JP4631035B2 - シリカ薄膜及びその製造方法 - Google Patents
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Description
屈折率が低減されたシリカ薄膜を作製するためにフッ素原子やアルキル基などで置換された特定の基をシリカ薄膜中へ導入することが行われた(特許文献1)。しかし、この手段により得られるフッ素元素導入シリカ薄膜の屈折率は、非晶質シリカの屈折率1.46に対し、たかだか1.40程度であり、十分な効果が得られていない。
この手段による低屈折率化では十分な効果は期待できず、1.38程度の屈折率を有するMgF2がコーティング材料として用いられている。MgF2を基体表面にコーティングした薄膜の屈折率から薄膜中の光の波長を求め、膜厚を波長の1/4とすることで反射防止膜として利用できるが、レーザーアニールや露光などの加工技術ではレーザー照射後にこの膜を剥離する必要があり、これはプロセスを増やすため、作製コスト上昇の要因となり有効ではない。
これを改良するため、屈折率が1である空孔をシリカ薄膜内に形成して屈折率を低下させる方法が提案された。この方法では反射防止膜として光を透過させたとき入射した光を乱反射させないために光の波長よりも十分小さい微細な空孔が必要であり、この微細な空孔の形成媒体として、本質的に熱的に安定であるシリカ膜が用いられる。アルキル基を酸化ケイ素分子構造中に含むシリカ膜を基板に堆積し、アルキル基成分を気化させて光を散乱することのない微細な気孔を膜中に形成した多孔質シリカ膜を用いることが発明された(特許文献2)。しかし、最大で10nm以下の空孔を利用するため、低機械強度のものとなり、結果として十分な効果を期待できない。屈折率を制御するために空孔径および空孔量を制御することが望まれているが、この点については、満足する結果を得ていない。
この場合にも空孔が有効な働きをする。測定周波数が同じ場合、比誘電率は屈折率の2乗に等しい関係にあり、空孔導入による低屈折率化と同様の原理に基づいて、比誘電率が1である空孔をシリカ薄膜中に形成して比誘電率を低下させることにより、シリカ膜を低誘電率絶縁膜とすることができる。
シリコン原子と酸素原子の結合を含み且つ空孔を有する微粒子からなる低誘電率絶縁膜形成用材料が発明された(特許文献3)。前記微粒子はゼオライト結晶若しくはシリコンレジン同士が相互結合したポーラス構造体であり、微粒子径は1nm以上で且つ30nm以下であり、また、微粒子中に含まれる空孔径は0.5nm以上で且つ3nm以下である。この発明では微粒子中の空孔径が特定されるものの、最終的に得られた低誘電率絶縁膜形成用材料中の空孔径および形状は明らかにされていない。固有の空孔径をもつゼオライト結晶を用いることからサブナノスケールでの連続的な空孔径制御が困難である上、微粒子間空隙の存在により最終的に得られた低誘電率絶縁膜形成用材料中の微細構造を緻密にすることは困難であると予想される。
「多孔性シリカ薄膜の断面TEM像のフーリエ変換像による空孔の周期測定による空孔の周期が、膜面水平方向に11.5nm以下、膜面垂直方向に9.0nm以下、かつ、水平方向/垂直方向の比が1.35以下である多孔性シリカ薄膜」が発明された(特許文献4)。この発明では、膜内の空孔周期のばらつきが、膜面水平方向に3.0%以下、膜面垂直方向に5.0%以下であるとされ、得られる空孔径は最大で20nm以下であり、さらに、湿式塗布法によるため成膜化に要求される数nmオーダーでの膜厚制御が困難であることが問題とされている。
