しかし、上記の装置では、圧縮機と膨張機が回転軸によって連結されているため、装置を停止状態から起動するときの起動トルクが大きくなると言う問題があった。このため、起動トルク不足が生じて圧縮機が停止するおそれがあり、それを避けるためには電動機を大型にするなどの対策を講じる必要があるので、コストが大幅に増加する問題があった。
大きな起動トルクが必要になる理由は、膨張機は本来は高圧流体が流入すれば自力で回転するものであるが、起動時には、圧縮機の吐出圧力が上がったとしても、途中に熱容量の大きな放熱器があるために、膨張機へ流入する流体の圧力がすぐには上昇しない(したがって、膨張機が自力で回転せず、逆に圧縮機の起動の抵抗になる)ことや、起動時は潤滑油が低温であるために、粘度が高くて回転抵抗が大きくなることなどが原因と考えられる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、膨張機と圧縮機が機械的に連結された冷凍装置において、起動トルクの低減を図り、電動機の大型化に伴うコストアップを防止しつつ、圧縮機の起動不良も防止することである。
第1の発明は、圧縮機(11)と放熱器(13,14)と膨張機構(12)と蒸発器(14,13)とが接続されて蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備え、上記膨張機構(12)が冷媒の膨張により動力を発生する膨張機(12)により構成され、該膨張機(12)と圧縮機(11)とが機械的に連結された冷凍装置を前提としている。
そして、この冷凍装置は、圧縮機(11)の吐出側(18a)と膨張機(12)の流入側(18b)とに接続されたバイパス通路(20)を備え、バイパス通路(20)には、起動時に開かれるバイパス開閉機構(21)が設けられ、バイパス開閉機構(21)が、冷媒の流量を調整可能なバイパス流量調整機構(22)により構成され、上記バイパス流量調整機構(22)が、起動運転から通常運転への移行時にバイパス通路(20)を流れる冷媒の流量を調整するように構成されていることを特徴としている。
この第1の発明では、通常運転時は、バイパス開閉機構(21)が閉じられた状態となり、冷媒が、圧縮機(11)、放熱器(13,14)、膨張機(12)、蒸発器(14,13)の順に循環し、冷凍サイクルが行われる。具体的には、圧縮機(11)で圧縮された冷媒は、高圧になって放熱器(13,14)へ供給される。冷媒は放熱器(13,14)で放熱した後、膨張機(12)へ流入する。膨張機(12)では冷媒が膨張して低圧になり、蒸発器(14,13)へ流入する。蒸発器(14,13)では冷媒が蒸発し、空気などが冷却される。蒸発した冷媒は圧縮機(11)に吸入され、放熱器(13,14)、膨張機(12)、蒸発器(14,13)への循環を繰り返す。
一方、起動時には、バイパス開閉機構(21)によりバイパス通路(20)が開かれる。したがって、圧縮機(11)から吐出される高圧の冷媒が膨張機(12)へ直接に流入する。そのため、図6(A)に起動時間と膨張機の圧力との関係を表すグラフを示しているように、従来(破線)は放熱器の熱容量のために冷媒が冷えてしまって高圧圧力が上がりにくいのに対して、本発明(実線)では高圧圧力が速く上昇して高低差圧が付きやすくなる。また、図6(B)に起動時間と膨張機への冷媒の流入温度との関係を表すグラフを示しているように、この流入温度もすぐに上昇するので、油の粘度も低くなる。
また、従来は、図7(B)のPV線図に示すように高圧圧力が十分に上昇していない状態で冷媒が膨張し始めるため、過膨張が起こり、冷媒が膨張機から流出するときに再圧縮のために動力が消費されてしまうのに対して、本発明では図7(A)に示すように高圧圧力が十分に上昇した冷媒が膨張機に供給されるため、過膨張が起こらず、圧縮機で無駄な動力が消費されない。
さらに、従来は、図8(B)のPH線図に示すように、膨張機に流入する冷媒の温度が低いため、膨張機での回収エンタルピ差ΔH1が小さくなって起動トルクが大きくなるが、本発明では図8(A)に示すように従来よりも高温の冷媒が膨張機に流入するため、膨張機での回収エンタルピ差ΔH2が大きくなって起動トルクが小さくなる。
このように、本発明では、起動時に高低差圧が付きやすくなるので、膨張機(12)がすぐに自力で回転を開始し、その際に、油の抵抗が小さくなり、過膨張も起こりにくいので、圧縮機で無駄な動力が消費されない。そして、起動後はバイパス通路(20)を閉じ、通常の冷凍サイクルへ移行する。こうすることで、起動トルクを低減しながら運転を開始できる。
