本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴を、図面を参照して詳細に説明する。
実施例1
本実施例にかかるマルチキャピラリ電気泳動装置の全体構成を図2に示す。
本実施例にかかるマルチキャピラリ電気泳動装置は、検査試料を分離するための分離媒体を含むキャピラリからなるマルチキャピラリアレイ1と、マルチキャピラリアレイの負電極2と試料導入部11−3とを浸すバッファー液3を保持する第1バッファー容器11−4と、バルブ6を有するゲルブロック4と、ゲルブロック4とアース電極7とを浸すバッファー液12を保持する第2バッファー容器11−7と、キャピラリアレイ内に泳動媒体であるゲルを注入するためのシリンジ10と、試料に依存する情報を取得するための検出部11−8と、コヒーレント光であるレーザ光9を光照射部8に照射する光源11−1と、試料が生じる蛍光を取得する測定部(図示しない)と、キャピラリアレイの温度を調節する恒温槽11と、分離媒体に電圧を印加する高圧電源11−2から構成される。
マルチキャピラリアレイ1は、DNA分子などのサンプルが含まれている検査試料と検査試料中のDNA分子を分離するための分離媒体であるポリマ水溶液が充填される、管状部材である石英製キャピラリを96本有する。マルチキャピラリアレイ1の一端には、キャピラリ内に試料を導入できる試料導入部11−3が形成され、負電圧を印加できる電極2が配置されている。他端には、ゲルブロック4と連結し、ゲルブロック4とマルチキャピラリアレイ1との間で分離媒体を移動できる接続部5を有する。試料導入部11−3と接続部5の間に、レーザ光が照射される光照射部8を含む検出部11−8を有する。
ゲルブロック4とシリンジ10は、泳動媒体であるポリマ水溶液をキャピラリ内に注入する流動媒体注入機構11−5である。キャピラリ内に、泳動媒体であるポリマ水溶液を充填する際には、バルブ6を閉じ、シリンジ10を押し込むことによって、シリンジ10内のポリマ水溶液をキャピラリ内に注入する。
キャピラリアレイ1,ゲルブロック4,バッファー液3,電極2,アース電極側のバッファー12,アース電極7、及び高圧電源11−2は、検査試料を電気泳動するための電圧印加機構を構成する。電気泳動をする際には、負電極2をバッファー液3に浸し、バルブ6を開放する。これにより、負電極2,バッファー液3,マルチキャピラリアレイ1(より正確には、キャピラリ内のポリマ水溶液),ゲルブロック(より正確には、ゲルブロック内のポリマ水溶液),アース電極側のバッファー12、及びアース電極7からなる通電路が形成される。この通電路に高圧電源11−2により電圧を印加する。通電路に電圧が印加されると、ポリマ水溶液中の検査試料が電気泳動し、その分子量等の性質に従い分離される。
電気泳動装置の光学系は、光源11−1と、光照射部8を含む測定部11−8と、検出部から生じる蛍光を検出する検出機構から構成される。光源11−1は、コヒーレント光であるレーザ光9(アルゴンイオンレーザからの488.0nmおよび514.5nm の光)を発振する。検出部11−88には、レーザ光9がキャピラリを透過する個所である光照射部8が並列配置されている。そして、複数本のキャピラリの光照射部8を同時に貫くように、検出部11−8にレーザ光9が上下両方向から照射される。このレーザ光9が検査試料を励起して、検査試料から蛍光が放出される。この蛍光を、CCD34を含む検出機構により検出して、DNA分子配列等の検査試料に依存した情報を取得できる。
図3に、キャピラリアレイ中の検査試料からの蛍光の検出機構34−2と、光照射部8を示す。検出機構34−2は、蛍光集光レンズ31,グレーティング32,フォーカスレンズ33、及びCCD34から構成される。光照射部8にレーザ光9が照射されることで生じる、キャピラリ16中の検査試料からの蛍光35は、蛍光集光レンズ31によって平行光36となり、グレーティング32によって分光され、フォーカスレンズ33によってCCD34上に結像される。図3の右図にその結像に関する要素(検出部11−8、グレーティング32、CCD34)の様子を示す。Y軸方向に96本のキャピラリ像が並び、X軸方向に各キャピラリからの発光が分光される。
恒温槽(オーブン)11は、キャピラリアレイ1の温度を制御するための温度制御機構である。これにより、キャピラリアレイ1の大部分は、例えば60℃などの一定温度に保温される。
検出部11−8について説明する。図1に、検出部11−8の側面図(1a)と正面図(1b)を示す。検出部11−8は、96本のキャピラリ16と、アレイ台15と、セル蓋20と、押さえ板17と、気泡排除ブロック23と、充填媒体(F溶液19)と、気泡22より構成される。
キャピラリの配列について説明する。石英製のアレイ台15は、キャピラリを配列するための基準平面が形成されている。96本のキャピラリが全て基準平面接触するように、かつ、隣接キャピラリが互いに接触するようにアレイ台15上に配列される。キャピラリ16を固定するための押さえ板17とアレイ台15との間に挟み込むことで、キャピラリ16はアレイ台15に対して接着固定されている。これにより、キャピラリは平面状に並列配置され、各キャピラリの中心軸のズレは6μm以下となる。従って、96本ものキャピラリを同時に貫くようにレーザ光9を照射した際の、屈折や反射によるレーザ光9の損失の影響が低減できる。
キャピラリの構造について説明する。キャピラリ16は、内径50um,外形126umの石英管18が、厚さ12umのポリマ被膜で覆われた構造をとり、全外径は150umである。キャピラリ内部にはDNAの分離媒体であるポリマ水溶液(屈折率1.41)が充填されている。光照射部8においては、ポリマ被膜が除去され、石英管18がむき出しの状態になっている。レーザ光9を照射すると、乱反射光の一部がキャピラリのポリマ被膜にあたり、このポリマ被膜が蛍光を発する場合がある。しかし、このポリマ被膜からの蛍光は押さえ板17により遮られ、測定部に到達しないようになっている。このため、SN比の高い高精度検出ができる。
ここで、本実施例では、アレイ台15と、石英製のセル蓋20、およびそれらを固定する接着剤21が密閉構造を形成し、特定の液体・固体等の光伝導媒体を保持できる密閉容器(セル)を構成する。このセル内に光伝達媒体を充填することにより、キャピラリの間であってレーザ光が通過する空間を光伝達媒体で満たすことができる。言い換えれば、キャピラリ16の光照射部8は光伝達媒体に浸されている。尚、電気泳動時にはキャピラリに高電圧が印加されるため、キャピラリは帯電した空気中の埃を吸着してしまうが、キャピラリ16の光照射部近傍が密封容器により外気と隔離されているため光照射部8に塵が吸着しない。
この光伝達媒体の選択が、電気泳動分析の分析能に極めて大きな影響を与える。その説明にあたり、レーザ光の伝播と、レーザ光の損失による問題点について述べる。本実施例では、検出部の上方と下方の両端から、それぞれレーザ光24,25をキャピラリアレイに照射する。2つのレーザ光24,25は、互いに重なり合うように照射されている。照射されたそれぞれのレーザ光は、隣接するキャピラリに次々と伝搬して96本のキャピラリを貫通し、キャピラリの光照射部8を横断する。ここで、レーザ光24,25がキャピラリ16と光伝達媒体の境界面を進行する場合、レーザ光24,25は屈折率の異なる媒質の境界面を通過することになり、屈折と反射によるレーザ光の散乱により光強度を損失する。この損失によりレーザ光24,25の光強度が弱くなると、キャピラリ16中の試料から生じる蛍光が小さくなるため、DNA分子配列等を高感度に分析できなくなる。以下、原則、これを「分離能が低下する」と表現する。
レーザ光損失の解決方法としては、レーザ光の強度を強くすることで蛍光を大きくする方法も考えられる。しかし、レーザ光強度が強すぎるとDNA分子等の検査試料を変性させてしまうために、この解決方法には限度がある。
