JP2011158338A - 歯車対の評価装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】歯車対の伝達効率を精度良く評価することができる歯車対の評価装置を提供する。
【解決手段】演算部6は、歯車対100の噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’上の各点に作用する分布荷重q(I,j)を演算すると共に、当該噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’上の各点での歯面間の滑り速度V(I,j)を演算し、これら分布荷重q(I,j)と滑り速度V(I,j)とに基づいて求めた損失パワーPlossと入力パワーPinとに基づいて歯車対100の噛み合い瞬間tにおける伝達効率EFFを演算する。これにより、実際の歯車対の噛み合い状態等に即した伝達効率EFFを精度良く評価することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は、歯車対の伝達効率を評価するための歯車対の評価装置に関する。
一般に、自動車等の車両や各種工作機械等の機械類において、高いエネルギー効率を実現するためには、動力伝達系に用いられる各種歯車対の伝達効率を向上させることが重要となる。そこで、例えば自動車等の車両においては、排ガス規制や地球温暖化対策等への要求に伴い、各種歯車対の高効率化が強く求められている。特に、フロント側とリヤ側とで2セットのハイポイドギヤを必要とする4輪駆動車においては、ハイポイドギヤによる動力伝達ロスが全体の約半分を占める等、歯車対の伝達効率を向上させることは不可欠である。
このような高効率な歯車対を設計するためには伝達効率を精度良く解析する必要があり、例えば、特許文献1には、ピッチ点を基準として近似した歯筋方向滑り率や歯型方向滑り率等を用いて周知のグリーソンColemanの計算式を変形することにより、ハイポイドギヤの動力伝達効率を高精度に算出するための計算式を導出した技術が開示されている。
特開2004−239322号公報
しかしながら、歯車対における滑り率はピッチ点からオフセットした位置で最大となる場合が多く、上述の特許文献1に開示された技術のように、ピッチ点を基準として歯筋方向滑り率や歯形方向滑り率を近似した場合、十分に高精度な伝達効率の評価を実現することが困難となる場合がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、歯車対の伝達効率を精度良く評価することができる歯車対の評価装置を提供することを目的とする。
本発明は、歯車対に所定の入力パワーを付与した際の噛み合い瞬間における接触線上の各点に作用する分布荷重を演算する荷重演算手段と、前記噛み合い瞬間における接触線上の各点での歯面間の滑り速度を演算する滑り速度演算手段と、前記分布荷重と前記滑り速度とに基づいて前記噛み合い瞬間における損失パワーを演算する損失パワー演算手段と、前記入力パワーと前記損失パワーとに基づいて前記噛み合い瞬間における歯車対の伝達効率を演算する伝達効率演算手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の歯車対の評価装置によれば、歯車対の伝達効率を精度良く評価することができる。
本発明の第1の実施形態に係わり、歯車対の評価装置の概略構成図 同上、歯車対の評価装置を実現するためのコンピュータの一例を示す概略図 同上、伝達効率演算ルーチンを示すフローチャート 同上、はすば歯車対の作用平面を示す説明図 同上、歯面上に設定された修正量入力点を示す説明図 同上、歯先修正量及び歯元修正量の説明図 同上、(a)はクラウニング修正量の説明図であり(b)は歯筋タオレ修正量の説明図 同上、バイアス修正量の説明図 同上、等高線表示された相対歯面誤差分布の一例を示す説明図 同上、各噛み合い瞬間における各歯対の噛み合い剛性値の推移を示す説明図 同上、接触線上での相対歯面誤差と等価歯形誤差を示す説明図 同上、はすば歯車対の解析モデルを示す説明図 同上、各噛み合い瞬間における歯対と接触線との関係を示す説明図 同上、はすば歯車対を示す説明図 同上、歯対の作用平面での滑り速度の分布を示す説明図 同上、伝達効率の解析結果を示す説明図 同上、多段変速機の各変速段における伝達効率の解析結果を示す説明図 本発明の第2の実施形態に係わり、ハイポイドギヤのイーズオフを等高線表示して示す説明図 同上、ハイポイドギヤの噛み合い開始から噛み合い終了までの歯面荷重(負荷歯当り)を等高線表示して示す説明図 同上、接触の条件を示す説明図 同上、ある噛み合い瞬間における接触線を示す説明図 同上、ドライブ運転時において摩擦を考慮しないときの歯面任意点での荷重を示す説明図 同上、ドライブ運転時において摩擦を考慮したときの歯面任意点での荷重を示す説明図 同上、図23の関係を三次元的に示す説明図 同上、コースト運転時において摩擦を考慮しないときの歯面任意点での荷重を示す説明図 同上、コースト運転時において摩擦を考慮したときの歯面任意点での荷重を示す説明図 同上、図26の関係を三次元的に示す説明図 同上、歯面上の噛み合い点における歯面速度ベクトルと滑り速度ベクトルとの関係を示す説明図 同上、作用平面での滑り速度の分布を示す説明図 同上、ハイポイドギヤを示す説明図
