以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
本発明の実施形態1の集合住宅用インターホンシステムの構成例を図1に示す。本実施形態では、集合住宅の共用玄関に設置される共用部装置(ロビーインターホン)1と、各住戸にそれぞれ設置される複数台の住戸機2とを備え、ロビーインターホン1と住戸機2とが伝送線路を介して接続されている。伝送線路は、ロビーインターホン1に接続される幹線L1と、各住戸機2にそれぞれ接続される分岐線L2とを含み、さらに幹線L1を複数系統(図示せず)に分配するための幹線制御装置3が設けられている。この伝送線路としては、3対以上のペア線をシース内に備える多対ツイストペアケーブルを用いており、図示例ではロビーインターホン1と住戸機2との間で音声信号を伝送する通話線Laと、ロビーインターホン1が具備するカメラ(図示せず)で撮像された映像信号を伝送する映像線Lbと、ロビーインターホン1が有する選択手段(後述する)により選択された住戸機2を指定する制御信号を伝送する制御線Lcとにそれぞれペア線を用いている。つまり、図示例の伝送線路では3対のペア線を用いている。ここで、映像線Lbを介して伝送される映像信号はロビーインターホン1において周波数変調され、後述するように各住戸機2に設けた映像処理部12で周波数復調されてモニタ部13に表示される。
図示は省略するが、ロビーインターホン1は音声を入出力するマイクロホン及びスピーカと、来訪者を撮像するカメラと、住戸番号を指定するための番号キーと呼出釦を有する選択手段とを備え、来訪者が番号キーを操作して訪問先の住戸番号を選択した後に呼出釦を操作すると住戸番号に対応する住戸機2を選択したことになる。ここで、ロビーインターホン1には通話線La及び制御線Lcを介して一斉放送装置(警報監視盤)5が接続されており、ロビーインターホン1で選択された住戸番号が制御線Lcを介して警報監視盤5に伝送されると、警報監視盤5が当該住戸番号に対応する住戸機2に対して制御線Lcを介して制御信号(呼出コマンド)を送出する。
一方、住戸機2は、音声を入出力するマイクロホン21及びスピーカ22を備え、マイクロホン21とスピーカ22とはそれぞれ増幅器23a,23bを介して通話処理部24に接続されている。また、通話処理部24には受話側並びに送話側の各伝送経路と2線の通話線Laとを2線4線変換する2線4線変換部25が増幅器26a,26bを介して接続されている。通話処理部24は、通話線Laを介して伝送されてくる音声信号(受話信号)とマイクロホン21から出力される音声信号(送話信号)のレベルを比較することで通話状態(受話状態又は送話状態)を推定し、受話状態と推定したときには送話信号の伝送経路に損失を挿入し、送話状態と推定したときには受話信号の伝送経路に損失を挿入することで受話モードと送話モードを切り換える音声スイッチや、マイクロホン21とスピーカ22の音響結合によって生じる音響エコーを消去するためのエコーキャンセラなどを具備する。但し、このような音声スイッチやエコーキャンセラは従来周知であるから詳細な構成及び動作の図示並びに説明は省略する。したがって、ロビーインターホン1と住戸機2との間で通話線Laを通して音声信号を授受することができ、来訪者がロビーインターホン1を用いるとともに居住者が住戸機2を用いることによって、来訪者と居住者との間で音声通話が可能となる。
また住戸機2には、分岐線L2の通話線Laと映像線Lbをそれぞれ通話信号(受話信号及び送話信号)の伝送経路(以下、「通話路」と呼ぶ。)と映像信号の伝送経路に分離する幹線インタフェース部14が設けられている。映像信号の伝送経路は映像処理部12に接続され、通話路は通話/一斉放送切換部15に接続されている。通話/一斉放送切換部15は、幹線インタフェース部14に接続された通話路を、通話路切換部16に接続する状態と、後述する音量補正部30に接続する状態とを択一的に切り換えるものである。また通話路切換部16は、2線4線変換部25に接続された通話路を、通話/一斉放送切換部15に接続する状態と、後述する子器インタフェース部18に接続する状態と、同一住戸内に設置された別の住戸機(図示せず)に接続する状態とを択一的に切り換えるものである。
通話路切換部16に接続された子器インタフェース部18には子器接続線L3を介してドアホン子器6が接続される。ドアホン子器6は集合住宅の各住戸の玄関先に配置されるものであってマイクロホン及びスピーカを備える。したがって、通話路切換部16が2線4線変換部25に接続された通話路を子器インタフェース部18に接続する状態に切り換えられているときにドアホン子器6と住戸機2との間での通話が可能になっている。また、ドアホン子器6にはテレビカメラが設けられ、子器インタフェース部18では子器接続線L3を介して伝送される音声信号と映像信号を分離し、分離した映像信号を伝送線路を介して映像処理部12に出力してモニタ部13に表示することができるようになっている。さらにドアホン子器6には呼出釦が設けられ、呼出釦が操作されたときに子器接続線L3に呼出信号が送出する機能を有し、住戸機2では呼出信号を検出したときに報知音生成部27で生成された呼出音がスピーカ22から送出されるようになっている。
住戸機2において、モニタ部13には液晶表示器あるいはCRTが用いられる。映像線Lbを通して住戸機2に入力される映像信号は、幹線インタフェース部14で平衡−不平衡変換され、さらに増幅器で増幅された後に映像処理部12において周波数復調される。また、子器接続線L3を通して住戸機2に入力される映像信号も、子器インタフェース部18で平衡−不平衡変換され、さらに増幅器で増幅された後に映像処理部12において周波数復調される。そして、映像処理部12から出力された映像信号は、モニタ部13に入力されることによってモニタ部13の画面に映像を表示する。つまり、ロビーインターホン1やドアホン子器6のカメラにおいて撮像された来訪者の映像が住戸機2のモニタ部13に表示されるから、住戸内の居住者が来訪者を確認することができるのである。
また報知音生成部27は、ロビーインターホン1やドアホン子器6からの呼出等を報知するための報知音を生成し、生成した報知音を増幅器28aを介してスピーカ5に出力するとともに当該報知音をバックトーンとして分岐線L2又は子器接続線L3にも出力する。すなわち、報知音生成部27には増幅器28bを介してバックトーン送出路切換部17が接続されており、このバックトーン送出路切換部17がバックトーンの送出先を分岐線L2と子器接続線L3とに択一的に切り換えるようになっている。
