本願発明者らは、上述したように、正弦参照値を用いて位相差推定値を算出した場合、ロータ角度の実際値と推定値との位相差によって、位相差推定値のレベルが極端に変動することを知見した。そして、このように位相差推定値のレベルが変動した場合、該位相差推定値に基づいてロータ角度を推定すると、ロータ角度の実際値に対する推定値の誤差が大きくなり、該推定値を用いて駆動電圧を決定したときにモータの脱調等が生じるおそれがある。
そこで、本発明は、ロータ角度の推定値と実際値との位相差に応じた位相差推定値のレベルの変動を抑制して、ロータ角度を精度良く推定することができるDCブラシレスモータのロータ角度推定方法、及びDCブラシレスモータの制御装置を提供することを目的とする。
先ず、本発明について説明する前に、本発明の前提となる基本的な考え方を図1を参照して説明する。図1はDCブラシレスモータ1の構成を模式的に示したものであり、突極型のロータ2を使用した場合、モータ1の3相(U,V,W)の電機子3,4,5に印加される電圧Vu,Vv,Vwと、流れる電流Iu,Iv,Iwとの関係は、以下の式(13)により表される。
但し、Vu,Vv,Vw:各相電圧、Iu,Iv,Iw:各相電流、r:相抵抗、Ke:誘起電圧定数、l:電機子の自己インダクタンス、m:電機子の相互インダクタンス、θ:ロータ角度、ωre:角速度。
モータ1の回転数がほぼゼロで、誘起電圧やロータ角度の変化による影響が少なく、相抵抗による電圧も無視できるほど小さい場合、上記式(13)は以下の式(14)で近似される。
また、上記式(14)を相間電流及び相間電圧による式に変形すると以下の式(15),式(16)が得られる。
次に、モータ1を、界磁の磁束方向であるq軸上のq軸電機子とq軸と直交するd軸上のd軸電機子とを有する等価回路に変換するいわゆるdq変換モデルを用いた場合、ロータ角度の推定値θ^を用いて変換した、d軸電圧Vd^及びq軸電圧Vq^とd軸電流Id^及びq軸電流Iq^との関係は、電気角速度がほぼセロでd軸電機子及びq軸電機子の抵抗による電圧効果も無視できるレベルである場合、以下の式(17)で表される。
但し、Id^:d軸電流、Iq^:q軸電流、Vd^:d軸電圧、Vq^:q軸電圧、Ld:d軸電機子のインダクタンス、Lq:q軸電機子のインダクタンス、θe:ロータ角度の実際値θと推定値θ^との位相差。
以上の説明を基礎として本発明を以下に説明する。本発明のDCブラシレスモータのロータ角度推定方法の第1の態様は、DCブラシレスモータを、該モータの界磁の磁束方向であるq軸上にあるq軸電機子と、q軸と直交するd軸上にあるd軸電機子とを有する等価回路に変換して扱い、前記モータの電機子に流れる相電流を検出する電流検出手段と、該電流検出手段により検出される相電流と前記モータのロータ角度の推定値とに基づいて、前記d軸電機子に流れるd軸電流と前記q軸電機子に流れるq軸電流とを算出するdq電流算出手段とを備え、前記d軸電機子に流れる電流の指令値であるd軸指令電流とd軸電流との偏差及び前記q軸電機子に流れる電流の指令値であるq軸指令電流とq軸電流との偏差を小さくするように、所定の制御サイクル毎に前記d軸電機子に印加するd軸電圧及び前記q軸電機子に印加するq軸電圧を決定して、前記モータの通電制御を行うモータ制御装置において、前記モータのロータ角度を推定する方法の改良に関する。
そして、前記d軸電圧と前記q軸電圧に高周波電圧を重畳する第1の工程と、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータのd軸電流とq軸電流の変化に基づいて算出される、前記モータのロータ角度の推定値と実際値との位相差の2倍角に応じた正弦参照値及び余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じた位相差参照値を算出すると共に、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータのd軸電流とq軸電流の変化に基づいて、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じたインダクタンス参照値を算出する第2の工程と、前記位相差参照値を前記インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する正規化処理を行って、前記モータのロータ角度の推定値と実際値との位相差に応じて所定範囲内で変化する位相差推定値を算出する第3の工程と、前記位相差推定値に基づいて、前記モータのロータ角度の推定値を更新する第4の工程とからなることを特徴とする。
かかる発明において、前記通電制御が実行されたときのd軸電機子とq軸電機子のインダクタンスは、詳細は後述するが、ロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて変化する。そして、上記式(17)に示したように、d軸電流Id^とq軸電流Iq^は、d軸電機子のインダクタンスLdとq軸電機子のインダクタンスLqに依存する。そのため、前記第2の工程において、前記モータのd軸電流とq軸電流の変化に基づいて算出される前記正弦参照値及び前記余弦参照値と、該正弦参照値及び該余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて算出される前記位相差参照値は、d軸電機子とq軸電機子のインダクタンスに応じて変化する。
そこで、前記第2の工程において前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じた前記インダクタンス参照値を算出し、前記第3の工程において、前記位相差参照値を該インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する前記正規化処理を行うことで、前記モータのインダクタンスの変化の影響を抑制して、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて所定範囲内で変化する前記位相差推定値を算出することができる。そして、前記第4の工程において、前記位相差推定値に基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新することにより、前記モータのロータ角度を精度良く推定することができる。
また、本発明のDCブラシレスモータの制御装置の第1の態様は、DCブラシレスモータを、該モータの界磁の磁束方向であるq軸上にあるq軸電機子と、q軸と直交するd軸上にあるd軸電機子とを有する等価回路に変換して扱い、前記モータの電機子に流れる相電流を検出する電流検出手段と、前記モータのロータ角度の推定値を算出するロータ角度推定手段と、該電流検出手段により検出される相電流と前記モータのロータ角度の推定値とに基づいて、前記d軸電機子に流れるd軸電流と前記q軸電機子に流れるq軸電流とを算出するdq電流算出手段と、前記d軸電機子に流れる電流の指令値であるd軸指令電流とd軸電流との偏差及び前記q軸電機子に流れる電流の指令値であるq軸指令電流とq軸電流との偏差を小さくするように、所定の制御サイクル毎に前記d軸電機子に印加するd軸電圧及び前記q軸電機子に印加するq軸電圧を決定して、前記モータの通電制御を行う通電制御手段とを備えたDCブラシレスモータの制御装置の改良に関する。
そして、前記d軸電圧と前記q軸電圧に高周波電圧を重畳する高周波重畳手段と、前記高周波が重畳されたときの前記モータのd軸電流とq軸電流の変化に基づく、前記モータのロータ角度の推定値と実際値との位相差の2倍角に応じた正弦参照値及び余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じた位相差参照値を算出すると共に、前記高周波が重畳されたときの前記モータのd軸電流とq軸電流の変化に基づいて、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じたインダクタンス参照値を算出する参照値算出手段と、前記位相差参照値を前記インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する正規化処理を行って、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて所定範囲内で変化する位相差推定値を算出する位相差推定値算出手段とを備え、前記ロータ角度推定手段は、前記位相差推定値に基づいて、前記モータのロータ角度の推定値を更新することを特徴とする。
