JP4653665B2 - 溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、精錬工程で使用する溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法に関する。
従来、溶鋼の精錬工程においては、例えば、DH法又はRH法のように、真空(減圧)を利用した溶鋼の脱炭又は脱ガス処理が行われている。この精錬に際しては、真空槽の下部槽直胴部の直下に設けられた溶鋼浸漬管の浸漬部を溶鋼鍋内の溶鋼中に浸漬させ、この溶鋼を吸い上げながら真空部分に接触させて行っている。
この溶鋼浸漬管の浸漬部へ向けて縮径するスロート及びその近傍を含むスロート部の鉄皮に設けられた耐火物は、昇熱用アルミニウムの酸化反応による発熱により、溶鋼と接触する稼働面が1700℃を超える高温となって、FeO−Al23系スラグによる溶損が大きくなる。また、スロート部の鉄皮の温度上昇により、鉄皮が熱膨張して、耐火物の目地開き及び目地先行型の溶損が生じる。
そこで、例えば、特許文献1には、鉄皮の赤熱又はこれに起因する耐火物の損傷を抑制するため、鉄皮へ向けて噴射ノズルから圧縮空気を噴射し、鉄皮を直接冷却することにより、鉄皮の赤熱を防止し、耐火物の稼働面の温度を低下させ、耐火物の溶損を抑制する方法が提案されている。
また、特許文献2には、鉄皮を、水冷ジャケット、水スプレー手段、又は空冷手段により冷却する方法が提案されている。なお、水冷ジャケット内の冷却水が、万一溶融炉内へ漏洩した場合の水蒸気爆発の問題を回避し、かつ冷却効率を確保するため、溶融炉の融液レベルより上方の炉壁を水冷し、融液レベルより下方の炉壁を空冷している。
特開昭56−10688号公報 特開平11−201650号公報
しかしながら、特許文献1に記載された耐火物の損耗防止方法は、圧縮空気を噴射ノズルから鉄皮へ向けて噴射し、鉄皮の表面を直接冷却するため、鉄皮の熱膨張量が小さくなるにも関わらず、溶鋼と接触する耐火物稼働面近傍の温度が溶鋼温度に近い温度に維持されているため、耐火物の熱膨張量が大きくなる。このため、耐火物にかかる鉄皮からの拘束力が過大となり、更には耐火物内の温度勾配が大きくなるため、熱スポール(熱衝撃)の恐れが高くなり、耐火物の損耗が激しくなる場合があった。
また、溶鋼浸漬管は、スロート部での鉄皮が拡径又は縮径しており、特許文献1のように、単純な円筒構造である直胴部鉄皮に比較して鉄皮構造が強固であるため、耐火物にかかる鉄皮からの拘束力が強くなる。特に、スロート部は、耐火物の稼働面側の温度が高く、更に溶鋼鍋内の溶鋼の湯面に近いため、通常は高温になり易い部分であり、鉄皮の冷却による冷却効果が顕著に現れ易い。このため、熱膨張した耐火物にかかる鉄皮からの拘束力の増加が過大となり易く、耐火物の損耗が激しかった。
更に、特許文献2に記載された耐火物の損耗防止方法は、より大きな冷却能力が必要になる融液レベルより下方の炉壁の冷却を、水冷方式よりも冷却能力が劣る空冷方式に頼るため、鉄皮温度分布の不均一に起因する歪が発生する。また、耐火物としてクロム系耐火物等の熱伝導率が低い耐火物を使用する場合、冷却能力が過大になったときの耐火物損耗に関する問題が解決できず、特に融液レベルより上方は水冷方式により冷却能力が過大となる場合が多く、耐火物損耗が激しくなるという問題があった。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、熱膨張する耐火物にかかる鉄皮からの拘束力を、過剰にすることなく適度にし、耐火物の損耗を従来よりも抑制、更には防止可能な溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法を提供することを目的とする。