なお、バイパス通路(20)は、負荷が小さく、冷房や暖房の能力が余っているときに、圧縮機(11)を発停せずに能力を調整するために使用することもできる。その際、膨張機(12)への流入冷媒のエンタルピが大きくなり回収動力が増えるため、効率が低下するのを抑えられる。
また、バイパス開閉機構(21)を、冷媒の流量を調整可能なバイパス流量調整機構(22)により構成しているので、圧縮機(11)から吐出された後、バイパス通路(20)を流れる冷媒の流量を増減するように調整することができる。このことにより、起動運転から通常運転への移行を円滑に行うことができる。
また、この発明は、上記バイパス流量調整機構(22)が、起動時に全開に設定されるように構成されている。
第2の発明は、第1の発明において、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)におけるバイパス通路(20)と放熱器(13,14)との間に、該吐出側配管(18a)を開閉する吐出管開閉機構(24)が設けられていることを特徴としている。
この吐出管開閉機構(24)は、例えば流量調整機構により構成してもよい。また、吐出側配管(18a)の吐出管開閉機構(24)とバイパス通路(20)のバイパス開閉機構(21)を別々に設ける代わりに、吐出側配管(18a)とバイパス通路(20)との接続箇所に三方切換弁を設け、これをバイパス開閉機構(21)及び吐出管開閉機構(24)として機能させてもよい。
この第2の発明では、起動時には吐出管開閉機構(24)が閉じられてバイパス開閉機構(21)が開かれる。こうすることにより、圧縮機(11)の吐出冷媒が確実に膨張機(12)に供給される。また、通常運転時には、吐出管開閉機構(24)が開かれてバイパス開閉機構(21)が閉じられる。こうすることにより、冷媒が確実に圧縮機(11)から放熱器(13,14)、膨張機(12)、蒸発器(14,13)を順に流れ、冷凍サイクルの動作が行われる。
第3の発明は、第1の発明において、膨張機(12)の流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)と放熱器(13,14)との間に、バイパス通路(20)側から放熱器(13,14)側への冷媒流れを禁止する逆流防止機構(23)が設けられていることを特徴としている。
この第3の発明では、起動運転時にバイパス通路(20)を開いたときに、圧縮機(11)から吐出された冷媒は、バイパス通路(20)を流れた後に放熱器(13,14)側へ流れずに、確実に膨張機(12)へ供給される。また、通常運転時には、圧縮機(11)から吐出された冷媒が放熱器(13,14)を流れた後、逆流防止機構(23)を通過して膨張機(12)へ流入し、さらに蒸発器(14,13)を通って圧縮機(11)へ戻ることで冷凍サイクルが問題なく行われる。
第4の発明は、第1の発明において、膨張機(12)の流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)と膨張機(12)との間から、膨張機(12)の膨張過程位置に高圧冷媒を導入する高圧インジェクション路(25)を備え、該高圧インジェクション路(25)にインジェクション開閉機構(26)が設けられていることを特徴としている。
起動運転時には膨張機(12)内で過膨張が生じやすいために、動力を消費しやすいのに対して、この第4の発明では、図9のPV線図に示すように膨張過程で高圧冷媒が導入されるため、過膨張が生じにくくなる。したがって、過膨張後の再圧縮に動力が消費されないので起動トルクがよりいっそう低減される。また、膨張過程で高圧冷媒が導入されることにより、膨張機(12)の油温も高くなり、起動しやすくなる。
第5の発明は、第1から第4の発明の何れか1つにおいて、冷媒回路(10)の冷媒が二酸化炭素であることを特徴としている。
この第5の発明では、冷媒に二酸化炭素を用いることにより、他の冷媒と比較して、冷凍サイクルの高低差圧を大きくすることができるため、膨張機(12)で得られる冷媒の膨張動力を増大させることができる。
本発明によれば、圧縮機(11)の吐出側(18a)と膨張機(12)の流入側(18b)とにバイパス通路(20)を接続し、このバイパス通路(20)に起動時に開かれるバイパス開閉機構(21)を設けたことにより、起動時にはバイパス通路(20)を使って膨張機(12)を自力で回転させることが可能となる。したがって、起動トルク不足により圧縮機(11)が停止するおそれはなく、電動機(17)を大型にする必要もない。その結果、膨張機(12)と圧縮機(11)が機械的に連結された冷凍装置において、電動機(17)の大型化に伴うコストアップを防止しつつ、圧縮機(11)の起動不良も防止することが可能となる。
