JP4628579B2 - 多孔質架橋重合体の製造方法 - Google Patents

多孔質架橋重合体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油中水型高分散相エマルション(Water in Oil type High Internal Phase Emulsion;以下「HIPE」とも記載)の連続重合により、オープンセル(表面も内部も連通孔の形成されている連続気泡)を有する多孔質架橋重合体を製造する方法に関し、より詳しくは、連続重合手段へのHIPEの供給方法が改善された多孔質架橋重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
HIPE法によって得られた多孔質架橋重合体は、孔径の微細な連続気泡を有するといった優れた特徴を有し、(1)液体吸収材;例えば、▲1▼尿などの排泄物等を吸収するおむつのコア材、▲2▼油、有機溶剤などを吸収する廃油処理剤、廃溶剤処理剤、(2)エネルギー吸収材;例えば、音や熱を吸収する、自動車や建築用の防音材・断熱材、(3)薬剤含浸基材;例えば、芳香剤、洗浄剤、つや出し剤、表面保護剤、難燃化剤などを含浸させたトイレタリー製品、などに幅広く利用されている。
【0003】
原料となるHIPEは、ボールミル、ホモミキサー、ピンミキサー、スタティックミキサー等の乳化装置によって、水相と油相とを混合させることによって得られる。工業的には、得られたHIPEを乳化装置から直接的に重合工程に供給することは難しく、パイプライン等の移送ラインを経て重合工程へ移送される。
【0004】
HIPEの重合は、HIPEの安定性、均質性および生産性の観点からは、水平搬送しながら高速で連続重合することが好ましいが、連続重合にあたっては、移送ラインによって移送されたHIPEを連続重合装置の幅方向に展開する必要がある。
【0005】
しかしながら、HIPEが移送ラインから吐出され重合装置に供給されると、剪断力は、ほぼゼロとなる。このとき、非ニュートン性流体の性質を有するHIPEは非常に高粘度となり、パイプの幅程度にしか展開しないため、何らかの手段を用いて幅方向に展開させなければならない。
【0006】
この問題を解決する手法として、コーターを用いて展開させる方法が考えられる。しかしながら、十分に展開させるためには、溜めこみ部分(バンク)を設ける必要があり、バンクにおける滞留中にHIPEが徐々に離水してエマルションが破壊されたり、重合性HIPEの場合はバンク内で重合して硬化し、製品の品質を劣化させる原因となる恐れがある。
【0007】
したがって、予めHIPEをある程度展開させた状態で連続重合装置に供給し、バンクにおけるHIPE滞在量を少なくする手法が有効であり、展開手段としてはダイスを用いる方法や、特開平5−154932号公報に開示されているような、いわゆるトーナメント方式パイプラインを用いる方法がある。
【0008】
しかしながら、上述したようにHIPEは剪断力が確保されていない状況下では、容易に離水してエマルションが破壊される特性を有する。この現象は、移送搬送中、ダイス中、トーナメントパイプライン中においても発生するため、幅方向への展開を図っても、供給されたHIPEのエマルションが既に破壊されており、重合物の品質が劣化する問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、優れた品質を有する多孔質架橋重合体を水平連続重合により製造する方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、連続重合手段の幅方向にHIPEを展開して供給する手段の内部または近傍に混合手段を設けることにより、上記課題を解決できる点に着目し完成されたものである。即ち本発明は、油中水型高分散相エマルションを水平連続重合することによる多孔質架橋重合体の製造方法であって、前記エマルションは、水平連続重合に用いる可動支持体に混合しながら供給され、かつ、前記可動支持体の幅方向に展開されて供給されることを特徴とする製造方法である。
【0011】
前記エマルションは、トーナメント方式パイプラインによって展開されることが好ましい。
【0012】
前記トーナメント方式パイプラインから吐出されたエマルションの流束が、隣接するエマルションの流束と重なり合うことが好ましい。
【0013】
前記エマルションは、ダイスによって展開されることが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
まず、図面を用いて本発明に係るHIPEの連続重合に使用される連続重合装置について説明する。なお、以下に記載する連続重合装置は単なる一実施形態に過ぎず、各種公知の連続重合装置を用いることができる他、種々の技術を応用した改良形態も本発明に係る連続重合装置に含まれることは勿論である。
