JP4617464B2 - スパイロソームの分離精製方法 - Google Patents

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本発明は、例えば、細菌のペリプラズムに存在するスパイロソームの分離精製方法に関する。
従来、細菌を機械的に破砕した際に、スパイロソームと呼ばれるらせん状の微小タンパク質が種々の細菌から見出されている(非特許文献1及び2)。
大腸菌由来のスパイロソームは、アルコール脱水素酵素活性、ピルビン酸ギ酸リアーゼディアクティベース(pyruvate-formate-lyase-deactivase)活性及びアセチルCoA還元酵素活性を併せ持つマルチエンザイムであることが判っている。また、他の細菌由来のスパイロソームも嫌気的糖代謝に関係することが知られている(非特許文献3〜6)。
スパイロソーム(大腸菌ではアルコールデハイドロゲナーゼE)は、細菌の他に、赤痢アメーバ、真菌、植物及びヒトまでに及ぶ真核生物において共通に保持されていることが判っている(非特許文献7〜10)。このように多岐にわたる生物においてスパイロソーム(アルコールデハイドロゲナーゼE)が保存されている。
一方、スパイロソームは細菌では細胞質内に存在すると考えられていた(非特許文献1及び11〜13)。そこで、従来より、スパイロソームの分離方法としては、菌体を破砕し、種々の分別遠心に供する方法が取られている。例えば、非特許文献1、11及び13には、プロトプラスト又はスフェロプラストを調製し、それを超音波処理又は浸透圧ショック等に供することで破砕して得られた懸濁液を、スパイロソームの分離精製のための出発材料として使用することが開示されている。次いで、これら懸濁液を超遠心分離器で分別遠心し、さらにショ糖密度勾配遠心や酒石酸カリウム密度勾配遠心に供することで、スパイロソームを精製する。あるいは、当該懸濁液を硫酸アンモニウムを用いて沈殿させた後、カラムクロマトグラフィーに供することで、スパイロソームを精製する。しかしながら、このような従来のスパイロソームの分離方法では、出発材料である細胞を破砕して得られる懸濁液には膜破片、リボソーム、核酸、細胞内タンパク質が混在するため、スパイロソームのみを精製するには、多くの工程を必要とし、煩雑で、時間を費やし、また最終的な収量が少ないといった問題がある。
従って、これまでに効率的にスパイロソームを分離精製する方法が知られていなかった。
ところで、ペリプラズムに局在する酵素を分離する方法としては、例えば浸透圧ショック(又はクロロホルムショック)を用いて、菌体を壊さず、溶液中に酵素タンパク質を分離する方法が挙げられる(非特許文献14)。しかしながら、当該方法は、溶液中に含まれる夾雑物は少ないが、収量が少ないといった問題がある。
Kawata, T., 「電子顕微鏡」, 1984年, 第19巻, p.3-9 Matayoshi, S.及びOda, H., 「Microbiology and Immunology」, 1985年, 第29巻, p.13-20 Matayoshi, S.ら, 「Journal of General Microbiology」, 1989年, 第135巻, p.525-529 Matayoshi, S., 「日本細菌学雑誌」, 1993年, 第48巻, p.417-427 Kessler, D.ら, 「FEBS Letters」, 1991年, 第281巻, p.59-63 Kessler, D.ら, 「The Journal of Biological Chemistry」, 1992年, 第267巻, p.18073-18079 Eva E. Avilaら, 「Journal of Parasitolgy」, 2002年, 第88巻, p.217-222 Brigitte boxmaら, 「Molecular Microbiology」, 2004年, 第51巻, p.1389-1399 Ariane Atteiaら, 「Plant Molecular Biology」, 2003年, 第53巻, p.175-188 William G. Gutheilら, 「Biochemistry」, 1992年, 第31巻, p.475-481 Imamura, R. 「Research in Microbiology」, 1992年, 第143巻, p.743-753 Yamato, M.ら, 「Microbiology and Immunology」, 1994年, 第38巻, p.177-182 Kessel, M.ら, 「Journal of Bacteriology」, 1981年, 第147巻, p.653-659 Lee, J. E.及びAhn, T. I., 「Research in Microbiology」, 2000年, 第151巻, p.605-618