かかる本発明において、前記通電制御が実行されたときのd軸電機子とq軸電機子のインダクタンスは、詳細は後述するが、ロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて変化する。そして、上記式(17)に示したように、d軸電流Id ^とq軸電流Iq ^は、d軸電機子のインダクタンスLdとq軸電機子のインダクタンスLqに依存する。そのため、前記参照値算出手段により、前記モータのd軸電流とq軸電流の変化に基づく前記正弦参照値及び前記余弦参照値のうちの少なくとのいずれか一方を用いて算出される前記位相差参照値は、d軸電機子とq軸電機子のインダクタンスに応じて変化する。
そこで、前記参照値算出手段により、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じた前記インダクタンス参照値を算出し、前記位相差推定値算出手段により、前記位相差参照値を該インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する前記正規化処理を行うことで、前記モータのインダクタンスの変化の影響を抑制して、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて所定範囲内で変化する前記位相差推定値を算出することができる。そして、前記ロータ角度推定手段により、前記位相差推定値に基づいて前記モータのロータ角度を更新することによって、前記モータのロータ角度を精度良く推定することができる。
また、前記高周波重畳手段は、前記高周波電圧として、2以上の制御サイクルを含む所定期間における出力電圧の総和がゼロとなる周期信号をd軸電圧及びq軸電圧に重畳し、前記参照値算出手段は、前記所定期間におけるd軸電圧及びq軸電圧を一定として、前記所定期間中の隣接する制御サイクル間における前記モータの相電流の一階差分に対応したd軸電流の一階差分とq軸電流の一階差分を、ロータ角度の推定値を用いて算出し、該d軸電流の一階差分と該q軸電流の一階差分とを用いて、前記正弦参照値及び前記余弦参照値と前記インダクタンス参照値とを算出することを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記参照値算出手段は、前記高周波重畳手段により、前記所定期間における出力電圧の総和がゼロとなる周期信号が前記d軸電圧及び前記q軸電圧に重畳されたときに、前記所定期間中における前記d軸電圧及び前記q軸電圧を一定として、前記所定期間中の隣接する制御サイクル間の前記モータの相電流の1階差分に対応したd軸電流の1階差分及びq軸電流の1階差分を算出する。そして、前記参照値算出手段により、該d軸電流の1階差分及びq軸電流の1階差分を用いて、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差の2倍角に応じた前記正弦参照値及び前記余弦参照値と、前記インダクタンス参照値とを算出することで、前記電流検出手段による相電流の検出誤差の影響を低減して、前記正弦参照値及び前記余弦参照値と前記インダクタンス参照値を算出することができる。
また、前記参照値算出手段は、以下の式(18)〜(24)により、前記正弦参照値及び前記余弦参照値と前記インダクタンス参照値とを算出することを特徴とする。
但し、Vsdq:正弦参照値、Vcdq:余弦参照値、L0:インダクタンス参照値、dIdq(i+1)〜dIdq(i+n)…前記周期信号の前記所定期間中にn個の制御サイクルが含まれる場合の、隣接する制御サイクル間のd軸電流及びq軸電流の1階差分、i:正弦参照値及び余弦参照値とインダクタンス参照値の算出周期の番号。
但し、Ld:d軸電機子の平均インダクタンス、Lq:q軸電機子の平均インダクタンス。
但し、j=1,2,…,n、dId(i+j):d軸電流の1階差分、dIq(i+j):q軸電流の1階差分。
但し、Vhd(i+j):前記周期信号の前記所定周期におけるj番目の制御サイクルのd軸電機子への出力電圧、Vhq(i+j):前記周期信号の前記所定期間におけるj番目の制御サイクルのq軸電機子への出力電圧。
ここで、上記式(17)を離散時間系で表すと、以下の式(23)のようになる。
但し、Vfbd:i番目の制御サイクルにおけるd軸電圧、Vfbq:i番目の制御サイクルにおけるq軸電圧、Vhd(i):i番目の制御サイクルにおける前記周期信号のd軸電圧への重畳電圧、Vhq(i):i番目の制御サイクルにおける前記周期信号のq軸電圧への重畳電圧、ΔT:制御サイクルの時間。
また、前記周期信号は、以下の式(24)を満たすn個の制御サイクルを1周期とする信号である。
ここで、d軸電圧Vfbd(i)とq軸電圧Vfbq(i)がゼロの場合を考えると、上記式(23)は以下の式(25)の形になる。
そこで、cdq(i)を以下の式(26)のようにおくと、上記式(25)から、以下の式(27)、式(28)の関係が成り立つ。
ここで、前記所定期間におけるd軸電圧,q軸電圧が一定値Vfbdqとすると、以下の式(29)のようになる。
そのため、前記式(28)の右辺の第1項はゼロとなり、以下の式(30)が得られる。
したがって、前記参照値算出手段は、上記式(18)により、正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0を算出することができ、前記位相差推定値算出手段は、該正弦参照値Vsdq及び該余弦参照値Vcdqのうちの少なくともいずれか一方と該インダクタンス参照値L0とを用いて、前記位相差推定値を算出することができる。
また、前記位相差推定値算出手段は、以下の式(31)により、前記位相差推定値を算出することを特徴とする。
但し、θE1:位相差推定値、Vsdq:正弦参照値(=位相差参照値)、L0:インダクタンス参照値。
かかる本発明によれば、前記モータのロータ角度の実際値θと推定値θ^との位相差が小さいとき(θ−θ^≒0)は、上記式(31)により、前記正弦参照値Vsdqを前記位相差参照値として前記インダクタンス参照値L0で除することによって、前記位相差推定値を算出することができる。
また、前記ロータ角度推定手段は、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差を解消するように、前記位相差推定値に基づいて前記モータのロータ角度の推定値を逐次更新しつつ算出するオブザーバにより、前記モータのロータ角度の推定値を更新することを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記ロータ角度推定手段により、前記位相差推定値を用いて構成されたオブザーバによって前記モータのロータ角度の推定値を順次更新し、前記通電制御手段により、該ロータ角度の推定値に基づいて前記モータの通電制御を行うことができる。
また、前記位相差推定値に前記d軸指令電流に比例したオフセット値を加えて、前記位相差推定値を補正する位相差推定値補正手段を備えたことを特徴とする。
かかる本発明によれば、詳細は後述するが、前記位相差推定値に前記オフセット値を加える補正を行うことによって、ロータ角度の推定精度を高めることができると共に、正負により相違する前記位相差推定値の絶対値のレベルの差を縮小して、前記位相差推定値を算出できる範囲を広げることができる。
