JP4633259B2 - NF−κBの活性化を調節する化合物および方法 - Google Patents
NF−κBの活性化を調節する化合物および方法 Download PDFInfo
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Description
技術分野
本発明は、一般的に、核因子κB(nuclear factor κB)(NF−κB)の活性化を調節する組成物及び方法に関するものである。本発明は、さらに詳しくは、リン酸化IκBαおよび/またはIκBβのユビキチン化を調節する薬剤におよびNF−κBの活性化に関連する病気の処置方法に関するものである。本発明に包含される調節剤としては、E3ユビキチンリガーゼ類、ならびにこれらの一部及び変異体が挙げられる。
【0002】
発明の背景
NF−κBは、インターロイキン1、インターロイキン8、腫瘍壊死因子及びある細胞接着因子などの、免疫、炎症及び急性期応答遺伝子で観察される非常に特異的なパターンの遺伝子の発現に重要な役割を果たす転写因子である。転写活性化因子のRel群の他のものと同様、NF−κBは、ほとんどの細胞型の細胞質で不活性な形態で隔離される。マイトジェン、サイトカイン、抗原、ストレス誘発因子、UV光及びウィルス性タンパク質等の様々な細胞外刺激因子は、最終的にNF−κBの放出及び活性化を引き起こすシグナル伝達経路を開始する。
【0003】
NF−κBの活性化の重要な調節因子は、非刺激細胞の細胞質中のNF−κBと会合する(associate)(これにより、不活性化する)、タンパク質性阻害剤である、IκBαおよびIκBβの(本明細書中では、IκBと称する)である。NF−κBの活性化及び核転座は、IκBのシグナルで誘導されるリン酸化の後に起こり、これにより、ユビキチン経路を介したタンパク分解が生じる。IκBαに関しては、32及び36番目のセリンでの刺激因子で誘導されるリン酸化により、阻害剤が21及び22番目のリシンでのユビキチン化のターゲットとなり、これにより分解が起こる。同様にして、19及び23番目のセリンでのIκBβのリン酸化により、阻害剤が9番目のリシンでのユビキチン化のターゲットとなる。しかしながら、IκBの認識を仲介するユビキチンシステムの成分は同定されていなかった。
【0004】
ユビキチン経路を介したタンパク質の分解は、以下の2種の別の連続した段階によって進む:(a)タンパク質基質への複数のユビキチン分子の共有結合、および(b)26Sプロテアソーム(proteasome)複合体による標的タンパク質の分解。ユビキチン経路は、協調してかつ階層的に作用する数種の成分から構成される(レビューとして、Ciechanover, Cell 79:13, 1994; Hochestrasser, Curr. Op. Cell. Biol. 7:215, 1995; Jentsch and Schlenker, Cell 82:881, 1995; Deshaies, Trends Cell Biol. 5:428, 1995を参照)。このような成分の一つである、シングルE1酵素は、ユビキチンの活性化を行なう。E2酵素の幾つかの主要なものは、哺乳動物細胞、植物、及び酵母で特徴が明らかにされている。E2酵素は、おそらく、リガーゼE3に結合し(Reiss and Hersko, J. Biol. Chem. 265:3685, 1990; Dohmen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7351, 1991)、各E2酵素は一以上のE3タンパク質と共に作用できると考えられる(Nuber et al., J. Biol. Chem. 271:2795; Orian et al., J. Biol. Chem. 270:21707, 1995; Stancovski et al., Mol. Cell. Biol. 15:7106, 1995; Gonen et al., J. Biol. Chem. 271:302, 1996)。
【0005】
少数のE3酵素(ユビキチンリガーゼ)のみが記載されている。哺乳動物のE3α(酵母でのUBR1)及びE3βが、遊離N−末端アミノ酸残基を介してタンパク質基質を認識する(「N−末端ルール(N-end rule)」;Varshavsky, Cell 69:725, 1992; Hershko and Ciechanover, Ann. Rev. Biochem. 61:761, 1992)。Cdc53は、おそらく、リン酸化G1サイクリン(cyclin)を標的にするのに関わりのあるE3である(Willems et al., Cell 86:453, 1996)。E6−APはp53の認識にかかわりがあり(Scheffner et al., Cell 75:495, 1993)、一連の独特なE6−Ap相同タンパク質が同定された(Huibregtse et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:2563, 1995)。Nedd4は上皮のNa+チャンネルの分解に関わりがあり(Staub et al., Embo J. 15:2371, 1996)、RSP5(NIP1)はパーミアーゼGap1及びFur1を標識するのに関わりがある(Hein et al., Mol. Microbiol. 18:77, 1995)一方、Pub1はCdc25を標的にする(Nefsky and Beach, EMBO J. 15:1301, 1996)。近年、単離された数種の他のE3酵素は、c−Fos、筋肉タンパク質のサブセットの分解に、さらにはp105、NF−κB前駆体のプロセシングに関わりがあると考えられる(Orian et al., J. Biol. Chem. 270:21707, 1995; Stancovski et al., Mol. Cell. Biol. 15:7106, 1995; Gonen et al., J. Biol. Chem. 271:302, 1996)。したがって、これらのリガーゼは大きな、ほとんど解明された酵素群を表わし、「N−末端ルール(N-end rule)」リガーゼの認識の形態以外は、ユビキチンシステムのすべての他の既知の基質のモチーフは同定されていないと考えられる。
【0006】
したがって、当該分野において、ユビキチン経路を介したIκBの分解をより理解し、さらにNF−κBの活性化に関連する病気を処置するのに使用されるこの分解プロセスの調節因子を同定する必要性がある。本発明は、これらの必要性を満足するものであり、さらに他の関連する利点を提供するものである。
【0007】
発明の要約
簡単に述べると、本発明は、リン酸化IκBαおよび/またはIκBβのユビキチン化を調節することによって核因子κB(nuclear factor κB)(NF−κB)の活性化を調節する組成物および方法を提供するものである。一態様においては、本発明は、単離されたヒトのE3ユビキチンリガーゼポリペプチドを提供するものである。このようなポリペプチドは、このポリペプチドが(a)リン酸化IκBのユビキチン化を促進する若しくは(b)リン酸化IκBに結合してリン酸化IκBのユビキチン化を阻害するような、配列番号16に列挙されるようなヒトのE3ユビキチンリガーゼ配列、または一以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失および/または付加により異なるこの一部若しくは変異体からなってもよい。特定の実施態様においては、このようなポリペプチドは、このポリペプチドがリン酸化IκBのユビキチン化を促進するような、配列番号16に列挙される配列または配列番号16の20%以下のアミノ酸残基で一以上のアミノ酸の欠失、挿入若しくは置換により異なるこの変異体を有していてもよい。さらなる実施態様においては、このようなポリペプチドは、一部がリン酸化IκBに結合してリン酸化IκBのユビキチン化を阻害する、ヒトのE3ユビキチンリガーゼの一部、またはこのような一部の変異体からなってもよい。
【0008】
本発明はさらに、一態様においては、上記したようなポリペプチドをコード化する単離されたポリヌクレオチドを提供するものである。特定の実施態様においては、このようなポリヌクレオチドは、上記したような、ヒトのE3ユビキチンリガーゼの一部、またはこのような一部の変異体をコード化してもよい。このようなポリヌクレオチドと相補的である少なくとも10個の連続したヌクレオチドからなるアンチセンスポリヌクレオチドもまた提供される。このようなポリヌクレオチドからなる発現ベクター、およびこのような発現ベクターが形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞がさらに提供される。
【0009】
さらなる態様においては、本発明は、上記したようなポリペプチドまたはポリヌクレオチドを生理学的に許容できる担体と組合わせてなる薬剤組成物を提供するものである。
【0010】
他の態様においては、本発明は、配列番号16に列挙された配列を有するヒトのE3ユビキチンリガーゼに結合する、単離された抗体、およびこの抗原結合断片を提供するものである。このような抗体はモノクローナルである。
【0011】
さらなる態様においては、上記したような抗体またはこの断片を生理学的に許容できる担体と組合わせてなる、薬剤組成物が提供される。
【0012】
本発明はさらに、上記したような薬剤組成物を患者に投与することからなる。患者のNF−κB活性の調節方法を提供するものである。
【0013】
さらなる態様においては、本発明は、治療上有効な量の上記したような薬剤組成物を患者に投与することにより、NF−κBの活性化に関連する疾患を処置することからなる、NF−κBの活性化に関連する疾患に苦しめられる患者の処置方法を提供するものである。このような疾患としては、炎症性疾患、自己免疫疾患、癌及びウィルス感染が挙げられる。
【0014】
さらなる態様においては、本発明は、(a)ポリペプチド及び候補薬剤間の相互作用を可能にするのに十分な条件下及び時間、候補薬剤を、ポリペプチドがリン酸化IκBのユビキチン化を促進するような、配列番号16に列挙される配列または一以上のアミノ酸の置換、挿入、欠失若しくは付加により異なるこの一部若しくは変異体からなる、ヒトのE3ユビキチンリガーゼポリペプチドと接触させ;さらに(b)その後、候補薬剤の不存在下でリン酸化IκBのユビキチン化を促進する当該ポリペプチドの所定の能力に対する、リン酸化IκBのユビキチン化を促進する当該ポリペプチドの能力を評価し;これによりNF−κB活性を調節する薬剤を同定する段階からなる、NF−κB活性を調節する薬剤をスクリーニングする方法を提供するものである。このようなスクリーニングに使用される候補薬剤としては、以下に制限されるものではないが、コンビナトリアルライブラリー(combinatorial library)内に存在する小分子が挙げられる。
【0015】
本発明のこれらの及び他の態様は、下記詳細な説明および添付図面を参照して明らかになるであろう。本明細書に開示されるすべての引例は、それぞれを個々に導入して完全な状態で参考によって取り入れられる。
【0016】
図面の簡単な説明
図1A〜1Dは、様々なIκB E3認識モチーフの存在下で及び不存在下で行なわれるユビキチン化アッセイのSDS−PAGE分析の結果を示すオートラジオグラムである。特記しない限り、基質は、リン酸化されかつNF−κB複合体が会合した35S−標識された(labelled)、HA−標識(HA-tagged)IκBポリペプチドであった。
【0017】
図1Aにおいて、レーン1は、32及び36番目の位置にアラニン残基を含むIκBαポリペプチド(S32/36A;配列番号13)のユビキチン化を示し、およびレーン2は、非リン酸化野生型IκBαポリペプチド(配列番号12)のユビキチン化を示す。レーン3〜14において、ユビキチン化基質は、野生型IκBα(配列番号12)であった。レーン3において、ユビキチン化はATPの不存在下で行なわれ;さらに、レーン4〜14においては、反応は、IκB E3認識モチーフまたは他のペプチドを用いて(レーン5〜14)または用いずに(レーン4)、ATPγSの存在下で行なわれた。示されるこれらのペプチドは以下のとおりである:400μM c−Fosホスホペプチド(ppFos(配列番号10)、レーン5);400μM 32及び36番目のセリンをアラニンに置換したIκBαペプチド(pp21S/A(配列番号11)、レーン6);40μM 2箇所リン酸化した(doubly phosphorylated)IκBαペプチド(pp21(配列番号9)、レーン7);400μM 非リン酸化IκBαペプチド(p21(配列番号9)、レーン8);100μM 1箇所リン酸化した(singly phosphorylated)IκBαペプチド(pp32(配列番号9)、レーン9;ppS36(配列番号9)、レーン10);および40μM より短い、2箇所リン酸化した(doubly phosphorylated)IκBαペプチド(pp19(配列番号8)、レーン11;pp15(配列番号7)、レーン12);pp11(配列番号6)、レーン13;pp7(配列番号5)、レーン14)。
【0018】
図1Bにおいて、ユビキチン化基質は、遊離した野生型IκBα(配列番号12、レーン1〜3)または遊離したS32/36A置換IκBα(配列番号13、レーン4〜6)であった。反応は、ATPγSの不存在下で(レーン1及び4)または存在下で(レーン2、3、5及び6)行なわれた。40μMの2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp21(配列番号9))をレーン3及び6に示されるサンプルで結合(conjugation)反応混合物に添加した。
【0019】
図1Cには、HeLa抽出物中のバルク細胞タンパク質のユビキチン化が示される。レーン1はATPの不存在下でのユビキチン化を示し、レーン5はATPの存在下でのユビキチン化を示す。レーン3〜5では、IκB E3認識モチーフまたは他のペプチドが以下のように添加された:40μMの2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp21(配列番号9)、レーン2);400μM c−Fosホスホペプチド(ppFos(配列番号10)、レーン3);および400μM 非リン酸化IκBαペプチド(p21(配列番号9)、レーン4)。
