JP4634517B2 - 出土文化遺物の保存方法 - Google Patents

出土文化遺物の保存方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4634517B2
JP4634517B2 JP2009174866A JP2009174866A JP4634517B2 JP 4634517 B2 JP4634517 B2 JP 4634517B2 JP 2009174866 A JP2009174866 A JP 2009174866A JP 2009174866 A JP2009174866 A JP 2009174866A JP 4634517 B2 JP4634517 B2 JP 4634517B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
water
soluble solvent
higher alcohol
impregnated
cultural relic
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2009174866A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2011026259A (ja
Inventor
あきら 谷内
Original Assignee
株式会社▲吉▼田生物研究所
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by 株式会社▲吉▼田生物研究所 filed Critical 株式会社▲吉▼田生物研究所
Priority to JP2009174866A priority Critical patent/JP4634517B2/ja
Publication of JP2011026259A publication Critical patent/JP2011026259A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4634517B2 publication Critical patent/JP4634517B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Agricultural Chemicals And Associated Chemicals (AREA)

Description

本発明は、各種古墳、遺跡から出土した遺物を出土する以前の状態のまま長期保存を可能とする出土文化遺物の高級アルコールによる保存方法の改良に関する。
一般的に出土文化遺物は人類の歴史上の文化遺産であり、人類の歴史的生活様式の変遷を解明する上で極めて重要なものである。従って、出土した文化遺物は出土以前の状態で永年保存されることが望まれている。
ところで、遺跡から出土される遺物は、陸上から発見されるものの他、特に遺跡周溝から出土される遺物は通常、粘土層、泥土層に埋納されているため、水が過飽和状態に存在している。そのため、出土後の文化遺物、特に木製遺物は主要成分であるセルロースが分解流出し、最初は含水により外観形態を辛うじて保持しているが、乾燥が進むに連れて激しい収縮を起こし、原形を留めない程変形する。
そのため、従来より出土文化遺物を保存する方法として、水溶性樹脂の一種であるポリエチレングリコールを加熱溶解したものに含浸させる方法、或いは一定の割合で第3級ブチルアルコールとポリエチレングリコールの混合物に含浸処理した後、真空凍結乾燥させる方法が一般的に採用されている。
しかし、ポリエチレングリコール含浸法では、遺物に含まれている水の分子量(約18)とポリエチレングリコール(一般的に分子量が4000のもの)の分子量との差が大きく、急速な含浸処理を行うと遺物の収縮が起こり、原形を留められないばかりか、割れを生ずる。これらの防止のため、恒温水槽に入れた水に遺物を浸漬し、長期間を懸けポリエチレングリコールの濃度を上げて遺物の水分をポリエチレングリコールに置き換える方法が用いられているが、処理作業に通常数ヵ月から大型の遺物の処理の場合は数年の歳月を必要とする。
また、ポリエチレングリコールは溶融温度付近で溶解使用する場合、長期間の間には空気酸化を受け低分子量のものに変化することが懸念される他、水溶性であり空気中の水分を吸収するため、保存処理後の遺物に変形やひび割れ等の欠点を生じる場合が多く、保存性にも難点がある。
一方、真空凍結乾燥法においても、ポリエチレングリコールが遺物の内部に50〜60%含まれているため、保存性について同様の問題点がある。
上記問題点に鑑み、常温状態でも湿度の影響を受けず保存処理の日数を著しく短縮でき、出土遺物の出土以前の原形を長期間保持させることができ、保存周囲環境下でも湿度等によっても原形を維持しうる出土遺物の保存方法として、本願出願人は高級アルコールを使用する方法を既に提供した。
すなわち、出土した文化遺物を低級アルコールに浸漬して文化遺物の含浸水を低級アルコールと置換する工程と、文化遺物を高級アルコールとして、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールから選ばれる1種のみに浸漬して文化遺物の含浸低級アルコールを高級アルコールと置換する工程と、高級アルコールを含浸させた文化遺物を固化させる工程とからなることを特徴とする出土文化遺物の保存方法である。
又は、出土した文化遺物を低級アルコールに浸漬して文化遺物の含浸水を低級アルコールと置換する工程と、文化遺物を高級アルコールに浸漬して文化遺物の含浸低級アルコールを高級アルコールと少なくとも40%まで置換する工程と、低級アルコールと高級アルコールを含浸させた文化遺物を真空下で凍結・乾燥させる工程とからなることを特徴とする出土文化遺物の保存方法である(例えば、特許文献1参照)。
或いは、出土した文化遺物を水溶性溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水を水溶性溶剤と置換する工程と、文化遺物を高級アルコールとポリエチレングリコールとの混合溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水溶性溶剤を混合溶剤と置換する工程と、混合溶剤を含浸させた文化遺物を固化させる工程とからなることを特徴とする出土文化遺物の保存方法である。