また、バイパス開閉機構(21)として、冷媒の流量を調整可能なバイパス流量調整機構(22)を用いているので、圧縮機(11)から吐出された後、バイパス通路(20)を流れる冷媒の流量を増減するように調整することが可能になり、起動運転から通常運転への移行を円滑に行うことができる。
上記第2の発明によれば、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)におけるバイパス通路(20)と放熱器(13,14)との間に、該吐出側配管(18a)を開閉する吐出管開閉機構(24)を設けたことにより、通常運転時には冷媒を確実に圧縮機(11)から放熱器(13,14)、膨張機(12)、蒸発器(14,13)の順に流すことで、冷凍サイクルの動作を行うことができる。また、起動運転時には圧縮機(11)の吐出冷媒を放熱器(13,14)をバイパスさせて確実に膨張機(12)へ供給できる。したがって、圧縮機(11)の起動不良を確実に防止できる。
上記第3の発明によれば、膨張機(12)の流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)と放熱器(13,14)との間に、バイパス通路(20)側から放熱器(13,14)側への冷媒流れを禁止する逆流防止機構(23)を設けたことにより、起動運転時にバイパス通路(20)を開いたときには、圧縮機(11)から吐出された冷媒が、バイパス通路(20)を流れた後に放熱器(13,14)側へ流れずに、確実に膨張機(12)へ供給される。したがって、圧縮機(11)の起動不良を確実に防止できる。一方、逆流防止機構(23)は、通常運転時には、圧縮機(11)から吐出された冷媒が放熱器(13,14)を通過した後、膨張機(12)へ流入するのを阻止しない。つまり、逆流防止機構(23)が冷凍サイクル動作の邪魔になることはない。
上記第4の発明によれば、膨張機(12)の流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)と膨張機(12)との間から、膨張機(12)の膨張過程位置に高圧冷媒を導入する高圧インジェクション路(25)を設け、この高圧インジェクション路(25)にインジェクション開閉機構(26)を設けているので、過膨張を抑えることにより起動トルクをよりいっそう低減して起動不良を確実に防止できる。また、膨張機(12)の油温が高くなることも起動不良の防止に寄与する。
上記第5の発明によれば、冷媒回路(10)の冷媒として二酸化炭素を用いることで、他の冷媒と比較して、冷凍サイクルの高低差圧を大きくすることができる。したがって、圧縮機(11)の回収動力を向上させることができ、冷凍装置のCOPを高めることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の前提技術1》
本発明の前提技術1について説明する。
前提技術1は、本発明に係る冷凍装置により構成された空調機(1)に関するものである。この空調機(1)は、図1に示すように、冷媒回路(10)を備えている。この冷媒回路(10)は、冷媒を超臨界状態に圧縮して蒸気圧縮式冷凍サイクルを行うものである。そして、この前提技術1の空調機(1)は、冷媒回路(10)で冷媒を循環させ、冷房運転と暖房運転とを切り換えて行うように構成されている。
上記冷媒回路(10)には、二酸化炭素(CO2)が冷媒として充填されている。また、冷媒回路(10)には、圧縮機(11)、膨張機(12)、熱源側熱交換器である室外熱交換器(13)、利用側熱交換器である室内熱交換器(14)、第1四路切換弁(15)、及び第2四路切換弁(16)が設けられている。
圧縮機(11)及び膨張機(12)は、それぞれ固有のシリンダ容積を有するローリングピストン型の流体機械により構成されている。上記圧縮機(11)と膨張機(12)とは、電動機(17)の回転軸(17a,17b)によって互いに連結されている。圧縮機(11)は、膨張機(12)における冷媒の膨張により得られた動力(膨張動力)と、電動機(17)へ通電して得られる動力との両方によって回転駆動される。
なお、上記圧縮機(11)や膨張機(12)について、これらを構成する流体機械はローリングピストン型に限定されるものではない。例えば揺動ピストン型の容積形流体機械やスクロール型の容積形流体機械を圧縮機(11)や膨張機(12)として用いてもよい。
上記室外熱交換器(13)は、いわゆるクロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器により構成されている。この室外熱交換器(13)へは、図外のファンによって室外空気が供給される。この室外熱交換器(13)では、供給された室外空気と冷媒回路(10)の冷媒との熱交換が行われる。
