JP4632517B2 - 送受信波の整相方法及び超音波診断装置 - Google Patents

送受信波の整相方法及び超音波診断装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医療診断に用いる超音波診断装置に係り、特に、超音波の送受波信号の焦点合せを行なう整相処理に関する。
【0002】
【従来の技術】
超音波診断装置は、被検体の表面に超音波探触子を当て、その探触子から被検体に超音波を送信するとともに、被検体内部からの反射波を受信し、その受信信号に基づいて被検体の各部の状態を断層像などの画像により表示して診断に供するものである。一般に、超音波探触子は、複数の振動子を等間隔で直線状、曲線状あるいは面状に配列して形成されている。そして、複数の振動子の内から動作させる振動子群を選択して超音波の送受信が行なわれる。このように選択された振動子群により形成された口径を、例えば順次移動することによってビームを形成する。また、セクタ走査型探触子においては、口径移動は行なわずに、ビームを偏向して走査することが行なわれる。
【0003】
選択された口径の振動子群を駆動するにあたり、各振動子に供給する送波信号を遅延して供給タイミングをずらし、各振動子から放射される超音波を所望の部位(焦点)に収束させる整相処理が行なわれる。同様に、被検体からの反射波(反射エコー)は口径を形成する各振動子によって受信され、その受信信号は増幅された後、各受波信号を遅延する処理を行ない、所望の部位から同一時に反射された波形成分の位相を合せる整相処理が行なわれる。そして、整相処理された各受信信号を加算して十分大きな信号にした後、圧縮処理、フィルタリング処理、γ補正などの信号処理をした後、座標変換及び補間などのスキャン変換をして画像として表示するようになっている。
【0004】
上述した送波整相処理及び受波整相処理における各信号の遅延時間は、各振動子から焦点までの距離の差を超音波の伝播媒質の音速で割って時間に変換したものとなる。伝播媒質の音速としては、通常、仮定した設定音速を用いる。しかし、媒質である生体組織は、音速が均一でないことがあり、また個人差があるため、設定音速と実際の計測時の音速とに誤差がありうる。このような音速差があると、焦点調整が適切に行なわれず、得られる画像の質が劣ることになる。
【0005】
このような問題に対応するため、従来、特開平6−269447号公報には、生体組織中の超音波の伝播速度を適切に推定する方法が提案されている。これによれば、超音波が伝播する媒質を、音速を含む様々な係数で仮定するとともに、伝播する波形の変形を仮定した媒質係数含む理論式によって算出し、実測した波形と照合して媒質音速を含む係数を推定することにより、媒質音速の推定精度を高めるようにしている。
【0006】
また、特開平2−274235号公報には、コンソールなどの入力手段により操作者が媒質音速を指示、修正して最適な整相処理を行なうことが提案されている。また、特願平4−252576号には、人体を不均一媒質とみなし、被検体に応じて遅延時間の調整を行なうことにより、断層像上のフォーカスが合っていない領域で自動的にフォーカスを合せることが提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平6−269447号公報に記載された方法は、媒質を仮定しなければならず、しかも演算が煩雑で、かつ実測波形と照合しなければならないので、処理に時間がかかる。そのため、被検体の媒質音速に適応させて設定音速を調整して計測を行なう適応計測には必ずしも適していない。
【0008】