前記目的に沿う本発明に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法は、下部槽直胴部の直下に、外表面が大気へ露出し、内表面に耐火物が配置された鉄皮を備えるスロート部を介して設けられ、外表面及び内表面が耐火物で覆われた筒状の芯金を備える浸漬部を有し、しかも前記スロート部の前記鉄皮の内幅の一部が、前記浸漬部の前記芯金の内幅と異なる溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、
前記スロート部の前記鉄皮の外側周囲から冷却ガスを吹き付け、前記スロート部の前記鉄皮の表面温度を100℃以上350℃以下、前記スロート部の前記耐火物の温度勾配を2.0℃/mm以上7.8℃/mm以下に調整する。
本発明に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、前記スロート部の前記鉄皮の表面温度を測定し、その測定温度が、150℃以上300℃以下の範囲内で予め設定した上限温度を超えた時点で、前記スロート部に吹き付ける冷却ガスの流量を増加させることが好ましい。
本発明に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、前記冷却ガスの流量は、増加させるとき以外は実質的に一定であり、前記溶鋼浸漬管の使用開始から補修が必要になる状態までの間に、前記冷却ガスの流量増加操作を複数回行うことが好ましい。
本発明に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、少なくとも前記スロート部の前記鉄皮と前記耐火物との間に、厚さが5mmを超え50mm以下、熱伝導度が0.05W/m/℃以上0.5W/m/℃以下の断熱材を配置することが好ましい。
請求項1〜4記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法は、スロート部の鉄皮の表面温度を所定範囲内に規定することにより、鉄皮の熱膨張量を調整できるので、溶鋼により加熱され熱膨張する耐火物にかかる鉄皮からの拘束力を、過剰にすることなく適度にできる。これにより、耐火物として、例えば、れんがを使用する場合、れんが目地の緩みによる目地先行型の溶損及びれんがの脱落のいずれか一方又は双方が発生する恐れを、従来よりも低減、更には防止できる。また、鉄皮による耐火物の稼働面近傍にかかる圧縮応力も小さくでき、耐火物の稼働面近傍が破壊する恐れがなくなる。
そして、耐火物の温度勾配を所定範囲内に規定することで、耐火物組織中に液相が生成する温度以上となる領域を狭い範囲にし、耐火物の溶損を抑制でき、しかも熱スポールによる耐火物の損耗を抑制できる。
特に、請求項2記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法は、冷却ガスの流量を、スロート部の鉄皮の表面温度が予め設定した上限温度を超えた時点で増加させるので、複雑な温度制御を行うことなく簡単な操作で耐火物の損耗防止効果を発揮でき、設備コストがかからず経済的であり、しかも作業性も良好である。
請求項3記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法は、冷却ガスの流量増加操作を、例えば、予め3〜5段階程度に設定しておくことで、複雑な温度制御を行うことなく、上限温度を超える毎にガス流量を1段階増加させるだけで、耐火物の損耗防止効果を継続させることができ、作業性が良好である。
請求項4記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法は、少なくともスロート部の鉄皮と耐火物との間に、所定の厚さ及び熱伝導度を備えた断熱材を配置するので、耐火物の厚みの影響で溶鋼浸漬管内の溶鋼からの熱が鉄皮へ伝わることを抑制でき、スロート部の鉄皮の表面温度を前記した所定範囲内に容易に調整できる。