上記室内熱交換器(14)は、いわゆるクロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器により構成されている。この室内熱交換器(14)へは、図外のファンによって室内空気が供給される。この室内熱交換器(14)では、供給された室内空気と冷媒回路(10)の冷媒との熱交換が行われる。
上記冷媒回路(10)において、圧縮機(11)の吐出側は第1四路切換弁(15)の第1ポート(P1)に接続され、第1四路切換弁(15)の第2ポート(P2)は室外熱交換器(13)の第1端に接続されている。室外熱交換器(13)の第2端は第2四路切換弁(16)の第1ポート(P1)に接続され、第2四路切換弁(16)の第2ポート(P2)は膨張機(12)の流入側に接続されている。膨張機(12)の流出側は第2四路切換弁(16)の第3ポート(P3)に接続され、第2四路切換弁(16)の第4ポート(P4)は室内熱交換器(14)の第1端に接続されている。室内熱交換器(14)の第2端は第1四路切換弁(15)の第3ポート(P3)に接続され、第1四路切換弁(15)の第4ポート(P4)は圧縮機(11)の吸入側に接続されている。
上記第1四路切換弁(15)は、第1ポート(P1)が第2ポート(P2)と連通し且つ第3ポート(P3)が第4ポート(P4)と連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポート(P1)が第3ポート(P3)と連通し且つ第2ポート(P2)が第4ポート(P4)と連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
また、上記第2四路切換弁(16)は、第1ポート(P1)が第2ポート(P2)と連通し且つ第3ポート(P3)が第4ポート(P4)と連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポート(P1)が第3ポート(P3)と連通し且つ第2ポート(P2)が第4ポート(P4)と連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
上記冷媒回路(10)には、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)と膨張機(12)の流入側配管(18b)とに接続されたバイパス通路(20)が設けられている。このバイパス通路(20)には、起動時に開かれるバイパス開閉弁(21)(バイパス開閉機構)が設けられている。この前提技術では、バイパス開閉弁(21)は、「開」状態と「閉」状態とに切り換わる電磁弁により構成されている。
−運転動作−
次に、この空調機(1)の冷房運転時及び暖房運転時の動作について説明する。
(冷房運転)
冷房運転時、第1四路切換弁(15)及び第2四路切換弁(16)は、図1に実線で示す状態に切り換わる。また、冷房の通常運転中、バイパス開閉弁(21)は「閉」状態に設定される。
この状態で電動機(17)に通電すると、冷媒回路(10)で冷媒が循環して冷凍サイクルが行われる。その際、室外熱交換器(13)が放熱器となり、室内熱交換器(14)が蒸発器となる。また、冷凍サイクルの高圧圧力は、冷媒である二酸化炭素の臨界圧力よりも高く設定されている。
圧縮機(11)からは、超臨界状態の高圧冷媒が吐出される。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(15)を通って室外熱交換器(13)へ流入する。室外熱交換器(13)において、高圧冷媒は、室外空気へ放熱し、温度が低下する。
室外熱交換器(13)から出た高圧冷媒は、第2四路切換弁(16)を通って膨張機(12)へ流入する。膨張機(12)では、導入された高圧冷媒が膨張し、この高圧冷媒の内部エネルギが回転動力に変換される。膨張機(12)での膨張により、高圧冷媒は圧力が低下し、超臨界状態から気液二層状態に変化する。
膨張機(12)から出た低圧冷媒は、第2四路切換弁(16)を通って室内熱交換器(14)へ流入し、室内熱交換器(14)において、室内空気から吸熱して蒸発する。また、室内熱交換器(14)では室内空気が低圧冷媒によって冷却され、この冷却された室内空気が室内へ送り返される。
室内熱交換器(14)から出た低圧冷媒は、第1四路切換弁(15)を通って圧縮機(11)に吸入される。圧縮機(11)へ吸入された冷媒は、所定の圧力にまで圧縮されて、圧縮機(11)から吐出される。そして、以上のように冷媒が冷媒回路(10)を循環することで冷凍サイクルが行われる。
