JP4654954B2 - イオン化装置 - Google Patents

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本発明は、質量分析装置等において気体試料分子又は原子をイオン化するためのイオン化装置に関し、更に詳しくは、電子衝撃イオン化や化学イオン化などの熱電子を利用した手法によりイオン化を行うイオン化装置に関する。
質量分析装置では、気体試料をイオン化するために電子衝撃イオン化(Electron Ionization:EI)や化学イオン化(Chemical Ionization:CI)などの各種イオン化手法が用いられる。これらのイオン化法に用いられるイオン化装置は、真空排気される真空容器を備え、該真空容器内に配設されるイオン化室の内部にフィラメントから発生した熱電子を導入し、該熱電子を直接的又は間接的に利用して試料分子のイオン化を行う。
例えば、前記EIは、イオン化室に導入した気体試料分子又は原子に直接熱電子を衝突させることで該試料分子又は原子をイオン化する手法であり、試料分子の開裂によってフラグメントイオンが生じるため、分子構造の解析に適している。一方、前記CIは、アンモニア等の反応ガスをイオン化室に導入して熱電子と衝突させ、発生した反応ガスイオンと気体試料分子又は原子とをイオン化室内で反応させることによって該試料分子又は原子をイオン化する手法であり、化学反応を利用したソフトなイオン化法であるため、フラグメントイオンが発生しにくく、分子量情報を得ることができるという利点がある。
上記CIでは、反応ガスイオンと試料分子・原子との衝突確率を高めるため、イオン化室内部の圧力をEIよりも高くする必要がある(例えば、特許文献1等を参照)。そのため、CI用のイオン化室では、熱電子を通過させるための電子入射口及び出射口の口径が0.3mm程度に設定されており、2〜3mm程度の電子入射口及び出射口を有するEI用のイオン化室に比べてその開口面積がかなり小さくなっている。そのため、EIとCIの両方の手法によるイオン化を実現可能なイオン化装置においては、分析開始前に、実施しようとするイオン化手法に適したイオン化室を真空容器内に取り付ける必要がある。
特開平11-307041号公報([0005])
上記EI用イオン化室とCI用イオン化室とは外観によって区別することができるが、通常、真空容器内に取り付けられた状態では、イオン化装置の外部からイオン化室を視認することはできない。そのため、真空排気を開始した後に、真空容器内に取り付けたイオン化室の種類を失念するなどしてイオン化室の種類を確認する必要が生じた場合には、一旦真空を解除し、目視にてイオン化室の種類を確認しなくてはならず、非常に手間と時間が掛かっていた。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、真空を破ることなしに、真空容器内に取り付けられたイオン化室の種類を判定することのできるイオン化装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン化装置は、真空排気される真空容器内に取り付けられたイオン化室の内部で熱電子を直接的又は間接的に利用してイオン化対象である気体分子又は原子をイオン化するイオン化装置において、
a) 熱電子を発生するフィラメントと、
b) 前記フィラメントから放射され、イオン化室内を通過した熱電子を捕集するトラップ電極と、
c) 前記トラップ電極に到達した熱電子により流れる電流を測定する第1電流測定手段と、
d) 前記フィラメントから放射され、前記イオン化室に衝突した熱電子により流れる電流を測定する第2電流測定手段と、
e) 前記第1電流測定手段によって測定された電流値及び前記第2電流測定手段によって測定された電流値に基づいて前記真空容器内に取り付けられているイオン化室の種類を判定するイオン化室判定手段と、
を有することを特徴としている。
なお、上記イオン化室判定手段は、上記真空容器内に取り付けられているイオン化室が電子衝撃イオン化用のイオン化室と化学イオン化用のイオン化室のいずれであるかを判定するものとすることが望ましい。
ここで、化学イオン化用のイオン化室とは、いわゆる正化学イオン化(Positive ion Chemical
Ionization:PCI)用のイオン化室と負化学イオン化(Negative
ion Chemical Ionization:NCI)用のイオン化室のいずれであってもよい。また、一般にPCI用とNCI用のイオン化室に設けられた電子入射口や出射口の開口面積は、ほぼ同一となっているが、両者に設けられた電子入射口及び/又は電子出射口の開口面積が異なっていれば、本発明のイオン化装置によりこれらのイオン化室を判別することも可能である。
