JP4623756B2 - 放電加工機および放電加工方法 - Google Patents

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Description

本発明は、放電加工機および放電加工方法に関し、特に、放電加工の際に生じるワークの電気腐食を防止する放電加工機および放電加工方法に関する。
水系加工液にワークを浸漬して放電加工する場合、鉄系や超硬合金(焼結合金)のワークに電気腐食が生じることが知られている。ワークにおける電気腐食は、黄銅のワイヤ電極を負極、鉄系や超硬合金のワークを正極として、負極と正極の電位差から負極と正極との間に腐食電流が流れて、正極側のワークが溶出して生じると考えられている。また、水系加工液中の腐食性イオンが作用してワークに腐食を生じさせることもある。
そこで、このような電気腐食を防止すべく、例えば特許文献1および特許文献2に開示するような防食法を採用する放電加工機が提案されている。すなわち、特許文献1には防食法としていわゆる外部電源法が開示されており、この外部電源法は、ワークを補助電源(外部電源)のマイナス側に接続するとともにフロート電極(防食用電極)をプラス側に接続することにより、ワークの腐食を防止するものである。
また、特許文献2に開示された防食法は、亜硝酸イオンとともに炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび水酸化物イオンのうちの1種以上を固定した陰イオン交換樹脂を充填したカラムに水系加工液を循環通水することで腐食性イオンが除去されワークの腐食を防止するものである。
特開昭58−137524号公報 特開2002−301624号公報
しかしながら、上述した特許文献1の防食法においては、ワークの溶出による腐食は防止するものの、防食用電極から加工液に金属イオンが溶出してワーク表面に付着しワークに腐食や着色を生じさせることがあり、特許文献2の防食法は、鉄系材料のような不動態化金属の腐食を防止するような場合には有効となるものの、超硬合金に対しては亜硝酸イオンが腐食を促進させることがある等、従来においてはワークの溶出およびワークへの金属イオンの付着による腐食等を同時に解決し、かつ、ワークの各種材質にも広く適用可能な防食法は提案されておらず、ワークの各種の腐食形態に柔軟に対応することができなかった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ワークの各種の腐食形態に柔軟に対応することができる放電加工機および放電加工方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、放電加工機に係る請求項1の発明は、ワークを加工液に浸漬しつつ該ワークと工具電極との間に形成される極間に、ワークが正電位となり工具電極が負電位となる正極性およびワークが負電位となり工具電極が正電位となる逆極性の両極性を有する両極性電圧を印加する電源を有しワークの放電加工を行う放電加工機において、極間に印加される両極性電圧の平均電圧を所定の値に設定する平均電圧設定装置と、加工液にアデニンを添加するアデニン添加装置と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、極間に印加される両極性電圧の平均電圧を所定の値に設定する平均電圧設定装置と、加工液にアデニンを添加するアデニン添加装置と、を有することとしたので、平均電圧設定装置により極間の平均電圧を所定の値に設定して該ワークの溶出を低減させることができるとともに、アデニン添加装置により加工液にアデニンを添加して加工液中の金属イオンを錯体化し、金属イオンのワークへの付着も同時に低減させることができる等、ワークの各種の腐食形態に柔軟に対応することができる。なお、本発明者によりアデニンを加工液に添加することにより放電加工においてワークの各種材質に対し防食効果があることが明らかとされている。
平均電圧設定装置は、極間の平均電圧を、ワークの溶出を低減させることができる所定の値に設定する構成(請求項2)、例えば平均電圧設定装置は、極間の平均電圧を、逆極性側の所定の値に設定する構成(請求項3)とすることとすれば、ワークの溶出を確実に低減させることができる。
また、平均電圧設定装置は、両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定して極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることができる(請求項4)。
より詳しくは、平均電圧設定装置は、両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅と極間の平均電圧との相関を示すデータに基づいて両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定する構成とすることとすれば、両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を容易に設定しつつ極間の平均電圧を所定の値に設定することができる(請求項5)。
更に、平均電圧設定装置は、両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値を設定して極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることができる(請求項6)。
より詳しくは、平均電圧設定装置は、極間および該極間に両極性電圧を印加する電源装置に対し並列に接続された印加電圧値設定回路を有し、印加電圧値設定回路は、極間に両極性電圧における正極性側の電圧が印加されたときにのみ該印加電圧値設定回路に電流を流す正極性側ダイオードと、該正極性側ダイオードをオンオフするための正極性側スイッチと、極間に両極性電圧における逆極性側の電圧が印加されたときにのみ該印加電圧値設定回路に電流を流す逆極性側ダイオードと、該逆極性側ダイオードをオンオフするための逆極性側スイッチと、を備えることとすれば、極間に正極性側の電圧が印加されたときに正極性側スイッチをオンとし、かつ、逆極性側スイッチをオフとすることにより、該極間に正極性側の電圧が印加されたときにのみ印加電圧値設定回路に電流が流れるので、極間に印加される両極性電圧のうち正極性側のみ印加電圧値を減少させることができ、極間に逆極性側の電圧が印加されたときに逆極性側スイッチをオンとし、かつ、正極性側スイッチをオフとすることにより、該極間に逆極性側の電圧が印加されたときにのみ印加電圧値設定回路に電流が流れるので、極間に印加される両極性電圧のうち逆極性側のみ印加電圧の絶対値を減少させることができる等、両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値を所要に設定しつつ極間の平均電圧を所定の値に設定することができる(請求項7)。
また、平均電圧設定装置は、ワークの材質に対応して極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることとすれば、ワークの材質に対応した防食を行うことができ、ワークの各種の腐食形態に更に柔軟に対応することができる(請求項8)。
更に、平均電圧設定装置は、加工中および非加工中のそれぞれに対応して極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることとすれば、加工中および非加工中のそれぞれに対応した防食を行うことができ、ワークの各種の腐食形態に更に一層柔軟に対応することができる(請求項9)。
ここで、電源は加工中に極間に両極性電圧を印加する加工用電源と非加工中に極間に両極性電圧を印加する非加工用電源を備えることとすることができる(請求項10)。
放電加工方法に係る請求項11の発明は、ワークを加工液に浸漬しつつ該ワークと工具電極との間に形成される極間に、ワークが正電位となり工具電極が負電位となる正極性およびワークが負電位となり工具電極が正電位となる逆極性の両極性を有する両極性電圧を印加して放電を発生させワークの放電加工を行う放電加工方法において、極間の平均電圧を所定の値に設定するとともに、加工液にアデニンを添加することを特徴とする。
本発明によれば、極間の平均電圧を所定の値に設定するとともに、加工液にアデニンを添加することとしたので、極間の平均電圧を所定の値に設定して該ワークの溶出を低減させることができるとともに、加工液にアデニンを添加して加工液中の金属イオンを錯体化し、金属イオンのワークへの付着も同時に低減させることができる等、ワークの各種の腐食形態に柔軟に対応することができる。
極間の平均電圧を、ワークの溶出を低減させることができる所定の値に設定(請求項12)、例えば極間の平均電圧を、逆極性側の所定の値に設定(請求項13)することとすれば、ワークの溶出を確実に低減させることができる。
また、極間の平均電圧の設定は、両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定して行うことができる(請求項14)。
より詳しくは、極間の平均電圧の設定は、両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅と前記極間の平均電圧との相関を示すデータに基づいて前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定して行うこととすれば、両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を容易に設定しつつ極間の平均電圧を所定の値に設定することができる(請求項15)。
更に、極間の平均電圧の設定は、両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値を設定して行うことができる(請求項16)。