運転停止時は、電動機(17)への通電がストップし、圧縮機(11)が停止する。このため、冷媒回路(10)を冷媒が循環しなくなる。また、図外のファンも停止するので、室内熱交換器(14)での空気の冷却は行われない。そして、運転中は、圧縮機(11)の吐出側から膨張機(12)への流入前までが高圧になり、膨張機(12)の流出側から圧縮機(11)への吸入前までが低圧になるが、運転停止後は、冷媒回路(10)内の高低差圧が徐々に小さくなっていく。
その後、空調機(1)を起動するときは、バイパス開閉弁(21)を「開」状態に切り換えてから電動機(17)に電力が供給される。バイパス通路(20)が開いた状態で電動機(17)が回転すると、圧縮機(11)から吐出された高圧の冷媒は、吐出側配管(18a)を通って室外熱交換器(13)へも供給されるが、バイパス通路(20)を通って膨張機(12)にも流入する。膨張機(12)が回転し始めると、膨張機(12)が冷媒を吸い込むようになるため、冷媒は室外熱交換器(13)へはあまり流れず、主に圧縮機(11)、膨張機(12)、及び室内熱交換器(14)を循環するようになる。
このため、起動時は圧縮機(11)から吐出された高圧冷媒により膨張機(12)がすぐに自力で回転することになる。起動後はバイパス通路(20)を閉じ、通常の冷凍サイクルへ移行する。こうすることで、起動トルクを低減しながら運転を開始できる。
(暖房運転)
暖房運転時、第1四路切換弁(15)及び第2四路切換弁(16)は、図1に破線で示す状態に切り換わる。また、暖房の通常運転中、バイパス開閉弁(21)は「閉」状態に設定される。
この状態で電動機(17)に通電すると、冷媒回路(10)で冷媒が循環して冷凍サイクルが行われる。その際、室内熱交換器(14)が放熱器となり、室外熱交換器(13)が蒸発器となる。また、冷凍サイクルの高圧圧力は、冷房運転時と同様に、冷媒である二酸化炭素の臨界圧力よりも高く設定されている。
圧縮機(11)からは、超臨界状態の高圧冷媒が吐出される。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(15)を通って室内熱交換器(14)へ流入する。室内熱交換器(14)において、高圧冷媒は、室内空気へ放熱し、温度が低下する。また、室内熱交換器(14)では室内空気が高圧冷媒によって加熱され、この加熱された室内空気が室内へ送り返される。
室内熱交換器(14)から出た高圧冷媒は、第2四路切換弁(16)を通って膨張機(12)へ流入する。膨張機(12)では、導入された高圧冷媒が膨張し、この高圧冷媒の内部エネルギが回転動力に変換される。膨張機(12)での膨張により、高圧冷媒は圧力が低下し、超臨界状態から気液二層状態に変化する。
膨張機(12)から出た低圧冷媒は、第2四路切換弁(16)を通って室外熱交換器(13)へ流入する。室外熱交換器(13)において、低圧冷媒は、室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(13)から出た低圧冷媒は、第1四路切換弁(15)を通って圧縮機(11)に吸入される。圧縮機(11)へ吸入された冷媒は、所定の圧力にまで圧縮されて、圧縮機(11)から吐出される。そして、以上のように冷媒が冷媒回路(10)を循環することで冷凍サイクルが行われる。
運転停止時は、電動機(17)への通電がストップし、圧縮機(11)が停止する。このため、冷媒回路(10)を冷媒が循環しなくなる。また、図外のファンも停止するので、室内熱交換器(14)での空気の加熱は行われない。そして、運転中は、圧縮機(11)の吐出側から膨張機(12)への流入前までが高圧になり、膨張機(12)の流出側から圧縮機(11)への吸入前までが低圧になるが、運転停止後は、冷媒回路(10)内の高低差圧が徐々に小さくなっていく。
その後、空調機(1)を起動するときは、バイパス開閉弁(21)を「開」状態に切り換えてから電動機(17)に電力が供給される。バイパス通路(20)が開いた状態で電動機(17)が回転すると、圧縮機(11)から吐出された高圧の冷媒は、吐出側配管(18a)を通って室内熱交換器(14)へも供給されるが、バイパス通路(20)を通って膨張機(12)にも流入する。膨張機(12)が回転し始めると、膨張機(12)が冷媒を吸い込むようになるため、冷媒は室内熱交換器(14)へはあまり流れず、主に圧縮機(11)、膨張機(12)、及び室内熱交換器(14)を循環するようになる。