また、前記発明と同じく、「シリカ構造中に空孔を有する多孔性シリカ薄膜であって、空孔率が30%-80%、最大孔径が10nm以下であり、構造中に緩和時間が0.5秒〜10秒であるSi原子と結合したCH3を2wt%以上含有し、膜厚が0.1μmから10μmである多孔性シリカ薄膜」が発明された(特許文献5)。この発明においても、湿式塗布法によるため、成膜化に要求される数nmオーダーでの膜厚制御が困難であること、作製した薄膜中への残留溶媒が問題とされている。文献5にあるように、その最大空孔径は10nm以下にとどまり、さらに平均空孔径は2nm-4nmである。従来の考え方からすれば、湿式塗布法を用いたこの発明では空孔半径で1nm以下の空孔径制御は困難であったであろう。
「半導体基材上に、空孔形成材を含み低誘電率材料からなる絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜をプラズマ処理して前記空孔形成材を除去し、前記絶縁膜を多孔質絶縁膜にする工程と、前記絶縁膜を形成する工程および前記プラズマ処理する工程を繰り返して行うことにより、前記多孔質絶縁膜の上に1以上の他の多孔質絶縁膜を積層して所定の膜厚の層間絶縁膜にする工程とからなる層間絶縁膜の形成方法」が発明された(特許文献6)。この発明では多層配線半導体集積回路に使われる層間絶縁膜中に含まれる空孔形成材の除去率を高めることができる。又、空孔形成材が絶縁膜から抜け出す際の分子構造の破壊を抑制することもできる。したがって、比誘電率が低く、機械的強度にも優れた層間絶縁膜を形成することが可能となる。しかしながら、この発明では空孔径の制御は行われておらず、又、空孔径そのものが明らかにされていない。
また、以下の発明がなされた。層間絶縁膜として用いるシリカ絶縁膜中にベンゼン核を添加することにより、低誘電率化を達成し、また、真空中などで加熱処理することで膜中のベンゼン核を除去して空孔とし、さらに低誘電率化することができる(特許文献7)。この発明の場合においても、空孔径は明らかにされていないし、空孔径が制御できるということ自体も明らかにされていない。この発明ではアルキルアルコキシシランにより炭化水素成分を導入しており、炭化水素成分量が変えられないため、空孔径制御自体が困難であったのではないかと考えられる。
空孔を導入したシリカ薄膜の用途によって、空孔の大きさのみならず空孔の形状が制御されている必要がある。低分子量分子センサーや生化学センサーなどの各種高感度センサー材料、極微小クロマト分離用材料、高選択性分離膜、濾過膜材料への応用においては、対象分子の大きさ程度で、膜外と連結した開放空孔が好ましいとされている。前記、低誘電率絶縁膜材料、反射防止膜材料として用いるには、外界からの汚染物質による性能低下を低減するために閉鎖空孔が求められている。
従来、単一液体原料による化学気相堆積膜や複合液体原料による湿式塗布法では半径1.0nm以下の空孔制御ができない。半径1.0nm以下の空孔制御が可能になると、機械強度が向上した低屈折率および低誘電率の薄膜材料が期待でき、技術的に飛躍した材料の提供が期待できる。
上記の方法と相違するプラズマ化学気相堆積(以下、PECVD)法を適用して作製したシリカ薄膜では、PECVD法におけるプロセスパラメータによりサブナノスケールの微細空孔構造(空孔半径にして0.3nm-1.0nmの範囲)および形状を制御できない状態にあるものの、かなりの進展が期待できる。
シリカ薄膜中に存在する空孔に関して、従来から得られてきたものより小さく、その大きさが特定の範囲に限定され、さらに閉鎖性が制御されている空孔を有するシリカ薄膜を得ることが技術的に必要である。
数値の点からその大きさを規定すると、PECVD法により有機・無機複合原料を用いてシリカを主成分とする薄膜中に半径が0.3nm-1.0nmの範囲のサブナノスケール空孔(IUPACによる定義でのミクロ孔に分類され、以後、サブナノ空孔と言う)を限定的に形成して、比誘電率および屈折率の減少したシリカ薄膜及びその製造方法を提供することである。