【0015】
図1に、本発明に係る水平連続重合装置の一実施形態の模式図を示す。HIPEは、展開手段119によって、一定速度で水平方向に走行する可動支持体201上に供給される。なお、本発明において「水平」とは略水平を意味し、重合において悪影響が生じない程度であれば厳密に水平でなくともよい。可動支持体201は、▲1▼一度成形したHIPEの形状を保持する機能、▲2▼下部に漏れ出さないようにHIPEを支持する機能、▲3▼重合温度に晒されても劣化しない機能、▲4▼一定速度で水平方向に走行し供給されたHIPEを搬送する機能を有するものであれば特に制限されるものではない。したがって、成形後に折れたり、曲がったり、撓んだりしない程度の強度を有するものを、単独または組み合わせて使用する必要がある。生産コストを削減させる観点からは、図示するようなエンドレスベルト式のコンベアが好ましいが、エマルションおよび重合体を搬送する可動支持体の形態は、これに限られるものではなく、例えばジャケット付き帯状プレートなどであってもよい。
【0016】
可動支持体201上には、供給されたHIPEを平滑な層状に成形するため、これと同一速度で同一方向に走行するPETフィルム等からなる巻出・巻取式のシート材料203が設けられていることが好ましい。シート材料203を同一速度で同一方向に走行させるためには、巻出ローラー208、巻取ローラー212を設け、必要に応じて回転速度を制御する方法を用いることができる。連続使用する可動支持体201上にHIPEを直接供給する場合には、重合後に可動支持体201から多孔質架橋重合体を剥がす際に、可動支持体201上に多孔質架橋重合体が残存付着することがある。しかし、シート材料203を用いることにより、より簡単に付着物を除去(剥離)することができ、低コストなシート材料203を使い捨て方式にすることもできる。また、シート材料203は、材質を適宜選択することによってHIPEに対する酸素量低減手段としても作用する。
【0017】
同様に、成形されたHIPE上部にも、HIPEと同一速度で同一方向に走行する巻出・巻取式のシート材料205が設けられていることが好ましい。これによってHIPEの上部の酸素量を低減することができ、多孔質架橋重合体の表面性状を好適なものに調整できる。また、連続して供給される流動性の少ないソフトクリーム状のHIPEの漏洩を防止することができる他、HIPEの成形幅および成形厚さを自由にコントロールすることができるという利点も有する。なお、HIPEの成形厚みは、回転ローラー209および211の設定高さによって調整することができる。シート材料205を同一速度で同一方向に走行させる手段としては、下面シート材料203の場合と同様に、巻出ローラー207、巻取ローラー213を設け、必要に応じて回転速度を制御する方法を用いることができる。
【0018】
重合装置周辺の空気とHIPEとの接触を遮断するためには、上面シート材料は、重合装置において重合反応が進行する部位に少なくとも設けられていることが好ましく、HIPE供給部分に近いほど好ましい。また、上面シート材料の材料は、一定の張力をかけても破損されないものであり、重合温度に晒されても劣化しないものであれば特に制限されるものではなく、各種公知のフィルム、不織布、織物等が使用できる。
【0019】
リサイクルの観点から、上面シート材料または下面シート材料は、耐久性、離型性に優れる材質を用いてエンドレスベルト式にしてもよい。
【0020】
供給されたHIPEと酸素との接触を遮断するためには、周囲空気よりも酸素含有量の低い気体、好ましくは酸素を含まない不活性ガスで、供給されたHIPE周辺を覆ってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガスおよびこれら2種以上の混合ガスなどが挙げられる。なお、不活性ガスで覆う手法と、上面シート材料を用いる手法とを併用しても良いことは勿論である。
【0021】
具体的には、HIPEを覆う雰囲気は、酸素含有量が2.0体積%以下であることが好適であり、0.2体積%以下がより好適であり、酸素のない雰囲気下ないし状態にすることが特に好適である。酸素含有量が2.0体積%を超える場合には、HIPEの外表面部の表層部分が未重合になり、重合体の品質が劣化する恐れがあるからである。
【0022】