又は、出土した文化遺物を水溶性溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水を水溶性溶剤と置換する工程と、文化遺物を高級アルコールとポリエチレングリコールとの混合溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水溶性溶剤を混合溶剤と少なくとも40%まで置換する工程と、水溶性溶剤と混合溶剤を含浸させた文化遺物を真空下で凍結・乾燥させる工程とからなることを特徴とする出土文化遺物の保存方法である(例えば、特許文献2参照)。
特許第2724047号公報 特許第2547497号公報
しかし出土遺物について、出土条件、変質状況、厚み、素材などにより、保存処理において処理条件を慎重に選び、出土遺物に応じた処理により出土以前の原形を長期間保持させることが重要である。
本発明は、そのような現状に着目してなされたもので、出土遺物の保存方法として、上記特許文献1,2記載の発明のような高級アルコールを使用する方法において、常温状態でも湿度等の影響を受けずに長期にわたって保存可能な文化遺物を得るための保存方法(上記特許文献1,2記載の保存方法の改良方法)を提供することを目的としている。
前記目的を達成するため、本発明の請求項1記載の出土文化遺物の保存方法は、出土した文化遺物を炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルコールよりなる水溶性溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水を水溶性溶剤で置換する工程と、高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤に、炭素数16〜22の飽和高級アルコールとアルキレンオキサイドのみからなる化合物を、前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた当該難水溶性溶剤に、前記水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を浸漬して文化遺物の含浸水溶性溶剤を難水溶性溶剤で置換する工程と、難水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を固化させる工程とからなることを特徴とする。以下、この保存方法を便宜上、保存方法1と略記する。
また、請求項2記載の出土文化遺物の保存方法は、出土した文化遺物を炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルコールよりなる水溶性溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水を水溶性溶剤で置換する工程と、高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤に、炭素数16〜22の飽和高級アルコールとアルキレンオキサイドのみからなる化合物を、前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた当該難水溶性溶剤に、前記水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を浸漬して文化遺物の含浸水溶性溶剤を少なくとも40%まで難水溶性溶剤で置換する工程と、水溶性溶剤及び難水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を真空下で凍結・乾燥させる工程とからなることを特徴とする。以下、この保存方法を便宜上、保存方法2と略記する。
上記保存方法1,2において、高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物を文化遺物の状態に応じて使い分ける必要がある。
例えば、脆化の進行した文化遺物を高い温度で処理すると、変形収縮等が起こりやすい。また、比較的状態の良い文化遺物については、比較的高い温度での処理が可能であるが、文化遺物の性格上、70℃以上の処理は収縮変形を起こしやすい。また、融点50℃以下の高級アルコール組成物を使用した場合では、保存処理物が外温の影響を受けやすい。
従って、本発明の目的達成のためには、文化遺物の状態に応じて、高級アルコールを2種以上含有する融点が50〜70℃の飽和高級アルコールを主体とする高級アルコール組成物を使用するのが最適である。
文化遺物の中で難水溶性溶剤である高級アルコール組成物が固化する場合、温度条件により大きい結晶を生成し、亀裂変形を起こす場合があり、これらを勘案すると、高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の範囲の飽和高級アルコール組成物を使用することが望ましい。
本発明において、その高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の高級アルコール組成物とは、例えば、
・セチルアルコール70(融点51〜54℃、C16アルコール70〜75%、C18アルコール25〜30%)
・セチルアルコール50(融点52〜55℃、C16アルコール50〜55%、C18アルコール45〜50%)
・ステアリルアルコール(融点57.5〜59.5℃、C16アルコール20%以下、C18アルコール80〜90%)
・ベヘニルアルコール65(融点65〜70℃、C22アルコール65〜70%、C20アルコール20%以下、C18アルコール20%以下)
・セトステアリルアルコール(融点54〜56℃、C16アルコール45〜55%、C18アルコール45〜65%)
などが代表的なものである。その他、上記融点50〜70℃の範囲を維持するものであれば混合したものを使用できる。
また、本発明において、上記結晶の細密化の問題、関連する寸法安定性の問題の一層の改善のため、高級アルコール組成物が更に広い範囲の文化遺物の保存処理に有効な方法を検討した。
