JP4645775B2 - Frpの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、品質の優れた繊維強化プラスチックス(以下、FRPと呼称)を生産性を高くして製造するFRPの製造方法に関する。より詳しくは、未含浸部分やボイドなどが形成されにくく、品質の優れたFRPを低コストに歩留まりを高くして得ることが可能なFRPの製造方法に関するものである。
優れた力学的特性、軽量化などの要求からFRP、特に炭素繊維強化プラスチックス(以下、CFRPと呼称)が、主に宇宙・航空分野、スポーツ分野向けの部材に用いられてきた。以前までの前記分野での技術的課題はFRPの力学特性の向上が主なものであったが、近年の課題は徹底したFRPの製造コストダウンとなっている。また、FRPの用いられる用途分野が、輸送機器全般(鉄道車輌、自動車、船舶など)や一般産業(風力発電、土木・建築など)へ幅広く展開していくに伴い、さらなるFRPの低コスト化が強く求められている。
これらFRPの代表的な製造方法としては、オートクレーブ成形法が知られている。かかるオートクレーブ成形法では、予め強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを、成形型に積み重ねて加熱・加圧してFRPを成形する。ここで用いる中間基材であるプリプレグは、それを用いると極めて品質の高いFRPが得られる利点があるが、プリプレグの製造・保管に高いコストがかかるだけでなく、成形設備が大掛かりなため、FRPが生産性高く得られなかった。
一方、FRPの生産性に優れる成形法としては、レジン・トランスファー成形法(RTM)が挙げられる。かかるRTMでは、マトリックス樹脂が含浸されていない(ドライな)強化繊維を複雑な成形型の中に配置して、マトリックス樹脂を強制的に注入することにより、強化繊維中にマトリックス樹脂を含浸させてFRPを成形する。
しかしながら、前記RTMによると、マトリックス樹脂の粘度のバラツキや、ちょっとした製造条件の差違により、未含浸部やボイドなどが発生する場合があり、FRPの成形歩留まりが低く、生産性が逆に低くなる問題があった。また、その未含浸部やボイドなどの発生箇所がその僅かの差しかない製造条件毎に異なるため、製造したFRPの品質も低くなる問題をも引き起こしていた。
本発明の課題は、未含浸部分やボイド等が形成されにくく、品質の優れたFRPを低コストに歩留まりを高くして得ることが可能なFRPの製造方法を提供することにある。
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)少なくとも次の(A)〜(F)の工程からなることを特徴とするFRPの製造方法。
(A)少なくとも強化繊維基材からなるプリフォームを成形型面上に配置するセット工程、
(B)成形型の少なくとも成形部をバッグ材で覆い、少なくとも減圧吸引口および樹脂注入口を設けて密閉する密閉工程、
(C)成形部を減圧吸引口から吸引により減圧する減圧工程、
(D)熱風を加熱媒体として、成形型を含め成形部を加熱する加熱工程、
(E)成形型の温度Tmとバッグ材の温度Tvとが共に室温以上であり、かつその温度差ΔTが10℃以内である時に、樹脂注入口から樹脂を注入し、少なくとも強化繊維基材に樹脂を含浸させる注入工程、
(F)成形型を含め成形部を室温以上の所定の温度Tpcに保持し、樹脂を固化させる固化工程。
(2)前記プリフォームが、少なくとも強化繊維基材と樹脂拡散通路形成部材とからなることを特徴とする(1)に記載のFRPの製造方法。
(3)前記樹脂拡散通路形成部材が樹脂通路用溝が形成されたコア材であり、前記(F)の固化工程後もコア材をFRP内に残すことを特徴とする(2)に記載のFRPの製造方法。
(4)前記樹脂拡散通路形成部材が網目状シートであり、前記(F)の固化工程後に網目状シートの樹脂拡散通路形成部材をFRPから剥離除去することを特徴とする(2)または(3)に記載のFRPの製造方法。