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の第1の実施形態に係わり、図1は歯車対の評価装置の概略構成図、図2は歯車対の評価装置を実現するためのコンピュータの一例を示す概略図、図3は伝達効率演算ルーチンを示すフローチャート、図4ははすば歯車対の作用平面を示す説明図、図5は歯面上に設定された修正量入力点を示す説明図、図6は歯先修正量及び歯元修正量の説明図、図7(a)はクラウニング修正量の説明図であり(b)は歯筋タオレ修正量の説明図、図8はバイアス修正量の説明図、図9は等高線表示された相対歯面誤差分布の一例を示す説明図、図10は各噛み合い瞬間における各歯対の噛み合い剛性値の推移を示す説明図、図11は接触線上での相対歯面誤差と等価歯形誤差を示す説明図、図12ははすば歯車対の解析モデルを示す説明図、図13は各噛み合い瞬間における歯対と接触線との関係を示す説明図、図14ははすば歯車対を示す説明図、図15は歯対の作用平面での滑り速度の分布を示す説明図、図16は伝達効率の解析結果を示す説明図、図17は多段変速機の各変速段における伝達効率の解析結果を示す説明図である。なお、本発明は、歯車対のドライブ側の噛み合い、及びコースト側の噛み合いの何れにも適用が可能であるが、本実施形態においては、以下、ドライブ側の噛み合いを例に説明する。
図1に示す歯車対の評価装置1は、例えば、互いに噛み合う駆動歯車101と被動歯車102がそれぞれはすば歯車(ヘリカルギヤ)で構成される歯車対100(図14参照)の評価を行う。具体的には、評価装置1は、例えば、シミュレーション上において、歯車対100に所定の入力パワーPinを付与した際の各噛み合い瞬間における接触線上の各点に作用する分布荷重q(I,j)を演算するとともに、各噛み合い瞬間における接触線上の各点での歯面間の滑り速度V(I,j)を演算し、これら分布荷重q(I,j)と滑り速度V(I,j)とに基づいて各噛み合い瞬間における歯車対100の入力パワーPinに対する損失パワーPlossを演算する。そして、評価装置1は、入力パワーPinと損失パワーPlossとに基づいて各噛み合い瞬間における歯車対100の伝達効率EFFの演算を行う。
ここで、本評価装置1で評価対象となるはすば歯車対100において、駆動歯車101及び被動歯車102の各歯面は、例えば、基本諸元に基づいて規定されるマクロ形状の各歯面(基準歯面としてのインボリュート歯面)に対し、各種歯面修正量(設定歯面修正量)に基づく三次元的な歯面修正がそれぞれ施されることにより形成されている。
なお、歯車対100の基本諸元としては、例えば、各歯車101,102の歯数z、歯直角モジュールmn、歯丈係数Ks、圧力角αn、歯幅b、及び、ねじれ角β等が設定される。また、設定歯面修正量としては、各歯面に対して、例えば、歯先修正量Tm、歯元修正量Rm、クラウニング修正量Cm、歯筋タオレ量Lm、及び、左右バイアス修正量Blm,Brm等(図6乃至図8参照)等が設定される。
なお、以下の説明において、駆動歯車101の歯面に設定される歯面修正量等に対して必要に応じて添字’Dv’を付し、被動歯車102の歯面に設定される歯面修正量等に対して必要に応じて添字’Dn’を付す。
評価装置1は、歯車対100等についての各種情報を入力する入力部5と、入力部5からの入力情報に基づいて歯車対100の評価を行う演算部6と、演算部6で実行される伝達効率演算ルーチン等のプログラムを格納するとともに入力部5からの入力情報や演算部6での演算結果等を適宜記憶する記憶部7と、演算部6での演算結果等を出力する出力部8とを有して構成されている。
なお、評価装置1は、例えば図2に示すコンピュータシステム10で実現される。このコンピュータシステム10は、例えば、コンピュータ本体11に、キーボード12と、表示手段としてのディスプレイ装置13と、プリンタ14とを有し、これらが接続ケーブル15を介して接続されて要部が構成されている。そして、このコンピュータシステム10において、例えば、コンピュータ本体11に配設された各種ドライブ装置やCPU,ROM、RAM等が演算部6として機能する。また、コンピュータ本体11に内臓されたハードディスク等が記憶部7として機能するとともに、ディスプレイ装置13やプリンタ14等が出力部8として機能する。
ここで、評価装置1には、歯車対100の基本諸元及び設定歯面修正量の他、歯車対100を使用する際に想定される所定の入力パワーPin(=(入力トルクTin)×(入力回転数ωin))等の情報が入力部5を通じて入力される。そして、演算部6は、例えば、記憶部7に記憶された伝達効率演算ルーチンのプログラムを実行し、上記各入力情報に基づく演算を行うことにより、荷重演算手段、滑り速度演算手段、損失パワー演算手段、及び、伝達効率演算手段としての各機能を実現する。
この場合において、演算部6は、例えば、歯車対100の互いに噛み合う歯対の歯面間の相対的な誤差(隙間情報)を表す相対歯面誤差の分布情報を、基本諸元及び設計歯面修正量等に基づくシミュレーションによって演算する。なお、この相対歯面誤差は、例えば、本出願人による特開2005−195360号公報に開示されているように、実際の歯車対の各歯面に対して触針を走査させることによって各歯面の基準歯面に対する歯面誤差データを測定し、これら歯面誤差データに基づいて演算されるものであってもよい。
また、演算部6は、例えば、歯車対100の互いに噛み合う歯対に対して単位荷重(1Nの荷重)を付与したと仮定して歯対の各インボリュート歯面形状に基づくシミュレーションを行う。これにより、歯対に単位荷重Fnを付与したときの各噛み合い進行位置Iにおける接触線(噛み合い接触線)C−C’上の分布荷重である単位分布荷重qn(I,j)を演算するとともに、歯対の各噛み合い進行位置Iにおける噛み合い剛性値K(I)を演算する。ここで、jは、接触線C−C’上の座標を示す。なお、図4に示すように、はすば歯車対100の接触線C−C’は歯車軸に対してねじれているため、これらの噛み合いは、平歯車と異なり点接触から始まる。すなわち、はすば歯車対100の噛み合いは、S点から始まり、斜めの噛み合い接触線C−C’が長さを変えながら作用平面103上を平行に進行し、最後にE点で終わる。作用平面103とは、歯対の各歯面上の有効噛み合い領域を示すものであり、本実施形態において、作用平面103は、例えば、駆動歯車101の歯面(駆動歯面)を基準として定義されている。