住戸機2には、CPUを主構成要素とし内部回路を制御する主制御部10が設けられ、主制御部10には制御線Lcとのインタフェースとなる制御信号送受信回路11が接続される。制御信号送受信回路11は、主制御部10から出力された制御信号を制御線Lcに送出し、制御線Lcから受信した制御信号を主制御部10に引き渡す機能を有する。
ところで、分岐線L2は分岐器7を介して幹線L1から分岐され、幹線制御装置3においては各系統の幹線L1を直結している。したがって、ロビーインターホン1から送出された制御信号は制御線Lcに接続されるすべての住戸機2に伝送される。ここに、住戸機2の主制御部10には個別にアドレス(たとえば、住戸番号)が設定されており、ロビーインターホン1においてアドレスを選択することによって、アドレスを指定する制御信号(呼出コマンド)が警報監視盤5から制御線Lcを介して全ての住戸機2に伝送することが可能になっている。住戸機2の主制御部10は、制御信号に含まれるアドレスが自己のアドレスであれば映像処理部12やモニタ部13を起動してロビーインターホン1のカメラにおいて撮像された来訪者の映像を住戸機2のモニタ部13に表示させるとともに、報知音生成部27に生成させた報知音(呼出音)をスピーカ22から送出させる。そして、呼出音に応じて居住者が住戸機2の応答釦(図示せず)を押操作すれば、主制御部10が通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換部16に接続する状態に切り換えさせるとともに通話路切換部16を制御して2線4線変換部25に接続された通話路を通話/一斉放送切換部15に接続する状態に切り換えさせてロビーインターホン1との間に通信路を確立することにより、ロビーインターホン1と選択された住戸機2との間でのみ通話可能にすることができるとともに、選択された住戸機2でのみカメラで撮像された来訪者をモニタ部13に表示することが可能になる。尚、ロビーインターホン1において選択された住戸機2がロビーインターホン1との間で通信路を確立している状態は、ロビーインターホン1または住戸機2において適宜の操作釦を用いた通話終了が検出されると終了する。
また、ドアホン子器6の呼出釦が押操作されて子器接続線L3に呼出信号が送出されると、呼出信号を検出した住戸機2の主制御部10が映像処理部12やモニタ部13を起動してドアホン子器6のカメラにおいて撮像された来訪者の映像を住戸機2のモニタ部13に表示させるとともに、報知音生成部27に生成させた報知音(呼出音)をスピーカ22から送出させる。そして、呼出音に応じて居住者が住戸機2の応答釦(図示せず)を押操作すれば、主制御部10が通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換部16に接続する状態に切り換えさせるとともに通話路切換部16を制御して2線4線変換部25に接続された通話路を子器インタフェース部18に接続する状態に切り換えさせてドアホン子器6との間に通信路を確立することにより、ドアホン子器6と住戸機2との間で通話可能にすることができるとともカメラで撮像された来訪者をモニタ部13に表示することが可能になる。
一方、警報監視盤5は集合住宅の管理人室などに設置され、通話線Laを介して各住戸機2との間で通話並びに一斉放送を行う機能や、制御線Lcを介して各住戸機2に一斉放送の開始及び終了を指示する機能などを有している。例えば、警報監視盤5から全ての住戸機2に対して一斉放送を行う場合、警報監視盤5から一斉放送の開始を指示する制御信号(一斉放送開始コマンド)が制御線Lcを介して各住戸機2に送信され、この制御信号を受信した各住戸機2では、一斉放送開始コマンドに応じて主制御部10が通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を音量補正部30に接続する状態に切り換えさせて警報監視盤5との間に通信路が確立され、警報監視盤5から送出される一斉放送の音声信号(以下、「一斉放送用音声信号」と呼ぶ。)が通話線Laを介して各住戸機2に伝送される。そして、各住戸機2においては音量補正部30で一斉放送用音声信号の音量が自動的に補正され、音量補正された一斉放送用音声信号がスピーカ22から送出される。
図2は音量補正部30の具体構成を示すブロック図である。本実施形態における音量補正部30は、一斉放送用音声信号を遅延させる遅延部31と、遅延部31で遅延された一斉放送用音声信号を増幅する可変増幅器32と、遅延部31に入力する一斉放送用音声信号の音声パワー(音圧レベル)を推定する音声パワー推定部33と、音声パワー推定部33で推定される一斉放送用音声信号の音声パワーに応じて可変増幅部32の増幅度Gを調整する増幅度調整部34とを有する。尚、本実施形態における音量補正部30は、通話処理部24並びに報知音生成部27とともにDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)のハードウェアをソフトウェアで制御することによって実現されているが、これに限定されるものではなく、DSPの代わりにCPUを用いたり、あるいはアナログ回路やディジタル回路で構成することも可能である。
音声パワー推定部33は、立ち上がりが緩やかであり、且つ立ち下がりが急峻な特性をもつ積分回路又はデジタルフィルタによって構成され、図3(c)に示すように初期(t=0〜t1)の一斉放送用音声信号の信号レベルの長時間平均値を音声パワー推定値Pnとする。増幅度調整部34は、音声パワー推定部33が出力する音声パワー推定値Pnと音声パワーの基準値との差分から音声パワー推定値Pnを音声パワー基準値に一致させるために必要な増幅度Gを決定し、可変増幅器32の増幅度を決定した増幅度Gに調整する。具体的には、図3(a)に示すように一斉放送用音声信号の音声パワーと増幅度Gとは比例関係(比例係数が負)にあるから、予め与えられた関係式に基づいて音声パワー推定値Pnから増幅度Gが決定できる。したがって、警報監視盤5から個々の住戸機2までの配線長や一斉放送の対象となる住戸機2の台数等に起因した伝送ロスの違いにかかわらず、図3(b)に示すように一斉放送用音声信号の音量を音量補正部30で補正して所定範囲X内に収めることができる。
上述のように本実施形態によれば、一斉放送の音量が所定範囲の値となるように補正する音量補正部30を各住戸機2が備えているため、一斉放送の対象となる住戸機2の台数や各住戸機2までの配線長に応じて一斉放送装置(警報監視盤5)で一斉放送用音声信号の増幅度を調整したり、あるいは施工時に配線長に応じて各住戸機2毎に伝送線路のインピーダンスを調整するといった手間をかけることなく、複数の住戸機2間における一斉放送の音量のばらつきを抑えることができる。