(5)前記強化繊維基材が炭素繊維を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
(6)前記(E)の注入工程において、前記成形型の温度Tmまたはバッグ材の温度Tvが50〜160℃の範囲内であり、前記(F)の固化工程において、前記成形部の所定の温度Tpcが80〜180℃の範囲内であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
(7)前記(E)の注入工程において、注入される樹脂が、前記成形型の温度Tmまたはバッグ材の温度Tvの低い方の温度における樹脂粘度ηpが500mPa・s以下であり、かつ前記成形型の温度Tmにおける樹脂粘度と前記バッグ材の温度Tvにおける樹脂粘度との差Δηが200mPa・s以内であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
(8)前記(E)の注入工程において、注入した樹脂がゲル化するまで前記減圧吸引口より吸引し続けることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
(9)前記(F)の固化工程の後に、さらに少なくとも次の(G)および(H)の工程を有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
(G)固化したFRPを取り出す取出工程、
(H)取り出したFRPをさらに前記成形部の所定の温度Tpcの温度より高く、かつ100℃以上の所定の温度Tacに保ち、樹脂を完全に固化させる完全固化工程。
(10)最大長さが3m以上のFRPを成形することを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
(11)航空機、自動車、もしくは船舶の輸送機器における一次構造部材、二次構造部材、外装部材、内装部材またはそれらの部品として用いられるFRPを成形することを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のFRPの製造方法。
以上説明したように、本発明のFRPの製造方法によれば、未含浸部分やボイド等が形成されにくく、品質の優れたFRPを低コストに歩留まりを高くFRPを製造できる。このようなFRPは、航空機、自動車、船舶等の輸送機器における構造部材、外装部材、内装部材もしくはそれらの部品などに好適である。
本発明で使用する一例の樹脂における樹脂粘度の温度依存性を示す模式図である。 本発明の一実施態様にかかるFRPの製造方法を示す成形装置の概略横断面図である。
以下に、本発明を、望ましい実施の形態に基づいて詳細に説明する。
本発明のFRPの製造方法は少なくとも次の(A)〜(F)の工程からなる。
(A)セット工程
強化繊維基材を所定のサイズ、形状に裁断して、必要に応じて積層してなるプリフォームを成形型面上に配置する工程である。
ここでプリフォームは、成形型上で形成してそのまま配置したものでもよいし、成形型とは異なるプリフォーム型で形成したものを運搬して成形型上に配置したものでもよい。
前記プリフォームは、各強化繊維基材のズレや乱れを防止するために、それらを固定、さらに高密度化することもある。その固定手段としては、例えば、ピンポイント的、ライン状または全体的に接着性粒子を散布したり、接着性繊維を配置したりして、その後それらを熱接着する手段などを用いることができる。また、高密度化手段としては、例えば、加熱しながらプレスにて加圧したり、密閉した空間で吸引して大気圧にて加圧する手段などを用いることができる。
また、前記プリフォームは、強化繊維基材に加えて、樹脂拡散通路形成部材からなると、後述の(E)注入工程での樹脂の含浸が容易になるため好ましい。かかる樹脂拡散通路形成部材としては、例えば、所定の溝加工を行ったコア材、樹脂流動抵抗の低い網目状のシート材などが挙げられる。かかるコア材を用いて成形後もコア材をFRP内に残すとサンドイッチ構造のFRPが得られ、かかる網目状シートを用いて成形後に剥離除去するとスキン構造のFRPが得られる。なお、後者の場合は、樹脂拡散通路形成部材と強化繊維基材との間に離型用織布(ピールプライ)を重ねて配置すると、成形後にFRPから容易に樹脂拡散通路形成部材を剥離除去できるため好ましい。