また、演算部6は、例えば、入力パワーPinに基づく所定荷重Fsを歯車対100に付与したときの各歯対の各噛み合い進行位置Iにおける分担荷重f(I)を相対歯面誤差と噛み合い剛性値K(t)とに基づいて演算する。この分担荷重f(I)の演算において、演算部6は、先ず、歯車対100に所定荷重Fsを付与した場合に、当該荷重Fsが歯車対100の各噛み合い瞬間tにおいて同時に噛み合う各歯対それぞれに対して作用する荷重(分担荷重fh(h=1,2,…,H)(t))を、相対歯面誤差と噛み合い剛性値K(t)とに基づいて演算する。ここで、歯車対100の噛み合い瞬間tとは、例えば、同時に噛み合う複数の歯対の各噛み合い進行位置を表すためのパラメータであり、各歯対の中から抽出した注目する歯対の噛み合い進行位置Iに対応付けて設定される。従って、噛み合い瞬間tにおいて、注目する歯対の噛み合い進行位置はIとなり、その前後の歯対の噛み合い進行位置はI±p(p=1ピッチ)となる。また、添字’h’は、噛み合い瞬間tに同時に噛み合う各歯対を識別するための番号であり、その最大値’H’は、歯車対100の噛み合い状態(噛み合い瞬間t)に応じて異なる。例えば、噛み合い率3.5である場合、歯車対100は、その噛み合いの進行状態に応じて、3つの歯対の噛み合い(3歯噛み合い)と、4つの歯対の噛み合い(4歯噛み合い)とを繰り返すため、Hのとり得る値は、噛み合い瞬間tに応じて3又は4となる(図13参照)。そして、これらの関係から、演算部6は、各噛み合い瞬間の各歯対の分担荷重fh(t)に基づいて、歯対(1歯対)の各噛み合い進行位置Iでの分担荷重f(I)を求める。
また、演算部6は、歯車対100に所定荷重Fsを付与したときの歯対の各噛み合い進行位置Iにおける接触線C−C’上の実分布荷重である分布荷重q(I,j)を単位分布荷重qn(I,j)と分担荷重f(I)とに基づいて演算する。
さらに、演算部6は、噛み合い進行位置Iにおける接触線C−C’上の各点での、駆動歯車101と被動歯車102との歯面間の滑り速度V(I,j)を演算する。
次に、演算部6で実行される歯車対100の伝達効率演算処理について、図3に示す伝達効率演算ルーチンのフローチャートに従って詳細に説明する。
このルーチンがスタートすると、演算部6は、先ず、ステップS101において、オペレータ等により入力部5を通じて入力された歯車対100の基本諸元や設定歯面修正量等の各種情報を記憶部7から読み込む。
続くステップS102において、演算部6は、歯車対100の基本諸元及び設定歯面修正量に基づくシミュレーションにより、歯対の歯面間の相対歯面誤差S(I,j)の分布情報を演算する。
この相対歯面誤差の演算では、先ず、歯車対100の各歯面(駆動歯車101及び被動歯車102の各歯面)の歯面誤差分布情報として、それぞれ3行×3列の歯面誤差分布情報が算出される。すなわち、図5に示すように、演算部6は、各基準歯面上における有効歯面の中心(D(1,1))と、有効歯面の四隅(D(0,0)、D(0,2)、D(2,0)、D(2,2))と、有効歯面を囲む各辺の中心(D(0,1)、D(1,0)、D(1,2)、D(2,1))に対し、それぞれ該当する各歯面修正量を付与することで、各基準歯面に対する3行×3列の歯面誤差分布情報を算出する。
具体的には、駆動歯車101が右ネジレの場合、歯筋タオレ量は強ネジレ方向を正、バイアス修正量はバイアスインを正とすると、駆動歯車のドライブ側歯面における各点の歯面修正量は、
Dv(0,0)=TDv+CDv+LDv/2−BlDv/2
Dv(0,1)=TDv
Dv(0,2)=TDv+CDv−LDv/2+BrDv/2
Dv(1,0)=CDv+LDv/2
Dv(1,1)=0
Dv(1,2)=CDv−LDv/2
Dv(2,0)=RDv+CDv+LDv/2+BlDv/2
Dv(2,1)=RDv
Dv(2,2)=RDv+CDv−LDv/2
となる。一方、被動歯車102のドライブ側歯面における各点の歯面修正量は、
Dn(0,0)=TDn+CDn+LDn/2−BlDn/2
Dn(0,1)=TDn
Dn(0,2)=TDn+CDn−LDn/2+BrDn/2
Dn(1,0)=CDn+LDn/2
Dn(1,1)=0
Dn(1,2)=CDn−LDn/2
Dn(2,0)=RDn+CDn+LDn/2+BlDn/2
Dn(2,1)=RDn
Dn(2,2)=RDn+CDn−LDn/2
となる。なお、駆動歯車101が左ネジレの場合、上述の各点において、歯筋タオレ修正量、及び、バイアス修正量に係る加減算は逆となる。
さらに、演算部6は、算出した各3行×3列の歯面誤差分布情報に対して、例えば、周知の多点スプライン補間法を用いた補間計算を行うことにより、各歯筋方向のサンプル間隔が例えば0.1mmとなる3行×lDv列、3行×lDn列の各歯面誤差分布情報を生成する。
そして、演算部6は、駆動歯車101と被動歯車102の各ドライブ側歯面の有効噛み合い領域を算出し、駆動歯車101の歯面誤差分布情報(3行×lDv列の分布情報)及び被動歯車102の歯面誤差分布情報(3行×lDn列の分布情報)の中から、有効噛み合い領域内に存在する歯面誤差分布情報(3行×l’列の分布情報)をそれぞれ抽出する。
次に、演算部6は、抽出した各歯面誤差分布情報に基づいて、駆動歯面と被動歯面との噛み合い時の相対的な歯面誤差である相対歯面誤差の分布情報を生成する。ここで、本実施形態において、演算部6は、例えば、駆動歯面を基準として、無負荷状態での相対歯面誤差分布情報を算出する。
具体的に説明すると、3行×l’列の各歯面誤差分布情報において、駆動歯面側のm行n列目の歯面誤差データをDDv(m,n)、被動歯面側のm行n列目の歯面誤差データをDDn(m,n)とすると、歯面上の各点(m,n)での相対歯面誤差S(m,n)は、例えば(1)式に示す計算式を用いて算出される。