また、本発明のDCブラシレスモータのロータ角度推定方法の第2の態様は、DCブラシレスモータの電機子に流れる相電流と目標電流との偏差を小さくするように、所定の制御サイクル毎に、該モータのロータ角度の推定値を用いて該モータの電機子に印加する駆動電圧を決定して該モータの通電制御を行うモータ制御装置において、該モータのロータ角度を推定する方法の改良に関する。
そして、前記記駆動電圧に高周波電圧を重畳する第1の工程と、前記駆動電圧に前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの相電流の変化に基づいて算出される、前記モータのロータ角度の2倍角に応じた正弦参照値及び余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じた位相差推定値を算出すると共に、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの相電流の変化に基づいて、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じたインダクタンス参照値を算出する第2の工程と、前記位相差参照値を前記インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する正規化処理を行って、前記モータのロータ角度の推定値と実際値との位相差に応じて所定範囲内で変化する位相差推定値を算出する第3の工程と、前記位相差推定値に基づいて、前記モータのロータ角度の推定値を更新する第4の工程とからなることを特徴とする。
かかる本発明において、前記通電制御が実行されたときの前記モータのインダクタンスは、詳細は後述するが、ロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて変化する。そして、上記式(15)に示したように、相電流Iu,Iwは、モータのインダクタンスl,mに依存する。そのため、前記第2の工程において、前記モータの相電流の変化に基づく前記正弦参照値及び前記余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて算出される前記位相差参照値は、前記モータのインダクタンスに応じて変化する。
そこで、前記第2の工程において前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じた前記インダクタンス参照値を算出し、前記第3の工程において、前記位相差参照値を該インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する前記正規化処理を行うことで、前記モータのインダクタンスの変化の影響を抑制して、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて所定範囲内で変化する前記位相差推定値を算出することができる。そして、前記第4の工程において、前記位相差推定値に基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新することにより、前記モータのロータ角度を精度良く推定することができる。
また、本発明のDCブラシレスモータの制御装置の第2の態様は、DCブラシレスモータの電機子に流れる相電流を検出する電流検出手段と、該モータのロータ角度の推定値を算出するロータ角度推定手段と、該電流検出手段により検出される相電流と該モータのロータ角度の推定値とに基づいて、所定の目標電流と相電流との偏差を小さくするように、所定の制御サイクル毎に該モータの電機子に印加する駆動電圧を決定して該モータの通電制御を行う通電制御手段とを備えたDCブラシレスモータの制御装置の改良に関する。
そして、前記駆動電圧に高周波電圧を重畳する高周波重畳手段と、前記前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの相電流の変化に基づく、前記モータのロータ角度の2倍角に応じた正弦参照値及び余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じた位相差参照値を算出すると共に、前記高周波が重畳されたときの前記モータの相電流の変化に基づいて、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じたインダクタンス参照値を算出する参照値算出手段と、前記位相差参照値を前記インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する正規化処理を行って、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて所定範囲内で変化する位相差推定値を算出する位相差推定値算出手段とを備え、前記ロータ角度推定手段は、前記位相差推定値に基づいて、前記モータのロータ角度の推定値を更新することを特徴とする。
かかる本発明において、前記通電制御が実行されたときの前記モータのインダクタンスは、詳細は後述するが、ロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて変化する。そして、上記式(15)に示したように、相電流Iu,Iwは、モータのインダクタンスl,mに依存する。そのため、前記参照値算出手段により、前記モータの相電流の変化に基づく前記正弦参照値及び前記余弦参照値のうちの少なくともいずれか一方を用いて算出される前記位相差参照値は、モータのインダクタンスに応じて変化する。
そこで、前記参照値算出手段により、前記高周波電圧が重畳されたときの前記モータの平均インダクタンスに応じた前記インダクタンス参照値を算出し、前記位相差推定値算出手段により、前記位相差参照値を該インダクタンス参照値のレベルに応じて補正する前記正規化処理を行うことで、前記モータのインダクタンスの変化の影響を抑制して、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差に応じて所定範囲内で変化する前記位相差推定値を算出することができる。そして、前記ロータ角度推定手段により、前記位相差推定値に基づいて前記モータのロータ角度を更新することによって、前記モータのロータ角度を精度良く推定することができる。
また、前記高周波重畳手段は、前記高周波電圧として、2以上の制御サイクルを含む所定期間における出力電圧の総和がゼロとなる周期信号を前記駆動電圧に重畳し、前記参照値算出手段は、前記所定期間における前記駆動電圧を一定として、隣接する制御サイクル間における前記モータの相電流の一階差分を算出し、該一階差分を用いて前記正弦参照値及び前記余弦参照値と前記インダクタンス参照値とを算出することを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記参照値算出手段は、前記高周波重畳手段により、前記所定期間における出力電圧の総和がゼロとなる周期信号が前記駆動電圧に重畳されたときに、前記所定期間中における前記駆動電圧を一定として、前記所定期間中の隣接する制御サイクル間の前記モータの相電流の1階差分を算出する。そして、前記参照値算出手段により、該相電流の1階差分を用いて、前記モータのロータ角度の2倍角に応じた前記正弦参照値及び前記余弦参照値と、前記インダクタンス参照値とを算出することで、前記電流検出手段による相電流の検出誤差の影響を低減して、前記正弦参照値及び前記余弦参照値と前記インダクタンス参照値を算出することができる。
また、前記参照値算出手段は、以下の式(32)〜(36)により、前記正弦参照値及び前記余弦参照値と前記インダクタンス参照値とを算出することを特徴とする。
但し、Vs:正弦参照値、Vc:余弦参照値、Llm:インダクタンス参照値、l:モータの各相の自己インダクタンスの平均値、m:モータの各相間の相互インダクタンスの平均値、dI(i+1)〜dI(i+n)…前記周期信号の前記所定期間中にn個の制御サイクルが含まれる場合の、隣接する制御サイクル間の相電流の1階差分、i:正弦参照値及び余弦参照値とインダクタンス参照値の算出周期の番号。
但し、θ:モータのロータ角度。
