JP4620191B2 - 疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリおよびAl合金製プーリのめっき方法 - Google Patents

疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリおよびAl合金製プーリのめっき方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、表面に硬質めっき皮膜を有するAl合金製プーリおよびAl合金製プーリのめっき方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、炭酸ガスの排出低減などの地球環境保全の立場、あるいは機械自体の高性能化や省エネルギー化を推進するため、自動車を代表とする、航空機、鉄道車両などの輸送機、あるいはロボットなどの産業機械では、構成部品の軽量化が求められている。そして、この軽量化対策の一環として、構成部品に用いられる部品の、鋼からアルミニウムまたはアルミニウム合金 (以下、単にAl合金と言う) への転換が進んでいる。特に、構成部品の内でも、動力伝達部品をAl合金製とすれば、動力伝達部品自体の軽量化だけではなく、動力伝達部品の駆動装置の小型化なども図ることができるので、軽量化の効果が大きい。
【0003】
動力伝達部品としては、歯車、ラック、プーリ (ベルト車或いは滑車) などが例示されるが、以下に、代表的なプーリを例にして説明する。プーリは、輸送機のみならず、自転車、産業機械、家電製品に、カムタイミングプーリやリアプーリとして種々汎用されている。このプーリの形状には、用途により種々の種類があるが、自動車用カムタイミングプーリの代表的な例を図4 に示す。図4 (a) の縦断面図、(b) の平面図に示すように、カムタイミングプーリ1 は、基本的に、駆動軸が嵌合される孔5 を有する円筒状の固定部4 と、該固定部4 の外周に配設された円盤状のアーム部2 と、該アーム部2 の外周に配設された円筒状の動力伝達部3 とから構成される。なお、このような基本的な構成は、形状や大きさは種々違っても、他のプーリにおいても基本的に同じである。
【0004】
しかしながら、このような構成からなるプーリには、特に輸送機用においては、比較的大きなトルクがかかるため、特に、高い疲労寿命および耐磨耗性が要求される。このため、プーリを鋼製のものからAl合金製のものへ転換すると、Al合金製のプーリの疲労寿命および耐磨耗性が、鋼製のプーリに比して著しく劣るという問題がある。特に、図4 に示すようなアーム部2 と動力伝達部3 とを有するようなプーリ1 においては、大きなトルクがかかった場合、比較的薄肉のアーム部2 が最も疲労破壊しやすく、また、ベルト等と当接する動力伝達部3 が最も磨耗しやすい。
【0005】
この内、Al合金製プーリの、特に耐磨耗性の向上を図るためには、鋼に比して著しく軟質なAl合金素材側の改良には限界があるため、どうしてもAl合金製プーリの表面に硬質な皮膜を設ける必要がある。
【0006】
この必要性から、従来より、▲1▼特開昭49−10829 号公報などには、Al合金製プーリの表面に鋼をプラズマ溶射した後にCrめっきを施した、織物機械用などのAl合金製プーリが開示されている。また、▲2▼特公昭58−35562 号公報などには、Al合金製プーリの表面に硬質陽極酸化皮膜を形成した自動車用のAl合金製高速カムタイミングプーリが開示されている。更に、▲3▼特開平6 −158264号公報などには、Crを多量に含有した高炭素鋼系の材料を高速フレーム溶射したAl合金製プーリが開示されている。また、▲4▼特開平9 −280345号公報などには、Al合金製プーリの表面に樹脂塗装を行うことが開示されている。
【0007】
そして、▲5▼特開平8 −39432 号公報などには、硬質Ni-Pめっき皮膜を設けたTi合金などの金属基材製動力伝達部品において、外部からの応力や衝撃によるめっき皮膜の破壊や、長期間の使用によるめっき皮膜自体の疲労破壊や剥離を防止する技術が開示されている。より具体的には、金属基材の表面に、硬質電気Ni-Pめっき皮膜を設けた後に熱処理を行って、めっき皮膜の高硬度化と高密着化を図り、その後更に、めっき皮膜に微粒子を吹き当てるショットピーニングやドライホーニングを行って、めっき皮膜に残留圧縮応力を付与し、前記熱処理によるNi-Pめっき皮膜の靱性低下を回復して、めっき皮膜の硬さと靱性をバランスよく向上させる技術が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
これらの、Al合金製プーリの表面にコーティングを施す前記従来技術は、全て、Al合金製プーリにおける耐磨耗性の向上乃至耐磨耗性の皮膜の密着性の向上を図ることのみを目的としている。したがって、確かに、コーティングの無いAl合金製プーリに比べると、耐磨耗性自体は向上する。しかし、これら従来技術は、前記図4 で示したような、アーム部と動力伝達部を有するAl合金製プーリにおいて、比較的大きなトルクがかかる場合の、特にアーム部の疲労破壊に対する疲労寿命の向上を全く意図していない。
【0009】
一方、前記図4 で示したような、アーム部と動力伝達部を有するAl合金製プーリにおいては、繰り返して曲げ応力がかかるアーム部に対しては、特に疲労破壊に対する疲労寿命の向上が必要であり、動力伝達部に対しては特に耐磨耗性の向上が必要であり、プーリの部位で異なる特性が要求されている。このため、Al合金製プーリの表面のコーティングなり、めっき皮膜には、単に耐磨耗性の向上だけではなく、これら異なる要求特性を両者満足する必要がある。しかも後述する通り、本発明者らが知見したところによれば、動力伝達部の耐磨耗性の向上に対して有効なめっき皮膜が、逆に、アーム部などの疲労寿命が特に要求される部分の、疲労寿命を低下させる場合がある。即ち、プーリなどのAl合金製動力伝達部品の分野においては、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分が存在するため、動力伝達部の耐磨耗性の向上と、アーム部の疲労寿命の向上とが、互いに相矛盾する技術課題になっているという特異な状況が存在する。
