処理完了情報を書き込む一方、前記総合情報記憶手段へのアクセスに障害が発生した場合には、前記個別情報記憶手段に記憶された前記個別情報を読み出して利用すると共に、必要に応じて該個別情報記憶手段に新規な個別情報を書き込むことで、前記眼用レンズの加工や検査の処理を継続して実行し、該総合情報記憶手段へのアクセスの障害が解消した後に、該個別情報記憶手段に記憶された該個別情報を該総合情報記憶手段に書き写して整合させる眼用レンズの製造方法にある。
このような本発明方法に従えば、上述の本発明に従う構造とされた眼用レンズの製造装置に関する説明から明らかなように、加工や検査を施すための複数の工程の領域において、対象となる眼用レンズを個別に正確に確認することが出来ると共に、その眼用レンズに係る各種データを、効率的に且つ正確に管理等することが可能となる。
しかも、コンピュータシステムにトラブルが発生した場合にも、個別情報記憶手段に記憶された情報によって、眼用レンズに対する加工や検査を施す各工程の作業への悪影響が軽減乃至は回避されて、安定した作業が実現可能となる。
すなわち、特定のコンピュータシステムを利用して眼用レンズを個々に高度に管理して効率的に製造することが可能となる。そして、仮に一部の眼用レンズに不備が発見された場合には、対象となる眼用レンズだけを正確に識別して、再加工や再検査、廃棄等の処分を施すことが可能となる。従って、従来のシステムでは多数の眼用レンズをロッド単位で管理していた為に全てを廃棄する必要があったのに比して、本発明方法に従えば、不具合に対して極めて速やか且つ的確に、しかも効率的に対処することが可能となるのである。
また、本発明方法に従えば、例えば眼用レンズの製造システムの稼働中に上位の管理コンピュータ等にトラブルが発生してしまって処理現場との情報交換ができなくなった場合でも、加工や検査の対象物である眼用レンズと共に現場に搬送されている個別情報記憶手段を利用することで、トラブル処理の間も眼用レンズへの加工や検査等の処理を連続的に実施することが可能となるのである。しかも、トラブルの解消後には、トラブル処理中に得られた各種データがそのまま保存されることから、トラブル発生に際して特別なデータ記憶処理等の特に面倒な作業が必要とされることもない。
また、本発明方法では、前述の本発明に従う構造とされた各種態様の眼用レンズ製造システムが好適に利用されることとなり、それによって、本発明方法が一層有利に実施され得る。
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構成とされた眼用レンズの製造システム及び製造方法によれば、何れも、製造工程において各眼用レンズを高精度に且つ効率的に管理することが可能となる。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、含水性眼用レンズの一種としての含水性ソフトコンタクトレンズの製造工程に本発明を適用した場合の一実施形態について説明する。なお、本実施形態では、含水性ソフトコンタクトレンズを切削加工で製造するものであり、その製造工程には、切削による加工工程と検査工程を含む。
図1には、本実施形態における含水性ソフトコンタクトレンズの製造システムにおける装置構造の概略ブロック図が示されている。また、図2には、かかる製造システムを管理するコンピュータネットワークを利用した管理システムの概略構成の説明図が示されている。更にまた、図3〜4には、図1〜2に示された製造システムによって含水性ソフトコンタクトレンズを製造するに際して行われる作業の流れ図が示されている。
なお、図1において、各ブロックは、レンズ材料から目的とする含水性ソフトコンタクトレンズの製品を得るために実施される各工程の作業領域:P1〜22を示している。これら各工程の作業領域:P1〜22の間には、搬送手段10が設けられており、この搬送手段10によって、一つの作業領域での作業が完了したレンズ材料が、次の作業を行う作業領域に向けて、順次に移送されるようになっている。複数の作業領域:P1〜22を流れ作業的に送られることにより、レンズ材料から目的とする含水性ソフトコンタクトレンズの製品、即ち包装ケースに収容されて封止された出荷用の製品が製造されることとなる。
また、図1中、各工程間での搬送手段10は、ベルトコンベアやパレットコンベア、エアーコンベア等の公知の各種搬送装置が選択的に採用され得る。その他、特定の工程の領域が高度のクリーンルームである場合など、搬送装置での連続的な搬送が困難な場合には、人手による搬送も、必要に応じて採用され得る。図1では、搬送装置によるものと人手によるものを区別することなく記載している。
さらに、図2に示された管理システムは、本発明に従って各含水性ソフトコンタクトレンズを個別に情報管理するだけでなく、総合的に生産管理や在庫管理などまで行う総合管理システムを構成している。具体的には、かかる管理システムは、そのハードウェアとして、最上位の総合管理コンピュータ12と、中位の管理コンピュータ14、更にそれらの管理コンピュータに対する入出力装置としてのキーボード16やスキャナ18,モニタ20,プリンタ22等を備えていると共に、複数の作業用管理コンピュータ24を備えている。
総合管理コンピュータ12や管理コンピュータ14、及びそれらよりもシステム構成上で下位の作業用管理コンピュータ24は、何れも、CPU,ROM,RAMの他、IDE等で直接に接続されたハードディスク等を備えたコンピュータが採用される。特に本実施形態では、これらのコンピュータ12,14,24に対してLANで接続されたデータサーバ25を備えている。このデータサーバ25は、総合管理コンピュータ12や管理コンピュータ14および作業用管理コンピュータ24からアクセス可能とされており、総合情報記憶手段としてのハードディスクを有している。
また、作業用管理コンピュータ24は、上述の図1に示された多数の作業領域のうちの必要な箇所に設置される。なお、幾つかの作業領域では、データ保存と管理等のために複数の作業用管理コンピュータ24が設置される。また、これらの作業領域(図2に示された複数の設備領域26や検査領域28であって、図1におけるP1〜22の適当な工程領域に対応する領域)には、必要に応じてリーダ・ライタ装置30が設置される。