但し、j=1,2,…,n、dIu(i+j):U相の相電流の1階差分、dIw(i+j):W相の相電流の1階差分。
但し、Vhuv(i+j):周期信号の前記所定期間におけるj番目の制御サイクルのU相とV相の相間電圧、Vhwv(i+j):周期信号の前記所定期間におけるj番目の制御サイクルのW相とV相の相間電圧。
ここで、上記式(15)を離散時間系で表すと、以下の式(37)のようになる。
但し、Vfbu(i),Vfbv(i),Vfbw(i):i番目の制御サイクルにおける前記駆動電圧、Vhu(i),Vhv(i),Vhw(i):i番目の制御サイクルにおける前記周期信号の出力電圧、ΔT:制御サイクルの時間。
また、前記周期信号は、以下の式(38)を満たすn個の制御サイクルを1周期とする信号である。
ここで、Vfbがゼロの場合を考えると、上記式(37)は、以下の式(39)の形になる。
そこで、c(i)を以下の式(40)のようにおくと、上記式(39)から、以下の式(41)、式(42)の関係が成り立つ。
ここで、前記所定期間における駆動電圧が一定値Vfbであるとすると、以下の式(43)のようになる。
そのため、上記式(42)の右辺の第1項は0となり、以下の式(44)が得られる。
したがって、上記式(32)により、正弦参照値Vs及び余弦参照値Vcとインダクタンス参照値Llmを算出することができ、前記位相差推定値算出手段は、該正弦参照値Vs及び該余弦参照Vcのうちの少なくともいずれか一方を用いて前記位相差参照値を算出し、該位相差参照値と該インダクタンス参照値Llmを用いて、前記位相差推定値を算出することができる。
また、前記位相差推定値算出手段は、以下の式(45)により、前記位相差推定値を算出することを特徴とする。
但し、θE2:位相差推定値、θe:ロータ角度の実際値と推定値との位相差、Vs:正弦参照値、Vc:余弦参照値、Vs・cos2θ^−Vc・sin2θ^:位相差参照値、θ^:ロータ角度の推定値、Llm:インダクタンス参照値。
かかる本発明によれば、前記モータのロータ角度の実際値θと推定値θ^との位相差が小さいとき(θ−θ^≒0)は、上記式(45)により、Vs・cos2θ^−Vc・sin2θ^を位相差参照値として前記インダクタンス参照値Llmで除することによって、前記位相差推定値を算出することができる。
また、前記ロータ角度推定手段は、前記モータのロータ角度の実際値と推定値との位相差を解消するように、前記位相差推定値に基づいて前記モータのロータ角度の推定値を逐次更新しつつ算出するオブザーバにより、前記モータのロータ角度の推定値を更新することを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記ロータ角度推定手段により、前記位相差推定値を用いて構成されたオブザーバによって前記モータのロータ角度の推定値を順次更新し、前記通電制御手段により、該ロータ角度の推定値に基づいて前記モータの通電制御を行うことができる。
また、前記位相差推定値に前記目標電流に比例したオフセット値を加えて、前記位相差推定値を補正する位相差推定値補正手段を備えたことを特徴とする。
かかる本発明によれば、詳細は後述するが、前記位相差推定値に前記オフセット値を加える補正を行うことによって、ロータ角度の推定精度を高めることができると共に、正負により相違する前記位相差推定値のレベルの差を縮小して、前記位相差推定値を算出できる範囲を広げることができる。
本発明の実施の形態について、図1〜図13を参照して説明する。図1はDCブラシレスモータの構成図、図2は第1の実施の形態におけるモータ制御装置の構成図、図3は図2に示したモータ制御装置における周期信号の出力態様の説明図、図4は図2に示したモータ制御装置におけるロータ角度の推定処理のフローチャート、図5は図4のフローチャートに対応したタイミングチャート、図6はロータ磁極の飽和の有無による正弦参照値の相違を示した比較グラフ、図7は正弦参照値及び余弦参照値により正弦参照値の正規化を図った場合の比較グラフ、図8はロータ磁極の飽和の有無によるインダクタンス参照値の相違を示した比較グラフ、図9はロータ角度の実際値と推定値の位相差によるモータのインダクタンスの変化の説明図、図10はインダクタンス参照値により正弦参照値を正規化した場合の比較グラフ、図11は位相差推定値にオフセット値を加える補正を行った場合の効果を説明したグラフ、図12は第2の実施の形態におけるモータ制御装置の構成図、図13は第2の実施の形態におけるロータ角度の推定処理のフローチャートである。
[第1の実施の形態]先ず、図1〜図11を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。図2に示したDCブラシレスモータの制御装置40(以下、単に制御装置40という)は、図1に示したDCブラシレスモータ1(以下、単にモータ1という)の3相(U、V,W)の電機子3,4,5に流れる電流をフィードバック制御するものであり、モータ1をロータ2の界磁極の磁束方向であるq軸上にあるq軸電機子と該q軸と直交するd軸上にあるd軸電機子とを有するdq座標系による等価回路に変換して扱う。
そして、制御装置40は、外部から与えられるd軸指令電流Id_cとq軸指令電流Iq_cとに応じて、d軸電機子に流れる電流(以下、d軸電流という)とq軸電機子に流れる電流(以下、q軸電流という)をフィードバック制御する。
制御装置40は、d軸電機子への印加電圧Vfbd(以下、d軸電圧Vfbdという)とq軸電機子への印加電圧Vfbq(以下、q軸電圧Vfbqという)に、ロータ角度推定用の周期信号VhdとVhq(本発明の高周波電圧に相当する)を重畳する周期信号重畳部51(本発明の高周波電圧重畳手段に相当する)、d軸電圧Vfbdとq軸電圧Vfbq(周期信号VhdとVhqが重畳されているときは、Vfbd+VhdとVfbq+Vhq)を、モータ1のU,V,Wの3相の電機子に印加する駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwに変換するdq/3相変換部20、及びVfbu,Vfbv,Vfbwに応じた電圧Vu,Vv,Vwがモータ1のU,V,Wの各相の電機子に印加されるように、複数のスイッチング素子をブリッジ接続して構成されたインバータ回路からなるパワードライブユニット22を備えている。
さらに、制御装置40は、モータ1のU相の電機子に流れる電流を検出するU相電流センサ23(本発明の電流検出手段に相当する)、モータ1のW相の電機子に流れる電流を検出するW相電流センサ24(本発明の電流検出手段に相当する)、U相電流センサ23の検出電流値IuとW相電流センサ24の検出電流値Iwとに応じてd軸電流Idとq軸電流Iqとを算出する3相/dq変換部26(本発明のdq電流算出手段に相当する)、モータ1のロータ角度θの推定値θ^を算出する角度推定部50(本発明のロータ角度推定手段、参照値算出手段、及び位相差推定値算出手段の機能を含む)、及びd軸とq軸間で干渉し合う速度起電力の影響を打ち消す処理を行なう非干渉演算部27を備える。
そして、制御装置40は、d軸指令電流Id_cとd軸電流Idを第1減算器28で減算し、その減算結果に第1のPI演算部29でPI(比例積分)処理を施し、第1加算器30で非干渉成分αを加算して、以下の式(46)によりd軸指令電流Id_cとd軸電流Idの偏差に応じたd軸電圧Vfbdを生成する。
但し、Kp:比例ゲイン、Ki:積分ゲイン、α:非干渉成分。
また、制御装置40は、同様にして、q軸指令電流Iq_cとq軸電流Iqを第2減算器31で減算し、その減算結果に第2のPI演算部32でPI処理を施し、第2加算器33で非干渉成分βを加算して、以下の式(47)によりq軸指令電流Iq_cとq軸電流Iqとの偏差に応じたq軸電圧Vfbqを生成する。
但し、Kp:比例ゲイン、Ki:積分ゲイン、β:非干渉成分。
そして、制御装置40は、d軸電圧Vfbdとq軸電圧Vfbqとをdq/3相変換部20に入力する。dq/3相変換部20は、以下の式(48)により、3相の駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwを算出してパワードライブユニット22に出力する。
