JP4618916B2 - 回転伝達誤差低減歯車の設計方法およびその方法により設計された歯車 - Google Patents

回転伝達誤差低減歯車の設計方法およびその方法により設計された歯車 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転伝達誤差低減歯車の設計方法およびその方法により設計された歯車に関し、特に、プリンターおよび複写機等の事務機器用樹脂歯車、ファクシミリおよびビデオ等のOA機器用樹脂歯車、情報機器および家電機器等で使用される回転伝達誤差低減歯車の設計方法およびその方法により設計された歯車に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯車は長い歴史を持つ重要な機械要素であり、家電機器、事務機器、情報機器、精密機械の分野で頻繁に用いられている。近年では金属製歯車と共に樹脂製歯車の使用も増加している。歯車に要求される性能としては、従来から高強度、低摩耗、低騒音が挙げられている。しかし近年、特に事務機器および家電機器用のプリンター等の歯車は、高精度、高強度が要求される場合が多い。
ここでいう高精度とは、JIS B1705やJGMA(日本歯車工業会)で規定されている歯車の寸法精度などのことであり、寸法精度を高精度にすることにより、回転伝達精度を向上させ、結果として回転に起因した品質の低下、即ち印字や画像の乱れ等を防ぐことができる。したがって、寸法的に更に高精度の歯車が必要とされてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、歯車が長期間運転された場合、摩耗などによって初期のJIS精度やJGMA精度が悪化してしまい、高精度歯車は、回転伝達精度が良好であるという、従来の関係が成立しないという問題点があった。
また、寸法的に高精度な歯車は、価格的にも高価となり、樹脂歯車を使用するメリットの一つである低コスト性に影響を及ぼすという問題点もあった。
さらには、歯車の寸法精度に、極めて高い精度が得られても、必ずしも回転伝達精度の向上、ひいては最終製品としての印字、画像の品質が向上することにはならないという問題点がある。
そこで、本発明は、低コストで所定の寸法精度があり、かつ、長期間にわたって、高い回転伝達精度の維持ができ、さらに材料選択や、形状選択に設計的にゆとりのある歯車を得ることが目的である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、回転伝達精度の測定技術を確立し、これを基に歯車の回転伝達精度に及ぼす歯車の寸法精度以外の諸要因につき種々検討し、歯車の寸法諸元が大きく関与していることを見出した。
そして、歯車の剛性即ち撓みが、特に、噛み合う歯対の噛み合い周期内における歯形の撓みが、回転伝達精度に大きく影響を及ぼすことを見出し、回転時の歯面および歯元に加わる応力、歯形の形状、これらと材料の種類、剛性、弾性率等との関係を調べた。
さらには、回転伝達精度の向上のための歯車の設計方法および創成条件等につき種々検討の結果、かかる問題点を解決しうることを見い出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち本発明の第1は、平行軸間に回転運動を伝達する軸直角方式による相当平歯車の噛み合いにおいて、式(1)で算出されるピッチ点の前後100/歯数(度)における歯対の撓みaの最大値aMと、式(2)で計算され、前記最大値aMを取り得る範囲を除き、噛み合う歯対の撓みbの最小値bmとを比較し、前記最大値aMと前記最小値bmとの差である撓み差△が、標準歯車の噛み合いによる撓み差△Sよりも小さい撓み差△Mを取るように、前記相当平歯車対の少なくとも一方の歯車が、少なくとも歯元の歯厚を、厚くすることにより、歯車の回転伝達誤差を低減することを特徴とする回転伝達誤差低減歯車の設計方法に関する。
【0006】
ここに、1つの歯対のみで噛み合う場合の歯対の撓みは、
a=(4PL1 3/b11 31)+(4PL2 3/b22 32)・・・(1)
また、2つの歯対で噛み合う場合には、先行する噛み合い歯対の撓みである(4P23 3/b11 31)+(4P24 3/b22 32)が式(1)と等しくなる必要があるので、2つの歯対の撓みは、