かかるコア材としては、100℃加熱状態(望ましくは120℃加熱状態)で真空圧が作用した時の収縮率が5%以下の耐熱性があることが好ましい。コア材としては多孔質やソリッド状のもののどちらでもよいが、外周面から樹脂が浸透しないことが重要であり、フォーム材の場合は独立気泡発泡体であることが好ましい。また、用途によっては、吸湿性の低い材料(例えば、吸湿後の膨潤率が5%以下)が求められる場合がある。具体的な材料としては、塩化ビニル製(たとえば、”クレゲセル”(商品名))やポリメタクリルイミド製(たとえば、”ロハセル”(商品名))のフォームコアや、それらのフォームコアが詰められたアルミ製やアラミド製ハニカムコアなどが挙げられる。また、木製コアやバルサコアなども適用可能である。
特にサンドイッチ構造のFRPを製造する場合、強化繊維基材とバッグ材との間に比較的高い剛性を有する押圧板(たとえば、ガラス繊維基材で補強した厚さ1〜2mm程度の樹脂製プレート)を非型面側に配置することにより、平滑性を発揮させることもできる。その押圧板は複数枚設けて配置しながら繋ぎ合わせてもよい。
かかる強化繊維基材としては、例えば2次元の一方向性、二方向性、それ以上の多方向性、もしくは3次元の多方向性を有した織物、編物または組紐などが挙げられ、それらはステッチ糸や結節糸などにより複数が一体化しているものでもよい。特に輸送機器(特に航空機や自動車)の構造部材として用いる場合には、一方向性(または二方向性、多軸)の織物を選択するのが好ましい。
強化繊維としては、ガラス繊維、有機(アラミド、PBO(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、PVA(ポリビニルアルコール)、PE(ポリエチレン)など)繊維、炭素繊維(PAN系、ピッチ系など)などが使用できる。
炭素繊維は比強度・比弾性率に優れ、殆ど吸水しないので、航空機や自動車用の構造材の強化繊維として好ましく用いられる。中でも、下記の高靭性炭素繊維糸であると、FRPの衝撃吸収エネルギーが大きくなるので、航空機の構造部材としても適用しやすくなる。すなわち、JISR7601に準拠して測定される引張弾性率E(GPa)が210GPa以上かつ破壊歪エネルギーW(MJ/m=10×J/m)が40MJ以上であると好ましい。より好ましくは引張弾性率240を超え400GPa未満かつ破壊歪エネルギーが50MJ/m以上である。ここで、破壊歪エネルギーとは、JISR7601に準拠して測定される引張強度σ(GPa)と、前記したE値とを用いて、次式(W=σ/2E)に基づいて算出される値のことをいう。
(B)密閉工程
前記プリフォームと、場合によって樹脂拡散通路形成部材や離型用織布などの副資材とを成形型面上に配置した後、例えばそれらの外周の型面上にシール用粘着性テープやシーラントを貼り付け、その上にバッグ材として例えばバギング用フィルムを配置して成形型上の少なくとも成形部を覆って密閉する。また、強化繊維基材の体積含有率をより向上させる場合には、樹脂注入後、バッグ内の圧力上昇を防止する効果を発揮させるために、さらに該バギング用フィルムの外側にもう一重バギング用フィルムで覆ってもよいし、バギングしながら成形部を加熱しながら適切な時間放置して大気圧を利用して圧縮してもよい。また、経済性を高めるためにバッグ材として、再使用が可能なシリコーンゴム製などのラバーシートを用いてもよい。さらに、ヒータを内蔵したラバーシートは加熱、保温上より効果的な場合もある。
なお、密閉するに際し、減圧(真空)吸引口および樹脂注入口をセットし、具体的には開口部を有するライン状機材(例えば、アルミニウム製C型チャンネル材など)を強化繊維基材の端部周辺に配置し、該ライン状機材の端部に例えば樹脂製チューブなどを連通させる。
(C)減圧工程