これにより、パワードライブユニット22を介して、d軸指令電流Id_cとd軸電流Idとの偏差、及びq軸指令電流Iq_cとq軸電流Iqとの偏差を小さくする3相の駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwがモータ1の電機子に印加されて、モータ1の電機子に流れる電流がフィードバック制御される。
なお、このように、d軸指令電流Id_cとd軸電流Idとの偏差、及びq軸指令電流Iq_cとq軸電流Iqとの偏差を小さくするように、3相の駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwを決定してモータ1の相電流を制御する構成が、本発明の通電制御手段に相当する。
ここで、dq/3相変換部20によりd軸駆圧Vfbdとq軸電圧Vfbqを3相の駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwに変換する際には、モータ1のロータ角度θが必要となる。また、3相/dq変換部26によりU相電流センサ23の検出電流値IuとW相電流センサ24の検出電流値Iwをd軸電流Idとq軸電流Iqに変換する際にも、モータ1のロータ角度θが必要となる。
そして、制御装置10は、レゾルバ等の位置検出センサを用いずに、第3加算器52及び第4加算器53において、周期信号重畳部51によりd軸電圧Vfbd,Vfbqに周期信号Vhd,Vhqを重畳することによって、ロータ角度θの推定処理を実行する。
なお、本実施の形態における周期信号Vhd,Vhqは、図3(a)に示したように、制御装置10の3制御サイクル(T11,T12,T13)を1周期として、1周期で各相(Vhd,Vhq)の出力電圧の総和がゼロとなるように出力パターンが設定されている。また、他の出力パターンとしては、例えば図3(b)に示したように、4制御サイクル(T21,T22,T23,T24)を1周期とし、1周期中の2制御サイクル(T21とT22、T23とT24)毎に出力電圧の総和がゼロとなるように設定してもよい。また、周期信号Vhd,Vhqの1周期の長さは2制御サイクル以上であればよい。
以下、図4に示したフローチャートに従って、制御装置40におけるモータ1のロータ角度の推定処理について説明する。制御装置40は、カウンタ変数ptrを0とし、周期信号重畳部51により、d軸電圧Vfbdに周期信号Vhdを重畳すると共にq軸電圧Vfbqに周期信号Vhqを重畳して、図4のフローチャートを繰り返し実行する。
角度推定部50は、STEP30で、U相電流センサ23とW相電流センサ24により検出される相電流Iu,Iwを取り込み、STEP31で前回の制御サイクルにおける相電流Iu,Iwとの1階差分dIu,dIwを算出する。そして、次のSTEP2で該1階差分dIu,dIwを3相/dq変換したdId,dIqを算出し、これを保持する。
また、次のSTEP33でカウンタ変数ptrが1であったときはSTEP34に進んでSTEP34〜STEP37の処理を行い、STEP33でカウンタ変数ptrが1でなかったときにはSTEP38に分岐する。
ここで、カウンタ変数ptrはSTEP43で各制御サイクル毎にインクリメントされ、STEP44でptr=3になったときにSTEP45でクリア(ptr=0)される。そのため、周期信号Vhd,Vhqの1周期に相当する3制御サイクルが経過する毎にSTEP33でptr=1となって、STEP34〜STEP37の処理が実行される。
角度推定部50は、STEP34で、今回と前回及び前々回の制御サイクルのSTEP32で算出された1階差分dId,dIqを用いて、正弦参照値Vsdqと余弦参照値Vcdqを算出する。具体的には、上記式(18)で、nを周期信号Vhd,Vhqの1周期中に含まれる制御サイクルの個数である3に置き換えた以下の式(49)により、角度推定部50は正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0とを算出する。なお、角度推定部50により、正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0を算出する構成が、本発明の参照値算出手段に相当する。
但し、Vsdq:正弦参照値、Vcdq:余弦参照値、L0:インダクタンス参照値、dIdq(i+1)〜dIdq(i+3):ptr=2,0,1となる制御サイクルにおいて算出されたd軸電流及びq軸電流の1階差分。
ここで、上記式(49)により、d軸電流及びq軸電流の1階差分を用いて正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0を算出することによって、d軸電流及びq軸電流の2階差分を用いる場合に比べて、U相電流センサ23及びW相電流センサ24の検出誤差の影響を低減する効果が期待できる。
そして、角度推定部50は、ロータ角度の実際値θと、dq/3相変換部20及び3相/dq変換部26における変換に用いられたロータ角度の推定値θ^との位相差θeに応じた位相差推定値θE1を、以下の式(50)により算出する。
但し、θE1:位相差推定値、Vsdq:正弦参照値(本発明の位相差参照値に相当する)、L0:インダクタンス参照値、θe:ロータ角度の実際値θと推定値θ^との位相差。
そして、角度推定部50は、以下の式(51)のオブザーバによる追従演算によって、ロータ角度の推定値θ^を更新して算出する。
但し、θ^(n+1):ロータ角度の推定値の更新値、ω^(n+1):ロータの角速度の推定値の更新値、Δt:周期信号Vhd,Vhqの1周期(3制御サイクル)の時間、θ^(n):ロータ角度の推定値の前回値、ω^(n):ロータの角速度の推定値の前回値、θE1(n):位相差推定値、K1,K2,K~:演算ゲイン、offset:d軸指令電流に比例したオフセット値。
そこで、角度推定部50は、STEP35において、上記式(50)により、上記式(51)で必要となる位相差推定値θE1を算出する。続くSTEP36で、3相/dq変換部26により算出されるId,Iqが電流フィードバック制御用に保持される。そして、STEP37で、3相/dq変換部26及びdq/3相変換部20において使用されるロータ角度の推定値θ^が更新される。
次のSTEP38でカウンタ変数ptrが0となったときに、STEP39に進み、上記式(46)、式(47)により、d軸電圧Vfbdとq軸電圧Vfbqが算出される。また、STEP40で角度推定部50が上記式(51)によりロータ角度の推定値θ^を算出する。一方、STEP38でptrがゼロでなかったときにはSTEP41に分岐し、STEP39〜STEP40の処理は実行されない。
そのため、d軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbqとロータ角度の推定値θ^は、周期信号Vhd,Vhqの1周期毎(3制御サイクル毎)に更新され、周期信号Vhd,Vhqの1周期中は、d軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbqとロータ角度の推定値θ^は一定に保持される。また、上述したように、3相/dq変換部26及びdq/3相変換部で用いられるロータ角度の推定値θ^は、ptr=1となったときにSTEP37で更新される。そのため、STEP40で更新されたロータ角度の推定値θ^は、次の制御サイクルからdq/3相変換部20及び3相/dq変換部26で用いられる。
このように、dq変換用のロータ角度の推定値θ^の更新を遅らせているのは、STEP39においてd軸電圧Vfbd及びVfbqを算出した時点におけるロータ角度の推定値θ^と、STEP32でd軸電流の1階差分dId及びq軸電流の1階差分dIqを算出する時点におけるロータ角度の推定値θ^を一致させるためである。STEP39とSTEP32におけるロータ角度の推定値θ^を一致させることにより、差分電流dId,dIq算出時のロータ角度の推定値θ^の変化による誤差を防ぐことができる。