【0010】
したがって、Al合金製プーリの表面にコーティングを施す、前記前記▲1▼〜▲4▼の従来技術は、Al合金製プーリにおける特にアーム部の疲労寿命の向上を全く意図していないため、却って、Al合金製プーリの疲労寿命を劣化させることがあり、この点がAl合金製プーリの信頼性を低下させ、プーリなどの動力伝達部品のAl合金化を、著しく妨げていた。
【0011】
例えば、前記▲1▼の特開昭49−10829 号公報などの、Al合金製プーリの表面に鋼をプラズマ溶射した後にCrめっきを施す技術は、Al合金製プーリの耐磨耗性を向上させるためには有効である。しかし、一方のAl合金製プーリの疲労寿命に対しては、Crめっき自体が起点となって、疲労破壊を起こしやすくなるため、実用化できないという問題がある。
【0012】
また、前記▲2▼の特公昭58−35562 号公報などの、Al合金製プーリの表面に硬質陽極酸化皮膜を形成する技術は、硬質陽極酸化皮膜自体が脆く、プーリ用途では特に硬質陽極酸化皮膜の剥離や欠落が生じやすく、Al合金製プーリの耐磨耗性の向上の点からだけでも、実用化できる技術ではない。
【0013】
次に、前記▲3▼の特開平6 −158264号公報などの、Al合金製プーリの表面にCrを多量に含有した高炭素鋼系の材料を高速フレーム溶射する技術は、Al合金製プーリの耐磨耗性を向上させるためには有効である。しかし、一方のAl合金製プーリの疲労寿命に対しては、前記▲1▼の従来技術と同様に、含有するCr自体が起点となって、疲労破壊を起こしやすくなるため、実用化できないという問題がある。
【0014】
更に、前記▲4▼の特開平9 −280345号公報などの、Al合金製プーリの表面に樹脂塗装を行う技術は、樹脂コーティングが剥離しやすく、前記▲2▼の技術と同様に、Al合金製プーリの耐磨耗性の向上の点からだけでも、実用化できる技術ではない。
【0015】
一方、前記▲5▼特開平8 −39432 号公報では、Ti合金などの金属製動力伝達部品の疲労強度を、表面のNi-Pめっき皮膜により高めようとしている。即ち、同公報では、めっき皮膜を高硬度化して、この高硬度化しためっき層のタガ締め効果により、Ti合金製動力伝達部品の疲労強度を高めようとしており、めっき皮膜の高硬度化に伴う密着性や靱性の劣化を防止するために、めっき皮膜に残留圧縮応力を積極的に付与して、Ni-Pめっき皮膜の靱性を向上させている。
【0016】
しかし、本発明が意図するAl合金製プーリ一などの場合、Al合金はTi合金に比して強度( 硬度) などが低く、高硬度のめっきを施した場合、Ti合金と違って、基材Al合金とめっき皮膜との硬度の差が著しい。しかも、本発明が意図するAl合金製プーリの、特に繰り返して曲げ応力のような外力がかかるアーム部では、前記めっき皮膜とAl合金との硬度の差によって、めっき皮膜自体が、逆にAl合金の疲労寿命を低下させるという、特異な現象が起こりうる。したがって、プーリなどのAl合金製動力伝達部品の分野においては、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分が存在するとともに、動力伝達部の耐磨耗性の向上と、アーム部の疲労寿命の向上とが、互いに相矛盾する技術課題になっている。この結果、前記▲5▼特開平8 −39432 号公報の技術を適用して、高硬度のめっきを施すとともに、ショットピーニングやドライホーニングにより、めっき皮膜に積極的に残留圧縮応力を付与した場合、後述する通り、Ni-Pめっき皮膜自体が起点となって、Al合金製プーリ本体の疲労破壊を起こしやすくなり、疲労寿命が低下して、実用化できない場合が生じるという問題がある。
【0017】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであって、その目的は、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分が存在するAl合金製プーリにおける、Ni、Ni-P、Crなどの硬質めっきを改良し、疲労寿命および耐磨耗性という相矛盾する要求特性を両方兼備した、疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリおよびAl合金製プーリのめっき方法を提供しようとするものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明Al合金製プーリは、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分として、円筒状の固定部と該固定部の外周に配設された円盤状のアーム部と該アーム部の外周に配設された円筒状の動力伝達部とからなる、Al合金製プーリにおいて、硬度(Hv)が250 以上のめっき皮膜を表面に設けるとともに、特に疲労寿命が要求される前記アーム部のめっき皮膜表面の残留応力が、前記めっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足し、かつ前記アーム部のめっき皮膜厚さが、前記動力伝達部のめっき皮膜厚さよりも薄いことを要旨としている。
【0019】
なお、以下に記載する「Al合金製動力伝達部品」とは、アーム部と動力伝達部とで疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる、Al合金製プーリのことを意味する。
【0020】
本発明者らは、まず、自動車などの輸送機用の前記アーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリにおいて、大きなトルクがかかる場合のプーリ本体の疲労破壊特性について調査した。この結果、このような場合にAl合金製プーリが使用不能となるには二つの形態があり、一つはアーム部が疲労破壊を起こす疲労型であり、もう一つはベルトに動力を伝達する動力伝達部の磨耗により動力伝達部の表面に肌あれが生じる磨耗型であることを知見した。