成形部を前記減圧吸引口から、例えば油拡散タイプの真空ポンプなどを用いて吸引により減圧する。かかる減圧により、ボイドの原因となる空気を極力排出しておくとともに、大気圧によって基材を押圧して強化繊維基材の強化繊維体積含有率Vpfを高めることが好ましく、その繊維体積含有率Vpfが45%以上、望ましくは50%以上となるようにすることが好ましい。なお、その際には、後述の(D)加熱工程で前記接着性粒子や接着性繊維が熱接着できる室温以上の温度に加熱して、一定の時間保持しておくと、より安定してVpfを高くすることができる。
(D)加熱工程
成形型を含め前記成形部を加熱する。かかる加熱において、加熱媒体としては熱風を用いるのが好ましい。すなわち、熱源として成形型全体を加熱する熱風を適用するのが好ましい。例えば、成形型全体を加熱オーブン内に投入して密閉し、オーブン内で熱風を循環させる方法が熱効率が高く最も好ましいが、断熱材で簡易的な部屋を作製して成形型全体を覆い、その中に熱風をブロアーで送風する方法でもよい。何れにしても、熱風を加熱媒体とすると成形型を後述の所定の温度Tmに対し±5℃以下(望ましくは±2℃以下)の範囲に安価かつ容易に納めることができる。熱風加熱により、オートクレーブに比べ、高い経済性を達成できる。ただし、既設のオートクレーブがそのまま利用できる場合には、温度斑の点で優れるオートクレーブを利用してもよい。
(E)注入工程
成形型の温度Tmとバッグ材の温度Tvとが共に室温以上であり、かつ前記Tmと前記Tvとの温度差ΔTが10℃以内(より好ましくは8℃以内、さらに好ましくは5℃以内、とりわけ好ましくは3℃以内)であるときに、好ましくは予め脱泡しておいた容器に入れた液体状の樹脂を、例えば減圧(真空)吸引を続行しながら樹脂注入口に連通したチューブ端を前記容器の樹脂内に投入し、強化繊維基材を配置した成形型の成形部内に樹脂を注入する。場合によっては大気圧以上の機械的圧力を負荷して強制的に注入してもよい。
かかるTmおよびTvは50〜160℃の範囲内であると、後述の樹脂が低粘度となり、より樹脂の含浸が容易になるだけでなく、樹脂自体の選択の巾が広がり、力学特性に優れるなどの高性能の樹脂を選択して使用できるため好ましい。
前記ΔTについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明で使用する一例の樹脂における樹脂粘度の温度依存性を示す模式図である。前記ΔTが10℃を超えると、バッグ材面と成形型面との樹脂粘度の差が大きくなりすぎ、樹脂の流動挙動に著しい差が発現して流動バランスが崩れ、最悪の場合はプリフォームに未含浸部が残るなどの欠陥を引き起こし、高品質なFRPが生産性よく安定して得られない。特に、樹脂拡散通路形成部材としてコア材を用いてサンドイッチ構造のFRPを成形する場合、コア材は強化繊維基材より熱伝導率が低い場合が多く、成形型とバグ材との伝熱を阻害して強化繊維基材の温度が大きく異なり、この現象がさらに顕著となる。
より具体的に前記ΔTの発生状況について説明する。例えば熱風により加熱を行った場合、バッグ材側に配置されている強化繊維基材はバッグ材を経由して加熱され、成形型側に配置されている強化繊維基材は同様に成形型を経由して加熱される。しかしながら、成形型とバッグ材とはその厚みや材質の違いから熱伝達率および熱容量が大きく異なる事や、前記熱風の循環経路に起因して、同時に加熱を開始した場合には所定の温度に昇温されるまでの時間に予想外の大きな差違が生じる。一般的にはバッグ材の方が熱容量が小さいために、バッグ材側の強化繊維基材の温度が早く所定の温度に達してしまい、前記ΔTが発生してしまうのである。もちろん、熱風の循環経路によっては、成形型側の強化繊維基材の温度が早く所定の温度に達っする場合もある。
すなわち、本発明は、成形型の温度Tmとバッグ材の温度Tvとの実際の温度には加熱時における熱の伝達経路の差違により比較的大きな温度差が存在し、これに起因して高品質なFRPが生産性よく安定して得られないことを解明し、前記方法によってその問題を解消したものである。