フィラメントで発生された熱電子は、イオン化室を挟んで対向配置されたフィラメントとトラップ電極との間の電位差によって誘引されてイオン化室内に入り、更にトラップ電極に向けて加速されるが、上述したEI用イオン化室やCI用イオン化室のように、電子入射口や出射口の開口面積が異なるイオン化室においては、フィラメントから発射された熱電子のうち、イオン化室を貫通してトラップ電極に到達するものの割合が異なってくる。すなわち、イオン化室に設けられた電子入射口や出射口の開口面積が大きい場合には、フィラメントから発生した熱電子の多くは該入射口及び出射口を通ってイオン化室内を貫通しトラップ電極に捕捉されるが、電子入射口や出射口の開口面積が小さい場合には、該入射口・出射口を通過できずにイオン化室の壁面に衝突する熱電子の割合が大きくなる。
本発明は、このことを利用したものであり、上記構成を有する本発明のイオン化装置によれば、上記第1電流測定手段及び第2電流測定手段により、トラップ電極に到達した熱電子に起因する電流値と、イオン化室に衝突した熱電子に起因する電流値とをそれぞれ測定し、上記イオン化室判定手段により、それらの電流値に基づいてイオン化室の種類を判定することができる。従って、真空容器の内部に取り付けられたイオン化室の種類を真空を解除することなく判定することが可能となり、イオン化室の確認に掛かる手間を大幅に低減することができる。
以下、実施例を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。本実施例に係るイオン化装置は、質量分析装置において気体である試料分子や原子をイオン化するために用いられる質量分析装置用イオン化装置である。
図1は、本実施例に係るイオン化装置の概略構成を示す断面図である。また、図2は、本実施例のイオン化装置における熱電子(図中のe-)の挙動を示す模式図であり、(a)は、EI用イオン化室を用いた場合を示し、(b)は、CI用イオン化室を用いた場合を示している。以下、EI用イオン化室30aとCI用イオン化室30bとに共通する構成要素については同一符号を付して説明を行う。各イオン化室30a、30bには試料ガスを導入するための試料ガス導入口31が設けられており、更に、CI用イオン化室30bには、反応ガスを導入するための反応ガス導入口32が設けられている。また、各イオン化室30a、30bには、前記試料ガス(及び反応ガス)の導入方向と略直交する方向(図中では上下)に熱電子の入射口33と出射口34とが設けられており、入射口33と出射口34とを結ぶ電子流軸Lと直交するイオン光軸C上には、イオン化された試料をイオン化室の外へ導出するためのイオン通過口35が設けられている。イオン通過口35からイオン化室外へ飛び出した試料イオンは、図示しないイオンレンズなどによって加速されて質量分離器(四重極フィルタなど)に導入される。
上記イオン化室30a又は30bが取り付けられる真空容器11の内部には、入射口33の外側の電子流軸L上に熱電子発生用のフィラメント(熱陰極)12が、出射口34の外側の電子流軸L上に電子流を捕捉するためのトラップ電極13が、対向して配置されている。フィラメント12には加熱電流源14が接続されており、動作指令部18からの指示に基づいて加熱電流源14からフィラメント12に加熱電流が供給されるとフィラメント12の温度が上昇して熱電子が放出される。
また、本発明のイオン化装置には、トラップ電極13に流れ込む電流Iを測定するための第1電流計16と、イオン化室30a又は30bに流れ込む電流Iを測定するための第2電流計17とが設けられており、電流計16、17によって測定された電流値I及びIは制御部15に送られ、イオン化室判定部19によって該電流値を基にイオン化室の種類が判定される。
以下、本実施例のイオン化装置において、イオン化室の種類を判定する際の手順について説明する。まず、操作者が、制御部15に接続された入力部20を用いてイオン化室の判定を指示すると、動作指令部18から加熱電流源14へと制御信号が送出され、フィラメント12に加熱電流が供給される。これにより、フィラメント12からイオン化室に対して熱電子が放射され、該熱電子によりトラップ電極13及びイオン化室に流れ込む電流I及びIがそれぞれ第1電流計16及び第2電流計17によって測定される。
上述したように、真空容器内11にEI用のイオン化室30aが取り付けられていた場合には、フィラメント12から放射された熱電子の多くは入射口33及び出射口34を通過してトラップ電極13に到達するが(図2(a))、CI用のイオン化室30bが取り付けられていた場合には、フィラメント12から放射された熱電子の多くは入射口33及び出射口34を通過することなくイオン化室30bの壁面に衝突する(図2(b))。但しトラップ電極13に流れ込む電流値だけでイオン化室の種類を判定しようとすると、電流値が低かった場合に、真空容器11内にCI用イオン化室が取り付けられているためであるのか、フィラメントの断線や、イオン化室とフィラメント、トラップ電極のアライメントのずれなどの不具合によるものであるのかを区別することができない。