【0020】
図1Dでは、ユビキチン化基質は、リン酸化(レーン2〜7)または非リン酸化(レーン1)野生型IκBβ(配列番号14)であった。反応は、ATPγSの不存在下で(レーン2)または存在下で(レーン1、3〜7)、さらにIκB E3認識モチーフまたは下記の他のペプチドを用いて(レーン4〜7)または用いずに(レーン1〜3)行なわれた。示されるこれらのペプチドは以下のとおりである:40μM 2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp21(配列番号9)、レーン4);400μM c−Fosホスホペプチド(ppFos(配列番号10)、レーン5);40μM 2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp19(配列番号8)、レーン6);および400μM 非リン酸化IκBαペプチド(p21(配列番号9)、レーン7)。
【0021】
図2は、刺激されたHeLa細胞からの抽出物を用いて行なわれたインビトロのユビキチン依存性分解の結果を示すオートラジオグラムである。SDS−PAGEの各レーンにおいて、分解アッセイ後のリン酸化(上のバンド)及び非リン酸化(下のバンド)HA−標識IκBαポリペプチド(配列番号12)のレベルが示される。レーン1は、ATPを使用せずに行なわれた分解アッセイ後のこれらのポリペプチドのレベルを示すものである。レーン2〜6では、ATPを反応混合物中に含ませた。40μMの候補調節剤をレーン3〜6に示される反応に添加した:2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp21(配列番号9)、レーン3);2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp19(配列番号8)、レーン4);c−Fosホスホペプチド(ppFos(配列番号10)、レーン5);および非リン酸化IκBαペプチド(p21(配列番号9)、レーン6)。
【0022】
図3Aは、調節剤カラムで分画されたHeLa細胞溶解産物のフロー−スリュー(flow-through)フラクションを用いて行なわれたユビキチン化アッセイのSDS−PAGE分析の結果を示すオートラジオグラムである。それぞれの場合で、基質は、リン酸化されかつNF−κB複合体が会合した35S−標識された(labelled)、HA−標識(HA-tagged)IκBポリペプチド(配列番号12)であった。レーン1は、非分画抽出物を用いたユビキチン化のレベルを示すものである。レーン2〜9では、抽出物をペプチド−セファロース(登録)(SepharoseR)カラムで分画した。使用したペプチドは以下の通りであった:c−Fosホスホペプチド(ppFos(配列番号10)、レーン2);32、36番目のセリンをアラニンに置換したIκBαポリペプチド(pp21S/A(配列番号11)、レーン3);2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp21(配列番号9)、レーン4〜6);および2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp19(配列番号8)、レーン7〜9)。さらに、網状赤血球のフラクションII(160μg)をレーン5及び8に示されるユビキチン化反応に加え、さらにフラクションI(160μg)をレーン6及び9に示されるユビキチン化反応に加えた。
【0023】
図3Bは、HeLa細胞抽出物のバルク細胞タンパク質のユビキチン化を示すオートラジオグラムである。レーン1はATPの不存在下でのユビキチン化を示し、およびレーン2は候補調節剤を用いずにATPの存在下でのユビキチン化を示す。レーン3〜6では、下記候補調節剤を添加した:40μM 2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp19(配列番号8)、レーン3);400μM c−Fosホスホペプチド(ppFos(配列番号10)、レーン4);400μM 32、36番目のセリンをアラニンに置換したIκBαポリペプチド(pp21S/A(配列番号11)、レーン5);および40μM 2箇所リン酸化したIκBαペプチド(pp21(配列番号9)、レーン6)。
【0024】
図4A〜4Fは、核NF−κB転座への候補調節剤の効果を示す顕微鏡写真である。図4A〜Cでは、pp21(図4A及び4B)またはppFos(図4C)を、HeLa細胞の細胞質中にマイクロインジェクションした。次に、細胞をTNFαで即座に活性化し、抗p65抗体で免疫処置した。図4D〜Fでは、pp21(図4D)またはppFos(図4F)をヒトの血管内皮細胞(HUVEC)の細胞質中に注入した。次に、細胞をTNFαで即座に活性化し、抗E−セレクチン(E-selectin)抗体で免疫処置した。図4Eは、図4Dの位相差写真である。各顕微鏡写真において、注入された細胞は、大きな矢印で記される。注入されないE−セレクチン(E-selectin)ネガティブ細胞は、図4D及び4Eにおいて小さな矢印で記される。
【0025】
図4G及び4Hは、図4A〜4Fで示されるマイクロインジェクション実験の要約を表わすグラフである。図4Gには、核p65染色を発揮するHeLa細胞の割合(%)が示される。90個及び42個の細胞に、それぞれ、pp21及びppFosをマイクロインジェクションした。図4Hは、E−セレクチンを発揮するHUVECの割合(%)を示す。160個及び36個の細胞に、それぞれ、pp21及びppFosをマイクロインジェクションした。各グラフについて、カラム1は、IκB E3認識モチーフまたは他のペプチド及びTNFα活性化の不存在下でのレベルを示す。カラム2〜4は、ペプチドの不存在下での(カラム2)またはpp21(カラム3)若しくはppFos(カラム4)の存在下でのTNFα活性化後のレベルを示すものである。
【0026】
図5は、TNFαで活性化された細胞からのpIκBα会合ユビキチンリガーゼ活性の免疫沈降を示すウェスタンブロット分析の結果を示すオートラジオグラムである。pIκBα/NF−κB複合体を、プロテアソームで阻害し、TNFαで刺激されたまたは刺激されないHeLa細胞から免疫沈降し、これについてユビキチン、ATP−γS及び下記成分の添加時にインビトロのユビキチン化を行なった:レーン1、UBC5C;レーン2、UBC5C及びE1;レーン3、なし;レーン4〜6、示されるようなUBC5C及びE1;レーン7、UBC5C、E1及びpIκBαペプチド;レーン8、UBC5C、E1及びセリンが置換されたIκBαペプチド;レーン9、TNFαで刺激されたHeLa溶解産物のサンプル。細胞刺激は、TNFα列で示される。単量体及びユビキチン結合IκBαを、図の左、下部及び上部に記す。
【0027】
図6は、DSGLDS(配列番号8及び19)部位でのIκBαのIKK−リン酸化後の、IκBα/NF−κB複合体とのユビキチンリガーゼの会合を示すオートラジオグラムである。非活性化細胞から免疫精製された(immunopurified)35Sで標識されたIκBα/NF−κB複合体を、IKK−2EE(上部に+で記される)によってリン酸化され、E3源として非活性化HeLa溶解産物と共にインキュベートされ、洗浄され、さらにATPγS、ユビキチン、E1、UBC5C(排除された成分がAbst Ub-Enzで示される場合を除く)の存在下でのインビトロのユビキチン化を行なった。レーン2〜7はIKKによるリン酸化を示す;レーン1及び3〜7はHeLa溶解産物によるインキュベーションの効果を示す;レーン4では、pIκBαペプチドをHeLa溶解産物とのインキュベーション中に添加した;レーン5では、セリンが置換されたIκBαペプチドをHeLaインキュベーション中に添加した;レーン6では、E1をユビキチン化段階で使用しなかった;およびレーン7では、UBC5Cをユビキチン化中使用しなかった。
【0028】
図7A及び7Bは、ユビキチンリガーゼ活性と関連するIκBα−結合タンパク質の同定を示すものである。図7Aは、IκBα/NF−κB及び関連タンパク質を含む免疫精製された(immunopurified)フラクションのSDS−ポリアクリルアミドゲルサンプルのコロイドブルー染色(Colloidal Blue staining)を示す写真である。IκBα/NF−κB複合体を、IKK−2EEでリン酸化し(レーン2、3)または擬似的にリン酸化し(mock-phosphorylated)、これを用いてHeLa溶解産物由来のユビキチンリガーゼを吸着した(レーン1、2)。分子量マーカー(κD)を右側に示す。質量分析によって同定されたタンパク質を左側に示す。ユビキチンリガーゼ活性(p54及びp58)と関連するバンドに相当するゲル部分を括弧で左側に記す。図7Bは、35Sで標識されたHeLa細胞由来のpIκBα/NF−κB上に吸着されたタンパク質のオートラジオグラムである。放射線標識されたHeLa溶解産物をIKK−リン酸化抗体が固定化されたIκBα/NF−κB複合体と共にインキュベートした。次に、この免疫複合体を洗浄、溶出して、SDS−PAGE及びオートラジオグラフィで分析した。レーン1は、HeLa溶解産物とインキュベートされた非リン酸化IκBα/NF−κB複合体を示し;レーン2〜4は、IκBα−ペプチドの不存在下で(レーン2)若しくは存在下で(レーン3)またはセリンが置換されたIκBα−ペプチドの存在下で(レーン4)HeLa溶解産物とインキュベートされたリン酸化IκBα/NF−κB複合体を示す。分子量マーカー(κD)、Rel A及びIκBαバンドが左側に示される;4種のpIκBα−会合バンドが右側に示され、これらのうち3種はpIκBαペプチドで置換された(矢印)。
【0029】
図8A〜8Dは、ユビキチンリガーゼ会合p54の質量スペクトル分析の結果を示すものである。図8Aは、リガーゼポジティブレーン(図7Bのレーン2に等しい)から切り出された54κDのゲルバンドからの未分離のトリプシンペプチド(trypic peptide)混合物のナノエレクトロスプレー(nanoelectrospray)質量スペクトルを示すものである。矢印で示されるピークはフラグメント化され、β−TrCP由来のペプチドとして同定された。横棒はCで拡大された領域を示す。図8B及び8Cは、ユビキチンリガーゼ活性と関連する(C)及び関連しない(B)54κDバンドのナノエレクトロスプレー(nanoelectrospray)スペクトルの比較を表わすものである。m/z 714.38でのペプチドは配列決定用に選択された。図8Dは、図8Cで同定されたペプチドの断片化スペクトルである。配列タグは、一連の2重に荷電された断片イオンから集められ、マッチングパターン用のnrdbデータベースで調査された。読み出されたβ−TrCP配列:AAVNVVDFDDKYIVSASGDR(配列番号20)について算出された断片の質量を、完全な断片化スペクトルと比較したところ、一致が確認された。予想された断片イオンと一致するピークを丸で記す。
【0030】
図9A及び9Bは、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ(配列番号15)をコード化するポリヌクレオチドの配列を表わすものである。
【0031】
図10は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼのタンパク質配列(配列番号16)を表わすものである。
【0032】
図11A〜11Cは、E3ユビキチンリガーゼ群のものの結合及びユビキチン化特異性を示すウェスタンブロットである。これらの図において、mβ−TrCPはマウスのβ−TrCPを示し、hβ−TrCPはヒトのβ−TrCPを示し、Δβ−TrCPはFボックス領域が欠損したヒトのβ−TrCPを示し、Slimbはドロソフィラ スライム(Drosophila Slimb)タンパク質を示すものである。図11Aは、pIκBαへの選択的な結合を示すものである。タンパク質は、トランスフェクトされた293T細胞由来のFLAGエピトープを介して免疫沈降され、予め示されるように処置された(−/+IKK)、免疫精製された(immunopurified)IκBα/NF−κB複合体と共にインキュベートされ、さらに結合材料は示された抗体によるウェスタンブロッティングによって分析された。上部のパネルは特異的なpIκBα結合を示す;真中のパネルは基質のフロー−スリュー(flow-through)の10%を示す;下部のパネルは免疫沈降されたタンパク質のブロットである;および分子量のサイズマーカー(kD)を左側に示す。図11Bは、β−TrCP−pIκBα結合が、関連した非リン酸化ペプチド(pS/A)によってではなく、pIκBα分解モチーフ(pp10)を表示するホスホペプチドによって阻害されることを示す。図11Cは、E3群のもののタンパク質によるpIκBαのインビトロのユビキチン化を示すものである。免疫精製されたFLAG−標識タンパク質を、35Sで標識されたIκBα/NF−κB複合体と共にインキュベートし、示されるように処置され(−/+IKK)、さらにATPγS、ユビキチン、E1、UBC5Cの存在下でユビキチン化を行なった。IκBα基質(全長及び2種の分解産物から構成される)、pIκBα−ポリユビキチン結合体及び分子量サイズマーカーを左側に示す。
【0033】
図12A及び12Bは、Δβ−TrCP、優性のネガティブ分子の過剰発現によるIκBα分解及びNF−κB活性化の阻害を示すものである。図12Aは、κB−Lucレポータープラスミド及び示される発現ベクター(即ち、左から右方向に、ベクター単独、ヒトのβ−TrCPをコード化するベクター、Fボックス領域が欠損したヒトのβ−TrCPをコード化するベクター及びドロソフィラ スライム(Drosophila Slimb)タンパク質をコード化するベクター)がトランスフェクションされたP/I−刺激ジャーカット細胞(Jurkat cell)におけるκB−依存性ルシフェラーゼアッセイの結果を示すグラフである。NF−κB活性は相対的な(倍)ルシフェラーゼ活性として示され、この際、刺激されなかった空のFLAGベクターを対照(1倍)とした。図12Bは、空のFLAGベクターまたはΔβ−TrCPがトランスフェクションされたホルボールエステル(phorbol-ester)及びCa++イオノホア[P/I]−刺激及び非刺激ジャーカット細胞(Jurkat cell)のIκBαのウェスタンブロット分析を結果を示すものである。刺激後の間隔(分)を示す。