上面シート材料205には、可動支持体201の幅方向または走行方向に張力を作用させることが好ましい。これにより、HIPEの非ニュートニアンでチキソトロピックな特性に起因して生じる、上面シート材料205のたわみや多孔質架橋重合体表面のしわを抑制でき、また、多孔質架橋重合体の厚み精度を高めることができる。さらに、後述するように可動支持体201または下面シート材料203の、幅方向の両端に堰を設けた場合には、上面シート材料に加えられる張力により堰を押さえることができ、端部での空気遮断性を向上させ、重合阻害を起こり難くできる。張力発生手段としては、1)テンションローラー法、2)クリップテンター法、および3)ピンテンター法などを用いることができる。なお、本発明において可動支持体201の幅方向とは、重合装置において、供給されたHIPEが搬送される方向に対して直角の方向をいう。
【0023】
可動支持体201の幅方向の両端に堰を設けてもよい。このような堰を設けることにより、連続して供給されるHIPEの漏出の防止、成形後のHIPE形態の保持、HIPE未重合の防止等の効果が得られる。
【0024】
堰は可動支持体201の幅方向に固定された固定方式であっても、堰が可動支持体に摺接した状態で駆動する移動方式であってもよい。また、可動支持体と堰を一体に製造したもの、即ちエンドレスベルトの幅方向の断面形状が凹形状のものを用い、可動支持体に堰としての働きを持たせてもよい。こうした場合、堰の高さの調整ができないが、同じ製品を工業的に大量生産するような場合に好適である。
【0025】
堰の形状は、所期の目的を達成し得るものであれば特に制限されるものではなく、円形、楕円形、四角形、台形、半円形など、種々の形状を用いることができる。
【0026】
堰の材質は、弾性および可撓性の低いものでも使用可能であるが、HIPEに対して膨潤性の少ないもの、HIPEの重合による熱劣化の少ないもの、HIPE重合物である多孔質架橋重合体に対して離型性の良好なものが好ましい。具体的には、クロロプレンゴム、シリコンゴムのようなゴム材、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体のようなフッ素樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーのような熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0027】
重合装置には、供給されたHIPEの厚みを精度良く調整するため、コーター103を設けることができる。以下にその機構について図2を用いて簡単に説明する。
【0028】
コーター103(図にはナイフコーターの例を示す)を用いた場合、コーター103の入口側と出口側との間のヘッド差105により、コーター103と可動支持体101の間にHIPEが流入する。
【0029】
チキソトロピックな流体であるHIPEの場合、コーター103前後の剪断速度変化によりコーター下面107の下部のHIPEは低粘度、コーター103の前後は非常に高粘度という環境になる。このため、過剰のHIPEがコーター103の下部に入りにくい状態が形成される(厳密には、ヘッド差105が流入の推進力となりうるが、その影響は小さい)。
【0030】
HIPEのようなチキソトロピックな流体の場合は、このような粘度差による障壁により、ドクターナイフ程度の簡単なコーターによっても賦形のみならず厚み規制が可能になる。
【0031】
コーターの種類としては、特に制限されるものではないが、ナイフコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、スロットオリフィスコーターなどの各種コーター類、回転ロールなどが挙げられる。
【0032】
コーターの断面形状は、長方形、正方形、台形、平行四辺形、多角形、楕円形、半円形、板形状、波板形状など特に限定されるものではなく任意の形状を採りうる。
【0033】
HIPEの成形厚みに関しては、シート状またはフィルム状でさえあれば必ずしもHIPEの成形厚さは問わないが、シート状の場合の厚さは、50mm以下、好ましくは40mm以下、より好ましくは20mm以下、特に好ましくは10mm以下である。50mmを超えるとHIPE全体が均一に重合せず、多孔質架橋重合体の物性が不均一になったり、重合中に離水が観察されたりすることがある。
【0034】
重合装置には、HIPEを加熱あるいは保温して重合するための重合炉215が設けられる。重合炉215内を水平に搬送されるHIPEは、上方および下方から加熱されることにより、重合反応が促進され、多孔質架橋重合体が製造される。
【0035】
上方から加熱する手段としては、熱風により上面シート材料205を介してHIPEを加熱・昇温し得る、熱風循環装置217が挙げられる。下方からの加熱手段としては、熱水を直接可動支持体201に吹き付ける熱水吹付装置219や、熱水循環により可動支持体を加熱する熱水循環装置(図示せず)や、熱プレートにより加熱する装置を設けることができる。
【0036】