このため、起動時は圧縮機(11)から吐出された高圧冷媒により膨張機(12)がすぐに自力で回転することになる。起動後はバイパス通路(20)を閉じ、通常の冷凍サイクルへ移行する。こうすることで、起動トルクを低減しながら運転を開始できる。
−前提技術1の効果−
この前提技術1によれば、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)と膨張機(12)の流入側配管(18b)とに接続されたバイパス通路(20)を冷媒回路(10)に設け、このバイパス通路(20)にバイパス開閉弁(21)を設けたことにより、起動時にバイパス通路(20)を開くと、圧縮機(11)から吐出される高圧の冷媒が膨張機(12)へ直接に流入し、膨張機(12)を自力で回転させることが可能となる。
そして、図6(A)に起動時間と膨張機の圧力との関係を表すグラフを示しているように、従来(破線)は放熱器の熱容量のために冷媒が冷えてしまって高圧圧力が上がりにくいのに対して、本前提技術(実線)では高圧圧力が速く上昇して高低差圧が付きやすくなる。また、図6(B)に起動時間と膨張機への冷媒の流入温度との関係を表すグラフを示しているように、この流入温度もすぐに上昇するので、油の粘度も低くなる。
さらに、従来は、図7(B)のPV線図に示すように高圧圧力が十分に上昇していない状態で冷媒が膨張し始めるため、過膨張が起こり、冷媒が膨張機から流出するときに再圧縮のために無駄な動力が消費されてしまうのに対して、本前提技術では図7(A)に示すように高圧圧力が十分に上昇した冷媒が膨張機に供給されるため、過膨張が起こらず、圧縮機で無駄な動力が消費されない。
また、従来は、図8(B)のPH線図に示すように、膨張機に流入する冷媒の温度が低いため、膨張機での回収エンタルピ差ΔH1が小さくなって起動トルクが大きくなるが、本前提技術では、図8(A)に示すように、従来よりも高温の冷媒が膨張機に流入するため、膨張機での回収エンタルピ差ΔH2が大きくなって起動トルクが小さくなる。
このように、本前提技術では、起動時に高低差圧が付きやすくなるので、膨張機(12)がすぐに自力で回転を開始する。そして、その際に、油の抵抗が小さくなり、過膨張も起こりにくいので、圧縮機で無駄な動力が消費されない。
したがって、起動トルク不足により圧縮機(11)が停止するおそれはなく、電動機(17)を大型にする必要もない。そのため、膨張機(12)と圧縮機(11)が機械的に連結された冷凍装置において、電動機(17)の大型化に伴うコストアップを防止しつつ、圧縮機(11)の起動不良も防止することが可能となる。
−前提技術1の変形例−
前提技術1の変形例は、前提技術1の冷媒回路(10)において、第2四路切換弁(16)の代わりにブリッジ回路(19)を用いたものである。
図2に示すように、上記ブリッジ回路(19)は、4つの管路をブリッジ状に接続して構成され、4つのポート(P1,P2,P3,P4)を有している。上記4つの管路には、それぞれ逆止弁(CV)が設けられている。上記逆止弁(CV)は、第1ポート(P1)から第2ポート(P2)へ向かう冷媒流れと、第3ポート(P3)から第4ポート(P4)へ向かう冷媒流れと、第3ポート(P3)から第1ポート(P1)へ向かう冷媒流れと、第4ポート(P4)から第2ポート(P2)へ向かう冷媒流れを許容するように、各管路に設けられている。
上記室外熱交換器(13)の第2端は、ブリッジ回路(19)の第1ポート(P1)に接続されている。該ブリッジ回路(19)の第2ポート(P2)は、膨張機(12)の流入側に接続されている。膨張機(12)の流出側は、上記ブリッジ回路(19)の第3ポート(P3)に接続されている。このブリッジ回路(19)の第4ポート(P4)は、室内熱交換器(14)の第1端に接続されている。
その他の構成は図1の冷媒回路と同様である。
冷房運転時、第1四路切換弁(15)は、図2に実線で示す状態に切り換わる。この状態において、圧縮機(11)から吐出された冷媒は、第1四路切換弁(15)、室外熱交換器(13)、ブリッジ回路(19)、膨張機(12)、ブリッジ回路(19)、室内熱交換器(14)、第1四路切換弁(15)を順に流れ、再度圧縮機(11)に吸入される。
暖房運転時、第1四路切換弁(15)は、図2に破線で示す状態に切り換わる。この状態において、圧縮機(11)から吐出された冷媒は、第1四路切換弁(15)、室内熱交換器(14)、ブリッジ回路(19)、膨張機(12)、ブリッジ回路(19)、室外熱交換器(13)、第1四路切換弁(15)を順に流れ、再度圧縮機(11)に吸入される。