【0021】
このことは、いみじくも、アーム部と動力伝達部とを含むようなAl合金製プーリにおいては、プーリとしては疲労寿命および耐磨耗性との両特性が必要であるとともに、一個のプーリの中でも、アーム部と動力伝達部とで、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なることを意味している。そして、このような疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分が存在するAl合金製動力伝達部品においては、これら各々の要求特性に対応しためっき皮膜、それも場合によっては、各々特性の異なるめっき皮膜を表面に設ける必要性があることを意味している。
【0022】
このうち、前記磨耗型による動力伝達部表面の肌あれは、通常の技術常識通り、元々Al合金製プーリ表面乃至表面皮膜の硬度不足に起因するものである。そして、この動力伝達部表面の肌あれが著しくなるほど、ベルトの滑りや鳴きを多発して、最終的には効率的な動力伝達が不可能となる事態を生じる。
【0023】
一方、アーム部が疲労破壊を起こす疲労型は、勿論、プーリの母材である、Al合金自体の疲労破壊特性、特に引張強度や耐力などの機械的性質と深く係わっていることは公知である。このため、従来から、Al合金の中でも、疲労破壊特性の優れたJIS 5000系や6000系あるいは7000系などのAl合金が用いられている。しかし、これらプーリ用途に要求される疲労破壊特性を十分に具備している、引張強さが190N/mm2以上のAl合金を用いた場合にも、硬質めっき皮膜を設けたAl合金製プーリでは、使用中にアーム部の疲労破壊を生じる点が、特異な点である。
【0024】
本発明では、めっき皮膜を有するAl合金製プーリの疲労破壊形態とめっき特性との関係を検討した結果、まず、Al合金製プーリ表面のNi、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっき皮膜が、プーリ本体のAl合金の疲労破壊と深く係わっていること、そして、Al合金製プーリの、特に繰り返して曲げ応力のような外力がかかるアーム部では、硬質めっき皮膜自体のクラック (割れ) などが、Al合金の疲労破壊の起点となって、めっき皮膜を設けないAl合金よりも、却って疲労寿命を低下させるという、特異な現象があることを知見した。そして、更に、硬質めっき皮膜の諸特性のうちでも、特にめっき皮膜表面の残留応力が、プーリ本体の疲労破壊と深く係わり、めっき皮膜表面の残留応力が高いほどプーリ本体の疲労破壊特性が低下し、めっき皮膜表面の残留応力を低減すれば、プーリ本体の疲労破壊特性が向上し、疲労寿命に優れることを知見した。
【0025】
そして、更に、重要なことには、めっき皮膜表面の残留応力を単に低減するだけでは、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証することはできないことも合わせて知見した。即ち、プーリ本体の疲労寿命を確実に保証するためには、めっき皮膜の基本的な特性の一つであるめっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜表面の残留応力を規定する必要があることも知見した。
【0026】
このめっき皮膜表面の残留応力について、通常、Ni、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっきや、Znなどの比較的軟質のめっき、あるいは陽極酸化皮膜などの、Al合金表面に設けられた皮膜表面の残留応力が、皮膜自体の割れや剥離性 (密着性) に影響すること自体は、前記特開平8 −39432 号公報などでも勿論公知である。しかし、Al合金の表面に設けられた硬質めっき皮膜が、Al合金の疲労破壊の起点となって、逆にAl合金自体の疲労寿命を低下させること、あるいは、Al合金の表面に設けられためっき皮膜表面の残留応力が、Al合金自体の疲労破壊と深く係わっているとの認識や知見は、今までに無い。
【0027】
現に、前記特開平8 −39432 号公報などでは、Ti合金製動力伝達部品の疲労破壊特性乃至疲労寿命を向上させるために、めっき皮膜によるタガ締め効果を狙い、部品表面のNi-Pめっき皮膜をより高硬度化し、めっき皮膜の残留圧縮応力を積極的に付与している。これは、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命に対し、本発明では有害と認識しているめっき皮膜の高硬度化や残留圧縮応力の付与を積極的に行っているものであり、本発明の技術思想や手段とは、違う指向をしているとも言える。このため、特開平8 −39432 号公報の技術を硬度の比較的高いTi合金に適用した場合には有効であるものの、Al合金製プーリに適用した場合には、却って表面に残留応力を有するNi-Pめっき皮膜自体が起点となって、Al合金製プーリ本体の疲労破壊を起こしやすくなるため、疲労寿命が低下して、実用化できない結果となる。
【0028】
そして、本発明において、更に重要な点は、後述する通り、例えめっき皮膜の組成や膜厚、或いは硬度などの、めっき皮膜の基本特性が例え同じであったとしても、めっき条件等の微妙な違いにより、めっき皮膜表面の残留応力が大きく相違してくるという点である。したがって、めっき皮膜の基本特性やめっき方法の基本条件が、例え、全く同じであったとしても、それだけでは、めっき皮膜表面の残留応力が同じとなるということは一切言えない。即ち、この事実は、Al合金製プーリ本体なり、Al合金製動力伝達部品本体なりの疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証するためには、めっき皮膜表面の残留応力自体を測定して、本発明の規定する範囲内か否かを評価する必要があることを示している。