また、複数本のキャピラリをレーザ光が貫通する電気泳動装置においては、各々のキャピラリに照射されるレーザ光強度の差が問題となる。レーザ光がキャピラリを通過するに従い、屈折や反射によりその強度は指数的に減少するため、入射するレーザ光強度が一番強いキャピラリから生じる蛍光と、一番弱いキャピラリ(キャピラリアレイの両側からレーザ光を照射する場合には真中のキャピラリ)から生じる蛍光の大きさに差が生じる。このとき、CCD34の検出レンジは全ての蛍光を収めるように設定する必要があるため、蛍光の強度の差が大きいとCCD34の分析性能を有効に活用できず、分析能が悪くなる。従って、キャピラリ間のレーザ光強度差が大きいと、検査試料の有効な分析ができない。特に、この屈折と反射による損失はレーザ光が貫くキャピラリの本数が多くなるに従い指数的に増大するため、24本以上のキャピラリからなる電気泳動装置では屈折と反射による光強度の損失は大問題となる。
この屈折による損失と反射による損失は、その境界面の屈折率差に依存する。屈折率差が大きいと(反射率が大きいと)境界面をレーザ光が通過する際に反射による減衰が起こり、屈折率差が小さいと境界面を通過する際にレーザ光の分散による減衰が起こるためである。そこで、キャピラリ間に所定の屈折率を有する媒体を充填し、屈折と反射による損失の総和を抑制する方法が有効であると発明者は考えた。
ここで、反射による損失について説明する。一般に媒質1(屈折率:n1)から媒質2(屈折率:n2)に入射角0で光が進行した場合の反射率(R)は次式で求められる。
反射率:R=[(n1−n2)/(n1+n2)]2
例えば、キャピラリ周囲の充填媒体が空気である場合、空気(n=1.00)と石英(n=1.46)の境界面での反射率は3.49%であるため、レーザ光がその境界面を一つ通過する毎に3.49% の光が反射し光強度の損失が生じる。この損失は、レーザ光が透過するキャピラリの本数が多くなるに従い指数的に増大する。反射による損失を減少させるためには、充填媒体の屈折率をキャピラリの屈折率に近づければよい。
また、屈折による損失は、境界面を通過する際のレーザ光の分散(光が広がる状態)による減衰である。つまり、キャピラリ断面が楕円・円形の場合、キャピラリと充填媒体の境界面がレンズとして作用し、レーザ光が分離媒体が充填されているキャピラリ中空部に集中(光の密度が高まる)する。しかし、キャピラリとその周囲媒体の屈折率が小さいと、その境界面によるレンズ効果が減少し、レーザ光が発散するために損失が生じる。一般的に、媒質1(屈折率:n1)から媒質2(屈折率:n2)に光が進行した場合の入射角θ1,出射角θ2の関係は次式で求められる。
n1sinθ1=n2sinθ2
したがって、一般的にキャピラリのレンズ効果を強めて屈折による損失を低減するためには、充填媒体とキャピラリの屈折率差を大きくすればよい。
発明者は上記考察に基づき、キャピラリ周囲の光伝達媒体の屈折率Nと、発光強度比の関係のシミュレートした。シミュレート条件は、本実施例と同様の検出部構造を備えた96本のキャピラリを有するマルチキャピラリアレイについて、キャピラリ内部には屈折率1.41のポリマ水溶液が充填され、キャピラリのからのみレーザ光を照射した場合である。キャピラリの配列誤差を±6μm,レーザ径を72μm,光軸ずれを10μmと想定した。
図13にそのシミュレート結果を示す。横軸は光伝達媒体の屈折率であり、縦軸は発光強度比である。発光強度比とは、レーザ光がキャピラリを次々に伝播する場合に、入射レーザ光に対する、それぞれのキャピラリ内を通過する光量の相対値を、96本のキャピラリについて平均したものである。図中の■は発光強度比の期待値(複数キャピラリの発光強度の平均値)を示し、■を含む上下方向の線は発光強度の分布を示す。
発光強度比は、充填媒質の屈折率に対して、屈折率1.29 近辺を頂点とした山の形状となることが理解できる。屈折率が1.29 より小さい場合は、反射による損失の寄与が大きい。屈折率が1.29 より大きい場合は、屈折による損失の寄与が大きい。電気泳動分析において許容される発光強度比を0.35 以上とすれば、キャピラリ周囲の光伝達媒体としては、その屈折率が1.25から1.32の範囲にあるものが適することが理解できる。特に、屈折率1.29 の光伝達媒体は最適である。
また、光伝達媒体はレーザ光を吸収しないほうが望ましい。光伝達媒体中をレーザ光が透過する際にしても、その光強度の減衰を抑えるためである。この減衰もキャピラリの本数が多くなり、光伝達媒体中のレーザ光路が長くなるに従い増大する。
さらに、光伝達媒体は蛍光を発しないほうが望ましい。レーザ光により光伝達媒体自体が蛍光を発すると、その発光はノイズとなり、検査試料が発する蛍光の検出を阻害するためである。
発明者は上記の条件を備えた光伝達媒体として最適な物質を探求した。そして、3M社製のFluorinert Electronic Liquid FC−43(以下、「F溶液19」)に辿りついた。尚、“Fluorinert”は3M社の登録商標である。F溶液19は、屈折率が約1.29 であり、粘性が低く、無色透明で、熱的化学的に非常に安定した完全フッ素化液体である。また、照射光を吸収せず、照射光を照射しても水のラマン散乱と同等以下の蛍光しか発しない。このため、複数のキャピラリを備えたマルチキャピラリ電気泳動装置の光伝達媒体として非常に適した物質である。さらに次の特性を備えており、これらが好適に作用する場合もある。1)電気絶縁性と熱伝導性が優れている。2)表面張力が非常に低く浸透性がすぐれている。3)高温,低温を問わず各種溶剤に溶解しない。4)不燃性,無毒,無臭で安全である。5)不活性で、電子部品,金属,プラスチック,ゴムなどをほとんど侵さない。図21に25[℃]におけるF溶液の化学的特徴を示す。
本実施例にかかるキャピラリアレイの密封容器の内部には、F溶液19が充填されており、光照射部8はF溶液19に浸されている。これによりレーザ光がキャピラリ16表面を透過する際の屈折と反射による損失を低減して、検査試料が生ずる蛍光強度の減少を回避できるため、複数のキャピラリ、特に24本以上のキャピラリを有するマルチキャピラリ電気泳動装置において、分析能を向上させることができる。
密封構造中には、F溶液19とともに、気泡22が充填されている。温度変化に伴うF溶液19の体積膨張により、密閉構造が破壊されることを防ぐためである。但し、気泡22は可動するため、レーザ光路上に侵入して分析に影響を与える可能性がある。そこで、気泡22がレーザ光路上に侵入することを防ぐために、気泡排除手段である石英製の気泡排除ブロック23が密封構造の中に形成されている。気泡排除ブロック23は、検出部11−8を電気泳動装置に備え付ける際に上となる位置で、レーザ光24及び25が透過する位置に配置される。これにより、密閉容器内の上方で、かつレーザ光24及び25が透過しない位置に気泡22を収容する空間20−2ができる。計測の際に気泡はセル上方に移動し、この空間20−2に留まるため、気泡22がレーザ光路を横断することを防止できる。また、アレイ台15の基準面が水平となり、基準面が下になるように光照射部8を電気泳動装置に備え付ける場合、光照射部20−3近傍のアレイ台15の基準面に溝状の空間を形成する。光照射部近傍のキャピラリの隙間には気泡が溜まりやすいが、溝状の空間の体積が気泡22の体積以上であればこの空間に気泡が留まるため、気泡22とレーザ光24及び25の接触を避けることができる。また、光照射部8を電気泳動装置に斜めに備え付ける。つまり、気泡22が、密封容器内の片隅で、かつレーザ光24及び25の透過しない位置に移動するように備え付けることでも、同様の効果が得られる。つまり、検出部を電気泳動装置に備えつけた際に、気泡がレーザ光24及び25の透過しない位置に残留するように密閉構造を形成することで、気泡22とレーザ光24及び25の接触を避けることができる。これにより、気泡22とF溶液19の境界面をレーザ光が通過することによる屈折及び反射による損失を回避できる。