この変形例においても、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)と膨張機(12)の流入側配管(18b)とに接続されたバイパス通路(20)を冷媒回路(10)に設け、このバイパス通路(20)にバイパス開閉弁(21)を設けているので、起動時にはバイパス通路(20)を開いて膨張機(12)を確実に自力で回転させることが可能となる。したがって、図1の例と同様に、起動トルク不足により圧縮機(11)が停止するおそれはなく、電動機(17)を大型にする必要もない。そのため、膨張機(12)と圧縮機(11)が機械的に連結された冷凍装置において、電動機(17)の大型化に伴うコストアップを防止しつつ、圧縮機(11)の起動不良も防止することが可能となる。
《発明の実施形態1》
次に、本発明の実施形態1について説明する。
図3に示すように、この実施形態1の冷媒回路(10)では、バイパス開閉機構として、バイパス開閉弁(21)の代わりに、開度を調整可能なバイパス流量調整弁(22)(バイパス流量調整機構)が用いられている。バイパス流量調整弁(22)は、具体的には電動膨張弁により構成されている。このようにバイパス開閉機構にバイパス流量調整弁(22)を用いることにより、この冷媒回路(10)では、バイパス通路(20)を通る冷媒の流量を調整できるようになっている。
また、この冷媒回路(10)では、膨張機(12)の流入側配管(18b)に逆止弁(23)(逆流防止機構)が設けられている。この逆止弁(23)は、上記流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)との接続点と、第2四路切換弁(16)の第2ポート(P2)との間に設けられている。つまり、この逆止弁(23)は、膨張機(12)の流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)と放熱器(13,14)との間に位置している。そして、この逆止弁(23)により、上記流入側配管(18b)内をバイパス通路(20)側から放熱器(13,14)側へ冷媒が流れるのが禁止されている。
その他の構成は図1の前提技術1と同様である。
冷房運転と暖房運転の基本的な動作は前提技術1と同様であり、通常運転時はバイパス流量調整弁(22)が全閉に設定され、起動時は上記バイパス流量調整弁(22)が全開に設定される。
この実施形態1では、圧縮機(11)から吐出された後にバイパス通路(20)を流れる冷媒の流量を増減させる調整ができるため、起動運転から通常運転への移行を円滑に行うことができる。
また、膨張機(12)の流入側配管(18b)に逆止弁(23)を設けているので、起動運転時にバイパス通路(20)を開いたときに、圧縮機(11)から吐出された冷媒は、バイパス通路(20)を流れた後に放熱器(13,14)側へ流れずに、確実に膨張機(12)へ流入する。したがって、膨張機(12)がすぐに自力で回転するので、圧縮機(11)の起動不良を確実に防止できる。一方、通常運転時には、圧縮機(11)から吐出された冷媒が放熱器(13,14)を流れた後、逆止弁(23)を通過して膨張機(12)へ流入し、さらに蒸発器(14,13)を通って圧縮機(11)へ戻ることで冷凍サイクルが問題なく行われる。
さらに、この実施形態1では、通常の運転中に第1バイパス通路(20)を流れる冷媒の流量を調整しながら運転をすることも可能である。この運転は、低外気温時の暖房運転中のように、圧縮機(11)の吸入冷媒の密度が小さくなる運転条件で有効である。
一般に、低外気温度では冷媒回路の高圧圧力が超臨界域から二相域まで低下することがあり、そうすると、空気温度よりも冷媒温度の方が低くなる領域が生じてしまい、暖房時に室内の空気を設定温度まで加熱できなくなることがある。このため、暖房能力が不足することになる。
このように外気温度が低いために冷媒の蒸発温度が低くなって圧縮機(11)の吸入冷媒の密度が小さくなる運転条件では、膨張機(12)へ流入する冷媒の密度を小さくして圧縮機(11)での冷媒流量と膨張機(12)での冷媒流量とをバランスさせれば(膨張機(12)側の流量を減らせば)十分な高圧圧力を確保できるが、そうでなければ高圧圧力が十分に上がらなくなる。
これに対して、本実施形態では、低外気温時の暖房運転中には、第1バイパス通路(20)に圧縮機(11)の吐出ガス冷媒を流すことにより、膨張機(12)への流入冷媒の密度が小さくなるため、圧縮機(11)での冷媒流量と膨張機(12)での冷媒流量がバランスする。つまり、膨張機(12)側の冷媒流量を減らすことにより、冷媒回路(10)の高圧圧力を超臨界域に維持できる。したがって、低外気温時の暖房運転のように圧縮機(11)の吸入冷媒の密度が小さくなる運転条件であっても、暖房能力が不足しない。