b=(4P11 3/b11 31)+(4P12 3/b22 32)=(4P23 3/b11 31)+(4P24 3/b22 32)・・・・・・・・・・・(2)
さらにまた、3つの歯対で噛み合う場合には、さらに先行する噛み合い歯対の撓みである(4P34 3/b11 31)+(4P35 3/b22 32)が式(2)と等しくなる必要がある、
ここに、b12、d12、E12はそれぞれ歯幅、歯元の歯厚、ギヤ材の弾性率を示す。
添字1、2は、それぞれピニオンギヤとそれに噛み合う相手ギヤを示す。
添字3、4は、注目する噛み合う歯対に先行して噛み合っている歯対のピニオンギヤ、相手ギヤを示す。
添字5、6は、前記先行して噛み合う歯対より、さらに先行して噛み合っている歯対のピニオンギヤ、相手ギヤを示す。
16は、それぞれの歯対の接触点から歯底までの接点距離を示す。
【0007】
また本発明の第2は、相当平歯車は、転位係数が0を超え+0.6以内である転位歯車であり、かつ、撓み差△Mを取るように、少なくとも歯元の歯厚を標準歯車より厚くすることを特徴とする本発明の第1の回転伝達誤差低減歯車の設計方法に関する。
【0008】
また本発明の第3は、相当平歯車が、歯形を創成する基準ラック工具の標準歯車または転位歯車の工具歯形の歯面を、ラックのピッチ線に沿って、0を超え50モジュール%以内に相当する距離を平行移動させて標準より歯厚が薄い歯形とし、これを使用して創成された歯厚が厚い歯車と同様な歯形曲線を有することを特徴とする本発明の第1の回転伝達誤差低減歯車の設計方法に関する。
【0009】
また本発明の第4は、弾性率Eのギヤ材からなり、噛み合う歯対が撓み差△Mを取るように、少なくとも歯元の歯厚が標準歯車より厚い歯厚と、本発明の第1の歯車諸元とから構成され、回転伝達誤差を低減することを特徴とする本発明の第1の設計方法により設計された歯車に関する。
【0010】
また本発明の第5は、弾性率Eのギヤ材からなり、転位係数が0を超え+0.6以内の転位歯車であり、噛み合う歯対が撓み差△Mを取るように、少なくとも歯元の歯厚が厚い歯厚を有し、回転伝達誤差を低減することを特徴とする本発明の第1の設計方法により設計された歯車に関する。
【0011】
また本発明の第6は、弾性率Eのギヤ材からなり、噛み合い時の歯対が撓み差△Mを取るように、歯形を創成する基準ラック工具の標準歯車または転位歯車の工具歯形の歯面を、ラックのピッチ線に沿って、0を超え50モジュール%以内に相当する距離だけ、平行移動させて標準歯車より歯厚が薄い歯形とし、これを使用して創成された歯厚が厚い歯車と同様な歯形曲線を有し、回転伝達誤差を低減することを特徴とする本発明の第1の設計方法により設計された歯車に関する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明における歯車の回転伝達精度の評価に用いた回転伝達精度測定機につき述べる。
歯車の回転伝達精度測定機1は、図1(a)に示すように歯車運転試験機3に取り付けたパルス発生機5、6とパルス解析機器7から構成されている。
パルス発生器5、6は、歯車運転試験機3の互いに噛み合う2つの歯車10、11を取りつけたそれぞれの軸に独立して取り付けられ、軸の回転に応じてパルスを発生するもので、軸の1回転に数万パルスの出力をするものである。
【0013】
駆動側の歯車10より回転力を歯車11に伝達するとき、噛み合う歯車10、11に、歯の撓み、歯厚のバラツキ、バックラッシのバラツキ等が発生し、回転伝達の角度に差ができ、回転伝達誤差が生じると、両軸のパルス発生機5、6で発生するパルスのパルス間隔に遅れや進みが生じる。これをパルス解析機器7を介して軸の角度誤差として検出及び演算させ、結果を図1(b)に示すように、横軸に周波数を、縦軸に角度誤差の大きさを回転伝達誤差としてグラフで表した。
グラフから解るように、角度誤差は、軸の回転周期や噛合い周期でいくつかの種類があるが、本発明が注目する印字や画像の品質に影響する大きな角度誤差は、噛合い周期とその高次周期における回転伝達誤差であることが判明した。
そして、歯車の回転伝達誤差の原因が、噛み合う歯対の撓みに差異が生ずるためであることが判明した。
即ち、回転伝達精度測定機により、回転伝達精度の評価ができ、角度誤差の原因の解明、対策の評価ができるようになった。