図14に、本実施例のCCDに結像されたイメージおよび96本のキャピラリからの発光強度分布を示す。尚、図4に93本キャピラリの場合のCCDに結像されたイメージおよび93本のキャピラリからの発光強度分布を示す。図14に示される発光は、分離媒体の発光スペクトル(主に水のラマン散乱)である。図に示すように、96本のキャピラリからの発光を同時検出することができる。図15に、96本のキャピラリ中の一本についての電気泳動結果を示す。尚、図5に、93本のキャピラリのうち、1本についての電気泳動結果を示す。ここでは、いわゆるサイズマーカーと呼ばれる塩基長が既知のDNAサンプルを測定対象とした。恒温槽内の温度は60℃、光照射部と試料導入端の間の長さは36cm、キャピラリに印加する電圧は、1cmあたり319Vであった。
電気泳動装置のDNA分離能を示す標識の一つにクロスオーバーポイントがある。これは、光照射部における1塩基相当の分離長と、1塩基のDNAバンドの半値全幅が等しくなる塩基長を意味し、値が大きいほど電気泳動の分離能が大きいことを表す。図15のクロスオーバーポイントは410塩基であった。他の95本のキャピラリについても同様の結果を得ることができた。尚、図5のクロスオーバーポイントは、410塩基であり、他の92本のキャピラリについても同様の結果を得ることができた。
以上より、本実施例においては、キャピラリ毎のクロスオーバーポイントが410塩基である高分析能のマルチキャピラリ電気泳動装置を提供できる。
実施例2
入射レーザ光とセルのレーザ入射面の角度は一定に保つ必要がある。この角度がキャピラリアレイごとにばらつくと、レーザ光のセルへの入射角がばらつき、その結果、セル中のレーザ光路がばらつくためである。例えば、セルのレーザ入射面が石英であり、キャピラリを満たす媒体が屈折率1.29 の液体であるとき、セルのレーザ入射面が4mradばらつく場合には、セルへの入射点からレーザが20mm伝搬した地点におけるレーザ光路の変位は20μmとなる。キャピラリ軸方向にレーザが変位すると、上下2方向照射される2つのレーザ光が同軸ではなくなり、レーザ光径が実効的に大きくなる。その結果、DNA検出の分離能(隣接するDNAバンドの識別能)が低下する等の性能低下につながる。また、キャピラリ軸と垂直方向(以下、「Z軸方向」という)にレーザ光が変位すると、キャピラリ内径内へのレーザ光照射量が減少し、信号強度が減少する。このような性能低下を避けるため、入射レーザ光とセルのレーザ入射面の角度を一定に保つ必要がある。
特に実施例1にかかるマルチキャピラリ電気泳動装置において、分離媒体と検査試料が充填されるキャピラリの内径は50μm、キャピラリ中心軸の許容誤差(キャピラリ中心軸と基準面の距離のバラツキ)は±6μm、レーザ光径は72μmである。従って、キャピラリとレーザ光の位置関係をμオーダで精密に調整しなければ、分離能を担保することができない。さらに、マルチキャピラリアレイは電気泳動装置本体から脱着できることが好ましいが、装着に際してキャピラリとレーザ光の精密な位置調整が容易にできる必要がある。このため実施例2にかかる電気泳動装置では、マルチキャピラリアレイにおける電気泳動装置への取付基準面とセルのレーザ入射面を一定角度にし、かつ、この取付基準面と装置側の取付基準面を常に一定角度に取り付けられる構造を備えている。より詳細には、複数のキャピラリが並んだ平面を電気泳動装置のマルチキャピラリアレイ取付部における取付基準面に接触させることにより、前記取付基準面に対する垂線方向に関する平面基板と電気泳動装置の相対位置合わせを行い、かつ、前記平面基板のうちキャピラリが並んだ平面に対して垂直な一平面をマルチキャピラリアレイ取付部におけるもうひとつの取付基準面に接触させることにより、前記垂線方向に垂直な方向に関するキャピラリアレイと電気泳動装置の相対位置合わせを行うことにより、入射レーザ光とセルのレーザ入射面の角度を一定に保つことができる。
図6に、実施例2のキャピラリアレイ取付部の正面図(6a)と正面図におけるA−A′断面(6b)を示す。尚、他の個所は実施例1と同様である。XYZ軸を図示の通り定義する。X軸はキャピラリ軸に平行な方向であり、Z軸は複数のキャピラリが並んだ基準平面に垂線な方向であり、Y軸はX軸とZ軸の双方に垂直な方向である。
石英製のアレイ台15は、キャピラリのポリマ被覆を接触させてキャピラリを配列できる基準平面40−2と、電気泳動装置本体と接触する取付基準面P40と、取付基準面Q46が形成されている。アレイ台15の取付基準面Q46は、取付基準面P40に対して垂直で、X軸に対し平行である。基準平面40−2と取付基準面P40とは略並行でその距離は6μm以内であることが望ましい。本実施例のように、基準平面40−2と取付基準面P40とが同一平面上に形成されていると、キャピラリアレイを高精度に製作することができ好適である。
電気泳動装置本体にあるキャピラリアレイ取付部は、マルチキャピラリアレイの取付基準面P40と取付基準面Q46とそれぞれ接する取付基準面P′41と取付基準線QQ′47,48が形成され、光照射部8に入射するレーザ光24,25が透過するレーザ光透過部51−7,試料が発する蛍光が透過する蛍光透過部51−6,取付部蓋51−11とバネ51−10からなる押圧部A51−8,押し当て棒44とバネ45からなる押圧部B51−9を備えている。
押圧部A51−8は、マルチキャピラリアレイをキャピラリアレイ取付部に脱着する際に移動することができる。装着の際に、アレイ台15の取付基準面P40を電気泳動装置のマルチキャピラリアレイ取付部における取付基準面P′41に接触させ、押圧部A51−8によりアレイ台15を−Z軸方向(取付基準面P40から取付基準面P′41の方向)に押し付けることで、Z軸方向に関するアレイ台15と電気泳動装置の相対位置合わせをμmオーダの精度で行うことができる。この位置合わせにより、キャピラリアレイを脱着する際にレーザ光のキャピラリ照射位置の再現性を確保することができる。特に、基準平面40−2と取付基準面P40とが同一平面上に存在する場合には、各キャピラリ中心軸とレーザ光24,25の透過路の位置関係を極めて高精度に調整できる。
アレイ台15の取付基準面Q46を、Z軸上方から見ると半円形状である2つのキャピラリ取付基準部材に接触させることにより、取付基準線QQ′47,48に接触させる。そして、Z軸上方から見ると半円形状である2つのキャピラリ押し当て部材を有する押し当て棒44を介して、バネ45によりY軸方向(取付基準面Q46から取付基準線QQ′47,48の方向)にアレイ台15を押し当てる。このように、Z方向から見ると1直線が2点で接しているため、Y軸方向に関するアレイ台15と電気泳動装置の相対位置合わせを高精度に行うことができる。
また、キャピラリアレイにおいては、取付基準面Q46と各キャピラリが平行になるようにキャピラリを配列し、また、取付基準面Q46に最も近いキャピラリ49と取付基準面Q46の距離を、どのキャピラリアレイにおいても一定とした。こうすることにより、最も近いキャピラリ49から続く残り95本のすべてのキャピラリについて、各キャピラリと取付基準線QQ′47,48と位置関係が一義的に定まる。したがって、CCD34への結像位置がキャピラリアレイに依存しなくなり、CCD34の受光面サイズを最小限にすることができる。