このような加熱手段により重合炉215内を搬送されるHIPEは、硬化温度まで急速に昇温加熱され、その後、所定の硬化温度にて所定時間保持される。
【0037】
加熱手段は上記に制限されるものではなく、他にも、マイクロ波、遠赤外線、近赤外線などの活性熱エネルギー線を照射し得る連続出力マグネトロンなどを用いた発振器や各種赤外線ヒーターなどの手段が利用できる。また、重合炉215の後半部分は、形成された多孔質架橋重合体を速やかに冷却するために使用しても良く、この場合は、熱風循環装置や、熱水吹付装置や、熱水循環装置の温度設定を低くすることで対処できる。なお、熱風に窒素ガスを使用すれば、シート材料に代えて窒素ガスシールが可能であり、また、上部に熱水吹付装置を用いれば、シート材料に代えて水層シールが可能になり、これらは、酸素量低減手段であると同時に加熱手段としても機能し得るものである。なお、加熱昇温手段にマイクロ波を用いる場合には、渦電流により発火する恐れがあるため、装置材料やシート材料にアルミニウム等の金属材料を用いないよう留意する必要がある。
【0038】
昇温速度を速める観点からは近赤外線が好ましい。近赤外線はエネルギー効率が高く、発生装置も簡単なものにできるからである。特に、5℃/分以上の加熱昇温速度が必要な場合や、目的とする硬化温度が85℃以上である場合において近赤外線は効果的である。
【0039】
通常、HIPEの硬化温度は常温〜120℃であるが、HIPEの安定性、重合速度の観点からは、40〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましく、95〜100℃が特に好ましい。ただし、上記に規定する温度範囲内であれば硬化温度は重合中に変動してもよく、こうした重合の仕方を排除するものではない。
【0040】
硬化温度における保持時間に関しては、HIPEの組成や成形厚み等により異なるため一義的に規定することができないが、従来の連続方法とバッチ方法とを併用した重合方法に比べて、HIPEの供給から重合までを連続して行う本発明の重合方法では、数十秒〜60分の短時間で重合を安定に実施するのに有効である。例えば、走行する搬送装置が適当な重合炉内を通り抜ける際に重合完了するように搬送速度のみを制御すればよいからである。重合硬化時間は、好ましくは60秒〜60分の範囲である。重合硬化時間が60分を超える場合には、硬化炉を長くするか、または搬送速度を遅くする必要があるため多孔質架橋重合体の生産性が低下する。なお60秒未満の場合には、重合が完了しないため充分な物性の多孔質架橋重合体が得られない。しかしながら、上記より長い重合硬化時間を採用することを排除するものでは勿論ない。
【0041】
重合工程後(重合硬化時間経過後)は、所定の温度まで、冷却ないし徐冷されるが、重合法によっては、冷却することなく、後処理工程に移行しても良い。
【0042】
重合によって得られた多孔質架橋重合体には、(a)脱水、(b)圧縮、(c)洗浄、(d)乾燥、(e)切断、(f)含浸加工、などの後処理工程が施される。本発明に係る多孔質架橋重合体は、シート状の形状で得られるため、所定の間隔に調整したロールやベルト間を通すだけ脱水でき、作業性に優れている。また、圧縮したシート状ないしフィルム状の形態は、元の多孔質架橋重合体に比べて体積が小さく、輸送や貯蔵のコストを低減できる点においても有用である。製造効率を高めるために、あらかじめ所望する厚さより厚く水平連続重合し、得られた多孔質架橋重合体をスライスすることもできる。
【0043】
上記構成を有する連続重合装置にHIPEを供給し、上述の工程を実施することにより、多孔質架橋重合体を製造することができる。しかし、HIPEは自己レベリング性が乏しいため、可動支持体の幅方向への展開力が低い。このため、HIPEを供給後展開する場合には、展開中にHIPEが徐々に離水しエマルションの破壊が生じたり、重合性HIPEが重合して硬化したり、製品の品質を劣化させる原因となる。このため、本発明では展開手段を用いて予め可動支持体201の幅方向に展開した状態でHIPEを供給することを要件とする。また、HIPEは不安定であり、移送中に離水が進行し、エマルションが破壊される場合がある。そこで、本発明は、混合しながらHIPEを連続重合装置に供給することを要件とするものである。なお本発明において「混合しながら供給」とは、供給されるHIPEが再度離水しない程度に混合しながら供給することをいい、展開手段内部に設けるものであっても、展開手段直前に設けるものであってもよい。
【0044】
以下、HIPE供給方法について詳細に説明する。
【0045】