【0034】
発明の詳細な説明
上述したように、本発明は、一般的に、核因子κB(nuclear factor κB)(NF−κB)の活性化を調節するのにおよびこのような活性化に関連する病気を処置するのに有用である組成物及び方法に関するものである。特に、本発明は、リン酸化IκB(即ち、IκBαおよび/またはIκBβ)のユビキチン化を調節する薬剤に関するものである。このようなユビキチン化により、NF−κBの放出及び活性化が生じる。
【0035】
本発明は、部分的に、リン酸化されかつNF−κBと会合するIκBを認識するヒトのE3ユビキチンリガーゼの同定及び特徴付けに基づくものである。このE3ユビキチンリガーゼ、さらにはこの一部及び他の変異体からなるポリペプチドは、インビトロでまたは患者のNF−κB活性を調節するのに使用される。このようなポリペプチドはまた、例えば、NF−κB活性を調節する、および異常なNF−κB活性化に関連する疾患を処置するのに使用される薬剤(小分子など)を同定するのにも使用される。
【0036】
ヒトのE3ユビキチンリガーゼポリペプチドおよびポリヌクレオチド
本発明の明細書において、54kDタンパク質として移動するヒトのE3ユビキチンリガーゼは、リン酸化IκBα(リン酸化IκBαはまた本明細書中ではpIκBαとも称される)に結合し、このpIκBαのユビキチン化を促進することが分かった。ヒトのE3ユビキチンリガーゼをコード化するポリヌクレオチドの配列は、図9及び配列番号15に提供される;さらに、全長のヒトのE3ユビキチンリガーゼのタンパク質配列は、図10及び配列番号16に提供される。ヒトのE3ユビキチンリガーゼはまた、本発明の明細書において、β−TrCP(Margottin et al., Mol. Cell 1:565-574, 1998)及びドロソフィラ スライム(Drosophila Slimb)タンパク質(Jiang and Struhl, Nature 391:493-496, 1998を参照)を含むFボックス/WDタンパク質の群の一員であることが分かった。下記により詳細に説明するが、この群の他のものはE3の特定の性質を共有し、このようなタンパク質及びこれらの変異体はE3について本明細書中に提供されるある方法中で使用されてもよい。
【0037】
本発明に包含されるヒトのE3ユビキチンリガーゼポリペプチドとしては、天然のヒトのE3ユビキチンリガーゼ(本明細書では、「E3」とも称する)、さらにはこの一部及び変異体が挙げられる。E3の変異体は、変異体が本明細書に記載されるようにIκBポリペプチドに結合してこのポリペプチドのユビキチン化を促進する限り、本明細書に記載されるように、一以上のアミノ酸の置換、欠失、付加および/または挿入により天然のE3とは配列が異なるものであってもよい。好ましくは、E3の変異体は、配列番号16に列挙される残基の、20%以下の、好ましくは15%以下の、より好ましくは10%以下のアミノ酸置換を含む。変異体としてはさらに、切断(truncated)ポリペプチド及びポリペプチドの活性に最小限の影響を与えるさらなるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。ヒトのE3ユビキチンリガーゼポリペプチドは、列挙される性質を保持する限り、いずれの長さであってもよい。換言すると、このようなポリペプチドは、オリゴペプチド(即ち、ペプチド結合によって結合した、8〜10残基等の、比較的少数のアミノ酸残基から構成される)、全長のタンパク質(若しくはその変異体)または中間の大きさのポリペプチド(例えば、20、50、200若しくは400アミノ酸残基)であってもよい。
【0038】
特定の変異体としては、同類置換を含むものがある。「同類置換」は、アミノ酸が同様の性質を有する他のアミノ酸に置換されるものであり、この際、ペプチド化学の分野における当業者は実質的に変化のないポリペプチドの二次構造及び水治療性質(hydropathic nature)を実質的に変化させないことを予想できるであろう。アミノ酸置換は、通常、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性および/または両親媒性が同等であることに基づいてなされる。例えば、ネガティブに荷電されたアミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸があり;ポジティブに荷電されたアミノ酸としては、リシン及びアルギニンがあり;さらに、同等の親水性値を有する非荷電の極性ヘッド基を有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン及びバリン;グリシン及びアラニン;アスパラギン及びグルタミン;ならびにセリン、トレオニン、フェニルアラニン及びチロシンがある。保守的変更を表わすアミノ酸の他の基としては、(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、asn、ser、thr;(2)cys、ser、tyr、thr;(3)val、ile、leu、met、ala、phe;(4)lys、arg、his;および(5)phe、tyr、trp、his。変異体はまた、あるいはこれに代えて、非保守的変更を有するものであってもよい。変異体はまた(あるいはこれに代えて)、例えば、ポリペプチドの免疫原性、二次構造及び水治療性(hydropathic nature)に最小限の影響を与えるアミノ酸の欠失または付加によって、修飾されてもよい。
【0039】
上述したように、特定のE3ポリペプチドは、アミノおよび/またはカルボキシ末端にさらなるアミノ酸配列を含むものであってもよい。例えば、E3配列が、タンパク質の転移を翻訳と同時に(co-translationally)または翻訳後に行なうタンパク質のN末端にシグナル(またはリーダー)配列に結合されてもよい。ポリペプチドはまた、あるいはこれに代えて、ポリペプチド(例えば、ポリ−His)の合成、精製または同定を容易にするために、または固体支持体へのポリペプチドの結合を促進するためにリンカーまたは他の配列に結合されてもよい。例えば、ポリペプチドは免疫グロブリンFc領域に結合されてもよい。
【0040】
E3ポリペプチドのリン酸化IκBへの結合能は、当該分野における通常の知識を有するものに既知の結合アッセイを用いて容易に測定される。例えば、pIκBα/NF−κB複合体を、固定化E3ポリペプチドと共にインキュベートし、IκBα結合レベルを抗IκBα抗体を(例えば、ウェスタンブロットに)用いて評価してもよい。このようなアッセイでは、E3ポリペプチドはIκBαに検出可能で結合しなければならない;好ましくは、E3ポリペプチドは、天然のヒトのE3に対して実質的に減少しないレベルで結合する。換言すると、変異体のリン酸化及び複合化IκBαへの検出可能な状態での結合能は、天然のポリペプチドに対して、促進されても若しくは変化がなくてもよく、または天然のポリペプチドに対して、50%未満、好ましくは20%未満で減少してもよい。他の適当な基質がこのようなアッセイにおいてpIκBα/NF−κB複合体の代わりに使用されてもよいことは明らかである。
【0041】
E3ポリペプチドのリン酸化IκBのユビキチン化の促進能は、本明細書中に記載されるように、ATPγS、ユビキチンE1及びユビキチンE2に加えて、pIκBα/NF−κB複合体と共にポリペプチドをインキュベートし、IκBαに特異的な抗体を用いたウェスタンブロットによってゆっくり移動するIκBα−ユビキチン結合体を検出することによって評価される。通常、E3ポリペプチドにより、このようなアッセイにおいてユビキチンの検出可能なレベルを生じる;好ましくは、ユビキチンのレベルは、同量の天然のヒトのE3によって生じるユビキチンのレベルに対して実質的に減少しない。
【0042】
リン酸化IκBへの結合能を保持するが、IκBのユビキチン化の促進能を保持しないE3の一部または他の変異体からなるポリペプチドペプチドもまた、本発明に包含される。このようなポリペプチドは、本明細書中で提供される結合アッセイ及びユビキチン化アッセイを用いて容易に同定され、IκBのユビキチン化を阻害するのに一般的に使用される。このようなポリペプチドとしては、そのFボックス領域(即ち、ユビキチンカスケードの1以上の成分と相互作用するタンパク質の領域)が既に検出されたものが挙げられる。Fボックス領域は、通常、機能により(即ち、Fボックス領域の欠失により、末端を切断してユビキチン機構部(machinery)の適当な成分を漸増する(recruit)タンパク質が得られる)及びFボックス領域の共通配列(Patton et al., Trends in Genet. 14:236-243, 1998を参照)の存在に基づいて同定される。このようなポリペプチドによっては、配列番号16の122〜168番目のアミノ酸の欠失を含む。特定の実施態様においては、E3の一部は、配列番号16に列挙される配列の10〜374番目の連続したアミノ酸残基、好ましくは50〜250番目の連続したアミノ酸残基からなる。
【0043】
本発明はさらに、本明細書中に提供されるE3ポリペプチドをコード化するポリヌクレオチドを提供するものである。このようなポリペプチド、または本明細書中に記載されるようなこの一部若しくは変異体をコード化するポリヌクレオチドが本発明に包含される。このようなポリヌクレオチドは、1本鎖(コーディング若しくはアンチセンス)または2本鎖であってもよく、DNA(ゲノム、cDNA若しくは合成)またはRNA分子であってもよい。さらなるコーディングまたは非コーディング配列は、必ずしも必要ではないものの、本発明のポリヌクレオチド内に存在してもよく、ポリヌクレオチドは、必ずしも必要ではないものの、他の分子および/または支持材料に連結してもよい。
【0044】
ヒトのE3、またはこの一部をコード化する天然のDNA配列は、当該分野における通常の知識を有するものには既知である、様々なハイブリダイゼーションまたは増幅技術を用いて単離される。このような技術において、プローブまたはプライマーは、本明細書で提供されるE3配列に基づいて設計されてもよく、購入または合成されてもよい。適当な組織からのライブラリーをスクリーニングしてもよい。次に、増幅された部分または部分的なcDNA分子を用いて、既知の技術を用いて、ゲノムDNAライブラリーからまたはcDNAライブラリーから全長の遺伝子を単離してもよい。または、全長の遺伝子を、複数のPCR断片から構築してもよい。このような配列を有する部分的な及び全長のポリヌクレオチド、全長のポリヌクレオチドの他の部分、およびこのような全長の分子のすべてまたは一部に相補的な配列は、特に本発明に包含されるものである。さらに、他の種由来の同族体は特に包含され、通常、本明細書に記載されるのと同様にして調製される。
【0045】
列挙された配列を有するポリヌクレオチド変異体は、1以上の置換、欠失、挿入および/または付加で天然のE3ポリペプチドと異なってもよい。好ましい変異体は、ヌクレオチド位置の20%以下、好ましくは10%以下のヌクレオチドの置換、欠失、挿入および/または付加を含む。特定の変異体は、天然の遺伝子、またはこの一部若しくは補体と実質的に相同性を有する。このようなポリヌクレオチドの変異体は、E3タンパク質(または相補的な配列)をコード化する天然に発生するDNA配列に適度にストリンジェントな条件下でハイブリッド形成できる。適当な適度にストリンジェントな条件とは、5×SSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の溶液中で予め洗浄し;50℃〜65℃で、5×SSCで一晩ハイブリッド形成した後;2×、5×及び0.2×の0.1%SDSを含むSSCのそれぞれで20分間、65℃で2回ずつ洗浄することからなる。このようなハイブリッド形成DNA配列もまた本発明の概念に含まれる。
【0046】
遺伝暗号の縮重の結果、本明細書中に記載されるポリペプチドをコード化する多くのヌクレオチド配列が存在することは、当該分野における通常の知識を有するものに考えられるであろう。これらのポリヌクレオチドによっては天然の遺伝子のヌクレオチド配列に対して最小限の相同性を有するものもある。にもかかわらず、コドンの使用の相違により異なるポリヌクレオチドは特に本発明に包含される。
【0047】
上述したように、本発明はさらに、アンチセンスポリヌクレオチド及び上記いずれかの配列の一部を提供するものである。このようなポリヌクレオチドは、通常、例えば、固相ホスホルアミダイト化学合成(phosphoramidite chemical synthesis)等の当該分野で既知の方法によって調製される。または、RNA分子は、適当なRNAポリメラーゼプロモーター(T3、T7またはSP6など)を下流に有するベクター中に組み入れられるDNA配列のインビトロまたはインビボの転写によって得てもよい。ポリヌクレオチドの特定の一部を用いて、本明細書中に記載されるような、コード化されたポリペプチドを調製してもよい。これに加えて、またはこれの代わりに、一部がプローブ(例えば、サンプル中のE3発現を検出するための)として機能してもよく、放射性核種、蛍光色素及び酵素等の、様々なレポーター基によって標識されてもよい。このような一部は、好ましくは少なくとも10ヌクレオチド長、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチド長である。特定の好ましい実施態様においては、プローブとして使用される一部がE3遺伝子に独特である配列を有する。コーディング配列に相補的である配列(即ち、アンチセンスポリヌクレオチド)の一部もまたプローブとしてまたは遺伝子の発現を調節するのに使用されてもよい。アンチセンスRNAに転写されうるDNA構築物を、アンチセンスRNAの製造を容易にするために細胞または組織中に導入してもよい。
【0048】
