JP4644898B2 - 焼却灰の処理構造及びその設計方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、火力発電所から多量に発生する石炭灰などの焼却灰を処理する構造及びその設計方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
火力発電所から多量に発生する石炭灰や廃棄物を焼却した後に発生する灰などの焼却灰は、リサイクル可能な場合を除き、ほとんど埋立処理されているが、かかる焼却灰、特に石炭灰を廃棄物処分場にて埋立処理した場合、雨水の浸透に伴って高アルカリの滲出水が発生し、そのまま放置すれば、アルカリ成分が雨水とともに地下水系に流入するおそれがある。
【0003】
そのため、埋立処分が完了した後も、石炭灰からの滲出水を処分場底面に敷設された集排水構造に集めるとともに、その滲出水のpHが所定の排水基準、例えば5.8〜8.6をクリアするまで滲出水をポンプアップして中和処理し、しかる後に放流することで埋立材からの滲出成分が環境に拡散することがないよう配慮されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、石炭灰等の焼却灰からのアルカリ分の溶出は長期間にわたるとともに、それに伴って上述した作業も長期間に及び、かくして、アルカリ分溶出のために多額の処理費用を必要とするのみならず、貴重な土地資源である埋立地の跡地利用が遅れ、又は実質的に跡地利用が困難になってしまうという問題を生じていた。
【0005】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、焼却灰を埋立処理する場合においてその跡地利用を速やかに開始することが可能な焼却灰の処理構造及びその設計方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に係る焼却灰の処理構造は請求項1に記載したように、焼却灰を焼却灰層として配置するとともに、該焼却灰層の上層に、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質及び酸化剤からなるpH緩衝層を配置したものである。
【0007】
また、本発明に係る焼却灰の処理構造は請求項2に記載したように、焼却灰からなる焼却灰層と、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質及び酸化剤からなるpH緩衝層を該焼却灰層が最下層となるように交互に積層配置するとともに、該最下層の下に砂質土からなる防護層を配置したものである。
【0008】
また、本発明に係る焼却灰の処理構造は請求項3に記載したように、焼却灰を焼却灰層として配置するとともに、該焼却灰層の上層若しくは下層に、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質からなるpH緩衝層を配置し、該pH緩衝層と地上空間とが連通されるように所定の酸化剤注入管を埋設したものである。
【0009】
また、本発明に係る焼却灰の処理構造は請求項4に記載したように、焼却灰からなる焼却灰層と、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質からなるpH緩衝層を該焼却灰層が最下層となるように交互に積層配置するとともに、該最下層の下に砂質土からなる防護層を配置し、前記各pH緩衝層と地上空間とが連通されるように所定の酸化剤注入管を埋設したものである。
【0010】
また、本発明に係る焼却灰の処理構造は、前記pH緩衝層内に所定の透水性材料からなる酸化剤拡散層を面内配置するとともに該酸化剤拡散層と前記酸化剤注入管とを連通させたものである。
【0011】
また、本発明に係る焼却灰の処理構造は、前記硫化物含有物質を泥岩としたものである。
【0012】
また、本発明に係る焼却灰処理構造の設計方法は請求項7に記載したように、請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の焼却灰の処理構造を構築する際、前記焼却灰からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH)を中和滴定によって計測するとともに、前記硫化物含有物質及び酸化剤によって生成する酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から前記焼却灰層の厚み、前記pH緩衝層の厚み、及び前記酸化剤の供給量を設定するものである。
【0013】
請求項1の発明に係る焼却灰の処理構造においては、硫化物含有物質及び酸化剤からなるpH緩衝層が焼却灰から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮する。すなわち、硫化物含有物質が酸化剤で酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが焼却灰から溶出したアルカリ分を効率的に中和する。
【0014】
また、pH緩衝層を焼却灰層の上に配置したので、pH緩衝層で生成された硫酸イオンが降下して焼却灰層中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われることとなる。
【0015】