S(m,n)=DDv(m,n)+DDn(3−1−m,n)+Gosa(m,n)…(1)
ここで、Gosa(m,n)は、歯車対100の組付誤差及びデフレクションを歯面上に反映させた補正値である。
例えば、抽出された各歯面誤差分布情報が3行×161列である場合、上述の(1)式に基づいて、
S(0,0)=DDv(0,0)+DDn(2,0)+Gosa(0,0),
S(0,1)=DDv(0,1)+DDn(2,1)+Gosa(0,1),・・・,
S(2,159)=DDv(2,159)+DDn(0、159)+Gosa(2,159),
S(2,160)=DDv(2,160)+DDn(0,160)+Gosa(2,160)
の各データからなる、3行×161列の相対歯面誤差S(m,n)のデータ群(相対歯面誤差分布情報)が算出される。
さらに、演算部6は、相対歯面誤差分布情報に対し、多点スプライン補間法を用いて行補間及び列補間を行い、より詳細な相対歯面誤差分布情報(例えば、241行×241列の分布情報)を生成する。なお、演算部6は、この相対歯面誤差分布情報を、例えば、図9に示すように、出力部8(例えば、ディスプレイ装置13)を通じて等高線表示することも可能である。
続くステップS103において、演算部6は、歯対の各噛み合い進行位置Iにおける単位分布荷重qn(I,j)を演算するとともに、歯対の各噛み合い進行位置Iにおける噛み合い剛性値K(I)を演算する。
これら単位分布荷重qn(I,j)及び噛み合い剛性値K(I)は、例えば、各噛み合い進行位置Iにおいて、歯車対100の基本諸元に基づいて定められる各歯面のマクロ形状に基づいて以下の(2)〜(4)式に示す歯の曲げ撓みと歯面接触撓みの積分方程式を作成し、当該積分方程式を解くことにより得られる。
具体的に説明すると、演算部6は、荷重Fs=1N(単位荷重)であると仮定して、(2)式〜(4)式をガウス処理を用いて解くことにより、噛み合い接触線C−C’上の単位分布荷重Fc(ξ)及び撓み量δを算出する。そして、演算部6は、単位分布荷重Fc(ξ)を接触線C−C’上に設定された計算分割幅ΔBで除算して正規化することにより最終的な単位分布荷重qn(I,j)を算出するとともに(qn(I,j)=Fc(ξ)/ΔB)、撓み量δの逆数である噛み合い剛性値K(I)を算出する。
δ=∫Kb(x,ξ)・Fc(ξ)dξ+∫Kc(x=ξ)・Fc(ξ)dξ…(2)
s=∫Fc(ξ)dξ…(3)
K(I)=Fs/δ…(4)
ここで、(2)式において、歯面接触撓みの影響関数であるKcには、鈴木ら(鈴木・梅澤、「片当りする歯車の歯面接触による近寄り」、日本機械学会論文集(C編)52巻481号(1986)、P2449 参照)によって提案されている自由端荷重分布の影響を考慮したローラ同士の理論式を使用することが可能である。
c[x=ξ,y=η=fuc(x)]
=25・(1−γ)・∫(1−x1/4dx
/π・E・ΔB・(1−x1/4…(5)
(但し、積分範囲は0〜1)
また、歯の曲げ撓み影響関数であるKbは、狩野ら(狩野・斎木、「歯車用ラックの新しい曲げ撓み影響関数」、日本機械学会2002年度年次大会講演論文集(V)2314号、P27 参照)によって提案されている歯幅方向と歯丈方向の違った撓み特性を考慮した高精度な式を使用することが可能である。
b(x,y,ξ,η)
=U・G(η)・〔ν(r)/ν(η)〕
・[〔F(x)・F(ξ)〕/F(|x−ξ|)]1/2 …(6)
γ=η+[〔λ・(x−ξ)〕+(y−η)]1/2 …(7)
ここで、式(2)〜(7)中の変数等は以下の通りである。
(x,y):撓み観測点の座標値
(ξ,η):単位集中荷重点の座標値
c(ξ):噛み合い接触線上の荷重分布
E:ヤング率[2.068×1011N/m
γ:ポアソン比[0.3]
I:接触歯幅中央を0とするはすば歯車対の等価作用線(図4参照)上の座標値
U:原点集中荷重時の原点での撓みの絶対値
λ:撓み楕円状分布の同心円分布への座標変換係数
r:歯先を原点とする撓み同心円分布の半径
ν(r):等価同心円分布の撓み特性関数
G(η):歯丈方向の集中荷重点直下の撓み特性関数
F(ξ):歯幅方向の集中荷重点直下の撓み特性関数
なお、本実施形態においては、単位分布荷重qn(I,j)及び噛み合い剛性値K(I)を歯の曲げ撓みと歯面接触撓みの積分方程式を用いて演算する一例について説明したが、これら単位分布荷重qn(I,j)及び噛み合い剛性値K(I)は、個別に求められるものであってもよい。
続くステップS104において、演算部6は、図12に示すはすば歯車対の解析モデルに基づいて以下の(8)〜(11)式に示すはすば歯車対の負荷噛み合い方程式(静的な負荷噛み合い方程式)を噛み合い瞬間t毎に作成し、この負荷噛み合い方程式を解くことにより、各噛み合い瞬間tにおいて同時に噛み合う各歯対の分担荷重fh(t)を演算する。
ここで、式(8)〜(11)中において、kh(t)は、噛み合い瞬間tにおいて同時に噛み合う各歯対の噛み合い剛性値であり、各噛み合い剛性値kh(t)は、上述のステップS103で求めた1歯対あたりの噛み合い剛性値K(I)に基づいて求められる。具体的に説明すると、演算部6は、例えば、図10に示すように、1歯対あたりの噛み合い剛性値K(I)の特性線を各歯対に対応付けて1ピッチずつずらして配置した検索マップを生成し、当該検索マップに基づいて、噛み合い瞬間tにおける各歯対の噛み合い剛性値kh(t)を検索する。なお、図10に示す検索マップは、歯車対100の噛み合い率が3.5である場合の検索マップを示す。