すなわち、高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤に、炭素数16〜22の飽和高級アルコールアルキレンオキサイドのみからなる化合物を、前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えることにより、文化遺物の中で固化する高級アルコール組成物の結晶がより細密なものとなることを見出した。
高級アルコール組成物に可溶の界面活性剤の一種である炭素数16〜22の飽和高級アルコールとアルキレンオキサイドのみからなる化合物とは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドであり、付加モル数は4モル以下である。4モル以上のものは、高級アルコール組成物の融点を低下させるほか、水溶性が大きくなるので好ましくない。
更に、文化遺物の保存処理したものの表面状態と保存安定性と結晶の細密化を更に改善するために、高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤、又はその難水溶性溶剤に上記炭素数16〜22の高級アルコールアルキレンオキサイドのみからなる化合物を加えたものに、高級アルコール組成物に可溶の繊維素アルキルエーテル及び/又はポリビニルブチラール樹脂を前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えることにより、文化遺物の保存処理に使用した高級アルコール組成物、又は高級アルコール組成物に加えた上記化合物などが文化遺物中で固化した結晶を細密化できると同時に、表面状態が良好に保たれることを見出した。
本発明において、高級アルコール組成物に可溶の繊維素アルキルエーテルは、例えばエチルセルロース、プロピルセルロース、などで代表される。エチルセルロースの場合、トルエン/エタノール(80/20)の混合溶媒5%sol、粘度9〜45cpsが適当である。
ポリビニルブチラール樹脂の場合、エタノール/トルエン(1/1)の混合溶媒10%sol、粘度10〜30cpsのもので代表される。
これらの樹脂は、高級アルコール組成物に直接加え溶解させるか、又は使用する水溶性溶剤の少量に溶解したものを加えてもよい。使用する量は、高級アルコール組成物に対し1〜10%が適当である。特に1〜5%が好ましい。
これらの高級アルコール組成物に可溶の樹脂は、分子量が高級アルコール組成物より大きく、内部への浸透よりも保存処理物の表面の保護に寄与するもので、保存処理と同時に表面の保護処理が行えるという特徴がある。
このため、これらの高級アルコール組成物に可溶の樹脂は、出土品を水溶性溶剤で脱水した後、難水溶性溶剤で出土品中の水溶性溶剤を置換した段階で、高級アルコール組成物又は高級アルコール組成物にC16〜C22の高級アルコールアルキレンオキサイドのみからなる化合物を含む物の中に加える方法が好ましい。
なお、保存方法2における水溶性溶剤と難水溶性溶剤との置換割合は、最初に含浸させた水溶性溶剤が後から含浸させる難水溶性溶剤と少なくとも40%程度置換されれば十分であり、好ましくは40〜60%程度、特に50%程度が好適である。
また、保存方法1,2において、難水溶性溶剤である高級アルコール組成物に可溶の抗菌剤、防黴剤、防蟻剤などを加えることができる。
更にまた、本発明でいうところの文化遺物とは、各種遺跡、古墳から出土する製品(木片、丸木舟、木器等)、金属製品(円鏡、銅鐸、刀剣、釣針、鉄器等)、土製品(土器等)、動物製品(織物、人骨、獣骨等)、動植物質出土品(木の葉、実、種子、麻、絹、漆塗膜等)の様々な遺物を含む。
本発明によれば、前記特許文献1,2記載の保存方法に比較して、固化物(保存処理完了後の文化遺物)がより細密な構造を有し、更に広い範囲のものに使用でき、処理後の文化遺物は、湿度、外温の影響により出土以前の様態が変化することなく長期的に保存することができる。
また、固化時に難水溶性溶剤である高級アルコール組成物が細密な構造を有するので、処理後の文化遺物は、保存周囲環境下の水分を吸収せず、経年変化やひび割れなどの問題を生じない。
更に、そのような特長を有する文化遺物をより短時間の処理により得ることができる。
本発明の保存方法1の工程を示す図である。 本発明の保存方法2の工程を示す図である。 実施例1における種別(1)について保存処理木材を同一条件で固化したものの写真である。 実施例1における種別(2)について保存処理木材を同一条件で固化したものの写真である。 実施例1における種別(3)について保存処理木材を同一条件で固化したものの写真である。 実施例1における種別(4)について保存処理木材を同一条件で固化したものの写真である。
以下、実施の形態により、この発明を更に詳細に説明する。
保存方法1を示す図1において、まず工程1では、出土した文化遺物を炭素数1〜4の直鎖(飽和)又は分岐のアルコールよりなる水溶性溶剤に浸漬し、文化遺物の含浸水を水溶性溶剤で置換する。この工程1により、文化遺物に過飽和に含まれている水分が水溶性溶剤と置換された文化遺物が得られる。
次の工程2においては、水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を次の難水溶性溶剤A)〜D)のいずれかに浸漬させる。
A)高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤。
B)A)の難水溶性溶剤に、炭素数16〜22の飽和高級アルコールアルキレンオキサイドのみからなる化合物を高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた難水溶性溶剤。
C)B)の難水溶性溶剤に、高級アルコール組成物に可溶の繊維素アルキルエーテル及び/又はポリビニルブチラール樹脂を高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた難水溶性溶剤。
D)A)の難水溶性溶剤に、高級アルコール組成物に可溶の繊維素アルキルエーテル及び/又はポリビニルブチラール樹脂を高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた難水溶性溶剤。