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法を適用する溶鋼浸漬管の部分拡大図、溶鋼浸漬管のスロート部の側断面図である。
図1(A)、(B)に示すように、本発明の一実施の形態に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法は、真空槽の下部槽直胴部10の直下に、外表面11が大気へ露出し、内表面12に耐火物13が配置された鉄皮14を備えるスロート部15を介して設けられ、外表面16及び内表面17が耐火物18、19で覆われた筒状の芯金20を備える浸漬部21を有し、しかもスロート部15の鉄皮14の内幅の一部が、浸漬部21の芯金20の内幅と異なる溶鋼浸漬管(以下、単に浸漬管ともいう)22の耐火物の損耗防止方法であり、スロート部15の鉄皮14の外側周囲から冷却ガスを吹き付け、スロート部15の鉄皮14の表面温度と耐火物13の温度勾配を、それぞれ所定範囲内に調整する方法である。以下、詳しく説明する。
溶鋼浸漬管22は、例えば、DH(REDAともいう)法又はRH法のように、真空(減圧)を利用した溶鋼の脱炭又は脱ガスの精錬に使用可能なものである。
この浸漬管22は、大部分が溶鋼鍋(図示しない)内の溶鋼23中へ浸漬する浸漬部21と、浸漬部21に連続して設けられ、溶鋼23の湯面24上方に位置するスロート部15とを有している。この浸漬部21の芯金20は、二重構造となった円筒状のものであり、その隙間に冷却ガスを流して空冷される構成となっており、しかも浸漬部21の芯金20とスロート部15の鉄皮14は連続して設けられている。なお、鉄皮14の内表面12に配置された耐火物13は、浸漬部21の芯金20の内表面17を覆う耐火物19と連続して設けられている。
スロート部15は、図1(B)に示すように、浸漬部21の芯金20に接続する鉄皮14の内幅(内径)が浸漬部21の芯金20へ向けて徐々に縮幅(縮径)し、逆円錐台状となった部分、即ちスロート25を有している。なお、スロート25は、その下端位置TLでの鉄皮14の内幅を浸漬部21の芯金20の内幅と同じにしており、上端位置THを、拡幅が終了した位置、即ち鉄皮14の内幅が最大となった位置としている。ここで、芯金20の内幅W1とスロート25の鉄皮14の最大内幅W2との比(W2/W1)は、例えば、1.01以上1.30以下程度である。
このスロートは、鉄皮に1段設けているが、複数段設けてもよい。この場合、隣り合うスロートの最小内幅と最大内幅の比を、前記した比に設定することが好ましい。
また、スロートの内幅を、芯金へ向けて徐々に縮幅させているが、芯金へ向けて徐々に拡幅(拡径)させてもよい。
スロート部15は、上記したスロート25及びその近傍を含む部分であり、耐火物13の稼働面(溶鋼接触面)側の温度が高く、更に溶鋼鍋内の溶鋼23の湯面24に近いため、高温になり易い部分である。そこで、図1(A)に示すように、スロート部15の外側周囲には、冷却ガスの噴射ノズル(図示しない)が多数形成された空冷配管26が、隙間を開けて巻き回されている。なお、空冷配管26には、ヘッダー管27が接続され、冷却ブロワー28から供給される冷却ガスが、その流量を流量調整弁29で調整されながら、フレキシブル配管30を介して空冷配管26へ連続的に送られる。
これにより、空冷配管26から噴射ノズルを介して、スロート部15に冷却ガスが吹き付けられ、スロート部15の空冷が行われる。
このスロート部15とは、図1(B)に示すように、浸漬管22内で、表面にスラグが存在する溶鋼23の湯面変動が起こり、従来内側の耐火物の損耗(網かけ部分)が激しく起こっていた部分である。このスロート部15の領域は、少なくとも、スロート25の下端位置TLから下へ300mmの位置から、上端位置THから上へ300mmの位置までを含む領域を意味する。また、スロート部15の領域は、例えば、溶鋼鍋の規模及び形状のいずれか一方又は双方と、浸漬管内の溶鋼の湯面位置との関係により変動するが、最大でも、スロート25の下端位置又は上端位置から、それぞれ500mm以上1000mmの範囲内にすればよい。なお、スロート部15の領域に浸漬部21は含まれない。