あるいは、アレイ台上において、すべてのキャピラリが配列される範囲を設定し、その範囲内で取付基準面Q46と各キャピラリが平行になるようにキャピラリを配列する。取付基準面Q46に最も近い前記範囲の距離と、最も遠い前記範囲の距離を、どのキャピラリアレイにおいても一定とした。このような構造は、例えば図8に示されるようにアレイ台上に2つの平行なブロックを形成しそのブロック間を配列範囲とし、96本のキャピラリをこの範囲に配列することにより実現することができる。この場合、ブロックのキャピラリ側の内壁と、取付基準面Q46の距離を一定に保つことになる。こうすることにより、CCD34への結像位置がキャピラリアレイに依存しなくなり、CCD34の受光面サイズを最小限にすることができる。
石英製セル蓋20の表面のうち、レーザ光24,25が通過するR50,S51,T52,U53面と面Q46との平行度は2×10−3rad 以下になるようにした。この平行度がキャピラリアレイごとにばらつくと、レーザ光24,25のセル蓋20への入射角がばらつき、その結果、セル中のレーザ光路がばらつく。X軸方向にレーザ光路がばらつくと、上下2方向のレーザ光24,25が同軸ではなくなり、レーザビーム径が実効的に大きくなる。その結果、DNA検出の分離能(隣接するDNAバンドの識別能)が低下する等の性能低下につながる。また、Z軸方向にレーザ光24,25が変位すると、キャピラリ内径内へのレーザ光照射量が減少し、信号強度が減少する。このような性能低下を避けるため、上記の通りR50,S51,T52,U53面をそれぞれ面Q46とほぼ平行にした。
なお、レーザ光路のばらつきを抑制するためには、R50,S51,T52,U53面が面Qと平行であるだけでは不十分であり、電気泳動装置へのアレイ台15取付角度を再現性よく一定にする必要がある。この条件は、面Q46を線Q47,Q′48に押し当てる上記方法により実現されている。
キャピラリアレイ取付部へのキャピラリアレイ取付方法として、次のような方法もある。
図23に、実施例2の変形例のキャピラリアレイ取付部の正面図(23a)と正面図におけるA−A′断面(23b)を示す。XYZ軸を図示の通り定義する。アレイ台15上の基準面P40(キャピラリのポリマ被膜が接触している面)を、電気泳動装置本体のキャピラリアレイ取付部における取付基準面P′41に接触させることにより、Z軸方向に関するアレイ台15と電気泳動装置の相対位置合わせを行った。この位置合わせにより、キャピラリアレイを着脱する際にレーザ光のキャピラリ照射位置の再現性を確保することができる。
また、押し当て棒44を介して、バネ45によりY軸方向にアレイ台15を押し当て、セルの面U53(面P40に対して垂直でX軸に対し平行)を電気泳動装置のキャピラリアレイ取付部における取付基準線Q″Q′′′47−2,48−2に接触させることにより、Y軸方向に関するアレイ台15と電気泳動装置の相対位置合わせを行った。また、キャピラリアレイにおいては、面U53と各キャピラリが平行になるようにキャピラリを配列し、また、面U53に最も近いキャピラリ49と面U53の距離を、どのキャピラリアレイにおいても一定とした。こうすることにより、CCD34への結像位置がキャピラリアレイに依存しなくなり、CCD34の受光面サイズを最小限にすることができる。
あるいは、アレイ台上において、すべてのキャピラリが配列される範囲を設定し、その範囲内で取付基準面Q46と各キャピラリが平行になるようにキャピラリを配列する。取付基準面Q46に最も近い前記範囲の距離と、最も遠い前記範囲の距離を、どのキャピラリアレイにおいても一定とした。このような構造は、例えば図8に示されるようにアレイ台上に2つの平行なブロックを形成しそのブロック間を配列範囲とし、96本のキャピラリをこの範囲に配列することにより実現することができる。この場合、ブロックのキャピラリ側の内壁と、取付基準面Q46の距離を一定に保つことになる。こうすることにより、CCD34への結像位置がキャピラリアレイに依存しなくなり、CCD34の受光面サイズを最小限にすることができる。
セル蓋20の石英表面のうち、レーザ光24,25が通過するR50,S51,T52面と面U53との平行度は2×10−3rad 以下になるようにした。キャピラリアレイごとにこの平行度がばらつくと、レーザ光24,25のセル蓋20への入射角がばらつき、その結果、セル中のレーザ光路がばらつく。X軸方向にレーザ光路がばらつくと、上下2方向のレーザ光24,25が同軸ではなくなり、レーザビーム径が実効的に大きくなる。その結果、DNA検出の分離能(隣接するDNAバンドの識別能)が低下する等の性能低下につながる。また、Z軸方向にレーザ光24,25が変位すると、キャピラリ内径内へのレーザ光照射量が減少し、信号強度が減少する。このような性能低下を避けるため、上記の通りR50,S51,T52をそれぞれ面U53とほぼ平行にした。
なお、レーザ光路のばらつきを抑制するためには、R50,S51,T52面が面U53と平行であるだけでは不十分であり、電気泳動装置へのアレイ台15取付角度を再現性よく一定にする必要がある。この条件は、面U53を線Q′47,Q″48に押し当てる上記方法により実現されている。
図6に示した方法においてはセル蓋20の面R50とアレイ台15の面Q46が平行になるようにセル蓋20をアレイ台15に取付,接着する必要がある。本方法においては、セル蓋20の面U53が、キャピラリアレイ取付部の取付基準線Q′47,Q″48に直接接触するため、アレイ台15とセル蓋20の平行度の裕度が大きくなる。
また発明者は、キャピラリ間の充填媒体に温度勾配が生ずるとき、電気泳動装置の分解能が悪化する問題を見出した。そして、その理由が、充填媒質中の屈折率傾斜によるレーザ光の湾曲であることを突き止めた。以下、この問題と、解決手段について説明する。
光伝達媒体(F溶液19)のZ軸方向温度分布が存在すると、Z軸方向にF溶液19の屈折率傾斜が発生する。この屈折率傾斜により、本来Y軸方向のみの成分をもつレーザ光24,25の進行方向が、微小ながらZ軸成分をもつようになる。Y方向に進行するレーザ光24,25の進行方向がこの屈折率勾配によりZ軸方向に変位した結果、キャピラリを伝搬する過程において、レーザ光がキャピラリアレイからずれてしまう。そのため、キャピラリに照射されるレーザ光強度が減少し、信号強度(試料からの蛍光強度)が減少し電気泳動装置の分離能が悪化する問題が発生する。特にこの問題は、レーザ光24,25の光伝達媒体中を通過する距離が長くなる程(キャピラリの本数が多い程)顕著になる。
発明者は、密封容器の内部表面温度を適切に調整することで、複雑な構成を利用せずともこの問題を解決できるのではないかと考えた。そこで、内部表面温度差と、充填媒体中の所定位置の温度勾配との関係を調査した。その結果を図7に示す。図7は、図6中の点V54と点W55の温度差と、直線VW上の温度勾配とを表したものである。横軸は、直線VW上のZ座標であり、Z=0はキャピラリの中心位置に相当する。尚、直線VWはアレイ台に対して垂直であり、キャピラリ間の空間の中心を通るとする。V−W間の距離、すなわちF溶液層厚は0.8mmである。縦軸は、温度勾配である。ΔTは、点V54と点W55の温度差である(ΔT=[点Vの温度]−[点Wの温度])。各曲線は、ΔTが−20,−5K,−2K,2K,5K,20Kの場合のF溶液における直線VW上の温度勾配を表している。尚、F溶液の熱伝導率は、0.066W/mK 、比熱は1050J/kgK、密度は1880kg/m3である。また、電気泳動中におけるキャピラリ1本の発熱は、長さ10mmあたり1mWと仮定して計算した。
図7からわかるように、ΔTが正である(点V54の温度が点W55の温度より大きい)ほうが負であるよりも温度勾配の絶対値が小さくなる。つまり、アレイ台15の平面基板の温度がセル蓋20よりも高い場合の方が、その逆の場合に比べて温度勾配の変位量が小さいことが判明した。