【0029】
したがって、Al合金製動力伝達部品の疲労寿命を、確実に保証し得る点にも、本発明のめっき皮膜表面の残留応力による規定の意義がある。より具体的には、Al合金製動力伝達部品の疲労寿命を改善する場合、試験的や試作的に、疲労寿命が改善されたとしても、実際に、多量にかつ継続的にAl合金製動力伝達部品を製造するとともに、対象とする輸送機のプーリなどの用途に、多量にかつ継続的に適用するためには、実際問題として、工業的に製造されるAl合金製動力伝達部品が、全て疲労破壊を生じないことを、顧客などに継続的に保証していく必要がある。この製品保証の点は、特に安全性が要求される輸送機などの用途では特に厳しく、重要な課題となっている。
【0030】
また、めっき条件が必ずしも毎回全く同じとはならないAl合金製動力伝達部品のめっきラインにおいて、あるいは、試作段階で疲労寿命に優れたAl合金製動力伝達部品を実際のめっきラインにのせて製造する際において、再現性乃至効率良く、Al合金製動力伝達部品を生産し続けるためには、製造される製品の疲労寿命の正確でかつ定量的な評価結果をフィードバックし、製造される製品の疲労寿命を常に保証することが、工業的な品質管理上重要となる。この点はコストダウンやAl合金の特性改善などの目的で、大幅にめっきライン工程や条件を変える乃至めっきラインを新増設する場合でも同様である。したがって、本発明の効果の一つである、前記疲労寿命を保証するということは、単にAl合金製動力伝達部品の疲労寿命がデータ的に優れているということだけではなく、前記品質管理や工程管理を含んだ上での、工業的により厳密な意味を持っている。
【0031】
Al合金表面に設けられた、めっき皮膜表面の残留応力が、なぜ、Al合金自体の疲労破壊と深く係わっているかという理由は、未だ定かではない。しかし、Ti合金や鋼のような元々硬度や剛性の高い素材では、その特性ゆえに、表面に設けられた皮膜の、Ti合金や鋼自体の疲労破壊特性などに対する影響や寄与はごく小さい。しかし、Al合金の場合は、Ti合金や鋼よりも硬度や剛性が比較的低いために、表面に設けられた皮膜の、Al合金の疲労破壊特性などに対する影響や寄与が大きくなる。また、プーリのアーム部などのように、特に繰り返して曲げ応力のような外力がかかり、しかも近年の軽量化のための薄肉化された動力伝達部品では、表面に設けられた特に硬質めっき皮膜の残留応力などの特性が、Al合金の疲労破壊特性に対し、より顕著に影響するものと考えられる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明におけるめっき皮膜の基本的な条件や特徴的な要件の意義および限定理由について具体的に説明する。
【0033】
本発明におけるAl合金製動力伝達部品表面のめっき皮膜は、めっき皮膜表面の残留応力が、めっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足することが必要である。そして、特にアーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリにおいては、少なくとも、前記アーム部のめっき皮膜表面の残留応力が、前記めっき皮膜硬度(Hv)との関係を満足することが必要である。
【0034】
詳細は後述する実施例で述べる図1 を用いて、めっき皮膜表面の残留応力とめっき皮膜硬度(Hv)、およびAl合金製プーリの疲労寿命との関係を説明する。図1 は、横軸にAl合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力(kgf/mm2) 、縦軸にめっき皮膜硬度(Hv)をとったものである。なお、本発明におけるめっき皮膜表面の残留応力(kgf/mm2) は、公知のX 線応力測定方法により、めっき皮膜最表面からX 線が侵入する深さまでの平均応力として測定することができる。また、一部の無電解めっきなど、めっき皮膜が非晶質で、X 線応力測定方法が使えないものに対しては、公知のスパイラル応力計によって測定することができる。更に、また、めっき皮膜硬度(Hv)はビッカース硬度計により測定可能である。
【0035】
図1 において、丸印のプロットは各々Ni-Pめっき、三角印のプロットは各々Niめっき、四角印のプロットは各々Crめっき、☆印のプロットは各々無電解Niめっきを表す。なお、丸印、三角印、四角印のプロットの内、白抜きのものは、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命よりも特性が20% 以上向上している、めっき皮膜を設けたAl合金製プーリを表す。また、丸印、三角印、四角印のプロットの内、網かけのものは、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命と特性が同等の、めっき皮膜を設けたAl合金製プーリを表す。更に、丸印、三角印、四角印のプロットの内、黒塗りのものは、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命に比して特性が劣っている、皮膜を設けたAl合金製プーリを、各々表す。
【0036】
図1 から明らかな通り、Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力が高ければ、網かけ乃至黒塗りのプロットが多く、Al合金製プーリの疲労寿命は向上しないか、却って低下していることが分かる。一方、Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力がより低くなるにつれて、白抜きのプロットが多く、Al合金製プーリの疲労寿命は向上していることが分かる。そして、更に重要な点は、Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力が15kgf/mm2 以下、あるいは、10kgf/mm2 以下のより低い値となったとしても、この領域では、まだ疲労寿命は向上しないか、却って低下しているAl合金製プーリ (網かけ乃至黒塗りのプロット) が存在している点である。