続くSTEP41で、周期信号重畳部51によりd軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbqに周期信号Vhd,Vhqが算出され、STEP42でdq/3相変換部20によりd軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbqが、3相駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwに変換されてパワードライブユニット22に出力される。そして、続くSTEP44〜STEP46により、上述したカウンタ変数ptrのインクリメント又はクリア処理が行われて、1制御サイクルが終了する。
なお、STEP41で、周期信号重畳部21により周期信号Vhd,Vhqを重畳する処理が本発明の第1の工程に相当し、STEP34で正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0を算出して、STEP35で位相差推定値θE1を算出する処理が本発明の第2の工程に相当する。また、STEP40で、位相差推定値θE1にオフセット値を加えて補正する処理が本発明の第3の工程に相当し、補正された位相差推定値θE1を用いてロータ角度の推定値θ^を更新する処理が本発明の第4の工程に相当する。また、STEP40で、位相差推定値θE1にオフセット値を加えて位相差推定値θE1を補正する構成が、本発明の位相差推定値補正手段に相当する。
図5は以上説明した図4のフローチャートによる処理を繰り返し実行して、ロータ角度の推定値θ^を算出した場合のタイミングチャートである。サイクル50で処理が開始され、ptr=1,2,0に対応した3制御サイクル(サイクル51,52,60、サイクル61,62,70、…)が、周期信号Vhdq(Vhd,Vhq)の1周期であり、周期信号が、Vhdq(0)(ptr=1のとき)→Vhdq(1)(ptr=2のとき)→Vhdq(2)(ptr=0のとき)と切り替わっている。
そして、d軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbq(以下、まとめてdq電圧Vfbdqという)が算出される(図4のSTEP39の処理)のはptr=0となる制御サイクルであるから、周期信号VhdqがVhdq(0)→Vhdq(1)→Vhdq(2)と切換わる間、dq電圧Vfbdqは一定(サイクル51,52,53の間はVfbdq(0)、サイクル61,62,63の間はVfbdq(1))に維持されている。
そして、ptr=1である制御サイクル61と制御サイクル71で、ロータ角度の実際値と推定値との位相差θeに応じた位相差推定値θE1が算出(図4のSTEP35の処理)されると共に、dq/3相変換部20及び3相/dq変換部26で使用されるロータ角度の推定値θ^が更新される(図4のSTEP37の処理)。また、ptr=0である制御サイクル61と制御サイクル71で、dq電圧Vfbdqとロータ角度の推定値θ^が更新される(図4のSTEP39〜STEP40の処理)。このように、dq電圧Vfbdqの更新とロータ角度の推定値θ^の更新の演算を同じタイミングで行なうことによって、dq電圧Vfbdqを更新する際のロータ角度のずれを排除している。
また、図中cはd軸電流及びq軸電流の変化を示し、dはd軸電流及びq軸電流のフィードバック制御の応答を示している。そして、周期信号Vhdqの重畳によるd軸電流及びq軸電流のフィードバック制御の影響は、図中P12,P13のタイミングで算出されるdq電圧Vfbdqによりキャンセルされる。
次に、図6〜図11を参照して、上記式(50)により位相差推定値θE1を算出し、上記式(51)により該位相差推定値θE1にオフセット値offsetを加える補正を行って、補正後の位相推定値(θE1+offset)がゼロとなるようにロータ角度の推定値θ^を更新することによる効果について説明する。
先ず、図6(a)は、モータ1の電機子に電流が流れていないときのモータ1のインダクタンス(一定)を用いて、ロータ角度の実際値が30度であるときの正弦参照値Vsdqを、コンピュータシミュレーションにより上記式(49)によって算出したグラフであり、縦軸が正弦参照値Vsdqに設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。この場合は、位相差θeに応じて正弦参照値Vsdqのレベルが変化し、位相差θeの正側(ロータ角度の実際値が推定値よりも進んだ進角側)と負側(ロータ角度の実際値が推定値よりも遅れた遅角側)の振幅が等しくなっている。
それに対して、図6(b)は、モータ1の電機子に駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwが印加された状態で、ロータ角度の実際値が30度であるときの正弦参照値Vsdqを、コンピュータシミュレーションにより上記式(49)により算出したグラフであり、縦軸が正弦参照値Vsdqに設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。
そして、この場合は、位相差θeの振幅が図6(a)の場合よりも大きくなり、また、位相差θeの正側(進角側)の波形が大きく歪んで振幅が負側(遅角側)よりも小さくなっている。そのため、正弦参照値Vsdqを、位相差θeに応じた位相差推定値としてロータ角度の推定値θ^を算出することは困難である。
次に、図7(a)、図7(b)は、以下の式(52)により算出した位相差推定値θE0を、図6の場合と同様の条件でコンピュータシミュレーションにより算出した比較グラフである。
図7(a)は、電機子に電流が流れていないときのモータ1のインダクタンス(一定)を用いて、ロータ角度の実際値が30度であるときの位相差推定値θE1を上記式(52)により算出したグラフであり、縦軸が位相差推定値θE0に設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。この場合は、位相差θeの大きさに応じて位相差推定値θE1のレベルが変化し、位相差推定値θE1の正側(進角側)と負側(遅角側)の波形が等しくなっている。
それに対して、図7(b)は、モータ1の電機子に駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwが印加された状態で、ロータ角度の実際値が30度であるときの位相差推定値θE0を、上記式(52)により算出したグラフであり、縦軸が位相差推定値θE0に設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。そして、この場合は、位相差推定値θE0の波形が位相差θeの正側(進角側)で歪んでおり、位相差θeの正側と負側で位相差推定値θE0の振幅が大きく異なっている。そのため、Vsdq/√(Vsdq 2+Vcdq 2)を、位相差θeに応じた位相差推定値としてロータ角度の推定値θ^を算出することは困難である。
次に、図8(a)、図8(b)は、上記式(49)により算出されるインダクタンス参照値L0の変化を示したものである。図8(a)は、電機子に電流が流れていないときのモータ1のインダクタンス(一定値)を用いて、ロータ角度の実際値が30度であるときのインダクタンス参照値L0をコンピュータシミュレーションにより上記式(49)によって算出したグラフであり、縦軸がインダクタンス参照値L0に設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。この場合は、位相差推定値θE1の正側(進角側)と負側(遅角側)におけるインダクタンス参照値L0のレベルの差が小さい。