かかるリーダ・ライタ装置30は、個別情報記憶手段としての所定のデータキャリー32に対して、電磁波を利用して非接触で情報の読み出しと書込み(リード・ライト)が出来るようになっている。各リーダ・ライタ装置30は、上述のコンピュータ12,14,24を含むネットワークシステムに接続されている。なお、このようなリーダ・ライタ装置30は、具体的には、RFID(Radio Frequency Identification)システムに用いられる、ICチップ乃至はIDチップやICタグ乃至はIDタグをデータキャリー32として利用したものが好適に採用される。市販のものとしてオムロン株式会社製のV600シリーズやV700シリーズ等を使用することが出来る。
一方、データキャリー32は、後述するように、管理対象物である各含水性ソフトコンタクトレンズに付されて各作業領域26,28に順次に送られることとなる。その際、各作業領域26,28では、リーダ・ライタ装置30を介して、データキャリー32にアクセスして必要な情報を読み出したり書き込んだりすることが出来るようになっている。
また、リーダ・ライタ装置30は、ハンディタイプのものや設置タイプのもの等が適宜に採用可能であるが、一般に入力手段と表示手段を備えている。これにより、リーダ・ライタ装置30が設置された各作業領域26,28では、その現場において、データキャリー32に必要なデータを入力することが出来ると共に、データキャリー32から読み出された必要なデータを確認することが出来るようになっている。
以下、これら図1〜4に基づいて、含水性ソフトコンタクトレンズ(以下、「コンタクトレンズ」という)の製造工程を順次に説明する。
なお、本実施形態のコンピュータネットワークシステムは、上述のような複数のコンピュータ12,14等を総合管理用ソフトウェアで稼働させることで、生産管理や在庫管理などまで行う総合管理システムを構成している。具体的には、かかる総合管理システムは、医薬品等の生産管理でも採用されているものであって、例えば株式会社日立製作所のヒットファムス(HITPHAMS)(登録商標)や株式会社山武のファーマネージ(Pharmanage)(登録商標)などの周知の市販の総合管理用ソフトウェアを用いて構築されている。
そして、コンタクトレンズの製造システムに関する本実施形態では、これらの市販の総合管理用ソフトウェアの一部機能を利用して実現されている。即ち、これらの総合管理用ソフトウェアは、識別符号を付した製品を個別に識別し、それら個別の製品毎の情報管理と情報記憶を実現する機能を有している。従って、個別の製品毎の情報管理や情報記憶をコンピュータシステムにおいて実現するための具体的なソフトウェアの内容については、ここでは、その詳細を省略する。
図3に示されたコンタクトレンズの製造工程をスタートするに際して、先ず、コンタクトレンズを得るためのロッド状加工材を製造準備する。このロッド状加工材は、PHEMA(ポリハイドロキシエチルメタクリレート)やPVP(ポリビニルピロリドン)等の原料に適当な架橋剤やモノマーを重合成形することによって得られる公知のものである。
かかるロッド状加工材は、一般に、同一の配合と同一の成形条件のもとで多数本製造される。その製造単位である1ロット毎に分けて管理され、レースカッティング法によるコンタクトレンズの製造現場にあるレンズ材料の受取り工程の領域:P1(図1参照)に搬入される。
納入されたロッド状加工材は、調湿工程の領域:P2に搬送されて調湿保管工程:S1(図3参照)に供される。この調湿保管工程:S1は、コンタクトレンズの製造に用いられる全てのロッド状加工材の含水率を揃えるものである。具体的には、例えば密封パッケージ状態で納入されたロッド状加工材を開封して、温度と湿度を管理した雰囲気下に、予め設定した一定時間だけ存置することによって、各ロッド状加工材の含水率を揃える。この含水率は、コンタクトレンズ材料によっても異なるが、一般に10%未満の適当な数値範囲での乾燥状態に設定される。
そして、続く時間判断工程:S2で、ロッド状加工材の調湿保管工程:S1での調湿処理時間が、予め設定された必要時間に達したか否かをみて、必要時間が経過したものを、次の工程に送る。
一方、調湿保管工程:S1での処理前に、或いは調湿保管工程:S1での処理後に、適当数のロッド状加工材が抜き取られて別の測定領域(図示せず)に移送され、物性測定工程:S3に供される。そして、この物性測定工程:S3では、調湿保管工程:S1で設定されて後述の加工に供されるロッド状加工材と略同じ湿度や温度の乾燥状態下で、或いはかかるロッド状加工材を膨潤状態とした状態で、各種物性値を測定する。この物性値は、後述の良否判定等に利用されるものであり、具体的には、乾燥状態での屈折率:C1や、乾燥状態から膨潤状態とした際の線膨潤率:D、膨潤状態での屈折率:C2等が挙げられる。
なお、膨潤状態とは、ロッド状加工材が、浸透圧を調節した処理水中で平衡状態(飽和状態)となるまで含水して完全膨潤した状態をいう。また、線膨潤率は、乾燥状態でのロッド加工材が含水によって膨潤状態となった場合の一次元的な伸び率を表す。
一方、目的とするコンタクトレンズの詳細を検討し、設計値としての規格値を決定する。なお、本実施形態において、この規格値は、コンタクトレンズに関するISO規格等を考慮して、コンタクトレンズの膨潤状態での値として設定されるものとする。そして、以下のコンタクトレンズの製造工程中に行われる前面や後面の切削加工に際しては、加工の目標とする形状が、ここにおいて決定された規格値に基づいて設定される。また、製造工程中に適宜に行われる検査や良否判定でも、基本的にこれらの規格値に適合しているか否かを判断する。
その際、加工誤差や収差,測定条件等に起因して加工上、或いは測定上で発生する誤差を考慮することが望ましい。そこで、本実施形態では、かかる誤差を考慮して処理するための補正値も、目的とするコンタクトレンズの形状や材料,加工条件,装置等に応じて予め決定し、補正データ:Bとして、規格値と共に、予め決定しておく。