【0037】
即ち、図1 の結果は、前記知見で述べた通り、めっき皮膜表面の残留応力を単に低減するだけでは、疲労寿命に劣るプーリが存在し、プーリの疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証することはできないことを示している。そして、プーリ本体の疲労寿命を確実に保証するためには、めっき皮膜の基本的な特性の一つであるめっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜表面の残留応力を規定する必要があることを示している。
【0038】
但し、前記した通り、Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力がより低くなるにつれて、Al合金製プーリの疲労寿命は向上しており、Al合金製プーリの疲労寿命を向上させるためには、めっき皮膜表面の残留応力を低くすること、好ましくは15kgf/mm2 以下、より好ましくは、10kgf/mm2 以下の低い値とすることが必要条件であることが分かる。
【0039】
より具体的には、図1 の斜線A1、A2、B1、B2が、めっき皮膜表面の残留応力とめっき皮膜硬度(Hv)との関係を示すとともに、プーリ本体の疲労寿命を確実に保証する臨界的な領域を示している。即ち、斜線A1がY=8X+330 の線であり、斜線A1よりも上側の領域が、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 を満足し、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証する領域である。また、斜線A2がY=8X+410 の線であり、斜線A2よりも上側の領域が、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+410 を満足する、より好ましい領域を示してる。
【0040】
更に、斜線B1がY=100X−500 の線であり、斜線B1よりも左側の領域が、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足し、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証する領域である。また、斜線B2がY=100X−50の線であり、斜線B2よりも左側の領域が、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−50を満足するより好ましい領域を示してる。したがって、この図1 からも、本発明の、めっき皮膜硬度(Hv)との関係でめっき皮膜表面の残留応力を規定することにより、プーリ本体の疲労寿命の向上と、プーリ本体の疲労寿命の確実な保証を行うことができることが分かる。そして、本発明のめっき皮膜表面の残留応力の規定の臨界的な意義も明らかである。
【0041】
Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力がより低くなるにつれて、Al合金製プーリの疲労寿命は向上している。したがって、Al合金製プーリの疲労寿命を向上させるためには、めっき皮膜表面の残留応力を低くし、更に、めっき皮膜表面の残留応力を、前記めっき皮膜硬度(Hv)との特定の関係にするためには、めっき皮膜の条件を調節することにより行う。しかし、前記した通り、めっき皮膜の基本特性が例え同じであったとしても、めっき皮膜表面の残留応力が大きく相違してくる。したがって、Al合金製プーリ本体なり、Al合金製動力伝達部品本体なりの疲労寿命を確実に保証するためには、最終的に、めっき皮膜表面の残留応力自体を測定して、本発明で規定する範囲内か否かを評価する必要があるのは勿論である。
【0042】
めっき皮膜表面の残留応力に影響する代表的なめっき皮膜の因子は、めっき皮膜の成分組成と膜厚である。特に、Ni-Pなどの硬質めっきにおいては、めっき皮膜が非晶質の場合、めっき皮膜表面の残留応力は、ほぼ0kgf/mm2となり、前記図2 における、Al合金製プーリの疲労寿命の向上を保証する領域に入れやすくなるので好ましい。
【0043】
本発明におけるめっき皮膜の成分 (種類) は、プーリの耐食性や耐磨耗性などの要求特性に応じて、Ni、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっきが適宜選択される。本発明におけるめっき皮膜の重要な特性の一つである、優れた耐磨耗性を有するためには、めっき皮膜硬度(Hv)が250 以上であることが必要であり、更にめっき皮膜硬度(Hv)が400 以上であることが好ましい。
【0044】
これらの硬度を満足するためには、Ni、Ni-P、Fe-P、Crなどの硬質めっき、あるいはこれらのめっき皮膜に更にSiC 、アルミナ、BN、シリカ、シリコンナイトライドなどの硬質粒子を分散させて更なる高硬度化を図った硬質めっきを用いることが好ましい。また、めっき皮膜もこれらの単独乃至単層だけではなく、これらを組み合わせて、複合化乃至複層化しためっき皮膜としても、勿論良い。
【0045】
一方、本発明におけるめっき皮膜の重要な特性のもう一つである、めっき皮膜表面の残留応力を本発明範囲内とするためには、Ni-P、Fe-Pなどの合金硬質めっきの場合に、P 量など合金成分を調節しても、残留応力の制御が可能である。また、後述する膜厚によっても、残留応力の制御が可能である。したがって、前記耐磨耗性などの他のめっき皮膜への要求特性との関係や、後述する膜厚などの他のメッキ皮膜条件との関係で、めっき皮膜の成分組成を決定していくことが好ましい。
【0046】