次に、請求項2の発明に係る焼却灰の処理構造においては、請求項1の発明と同様、硫化物含有物質及び酸化剤からなるpH緩衝層が焼却灰から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮する。すなわち、硫化物含有物質が酸化剤で酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが焼却灰から溶出したアルカリ分を効率的に中和する。
【0016】
具体的に説明すると、pH緩衝層で生成された硫酸イオンは、その下にある焼却灰層中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われる。また、焼却灰層中のアルカリ分は、その下にあるpH緩衝層で生成された硫酸イオンと反応し、該pH緩衝層内にて中和反応が行われる。
【0017】
ここで、最下層である焼却灰層に含まれるアルカリ分のうち、上層のpH緩衝層による作用によって中和されずに残存することが考えられるが、かかる残存アルカリ分については、その下に配置された防護層によって環境への拡散が防止される。すなわち、残存アルカリ分は、防護層を構成する砂質土に含まれている粘土分のコロイド粒子に吸着されるため、地下水系に滲出する懸念はない。
【0018】
なお、pH緩衝層は最下層である焼却灰層の上に配置してあるため、pH緩衝層で生じた硫酸イオンは、焼却灰層で中和されるとともにさらにその下にある防護層で阻止されるため、環境への拡散は未然に防止される。
【0019】
酸化剤は、泥岩を層状に敷き均しながら散布する、泥岩を層状に敷き均した後で散布する、焼却灰層との交互の積層配置の後で地上から散水するなどの方法によってpH緩衝層の構成物質とすることができる。
【0020】
次に、請求項3の発明に係る焼却灰の処理構造においては、pH緩衝層に含まれる硫化物含有物質が酸化剤注入管を介して供給された酸化剤で酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが焼却灰から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、該アルカリ分を効率的に中和する。
【0021】
また、酸化剤注入管を介して地上から供給される酸化剤の供給量を調整することによって、硫化物含有物質の酸化速度ひいては硫酸イオンの発生量を制御することも可能となる。
【0022】
さらに、pH緩衝層を焼却灰層の上に配置したので、pH緩衝層で生成された硫酸イオンが降下して焼却灰層中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われることとなる。
【0023】
次に、請求項4の発明に係る焼却灰の処理構造においては、請求項3の発明と同様、pH緩衝層に含まれる硫化物含有物質が酸化剤注入管を介して供給された酸化剤で酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが焼却灰から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、該アルカリ分を効率的に中和する。
【0024】
具体的に説明すると、pH緩衝層で生成された硫酸イオンは、その下にある焼却灰層中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われる。また、焼却灰層中のアルカリ分は、その下にあるpH緩衝層で生成された硫酸イオンと反応し、該pH緩衝層内にて中和反応が行われる。
【0025】
ここで、最下層である焼却灰層に含まれるアルカリ分のうち、上層のpH緩衝層による作用によって中和されずに残存することが考えられるが、かかる残存アルカリ分については、その下に配置された防護層によって環境への拡散が防止される。すなわち、残存アルカリ分は、防護層を構成する砂質土に含まれている粘土分のコロイド粒子に吸着されるため、地下水系に滲出する懸念はない。
【0026】
なお、pH緩衝層は最下層である焼却灰層の上に配置してあるため、pH緩衝層で生じた硫酸イオンは、焼却灰層で中和されるとともにさらにその下にある防護層で阻止されるため、環境への拡散は未然に防止される。
【0027】
また、酸化剤注入管を介して地上から供給される酸化剤の供給量を調整することによって、硫化物含有物質の酸化速度ひいては硫酸イオンの発生量を制御することも可能となる。
【0028】
請求項3、請求項4に係る発明において、酸化剤は、本来、酸化剤注入管を介してpH緩衝層に確実に注入されるが、pH緩衝層内に所定の透水性材料からなる酸化剤拡散層を面内配置するとともに該酸化剤拡散層と前記酸化剤注入管とを連通させた場合、酸化剤をpH緩衝層全体にわたってさらに確実に供給することが可能となる。
【0030】
一方、酸化剤としてどのようなものを選択するか任意であって、さまざまな酸をはじめ、さらし粉(Ca(ClO)2)、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)なども使用可能であるが、環境面に鑑みた場合、酸素を放出した後に残留物として水しか残さない過酸化水素を酸化剤として使用するのが望ましい。
【0031】
本発明に係る焼却灰の処理構造は、主として廃棄物処分場での埋立処理に適用することが考えられるが、他の場所での埋立に適用してもよいし、そもそも埋立に限定されるものではなく、例えば、焼却灰を盛土材として使用する場合にも本発明を適用することができる。
【0032】
ここで、上述した各発明において、硫化物含有物質として特に、泥岩、海底土(ヘドロ)、温泉地帯の土といった粘土粒子含有物質を用いた場合には、上述した作用に加えて、含有粘土分のコロイド粒子がアルカリ金属やアルカリ土類金属を吸着していわゆるイオン交換作用を果たすという作用効果も奏する。