(実施形態2)
本発明の実施形態2の集合住宅用インターホンシステムの構成例を図4に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態1とほぼ共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して適宜図示並びに説明を省略する。
本実施形態における警報監視盤5は、CPUを主構成要素とする制御部50と、制御部50と制御線Lcとのインタフェースとなる制御信号送受信回路51と、通話用のハンドセット(送受話器)52と、送話信号及び受話信号を増幅する増幅器53a,53bと、受話側並びに送話側の各伝送経路と2線の通話線Laとを2線4線変換する2線4線変換部54と、制御部50からの指示に応じて後述するトレーニング信号を送信するトレーニング信号送信部55と、2線4線変換部54の送話側の伝送線路をハンドセット52に接続する状態とトレーニング信号送信部55に接続する状態とに択一的に切り換える音声/トレーニング信号切換部56と、音声/トレーニング信号切換部56を2線4線変換部54を介して通話線Laに接続する状態と2線4線変換部54を介さずに増幅器58を介して通話線Laに接続する状態とに択一的に切り換える通話/一斉放送切換部57と、ロビーインターホン1に接続された通話線Laと幹線制御装置3に接続された通話線Laとの間に挿入された開閉スイッチ部59とを備えている。尚、図示は省略するが、警報監視盤5には住戸番号を指定するための番号キーと呼出釦を有する選択手段とが設けられ、管理人が番号キーを操作して何れかの住戸番号を選択した後に呼出釦を操作することで住戸番号に対応する住戸機2を選択すれば、選択した住戸機2との間に通信路が形成されてハンドセット52により当該住戸機2との間でのみ通話を行うことができる。また、かかる通話時には、制御部50によって音声/トレーニング信号切換部56が2線4線変換部54の送話側の伝送線路をハンドセット52に接続する状態に切り換えられるとともに通話/一斉放送切換部57が音声/トレーニング信号切換部56を2線4線変換部54を介して通話線Laに接続する状態に切り換えられ、且つ開閉スイッチ部59が開成されてロビーインターホン1が幹線L1から切り離される。
トレーニング信号送信部55は、ホワイトノイズ(白色雑音)のように広帯域にわたりスペクトルが一様に分布する特性を有するトレーニング信号を生成して出力するものであって、音声/トレーニング信号切換部56から通話/一斉放送切換部57を経て増幅器58で増幅された後に通話線Laを介して各住戸機2に伝送される。
図5は音量補正部30の具体構成を示すブロック図である。本実施形態における音量補正部30は、警報監視盤5のトレーニング信号送信部55が送信するトレーニング信号と同一の基準信号を生成する基準信号生成部35と、通話線Laを介して受信したトレーニング信号と基準信号の平均二乗誤差が最小となるようにフィルタ係数を適応的に同定する適応フィルタ部36と、基準信号生成部35が出力する基準信号を遅延させる遅延部37と、遅延部37で遅延された基準信号と適応フィルタ部36の出力信号の差分を求める演算部38とを備えている。ここで、本実施形態における音量補正部30も実施形態1と同様にDSPのハードウェアをソフトウェアで制御することによって実現されるものであり、音量補正部30に入力する信号(一斉放送用音声信号並びにトレーニング信号)と音量補正部30から出力する信号(一斉放送用音声信号)は図示しないA/D変換器によってアナログ信号からディジタル信号に変換されて処理された後に図示しないD/A変換器によってディジタル信号からアナログ信号に変換されてスピーカ22に出力される。故に、音量補正部30への入力信号並びに出力信号と基準信号はそれぞれ量子化されたデータX(n),Y(n),d(n)として取り扱われる。
ここで、遅延部37で所定時間Dだけ遅延された基準信号d(n-D)と出力信号Y(n)との差分(誤差信号)e(n)(=d(n-D)−Y(n))が演算部38で求められ、適応フィルタ部36では、2次関数で表される誤差信号e(n)の平均二乗誤差が小さくなる方向にフィルタ係数W(n)を修正していくことで最終的に誤差信号e(n)を最小とするフィルタ係数W(n)を決定している。具体的には、誤差信号e(n)のパワーを示す基準信号d(n-D)と出力信号Y(n)の平均二乗誤差E[|d(n-D)−Y(n)|]2を最小とするようにLMSなどの適応アルゴリズムを用いてフィルタ係数W(n)を適応的に同定するのである。但し、かかる適応アルゴリズムの詳細については従来周知であるから詳細な説明は省略する。
次に、本実施形態において警報監視盤5より複数台の住戸機2に対して一斉放送を行う際の警報監視盤5並びに各住戸機2の動作を説明する。まず、一斉放送の開始に当たって管理人が警報監視盤5に設けられた一斉放送開始釦(図示せず)を押操作すると、警報監視盤5では、制御部50が一斉放送の開始を指示する制御信号(一斉放送開始コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送し、さらに、制御信号の送信完了から所定時間が経過したら、音声/トレーニング信号切換部56を制御してトレーニング信号送信部55を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換えるとともに通話/一斉放送切換部57を2線4線変換部54を介さずに通話線Laに接続する状態に切り換えた後、トレーニング信号送信部55からトレーニング信号を送信させる。尚、上記制御信号には、一斉放送開始コマンドとともに一斉放送の対象である住戸機2のアドレス(住戸番号)が含まれる。但し、全ての住戸機2を一斉放送の対象とする場合、各住戸機2の住戸番号を指定する代わりに特殊なアドレス(例えば、何れの住戸機2にも割り当てられていない番号)を指定することで全ての住戸機2を一斉放送の対象とすることも可能である。