また、eh(t)は、各歯対の等価歯形誤差であり、各等価歯形誤差eh(t)は、歯対の相対歯面誤差S(m,n)と、歯車対の実質静撓みxs’とに基づいて演算される。具体的に説明すると、演算部6は、先ず、ステップS102で求めた相対歯面誤差S(m,n)を、歯対の噛み合い進行方向と接触線C−C’方向とを座標軸とする非直交座標系の相対歯面誤差S(I,j)に変換する。そして、例えば、図11(a)〜(c)に示すように、相対歯面誤差S(I,j)の分布情報から、噛み合い瞬間tにおける各歯対の接触線C−C’上の相対歯面誤差Sh=1(j)、…、Sh=H(j)を抽出し、各接触線上の実際の接触範囲での各相対歯面誤差Sh(j)の平均値(すなわち、相対歯面誤差Sh(j)の曲線内において実質静撓みxs’以上となる領域の面積)を、等価歯形誤差eh(t)として算出する。また、tZは、はすば歯車対の1正面法線ピッチを通過する時間で噛み合い周期と呼ぶ。この場合において、演算部6は、実質静撓みxs’の初期値として、例えば、誤差を考慮しない静撓み量xs0を、以下の式(12)、(13)に基づいて設定する。
そして、演算部6は、これら各歯対の噛み合い剛性値kh(t)及び等価歯形誤差eh(t)を代入した上述の(8)〜(11)式を解くことにより、各歯対に対する分担荷重fh(t)を算出すると共に、新たな実質静撓みxs’を算出する。
そして、演算部6は、新たに算出した実質静撓みxs’が、前回の実質静撓みxs(n-
1)に対して、以下の(14)式の関係を満たすよう収束したか否かを調べる。
|(xs’−xs(n-1))/xs (n-1)|<10−6 …(14)
その結果、実質静撓みxs’(t)が収束していないと判定した場合、演算部6は、今回新たに算出したxs’を用いて等価歯形誤差eh(t)を再演算する。そして、再演算した等価歯形誤差eh(t)を代入した上述の(8)〜(11)式を解くことにより、各歯対に対する分担荷重fh(t)及び実質静撓みxs’を再び算出する。これらの処理は、例えば、3回を限度として、実質静撓みxs’が収束するまで繰り返し行われる。そして、演算部6は、実質静撓みxs’が収束したときの各歯対の分担荷重fh(t)を、最終的な分担荷重fh(t)として設定する。
さらに、演算部6は、各噛み合い瞬間tにおいて演算した各歯対の分担荷重fh(t)から、各噛み合い進行位置Iにおける歯対の分担荷重f(I)を求める。なお、上述の(8)〜(11)式から同時に算出される各分担荷重fh(t)は、それぞれ1ピッチずれた噛み合い進行位置で噛み合う各歯対の分担荷重であるため、演算部6は、歯車対100に予め設定された1ピッチ分の噛み合い区間内において各噛み合い瞬間tの分担荷重fh(t)を演算するだけで、歯対の噛み合い開始から終了までの各噛み合い進行位置Iでの分担荷重f(I)を求めることができる。
続くステップS105において、演算部6は、単位分布荷重qn(I,j)と、分担荷重f(I)とを用い、歯車対100に所定荷重Fsを付与したときの各噛み合い進行位置Iにおける接触線C−C’上の分布荷重q(I,j)を、以下の(15)式に基づいて演算する。
q(I,j)=qn(I,j)×f(I) …(15)
なお、演算部6は、例えば、接触線C−C’毎に演算される全ての実分布荷重q(I,j)を、歯面全体に亘る実分布荷重の情報として、出力部8(例えば、ディスプレイ装置13)を通じて等高線表示することも可能である。
ステップS105からステップS106に進むと、演算部6は、例えば、以下の(16),(17)式に基づいて、各噛み合い瞬間(各噛み合い進行位置I)における接触線C−C’上の各点jでの滑り速度V(I,j)を求める。
V=S(ω/z)・(z+z) …(16)
=(Rs −Rg 1/2−Rb・sinαbs …(17)
ここで、図4にも示す通り、(16),(17)式中の変数等は以下の通りである。
ω:駆動歯車101の回転数(=ωin
:駆動歯車101の歯数
:被動歯車102の歯数
s:駆動歯車101の軸から観測点(I,j)までの距離(半径)
g:基礎円半径
b:噛み合いピッチ円半径
αbs:正面噛み合い圧力角
この場合、図15(a)からも明らかなように、はすば歯車対からなる本実施形態の歯車対100においては、基本的に、歯丈方向にのみ速度成分が発生する。なお、例えば、図15(b)にはギヤ比=1の歯車対100における各点での滑り速度V(I,j)を等高線表示したものを示し、図15(c)にはギヤ比>1の歯車対100における各点での滑り速度V(I,j)を等高線表示したものを示す。
ステップS106からステップS107に進むと、演算部6は、例えば、以下の(18)式に基づいて各噛み合い瞬間tにおける損失パワーPlossを求める。
ここで、(18)式中の変数等は以下の通りである。
μ:歯面摩擦係数
H:噛み合い歯数
N:接触線上の分割数
また、(18)式中のV(I,j)及びq(I,j)に付した添字’h’は、噛み合い瞬間tに同時に噛み合う各歯対を識別するための番号である。
そして、ステップS107からステップS108に進むと、演算部6は、例えば、以下の(19)式に基づいて各噛み合い瞬間tにおける歯車対100の伝達効率EFFを演算した後、ルーチンを抜ける。
EFF=(Pin−Ploss)/Pin …(19)
すなわち、本実施形態においては、(19)式からも明らかなように、各噛み合い瞬間tにおける出力パワーPout(=Pin−Ploss)と入力パワーPinとの比に基づいて伝達効率EFFを求める。
このような実施形態によれば、歯車対100の噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’上の各点に作用する分布荷重q(I,j)を演算すると共に、当該噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’上の各点での歯面間の滑り速度V(I,j)を演算し、これら分布荷重q(I,j)と滑り速度V(I,j)とに基づいて求めた損失パワーPlossと入力パワーPinとに基づいて歯車対100の噛み合い瞬間tにおける伝達効率EFFを演算することにより、実際の歯車対の噛み合い状態等に即した伝達効率EFFを精度良く評価することができる。