【0033】
かかる粘土粒子含有物質を用いた場合においても、pH緩衝層を焼却灰層の上に配置するか下に配置するかは任意であるが、pH緩衝層を焼却灰層の下に配置した場合には、降下したアルカリ分がpH緩衝層を構成する粘土コロイド粒子に吸着してイオン交換作用が行われることとなる。
【0034】
次に、請求項7に係る焼却灰処理構造の設計方法においては、請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の焼却灰の処理構造を構築する際、前記焼却灰からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH-)を中和滴定によって計測するとともに、前記硫化物含有物質及び酸化剤によって生成する酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から前記焼却灰層の厚み、前記pH緩衝層の厚み、及び前記酸化剤の供給量を設定する。
【0035】
このようにすると、焼却灰処理構造をより合理的かつ効率的に設計することが可能となる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る焼却灰の処理構造及びその設計方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
(第1実施形態)
【0038】
図1は、本発明に係る焼却灰の処理構造を産業廃棄物処分場の埋立処理に適用した様子を示した断面図である。同図(c)でわかるように、本実施形態に係る焼却灰処理構造6は、埋設処理される焼却灰としての石炭灰2を焼却灰層3として配置するとともに、該焼却灰層の上層に硫化物含有物質としての泥岩4に酸化剤としての過酸化水素水(H22)を添加してなるpH緩衝層5を配置してなる。
【0039】
本実施形態に係る処理構造6を構築するには、まず、同図(a)に示すように、ショベル等を用いて地盤を掘削し、埋設空間1を確保する。
【0040】
次に、同図(b)に示すように埋設空間1内に石炭灰2を埋設し、ブルドーザ等を用いて例えば3m程度の厚みに敷き均した後、必要に応じて転圧し、焼却灰層3を形成する。
【0041】
次に、同図(c)に示すように、焼却灰層3の上に泥岩4をブルドーザ等で例えば50cm程度の厚みに敷き均しつつ過酸化水素水を散布し、しかる後、必要に応じて転圧することによってpH緩衝層5を形成する。なお、必要であれば、pH緩衝層5の上を覆土しておく。
【0042】
過酸化水素水の濃度は、例えば1〜5%とすることが考えられる。
【0043】
本実施形態に係る焼却灰の処理構造6においては、泥岩4及び過酸化水素水からなるpH緩衝層5が石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮する。すなわち、泥岩4にはパイライト(FeS2)が含まれており、かかるパイライトが酸化剤である過酸化水素水によって酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが土中を降下して焼却灰層3中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われることとなる。
【0044】
なお、pH緩衝層5は焼却灰層3の上に配置してあるため、pH緩衝層5の厚みを適宜調整することにより、該pH緩衝層で生じた硫酸イオンは、焼却灰層3での中和にほぼ消費され、周囲に拡散して地下水を酸性化させる懸念はほとんどない。
【0045】
ここで、焼却灰処理構造1を設計するにあたっては、焼却灰である石炭灰2からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH-)を中和滴定によって計測するとともに、酸化剤である過酸化水素水が添加された硫化物含有物質である泥岩4に生成している酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から焼却灰層3の厚み、pH緩衝層4の厚み、過酸化水素水の濃度等の諸条件を設定すればよい。
【0046】
設計方針としては、pH緩衝層5内に存在する硫酸イオンがすべて焼却灰層3内に存在するアルカリイオンの中和に消費されるように上述した諸条件を定めることが考えられる。
【0047】
このようにすると、焼却灰処理構造6をより合理的かつ効率的に設計することが可能となる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る焼却灰の処理構造6によれば、泥岩4及び過酸化水素水からなるpH緩衝層5が石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、石炭灰2の中性化を大幅に促進させることが可能となる。
【0049】
そのため、石炭灰を自然に中性化させる場合においてきわめて長期間を要するという弊害や、薬剤で中和させる場合において多額の費用を要するという弊害を生じることなく、比較的短期間にかつ低コストで貴重な土地資源である埋立地の跡地利用を早期に開始することができる。
【0050】
また、過酸化水素水が酸素放出後に水しか残留させないという性質を持つ関係上、塩酸等の薬剤による中和とは異なり、化学的問題を発生させることなく長期間にわたって穏やかな持続性が期待できるという作用効果や、pH緩衝層5が泥岩4という土材料を主として使用するため、施工管理が容易であるとともに施工後の地盤力学特性が把握しやすい等の作用効果、あるいは急激なpH低下による石炭灰からの重金属溶出、降雨による作用低下といったことを懸念する必要がないという作用効果も奏する。