上述したように、従来、細菌においてスパイロソームは細胞質内に存在すると考えられており、細菌からのスパイロソームの分離は煩雑なものであった。
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、簡便で、且つ効率的なスパイロソームの分離精製方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、細菌ではスパイロソームが細胞質内ではなく、ペリプラズムに大量に局在することを明らかにした。そこで、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、細菌を細胞壁分解酵素で処理することでスフェロプラストを形成し、得られたスフェロプラストをそれが破砕しないように1.75%〜3%の塩溶液中で撹拌処理することで溶液中にスパイロソームを遊離し、得られた溶液を固液分離手段に供することで、効率的にスパイロソームを分離精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
(1)細菌を細胞壁分解酵素で処理することで、スフェロプラストを形成する第1工程と、第1工程で得られたスフェロプラストを、それが破砕しないように1.75%〜3%の塩溶液中で撹拌処理することで、溶液中にスパイロソームを遊離する第2工程と、第2工程で得られた溶液を固液分離手段に供することで、上清中にスパイロソームを分離する第3工程とを含み、ペリプラズムからスパイロソームを分離することを特徴とする、スパイロソームの分離精製方法。
(2)第3工程の後に、上記上清をタンパク質精製手段に供する工程を含むことを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)上記細菌が大腸菌であることを特徴とする、(1)記載の方法。
(4)上記細胞壁分解酵素がリゾチームであることを特徴とする、(1)記載の方法。
(5)上記スパイロソームがアルコール脱水素酵素活性、ピルビン酸ギ酸リアーゼディアクティベース(pyruvate-formate-lyase-deactivase)活性及びアセチルCoA還元酵素活性から成る群から選択される1以上の酵素活性を有することを特徴とする、(1)記載の方法。
(6)上記塩溶液が塩化ナトリウム溶液であることを特徴とする、(1)記載の方法。
(7)上記固液分離手段が、遠心分離、濾過及び吸着から成る群から選択されるものであることを特徴とする、(1)記載の方法。
本発明に係る分離精製方法によれば、細菌からスパイロソームを効率良く分離精製することができる。特に、本発明に係る分離精製方法により得られたスパイロソームは未変性のものであり、疾患の検査薬、治療薬及び治療方法などの開発に使用することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るスパイロソームの分離精製方法(以下、単に「本発明に係る分離精製方法」という)により、細菌のペリプラズムからスパイロソームを分離することができる。
本発明において、スパイロソームとは、アルコール脱水素酵素活性、ピルビン酸ギ酸リアーゼディアクティベース(pyruvate-formate-lyase-deactivase)活性、及びアセチルCoA還元酵素活性から成る群から選択される1以上の酵素活性を有する酵素を意味する。アルコール脱水素酵素活性とは、アルコールとアルデヒドとの間の酸化還元反応を触媒する酵素活性である。また、ピルビン酸ギ酸リアーゼディアクティベース活性とは、アセチルCoAとギ酸からピルビン酸を生成する反応を触媒するピルビン酸ギ酸リアーゼを、活性型から不活性型に変換し、また、その逆の方向にも変換する酵素活性である。さらにアセチルCoA還元酵素活性とは、アセチル補酵素Aを還元する作用で、アセチルCoAからアセトアルデヒドを生じる反応に関与する活性である。
