JP4610874B2 - 新規アミロマルターゼ - Google Patents

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Description

本発明は、新規アミロマルターゼ、このアミロマルターゼをコードする遺伝子、およびこのアミロマルターゼの製造方法に関する。本発明はまた、この新規アミロマルターゼを用いる、環状グルカンの製造方法、ならびに食品などの製造および改質の方法にも関する。以下に、発明の詳細な説明を記載する。
アミロマルターゼ(EC.2.4.1.25)は、アミロマルターゼ、4−α−グルカノトランスフェラーゼなどと呼ばれる酵素であり、植物由来のアミロマルターゼはD-酵素とも呼ばれる。この酵素は、あるα−グルカン分子から別のα−グルカン分子(またはグルコース)にα−グルカン鎖を転移する反応を触媒する。アミロマルターゼは大腸菌、Thermus属細菌などの微生物、および馬鈴薯塊茎、麦芽大麦、さつまいも、ホウレンソウなどの植物組織に広く分布している。微生物由来のアミロマルターゼと植物由来のアミロマルターゼとは、アミノ酸配列に類似性を有する。
近年、アミロマルターゼは、α−グルカンの環状化反応を触媒し得ることが見出されている。例えば、馬鈴薯塊茎由来のD-酵素は、アミロースの分子内転移反応(環状化反応)を触媒して、重合度約17以上の環状α−グルカンであるシクロアミロースを合成し得ることが報告されている。アミロマルターゼはまた、アミロペクチンなどのα−1,6−結合を有する分岐構造を含むα−グルカンの環状化反応を触媒し、分岐型環状グルカンを合成し得ることが報告されている(特許文献1を参照)。この反応を利用することによって、内分岐型環状グルカン、および外分岐型環状グルカンなどの様々な構造を有する分岐型環状グルカンを合成することが可能である。
このような環状グルカンは、包接化合物を形成する能力を有し、かつ水への溶解性が非常に高いという特性のため、食品、医薬品などへの応用が期待されている。環状グルカンは、特に、デンプン加工工業における原料、飲食用組成物、食品添加用組成物、輸液、接着用組成物、包接物もしくは吸着物、デンプンの老化防止剤、または生分解性プラスチック用のデンプンの代替物質として有用である(特許文献1を参照)。
現在までのところ、植物由来のアミロマルターゼ(D-酵素)は、馬鈴薯塊茎、発芽大麦、サツマイモ、ホウレンソウ緑葉など、さまざまな植物組織においてその存在が認められている。馬鈴薯由来のD-酵素については、cDNAが単離され、塩基配列が決定されている(非特許文献1)。馬鈴薯由来のD-酵素は大腸菌において活性を持った状態で発現され、実験室スケールでのシクロアミロースの生産に利用されている(非特許文献2)。
他方、微生物由来のアミロマルターゼとしては、中温菌である大腸菌由来の酵素が良く研究されている(非特許文献3)。また、やはり中温菌であるインフルエンザ菌、ストレプトコッカス、およびクロストリディウム菌のアミロマルターゼ遺伝子の塩基配列がそれぞれ決定されている(GenBank登録番号U32760、JO1796、L37874)。また、最近になり、Thermus属細菌などの耐熱性細菌からも耐熱性アミロマルターゼが同定された(特許文献2を参照)。
アミロマルターゼは、様々な工業的用途に適用され得る。一つの例として、アミロマルターゼは環状グルカンの生産のようなα−グルカン加工において利用され得る。工業的に酵素を使用する場合は、できるだけ高温で、できれば約60℃以上で反応を行うことが望ましい。これは、基質であるα−グルカンの老化を抑制し、そして雑菌による反応系の汚染を防止するためである。アミロマルターゼを工業的用途に適用する別の例として、アミロマルターゼは、デンプンを多く含む食品を改質するために直接利用され得る。食品を改質するために、グルカノトランスフェラーゼ、例えば、アミロマルターゼを酵素として使用することも検討されている(例えば、特許文献3を参照)。これは、アミロマルターゼがデンプンを環状化反応により低分子化して、老化抑制効果のある環状グルカンを生じさせるためである。そのような用途として、このThermus属由来の耐熱性アミロマルターゼは有用であることが見出されている(特許文献2を参照)。
このように、アミロマルターゼは、種々の用途に用いられているが、基質に対するその反応性は、それほど高くなく、その上、加水分解活性が残存するという欠点も存在する。したがって、従来の酵素を使用する際は、加水分解活性という副反応を抑えるために相当の工夫をする必要があった。
上述のThermus属由来のアミロマルターゼでも、基質反応性はあまり高くなく、加水分解活性は相変わらず残ったままである。
それゆえ、実質的に加水分解反応を触媒しないかまたは低減され、および/または反応性の増加したアミロマルターゼが求められている。
特開平8−311103号 特開平11−46780号 国際出願公開WO97/41735 J.Biol.Chem.vol.268,pp.1391−1396(1993) J.Biol.Chem.vol.271,pp.2902−2908(1996) Eur.J.Biochem.vol.69,pp.105−115(1976)
本発明は、基質に対する反応性が増加し、および/または加水分解反応が低減もしくは消失したアミロマルターゼを提供することを課題とする。
本発明者らは、今までに発見されたアミロマルターゼの立体構造を解明し、解明された情報に基づいて酵素反応に重要と考えられる、アカボースと相互作用をする領域にあるアミノ酸残基を改変することで、酵素活性の改善がされること、特にシクロアミロースの収率の劇的な改変および加水分解活性の減少が好ましくは同時に達成されることを予想外に見出したことによって、本発明を完成した。また、野生型酵素では、基質濃度を高くすると収率が低下し、低濃度での生産しかできないことから、生産性が低い。したがって、そのような生産性が低い状態では、工業用での利用は難しい。本発明は、このような課題をも解決するものであり得る。
従って、本発明は、以下を提供する。
(1) アミロマルターゼポリペプチドであって、
A)野生型アミロマルターゼポリペプチドのアミノ酸配列において、少なくとも1つの置換、付加または欠失を含み、
上記置換、付加または欠失は、上記野生型アミロマルターゼポリペプチドのアミノ酸配列において、アカボースと相互作用するアミノ酸残基の位置において、野生型配列のアミノ酸以外のアミノ酸へ置換されることを包含する、
アミロマルターゼポリペプチド。
(2) 上記野生型アミロマルターゼポリペプチドに比較して、酵素活性の上昇および加水分解活性の低下からなる群より選択される少なくとも1つの特性を有する、項目1に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(3) 上記特性は、上記加水分解活性の低下を含み、上記加水分解活性の低下は、上記野生型アミロマルターゼポリペプチドに比較して少なくとも10%以上の低下を含む、項目1にのアミロマルターゼポリペプチド。
(4) 上記特性は、上記酵素活性の上昇の低下を含み、上記酵素活性の上昇は、上記野生型アミロマルターゼポリペプチドに比較して少なくとも10%以上の上昇を含む、項目1にのアミロマルターゼポリペプチド。
(5) アミロマルターゼポリペプチドであって、
A)野生型アミロマルターゼポリペプチドのアミノ酸配列において、少なくとも1つの置換、付加または欠失を含み、
上記置換、付加または欠失は、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンからなる群より選択される少なくとも1つの残基に対応する、上記野生型アミロマルターゼポリペプチドの残基の位置において、配列番号1において示されるそれぞれの残基の位置におけるアミノ酸以外のアミノ酸を有することを包含する、
アミロマルターゼポリペプチド。
(6) 項目1に記載のアミロマルターゼポリペプチドであって、
上記置換、付加または欠失は、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼの54位チロシンに対応する残基の位置において、上記野生型アミロマルターゼポリペプチドの上記54位チロシンに対応する残基のアミノ酸以外のアミノ酸を有することを包含する、
アミロマルターゼポリペプチド。
(7) 項目1に記載のアミロマルターゼポリペプチドであって、
A)配列番号2に示される配列において、少なくとも1つの置換、付加または欠失を含み、上記置換、付加または欠失は、54位のチロシンにおけるチロシン以外のアミノ酸への置換を包含する、配列、
を含む、アミロマルターゼポリペプチド。
(8) 上記チロシン以外のアミノ酸は、非保存的置換により置換される、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(9) 上記チロシン以外のアミノ酸は、チロシンおよびフェニルアラニン以外の天然のアミノ酸からなる群より選択される、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(10) 上記チロシン以外のアミノ酸は、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、アルギニン、セリンおよびスレオニンからなる群より選択される、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(11) 上記チロシン以外のアミノ酸は、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸である、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(12) 上記チロシン以外のアミノ酸は、グリシン、プロリン、スレオニンおよびトリプトファンからなる群より選択される、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(13) 上記チロシン以外のアミノ酸は、スレオニンまたはグリシンである、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(14) 上記チロシン以外のアミノ酸は、グリシンである、項目7に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
(15) 項目1〜14のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む、核酸分子。
(16) 項目15に記載の核酸分子を含む、ベクター。
(17) 項目15に記載の核酸分子を含む、細胞。
(18) 項目15に記載の核酸分子を含む、生物組織。
(19) 項目15に記載の核酸分子を含む、トランスジェニック生物。
(20) 項目1〜14のいずれか1項に記載のアミロマルターゼポリペプチドを食品素材に、上記素材の加熱処理前または加熱処理直後に添加する工程であって、上記アミロマルターゼポリペプチドは上記食品素材中のデンプンから環状グルカンを生成する、工程、を含む、食品の製造方法。
(21) 上記食品が、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品からなる群より選択される、項目20に記載の方法。
(22) 項目1〜14のいずれか1項に記載のポリペプチドを含有する、食品素材、食品添加物または食品改質剤。