ここで、前記Tmの測定は、成形型内の温度を例えば熱電対などで測定すればよい。特に成形型が熱伝導の悪いFRP型や木型である場合には、より厳密に強化繊維基材の温度を反映させる意味では、成形部における測定箇所は成形型表面から5mm以内、より好ましくは成形型表面で測定するのが好ましい。
また、バッグ材の温度Tvの測定は、成形部におけるバッグ材の表面温度を例えば熱電対などで測定すればよい。バッグ材は成形型に比べると遙かに薄いため、熱伝導が悪くてもその外面の表面温度が強化繊維基材の温度を比較的正確に反映する。もちろん、より厳密に強化繊維基材の温度を反映させる意味では、成形部におけるバッグ材内面の表面温度を測定するのが好ましい。
なお、前記Tmおよび前記Tvの測定は、厚み方向に対向して行われると、より正確に樹脂の流動挙動を予想することができるため好ましい。この場合、複数箇所で測定し、その各々の測定個所について前記ΔTの範囲内にすると更に正確に予想できるため、最も好ましい態様の一つといえる。
また、別の視点からは、前記TmまたはTvの低い方の温度における樹脂粘度ηpが500mPa・s以下であり、かつ前記Tmにおける樹脂粘度と前記Tvにおける樹脂粘度との差Δηが200mPa・s以内であるのが好ましい。より好ましい樹脂粘度ηpは350mPa・s以下、さらに好ましくは200mPa・s以下であり、より好ましい粘度差Δηは150mPa・s以内、さらに好ましくは100mPa・s以内である。ここで前記範囲が好ましい理由は、上述の温度差ΔTの場合と同様である。ここで、樹脂粘度は、E型粘度計(TOKIMEC製TVE30H)を用いて、同一の剪断速度にて測定したものを指す。
該キャビティ内に流入した樹脂は、特に樹脂拡散通路形成部材を用いた場合、サンドイッチ構造の場合はコア材に加工した溝内を、スキン構造の場合には樹脂拡散通路形成部材内を面方向に流れて拡散するとともに、強化繊維基材内に厚み方向に浸透して行くことによって強化繊維基材内に含浸し、樹脂の含浸を効率的かつ速やかに行うことができるため好ましい。強化繊維基材への含浸が終了すると、やがて樹脂は真空吸引口へと流出する。
本発明の製造方法によると、かかる効率的かつ速やかな樹脂の含浸が可能なため、3m以上の大型のFRPを製造するのに好適である。かかる3m以上もの大型FRPを成形する場合、樹脂の注入速度を所定レベルより低下させて、全体への樹脂の含浸が終了する前に樹脂のゲル化が始まることが生じないように、樹脂の注入ラインを複数にする場合が多い。また、同様に真空吸引ラインも複数にする場合もある。そのように複数のラインを設ける場合、各樹脂注入ラインに樹脂を流すタイミングは必ずしも一定や同時ではなく、未含浸部分が生じないように樹脂の流動状況を観察しながら判断することが好ましい。バッグ材が透明または半透明のものであれば、樹脂の流動状況を容易に観察することができる。
なお、減圧(真空)吸引は、未含浸部やボイドなどの欠陥の発生を極力抑制するために、注入した樹脂がゲル化するまで継続することが好ましい。
本発明で用いる樹脂としては、耐熱性の高い熱硬化性樹脂、特に加熱することによってガラス転移温度Tgが100℃以上、望ましくは150℃以上の樹脂を選定することが好ましい。また、その樹脂の常温時引張り伸度は耐衝撃性や疲労特性の点から3%以上、望ましくは4.5%以上とすることが好ましい。そのような樹脂としては、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ポリベンゾイミダゾール、ベンゾオキサジン、シアネートエステル、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、ユリア・メラミン、ビスマレイミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどや、これらの共重合体、変性体および2種類以上ブレンドした樹脂、さらにエラストマーやゴム成分、硬化剤、硬化促進剤、触媒などを添加した樹脂などを使用することができる。前記のような熱硬化性樹脂は、主剤と硬化剤に分けられるものがあるが、その場合は注入直前にそれぞれを混合・撹拌して真空脱泡することが好ましい。脱泡する際には、泡抜けを良くするために加熱したりすることができる。