警報監視盤5から送信された制御信号は、一斉放送の対象である全ての住戸機2で受信される。制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が一斉放送開始コマンドに応じて一斉放送開始のための準備を行う。すなわち、主制御部10は、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を音量補正部30に接続する状態に切り換えさせてトレーニング信号の受信可能状態とし、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送されるトレーニング信号を受信すれば、音量補正部30に動作を開始させる。音量補正部30では、主制御部10から動作開始の指示を受けると基準信号生成部35が基準信号d(n)を生成して出力し、上述したように遅延部37で遅延された基準信号d(n-D)と出力信号Y(n)の平均二乗誤差E[|d(n-D)−Y(n)|]2を最小とするように適応アルゴリズムを用いてフィルタ係数W(n)を適応的に同定し、最終的に一斉放送時におけるフィルタ係数W(n)が決定される。尚、適応フィルタ部36で適応アルゴリズムが実行されている間、主制御部10は映像処理部12を制御してモニタ部13に「放送」などの文字を表示させると同時に報知音生成部27を制御してスピーカ22からチャイム音を送出させることで居住者に一斉放送開始の準備中であることを知らせることが望ましい。
警報監視盤5では、送信開始から所定時間経過後に制御部50がトレーニング信号送信部55によるトレーニング信号の送信を停止させ、さらに、音声/トレーニング信号切換部56を制御してハンドセット52を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換える。そして、管理人がハンドセット52を使って一斉放送を行えば、ハンドセット52から出力される一斉放送用音声信号が音声/トレーニング信号切換部56から通話/一斉放送切換部57を経て通話線Laに送出される。
住戸機2の音量補正部30では、トレーニング信号の受信開始から所定時間が経過した時点で適応アルゴリズムの実行を停止し、適応フィルタ部36のフィルタ係数を、その時点のフィルタ係数W(n)又は既に決定済みのフィルタ係数W(n)に固定する。従って、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送される一斉放送用音声信号は幹線インタフェース部14から通話/一斉放送切換部15を介して音量補正部30に入力され、適応フィルタ部36のフィルタ処理によって音量が補正されると同時に周波数特性も補正されるから、スピーカ22からは適切な音量及び音質で一斉放送の音声が出力されることになる。尚、上記所定時間経過後、主制御部10はモニタ部13での「放送」の文字表示並びに報知音生成部27によるチャイム音の出力を終了する。
一斉放送を終了するにはハンドセット52をオンフックすればよい。ハンドセット52がオンフックされると、警報監視盤5の制御部50は、一斉放送の終了を指示する制御信号(一斉放送終了コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送した後、開閉スイッチ部59を閉成して待機状態に戻る。
制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が一斉放送終了コマンドに応じて一斉放送終了のための処理を行う。すなわち、主制御部10は、音量補正部30の動作を停止させるとともに、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換手段16に接続する状態に切り換えさせて待機状態に戻る。
上述のように本実施形態によれば、音量補正部30は、警報監視盤5が一斉放送用音声信号を出力する前に通話線Laを介して各住戸機2へ送信するトレーニング信号に基づいて一斉放送用音声信号の補正量を決定するため、実施形態1のように一斉放送用音声信号から直接補正量を決定する場合に比較して伝送ロスの推定精度が高くなり、その結果、住戸機2間における一斉放送の音量のばらつきをさらに抑えることができるとともに一斉放送の開始時点から直ちに音量を補正することができる。しかも、通話線Laを介して受信したトレーニング信号と基準信号の平均二乗誤差が最小となるように適応フィルタ部36がフィルタ係数を適応的に同定するから、音量だけでなく周波数特性も補正することができて一斉放送の音質が向上するという利点がある。
(実施形態3)
図6(a)は本発明の実施形態3における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
本実施形態における音量補正部30は、通話線Laを介して受信したトレーニング信号に基づいて警報監視盤5から住戸機2に至るまでの通話線Laの伝送ロスを推定する伝送ロス推定手段と、一斉放送用音声信号に対して伝送ロス推定手段で推定した伝送ロスによる損失を補償する伝送ロス補償手段とを備える。伝送ロス補償手段は一斉放送用音声信号を増幅する増幅器39からなり、伝送ロス推定手段は、入力信号(トレーニング信号)X(n)の信号パワー(瞬時パワー)を推定するパワー推定部40と、パワー推定部40で推定されたトレーニング信号の信号パワーPsに基づいて増幅器39の増幅度Gを算出する増幅度算出部41とからなる。パワー推定部40は、図6(b)に示すように入力信号X(n)の絶対値の時間平均値(絶対平均値)PX(n)を求める絶対平均値算出部401と、絶対平均値算出部401で算出される時系列の絶対平均値PX(n)を平滑化する絶対平均値平滑部402とで構成される。
絶対平均値算出部401は、所定のサンプリング時間でサンプリングされた入力信号X(n)を周波数弁別するバンドパスフィルタ401aと、周波数弁別後の入力信号X(n)の絶対値を求める絶対値算出部401bと、入力信号X(n)の絶対値を所定の時間フレーム(サンプリング数M)で除する除算部401cと、サンプリング数Mで除算された入力信号X(n)の絶対値の総和を求める総和算出部401dとからなり、結局のところ、絶対平均値算出部401では下記の式(1)の演算を行っている。
また絶対平均値平滑部402は、正の定数α(<1)を絶対平均値Px(n)に乗算する乗算器402aと、遅延シフトレジスタ402bと、遅延シフトレジスタ402bで遅延させた瞬時パワー推定値Ps(n-1)に正の定数(1−α)を乗算する乗算器402cと、2つの乗算器402a,402cの出力を加算する加算器402dとからなり、結局のところ、絶対平均値平滑部402では下記の式(2)の演算を行っている。
また、増幅度算出部41では、予め設定した信号パワーの基準値Prをパワー推定部40で推定された信号パワーの推定値Psで除算することによって増幅度G(=Pr/Ps)を算出し、算出した増幅度Gを増幅器39に設定する。