ここで、上述の実施形態においては、損失パワーPlossの演算に際し、各噛み合い瞬間tにおいて同時に噛み合う複数歯の各接触線C−C’上の点毎の分布荷重q(I,j)を詳細に演算する場合の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、演算を簡略化するため、(20)式に示すように、各接触線C−C’上の分布荷重q(I,j)を均一化することも可能である。
q(I,j)=Fs/(N・H) …(20)
この場合、(20)式中のFsは所定の入力パワーPinに応じて歯車対100に作用する荷重である。
また、上述の実施形態においては、同時に噛み合う各歯対の状態を考慮して損失パワーを演算する場合の一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、単一の歯対による噛み合い開始から噛み合い終了までの噛み合いモデル(1歯モデル)を作成し、当該噛み合いモデルに基づいて(21),(22)式を用いて損失パワーの演算を行うことも可能である。
ここで、上述した各解析方法に基づいて演算される歯車対100の伝達効率EFFについての解析結果を図16(a),(b)に示す。図16(a)はギヤ比1.000(Z41/41)の歯車対100に対する解析結果であり、図16(b)はギヤ比3.454(Z38/11)の歯車対100に対する解析結果である。また、図中において「Single Mesh」とは上述の(21),(22)式に基づいて損失パワーPlossを演算した場合の伝達効率EFFであり、「Multi Mesh(1)」とは上述の(20)式で求めた分布荷重q(I,j)を(18)式に代入して損失パワーPlossを演算した場合の伝達効率EFFであり、「Multi Mesh(2)」とは上述のフローチャートに従って演算した伝達効率EFFである。なお、噛み合い瞬間t毎の伝達効率EFFに代えて、例えば、噛み合い開始から噛み合い終了までの各伝達効率EFFについての平均値等を求め、当該平均値等を歯車対100の伝達効率を示す解析結果として出力することも可能である。
ここで、上述のような歯車対100の伝達効率EFFについての解析は、例えば、車両に搭載される変速機の解析等に有効に活用することが可能であり、例えば、図17(a)〜(c)に示す解析結果を得ることが可能となる。なお、図17(a)〜(c)は、例えば、車両に搭載される6速の手動変速機の各変速段に対する伝達効率EFFの解析結果についての一例を示すものである。
なお、上述の実施形態では、はすば歯車対に対する伝達効率の解析を例に説明したが、当該解析はスパーギヤ等に対しても適用が可能であることは勿論である。
次に、図18乃至図30は本発明の第2の実施形態に係わり、図18はハイポイドギヤのイーズオフを等高線表示して示す説明図、図19はハイポイドギヤの噛み合い開始から噛み合い終了までの歯面荷重(負荷歯当り)を等高線表示して示す説明図、図20は接触の条件を示す説明図、図21はある噛み合い瞬間における接触線を示す説明図、図22はドライブ運転時において摩擦を考慮しないときの歯面任意点での荷重を示す説明図、図23はドライブ運転時において摩擦を考慮したときの歯面任意点での荷重を示す説明図、図24は図23の関係を三次元的に示す説明図、図25はコースト運転時において摩擦を考慮しないときの歯面任意点での荷重を示す説明図、図26はコースト運転時において摩擦を考慮したときの歯面任意点での荷重を示す説明図、図27は図26に関係を三次元的に示す説明図、図28は歯面上の噛み合い点における歯面速度ベクトルと滑り速度ベクトルとの関係を示す説明図、図29は作用平面での滑り速度の分布を示す説明図、図30はハイポイドギヤを示す説明図である。ここで、本実施形態は、上述した伝達効率についての解析をハイポイドギヤに適用する場合の一例について説明するものである。
なお、本実施形態では、上述の実施形態と同様の点については説明を省略し、はすば歯車対の解析と相違する点を中心に説明する。その際、以下の説明において、各種パラメータ等のベクトル表記については、通常のベクトル表記の他に、適宜、’〔 〕ve’とも表記する。
図30に示すように、本実施形態において、歯車対105は、大径をなす一方の歯車(以下、ギヤともいう)107Gと、小径をなす他方の歯車(以下、ピニオンともいう)107Pとが互いにオフセットした状態で噛み合いするハイポイドギヤによって構成されている。
この歯車対105の評価に際し、評価装置1には、ギヤ107Gの実歯面情報として、例えば、ギヤ107Gの注目する歯面(ギヤ歯面)上に設定された複数の格子点(例えば、歯丈方向に15個×歯筋方向に15個)上でそれぞれ計測された3次元座標データが入力される。また、評価装置1には、ピニオン107Pの実歯面情報として、例えば、ピニオン107Pの注目する歯面(ピニオン歯面)上に設定された複数の格子点(例えば、歯丈方向に15個×歯筋方向に15個)上でそれぞれ計測された3次元座標データが入力される。また、評価装置1には、歯車対105のディメンジョンデータとして、ギヤ比、組立諸元(オフセットΕ、交差角Σ)等が入力される。
そして、演算部6は、ギヤ歯面上の各3次元座標データとピニオン歯面上の各3次元座標データとを歯車対105の組立諸元を用いて所定の噛み合い回転位置で互いに関連付け、これらを、ギヤ107Gを基準とする円筒座標系上の3次元座標データに変換する。その際、各歯面の3次元座標データにスプライン補間等が行われることにより、詳細な歯面形状が求められる。