ここで、スロートを複数段有する場合、スロート部とは、最下段のスロートから最上段のスロートまでと、その近傍を含む領域を意味する。また、鉄皮14の内幅が拡幅した部分と、縮幅した部分の2つのスロートを含む場合は、各スロートとその間のリング状部分を含んだ部分、及びその近傍を含む領域をスロート部とする。
このように、スロート部15の鉄皮14の内幅の一部は、浸漬部21の芯金20の内幅と異なっている。
スロート部15に冷却ガスを吹き付けることにより、スロート部15の鉄皮14の表面温度を100℃以上350℃以下に調整する。
鉄皮の表面温度が350℃を超える高温の場合、鉄皮の熱膨張量が耐火物の熱膨張量と比較して大きくなり過ぎるため、耐火物へかかる鉄皮からの拘束力が弱くなる。このため、耐火物としてれんがを使用する場合、れんが目地の緩みによる目地先行型の溶損及びれんがの脱落のいずれか一方又は双方が発生する恐れがある。
一方、鉄皮の表面温度が100℃未満の低温の場合、鉄皮の熱膨張量が小さいままであるにも関わらず、耐火物の稼働面近傍の温度は耐火物に内接する溶鋼温度に近い温度に達し、その温度に対応した熱膨張が起こるため、耐火物の稼働面近傍には鉄皮からの過大な圧縮応力がかかり、耐火物の稼働面近傍が破壊する危険性が大きくなる。
特に、脱ガス炉では、スロート部を有する浸漬管が使用され、前記したように特殊形状で構成され、単純な円筒構造である直胴部鉄皮に比較して鉄皮構造が強固であるため、内接する耐火物に対する鉄皮からの拘束力が強くなる。このため、鉄皮の冷却による鉄皮の拘束力の増加が過大となり易く、耐火物の損耗が激しくなる。また、スロート部の浸漬部近傍にある領域では、特に、れんが稼働面側の温度が高く、更には溶鋼鍋内の溶鋼の湯面に近く、周囲の雰囲気温度が400〜800℃程度の高温になるため、鉄皮の冷却による拘束力の増加が過大となり易い。
以上のことから、スロート部15の鉄皮14の表面温度を100℃以上350℃以下としたが、好ましくは、鉄皮14の表面温度の下限値を120℃、更には150℃とし、上限値を330℃、更には300℃とする。
なお、鉄皮14の表面温度は、例えば、鉄皮14の表面に熱電対を配置して測定できるが、鉄皮14の表面の温度分布を熱画像カメラで撮像して求めることも可能である。
また、スロート部15に冷却ガスを吹き付けることにより、スロート部15の耐火物13の温度勾配を2.0℃/mm以上7.8℃/mm以下に調整する。
耐火物内の温度勾配が2.0℃/mm未満となって緩やかになり過ぎる場合、耐火物組織中に、液相が生成する温度以上となる領域が比較的広くなるため、耐火物の溶損が起こり易くなる。
一方、耐火物内の温度勾配が7.8℃/mmを超え、大きくなり過ぎる場合、熱スポールによる耐火物の損耗が起こり易くなる。
以上のことから、スロート部15の耐火物13の温度勾配を2.0℃/mm以上7.8℃/mm以下としたが、好ましくは、下限値を2.3℃/mm、更には2.5℃/mmとし、上限値を7.0℃/mm、好ましくは6.0℃/mmとする。
なお、鉄皮14の内表面12に配置する耐火物13のライニング厚みが十分に確保できず、浸漬管22内の溶鋼23の熱が鉄皮14へ伝わり易くなり、スロート部15の鉄皮14の外表面11をガス冷却するだけでは、鉄皮14の表面温度を前記範囲内に維持できない場合、鉄皮14と耐火物13との間に、断熱れんが及びファイバー質断熱ボードのいずれか1又は2で構成される断熱材31を配置する。この断熱材としては、厚さが5mmを超え50mm以下、熱伝導度が0.05W/m/℃以上0.5W/m/℃以下のものを使用できる。なお、この断熱材の厚みと熱伝導度は、耐火物と鉄皮の温度から、数値計算によって得られた値である。