より詳しくは、極間の平均電圧の設定は、極間および該極間に両極性電圧を印加する電源装置に対し並列に接続された回路に、極間に両極性電圧における正極性側の電圧が印加されたときまたは極間に両極性電圧における逆極性側の電圧が印加されたときのいずれか一方のときのみに電流を流して行うこととすれば、極間に印加される両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値のうちいずれかのみ絶対値を減少させる等、両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値を所要に設定しつつ極間の平均電圧を所定の値に設定することができる(請求項17)。
また、極間の平均電圧の設定は、ワークの材質に対応して行うこととすれば、ワークの材質に対応した防食を行うことができ、ワークの各種の腐食形態に更に柔軟に対応することができる(請求項18)。
更に、極間の平均電圧の設定は、加工中および非加工中のそれぞれに対応して行うこととすれば、加工中および非加工中のそれぞれに対応した防食を行うことができ、ワークの各種の腐食形態に更に一層柔軟に対応することができる(請求項19)。
本発明によれば、ワークの各種の腐食形態に柔軟に対応することができる。
本発明の第1実施形態に係るワイヤカット放電加工機の全体概要を示す構成図である。 極間に印加された高周波両極性矩形波パルス電圧の電圧波形を示す図である。 ワイヤカット放電加工機における第1電源装置および第2電源装置の構成を示す回路図である。 加工中に極間に高周波両極性矩形波パルス電圧が印加されたときの回路構成を示す図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときの回路図である。 加工中に極間に高周波両極性矩形波パルス電圧が印加されたときの回路構成を示す図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときの回路図である。 極間の平均電圧を説明するための図である。 加工中に正極性側の電圧パルス幅のみを減ずることにより極間の平均電圧が逆極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 加工中に逆極性側の電圧パルス幅のみを減ずることにより極間の平均電圧が正極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 加工中に電圧パルス幅を正極性側および逆極性側のいずれも等しく設定することにより極間の平均電圧が略0Vに設定されたときの電圧波形を示す図である。 非加工中に極間に高周波両極性矩形波パルス電圧が印加されたときの回路構成を示す図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときの回路図である。 非加工中に極間に高周波両極性矩形波パルス電圧が印加されたときの回路構成を示す図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときの回路図である。 非加工中に正極性側の電圧パルス幅のみを減ずることにより極間の平均電圧が逆極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 非加工中に逆極性側の電圧パルス幅のみを減ずることにより極間の平均電圧が正極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 非加工中に電圧パルス幅を正極性側および逆極性側のいずれも等しく設定することにより極間の平均電圧が略0Vに設定されたときの電圧波形を示す図である。 ワイヤ電極の位置出しの際に極間に高周波両極性矩形波パルス電圧が印加されたときの回路構成を示す図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときの回路図である。 ワイヤ電極の位置出しの際に極間に高周波両極性矩形波パルス電圧が印加されたときの回路構成を示す図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときの回路図である。 加工液循環系統を示す系統図である。 アデニン添加装置の構成を示す図である。 アデニンの防食機構を説明するための図である。 NC制御装置(平均電圧設定装置)の構成を示すブロック図である。 加工中の電圧パルス幅のデータテーブルの構成を示す図である。 非加工中の電圧パルス幅のデータテーブルの構成を示す図である。 NC制御装置によるワイヤカット放電加工方法を説明するためのフローチャート、より詳しくはワイヤ電極の位置出し、アデニンの添加、加工終了に至るフローを説明するためのフローチャートである。 NC制御装置によるワイヤカット放電加工方法を説明するための図20Aに続くフローチャート、より詳しくは非加工中のフローを説明するためのフローチャートである。 本発明の第2実施形態に係る印加電圧値設定回路を含む回路構成を示す回路図である。 印加電圧値設定回路の回路構成を拡大して示す拡大回路図である。 加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れる状態を示す回路図である。 加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れない状態を示す回路図である。 非加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れる状態を示す回路図である。 非加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れない状態を示す回路図である。 加工中に正極性側の印加電圧値のみを減ずることにより極間の平均電圧が逆極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 非加工中に正極性側の印加電圧値のみを減ずることにより極間の平均電圧が逆極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れる状態を示す回路図である。 加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れない状態を示す回路図である。 非加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に逆極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れる状態を示す回路図である。 非加工中に極間に印加される高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の印加電圧値のみを減ずる場合の回路構成を示す回路図、より詳しくは極間に正極性側の電圧が印加されたときに印加電圧値設定回路に電流が流れない状態を示す回路図である。 加工中に逆極性側の印加電圧値のみを減ずることにより極間の平均電圧が正極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 非加工中に逆極性側の印加電圧値のみを減ずることにより極間の平均電圧が正極性側の所定の値に設定されたときの電圧波形を示す図である。 加工中に印加電圧値設定回路の各スイッチをオフとしたときに極間に正極性側の電圧が印加された状態を示す回路図である。 加工中に印加電圧値設定回路の各スイッチをオフとしたときに極間に逆極性側の電圧が印加された状態を示す回路図である。 非加工中に印加電圧値設定回路の各スイッチをオフとしたときに極間に正極性側の電圧が印加された状態を示す回路図である。 非加工中に印加電圧値設定回路の各スイッチをオフとしたときに極間に逆極性側の電圧が印加された状態を示す回路図である。 加工中に印加電圧値を正極性側および逆極性側のいずれも等しく設定することにより極間の平均電圧が略0Vに設定されたときの電圧波形を示す図である。 非加工中に印加電圧値を正極性側および逆極性側のいずれも等しく設定することにより極間の平均電圧が略0Vに設定されたときの電圧波形を示す図である。 加工中の印加電圧値のデータテーブルの構成を示す図である。 非加工中の印加電圧値のデータテーブルの構成を示す図である。 本発明の第2実施形態に係るNC制御装置によるワイヤカット放電加工方法を説明するためのフローチャート、より詳しくはワイヤ電極の位置出し、アデニンの添加、加工終了に至るフローを説明するためのフローチャートである。 本発明の第2実施形態に係るNC制御装置によるワイヤカット放電加工方法を説明するための図37Aに続くフローチャート、より詳しくは非加工中のフローを説明するためのフローチャートである。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の第1実施形態を示すワイヤカット放電加工機の概略を示す構成図である。同図を参照してワイヤカット放電加工機1の概要を説明すると、ワイヤカット放電加工機1は、ベース2と、ベース2の後部から立設するコラム3と、コラム3の前面上部に装着される加工ヘッド4と、ベース2の前部に載置される加工槽5と、加工槽5に収容されワークWを保持するワークテーブル6と、を有しており、加工ヘッド4に上側ガイド組体7が、コラム3の前面下部に下側ガイド組体8が、ワークWを挟むように備えられており、上側ガイド組体7と下側ガイド組体8との間に工具電極としてのワイヤ電極Eを連続的に供給し、ワークWを加工槽5において水系加工液(以下、水系加工液を単に加工液とする)に浸漬しつつワイヤ電極EとワークWとの間に形成される極間9に放電を発生させて放電加工を行う構成となっている。
すなわち、ワークWの放電加工は、第1電源装置10および第2電源装置20により、図2に示すように無負荷時の印加電圧値および該無負荷時の印加電圧1パルスの時間幅(以下、無負荷時の印加電圧1パルスの時間幅を無負荷時の電圧パルス幅または単に電圧パルス幅とする)を所定に設定した高周波両極性矩形波パルス電圧を極間9に印加しつつ、印加電圧1パルスの積算値とサーボ基準電圧とが一致するように極間距離を所要に制御して放電を発生させ、該放電の発生後は所定のオン時間、極間9に加工用直流パルス電流を供給して行う。