本発明に係る分離精製方法では、まず細菌を細胞壁分解酵素で処理する。すなわち、細菌からスフェロプラストを形成する。ここで細菌としては、スパイロソームがペリプラズムに存在するものであれば特に限定されることはないが、例えば、大腸菌(E. coli)等のエッシェリヒア(Escherichia)属、クロストリディウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)及びクロストリディウム・ヒラノニス(Clostridium hiranonis)等のクロストリディウム(Clostridium)属、スピロヘータ・ステノストレプタ(Spirochaeta stenostrepta)等のスピロヘータ(Spirochaeta)属、サルモネラ・ティフィ(Salmonella typhi)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)及びサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)等のサルモネラ(Salmonella)属、シゲラ・フレキシネリ(Shigella fexneri)等のシゲラ(Shigella)属、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)等のエンテロバクター(Enterobacter)属、プルテウス・ブルガリス(Porteus vulgaris)及びプルテウス・モルガニイ(Porteus morganii)等のプルテウス(Porteus)属、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)等のエルシニア(Yersinia)属、アコレプラズマ・レイドロウイィ(Acholeplasma laidlawii)、アコレプラズマ・グラヌラルム(Acholeplasma granularum)及びアコレプラズマ・アキサンスム(Acholeplasma axanthum)等のアコレプラズマ(Acholeplasma)属、ペプトストレプトコッカス・プロダクタス(Peptostreptococcus productus)等のペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属、ユウバクテリウム・レンタム(Eubacterium lentum)及びユウバクテリウム・エロファシエンス(Eubacterium aerofaciens)等のユウバクテリウム(Eubacterium)属、トレポネーマ・ファージデニス(Treponema phagedenis)等のトレポネーマ(Treponema)属、並びにリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等のリステリア(Listeria)属等の菌が挙げられる。特に大腸菌が好ましい。また使用する細胞壁分解酵素としては、例えば、リゾチーム、エンド-N-アセチルムラミダーゼ(Endo-N-acetylmuramidase)及びアクロモペプチダーゼ(Achromopeptidase)等が挙げられる。特にリゾチームが好ましい。
例えば、細菌をリゾチーム、ショ糖(0.5M)及びEDTA(2.5mM)を含有する緩衝液中に30〜37℃で30分間〜2時間インキュベートする。細菌に対するリゾチームの量は、例えば細菌108個/mlに対して100〜300μg/ml、特に200〜250μg/mlとする。リゾチーム処理後に、デカンテーションにより緩衝液を除去することで、スフェロプラストが得られる。
次いで、得られたスフェロプラストを、スフェロプラストが破砕しない濃度の塩溶液中に懸濁し、例えばTHERMO-MIXERを用いて、当該懸濁液を10〜60秒間、特に20〜30秒間撹拌する。この工程により、スフェロプラストのペリプラズムに局在するスパイロソームが溶液中に遊離される。使用する塩溶液としては、例えば塩化ナトリウム溶液(以下、「NaCl溶液」という)、又はNaClを1.75%〜3%に調整したリン酸緩衝液もしくはトリス緩衝液等が挙げられる。特にNaCl溶液が好ましい。また、スフェロプラストが破砕しない塩濃度は、リゾチーム等の細胞壁分解酵素の効力や菌種によって適宜決定することができるが、例えば1.75%〜3%である。
次に、遊離したスパイロソームを含有する溶液を固液分離手段に供する。固液分離手段に供した後には、上清中にスパイロソームが分離される。ここで固液分離手段としては、スパイロソームを含有する上清とスフェロプラストに含まれる他の成分とに分離できるものであればよい。固液分離手段としては、例えば、遠心分離、塩析、濾過、吸着、電気泳動、クロマトグラフィー等が挙げられ、これら手段を1種以上用いることができる。例えば、遊離したスパイロソームを含有する溶液を3000〜10000rpmで15〜60分間、遠心分離に供し、スフェロプラスト菌体を沈下させる一方、スパイロソームを含有する上清を分離することができる。