(23) 直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、項目1〜14のいずれか1項に記載のポリペプチドとを反応させる工程を包含する、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンまたはその誘導体の製造方法。
(24) 直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、項目1〜14のいずれか1項に記載のポリペプチドとを反応させる工程を包含する、食品素材、食品添加物、食品改質剤、飲食用組成物、輸液または接着用組成物の製造方法。
(25) 項目1〜14のいずれか1項に記載のアミロマルターゼポリペプチドのアミノ酸配列または上記アミノ酸配列をコードする核酸配列の情報を含む、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
(26) 項目1〜14のいずれか1項に記載のアミロマルターゼポリペプチドを直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類に作用させることによって得られる、環状グルカン。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
本発明により、従来の野生型アミロマルターゼよりも酵素活性が上昇しおよび/または所望されない加水分解活性が低下したアミロマルターゼ改変体が提供される。本発明はまた、基質濃度が高い状態でも高収率を維持することができる変異酵素が提供されたことによって、工業用にシクロアミロースおよび環状グリカンが大量生産できるという効果がもたらされる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本明細書の全体にわたり、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
(用語)
本明細書において「アミロマルターゼ」および「アミロマルターゼ酵素」は特に示さない限り互換可能に用いられ、アミロマルターゼ活性を有する酵素を意味する。アミロマルターゼとしては、例えば、植物(馬鈴薯塊茎、発芽大麦、サツマイモ、ホウレンソウ緑葉)由来、微生物(大腸菌、インフルエンザ菌、ストレプトコッカス、クロストリディウム菌、Thermus属細菌(例えば、Thermus aquaticus、Thermus flavusなど)由来のものが挙げられるがそれらに限定されない。これらアミロマルターゼは、微生物同士、植物同士のみならず、植物と微生物との間でも互いにアミノ酸配列において類似性を有し、特にその基質相互作用部位はその配列がよく保存されている(図1参照。特に、Thermus aquaticus ATCC33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の293位アスパラギン酸、340位のグルタミン酸、395位のアスパラギン酸およびそれに対応するアミノ酸残基の位置の部位が含まれる)。したがって、ある種のアミロマルターゼにおいて基質相互作用部位を担う配列に起因する酵素の特性は、別の種のアミロマルターゼにおける基質相互作用部位を担う対応する配列に起因する酵素の特性と類似している。このようなことは、三次元構造解析、コンピュータモデリングにおける解析結果からも明らかとなっている(Przylas I.et al.J.Mol.Biol.296,873−886(2000)、Przylas et al.Eur.J.Biochem.267、6903−6913(2000)参照)。
本明細書において、「α−グルカン」とは、α−1,4−グルカン(マルトースを構成二糖単位とする鎖状構造の多糖類)、またはα−1,6−分岐構造を有するα−1,4−グルカンであり、アミロース、アミロペクチン、デンプンおよびグリコーゲンの他、ワキシースターチ、ハイアミロースデンプン、可溶性デンプン、デキストリン、デンプン加水分解産物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどを含む。
本明細書において、「環状グルカン」とは、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状α−1,4−グルカン、ならびにα−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合の両方を有する分岐型環状グルカンを含む。「分岐型」とは、少なくとも1つのα−1,4−結合以外のグルコシド結合を有することをいう。分岐型環状グルカンの例としては、α−1,6−結合を有する分岐構造を環状構造内部に含む内分岐型環状グルカン、および環状構造に加えてさらに非環状構造部分を有する外分岐型環状グルカンなどが挙げられる。
本明細書において、「シクロアミロース(CA)」とは、重合度約17以上の環状α−1,4−グルカンである。
本明細書において、「アミロマルターゼ活性」とは、50mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、10%(w/v)マルトトリオースからなる組成液中で、70℃で10分間、アミロマルターゼを作用させたときに生じるグルコースを定量することによって、測定される活性をいう。1分間に1μモルのグルコースを生じる活性を1ユニットとする。
本明細書において、「実質的に加水分解反応を触媒しない」とは、終濃度0.2%(w/v)の酵素合成アミロースAS−110を含む緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、9%(v/v)DMSO)中で、0.07ユニット/mlのアミロマルターゼを、70℃で24時間作用させた場合に、シクロアミロースの収率について、最高収率からの低下がみとめられないことをいう。
本明細書において、「シクロアミロースの定量」とは、アミロースにアミロマルターゼを作用させることにより、得られる反応産物中のシクロアミロースを定量することをいう。シクロアミロース量は、反応産物をグルコアミラーゼで消化した際、グルコアミラーゼにより分解されないグルカン量として測定される。
本明細書において、「シクロアミロースの収率」とは、定量されたシクロアミロース量を、基質に対する重量比として算出した値をいう。
本明細書において、例えば、60℃で10分間以上「活性を維持する」とは、緩衝液A(10mM KHPO−NaHPO、pH7.0)中でアミロマルターゼを、60℃で10分間処理した場合に、活性の低下がみとめられないことをいう。例えば、100℃で15分間で「失活する」とは、緩衝液A(10mM KHPO−NaHPO、pH7.0)中でアミロマルターゼを、100℃で15分間処理した場合に、活性がみとめられないことをいう。上記活性の維持および失活の具体的な温度および時間は適宜変化させてもよい。
本明細書において、「反応至適pH」とは、Britton−Rhobinson緩衝液中で、10%(w/v)のマルトトリオースが存在する条件下、各pHにおいて70℃で、10分間、アミロマルターゼを作用させた際に最も活性が高いpHを意味する。
本明細書において、「反応至適温度」とは、緩衝液(50mM 酢酸ナトリウム(pH5.5))中で、10%(w/v)のマルトトリオースが存在する条件下、各温度において、pH5.5で10分間、アミロマルターゼを作用させた際に最も活性が高い温度を意味する。
本明細書において、「好熱性菌」とは、生育至適温度が50℃〜105℃で、30℃以下ではほとんど増殖しない微生物をいう。このうち、生育至適温度が90℃以上である微生物を「超好熱性菌」という。
本明細書において、「中温菌」とは、生育温度が通常の温度環境にある微生物のことであり、特に生育至適温度が20℃〜40℃である微生物をいう。
本明細書において、「基質に対する反応性が増加する」または「酵素活性が高まる」は、互換的に使用され、終濃度0.2%(w/v)の酵素合成アミロースAS−110を含む緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、9%(v/v)DMSO)中で、0.022ユニット/mlのアミロマルターゼを、70℃で作用させることにより、1時間の反応時間で得られる反応産物中のシクロアミロース(CA)の収率が増加することをいう。本発明において、基質に対する反応性が増加することまたは酵素活性が高まることは、目的とする産物であるシクロアミロースをより効率的に得ることができるようになることから、好ましい結果であるといえる。そのような収率の増加は、例えば、野生型に比べて少なくとも約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上、もっとも好ましくは約80%以上である。
本明細書において、「加水分解活性が低下する」とは、終濃度0.5%(w/v)の重合度20〜50程度のシクロアミロースを含む緩衝液(50mM酢酸ナトリウム(pH5.5))中で、アミロマルターゼを70℃1時間作用させることにより、加水分解に由来する還元糖量の増加量が、基準となる酵素(例えば、野生型由来のアミロマルターゼ)の加水分解による還元糖量の増加量に比べて減少していることをいう。本発明において、加水分解活性は、目的とする産物であるシクロアミロースを分解する活性であることから、そのような活性が低下することは好ましい。そのような加水分解活性の低下は、例えば、野生型に比べて少なくとも約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらに好ましくは約80%以上、もっとも好ましくは約90%以上(すなわち残存活性が約10%未満)である。
(アミロマルターゼおよびその精製)
本発明のアミロマルターゼは、従来の野生型アミロマルターゼに比べて、基質に対する反応性が増加していることが一つの特徴である。本発明のアミロマルターゼはまた、従来の野生型アミロマルターゼに比べて、加水分解活性が低下していることも別の特徴である。好ましくは、本発明のアミロマルターゼは、従来の野生型アミロマルターゼに比べて、基質に対する反応性が増加し、活、加水分解活性が低下している。好ましくは、本発明のアミロマルターゼは、耐熱性である。本発明のアミロマルターゼは、好ましくは70℃10分間で、より好ましくは80℃10分間でも活性を維持し、好ましくは100℃10分間で、より好ましくは100℃で5分間で失活する。また、本発明のアミロマルターゼは、好ましくは70℃においても実質的に加水分解反応を触媒しない。
配列表の配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1またはそれを超える複数のアミノ酸の欠失、置換、または付加による改変を含むアミロマルターゼ(アミロマルターゼ改変体ともいう)は、本発明の範囲内にあるポリペプチドである。そのような1もしくは数個またはそれ以上のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
このような改変には、配列番号2に示されるThermus aquaticus由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンからなる群より選択される少なくとも1つの残基に対応する、該野生型アミロマルターゼポリペプチドの残基において、配列番号1において示されるそれぞれの位置におけるアミノ酸以外のアミノ酸を有することが包含される。アミロマルターゼ改変体は、改変を含まない野生型アミロマルターゼと同等またはそれ以上の活性を有し、改変を含まない野生型アミロマルターゼと同等の加水分解活性を有するかまたはそれより少ない加水分解活性を有する。好ましくは、アミロマルターゼ改変体は、改変を含まない野生型アミロマルターゼと同様の耐熱性またはそれより優れるかもしくは劣る耐熱性を示し、そして実質的に加水分解反応を触媒しない。上記のような改変は、天然に存在するか、または変異原物質の作用によって、もしくは人為的に部位特異的変異誘発の導入を用いて生じさせ得る。部位特異的変異誘発が好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。