また、特開平2−274235号公報に記載された方法は、媒質音速を自動的に推定する方法ではないことから、操作者が負担に感じるとともに、正確性に欠ける問題がある。また、特願平4−252576号の方法は、媒質音速に着目した方法ではないため、全体的に良好な画像を得難いという問題がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、整相処理に用いる設定音速を実際の媒質音速と同一又は近い値に自動的に調整することができ、被検体に応じた適応計測を可能にすることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る整相方法は、配列された複数の振動子から被検体内に送波された超音波の反射波を前記各振動子により受波し、該受波した複数の受波信号を被検体の媒質に対応して定められた設定音速に基づいて遅延させて整相し、該整相された複数の受信信号に基づいて設定音速と実際の媒質音速との誤差を推定し、該推定誤差に基づいて前記媒質音速を推定する処理を、前記被検体の複数の計測領域について行ない、該各計測領域について得られた複数の媒質音速の推定値の確からしさを評価し、最も評価の高い媒質音速推定値を前記複数の領域に対する共通の設定音速として設定することを特徴とする。
【0011】
このような整相方法によれば、実際の被検体について超音波計測を行ない、整相された複数の受信信号に基づいて設定音速と実際の媒質音速との誤差を推定し、その誤差に基づいて設定音速を補正するようにしていることから、簡単な操作により適応計測を実現することができる。
【0012】
ここで、一般に、超音波診断においては、被検体の一定の広がりを有する複数の領域あるいは注目領域について超音波計測を実行し、これにより得られた音響情報に基づいて画像を構成する。この場合に、各計測領域ごとに媒質音速の推定値が異なることがしばしばあり、これに応じて各計測領域ごとに設定音速を調整又は設定することは可能であるが、煩雑になることは避けられない。
【0013】
そこで、複数の領域の全領域あるいは注目領域について得られた媒質音速推定値の中から、代表的な媒質音速を選定して各領域に共通の単一の媒質音速を設定するようにすれば、簡便であり、かつそれらの領域にわたってシャープな整相を行なうことができ、均質な画質の画像を得ることができる。
【0014】
このような課題は、超音波計測により得られた複数の媒質音速推定値について確からしさを評価し、最も評価の高い媒質音速推定値を前記複数の領域に対する共通の設定音速として設定することにより解決できる。
【0015】
ここで、確からしさを評価する方法の具体例としては、次に述べる評価関数による方法がある。ところで、1つの計測領域について計測される複数の受波信号は、設定音速に基づいてそれぞれ定められる遅延時間に応じて遅延することにより整相される。つまり、設定した焦点で反射された超音波が口径を形成する各振動子に入射するタイミングは、各振動子の配列位置に応じて超音波の伝播距離が異なるためにずれる。そこで、各振動子により受信された受波信号の時間軸を一致させるため、伝播距離が最も長い受波信号に対して伝播距離が短い受波信号を適宜遅延させて、受波信号の位相を一致させる整相処理が行なわれる。このときの遅延時間は、伝播距離と伝播媒質の音速に基づいて設定するが、媒質が不均一の場合は整相しても受波信号の位相がずれることになる。そこで、受波信号の位相ずれを計測して遅延時間の誤差を推定し、その推定誤差に基づいて整相に係る遅延時間を補正して、媒質に適応した遅延時間(以下、適応遅延時間ともいう。)に調整することが行なわれている。この適応遅延時間は、振動子の配列方向(アレイ方向)を横軸にしてプロットすると、上に凸状の2次曲線分布を有するものとなる。
【0016】
ところで、遅延誤差に基づいて補正した適応遅延時間分布は、設定時の遅延時間分布に対して全体的に傾きθを有する場合がある。このような現象は、例えば、高エコー(反射率が高い)の部位が存在する場合に生ずる。このような傾きθがある適応遅延時間分布に基づいて調整すると、高エコーの部位に対してフォーカス(焦点合せ)を行なうことになり、本来の超音波ビーム方向からずれた方向にビームを通過させることになる。そこで、傾きθが大きな補正後の遅延時間分布となる領域の媒質音速推定値は、確からしさが低いといえる。
【0017】
一方、受波信号の強度Aが大きいほど、確からしさが高いといえる。また、各受波信号について求めた適応遅延時間は一般に分散するが、その分散幅dが大きい場合は、確からしさが低いといえる。なお、分散幅dは、設定時の遅延時間分布に対する適応遅延時間分布の差異の絶対値でもよい。以上のことから、各領域について下記式(1)の評価関数Kを設定し、Kが最大の領域の適応遅延時間分布に対応する媒質音速を最も確からしいと評価する。