図3に示すように、第1電源装置10は、第1加工用直流電源11とスイッチングトランジスタ12とを有し、第1加工用直流電源11のマイナス側は各ガイド組体7,8内の通電素子7A、8Aを介してワイヤ電極Eと電気的に接続され、第1加工用直流電源11のプラス側はスイッチングトランジスタ12を介してワークWと電気的に接続されている。すなわち、極間9に放電が発生した後は、所定のオン時間、スイッチングトランジスタ12がオンされて、極間9に加工用直流パルス電流が供給される。
第2電源装置20は、極間9に放電を発生させるための高周波両極性矩形波パルス電圧を供給すべく、第2加工用直流電源21と、スイッチング回路22とを備えている。
スイッチング回路22は4つのスイッチングトランジスタ22A乃至22Dが図示の如くブリッジ接続されており、スイッチングトランジスタ22Bとスイッチングトランジスタ22Dとの接続点Aは第2加工用直流電源21のマイナス側に接続され、スイッチングトランジスタ22Aとスイッチングトランジスタ22Cとの接続点Bは抵抗器23、ダイオード24、およびスイッチ25を介して第2加工用直流電源21のプラス側に接続されている。そして、スイッチングトランジスタ22Aとスイッチングトランジスタ22Bとの接続点Cは通電素子7A、8Aを介してワイヤ電極Eと電気的に接続され、スイッチングトランジスタ22Cとスイッチングトランジスタ22Dとの接続点DはワークWと電気的に接続されている。
図4Aに示すように、スイッチ25をオンとした状態で、スイッチングトランジスタ22B、22Cがオンで、スイッチングトランジスタ22A、22Dがオフとされると、第2加工用直流電源21のプラス側とワークWとが電気的に接続されるとともに、第2加工用直流電源21のマイナス側とワイヤ電極Eとが電気的に接続され、ワークWが正電位でワイヤ電極Eが負電位となる正極性の矩形波パルス電圧が加工中に極間9に印加される。
図4Bに示すように、スイッチ25をオンとした状態で、スイッチングトランジスタ22A、22Dがオンでスイッチングトランジスタ22B、22Cがオフとされると、第2加工用直流電源21のマイナス側とワークWとが電気的に接続されるとともに、第2加工用直流電源21のプラス側とワイヤ電極Eとが電気的に接続され、ワークWが負電位でワイヤ電極Eが正電位となる逆極性の矩形波パルス電圧が加工中に極間9に印加される。
スイッチングトランジスタ22A、22Dおよびスイッチングトランジスタ22B,22Cのオンオフ動作を交互に行うことで正極性および逆極性の両極性を有する矩形波パルス電圧の出力を高周波で交互に繰り返す高周波両極性矩形波パルス電圧を極間9に印加することができる。
そして、スイッチングトランジスタ22A、22Dおよびスイッチングトランジスタ22B、22Cのオン動作時間を異なる時間に設定して正極性側の無負荷時の電圧パルス幅と逆極性側の無負荷時の電圧パルス幅とを異ならせて設定することにより、図5に示す如く極間9に印加された電圧パルスの複数周期に亘る積算値として定義される平均電圧を所定の値に設定することができる。
図6に示すように、スイッチングトランジスタ22A、22Dのオン動作時間をスイッチングトランジスタ22B、22Cのオン動作時間に対し長く設定することにより、逆極性側の電圧パルス幅が正極性側の電圧パルス幅よりも大きく設定され、平均電圧を逆極性側の所定の値に設定することができる。
図7に示すように、スイッチングトランジスタ22B、22Cのオン動作時間をスイッチングトランジスタ22A,22Dのオン動作時間に対し長く設定することにより、正極性側の電圧パルス幅が逆極性側の電圧パルス幅よりも大きく設定され、平均電圧を正極性側の所定の値に設定することができる。
平均電圧を逆極性側の所定の値に設定したときは、ワークWへの加工液中の金属イオンの付着が増加する傾向となる一方、ワークWの溶出は低減される傾向となる。平均電圧を正極性側の所定の値に設定したときは、ワークWへの加工液中の金属イオンの付着が低減される傾向となる一方、ワークWの溶出が増加する傾向となる。
なお、図8に示すように、スイッチングトランジスタ22A,22Dおよびスイッチングトランジスタ22B、22Cのオン動作時間を同等に設定することにより、正極性側の電圧パルス幅と逆極性側の電圧パルス幅とが等しく設定され、平均電圧を略0Vに設定することができる。
図3に戻り、第2電源装置20は非加工中に極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を供給する非加工用直流電源26を更に備えている。
非加工用直流電源26は第2加工用直流電源21に対し並列に接続されており、非加工用直流電源26のマイナス側はスイッチングトランジスタ22Bとスイッチングトランジスタ22Dとの接続点Aに接続され、非加工用直流電源26のプラス側は抵抗器27、ダイオード28、およびスイッチ29を介してスイッチングトランジスタ22Aとスイッチングトランジスタ22Cとの接続点Bに接続されている。
図9Aに示すように、スイッチ29をオンとした状態で、スイッチングトランジスタ22B、22Cがオンで、スイッチングトランジスタ22A、22Dがオフとされると、非加工用直流電源26のプラス側とワークWとが電気的に接続されるとともに、非加工用直流電源26のマイナス側とワイヤ電極Eとが電気的に接続され、ワークWが正電位でワイヤ電極Eが負電位となる正極性の矩形波パルス電圧が非加工中に極間9に印加される。
図9Bに示すように、スイッチ29をオンとした状態で、スイッチングトランジスタ22A、22Dがオンでスイッチングトランジスタ22B、22Cがオフとされると、非加工用直流電源26のマイナス側とワークWとが電気的に接続されるとともに、非加工用直流電源26のプラス側とワイヤ電極Eとが電気的に接続され、ワークWが負電位でワイヤ電極Eが正電位となる逆極性の矩形波パルス電圧が非加工中に極間9に印加される。
スイッチングトランジスタ22A、22Dおよびスイッチングトランジスタ22B,22Cのオンオフ動作を交互に行いつつ、スイッチングトランジスタ22B、22Cおよびスイッチングトランジスタ22A、22Dのオン動作時間を異なる時間に設定して正極性側の電圧パルス幅と逆極性側の電圧パルス幅とを異ならせて設定することにより、非加工中においても図10または図11に示すように平均電圧を逆極性側または正極性側の所定の値に設定することができる。
また、スイッチングトランジスタ22B、22Cおよびスイッチングトランジスタ22A、22Dのオン動作時間を同等に設定して正極性側の電圧パルス幅と逆極性側の電圧パルス幅とを等しく設定することにより、非加工中においても図12に示すように平均電圧を略0Vに設定することができる。
なお、非加工用電源26の電圧の出力は非加工中において極間9に放電が発生しないような出力に設定されており、第2加工用直流電源21の電圧出力の絶対値よりも小さく設定される。また、本発明においては、第2電源装置20に、位置出し用直流電源30を抵抗器31、ダイオード32、およびスイッチ33を介して非加工用直流電源26に対し並列に備えており、図13の如く位置出し用直流電源30により極間9に微弱な高周波両極性矩形波パルス電圧を印加して接触検出によりワイヤ電極Eの位置出しを行うこととしている。非加工用直流電源26の電圧出力の絶対値は非加工中においてもワークWの腐食を確実に防止するような出力に設定されており、位置出し用直流電源30の電圧出力の絶対値よりも大きく設定されている。
図14に示すように、ワイヤカット放電加工機1は腐食防止剤を添加した加工液を加工槽5に連続的に循環供給する加工液循環系統40を備えている。
加工液循環系統40は、加工槽5から排出された汚れた加工液を汚液槽41aに貯留するとともに、ろ過フィルタ41bを介して清澄化された加工液を清水槽41cに貯留しつつ、イオン交換樹脂42や加工液温度設定装置43等により加工液のpH、温度、および比抵抗値を所定に設定し、更に腐食防止剤の添加装置44により腐食防止剤を加工液に所定量添加して加工槽5に循環供給する。
図15に示すように、腐食防止剤の添加装置44は、ポンプ44aおよび溶解槽44bを備えている。すなわち、溶解槽44bは、網状の仕切り44cにより下部側に形成される加工液流入部44dと中間部から上部側にかけて形成される溶解部44eに区画されており、加工液流入部44dを介して清水槽41cからの加工液が溶解部44eに供給される。
溶解部44eには不織布等の通水性のある包装材44fに包装された粉末状の腐食防止剤44gが備えられており、溶解部44eにおいて腐食防止剤44gを加工液に溶解しながら添加する。加工液中の腐食防止剤の濃度は、ポンプ44aの吐出量を所定に設定することにより調節可能となっている。
本発明においては、腐食防止剤の添加装置44により化1に示す粉末状のアデニン(6−アミノプリン)〔CAS登録番号73−24−5〕を腐食防止剤として加工液に添加する(以下、腐食防止剤の添加装置44はアデニン添加装置44とする)。このアデニンを加工液に添加することにより放電加工においてワークWの各種材質に対し防食効果があることが本発明者により明らかとされている。
Figure 0004623756
すなわち、図16および化2に示すように、アデニンを加工液に添加することにより、放電加工により加工屑やワイヤ電極E等を介して加工液中に生ずる銅イオン等の金属イオンとアデニンとが反応して金属錯体を形成しワークWの表面に金属イオンが付着する等して生ずる着色や腐食を低減し、更にワークWの表面にアデニンが吸着して保護皮膜を形成しワークWの酸化や溶出の低減にも一定の効果があることが本発明者により明らかとされており、特に加工液中の金属イオンと金属錯体を形成することによるワークWへの金属イオンの付着の低減に顕著な効果をもたらす。なお、本発明者によりアデニンは加工液循環系統40の構成機器および加工槽5等の加工液に浸漬する機器の溶出や金属イオンの付着にも低減効果をもたらすことも明らかとされている。
Figure 0004623756