具体的には、かかる補正データ:Bとしては、例えば、屈折力:P(ディオプタ)の値や非球面レンズのレンズ前面における頂点曲率の値を最小二乗近似等で近似補正するための補正パラメータや、レンズ中心厚さを非接触で測定した場合のISO規定(接触式測定)への換算補正用パラメータ等を採用することが有効である。
このようにしてレンズ材料(ロッド状加工材)の物性測定と、目的とするコンタクトレンズの規格値の決定などを行ったら、所定の乾燥状態に調湿したロッド状加工材を用いてコンタクトレンズの製造にかかる。
それには、先ず、調湿したロッド状加工材をレンズブランクス作成工程の領域:P3に搬送し、ロッド状加工材を適当な軸方向厚さ寸法で切断することで、1本のロッド状加工材から複数個のレンズブランクスを切り出す。これら各レンズブランクスは、コンタクトレンズの中間加工物であり、後述の切削加工等によってそれぞれ商品としての一個のコンタクトレンズとされる。
なお、このようなロッド状加工材からレンズブランクスを得る工程は、コンタクトレンズの製造工程とは別の場所にて予め行い、得られたレンズブランクスをコンタクトレンズの製造場所に搬入するようにしても良い。その場合には、図1に示された上述の受取り工程の領域:P1において、レンズ材料としてレンズブランクスを受け取る。このレンズブランクスは、密封パッケージで搬入され、次の調湿工程の領域:P2において、開封した後調湿して所定の含水率に揃えることにより、その後、上述の場合と同様にコンタクトレンズの製造に供されることとなる。また、かくの如き密封パッケージしたレンズブランクスを、コンタクトレンズの製造場所に搬入する場合には、適当数のレンズブランクスが抜き取り検査されて、上述の各種物性の測定が行われると共に、各種の補正データ:Bが取得される。
一方、上述の如きレンズブランクスを準備する工程とは別の工程領域:P4において、中間加工状態のコンタクトレンズを収容して搬送するための容器を準備する。この容器は、搬送手段10による搬送に際してコンタクトレンズを安定して収容せしめ得るものであれば良い。特に本実施形態では、後述するように特定の処理工程でコンタクトレンズを処理水への浸漬状態で搬送することから、例えば図5に示されているように、カップ状の収容部36を備えた個別容器38として提供される。この個別容器38は、中間加工状態や加工済状態のコンタクトレンズ40を一つだけ収容するようになっている。
さらに、各個別容器38には、厚肉の底壁部に対して、前述のデータキャリー32が、埋設状態で固着されている。このデータキャリー32には、多数個のデータキャリー32を個別に識別可能なID符号が記憶されている。なお、予めID符号が記憶されていない場合には、それを書き込む。更に、データキャリー32は、ID符号の記憶領域に加えて、書換可能な情報記憶領域を備えている。
そして、データ書込工程:S4において、コンタクトレンズの切削や検査に必要とされるデータを、このデータキャリー32における書換可能な情報記憶領域に書き込む。本実施形態では、書き込むデータとして、前述の如くして予め決定されたコンタクトレンズの規格値:A(BC,P,DIA,CT),補正データ:Bの他、予め測定された材料物性値:C,Dを含む。なお、データキャリー32に書き込むこれらのデータは、総合管理コンピュータ12にも送信されて、データサーバ25に記憶される。
なお、データサーバ25は、その情報記録媒体が、識別情報記憶手段,処理指示情報記憶手段,処理完了情報記憶手段の3つの記憶手段として機能するようになっている。そして、識別情報記憶手段としての機能部分において、使用する全てのデータキャリー32に付されたID符号が識別情報として記憶されていると共に、当該データキャリー32における過去の使用回数の値も記憶されている。この使用回数は、データキャリー32を繰り返し使用する毎に1ずつ加算されて行き、データキャリー32の書換可能回数を超える前に廃棄等されるように、総合管理コンピュータ12で管理されている。
また、データサーバ25の情報記録媒体における処理指示情報記憶手段としての機能部分には、切削や検査の処理実行に必要な情報が処理指示情報として記憶されている。本実施形態では、かかる処理指示情報として、目的とするコンタクトレンズの規格値や補正データの他、材料物性値も記憶されている。
更にまた、データサーバ25の情報記録媒体における処理完了情報記憶手段としての機能部分には、コンタクトレンズの製造工程中に施される切削や検査等の各工程毎に、それが完了したか否かの情報が処理完了情報として記憶されるようになっている。この処理完了情報は、処理完了信号を人手で入力するようにしても良いが、本実施形態では、コンタクトレンズの製造工程上で処理や検査を施す領域:P1〜22にそれぞれ設置されたリーダ・ライタ装置30によるデータキャリー32の認識情報を利用して、自動的に通過フラグが処理完了信号として発せられて、記憶されるようになっている。また、この処理完了信号は、各データキャリー32における書換可能な情報記憶領域にも書き込まれる。
さらに、データサーバ25の情報記録媒体における処理完了情報記憶手段としての機能部分には、コンタクトレンズの製造工程中に施される切削や検査等の各工程毎に、その処理を担当した作業者が特定できるように作業者ID(氏名等)も記憶されるようになっている。この作業者情報は、例えば作業者各人に付与したIDカードデータを、作業者の交代の度に、コンタクトレンズの製造工程上で処理や検査を施す領域:P1〜22にそれぞれ設置されたリーダ・ライタ装置30で読み取って、そのデータをデータサーバ25に記憶するようにされる。また、この作業者情報は、各データキャリー32における書換可能な情報記憶領域にも書き込まれる。