HIPEの展開手段としては、HIPEを幅方向に展開しうる手段であれば特に限定されるものではなく、トーナメント方式パイプラインや、ダイス等を用いることができる。また、連続重合装置に供給されるHIPEのエマルションの保持をより確実にしたい場合には展開手段内部に混合手段を設けることができる。混合手段の具体例としては、スタティックミキサー、ピンミキサーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
トーナメント方式パイプラインとは、パイプラインに等分分岐管を設けて、複数の吐出口からHIPEが吐出されるように配管されてなるパイプラインをいう。図3には、トーナメント方式パイプラインの基本形を示すが、勿論これに限定されるものではなく、使用する重合装置のサイズやHIPEの種類に応じて吐出口を調整したり、3等分分岐管を用いたりすることが可能である。
【0047】
また、図4に示すように、2等分分岐管を用いて移送されたHIPEを分割し、パイプライン1および2からHIPEを供給することにより、吐出流量分布を均一化することもでき、このような改良形態も本発明にいうトーナメント方式パイプラインの概念に含まれるものである。
【0048】
トーナメント方式パイプラインにおいて、移送されたHIPEを混合する場合、図5に示すように吐出口近辺に混合手段を設置する方式(図中、網目箇所が混合手段の設置される部位である)、図6に示すように全体に混合手段を設置する方式、トーナメント方式パイプラインの中間部分に混合手段を設置する方式(図示せず)など種々の混合方法があり、混合によりエマルションが保持されたHIPEを供給できるのであれば、いずれの方法を用いても良い。
【0049】
混合手段は、トーナメント方式パイプラインにHIPEが移送される直前に設けても良い。この場合は、混合手段によって混合されたHIPEがパイプラインに入るまでに要する時間が長くなると混合したHIPEが再度離水する恐れがあるため、前記時間は5秒以内であることが好ましく、1秒以内であることがより好ましい。
【0050】
このように混合手段をパイプライン内部または近傍に設け、混合しながら供給することにより、離水や破壊が生じていないHIPEを連続重合装置に供給でき、優れた品質を有する多孔質架橋重合体を製造できる。
【0051】
トーナメント方式パイプラインを用いて幅方向に展開した場合、ニュートン性流体を展開する場合と異なり、HIPEのような非ニュートン性流体を展開する場合は、吐出口から供給された各HIPEが完全に混じりあわず、コーター103などを用いても、図7に示すようにウエルドラインと呼ばれる欠陥が生じる場合がある。
【0052】
このようなウエルドラインの発生は、トーナメント方式パイプラインから吐出されたエマルションの流束が隣接する流束と重なり合うように供給することによって防止できる。具体的には、図8に示すようにパイプラインからの吐出口を互いに近づけることによって対応可能であり、コーター103を設ける装置構成にした場合はコーター103に搬送される過程で重なり合うように吐出位置を調整すればよい。連続重合装置に供給された直後の剪断力が十分にかかっている段階であれば、隣接する流束と好適に混合しうるからである。吐出口を互いに近づけた場合、パイプラインの幅方向への展開力が低下する可能性があるが、この問題はパイプラインの分岐点の増設や、吐出口の増加により対処できる。なお本発明において流束が重なるとは、吐出口から供給されたHIPEが、搬送方法に移動中に隣接する吐出口から供給されたHIPEと重なり、交じり合うことをいう。
【0053】
ダイスの好適な例としては、Tダイ、フィッシュテールダイ、スクリューダイ等が挙げられる。なお、HIPEを可動支持体201の幅方向へ展開させる観点からは、可動支持体の幅全体(堰がある場合は、両堰間)または少なくとも50%以上にダイスの供給口があるようにすることが好ましい。
【0054】
ダイスは可動支持体201の幅方向への均一性という観点においては、トーナメント方式パイプラインより一般的には優れており、高精度のダイスを用いて可動支持体の幅方向の均一性を十分に高められれば、コーター103等によりHIPEの成形を行わずとも十分製品として適応しうる多孔質架橋重合体を得ることも可能となる。
【0055】
ダイスに混合手段を設ける場合も、パイプラインの場合と同様に内部またはダイス直前に混合手段を設けることにより、離水や破壊が生じていないHIPEを連続重合装置に供給でき、優れた品質を有する多孔質架橋重合体を製造することができる。本発明に用いられるダイスの一実施形態の側面模式図を図9に示す。混合装置はリップ部111に設置してもよく、液溜め部109に設置してもよく、両者に設置することもできる。また直前に設ける場合は、混合手段によって混合されたHIPEがパイプラインに入るまでに要する時間が長くなると混合したHIPEが再度離水する恐れがあるため、前記時間は5秒以内であることが好ましく、1秒以内であることがより好ましい。