【0014】
以下、歯車の噛み合い周期で発生している歯対の撓みと、その撓みの差の低減方法につき詳しく説明する。
図2、3に示すように、歯車の噛み合い周期において、1つの歯に注目すると、噛み合いの始めと終わりの一定の範囲は2つの歯対(図2に示す)で噛み合い、ピッチ点の前後100/歯数(度)の範囲では1つの歯対(図3で示す)でのみ噛み合う。
【0015】
1つの歯対が噛み合うときの歯対の撓みaは、歯を片持ち梁と考えると、下記式(1)で表すことができる。
a=(4PL1 3/b11 31)+(4PL2 3/b22 32)・・・(1)
ここに、重要なことは、噛み合う歯対の接点距離が、ピニオンギヤはL1、相手ギアはL2で、その大きさが異なることである。
また、2つの歯対が噛み合うときの歯対の撓みbは、下記式(2)で表すことができる。このとき、2つの歯対のそれぞれの撓み量は等しく、かつ荷重は2つの歯対にそれぞれP1、P2と配分され、荷重P=P1+P2の関係にある。
b=(4P11 3/b11 31)+(4P12 3/b22 32)=(4P23 3/b11 31)+(4P24 3/b22 32)・・・・・・・・・・・(2)
式中の英字、添字は前記と同じであり、説明を省略する。
また、2つの歯対で噛合う場合、図2に示すように、注目している歯対の接点距離L1、L2と先行する歯対の接点距離L3、L4でも接点距離は異なることである。これに伴い、各歯対に負荷される荷重P1、P2も変化する。各歯対の撓みが同一となるように荷重は分散され、結果的に各歯対の撓みが同一となるように収束する。
【0016】
2つの歯車が回転により動力を伝達しているとき、図4に示すように、2つの歯対が噛み合うときの歯の撓みbは小さく、1つのみの歯対が噛み合うときの歯の撓みaは大きくなる。特に1つの歯対の噛み合い始めで極めて大きくなる。そして、歯対の歯の撓みa、bの大小の差が伝達の回転角の遅れとなり、伝達誤差が生じる。
歯車の回転時に、式(1)、(2)では、それぞれ接点距離L1、L2およびL1、L2、L3、L4が変化し、これに伴い撓みa、bは変化する。
歯車の回転時の噛み合い位置(接触点)を角度で表し横軸に示し、撓みa、bの大きさを角度で表し伝達誤差(角度、秒)として縦軸に示すと、図4に示すようになる。
そして、この撓みの最大値aMと撓みの最小値bmとの差△が、撓み差△となり、回転伝達誤差(角度)を生じ、プリンターの印字の乱れとなる。
したがって、回転伝達精度の向上には、歯対の撓み差△=aM−bmをできるだけ小さくする歯車を設計することである。
【0017】
発明者らは、標準歯車の歯対の撓み差△Sより小さい撓み差△Mを取るように、前記式(1)、(2)の歯車の寸法諸元、材料の種類、剛性(弾性率)等を変えて設計し、前記の回転伝達精度試験機により評価した。
撓み差△Mを取る方法は、1つは、少なくとも歯元の歯厚を標準歯車より厚くなるように設計することであり、また、弾性率Eを大きくすることでもできる。
また、歯幅を大きくすることでも可能である。要は、歯車の寸法諸元の設計に関して、回転伝達精度に最適の形状バランスを取ることである。
【0018】
次に、噛み合い周期内に、3つの歯対が噛み合う場合につき説明する。
ヤマバ歯車のように、3つの歯対で噛み合う場合には、歯対の撓みは、さらに先行する歯対の撓みである(4P34 3/b11 31)+(4P35 3/b22 32)が式(2)と等しくなる必要があり、次式(3)となる。
c=(4P11 3/b11 31)+(4P12 3/b22 32)=(4P23 3/b11 31)+(4P24 3/b22 32)=(4P34 3/b11 31)+(4P35 3/b22 32)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
式中の英字、添字は前記と同じであり、説明を省略する。
この場合は式(2)と(3)とから、撓み差△=b−cが算出される。そして、前述と同様に撓み差△Mを取るように、最適の形状バランスの歯車の諸元を決めるのである。
【0019】
また、高歯車などの場合、軸直角断面において噛合い率が2を超える場合には、噛み合いの周期において、噛み合いの中心部で2つの歯対が噛み合い、両端部で、3つの歯対が噛み合うことがある。このときは、前述の式(3)より撓みの最小値を算出する。そして、前述と同様に、撓み差△Mを取るように最適の形状バランスの歯車の諸元を決める。