なお、処理指示情報記憶手段および処理完了情報記憶手段にそれぞれ記憶されたデータは、識別情報記憶手段に記憶された各データキャリー32のID符号と関連付けられている。これにより、データサーバ25では、各データキャリー32が装着された個別容器38で搬送される個々のコンタクトレンズ40を区別し、各コンタクトレンズ40毎に、処理指示情報と処理完了情報が、個別に関連付けられて記憶されるようになっていると共に、総合管理コンピュータ12等がアクセスし、必要に応じて情報を書き込んだり、読み出したり、書き換えたりすることが出来るようになっている。
その後、コンタクトレンズの中間加工品(レンズブランクス)40aと個別容器38をレンズ収容工程の領域:P5に移送して、かかる領域において、図5に仮想線で示されているように、個別容器38に中間加工品40aを収容する。
そして、中間加工品40aを収容した個別容器38を、レンズ後面の切削加工の領域:P6に搬送し、この領域:P6において、後面加工工程:S5を実施する。なお、切削装置としては、例えば特開平08−252755号公報等に記載されているような、従来から周知の数値制御型切削装置を利用することが出来る。
また、かかる後面加工は、切削加工の領域:P6に設置されたリーダ・ライタ装置30でデータキャリー32からベースカーブの規格値を読み出し、その値に基づいて後面曲率を求めて、かかる後面曲率に従って切削装置を作動制御することで行う。なお、後面曲率は、ベースカーブの規格値(BC)が膨潤状態での値であることから、線膨潤率(D)を考慮して、乾燥状態にある中間加工品40aにおける切削時の後面曲率を求める。求めた切削加工用の後面曲率は、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25にも記憶する。
この後面加工工程:S5で中間加工品40aを加工することにより、図6に示されている如き、所定の曲率で切削されたレンズ後面42を備えた後面加工レンズである中間加工品40bを得る。得られた中間加工品40bを、個別容器38に戻して、レンズ後面の曲率測定及び良否判定の工程の領域:P7に搬送する。
この領域:P7において、先ず、中間加工品40bに対して、乾燥状態のままで、後面曲率測定工程:S6を実施する。かかる後面曲率の測定は、コンタクトレンズアナライザー等と称される公知の光学式測定装置を用いて、中間加工品40bのレンズ後面42における光学部の曲率:Eを測定することによって行うことが出来る。この種の測定装置は、例えば特開平04−331345号公報や特開平07−174664号公報、特開平09−229819号公報等に開示された周知のものである。
なお、かかる後面曲率:Eの測定に際しては、データキャリー32からベースカーブの規格値(BC)を読み出して、その値から後面曲率:Eの概略値を求め、かかる概略値:Eの近辺の値をサーチするように、光学式測定装置を操作することが望ましい。これにより、光学式測定装置による測定幅を当初から絞りこんで測定操作することが可能となり、測定作業の簡略化と、測定時間の短縮が図られ得る。
このように測定した後面曲率:Eの値を、データキャリー32に書き込むと共に、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25にも記憶する。
また、求めた後面曲率:Eの値を用い、後面良否判定工程:S7で良否判定を行う。この良否判定は、後面曲率:Eの測定値を、データキャリー32から読み出した規格値:BCの値と比較し、該規格値:BCの許容範囲内となっているか否かを判定して行う。ここにおいて、データキャリー32から読み出した規格値:BCは膨潤状態の値で示されていることから、乾燥状態で測定された中間加工品40bの後面曲率:Eと比較するには、線膨潤率:Dを用いて算出した換算値を採用する。
かかる後面良否判定工程:S7において不良と判定した場合には、アラートの必要の有無を判断し、発生誤差が、設備不良等と考えられる程に非常に大きい場合等であれば、アラームを発すると共に、廃棄工程:S8で中間加工品40bを不良品として廃棄する。当該中間加工品40bを廃棄処分したことは、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録する。その中間加工品40bの搬送に使用していた個別容器38は回収し、再利用に付する。
また、曲率測定及び良否判定の工程の領域:P7に対して連続的に搬送されてくる複数の中間加工品40bについて、繰り返しアラートが発せられていないかを、アラート監視工程:S9で監視する。所定数以上の中間加工品40bに対して連続してアラートの発令が確認された場合には、警告を発したり設備停止して、設備チェックを要請する。
後面良否判定工程:S7で、後面加工が許容誤差範囲内で行われていることを確認したら、中間加工品40bをジグ接着工程の領域:P8に搬送する。そして、ジグ接着工程:S10で、所定の加工ジグ44(図7参照)に対して、中間加工品40bのレンズ後面42を、適当な接着剤46で接着する。その後、加工ジグ44を接着した中間加工品40bを、個別容器38に戻して、レンズ前面の切削加工の領域:P9に搬送する。
そして、前面加工工程:S11で、中間加工品40bに対して、レンズ前面48およびエッジ部50の切削加工を施して、図7に示されているように、目的とする光学特性を備えたコンタクトレンズ40を得る。このような加工ジグ44を利用したコンタクトレンズの切削加工方法は、例えば特開平07−195556号公報等に記載されているように周知である。
なお、前面加工に際しては、例えば、演算によって求めた前面曲率の値を適用することが出来る。即ち、前面に設定される曲率は、加工指示書に記されたベースカーブ:BC(後面曲率半径)やパワー:P(屈折力)等の値を用いて求めるようにされる。そして、得られた前面曲率に従って切削装置を作動制御することで、前面の切削加工を行うことが出来る。なお、切削装置としては、前述の後面加工と同様なものが採用され得る。また、演算によって得られた前面曲率の値は、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25にも記憶させる。