ポリヌクレオチドはさらにインビボの安定性を増すために修飾されてもよい。可能な修飾としては、以下に制限されるものではないが、5’および/または3’末端でのフランキング配列の付加;主鎖におけるホスホジエステラーゼではないホスホロチオエートまたは2’O−メチル結合の使用;および/またはイノシン、クエオシン(queosine)及びワイブトシン(wybutosine)、さらにはアセチル−、メチル−、チオ−及び他の修飾形態のアデニン、シチジン、グアニン、チミジン及びウリジンなどの非伝承性の塩基の混入(inclusion)が挙げられる。
【0049】
本明細書中に記載されるポリヌクレオチドは、確立された組換DNA技術を用いて様々な他のヌクレオチド配列に結合させてもよい。例えば、ポリヌクレオチドを、プラスミド、ファージミド、ラムダファージ誘導体及びコスミドなどの、様々なクローニングベクターのいずれかにクローニングしてもよい。特に有用なベクターとしては、発現ベクター、複製ベクター、プローブ形成ベクター(probe generation vector)及び配列決定用ベクター(sequencing vector)が挙げられる。通常、ベクターは、少なくとも一の有機体で機能する複製のオリジン、簡便な制限エンドヌクレアーゼ部位及び一以上の選択マーカーを含むであろう。例えば、簡単に発現するベクターの構築を容易にするさらなる開始、終結および/または介在DNA配列を存在させてもよい。適当なベクターは、市販により得てもあるいは当該分野において既知の方法によって記載される配列から組み立ててもよい。ベクター中に存在してもよい他の要素は所望の用途によって異なるであろうし、また、当該分野における通常の知識を有するものには明らかであろう。
【0050】
本明細書中に記載されるベクターは、通常、当該分野における既知の方法によって、哺乳動物細胞等の、適当な宿主細胞中にトランスフェクトされる。このような方法としては、リン酸カルシウム沈降、エレクトロポレーション及びマイクロインジェクションが挙げられる。
【0051】
E3ポリペプチドは、通常、標準的な自動合成技術を用いてまたは所望のポリペプチドをコード化する組換DNAの発現によって調製される。通常、ペプチドは、アミノ酸および/またはアミノ酸類似体を導入する、標準的な技術を用いて合成により調製される。合成中は、アミノ酸および/またはアミノ酸類似体の活性基は、必要であれば、例えば、t−ブチルジカルボネート(t−BOC)基またはフルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)基を用いて保護されてもよい。アミノ酸およびアミノ酸類似体は、市販により(例えば、シグマケミカルカンパニー(Sigma Chemical Co.);アドバンストケムテック(Advanced Chemtec))購入されてもあるいは当該分野において既知の方法を用いて合成されてもよい。ペプチドは、ペプチドを、すべて市販されている、4−メチルベンズヒドリルアミン(MBHA)、4−(オキシメチル)−フェニルアセトアミドメチル−及び4−(ヒドロキシメチル)フェノキシメチル−コポリ(スチレン−1%ジビニルベンゼン)(ワング樹脂(Wang resin))等の樹脂に、またはDe Grado and Kaiser, J. Org. Chem. 47:3258, 1982に記載されるのと同様にして合成できるp−ニトロベンゾフェノンオキシムポリマー(オキシム樹脂)に結合させる、固相法を用いて合成されてもよい。当業者は、アミノ酸および/またはアミノ酸類似体の選択は、部分的に、所望の物理的、化学的または生物的特性に依存するであろうことを気付くであろう。このような特性は、一部、投与方法及び患者内での標的位置によって決定される。
【0052】
ペプチドの反応性基の選択的な修飾はまた、所望の特性を付与できる。ペプチドを樹脂に結合させたまま操作して、アセチル化ペプチド等のN−末端が修飾された化合物を得ることもでき、またはフッ化水素若しくは同等の切断剤を用いて樹脂から除去した後修飾してもよい。C−末端カルボキシ基を含む合成化合物(ワング樹脂(Wang resin))を、樹脂から切断した後、または場合によっては、液相合成(solution phase synthesis)前に、修飾してもよい。ペプチドのN−末端またはC−末端の修飾方法は当該分野において既知であり、例えば、N−末端のアセチル化またはC−末端のアミド化方法が挙げられる。同様にしてアミノ酸および/またはアミノ酸類似体の側鎖の修飾方法は、ペプチド合成の分野における当業者には既知である。ペプチドに存在する反応性基になされる修飾方法の選択は、所望の特性によって決定されるであろう。
【0053】
E3ポリペプチドはまた環状ペプチドであってもよい。環状ペプチドは、例えば、ペプチドのN−末端のアミノ基及びC−末端のカルボキシル基間の共有結合の形成を誘導することによって得ることができる。または、環状ペプチドは、末端の反応性基及び反応性のアミノ酸側鎖間のまたは2種の反応性側鎖間の共有結合を形成することによって得ることができる。環状ペプチドは所望の性質に従って選択されることは当業者には明らかであろう。例えば、環状ペプチドによって、安定性の増加、溶解度の増加、免疫原性の減少またはインビボのクリアランスの減少が得られる。
【0054】
新たに合成されたペプチドは、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)または大きさ若しくはチャージによる他の分離方法などの方法を用いて精製できる。さらに、精製されたペプチドは、アミノ酸分析や質量分析等の上記及び他の既知の方法を用いて特徴が明らかにできる。
【0055】
または、ポリペプチドは、通常、既知の技術を用いて所望のポリペプチドをコードする核酸から調製されてもよい。内因性タンパク質を調製するために、単離されたcDNAを使用してもよい。変異ポリペプチドを調製するために、オリゴヌクレオチドの特定部位の突然変異誘発(oligonucleotide-directed site-specific mutagenesis)等の、標準的な突然変異誘発技術が使用され、さらにDNA配列のセクションを除去することによって、切断された(truncated)ポリペプチドが調製されてもよい。
【0056】
通常、当該分野における通常の知識を有するものに既知の様々な発現ベクターを用いて、本発明の組換ポリペプチドを発現してもよい。発現は、組換ポリペプチドをコード化するDNA配列を含む発現ベクターで形質転換されたまたはトランスフェクションされた適当な宿主細胞中で達成される。適当な宿主細胞としては、原核生物、酵母、バキュロウイルスで感染させた昆虫細胞及び動物細胞が挙げられる。発現後、培養液中に組換タンパク質またはポリペプチドを分泌する宿主/ベクターシステムからの上清をまず市販のフィルターを用いて濃縮する。濃縮後、濃縮液を、アフィニティマトリックス等の適当な精製用マトリックスまたはイオン交換樹脂にのせてもよい。1以上の逆相HPLC段階を用いることにより、組換ポリペプチドをさらに精製することができる。
【0057】
通常、本明細書中に記載されるポリペプチド及びポリヌクレオチドは単離される。「単離された」ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、その本来の環境から除去されるものである。例えば、天然に生じるタンパク質は、天然のシステムにおいて一緒に存在する材料のいくつかまたはすべてから分離されると、単離される。好ましくは、本明細書で提供されるポリペプチドは、少なくとも80重量%の純度にまで、より好ましくは少なくとも95重量%の純度にまで、最も好ましくは少なくとも99重量%の純度にまで単離される。通常、このような精製は、例えば、硫酸アンモニウム分画、SDS−PAGE電気泳動、及びアフィニティクロマトグラフィーを用いて達成される。ポリヌクレオチドは、例えば、天然の環境の一部でないベクター中にクローニングされると、単離されたと考えられる。
【0058】
抗体
本発明はさらに、E3ポリペプチドに特異的に結合する、抗体、およびこの抗原結合断片を提供するものである。本明細書で使用される、抗体、または抗原結合断片は、ポリペプチドと検出可能なレベル(例えば、ELISAで)で反応し、関連しないタンパク質とは検出上は反応しない場合には、ポリペプチドに「特異的に結合する」と称される。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであってもよい。好ましい抗体としては、E3活性を阻害または遮断しかつ本明細書中に記載されるユビキチン化アッセイにおける上記抗体がある。他の好ましい抗体(例えば、イムノキナーゼアッセイに使用される)としては、本明細書中で提供されるアッセイ等の、標準的なアッセイを用いて測定される場合の、活性E3を免疫沈降するものがある。
【0059】
抗体は、当該分野における通常の知識を有するものに既知の様々な技術によって調製される(例えば、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照)。このような一技術においては、ポリペプチドを含む免疫原を、好ましくは一以上の追加免疫処置を含む所定のスケジュールに従って、まず適当な動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ及びヤギ)に注射し、動物を定期的に飼育する。次に、ポリペプチドに特異的なポリクローナル抗体を、例えば、適当な固体支持体にカップリングされたポリペプチドを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって、このような抗血清から精製される。
【0060】
モノクローナル抗体は、例えば、Kohler and Milstein, Eur. J. Immunol. 6:511-519, 1976の技術、及びこれの改良方法を用いて調製される。簡単にいうと、これらの方法は、所望の特異性(即ち、有用なポリペプチドとの反応性)を有する抗体を産生できる不死の(immortal)細胞系の調製に関わる。このような細胞系は、例えば、上記したようにして免疫処置された動物から得られた脾細胞から生産される。次に、脾細胞は、例えば、ミエローマ細胞融合パートナー、好ましくは免疫処置された動物と同系であるものとの融合によって、不死化する(immortalize)。例えば、脾細胞及びミエローマ細胞を、数分間、非イオン性界面活性剤と共に合わせた後、ミエローマ細胞ではなく、ハイブリッド細胞の成長を支持する選択培地に低密度で播種する。好ましい選択技術は、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を使用するものである。十分な時間、一般的には1〜2週間、経過後に、ハイブリッドのコロニーが観察される。単一のコロニーを選択して、これについてポリペプチドに対する結合活性を試験する。高い反応性及び特異性を有するハイブリドーマが好ましい。
【0061】
モノクローナル抗体は、生育したハイブリドーマコロニーの上清から単離される。加えて、マウス等の、適当な脊椎動物宿主の腹腔中にハイブリドーマ細胞系を注射するなどの、様々な技術が、収率を促進するのに使用される。次に、モノクローナル抗体は、腹水または血液から集められる。コンタミは、クロマトグラフィー、ゲル瀘過、沈降、及び抽出などの、公知の技術によって抗体から除去される。
【0062】
特定に実施態様においては、抗体の抗原結合断片の使用が好ましい。このような断片としては、Fab断片があり、これは標準的な技術を用いて調製される。簡潔には、免疫グロブリンを、プロテインAビーズカラムによるアフィニティクロマトグラフィーによってウサギの血清から精製し(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)、これをパパインで消化して、Fab及びFc断片を得る。Fab及びFc断片は、例えば、プロテインAビーズカラムによるアフィニティクロマトグラフィーによって分離される。
【0063】
ユビキチン化アッセイ
上述したように、E3ポリペプチドのリン酸化IκBのユビキチン化の調節能は、ATPγS、ユビキチンE1及びユビキチンE2に加えて、IκBα/NF−κB複合体(または他の適当な基質)と共にポリペプチドをインキュベートし、例えば、IκBαに特異的な抗体を用いたウェスタンブロットによってIκBα−ユビキチン結合体を検出することによって評価される。本明細書中に記載されるようなユビキチン化アッセイに使用されるIκBポリペプチドは、天然のヒトのIκBα(配列番号1)若しくはIκBβ(配列番号3)であってもよく、または天然のタンパク質の変異体であってもよい。IκBのポリペプチド変異体は、通常、本明細書中に記載されるような変異体のユビキチン化アッセイにおけるリン酸化及びユビキチン化能が実質的に減少しないように修飾される。IκBポリペプチドは標識されてもよい。例えば、35Sを、標準的な技術を用いて、35S−メチオニンの存在下でポリペプチドのインビトロ翻訳によってIκBポリペプチド中に導入してもよい。
【0064】
IκBポリペプチドは、通常、培養宿主細胞におけるDNAの発現によってまたは小麦胚抽出物等のインビトロシステムを用いた翻訳によってポリペプチドをコード化するDNAから調製される。宿主細胞を使用する際には、このような細胞は細菌、酵母、バキュロウイルスで感染させた昆虫細胞または動物細胞であることが好ましい。組換DNAは、当該分野における通常の知識を有するものに既知の技術を用いて、宿主細胞内で使用されるのに適当な発現ベクター中にクローニングされる。ポリペプチドのインビトロ翻訳は、通常、製造社の指示に従って製造される。
【0065】
発現させたIκBポリペプチドは、インビトロ翻訳後は精製せずに使用してもよい。または、ポリペプチドを実質的に純粋な形態で単離してもよい。IκBポリペプチドは、少なくとも80重量%の純度にまで、好ましくは少なくとも95重量%の純度にまで、より好ましくは少なくとも99重量%の純度にまで単離されてもよい。通常、このような精製は、例えば、本明細書中に記載される代表的な精製方法または硫酸アンモニウム分画、SDS−PAGE電気泳動、及びアフィニティクロマトグラフィーの標準的な技術を用いて達成される。
【0066】