本発明においては、極間9の平均電圧を所定に設定することによりワークWの溶出を確実に低減させることとし、加工液にアデニンを添加することによりワークWへの金属イオンの付着を確実に低減させることとしている。
例えば、金属炭化物の粉末と所定のバインダとを焼結して生成される焼結合金をワークWとして採用した場合、放電加工を行ったときにバインダが溶出することが知られており、より詳しくは、粉末の炭化タングステンとバインダ成分としてのコバルトとを焼結して生成されるいわゆるWC−Co系超硬合金ではコバルトの溶出が大きな問題となるが、極間9の平均電圧を逆極性側の所定の値に設定することによりコバルト等のイオン化し易いバインダ成分の溶出を大幅に低減させることができる。また、加工液にアデニンを添加することによりWC−Co系超硬合金への金属イオンの付着も大幅に低減させることができる。
鉄系材料をワークWとして採用した場合についても同様に極間9の平均電圧を逆極性側の所定の値に設定することにより鉄の溶出を大幅に低減させることができ、加工液にアデニンを添加することにより鉄系材料への金属イオンの付着も大幅に低減させることができる。鉄系材料については、平均電圧を略0Vに設定した場合または所定に正極性側に設定した場合にも鉄の溶出量は所定の許容範囲内となることも本発明者により明らかとされている。更に鉄系材料については、溶出を大幅に低減させることができる平均電圧はWC−Co系超硬合金と異なり、加工中と非加工中でも異なることも本発明者により明らかとされている。
ワイヤカット放電加工機1にはNC制御装置50が併設されており、NC制御装置50は、ワークWの放電加工において極間9の平均電圧を所定の値に設定する平均電圧設定装置としても機能する。NC制御装置50は、図17に示すように、入力部51、記憶部52、処理部53からなる。
入力部51は、例えば、キーボード、マウス、或いはタッチパネル等で構成されており、入力部51を介してオペレータが処理部53における各種処理に必要な操作や情報の入力を行う。
記憶部52は、ハードディスク、CD−ROM等で構成されており、放電加工を実行するために必要な加工プログラムを記憶する機能を有している。
加工プログラムには、ワークWの材質、加工中における無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧等の電気加工条件および放電発生を判断するための閾値等の情報、非加工中における印加電圧の定格値、電圧パルスの周期が含まれる。印加電圧の定格値は正極性側および逆極性側で絶対値が等しく設定されている。
また、記憶部52は、図18および図19に示す電圧パルス幅のデータテーブルを記憶する機能も有している。電圧パルス幅のデータテーブルは、加工中および非加工中におけるワークWの材質に対応したワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧と正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅との相関を示す。
より詳しくは電圧パルス幅のデータテーブルは、図18に示すように、加工中におけるワークWの材質に対応したワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧を与える無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧、正極性側の電圧パルス幅のデューティー比、逆極性側の電圧パルス幅のデューティー比の組み合わせ示す。なお、ワークWの材質、無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間が同一であっても放電加工ごとにサーボ基準電圧を異ならせることがあるので、電圧パルス幅のデータテーブルにおいて正極性側の電圧パルス幅のデューティー比、逆極性側の電圧パルス幅のデューティー比は各種サーボ基準電圧に対応して設定可能となっている。
また、電圧パルス幅のデータテーブルは、図19に示すように、非加工中におけるワークWの材質に対応したワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧を与える印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、正極性側の電圧パルス幅のデューティー比、逆極性側の電圧パルス幅のデューティー比の組み合わせを示す。
ここで、ワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧とは、ワークWの溶出が許容範囲となる極間9の平均電圧であり、ワークWの各材質について、かつ、加工中および非加工中のそれぞれについて実験等により求められる。また、デューティー比とは電圧パルスの周期に対する電圧パルス幅の割合として定義される。電圧パルス幅はデューティー比を電圧パルスの周期に乗算して演算される。なお、電圧パルスの周期とは電圧パルスの1周期の時間幅をいう。
図18および図19に示す電圧パルス幅のデータテーブルによりワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧はワークWの材質に対応して、かつ、加工中および非加工中のそれぞれに対応して異ならせて設定することが可能となる。より詳しくは、ワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧はWC−Co系超硬合金については逆極性側の所定の値に設定され、鉄系材料については逆極性側の所定の値、略0V、正極性側の所定の値のいずれかに設定される。
処理部53は、記憶部52に記憶されている加工プログラムや電圧パルス幅のデータテーブル等に基づいてワークWの放電加工を行うべく、アデニン添加制御手段531、加工条件設定手段532、電源選択手段533、両極性電圧制御手段534、検出判断手段535として機能する。
アデニン添加制御手段531は、所定の制御信号を出力してアデニン添加装置44のポンプ44aの吐出量を設定し加工液中のアデニン濃度を所定に調整する機能を有している。
加工条件設定手段532は、加工プログラムを所要に解読し加工プログラムからワークWの材質、加工中における無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧等の電気加工条件および放電発生を判断するための閾値、非加工中における印加電圧の定格値、電圧パルスの周期を抽出し加工条件として設定する機能を有している。また、加工条件設定手段532は、抽出した加工条件と図18および図19に示す電圧パルス幅のデータテーブルに基づいて正極性側の電圧パルス幅と逆極性側の電圧パルス幅を設定する機能も有している。
電源選択手段533は、所定の制御信号を出力して第1加工用直流電源11、第2加工用直流電源21、非加工用直流電源26、位置出し用直流電源30のスイッチ12,25,29,33のオンオフ制御を行い、加工中における放電発生前の無負荷時間に第2加工用直流電源21を、放電発生後に第1加工用直流電源11を、加工終了後つまり非加工中に非加工用直流電源26を、ワイヤ電極Eの位置出しの際に位置出し用直流電源30を、それぞれ選択する機能を有している。
両極性電圧制御手段534は、所定の制御信号を出力してスイッチング回路22のスイッチングトランジスタ22A乃至22Dのオンオフ動作時間を制御して正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を加工条件設定手段532により設定された値に制御しつつ極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を印加する機能を有している。
検出判断手段535は、極間9における印加電圧を検出するとともに、該検出した印加電圧と前記閾値とを比較して放電が発生したか否かの判断を行う機能を有している。また、検出判断手段34はオン時間およびオフ時間が経過したか否かの判断や放電加工が終了したか否かの判断を行う機能も有している。なお、処理部53はCPUおよびメモリが協働してその機能を果たす。
次に上述の如くワークWの電気腐食を防止する構成を備えたワイヤカット放電加工機1による放電加工方法を図20のフローチャートに基づいて説明する。
すなわち、ステップS10において、まずワイヤ電極Eの位置出しを行う。つまり、オペレータが入力部51を介して位置出しを行うための所要の操作を行うとともに、該操作に基づき電源選択手段533が所定の制御信号を出力してスイッチ12,25,29をオフとして第1加工用直流電源11、第2加工用直流電源21、および非加工用直流電源26を停止した状態としつつスイッチ33をオンとして位置出し用直流電源30を選択し、ワイヤ電極Eの位置出しを行う(図13)。位置出し用直流電源30により極間9に微弱な電圧を印加してワイヤ電極Eの位置出しを行うことで位置出し精度を維持しつつワークWの損傷を回避することができる。なお、位置出し用直流電源30の電圧の出力は±5V程度に設定される。
次に、ステップS20において、オペレータが入力部51からワークWの腐食を防止するために必要なアデニン濃度を入力する。そして、アデニン添加制御手段531が所定の制御信号を出力してアデニン添加装置44のポンプ44aの吐出量を所定に設定し加工液中のアデニン濃度が入力されたアデニン濃度となるように調整する。なお、加工液のpH、温度、比抵抗値はイオン交換樹脂42、加工液温度設定装置43等を所要に操作することにより設定される。