さらに、演算部6は、ピニオン歯面上に当該ピニオン歯面上の各格子点の番号と関連付けて2次元の媒介変数を設定し、これら媒介変数を用い、各3次元座標データに基づいて、ピニオン歯面上の点を表す半径座標の関数、軸座標の関数、及び角度座標の関数を作成する。
さらに、演算部6は、円筒座標系上において、ギヤ歯面上の各格子点と同一の周上に存在するピニオン歯面上の各点を示す各媒介変数を、上述の半径座標の関数及び軸座標の関数からニュートン法を用いて演算し、演算した各媒介変数を用いて上述の角度座標の関数から得られる角度情報を基に、所定の噛み合い回転位置においてギヤ歯面上の点(格子点)と当該格子点に対応するピニオン歯面上の点との隙間を示す相対角度情報を算出する。
このような処理は、歯対の噛み合い開始から終了までの間の各噛み合い回転位置毎に行われ、演算部6は、これらを合成することにより、ギヤ歯面とピニオン歯面との噛み合い開始から終了までの相対的な隙間距離を示す包絡面(Ease Off:図18参照)を演算する。
以上の演算は、上述の第1の実施形態におけるステップS102の処理に相当するもので、当該処理で求められた「Ease Off」はヘリカルギヤの「相対歯面誤差情報」に相当する。なお、当該処理の詳細については、例えば、本出願人による「国際公開番号WO2006/112369号公報」に詳述されている。
ところで、歯車対105がハイポイドギヤからなる本実施形態においては、各噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’をヘリカルギヤ等のように噛み合い進行に応じて一義的に定義することができない。従って、演算部6は、歯車対105の噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’を、例えば、ギヤ107Gとピニオン107Pとの相対速度ベクトル〔Vveと歯面の法線ベクトル〔nveとの内積に基づいて探索する。すなわち、例えば、図20に示すように、演算部6は、噛み合い瞬間t毎に、相対速度ベクトル〔Vveと法線ベクトル〔nveとの内積が「0」となる点を歯面全域に渡って探索し、〔Vve・〔nve=0となる点列を、その噛み合い瞬間tの接触線C−C’として設定する(例えば、図21参照)。
また、ハイポイドギヤからなる歯車対105では、ギヤ107Gとピニオン107PとのオフセットΕや交差角Σ等に起因して、歯丈方向のみならず歯筋方向についても歯面間に滑りが発生する。そして、この歯筋方向の滑りによる摩擦力(歯筋方向の滑り摩擦力)が実際の伝達効率に影響する。
そこで、本実施形態において、演算部6は、上述のステップS105に相当する処理において、歯対の「Ease Off」に基づいて接触線C−C’上の各点での摩擦を考慮しない場合の分布荷重q(I,j)を求め(すなわち、分布荷重の基準値を求め)、当該分布荷重q(I,j)に対して歯筋方向の滑り摩擦力に基づく補正を行うことで、最終的な分布荷重q(I,j)を導出する。
具体的に説明すると、例えば、図22に示すように、ピニオン107P側から所定トルクが入力されるドライブ運転において、歯面間の摩擦を考慮しない場合、ある歯対の噛み合い瞬間tでの接触線C−C’上の点X(座標(I,j))には、ピニオン107Pの円周方向荷重fTNに応じた法線荷重FN0が作用し、この法線荷重FN0に応じた円周方向荷重fTN2がギヤ歯面上に伝達される。この場合、歯面上の点Xに作用する総荷重Ftotal=FN0となる。
また、例えば、図23,24に示すように、ピニオン107P側から所定トルクが入力されるドライブ運転において、歯面間の摩擦(歯面摩擦係数μ)を考慮した場合、ギヤ歯筋の接線方向外側に歯面間の滑り摩擦力fSLが作用するため、歯面上の点Xに作用する総荷重Ftotalの作用方向が、法線方向に対して歯筋方向外側に変化する。その結果、歯面上の点Xに作用する荷重の法線方向成分(法線荷重F)は、摩擦を考慮しない場合の法線荷重FN0よりも減少する。なお、この場合において、滑り摩擦力fSLと法線荷重Fとの関係は、fSL=Fとなる。
一方、例えば、図25に示すように、ギヤ107G側から所定トルクが入力されるコースト運転において、歯面間の摩擦を考慮しない場合、接触線C−C’上のある点Xには、ギヤ107Gの円周方向荷重fTN2に応じた法線荷重FN0が作用し、この法線荷重FN0に応じた円周方向荷重fTNがピニオン歯面上に伝達される。この場合、歯面上の点Xに作用する総荷重Ftotal=FN0となる。
また、例えば、図26,27に示すように、ギヤ107G側から所定トルクが入力されるコースト運転において、歯面間の摩擦(歯面摩擦係数μ)を考慮した場合、ギヤ歯筋の接線方向内側に歯面間の滑り摩擦力fSLが作用するため、歯面上の点Xに作用する総荷重Ftotalの作用方向が、法線方向に対して歯筋方向内側に変化する。その結果、歯面上の点Xに作用する荷重の法線方向成分(法線荷重Fは、摩擦を考慮しない場合の法線荷重FN0よりも増加する。なお、この場合において、滑り摩擦力fSLと法線荷重Fとの関係は、fSL=Fとなる。
ここで、ピニオン軸上の任意の点を設計基準点Bとして設定し、ピニオン軸の単位軸ベクトルを〔eve、点Xにおける単位法線ベクトルを〔eve、点Xにおける単位滑りベクトルを〔eSLveとすると(図24,27参照)、歯面荷重(総荷重)Ftotalにより発生するピニオン軸周りのトルクTは、以下の(23)式となる。
=(〔X〕ve×〔Ftotalve)・〔eve …(23)
そして、図22及び図25で示した関係に基づいて、歯面間の摩擦を考慮しない場合の軸周りトルクTについて(23)式を展開すると、以下の(24)式が導かれる。
同様に、図23,24及び図26,27で示した関係に基づいて、歯面間の摩擦を考慮した場合の軸周りトルクTについて(23)式を展開すると、以下の(25)式が導かれる。
従って、歯面間の摩擦係数=μのとき、摩擦のない場合と同一のトルクを発生するために必要な歯面荷重の法線成分の大きさ|F|は、以下の(26)式から導かれる。