【0056】
HIPEは、可動支持体201上に直接供給してもよいし、シート材料203を設けた場合はシート材料203上にHIPEを供給してもよい。従来の方法においては、コーターやロール等の厚み規制装置を設けてHIPEの幅方向への展開を図る場合にはバンクを設けて展開する必要があった。この点、本発明においては、供給されるHIPEは予め幅方向に十分展開された状態で供給されるため、厚み規制装置を用いて厚み制御を行う場合にも、バンクを設ける空間を装置に設ける必要がない。したがって、厚み調整装置の直前に供給することができ、装置長さを短縮できるという利点を有する。さらに、バンクにおける滞留時間を短くできるため、連続重合装置の置かれている雰囲気中に酸素が含まれている場合であっても、酸素とHIPEとの反応を極力低下させることができる。このため、製造される多孔質架橋重合体の品質が優れたものとなる。
【0057】
以下、HIPE組成および製造方法について簡単に説明する。
【0058】
HIPEの組成としては、具体的には、(a)分子中に1個の重合性不飽和基を有する重合性単量体および(b)分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する架橋性単量体からなる単量体組成物、(c)界面活性剤、(d)水、並びに(e)重合開始剤を必須成分として含むものであればよく、特に限定されるものではない。なお、必要に応じて(f)塩類、(g)その他の添加剤を任意成分として含むものであってもよい。
【0059】
(a)の具体例としては、アリレン単量体、モノアルキレンアリレン単量体、(メタ)アクリル酸エステル、塩素含有単量体、アクリロニトリル化合物等が挙げられる。これらは、単量体組成物中に1種を単独で使用する他、2種以上を併用してもよい。
【0060】
(b)の具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルフラン、ジビニルスルフィド、ブタジエン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、などが挙げられる。これらは、単量体組成物中に1種を単独で使用する他、2種以上を併用してもよい。
【0061】
(c)は、従来公知のノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用することができ、ノニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックポリマー、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ナトリウムドデシルサルフェート、ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェートなどが挙げられる。なお、ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤を併用するとHIPEの安定性が改良される場合がある。
【0062】
(d)は、純水、イオン交換水の他、廃水の再利用を図るべく、多孔質架橋重合体を製造して得た廃水をそのまままたは所定の処理を行ったものを使用することができる。
【0063】
(e)重合開始剤は、逆相乳化重合で使用できる重合開始剤であればよく、水溶性、油溶性の何れも使用することができる。例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、過硫酸アンモニウム、t−ブチルヒドロペルオキシド、上記過酸化物と重亜硫酸ナトリウム等の還元剤とを組み合わせてなるレドックス開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0064】
(f)は、HIPEの安定性を改良するために必要に応じて用いられうる。具体的には、塩化カルシウム、硫酸ナトリウムなどの水溶性塩が挙げられる。
【0065】
(g)としては、製造条件や得られるHIPE特性や多孔質架橋重合体の性能の向上を達成するための各種化合物が挙げられ、例えば、pH調整のために加えられる塩基や緩衝剤が例示できる。これらの他の添加剤の含有量については、それぞれの添加の目的に見合うだけの性能・機能、さらには経済性を十分に発揮できる範囲内で添加すればよい。
【0066】
HIPE製法については、従来既知のHIPEの製法を適宜利用することができる。油相および水相をそれぞれ調製し、油相と水相とを混合する方法などを用いることができる。
【0067】
【実施例】
<実施例1:2口パイプライン、直前混合>