本明細書において利用される、ポリペプチドの改変体の作製方法は当該分野において周知である。例えば、本発明のポリペプチドのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。部位特異的変異誘発の手法は、当該分野では周知である。例えば、Nucl.Acid Research,Vol.10,pp.6487−6500(1982)を参照。
本明細書において、アミロマルターゼについて用いられるとき「1またはそれを超える複数のアミノ酸の欠失、置換、または付加」または「少なくとも1つのアミノ酸の欠失、置換または付加」とは、アミロマルターゼの酵素活性(好ましくは、シクロアミロースの合成活性)が喪失しない、好ましくはその酵素活性が基準となるもの(例えば、野生型)と同等以上となるような程度の数の欠失、置換、または付加をいう。当業者は、所望の性質を有するアミロマルターゼ改変体を容易に選択することができる。あるいは、目的とする配列をポリペプチドを直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
本発明のアミロマルターゼ改変体は以下のようにして得ることができる。アミロマルターゼ改変体を産生するように形質転換した宿主生物を大量培養した後、例えば培養物を破砕して、遠心分離または濾過することによって培養物破砕物を分離して上清を得、これを粗酵素液とする。さらにこの粗酵素液を、透析、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性の向上した精製酵素を得ることができる。
(アミロマルターゼ遺伝子)
本発明のアミロマルターゼ改変体をコードする遺伝子もまた、本発明の範囲内にある。このような遺伝子は、本明細書の開示に基づいて、当該分野で公知の方法を用いて得ることができる。
例えば、Thermus aquaticus ATCC 33923株、Thermus flavusなどの由来の精製アミロマルターゼをトリプシン処理して、得られる消化断片をHPLCにより分離し、得られたピークに相当するペプチド断片のN末端配列を、ペプチドシークエンサーにより同定する。次いで、同定した配列をもとに作製した合成オリゴヌクレオチドプローブを用いて、適切なゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、改変型の基礎となる野生型アミロマルターゼ遺伝子を得ることができる。オリゴヌクレオチドプローブおよびDNAライブラリーを調製するための、ならびに核酸のハイブリダイゼーションによりそれらをスクリーニングするための基本的な戦略は、当業者に周知である。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual (1989);DNA Cloning,第IおよびII 巻(D.N.Glover編 1985);Oligonucleotide Synthesis (M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編 1984)を参照。
ゲノムライブラリーをスクリーニングする場合、得られた遺伝子は、当業者に周知の方法を用いてサブクローニングし得る。例えば、目的の遺伝子を含むλファージと、適切な大腸菌と、適切なヘルパーファージとを混合することにより、容易に目的の遺伝子を含有するプラスミドを得ることができる。その後、プラスミドを含有する溶液を用いて、適切な大腸菌を形質転換することにより、目的の遺伝子をサブクローニングし得る。得られた形質転換体を培養して、例えばアルカリSDS法によりプラスミドDNAを得、目的の遺伝子の塩基配列を決定し得る。塩基配列を決定する方法は、当業者に周知である。さらに、DNAフラグメントの塩基配列を基に合成されたプライマーを用い、Thermus flavus、Thermus aquaticus ATCC 33923株などのゲノムDNAなどを鋳型に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて直接アミロマルターゼ遺伝子を増幅することもできる。
このようにして得た野生型アミロマルターゼ遺伝子の核酸配列またはアミノ酸配列の情報を元に、本発明の改変を導入する。そのような導入方法は、周知の方法を用いて、変異原物質の作用によって、または人為的に部位特異的変異誘発の導入を用いることにより行うことができる。部位特異的変異誘発が好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
配列表の配列番号1で示される塩基配列を有するDNAからなる遺伝子、および配列表の配列番号1で示される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなる遺伝子は、本発明の範囲内にある。改変を含まない野生型アミロマルターゼと同等またはそれ以上の活性を有し、改変を含まない野生型アミロマルターゼと同等の加水分解活性を有するかまたはそれより少ない加水分解活性を有する。好ましくは、アミロマルターゼ改変体は、改変を含まない野生型アミロマルターゼと同様の耐熱性またはそれより優れるかもしくは劣る耐熱性を示し、そして実質的に加水分解反応を触媒しない。当業者は、所望のアミロマルターゼ遺伝子を容易に選択することができる。
本明細書中で使用する用語「ストリンジェントな条件」とは、特異的な配列にはハイブリダイズするが、非特異的な配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件の設定は、当業者に周知であり、例えば、Moleculer Cloning(Sambrookら、前出)に記載される。具体的には、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。
(アミロマルターゼ組換え発現)
クローン化された遺伝子または改変された遺伝子の発現は、それをコードするDNAを挿入した適切な発現ベクターの構築、発現ベクターの微生物への導入、ならびに組換え生物の培養および生産物の回収により達成される。これらの方法は、当業者に周知である。本発明に用いられる生物宿主には、原核生物および真核生物が含まれる。好ましい原核生物宿主には、中温菌、例えば大腸菌が含まれる。そのような組換え生物は、微生物であってもよいが、植物、動物などであってもよい。植物としては、例えば、双子葉植物、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシなどの単子葉植物が挙げられるがそれらに限定されない。イネなどの穀物は、貯蔵タンパク質を種子に蓄積する性質を持っており、貯蔵タンパク質系を用いて、本発明の改変体を種子に蓄積するように発現させることは可能である(特開2002−58492明細書を参照)。
発現ベクターは、目的の遺伝子が転写および翻訳されるように作動可能に連結されており、さらに必要に応じて微生物内での複製および組換え体の選択に必要な因子を備えた媒体をいう。また、発現産物の分泌生産が意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、目的のタンパク質をコードするDNAの上流に正しいリーディングフレームで結合される。適切な発現ベクターの種類が使用する生物宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知である。
上記発現ベクター内の転写および翻訳に必要な因子に作動可能に連結するために、目的のアミロマルターゼ遺伝子を加工すべき場合がある。これらは例えばプロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異誘発の導入が挙げられる。
発現ベクターが導入されてアミロマルターゼ生産能力を獲得した形質転換株の培養には、使用する宿主生物および発現ベクター内の発現を調節する因子の種類、ならびに発現される物質に応じて、適切な条件が選択される。例えば、通常の振とう培養方法が用いられ得る。
形質転換体の培養に用いる培地は、使用する宿主が生育し得るものであれば特に限定されない。培地には炭素源、窒素源の他、無機塩、例えば、リン酸、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Co2+、Ni2+、Na、Kなどの塩が必要に応じて、適宜混合して、または単独で用いられ得る。また、必要に応じて形質転換体の生育、酵素の生産に必要な各種無機物、有機物が添加され得る。
培養の温度は、用いる形質転換体の生育に適するように選択される。通常15℃〜60℃である。形質転換株の培養は、アミロマルターゼの生産のために十分な時間続行される。
誘導性のプロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、誘導物質の添加、培養温度の変更、培地成分の調整などにより発現が制御され得る。例えば、ラクトース誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより発現が誘導され得る。
このようにして形質転換体を培養した後、例えば発現産物が菌体外に分泌する場合、培養物を遠心分離または濾過することによって菌体を分離して上清を得る。次に、このアミロマルターゼを含む上清を通常の手段(例えば、塩析法、溶媒沈澱、限外濾過)を用いて濃縮し、アミロマルターゼを含む画分を得る。この画分を濾過、あるいは遠心分離、脱塩処理などの処理を行い粗酵素液を得る。さらにこの粗酵素液を、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性が向上した粗酵素あるいは精製酵素が得られる。α−アミラーゼなどのα−グルカンを加水分解する酵素が含まれていなければ、粗酵素をそのまま環状グルカンの生産に用い得る。
上述のような組換え発現により、本発明のアミロマルターゼの生産性を大幅に向上させることが可能となる。また、発現させた場合、アミロマルターゼは、その耐熱性を利用して簡便に精製し得る。簡単に述べると、アミロマルターゼを含む菌体抽出液を60℃程度で加熱処理することにより、夾雑酵素が不溶化する。この不溶化物を遠心分離などで除去して透析処理を行う。
(アミロマルターゼによる環状化反応)
(1)環状α−1,4−グルカンの生産
本発明のアミロマルターゼ改変体を用いて、α−グルカンを基質として、環状α−1,4−グルカンであるシクロアミロースを生産し得る。この際、アミロマルターゼは、固定化酵素として使用することも可能である。
シクロアミロースの生産は、適切な濃度のα−グルカンを含む緩衝液中で、アミロマルターゼを作用させることにより行い得る。α−グルカンとしては直鎖状α−1,4−グルカンが好ましく、重合度が少なくとも20以上である高重合度のアミロースがより好ましい。本発明のアミロマルターゼを用いることにより、環状化反応が円滑に進行して、代表的には重合度約20〜400のシクロアミロースが生産され得る。主生成物として、特に重合度約20〜200のシクロアミロースが生産されることが好ましい。