(a)前記シリカ骨格を形成するための原料であるケイ酸アルキル及び炭化水素からなる混合物の割合を特定すること(表1)。
(b)この混合物にPECVD法による操作を施すことにより基板上に複合薄膜を作製するために、プロセスパラメータとしてPECVDの成膜条件である希釈ガス流量、原料ガス全流量、反応炉内圧力、放電出力、基板温度、堆積時間をそれぞれ特定すること(表2)。
(c)薄膜の膜厚は、通常、1nm-1500nmの範囲、好ましくは、前記特定条件下で100nm-800nmの範囲にあること(表3)。
(d)前記により得られた複合膜中の炭化水素成分を300℃以上での加熱処理、もしくは、複合膜堆積時の基板温度での酸素プラズマ処理などにより分解脱離する場合に、炭化水素成分の脱離量に正に相関する、複合膜中で赤外吸収分光法により測定される1079cm-1のSi-O伸縮振動による特性吸収に対する2979cm-1のC-H伸縮振動による特性吸収相対強度とシリカ薄膜中で測定される1079cm-1のSi-O伸縮振動による特性吸収に対する2979cm-1のC-H伸縮振動による特性吸収相対強度差が0.09-0.17の範囲にあること(表4)、が挙げられる。
又、以上の条件を整理すると、半径が0.3nmから1.0nmの範囲の空孔を有するシリカ薄膜については、空孔半径に応じて波長630nmにおける屈折率が1.40から1.25の特定範囲に収まることを見いだした(図1)。
又、以上の条件を整理すると、複合膜中の炭化水素成分の脱離量に相関して波長630nmにおける屈折率が1.40から1.25の範囲で制御できることを見いだした(図2)。
その結果、従来得られていたシリカ薄膜と比較して小さな空孔を有し、かつ、比誘電率および屈折率の減少した新規なシリカ薄膜を得られることを見いだした。そして、波長630nmにおける屈折率から決定されたシリカ薄膜中に含まれる空孔の割合はシリカ薄膜全体の5%から40%の範囲にあること(表5)、さらに、導入されたサブナノ空孔の閉鎖性が複合膜中の炭化水素成分の分解脱離方法で制御できること (図3および表9)を見いだしたものである。
また、複合薄膜を作製し、炭化水素成分を300℃以上での加熱処理、もしくは、複合膜堆積時の基板温度での酸素プラズマ処理などにより分解脱離して半径1.0nm未満のサブナノ空孔を導入したシリカ薄膜が作製できる。複合膜の原料である混合物の組成比およびPECVDの成膜条件である希釈ガス流量、原料ガス全流量、反応炉内圧力、放電出力、基板温度、堆積時間などプロセスパラメータにより焼成前の複合薄膜の含有炭化水素成分量を変化させること、及び炭化水素成分の分解脱離方法、それぞれにより、屈折率、比誘電率、サブナノ空孔径、及びサブナノ空孔形状を制御可能とすることを見出して本発明を完成させた。
具体的には、単一液体原料による化学気相堆積法や複合液体原料による湿式塗布法では半径1.0nm以下のサブナノ空孔制御ができなかったものである。また、単一液体原料によるPECVD法ではプロセスパラメータによりサブナノスケールの微細空孔構造(空孔半径にして0.3nm程度)を制御していたが、本発明により半径0.7nm以上の空孔を伴ったシリカ薄膜の作製が可能となったものである。また、複合膜中の炭化水素成分の存在量により全空孔量を制御することができ、屈折率1.27程度のシリカ薄膜材料を得ることできる。また、屈折率1.27のシリカ膜の空孔量は約37%と見積もられるが、このときの空孔半径は0.9nm以下であるため、より大きい空孔を持つ、湿式塗布法により得られた同屈折率のシリカ系メソ多孔質膜 [空孔半径1.0nm以上、文献:K. Ito, et al., Radiation Physics and Chemistry, Vol.68, 435-437 (2003)] よりも局所的な機械強度に優れると考えられる。