次に、めっき皮膜の膜厚は、膜厚が厚くなるほど、めっき皮膜表面の残留応力が大きくなる傾向があるので、膜厚は数μm 程度の薄い方が好ましい。ただ、P 量を2 〜4wt%含有するNi-Pめっきなどの場合には、膜厚が5 μm 以下、または40μm 以上でめっき皮膜表面の残留応力が低くなるなど、めっきの種類や条件により一概に言えない部分もあるので、めっきの種類や条件毎に最適膜厚を設定していくことが好ましい。
【0047】
但し、めっき皮膜の膜厚は、本発明における一方の重要特性である、Al合金製プーリの耐磨耗性を確保するための重要な因子である。そして、前記めっき皮膜表面の残留応力とは逆に、数十μm 程度と、めっき皮膜の膜厚が厚くなるほど、耐磨耗性が向上して、めっき皮膜硬度(Hv)が250 以上、好ましくはめっき皮膜硬度(Hv)が400 以上を確保しやすくなる。したがって、めっき皮膜の膜厚は、めっき皮膜表面の残留応力低減と耐磨耗性を確保する両方の観点から決定されるのが好ましい。
【0048】
この点、本発明において、重要な対象の一つである、前記図4 に示したアーム部と動力伝達部とを含む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリは、前記した通り、前記アーム部と動力伝達部との要求特性が異なる。即ち、大きなトルクがかかる場合のプーリの疲労破壊特性が主として問題となるのは、アーム部であり、ベルトに動力を伝達する動力伝達部の方は、磨耗による表面の肌あれを防止するための耐磨耗性である。
【0049】
したがって、アーム部と動力伝達部とを含む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリでは、アーム部のめっき皮膜は、疲労寿命の向上のために、特にめっき皮膜表面の残留応力を低くする必要がある。このためには、アーム部のめっき皮膜の膜厚は数μm 程度の薄い方が好ましい。一方、動力伝達部のめっき皮膜は、耐磨耗性の向上のために、めっき皮膜の膜厚は数十μm 程度の厚い方が好ましい。また、アーム部のめっき皮膜の、疲労寿命の向上のために、めっき皮膜を非晶質とする方法もある
【0050】
より具体的には、アーム部と動力伝達部とを含む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリでは、Ni、Ni-P、Crなどの硬質めっき、あるいはこれらのめっき皮膜に更にSiC などの硬質粒子を分散させた硬質めっきを行う場合、アーム部のめっき皮膜の膜厚を10μm 以下の数μm 程度、動力伝達部のめっき皮膜の膜厚を10μm 以上の15〜20μm 程度とすることが好ましい。
【0051】
次に、本発明におけるめっき皮膜の設け方について説明する。Ni、Ni-P、Crなどの硬質めっき、あるいはこれらのめっき皮膜に更にSiC などの硬質粒子を分散させた硬質めっきを設ける場合、無電解めっき、置換めっき、浸漬めっきなどのめっき方法もあるが、基本的にAl合金製プーリを電気めっきすることにより設ける方法が効率的である。
【0052】
より具体的に、図2 を用いて、アーム部と動力伝達部とを含む自動車などの輸送機用のAl合金製プーリを電気めっきする方法について説明する。図2 は、動力伝達部のめっき皮膜厚さが、前記アーム部のめっき皮膜厚さよりも厚い疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリを得るための、電気めっき装置の概要を示している。図2 において、電気めっき装置は、めっき浴7 を収容する電解層6 と、めっきされるAl合金製プーリ1 を多数支持するとともに、プーリ1 に−の架電を行う回転軸9 と、プーリ1 に対向して配置された陽極8 、8 と、これらの電極に通電する電源10とからなる。
【0053】
めっきされるAl合金製プーリ1 を多数支持する回転軸9 は、陽極8 の面に対し、プーリ1 を自転乃至公転させてめっき皮膜を設ける。そして、この際、プーリ1 の自転乃至公転を、プーリ1 の動力伝達部3 、3 の方を、アーム部2 、2 よりも陽極8 の面に近づけて行い、陽極8 を内包する面に対して直交する面内で、陽極と平行の軸を中心として行うことにより、動力伝達部3 、3 のめっき皮膜厚さを、アーム部2 、2 のめっき皮膜厚さよりも厚くすることが可能である。
【0054】
電気めっきは、陽極と、陰極である被めっきAl合金製プーリの間に電圧をかけ、電流を流すことにより、めっき皮膜を成長させる方法である。このため、陽極に最も近い部分に電流が流れやすいという傾向がある。したがって、電流が多く流れた部分のめっき膜厚は、電流の流れる量が少ない部分よりも厚くなる。前記方法は、電気めっきの、このような特性を活かして、動力伝達部3 、3 のめっき皮膜厚さを、アーム部2 、2 のめっき皮膜厚さよりも厚くしている。
【0055】
本発明における動力伝達部品に用いるAl合金の種類は、プーリなどの動力伝達部品の要求特性や機械的性質に応じて適宜選択される。但し、前記した通り、特にプーリのアーム部などの疲労破壊は、母材であるAl合金特性にも大きく影響を受ける。このため、動力伝達部品の中でも、特に疲労寿命が要求される場合には、Al合金の中でも、特にプーリ用途に要求される疲労破壊特性を具備している、好ましくは、引張強さが190N/mm2以上のJIS 5052、5056などの5000系や、JIS 6063などの6000系、あるいはJIS 7075などの7000系などのAl合金を用いることが好ましい。しかし、用途によっては、JIS 2014、2017などの2000系や、JIS4032 などの4000系、A C4B 、A C8C 、A DC12などを用いることも可能である。
【0056】
なお、プーリなどの動力伝達部品への製造乃至成形自体は、公知の方法により行われる。例えば、Al合金鋳塊を圧延や押出、鍛造などにより、熱間成形加工や冷間成形加工して、またはAl合金粉末を焼結するなどの粉末冶金法により、所定の動力伝達部品が製造される。
【0057】
【実施例】
(参考例1)