特定のユビキチン化アッセイは、E3活性を有する調節因子の特徴を明らかにするために細胞性のE3を使用する。このようなアッセイでは、刺激を受けたまたは刺激を受けないジャーカット(Jurkat)、HeLa、THP−1または内皮細胞からの細胞抽出物を、ATP及びホスファターゼ阻害剤であるオカダイックアシッド(okadaic acid)の存在下でIκBポリペプチドと共にインビトロでインキュベートする。細胞抽出物は、通常、Alkalay et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10599, 1995の方法に従って調製される。インキュベーションは、IκBポリペプチドのリン酸化(IκBα及びその変異体では32及び36番目のセリンでのならびにこの変異体)および細胞性の誘導されたNF−κB複合体とのリン酸化ポリペプチド(pIκB)の会合を生じるのに十分な条件下で行なわれる。例えば、IκBポリペプチドをHeLaまたはジャーカット細胞抽出物、ATP及びオカダイックアシッド(okadaic acid)と共にインキュベートする。30℃で90分間のインキュベーションが、通常、IκBポリペプチドのリン酸化をするのに十分である。このインキュベーション後、pIκBα/NF−κB複合体を、Alkalay et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10599, 1995に記載されるようにして、例えば、抗p65抗体で免疫精製し、細胞を含まないシステムでインビトロのユビキチン化を行なう。次に、ユビキチン化のレベルは、オートラジオグラフィ後に、SDS−PAGEの既知の技術を用いて評価される。
【0067】
これらの条件下で、野生型の35S−pIκBαポリペプチドは、ATPγSの存在下で複数のユビキチン化物質を生成する(図1A、レーン4を参照)。IκBαの35Sで標識されたS32/36A変異体(レーン1)も非リン酸化野生型の35S−IκBα(レーン2)もユビキチン化されない。しかしながら、遊離形態の変異体または野生型のIκBαは容易に結合する(図1B)。同様にして、IκBαの遊離(しかし、複合体と会合しない)リシン21、22変異体は、インビトロでユビキチン化されうる。ゆえに、遊離IκBポリペプチドを用いて行なわれるユビキチン化アッセイとは異なり、本明細書で提供されるユビキチン化アッセイは、複合体を会合し、適当にリン酸化されるIκBポリペプチドのみを標的とする。
【0068】
本明細書中に記載されるユビキチン化アッセイは、IκBのユビキチン化を調節する物質の同定に使用される。調節剤としては、抗体(例えば、モノクローナル)、ペプチド、小分子(例えば、コンビナトリアルライブラリー由来)及びIκBαおよび/またはIκBβポリペプチドのユビキチン化を刺激する、または好ましくは阻害する他の薬剤が挙げられる。通常、このような薬剤は、上記したようにして行なわれてもよいが、候補調節剤をユビキチン化反応に含ませ、ユビキチン化のレベルに関する薬剤の効果を評価することによって同定される。このようなアッセイに使用される候補薬剤の適当な濃度は、通常、約0.1μM〜約1mMの範囲である。ペプチドの候補薬剤では、ベスタチン(40μg/mL)等のペプチド阻害剤を添加してもよく、ペプチドの量は約10μM〜約1mMの範囲であることが好ましい。ユビキチン化のレベルに統計学的に有意な効果をもたらす候補薬剤は、本発明に包含される調節剤である。
【0069】
薬剤はさらに、適当な細胞(例えば、HeLa細胞またはヒトの血管内皮初代細胞)中に薬剤(例えば、約5mg/mLのペプチド薬剤)をマイクロインジェクションすることによって評価されてもよい。マイクロインジェクション後、細胞を(例えば、TNFαで)刺激し、インキュベートしてNF−κB活性化を行なう。HeLa細胞では、TNFαは、核中へのNF−κBの迅速な核転座を誘導し、これはp65に特異的な抗体で染色することによって検出される。調節剤は、NF−κB転座を統計学的に有意な減少を誘導し、このような転座を検出不可能なレベルにまで減少する。
【0070】
ヒトの血管内皮初代細胞(HUVEC)は、ICAM−1、V−CAM−1及びE−セレクチンなどのNF−κBで調節される付着タンパク質の表面での発現によるTNFα刺激に応答する(Read et al., Immunity 2:493, 1995; Chen et al., J. Immunol. 155:3538, 1995)。E−セレクチンの発現は、特に、NF−κB依存性であり、初期の好中球付着及び活性化内皮における回旋運動(rolling)に対する主要な誘導可能な内皮付着分子である。刺激された細胞を固定、染色することによって、一以上のNF−κBで調節される付着タンパク質の発現を検出する。ポリペプチドまたは他の調節剤のマイクロインジェクションにより、このような発現の統計学的を有意な阻害はするが、ICAM2等のNF−κBに非依存性の付着タンパク質の発現には影響を及ぼさない。
【0071】
治療への用途
上述したように、本明細書中に記載される特定のE3ポリペプチド、ポリペプチド、抗体及び他の薬剤は、通常、細胞性のNF−κBの機能を特異的に阻害するまたは促進する調節剤として使用される。調節剤はまた、患者のIκBαおよび/またはIκBβのユビキチン化を調節することにより、インビボにおけるNF−κBの細胞機能を調節するのに使用される。本明細書中に使用される、「患者」は、ヒトを含む、いずれの哺乳動物であってもよく、NF−κB活性化に関連する病気に苦しめられていてもよく、または検出可能な病気にかかっていなくてもよい。したがって、処置は、現在ある病気に対してでもよくあるいは予防的なものであってもよい。NF−κB活性化に関連する病気としては、以下に制限されるものではないが、炎症性疾患、自己免疫疾患、癌及びウィルス感染が挙げられる。
【0072】
処置は、本明細書中に記載される調節剤の投与を意味する。患者への投与については、通常、一以上のこのような化合物を薬剤組成物として配合する。薬剤組成物は、さらに生理学上許容できる担体(即ち、活性成分の活性を妨げない無毒な材料)を含む、滅菌水溶液若しくは非水溶液、懸濁液または乳濁液であってもよい。当該分野における通常の知識を有するものに既知の適当な担体を、本発明の薬剤組成物中に使用してもよい。代表的な担体としては、生理食塩水、ゼラチン、水、アルコール類、天然若しくは合成油、糖類溶液、グリコール類、オレイン酸エチル等の注射可能な有機エステル類またはこのような材料の組合わせが挙げられる。必要であれば、薬剤組成物は、さらに、保存剤および/または例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤および/または不活性ガス等の他の添加剤、および/または他の活性成分を含ませてもよい。
【0073】
または、薬剤組成物は、生理学上許容できる担体と組合わせて調節剤をコード化するポリヌクレオチド(この調節剤はin situで生成するように)を含んでもよい。このような薬剤組成物では、ポリヌクレオチドは、核酸、細菌及びウィルスの発現システム、さらにはリポソーム等のコロイド分散システムなどの、当該分野における通常の知識を有するものに既知の様々なデリバリーシステム内に存在してもよい。適当な核酸発現システムは、患者における発現に必要なポリヌクレオチド配列(例えば、適当なプロモーターや終結シグナル)を含む。DNAはまた、例えば、Ulmer et al., Science 259:1745-1749, 1993に記載されるように、「裸で(naked)」あってもよい。
【0074】
標的とされた患者の細胞中に核酸を導入するのに使用できる様々なウィルスベクターとしては、以下に制限されるものではないが、ワクシニア若しくは他のポックスウイルス、ヘルペスウィルス、レトロウィルス、またはアデノウィルスが挙げられる。このようなベクター中にDNAを取り込む技術は当該分野における通常の知識を有するものに既知である。好ましくは、レトロウィルスベクターは、以下に制限されるものではないが、マウスモロニー白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus)(MoMuLV)、マウスハーベイ肉腫ウイルス(Harvey murine sarcoma virus)(HaMuSV)、マウス乳腺癌ウイル(MuMTV)、及びラウス肉腫ウイルス(RSV)などのマウスまたはトリのレトロウィルスの誘導体である。レトロウィルスベクターはさらに、選択マーカー用の遺伝子(形質導入細胞の同定及び選択を補助するための)および/または特定の標的細胞のレセプターに対するリガンドをコード化する遺伝子(ベクターターゲットを特異的にするための)を転移させるまたは取り込ませてもよい。例えば、レトロウィルスベクターが、糖、糖脂質、またはタンパク質をコード化するヌクレオチド配列を挿入することによってターゲットを特異的にしてもよい。ターゲッティングはまた、当該分野における通常の知識を有するものに既知の方法によって、抗体を用いて達成されてもよい。
【0075】
ウィルスベクターは、具体的には、感染ベクター粒子を生産するために補助を必要とする、非病原性(欠損)、複製コンピテントウィルスである。この補助は、例えば、LTR内の調節配列の制御を受けてレトロウィルスの構造遺伝子のすべてをコード化するが、パッケージングメカニズムが封入のためのRNA転写物を認識できるようにするヌクレオチド配列を欠失している、プラスミドを含むヘルパー細胞系を用いることによって、提供されうる。このようなヘルパー細胞系としては、(以下に制限されるものではないが)、Ψ2、PA317及びPA12が挙げられる。このような細胞中に導入されたレトロウィルスベクターはパッケージングされて、ベクタービリオンが生産できる。さらに、この方法によって生産されたベクタービリオンを用いて、NIH 3T3細胞等の、組織細胞系を感染させることによって、多量のキメラレトロウィルスビリオンを生産できる。
【0076】
ポリヌクレオチドに関する他の標的デリバリーシステムとしては、コロイド分散システム(colloidal dispersion system)がある。コロイド分散システムとしては、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系エマルジョン、ミセル、混合ミセル、及びリポソーム等の脂質を基にしたシステムが挙げられる。インビトロ及びインビボでのデリバリーベヒクルとして使用される好ましいコロイドシステムは、リポソーム(即ち、人工膜ベヒクル)である。0.2〜4.0μmの大きさを有する、大きな単層ベヒクル(LUV)が実質的な割合の大きな高分子を含む水性バッファーを封入できることが示された。RNA、DNA及び無傷のビリオンが、水性内部に封入されて、生物学的に活性のある形態で細胞にデリバーされうる(Fraley et al., Trends Biochem. Sci. 6:77, 1981)。哺乳動物細胞に加えて、リポソームは、植物、酵母及び細菌細胞中へのポリヌクレオチドのデリバーに使用された。リポソームを効果的な遺伝子転移ベヒクルとするためには、下記特性が存在しなければならない:(1)その生物学的な活性を低下させることなく高効率での有用な遺伝子の封入;(2)非標的細胞に比して標的細胞への好ましい及び実質的な結合;(3)高効率での標的細胞の細胞質へのベヒクルの水性内容物のデリバー;および(4)遺伝子情報の正確かつ効果的な発現(Mannino et al., Biotechniques 6:882, 1988)。
【0077】
リポソームのターゲッティングは、解剖学的及び機械的な因子に基づいて分類されうる。解剖学的な分類は、選択性のレベルに基づき、例えば、器官特異的、細胞特異的、および/またはオルガネラ特異的であってもよい。機械的なターゲッティングは、受動的または能動的であるかによって区別されうる。受動的なターゲッティングは、洞様毛細血管を含む器官の網内皮系(RES)の細胞に分布するリポソームの天然の傾向を利用するものである。これに対して、能動的なターゲッティングは、モノクローナル抗体、糖、糖脂質、若しくはタンパク質等の特定のリガンドにリポソームをカップリングすることによって、または局在化の部位を天然に生じる以外の器官及び細胞型を標的とするためにリポソームの組成若しくは大きさを変更することによってリポソームを変更することに関わる。
【0078】
投与の経路及び頻度、さらには投与量は、患者ごとに異なるであろう。通常、薬剤組成物は、静脈内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、キャビティー内にまたは経皮的に投与される。1〜6回の投与量が毎日投与される。NF−κB活性化に関連する病気に苦しめられる患者の症状の改善を示すのに十分な量が適当な投与量である。このような改善は、炎症応答(例えば、浮腫、移植片拒絶、感覚過敏)をモニターすることによってまたは病気に関連する臨床的な症状の改善を介して検出される。通常、1回の投与量に存在する、または1回の投与量に存在するDNAによってin situで製造される調節剤の量は、約1μg〜約100mg/kg宿主の範囲である。適当な投与量の大きさは、患者の大きさによって異なるであろうが、具体的には、10〜60kgの動物に対して約10mL〜約500mLの範囲であろう。
【0079】
下記実施例を詳細に説明するために記載するが、これは本発明を制限するものではない。
【0080】
実施例
実施例1
ユビキチン化アッセイを用いたIκB E3認識モチーフの同定
本実施例は、代表的なユビキチン化アッセイを詳細に説明するものであり、このようなアッセイの使用はペプチドについてIκBのユビキチン化の阻害能を評価するためものである。
【0081】
A.インビトロのユビキチン化アッセイ