以上の関係から、歯車対105の接触線C−C’上の各点において摩擦を考慮した最終的な分布荷重q(I,j)を演算するための式として、例えば、以下の(27)式を得ることができる。
ここで、歯車対105のドライブ運転時において、歯対の噛み合い開始から終了までの各噛み合い瞬間tに(27)式を用いて演算される分布荷重q(I,j)の分布についての一例を、図19に示す。なお、図示しないが、ハイポイドギヤではドライブ運転時とコースト運転時とで滑り摩擦力fSLの作用方向が逆転するため、コースト運転時に(27)式を用いて演算される分布荷重q(I,j)の分布は、当然、図19に示したものとは相違する。
ところで、ハイポイドギヤ等の歯車対105においては、ヘリカルギヤ等とは異なり、上述のステップS106で示した(16)、(17)式のような演算式を用いて接触線C−C’上の各点jでの滑り速度V(I,j)を演算することが困難である。そこで、演算部6は、例えば、以下に示すベクトル演算を用いて滑り速度V(I,j)を演算する。
すなわち、図28に示すように、ギヤ107Gの回転軸単位ベクトルを〔eZ1ve、ピニオン107Pの回転軸単位ベクトルを〔eZ2ve、ある歯対の噛み合い瞬間t(噛み合い進行位置I)での接触線C−C’上の点をX(座標(I,j))、ピニオン107Pの回転軸から点Xまでのベクトル(噛み合い点座標ベクトル)を〔Xve、ギヤ107Gの回転軸から点Xまでのベクトル(噛み合い点ベクトル)を〔Xveとすると、歯面上の噛み合い点Xにおいて、ピニオン単位回転速度あたりの滑り速度ベクトル〔Vveは、以下の(28)〜(30)式から求まる。
〔Vve=〔eZ1ve×〔Xve …(28)
〔Vve=〔eZ2ve×〔Xve / ギヤ比 …(29)
〔Vve=〔Vve−〔Vve …(30)
そして、噛み合い開始から終了までの各噛み合い瞬間tにおいて求めらた単位回転数速度あたりの滑り速度V(I,j)に、ギヤ107G或いはピニオン107Pに対する入力回転数ωinやハイポイドギヤの諸元(歯数、基礎円半径等)等を加味することにより、例えば、図29に示すように、滑り速度V(I,j)の分布を得ることができる。なお、上述の第1の実施形態で示した(16)、(17)式は、以上の関係をヘリカルギヤに適用して整理したものである。
このように、本実施形態によれば、ハイポイドギヤからなる歯車対105においても、各噛み合い瞬間tにおける接触線C−C’上の各点での分布荷重q(I,j)及び滑り速度V(I,j)を詳細に算出することが可能となる。従って、上述の第1の実施形態と同様に、分布荷重q(I,j)及び滑り速度V(I,j)に基づいて損失パワーPlossを演算することにより、歯車対105の実際の噛み合い状態等を十分に考慮した高精度な伝達効率EFFを求めることができる。
この場合において、特に、ハイポイドギヤ等の歯車対105においては、歯面間の歯筋方向の滑り摩擦力を考慮して分布荷重を演算することにより、ドライブ運転時とコースト運転時とで異なる伝達効率を演算することができ、実際の歯車対105に即した的確な伝達効率の評価を実現することができる。
1 … 評価装置
6 … 演算部(荷重演算手段、滑り速度演算手段、損失パワー演算手段、伝達効率演算手段)
100 … 歯車対
101 … 駆動歯車
102 … 被動歯車
103 … 作用平面
105 … 歯車対
107G … ギヤ
107P … ピニオン

Claims (5)

  1. 歯車対に所定の入力パワーを付与した際の噛み合い瞬間における接触線上の各点に作用する分布荷重を演算する荷重演算手段と、
    前記噛み合い瞬間における接触線上の各点での歯面間の滑り速度を演算する滑り速度演算手段と、
    前記分布荷重と前記滑り速度とに基づいて前記噛み合い瞬間における損失パワーを演算する損失パワー演算手段と、
    前記入力パワーと前記損失パワーとに基づいて前記噛み合い瞬間における歯車対の伝達効率を演算する伝達効率演算手段とを備えたことを特徴とする歯車対の評価装置。
  2. 前記荷重演算手段及び前記滑り速度演算手段は、前記噛み合い瞬間において同時に噛み合う複数の歯対について、前記各接触線上の各点における前記分布荷重及び前記滑り速度を演算することを特徴とする請求項1記載の歯車対の評価装置。
  3. 前記荷重演算手段は、同時に噛み合う各歯対の撓み考慮して各歯対の分担荷重を演算するとともに、当該分担荷重及び前記歯対の撓みに基づいて前記歯対毎の接触線上の分布荷重を演算することを特徴とする請求項2記載の歯車対の評価装置。
  4. 前記荷重演算手段及び前記滑り速度演算手段は、歯車対の噛み合い開始から噛み合い終了までの各噛み合い瞬間において、前記接触線上の各点における前記分布荷重及び前記滑り速度を演算し、
    前記損失パワー演算手段は、前記分布荷重と前記滑り速度とに基づいて前記各噛み合い瞬間における前記損失パワーを演算し、
    前記伝達効率演算手段は、前記入力パワーと前記損失パワーとに基づいて前記各噛み合い瞬間における歯車対の前記伝達効率を演算することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の歯車対の評価装置。
  5. 前記歯車対はハイポイドギヤからなる歯車対であって、
    前記荷重演算手段は、前記歯車対の歯面間の隙間情報に基づいて摩擦を考慮しない場合の分布荷重の基準値を演算し、当該分布荷重の基準値を歯筋方向の滑り摩擦力に基づいて補正することで前記分布荷重を求めることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の歯車対の評価装置。
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