K=A/α+β/d+γ/θ (1)
式(1)におけるα、β、γは、それぞれ任意の係数であり、各評価項に対して適当な重み付けを行なう係数である。
【0018】
さらに、最も評価の高い媒質音速推定値に係る評価が一定の基準に達しない場合は、各領域の媒質音速推定値に基づいて各領域の設定遅延時間をそれぞれ定めて超音波計測を繰返すか、装置の設定高速のままで繰り返すことが好ましい。例えば、閾値Kthを設定し、評価関数Kが閾値Kthを超えるまで繰返す。なお、この繰り返しには、一定の制限回数を定めることができる。
【0019】
上述の整相方法を適用した超音波診断装置は、次の構成により実現できる。すなわち、被検体との間で超音波を送受信する複数の振動子が配列されてなる探触子と、該探触子の各振動子に供給する送波信号を被検体の媒質に対応して定められた設定音速に基づいてそれぞれ遅延させて出力する送波整相手段と、前記各振動子から出力される受波信号を前記設定遅延時間に基づいてそれぞれ遅延して出力する受波整相手段と、該受波整相手段から出力される受信信号に基づいて画像を生成して画像表示手段に表示させる画像処理手段とを備えてなる超音波診断装置において、前記受波整相手段は、複数の前記受波信号を前記設定遅延時間に基づいてそれぞれ遅延して出力する信号遅延手段と、該信号遅延手段から出力される複数の前記受波信号に基づいて前記被検体の媒質音速推定値を求める媒質音速推定手段と、前記被検体の複数の計測領域について求められる複数の前記媒質音速推定値について確からしさを評価し、最も評価の高い媒質音速推定値を選択して前記複数の計測領域に共通の設定音速として設定する代表音速選択手段とを備えてなることを特徴とする。
【0020】
この場合において、前記媒質音速推定手段は、前記信号遅延手段から出力される複数の前記受波信号の遅延誤差を推定する誤差推定手段と、複数の媒質音速と該各媒質音速に対応する複数の参照遅延時間とが格納された記憶手段と、前記設定遅延時間に推定遅延誤差を加算した適応遅延時間に一定の許容範囲で一致する前記参照遅延時間を前記記憶手段から選択する比較手段と、該選択した参照遅延時間に対応する媒質音速を媒質音速推定値として求める媒質音速選択手段とを備えてなるものとすることができる。
【0021】
【実施の形態】
以下、本発明の整相方法を適用してなる超音波診断装置の実施の形態に基づいて本発明を説明する。図1に本実施形態の特徴部である受波整相部のブロック構成図を示し、図2に超音波診断装置の全体構成図を示す。
【0022】
図2に示すように、超音波診断装置は、超音波探触子1と、口径選択スイッチ2と、送受波分離回路3と、送波回路4及び送波整相回路5と、受波回路6と、アナログディジタルコンバータ(ADC)7と、受波整相部8と、加算部9と、信号処理部10と、表示部11と、サンプリング信号発生手段12とを備えて構成されている。受波整相部8、加算部9、信号処理部10は、ディジタル信号処理手段によって形成されている。
【0023】
超音波探触子1は、複数の振動子を直線状に配列して形成されている。そして、口径選択スイッチ2により選択された振動子を駆動して被検体に超音波を送波するとともに、被検体からの反射波を選択された振動子によって受波することにより、被検体内部の所望の部位について超音波計測を行なうようになっている。また、口径を移動することによって、超音波ビームを形成するようになっている。なお、セクタ走査型探触子の場合は、口径移動は行なわずに、超音波ビームを偏向してビームを走査するようになっている。
【0024】
送波整相回路5は、選択された口径を形成する複数の振動子に供給する複数の送波信号を、被検体の媒質に対応して定められた設定音速に基づいてそれぞれ遅延させて整相し、各振動子から放射される超音波を所望の焦点に収束させるようにしている。送波回路4は、送波整相回路5から出力される送波信号に基づいて駆動パルスに生成し、この駆動パルスを送受波分離回路3と口径選択スイッチ2を介して各振動子に供給し、被検体内に超音波ビームを放射するようになっている。
【0025】