耐熱性アミロマルターゼを使用する好ましい実施形態では、反応温度は60℃以上、好ましくは60℃〜80℃、特に好ましくは65〜70℃である。このことにより、基質であるアミロースの老化および雑菌による反応系の汚染が防止される。別の実施形態では、反応温度は、60℃未満であり得る。そのような反応温度は、使用するアミロマルターゼの至適温度により変動する。したがって、使用するアミロマルターゼの至適温度±10℃、好ましくは、至適温度±5℃、最も好ましくは至適温度付近を反応温度として使用する。
環状化反応が十分に進行した後、アミロマルターゼを高温で完全に失活させることにより、精製工程での逆反応を防止することができる。好ましくは、失活温度は90〜100℃である。
反応液中から、シクロアミロースを回収し、精製する。非環状グルカンの除去を容易にするため、アミロマルターゼを失活させた後の反応液にグルコアミラーゼをさらに添加して、非環状グルカンをグルコースに分解することができる。エタノール沈澱またはクロマトグラフィーなどの慣用的な精製方法を用いて、純粋なシクロアミロースを得ることができる。
本発明の酵素は実質的に加水分解反応を触媒しないため、環状化反応においてシクロアミロース収率が長時間、高レベルで維持され、本明細書における代表的な反応条件では、反応開始から少なくとも6時間後まで収率の低下は観察されない。従って、高収率の反応を再現性良く行うことができる。本発明の方法によれば、シクロアミロースの生産を、少なくとも約70%以上、代表的には約75〜85%の収率で達成することができる。
(2)分岐型環状グルカンの生産
また、本発明のアミロマルターゼを用いて、アミロペクチンなどのα−1,6−結合を有する分岐構造を含むα−グルカンの環状化反応を触媒し、内分岐型環状グルカンおよび外分岐型環状グルカンなどのさまざまな構造を有する分岐型環状グルカンを生産し得る。この際、アミロマルターゼは固定化酵素として使用することも可能である。
分岐型環状グルカンの生産は、適切な濃度のα−グルカンを含む緩衝溶液中で、アミロマルターゼを作用させることにより行い得る。α−グルカンとしては、α−1,6−結合を有する分岐構造を含むα−グルカンが好ましく、アミロペクチン、グリコーゲン、デンプン、ワキシースターチなどが特に好ましい。本発明のアミロマルターゼを用いることにより、環状化反応が円滑に進行して、代表的には、重合度が約17〜5000の分岐型環状グルカンが生産され得る。特に、重合度約21〜3000の分岐型環状グルカンが生産されることが好ましい。
また、より複雑な構造の分岐型環状グルカンを生産するために、本発明のアミロマルターゼをさらなる酵素とともに使用し得る。例えば、アミロマルターゼとともに枝つくり酵素(EC.2.4.1.18)を使用し得る。枝つくり酵素は、α−1,4−グルカン分岐酵素とも呼ばれており、α−1,4−グルカン鎖の一部を6位に転移して分岐を作製する反応を触媒する酵素である(例えば、欧州特許出願公開第418945号明細書を参照)。2種類以上の酵素を併用することにより、より複雑な分岐型環状グルカンを生産することが可能である。
耐熱性アミロマルターゼを使用する場合、反応温度は60℃以上、好ましくは60℃〜80℃、特に好ましくは65〜70℃である。このことにより、基質であるアミロースの老化および雑菌による反応系の汚染が防止される。別の実施形態では、反応温度は、60℃未満であり得る。そのような反応温度は、使用するアミロマルターゼの至適温度により変動する。したがって、使用するアミロマルターゼの至適温度±10℃、好ましくは、至適温度±5℃、最も好ましくは至適温度付近を反応温度として使用する。
本発明のアミロマルターゼをアミロペクチンなどのα−グルカンに作用させると、分岐型環状グルカンと環状α−1,4−グルカンとの混合物が得られる。この混合物中から分岐型環状グルカンのみを精製する方法としては、当業者に周知の任意の方法が用いられ得る。例えば、以下の手順により分岐型環状グルカンを精製し得る。アミロマルターゼを失活させた後の反応液中から、分岐型環状グルカンと環状α−1,4−グルカンとを、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによって分離する。次いで、エタノール沈澱などの慣用的な精製方法を用いて、分岐型環状グルカンを得ることができる。
本発明のアミロマルターゼは実質的に加水分解反応を触媒しないかまたは加水分解活性が低減しているため、環状化反応において環状グルカン収率が長時間、高レベルで維持される。
上述の(1)および(2)において生産された環状グルカンの老化性、粘性、デンプンの老化防止効果、包接化合物形成能、消化性、およびエネルギー変換効率などの特性は、当業者に公知の任意の方法を用いて評価し得る。例えば、特開平8−311103号に記載される試験方法を用い得る。
(食品を改質するためのアミロマルターゼの使用)
本発明のアミロマルターゼ改変体は、食品中のデンプンに作用してデンプンの環状化反応を触媒する。その結果、食品中のデンプンは低分子化されて環状グルカンを生じる。この反応により生じる環状グルカンは、上述のように、非常に粘性が低く、溶解性に優れ、デンプンの老化抑制効果を有し、そして様々な物質を包接する能力を有する。従って、野生型同様、本発明のアミロマルターゼ改変体を使用して食品を改質し得る。代表的には、食品中のデンプンにアミロマルターゼを作用させて環状グルカンを蓄積させることにより、食品の物性(特に、保存時の安定性)および食感を改質させる。
さらに、デンプンの環状化反応により生じる環状グルカンは、α−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合を有する構造を有する。この環状グルカンは、生物体内に存在する酵素によって容易にグルコースに分解される。従って、環状グルカンはまた、消化性に優れ、エネルギー変換効率が高いという特性を有する。
本発明のアミロマルターゼ改変体は、上述のように、基質に対する反応性が野生型に比べて顕著に上昇しており、実質的に加水分解活性を有さない。好ましい形態では、本発明のアミロマルターゼ改変体は、非常に耐熱性に優れている。それゆえ、食品を改質するためにアミロマルターゼ改変体を使用するにおいて、従来のアミロマルターゼを用いるよりも、少量で同等の効果を得ることができ、効率的にシクロアミロースを得ることができるという利点を有する。また、好ましい形態では耐熱性をも有することから、食品素材の加熱調理前または加熱調理直後に酵素を添加することが可能であるという利点を有する。さらに、低分子の還元糖の不必要な蓄積が生じないという利点を有する。
本発明のアミロマルターゼ改変体は、幅広い食品(すなわち、デンプンを含む任意の食品)を改質するために使用され得る。
デンプンを多く含む食品としては、米飯類(例えば、おにぎり、寿司めし、および弁当のご飯)、和菓子(例えば、ワラビモチ、まんじゅう、モチ、ういろ、およびおはぎ)、スナック菓子類(例えば、煎餅、おかき、ポテトチップス、および他のスナック類)、ベーカリー類(例えば、パン、パイ、ピザ、ケーキ、クッキー、ビスケット、およびクラッカー)、麺類(例えば、うどん、そば、およびラーメン)、ならびに、スパゲッティーおよびマカロニなどのパスタ類)、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品(例えば、ちくわおよびかまぼこ)、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料(例えば、スポーツ飲料)、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品などが挙げられる。
デンプンを特に多く含む、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類は、本発明の対象として好ましい食品の例である。低温保存時の安定性が重要である冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品は、好ましい食品の他の例である。
本発明において、食品素材とは、上述の食品を製造するための任意の材料、および食品への加工過程における任意の調製物をいう。
本発明のアミロマルターゼ改変体を作用させた食品が改質されたことは、食品中のデンプンが低分子化され、環状グルカンが生成されたことを調べることによって確認し得る。本発明においては、本発明の酵素を添加した食品中において、酵素を添加しない食品と比べて、環状グルカンの有意な生成が観察された場合に、その食品が改質されているという。
本発明のアミロマルターゼ改変体を含有する食品素材、食品添加物、および食品改質剤は、上述のように改質された食品を製造するために有用である。添加する酵素の量は、当業者によって適宜選択され得る。
食品添加物としては、調味料類(例えば、しょうゆ、たれ、ソース、だしの素、シチューの素、カレーの素、スープの素、マヨネーズ、ドレッシング、ケチャップ、および複合調味料)などが挙げられる。
食品改質剤としては、デンプン老化防止剤、米飯改質剤などが挙げられる。
(遺伝子工学の一般的説明)
本明細書において遺伝子(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチドなど)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
本明細書では配列の同一性、相同性および類似性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
本発明のポリペプチドまたは核酸はまた、本明細書において具体的に野生型のアミノ酸配列または核酸配列が記載された配列(例えば、配列番号1および2など)に対して同一ではないが相同性のあるものものまた使用され得る。そのような野生型のポリペプチドまたは核酸に対して相同性を有する本発明のポリペプチドまたは核酸分子としては、核酸の場合、例えば、Blastのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対象の配列に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有する核酸配列を含む核酸分子、またはポリペプチドの場合少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられるが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
本明細書において、「対応する」アミノ酸(または残基)とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸(または残基)と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸(または残基)をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンに対応するアミノ酸配列は、図1に示されるように当業者には明らかである。また、そのような対応するアミノ酸は、立体構造解析をすることによって決定することもできる。そのような立体構造解析の技術は当業者に周知である。また、そのような対応するアミノ酸は、基質などの対象のポリペプチドと相互作用する物質との複合体を解析することによっても同定することができる。そのような同定方法もまた、当業者には周知であり、そのような方法の例示は本明細書にも記載されている。