【0051】
また、本実施形態に係る焼却灰処理構造の設計方法によれば、処理構造6を合理的かつ効率的に設計することができる。具体的には、例えばpH緩衝層5で生じた硫酸イオンを焼却灰層3での中和にほぼ消費させることが可能となり、余剰硫酸イオンが周囲に拡散して地下水を酸性化させるのを未然に防止することができる。
【0052】
次に、本実施形態に係る焼却灰の処理構造及びその設計方法による作用効果を実験で確認したので、その概略を以下に説明する。
【0053】
まず、自然酸化による場合と過酸化水素水を使用した場合とで泥岩のpHがどの程度変化するかを調べるpH低下試験を行った。
【0054】
表1は、泥岩をさまざまな養生条件下においてそれらのpH変化を調べた結果をまとめたものであり、”湿潤―水容器”は、容器の底に水を張った状態でその上に自然含水比の泥岩を置いて容器内に密閉したケース、”湿潤―密閉”は、自然含水比の泥岩を単に容器内に密閉したケース、”風乾―密閉”は、風乾した泥岩を容器内に密閉したケース、”炉乾燥―密閉”は、炉乾燥によって絶乾した泥岩を容器内に密閉したケースをそれぞれ示す。
【0055】
【表1】
Figure 0004644898
【0056】
かかる試験から、ケースによってはある程度自然酸化が進行するものの、大きなpH低下は観測されなかったことがわかる。
【0057】
次に、計7種類の濃度(濃度ゼロを含む)の過酸化水素水を泥岩に添加して30分放置した後のpHと、水酸化ナトリウム溶液を用いた中和滴定を行った場合の▲1▼水酸化ナトリウム溶液量、▲2▼生成酸イオン濃度(H+,mmol/mL)及び▲3▼生成酸イオン濃度(H+,mol/泥岩dry,ton)を調べた結果をまとめたものである。
【0058】
【表2】
Figure 0004644898
【0059】
かかる試験から、1%以上の過酸化水素水を添加した場合に▲3▼生成酸イオン濃度が特に大きくなる、換言すれば、1%以上の過酸化水素水を泥岩に添加することによって、石炭灰2中のアルカリ成分を効果的に中和することが可能であることがわかる。
【0060】
次に、泥岩への過酸化水素水浸透カラム試験を行った。
【0061】
実験は、図2(a)に示すようにアクリル円筒8内に泥岩試料9を詰め、かかる状態にて該円筒下方からタンク7に溜めた水又は過酸化水素水をポンプで注入して上方に浸透させ、アクリル円筒8の上方に浸透してきた水又は過酸化水素水を吸い上げてフラスコ10に採取し、そのpHを測定した。
【0062】
浸透させた水又は過酸化水素水の水量とpHとの関係を同図(b)に示す。同図に示すように、浸透させた後の水又は過酸化水素水のpHは、5〜6リットル程度までは確実に低下し続けることがわかる。
【0063】
本実施形態では、焼却灰を石炭灰としたが、石炭灰以外に廃棄物等を焼却した後の灰についても本発明の焼却灰として取り扱うことができることは言うまでもない。
【0067】
また、本実施形態では、硫化物含有物質として泥岩を用いたが、該泥岩に代えて海底土(ヘドロ)や温泉地の掘削土を用いても上述したと同様の作用効果が期待できる。特に、海底土を用いた場合には、埋立作業において発生する浚渫ヘドロを廃棄せずに有効利用することができるという副次的な作用効果も奏する。
【0068】
更に言えば、泥岩や海底土でなくとも、硫化物含有物質であれば、酸化によって生成する硫酸イオンの作用効果が期待できるので、例えば泥岩に代えて硫化鉄鉱石等を使用することが可能である。なお、硫化鉄鉄鉱石の場合にはパイライトの含有量が高いため、pH緩衝層として高い機能が期待できる。
【0069】
(第2実施形態)
【0070】
次に、第2実施形態に係る焼却灰の処理構造及びそれを用いた設計方法について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0071】
図4(c)は、本発明に係る焼却灰の処理構造を第1実施形態と同様、産業廃棄物処分場の埋立処理に適用した様子を示した断面図である。同図(c)でわかるように、本実施形態に係る焼却灰の処理構造31は、焼却灰としての石炭灰2からなる焼却灰層3と硫化物含有物質である泥岩4及び酸化剤としての過酸化水素水からなるpH緩衝層5を焼却灰層3が最下層となるように交互に積層配置するとともに、該最下層の下に砂質土11からなる防護層12を配置してある。
【0072】
かかる焼却灰の処理構造31を構築するには、まず、同図(a)に示すように、ショベル等を用いて地盤を掘削し、埋設空間1を確保する。
【0073】
次に、同図(b)に示すように埋設空間1の底部に砂質土11を埋設し、50cm程度の厚みに敷き均した後、必要に応じて転圧し、防護層12を形成する。
【0074】
次に、同図(c)に示すように、防護層12の上に石炭灰2をブルドーザ等で例えば3m程度の厚みに敷き均して必要に応じて転圧し、焼却灰層3を形成するとともに、その上に例えば50cm程度の厚みの泥岩4を敷き均しつつ過酸化水素水を散布してpH緩衝層5を同様に形成する。そして、かかる手順を繰り返すことで、焼却灰層3を最下層とし、焼却灰層3とpH緩衝層5が下から順に交互に積層配置された焼却灰処理構造31を構築する。なお、必要であれば、最上層となる焼却灰層3又はpH緩衝層5の上を覆土しておく。また、過酸化水素水の散布は、上述した積層作業が終わってから最後に行うことも考えられる。
【0075】
