以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
まず、本願発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用前照灯を示す正面図であり、図2は、図1のII-II 線断面図である。
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用前照灯10は、ランプボディ12と、このランプボディ12の前端開口部に取り付けられた素通し状の透光カバー14とで形成される灯室内に、8つの灯具ユニット30、40が収容された構成となっている。そして、この車両用前照灯10においては、これら8つの灯具ユニット30、40からの光照射により、ロービーム用配光パターンを形成するようになっている。
8つの灯具ユニット30、40は、いずれもプロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されており、共通の金属製ブラケット20に上下2段配置で支持されている。これら8つの灯具ユニット30、40のうち、下段中央に配置された2つの灯具ユニット40は、互いに同一の構成を有しており、これらにより「所定光学系」が構成されており、また、残り6つの灯具ユニット30も、互いに同一の構成を有しており、これらにより「他の光学系」が構成されている。
金属製ブラケット20は、鉛直パネル部20Aと、この鉛直パネル部20Aから前方へ棚状に延びる8つのユニット取付部20Bとからなり、エイミング機構18を介してランプボディ12に上下方向および左右方向に傾動可能に支持されている。
各灯具ユニット30、40は、これら各ユニット取付部20Bにおいて金属製ブラケット20に固定されている。その際、各灯具ユニット30、40は、その光軸Axが鉛直パネル部20Aと直交する方向に互いに平行に延びるように配置されている。ただし、これら各灯具ユニット30の光軸Axは、エイミング機構18による光軸調整が完了した段階では、車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びるように設定されている。
次に、これら各灯具ユニット30、40の具体的な構成について説明する。
まず、灯具ユニット30の構成について説明する。
この灯具ユニット30は、光軸Ax上に配置された投影レンズ32と、この投影レンズ32の後方に配置された発光ダイオード34と、この発光ダイオード34を上方側から覆うように配置されたリフレクタ36と、発光ダイオード34と投影レンズ32との間に配置された光制御部材38とを備えてなっている。
投影レンズ32は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズとして構成されている。そして、この投影レンズ32は、その後側焦点Fを含む後側焦点面上の像を、灯具前方に配置された鉛直仮想スクリーン上に反転像として投影するようになっている。
発光ダイオード34は、発光チップ34aを有する白色発光ダイオードであって、金属製の支持プレート22に支持されている。そして、この発光ダイオード34は、その発光中心を光軸Ax上に位置させるようにして鉛直上向きに配置された状態で、支持プレート22を介して金属製ブラケット20のユニット取付部20Bに固定されている。
リフレクタ36は、発光ダイオード34からの光を前方へ向けて光軸Ax寄りに反射させて投影レンズ32の後側焦点F近傍に略収束させるように構成されている。具体的には、このリフレクタ36の反射面36aは、光軸Axを含む断面形状が楕円形状に設定されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そして、この反射面36aは、発光ダイオード34からの光を鉛直面内において後側焦点Fのやや前方位置に収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置を後側焦点Fの前方側へ変位させるようになっている。
光制御部材38は、その上面38aが投影レンズ32の後側焦点Fから後方へ延びるように形成されており、その前端縁38a1は投影レンズ32の後側焦点面に沿って略円弧状に形成されている。
この光制御部材38の上面38aは、光軸Axよりも左側(灯具正面視では右側)の領域が光軸Axから左方向へ水平に延びる水平面で構成されており、光軸Axよりも右側の領域が光軸Axから右方向へ斜め下向き(例えば15°下向き)で延びる短い斜面および該斜面の右端部からさらに右方向へ水平に延びる水平面で構成されている。そして、この上面38aにはアルミニウム蒸着等による鏡面処理が施されており、これにより該上面38aはリフレクタ36の反射面36aからの反射光の一部の直進を阻止してこれを上向きに反射させるようになっている。
この光制御部材38は、その前端部が下方側へ湾曲するように形成されており、その前端縁において投影レンズ32を固定支持するようになっている。
次に、灯具ユニット40の構成について説明する。