本明細書において、「対応する」核酸(または塩基)とは、あるポリヌクレオチドまたは核酸分子において、比較の基準となるポリヌクレオチドまたはにおける所定の核酸(または塩基)と同様の作用を有するか、または有することが予測される核酸(または塩基)をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をコードする核酸をいう。例えば、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンに対応するアミノ酸配列をコードする核酸配列は、図1に示されるアミノ酸のアラインメントにおけるように当業者には明らかである。また、そのような対応する核酸(または塩基)は、立体構造解析をすることによってアミノ酸を同定することによって決定することもできる。そのような立体構造解析の技術は当業者に周知である。また、そのような対応する核酸(または塩基)は、基質などの対象のポリペプチドと相互作用する物質との複合体を解析することによっても同定することができる。そのような同定方法もまた、当業者には周知であり、そのような方法の例示は本明細書にも記載されている。
本明細書において、「対応する」遺伝子(例えば、アミロマルターゼ遺伝子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子の対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、それぞれ1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素(例えば、アミロマルターゼ)である場合、その生物学的活性は、その酵素活性(例えば、アミロマルターゼ活性)を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。また、アミロマルターゼ活性が生物学的活性である場合は、そのような活性は、本明細書の記載にしたがって測定することができる。
あるタンパク質におけるあるアミノ酸は、本発明において目的とする改変を導入すること(例えば、インヒビターであるアカボースとの相互作用領域における置換)に加え、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域またはエピトープ部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、保存的置換の目的では、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。したがって、非保存的置換では、これらの値から外れる置換を行うことが好ましい。このように疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
保存的置換を考慮する場合、親水性指数もまた、考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、保存的置換の目的では、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。したがって、非保存的置換の目的では、これらの値を外れる置換を行うことが好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン(あるいは/およびヒスチジン);グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;チロシンおよびフェニルアラニン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
したがって、本発明において、「非保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換ではない置換をいう。非保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次のあるグループに属するメンバーと他のグループに属するメンバーとの間での置換:アルギニンおよびリジン(あるいは/およびヒスチジン);グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;チロシンおよびフェニルアラニン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のアミロマルターゼのオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
本明細書においてアミロマルターゼの「野生型」とは、天然に存在するアミロマルターゼのうち、由来となる生物種においてもっとも広汎に存在するものをいう。通常、ある種において最初に同定されるアミロマルターゼは野生型といえる。野生型はまた、「天然標準型」ともいう。そのような野生型アミロマルターゼは、Thermus aquaticus ATCC 33923株であれば、配列番号1および2に示す配列を有するものである。また、たとえば、ポテト、E.coli、SynechocystisPCC6803、Clostridium butyricum、Chlamydia pneumoniaeであれば、図1に示す配列(それぞれ配列番号12、14、16、18、20(核酸配列)、13、15、17、19、21(アミノ酸配列))を有する。
本発明のアミロマルターゼ改変体は、本発明の目的とする改変が導入されていることが1つの特徴である。本明細書では、そのような「目的とする改変」とは、アミロマルターゼのアミノ酸配列において、アミロマルターゼのインヒビターであるアカボースとの相互作用をする部位またはアミノ酸残基における改変をいう。そのようなアカボースとの相互作用を担うドメインは、Przylas et al.Eur.J.Biochem.267、6903−6913(2000)に記載されている。したがって、そのような目的とする改変は、例えば、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンからなる群より選択される少なくとも1つの残基に対応する、該野生型アミロマルターゼポリペプチドの残基において、配列番号1において示されるそれぞれの位置におけるアミノ酸以外のアミノ酸を有することを包含する。
アカボースとの相互作用を担うドメインはまた、当該分野において周知のX線結晶構造解析の手法(例えば、BW7bビームライン(DESY/EMBL、Hamburg,Germany)を用いたX線解析、MarReseachイメージングプレート検出器を用いたデータ測定、DENZOおよびSCLAEPACKなどのプログラムを用いたデータ処理)、およびコンピュータモデリングの手法(例えば、CNSプログラム、XPLO2Dプログラム、プログラムO、PROCHECK,WHATCHECK,WHATIFなどを用いた精密化など)を用いて同定することができる。したがって、任意のアミロマルターゼは、上述の方法を用いて同定されたアカボースドメインにおいて改変を導入することによって本発明の目的の改変を導入することができる。そのような改変は、好ましくは、野生型におけるアミノ酸を他のアミノ酸に置換することを包含する。例えば、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼの場合、54位チロシンの他のアミノ酸への置換が挙げられる。この場合、好ましくは、他のアミノ酸は、フェニルアラニン以外であり、好ましくは、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、アルギニン、セリンおよびスレオニンからなる群より選択される1つであり得る。あるいは、他のアミノ酸は、フェニルアラニンおよびリジン以外であり、より好ましくはグリシン、プロリン、スレオニンおよびトリプトファンであり得る。より好ましくは、グリシンおよびスレオニンのいずれかであり、もっとも好ましくはグリシンである。本発明のアミロマルターゼは、アカボースとの相互作用ドメインにあるアミノ酸残基を改変することによって、酵素活性が高まり、副反応である加水分解活性が減少した。特に、酵素活性の上昇および加水分解活性の低下が同じドメインの改変、より好ましくは同じ残基の改変(例えば、アミノ酸置換)により達成されたことは、従来の技術では予想不可能であったことであり、本発明はその意味でも顕著な効果を奏するといえる。
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。本明細書では、アミロマルターゼの酵素活性を有する限り、非保存的置換を含んでいたとしても、保存的改変体の範囲内に入ることが理解されるべきである。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント改変を包含する。サイレント改変には、コードする核酸が変化しない「サイレント置換」と、そもそも核酸がアミノ酸をコードしない場合を包含する。ある核酸がアミノ酸をコードする場合、サイレント改変は、サイレント置換と同義である。本明細書において「サイレント置換」とは、核酸配列において、あるアミノ酸をコードする核酸配列を、同じアミノ酸をコードする別の核酸配列に置換することをいう。遺伝コード上の縮重という現象に基づき、あるアミノ酸をコードする核酸配列が複数ある場合(例えば、グリシンなど)、このようなサイレンと置換が可能である。したがって、サイレント置換により生成した核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、もとのポリペプチドと同じアミノ酸配列を有する。したがって、本発明のアミロマルターゼにおいて、本発明の目的とする改変(アミロマルターゼポリペプチドのインヒビターであるアカボースと相互作用するアミノ酸残基の、野生型のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基への置換(例えば、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンからなる群より選択される少なくとも1つの残基に対応する、該野生型アミロマルターゼポリペプチドの残基において、配列番号1において示されるそれぞれの位置におけるアミノ酸以外のアミノ酸を有すること))に加えて、核酸配列レベルでは、サイレント置換を含ませることも可能である。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンをコードする唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンをコードする唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
本明細書において、本発明のアミロマルターゼ改変体と機能的に等価なポリペプチドを作製するために、本発明の目的の改変に加えて、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ポリペプチドアナログ」は互換可能に使用され、ペプチドまたはポリペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドまたはポリペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。本明細書において「ポリペプチド」は、特に言及しない限り、このペプチドアナログを包含する。
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
本明細書において「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