本実施形態に係る焼却灰の処理構造31においては、泥岩4及び過酸化水素水からなるpH緩衝層5が石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮する。すなわち、泥岩4には粘土分が含まれており、該粘土分のコロイド粒子がアルカリ金属やアルカリ土類金属を吸着していわゆるイオン交換作用を果たすが、泥岩4に含まれているパイライト(FeS2)が酸化剤である過酸化水素水によって酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが土中を降下して焼却灰層3中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われることとなる。
【0076】
具体的に説明すると、pH緩衝層5で生成された硫酸イオンは、その下にある焼却灰層3中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われる。また、焼却灰層3中のアルカリ分は、その下にあるpH緩衝層5で生成された硫酸イオンと反応し、該pH緩衝層内にて中和反応が行われるとともに、pH緩衝層を構成する泥岩4内の粘土コロイド粒子に吸着してイオン交換作用が行われる。
【0077】
ここで、最下層である焼却灰層3においては、上層のpH緩衝層5による作用によって中和されないアルカリ分が残存することが考えられるが、かかる残存アルカリ分については、その下に配置された防護層12によって環境への拡散が防止される。すなわち、残存アルカリ分は、防護層12を構成する砂質土に含まれている粘土分のコロイド粒子に吸着されるため、地下水系に滲出する懸念はない。
【0078】
なお、pH緩衝層5は最下層である焼却灰層3の上に配置してあるため、pH緩衝層5で生じた硫酸イオンは、焼却灰層3で中和されるとともにさらにその下にある防護層12で阻止されるため、環境への拡散は未然に防止される。
【0079】
ここで、処理構造31を設計するにあたっては、焼却灰である石炭灰2からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH-)を中和滴定によって計測するとともに、酸化剤である過酸化水素水が添加された硫化物含有物質である泥岩4に生成している酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から焼却灰層3の厚み、pH緩衝層4の厚み、過酸化水素水の濃度等の諸条件を設定すればよい。
【0080】
設計方針としては、pH緩衝層4内に存在する硫酸イオンがすべて焼却灰層3内に存在するアルカリイオンの中和に消費されるように上述した諸条件を定めることが考えられる。
【0081】
このようにすると、焼却灰処理構造31をより合理的かつ効率的に設計することが可能となる。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係る焼却灰の処理構造によれば、泥岩4及び過酸化水素水からなるpH緩衝層5が石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、石炭灰2の中性化を大幅に促進させることが可能となる。
【0083】
そのため、石炭灰を自然に中性化させる場合においてきわめて長期間を要するという弊害や、薬剤で中和させる場合において多額の費用を要するという弊害を生じることなく、比較的短期間にかつ低コストで貴重な土地資源である埋立地の跡地利用を早期に開始することができる。
【0084】
また、過酸化水素水が酸素放出後に水しか残留させないという性質を持つ関係上、塩酸等の薬剤による中和とは異なり、化学的問題を発生させることなく長期間にわたって穏やかな持続性が期待できるという作用効果や、pH緩衝層5が泥岩4という土材料を主として使用するため、施工管理が容易であるとともに施工後の地盤力学特性が把握しやすい等の作用効果、あるいは急激なpH低下による石炭灰からの重金属溶出、降雨による作用低下といったことを懸念する必要がないという作用効果も奏する。
【0085】
また、本実施形態に係る焼却灰の処理構造31によれば、焼却灰層3を最下層とするとともに該最下層の下に防護層12を配置したので、最下層の焼却灰層3内にアルカリ分が残存したとしても、その下に配置された防護層12によって環境への拡散が防止されるとともに、pH緩衝層5で生じた硫酸イオンは、焼却灰層3で中和されるとともにさらにその下にある防護層12で阻止されることとなり、残存アルカリ分や硫酸イオンが地下水系に滲出するのを確実に防止することが可能となる。
【0086】
また、本実施形態に係る焼却灰処理構造の設計方法によれば、処理構造31を合理的かつ効率的に設計することができる。具体的には、例えばpH緩衝層4で生じた硫酸イオンを焼却灰層3での中和にほぼ消費させることが可能となり、余剰硫酸イオンが周囲に拡散して地下水を酸性化させるのを未然に防止することができる。
【0087】
なお、焼却灰が石炭灰に限定されないことや硫化物含有物質が泥岩に限定されない点については第1実施形態と同様であるが、ここではその説明を省略する。
【0088】
(第3実施形態)
【0089】
次に、第3実施形態について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0090】
図5(c)は、本発明に係る焼却灰の処理構造を第1実施形態と同様、産業廃棄物処分場の埋立処理に適用した様子を示した断面図である。同図(c)でわかるように、本実施形態に係る処理構造41は、石炭灰2を焼却灰層3として配置するとともに、該焼却灰層の上層に泥岩4からなるpH緩衝層43を配置し、該pH緩衝層と地上空間とが連通されるように酸化剤注入管42を埋設してなる。
【0091】