この灯具ユニット40も、その基本的な構成は灯具ユニット30と同様であって、投影レンズ42と、発光ダイオード44と、リフレクタ46と、光制御部材48とを備えてなっている。
投影レンズ42は、投影レンズ32と同様、平凸非球面レンズとして構成されているが、投影レンズ32よりも長い焦点距離を有している。
発光ダイオード44は、発光ダイオード34と同様、発光チップ44aを有する白色発光ダイオードであるが、発光ダイオード34よりも低い色温度で発光するように構成されている。
すなわち、この発光ダイオード44は、図2のIII 部詳細図である図3に示すように、ベース44bに発光チップ44aが支持されるとともに、この発光チップ44aが略半球状の封止樹脂部材44cで封止された構成となっているが、この封止は、発光チップ44aを覆うように配置された樹脂部材44dを介して行われている。この樹脂部材44dは、発光チップ44aからの光における短波長成分の透過率を下げるための蛍光体を含有しており、これにより発光ダイオード44を発光ダイオード34よりも低い色温度で発光させるようになっている。
そしてこれにより、灯具ユニット40は、灯具ユニット30よりも低い色温度での光照射を行うように構成されている。
図2に示すように、リフレクタ46は、リフレクタ36と同様、光軸Axを含む断面形状が楕円形状に設定された反射面46aを有しているが、その焦点間距離はリフレクタ36よりも長い値に設定されている。
光制御部材48は、光制御部材38と同様、その上面48aにおいて、リフレクタ46の反射面46aからの反射光の一部を上向きに反射させるように構成されており、その上面48aの前端縁48a1は、投影レンズ42後側焦点面に沿って略円弧状に形成されている。その際、光制御部材48の前端縁48a1は、光制御部材38の前端縁38a1よりも前方に位置しており、リフレクタ46からの反射光を鉛直面内において前端縁48a1の位置に収束させるようになっている。
灯具ユニット40をこのように構成することにより、リフレクタ46からの反射光により投影レンズ42の後側焦点面上に形成される像を小さくするとともに、これを実現するためにリフレクタ46からの反射光の後側焦点Fへの収束性を高めているにもかかわらず、この反射光を投影レンズ42に入射させ得るようにしている。
図4は、本実施形態に係る車両用前照灯10から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを透視的に示す図である。
同図に示すように、このロービーム用配光パターンPL1は、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁にカットオフラインCL1、CL2を有している。
このロービーム用配光パターンPL1は、6つの灯具ユニット30からの光照射により同一形状で重畳的に形成される配光パターンPA1と、2つの灯具ユニット40からの光照射により同一形状で重畳的に形成される形成される配光パターンPB1との合成配光パターンとして形成されるようになっている。そして、このロービーム用配光パターンPL1においては、その全体形状が配光パターンPA1により形成されており、その高光度領域であるホットゾーンHZが配光パターンPB1により形成されている。
このロービーム用配光パターンPL1のカットオフラインCL1、CL2は、各灯具ユニット30、40における光制御部材38、48の前端縁38a1、48a1の反転投影像として形成されている。このカットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを鉛直方向に通るV−V線よりも右側の対向車線側カットオフラインCL1が水平に延びるように形成されており、V−V線よりも左側の自車線側カットオフラインは、この対向車線側カットオフラインCL1から所定角度(例えば15°)で、H−Vを水平方向に通るH−H線のやや上方まで斜めに立ち上がった後、水平に延びるように形成されている。
このロービーム用配光パターンPL1において、対向車線側カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eの位置は、H−Vの0.5〜0.6°程度下方の位置に設定されており、このエルボ点Eを囲むようにしてホットゾーンHZが形成されている。その際、エルボ点EがH−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置しているのは、各灯具ユニット30、40の光軸Axが車両前後方向に延びる軸線に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びていることによるものである。
このロービーム用配光パターンPL1において、対向車線側カットオフラインCL1に沿ったエルボ点E寄りに位置するエルボ点近傍領域A(同図において破線で示す横長の領域)は、車両のピッチング等により各灯具ユニット30、40の光軸Axが上向きになると、エルボ点近傍領域Aを形成するために照射される光の一部が対向車ドライバ等の目に入ってしまうこととなる。