続いて、得られたコンタクトレンズ40を個別容器38に戻して、レンズ前面の曲率測定及び良否判定の工程の領域:P10に搬送する。
この領域:P10において、先ず、切削加工したレンズ前面48の曲率を測定する。その際、前述のレンズ後面42の曲率測定と同様に、公知の光学式測定装置を用いるが、この種の測定装置は、レンズにおける測定光の所定の照射領域の平均的な曲率を求めるものであることから、測定の前に、装置使用の適否を判定する。即ち、測定範囲判別工程:S12において、使用する測定器の諸元(Z)と測定対象であるコンタクトレンズ40の諸元(A,B,C,D)を考慮し、当該コンタクトレンズ40に当該測定器を用いることが適当か否かを判断する。
この判断は、例えば、個々の具体的な測定条件下で下式で特定される視野径:φDaと、測定対象となるコンタクトレンズ40において光学部として所定曲率で加工されたレンズ前面48の光学径である入射瞳:φDbとを、比較することによって行うことが出来る。
視野径:φDa=2×レンズ前面48の曲率:E×開口数:NA
すなわち、かかる視野径:φDaと入射瞳:φDbの関係が、φDa≦φDbであれば、コンタクトレンズ40の前面48の曲率を測定することが可能となる。一方、φDa>φDbであると、コンタクトレンズ40の前面48において光学部でない周辺部まで含んで測定対象となってしまう。従って、この場合には、視野径が測定範囲外になったとして、別の方法(後述する膨潤状態での測定方法)で測定を行うようにする。それ故、φDa>φDbとなった場合には、以下の乾燥状態下での前面曲率の測定や良否判定の工程を経ることなく、後述のマーク付加工程(S17)に投入され、その後の規格検査工程(S26)で従来手法に従う膨潤状態での検査で処理される。
そして、φDa≦φDbであることを確認したら、前面曲率測定工程:S13を実施する。かかる前面曲率の測定は、前述の後面曲率の測定と同様、コンタクトレンズアナライザー等と称される公知の光学式測定装置を用いて、行うことが出来る。この前面曲率の測定値:Fを、データキャリー32に書き込むと共に、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25にも記憶する。なお、コンタクトレンズアナライザーでの前面曲率測定値は、測定光束の照射範囲で平均化されてしまうことから、非球面レンズ等の場合には、測定値に適当な補正を施すことが望ましい。
また、求めた前面曲率:Fの値を用い、前面良否判定工程:S14で良否判定を行う。この良否判定は、前面加工工程:S11で算出した前面曲率の設定値をデータキャリー32から読み出して、それと前面曲率:Fの測定値を比較し、許容範囲内か否かを判定して行う。
かかる前面良否判定工程:S14において不良と判定した場合には、アラートの必要の有無を判断し、発生誤差が、設備不良等と考えられる程に非常に大きい場合等であれば、アラームを発すると共に、廃棄工程:S15でコンタクトレンズ40を不良品として廃棄する。当該コンタクトレンズ40を廃棄処分したことは、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録する。そのコンタクトレンズ40の搬送に使用していた個別容器38は回収し、再利用に付する。
また、連続的に送られてくる複数のコンタクトレンズ40について、繰り返しアラートが発せられていないかを、アラート監視工程:S16で監視する。所定数以上のコンタクトレンズ40に対して連続してアラートの発令が確認された場合には、警告を発したり設備停止して、設備チェックを要請する。
前面良否判定工程:S14で、前面加工が許容誤差範囲内で行われていることを確認したら、コンタクトレンズ40をマーク付加工程の領域:P11に搬送する。そして、マーク付加工程:S17において、公知のレーザ装置等を利用して、コンタクトレンズ40の周辺部に商品マークを付する。付する商品マークの具体的内容は、データキャリー32から読み出した規格値等を参照して設定される。なお、レーザ装置によるレーザの照射強度や時間等は、コンタクトレンズ40の材料等に応じて設定されることとなり、この設定値は、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25にも記憶させて、後から確認可能とする。
上述の如くして切削加工とマーク付加が施されたコンタクトレンズ40を、個別容器38に戻して、ジグ脱離工程の領域:P12に搬送する。そして、ジグ脱離工程:S18で、コンタクトレンズ40を加工ジグ44から脱離せしめて単体とする。なお、加工ジグ44からのコンタクトレンズ40の脱離は、例えば特開平09−90290号公報に記載されている如き公知の手法によって、即ち合成樹脂製の加工ジグ44を変形させることによって、容易に行うことが出来る。或いは、液中に浸漬させてコンタクトレンズ40を膨潤させることにより、コンタクトレンズ40を加工ジグ44から脱離させることも出来る。
その後、単体としたコンタクトレンズ40を、個別容器38に戻して、レンズ厚さの測定及び良否判定工程の領域:P13に搬送し、厚さ測定工程:S19に供する。厚さ測定工程:S19では、コンタクトレンズ40の中心軸上でのレンズ厚さを、乾燥状態のままで測定する。本実施形態では、かかる測定を、例えばレーザーフォーカス変位計等の光学式測定器を用いて行う。従って、測定条件に関して、膨潤状態のコンタクトレンズにライトマチックを用いて測定した値を採用する規格値と整合をとるために、補正を行って膨潤状態に換算して得られた補正値を、レンズ厚さの測定値:Gとして採用する。かかるレンズ厚さの測定値:Gを、データキャリー32に書き込むと共に、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25にも記憶させる。