それに対して、図8(b)は、モータ1の電機子に駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwが印加された状態で、ロータ角度の実際値が30度であるときのインダクタンス参照値L0を、コンピュータシミュレーションにより上記式(49)によって算出したグラフであり、縦軸がインダクタンス参照値L0に設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値との位相差θeに設定されている。そして、この場合は、位相差θeの負側(遅角側)におけるインダクタンス参照値L0のレベルが、位相差θeの正側(進角側)におけるインダクタンス参照値L0のレベルよりも大きくなっている。
ここで、図9(a)〜図9(b)を参照して、位相差θeの正負に応じてインダクタンス参照値L0のレベルが変化する状況について説明すると、図9(a)に示したように、位相差θeがゼロ(ロータ角度の実際値θ=推定値θ^)のときは、通電制御によりロータの界磁の向きと直交する方向に電機子による磁界の向きが設定されるため、モータ1のインダクタンスは変化しない。
それに対して、図9(b)に示したように、位相差θeが正(ロータ角度の実際値θが推定値θ^よりも進んでいる状態)のときは、電機子による磁界によってロータ2の界磁が弱められるため、モータ1のインダクタンスLが増加する。そして、上記式(19)により、インダクタンス参照値はモータ1のインダクタンスLd,Lqの逆数の和であるため、モータ1のインダクタンスの増加によりインダクタンス参照値L0は減少する。
また、図9(c)に示したように、位相差θeが負(ロータ角度の実際値θが推定値θ^よりも遅れている状態)のときには、電機子への通電により生じる磁界Mによってロータ2の界磁が強められるため、モータ1のインダクタンスLが減少する。そして、モータ1のインダクタンスLの減少によりインダクタンス参照値L0は増加する。
ここで、図8(b)におけるインダクタンス参照値L0のレベルの変化の傾向は、図6(b)に示した正弦参照値Vsdqのレベルの変化の傾向に近似している。そこで、以下の式(53)により、正弦参照値Vsdqをインダクタンス参照値L0で除する正規化処理を行うことによって、位相差θeの正負によるレベルの変動を抑制して、位相差θeに応じて所定範囲内で変化する位相差推定値θE1を算出することができる。
図10(a)は、電機子に電流が流れていないときのモータ1のインダクタンス(一定)を用いて、ロータ角度の実際値が30度であるときの位相差推定値θE1を上記式(53)により算出したグラフであり、縦軸が位相差推定値θE1に設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。この場合は、位相差θeの大きさに応じて位相差推定値θE1のレベルが変化し、位相差θeの正側(進角側)と負側(遅角側)の位相差推定値θE1の振幅が等しくなっている。
それに対して、図10(b)は、モータ1の電機子に駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwが印加された状態で、ロータ角度の実際値が30度であるときの位相差推定値θE1を、上記式(53)により算出したグラフであり、縦軸が位相差推定値θE1に設定され横軸がロータ角度の実際値と推定値の位相差θeに設定されている。そして、この場合、上述した図6(b)及び図7(b)のグラフと比較すると、位相差θeが正であるときの位相差推定値θE1の波形の歪みが抑制されている。また、位相差推定値θE1の振幅は図10(a)とほぼ同レベルであり、良好な正規化が行われている。
しかし、図10(a)のグラフと比較すると、図10(b)のグラフにおける位相差推定値θE1が全体的に正方向にシフトしていることがわかる。そして、モータ1のd軸電流が大きい程、ロータ2の界磁強め/界磁弱めの効果が大きくなる。そこで、上記式(51)により、位相差推定値θE1にd軸指令電流に比例したオフセット値offsetを加える補正を行うことが有効である。
図11は、図10(b)に示したグラフにおいて、オフセット値offsetを加えた場合の効果を示したものであり、上記式(51)によって、オフセット値を加えた補正後の位相差推定値(θE1+offset)をゼロに収束させるようにロータ角度の推定値を更新することで、更新されるロータ角度の推定値の収束点をP1からよりゼロに近いP2に移行させることができる。そのため、ロータ角度の推定精度を高めることができる。
また、オフセット値を加える補正を行うことで、位相差推定値θE1に対して位相差θeが一義的に定まる領域を、オフセット値を加える前の領域S1からS2に広げることができる。そして、これにより、位相差θeの正負による位相差推定値θE1の振幅と安定領域の範囲の差を縮小することができるため、上記式(51)に示したように、補正後の位相差推定値(θE1+offset)に対するゲインを一定とした簡易なオブザーバにより、ロータ角度の推定値θ^を更新することができる。
なお、本第1の実施の形態では上記式(49)により正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0を算出したが、正弦参照値Vsdq及び余弦参照値Vcdqとインダクタンス参照値L0の算出式は、周期信号Vhdqの態様に応じて決定される。
また、本第1の実施の形態では、上記式(50)により位相差推定値θE1を算出したが、位相差推定値θE1の算出式は、位相差参照値及びインダクタンス参照値の算出態様に応じて決定される。
また、本第1の実施の形態では、上記式(51)のオブザーバによりロータ角度の推定値θ^を更新したが、位相差推定値を用いてロータ角度の推定値θ^を更新する方法・装置であれば、本発明の適用が可能である。
[第2の実施の形態]次に、図12及び図13を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図12に示したDCブラシレスモータの制御装置10(以下、単に制御装置10という)は、図2に示した制御装置40と同様にモータ1の相電流をフィードバック制御するものであり、制御装置40と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
制御装置10においては、ロータ角度の推定処理の態様が制御装置40と相違し、駆動電圧Vfbu及びVfbwにロータ角度推定用の周期信号Vhu及びVhw(本発明の高周波電圧に相当する)を重畳する周期信号重畳部21(本発明の高周波電圧重畳手段に相当する)と、角度推定部25(本発明のロータ角度推定手段、参照値算出手段、及び位相差推定値算出手段の機能を含む)を備えている。
そして、制御装置10は、第5加算器34と第6加算器36において、周期信号重畳部21により、駆動電圧Vfbuに周期信号Vhuを重畳し、駆動電圧Vfbwに周期信号Vhwを重畳することによって、ロータ角度の推定値θ^を算出する。なお、周期信号Vhu,Vhwは、モータ制御装置10の3制御サイクルを1周期として、1周期で各相の出力電圧の総和がゼロとなるように出力パターンが設定されている。また、周期信号Vhu,Vhwの1周期の長さは2制御サイクル以上であればよい。
以下、図13に示したフローチャートに従って、制御装置10におけるモータ1のロータ角度の推定処理について説明する。制御装置10は、カウンタ変数ptrの初期値を0とし、周期信号重畳部21により駆動電圧Vfbu,Vfbwに周期信号Vhu,Vhwを重畳して、図13のフローチャートを繰り返し実行する。
角度推定部25は、STEP1でU相電流センサ23とW相電流センサ24により検出される相電流Iu,Iwを取り込み、STEP2で前回の制御サイクルにおける相電流Iu,Iwとの1階差分dIu,dIwを算出して保持する。そして、続くSTEP3でカウンタ変数ptrが1であったときはSTEP4に進んでSTEP4〜STEP6の処理を行い、STEP3でカウンタ変数ptrが1でなかったときにはSTEP7に分岐する。