次に、本実施形態において警報監視盤5より複数台の住戸機2に対して一斉放送を行う際の警報監視盤5並びに各住戸機2の動作を図7のフローチャートを参照しながら説明する。まず、一斉放送の開始に当たって管理人が警報監視盤5に設けられた一斉放送開始釦(図示せず)を押操作すると(ステップS11)、警報監視盤5では、制御部50が一斉放送の開始を指示する制御信号(一斉放送開始コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送し、さらに、制御信号の送信完了から所定時間が経過したら、音声/トレーニング信号切換部56を制御してトレーニング信号送信部55を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換えるとともに通話/一斉放送切換部57を2線4線変換部54を介さずに通話線Laに接続する状態に切り換えた後、トレーニング信号送信部55からトレーニング信号を送信させる(ステップS12)。
警報監視盤5から送信された制御信号は、一斉放送の対象である全ての住戸機2で受信される。制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が一斉放送開始コマンドに応じて一斉放送開始のための準備を行う。すなわち、主制御部10は、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を音量補正部30に接続する状態に切り換えさせてトレーニング信号の受信可能状態とするとともに音量補正部30を動作させ(ステップS21)、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送されるトレーニング信号を受信すれば伝送ロスの推定処理を開始する。音量補正部30では、主制御部10から動作開始の指示を受けるとパワー推定部40が入力信号X(n)の信号パワーの推定を行い、推定値Ps(n)が所定の閾値を超えたときにトレーニング信号を受信したと判断し(ステップS22)、トレーニング信号の受信時点から所定時間経過後の推定値Ps(n)をトレーニング信号の信号パワーPsとし(ステップS23,S24)、増幅度算出部41が基準値Prを信号パワーPsで除算して求めた増幅度Gを増幅器39に設定する(ステップS25)。
警報監視盤5では、送信開始から所定時間経過後に制御部50がトレーニング信号送信部55によるトレーニング信号の送信を停止させ(ステップS13)、さらに、音声/トレーニング信号切換部56を制御してハンドセット52を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換える。そして、管理人がハンドセット52を使って一斉放送を行えば(ステップS14)、ハンドセット52から出力される一斉放送用音声信号が音声/トレーニング信号切換部56から通話/一斉放送切換部57を経て通話線Laに送出される。そして、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送される一斉放送用音声信号は、幹線インタフェース部14から通話/一斉放送切換部15を介して音量補正部30に入力され、増幅器39で増幅することによって音量が補正されるため、スピーカ22からは適切な音量で一斉放送の音声が出力される(ステップS26)。
そして、一斉放送を終了するためにハンドセット52がオンフックされると(ステップS15)、警報監視盤5の制御部50は、一斉放送の終了を指示する制御信号(一斉放送終了コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送した後、開閉スイッチ部59を閉成して待機状態に戻る。また、制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が音量補正部30の動作を停止させるとともに、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換手段16に接続する状態に切り換えさせて待機状態に戻る。
(実施形態4)
図8(a)は本発明の実施形態4における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
音量補正部30は、警報監視盤5から住戸機2までの伝送線路(通話線La)の伝送ロスを推定する伝送ロス推定部42と、伝送ロス推定部42で推定した伝送ロスの逆特性で一斉放送用音声信号とフィルタ係数との畳み込み演算を行うフィルタとを備えている。周知のようにインパルス信号に対する伝送路の応答信号(インパルス応答)がその伝送路の伝送ロスを表すので、伝送ロス推定部42では、警報監視盤5から送信される単一のパルス信号からなるトレーニング信号のインパルス応答h(n)を伝送ロスの推定値として求めている。
一方、フィルタは、DSPのハードウェアを専用ソフトウェアで制御することによって実現されるディジタルフィルタであり、フィルタ係数を適宜選択することでローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタなどの種々のフィルタ特性が得られるものであって、伝送ロス推定部42で推定されたインパルス応答h(n)から補正値、すなわち、フィルタ係数g(n)を算出するフィルタ係数算出部43と、フィルタ係数算出部43で算出された補正値がフィルタ係数g(n)に設定され、一斉放送用音声信号をフィルタリングするフィルタ処理部44とからなる。
フィルタ係数算出部43は、図8(b)に示すように白色雑音d(m)を発生する白色雑音発生部43aと、伝送ロス推定部42で推定されたインパルス応答h(m)と白色雑音d(m)を畳み込み演算する畳込演算部43bと、白色雑音d(m)を遅延する遅延部43cと、畳込演算部43bの畳み込み演算出力a(m)とフィルタ係数g(m)を畳み込み演算するとともにフィルタ係数g(m)を適応的に同定する適応フィルタ43dと、遅延部43cで遅延された白色雑音d(m-D)と適応フィルタ43dの畳み込み演算出力b(m)との差分(誤差信号)e(m)を求める演算部43eとを備えている。適応フィルタ43dでは、誤差信号e(m)(=d(m-D)−b(m))のパワーが小さくなる方向にフィルタ係数g(m)を修正していくことで最終的に誤差信号e(m)を最小とするフィルタ係数g(m)を決定する。例えば、g(m+1)=g(m)+μe(m)a(m)として誤差信号e(m)の平均二乗誤差を最小とするようにフィルタ係数g(m)を適応的に同定するのである。尚、μはフィルタ係数g(m)の収束速度を決めるステップサイズである。