HA−標識IκBαまたはHA−標識IκBβ cDNA(Haskill et al., Cell 65:1281-1289, 1991)を、製造社の指示(Promega, Madison, WI)に従って、35S−メチオニンの存在下で小麦胚抽出物中でインビトロで翻訳した。IκBαまたはIκBβをリン酸化するために、1μlの標識タンパク質を含む抽出物を、30μlの最終容積を有する、100μgのHeLaまたはジャーカット細胞抽出物(Alkalay et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10599, 1995によって記載されるのと同様にして調製)、2mM ATP及び1μM オカダイックアシッド(okadaic acid)を含む反応混合物中で、30℃で90分間、インキュベートした。このインキュベーション中、標識されたIκBポリペプチドを32及び36番目のセリンでリン酸化し、内因性のNF−κB複合体と会合した(データ示さず)。
【0082】
インキュベーション後、1μlの抗p65血清を添加し、NF−κB免疫複合体をプロテインA−セファロース(登録)(Protein A-SepharoseR)カラムに固定化し、Alkalay et al.によって記載されるのと同様にして、HeLa細胞抽出物でインビトロのユビキチン化を行なった。ユビキチン化されたタンパク質を、SDS−PAGEによって分離し、オートラジオグラフィによって可視化した。
【0083】
図1Aに示されるように、野生型の35S−pIκBαのみが複数のユビキチン化物質を生じた(レーン4)。IκBαの35S−標識S32/36A変異体(レーン1)及び非リン酸化野性型35S−pIκBα(レーン2)の双方ともユビキチン化されず、また、pIκBαのユビキチン化はATPの不存在下では見られなかった(レーン3)。
【0084】
このアッセイの生理学的な関係をさらに、複合体と会合した(complex-associated)リン酸化基質に対する遊離35S−IκBのインビトロのユビキチン化の比較によって文書で証明した。複合体と会合した(complex-associated)S32/36A変異体にはインビボでの宿命に従ってユビキチン結合がなされなかったが、遊離形態の変異型または野生型のIκBαは容易に結合した(図1B)。同様にして、IκBαの複合体と会合したものではない、遊離したリシン21、22変異体のみがインビトロでユビキチン化した(データ示さず)。したがって、遊離IκBαが識別不可能な状態でユビキチンシステムによって認識されるのに対して、複合体と会合した阻害剤は適切にリン酸化されない限りマスクされる。
【0085】
B.IκBα−ユビキチンリガーゼ認識モチーフの同定
IκBα−ユビキチンリガーゼ認識モチーフを同定するために、様々なペプチドを、ペプチダーゼ阻害剤であるベスタチン(40μg/ml)の存在下で反応混合物に様々な濃度で添加した。ペプチドは、タンパク質のN−末端のシグナルドメインをスパンし、一方の若しくは双方のセリン残基(32及び36番目)でリン酸化された、または修飾されなかった若しくはセリン置換された。これらのペプチドを異なる濃度でユビキチン化反応に含ませ、これについてpIκBαに特異的なユビキチン化を試験した。遊離IκBαの結合がモニターされたら、翻訳タンパク質をこの結合反応混合物に直接添加した。
【0086】
32及び36番目のセリン双方でリン酸化されたペプチド(pIκBαペプチド)のみが効果的にpIκBαユビキチン化を阻害した(図1A、レーン7、111〜14)。c−Fosホスホペプチド(ppFos、レーン5)、32及び36番目のセリンがアラニンに置換されたIκBαペプチド(p21 S/A、レーン6)及び非リン酸化ペプチド(p21、レーン8)は、400μMの濃度でpIκBαのユビキチン化に関する検出可能な効果を示さなかった。リン酸化IκBαペプチドのIC50を算出し、代表的な阻害濃度を図1Aに示す。2箇所にリン酸化されたIκBαペプチドは、5μMのIC50でpIκBα結合反応を阻害した(レーン7、11〜14)。これらのペプチドの配列は、上記表1に、及び配列番号5〜9に提供される。これに対して、1箇所リン酸化されたペプチド(レーン9、10)は、400μMのIC50でpIκBα結合を阻害した。シグナルリン酸化部位をスパンするのみである、最小サイズの試験ペプチド(pp7、レーン14)は、幾分より高いIC50(10μM)でであるが、ユビキチン化を効率良く阻害するのに十分であった。ゆえに、配列番号1の21〜41番目の残基を有するペプチドは、E3ユビキチンリガーゼに関する認識ドメインを含む。興味深いことに、21及び22番目のリシンは阻害に必須ではないことから、ユビキチンシステムの認識部位は実際の結合部位から離れていることが示唆される。
【0087】
ペプチドの特異性を、以下の2種の他のユビキチン結合反応で試験した:遊離野生型(図1B、レーン1〜3)またはS32/36A変異型IκBα(図1B、レーン4〜6)の結合およびHeLa抽出物における細胞タンパク質のバルクへのユビキチン結合(Alkalay et al.に従って125I−標識ユビキチンによって検出、図1C)。反応は、IκBα−ユビキチンリガーゼ認識モチーフまたはコントロールペプチドの添加によって影響を受けなかった。
【0088】
IκBα−ユビキチンリガーゼ認識モチーフを有するペプチドは、pIκBαに関連する基質であるpIκBβのユビキチン化を阻害することが分かった(図1D)。pIκBαの結合と同様に、pIκBβの特異的な結合もまた、会合NF−κB複合体(示さず)及びIκBα相同性残基である19及び23番目のSerでの前リン酸化を必要とした。ホスファターゼ阻害剤の不存在下で調製されたIκBβ基質はユビキチン化されなかった(図1D、レーン1)。ペプチドは、pIκBαで観察されるのと同様のIC50でのpIκBβユビキチン化に影響を与えた(図1D、レーン4〜7)。ゆえに、同様の酵素がユビキチン依存性分解について双方のIκBを標的にすると考えられる。
【0089】
阻害pIκBαペプチドを、相補的ユビキチン依存性インビトロ分解アッセイ(Orian et al., J. Biol. Chem. 270:21707, 1995; Stancovski et al., Mol. Cell. Biol. 15:7106, 1995)で試験した。このアッセイを用いると、刺激細胞由来のpIκBαのみがユビキチンに依存してインビトロで分解されるが、同じ細胞抽出物由来の非リン酸化IκBαは分解されない。分解アッセイに結合阻害ホスホペプチドを取り込むことによって、pIκBα基質が安定化された(図2、レーン3、4)が、非リン酸化ペプチド剤またはコントロールのホスホ−Fosペプチドは特異的なpIκBα分解に効果がなかった(レーン5、6)。21/22番目のLysでのペプチドのトリミングは分解阻害効果を減少しなかった(レーン4)ことから、これらのペプチドは結合可能な基質としてユビキチン−プロテアソームシステムを使い尽くすことによってpIκBα分解を阻害しないことが示された。
【0090】
実施例2
基質の認識に関わるユビキチンシステム成分の同定
本実施例は、pIκBαポリペプチドの認識に応答する特異的なE3の同定を詳細に説明するものである。
【0091】
pIκBα−ユビキチン結合及び分解は下記ユビキチンシステム酵素の全補体が必要である:E1、ユビキチンシステムフラクションI、E2F1(Alkalay et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10599, 1995; Chen et al., Cell 84:853, 1996)由来の特異的なE2およびフラクションII−成分E3。基質の認識に関わるユビキチンシステム成分を同定するために、HeLa溶解産物を、IκBαホスホペプチドカラムで分画し、フロー−スリュー(flow-through)フラクションについてpIκBα結合をアッセイした。ペプチドを、2mg/mlの濃度で製造社の指示に従ってNHS−セファロース(登録)(SepharoseR)カラム(Pharmacia)にカップリングさせた。100μgのHeLa抽出物を、4℃で1時間、0.1%NP40及び3%オボアルブミンの存在下で2.5μlのカップリング樹脂と共にインキュベートした。この樹脂を捨てて、非結合材料を上記ユビキチン化アッセイで試験した。
【0092】
コントロールのホスホペプチドカラム及びS32/36Aペプチドカラムからのフロー−スリューフラクションは全IκBα結合能を保持した(図3A、レーン2、3)が、2種の異なるpIκBαペプチドからのフロー−スリューフラクションはそのIκBα特異的結合能を失っていた(レーン4、7)。失われた結合活性は、E3酵素(Ciechanover, Cell 79:13, 1994)のすべての既知のものを含む網状赤血球フラクションII(レーン5、8)によって補足された。補完は、フラクションIまたはフラクションI及びE1(それぞれ、レーン6及び9)の添加によっては得られなかったことから、ペプチドカラムはE2またはE1ではなくE3を消耗していたことが示された。繰り返すが、IκBαの21及び22番目のリシン残基はE3を保持するために必ずしも必要でなかった(図3A、レーン7〜レーン4を比較)ことから、基質の認識及び結合部位の区別が強調される。ペプチドカラムの消耗は、すべてのフロー−スリューフラクションがランダムなHeLaタンパク質結合において全活性を維持した(125Iユビキチンの結合を測定することによって検出される際の、図3B)ので、IκB E3に特異的であることが分かった。これから、特異的なE3は同定モチーフとしてのpIκBαの認識を応答可能であることが示される。
【0093】
実施例3
細胞性NF−κB活性化に関する代表的なペプチドの効果
本実施例は、IκBα−ユビキチンリガーゼ認識モチーフからなるペプチドのマイクロインジェクションによるNF−κB活性化の阻害を詳細に説明するものである。
【0094】
HeLa細胞を、マイクロインジェクションする18時間前にグリッドカバーガラス(Cellocate, Eppendorf)に播いた。マイクロインジェクションは、半自動化装置(Eppendorf)を用いて22アミノ酸pIκBαペプチド(pp21;表1及び配列番号9)またはコントロールのホスホ−Fosペプチド(配列番号10)を用いて行なわれた。ペプチドを、100mM KCl、5mM Na2HPO4(pH7.2)において5mg/mlの濃度で細胞の細胞質中に注射した直後に、20分間(NF−κB転座では)または3時間(E−セレクチン発現では)、TNFα(200単位/mL)で活性化した。活性化後、細胞を固定化し、p65特異的抗体(Mercurio et al., Genes & Dev. 7:705, 1993; Santa Cruz)または抗E−セレクチンモノクローナル抗体(R & D Systems)で染色した。
【0095】
ペプチドの不存在下では、TNFαは、90%の細胞のp65核染色によって示されるように、核中にNF−κBの迅速な核転座を誘導する(図4G、カラム2を参照)。pp21ペプチドは、幾つかの実験において50%〜70%のマイクロインジェクションされた細胞でTNFαで刺激されたNF−κB活性化を阻害した(図4A及び4B;および図4G、カラム3の代表的な分野を参照)。これに対して、コントロールのpp−Fosペプチドバンドは、マイクロインジェクションされなかった細胞に比して、NF−κBで誘導される核転座の速度に影響がなかった(図4C及び4G、カラム4)。
【0096】
NF−κB阻害の機能的な結果をさらに評価するために、IκB−E3阻害ペプチドをヒトの初期血管内皮細胞(HUVEC;Chen et al., J. Immunol. 155:3538, 1995)中にマイクロインジェクションした。これらの細胞は、E−セレクチン等の、NF−κBで調節される付着タンパク質の表面での発現によるTNFα刺激に応答する。HUVEC細胞を、上記したようにして播種、マイクロインジェクション、及び刺激した。刺激してから3時間後に、細胞を固定化し、NF−κBに依存性のE−セレクチンの発現を目的として染色した。75%〜85%のHUVEC細胞を、幾つかの実験においてTNFαによる刺激後にE−セレクチンについてよく染色した。pp21ペプチドのマイクロインジェクションによって、70%〜80%のマイクロインジェクションされた細胞でE−セレクチンの発現が阻害された(図4D;及び図4H、カラム3)。これに対して、コントロールのpp−Fosペプチドは、マイクロインジェクションされなかった細胞に比して、E−セレクチンの発現に効果がなかった(図4F及び4H、カラム4)。コントロール、S32/36A置換されたIκBαペプチドのマイクロインジェクションは、E−セレクチンの発現の速度に効果がなかった。
【0097】
これらの結果から、シグナルで誘導されるリン酸化IκBα及びIκBβのサブユニットに特異的な分解が特異的なE3によって仲介されることが示される。E3ユビキチンリガーゼに関する認識ドメインは、第一の生物学的に関連のあるE3認識モチーフで代表される、双方のIκBで保存される2種のシグナル獲得ホスホセリン(signal-acquired phophoserine)の周辺を中心にした、短い配列である。IκB認識における特異性はリン酸化基質の内容によって支持される:会合した細胞複合体は非特異的なE3由来の基質をマスクする。この特徴により、特異的なリガーゼに部位特異的なリン酸化事象を介して暴露される、刺激後段階にNF−κB阻害剤の分解が制限される。NF−κB活性化及びそれにより得られる機能は、本明細書で提供される調節剤を用いることにより、IκBリガーゼのインビボの阻害によって特異的に阻害されうる。
【0098】
実施例4
IκBαのユビキチン化のさらなる特徴付け
本実施例は、IκBαのユビキチン化と会合するユビキチンリガーゼの特徴付けを詳細に説明するものである。
【0099】
A.サイトカインの刺激がpIκBα及び特異的なユビキチンリガーゼ間の会合を促進する
リン酸化IκBα複合体によるユビキチン機構部(machinery)の成分の漸増をさらに研究するために、pIκBα/NF−κB複合体を、プロテアソームで阻害され、TNFαで刺激されたHeLa細胞から精製し、そのユビキチン化能を評価した。HeLa細胞を、プロテアソーム阻害剤であるALLN(150μM)と共に1時間、予めインキュベートした後、TNFαで10分間刺激した。pIκBα/NF−κB複合体を、ヤギ抗RelA(p65)抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)及び、同起源のp65ペプチド(ELFPLIFPAEPAQASGP(配列番号21)、これは、合成でありかつAlfa-Diagnostic, Inc.から購入した後、HPLCで精製し、質量分析で分析し、予想された構造を確認し、85%超の純度であることが分かっていた)免疫アフィニティで精製した。