水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を上記難水溶性溶剤A)〜D)のいずれかに浸漬し、文化遺物の含浸水溶性溶剤を難水溶性溶剤で置換し、水溶性溶剤と難水溶性溶剤が完全に置換した文化遺物を得る。但し、難水溶性溶剤を使用する場合、融点に応じた所定の温度で溶解液化したものを使用する。
最後の工程3では、難水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を常温圧下の空気中で冷却、固化させれば、保存方法1による保存処理が完了した文化遺物が得られる。
次に、保存方法2を示す図2において、工程1では、出土した文化遺物を炭素数1〜4の直鎖(飽和)又は分岐のアルコールよりなる水溶性溶剤に浸漬し、文化遺物の含浸水を水溶性溶剤で置換する。この工程1により、文化遺物に過飽和に含まれている水分が水溶性溶剤と置換された文化遺物が得られる。
工程2においては、水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を上記難水溶性溶剤A)〜D)のいずれかに浸漬し、文化遺物の含浸水溶性溶剤を少なくとも40%まで難水溶性溶剤で置換する。
工程3では、水溶性溶剤及び難水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を真空下で凍結・乾燥させれば、水溶性溶剤のみが蒸散して文化遺物から消失し、保存方法2による保存処理が完了した文化遺物が得られる。
保存方法1について具体例を挙げて説明する。但し、この実施例1では、遺跡から発見された出土遺物としての木片を処理した場合を例として説明する。
まず工程1では、水溶性溶剤であるメタノール(メチルアルコール)中に木片を入れ、1日から数日間浸漬する。浸漬中に木片中の水分は全てメチルアルコールに入れ替わる。これにより、木片組織内の含有水分が全部メチルアルコールで置換した木片が得られる。
上記浸漬中で木片内の含有水分がメチルアルコール中に浸出するのに伴って、メチルアルコールの濃度が低下するので、適宜比重を測定し、途中で数回新しいメチルアルコールと交換する。
この後、次の工程2の前処理として、低級アルコールであるメチルアルコールと高級アルコール組成物であるステアリルアルコール(C18/90%、C16/10%、融点60.5℃)との等量混合物を恒温器に入れ、60℃に保ったものの中に木片を入れ、数日間浸漬する。この前処理は次の工程2において、難水溶性溶剤としての高級アルコール組成物である前記ステアリルアルコールに木片を浸漬する際に、木片が含有する低級アルコールであるメチルアルコールとの濃度差、分子量差に起因するひび割れや収縮を未然に防止するためのものである。
次の工程2では、恒温器内で、難水溶性溶剤の高級アルコール組成物である(1)ステアリルアルコール(C18/90%、C16/10%、融点60.5℃)を63℃で溶解し、63℃に保ったものの中に木片を浸漬し、数日間放置する。これにより、木片内のメチルアルコールがステアリルアルコールに完全に置換される。置換終了後、木片を恒温器より取り出す。
工程3では、木片を室温下で冷却、固化させることにより、保存方法1で保存処理された文化遺物が得られる。このようにして処理された文化遺物は、出土以前の原形を保持しており、変形せずに半永久的に保存することができる。また、処理後の文化遺物は、この種の文化遺物の保存処理に必要な可逆性を有する。
なお、実施例1で使用した難水溶性溶剤の高級アルコール組成物である(1)ステアリルアルコールの代わりに次のものも検討した。
(2)高級アルコール組成物(C18/65%、C16/35%、融点58℃)
(3)ステアリルアルコール(1)97部にステアリルアルコールエチレンオキサイド3.3モル付加物3部を加えたもの(融点59℃)
(4)ステアリルアルコール(1)94部にステアリルアルコールエチレンオキサイド1.18モル付加物3部とポリビニルブチラール樹脂BLS(積水化学製品)3部とを加えたもの(融点59.5℃)
以上の難水溶性溶剤(1)〜(4)を使用した保存処理後の木材について、接線方向、放射方向、縦方向の寸法変化を処理1ヵ月後のものについて比較した。同時に、難水溶性溶剤(1)〜(4)について、同一条件で固化したものの写真を参考のため図3〜図6に示した。
〔寸法変化〕
種別 接線方向 放射方向 縦方向
(1) 2.0% 1.3% 0%
(2) 1.6% 0.3% 0%
(3) 1.7% 1.6% 0%
(4) 1.9% 2.0% 0.1%
これより、特に種別(4)については、他のものに比較して処理物の表面は極めて平滑な状態を示した。
保存方法2について具体例を挙げて説明する。但し、この実施例2でも、遺跡から発見された出土遺物としての木片を処理した場合を例として説明する。
保存方法2も途中の工程までは、保存方法1とほぼ同様である。すなわち、まず工程1において、水溶性溶剤として低級アルコールの一種である第3級ブチルアルコール中に木片を1日から数日間浸漬し、木片内の含有水分を第3級ブチルアルコールに全部入れ替える。保存方法1と同様、浸漬中に木片の水分により第3級ブチルアルコールの濃度が低下するので、適宜比重を測定し、新しい第3級ブチルアルコールと交換する。
保存方法1と同様、次の工程2の前処理として、低級アルコールの一種である第3級ブチルアルコールと難水溶性溶剤である高級アルコール組成物(C18/65%、C16/35%、融点58℃)との等量混合物を恒温器に入れ、40℃に保ったものの中に木片を数日間入れておく。この前処理で次の工程2における第3級ブチルアルコールと難水溶性溶剤である高級アルコール組成物との濃度差、分子量差による木片のひび割れや収縮を防ぐ。
工程2では、難水溶性溶剤として高級アルコール組成物(C18/65%、C16/35%、融点58℃)中に木片を数日間浸漬する。ここで、木片に含まれている第3級ブチルアルコールが高級アルコール組成物に50%程度置換された時点で浸漬を終了し、木片を取り出す。
工程3では、冷凍庫で木片を急速冷凍した後、真空凍結乾燥装置を用いて木片を乾燥させる。これにより、木片内に残存する第3級ブチルアルコールが全て消失するが、高級アルコール組成物は難昇華性固体であるから木片の組織内に残留する。
乾燥の進行とともに木片は固化し、最終的に保存方法2で保存処理された文化遺物が得られる。この保存方法2で処理された文化遺物は、出土以前の原形を留めたままで永久保存できる。