この結果を踏まえ、図6に示すようにマルチキャピラリアレイを設計した。本実施例にかかるマルチキャピラリアレイは、密閉容器の第1平板部である石英製のアレイ台15の厚みが、第2の平板部である石英製のセル蓋20の厚み(検出されるべきキャピラリアレイからの信号光が透過する前記セルの一部である透明板の板厚)より厚くなっている。尚、セル蓋20を石英製、アレイ台15をサファイア製とすることにより、アレイ台15をセル蓋より薄くしても、ΔTを正に保つことができる。つまり、第1平板部の熱伝達効率を第2平板部の熱伝達効率より大きくするようにキャピラリアレイを設計する。これにより、マルチキャピラリアレイ取付部が60℃などの温度に一定に保たれている場合に、60℃に保たれているマルチキャピラリアレイ取付部の面P′(取付基準面P′41と取付基準線QQ′47,48)に接触する部分から面P(取付基準面P40と取付基準面Q46)に伝達される熱をセル蓋よりもアレイ台の方に効率的に伝達させ、ΔTを正に保つためである。これにより、キャピラリ間の光伝達媒体でレーザ光が通過する個所の温度勾配が小さくなり、屈折率勾配が減少するため、レーザ光路は曲がりにくくなり、直進性を保つことができる。
好ましくは、電気泳動の際に、レーザ光の透過する個所の充填媒質の温度勾配がゼロになるようにマルチキャピラリアレイを設計する。ここで、温度勾配がゼロとは、温度勾配がほぼ存在しないためレーザ光が直進できる状態のことをいい、レーザ光の湾曲が分離能をほとんど悪化させない状態をいう。
以上より、キャピラリ周囲に充填媒質を満たす電気泳動装置において、分離能を向上することができる。
実施例3
実施例3では、光伝達媒質として、屈折率1.29 のフッ素化ポリマであるデュポン社製Teflon AF 2400(以下、「Fポリマ」)、又は屈折率1.32 のフッ素化ポリマであるデュポン社製Teflon AF 1600(以下「F′ポリマ」という)を利用していることを一つの特徴とする。尚、“Teflon”はデュポン社の登録商標である。図8に、実施例3の検出部付近の側面図(8a)と正面図(8b)を示す。光照射部8以外の構成は実施例1と同様である。
また、次の化学構造A,B,C,Dのうち少なくとも一つの繰り返し単位を有する構造を有する媒体も用いることができる。これらは、水素原子をすべてフッ素原子で置換したもので、上記F溶液と同様に、光伝達媒体として優れている。
キャピラリアレイ1の光照射部8はアレイ台15上に形成されている。アレイ台上の96本のキャピラリ16すべてがアレイ台15に接触するように、かつ、隣接キャピラリと接触するようにアレイ台15上に配列され、押さえ板17とともに、アレイ台15に対して接着固定されている。これにより、実施例2と同様に、各キャピラリと取付基準面の位置関係が一義的に定まる。
キャピラリ16は、実施例1と同様にポリマ薄膜で覆われているが、光照射部60−2においては、ポリマ被膜が除去され、石英管18がむき出しの状態になっている。実施例3にかかる発明では、この石英が露出している光照射部60−2が、屈折率1.29 のフッ素化ポリマであるFポリマで覆われている。または、屈折率1.32 のフッ素化ポリマであるデュポン社製Teflon AF 1600(登録商標)(以下「F′ポリマ」という)で覆われていてもよい。
キャピラリ16をアレイ台15に対して固定した後にFポリマ60をキャピラリ間に充填した。両端のキャピラリの外側に位置する2つのポリマブロック61,62の間の空間において、レーザ光24,25の通過領域を完全に覆うようにFポリマ60を充填した。
ここで、Fポリマの化学構造式Eを示す。なおnは自然数である。
また、Fポリマ、及びF′ポリマには次の特徴がある。
(1)温度安定性が高い(High temperature stability)
(2)科学的耐性に秀でている(Excellent chemical resistance)
(3)表面エネルギーが低い(Low surface energy)
(4)水吸収が低い(Low water absorption)
(5)透明で光伝達率が高い(transparent high transmission)
(6)屈折率が低い(very low refractive index)
(7)ガス浸透性が高い(High gas permeability)
図20にFポリマの透過スペクトラムを示す。図よりFポリマは紫外線から赤外線の範囲で高い透過性を有することがわかる。従って、Fポリマ60は、蛍光であるアルゴンレーザの波長488.0nm,514.5nmの光を吸収せず、また、この光を照射しても蛍光を発しないため、充填媒体として適している。
図22にFポリマ及びF′ポリマの屈折率を示す。Fポリマの温度20℃におけるナトリウムD線による屈折率は1.29 であり、F′ポリマの温度20℃におけるナトリウムD線による屈折率は1.32 である。屈折率は、接触液体としてα−bromo−napthalene を利用したAbbe反射測定器を用いて測定した。これら屈折率は、固体有機重合体の中で最も低い値として知られており、AF2400の屈折率は、GrohとZimmerm が提唱した固体有機重合体屈折率の理論的最低限界値に近い値である。
このように、屈折率が1.25から1.32、好ましくは1.29 のフッ素含有ポリマを、キャピラリの隙間に充填することにより、レーザ光24,25が石英管18表面を透過する際の屈折と反射による光強度の損失を防ぐことができ、実施例1とほぼ同様の信号を得ることができる。
実施例4
図9aに、実施例4のレーザ照射部付近の側面図を示す。
本実施例では、図9aに示すように、充填したFポリマ60の表面形状を、その断面形状がキャピラリ16と同心の円状になるように成型した。その他の構造は実施例3と同様である。ここで、蛍光集光レンズ31のF値が1.8 であるとする。Fポリマ60の表面が平面である場合(図9b)には、空気とFポリマ60の界面65において信号光が屈折するため、図示するとおりキャピラリ断面において±12°の範囲の信号光しか蛍光集光レンズ31に到達しない。一方、Fポリマ60の表面形状がキャピラリ16と同心円状である場合には、キャピラリ断面において±15.5° の範囲の信号光が蛍光集光レンズに到達する。また、キャピラリ中の検査試料から生じた蛍光が石英管とFポリマ60の境界面、及びFポリマ60と外気(空気)との境界面を通過する際、蛍光はこれら境界面に対して垂直に入射する。従って、蛍光は屈折しないため、収差による問題が生じない。このように、充填したFポリマ60の表面形状を、その断面形状がキャピラリの同心円の一部となるように成型することにより、測定部34−3(CCD34)が検出する蛍光の強度を増加することができ、分離能が向上する。
また、充填したFポリマ60の表面形状を、所定の曲面となるように形成することでも分離能を向上することができる。たとえば、その1断面が所定の曲線(楕円,双曲線,中心軸がキャピラリ中心軸と異なる円)となるように曲面を形成する。これにより、Fポリマ60をレンズとして作用させ、検査試料から生じる蛍光をより多く検出機構34−2に収束させることができる。尚、収差による問題は、表面形状を非球面レンズとして形成したりすること等で回避できる。
以上のように、Fポリマ60の表面形状を所定の曲面に形成し、蛍光の進行方向を制御して、検出機構に入射する蛍光強度を上げることにより、分離能を向上させることができる。
実施例5
図10に、実施例5の検出部付近の側面図を示す。本実施例では、キャピラリ間であってレーザ光が通過する空間を満たす液体は、キャピラリアレイのセル構造に包含されておらず、キャピラリアレイ電気泳動装置本体側に具備された液体を包含するセル構造に保持されている。この場合、装置のセル内にキャピラリをディップし、キャピラリアレイを固定する。その他、特に記載のない事項については、実施例1と同様である。
キャピラリアレイがセル構造を有さない点を除いて、アレイ台15上に形成される検出部の基本的な構造は、実施例1と同様であり、96本のキャピラリ16すべてがアレイ台15に接触するように、かつ、隣接キャピラリと接触するようにアレイ台15上に配列され、押さえ板17とともに、アレイ台15に対して接着固定されている。