続く厚さ良否判定工程:S20では、レンズ厚さの測定値:Gの値を用いて、加工の良否を判定する。この良否判定は、レンズ厚さの換算測定値:Gを、データキャリー32から読み出した規格値:CTと比較し、許容範囲内となっているか否かを判定する。このレンズ厚さ良否判定工程:S20において不良と判定した場合には、ステップ:S21で、コンタクトレンズ40を不良品として廃棄する。当該コンタクトレンズ40を廃棄処分したことは、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録する。そのコンタクトレンズ40の搬送に使用していた個別容器38は回収し、再利用に付する。
厚さ良否判定工程:S20で良品と判定されたコンタクトレンズ40には、パワー良否判定工程:S22を行う。この良否判定では、得られたコンタクトレンズ40におけるパワー(屈折力)を、データキャリー32から読み出した規格値:Pの値と比較し、許容範囲内となっているか否かを判定する。
ここにおいて、データキャリー32から読み出した規格値:Pは膨潤状態の値で示されていることから、乾燥状態のコンタクトレンズ40におけるパワーを良否判定するために、コンタクトレンズ40のパワーとして演算値を採用する。この演算値は、上述の各工程で実測されたコンタクトレンズ40の形状や屈折率等の値を用いてパワー計算工程:S23において、ガウス式を変形した公知の光学方程式によって算出することが出来る。
そして、パワー良否判定工程:S22で不良と判定した場合には、ステップ:S24で、コンタクトレンズ40を不良品として廃棄する。当該コンタクトレンズ40を廃棄処分したことは、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録する。そのコンタクトレンズ40の搬送に使用していた個別容器38は回収し、再利用に付する。
厚さ良否判定工程:S20で良品と判定されたコンタクトレンズ40は、個別容器38に戻して、レンズ膨潤工程の領域:P14に搬送する。そして、浸漬工程:S25において、所定の処理液にコンタクトレンズ40を所定時間だけ浸漬することにより、完全膨潤させる。なお、使用する処理液は、予め、コンタクトレンズ40の材料等に応じて浸透圧と温度を調節して準備しておく。また、この膨潤処理に際しての温度や浸漬時間等の処理条件は、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25に記録して、後から確認可能とする。
完全膨潤させたコンタクトレンズ40は、個別容器38に戻して、次の工程領域となるレンズ規格の検査工程の領域:P15に搬送する。ここにおいて、コンタクトレンズ40の膨潤状態を維持するために、図8に示されている如く、個別容器38の収容部36には保存液52を注入して、その中にコンタクトレンズ40を浸漬して収容せしめる。
そして、規格検査工程:S26では、膨潤状態のコンタクトレンズ40について、形状や光学特性の必要な値を実測し、その測定値を、データキャリー32から読み出した規格値と比較して良否を判定する。
なお、本実施形態では、上述の如く切削工程中に実施される乾燥状態下での後面曲率や前面曲率,レンズ厚さの測定と、それらの測定値を用いたベースカーブや屈折力,レンズ厚さ等の良否判定によって、不良品の排除が殆ど達成される。従って、規格検査工程:S26での膨潤状態でのコンタクトレンズ40の規格検査は、必ずしも全数実施する必要はない。具体的には、例えば前面曲率測定前の測定範囲判別工程:S12で乾燥状態での測定範囲が適当でないと判定されたコンタクトレンズ40に対して、膨潤状態で前面曲率半径や屈折力の測定とその良否判定を行うこととなる。
規格検査工程:S26での測定結果は、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録すると共に、必要に応じてデータキャリー32に書き込む。また、この規格検査工程:S26で不良と判定した場合には、ステップ:S27で、コンタクトレンズ40を不良品として廃棄する。当該コンタクトレンズ40を廃棄処分したときも、情報として、同様に、データサーバ25に記録する。廃棄処分したコンタクトレンズ40の搬送に使用していた個別容器38は回収し、再利用に付する。
規格検査工程:S26を経たコンタクトレンズ40は、個別容器38に戻して、バフ洗浄工程の領域:P16に搬送する。そして、バフ洗浄工程:S28において、膨潤状態のコンタクトレンズ40にバフ洗浄を施して切削傷等を除去する。バフ洗浄の条件、例えば使用した洗浄剤等やバフ洗浄時間などは、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録する。
バフ洗浄工程:S28を経たコンタクトレンズ40は、個別容器38に戻して、表面検査工程の領域:P17に搬送する。そして、表面検査工程:S29において、膨潤状態のコンタクトレンズ40のレンズ表面状態を、拡大鏡や光学カメラ等を用いて検査し、傷や欠け等の損傷の有無について検査する。なお、この検査条件、例えば流水中への浸漬状態で検査する場合の流水速度(ポンプスピード)や照明強度などは、作業用管理コンピュータ24から総合管理コンピュータ12に送信して、データサーバ25に記録する。
この表面検査工程:S29で不良と判定した場合には、ステップ:S27で、コンタクトレンズ40を不良品として廃棄する。当該コンタクトレンズ40を廃棄処分したときも、情報として、データサーバ25に記録する。廃棄処分したコンタクトレンズ40の搬送に使用していた個別容器38は回収し、再利用に付する。
表面検査工程:S29を経たコンタクトレンズ40は、包装ケースへの収納工程の領域:P18において、別途に準備した包装ケースに収容する収納工程:S30を実施する。この包装ケースは、商品ケースとなるものであって、例えば図9,10に示されているように、保存液52を貯えて、コンタクトレンズ40を浸漬状態に維持し得る凹所58を備えたものが採用される。好適には、外部からコンタクトレンズ40の有無を視認出来る程度に透明な合成樹脂材料製の包装ケース60が採用される。