Claims (3)

  1. 出土した文化遺物を炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルコールよりなる水溶性溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水を水溶性溶剤で置換する工程と、
    高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤に、炭素数16〜22の飽和高級アルコールとアルキレンオキサイドのみからなる化合物を、前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた当該難水溶性溶剤に、前記水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を浸漬して文化遺物の含浸水溶性溶剤を難水溶性溶剤で置換する工程と、
    難水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を固化させる工程と
    からなることを特徴とする出土文化遺物の保存方法。
  2. 出土した文化遺物を炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルコールよりなる水溶性溶剤に浸漬して文化遺物の含浸水を水溶性溶剤で置換する工程と、
    高級アルコールを2種以上含有する融点50〜70℃の飽和アルコールを主体とする高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤に、炭素数16〜22の飽和高級アルコールとアルキレンオキサイドのみからなる化合物を、前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えた当該難水溶性溶剤に、前記水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を浸漬して文化遺物の含浸水溶性溶剤を少なくとも40%まで難水溶性溶剤で置換する工程と、
    水溶性溶剤及び難水溶性溶剤を含浸させた文化遺物を真空下で凍結・乾燥させる工程と
    からなることを特徴とする出土文化遺物の保存方法。
  3. 前記高級アルコール組成物よりなる難水溶性溶剤に、前記高級アルコール組成物に可溶の繊維素アルキルエーテル及び/又はポリビニルブチラール樹脂を前記高級アルコール組成物の融点範囲を越えない量を加えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の出土文化遺物の保存方法。
JP2009174866A 2009-07-28 2009-07-28 出土文化遺物の保存方法 Active JP4634517B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009174866A JP4634517B2 (ja) 2009-07-28 2009-07-28 出土文化遺物の保存方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009174866A JP4634517B2 (ja) 2009-07-28 2009-07-28 出土文化遺物の保存方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2011026259A JP2011026259A (ja) 2011-02-10
JP4634517B2 true JP4634517B2 (ja) 2011-02-16