本明細書において「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
植物の場合、形質転換体を組織または植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118:627−640 (1986); Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73−82 (1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach. IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338:274(1989); Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)など。木本植物については、Molecular Biology of Woody Plants(Vol.I,II)(ed.S.Mohan Jain,Subhash C.Minocha)、Kluwer Academic Publishers、(2000)に記載されている。木本植物では、たとえば、Plant Cell Reports(1999)19:106−110に詳細に記載されている。従って、当業者は、上記周知方法を目的とするトランスジェニック植物に応じて適宜使用して、再分化させることができる。このようにして得られたトランスジェニック植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
(多様なアミロマルターゼ)
アミロマルターゼは最初、馬鈴薯から発見されたが、種々の植物、および大腸菌、Thermus属の細菌などの微生物に存在していることがわかっている。従って、本発明のアミロマルターゼ改変体を作製するための野生型アミロマルターゼはその起源は問わない。従って、植物由来の酵素をコードする遺伝子を本発明の改変(例えば、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンからなる群より選択される少なくとも1つの残基に対応する残基において、配列番号1において示されるそれぞれの位置におけるアミノ酸以外のアミノ酸を有する改変)を導入し、大腸菌などの宿主を用いて発現させたものであっても使用し得る。ここでは、馬鈴薯および大腸菌からのアミロマルターゼの精製方法を例として開示するが、これに限られない。
馬鈴薯から、アミロマルターゼを精製する方法は、Takahaら、J.Biol.Chem.vol.268,1391−1396 (1993)に記載されている。まず、馬鈴薯塊茎を5mMのメルカプトエタノールを含む適当な緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離して、0.45μmのメンブレンを通した後、Q−Sepharoseカラムにかけ、例えば、5mM 2−メルカプトエタノールを含む20mM Tris−HCl(pH7.5)(緩衝液A)に150mM NaClを含む緩衝液で洗浄する。アミロマルターゼは、450mMのNaClを含む緩衝液Aに溶出する。これを、緩衝液Aに対して透析し、500mM 硫酸アンモニウムを含む溶液をPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラムにロードし、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を500mMから0mMに変化させることにより溶出を行い、アミロマルターゼ活性画分を集め、緩衝液Aに対して透析を行う。透析内液を緩衝液Aで平衡化したPL−SAXカラム(Polymer Laboratory U.K.)にロードし、緩衝液A中のNaCl濃度を150mM−400mMに変化させて溶出し、アミロマルターゼ活性画分を集める。上記の方法で馬鈴薯からアミロマルターゼを精製し得る。酵素活性の測定は、100mMTris−HCl(pH7.0)、5mM 2−メルカプトエタノール、1%(W/V)マルトトリオース、および酵素を含む100μlの反応混合液を37℃、10分間、反応させ、反応液を沸騰水中で3分間加熱して、反応を停止し、反応により遊離したグルコースをグルコースオキシダーゼを用いる方法(Barhamら(1972)Analyst97:142)により定量することができる。本明細書において1分間に1μmolのグルコースを生じる酵素量を1単位とする。このような手法は、本発明のアミロマルターゼを精製および定量する際に応用することができる。
前出のTakahaら、J.Biol.Chem.vol.268,1391−1396 (1993)には、馬鈴薯アミロマルターゼのcDNA配列(同1394頁、Fig.3)が開示されており、そのような配列情報は、保存領域などについて考察することによって、本発明の改変を導入するために当然に使用され得る。大腸菌からアミロマルターゼを精製する方法は、例えば、まず、アミロマルターゼの生産株である大腸菌TG−1株をLB液体培地を用いて37℃で対数増殖期まで培養後、マルトースを終濃度1%(w/v)となるように添加し、さらに37℃で2時間培養する。遠心分離で集めた菌体を、前記緩衝液Aに懸濁して超音波処理、遠心分離を行い、菌体抽出液を得る。次に、例えば、緩衝液Aで平衡化したQ−Sepharose Fast Flow(Pharmacia)カラムにロードし、緩衝液A中のNaCl濃度を0mMから500mMに変化させて溶出を行い、アミロマルターゼ活性画分を集める。活性画分に、終濃度1Mになるように硫酸アンモニウムを加えて放置し、遠心分離で不溶性の沈澱を除去し、上清を1Mの硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで平衡化したPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラムにロードする。緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を1Mから0mMに変化させることにより溶出を行い、アミロマルターゼ活性画分を集める。この画分を、緩衝液Aに対して透析後、透析内液を緩衝液Aで平衡化したResource Qカラム(Pharmacia)にロードし、緩衝液Aの中のNaCl濃度を、例えば0mMから500mMに変化させることにより溶出を行い、アミロマルターゼを精製する。本発明の改変が導入されたアミロマルターゼは、その生化学的性状が変化していることもあり得る。そのような場合、上述の精製方法を適宜改変してそのようなアミロマルターゼ改変体を精製することができる。精製方法におけるそのような改変は、当業者に周知であり、当業者であれば、周知技術を適宜参酌し、本明細書の開示をもとにして容易に行うことができる。
本発明のアミロマルターゼ改変体は、野生型と同様、上記のようにして精製され得るが、澱粉分子内のα−1,4−グルコシド結合に作用するエンド型のアミラーゼ類が検出されなければ、上記いずれの精製段階の粗酵素であっても、有利にグルカンの合成に使用し得る。
また、本発明に用いるアミロマルターゼ改変体は、精製酵素または粗酵素を問わず、固定化されたものでも反応に使用し得、反応の形式は、バッチ式でも連続式でもよい。固定化の方法としては、担体結合法、(たとえば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)が使用され得る。
(免疫化学)
本発明のポリペプチドを認識する抗体の作製もまた当該分野において周知である。例えば、ポリクローナル抗体の作製は、取得したポリペプチドの全長または部分断片精製標品、あるいは本発明のタンパク質の一部のアミノ酸配列を有するペプチドを抗原として用い、動物に投与することにより行うことができる。
投与する動物として、ウサギ、ヤギ、ラット、マウス、ハムスター等を用いることができる。その抗原の投与量は動物1匹当たり50〜100μgが好ましい。ペプチドを用いる場合は、ペプチドをスカシガイヘモシアニン(keyhole limpet haemocyanin)またはウシチログロブリン等のキャリアタンパク質に共有結合させたものを抗原とするのが望ましい。抗原とするペプチドは、ペプチド合成機で合成することができる。その抗原の投与は、1回目の投与の後1〜2週間おきに3〜10回行う。各投与後、3〜7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清が免疫に用いた抗原と反応することを酵素免疫測定法[酵素免疫測定法(ELISA法):医学書院刊 1976年、Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lavoratory(1988)]等で確認する。
免疫に用いた抗原に対し、その血清が充分な抗体価を示した非ヒト哺乳動物より血清を取得し、その血清より、周知技術を用いてポリクローナル抗体を分離、精製することができる。モノクローナル抗体の作製もまた当該分野において周知である。抗体産性細胞の調製のために、まず、免疫に用いた本発明のポリペプチドの部分断片ポリペプチドに対し、その血清が十分な抗体価を示したラットを抗体産生細胞の供給源として使用し、骨髄腫細胞との融合により、ハイブリドーマの作製を行う。その後、酵素免疫測定法になどより、本発明のポリペプチドの部分断片ポリペプチドに特異的に反応するハイブリドーマを選択する。このようにして得たハイブリドーマから産生されたモノクローナル抗体は種々の目的に使用することができる。
このような抗体は、例えば、本発明のポリペプチドの免疫学的検出方法に使用することができ、本発明の抗体を用いる本発明のポリペプチドの免疫学的検出法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法・蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法等を挙げることができる。
また、本発明ポリペプチドの免疫学的定量方法にも使用することができる。本発明ポリペプチドの定量方法としては、液相中で本発明のポリペプチドと反応する抗体のうちエピトープが異なる2種類のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法、126I等の放射性同位体で標識した本発明のタンパク質と本発明のタンパク質を認識する抗体とを用いるラジオイムノアッセイ法等を挙げることができる。
本発明ポリペプチドのmRNAの定量方法もまた、当該分野において周知である。例えば、本発明のポリヌクレオチドあるいはDNAより調製した上記オリゴヌクレオチドを用い、ノーザンハイブリダイゼーション法またはPCR法により、本発明のポリペプチドをコードするDNAの発現量をmRNAレベルで定量することができる。このような技術は、当該分野において周知であり、本明細書において列挙した文献にも記載されている。
(結晶構造解析)
タンパク質の結晶構造解析は、当該分野において周知の方法を用いて行うことができる。そのような方法は、例えば、タンパク質のX線結晶構造解析(シュプリンガー・フェアラーク東京社)、生命科学のための結晶解析入門(丸善)などに記載されており、に記載されており、本明細書ではそのような方法を任意に用いることができる。