本実施形態に係る処理構造41を構築するには、まず、同図(a)に示すように、ショベル等を用いて地盤を掘削し、埋設空間1を確保する。
【0092】
次に、同図(b)に示すように埋設空間1内に石炭灰2を埋設し、ブルドーザ等を用いて例えば3m程度の厚みに敷き均した後、必要に応じて転圧し、焼却灰層3を形成する。
【0093】
次に、同図(c)に示すように、焼却灰層3の上に泥岩4をブルドーザ等で例えば50cm程度の厚みに敷き均し、しかる後、必要に応じて転圧することによってpH緩衝層43を形成する。なお、必要であれば、pH緩衝層43の上を覆土しておく。
【0094】
次に、pH緩衝層43と地上空間とが連通されるように酸化剤注入管42を埋設する。
【0095】
本実施形態に係る焼却灰の処理構造41においては、pH緩衝層43の泥岩4に含まれているパイライトが、酸化剤注入管42を介して供給された過酸化水素水によって酸化されることで多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが土中を降下して焼却灰層3中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われる。
【0096】
なお、pH緩衝層43は焼却灰層3の上に配置してあるため、pH緩衝層43の厚みや過酸化水素水の供給量を適宜調整することにより、該pH緩衝層で生じた硫酸イオンは、焼却灰層3での中和にほぼ消費され、周囲に拡散して地下水を酸性化させる懸念はほとんどない。
【0097】
ここで、焼却灰処理構造41を設計するにあたっては、焼却灰である石炭灰2からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH-)を中和滴定によって計測するとともに、酸化剤である過酸化水素水が硫化物含有物質である泥岩4に供給された場合に生じる酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から焼却灰層3の厚み、pH緩衝層4の厚み、過酸化水素水の濃度や供給量等の諸条件を設定すればよい。
【0098】
設計方針としては、pH緩衝層43内で発生した硫酸イオンがすべて焼却灰層3内に存在するアルカリイオンの中和に消費されるように、上述した諸条件を定めることが考えられる。
【0099】
このようにすると、焼却灰処理構造41をより合理的かつ効率的に設計することが可能となる。
【0100】
以上説明したように、本実施形態に係る焼却灰の処理構造41によれば、pH緩衝層43の泥岩4が過酸化水素水で酸化されることによって硫酸イオンが発生し、該硫酸イオンが石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、石炭灰2の中性化を大幅に促進させることが可能となる。
【0101】
そのため、石炭灰を自然に中性化させる場合においてきわめて長期間を要するという弊害や、薬剤で中和させる場合において多額の費用を要するという弊害を生じることなく、比較的短期間にかつ低コストで貴重な土地資源である埋立地の跡地利用を早期に開始することができる。
【0102】
また、過酸化水素水が酸素放出後に水しか残留させないという性質を持つ関係上、塩酸等の薬剤による中和とは異なり、化学的問題を発生させることなく長期間にわたって穏やかな持続性が期待できるという作用効果や、pH緩衝層43が泥岩4という土材料を主として使用するため、施工管理が容易であるとともに施工後の地盤力学特性が把握しやすい等の作用効果、あるいは急激なpH低下による石炭灰からの重金属溶出、降雨による作用低下といったことを懸念する必要がないという作用効果も奏する。
【0103】
また、本実施形態に係る焼却灰の処理構造41によれば、酸化剤としての過酸化水素水を酸化剤供給管42を介して行うようにしたので、散布等の方式に比べ、泥岩4に確実に過酸化水素水を供給することが可能となり、中和処理の信頼性を大幅に高めることが可能となる。
【0104】
また、本実施形態に係る焼却灰処理構造の設計方法によれば、処理構造41を合理的かつ効率的に設計することができる。具体的には、例えばpH緩衝層43で生じる硫酸イオンが焼却灰層3での中和にほぼ消費されるように過酸化水素水の供給量を定めることが可能となり、余剰硫酸イオンが周囲に拡散して地下水を酸性化させるのを未然に防止することができる。
【0105】
本実施形態では、過酸化水素水の供給量を本発明の設計方法により予め定めるようにしたが、これに代えて、酸化剤注入管42をモニタリング管兼用とし、該モニタリング管を介してpH緩衝層43内の水をモニタリングしてpHを計測し、そのpH値に基づいて過酸化水素水の供給量を定めるようにしてもよい。
【0106】
なお、焼却灰が石炭灰に限定されないことや硫化物含有物質が泥岩に限定されない点については第1実施形態と同様であるが、ここではその説明を省略する。
【0107】
(第4実施形態)
【0108】
次に、第4実施形態に係る焼却灰の処理構造及びそれを用いた設計方法について説明する。なお、上述の実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0109】
図6(c)は、本発明に係る焼却灰の処理構造を第1実施形態と同様、産業廃棄物処分場の埋立処理に適用した様子を示した断面図である。同図(c)でわかるように、本実施形態に係る焼却灰の処理構造51は、焼却灰としての石炭灰2からなる焼却灰層3と硫化物含有物質である泥岩4からなるpH緩衝層43を焼却灰層3が最下層となるように交互に積層配置するとともに、該最下層の下に砂質土11からなる防護層12を配置し、さらに、各pH緩衝層43と地上空間とが連通されるように酸化剤注入管42を埋設してある。