被検体からの反射エコーは口径を形成する複数の振動子によって受波され、口径選択スイッチ2と送受波分離回路3を介して受波回路6に入力される。受波回路6は入力される複数の受波信号をそれぞれ良好なダイナミックレンジを有する受波信号に増幅する。受波回路6で増幅された複数の受波信号はADC9に入力され、それぞれディジタル信号に変換されて受波整相部8に入力される。
【0026】
受波整相部8は、複数の受波信号を被検体の媒質に対応して定められた設定音速に基づいて遅延させて整相する。つまり、焦点で反射された超音波が各振動子に入射するタイミングは、各振動子の配列位置に応じて超音波の伝播距離が異なるためにずれる。そこで、各振動子により受信された受波信号の時間軸を一致させるため、伝播距離が最も長い受波信号に対して伝播距離が短い受波信号を適宜遅延させる。これにより、受波信号のフォーカス処理が行なわれ、焦点の音響情報を得ることができる。この受波整相部8は、本発明の特徴部に係る部分であり、詳細は後述する。
【0027】
受波整相部8で整相された受波信号は、加算部9において互いに加算されて大きく成長し、信号処理部10に入力される。信号処理部10は、加算部9の出力信号に対して、log圧縮、フィルタリング、γ補正などの周知の信号処理を施し、さらに座標変換や補間等のスキャン変換を施して、表示部11に出力する。このようにして、被検体の一定の広がりを有する領域について超音波計測をすることにより、所望の画像を構成して表示部11に表示して診断に提供する。なお、サンプリング信号発生手段12は、ADC7におけるアナログディジタル変換のためのサンプリング信号を発生する。
【0028】
ここで、本発明の特徴に係る送受波の整相方法について、受波整相部8を例にして詳細に説明する。受波整相における受波信号の遅延時間は、焦点から振動子までの超音波の伝播距離と、伝播媒質の音速に基づいて設定する。しかし、媒質が生体組織の場合は、媒質が不均一であることが多く、また個人差によって被検体の媒質音速が異なってくる。このような場合、設定した媒質音速に基づく設定遅延時間で整相しても、実際の音速が設定媒質音速と異なるので、受波信号の位相がずれ、適切なフォーカス処理ができずに、画質が劣化することになる。受波整相部8は、このような問題を解決するために構成されたものである。
【0029】
図3に、受波整相部8の詳細構成図を示す。図示のように、ディジタル遅延部21と、遅延誤差推定部22と、遅延時間比較部23と、媒質音速選択部24と、ディジタル遅延制御部25と、参照遅延時間記録部27と、参照音速記録部26とを有して構成されている。ディジタル遅延部21は、図3に示すように受波信号に対応した数のディジタル遅延処理(1〜n)31を有して構成され、各ディジタル遅延処理(1〜n)31は、ディジタル遅延制御部25から入力される遅延データ(媒質音速、伝播距離、遅延時間等)に基づいて、それぞれの受波信号を遅延して加算部9に出力するようになっている。
【0030】
遅延誤差推定部22は、図3に示すように、ディジタル遅延処理31から出力される遅延された隣り合う2つのチャンネルの受波信号を取り込んで、受波信号の遅延誤差を検出する複数の遅延誤差検出処理32と、これらにより検出された誤差に基づいて遅延時間誤差を推定する遅延時間誤差推定処理33とを有して構成される。本実施形態における遅延誤差検出処理32は、例えば周知のように、隣接する2つのチャンネルの受波信号間で相互相関を取ることにより、それら2つの受波信号の位相差を検出する。検出された位相差は、遅延誤差推定処理33に入力され遅延誤差の推定がなされる。つまり、本来、実際の媒質音速が設定値と同一で均質であれば、2つの受波信号の位相差は生じないが、媒質音速に不均一があると位相差が生じるから、これに基づいて遅延時間誤差ΔDを推定することができる。この遅延時間誤差ΔDは、チャンネルごとに求められる。
【0031】