しかしながら、このエルボ点近傍領域Aは、主として配光パターンPB1の一部として構成されており、この配光パターンPB1は、配光パターンPA1を形成するための光照射を行う6つの灯具ユニット30よりも低い色温度で光照射を行う2つの灯具ユニット40により形成されるので、エルボ点近傍領域Aを形成するために照射される光の一部が対向車ドライバ等の目に入ってときに対向車ドライバ等に与えるグレアは、2つの灯具ユニット40を仮に他の6つの灯具ユニット30と同じ色温度で光照射を行う構成とした場合に比して軽減されることとなる。
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用前照灯10は、上端部にカットオフラインCL1、CL2を有するロービーム用配光パターンPL1を形成するようになっているが、このロービーム用配光パターンPL1における対向車線側カットオフラインCL1のエルボ点近傍領域Aを形成するための光照射を行う所定光学系としての2つの灯具ユニット40と、それ以外の領域を形成するための光照射を行う他の光学系としての6つの灯具ユニット30とを備えており、その際、各灯具ユニット40は各灯具ユニット30よりも低い色温度で光照射を行うようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
すなわち、車両のピッチング等により、各灯具ユニット30、40の光軸Axが上向きになったときに、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまう原因となる光は、エルボ点近傍領域Aへ向かう光であるが、このエルボ点近傍領域Aは、灯具ユニット30よりも低い色温度で光照射を行う灯具ユニット40からの光照射により形成されるようになっているので、このエルボ点近傍領域Aに照射される光が対向車ドライバ等の目に入ってしまうようなことがあっても、対向車ドライバ等に与えるグレアを軽減することができる。
特に本実施形態においては、所定光学系と他の光学系とが異なる灯具ユニット30、40で構成されているので、所定光学系と他の光学系との機能分離を容易に行うことができる。
しかも、所定光学系を構成する灯具ユニット40の光源である発光ダイオード44は、他の光学系を構成する灯具ユニット30の光源である発光ダイオード34よりも低い色温度で発光するようになっているので、所定光学系による低い色温度での光照射を、異なる光源を用いるだけの簡単な構成により実現することができる。
その際、発光ダイオード44は、その発光チップ44aが蛍光体を含有する樹脂部材44dで覆われており、これにより発光チップ44aからの光における短波長成分の透過率を下げるようになっているので、低い色温度での発光を容易に実現することができる。
さらに本実施形態においては、低い色温度での光照射により形成される配光パターンPB1が、エルボ点近傍領域Aだけでなく、自車線側カットオフラインCL2に沿ったエルボ点Eの近傍領域をも含むように形成されているので、車両のピッチング等により、各灯具ユニット30、40の光軸Axが上向きになった場合だけでなく、車両旋回時等に、自車線側カットオフラインCL2に沿ったエルボ点Eの近傍領域に照射される光が対向車ドライバ等の目に入ってしまったような場合においても、対向車ドライバ等に与えるグレアを軽減することができる。
しかも本実施形態において、低い色温度での光照射が行われるのは、カットオフラインCL1、CL2に近い領域であり、ロービーム用配光パターンPL1の下端部近傍領域に関しては低い色温度での光照射が行われてしまうことはないので、車両前方路面の近距離領域が黄色っぽく見えてしまうのを未然に防止することができ、これにより自車ドライバに無用の違和感を与えてしまうおそれをなくすことができる。
なお、上記第1実施形態においては、8つの灯具ユニット30、40が上下2段で配置されているものとして説明したが、これ以外の個数や配置を有する構成となっていてもよく、また、所定光学系を構成する灯具ユニット40の個数や配置についても、上記第1実施形態の場合と異なる個数や配置に設定されていてもよい。
また、上記第1実施形態においては、各灯具ユニット40を、各灯具ユニット30の光源よりも相対的に低い色温度で発光する光源を備えた構成とすることにより、各灯具ユニット30よりも低い色温度で光照射を行うようになっているが、このようにする代わりに、リフレクタ46の反射面46aあるいは投影レンズ42の表面の所定領域に、光源からの光における短波長成分の反射率を下げるための表面処理を施すことにより、各灯具ユニット30よりも低い色温度で光照射を行う構成とすることも可能である。
さらに、上記第1実施形態においては、各灯具ユニット30、40がプロジェクタ型の灯具ユニットであるものとして説明したが、これ以外の種類の灯具ユニットである場合においても、上記第1実施形態と同様の構成を採用することによりこれと同様の作用効果を得ることができる。
図5は、上記第1実施形態の変形例に係る車両用前照灯を示す正面図である。