なお、コンタクトレンズ40の包装ケース60への収納は、例えば、前述の表面検査工程:S29において、コンタクトレンズ40を個別容器38から取り出して表面検査を行った後、そのコンタクトレンズ40を包装ケース60に直接入れることによって行うことも出来る。この場合には、上述の表面検査工程の領域:P17と包装ケースへの収納工程の領域:P18が同一領域とされる。
また、包装ケース60の凹所58にコンタクトレンズ40を収容した後、凹所58の開口部に対して、別途に準備した蓋シート(図示せず)を重ね合わせて覆蓋する。この蓋シートは、収容液を透過しないアルミ箔シート等によって形成したものであり、包装ケース60の凹所58の開口周縁部に対して、ヒートシール等により密着させる。これにより、凹所58が密に覆蓋し、コンタクトレンズ40を保存液52に浸漬状態で収納せしめる。
かかるコンタクトレンズ40の収納に際しては、収納時の構成部品(ボトルや包装,ラベル,材料など)、作業者、日時等の情報を採取する。これらの情報を、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25に記録する。
続いて、コンタクトレンズ40を収納した包装ケース60を、ラベル印刷と貼付の工程の領域:P19に搬送する。この際、コンタクトレンズ40の情報を記録したデータキャリー32も、同時に搬送する。具体的には、本実施形態では、図9,10に示されているように、個別トレー62を採用し、この個別トレー62に対して、コンタクトレンズ40を収納した包装ケース60と共に、前工程まで使用した個別容器38も載置して、それらを同時に搬送する。これにより、コンタクトレンズ40とデータキャリー32の個別情報との個別対応性が維持される。
なお、例えば、包装ケース自体を容器として、個別容器38から取り外したデータキャリー32を装着したり、包装ケースに別のデータキャリー32を装着しておいて個別容器38のデータキャリー32から情報だけを移行させること等も可能である。しかし、データキャリー32の再利用を可能とし、情報移行等の面倒で時間のかかる作業が不要となること等から、上述の如き個別トレー62を使用した、包装ケース60と個別容器38の同時搬送が好ましい。
ラベル印刷と貼付の工程の領域:P19では、ラベル発行と貼付の工程:S31を行う。ラベルの発行は、リーダ・ライタ装置30で、データキャリー32の情報を読み出して、必要な情報を印刷することによって行うことが出来る。印刷したラベルは、例えば包装ケース60の蓋シートの表面等の適当な箇所に貼り付ける。なお、ラベルの印刷データとして、データキャリー32のID符号と関連付けられて、データサーバ25の記録情報をコンタクトレンズ40毎に特定することが出来る識別符号を採用する。具体的には、例えばバーコードや二次元コード等を識別符号としてラベルに付する。これにより、出荷後等においても、コンタクトレンズ40を個別に特定して、データサーバ25の記録情報を調査検討することが可能となる。
コンタクトレンズ40を密封状態で個別包装し、製品ラベルを添付した包装ケース60を、次に、オートクレーブ工程:S32で滅菌処理する。一般に、オートクレーブは、多数個の包装ケース60を同時に一つの処理室に入れて、バッチ式で行う。そこで、本実施形態では、効率的なオートクレーブを実現するために、多数個の包装ケース60を同時に載置して搬送できる大型容器(図示せず)を別途に準備し、載代工程の領域:P20において、ラベルを付した包装ケース60の多数個を、この大型容器に載せる。
なお、包装ケース60の大型容器への載代えは、例えば、包装ケース60にラベルを貼り付けた後、その包装ケース60を、個別容器38に戻さずに、大型容器に直接載置することによって行うことが出来る。この場合には、上述のラベルの発行と貼付の工程の領域:P19と大型容器への載代工程の領域:P20が同一領域とされる。
また、大型容器には、個別容器38に比して、大型で堅牢な構造の大容量データキャリー64を装着する。具体的には、IDタグ等と称されて市販されているものであって、オートクレーブの温度に対して充分な耐熱性を有するものを用いることが出来る。この大容量データキャリー64には、大型容器に載置された全ての包装ケース60(コンタクトレンズ40)に対応した全ての個別情報を、各個別容器38に付されたデータキャリー32から、或いはデータサーバ25から転送して記録する。その際、多数の包装ケース60相互間で情報混同しないように、例えば、大型容器への各包装ケース60の載置位置と関連付けた識別符号を、大容量データキャリー64における個別のコンタクトレンズ40の記録情報と関連付けて記録しておくようにする。
その後、多数の包装ケース60を載置した大型容器をオートクレーブ工程の領域:P21に搬送し、オートクレーブ:S32を行う。この際、包装ケース60を載置した大型容器ごと、オートクレーブ装置に搬入して処理し、処理後には、大型容器ごと、多数の包装ケース60を搬出する。これにより、多数の包装ケース60を、互いに混同することなく、各個別の情報を大容量データキャリー64に関連付けて記憶させたまま、オートクレーブを実施できる。
オートクレーブ:S32を施す際には、オートクレーブの処理温度や時間、圧力などの情報を採取する。これらの情報を、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25に記録する。
オートクレーブの処理後には、全ての包装ケース60を、最終的な外装検査と良否判定工程の領域:P22に搬送する。かかる搬送に際しては、全ての包装ケース60を大型容器に載置したまま行うようにしても良い。尤も、本実施形態では、良否判定の結果、再処理を必要とする場合等には、各個別に包装ケース60を識別管理することが必須となることから、オートクレーブ装置から取り出した後、大型容器に載置された多数の包装ケース60を、再び、個別トレー62に戻して搬送する。使用した大型容器は再利用に付する。
この際には、各個別トレー62には、それに載置される包装ケース60に対応付けられたデータキャリー32を備えた個別容器38が載置されている。従って、包装ケース60を戻す個別トレー62を他の包装ケース60用のものと間違えない限りは、各個別容器38のデータキャリー32には、オートクレーブの完了情報を書き込む程度で良い。