Family

ID=43635432

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2009174866A Active JP4634517B2 (ja) 2009-07-28 2009-07-28 出土文化遺物の保存方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4634517B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP6001880B2 (ja) * 2012-03-05 2016-10-05 株式会社▲吉▼田生物研究所 動植物又は出土文化遺物の保存方法

Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2009513609A (ja) * 2005-10-28 2009-04-02 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア ポリアルコキシレートを含有する固体製剤、その製造方法およびその使用

Family Cites Families (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS5226174B2 (ja) * 1973-09-28 1977-07-12
JP2724047B2 (ja) * 1991-02-15 1998-03-09 秀男 吉田 出土文化遺物及びその保存方法
JP2547497B2 (ja) * 1992-03-05 1996-10-23 秀男 吉田 出土文化遺物及びその保存方法
JP3604788B2 (ja) * 1995-08-31 2004-12-22 財団法人元興寺文化財研究所 植物性遺物の保存処理方法および保存処理植物性遺物
JP2728238B2 (ja) * 1995-09-26 1998-03-18 中部電力株式会社 藍藻類・地衣類除去剤及びコンクリート物体の藍藻類・地衣類除去方法

Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2009513609A (ja) * 2005-10-28 2009-04-02 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア ポリアルコキシレートを含有する固体製剤、その製造方法およびその使用

Also Published As

Publication number Publication date
JP2011026259A (ja) 2011-02-10

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US5252537A (en) Long-life cut flowers and method of treatment for obtaining such flowers
CN115070890B (zh) 一种用于饱水木质文物的脱水加固处理方法
JP4634517B2 (ja) 出土文化遺物の保存方法
KR101874166B1 (ko) Peg를 이용한 대나무의 건조방법
JP3548744B2 (ja) 切花の保存方法
Jenssen Conservation of wet organic artefacts excluding wood
JP6001880B2 (ja) 動植物又は出土文化遺物の保存方法
US5300540A (en) Preserved cellular structures
US5911917A (en) Preserved cellular structures
JP2547497B2 (ja) 出土文化遺物及びその保存方法
Palungan et al. Tension strength and fiber morphology of Agave Cantala Roxb leaves due to liquid smoke immersion treatment
EP1790222B1 (en) Technique of mummies processing
JP2023061037A (ja) 動植物又は出土文化遺物の保存方法
CA3110306A1 (en) Paraffin-reinforced wood and method for manufacturing the same
JP2724047B2 (ja) 出土文化遺物及びその保存方法
JP2006111598A (ja) 植物体の保存処理方法
US1602489A (en) Ferdinand hochstetter and gustaf schmeidel
JP3604788B2 (ja) 植物性遺物の保存処理方法および保存処理植物性遺物
JP3443463B2 (ja) 水浸有機遺物の保存処理方法
Werner Consolidation of fragile objects
JP3803836B2 (ja) 木質材料の保存処理方法
JP2005082583A (ja) 植物保存用液状組成物
JP2006289632A (ja) 強化燻薪の製造方法
US1051596A (en) Treatment of wood.
CN117186328A (zh) 类木质素乳液、制备及用于饱水木质文物脱水定型的方法

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20101027

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20101116

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20101118

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 4634517

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131126

Year of fee payment: 3

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250