このようにして求められた各振動子に対応する遅延時間誤差ΔDは、遅延時間比較部23に入力される。この遅延時間比較部23には、ディジタル遅延制御部25から各振動子に対応した受波信号ごとの設定遅延時間Dが入力され、ここにおいて遅延時間誤差ΔDを補償した適応遅延時間DA=D+ΔDが求められる。この適応遅延時間DAは各振動子に対応した受波信号ごとに求められる。因みに、遅延時間Dを、振動子の配列方向(アレイ方向)を横軸にしてプロットすると、上に凸の2次曲線状の遅延時間分布を有する。この値を基準に補償すべき遅延誤差DAを重畳することにより適応遅延時間DAとなる。遅延時間比較部23は、求めた適応遅延時間DAに一致又は近い参照遅延時間を参照遅延時間記録部26から検索する。参照遅延時間記録部26には、複数の異なる媒質音速に対応して求めた遅延時間データが格納されており、遅延時間比較部23は最も適応遅延時間DAに近い参照遅延時間を選び出す。このとき、参照遅延時間記録部26に記録されている参照遅延時間が離散的な音速値に対応する遅延時間として記録され、かつ格納されている複数の媒質音速のデータが少ない場合は、適応遅延時間DAに一致する参照遅延時間を検索できない場合がある。この場合は、内挿又は外挿法などにより適宜補完して推定する。なお、適応遅延時間DAを2次曲面又は曲線の遅延時間分布で近似し、これに対応させて参照遅延時間を2次曲面又は曲線で近似した遅延時間分布として表わすようにすると、記録する情報量を少なくすることができる。また、遅延時間分布の階差を求めて階差遅延時間列を生成し、これに対して1次直線を当てはめるようにすると、扱う情報量をさらに低減できる。
【0032】
遅延時間比較部23で選択した参照遅延時間は、媒質音速選択部24に入力され、ここにおいて参照媒質音速記録部27を検索し、選択した参照遅延時間に対応する媒質音速を選択する。これにより、実際の媒質音速に適応した音速を推定することができる。つまり、参照媒質音速記録部27には、参照遅延時間記録部26に記録されている参照遅延時間が、いかなる媒質音速によるものかが記録されている。このようにして、媒質音速選択部24で得られた媒質音速の推定値は、設定音速としてディジタル遅延制御部25に送られる。
【0033】
ディジタル遅延制御部25は、媒質音速選択部24で得られた媒質音速の推定値に従って設定音速を変更し、変更された設定音速に基づいて各振動子に対応した受波信号の設定遅延時間を制御する。
【0034】
このように、上述した実施形態によれば、整相処理に用いる設定音速を実際の媒質音速と同一又は近い値に自動的に調整することができ、被検体に応じた適応計測を可能にできる。その結果、被検体が変わっても、また生体組織に不均一な部分が合っても、それに適応して超音波計測を実行することができ、画質の劣化を改善できる。
【0035】
ところで、これまでの説明では、一つの測定領域、すなわち超音波ビームが1ビームで、かつ1深度の超音波計測における媒質音速調整を説明した。しかし、一般には、2次元又は3次元画像を構成するために超音波ビームを深度と方位の両方向に走査して複数の領域の音響情報を計測する。この場合には、各領域に対応する複数の遅延時間誤差及び媒質音速の推定値が得られる。この場合に、各計測領域ごとに媒質音速推定値が異なることがしばしばあり、これに応じて各計測領域ごとに設定音速を調整又は設定することは可能であるが、煩雑になることは避けられない。
【0036】
すなわち、複数の領域の全領域あるいは注目領域について得られた媒質音速推定値の中から、代表的な媒質音速を選定して各領域に共通の単一の媒質音速を設定する方が有用な場合がしばしばある。例えば、ディジタル遅延部21に設定する各受波信号の遅延時間は、媒質を均質であると仮定すると解析的に求まるものであるから、代表的な媒質音速を選択して各領域に共通の媒質音速として設定すれば、計測に係る調整を簡便化できる。しかも、それらの複数の領域あるいは注目領域にわたってシャープな整相を行なうことができ、均質な画質の画像を得ることができる。
【0037】
そこで、媒質音速選択部24は、複数の領域あるいは注目領域について代表的な媒質音速を選定し、各領域に共通の単一の媒質音速を設定する機能を備えている。この機能の実施形態は、基本的には、超音波計測により得られた複数の媒質音速推定値について、確からしさを評価し、最も評価の高い媒質音速推定値を前記複数の領域に対する共通の設定音速として設定する。ここで、確からしさを評価する方法の具体例としては、次に述べる評価関数による方法がある。
【0038】