そして、フィルタ係数算出部43で算出されたフィルタ係数g(m)がフィルタ処理部44に設定された後、警報監視盤5から伝送されてくる一斉放送用音声信号がフィルタ処理部44でフィルタリングされることで一斉放送用音声信号の音量が補正される。
(実施形態5)
図9は本発明の実施形態5における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2及び3と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
音量補正部30は、入力信号x(n)をフーリエ変換(離散フーリエ変換)するフーリエ変換部45aと、フーリエ変換後の入力信号X(k)から伝送ロスを推定する伝送ロス推定部46と、伝送ロス推定部46で推定した伝送ロスから補正値を算出する補正利得算出部47と、補正利得算出部47で算出された補正値により一斉放送用音声信号に対する伝送ロスを補償する伝送ロス補償部48と、伝送ロス補償部48の出力信号Y(k)を逆フーリエ変換(離散逆フーリエ変換)する逆フーリエ変換部45bとを備えている。伝送ロス補償部48では、トレーニング信号をフーリエ変換した入力信号X(k)について、下記の式(3)の演算を行うことで長時間平均値Pv(k)を求めている。但し、αは1未満の正の定数である。
ここで、白色雑音からなるトレーニング信号をフーリエ変換すると、変換後の入力信号X(k)の長時間平均値Pv(k)は、図10に示すように理想的には一定の信号レベル(信号パワー)Pを有している。しかしながら、実際には伝送線路における伝送ロスが存在するから、例えば、図11(a)に示すように低域及び高域において信号パワーが低下することになる。そこで、補正利得算出部47において、予め設定した信号パワー(長時間平均値)の基準値Prを伝送ロス推定部46で求められた長時間平均値Pv(k)で除算することによって周波数毎の増幅度G(k)(=Pr/Pv(k))を算出し(図11(b)参照)、伝送ロス補償部48において、算出した増幅度G(k)を入力信号(一斉放送用音声信号)X(k)に乗算することで一斉放送用音声信号の伝送ロスを補償している。
伝送ロス補償部48で補償された後の一斉放送用音声信号Y(k)(=Re{X(k)}×G(k)+Im{X(k)}×G(k))が逆フーリエ変換部45bで逆フーリエ変換され、音量補正された逆フーリエ変換後の出力信号y(n)が音量補正部30から出力される。
本実施形態によれば、一斉放送用音声信号の音量を周波数領域で補正するため、音量のみならず音質の補正も同時に行えるものである。
(実施形態6)
図12は本発明の実施形態6における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2及び3と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
警報監視盤5においては、一斉放送開始コマンドの送信後に互いに周波数が異なるトーン信号からなる複数のトレーニング信号をトレーニング信号送信部55から順次送信させる。例えば、図13(a)に示すように周波数f1,f2,…,fnのトレーニング信号をトレーニング信号送信部55から順次送信する。
音量補正部30は、n個のトレーニング信号を周波数弁別するためのバンドパスフィルタ501,502,…,50nと、各トレーニング信号の信号パワー(信号パワー)を推定するパワー推定部40と、トレーニング信号の周波数とパワー推定部40の信号パワー推定値Psの各組の間にある周波数に対する信号パワーを推定するパワー補間部51と、各周波数帯毎の伝送ロス(信号パワーの周波数特性)と重み係数からラウドネス(音の大きさ)を求めるとともに当該ラウドネスと基準となるラウドネスの差分に応じて補正値を算出する補正利得算出部52と、補正利得算出部52で算出された補正値(増幅度)で一斉放送用音声信号を増幅する増幅部53とを備えている。パワー推定部40は、各周波数f1,f2,…,fnのトレーニング信号に対し各々信号パワー推定値Psf1,Psf2,…,Psfnを求める。パワー補間部51は、周知の補間法(例えば、ラグランジュ補間法)を用いてn個の信号パワー推定値Psf1,Psf2,…,Psfnから伝送ロス(信号パワーの周波数特性)を(n−1)次曲線で近似する処理を行う。具体的には、下記の式(4)でトレーニング信号の周波数f1,f2,…,fn以外の周波数f(1/3オクターブ)の信号パワーPfを求める。
ここで、上式(4)の右辺各項の係数a0,a1,…,an-1は、下記の行列式より求められる。
尚、図13(b)に実線で示す曲線イが式(4)で近似された伝送ロスを表している。
一方、補正利得算出部52では、ITU−T(国際電気通信連合−電気通信標準化部門)で規格化されている下記式よりラウドネス(音の大きさ)LRを求め、さらに、基準となるラウドネスLRrとの差を求めて増幅部53の増幅度G(=LR−LRr)とする。但し、下式のWrはラウドネスの重み付け(定数)を表す。
而して、増幅部53において増幅度Gで増幅することにより一斉放送用音声信号の音量が補正されてスピーカ22から送出されることになる。
本実施形態によれば、ラウドネスによって一斉放送用音声信号の音量を補正するので、人の耳で実際に聞く音量を適切に補正することができる。
(実施形態7)
図14は本発明の実施形態7における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
音量補正部30は、一斉放送用音声信号とフィルタ係数との畳み込みを演算をするフィルタ処理部54と、フィルタ処理部54の特性を決定するフィルタ係数の候補が格納されたフィルタ係数格納部55と、伝送ロス推定手段で推定した伝送ロスに基づいてフィルタ係数格納部55に格納された候補の中から選択したフィルタ係数をフィルタ処理部54に設定するフィルタ選択部56とからなる伝送ロス補償手段を備えている。フィルタ処理部54は、DSPのハードウェアを専用ソフトウェアで制御することによって実現されるディジタルフィルタであり、フィルタ係数を適宜選択することでローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタなどの種々のフィルタ特性が得られる。すなわち、警報監視盤5と住戸機2との間の伝送特性(伝送ロスの周波数特性)が幾通りかのパターンとして既知である場合、例えば、図15(a)に示すように低域の伝送ロスが異なる3種類の伝送特性A,B,Cが既知であるとしたときに各々の伝送特性A〜Cにおける伝送ロスが補償可能なフィルタ特性、つまり、図15(b)に示すように低域における増幅度が異なる3種類のフィルタ特性A’,B’,C’を決定するフィルタ係数を不揮発性メモリからなるフィルタ係数格納部55に格納しておき、一斉放送開始前にトレーニング信号を用いて推定した伝送特性に応じて最も適当なフィルタ特性を選択してフィルタ処理部54に設定すれば、図15(c)(d)に示すように個々の住戸機2毎に自動的に適切な音量に補正することができる。