例えば、耐火物としてライニング厚みが200mm以上350mm以下程度のマグネシア−クロム質れんがを使用する場合に、断熱材として熱伝導係数が0.3W/m/℃以上0.5W/m/℃以下程度の断熱れんがを使用するときは、その厚みを25mm以上50mm以下程度とする。また、断熱材として熱伝導係数が0.05W/m/℃以上0.2W/m/℃以下程度の断熱煉瓦を使用するときは、厚みを5mm以上25mm以下程度にするとよい。
この断熱材は、鉄皮14と耐火物13の間全てに配置してもよいが、少なくともスロート部15の鉄皮14と耐火物13との間に配置すればよい。
また、冷却ガスの吹き付けに際しては、冷却ガスの流量調整を簡易に行うため、スロート部15の鉄皮14の表面温度を測定し、その測定温度が、150℃以上300℃以下の範囲内で予め設定した上限温度(例えば、250℃程度)を超えた時点で、スロート部15に吹き付ける冷却ガスの流量を増加させることが好ましい。
この冷却ガスの流量増加操作は、鉄皮14の表面温度が100℃を下回らないように行う。また、この冷却ガスの流量増加操作を行った後も、鉄皮14の表面温度を継続的に監視し続け、鉄皮14の表面温度が再度前記上限温度を超える場合は、冷却ガスの流量を更に増加する操作を行う。即ち、一炉代の寿命内に、冷却ガス流量増加操作を複数回行うことがあり得る。なお、冷却ガスの流量を増加させた後、鉄皮14の表面温度の状況によっては、流量を減少させてもよい。また、増加させた後に、増加後のガス流量で一定としてもよい。
この一炉代とは、溶鋼浸漬管22の使用開始から補修が必要になる状態までの間、即ち新規に築造した浸漬管、又は補修(例えば、熱間又は冷間による耐火物13、18、19の補修)を実施した浸漬管を、実機にて使用を開始し、次に補修が必要となるまでの間をいう。ここで、浸漬管22の耐火物13、18、19の冷間補修とは、耐火物温度が概ね100℃以下となった後に、例えば、耐火物損傷部位の解体、れんが築造、不定形耐火物の流し込み、ショットキャスト(湿式吹付施工法であって、予め混練したキャスタブル耐火物を対象物へ吹き付けることにより施工する方法)、及び不定形耐火物の吹き付けのいずれか1又は2以上を実施する補修を意味する。
なお、冷却ガスの流量調整を更に簡易に行うため、冷却ガスの流量増加操作を、予め複数回(例えば、3〜5段階程度)に設定しておき、流量を増加させるとき以外は実質的に一定とし、前記した上限温度を超える度に、ガス流量を1段階増加させるように操作する。これにより、複雑な流量制御機構を設けることなく、非常に容易に耐火物の損耗防止効果を継続させることが可能である。
このようにして、浸漬管22のスロート部15を冷却しながら、浸漬管22内に吸い上げた溶鋼にランス32からガスを吹き付け、溶鋼の処理を行う。
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、溶鋼鍋内の溶鋼中に、溶鋼浸漬管の浸漬部を浸漬させ、溶鋼を処理した後の浸漬管のスロート部の耐火物の損耗状況について調査した結果について説明する。なお、調査は、10チャージの実操業(溶鋼鍋10杯分の溶鋼を処理した)後に、耐火物の損耗状況を目視で観察して行った。その結果を表1に示す。なお、冷却ガスとしては、コンプレッサーを用いて供給される圧縮空気を利用した。また、浸漬管の内側に配置される耐火物としては、マグネシア−クロム質れんがを使用した。
Figure 0004653665
表1中において、鉄皮の表面温度は、鉄皮表面の複数箇所に熱電対を配置し、その複数箇所の温度を平均した温度である。ここで、複数箇所とは、冷却ガスの噴射位置に最も近い部分と、隣接する冷却ガスの噴射位置との中間位置を1ペアとする合計3ペアの箇所である。また、冷却ガス流量は、鉄皮の表面に吹き付けた冷却ガス流量の総量である。なお、冷却ガス流量の総量16Nm3/分は、各冷却ガスの噴射ノズル近傍で、20m/秒の流速に相当する量である。