電気泳動装置のキャピラリアレイ取付部は、F溶液を満たすことができる容器部であるセルと、レーザ光を透過することができるレーザ光透過部であるセルの石英窓72,73と、蛍光を透過することができる蛍光透過部であるセル下部の石英窓71と、取付基準面P′41を備えている。
電気泳動装置は、キャピラリアレイを下向きに取り付けるようになっている。アレイ台15の面P40を装置の取付基準面P′41に接触させることによりアレイ台15と電気泳動装置の相対位置合わせを行うことができる。
電気泳動装置のセルは、F溶液19で満たされ、レーザ光24,25はセルの石英窓72,73を通してF溶液19中を水平方向に進行している。キャピラリからの発光は下向きであり、セル下部の石英窓71を通して、実施例1と同様な検出機構により検出される。
気泡がレーザ光路上に侵入することを防ぐために、アレイ台には穴加工70が施してある。穴加工70とは、アレイ台15を貫通する穴を形成することである。また、光照射部の上方に位置するアレイ台15に、溝を形成することでも同様の効果を達成することができる。これにより、キャピラリの光照射部の近傍の気泡が上方に移動できるため、該気泡はレーザ光路上に残留しない。
本実施例により、マルチキャピラリアレイの光照射部近傍をF媒体に浸すことができるため、実施例1とほぼ同様の測定結果を得ることができ、電気泳動装置の分離能を向上させることができる。
実施例6
実施例6は、複数キャピラリの両側からレーザ光を照射する電気泳動装置において、透過したレーザ光を直線偏光とする偏光素子,透過したレーザ光の偏光方向を回転させる偏光回転素子を適切に配置することにより、レーザ光がレーザ発振機に戻りレーザ発振を不安定にするという問題を回避・低減するものである。
図11に、実施例6の概略を示す。キャピラリアレイの構成は実施例1と同様である。キャピラリアレイの検出部付近とレーザ光の導入経路のみ表示し、レーザ用のシャッタ,フィルタ等は表示していない。
本実施例にかかるマルチキャピラリアレイ電気泳動装置は、実施例1と同様の構成であるキャピラリアレイと、複数のキャピラリを貫く2つのレーザ光を照射し、この2つのレーザ光の進行方向を対向するように調整する光照射機構と、キャピラリアレイを通過したレーザ光がレーザ本体に戻ることを防ぐための光遮断機構をそなえる。
光照射機構は、コヒーレント光であるレーザ光80を照射する光源であるレーザ本体87と、一つのレーザ光80を2つのレーザ光24,25に2等分できるハーフミラー81と、レーザの進行方向を変更するミラー91と、集光レンズ83,84よりなる。レーザ光の経路の途中に、ミラー,ハーフミラー,レンズなどがあってもかまわない。
光遮断機構は、透過する光の偏光方向を変更できる偏光回転素子であるハーフ波長板(水晶λ/2板,雲母波長板など)88,89と、所定の偏光のみ透過する偏光フィルタ90よりなる。
レーザ本体87から照射されたレーザ光80は、ハーフミラー81によって2等分される。これら2つのレーザ光は、キャピラリアレイ82に対して両側の側面から照射する。ここで、ハーフミラー81による反射光をレーザ光24,透過光をレーザ光25とする。レーザ光24の集光レンズを集光レンズ83,レーザ光25の集光レンズを集光レンズ84とする。アレイの端に位置し、レーザ光24が導入されるキャピラリを以下、第1キャピラリ85,レーザ光25が導入されるキャピラリを以下、第96キャピラリ86とする。レーザ光24,25は、96本のそれぞれのキャピラリの中心軸を含む平面(以下、「アレイ面」という)内にあり、キャピラリに対し垂直に入射する。レーザ光24と25は同軸になっており、一方のレーザ光のうちキャピラリを通過した光は、もう一方の入射レーザ光の同軸上を通り、レーザ本体87に戻るように光軸を調整した。レーザ光24,25はともに直線偏光であり、その偏光方向はキャピラリ軸に対し垂直方向である。以上の構成(偏光素子と偏光回転素子を設置しない場合)において、キャピラリアレイからの反射光、または、キャピラリアレイを通過した透過光がレーザ本体に戻り、レーザ発振が不安定化し、分離能が悪化するという問題が発生する。尚、透過戻り光強度,反射戻り光強度ともに、入射光強度の6%程度であった。
この戻り光を抑制するために、上下両方からのそれぞれのレーザ光24,25に対し、レーザ集光レンズのキャピラリ側に偏光回転素子としてハーフ波長板である水晶λ/2板,雲母波長板88,89などを設置した。偏光フィルタおよび偏光回転素子の光軸周りの回転角度調整を次のように行うことが望ましい。偏光フィルタは、レーザからの光の透過光強度を最大にするように角度調整する。偏光回転素子については、偏光回転角度が45°になるようにこの素子の回転角度を調整する。偏光を45°回転させる光学素子を2つ通過することにより、入射光の偏光方向は90°回転する。2つ目の偏光フィルタは偏光方向が90°回転した光の透過光強度が最小になるように角度調整する。尚、偏光回転素子の回転角度,偏光フィルタの偏光方向は上記数値に厳密に限定されるものではなく、戻り光強度の問題を解決するために十分であれば良い。
本実施例では、分岐点よりもキャピラリアレイ側に偏光回転素子を設置し、分岐点よりもレーザ側に偏光フィルタを設置する。レーザ本体87の近くに設置された偏光フィルタは、レーザからの光の強度を最大にするように角度調整してある。キャピラリアレイを透過してループ状の光路を戻ってきた光は偏光方向が90°回転しているので、偏光フィルタは戻り光に対しては透過光強度が最小になる。
尚、偏光フィルタ、及び偏光回転素子の設置は、これに限定されるものではない。たとえば、分岐点よりもキャピラリ側に、偏光フィルタ,偏光回転素子の両方を設置してもよい。この場合、それぞれの光学素子は2個ずつ必要になる。また、分岐点よりもレーザ側に偏光フィルタを設置してもよい。この場合には1つの偏光フィルタが必要になる。また、集光レンズと偏光回転素子の配置を交換し、集光レンズを偏光回転素子よりキャピラリ側に配置してもよい。この場合、レーザは、偏光回転素子、集光レンズの順に透過する。
これにより、レーザ本体87より照射されたレーザ光は、偏光フィルタ(透過光が最大になるように角度調整する)を通過し、ハーフミラーで2つに分岐し、偏光回転素子を通過した後に、2方向からキャピラリアレイを照射する。キャピラリ軸に対して垂直方向のレーザ光の偏光がハーフ波長板88により45°回転され、キャピラリ軸に対して45°の角度でキャピラリアレイに入射する。上記光経路では、キャピラリアレイの地点において上下2つのレーザ光の偏光方向は互いに垂直になる。キャピラリ内径内からの信号光強度は、入射レーザ光の偏光方向に依存するものの、上下2つのレーザ光はキャピラリ軸に対してともに45°になるため、96本のキャピラリの信号光強度分布は上下対称になる。
キャピラリアレイを透過したレーザ光は、偏光回転素子(最初の偏光回転素子と同一方向に偏光を回転する)を通過する。キャピラリアレイの両側に配置された偏光回転素子は、レーザ光を同じ方向に偏光させる性質を有するため、キャピラリアレイの一端から入射するレーザ光は、キャピラリを通過後に再度偏光素子により偏光方向が回転し、他方のレーザ光の偏光方向とほぼ直角の関係になる。
次に、ハーフミラーを経由して偏光フィルタに進入する。ここで、2つ目の偏光フィルタは1つ目の偏光フィルタと同一のものであり、戻り光は、反対側から入射することになる。但し、戻り光の偏光は90°回転している。言い換えると、レーザ光24はハーフ波長板88により、キャピラリ軸に対して垂直方向のレーザ光の偏光が45°回転され、キャピラリ軸に対して45°の角度でキャピラリアレイに入射するようになっている。レーザ光24は、96本のキャピラリを透過した後、ハーフ波長板89でさらに45°偏光が回転する。2つのハーフ波長板88,89を通過することによりレーザ光24の偏光方向は90°回転する。同様にレーザ光25の透過光も偏光方向が90°回転する。そして、透過光は偏光フィルタに進入する。