本発明においては、スパイロソームを含有する上清をさらにタンパク質精製手段に供することで、夾雑物を除去し、スパイロソームの純度を高めることができる。タンパク質精製手段としては、一般的にタンパク質精製のために用いられる方法であってよく、例えば、遠心分離、濾過、吸着、電気泳動、クロマトグラフィー等が挙げられ、これら手段を1種以上用いることができる。例えば、スパイロソームを含有する上清を、10000〜40000rpmで1〜4時間、遠心分離に供することで、沈査を除去し、上清を濃縮することで、スパイロソームの純度を高める。あるいは、遠心分離の回転数によっては、遠心分離後、上清を除去し、沈査を濃縮することで、スパイロソームの純度を高める場合もある。
以上のように、本発明に係る分離精製方法によれば、細菌のペリプラズムからスパイロソームを効率良く分離精製することができる。分離精製したスパイロソームは菌体内に存在する場合と同様の酵素活性を有する未変性のもの、すなわち、らせん状の形態を保持したものである。本発明に係る分離精製方法で得られたスパイロソームの酵素活性や純度は、例えば、吸光度測定法、蛍光光度測定法、酵素免疫測定法(EIA)等によって、測定することができる。
上述したように、スパイロソームは細菌の他に、赤痢アメーバ、真菌、植物及びヒトまでに及ぶ真核生物において共通に保持されていることが判っている。従って、本発明に係る分離精製方法で得られたスパイロソームは、医療産業や発酵産業等の様々な分野で利用できる可能性が高い。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕大腸菌におけるスパイロソームのペリプラズム局在
本実施例では、大腸菌において、スパイロソームがペリプラズムに局在することを確認した。
まず、大腸菌 E.coli B株を、PYG培地(peptone 1%, yeast extract 0.5%, glucose 1%, NaCl 0.5%)50mlにおいて37℃で6時間培養した(108細胞/ml)。培養後、菌体をPBSで2回洗浄し、その菌液の20μlを、電子顕微鏡観察用のグリッドの上にのせ、3分間静置後、菌液をろ紙で吸い取り、次に0.6Mショ糖-リゾチーム(200μg/ml)含有0.1Mリン酸塩緩衝液(pH6.8)をグリッドに20μlのせ、3分間作用させた。3分間の作用後、そのリゾチーム液をろ紙で吸い取り、次にPBS 100μlをグリッドにかけて、そのままPBS中で5分間置いた。5分間の静置後、ろ紙でPBSを吸い取り、1%酢酸ウラン溶液で染色した後、電子顕微鏡観察を行った。
得られた電子顕微鏡写真を図1A及びBに示す。図1A及びBにおいて、矢印で示す箇所がスパイロソームである。図1A及びBにおけるスケールバーは、100nmである。さらに図1Bにおける矢印で示す箇所の拡大写真を図2に示す。図2におけるスケールバーは100nmである。
図1A及B並びに図2に示すように、スパイロソームがスフェロプラスト表面に見られ、ペリプラズムに局在することが判る。
〔実施例2〕大腸菌のスフェロプラストが破壊されない食塩濃度の検討
本実施例では、大腸菌のスフェロプラストを強く撹拌しても破壊されない食塩濃度を検討した。
実施例1と同様にして得られた菌体を、同様のリゾチーム液に懸濁して、37℃で2時間処理した。スフェロプラストになった菌体は沈下するので、デカンテーションでリゾチーム液を捨て、3%NaCl液で1回洗浄した後、同液に懸濁して、1mlずつ試験管に分注した。次に、各試験管の塩溶液濃度が、1.0%、1.25%、1.5%、1.75%及び2.0%濃度になるように蒸留水を加え、THERMO-MIXER(MODEL TM-100, TOKYO THERMONICS CO., LTD Japan)で30秒間撹拌した。スフェロプラスト菌体の破砕具合を微分干渉顕微鏡で観察し、1.25%ではほとんど破砕され、1.5%ではやや破砕され、1.75%及び2.0%ではほとんど破砕されていないという観察結果を得た。そこで、1.75%食塩溶液中での撹拌の前後で濁度の測定(波長570nm)を行い、菌体が破砕されてないことを再確認した。結果を表1に示す。
Figure 0004617464