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。参考例1 として、引張強さが195N/mm2であるJIS 5052(O材)Al 合金を、図4 に示す形状のアーム部と動力伝達部とを含むプーリに加工し、このプーリを被めっき材として、電気Niめっき、電気Ni-Pめっき、無電解Niめっき、Crめっきして、各々のめっき皮膜を表面に形成した。このアーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリの、アーム部と動力伝達部とのめっき皮膜の膜厚は同じとした。そして、このめっき皮膜を表面に形成したAl合金製プーリの、めっき皮膜硬度と、めっき皮膜表面の残留応力を測定するとともに、Al合金製プーリの疲労寿命を評価した。これらの結果を、図1 に示す。
【0058】
また、図1 に示した例の内、代表的な例の、めっき皮膜の基本的な条件と、めっき皮膜表面の残留応力、Al合金製プーリの疲労寿命の評価を整理して、表1 、2 に示す。表1 は電気Ni-Pめっきの例、表2 は電気Niめっきの例、無電解Niめっきの例、Crめっきの例である。なお、表1 、2 における図1 との対応について、表1 、2 では、図1 にプロットしている印 (めっきの種類) のみを示し、白抜き、網かけ、黒塗りの区別はしていない。また、表1 、2 において、めっき皮膜を設けたAl合金製プーリの疲労寿命の評価は、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命よりも特性が20% 以上向上しているプーリを○印で、また、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命と特性が同等のプーリを△印で、更に、めっき皮膜を設けないAl合金製プーリの疲労寿命に比して特性が劣っている、プーリを×印で、各々表す。
【0059】
なお、各めっき皮膜の硬度はビッカース硬度計により測定した。また、各めっき皮膜表面の残留応力(kgf/mm2) は、X 線管球にCrを用い、ヤング率12000kgf/mm2、ポアソン比0.3 の定数を用いた公知のX 線応力測定方法により測定した。この際、無電解Niめっきのみは、スパイラル応力計によりめっき時に膜応力を測定した。
【0060】
更に、Al合金製プーリの疲労寿命は、実際のプーリの自動車部品への使用環境を模擬して、プーリに300kgf/mm2の引張力を付加しながら回転させる、回転疲労試験によって行い、疲労破壊が生じるまでの回転数で評価した。また、同じ試験方法・条件によるめっきしないAl合金製プーリの疲労寿命を基準として比較した。なお、めっきしないAl合金製プーリの疲労寿命は5 ×105 回であった。
【0061】
まず、図1 から明らかな通り、斜線A1やA2よりも上側の領域、即ち、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 を満足する、より好ましくは、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+410 を満足するめっき皮膜で、かつ、斜線B1やB2よりも左側の領域、即ち、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足する、より好ましくは、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−50を満足するめっき皮膜が、めっき皮膜の種類に拘らず、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を向上させ、確実に保証することができる。
【0062】
一方、これらの領域に無いものは、Al合金製プーリのめっき皮膜表面の残留応力が15kgf/mm2 以下、あるいは、10kgf/mm2 以下のより低い値となったとしても、めっき皮膜の種類に拘らず、Al合金製プーリの疲労寿命は向上しないか、却って低下している。したがって、この実施例から、本発明における、めっき皮膜硬度(Hv)との関係でめっき皮膜表面の残留応力を規定することの、プーリ本体の疲労寿命を確実に保証する臨界的な意義が明らかである。
【0063】
また、表1 、2 から明らかなように、図1 の前記発明領域内にある各発明例は、めっき皮膜の種類や基本めっき条件の違いに拘らず、プーリ本体の疲労破壊特性乃至疲労寿命を向上させ、確実に保証することができる。
【0064】
更に、表1 、2 の発明例と比較例との対比、即ち、表1 の電気Ni-Pめっきにおける、発明例No.4と比較例No.8、発明例No.5と比較例No.11 との対比などから明らかな通り、めっき皮膜の基本的条件が同じ乃至近似していても、めっき皮膜表面の残留応力は大きく異なり、プーリ本体の疲労寿命が著しく相違していることが分かる。
【0065】
これは、表2 の電気Niめっきにおける、発明例No.12 と比較例No.16 、発明例No.14 と比較例No.17 、更には、Crめっきにおける、発明例No.22 と比較例No.27 、発明例No.24 と比較例No.26 との対比などからも明らかである。
【0066】
そして、これらの結果は、前記した通り、めっき皮膜の基本特性やめっきの基本条件が、例え、全く同じであったとしても、それだけでは、めっき皮膜表面の残留応力が同じとなるとは言えないこと、即ち、Al合金製プーリ本体なり、Al合金製動力伝達部品本体なりの疲労破壊特性乃至疲労寿命を確実に保証するためには、めっき皮膜表面の残留応力自体を測定して評価する必要があることを裏付けている。したがって、本発明のように、めっき皮膜表面の残留応力の規定により、疲労破壊特性乃至疲労寿命を、確実に保証できることの意義が裏付けられている。
【0067】
【表1】
Figure 0004620191
【0068】
【表2】
Figure 0004620191
【0069】
(実施例2)
実施例1 と同じプーリを、図2 に示しためっき装置を用いて、P 量を2 〜4wt%含有する電気Ni-Pめっき皮膜を表面に形成した。そして、アーム部と動力伝達部とを含むAl合金製プーリの、アーム部の膜厚を5 μm 程度、動力伝達部の膜厚を20μm 程度と設定して、部分により膜厚を変えた電気Ni-Pめっき皮膜を表面に形成した。