そして、外装検査と良否判定工程の領域:P22で実施される外装検査:S33と良否判定:S34の結果、収容されたコンタクトレンズ40が良品と判定された包装ケース60は、そのままストックヤードに搬送して出荷用にストックする。また、良品との判定結果は、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25に記録する。
一方、外装検査:S33と良否判定:S34の結果、収容されたコンタクトレンズ40が補修不能な不良品と判定された包装ケース60は、廃棄する。当該コンタクトレンズ40を廃棄処分したことは、コンピュータネットワークを通じてデータサーバ25に記録する。
また、外装検査:S33と良否判定:S34の結果、収容されたコンタクトレンズ40が補修可能な不良品と判定された包装ケース60は、個別トレー62に戻されて、補修すべき工程の領域に返送する。そして、必要な補修や再加工,再処理、或いは再検査等を施す。その際、必要に応じて、包装ケース60を開封し、コンタクトレンズ40を取り出して補修を施す。補修後は、その後の加工や検査の全ての工程を、補修されたコンタクトレンズ40に対して、再び施す。
なお、最終的に良品としてストックヤードに搬送された後、或いは不良品として廃棄された後、その包装ケース60の搬送に使用していた個別容器38と個別トレー62は回収し、再利用に付する。
上述の如きコンタクトレンズの製造方法に従えば、レンズブランクスの状態から最終的にコンタクトレンズが良品として製品となり或いは不良品として廃棄されるまで、データキャリー32が添えられて各加工や検査の領域:P5〜22を搬送される。そして、かかるデータキャリー32には、各レンズブランクスと個別に対応付けられた各種情報が記憶されており、その情報を、各領域:P5〜22で必要に応じて利用することが出来る。また、各領域:P5〜22で必要に応じて情報を書き加えることが出来る。更にまた、このデータキャリー32に書き込まれた情報は、データサーバ25に記憶した情報とも同期つけられている。
それ故、眼用レンズに加工や検査を施す各工程の領域など、適当な箇所に設置したリーダ・ライタ装置30によって、当該眼用レンズにおける設計値や規格値などを、必要とする時に速やかに入手することが可能となる。これにより、従来の紙片からなる指図書の整理や管理という煩雑な作業が不要となると共に、他の眼用レンズの値ととり間違えたり、指図書を紛失したりすることもなくなる。
さらに、コンピュータネットワークを通じたデータ送受信を必要とすることなく、加工や検査の各工程の領域で、容器に付された個別情報記憶手段から設計値や規格値などを直接に入手することができる。それ故、コンピュータネットワークにおけるデータ送受信量が軽減されると共に、コンピュータシステムにアクシデントが発生しても、現場への影響が可及的に回避される。即ち、眼用レンズに加工や検査を施す工程の現場では、容器に付された個別情報記憶手段から直接に得られる情報に基づいて作業を継続することが可能となるのである。
加えて、各容器に付された個別情報記憶手段には、各工程で施された加工や検査の結果の情報として、例えば各加工や検査の実施の有無を含む処理完了情報まで記憶される。この処理完了情報は、加工や検査を施す各工程の現場で、リーダ・ライタ装置30によって直接に行われることとなる。
それ故、作業用管理コンピュータ24や総合管理コンピュータ12にアクシデントが発生しても、各加工や検査の現場で必要とされる規格値等の情報は、コンタクトレンズ40に添えられたデータキャリー32から直接に読み出して入手することが出来る。また、各加工や検査の現場で必要とされる処理時間および処理完了の記録や、各検査の現場で必要とされる検査結果の記憶も、コンタクトレンズ40に添えられたデータキャリー32に書き込むことで記憶させておき、復旧後にデータサーバ25と同期をとることが出来る。
それ故、作業用管理コンピュータ24や総合管理コンピュータ12にアクシデントが発生しても、各加工や検査といった現場での作業を中止する必要が出来るだけ抑えられるのであり、効率的でスムーズな作業が安定して実現可能となる。
特に本実施形態では、加工後の検査が、基本的にコンタクトレンズの乾燥状態で実施されることから、検査に際して規格値や線膨潤率等の情報を参照する機会が多い。そこにおいて、上述の如きデータキャリー32等を採用することにより、必要な情報を速やかに且つ容易に入手することが可能となって、予定する製造を安定して実施することが可能となる。
また、本実施形態では、データキャリー32や個別容器38,大型容器等が繰り返して再利用されるようになっていることから、省資源効果もある。なお、データキャリー32の記憶情報は、再利用によって書き換えられるが、本実施形態では、データサーバ25において、各コンタクトレンズ毎に各種情報が記憶されて蓄積されることから、例えば、後から何等かの問題が発見された場合でも、問題の対象となる眼用レンズを効率的に割り出すこと等が可能となる。
さらに本実施形態では、指図の変更に際して、従来のように作業者が紙片からなる指図書を参照して設備の調節等を行う煩雑な作業が不要となることにより、生産品種の切り替えを容易にかつ確実に行うことが可能となる。それ故、多品種少量生産から少品種多量生産まで、様々な生産活動を行うことが可能となり、さらに、従来困難であった多品種少量生産から少品種多量生産の交互移行も容易に行うことが可能となるのである。
従って、必要に応じて生産を自在に切り替えることで、製品のライフスタイルにあった製造を行うことが可能であり、更には、多品種物流にも同時に対応することが可能となるのである。
また、コンタクトレンズの製造工程に関しては、ここで述べた切削加工によるものに限らず、切削研磨加工,片面モールド加工,片面切削加工,両面モールド加工など、様々な加工法によるものであっても、上記のシステムおよび製造方法を応用することが可能である。