一般に、タンパク質の結晶は、X線によりかなり損傷を受けることが知られているので、X線結晶構造解析を成功させるためには、損傷を受け難い結晶を取得することが重要である。近年では、結晶を凍結させ、凍結状態のままで回折データを測定することで高品質、高分解能の回折データを取得することがよく行われている(Methods in ENZYMOLOGY 第276巻、Macromolecular Crystallography、Part A、C.W.Carter、Jr.およびR.M.Sweet編、Practical Cryocrystallography(D.W.Rodgers))。一般に、タンパク質結晶の凍結には、凍結による結晶の崩壊を防ぐ目的で、グリセロールなどの凍結安定化剤を含む溶液で処理するなどの工夫がなされる。本発明においては、アミロマルターゼのネイティブ結晶および重原子誘導体の凍結結晶は、凍結安定化剤を添加することなく、結晶化小滴あるいは浸漬溶液中の結晶を取り出し、液体窒素に直接浸漬して瞬時に凍結させることで調製し得る。凍結結晶はまた、凍結安定化剤を添加した保存液に浸漬した結晶に対して上記瞬時に凍結させる操作を行うことによっても調製し得る。
重原子同型置換法(Methods in ENZYMOLOGY 第115巻、Diffractipn Methods for Biological Macromolecules、Part B、H.W.Wyckoff、C.H.W.Hirs、およびS.N.Timasheff編、ならびにMethods in ENZYMOLOGY 第276巻、Macromolecular Crystallography、Part A、C.W.Carter、Jr.およびR.M.Sweet編)または多波長異常分散法(S.N.Timasheff編、ならびにMethods in ENZYMOLOGY 第276巻、Macromolecular Crystallography、Part A、C.W.Carter、Jr.およびR.M.Sweet編)もまた利用して立体構造解析を行うことも可能である。ここでは、ネイティブ結晶および重原子誘導体結晶の回折データ間の回折強度差、あるいは異なる波長で測定した回折データ間の回折強度差から、電子密度を計算するための初期位相を求めることにより立体構造を決定し得る。重原子同型置換法または多波長異常分散法を適用するアミロマルターゼの立体構造決定においては、重金属原子として例えば水銀、金、白金、ウラン、セレン原子などを含有した重原子誘導体結晶を用い得る。好ましくは、水銀化合物EMTSまたはカリウムジシアノ金(I)を利用した浸漬法により得られる重原子誘導体結晶が用いられる。
ネイティブ結晶および重原子誘導体結晶の回折データは、例えば、R−AXIS IIc(理学電機)あるいはSPring−8(西播磨大型放射光施設)のタンパク質結晶構造解析用ビームラインを用いて測定し得る。多波長異常分散法を適用するための複数波長での回折データ測定は、例えば、SPring−8のタンパク質結晶構造解析用ビームラインを用いて実施し得る。測定した回折画像データは、例えば、R−AXIS IIc付属のデータ処理プログラムまたはプログラムDENZO(マックサイエンス)または同様な画像処理プログラム(または単結晶解析用ソフトウェア)を用いて、反射強度データに処理される。ネイティブ結晶の反射強度データ、複数波長での重原子誘導体結晶の反射強度データ波長の測定により得られた反射強度データから、差Patterson図を利用して結晶中のタンパク質に結合した重金属原子の位置を求めた後、例えば、プログラムPHASES(W.Furey、University of PennsylvaniaあるいはCCP4(British Biotechnology & Biological Science Research Counsil、SERC)または同様の回折データ解析プログラムを用いて重原子位置パラメータを精密化することにより初期位相が決定される。決定された初期位相は、例えば、プログラムDM(CCP4パッケージ)または同様な位相改良プログラム(電子密度改良プログラム)を用いた溶媒平滑化法およびヒストグラムマッチング法に従って、アミロマルターゼ結晶中の溶媒領域を例えば30〜50%として、低分解能から高分解能まで徐々に位相拡張計算を行うことにより信頼性の高い位相へと改良される。タンパク質の結晶は、その体積の30〜60%がタンパク質以外の溶媒分子(主として水分子)で占有されている。本明細書において、溶液中の溶媒分子の占める体積を「溶媒領域」とする。一般に、得られたタンパク質結晶が非結晶学的な対称を有する場合には、非結晶学的対称(NCS)平均化と呼ばれる電子密度の平均化を行うことにより、さらに位相の信頼性を高めることが可能である。アミロマルターゼの結晶は、結晶の密度測定の結果から非対称単位中に2分子が含まれることがわかっており、結晶中のアミロマルターゼ分子は非結晶学的な2回軸を持つことが推定される。溶媒平滑化法を適用した後の位相を用いて計算した電子密度図および精密化した重原子座標から、並進および回転を含む非結晶学的対称マトリックスが算出される。同時に溶媒平滑化法で得られた電子密度図から、マスクと呼ばれるタンパク質の分子が存在する領域を同定し得る。非結晶学的対称マトリックスおよびマスクを用いて、プログラムDMなどによりNCS平均化計算を行うことにより、信頼性の高い位相に改良され、立体構造モデルの構築に用いる電子密度図が得られる。
アミロマルターゼの立体構造モデルは、プログラムO(オー)(A.Jones、Uppsala Universitet、Sweden)により3次元グラフィックス上に表示した電子密度図から、以下の手順で構築し得る。まず、特徴的なアミノ酸配列を有する複数の領域(トリプトファン残基を含む部分配列など)を電子密度図上で探し出す。次に、見出した領域を起点にしてアミノ酸配列を参照しながら、電子密度に適合するアミノ酸残基の部分構造をプログラムOを用いて3次元グラフィックス上で構築する。、順次この作業を繰り返すことにより、アミロマルターゼのすべてのアミノ酸残基を相当する電子密度に適合させ、分子全体の初期立体構造モデルを構築する。構築された立体構造モデルは、それを出発モデル構造として、構造精密化プログラムであるXPLOR(A.T.Brunger、Yale University)の精密化プロトコルに従って、立体構造を記述する三次元座標が精密化される。また、アミロマルターゼ(例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むアミロマルターゼ)のネイティブ結晶の立体構造およびアミロマルターゼ改変体(例えば、配列番号2に示される配列を有するアミロマルターゼ改変体)ネイティブ結晶の立体構造は、得られたEMTS誘導体結晶の立体構造を用いた分子置換法により初期位相を求め、前記の電子密度改良、モデル構築、構造精密化手順に従うことにより各々の立体構造を決定し得る。このことにより、本発明のアミロマルターゼの立体構造の決定が完成される。決定したアミロマルターゼの立体構造について、トポロジーなどの観点から、タンパク質立体構造の公的データバンクであるプロテインデータバンク(PDB)に登録されている種々のタンパク質(アミロマルターゼと機能において類似する酵素を含む)の立体構造との比較を行い得る。
本明細書において、「トポロジー」とは、本明細書中において、タンパク質の二次構造単位の並びまたは空間配置のことをいう。
本明細書において、「αヘリックス」とは、タンパク質またはポリペプチドの二次構造の一つであり、アミノ酸が3.6残基ごとに1回転したピッチが5.4Aの螺旋構造を有するエネルギー的に最も安定な構造の1つをいう。αヘリックスを形成しやすいアミノ酸としては、グルタミン酸、リジン、アラニン、およびロイシンなどが挙げられる。逆に、αヘリックスを形成しにくいアミノ酸としては、バリン、イソロイシン、プロリン、およびグリシンなどが挙げられる。また、本明細書において、「βシート」とは、タンパク質またはポリペプチドの二次構造の一つであり、ジグザグに伸びたコンホメーションを有する二本以上のポリペプチド鎖が平行に並び、ペプチドのアミド基およびカルボニル基が、それぞれ隣接するペプチド鎖のカルボニル基およびアミド基との間に水素結合を形成することによりエネルギー的に安定なシート状により合わさった構造をいう。なお、「平行βシート」とは、βシートのうち、隣接するポリペプチド鎖のアミノ酸配列の並び方が同じ方向のものをいい、「逆平行βシート」とは、βシートのうち、隣接するポリペプチド鎖のアミノ酸の並び方が逆方向のものをいう。さらに、本明細書において、「βストランド」とは、βシートを形成するジグザグに伸びたコンフォメーションを有する1本のペプチド鎖をいう。
従って、本発明のアミロマルターゼ改変体を作製する際には、上述のようなトポロジーを考慮してもよい。
本明細書においてタンパク質の「立体構造データ」とは、そのタンパク質の三次元構造に関するデータをいう。タンパク質の立体構造データには、代表的に、原子座標データ、トポロジー、分子力場定数が挙げられる。原子座標データは、代表的に、X線結晶構造解析またはNMR構造解析から得られたデータであり、このような原子座標データは、新規にX線結晶構造解析またはNMR構造解析を行って得られ得るか、または公知のデータベース(例えば、プロテイン・データ・バンク(PDB))から入手し得る。原子座標データはまた、モデリングまたは計算によって作成されたデータであり得る。
トポロジーは、市販もしくはフリーウェアのツールプログラムを用いて算出し得るが、自作プログラムを用いてもよい。また、市販の分子力場計算プログラム(例えば、PRESTO、タンパク質工学研究所株式会社、に付属のpreparプログラム)に付属の分子トポロジー計算プログラムを使用し得る。分子力場定数(または分子力場ポテンシャル)もまた、市販もしくはフリーウェアのツールプログラムを用いて算出し得るが、自作データを用いてもよい。また、市販の分子力場計算プログラム(例えば、AMBER、Oxford Molecular)に付属の分子力場定数データを使用し得る。
なお、Thermus Aquaticusの野生型アミロマルターゼの立体構造の具体的な座標データは、プロテインデータバンク(PDB、Protein Data Bank、The Research Collaboratory For Structual Bioinformatics(RCSB)が運営)に登録番号1CWYとして登録されており、本明細書中でこのデータを援用する。PDBには、このほかに、野生型アミロマルターゼの立体構造として1ESW(Thermus aquaticus)、1LWH(Thermotoga maritima)、1LWJ(Thermotoga maritima)が登録されており、これらのデータも本明細書において援用する。
本発明のアミロマルターゼの立体構造決定が完成することによって、酵素の触媒活性に関与する残基を推定し得、さらに酵素単独の立体構造だけでなく、酵素にインヒビター(例えば、アカボース)または基質を結合させた複合体の立体構造モデルを分子モデリングの手法(Swiss−PDBViewer(前出)、Autodock(Oxford Molecular)、Guex、N.およびPeitsch,M.C.(1997) SWISS−MODEL and the Swiss−PDBViewer:An environment for comparative protein modeling、Electrophoresis 18、2714−2723;Morris,G.Mら、J.Computational Chemistry、19:1639−1662、1998;Morris,G.M.ら、J.Computaer−Aided Molecular Design、10、294−304、1996;Goodsell、D.S.ら、J.Mol.Recognition、9:1−5、1996)により容易に構築し得る。本立体構造および立体構造モデルから、活性部位に存在し、触媒反応群のアミノ酸残基に関する構造および活性部位における反応機構に関する知見を入手し得る。