単量体成分として2−エチルヘキシルアクリレート5.1質量部(以下、単に「部」と称する)、42%ジビニルベンゼン(他成分はp−エチル−ビニルベンゼン)3.1部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート1.1部、界面活性剤としてグリセリンモノオレエート0.6部、ジタロウジメチルアンモニウムメチルサルフェート0.1部を加え、均一に溶解して、油相混合物溶液(以下、「油相」と称する)を混合した。
【0068】
一方、塩化カルシウム18部をイオンを交換水425部に溶解して、水相水溶液(以下、「水相」と称する)を調製し、95℃に加温した。油相と水相とを連続的に撹拌混合機に供給し、連続的に油中水滴型エマルション(HIPE)を形成させた。水相と油相との比(水相/油相)は44.3/1であり、HIPEの形成温度は95℃とした。
【0069】
得られたHIPEを連続的に撹拌混合機より抜き出し、予め95℃に加熱し周囲に加熱部材および保温部材を具備したスタティックミキサーに供給し、スタティックミキサーの入口より別途水溶性重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.5部を6部のイオン交換水に溶解した液を注入し、HIPEと重合開始剤とを連続的に混合した。これにより最終的な水相と油相との比は45/1になった。
【0070】
重合開始剤が加えられたHIPEを、保温・加熱された長さ5m、口径3/4インチのSUS316製フレキシブルチューブを用いて搬送した。次いで、搬送中に離水や破壊されたHIPEを元に戻すため、再度スタティックミキサーで混合し、直ちに管幅15cm、口径3/8インチの2口の吐出ノズル(トーナメントパイプライン)を用いて、一定速度で水平方向に走行するベルト上に供給した。ベルトは、有効幅50cmのエンドレススチールベルトとPETフィルムとからなるものを用い、95℃に加熱保持した。供給されたHIPEは離水もなく美しいHIPEであった。
【0071】
ロールコーターによってPETフィルムを供給されたHIPEに覆い被せ、同時に5mmに厚み規制した。ロールコーター前には、それぞれの吐出ノズルから供給された幅のバンクが形成されたが、ロールコーターにより直ちに賦形が成されるため、バンク部での滞留は無く、時間が経過してもHIPEの硬化物は発生しなかった。次いで95℃に調温された重合炉をラインスピード2m/分で通過させて重合させた。重合炉の通過に要した時間は約10分であった。硬化後のHIPEを観察したところ、ボイドの発生もなく、平滑性に優れた硬化物であった。
【0072】
<実施例2:2口パイプライン、内部混合>
実施例1と同様にして調製したHIPEを、保温・加熱された長さ5m、口径3/4インチのSUS316製フレキシブルチューブを用いて搬送した。スタティックミキサーが挿入された管幅15cm、口径3/8インチの2口の吐出ノズル(トーナメントパイプライン)を用いて、一定速度で水平方向に走行するベルト(可動支持体)上に供給した。ベルトは、有効幅50cmのエンドレススチールベルトとPETフィルムとからなるものを用い、95℃に加熱保持した。供給されたHIPEは離水もなく美しいHIPEであった。
【0073】
ロールコーターによってPETフィルムを供給されたHIPEに覆い被せ、同時に5mmに厚み規制した。ロールコーター前には、それぞれの吐出ノズルから供給された幅のバンクが形成されたが、ロールコーターにより直ちに賦形が成されるため、バンク部での滞留は無く、時間が経過してもHIPEの硬化物は発生しなかった。次いで95℃に調温された重合炉をラインスピード2m/分で通過させて重合させた。重合炉の通過に要した時間は約10分であった。硬化後のHIPEを観察したところ、ボイドの発生もなく、平滑性に優れた硬化物であった。
【0074】
<実施例3:ダイ、直前混合>
実施例1と同様にして調製したHIPEを、保温・加熱された長さ5m、口径3/4インチのSUS316製フレキシブルチューブを用いて搬送した。次いで、搬送中に離水や破壊されたHIPEを元に戻すため、再度スタティックミキサーで混合し、直ちに幅50cmのコートハンガー型ダイ(ダイス)を用いて、一定速度で水平方向に走行するベルト上に供給した。ベルトは、有効幅50cmのエンドレススチールベルトとPETフィルムとからなるものを用い、95℃に加熱保持した。供給されたHIPEは離水もなく美しいHIPEであった。
【0075】
ロールコーターによってPETフィルムを供給されたHIPEに覆い被せ、同時に5mmに厚み規制した。ロールコーター前には、それぞれの吐出ノズルから供給された幅のバンクが形成されたが、ロールコーターにより直ちに賦形が成されるため、バンク部での滞留は無く、時間が経過してもHIPEの硬化物は発生しなかった。次いで95℃に調温された重合炉をラインスピード2m/分で通過させて重合させた。重合炉の通過に要した時間は約10分であった。硬化後のHIPEを観察したところ、ボイドの発生もなく、平滑性に優れた硬化物であった。