しかし、この偏光フィルタは、レーザ本体87からのレーザ光の強度を最大にするように角度調整してあり、キャピラリアレイを透過してループ状の光路を戻ってきた光は偏光方向が90°回転しているので、偏光フィルタは戻り光に対しては透過光強度が最小になるようになっている。
従って、この偏光フィルタを通過することができず、レーザヘッドに到達しないため、戻り光がレーザに戻ることを抑制することができる。96本のキャピラリを通過する過程において直線偏光が乱れ、キャピラリ通過前の偏光成分は25%程度減少する。しかしながら、本発明により透過戻り光を75%抑制することができた。
本実施例では、キャピラリアレイを通過した光がレーザ発振器に戻り、レーザ発振を不安定にするという問題が解決でき、比較的安定したレーザ発振を得ることができた。
実施例7
実施例6においては、キャピラリにより反射した戻り光を抑制できないという問題があった。実施例7は、複数キャピラリの両側からレーザ光を照射する電気泳動装置において、キャピラリへのレーザ入射角度をキャピラリと垂直にしないことで、キャピラリにより反射したレーザ光がレーザ発振機に戻りレーザ発振を不安定にするという問題を回避・低減するものである。
図12に、実施例7の模式図を示す。本実施例は、光照射部の光軸構成以外は実施例6と基本的に同様である。しかし、前述した光照射機構がキャピラリに対し垂直から2°ずれた角度でレーザ光を照射し、また、光選択部材であるピンホール板97を供えている。この光選択部材は、光源からキャピラリに進行するレーザ光を透過できる開口部と、キャピラリから光源に進行する戻りレーザ光は遮断できる障壁部を備えている。
レーザ光24,25は、アレイ面内にあり、キャピラリに対し垂直から2°ずれた角度で入射する。レーザ光24と25はキャピラリアレイに照射される際に同軸になっており、一方のレーザ光のうちキャピラリを通過した光は、もう一方の入射レーザ光と同軸上を通り、レーザ本体87に戻るように光軸を調整している。これにより、レーザ光24,25によるキャピラリやセルからの反射光95,96は、図12に示すように入射レーザ光軸とは別の光軸上を伝搬するため、レーザ光24,レーザ光25のいずれとも同軸とはならない。
レーザ本体87のレーザ光出射口付近に、キャピラリ入射前のレーザ光は透過し、キャピラリで反射したレーザ光は透過しない光選択手段である直径1.4mmのピンホールを有するピンホール板97を取付ける。レーザ本体87からのレーザ光はピンホールを通過するが、反射光はピンホールを通過できないため、反射光95,96がレーザ本体87に戻ることを防ぐことができる。従って、キャピラリアレイやセルからの反射光がレーザ発振器に戻り、レーザ発振を不安定にするという問題を解決できる。
尚、本実施例と実施例6とは組み合わせることにより、透過戻り光は実施例6の方法で抑制され、反射戻り光は本実施例の方法で抑制することができるため、安定したレーザ発振を得ることができる。
実施例8
実施例8にかかる発明は、キャピラリ周囲の充填媒質の形状を所定の曲面に形成することで、キャピラリから生じる蛍光が充填媒質境界面を通過する際に発散することを回避するものである。
図16に、実施例8のレーザ照射部付近の上面図を示す。その他の構造は実施例3と同様である。図16aに示すように、充填した光伝達媒体であるFポリマ60の表面形状が、キャピラリ内のレーザ照射部分100から見て凸形状となるように成型されている。
ここで、蛍光集光レンズ31のF値が1.8 であるとする。Fポリマ60の表面が平面である場合(図16b)には、空気とFポリマ60の界面65において信号光が屈折するため、図示するとおりキャピラリ断面において約±11°の範囲の信号光しか蛍光集光レンズ31に到達しない。
一方、Fポリマ60の表面形状が図16aのように凸形状である場合には、その表面形状の曲率半径に依存してキャピラリ断面において約±11〜15°の範囲の信号光が蛍光集光レンズに到達する。このように、充填したFポリマ60の表面形状を凸形状等の曲面にすることにより、検出機構により検出されるキャピラリ16からの照射光強度を増加させることができる。なお、照射光強度を効果的に増大させるためには、Fポリマ60の表面凸形状の円弧の中心とレーザ光軸が一致することが望ましい。検査試料が発した蛍光が、Fポリマ60の凸形状表面に対して垂直方向に進行するため、その凸形状表面(境界面)を通過する際に進行方向が変化しないためである。これにより、収差の問題も回避することができる。
また、充填したFポリマ60の表面形状を、所定の曲面となるように形成することでも、分離能を向上することができる。たとえば、その1断面が所定の曲線(楕円,双曲線,中心がレーザ光軸と異なる円)となるように曲面を形成する。このようにすると、蛍光が、検出部であるCCDカメラにより多く収束するため、CCDが検出する蛍光強度が増大する。つまり、キャピラリ周囲のFポリマ60の表面形状を所定の曲面に形成することで、Fポリマ60がレンズとして作用し、蛍光の進行方向を調整することができる。尚、収差による問題は、Fポリマ60の表面形状にかかるレンズが、複数の焦点を持つように形成することで回避できる。
尚、Fポリマの表面とは空気に接するものに限らず、Fポリマとは異なる屈折率を有する媒質との接触面をいう。また、Fポリマとキャピラリとの間に、屈折率の異なる別媒質が存在してもよい。
本実施例は実施例4と同時に実施することもできる。
実施例9
実施例9は、キャピラリ周囲の充填媒質を被覆する容器の外型を所定の曲面に形成することで、キャピラリから生じる蛍光が容器表面を通過する際に発散することを回避するものである。
図17に、実施例9の光照射部付近の上面図を示す。その他の構造は実施例1と同様である。図17aに示すように、セル蓋20の表面形状を、キャピラリ内のレーザ照射部分100から見て凸形状になるようにする。
ここで、蛍光集光レンズ31のF値が1.8 であるとする。セル蓋20の表面形状が平面である場合(図17b)には、空気とセル蓋20の界面において信号光が屈折するため、図示するとおりキャピラリ断面において約±11°の範囲の信号光しか蛍光集光レンズ31に到達しない。
一方、セル蓋20の表面形状が図17aのように凸形状である場合には、その表面形状の曲率半径に依存してキャピラリ断面において約±11〜15°の範囲の信号光が蛍光集光レンズに到達する。このように、セル蓋20の表面形状を、凸形状にすることで検出されるキャピラリ16からの照射光強度を増加させることができる。なお、照射光強度を効果的に増大させるためには、セル蓋の表面凸形状の円弧の中心とレーザ光軸が一致することが望ましい。
また、セル蓋の表面形状をより大きな曲率の曲面とすることで、蛍光が検出機構内のCCDカメラにより収束し、照射光強度を増大させることができる。つまり、キャピラリ周囲の充填媒質を被覆するセル蓋等容器の形状を所定の曲面に形成することで、セル蓋等の容器がレンズとして作用し、蛍光の進行方向を調整することができる。
尚、セル蓋の表面とは空気に接するものに限らず、セル蓋等の容器とは異なる屈折率を有する媒質との接触面をいう。また、セル蓋と境界面を形成する充填媒質の間に、屈折率の異なる別媒質が存在してもよい。
実施例10
実施例10にかかる発明は、一方が平面で他方が曲面の部材であるシリンドリカルレンズを、表面形状が平面であるマルチキャピラリアレイに備え付けることで、実施例9におけるセル蓋の表面凸形状の機能を、装置に装着されたシリンドリカルレンズ202が担うものである。
図18に、実施例10のレーザ照射部付近の上面図を示す。本実施例では、実施例1にかかるマルチキャピラリアレイのセル蓋が、電気泳動装置本体に装着されたシリンドリカルレンズ202に覆われている。その他の構造は実施例1と同様である。