【0020】
本発明の本質は、このようにして算出される撓みa、b(またはb、c)の撓み差△が大きい場合に、回転伝達精度が悪化することを見出したことである。これを改善するために、少くとも歯元の歯厚を標準歯車よりも厚くするように設計することで、撓み差△が小さくなり、回転伝達精度が向上することを見出したことである。
【0021】
逆に歯厚を減少させるとそれに応じて回転伝達精度は悪化する。歯厚の増加についてその方法は問わないが、少なくとも実際に相手ギヤと接触する部分については不連続な直線や曲線とした場合は幾何学的に均一な回転伝達が難しく、回転伝達精度は悪化する。
したがって、歯形は従来の標準歯車と同様に角速度の変化の無いインボリュート曲線やそれに類する曲線で連続的に構成されることが好ましい。また、噛合いに関与しない頂げき部分などの肉厚を増加させた場合については不連続であっても回転伝達精度は向上する。
【0022】
本発明においては、少なくとも歯元の歯厚を標準歯車よりも厚くするために、転位歯車を使用してもよい。この際、転位係数は0を超え十0.6以内であることが、より好ましい。
それは転位係数が0よりも小さい場合、歯元の歯厚は薄くなり、結果的に回転伝達精度は悪化する。また、転位係数が+0.6を超えて大きくしても、本発明による回転伝達精度の向上効果はあるものの、次のような弊害が生じる。
すなわち+0.6を超えて転位させた歯車を標準歯車あるいは同じくプラス転位させた歯車と噛合わせた場合、噛合い率が著しく低下し、結果的に回転伝達精度は悪化する。
また、プラス転位量に相応した量をマイナス転位させた歯車と噛合わせると噛合い率の低下は防止できるが、マイナス転位した歯車の撓みが大きくなり結果的に回転伝達精度は悪化する。したがって、転位は十0.6以内とすることが望ましい。
【0023】
また、本発明において、少なくとも歯元の歯厚を標準歯車よりも厚くするために、歯形創成によることもできる。それは、歯形創生の基準となるラック工具の歯形曲面を、標準歯車または転位歯車を創成させる工具歯形の歯面からラックのピッチ線の沿って、0を超え50モジュール%以内に相当する距離を平行移動させて標準よりも歯厚が薄い歯形とし、これを使用して創成された歯厚が厚い歯車と同様な歯形曲線を有する歯車を使用することである。
【0024】
この方法は、噛合いが不連続になることなく歯の撓みを抑えて回転伝達精度を改善できる具体的な手法の一つである。これにより、歯厚は増加し歯の撓みは減少するが、平行移動させて歯厚を増加させた相応分を相手ギアの歯厚を減少させなければ噛合いが成立しなくなる。
また、相手ギアは薄くなる分、強度や剛性に優れる材質が必要とされる。したがって、相手ギアの強度などの制限から平行移動量は50モジュール%以内が望ましい。これを超えて移動量を大きく取ると、前述の強度や剛性の面で回転伝達精度の悪化だけでなく歯の折損などの問題が生じる恐れがある。また、相手ギアの材質が樹脂であった場合、剛性が律速となり、平行移動量は25モジュール%以内とすることがより望ましい。
【0025】
また、本発明の相当平歯車とは、平歯車、ハスバ歯車の軸直角方式による相当平歯車、ヤマバ歯車の軸直角方式による相当平歯車を含むものである。
また、本発明の歯車の材質は金属、合成樹脂、木質等歯車用素材に適用できるが、特に、樹脂を使用する歯車には、より顕著な効果が期待できる。
樹脂材料としてはポリアセタール、ポリブチレンテレフタレートを始めとするポリエステル系材料、ポリカーボネート、ポリケトン、各種ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが使用できる。
さらに、これら樹脂に対して潤滑油あるいは固体潤滑材などの摺動改質材あるいはガラスや無機フィラーを始めとする強度、剛性向上のための各種強化材、さらにはポリマーアロイの手法で諸特性を改善した材料であってもよい。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず、本発明の実施例に使用した図1に示す回転伝達精度測定機1につき詳細に説明する。