【0076】
<比較例1:展開手段なし、混合なし>
実施例1と同様にして調製したHIPEを、保温・加熱された長さ5m、口径3/4インチのSUS316製フレキシブルチューブを用いて搬送し、一定速度で水平方向に走行するベルト上に供給した。ベルトは、有効幅50cmのエンドレススチールベルトとPETフィルムとからなるものを用い、95℃に加熱保持した。供給されたHIPEは可動支持体への供給段階で長距離の移送を行なったために離水しており、表面には目視で観察できるほどの水滴が形成されていた。
【0077】
ロールコーターによってPETフィルムを供給されたHIPEに覆い被せ、同時に5mmに厚み規制した。ロールコーター前には、HIPEの幅を広げる必要からバンクが形成されていた。形成されたバンクでは、離水が観察されると共に、時間が経つにつれてHIPEの硬化物が確認され、可動支持体の幅にまでHIPEが供給されなくなった。次いで95℃に調温された重合炉をラインスピード2m/分で通過させて重合させた。重合炉の通過に要した時間は約10分であった。硬化後のHIPEを観察したところ、離水によって形成された水滴によって目視できるほどの大きなボイドが発生していた。また、連続重合を続けるに従って、硬化物の幅は徐々に減少し、製品レベルにはほど遠いものであった。
【0078】
【発明の効果】
本発明においては、連続重合手段の幅方向にHIPEを展開して供給する手段の内部または近傍に混合手段を設けることにより、重合手段への供給時におけるエマルションの破壊や、重合炉における重合反応前の硬化による重合体品質への悪影響を抑制できる。このため、本発明に係る製造方法を用いることにより、多孔質架橋重合体は製造段階での品質が安定し、高品質で高性能な多孔質架橋重合体を安定して量産することができる。即ち、高い生産性を達成できる。
【0079】
また、供給されるHIPEは幅方向に十分展開された状態で供給されるため、重合装置においてバンク等の空間を設けて展開させる必要がない。このため、装置長さを短縮できることに加え、重合前の滞留時間の短縮によるHIPEと酸素との副反応を抑制することができ、製造される多孔質架橋重合体の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る水平連続重合装置の一実施形態の模式図である。
【図2】 コーターを用いた場合の機構を説明する図面である。
【図3】 トーナメント方式パイプラインの基本形の模式図である。
【図4】 トーナメント方式パイプラインの他の形態を示す図面である。
【図5】 トーナメント方式パイプラインにおいて吐出口近辺に混合手段が設けられた方式を示す図面である。
【図6】 トーナメント方式パイプラインにおいて全体に混合手段が設けられた方式を示す図面である。
【図7】 トーナメント方式パイプラインを用いた場合にウエルドが発生する状態を示す図面である。
【図8】 吐出口を近づけることによりウエルドの発生を抑制した状態を示す図面である。
【図9】 ダイスの一実施形態の側面模式図である。
【符号の説明】
103 コーター
105 ヘッド差
107 ダイス
109 液溜め部
111 リップ部
119 展開手段
201 可動支持体
203、205 シート材料
207、208 巻出ローラー
209、211 回転ローラー
212、213 巻取ローラー
215 重合炉
217 熱風循環装置
219 熱水吹付装置

Claims (4)

  1. 油中水型高分散相エマルションを水平連続重合することによる多孔質架橋重合体の製造方法であって、
    前記エマルションは、水平連続重合に用いる可動支持体に混合しながら供給され、かつ、前記可動支持体の幅方向に展開されて供給されることを特徴とする製造方法。
  2. 前記エマルションは、トーナメント方式パイプラインによって展開されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記トーナメント方式パイプラインから吐出されたエマルションの流束が、隣接するエマルションの流束と重なり合うことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
  4. 前記エマルションは、ダイスによって展開されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
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