同図に示すように、本変形例に係る車両用前照灯10´は、その基本的な構成は、上記第1実施形態に係る車両用前照灯10と同様であるが、上記第1実施形態の2つの灯具ユニット40に対応する2つの灯具ユニット40´の光源として、6つの灯具ユニット30の場合と同じ発光ダイオード34が用いられているとともに、透光カバー14の後面における2つの灯具ユニット40´の前方に位置する所定透光部Z1(図中、網目で示す領域)に、これら各灯具ユニット40´からの照射光における短波長成分の透過率を下げるための表面処理が施されている点で、上記第1実施形態の場合と異なっている。
本変形例の構成を採用した場合には、各灯具ユニット40´からの照射光自体は、各灯具ユニット30からの照射光と同じ色温度となるが、透光カバー14を透して車両用前照灯10´の前方へ照射される光については、各灯具ユニット40´からの照射光が透光カバー14を所定透光部Z1において透過することにより、各灯具ユニット30からの照射光よりも低い色温度となる。
したがって、本変形例の構成を採用した場合においても、上記第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
次に、本願発明の第2実施形態について説明する。
図6は、本実施形態に係る車両用前照灯を示す正面図である。
同図に示すように、本実施形態に係る車両用前照灯110は、ランプボディ112と、このランプボディ112の前端開口部に取り付けられた素通し状の透光カバー114とで形成される灯室内に、単一のリフレクタユニット120がエイミング機構118を介してランプボディ112に上下方向および左右方向に傾動可能に支持されてなり、このリフレクタユニット120からの光照射により、ロービーム用配光パターンを形成するようになっている。
リフレクタユニット120は、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された光源バルブ122と、この光源バルブ122からの光を前方へ反射させるリフレクタ124と、光源バルブ122の前方近傍に配置されたシェード126とを備えてなっている。このリフレクタユニット120の光軸Axは、エイミング機構118による光軸調整が完了した段階では、車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びるように設定されている。
光源バルブ122は、放電発光部122aを光源とするメタルハライドバルブ等の放電バルブであって、リフレクタ124の後頂開口部に挿着されており、その放電発光部122aは、光軸Ax上において該光軸Axに沿って延びる線分光源として構成されている。
リフレクタ124は、複数の反射素子124sが形成されてなる反射面124aを有しており、これら各反射素子124sにより、放電発光部122aからの光を前方へ向けて拡散偏向反射させるようになっている。その際、これら各反射素子124sは、光軸Axを中心軸とするとともに放電発光部122aの前端部近傍の点を焦点とする回転放物面を基準面として形成されている。
このリフレクタ124の反射面124aには、その両側縁寄りに位置する所定反射部Z2L(図中、左斜め上向きの斜線で示す領域)および所定反射部Z2R(図中、右斜め上向きの斜線で示す領域)に、放電発光部122aからの光における短波長成分の反射率を下げるための表面処理が施されている。
シェード126は、カップ状に形成されており、光源バルブ122から前方へ向かう直射光を遮蔽するようになっている。
図7は、本実施形態に係る車両用前照灯110から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを透視的に示す図である。
同図に示すように、このロービーム用配光パターンPL2は、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁にカットオフラインCL1、CL2を有している。
このカットオフラインCL1、CL2は、対向車線側カットオフラインCL1が水平に延びるように形成されており、自車線側カットオフラインCL2が、対向車線側カットオフラインCL1から所定角度(例えば15°)で斜めに立ち上がるように形成されている。
このロービーム用配光パターンPL2において、エルボ点Eの位置は、H−Vの0.5〜0.6°程度下方の位置に設定されており、このエルボ点Eを囲むようにしてホットゾーンHZが形成されている。
このロービーム用配光パターンPL2は、複数の反射素子124sの各々からの反射光により形成される複数の配光パターンの合成配光パターンとして形成されている。
これら複数の反射素子124sのうち、左側の所定反射部Z2Lに位置する反射素子124sからの反射光により形成される配光パターンPA2は、エルボ点Eの右下近傍において対向車線側カットオフラインCL1に沿って延びる配光パターンとして形成され、また、右側の所定反射部Z2Rに位置する反射素子124sからの反射光により形成される配光パターンPB2は、エルボ点Eの左下近傍において自車線側カットオフラインCL2に沿って延びる配光パターンとして形成されている。その際、配光パターンPA2は、エルボ点近傍領域Aよりもひと回り大きい配光パターンとして形成されており、その左端部において配光パターンPB2と重複している。