また、スフェロプラスト菌体を1.75%NaCl溶液20mlに懸濁し、撹拌した際の、撹拌前後の懸濁液を微分干渉顕微鏡により観察した。得られた微分干渉顕微鏡写真を図3に示す。
表1及び図3に示すように、1.75%のNaCl溶液に懸濁し、撹拌しても、大腸菌のスフェロプラスト菌体は破壊されることがなかった。なお、1.75%のNaCl溶液と同様に、1.75%を超える濃度のNaCl溶液(例えば、2.0%〜3.0%)に懸濁し、撹拌しても、大腸菌のスフェロプラスト菌体は破壊されることはなかった。
〔実施例3〕大腸菌からのスパイロソームの分離精製
本実施例では、大腸菌のスフェロプラスト菌体からスパイロソームを分離精製する方法を示す。
まず、実施例2と同様にして得られた沈下したスフェロプラスト菌体に、1.75%NaCl溶液1mlを静かに加え、すぐにデカンテーションで溶液を捨てた。そのスフェロプラスト菌体に1.75%NaCl溶液20mlを加えて懸濁し、THERMO-MIXER(MODEL TM-100, TOKYO THERMONICS CO., LTD Japan)で30秒間撹拌した。撹拌後、スフェロプラスト菌体懸濁液を3000rpmで15分間遠心分離に供し、スフェロプラスト菌体を沈下させた。上清を取り出し、更に10000rpmで1時間遠心分離に供することで沈査を除去し、さらに上清を濃縮した。なお上清の濃縮では、15mlの上清液を透析膜のチューブに入れ、一晩、蒸留水に透析した後、Spectra/Gel Absorbent(SPECTRUM LABORATORIES INC. USA & CANADA社製)に埋めて、脱水し、濃縮した。
撹拌前後のスフェロプラスト全菌体サンプル及び撹拌後の上清の濃縮サンプルをLaemmliの方法(Laemmli, U.K. 1970. Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophase T4. Nature, 227:680-685)に準じたSpearとRoizmanの方法(Spear, P.G. & Roizman, B. 1972. Proteins specified by herpes simplex virus. V. Purification and structural proteins of the herpes virion. Journal of virology, 9, 143-159)を用いて、SDS-PAGEに供した。
図4にはリゾチーム処理前の菌体、及びリゾチーム処理後のスフェロプラスト菌体の電子顕微鏡写真を示す。また図5には、リゾチーム処理前の菌体懸濁液及びリゾチーム処理後のスフェロプラスト菌体懸濁液の写真を示す。
図4及び図5に示すように、通常の桿菌状の菌体がリゾチーム処理によって完全に球菌状になり、菌体が破砕されない状態で沈下することが判る。
一方、SDS-PAGEの結果を図6に示す。図6において、各レーンは以下の通りである。1レーン:撹拌前のスフェロプラスト全菌体サンプル、2レーン:撹拌後のスフェロプラスト全菌体サンプル、3レーン:撹拌後の上清の濃縮サンプル。また、図6において矢印で示すバンドがスパイロソームである。
図6に示すように、撹拌後の上清の濃縮サンプルでは、スパイロソームが大量に存在することが判る。
〔実施例4〕本発明に係る分離精製方法と従来方法との比較
本実施例では、本発明に係る分離精製方法と従来方法とを比較した。
本発明に係る分離精製方法により分離精製したスパイロソームとしては、実施例3に記載の撹拌後の上清の濃縮サンプルを用いた。
一方、従来方法として、菌体を超音波処理で破砕する方法及びスフェロプラスト菌体を浸透圧で破砕する方法を用いた。
菌体を超音波処理で破砕する方法では、培養した菌体(大腸菌 E.coli B株)を蒸留水に懸濁して、超音波破砕機(Bioruptor, UC100-D, OLYMPUS)で3分間処理し、微分干渉顕微鏡で完全な破砕を確認した。
従来、細長いスパイロソームの形態は機械的な破砕処理に弱いものと考えられ、もっと穏やかな菌体破砕の方法として、細胞壁を酵素で溶解してスフェロプラストやプロトプラストにして、2%Triton X-100含有50mMトリス塩酸緩衝液中で浸透圧ショックにより破砕する方法が用いられていた。そこで、同様の方法で大腸菌 E.coli B株のスフェロプラストを浸透圧ショックで破砕したサンプルを作製した。