次いで、ステップS30において、オペレータが入力部51から所要の操作を行う。そして、該操作に基づき加工条件設定手段532が記憶部52から所定の加工プログラムを読み出して解読し、加工プログラムからワークWの材質、加工中における無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧等の電気加工条件および放電発生を判断するための閾値、非加工中における印加電圧の定格値および電圧パルスの周期を抽出し加工条件として設定するとともに、加工条件設定手段532が記憶部52から所要の電圧パルス幅のデータテーブルを読み出して、該データテーブルおよび前記抽出した加工条件に基づき加工中および非加工中における正極性側の電圧パルス幅と逆極性側の電圧パルス幅を設定する。このように電圧パルス幅を設定することで極間9の平均電圧をワークWの材質に対応して、かつ、加工中および非加工中のそれぞれに対応してワークWの溶出を低減させることができる所定の値に設定することが可能となる。
次いで、ワークWの放電加工を行うべく以下のステップS31乃至ステップS37を行う。
すなわち、ステップS31において、電源選択手段533が所定の制御信号を出力してスイッチ12,29を引き続きオフとして第1加工用直流電源11および非加工用直流電源26を停止し、更にスイッチ33をオフとして位置出し用直流電源30を停止した状態としつつスイッチ25をオンとし電源として第2加工用直流電源21を選択した状態とする(ステップS31および以下ステップS32乃至ステップS37において図4、図6乃至図8参照)。
続いて、ステップS32において、両極性電圧制御手段534が所定の制御信号を出力してスイッチング回路22のスイッチングトランジスタ22A乃至22Dのオンオフ動作時間を制御して正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅をステップS30で設定された電圧パルス幅に制御しつつ極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を印加する。
以下、ステップS33において、検出判断手段535が極間9における放電の発生を検出した後、ステップS34において、電源選択手段533が制御信号を出力してスイッチングトランジスタ22A乃至22D,スイッチ25をオフとして第2加工用直流電源21を停止した状態としつつ、所定のオン時間、スイッチングトランジスタ12をオンとし電源として第1加工用直流電源11を選択した状態とする。これにより第1加工用直流電源11により極間9に加工用直流パルス電流を供給する。
次いで、ステップS35において、検出判断手段535がオン時間の経過を確認した後、電源選択手段533が制御信号を出力してスイッチングトランジスタ12をオフとして第1加工用直流電源11を停止させ極間9を休止させた状態とし、ステップS36において、検出判断手段535がオフ時間の経過を確認した後は、ステップS37において、検出判断手段535が荒加工から仕上げ加工に至る全ての放電加工の終了を確認するまでステップS32乃至ステップS36を繰り返す。
一方、ステップS37において、検出判断手段535が全ての放電加工が終了したことを確認したときは、非加工中の操作としてステップS38乃至ステップS40を行う(以下ステップ38およびステップ39において図9乃至図12参照)。
すなわち、ステップS38において、電源選択手段533が所定の制御信号を出力してスイッチ29をオンとして電源として非加工用直流電源26を選択した状態とする。なお、非加工中においてもアデニン添加制御手段531により適宜制御信号を出力することにより加工液中のアデニン濃度を加工中と同等となるように維持する。
次いで、ステップS39において、両極性電圧制御手段534が所定の制御信号を出力してスイッチング回路22のスイッチングトランジスタ22A乃至22Dのオンオフ動作時間を制御して正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅をステップS30で設定された非加工中の電圧パルス幅に制御しつつ極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を印加する。
このように加工液中にアデニンを添加しつつ極間9の平均電圧をワークWの材質に対応してワークWの溶出を低減させることができる所定の値に設定することで、加工中および非加工中のいずれにおいてもワークWの各種材質についてワークWへの金属イオンの付着を低減させることができるとともに、ワークWの溶出も同時に低減させることができる等、一台の放電加工機でワークWの各種の腐食形態に柔軟に対応することができる。なお、上記各ステップにより、加工中および非加工中における極間9の平均電圧はWC−Co系超硬合金については逆極性側の所定の値に設定され、鉄系材料については逆極性側の所定の値、略0V、正極性側の所定の値のいずれかに設定される。
続いて、オペレータが入力部51から所定の操作を行うことによりまたは加工槽5の水抜き操作を行うことにより電源選択手段533から所定の制御信号が出力されスイッチ29がオフされ非加工用直流電源26が停止した状態となる。非加工用直流電源26が停止状態となった後は、オペレータが加工槽5からワークWを取り出して一連の動作を終了する(ステップS40)。
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。図21に示すように、本第2実施形態にあっては、第2電源装置20と極間9との間に印加電圧値設定回路60を該第2電源装置20および極間9に対し並列に接続する構成を開示しておりワークWの材質に対応して、かつ、加工中および非加工中のそれぞれに対応して正極性側の印加電圧値と逆極性側の印加電圧値とを異ならせて設定して極間9の平均電圧を所定の値に設定することとしている。印加電圧値設定回路60は平均電圧設定装置の一構成として機能する。
すなわち、印加電圧値設定回路60は、第2電源装置20の接続点Cとワイヤ電極Eとを接続するケーブル34および接続点DとワークWとを接続するケーブル35に電気的に接続されており、図22に拡大して示すように、主スイッチ61および並列回路62からなり、並列回路62は、極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の電圧が印加されたときにのみ印加電圧値設定回路60に電流を流す正極性側ダイオード64、該正極性側ダイオード64をオンオフするための正極性側スイッチ63、および正極性側抵抗器67と、極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の電圧が印加されたときにのみ印加電圧値設定回路60に電流を流す逆極性側ダイオード66、該逆極性側ダイオード66をオンオフするための逆極性側スイッチ65、および逆極性側抵抗器68と、が並列に接続された回路である。正極性側抵抗器67および逆極性側抵抗器68はいずれも可変抵抗器が採用されている。
このように構成された印加電圧値設定回路60において各スイッチ61,63,65のオンオフ動作を所要に行い、かつ、抵抗器67,68の抵抗値を所定に制御することにより、極間9の平均電圧をワークWの材質に対応して、かつ、加工中および非加工中のそれぞれに対応して所定の値に設定することができる。
すなわち、図23Aに示すように加工中においてはスイッチ25をオンとし、図24Aに示すように非加工中においてはスイッチ29をオンとし、印加電圧値設定回路60の主スイッチ61および正極性側スイッチ63をオン、逆極性側スイッチ65をオフとした状態で、第2電源装置20のスイッチングトランジスタ22B,22Cをオン、スイッチングトランジスタ22A,22Dをオフとし、極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の電圧を印加したとき、印加電圧値設定回路60に所定の電流が流れるので、加工中は図25に示すように、非加工中は図26に示すように、極間9における正極性側の印加電圧値が減ずる方向にシフトされる。
一方、図23Bに示すように加工中においてはスイッチ25をオンとし、図24Bに示すように非加工中においてはスイッチ29をオンとし、印加電圧値設定回路60の主スイッチ61および正極性側スイッチ63をオン、逆極性側スイッチ65をオフとしたままの状態で、第2電源装置20のスイッチングトランジスタ22A,22Dをオン、スイッチングトランジスタ22B,22Cをオフとして高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の電圧を極間9に印加したとしても、正極性側ダイオード64が作用するので印加電圧値設定回路60に電流は流れず、加工中は図25に示すように、非加工中は図26に示すように、逆極性側の印加電圧の絶対値は減ずることなく一定に保持される。
このように正極性側のみ印加電圧値を減ずる方向にシフトし、更に正極性側抵抗器67の抵抗値を適宜に制御することで極間9の平均電圧を逆極性側の所定の値に設定することができる。
また、図27Aに示すように加工中においてはスイッチ25をオンとし、図28Aに示すように非加工中においてはスイッチ29をオンとし、印加電圧値設定回路60の主スイッチ61および逆極性側スイッチ65をオン、正極性側スイッチ63をオフとした状態で、第2電源装置20のスイッチングトランジスタ22A,22Dをオン、スイッチングトランジスタ22B,22Cをオフとし、極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧における逆極性側の電圧を印加したとき、印加電圧値設定回路60に所定の電流が流れるので、加工中は図29に示すように、非加工中は図30に示すように、極間9における逆極性側の印加電圧の絶対値が減ずる方向にシフトされる。
一方で、図27Bに示すように加工中においてはスイッチ25をオンとし、図28Bに示すように非加工中においてはスイッチ29をオンとし、印加電圧値設定回路60の主スイッチ61および逆極性側スイッチ65をオン、正極性側スイッチ63をオフとしたままの状態で、第2電源装置20のスイッチングトランジスタ22B,22Cをオン、スイッチングトランジスタ22A,22Dをオフとして高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側の電圧を極間9に印加したとしても、逆極性側ダイオード66が作用するので加工中において印加電圧値設定回路60に電流は流れず、加工中は図29に示すように、非加工中は図30に示すように、正極性側の印加電圧値は減ずることなく一定に保持される。