【0110】
かかる焼却灰の処理構造51を構築するには、まず、同図(a)に示すように、ショベル等を用いて地盤を掘削し、埋設空間1を確保する。
【0111】
次に、同図(b)に示すように埋設空間1の底部に砂質土11を埋設し、50cm程度の厚みに敷き均した後、必要に応じて転圧し、防護層12を形成する。
【0112】
次に、同図(c)に示すように、防護層12の上に石炭灰2をブルドーザ等で例えば3m程度の厚みに敷き均して必要に応じて転圧し、焼却灰層3を形成するとともに、その上に例えば50cm程度の厚みの泥岩4を敷き均してpH緩衝層43を同様に形成する。そして、かかる手順を繰り返すことで、焼却灰層3を最下層とし、焼却灰層3とpH緩衝層43が下から順に交互に積層配置された焼却灰処理構造51を構築する。なお、必要であれば、最上層となる焼却灰層3又はpH緩衝層43の上を覆土しておく。
【0113】
次に、各pH緩衝層43と地上空間とが連通されるように酸化剤注入管42を埋設する。
【0114】
本実施形態に係る焼却灰の処理構造51においては、pH緩衝層43の泥岩4に含まれているパイライトが、酸化剤注入管42を介して供給された過酸化水素水によって酸化されることで多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮する。すなわち、泥岩4には粘土分が含まれており、該粘土分のコロイド粒子がアルカリ金属やアルカリ土類金属を吸着していわゆるイオン交換作用を果たすが、泥岩4に含まれているパイライト(FeS2)が酸化剤である過酸化水素水によって酸化されることによって多量の硫酸イオンが生成され、かかる硫酸イオンが土中を降下して焼却灰層3中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われることとなる。
【0115】
具体的に説明すると、pH緩衝層43で生成された硫酸イオンは、その下にある焼却灰層3中のアルカリ分と反応し、該焼却灰層内にて中和反応が行われる。また、焼却灰層3中のアルカリ分は、その下にあるpH緩衝層43で生成された硫酸イオンと反応し、該pH緩衝層内にて中和反応が行われるとともに、pH緩衝層を構成する泥岩4内の粘土コロイド粒子に吸着してイオン交換作用が行われる。
【0116】
ここで、最下層である焼却灰層3においては、上層のpH緩衝層43による作用によって中和されないアルカリ分が残存することが考えられるが、かかる残存アルカリ分については、その下に配置された防護層12によって環境への拡散が防止される。すなわち、残存アルカリ分は、防護層12を構成する砂質土に含まれている粘土分のコロイド粒子に吸着されるため、地下水系に滲出する懸念はない。
【0117】
なお、pH緩衝層43は最下層である焼却灰層3の上に配置してあるため、pH緩衝層43で生じた硫酸イオンは、焼却灰層3で中和されるとともにさらにその下にある防護層12で阻止されるため、環境への拡散は未然に防止される。
【0118】
ここで、処理構造51を設計するにあたっては、焼却灰である石炭灰2からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH-)を中和滴定によって計測するとともに、酸化剤である過酸化水素水が硫化物含有物質である泥岩4に供給された場合に生じる酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から焼却灰層3の厚み、pH緩衝層4の厚み、過酸化水素水の濃度や供給量等の諸条件を設定すればよい。
【0119】
設計方針としては、pH緩衝層43内に存在する硫酸イオンがすべて焼却灰層3内に存在するアルカリイオンの中和に消費されるように上述した諸条件を定めることが考えられる。
【0120】
このようにすると、焼却灰処理構造51をより合理的かつ効率的に設計することが可能となる。
【0121】
以上説明したように、本実施形態に係る焼却灰の処理構造51によれば、pH緩衝層43の泥岩4が過酸化水素水で酸化されることによって硫酸イオンが発生し、該硫酸イオンが石炭灰2から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、石炭灰2の中性化を大幅に促進させることが可能となる。
【0122】
そのため、石炭灰を自然に中性化させる場合においてきわめて長期間を要するという弊害や、薬剤で中和させる場合において多額の費用を要するという弊害を生じることなく、比較的短期間にかつ低コストで貴重な土地資源である埋立地の跡地利用を早期に開始することができる。
【0123】
また、過酸化水素水が酸素放出後に水しか残留させないという性質を持つ関係上、塩酸等の薬剤による中和とは異なり、化学的問題を発生させることなく長期間にわたって穏やかな持続性が期待できるという作用効果や、pH緩衝層43が泥岩4という土材料を主として使用するため、施工管理が容易であるとともに施工後の地盤力学特性が把握しやすい等の作用効果、あるいは急激なpH低下による石炭灰からの重金属溶出、降雨による作用低下といったことを懸念する必要がないという作用効果も奏する。
【0124】
また、本実施形態に係る焼却灰の処理構造51によれば、焼却灰層3を最下層とするとともに該最下層の下に防護層12を配置したので、最下層の焼却灰層3内にアルカリ分が残存したとしても、その下に配置された防護層12によって環境への拡散が防止されるとともに、pH緩衝層43で生じた硫酸イオンは、焼却灰層3で中和されるとともにさらにその下にある防護層12で阻止されることとなり、残存アルカリ分や硫酸イオンが地下水系に滲出するのを確実に防止することが可能となる。