実施例1〜4及び比較例1、2は、鉄皮温度の影響を調査した結果であり、実施例5、6及び比較例3、4は、耐火物の温度勾配の影響を調査した結果である。なお、鉄皮温度の影響の調査に際しては、耐火物の温度勾配を前記実施の形態で示した2.0℃/mm以上7.8℃/mm以下の範囲内に設定している。また、耐火物の温度勾配の影響に際しては、鉄皮の表面温度を前記実施の形態で示した100℃以上350℃以下の範囲内に設定している。
まず、鉄皮温度の影響について説明する。
実施例1〜4から明らかなように、鉄皮の表面温度と耐火物の温度勾配を、共に前記実施の形態で示した範囲内にすることで、スロート部耐火物の損傷を実用に耐え得る状態以上に維持できることを確認できた。
一方、比較例1に示すように、実施例1、2と同じ厚みの耐火物(350mm)及び断熱材(20mm)を使用して、実施例1、2よりも冷却ガスを過剰に流す場合、鉄皮の表面温度が下がり過ぎ、前記実施の形態で示した温度範囲の下限値未満(80℃)になる。ここで、鉄皮は過剰冷却により熱膨張しないが、耐火物は溶鋼(1700℃)と接触するため膨張し、しかも耐火物の厚みが厚くその熱膨張量が大きくなるため、耐火物にかかる鉄皮からの拘束が強くなり、耐火物の押し割れが発生した。
また、比較例2に示すように、実施例3、4と同じ厚みの耐火物(150mm)及び断熱材(20mm)を使用して、実施例3、4よりも冷却ガスの流量を減少させる場合、鉄皮の表面温度が上昇し、前記実施の形態で示した温度範囲の上限値を超える(400℃)。ここで、鉄皮の熱膨張率は耐火物の熱膨張率よりも大きく、しかも耐火物の厚みが薄くその熱膨張量が小さくなるため、鉄皮の熱膨張量が耐火物の熱膨張量よりも過剰に大きくなり、耐火物の目地開きによる損傷が激しくなった。
次に、耐火物の温度勾配の影響について説明する。
実施例5、6から明らかなように、鉄皮の表面温度と耐火物の温度勾配を、共に前記実施の形態で示した範囲内にすることで、スロート部耐火物に損傷が発生しなかったことを確認できた。
一方、比較例3に示すように、実施例5と同じ厚みの耐火物(550mm)を使用して、実施例5よりも断熱材の厚さを厚くし、しかも冷却ガスを流さない場合、耐火物の温度勾配が緩やかになり過ぎ、前記実施の形態で示した温度勾配範囲の下限値未満(1.7℃/mm)になる。このため、耐火物組織中に液相が生成する温度以上となる領域が比較的広くなり、耐火物の溶損による耐火物の損耗が激しくなった。
また、比較例4に示すように、実施例6と同じ厚みの耐火物(150mm)を使用して、実施例6と同じ流量の冷却ガスを流し、実施例6よりも断熱材の厚さを薄くする場合、耐火物の温度勾配が急になり過ぎ、前記実施の形態で示した温度勾配範囲の上限値を超える(7.9℃/mm)。このため、熱スポールによる耐火物の割れが発生した。
以上のことから、鉄皮の表面温度と耐火物の温度勾配を、共に前記実施の形態で示した範囲内にすることで、耐火物にかかる鉄皮からの拘束を過剰に強くすることなく、適度に実施でき、耐火物の損耗を従来よりも抑制、更には防止できることを確認できた。
なお、実施例1〜6については、いずれも断熱材を使用した場合について説明したが、断熱材を使用しない場合についても、鉄皮の表面温度と耐火物の温度勾配を、共に前記実施の形態で示した範囲内にすることで、同様の結果が得られる。
続いて、鉄皮の外周面に吹き付ける冷却ガスの流し方について調査した結果について説明する。なお、参考として、冷却ガスを吹き付けない場合(●:空冷無し)についても示す。
図2に示すように、冷却ガスの吹き付けが無ければ、鉄皮の表面温度は、チャージ数(溶鋼の処理回数)の増加と共に増加する傾向があり、80チャージ程度で300℃を超える。
一方、冷却ガスの吹き付けを行うことで(□:空冷有り)、吹き付け無しの場合と比較して、鉄皮の表面温度を低減できることを確認できた。特に、鉄皮の表面温度が、予め設定した上限温度200℃を超える毎に冷却ガスの流量を増加させ、それ以外はその流量を維持することで、鉄皮の表面温度を200℃以下程度に抑えることができ、耐火物の損傷も低減できた。