【0070】
この電気Ni-Pめっき皮膜を表面に設けたプーリの、アーム部と動力伝達部の膜厚を図3 に示す。図3 の数値は、プーリ1 の各部分の表面に形成した電気Ni-Pめっき皮膜の膜厚を示している。この図3 から明らかな通り、図2 に示す装置と方法を用いることにより、各部分によってめっき皮膜の膜厚が異なるAl合金製プーリを製作するのが可能であることが分かる。
【0071】
また、実施例1 と同じく、このAl合金製プーリの疲労寿命を評価した。この結果、特にアーム部の疲労寿命は、めっきしないAl合金製プーリの疲労寿命に比して、20% 以上向上していた。
【0072】
以上の実施例から明らかな通り、本発明は、Al合金製動力伝達部品に要求される疲労寿命および耐磨耗性という相矛盾した特性を兼備することが可能であり、Al合金製プーリのみならず、疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分が存在する他のAl合金製動力伝達部品、例えば、歯車、ラックなどに、自動車などの輸送機用や、自転車用、産業機械用、家電製品用として、汎用できることが分かる。
【0073】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、疲労寿命および耐磨耗性という相矛盾した特性を兼備し、しかもこれら特性を保証したAl合金製動力伝達部品を提供することができる。したがって、特に自動車などの輸送機用のAl合金製動力伝達部品の用途を拡大し、輸送機などのAl合金化および軽量化を促進させる優れた工業的な価値を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のめっき皮膜表面の残留応力とめっき皮膜硬度(Hv)、およびAl合金製プーリの疲労寿命の関係を示す説明図である。
【図2】動力伝達部のめっき皮膜厚さが、アーム部のめっき皮膜厚さよりも厚いAl合金製プーリを得るための、電気めっき装置の概要を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例を示し、電気Ni-Pめっき皮膜を表面に設けたプーリの、アーム部と動力伝達部の膜厚を示す説明図である。
【図4】本発明が対象とする自動車用プーリの代表例を示し、図4 (a) は縦断面図、(b) は平面図である。
【符号の説明】
1:プーリ、2:アーム (リム) 部、3:動力伝達部、4:固定部、5:駆動軸が嵌合される孔、6:電解層、7:めっき浴、8:陽極、9:回転軸、10: 電源、A1、A2、B1、B2: プーリの疲労寿命を保証する臨界的な領域を示す斜線、

Claims (8)

  1. 疲労寿命と耐磨耗性の要求特性が各々異なる部分として、円筒状の固定部と該固定部の外周に配設された円盤状のアーム部と該アーム部の外周に配設された円筒状の動力伝達部とからなる、Al合金製プーリにおいて、硬度(Hv)が250 以上のめっき皮膜を表面に設けるとともに、特に疲労寿命が要求される前記アーム部のめっき皮膜表面の残留応力が、前記めっき皮膜硬度(Hv)との関係で、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)+330 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm2)−500 を満足し、かつ前記アーム部のめっき皮膜厚さが、前記動力伝達部のめっき皮膜厚さよりも薄いことを特徴とする疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  2. 前記めっき皮膜表面の残留応力が、めっき皮膜硬度(Hv)≧8 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm 2 )+410 、および、めっき皮膜硬度(Hv)≧100 ×めっき皮膜表面の残留応力 (kgf/mm 2 )−50を満足する請求項1に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  3. 前記めっき皮膜表面の残留応力が、15kgf/mm 2 以下である請求項1または2に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  4. 前記めっき皮膜表面の残留応力が、10kgf/mm 2 以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  5. 前記めっき皮膜硬度(Hv)が400 以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  6. 前記めっき皮膜が、Ni、Ni-P、Crの内から選択される硬質めっきである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  7. 前記Al合金の引張強さが190N/mm 2 以上である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の疲労寿命および耐磨耗性に優れたAl合金製プーリ
  8. 円筒状の固定部と該固定部の外周に配設された円盤状のアーム部と該アーム部の外周に配設された円筒状の動力伝達部とからなるAl合金製プーリ表面に、電気めっきにより硬度(Hv)が250 以上のめっき皮膜を設ける方法であって、電気めっき装置における陽極の面に対して、前記Al合金製プーリを自転乃至公転させ、この際、前記Al合金製プーリの動力伝達部の方をアーム部よりも前記陽極の面に近づけることによって、前記動力伝達部のめっき皮膜厚さを、前記アーム部のめっき皮膜厚さよりも厚くするAl合金製プーリのめっき方法。
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