そこで、本実施例のイオン化装置では、トラップ電極13に到達した熱電子に起因する電流値であるIと、イオン化室に衝突した熱電子に起因する電流値であるIとの比を求めることにより、EI用イオン化室30aとCI用イオン化室30bとの判定を行う。I/Iが所定値以上であった場合には、イオン化室判定部19により、現在真空容器11内に取り付けられているイオン化室はEI用のイオン化室30aであると判定され、所定値未満であった場合には、CI用のイオン化室30bであると判定されて、該判定結果が制御部15に接続された表示部21に表示される。
以上のように、本実施例のイオン化装置によれば、イオン化室を直接目視しなくても、トラップ電極に流れ込む電流値とイオン化室に流れ込む電流値とからイオン化室の種類を判定することができるため、真空を破ることなく真空容器内に取り付けられているイオン化室の種類を確認することができる。
以上、実施例を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々の変更が許容されるものである。例えば、上記のようなイオン化室の判定は、操作者が必要に応じて指示するのでなく、操作者により、真空排気の開始が指示された際に自動的に実行されるようにしてもよい。また、第1電流計による電流値Iの測定と第2電流計による電流値Iの測定は同時に行わずに、時間的に分割して行うようにしてもよい
更に、本発明のイオン化装置においては、図3に示すように、イオン化室判定部19による判定結果に基づいてイオン化モード(EIモード、PCIモード、NCIモード等)の設定を行うイオン化モード設定部22を設け、真空容器11に取り付けられたイオン化室の種類に応じて自動的にイオン化モードの設定が行われるようにすることが望ましい。この場合、例えば、イオン化室判定部19によって現在真空容器11内に取り付けられているイオン化室がEI用イオン化室であると判定された場合には、イオン化モードとしてEIモードが選択・設定され、動作指令部18によってEIに適した加熱電流源14の制御や試料ガスの供給制御が行われる。このような構成にすることにより、イオン化室の確認及びイオン化モードの設定に掛かる手間を省力化し、イオン化装置の操作性をいっそう向上させることができる。
本発明の一実施例に係る質量分析装置用イオン化装置の要部構成を示すブロック図。 同実施例のイオン化装置における熱電子の挙動を示す模式図であり、(a)はEI用イオン化室を用いた場合を示し、(b)はCI用イオン化室を用いた場合を示している。 本発明に係る質量分析装置用イオン化装置の別の構成例を示すブロック図。
符号の説明
11…真空容器
12…フィラメント
13…トラップ電極
14…加熱電流源
15…制御部
16…第1電流計
17…第2電流計
18…動作指令部
19…イオン化室判定部
20…入力部
21…表示部
22…イオン化モード設定部
30a…EI用イオン化室
30b…CI用イオン化室
31…試料ガス導入口
32…反応ガス導入口
33…入射口
34…出射口
35…イオン通過口

Claims (3)

  1. 真空排気される真空容器内に取り付けられたイオン化室の内部で熱電子を直接的又は間接的に利用してイオン化対象である気体分子又は原子をイオン化するイオン化装置において、
    a) 熱電子を発生するフィラメントと、
    b) 前記フィラメントから放射され、イオン化室内を通過した熱電子を捕集するトラップ電極と、
    c) 前記トラップ電極に到達した熱電子により流れる電流を測定する第1電流測定手段と、
    d) 前記フィラメントから放射され、前記イオン化室に衝突した熱電子により流れる電流を測定する第2電流測定手段と、
    e) 前記第1電流測定手段によって測定された電流値及び前記第2電流測定手段によって測定された電流値に基づいて前記真空容器内に取り付けられているイオン化室の種類を判定するイオン化室判定手段と、
    を有することを特徴とするイオン化装置。
  2. 上記イオン化室判定手段が、上記真空容器内に取り付けられているイオン化室が電子衝撃イオン化用のイオン化室と化学イオン化用のイオン化室のいずれであるかを判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のイオン化装置。
  3. 更に、上記イオン化室判定手段による判定結果に基づいて、イオン化モードの設定を自動的に行うイオン化モード設定手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン化装置。
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