歯車の回転伝達精度測定機1は、歯車運転試験機3にパルス発生機5、6とパルス解析機器7から構成されており、歯車運転試験機3には、小野測器製歯車疲労試験器を用い、各歯車軸にパルス発生機5、6としてロータリーエンコーダーを取り付け、パルス解析機器7として歯数補正器および位相差演算器を付設した周波数解析器である小野測器製FFTアナライザーを使用したものである。
パルス発生機5、6は軸の1回転に数万パルスを出力する。
【0027】
そして、1つの歯車対が回転伝達時に、噛み合う歯車10、11の歯に撓み等が発生し、回転伝達の角度に差ができ回転伝達誤差(角度誤差)が生じると、両軸のパルス発生機5、6で発生するパルスのパルス間隔に遅れ(進み)が生じる。この遅れ(進み)を電圧に換算し、これをFFTアナライザーで周波数分析し、歯車の噛み合い周期成分に相当する情報を抽出、積算して得られた結果を、横軸に周波数、縦軸に角度誤差の大きさを回転伝達誤差としてグラフ図1(b)で表した。
【0028】
試験条件としては、歯車運転試験機3の回転数100rpm、トルク0.5N・mで運転した際の回転伝達精度を角度誤差として検出し、積算回数16回、窓関数ハニング、室温にて運転し測定した。
使用した歯車は、モジュールm=1.0、歯幅15mm、歯数28同士を組み合わせた。また、歯車の材質は金属の場合はS45Cを使用し、合成樹脂の場合はポリプラスチックス(株)製ポリアセタールコポリマー“ジュラコンTMM90−44”(室温における曲げ弾性率2580MPa)を使用した。グリスはダウコーニング(株)製モリコートEM−30Lを運転初期に塗布した。
【0029】
代表的な計算結果と測定結果を表1に示す。
(比較例1)
比較例1は、本発明の比較用とした、ピニオンギア、相手ギアを共に合成樹脂の標準歯車(有効歯元円上歯厚1.98mm)とした場合の噛み合わせである。前記式(1)、(2)から標準歯車の撓み差△S(μm)を計算した結果と、前記回転伝達精度測定機1による試験結果である回転伝達誤差(秒)とを示す。
【0030】
(実施例1)
実施例1では、ピニオンギアを標準歯車とし、相手ギアは、本発明の設計方法により設計した、転位係数を十0.2の転移歯車(有効歯元円上歯厚2.05mm)とした場合であり、撓み差△Mの計算結果と、回転測定誤差(秒)の測定結果を示す。
歯車の撓み差△Mは、標準歯車の場合に比し大幅に少なくなり、それに伴い回転伝達誤差も改善されている。
【0031】
(実施例2)
実施例2では、ピニオンギアを実施例1と同じ標準歯車とし、相手ギアは、実施例1と同様にして転位係数を十0.5の転移歯車(有効歯元円上歯厚2.18mm)とした場合であり、撓み差△Mの計算結果と、回転伝達誤差(秒)の測定結果を示す。
歯車の撓み差△Mはさらに少なくなり、それに伴い回転伝達誤差もさらに大幅に改善されている。これは長期間運転しても変わらなかった。
【0032】
(実施例3)
実施例3では、ピニオンギアは実施例2と等しい諸元を有し、材質を剛性(弾性率E)がより高い金属(S45C)とし、相手ギヤは実施例2と等しい転位係数+0.5としたものである。
ピニオンギアの弾性率Eを高くしても、回転伝達誤差は大幅に改善される。
【0033】
(実施例4)
実施例4では、ピニオンギアは実施例3と同じ金属製のものを用い、相手ギヤは、本発明の設計方法によるものであり、歯元の歯厚を標準歯車よりも厚くするために、歯形創生の基準となるラック工具の歯形曲面を、標準歯車を創成させる工具歯形の歯面からラックのピッチ線に沿って、平行移動させて標準歯車よりも歯厚が薄い歯形とし、これを使用して創成された歯厚が0.2mm厚い歯車を使用した。
これにより表1に示すように、実施例3と比較し相手ギヤの歯厚を平行移動により厚くしても、回転伝達誤差を大幅に低減できる。
【0034】
【表1】
Figure 0004618916
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、低コストで、所定の寸法精度を有し、かつ高い回転伝達誤差が大幅に低減でき、さらに、長期間運転しても、回転伝達精度の維持ができ、さらにまた、材料選定や、歯車の形状選択にゆとりのある歯車の設計ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の回転伝達精度測定機を示し、(a)はその概略図、(b)は、その測定結果を示すグラフである。