ここで、カウンタ変数ptrはSTEP12で各制御サイクル毎にインクリメントされ、STEP13でptr=3になったときにSTEP14でクリア(ptr=0)される。そのため、制御サイクルが周期信号Vhu,Vhv,Vhwの1周期に相当する3制御サイクルが経過する毎にSTEP3でptr=1となって、STEP4〜STEP6の処理が実行される。
角度推定部25は、STEP4で、今回と前回及び前々回の制御サイクルにおけるSTEP2の処理で算出された1階差分dIu,dIwを用いて、正弦参照値Vs及び余弦参照値Vcとインダクタンス参照値Llmを算出する。具体的には、上記式(32)で、nを周期信号Vhu,Vhwの1周期中に含まれる制御サイクルの個数である3に置き換えた以下の式(54)により、角度推定部25は正弦参照値Vs及び余弦参照値Vcとインダクタンス参照値Llmとを算出する。なお、角度推定部25により、正弦参照値Vs及び余弦参照値Vcとインダクタンス参照値Llmを算出する構成が、本発明の参照値算出手段に相当する。
但し、Vs:正弦参照値、Vc:余弦参照値、Llm:インダクタンス参照値、l:モータの各相の自己インダクタンスの平均値、m:モータの角相間の相互インダクタンスの平均値、dI(i+1)〜dI(i+3):ptr=2,0,1となる制御サイクルにおいて算出された相電流の1階差分。
ここで、上記式(54)により、相電流の1階差分を用いて正弦参照値Vs及び余弦参照値Vcとインダクタンス参照値Llmを算出することによって、相電流の2階差分を用いる場合に比べて、U相電流センサ23及びW相電流センサ24の検出誤差の影響を低減する効果が期待できる。
そして、角度推定部25は、ロータ角度の実際値θと、dq/3相変換部20及び3相/dq変換部26における変換に用いられたロータ角度の推定値θ^との位相差θeに応じた位相差推定値θE2を、以下の式(55)により算出する。
但し、θE2:位相差推定値、Vs:正弦参照値、Vc:余弦参照値、Llm:インダクタンス参照値、θ:ロータ角度の実際値、θ^:ロータ角度の推定値、l:モータの各相の自己インダクタンスの平均値、m:モータの各相間の相互インダクタンスの平均値、θe:ロータ角度の実際値θと推定値θ^との位相差。
そして、角度推定部50は、以下の式(56)のオブザーバによる追従演算によって、ロータ角度の推定値θ^を更新する。
但し、θ^(n+1):ロータ角度の推定値の更新値、ω^(n+1):ロータの角速度の推定値の更新値、Δt:周期信号Vhu,Vhwの1周期(3制御サイクル)の時間、θ^(n):ロータ角度の推定値の前回値、ω^(n):ロータの角速度の推定値の前回値、θE2(n):位相差推定値、K1,K2,K~:演算ゲイン、offset:d軸指令電流に比例したオフセット値、Vs(n):正弦参照値、Vc(n):余弦参照値、Llm(n):インダクタンス参照値。
そこで、角度推定部25は、STEP5において、上記式(55)により、上記式(56)で必要となる位相差推定値θE2を算出する。続くSTEP6で、3相/dq変換部26により算出されるId,Iqが電流フィードバック制御用に保持される。そして、STEP7でカウンタ変数ptrが0となったときに、STEP8に進み、上記式(46),式(47)により、d軸電圧Vfbdとq軸電圧Vfbqが算出される。また、STEP9で、上記式(56)により推定角度θ^が更新される。このように、駆動電圧Vfbd,Vfbqの更新とロータ角度の推定値θ^の更新を同じタイミングで行なうことによって、駆動電圧Vfbd,Vfbqを出力する際のロータ角度のずれを排除している。
一方、STEP7でptr=0であったときにはSTEP10に分岐し、STEP8〜STEP9の処理は実行されない。そのため、d軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbqと、推定角度θ^は、周期信号Vhu,Vhv,Vhwの1周期毎に更新され、周期信号Vhu,Vhv,Vhwの1周期中は、d軸電圧Vfbd及びq軸電圧Vfbdと推定角度θ^は一定に保持される。
続くSTEP10で、dq/3相変換部20により、d軸電圧Vfbdとq軸電圧Vfbqが、3相駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwに変換され、STEP11で、周期信号重畳部21により3相駆動電圧Vfbu,Vfbv,Vfbwに周期信号Vhu,Vhv,Vhwが重畳されて、パワードライブユニット22に出力される。そして、これにより、パワードライブユニット22からモータ1に3相電圧Vu,Vv,Vwが出力される。そして、続くSTEP12〜STEP15により、上述したカウンタ変数ptrのインクリメント又はクリア処理が行われて、1制御サイクルが終了する。
なお、STEP11で、周期信号重畳部21により周期信号Vhu,Vhv,Vhwを重畳する処理が本発明の第1の工程に相当し、STEP4で正弦参照値Vs及び余弦参照値Vcとインダクタンス参照値Llmを算出して、STEP5で位相差推定値θE2を算出する処理が本発明の第2の工程の工程に相当する。また、STEP9で、位相差推定値θE2にオフセットを加えて補正する処理が本発明の第3の工程に相当し、補正された位相差推定値θE2を用いてロータ角度の推定値θ^を更新する処理が本発明の第4の工程に相当する。また、STEP9で、上記式(56)により位相差推定値θE2にオフセット値を加えて位相差推定値θE2を補正する構成が、本発明の位相差推定値補正手段に相当する。
本第2の実施の形態においても、上記第1の実施の形態と同様に、上記式(55)により位相差参照値(Vs・cos2θ^−Vc・sin2θ^)をインダクタンス参照値Llmで除する正規化処理を行うことにより、ロータ2の界磁弱め/界磁強めの影響を抑制して位相差推定値θE2を算出することができる。
そして、上記式(56)により、位相差推定値θE2にモータ1のd軸指令電流に比例したオフセット値(offset)を加える補正を行って、補正後の位相差推定値(θE2+offset)がゼロとなるように、ロータ角度の推定値θ^を算出することにより、ロータ角度の実際値と推定値との差をより縮小させてロータ角度θ^を更新することができる。
なお、本第2の実施の形態では上記式(54)により正弦参照値Vsと余弦参照値Vcを算出したが、正弦参照値Vsと余弦参照値Vcの算出式は、周期信号Vhの態様等に応じて決定される。
また、本第1の実施の形態では、上記式(55)により位相差推定値θE2を算出したが、位相差推定値θE2の算出式は、位相差参照値及びインダクタンス参照値の算出態様に応じて決定される。
また、本第1の実施の形態では、上記式(56)のオブザーバによりロータ角度の推定値θ^を更新したが、位相差推定値を用いてロータ角度の推定値θ^を更新する方法・装置であれば、本発明の適用が可能である。
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態においては、検出電流の1階差分を用いて正弦参照値及び余弦参照値とインダクタンス参照値を算出したが、検出電流の2階差分を用いて正弦参照値及び余弦参照値とインダクタンス参照値を算出する場合にも、本発明の適用が可能である。
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態においては、位相差推定値θE1,θE2にd軸指令電流に比例したオフセット値を加えて補正したが、d軸電流に比例したオフセット値を加えて補正してもよい。また、位相差推定値θE1,θE2にオフセット値を加える補正を行わない場合にも、本発明の効果を得ることができる。
1…DCブラシレスモータ、2…ロータ、3…U相の電機子、4…V相の電機子、5…W相の電機子、10…(第1の実施の形態の)モータ制御装置、20…dq/3相変換部、21…(第1の実施の形態の)周期信号重畳部、22…パワードライブユニット、23…U相電流センサ、24…W相電流センサ、25…(第1の実施の形態の)角度推定部、26…3相/dq変換部、27…非干渉演算部、40…(第2の実施の形態の)モータ制御装置、50…(第2の実施の形態の)角度推定部、51…(第2の実施の形態の)周期信号重畳部