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用前照灯110は、上端部にカットオフラインCL1、CL2を有するロービーム用配光パターンPL2を形成するようになっているが、このロービーム用配光パターンPL2における対向車線側カットオフラインCL1のエルボ点近傍領域Aを形成するための光照射を行う所定光学系が、光源バルブ122の放電発光部122aと、リフレクタ124における左側の所定反射部Z2Lとで構成されており、この所定反射部Z2Lの表面に、放電発光部122aからの光における短波長成分の反射率を下げるための表面処理が施されているので、次のような作用効果を得ることができる。
すなわち、車両のピッチング等により、リフレクタユニット120の光軸Axが上向きになったときに、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまう原因となる光は、エルボ点近傍領域Aへ向かう光であるが、このエルボ点近傍領域Aは、リフレクタ124における左側の所定反射部Z2Lで反射した低い色温度の光の照射により形成されるようになっているので、このエルボ点近傍領域Aに照射される光が対向車ドライバ等の目に入ってしまうようなことがあっても、対向車ドライバ等に与えるグレアを軽減することができる。
そしてこれにより、本実施形態に係る車両用前照灯110のように、その光源が単一であっても、所定光学系による低い色温度での光照射を実現することができる。
さらに本実施形態においては、自車線側カットオフラインCL2に沿ったエルボ点Eの近傍領域を形成する配光パターンPB2が、右側の所定反射部Z2Rに位置する反射素子124sからの低い色温度の反射光により形成されるようになっているので、車両のピッチング等によりリフレクタユニット120の光軸Axが上向きになった場合だけでなく、車両旋回時等に、自車線側カットオフラインCL2に沿ったエルボ点Eの近傍領域に照射される光が対向車ドライバ等の目に入ってしまったような場合においても、対向車ドライバ等に与えるグレアを軽減することができる。
しかも本実施形態において、低い色温度での光照射が行われるのは、カットオフラインCL1、CL2に近い領域であり、ロービーム用配光パターンPL2の下端部近傍領域に関しては低い色温度での光照射が行われてしまうことはないので、車両前方路面の近距離領域が黄色っぽく見えてしまうのを未然に防止することができ、これにより自車ドライバに無用の違和感を与えてしまうおそれをなくすことができる。
図8は、上記第2実施形態の変形例に係る車両用前照灯を示す正面図である。
同図に示すように、本変形例に係る車両用前照灯110´は、その基本的な構成は、上記第2実施形態に係る車両用前照灯110と同様であるが、そのリフレクタユニット120´のリフレクタ124´には、上記第2実施形態のリフレクタ124のように、その反射光における短波長成分の透過率を下げるための表面処理は施されておらず、その代わりに、透光カバー114´の後面における、上記第2実施形態の所定反射部Z2Lおよび所定反射部Z2Rの前方に位置する所定透光部Z3L(図中、左斜め上向きの斜線で示す領域)および所定透光部Z3R(図中、右斜め上向きの斜線で示す領域)に、リフレクタ124´からの反射光における短波長成分の透過率を下げるための表面処理が施されている。
本変形例の構成を採用した場合には、リフレクタ124´からの反射光自体は、すべて同じ色温度となるが、その反射面124aの両側縁寄りに位置する反射部からの反射光は、透光カバー114´の所定透光部Z3L、Z3Rを透過することとなるので、この透光カバー114´を透して車両用前照灯110´の前方へ照射される光は、他の反射部で反射した照射光よりも低い色温度となり、これにより上記第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
次に、本願発明の第3実施形態について説明する。
図9は、本実施形態に係る車両用前照灯を示す正面図である。
同図に示すように、本実施形態に係る車両用前照灯210は、ランプボディ212と、このランプボディ212の前端開口部に取り付けられた透光カバー214とで形成される灯室内に、単一のリフレクタユニット220が図示しないエイミング機構を介してランプボディ212に上下方向および左右方向に傾動可能に支持されてなり、このリフレクタユニット220から透光カバー214を介しての光照射により、ロービーム用配光パターンを形成するようになっている。