空孔形状が制御できるため開放空孔を応用した揮発性有機化合物(VOCガス)など低分子量分子センサー、および、酵素反応と組み合わせた生化学センサー、極微小クロマト分離と組み合わせたコンビナトリアルオンチップ材料や高選択性分離膜、濾過膜材料への用途以外にも、汚染物質による影響を低減するために閉鎖空孔が好まれる次世代半導体に利用される高い機械強度を必要とする低誘電率層間絶縁膜材料、光の透過性に優れた反射防止膜など汎用光学フィルター、長期安定性が必要なナノ空孔測定標準物質などの用途に適している。
シリカ薄膜の膜厚は材料としての適用目的に応じて任意の大きさに決められるものであるが、通常、1nm-1500nmの範囲、好ましくは特定条件下で 100nm-800nmの範囲にあるものである。本発明のシリカ薄膜上にさらに同工程を用いてシリカ薄膜を積層することにより、より大きな膜厚を得ることができる。
半径が0.3nm-1.0nmの範囲に制御されたサブナノ空孔を含有するシリカ薄膜が得られることについては、図1、表6、表7、および、表8に示したとおりである。
前記シリカ薄膜中に含まれる空孔の割合が炭化水素成分の脱離量に相関して波長630nmにおける屈折率が1.40から1.25である(図2)。また、前記シリカ薄膜中に含まれる空孔の割合が炭化水素成分の脱離量に相関してシリカ薄膜の全体の5%から40%である(表5)。
複合膜中の炭化水素成分の分解脱離方法に依存して空孔の閉鎖性が制御されたサブナノ空孔を含有するシリカ薄膜が得られることについては、図3に示したとおりである。
含有する空孔半径が0.3nm-1.0nmの範囲に制御されたシリカ薄膜が得られることについては以下に説明する。
(1)シリカ骨格を形成するための原料であるケイ酸アルキル及び炭化水素からなる混合物を形成する工程、(2)前記(1)の混合物にPECVD法による操作を施すことにより基板上に複合薄膜を作製する工程、(3)前記(2)で得られた複合薄膜中の有機物質を300℃以上での加熱処理又は複合膜堆積時の基板温度での酸素プラズマ照射処理などにより分解脱離させる工程。以下に各工程について詳述する。
シリカ骨格を形成するための原料であるケイ酸アルキルと炭化水素からなる混合物を形成する。
ケイ酸アルキルとは、ケイ酸の水酸基がアルコキシ置換されている化合物である。アルコキシはメトキシ、エトキシ、プロピロキシ、ブトキシなどから選ばれるものが用いられる。これらのうちいずれでも採用することができる。通常、ケイ酸エチル[Tetraethyl orthosilicate(TEOS): (C2H5O)4Si]を用いる。
この化合物は市販のものを適宜購入して用いることができる。
ここでの炭化水素とは、比較的沸点が低い揮発性の炭化水素の意味であり、次のPECVD法において作製する複合膜の原料とすることができるものの意味である。
炭化水素はPECVD法における処理工程で原料ガスとして利用可能な形態、すなわち、加熱などにより減圧下で揮発性状を有する、各種アルカン、アルケン、アルキン、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などから選択できる。炭化水素の例として、メタン、エタン類(エタン、エチレン、アセチレン)、プロパン類(プロパン、プロピレンなど)、ブタン類(ブタン、2メチルプロパンなど)、ペンタン類(ペンタン、2メチルブタン、2,2,ジメチルプロパンなど)、ヘキサン類(ヘキサン、シクロヘキサン、2,2ジメチルブタンなど)、ヘプタン類(ヘプタン、2メチルペンタンなど)、オクタン類(オクタン、2メチルヘプタンなど)、ノナン類(ノナン、2メチルオクタンなど)、環状芳香族類(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン、トルエンなど)が挙げられる。前記原料ガスとしての条件を満たしていれば、他の揮発性炭化水素溶剤および炭化水素ガスも利用可能である。