(F)固化工程
含浸が終了した後には樹脂の注入を停止し、樹脂注入口に空気が流入しないように樹脂注入口を完全に閉鎖することが好ましい。その状態で、成形型を含め成形部を室温以上の所定の温度Tpcに所定の時間保持し、含浸させた樹脂を固化(硬化または重合)させる。かかるTpcは80〜180℃の範囲内であると、効率的に樹脂の固化が促進され、成形サイクルをより短くできるため好ましい。
ここで、加熱媒体としては熱風を用いるのが好ましい。すなわち、熱源として成形型全体を加熱する熱風を適用するのが好ましい。ここで熱風が好ましい理由は、上述の(D)加熱工程と同様である。
また、本発明のFRPの製造方法は、必要に応じて、前記(F)固化工程の後に、次の工程を経てもよい。
(G)取出工程
樹脂を固化した後に、脱型時に変形しないまでに剛性を有していることを確認して、バギング用フィルムやラバーシートを取り除いてFRP成形体を成形型上より脱型して取り出す。樹脂拡散通路形成部材、特にコア材をそのまま成形品内に残すこともできるし、必要に応じて、樹脂拡散通路形成部材、とくに網目状シートを成形後にFRP成形体から剥離除去することもできる。後者の場合は、強化繊維基材との間に予めピールプライ(使用する樹脂と相溶性の悪いもの、例えば樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合にはポリエステル製の織布)を介装しておけば、容易に剥離除去することができる。
(H)完全固化工程
取り出したFRP成形体をさらに前記温度Tpcの温度よりも高く、かつ100℃以上の所定の温度Tacに保ち、完全に固化(硬化または重合)させる。かかる処理により、樹脂を完全に硬化させてそのガラス転移温度Tgをさらに高くすることができ、耐熱性が必要な例えば航空機用部材にFRPを用いることができるようになるため好ましい。
本発明のFRPの製造方法により得られるFRPは、優れた品質だけでなく、高い力学特性を有し、かつ軽量であるため、その用途が、航空機、自動車、船舶の輸送機器における構造部材、外装部材、内装部材もしくはそれらの部品の内のいずれかであることが好適である。とりわけ航空機の構造部材に好適であり、各種フェアリング、メインランデングギアドア、テイルコーン、エンジンナセル、コントロールサーフェスなどの2次構造材以外に、主翼、床支持桁、胴体、垂直尾翼、水平尾翼、ウイング・ボックス、キール等の1次構造材を本発明のFRPの製造方法で成形することが好ましい。
以下に、より具体的な実施例について説明する。まず、成形条件と成形装置の構成仕様について、以下のような実施例および比較例を実施した。
(1)構造:ほぼ全体がサンドイッチ構造、全周の端部100mmがスキン構造を有する長さが約5m、幅が約3mの平面体(航空機用二次構造部材、例えばフェアリングを想定)。
(2)強化繊維基材の構成:
(2−1)サンドイッチ構造平面部分(上下側面共);東レ(株)製”トレカ”二方向性織物(200g/m×6ply)
(2−2)サンドイッチ構造ウェブ部分;東レ(株)製”トレカ”二方向性織物(200g/m×8ply)
(2−3)周辺端部のスキン構造部;東レ(株)製”トレカ”二方向性織物(300g/m×10ply)
(3)コア材 : ポリメタクリルイミド製フォームコア(”ロハセル”);15倍発泡×厚さ25mm幅方向に樹脂流路用に矩形状溝(3mm×3mm、25mmピッチ)をコアの上下面に千鳥状に形成させたもの。
(4)成形型 : 厚さ10mmで炭素繊維とエポキシ樹脂とからなるCFRP製型を用い、架台はアングル材による枠組み構造体を用いた。
<実施例>長さ5m、幅3m以上からなり、周辺端部100mmだけはCFRPスキン層のCFRPサンドイッチ構造からなる平面体を以下の方法で成形した。