リフレクタユニット220の基本的な構成は、上記第2実施形態のリフレクタユニット120と同様、光源バルブ222と、リフレクタ224と、シェード226とを備えた構成となっているが、リフレクタ224の反射面224aの構成が上記第2実施形態の場合と異なっている。すなわち、このリフレクタ224の反射面224aは、光軸Axを中心軸とするとともに放電発光部222aの前端部近傍の点を焦点とする回転放物面で構成されており、この反射面224aには、その反射光における短波長成分の透過率を下げるための表面処理は施されていない。
透光カバー214は、その後面に複数のレンズ素子214sが形成されており、これら各レンズ素子214sにより、リフレクタ224で反射した放電発光部222aからの光を前方へ向けて拡散偏向透過させるようになっている。
この透光カバー214の後面には、その両側縁寄りに位置する所定透光部Z4L(図中、左斜め上向きの斜線で示す領域)および所定透光部Z4R(図中、右斜め上向きの斜線で示す領域)に、リフレクタ224からの反射光における短波長成分の透過率を下げるための表面処理が施されている。これら所定透光部Z4L、Z4Rの位置は、上記第2実施形態の変形例における所定透光部Z3L、Z3Rと略対応する位置に設定されている。
図10は、本実施形態に係る車両用前照灯210から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを透視的に示す図である。
同図に示すように、このロービーム用配光パターンPL3は、図7に示すロービーム用配光パターンPL2と略同一形状で形成される。また、リフレクタ224からの反射光のうち、透光カバー214を所定透光部Z4L、Z4Rにおいて透過した低い色温度の光により形成される配光パターンPA3、PB3の形状も、ロービーム用配光パターンPL2の配光パターンPA2、PB2と略同一形状となる。
したがって、本実施形態の構成を採用した場合においても、上記第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
次に、本願発明の第4実施形態について説明する。
図11は、本実施形態に係る車両用前照灯を示す側断面図である。
同図に示すように、本実施形態に係る車両用前照灯310は、図示しないランプボディと、その前端開口部に取り付けられた素通し状の透光カバー314とで形成される灯室内に、単一の灯具ユニット320が図示しないエイミング機構を介して上記ランプボディに上下方向および左右方向に傾動可能に支持されてなり、この灯具ユニット320からの光照射により、ロービーム用配光パターンを形成するようになっている。
灯具ユニット320は、プロジェクタ型の灯具ユニットであって、投影レンズ322と、光源バルブ324と、リフレクタ326と、シェード328と、ホルダ330とを備えてなり、車両前後方向に延びる光軸Axを有している。ただし、この灯具ユニット320は、エイミング調整が完了した段階では、その光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
投影レンズ322は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズとして構成されており、光軸Ax上に配置されている。そして、この投影レンズ322は、その後側焦点Fを含む後側焦点面上の像を、灯具前方に配置された鉛直仮想スクリーン上に反転像として投影するようになっている。
光源バルブ324は、放電発光部324aを光源とするメタルハライドバルブ等の放電バルブであって、リフレクタ326の後頂開口部326bに挿着されており、その放電発光部324aは、光軸Ax上において該光軸Axに沿って延びる線分光源として構成されている。
リフレクタ326は、放電発光部324aからの光を前方へ向けて光軸Ax寄りに反射させる反射面326aを有している。この反射面326aの光軸Axを含む平面に沿った断面形状は略楕円形に設定されており、その離心率は鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そしてこれにより、この反射面326aで反射した放電発光部324aからの光を、鉛直断面内においては後側焦点F近傍に略収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置を後側焦点Fの前方側へ変位させるようになっている。その際、この反射面326aにおける光軸Axの下方に位置する領域は、その光軸Axの上方に位置する領域よりも、放電発光部324aからの光を光軸Ax寄りにやや大きく偏向反射させるように構成されており、これにより反射面326aからの反射光が必要以上にシェード328に遮蔽されてしまわないようにしている。
ホルダ330は、投影レンズ322とリフレクタ326との間に配置された略筒状の部材であって、その前端部において投影レンズ322を固定支持するとともに、その後端部においてリフレクタ326に固定支持されている。