先に述べたように、適応遅延時間DAを振動子のアレイ方向を横軸にしてプロットすると、上に凸状の2次曲線分布に近似できる。この適応遅延時間DAの近似分布が設定遅延時間の分布に対して、図4に示すように、全体的に傾きθがある場合がある。このような現象は、例えば、高エコー(反射率が高い)の部位が存在する場合に生ずる。このような傾きθがある適応遅延時間分布に基づいて調整すると、高エコーの部位に対してフォーカス(焦点合せ)を行なうことになり、本来の超音波ビーム方向からずれた方向にビームを通過させることになる。そこで、傾きθが大きな補正後の遅延時間分布となる領域の媒質音速推定値は、確からしさが低いといえる。
【0039】
一方、受波信号の強度Aが大きいほど、確からしさが高いといえる。また、各受波信号について求めた適応遅延時間の分散幅dが大きい確からしさが低いといえる。なお、分散幅dは、設定時の遅延時間分布に対する適応遅延時間分布の差異の絶対値でもよい。以上のことから、各領域について前記式(1)の評価関数Kを求め、Kが最大の領域の適応遅延時間分布に対応する媒質音速を最も確からしいと評価する。
【0040】
ここで、最も評価の高い媒質音速推定値に係る評価が一定の基準に達しない場合は、各領域の媒質音速推定値に基づいて各領域の設定遅延時間をそれぞれ定めて超音波計測を繰返すことが好ましい。例えば、閾値Kthを設定し、評価関数Kが閾値Kthを超えるまで繰返す。なお、この繰り返しには、一定の制限回数を定めることができる。
【0041】
このような考え方に基づいて、図5に示す手順により最も確からしい媒質音速推定値を選択する一実施形態を説明する。先ず、ステップS1において、複数の領域(ビーム方位、深度)について超音波計測を開始し、適応遅延時間分布データを収集する。この収集データに基づいて、ステップS2において、式(1)に従って複数の領域の評価関数Kを演算する。そして、ステップS3において、最大の評価関数Kmaxを選択し、これに基づいて媒質音速を前述の方法で推定する。次いで、ステップS4において、選択した評価関数Kmaxが閾値Kthを越えているか否か、つまりKth<Kmaxを判断する。この判断が肯定的であれば、ステップS5に進んで、評価関数Kmaxに対応する媒質音速推定値をディジタル遅延制御部25に送る。これにより、ディジタル遅延制御部25は、媒質音速推定値に基づいて遅延時間データを再計算してディジタル遅延部21にフィードバックして画像化する。
【0042】
一方、ステップS4の判断が否定的な場合は、ステップS6に進んでステップS5と同様に画像化処理をした後、再び計測に戻り、Kth<Kmaxを満たすまで繰返す。この繰り返し回数は、一定の上限回数を決めておき、超えた場合は、例えば初期の設定音速に戻し、その旨を表示部11に出力することが好ましい。
【0043】
図5の評価手順に代えて、図6の評価手順にすることができる。本手順は、計測によっては、推定した媒質音速が大きくばらつくことがあるので、有り得ない媒質音速の推定値が得られた場合、音速(v)及び評価関数の評価項目(A、d、θ)に上限値又は下限値を設け、外れる場合は評価から外すことにより、媒質音速の推定精度を向上させる。例えば、信号強度の下限値AL、分散幅dの上限値dH、遅延時間分布の傾きθの上限値θHをそれぞれ設定し、また、媒質音速の下限値vLと上限値vHを設定する。そして、例えば、ステップS11において、
AL<A、d<dH、θ<θH
の条件を満たす評価関数Kを抽出する。そして、これに基づいて媒質音速の推定値を演算する(S3)。次いで、ステップS12において、
vL<v<vH
の条件を満たす評価関数Kを抽出して、図5のステップS4につなげるようにする。このようにすることにより、一層推定精度を向上することができる。
【0044】
なお、図6の評価手順の条件を満たす評価関数が抽出できない場合は、つまり繰り返し実行しても収束しない場合は、ステップS13又はステップS14において、評価関数の係数α、β、γや上下限値AL、dH、θH、及び音速範囲vL、vHを変更して、計測を繰返すことができる。
【0045】