なお、図2においては、冷却ガスの吹き付けを行った場合の方が、吹き付けを行わない場合よりも少ないチャージ数で補修を行っているが、これは耐火物の損傷とは関係無い。
また、スロート部の鉄皮に冷却ガスの吹き付けを行うことで、吹き付けを行わない場合と比較して、耐火物の損傷の程度を大幅に小さくでき、補修の手間もあまりかからなかった。更に、浸漬管の寿命に影響を及ぼす部位であるスロート部の寿命が従来よりも伸びたため、浸漬管の寿命も従来と比較して伸ばすことができた。
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、スロート部耐火物の損耗防止方法を、脱炭又は脱ガスの精錬に使用する溶鋼浸漬管に適用した場合について説明したが、他の用途に使用する溶鋼浸漬管に適用してもよい。
(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法を適用する溶鋼浸漬管の部分拡大図、溶鋼浸漬管のスロート部の側断面図である。 鉄皮の表面に吹き付ける冷却ガス流量及び鉄皮の表面温度と溶鋼の処理回数との関係を示すグラフである。
符号の説明
10:下部槽直胴部、11:外表面、12:内表面、13:耐火物、14:鉄皮、15:スロート部、16:外表面、17:内表面、18、19:耐火物、20:芯金、21:浸漬部、22:溶鋼浸漬管、23:溶鋼、24:湯面、25:スロート、26:空冷配管、27:ヘッダー管、28:冷却ブロワー、29:流量調整弁、30:フレキシブル配管、31:断熱材、32:ランス

Claims (4)

  1. 下部槽直胴部の直下に、外表面が大気へ露出し、内表面に耐火物が配置された鉄皮を備えるスロート部を介して設けられ、外表面及び内表面が耐火物で覆われた筒状の芯金を備える浸漬部を有し、しかも前記スロート部の前記鉄皮の内幅の一部が、前記浸漬部の前記芯金の内幅と異なる溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、
    前記スロート部の前記鉄皮の外側周囲から冷却ガスを吹き付け、前記スロート部の前記鉄皮の表面温度を100℃以上350℃以下、前記スロート部の前記耐火物の温度勾配を2.0℃/mm以上7.8℃/mm以下に調整することを特徴とする溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法。
  2. 請求項1記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、前記スロート部の前記鉄皮の表面温度を測定し、その測定温度が、150℃以上300℃以下の範囲内で予め設定した上限温度を超えた時点で、前記スロート部に吹き付ける冷却ガスの流量を増加させることを特徴とする溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法。
  3. 請求項2記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、前記冷却ガスの流量は、増加させるとき以外は実質的に一定であり、前記溶鋼浸漬管の使用開始から補修が必要になる状態までの間に、前記冷却ガスの流量増加操作を複数回行うことを特徴とする溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法において、少なくとも前記スロート部の前記鉄皮と前記耐火物との間に、厚さが5mmを超え50mm以下、熱伝導度が0.05W/m/℃以上0.5W/m/℃以下の断熱材を配置することを特徴とする溶鋼浸漬管のスロート部耐火物の損耗防止方法。
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