シェード328は、ホルダ330の内部の略下半部においてその前端部から後方側へ延びるようにして該ホルダ330と一体で形成されている。このシェード328は、その上端縁328aが投影レンズ26の後側焦点面に沿って略円弧状に延びるように形成されており、これによりリフレクタ326の反射面326aからの反射光の一部を遮蔽して、投影レンズ322から前方へ出射する上向き光の大半を除去するようになっている。その際、このシェード328の上端縁328aは、その光軸Axよりも左側の領域が光軸Axから左方向へ水平に延びており、その光軸Axよりも右側の領域が光軸Axから右方向へ斜め下向き(例えば15°下向き)で短く延びた後、さらに右方向へ水平に延びるように形成されている。
図12は、灯具ユニット320のリフレクタ326を、光源バルブ324と共に示す正面図である。
同図にも示すように、このリフレクタ326の反射面326aにおける後頂開口部326bの近傍に位置する所定反射部Z5(図中、網目状の斜線で示す領域)には、放電発光部324aからの光における短波長成分の反射率を下げるための表面処理が施されている。この所定反射部Z5は、灯具正面視において横長矩形状に形成されており、その中心位置は光軸Axに対してやや左上方(灯具正面視では右上方)に位置している。
図13は、本実施形態に係る車両用前照灯310から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを透視的に示す図である。
同図に示すように、このロービーム用配光パターンPL4は、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁にカットオフラインCL1、CL2を有している。
カットオフラインCL1、CL2は、対向車線側カットオフラインCL1が水平に延びるように形成されており、自車線側カットオフラインは、この対向車線側カットオフラインCL1から所定角度(例えば15°)でH−H線のやや上方まで斜めに立ち上がった後、水平に延びるように形成されている。
このロービーム用配光パターンPL4において、エルボ点Eの位置は、H−Vの0.5〜0.6°程度下方の位置に設定されており、このエルボ点Eを囲むようにしてホットゾーンHZが形成されている。
このロービーム用配光パターンPL4の一部を構成する配光パターンPA4は、リフレクタ326の反射面326aにおける所定反射部Z5からの反射光により形成される配光パターンである。
このロービーム用配光パターンPL4において、対向車線側カットオフラインCL1に沿ったエルボ点E寄りに位置するエルボ点近傍領域Aは、主として配光パターンPA4の一部として構成されている。ただし、この配光パターンPA4は、エルボ点近傍領域Aよりもある程度大きい横長の配光パターンとして形成されており、自車線側カットオフラインCL2に沿ってエルボ点Eの左側まで回り込むように形成されている。
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用前照灯310は、上端部にカットオフラインCL1、CL2を有するロービーム用配光パターンPL4を形成するようになっているが、このロービーム用配光パターンPL4における対向車線側カットオフラインCL1のエルボ点近傍領域Aを形成するための光照射を行う所定光学系が、光源バルブ324の放電発光部324aと、リフレクタ326における中央寄りの所定反射部Z5とからなり、この所定反射部Z5の表面に、放電発光部324aからの光における短波長成分の反射率を下げるための表面処理が施されているので、次のような作用効果を得ることができる。
すなわち、車両のピッチング等により、灯具ユニット320の光軸Axが上向きになったときに、対向車ドライバ等にグレアを与えてしまう原因となる光は、エルボ点近傍領域Aへ向かう光であるが、このエルボ点近傍領域Aは、リフレクタ326の所定反射部Z5で反射した低い色温度の光の照射により形成されるようになっているので、このエルボ点近傍領域Aに照射される光が対向車ドライバ等の目に入ってしまうようなことがあっても、対向車ドライバ等に与えるグレアを軽減することができる。
そしてこれにより、本実施形態に係る車両用前照灯310のように、その光源が単一であっても、所定光学系による低い色温度での光照射を実現することができる。
さらに本実施形態においては、所定反射部Z5からの反射光により形成される配光パターンPA4が、自車線側カットオフラインCL2におけるエルボ点Eの近傍領域まで回り込むように形成されているので、車両のピッチング等により灯具ユニット320の光軸Axが上向きになった場合だけでなく、車両旋回時等に、自車線側カットオフラインCL2におけるエルボ点Eの近傍領域に照射される光が対向車ドライバ等の目に入ってしまったような場合においても、対向車ドライバ等に与えるグレアを軽減することができる。
しかも本実施形態において、低い色温度での光照射が行われるのは、カットオフラインCL1、CL2に近い領域であり、ロービーム用配光パターンPL4の下端部近傍領域に関しては低い色温度での光照射が行われてしまうことはないので、車両前方路面の近距離領域が黄色っぽく見えてしまうのを未然に防止することができ、これにより自車ドライバに無用の違和感を与えてしまうおそれをなくすことができる。