(a)強化繊維基材を前記構成になるように所定のサイズ、形状に裁断して積層した後、特に形態安定が重要な箇所において、強化繊維基材に予め塗布していた接着性粒子(熱硬化性樹脂および硬化剤を混合して粉末化したもの)を加熱により溶融させて、積層した強化繊維基材同士を厚み方向に固着させた。それを2セット分準備した。かかる成形型の面上に強化繊維基材を積層したものを、長手方向と垂直な横断面を示す図2に示すように、強化繊維基材11、コア材12、前記基材11の順に配置した。そして、その上にガラス繊維強化プラスチック製押圧板21(厚さ1.5mm)を配設した後、樹脂注入口16a、16b、減圧吸引口17を形成した。
(b)その後、成形型20の成形部全体をバッグ材23で覆い、周囲はシール用粘着性テープ22a、22bを用いて密閉した。
(c)そして、減圧吸引口17に連通した減圧吸引チューブ27や真空トラップ28を介して真空ポンプ29によって成形部を吸引した。内部は約0.8kPaの真空度に達した。
(d)次に、架台31を含む成形型20の全体を、熱風発生機33によって送風される150℃の熱風により加熱した。成形型20の周囲は断熱効果の高い断熱ボードとその支持用のスチール細管製支持枠体からなる保温ボックス32で全体を覆っている。そして、熱風発生機33から発生して保温ボックス32内に送風される熱風の熱量を有効に利用するために、保温ボックス32の排気口34から出た熱風は、保温された排気ダクト(記載せず)を通って熱風発生機33に戻る(熱風循環する)ように構成されている。
(e)それから、熱電対14aおよび温度表示計15aでモニタしているバッグ材の温度Tvが80℃に達し、かつ熱電対14bおよび温度表示計15bでモニタしている成形型の温度Tmが75℃(すなわち、ΔTが5℃)である時点で、主剤と硬化剤とを混合して予め脱泡を済ませて注入可能な状態で樹脂槽内に準備されていたエポキシ樹脂24aをバルブ26aを開いて大気圧によって注入開始した。ただし、樹脂24aは成形型20より高い位置に配置し、正確には大気圧より高い圧力で注入した。なお、熱電対14bは、成形部における成形型面から3mm内部の位置であった。
樹脂24aは、まず樹脂注入口16aからコア材に加工した溝13を通って減圧吸引口17に向かって流動しながら次第に強化繊維基材に含浸して、やがてもう1つの樹脂注入口16bに達した頃には樹脂24aの流速がかなり落ちた。そのため、次に樹脂注入口16a側のバルブ26aを閉じるのと殆ど同時に、バルブ26bを開放して樹脂注入口16bから樹脂24bの注入を開始した。そして、該樹脂注入口16bから流入した樹脂24bは、やがて減圧吸引口17を経て減圧吸引チューブ28に到達した。それを確認した後、樹脂注入口16b側のバルブ26bも閉じて、樹脂注入を停止した。
(f)それ以降は、減圧吸引口17から真空ポンプ29により減圧を続けながら、成形型の温度Tpcが約130℃を保つように熱風温度を調節しながら約3時間保持して、強化繊維基材に含浸した樹脂を硬化させた。
(g)樹脂が脱型可能な状態まで硬化していることを確認して各チューブやバッグ材などの副資材を除去し、FRP成形体を成形型から取り出した。
該FRP成形体を検査したところ、どこにもピンホールやボイドが見当たらず、極めて良好な成形が行われていたことが実証された。
<比較例>前記(e)項において、バッグ材が温度Tvが80℃に達したものの、成形型の温度Tmが65℃(すなわち、ΔTが15℃)である時点で、樹脂を同様に注入開始したこと以外は実施例と同様に成形を行った。
該FRP成形体を検査したところ、未含浸部およびボイドが数カ所発生し、品質は悪く、成形が良好に行われたとはいえなかった。
Tm:成形型の温度
Tv:バッグ材の温度
ΔT:成形型の温度とバッグ材の温度との差
ηp:TmまたはTvの低い方の温度における樹脂の粘度
Δη:Tmにおける樹脂粘度とTvにおける樹脂粘度との差
11:強化繊維基材
12:コア材
13:溝
14a、14b:熱電対
15a、15b:温度表示計
16a、16b:樹脂注入口
17:減圧吸引口
20:成形型
21:押圧板
22a、22b:シール用粘着性テープ
23:バッグ材
24a、24b:液体状の樹脂
25a、25b:樹脂注入チューブ