【図2】2つの歯対で噛み合う歯車の一部平面概略図である。
【図3】1つの歯対で噛み合う歯車の一部平面概略図である。
【図4】噛み合う歯車の回転伝達誤差を示すグラフである。
【符号の説明】
1 回転伝達精度測定機
10 ピニオンギア
11 相手ギア
a 1つの歯対のみで噛み合うときの歯の撓み
M 撓みの最大値
b 2つの歯対で噛み合うときの歯の撓み
m 撓みの最小値
△ 撓み差
S 標準歯車の撓み差
M 撓み差△Sより小さい撓み差

Claims (6)

  1. 平行軸間に回転運動を伝達する軸直角方式による相当平歯車の噛み合いにおいて、式(1)で算出されるピッチ点の前後100/歯数(度)における歯対の撓みaの最大値aMと、式(2)で計算され、前記最大値aMを取り得る範囲を除き、噛み合う歯対の撓みbの最小値bmとを比較し、前記最大値aMと前記最小値bmとの差である撓み差△が、標準歯車の噛み合いによる撓み差△Sよりも小さい撓み差△Mを取るように、前記相当平歯車対の少なくとも一方の歯車が、少なくとも歯元の歯厚を、厚くすることにより、歯車の回転伝達誤差を低減することを特徴とする回転伝達誤差低減歯車の設計方法。
    ここに、1つの歯対のみで噛み合う場合の歯対の撓みは、
    a=(4PL1 3/b11 31)+(4PL2 3/b22 32)・・・(1)
    また、2つの歯対で噛み合う場合には、先行する噛み合い歯対の撓みである(4P23 3/b11 31)+(4P24 3/b22 32)が式(1)と等しくなる必要があるので、2つの歯対の撓みは、
    b=(4P11 3/b11 31)+(4P12 3/b22 32)=(4P23 3/b11 31)+(4P24 3/b22 32)・・・・・・・・・・(2)
    さらにまた、3つの歯対で噛み合う場合には、さらに先行する噛み合い歯対の撓みである
    (4P35 3/b11 31)+(4P36 3/b22 32)が式(2)と等しくなる必要がある、
    ここに、b12、d12、E12は歯幅、歯元の歯厚、ギヤ材の弾性率を示す。
    添字1、2は、それぞれピニオンギヤとそれに噛み合う相手ギヤを示す。
    添字3、4は、注目する噛み合う歯対に先行して噛み合っている歯対のピニオンギヤ、相手ギヤを示す。
    添字5、6は、前記先行して噛み合う歯対より、さらに先行して噛み合っている歯対のピニオンギヤ、相手ギヤを示す。
    Lは、それぞれの歯対の接触点から歯底までの接点距離を示す。
  2. 相当平歯車は、転位係数が0を超え+0.6以内である転位歯車であり、かつ、撓み差△Mを取るように、少なくとも歯元の歯厚を標準歯車より厚くすることを特徴とする請求項1記載の回転伝達誤差低減歯車の設計方法。
  3. 相当平歯車が、歯形を創成する基準ラック工具の標準歯車または転位歯車の工具歯形の歯面を、ラックのピッチ線に沿って、0を超え50モジュール%以内に相当する距離を平行移動させて標準より歯厚が薄い歯形とし、これを使用して創成された歯厚が厚い歯車と同様な歯形曲線を有することを特徴とする請求項1記載の回転伝達誤差低減歯車の設計方法。
  4. 弾性率Eのギヤ材からなり、噛み合う歯対が撓み差△Mを取るように、少なくとも歯元の歯厚が標準歯車より厚い歯厚を有し、請求項1に記載された歯車諸元とから構成され、回転伝達誤差を低減することを特徴とする請求項1記載の設計方法により設計された歯車。
  5. 弾性率Eのギヤ材からなり、転位係数が0を超え+0.6以内の転位歯車であり、かつ、噛み合う歯対が撓み差△Mを取るように、少なくとも歯元の歯厚が厚い歯厚を有し、回転伝達誤差を低減することを特徴とする請求項1記載の設計方法により設計された歯車。
  6. 弾性率Eのギヤ材からなり、噛み合い時の歯対が撓み差△Mを取るように、歯形を創成する基準ラック工具の標準歯車または転位歯車の工具歯形の歯面を、ラックのピッチ線に沿って、0を超え50モジュール%以内に相当する距離だけ、平行移動させて標準歯車より歯厚が薄い歯形とし、これを使用して創成された歯厚が厚い歯車と同様な歯形曲線を有し、回転伝達誤差を低減することを特徴とする請求項1記載の設計方法により設計された歯車。
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