ケイ酸アルキルと炭化水素による混合物中の炭化水素が占める割合(炭化水素/ケイ酸アルキル)は、通常、次工程のPECVD法に用いる装置に付属する成膜反応炉内への単位時間あたりの流量の比率に応じて適宜選択することができる。混合割合は特定条件下であることが必要であり、この混合割合は、本発明で規定する0.1から1.5の範囲である。この範囲であれば問題ない。この範囲で複合膜の含有炭化水素量を最大とすることができる。
混合時の処理温度は次工程のPECVD法に用いる装置に付属する成膜反応炉内へ混合原料を導入する配管内で混合原料が凝縮しない温度以上、通常は100℃程度、に設定される。
ケイ酸アルキルと炭化水素からなる混合物の単位時間あたりの総導入流量は、次工程のPECVD法に用いる装置の処理能力に応じて定められる。
基板には、成膜時の基板温度、および炭化水素成分の分解脱離させる次工程で変性、変形及び分解しないような多孔質アルミナ、非多孔質シリカなどの各種酸化物、シリコンなどが用いられる。
前記(1)で得られた混合物に対して、PECVD法を施す。
PECVD法による複合膜の堆積条件は以下のとおりである。
ケイ酸アルキルの単位時間あたりの流量は、1sccm-100sccm、好ましくは20sccm-50sccmである。
炭化水素の単位時間あたりの流量は、1sccm-100sccm、好ましくは4sccm-35sccmである。
ケイ酸アルキルガスおよび炭化水素ガスを混合して得た、前記混合原料は反応炉内へ導入される際、希釈用ガスにより希釈される。希釈用ガスとしてアルゴン、ヘリウム、窒素、クリプトンなど不活性ガスを用いることができる。希釈用不活性ガスの単位時間あたりの流量は、1sccm-1000sccm、好ましくは40sccm-80sccmである。
成膜反応炉内は圧力を低く保つ。具体的な操作圧力は、10Pa-200Paであり、好ましくは50Pa-150Paである。
高周波RF放電出力は、1W-300W、好ましくは200W-300Wである。
基板温度は、20℃-200℃、好ましくは80℃-100℃である。
複合膜の含有炭化水素成分量を増加させるためには、PECVD法において複合膜を堆積中に酸化ケイ素よりも化学結合の弱い炭化水素(Si-O結合の平均解離エネルギー100 kcal/mol程度に対してメチレン型C-C結合は80 kcal/mol程度の平均解離エネルギーである)が分解することを抑制するため、例えば、(a)原料ガスで満たされた反応炉内圧力を放電出力で除した値に比例する単位分子あたりに加わるエネルギーを減少させる、(b)基板温度を低下させる、(c)混合物原料中の炭化水素の相対流量が少ないときはケイ酸アルキルの相対流量を減少させる、ことが有効である。しかしながら、これら条件は同時にケイ酸アルキル原料の反応性を低下させることになるため、結果として、シリカ膜作製時の堆積速度減少、均質性低下などの負の要因になりうる。これらを考慮の上、前記(1)および(2)の工程に関して前記処理条件内で混合物の混合割合およびプロセスパラメータを変化させることにより複合膜の含有炭化水素成分量を増加することができる。
前記混合物の混合割合およびプロセスパラメータの最適化により複合膜中の含有炭化水素量を最大にできることは実施例の表1および表2にある試料番号1および試料番号2に示すとおりである。
表2に示すとおり、複合膜中の含有炭化水素成分量が増加するほど、炭化水素成分が分解脱離する量も増加する。その結果、図2に示すとおり、全空孔量を増加させることができ、その結果、屈折率を低下させることができる。