フィルタ選択部56は、パワー推定部40で推定されたトレーニング信号(例えば、1kHzのトーン信号)の信号パワー推定値Psを基準パワーPrと比較し、Ps/Pr<5dBならばフィルタ処理部54を無効(一斉放送用音声信号をスルーさせる)とし、5dB≦Ps/Pr<10dBならばフィルタ特性A’、10dB≦Ps/Pr<15dBならばフィルタ特性B’、15dB≦Ps/Prならばフィルタ特性C’をそれぞれ選択し、選択したフィルタ特性A’,B’,C’に対応するフィルタ係数をフィルタ係数格納部55から読み出してフィルタ処理部54に設定する。例えば、ある住戸機2と警報監視盤5との間の伝送線路が伝送特性Cにほぼ等しい場合、フィルタ選択部56がフィルタ特性C’を選択してフィルタ処理部54に設定すれば、一斉放送用音声信号がフィルタ処理部54でフィルタリングされて音量並びに周波数特性の双方が補正されてスピーカ22から送出されることになる。しかも、本実施形態ではフィルタ係数を算出するための演算が不要であるから、フィルタ係数の決定(音量の補正量の決定)までに要する時間が短縮できるとともにDSPの演算量が削減できるという利点がある。但し、ただ一つの周波数f1における信号パワーの推定から伝送特性A〜Dを判別できない場合であれば、図16(a)に示すように複数の周波数f1,f2における信号パワーの推定値Pから伝送特性A〜Dを判別し、図16(b)に示すように適切なフィルタ特性A’〜D’を決定すればよい。
(実施形態8)
図17は本発明の実施形態8における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
本実施形態においては、単一のパルス信号からなるトレーニング信号を警報監視盤5から複数回(例えば、3回)送信し、これら複数回のトレーニング信号に対する応答信号を加算平均処理することで伝送線路(通話線La)の伝送ロスを推定する加算平均処理部57が音量補正部30に設けられている。
警報監視盤5では、図18(a)に示すように制御部50が制御信号(一斉放送開始コマンド)の送信時点(t=t0)から所定時間t=t1,t2,t3(但し、t2=3×t1、t3=5×t1)経過後にトレーニング信号をそれぞれトレーニング信号送信部55に送信させる。
一方、住戸機2においては、主制御部10が一斉放送開始コマンドを受け取ると直ちに加算平均処理部57に処理を開始させ、図18(b)に示すように制御信号(一斉放送開始コマンド)の受信時点(t=t4)から所定期間T(=t4〜t5、t5〜t6、t6〜t7、但し、t7−t6=t6−t5=t5−t4=2×t1)毎に応答信号X(n)を加算するとともに合計3つの期間Tの加算値の平均値(移動平均)を求める処理を加算平均処理部57で実行する。尚、加算平均処理部57で求めた応答信号X(n)の加算平均値は伝送線路のインパルス応答h(n)に相当する。補正量算出部58は、加算平均処理部57で求めたインパルス応答h(n)に対して下記の式(5)の演算を行うことで自己相関関数Rxを求めるとともに、予め設定した自己相関関数の基準値Rrを自己相関関数Rxで除算することによって増幅度G(=Rr/Rx)を算出し、算出した増幅度Gを増幅器39に設定する。
而して、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送される一斉放送用音声信号は、幹線インタフェース部14から通話/一斉放送切換部15を介して音量補正部30に入力され、増幅器39で増幅することによって音量が補正されるため、スピーカ22からは適切な音量で一斉放送の音声が出力される。しかも、本実施形態では複数のトレーニング信号の加算平均値を求めて伝送ロスを推定しているため、伝送ロスの推定精度が向上するという利点がある。
(実施形態9)
図19は本発明の実施形態9における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態2及び5と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
音量補正部30は、警報監視盤5のトレーニング信号送信部55が送信するトレーニング信号(ホワイトノイズ)と同一の基準信号d(n)を生成する基準信号生成部35と、通話線Laを介して受信したトレーニング信号と基準信号の相関値を求めるとともに求めた相関値に基づいて伝送ロスを推定する相関演算部49とを備えている。相関演算部49では、トレーニング信号をフーリエ変換した入力信号X(k)と、基準信号d(n)をフーリエ変換した信号D(k)との相関値(伝達関数)H(k)を下記の式(5)より求めている。
但し、D*(k)はD(k)の共役複素数であり、右辺の分母及び分子はそれぞれ平均値である。
補正利得算出部47では、予め設定した信号パワーの基準値Prを相関演算部49で求めた相関値H(k)で除算することによって周波数毎の増幅度G(k)(=Pr/H(k))を算出し、伝送ロス補償部48において、算出した増幅度G(k)を入力信号(一斉放送用音声信号)X(k)に乗算することで一斉放送用音声信号の伝送ロスを補償している。
伝送ロス補償部48で補償された後の一斉放送用音声信号Y(k)(=Re{X(k)}×G(k)+Im{X(k)}×G(k))が逆フーリエ変換部45bで逆フーリエ変換され、音量補正された逆フーリエ変換後の出力信号y(n)が音量補正部30から出力される。
本実施形態によれば、一斉放送用音声信号の音量を周波数領域で補正するため、音量のみならず音質の補正も同時に行える。
(実施形態10)
本発明の実施形態10の集合住宅用インターホンシステムの構成例を図20に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態2及び3とほぼ共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して適宜図示並びに説明を省略する。
本実施形態は、音量補正部30が決定した一斉放送用音声信号の補正量を保存するデータ保存部60を有し、音量補正部30でトレーニング信号が受信できない場合にデータ保存部60に保存されている補正量で一斉放送用音声信号を補正する点に特徴がある。尚、データ保存部60はEEPROMやフラッシュメモリ等の書換可能な不揮発性メモリで構成される。