26a、26b:バルブ
27:減圧吸引チューブ
28:真空トラップ
29:真空ポンプ
31:架台
32:保温ボックス
33:熱風発生機
34:排気口

Claims (11)

  1. 少なくとも次の(A)〜(F)の工程からなることを特徴とするFRPの製造方法。
    (A)少なくとも強化繊維基材からなるプリフォームを成形型面上に配置するセット工程、
    (B)成形型の少なくとも成形部をバッグ材で覆い、少なくとも減圧吸引口および樹脂注入口を設けて密閉する密閉工程、
    (C)成形部を減圧吸引口から吸引により減圧する減圧工程、
    (D)熱風を加熱媒体として、成形型を含め成形部を加熱する加熱工程、
    (E)成形型の温度Tmとバッグ材の温度Tvとが共に室温以上であり、かつその温度差ΔTが10℃以内である時に、樹脂注入口から樹脂を注入し、少なくとも強化繊維基材に樹脂を含浸させる注入工程、
    (F)成形型を含め成形部を室温以上の所定の温度Tpcに保持し、樹脂を固化させる固化工程。
  2. 前記プリフォームが、少なくとも強化繊維基材と樹脂拡散通路形成部材とからなることを特徴とする請求項1に記載のFRPの製造方法。
  3. 前記樹脂拡散通路形成部材が樹脂通路用溝が形成されたコア材であり、前記(F)の固化工程後もコア材をFRP内に残すことを特徴とする請求項2に記載のFRPの製造方法。
  4. 前記樹脂拡散通路形成部材が網目状シートであり、前記(F)の固化工程後に網目状シートの樹脂拡散通路形成部材をFRPから剥離除去することを特徴とする請求項2または3に記載のFRPの製造方法。
  5. 前記強化繊維基材が炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のFRPの製造方法。
  6. 前記(E)の注入工程において、前記成形型の温度Tmまたはバッグ材の温度Tvが50〜160℃の範囲内であり、前記(F)の固化工程において、前記成形部の所定の温度Tpcが80〜180℃の範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のFRPの製造方法。
  7. 前記(E)の注入工程において、注入される樹脂が、前記成形型の温度Tmまたはバッグ材の温度Tvの低い方の温度における樹脂粘度ηpが500mPa・s以下であり、かつ前記成形型の温度Tmにおける樹脂粘度と前記バッグ材の温度Tvにおける樹脂粘度との差Δηが200mPa・s以内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のFRPの製造方法。
  8. 前記(E)の注入工程において、注入した樹脂がゲル化するまで前記減圧吸引口より吸引し続けることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のFRPの製造方法。
  9. 前記(F)の固化工程の後に、さらに少なくとも次の(G)および(H)の工程を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のFRPの製造方法。
    (G)固化したFRPを取り出す取出工程、
    (H)取り出したFRPをさらに前記成形部の所定の温度Tpcの温度より高く、かつ100℃以上の所定の温度Tacに保ち、樹脂を完全に固化させる完全固化工程。
  10. 最大長さが3m以上のFRPを成形することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のFRPの製造方法。
  11. 航空機、自動車、もしくは船舶の輸送機器における一次構造部材、二次構造部材、外装部材、内装部材またはそれらの部品として用いられるFRPを成形することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のFRPの製造方法。
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