実施例9におけるセル蓋の表面凸形状の機能を装置に装着されたシリンドリカルレンズ202が担うことができるため、消耗品であるキャピラリアレイのセル蓋は平面ガラス板でよいことになる。また、シリンドリカルレンズ202が装置に装着されているため、シリンドリカルレンズ202の表面凸形状の中心とレーザ光軸が一致するため、照射光強度がキャピラリアレイの取付精度に依存しないというメリットがある。
実施例11
図19に、実施例11のレーザ照射部付近の正面図(19a)と正面図におけるA−A′断面(19b)を示す。本実施例では、1本のキャピラリ中からの試料から生じる蛍光を透過する検出窓を有する背景光遮蔽部材が、光照射部は石英製のアレイ台15上に並列配置されたキャピラリの上方に配置されている。その他の構造は実施例1と同様である。
96本のキャピラリ16すべてがアレイ台15に接触するようにアレイ台15に配列され、シリコン板101とともに、アレイ台15に対して接着固定されている。シリコン板101には、シリコン異方性エッチング技術により、柵102により仕切られた検出窓103と、キャピラリ16の配列位置決めのために用いられるV溝104が形成されている。V溝104にキャピラリ16が嵌るため、キャピラリ16を所定の間隔で高精度に配列することができ、また、柵102により仕切られた検出窓103とキャピラリ16との位置合わせを容易に行うことができる。
また、アレイ台15にはシリコン板の位置決めガイド105が形成されているが、これは測定部の検出許容範囲に対応している。すなわち、全てのキャピラリ16がシリコン板の位置決めガイド105の内側にあれば、全てのキャピラリ16が検出機構の検出許容範囲内に入るということである。アレイ台15にシリコン板の位置決めガイド105を形成することにより、アレイ台15に対するキャピラリ16の位置決めを容易に行うことが可能となる。
キャピラリ16は、内径50μm,外径126μmの石英管18が厚さ12μmのポリマ被膜で覆われた構造をとり、全外径は150μmである。キャピラリ内部にはDNAの分離媒体であるポリマ水溶液(屈折率1.41)が充填されている。光照射部においては、ポリマ被膜が除去され、石英管18がむき出しの状態になっている。レーザ光を照射すると、レーザ光の乱反射光の一部がキャピラリ16のポリマ被膜にあたることにより蛍光を発したり、DNAサンプルが発した蛍光の一部が乱反射したりする。このポリマ被膜からの蛍光やDNAサンプルからの蛍光の乱反射光が検出機構で受光されると、背景光の増大によりSN比が低下し、分離能が低下するしかし、所望の照射光は検出窓103を透過するが、背景光は柵102により遮られるため、背景光の増大を防止することが可能となる。さらには、アレイ台15からの反射光が検出窓103を通過し、検出機構で受光されることを防ぐために、アレイ台15には反射防止膜106が形成されている。これにより、さらに背景光を低減させることができるため、分離能をさらに向上させることが可能となる。
光照射部のキャピラリ周辺は、F溶液19で満たされている。F溶液19は、石英製のセル蓋20,アレイ台15、および、それらを固定する接着剤で完全に密封されている。
温度変化に伴うF溶液19の体積膨張によりセルの密封構造が破壊されることを防ぐために、密封構造の中には発泡倍率が30倍(体積の約30分の29が気泡)の高圧縮が可能な発泡体107を混入させた。F溶液19の体膨張率は0.0012mm3/mm3・℃ であるから、キャピラリアレイの保存温度(室温25℃)と使用温度(60℃)との差を35℃とすれば、F溶液19の保存温度から使用温度への温度上昇(35℃)による体積増加は約0.04mm3/mm3(約4%)となる。発泡体107の大きさは、セル容積の約10%の大きさに設定した。
発泡体107は、アレイ台15に設けられた溝に、アレイ台15とキャピラリ16に挟まれるようにして配置されている。また、発泡体107は、検出機構の検出範囲内であるが、シリコン板101により検出機構から隠された位置に配置されている。これにより、発泡体107の蛍光による背景光の増大を防止することができる。また、発泡体107は、セルの密封構造内にF溶液を注入するための穴109に、それを塞ぐ蓋として配置することもできる。これにより、アレイ台15への発泡体107の為のみの特別加工が不要になる。
気泡がレーザ光路上に侵入することを防ぐために、セル内部には気泡が存在しないことが望ましいが、セル内部から気泡を完全に除去することは容易ではない。そこで、仮にF溶液19で満たされたセル内部に気泡が混入したとしても、この気泡がレーザ光路上に侵入することを防ぐために、セルに石英製の気泡排除ブロック23を形成している。
入射レーザ光とセルのレーザ入射面の角度を一定に保つ必要がある。アレイ台15にはセル蓋の位置決め用の溝であるガイド108を形成されており、アレイ台15に対するセルの位置決めを容易かつ確実に行うことができる。
以上より、背景光を低減したSN比の高いキャピラリアレイを実現することができた。
1,82…キャピラリアレイ、2…負電極、3…負電極側のバッファー液、4…ゲルブロック、5…ゲルブロックへの接続部、6…バルブ、7…アース電極、8…光照射部、9,24,25,80…レーザ光、10…シリンジ、11…オーブン、11−1…光源、11−2…高圧電源、11−3…試料導入部、11−4…第1バッファー容器、11−5…流動媒体注入機構、11−6…検出部、11−7…第2バッファー容器、11−8…測定部、12…アース電極側のバッファー、15…アレイ台、16…キャピラリ、17…キャピラリ押さえ板、18…石英管、19…キャピラリ周辺を満たす3M社製の含フッ素溶液フロリナートFC43、20…セル蓋、20−2…気泡収容空間、21…接着剤、22…気泡、23…気泡がレーザ光路上に侵入することを防ぐための石英製の気泡排除ブロック、31…蛍光集光レンズ、32…グレーティング、33…フォーカスレンズ、34…CCD、34−2…検出機構、35…蛍光、36…キャピラリからの発光が蛍光集光レンズによって平行光となった光束、40…アレイ台15上の基準面P、40−2…キャピラリアレイを配列する基準平面、41…取付基準面P′、44…押し当て棒、45,51−10…バネ、46…アレイ台において面Pに対して垂直でX軸に対し平行の基準面Q、47,48…取付基準線QQ′、47−2,48−2…取付基準線Q″Q′′′、49…面Qに最も近いキャピラリ、50…セル蓋の石英表面のうちレーザ光が通過する面R、51…セルの石英表面のうちレーザ光が通過する面S、51−6…蛍光透過部、51−7…レーザ光透過部、51−8…押圧部A、51−9…押圧部B、51−11…取付部蓋、52…セルの石英表面のうちレーザ光が通過する面T、53…セルの石英表面のうちレーザ光が通過する面U、54…アレイ台においてF溶液に接する部分の一点、55…セル蓋においてF溶液に接する部分の一点、60…キャピラリアレイの光照射部を覆うフッ素化ポリマ、60−2…光照射部、61,62…両端のキャピラリの外側に位置し、フッ素化ポリマをせき止めるポリマブロック、65…空気とFポリマ60の界面、70…気泡がレーザ光路上に侵入することを防ぐためにアレイ台に施した穴加工、71…セル下部の蛍光検出用石英窓、72,73…レーザ光透過用石英窓、81…ハーフミラー、83,84…レーザ集光レンズ、85,86…レーザが入射する端キャピラリ、87…レーザ本体、88,89…ハーフ波長板、90…偏光フィルタ、91…ミラー、95,96…レーザ光によるキャピラリやセルからの反射光、97…ピンホール板、101…シリコン板、102…柵、103…検出窓、104…V溝、105…シリコン板の位置決めガイド、106…反射防止膜、107…発泡体、108…セル蓋の位置決めガイド、109…F溶液注入穴、202…シリンドリカルレンズ。