評価関数の係数及び上記の上下限値は、他の要因、例えば探触子、観測部位及び疾患に応じて調整することが望ましい。例えば、甲状腺などの表在部位、肝硬変、脂肪肝等では、予想される音速範囲、信号強度、遅延時間精度が異なるからである。また、観測部位によって探触子は大体決まってくるから、探触子ごとに評価関数の係数及び上記の上下限値などを決めてもよい。
【0046】
これらの判断条件の変更、調整は、ファジー推論や人工知能によりさらに最適化することができる。特に、探触子、観測部位及び疾患等の計測条件を入力し、ユーザが満足する画像になったとき、その判断条件を装置に認知させる。これにより、探触子、観測部位及び疾患に対応した評価係数、評価項目の閾値、等を自動的に学習し、同じ条件の次の患者に対し、それらの判断条件の振り方、方向性を持つことができ、速やかに最適な設定に移行することができる。
【0047】
例えば、患者が肝硬変であるとすると、一般に肝硬変は通常の装置の設定音速よりも早い音速を有する。また、肝硬変が全体に硬くなっていれば、受波信号の強度の減衰量は和らぐことが予想される。そこで、音速vの範囲を1550m/s<v<1560m/sに設定し、かつALを通常より高めに設定する。その結果、判定条件を満たさなかった場合、満たさない項目の条件を緩めるか、疾患で予想される方向へ変更する。例えば、1550m/s<v<1600m/sに変更し、係数αを小さくする。この変更によって評価が収束し、さらに操作者が良好と判断したときに、それらの条件を本装置に認識させる。これにより、再び同様の患者が被検体となったとき、評価を収束させるときの知識として、αを小さくすること、又は音速条件を早めにするという知識を学習により獲得できる。その結果、最適な条件に早く調整できる。
【0048】
以上説明したように、上記の実施形態によれば、実際の被検体について超音波計測を行ない、整相された複数の受信信号に基づいて設定音速と実際の媒質音速との誤差を推定し、その誤差に基づいて設定音速を補正するようにしていることから、簡単な操作により適応計測を実現することができる。
【0049】
また、複数の領域の全領域あるいは注目領域について得られた媒質音速推定値の中から、代表的な媒質音速を選定して各領域に共通の単一の媒質音速を設定するようにしているから、媒質音速の適応調整が簡便で、かつそれらの領域にわたってシャープな整相を行なうことができるから、均質な画質の画像を得ることができる。
【0050】
上記実施形態では、遅延誤差推定部22は、隣接するチャンネル間の受波信号の相互相関を取ることにより、それらの位相差を検出して遅延時間の誤差を推定する方法について説明したが、本発明はこれに限らず公知の他の方法を適用してもよい。例えば、隣接チャンネル間の整相後の受波信号に受信中心周波数を複素乗算して差周波数成分のみを取りだし、その実部と虚部を除算してtanθより位相差を出す方法が適用できる。また、表示画像において注目領域を設定し、その領域のヒストグラムや、信号強度が最大になるように、各チャンネルの遅延時間を振りながら収束させて求める方法を適用できる。
【0051】
また、媒質音速を推定して遅延データを作り直して画像化したが、その後に遅延誤差推定部22は補正後の遅延時間に基づいて再計測した遅延時間誤差の情報を持っている。注目領域におけるこの個々の素子の遅延誤差を前記推定高速での遅延時間に加算することで遅延時間を補正して整相することにより画像化すると、全体的に平均音速を補正して画像を改善してから、さらに注目領域の画像の質を向上させることができる。
【0052】
また、媒質音速選択部24で推定した媒質音速の推定値を表示部11に表示するようにしてもよい。また、超音波探触子1について、上記実施形態では1次元配列の振動子の例を用いたが、本発明はこれに限らず、リングアレーや2次元配列振動子を用いた2次元画像や3次元画像を構成する装置にも適用できる。
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変更することができる。
【0053】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、整相処理に用いる設定音速を実際の媒質音速と同一又は近い値に自動的に調整することができ、被検体に応じた適応計測が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る受波整相部の一実施形態のブロック構成図である。