複合膜中の含有炭化水素量を最大にした場合に導入されたサブナノ空孔径が最大になることは、実施例における試料番号1と同一条件にて複合膜を作製した試料番号24(表7)および試料番号2と同一条件にて複合膜を作製した試料番号17(表6)に示すとおりである。
プロセスパラメータは前記範囲内で変化させることができる。
複合膜中の炭化水素成分を分解するに十分なエネルギーを与えることにより炭化水素成分を複合膜内から脱離して半径1.0nm以下のサブナノ空孔を含有するシリカ膜を作製する。複合膜中の炭化水素成分量を増すことにより導入した空孔の大きさおよび量を増加することができる。
炭化水素成分の分解脱離は、電力、マイクロ波、赤外線などによる加熱処理もしくは複合膜堆積時の基板温度での酸素プラズマ、紫外線、ガンマ線、電子線照射処理などにより行うことで達成される。加熱処理を行うときの温度は300℃以上に上昇させる必要がある(図4)。さらに、脱離量を最大とするためには550℃以上に上昇させればよい。熱処理温度に応じて炭化水素成分の脱離量を制御できることは図4に示したとおりである。
複合膜堆積直後、TEOS蒸気存在下、基板温度を150℃-300℃の範囲で保ち焼鈍することにより複合膜を構成するシリカ骨格の重合反応を完了させ、前記炭化水素成分の分解脱離後のシリカ薄膜を大気に暴露した際におけるシリカ薄膜表面のひび割れ抑制など機械強度を向上させることができる。
本発明により半径0.3nmから半径1.0nm未満の範囲の空孔を伴ったシリカ薄膜の作製が可能となる。また、炭化水素成分の混合比により空孔の大きさおよび空孔量を制御することができ、低屈折率のシリカ薄膜を得ることができる。
本発明により得られたシリカ膜内に形成されるサブナノ空孔の形状は炭化水素成分の分解脱離処理の方法に依存する。吸着偏光解析法で確認されるように、加熱処理によって形成された空孔は主に薄膜外に連結した開放空孔であり、酸素プラズマ照射処理によって形成された空孔は主に薄膜外から孤立した閉鎖空孔である(図3)。
図2は、赤外吸収分光法により測定される1079cm-1のSi-O伸縮振動による特性吸収に対する2979cm-1のC-H伸縮振動による特性吸収相対強度の炭化水素成分の分解脱離前後の差に対する波長630nmにおける屈折率、および、屈折率から見積もった全空孔量を示す図である。
図3は、サブナノ空孔形成における炭化水素成分の分解脱離方法に依存してサブナノ空孔の閉鎖性が変化することを示す図である。
図4は、複合膜を熱処理した時における炭化水素成分脱離量の加熱温度依存性を示す図である。
その結果、従来得られていたシリカ薄膜と異なり、より微細な空孔構造をもちながらも比誘電率及び屈折率が低減した新規なシリカ薄膜が得られた。
複合膜中の炭化水素成分の分解脱離によるサブナノ空孔形成:加熱処理により分解する場合は、作製した各試料を赤外線炉もしくは電気管状炉を用いて乾燥窒素雰囲気中で400℃もしくは600℃で加熱することにより複合膜中に存在する炭化水素成分の分解脱離を行った。酸素プラズマ照射により分解する場合は、複合膜堆積直後の反応容器内で基板温度を堆積条件と同一とし、反応炉内に所定流量の酸素ガスを導入した後、反応炉内が酸素ガスにより所定圧力になった時点でRF高周波電源により酸素ガスのグロー放電を生じさることにより複合膜中に存在する炭化水素成分の分解脱離を行った。
電子の反粒子である陽電子はシリカなど絶縁体中に入射するとその一部が電子と結合してポジトロニウム(Ps)を形成する。Psには陽電子と電子のスピンの向きによりパラ-Ps(p-Ps:1重項)とオルト-Ps(o-Ps:3重項)の2つの状態があり、p-Psの固有寿命は125psと短いが、o-Psのピックオフ寿命は1ns以上と長く、空孔などにトラップされた場合はその空間の大きさに相関した寿命で消滅するためサブナノ空孔の大きさを求めることができる。産総研直線加速器高強度低速陽電子ビーム施設に付属の測定装置を用いてエネルギー可変パルス化陽電子消滅寿命測定を行い、得られた陽電子消滅寿命データを陽電子消滅モード数の指数関数の和で解析して最長寿命成分であるo-Psの平均寿命を求めた。理論モデルに基づいた較正曲線を用いてo-Ps寿命から空孔サイズを算出した。