【0100】
免疫精製されたフラクションに、様々なユビキチンシステムの成分を補足し、インビトロのユビキチン化を行なった。特に、このフラクションに0.2μgの精製E1及び1μgの精製組換UBC5C(Jensen et al., J. Biol. Chem. 270:30408-30414, 1995)を補足し、50mM Tris(pH7.6)、2mM MgCl2、1mM DTT、20nM オカダイックアシッド(okadaic acid)、1mg/ml ウシのユビキチン(Sigma)及び5mM ATPγS(Sigma)を含む反応バッファー中で37℃で90分間、インキュベートした。次に、この反応混合物をSDS−バッファ中で沸騰し、サンプルをSDS−PAGE(8.5%)及びホスホ−イメージング(phosho-imaging)によって分析した。
【0101】
ユビキチン、精製E1及び特定のE2である、UBC5Cの添加は、IκBαに特異的な抗血清と反応する高分子量物質の蓄積で明らかである、十分なIκBα−ユビキチン結合活性能を生じる(図5、レーン2)のに十分であることが分かった。この活性は、E1依存性であり(レーン1および2を比較)、非刺激HeLa細胞からの相当する免疫精製されたフラクションによっては提供されなかった(レーン4、5、6を比較)。刺激HeLaフラクションはリン酸化及び非リン酸化IκBαの双方を含んでいたため、観察された結合体はいずれかのIκB物質由来で有り得る。
【0102】
IκBα結合体の源を決定するために、ユビキチン化反応を、pIκBαペプチド(pp12;CDRHDS[PO3]GLDS[PO3];配列番号22)(レーン7)またはセリン/グルタミン酸置換IκBαペプチド(p12S/E)(レーン8)の存在下で行なった。双方のペプチドとも、合成であり、Alfa-Diagnostic, Inc.から購入した後、HPLCで精製し、質量分析で分析し、予想された構造を確認し、85%超の純度であることが分かっていた。IκBαペプチドを、ペプチダーゼ阻害剤である、ベスタチン(40μg/ml)の存在下でこの反応混合物中に所定の濃度で添加した。pp12のみがポリユビキチン−IκBα結合体の形成を阻害したことから、ユビキチン化はpIκBαに特異的であることが示された(Yaron et al., EMBO J. 16:6486-6494, 1997)。
【0103】
B.リン酸化は、特定のユビキチン化−リガーゼ活性を漸増するのに必要かつ十分である
E1及びE2は刺激HeLaフラクションのpIκBα−結合を特異的に補足したが、非刺激フラクションは補足しなかったという知見は、以下のようにして幾つかで説明されうる:a)HeLa刺激は特定のpIκBα−ユビキチンリガーゼを活性化する、b)HeLa刺激は基質を修飾することにより、ユビキチン化されやすくする、またはc)HeLa刺激は基質及びリガーゼ双方を修飾するのに必要である。これらの可能性を識別するために、組換、構成上活性のあるIKK2タンパク質(IKK2−EE)を使用した(Mercurio et al., Science 278:860-66, 1997)。このタンパク質は、TNFαで活性化されたIKK−複合体と同様、32/36番目のセリンでIκBαをリン酸化する。
【0104】
組換35Sで標識されたIκBαと共に予めインキュベートされた非刺激HeLa溶解産物由来の35Sで標識されたIκBα/NF−κB複合体の免疫精製後、この複合体を組換IKK2−EEによってリン酸化し、p65同起源ペプチドで溶出し、インビトロのユビキチン化を行なった。IKK2−EEと共にインキュベートした後、ほとんどすべての35S−IκBをリン酸化した。しかしながら、ユビキチン、E1及びUBC5Cの添加によっては、pIκBαのリン酸化は起こらなかった(図6、レーン2)。したがって、IKKによるIκBのリン酸化は、E1及びE2の存在下でのユビキチン化を促進するのに十分でなかった。おそらく、pIκBαのユビキチン化は、非刺激細胞から同時に免疫精製され(co-immunopurified)なかったHeLa溶解産物の更なる成分を必要とする。
【0105】
この仮定を確認するために、免疫結合したIκBα/NF−κB複合体を、IKK2−EEによるリン酸化と同時にまたは後に、非刺激HeLa溶解産物と共にインキュベートし、高塩バッファー(high-salt buffer)でよく洗浄し、p65ペプチドで溶出した。この際、HeLa溶解産物との、非リン酸化IκB複合体(レーン1)ではなく、リン酸化IκB複合体(図6、レーン3)のインキュベーションが、pIκBα結合に必要なpIκB−リガーゼ成分を提供した。E1またはE2を反応から除外するとシグナルは得られなかったことから、ゲルの上部のシグナルはポリユビキチンIκBα−結合体を表わす(レーン5、6)ことが確認された。TNFαで刺激されたHeLa溶解産物は、必要なリガーゼ成分を提供するという点で非刺激溶解産物に比して優れていなかった。
【0106】
pIκBα−ユビキチン化に関するpp12の阻害効果(図5)から、必須なHeLa成分はインキュベーション期間中pIκBα認識モチーフと特異的にかつ安定して会合した後、pIκB−ユビキチン結合で機能することが示唆された。この仮説を試験するために、我々は、フラクションを溶出する前に、HeLa溶解産物と一緒に除去された、pp12またはコントロールペプチドであるp12S/Eをインキュベーション段階に含ませた。p12S/E(レーン5)ではなく、pp12(図6、レーン4)の添加によって、基質の完全性を維持したまま、pIκBα−複合体に関連したユビキチンリガーゼ活性がなくなった。これは、ペプチドで処理されたフラクションがE3源としての網状赤血球フラクションIIの存在下でユビキチン化を受けられたことで明らかになった(Alkalay et al., Mol. Cell Biol. 15:1294-301, 1995)。いくつかの結論がこの実験から導かれる。
【0107】
1)pIκBαユビキチン化に必須なユビキチンリガーゼ成分は、IKKによるリン酸化後のHeLa溶解産物由来のIκBα/NF−κB複合体によって漸増される。
【0108】
2)この結合促進成分は、非刺激HeLa溶解産物中に含まれることから、TNF刺激によってユビキチンリガーゼを活性化する必要がない。
【0109】
3)この必須なリガーゼ成分は、特異的であると考えられ、pIκB認識モチーフとの直接の相互作用を介してIκBと会合する(pIκBα−結合のpp12阻害によって示される)。
【0110】
C.pIκBαを認識する特異的なユビキチンリガーゼ成分の単離
HeLa抽出物(250mg)を250μlの抗p65イムノビーズ(immunobead)と共にインキュベートした。バッファーA(1M KCl、0.5% NP40、50mM Trisバッファー pH7.6、1mM DTT)で4回洗浄及びバッファーB(50mM Trisバッファー、pH7.6、1mM DTT)で1回洗浄した後、ビーズの半分についてIKKによるインビトロのリン酸化を行ない、半分に擬似的にリン酸化を行なった。ビーズをバッファーAで2回及びバッファーBで1回洗浄し、25℃で30分間、1μmのオカダイックアシッド(okadaic acid)の存在下で100mgのHeLa抽出物と攪拌し、バッファーAで4回及びバッファーAで1回洗浄し、1mg/mlのp65ペプチドで溶出した。同様の実験を、10mgの35S−代謝的に標識されたHeLa細胞溶解産物(100μCi/ml Met/Cysで8時間)及び25μlのp65イムノビーズを用いて行なった。加熱及び冷却溶解産物双方由来の溶出液フラクションを混合し、SDS−サンプルバッファー中で沸騰させ、7.5%SDS−PAGE及びオートラジオグラフィで分析した。オートラジオグラムシグナルに相当するゲルスライスを切り出して、そのタンパク質バンドについて、下記に記載されるように、質量分析によって配列決定した。
【0111】
以下の3種の免疫アフィニティで精製されたフラクションをSDS−PAGE分析によって比較した(図7):1)IKK2−EEによってリン酸化されなかったが、HeLa溶解産物と共にインキュベートされたpIκBα/NF−κB複合体を含むフラクション;2)IKK2−EEによってリン酸化された後、HeLa溶解産物と共にインキュベートされたフラクション;3)IKK2−EEによってリン酸化されたが、HeLa溶解産物と共にインキュベートされなかったフラクション。すべてのインキュベーションを、イムノビーズで固定化された複合体上で行なった後、よく洗浄し、p65ペプチドで溶出した。
【0112】
これら3種のフラクションのSDS−PAGE分析によって、IKKによるリン酸化によるまたはpIκBα/NF−κBタンパク質のさらなる免疫吸着によるパターンの変化が明らかになったが、IKKによるリン酸化後のIκBα−複合体に対して漸増したタンパク質を識別しなかった。タンパク質の染色の複雑さによって、免疫精製されたタンパク質に沿って移動する漸増したタンパク質(recruited protein)の存在が不明瞭になりうる。漸増したタンパク質を同定するために、質量分析をフラクション1及び2由来の1ダースのコロイドブルーで染色された(Colloidal Blue-stained)バンドで行なった。この分析から、Rel群のタンパク質及びIκBαのほとんど完全なスペクトルの存在が明らかになった:NF−κB1(p105)、NF−κB2(p100)、RelA(p65)、p50、p49、C−Rel、IκBα及びIκBε。数種の他のタンパク質のみが、IκBα/NF−κB複合体、特にGRP78/Bip、Hsp70及びHsc70と共に同時に免疫沈降した(co-immunoprecipitated)。
【0113】
推定のpIκB−ユビキチンリガーゼの可能性のあるマスキングを回避するために、我々は、35S−生合成により標識されたHeLa溶解産物でリガーゼ源を置換し、SDS−PAGE分析及びオートラジオグラフィによってIκBαと会合したタンパク質を追跡した(図7B)。平行して、様々なフラクションについて、そのユビキチンリガーゼ能を試験した。活性フラクションのバンドパターン(レーン2)を、非活性フラクションのもの(レーン1)と比較した。54、58、61及び64kDの分子量を有する4種の35S−タンパク質バンドがレーン2で識別された。これらのタンパク質バンドのうちいくつかはpIκBαを直接認識するユビキチンリガーゼの成分を表わすが、他のものはpIκBαと間接的にまたはIKKでリン酸化された複合体の他の成分と会合したかもしれない。pIκBαを直接認識するリガーゼ成分を分類するために、pp12またはコントロールペプチドであるp12S/Eを放射線標識されたHeLa溶解産物に添加した後、免疫結合した(immuno-bound)IκBα−NF−κB複合体と共にインキュベートした。溶出フラクションの比較によって、フラクション2でのみ存在する4種の特有のバンドのうち、3種のバンドが特定のpp12ペプチド(p54、p58及びp61)によって除外されたが、64kDのバンドのみがpp12の存在下で残っていた(図7B、レーン2及び3を比較)。コントロールペプチドは、pIκBαとの特有のタンパク質のいずれの会合に影響を与えなかった(レーン4)。pIκBαと相互作用するタンパク質の2種である、p58及びp54は、首尾一貫して存在し、常に特定のユビキチンリガーゼ活性と関連していた。
【0114】
実施例5
ヒトのE3ユビキチンリガーゼの同定
本実施例は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼの単離及び特徴付けを詳細に説明するものである。
【0115】
前記実施例で記載された54及び58kDのバンドをリガーゼポジティブ及びリガーゼネガティブ(非リン酸化IκBα複合体と共にインキュベートされたHeLa溶解産物)レーンから切出し、タンパク質をin situで消化し(Shevchenko et al., Anal. Chem. 68:850-858, 1996)、このよにして得られたトリプシンペプチドについて、ナノエレクトロスプレー(nanoelectrospray)質量分析によって配列を決定した(Wilm et al., Nature 379:466-469, 1996)。タンパク質バンドをゲル中で還元し、上記したのと同様にして、S−アルキル化し、過剰のトリプシンでゲル中で消化した(室温で一晩)(Shevchenko et al., Anal. Chem. 68:850-858, 1996; Wilm et al., Nature 379:466-469, 1996)。ゲルの切片を抽出して、得られたペプチド混合物を、50nlのポロスR2(Poros R2)材料(Perceptive Biosystems, Framingham, MA)を含むミクロカラムを用いて、濃縮し、脱塩した。ペプチドを、ナノエレクトロスプレー(nanoelectrospray)針中に直接1μlの60%メタノール、5%ギ酸で溶出した。ナノエレクトロスプレースペクトルを、4極子飛行時間質量分析計(quadrupole time-of-flight mass spectrometer)(QqTOF、Parkin-Elmer Sciex, Tronto, Canada)で記録した。ペプチド配列タグ(Mann and Wilm, Anal. Chem. 66:4390-4399, 1994)を断片化スペクトルから集め、プログラムPeptideSearch(Mann and Wilm, Anal. Chem. 66:4390-4399, 1994)を用いてEuropean BioInformatics Institute(EBI, Hinxton Park, England)で維持される非多重複タンパク質配列データベース(non redundant protein sequence database)(nrdb)で検索した。
【0116】