このように逆極性側のみ印加電圧を絶対値が減ずる方向にシフトし、更に逆極性側抵抗器68の抵抗値を適宜に制御することで極間9の平均電圧を正極性側の所定の値に設定することができる。
なお、図31に示すように加工中においてはスイッチ25をオンとし、図32に示すように非加工中においてはスイッチ29をオンとし、印加電圧値設定回路60の各スイッチ61,63,65をオフとすることにより、極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧における正極性側および逆極性側のいずれの電圧が印加される場合にあっても、印加電圧値設定回路60には電流が流れず、第2電源装置20のスイッチングトランジスタ22A,22Dおよびスイッチングトランジスタ22B,22Cのオンオフ動作を交互に行うことで、正極性側および逆極性側で絶対値の等しい印加電圧が交互に得られる。これにより、加工中は図33に示すように、非加工中は図34に示すように、極間9の平均電圧を略0Vに設定することできる。
ここで、本第2実施形態にあっては、NC制御装置50は更に以下の機能を有している。
すなわち、記憶部52には図18および図19に示す電圧パルス幅のデータテーブルに代えて図35および図36に示す印加電圧値のデータテーブルが記憶されている。印加電圧値のデータテーブルは、加工中および非加工中におけるワークWの材質に対応したワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧と正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値との相関を示す。
より詳しくは印加電圧値のデータテーブルは、図35に示すように、加工中におけるワークWの材質に対応したワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧を与える無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧、無負荷時の印加電圧の定格値に対する正極性側の印加電圧値の割合、無負荷時の印加電圧の定格値に対する逆極性側の印加電圧値の割合、印加電圧値設定回路60の各スイッチ61,63,65のオンオフ情報(以下、該オンオフ情報は印加電圧値設定回路オンオフ情報とする)の組み合わせ示す。
なお、上述の如くワークWの材質、無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間が同一であっても放電加工ごとにサーボ基準電圧を異ならせることがあるので、印加電圧値のデータテーブルにおいて無負荷時の印加電圧の定格値に対する正極性側および逆極性側の印加電圧値の割合は各種サーボ基準電圧に対応して設定可能となっている。
また、印加電圧値のデータテーブルは、図36に示すように、非加工中におけるワークWの材質に対応したワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧を与える印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、印加電圧の定格値に対する正極性側の印加電圧値の割合、印加電圧の定格値に対する逆極性側の印加電圧値の割合、印加電圧値設定回路オンオフ情報の組み合わせを示す。
図35および図36に示す印加電圧値のデータテーブルによりワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧はワークWの材質に対応して、かつ、加工中および非加工中のそれぞれに対応して異ならせて設定することが可能となる。より詳しくは、本第2実施形態においてもワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧はWC−Co系超硬合金については逆極性側の所定の値に設定され、鉄系材料については逆極性側の所定の値、略0V、正極性側の所定の値のいずれかに設定される。
なお、既述の如くワークWの溶出を低減させることができる極間9の平均電圧とは、ワークWの溶出が許容範囲となる極間9の平均電圧であり、ワークWの各材質について、かつ、加工中および非加工中のそれぞれについて実験等により求められる。
また、印加電圧値設定回路オンオフ情報には、平均電圧を逆極性側の所定の値に設定するときは主スイッチ61および正極性側スイッチ63をオンとし、逆極性側スイッチ65をオフとして正極性側の印加電圧値のみを減ずるための情報、平均電圧を正極性側の所定の値に設定するときは主スイッチ61および逆極性側スイッチ65をオンとし、正極性側スイッチ63をオフとして逆極性側の印加電圧値のみを減ずるための情報、平均電圧を略0Vに設定するときは主スイッチ61、正極性側スイッチ63、逆極性側スイッチ65をいずれもオフとして正極性側および逆極性側の印加電圧値を等しく設定するための情報が含まれる。
加工条件設定手段532は、加工プログラムおよび印加電圧値のデータテーブルに基づいて正極性側の印加電圧値と逆極性側の印加電圧値を設定する機能および印加電圧値設定回路オンオフ情報を設定する機能を有している。
両極性電圧制御手段534は、所定の制御信号を出力して印加電圧値設定回路60の各スイッチ61,63,65のオンオフを設定しつつ加工条件設定手段532により設定された正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値となるように印加電圧値設定回路60の正極性側抵抗器67および逆極性側抵抗器68の抵抗値を制御して極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を印加する機能を有している。
次に本第2実施形態に係るワークの電気腐食を防止する構成を備えたワイヤカット放電加工機1による放電加工方法を図37のフローチャートに基づいて説明する。
すなわち、ステップS50において、第1実施形態のステップS10と同様にまずワイヤ電極Eの位置出しを行う。
次に、ステップS60において、第1実施形態のステップS20と同様にアデニン濃度の調整、加工液のpH、温度、比抵抗値の設定を行う。
次いで、ステップS70において、オペレータが入力部51から所要の操作を行う。そして、該操作に基づき加工条件設定手段532が記憶部52から所定の加工プログラムを読み出して解読し、加工プログラムからワークWの材質、加工中における無負荷時の印加電圧の定格値、電圧パルスの周期、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧等の電気加工条件および放電発生を判断するための閾値、非加工中における印加電圧の定格値および電圧パルスの周期を抽出し加工条件として設定するとともに、加工条件設定手段532が記憶部52から所要の印加電圧値のデータテーブルを読み出して、該データテーブルおよび前記抽出した加工条件に基づき加工中および非加工中における正極性側の印加電圧値と逆極性側の印加電圧値、印加電圧値設定回路オンオフ情報を設定する。このように印加電圧値や印加電圧値設定回路オンオフ情報を設定することで極間9の平均電圧をワークWの材質に対応して、かつ、加工中および非加工中のそれぞれに対応してワークWの溶出を低減させることができる所定の値に設定することが可能となる。なお、本第2実施形態においては正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅はいずれも電圧パルスの周期の半分に設定され同等となる。
次いで、ワークWの放電加工を行うべく以下のステップS71乃至ステップS77を行う。
次に、ステップS71において、第1実施形態のステップS31と同様に電源選択手段533が所定の制御信号を出力して電源として第2加工用直流電源21を選択した状態とする(ステップS71および以下ステップS72乃至ステップS77において図23、図25、図27、図29、図31、図33参照)。
続いて、ステップS72において、両極性電圧制御手段534がステップS70で設定された電圧パルス幅に基づいて所定の制御信号を出力してスイッチング回路22のスイッチングトランジスタ22A乃至22Dのオンオフを制御するとともに、ステップS70で設定された印加電圧値設定回路オンオフ情報に基づいて制御信号を出力し印加電圧値設定回路60の各スイッチ61,63,65のオンオフを設定し、更にステップS70で設定された正極性側の無負荷時の印加電圧値および逆極性側の無負荷時の印加電圧値となるように印加電圧値設定回路60の正極性側抵抗器67または逆極性側抵抗器68の抵抗値を制御しつつ極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を印加する。
以下、ステップS73において、検出判断手段535が極間9における放電の発生を検出した後、ステップS74において、電源選択手段533が制御信号を出力してスイッチングトランジスタ22A乃至22D,スイッチ25をオフとして第2加工用直流電源21を停止し、印加電圧値設定回路60の各スイッチ61,63,65をオフとした状態としつつ、所定のオン時間、スイッチングトランジスタ12をオンとし電源として第1加工用直流電源11を選択し極間9に加工用直流パルス電流を供給する。
次いで、ステップS75において、検出判断手段535がオン時間の経過を確認した後、電源選択手段533が制御信号を出力してスイッチングトランジスタ12をオフとして第1加工用直流電源11を停止させ極間9を休止させた状態とし、ステップS76において、検出判断手段535がオフ時間の経過を確認した後は、ステップS77において、検出判断手段535が荒加工から仕上げ加工に至る全ての放電加工の終了を確認するまでステップS72乃至ステップS76を繰り返す。