空孔の閉鎖性は開放空孔率が低いほど高い。開放空孔率は吸着偏光解析測定法により室温におけるヘプタンの吸着等温線を観測して決定した。膜組成が一定の場合、屈折率が1の空孔形成により膜全体の屈折率nfiは減少するが、開放空孔に屈折率nad(=1.39)のヘプタン分子が吸着した場合、その量に応じて観測される膜の屈折率nobは増加する。ここで、吸着分子で埋められる開放空孔量Vfは
の関係を用いて測定できる。そして、全開放空孔量はヘプタンの相対圧力依存性を観測したときのVfの飽和値Vsから算出できる。なお、ローレンツ・ローレンスの関係から屈折率nと全空孔率Vpの関係は以下のように表される。
ここで下付の添え字、sk、fiはシリカ骨格(屈折率=1.46)、屈折率が1の空孔を含んだ膜全体の値にそれぞれ対応する。この式から膜中の空孔量が増加すると膜の屈折率nfiは減少する。開放空孔率Voは
で定義した。
表1:複合膜作製のためのケイ酸エチル(TEOS)およびシクロヘキサンの混合比
表2:複合膜作製のためのPECVD時のプロセスパラメータ
表3:シリカ薄膜の厚さ
表4:炭化水素成分の分解脱離による炭化水素成分の相対減少量
表5:シリカ薄膜の630nmにおける屈折率および全空孔量
表6:熱処理にて炭化水素成分を分解脱離して得たシリカ薄膜の空孔半径
表7:熱処理にて炭化水素成分を分解脱離して得たシリカ薄膜の空孔半径
表8:酸素プラズマ処理にて炭化水素成分を分解脱離して得たシリカ薄膜の空孔半径
表9:炭化水素成分の分解脱離方法と空孔形状の関係
Claims (2)
- 基板上に形成されたシリカ薄膜中に含まれる空孔が半径0.3nmから半径1.0nm未満の範囲に特定された空孔であって、当該空孔の割合が体積率でシリカ薄膜の全体の5%から40%であることを特徴とするシリカ薄膜を製造する方法であって、炭化水素の割合が0.1から1.5のケイ酸アルキル及び炭化水素からなる混合物を形成し、この混合物にプラズマ化学気相堆積法による操作を施すことにより基板上に有機シリカ複合薄膜を作製する工程、および、前記得られた複合薄膜に300℃以上での加熱処理もしくは有機シリカ複合膜堆積時の基板温度での酸素プラズマ処理を施し、これにより有機物質を分解脱離させる工程を有し、当該プラズマ化学気相堆積法による操作が、ケイ酸アルキル流量20sccm-50sccm、炭化水素流量4sccm-35sccm、希釈用不活性ガス流量40sccm-80sccm、成膜反応炉内圧力50Pa-150Pa、高周波RF放電出力200W-300W、基板温度80℃-100℃で施され、当該加熱処理もしくは酸素プラズマ処理が、当該処理前の複合膜中で赤外吸収分光法により測定される1079cm-1のSi-O伸縮振動による特性吸収に対する2979cm-1のC-H伸縮振動による特性吸収の相対強度と当該処理後のシリカ薄膜中で測定される1079cm-1のSi-O伸縮振動による特性吸収に対する2979cm-1のC-H伸縮振動による特性吸収の相対強度の差が0.09-0.17の範囲になるように施されることを特徴とし、基板として、成膜時の基板温度、および炭化水素成分を分解脱離させる次工程で変性、変形及び分解しない基板を用いることを特徴とする、シリカ薄膜の製造方法。
- 前記基板がシリコンであることを特徴とする請求項1に記載のシリカ薄膜の製造方法。
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