【図2】本発明の超音波診断装置の一実施形態のブロック構成図である。
【図3】図1のディジタル遅延部と遅延誤差推定部の詳細機能を示す図である。
【図4】適応遅延時間の分布の一例を説明する図である。
【図5】複数領域を代表する媒質音速を選択する処理手順の一実施形態を示すフローチャートである。
【図6】複数領域を代表する媒質音速を選択する処理手順の他の実施形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 超音波探触子
2 口径選択スイッチ
5 送波整相回路
7 アナログディジタルコンバータ
8 受波整相部
21 ディジタル遅延部
22 遅延時間推定部
23 遅延時間比較部
24 媒質音速選択部
25 ディジタル遅延制御部
26 参照遅延時間記録部
27 参照媒質音速記録部

Claims (6)

  1. 配列された複数の振動子から被検体内に送波された超音波の反射波を前記各振動子により受波し、該受波した複数の受波信号を被検体の媒質に対応して定められた設定音速に基づいて遅延させて整相し、該整相された複数の受信信号に基づいて設定音速と実際の媒質音速との誤差を算出し、該算出誤差に基づいて前記媒質音速を算出する処理を、前記被検体の複数の計測領域について行ない、該各計測領域について得られた複数の媒質音速の算出から選択された媒質音速算出値を前記複数の領域に対する共通の設定音速として設定する送受信波の整相方法。
  2. 前記共通の設定音速は、該各計測領域について得られた複数の媒質音速の算出値の確からしさを求め、最も確からしい媒質音速算出値を前記複数の領域に設定することを特徴とする請求項1に記載の送受信波の整相方法。
  3. 前記確からしい媒質音速算出値に係る確からしさが一定の基準に達しない場合は、各計測領域の媒質音速算出値に基づいて各計測領域の設定遅延時間をそれぞれ定めて超音波計測を繰返すことを特徴とする請求項2に記載の送受信波の整相方法。
  4. 被検体との間で超音波を送受信する複数の振動子が配列されてなる探触子と、該探触子の各振動子に供給する送波信号を被検体の媒質に対応して定められた設定音速に基づいてそれぞれ遅延させて出力する送波整相手段と、前記各振動子から出力される受波信号を前記設定遅延時間に基づいてそれぞれ遅延して出力する受波整相手段と、該受波整相手段から出力される受信信号に基づいて画像を生成して画像表示手段に表示させる画像処理手段とを備えてなる超音波診断装置において、
    前記受波整相手段は、複数の前記受波信号を前記設定遅延時間に基づいてそれぞれ遅延して出力する信号遅延手段と、該信号遅延手段から出力される複数の前記受波信号に基づいて前記被検体の媒質音速推定値を求める媒質音速算出手段と、前記被検体の複数の計測領域について求められる複数の前記媒質音速推定値を選択して前記複数の計測領域に共通の設定音速として設定する代表音速選択手段とを備えてなることを特徴とする超音波診断装置。
  5. 前記代表音速選択手段は、前記被検体の複数の計測領域について求められる複数の前記媒質音速推定値について確からしさを求め、最も確からしい媒質音速算出値を選択して前記複数の計測領域に共通の設定音速として設定することを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
  6. 前記媒質音速算出手段は、前記信号遅延手段から出力される複数の前記受波信号の遅延誤差を推定する誤差算出手段と、複数の媒質音速と該各媒質音速に対応する複数の参照遅延時間とが格納された記憶手段と、前記設定遅延時間に推定遅延誤差を加算した適応遅延時間に一定の許容範囲で一致する前記参照遅延時間を前記記憶手段から選択する比較手段と、該選択した参照遅延時間に対応する媒質音速を媒質音速算出値として求める媒質音速選択手段とを備えてなることを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
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