一方、ステップS77において、検出判断手段535が全ての放電加工が終了したことを確認したときは、非加工中の動作としてステップS78乃至ステップS80を行う(以下ステップS78およびステップS79において図24、図26、図28、図30、図32、図34参照)。
すなわち、ステップS78において、電源選択手段533が所定の制御信号を出力してスイッチ29をオンとして電源として非加工用直流電源26を選択した状態とする。なお、非加工中においてもアデニン添加制御手段531により適宜制御信号を出力することにより加工液中のアデニン濃度を加工中と同等となるように維持する。
次いで、ステップS79において、両極性電圧制御手段534がステップS70で設定された電圧パルス幅に基づいて所定の制御信号を出力してスイッチング回路22のスイッチングトランジスタ22A乃至22Dのオンオフを制御するとともに、ステップS70で設定された印加電圧値設定回路オンオフ情報に基づいて制御信号を出力して印加電圧値設定回路60の各スイッチ61,63,65のオンオフを設定し、ステップS70で設定された正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値となるように印加電圧値設定回路60の正極性側抵抗器67および逆極性側抵抗器68の抵抗値を制御しつつ極間9に高周波両極性矩形波パルス電圧を印加する。
このように本第2実施形態においても加工液中にアデニンを添加しつつ極間9の平均電圧をワークWの材質に対応してワークWの溶出を低減させることができる所定の値に設定することで、加工中および非加工中のいずれにおいてもワークWの各種材質についてワークWへの金属イオンの付着を低減させることができるとともに、ワークWの溶出も同時に低減させることができる等、一台の放電加工機でワークWの各種の腐食形態に柔軟に対応することができる。なお、上記各ステップにより、本第2実施形態にあっても加工中および非加工中における極間9の平均電圧はWC−Co系超硬合金については逆極性側の所定の値に設定され、鉄系材料については逆極性側の所定の値、略0V、正極性側の所定の値のいずれかに設定される。
続いて、第1実施形態のステップS40と同様にオペレータが入力部51から所定の操作を行うことによりまたは加工槽5の水抜き操作を行うことにより電源選択手段533から所定の制御信号が出力されスイッチ29がオフされ非加工用直流電源26が停止した状態となり、オペレータが加工槽5からワークWを取り出して一連の動作を終了する(ステップS80)。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の応用実施または変形実施が可能であることは勿論である。例えば、上述の実施形態では荒加工から仕上げ加工に至る全ての放電加工においてワークの電気腐食を防止する構成を実施することとしているが、荒加工のみに採用したり、仕上げ加工のみに採用する等、ワイヤカット放電加工の一部の加工工程のみに採用することとしてもよい。
また、上述の実施形態ではワイヤカット放電加工の開始前に加工液に予めアデニンを添加することとしているが、ワイヤカット放電加工の開始とともにアデニンを添加したり、またはワイヤカット放電加工が開始された後、ワークWへの金属イオンの付着が所定量となったときにアデニンを添加する等、アデニンを適宜のタイミングで添加することとしてもよい。
〔実施例1〕
ワークWの材質をWC−Co系超硬合金として、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン(株式会社興人製、以下実施例2乃至実施例10について同じ)の濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表2の如く設定して、電圧パルス幅を正極性側で10μsよりも小さくし、かつ、逆極性側で10μsとし正極性側よりも逆極性側で大きくして極間9の平均電圧を−2.5V乃至−3.5Vの範囲(逆極性側の所定の値)に設定しワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出およびワークWへの金属イオンの付着による着色はいずれも殆どなく加工中のワークWの防食効果が認められた。なお、実施例1の条件でアデニンを未添加の状態とするとワークWの着色が顕著に認められた。
〔実施例2〕
実施例1におけるワイヤカット放電加工後の非加工中において、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表3の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側で32μsよりも小さくし、かつ、逆極性側の電圧パルス幅を32μsとし、正極性側よりも逆極性側で大きくして極間9の平均電圧を−2.5V乃至−3.5Vの範囲(逆極性側の所定の値)に設定しWC−Co系超硬合金を加工液中に放置した。その結果、ワークWの溶出およびワークWへの金属イオンの付着による着色はいずれも殆どなく非加工中のワークWの防食効果が認められた。WC−Co系超硬合金については加工中および非加工中いずれもワークWの溶出に効果のある極間9の平均電圧は同等であることも認められた。
〔実施例3〕
ワークWの材質をWC−Co系超硬合金として、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表2の如く設定して、無負荷時の印加電圧値を正極性側で+80Vよりも小さくし、かつ、逆極性側で−80Vとし、正極性側よりも逆極性側で無負荷時の印加電圧の絶対値を大きくして極間9の平均電圧を0Vよりも小さく−2.0V以上(逆極性側の所定の値)に設定しワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出は実施例1に対して若干増えたものの許容範囲であり、ワークWへの金属イオンの付着による着色は殆どなく加工中のワークWの防食効果が認められた。なお、実施例3の条件でアデニンを未添加の状態とするとワークWの着色が顕著に認められた。
〔実施例4〕
ワークWを鉄系材料として、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表4の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側で10μsよりも小さくし、かつ、逆極性側で10μsとし正極性側よりも逆極性側で大きくして極間9の平均電圧を−1.5V乃至−2.5Vの範囲(逆極性側の所定の値)に設定しワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出およびワークWへの金属イオンの付着による着色はいずれも殆どなく加工中のワークWの防食効果が認められた。加工中における鉄系材料のワークWの溶出に効果のある極間9の平均電圧はWC−Co系超硬合金よりも大きくなることも認められた。なお、実施例4の条件でアデニンを未添加の状態とするとワークWの着色が顕著に認められた。
〔実施例5〕
実施例4におけるワイヤカット放電加工後の非加工中において、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表3の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側で32μsよりも小さくし、かつ、逆極性側で32μsとし正極性側よりも逆極性側で大きくして極間9の平均電圧を−3.5V乃至−4.5Vの範囲(逆極性側の所定の値)に設定し鉄系材料を加工液中に放置した。その結果、ワークWの溶出およびワークWへの金属イオンの付着による着色はいずれも殆どなく非加工中のワークWの防食効果が認められた。鉄系材料についてはワークWの溶出に効果のある極間9の平均電圧は加工中よりも非加工中の方が小さくなることも認められた。
〔実施例6〕
ワークWを鉄系材料として、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表4の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側および逆極性側でいずれも10μsと同等とし、かつ、無負荷時の印加電圧の絶対値も正極性側および逆極性側でいずれも80Vと同等として極間9の平均電圧を略0Vに設定しワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出は実施例4に対して若干増えたものの許容範囲であり、ワークWへの金属イオンの付着による着色は殆どなく加工中のワークWの防食効果が認められた。なお、実施例6の条件でアデニンを未添加の状態とするとワークWの着色が認められた。
〔実施例7〕
実施例6におけるワイヤカット放電加工後の非加工中において、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表3の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側および逆極性側でいずれも32μsと同等とし、かつ、無負荷時の印加電圧の絶対値も正極性側および逆極性側でいずれも80Vと同等として極間9の平均電圧を略0Vに設定し鉄系材料を加工液中に放置した。その結果、ワークWの溶出は実施例5に対して若干増えたものの許容範囲であり、ワークWへの金属イオンの付着による着色は殆どなく非加工中のワークWの防食効果が認められた。
〔実施例8〕
ワークWの材質を鉄系材料として、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表4の如く設定し、無負荷時の印加電圧値を正極性側で+80Vとし、かつ、逆極性側で−80Vよりも大きくし、逆極性側よりも正極性側で無負荷時の印加電圧値の絶対値を大きくして極間9の平均電圧を0Vよりも大きく+2.0V以下の範囲(正極性側の所定の値)に設定しワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出は実施例4に対して増えたものの許容範囲であり、ワークWへの金属イオンの付着による着色は殆どなく放電加工中のワークWの防食効果が認められた。なお、実施例8の条件でアデニンを未添加の状態とするとワークWの着色が僅かに認められた。