54kDのゲルバンドの質量スペクトルから、いくつかのペプチドが断片化で選択された複合ペプチド混合物(図8A)が示された。ペプチド配列タグ検索(Mann and Wilm, Anal. Chem. 66:4390-4399, 1994)によって同定されたタンパク質は、NF−κB1(p50)、IκBキナーゼα、IκBε、RelB、チューブリンベータ−1鎖、及び甲状腺レセプターイニシエーター結合タンパク質を含んでいた。E3活性と関連するタンパク質を同定するために、少量で存在する、さらなるペプチドを、活性フラクションからの54kDのバンドのスペクトルを非活性フラクションからの同様のバンドのスペクトルを比較することによって配列決定用に選択した(図8B)。ペプチド配列タグ(1587.81)VVNV(配列番号23)(1999.09)を図8Cで示される断片化スペクトルから導き、AAVNVVDFDDKYIVSAS(配列番号24)として明確に同定した。さらに、スペクトルは、ペプチド、LEGHEELBR(配列番号25)、LVVSGSSDNTIR(配列番号26)、IQDIETIESNWR(配列番号27)及びVISEGMLWK(配列番号28)を同定した。始めの4個の断片は、ヒトのFボックス/WDタンパク質であるβ−TrCP内に存在する配列を有する(Margottin et al., Mol. Cell 1:565-574, 1998)。しかしながら、5番目のペプチド(VISEGMLWK(配列番号28))は、ヒトのβ−TrCPと非常に相同性のある、ドロソフィラ スライム(Drosophila Slimb)タンパク質由来のペプチドのものと一致する(Jiang and Struhl, Nature 391:493-496, 1998を参照)。さらに、配列決定により、図9で提供されるヒトのE3ユビキチンリガーゼヌクレオチド配列(配列番号15)が同定され、予想されたタンパク質配列を図10に示す(配列番号16)。したがって、ヒトのE3ユビキチンリガーゼは、相同タンパク質のβ−TrCP/スライム(Slimb)群の新規なものであると考えられる。
【0117】
実施例6
E3ユビキチンリガーゼ活性のさらなる特徴付け
本実施例は、β−TrCP及びスライム(Slimb)のヒトのE3ユビキチンリガーゼ群のもののユビキチンリガーゼ活性を詳細に説明するものである。
【0118】
これらのタンパク質のpIκBαへの特異的な結合能及びユビキチン化の補助能を、細胞を含まないシステムで試験した。IκBα/NF−κB複合体をHeLa細胞から免疫精製し、免疫複合体を上記したのと同様にしてIKK2−EEでリン酸化したまたは擬似的にリン酸化した。次に、これを、トランスフェクトされた293個の細胞から免疫沈降された下記固定化FLAG−標識E3群のものと共にインキュベートした:マウスのβ−TrCP(mβ−TrCP)、ヒトのβ−TrCP(hβ−TrCP)、122から168番目のFボックス領域残基が欠失したヒトのβ−TrCP(Δβ−TrCP)及びドロソフィラ スライム(Drosophila Slimb)タンパク質。結合材料を抗IκBα及び抗FLAG抗体によるウェスタンブロッティングによって分析した。これらのタンパク質はすべて、擬似的にリン酸化されたではなく、IKKでリン酸化されたIκBαにのみ結合した(図11Aを参照)。しかしながら、ヒト及びマウスのβ−TrCPは、非常に相同性のあるドロソフィラタンパク質に比べてかなり良好にIκBαに結合した(レーン2、4、6及び8を比較)。Δβ−TrCPは、野生型のタンパク質に比して良好にpIκBαに結合したことから、Fボックス領域は結合に必ずしも必要でないであることが示された。さらに、β−TrCP結合は、コントロールペプチドによってではなく(レーン4)、pIκBα認識モチーフ(pp10;DRHDS(PO3)GLDS(PO3)M(配列番号29);図11B、レーン3を参照)を表わすペプチドによって阻害されることから、保存されたDS(PO3)GLDS(PO3)(配列番号30)配列のpIκBαの認識部位が特定された。
【0119】
ユビキチン化への結合の効果を評価するために、E3群のもの及び欠失変異体をpIκBαユビキチン化においてE3活性の源として使用した。E1及びE2(UBC5C)の存在下では、野生型のβ−TrCPタンパク質は、非リン酸化IκBαのではなく、pIκBαのユビキチン化を容易にした(図11C、レーン1〜4を参照)。Fボックスタンパク質−タンパク質の相互作用モデュールが欠失した、Δβ−TrCPは、その結合能(図11A、レーン6)にもかかわらず、ユビキチン化を促進しなかった(レーン7及び8)。スライム(Slimb)はpIκBαのユビキチン化によっては容易にしたが、ヒト及びマウスのβ−TrCPに比べて少なくとも10倍効果が低く(同様のFLAG−タグ発現レベルを基に)、これはより低い活性に相当した。
【0120】
これらの群のもののモジュラー設計及び本明細書中で記載されるインビトロの分析から、Fボックスの欠失によりインビボで優性なネガティブ分子として機能するタンパク質が得られることが示唆された。事実、Δβ−TrCPの一時的な過剰な発現は、刺激されたジャーカット細胞における内因性のIκBαの分解を阻害し、これによりpIκBαが蓄積した(図12B)。その結果、NF−κBの活性化が阻害された(図12B)。NF−κBの活性化は、Δβ−TrCPがNF−ATレポーターの活性化に影響を与えなかったので、特異的であった。NF−κBの阻害が野生型のスライム(Slimb)でも観察されたが、野生型のヒトのβ−TrCPの発現は抑制性ではなかった(図12B)という事実が特筆すべきものである。したがって、野生型のスライム(Slimb)の過剰な発現は、おそらくその比較的低いpIκBαのユビキチン化活性に関連する、NF−κBの活性化に対する優性のネガティブな効果を有する(図11B)。
【0121】
前記から、本発明の特定の実施態様が詳細な説明を目的として本明細書で記載されてきたが、様々な修飾が本発明の精神及び概念から逸脱しない限りなされると考えられるであろう。したがって、本発明は添付された特許請求の範囲によって以外は制限されない。
【0122】
配列表の要約
配列番号1は、IκBαのアミノ酸配列である。
【0123】
配列番号2は、IκBαのDNA配である。
【0124】
配列番号3は、IκBβのアミノ酸配列である。
【0125】
配列番号4は、IκBβのDNA配列である。
【0126】
配列番号5は、pp7のアミノ酸配列である。
【0127】
配列番号6は、pp11のアミノ酸配列である。
【0128】
配列番号7は、pp15のアミノ酸配列である。
【0129】
配列番号8は、pp19のアミノ酸配列である。
【0130】
配列番号9は、pp21のアミノ酸配列である。
【0131】
配列番号10は、ホスホ−Fosペプチドのアミノ酸配列である。
【0132】
配列番号11は、pp21 S/Aのアミノ酸配列である。
【0133】
配列番号12は、HAで標識されたIκBαのアミノ酸配列である。
【0134】
配列番号13は、HAで標識されたS32、36 IκBαのアミノ酸配列である。
【0135】
配列番号14は、HAで標識されたIκBβのアミノ酸配列である。
【0136】
配列番号15は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼのDNA配列である。
【0137】
配列番号16は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼの予想されたアミノ酸配列である。
【0138】
配列番号17は、ヒトのβ−TrCPのDNA配列である。
【0139】
配列番号18は、ヒトのE3 β−TrCPのアミノ酸配列である。
【0140】
配列番号19は、IκBαのリン酸化部位である。
【0141】
配列番号20は、読み出された(retrieved)β−TrCP配列である。
【0142】
配列番号21は、同起源のp64ペプチドのアミノ酸配列である。
【0143】
配列番号22は、pIκBαペプチドpp12のアミノ酸配列である。
【0144】
配列番号23は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼのペプチド配列タグである。
【0145】
配列番号24は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ由来のペプチドである。
【0146】
配列番号25は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ由来のペプチドである。
【0147】
配列番号26は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ由来のペプチドである。
【0148】
配列番号27は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ由来のペプチドである。
【0149】
配列番号28は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ由来のペプチドである。
【0150】
配列番号29は、pIκBα認識モチーフのアミノ酸配列である。
【0151】
配列番号30は、保存されたpIκBα配列である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1A〜1Dは、様々なIκB E3認識モチーフの存在下で及び不存在下で行なわれるユビキチン化アッセイのSDS−PAGE分析の結果を示すオートラジオグラムである。
【図2】 図2は、刺激されたHeLa細胞からの抽出物を用いて行なわれたインビトロのユビキチン依存性分解の結果を示すオートラジオグラムである。
【図3】 図3Aは、調節剤カラムで分画されたHeLa細胞溶解産物のフロー−スリュー(flow-through)フラクションを用いて行なわれたユビキチン化アッセイのSDS−PAGE分析の結果を示すオートラジオグラムである。図3Bは、HeLa細胞抽出物のバルク細胞タンパク質のユビキチン化を示すオートラジオグラムである。
【図4】 図4A〜4Fは、核NF−κB転座への候補調節剤の効果を示す顕微鏡写真である。図4G及び4Hは、図4A〜4Fで示されるマイクロインジェクション実験の要約を表わすグラフである。
【図5】 図5は、TNFαで活性化された細胞からのpIκBα会合ユビキチンリガーゼ活性の免疫沈降を示すウェスタンブロット分析の結果を示すオートラジオグラムである。
【図6】 図6は、DSGLDS(配列番号8及び19)部位でのIκBαのIKK−リン酸化後の、IκBα/NF−κB複合体とのユビキチンリガーゼの会合を示すオートラジオグラムである。
【図7】 図7A及び7Bは、ユビキチンリガーゼ活性と関連するIκBα−結合タンパク質の同定を示すものである。
【図8】 図8A〜8Dは、ユビキチンリガーゼ会合p54の質量スペクトル分析の結果を示すものである。
【図9】 図9A及び9Bは、ヒトのE3ユビキチンリガーゼ(配列番号15)をコード化するポリヌクレオチドの配列を表わすものである。
【図10】 図10は、ヒトのE3ユビキチンリガーゼのタンパク質配列(配列番号16)を表わすものである。
【図11】 図11A〜11Cは、E3ユビキチンリガーゼ群のものの結合及びユビキチン化特異性を示すウェスタンブロットである。
【図12】 図12A及び12Bは、Δβ−TrCP、優性のネガティブ分子の過剰発現によるIκBα分解及びNF−κB活性化の阻害を示すものである。
【配列表】
Claims (15)
- 以下の配列からなる単離されたポリペプチド:
(1)配列番号16のアミノ酸配列;または
(2)配列番号16のアミノ酸配列に加えて、ポリペプチドの合成、精製もしくは同定を容易にするための、または固体支持体へのポリペプチドの結合を促進するためのリンカー配列をさらに含むアミノ酸配列。 - 配列番号16のヒトE3ユビキチンリガーゼ配列の一部からなり、該一部がFボックス領域を欠損しており、該一部がリン酸化IκBに結合しかつリン酸化IκBのユビキチン化を阻害する、単離されたポリペプチド。
- 配列番号16の122〜168番目のアミノ酸を欠失している、請求項2に記載のポリペプチド。
- 請求項1に記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる単離されたポリヌクレオチド。
- 請求項2に記載のポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
- 請求項3に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに完全に相補的なヌクレオチドを含むアンチセンスポリヌクレオチド。
- 請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
- 請求項7に記載の発現ベクターで形質転換されたまたはトランスフェクションされた宿主細胞。
- 請求項1に記載の単離されたポリペプチドおよび生理学的に許容できる担体を含む組成物。
- 請求項2に記載の単離されたポリペプチドおよび生理学的に許容できる担体を含む組成物。
- 請求項1に記載の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび生理学的に許容できる担体を含む組成物。
- 請求項2に記載の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび生理学的に許容できる担体を含む組成物。
- 請求項6に記載のアンチセンスポリヌクレオチドおよび生理学的に許容できる担体を含む組成物。
- (a)ポリペプチド及び候補薬剤間の相互作用を可能にするのに十分な条件下及び時間、候補薬剤を、請求項1に記載のポリペプチドと接触させ;さらに
(b)その後、候補薬剤の不存在下でリン酸化IκBのユビキチン化を促進する当該ポリペプチドの所定の能力に対する、リン酸化IκBのユビキチン化を促進する当該ポリペプチドの能力を評価し;
これによりNF−κB活性を調節する薬剤を同定する段階からなる、NF−κB活性を調節する薬剤をスクリーニングする方法。 - 該候補薬剤はコンビナトリアルライブラリー内に存在する小分子である、請求項14に記載の方法。
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