【0125】
また、本実施形態に係る焼却灰の処理構造51によれば、酸化剤としての過酸化水素水を酸化剤供給管42を介して行うようにしたので、散布等の方式に比べ、泥岩4、特に地中深く埋設された泥岩4に確実に過酸化水素水を供給することが可能となり、中和処理の信頼性を大幅に高めることが可能となる。
【0126】
また、本実施形態に係る焼却灰処理構造の設計方法によれば、処理構造51を合理的かつ効率的に設計することができる。具体的には、例えばpH緩衝層43で生じた硫酸イオンを焼却灰層3での中和にほぼ消費させることが可能となり、余剰硫酸イオンが周囲に拡散して地下水を酸性化させるのを未然に防止することができる。
【0127】
本実施形態では特に言及しなかったが、酸化剤である過酸化水素水は、本来、酸化剤注入管42を介してpH緩衝層43に確実に注入されるが、図7に示すようにpH緩衝層43内に不織布、砂層、多孔管等の透水性材料からなる酸化剤拡散層61を平面状、帯状、格子状等の形態で面内配置するとともに該酸化剤拡散層と酸化剤注入管42とを連通させておけば、pH緩衝層43を構成する泥岩4が転圧等に起因して透水係数が小さくなっていたとしても、過酸化水素水をpH緩衝層43全体にわたって確実に供給することが可能となる。
【0128】
なお、かかる変形例を第3実施形態にも適用可能であることは言うまでもない。
【0129】
また、焼却灰が石炭灰に限定されないことや硫化物含有物質が泥岩に限定されない点については第1実施形態と同様であるが、ここではその説明を省略する。
【0130】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の焼却灰の処理構造及びその設計方法によれば、pH緩衝層内で発生した硫酸イオンが焼却灰から溶出したアルカリ分に対して優れたpH緩衝作用を発揮し、焼却灰の中性化を大幅に促進させることが可能となる。
【0131】
そのため、焼却灰を自然に中性化させる場合においてきわめて長期間を要するという弊害や、薬剤で中和させる場合において多額の費用を要するという弊害を生じることなく、比較的短期間にかつ低コストで貴重な土地資源である埋立地の跡地利用を早期に開始することができる。
【0132】
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係る焼却灰の処理構造の断面図。
【図2】第1実施形態に係る焼却灰の処理構造の作用効果を実証した試験結果を示したものであり、(a)は試験方法の概要図、(b)は試験結果を示したグラフ。
【図】第2実施形態に係る焼却灰の処理構造の断面図。
【図】第3実施形態に係る焼却灰の処理構造の断面図。
【図】第4実施形態に係る焼却灰の処理構造の断面図。
【図】変形例に係る焼却灰の処理構造の詳細断面図。
【符号の説明】
2 石炭灰(焼却灰)
3 焼却灰層
4 泥岩(硫化物含有物質)
5、43 pH緩衝層
6、31、41、51 焼却灰処理構造
11 砂質土
12 保護層
42 酸化剤注入管
61 酸化剤拡散層

Claims (7)

  1. 焼却灰を焼却灰層として配置するとともに、該焼却灰層の上層に、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質及び酸化剤からなるpH緩衝層を配置したことを特徴とする焼却灰の処理構造。
  2. 焼却灰からなる焼却灰層と、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質及び酸化剤からなるpH緩衝層を該焼却灰層が最下層となるように交互に積層配置するとともに、該最下層の下に砂質土からなる防護層を配置したことを特徴とする焼却灰の処理構造。
  3. 焼却灰を焼却灰層として配置するとともに、該焼却灰層の上層若しくは下層に、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質からなるpH緩衝層を配置し、該pH緩衝層と地上空間とが連通されるように所定の酸化剤注入管を埋設したことを特徴とする焼却灰の処理構造。
  4. 焼却灰からなる焼却灰層と、硫化鉄鉱石又はその残さ、泥岩、海底土、あるいは温泉地帯の土である硫化物含有物質からなるpH緩衝層を該焼却灰層が最下層となるように交互に積層配置するとともに、該最下層の下に砂質土からなる防護層を配置し、前記各pH緩衝層と地上空間とが連通されるように所定の酸化剤注入管を埋設したことを特徴とする焼却灰の処理構造。
  5. 前記pH緩衝層内に所定の透水性材料からなる酸化剤拡散層を面内配置するとともに該酸化剤拡散層と前記酸化剤注入管とを連通させた請求項3又は請求項4記載の焼却灰の処理構造。
  6. 前記硫化物含有物質を泥岩とした請求項1乃至請求項5のいずれか一記載の焼却灰の処理構造。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれか一記載の焼却灰の処理構造を構築する際、前記焼却灰からのアルカリ溶出によって生成する水酸化物イオン濃度(OH-)を中和滴定によって計測するとともに、前記硫化物含有物質及び酸化剤によって生成する酸による水素イオン濃度(H+)を中和滴定によって計測し、かかる計測結果から前記焼却灰層の厚み、前記pH緩衝層の厚み、及び前記酸化剤の供給量を設定することを特徴とする焼却灰処理構造の設計方法。
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