次いで、菌体を超音波処理により破砕して得られた懸濁液の濃縮サンプル、スフェロプラスト菌体を浸透圧で破砕して得られた懸濁液の濃縮サンプル、及び実施例3に記載の撹拌後の上清の濃縮サンプルを実施例3に記載の方法と同様にしてSDS-PAGEに供した。
SDS-PAGEの結果を図7に示す。図7において、各レーンは以下の通りである。1レーン:菌体を超音波処理により破砕して得られた懸濁液の濃縮サンプル、2レーン:スフェロプラスト菌体を浸透圧で破砕して得られた懸濁液の濃縮サンプル、3レーン:撹拌後の上清の濃縮サンプル。また、図7において矢印で示すバンドがスパイロソームである。
図7に示すように、全菌体を超音波処理により破砕して得られた懸濁液の濃縮サンプルでは、菌体の全てのタンパク質が混在し(レーン1)、また、スフェロプラスト菌体を浸透圧で破砕して得られた懸濁液の濃縮サンプルでも、菌体内の全てのタンパク質が混在する(レーン2)。一方、実施例3に記載の撹拌後の上清の濃縮サンプルでは、スパイロソームを主とするペリプラズム中のタンパク質のみを分離でき、以後にスパイロソームの精製をさらに行う場合には、精度が高まり、また精製が簡便である(レーン3)。
〔実施例5〕超遠心分離機を用いたスパイロソームの濃縮
実施例3に記載の上清を40000rpmで2時間、遠心分離に供した後、上清を捨て、沈査を200μlのPBSに懸濁して、スパイロソームを濃縮した。このようにして得られたスパイロソーム濃縮液の電子顕微鏡写真を図8に示す。図8におけるスケールバーは、100nmである。
図8に示すように、沈査には多数の長いスパイロソームが確認され、その形態も十分に保持されていることが分かる。菌体を破砕して濃縮した場合に見られる断片状の膜成分はほとんど見られない。
図1Aは、大腸菌のスフェロプラスト菌体の電子顕微鏡写真を示す。 図1Bは、大腸菌のスフェロプラスト菌体の電子顕微鏡写真を示す。 図2は、図1Bにおける矢印で示す箇所の拡大写真を示す。 図3は、撹拌前後のスフェロプラスト菌体懸濁液の微分干渉顕微鏡写真を示す。 図4は、リゾチーム処理前の菌体及びリゾチーム処理後のスフェロプラスト菌体の電子顕微鏡写真を示す。 図5は、リゾチーム処理前の菌体懸濁液及びリゾチーム処理後のスフェロプラスト菌体懸濁液の写真を示す。 図6は、撹拌前後のスフェロプラスト全菌体サンプル及び撹拌後の上清の濃縮サンプルのSDS-PAGEの結果を示す。 図7は、本発明に係る分離精製方法により得られたサンプルと従来方法で得られたサンプルのSDS-PAGEの結果を示す。 図8は、超遠心分離機を用いて得られたスパイロソーム濃縮液の電子顕微鏡写真を示す。

Claims (7)

  1. 細菌を細胞壁分解酵素で処理することで、スフェロプラストを形成する第1工程と、
    第1工程で得られたスフェロプラストを、それが破砕しないように1.75%〜3%の塩溶液中で撹拌処理することで、溶液中にスパイロソームを遊離する第2工程と、
    第2工程で得られた溶液を固液分離手段に供することで、上清中にスパイロソームを分離する第3工程と、
    を含み、ペリプラズムからスパイロソームを分離することを特徴とする、スパイロソームの分離精製方法。
  2. 第3工程の後に、上記上清をタンパク質精製手段に供する工程を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
  3. 上記細菌が大腸菌であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  4. 上記細胞壁分解酵素がリゾチームであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  5. 上記スパイロソームがアルコール脱水素酵素活性、ピルビン酸ギ酸リアーゼディアクティベース(pyruvate-formate-lyase-deactivase)活性及びアセチルCoA還元酵素活性から成る群から選択される1以上の酵素活性を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
  6. 上記塩溶液が塩化ナトリウム溶液であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
  7. 上記固液分離手段が、遠心分離、濾過及び吸着から成る群から選択されるものであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
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