−実施形態1の変形例−
上記実施形態1においては、膨張機(12)の流入側配管(18b)に逆止弁(23)を設けているが、この逆止弁(23)は必ずしも設けなくてもよい。そして、逆止弁(23)を設けない場合でも、前提技術1で説明したように、圧縮機(11)の起動不良を防止することは可能である。
特に、前提技術1の変形例のように第2四路切換弁(16)の代わりに4つの逆止弁(CV)によるブリッジ回路(19)を用いた場合には、図2において、第2ポート(P2)と第1ポート(P1)の間の逆止弁(CV)と、第2ポート(P2)と第4ポート(P4)の間の逆止弁(CV)とで、逆流防止機構(23)の機能が得られるので、上記逆止弁(23)を設けることが不要となる。
《発明の前提技術2》
次に、本発明の前提技術2について説明する。
図4に示すように、この前提技術2の冷媒回路(10)では、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)に、吐出管開閉機構(24)が設けられている。この吐出管開閉機構(24)は、吐出側配管(18a)の「開」状態と「閉」状態とを切り換える吐出管開閉弁(24)により構成されており、具体的には電磁弁により構成されている。この吐出管開閉弁(24)は、上記吐出側配管(18a)におけるバイパス通路(20)との接続点と、第1四路切換弁(15)の第1ポート(P1)との間に設けられている。つまり、吐出管開閉弁(24)は、圧縮機(11)の吐出側配管(18a)におけるバイパス通路(20)と放熱器(13,14)との間に位置している。
その他の構成は図1の前提技術1と同様である。
この前提技術2では、起動時には吐出管開閉弁(24)が閉じられてバイパス開閉弁(21)が開かれる。こうすることにより、圧縮機(11)の吐出冷媒が確実に膨張機(12)に供給されるので、膨張機(12)がすぐに自力で回転し、圧縮機(11)の起動不良を防止できる。
また、冷房や暖房の通常運転時には、吐出管開閉弁(24)が開かれてバイパス開閉弁(21)が閉じられる。こうすることにより、冷媒が確実に圧縮機(11)から放熱器(13,14)、膨張機(12)、蒸発器(14,13)を順に流れ、冷凍サイクルの動作が行われる。
《発明の実施形態2》
上記吐出管開閉機構(24)は、電磁弁の代わりに、例えば流量調整可能な電動膨張弁により構成してもよい。
また、吐出側配管(18a)の吐出管開閉弁(24)とバイパス通路(20)のバイパス開閉弁(21)を別々に設ける代わりに、吐出側配管(18a)とバイパス通路(20)との接続箇所に三方切換弁を設け、これをバイパス開閉機構(21)及び吐出管開閉機構(24)として機能させてもよい。
《発明の実施形態3》
次に、本発明の実施形態3について説明する。
この実施形態3の冷媒回路(10)は、前提技術1の変形例で説明した冷媒回路(10)の一部を変更した例である。図5に示すように、この冷媒回路(10)には、膨張機(12)の流入側配管(18b)におけるバイパス通路(20)と膨張機(12)との間から、膨張機(12)の膨張過程位置に高圧冷媒を導入する高圧インジェクション路(25)が設けられている。この高圧インジェクション路(25)には、インジェクション開閉弁(インジェクション開閉機構)(26)として、電動膨張弁が設けられている。
この実施形態3では、起動運転時には膨張機(12)内で過膨張が生じやすいために、冷媒を再圧縮するための動力を消費しやすいのに対して、図9のPV線図に示すように膨張過程で高圧冷媒が導入されるため、過膨張が生じにくくなる。したがって、過膨張後の再圧縮に動力が消費されないので起動トルクがよりいっそう低減される。また、膨張過程で高圧冷媒が導入されることにより、膨張機(12)の油温も高くなり、起動しやすくなる。
このように、本実施形態では、過膨張を防止できることと、膨張機(12)の油温を高くすることができることにより、圧縮機(11)の起動不良を確実に防止できる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態では、本発明を冷暖房可能な空調機(1)に適用した例について説明したが、本発明は、空調機(1)に限らず、圧縮機(11)と膨張機(12)とが機械的に連結された冷凍装置であれば適用可能である。
また、上記実施形態では、冷媒として二酸化炭素を用いているが、これに限らず、HFC系冷媒、HC系冷媒、水、空気、アンモニアなどの自然冷媒等を用いても良い。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。