本実施形態において警報監視盤5より複数台の住戸機2に対して一斉放送を行う際の警報監視盤5並びに各住戸機2の動作を図21のフローチャートを参照しながら説明する。まず、一斉放送の開始に当たって管理人が警報監視盤5に設けられた一斉放送開始釦(図示せず)を押操作すると(ステップS11)、警報監視盤5では、制御部50が一斉放送の開始を指示する制御信号(一斉放送開始コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送し、さらに、制御信号の送信完了から所定時間が経過したら、音声/トレーニング信号切換部56を制御してトレーニング信号送信部55を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換えるとともに通話/一斉放送切換部57を2線4線変換部54を介さずに通話線Laに接続する状態に切り換えた後、トレーニング信号送信部55からトレーニング信号を送信させる(ステップS12)。
警報監視盤5から送信された制御信号は、一斉放送の対象である全ての住戸機2で受信される。制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が一斉放送開始コマンドに応じて一斉放送開始のための準備を行う。すなわち、主制御部10は、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を音量補正部30に接続する状態に切り換えさせてトレーニング信号の受信可能状態とするとともに音量補正部30を動作させ(ステップS21)、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送されるトレーニング信号を受信すれば伝送ロスの推定処理を開始する。音量補正部30では、主制御部10から動作開始の指示を受けるとパワー推定部40が入力信号X(n)の信号パワーの推定を行い、推定値Ps(n)が所定の閾値を超えたときにトレーニング信号を受信したと判断する(ステップS22)。そして、トレーニング信号を受信すれば、パワー推定部40はトレーニング信号の受信時点から所定時間経過後の推定値Ps(n)をトレーニング信号の信号パワーPsとし(ステップS23,S24)、増幅度算出部41が基準値Prを信号パワーPsで除算して求めた増幅度Gを増幅器39に設定し(ステップS25)、さらに求めた増幅度Gを補正量のデータとしてデータ保存部60に記憶する(ステップS26)。一方、所定時間内にトレーニング信号が受信できなかった場合、データ保存部60から前回求めた増幅度Gが読み出されて増幅器39に設定される(ステップS27)。
警報監視盤5では、送信開始から所定時間経過後に制御部50がトレーニング信号送信部55によるトレーニング信号の送信を停止させ(ステップS13)、さらに、音声/トレーニング信号切換部56を制御してハンドセット52を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換える。そして、管理人がハンドセット52を使って一斉放送を行えば(ステップS14)、ハンドセット52から出力される一斉放送用音声信号が音声/トレーニング信号切換部56から通話/一斉放送切換部57を経て通話線Laに送出される。そして、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送される一斉放送用音声信号は、幹線インタフェース部14から通話/一斉放送切換部15を介して音量補正部30に入力され、増幅器39で増幅することによって音量が補正されるため、スピーカ22からは適切な音量で一斉放送の音声が出力される(ステップS28)。
そして、一斉放送を終了するためにハンドセット52がオンフックされると(ステップS15)、警報監視盤5の制御部50は、一斉放送の終了を指示する制御信号(一斉放送終了コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送した後、開閉スイッチ部59を閉成して待機状態に戻る。また、制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が音量補正部30の動作を停止させるとともに、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換手段16に接続する状態に切り換えさせて待機状態に戻る。
上述のように本実施形態では、増幅度算出部41で算出する増幅度Gを補正量のデータとしてデータ保存部60に毎回記憶し、トレーニング信号が受信できない場合に前回の補正量のデータ(増幅度G)をデータ保存部60から読み出して増幅器39に設定することで音量を補正しているから、ある一定以上の音量レベルを確保して放送することができる。尚、本実施形態では音量補正部30が実施形態3と同じ構成を有する場合について例示したが、音量補正部30の構成は実施形態2〜9の何れの構成であっても構わない。
(実施形態11)
本発明の実施形態11の集合住宅用インターホンシステムの構成例を図22に示す。但し、本実施形態の基本構成は実施形態2とほぼ共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して適宜図示並びに説明を省略する。
本実施形態は、音量補正部30がトレーニング信号を受信して補正量を決定するまでの間、スピーカ22から所定の待機音を出力させる待機音出力手段を住戸機2が備えた点に特徴がある。待機音出力手段は、音声メッセージやメロディ音からなる待機音のデータを圧縮して格納する待機音データ格納部61と、待機音データ格納部61から読み出した待機音データを伸長して報知音生成部27に出力する待機音伸長部62と、報知音生成部27とで構成され、報知音生成部27では待機音伸長部62で伸長された待機音データに対して振幅調整などの処理を行って生成した待機音をスピーカ22に出力する。尚、待機音データ格納部61はEEPROMやフラッシュメモリ等の書換可能な不揮発性メモリで構成され、待機御伸長部62は通話処理部24や報知音生成部27等と同じくDSPのハードウェアをソフトウェアで制御することによって実現される。
而して、住戸機2においては、警報監視盤5から一斉放送開始コマンドの制御信号を受信した時点から所定時間(音量補正部30が補正量を決定するのに十分な時間)が経過するまでは待機音出力手段によってスピーカ22から待機音を鳴動させるようにしているので、これから一斉放送を開始することを居住者に伝え、注意を喚起することができる。