〔実施例9〕
ワークWの材質を鉄系材料として、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表4の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側で10μsとし、かつ、逆極性側で10μsよりも小さくし逆極性側よりも正極性側で大きくして極間9の平均電圧を+2.5V乃至+3.5Vの範囲(正極性側の所定の値)に設定しワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出は実施例4に対して増えたものの許容範囲であり、ワークWへの金属イオンの付着による着色は殆どなく加工中のワークWの防食効果が認められた。なお、実施例9の条件でアデニンを未添加の状態とするとワークWの着色が僅かに認められた。
〔実施例10〕
実施例9におけるワイヤカット放電加工後の非加工中において、加工液条件を表1の如く設定しつつ加工液中のアデニン濃度を10mg/L乃至1000mg/Lに調節し、ワイヤ電極Eの材質および電気加工条件を表3の如く設定し、電圧パルス幅を正極性側で32μsとし、かつ、逆極性側で32μsよりも小さくし、逆極性側よりも正極性側で大きくして極間9の平均電圧を+2.5V乃至+3.5Vの範囲(正極性側の所定の値)に設定し鉄系材料を加工液中に放置したワイヤカット放電加工を行った。その結果、ワークWの溶出は実施例5に対して増えたものの許容範囲であり、ワークWへの金属イオンの付着による着色は殆どなく非加工中のワークWの防食効果が認められた。
Figure 0004623756
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本発明は、ワイヤカット放電加工においてワークWの電気腐食を防止する場合に役立つ。
E:ワイヤ電極
W:ワーク
1:ワイヤカット放電加工機
2:ベース
3:コラム
4:加工ヘッド
5:加工槽
6:ワークテーブル
7:上側ガイド組体
7A:通電素子
8:下側ガイド組体
8A:通電素子
9:極間
10:第1電源装置
11:第1加工用直流電源
12:スイッチングトランジスタ
20:第2電源装置
21:第2加工用直流電源
22:スイッチング回路
22A乃至22D:スイッチングトランジスタ
23:抵抗器
24:ダイオード
25:スイッチ
26:非加工用直流電源
27:抵抗器
28:ダイオード
29:スイッチ
30:位置出し用直流電源
31:抵抗器
32:ダイオード
33:スイッチ
34:ケーブル
35:ケーブル
40:加工液循環系統
41a:汚液槽
41b:ろ過フィルタ
41c:清水槽
42:イオン交換樹脂
43:加工液温度設定装置
44:アデニン添加装置
44a:ポンプ
44b:溶解槽
44c:仕切り
44d:加工液流入部
44e:溶解部
44f:包装材
44g:腐食防止剤
50:NC制御装置(平均電圧設定装置)
51:入力部
52:記憶部
53:処理部
60:印加電圧値設定回路
61:主スイッチ
62:並列回路
63:正極性側スイッチ
64:正極性側ダイオード
65:逆極性側スイッチ
66:逆極性側ダイオード
67:正極性側抵抗器
68:逆極性側抵抗器
531:アデニン添加制御手段
532:加工条件設定手段
533:電源選択手段
534:両極性電圧制御手段
535:検出判断手段

Claims (19)

  1. ワークを加工液に浸漬しつつ該ワークと工具電極との間に形成される極間に、前記ワークが正電位となり前記工具電極が負電位となる正極性および前記ワークが負電位となり前記工具電極が正電位となる逆極性の両極性を有する両極性電圧を印加する電源を有し前記ワークの放電加工を行う放電加工機において、
    前記極間に印加される両極性電圧の平均電圧を所定の値に設定する平均電圧設定装置と、
    前記加工液にアデニンを添加するアデニン添加装置と、
    を有することを特徴とする放電加工機。
  2. 前記平均電圧設定装置は、前記極間の平均電圧を、前記ワークの溶出を低減させることができる所定の値に設定する構成とすることを特徴とする請求項1に記載の放電加工機。
  3. 前記平均電圧設定装置は、前記極間の平均電圧を、逆極性側の所定の値に設定する構成とすることを特徴とする請求項1に記載の放電加工機。
  4. 前記平均電圧設定装置は、前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定して前記極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の放電加工機。
  5. 前記平均電圧設定装置は、前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅と前記極間の平均電圧との相関を示すデータに基づいて前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定する構成とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の放電加工機。
  6. 前記平均電圧設定装置は、前記両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値を設定して前記極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の放電加工機。
  7. 前記平均電圧設定装置は、前記極間および該極間に両極性電圧を印加する電源装置に対し並列に接続された印加電圧値設定回路を有し、
    前記印加電圧値設定回路は、前記極間に前記両極性電圧における正極性側の電圧が印加されたときにのみ該印加電圧値設定回路に電流を流す正極性側ダイオードと、該正極性側ダイオードをオンオフするための正極性側スイッチと、前記極間に前記両極性電圧における逆極性側の電圧が印加されたときにのみ該印加電圧値設定回路に電流を流す逆極性側ダイオードと、該逆極性側ダイオードをオンオフするための逆極性側スイッチと、を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の放電加工機。
  8. 前記平均電圧設定装置は、前記ワークの材質に対応して前記極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の放電加工機。
  9. 前記平均電圧設定装置は、加工中および非加工中のそれぞれに対応して前記極間の平均電圧を所定の値に設定する構成とすることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の放電加工機。
  10. 前記電源は加工中に前記極間に前記両極性電圧を印加する加工用電源と非加工中に前記極間に前記両極性電圧を印加する非加工用電源を備えることを特徴とする請求項9に記載の放電加工機。
  11. ワークを加工液に浸漬しつつ該ワークと工具電極との間に形成される極間に、前記ワークが正電位となり前記工具電極が負電位となる正極性および前記ワークが負電位となり前記工具電極が正電位となる逆極性の両極性を有する両極性電圧を印加して放電を発生させ前記ワークの放電加工を行う放電加工方法において、
    前記極間の平均電圧を所定の値に設定するとともに、前記加工液にアデニンを添加することを特徴とする放電加工方法。
  12. 前記極間の平均電圧を、前記ワークの溶出を低減させることができる所定の値に設定することを特徴とする請求項11に記載の放電加工方法。
  13. 前記極間の平均電圧を、逆極性側の所定の値に設定することを特徴とする請求項11に記載の放電加工方法。
  14. 前記極間の平均電圧の設定は、前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定して行うことを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれか一項に記載の放電加工方法。
  15. 前記極間の平均電圧の設定は、前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅と前記極間の平均電圧との相関を示すデータに基づいて前記両極性電圧における正極性側の電圧パルス幅および逆極性側の電圧パルス幅を設定して行うことを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれか一項に記載の放電加工方法。
  16. 前記極間の平均電圧の設定は、前記両極性電圧における正極性側の印加電圧値および逆極性側の印加電圧値を設定して行うことを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれか一項に記載の放電加工方法。
  17. 前記極間の平均電圧の設定は、前記極間および該極間に両極性電圧を印加する電源装置に対し並列に接続された回路に、前記極間に前記両極性電圧における正極性側の電圧が印加されたときまたは前記極間に前記両極性電圧における逆極性側の電圧が印加されたときのいずれか一方のときのみに電流を流して行うことを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれか一項に記載の放電加工方法。
  18. 前記極間の平均電圧の設定は、前記ワークの材質に対応して行うことを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれか一項に記載の放電加工方法。
  19. 前記極間の平均電圧の設定は、加工中および非加工中のそれぞれに対応して行うことを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれか一項に記載の放電加工方法。
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