アミロマルターゼの活性部位は、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンなどを包含する。54位チロシンは、2番目のアカボースと相互作用することが知られていることから、ある実施形態では、本発明の目的とする改変は、この54位チロシンに対応する残基が他のアミノ酸に改変されていることが好ましい。
これら立体構造より得られた知見に基づいて、アミロマルターゼの安定性向上または酵素活性の向上を目的とした改変設計を行い得る。本明細書において、酵素の「熱安定性」とは、通常の生体環境よりも高い温度(例えば90℃)で酵素を変性させた後でも、酵素活性が熱変性前と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%残存していることをいう。安定性の向上は、例えば、ΔTm(変性温度の差分)で測定し得る。本明細書において「酵素活性」とは、特に言及しない場合「アミロマルターゼ活性」と同義で用いられ、100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、0.2%(w/v)マルトトリオースからなる組成液中で、70℃で10分間、アミロマルターゼを作用させたときに生じるグルコースを定量することによって、測定される活性をいう。
本明細書において、改変体分子の設計は、変異前のタンパク質またはポリペプチド分子(例えば、野生型分子)のアミノ酸配列および立体構造を解析することによって、各アミノ酸がどのような特性(例えば、触媒活性、他の分子との相互作用など)を担うかを予測し、所望の特性の改変(例えば、触媒活性の向上、タンパク質の安定性の向上など)をもたらすために適切なアミノ酸変異を算出することにより行われる。設計の方法は、好ましくはコンピューターを用いて行われる。このような設計方法で用いられるコンピュータープログラムの例としては、本明細書において言及されるように、以下が挙げられる:構造を解析するプログラムとして、X線回折データの処理プログラムであるDENZO(マックサイエンス);位相を決定するための処理プログラムとして、PHASES(Univ.of Pennsylvania、PA、USA);初期位相の改良のためのプログラムとして、プログラムDM(CCP4パッケージ、SERC);3次元グラフィックスを得るためのプログラムとしてプログラムO(Uppsala Universitet、Uppsala、スウェーデン);立体構造精密化プログラムとして、XPLOR(Yale University、CT、USA);そして、変異導入モデリングのためのプログラムとして、Swiss−PDBViewer(前出)。
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物(例えば、阻害剤、活性化剤など)が提供されることも企図される。
(組成物)
本発明のアミロマルターゼは、組成物(例えば、医薬組成物、農薬組成物、食用組成物)として提供され得る。そのような組成物は、その目的(医薬用、農薬用、食用など)に応じて、キャリアなどの追加の成分を含み得る。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の因子の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
組成物における溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
(糖類)
本発明に用いられ得る直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれを有する糖類としては、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースなどのマルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉枝きり物、澱粉部分加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成澱粉、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらは、単独でもよく、あるいは組み合わせても使用し得る。ここで、澱粉枝きり物とは、澱粉にあるα−1,4−グルコシド結合以外の結合を酵素的に全部あるいは一部を切断して得られる物をいう。また、澱粉部分加水分解物とは、澱粉にあるα−1,4−グルコシド結合の一部を酵素的に、もしくは化学的に切断して得られるものをいい、例えば、重合度が100程度以上のアミロペクチン、重合度が20程度以上のアミロースなどが原料として用いられ得る。
また、本発明に用いられ得る直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれを有する糖類と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを生成し得る酵素との反応は、ホスホリラーゼおよびグルコース−1−リン酸の存在下で行い得る。ホスホリラーゼは、グルコース−1−リン酸が過剰に存在する場合には、α−1,4−グルカン鎖の伸張反応を触媒する。このため、上記原料のα−1,4−グルカン鎖が、上記酵素の環状化反応を受けるには充分な長さを有していない場合には、ホスホリラーゼおよびグルコース−1−リン酸を共存させることにより、本発明のグルカンの収量を増加させることが可能である。
さらに、原料には、上記澱粉あるいは澱粉の部分分解物の誘導体も用い得る。例えば、上記澱粉のアルコール性の水酸基の少なくとも1つが、エーテル化(カルボキシメチル化、ヒドリキシアルキル化等)、エステル化(リン酸化、アセチル化、硫酸化等)、架橋化またはグラフト化された誘導体なども用いられ得る。さらに、これらの2種以上の混合物も原料として用い得る。
上記原料と本発明に使用し得る酵素との反応は、本発明のグルカンが生成するpH、温度などの条件であれば、いずれをも使用し得る。
アミロマルターゼを例にとれば、反応のpHは、通常、3から10、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは4から9、さらに好ましくは、6から8である。温度は、約10℃から90℃、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは約20℃から60℃、さらに好ましくは、30℃から40℃の範囲である。耐熱性の微生物などから得られる酵素を用いる場合は、50℃から90℃の高温で使用し得る。上記原料の濃度(基質濃度)も、使用する基質の重合度、反応条件を考慮して決定し得る。通常、0.1%から30%程度、反応速度、効率、基質溶液の取り扱い易さなどの点から、好ましくは0.1%から10%、さらに好ましくは溶解度などを考慮すると0.5%から5%である。使用する酵素の量は、反応時間、基質の濃度との関係で、決定され、通常は、約1時間から48時間で反応が終了するように酵素量を選ぶのが好ましく、基質1gあたり、通常50〜10,000単位、好ましくは70〜2,500単位、より好ましくは400〜2,000単位である。
本発明のグルカンは、それ自体は公知の手法を適用して分離、精製し得る。例えば、本発明のグルカンは、上記の反応が終了した後、溶媒による沈澱、膜による分離、クロマトグラフィーによる分離などにより、分離、精製され得る。好ましくは、反応液を加熱して、あるいはそのまま精製する。本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンは、エキソ型のβ−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼを添加して、残存する直鎖のα−1,4−グルカンを分解して得られる。澱粉などの分枝多糖を原料として用いた場合には、エキソ型のβ−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼと、α−1,6−グルコシド結合を切断する酵素とを併用して、環状α−1,4−グルカンのみが残るように反応させる。その後、溶媒を用いる沈澱、膜分離、クロマト分離などの分離、精製手段が適用され得る。
また、本発明のポリペプチドによって得られたグルカンは、容易に、エーテル化、エステル化、架橋化、およびグラフト化することができ、誘導体とし得、上記目的、用途に使用し得る。誘導体化の方法としては、通常、澱粉の修飾に用いられる方法が用いられ得る(生物化学実験法19,「澱粉・関連糖質実験法」:中村ら、学会出版センター、1986年 273〜303頁)。リン酸化の例としては、本発明のグルカンをジメチルホルムアミド中でオキシ塩化リンと反応させることにより、リン酸化した本発明のグルカンの誘導体を得る。
本発明のアミロマルターゼを用いると、既存の澱粉、アミロース、およびアミロペクチンと比べて、水に対する溶解度が大きく改善されたグルカンを効率よくおよび/または副産物を低減しつつ製造することができる。本発明のアミロマルターゼを用いて得られたグルカン水溶液は、既存の澱粉、アミロース、およびアミロペクチンの水溶液において観察される老化が起こらないという優れた性質を有する。
このような優れた性質を有するグルカンを、野生型のアミロマルターゼよりも効率よくおよび/または副産物(加水分解物)を顕著に低下させて製造することができることは、従来の酵素ではできなかったことであり格別の効果であるといえる。また、このような製造方法は、従来澱粉、デキストリンなどが使用できる食品のすべてに使用することが可能であり、ほとんど全ての飲食用組成物または食品添加物用組成物に使用することができる。この飲食用組成物とは、ヒトの食品、動物飼料、ペットフードを総称するものである。すなわち、コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、ジュース、スポーツドリンクなどの液体および粉末の飲料類、パン、クッキー、クラッカー、ビスケット、ケーキ、ピザ、パイなど のベーカリー類、スパゲッテイー、マカロニなどのパスタ類、うどん、そば、ラーメンなどの麺類、キャラメル、ガム、チョコレートなどの菓子類、おかき、ポテトチップス、スナックなどのスナック菓子類、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓類、クリーム、マーガリン、チーズ、粉乳、練乳、乳飲料などの乳製品、ゼリー、プリン、ムース、ヨーグルトなどの洋菓子類、饅頭、ういろ、モチ、おはぎなどの和菓子類、醤油、たれ、麺類のつゆ、ソース、ダシの素、シチューの素、スープの素、複合調味料、カレーの素、マヨネーズ、ドレッシング、ケチャップなどの調味料類、カレー、シチュー、スープ、どんぶりの素などのレトルトもしくは缶詰食品、ハム、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、ピラフ、おにぎりなどの冷蔵食品および冷凍食品、ちくわ、かまぼこなどの水産加工食品、おにぎり、弁当のご飯、寿司めし等の米飯類、その他、餃子の皮、シュウマイの皮にも効果的に利用できる。さらに、消化性の高さを利用して、乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、スポーツ飲料、スポーツ食品、栄養補助食品などに使用し得る。
本発明のポリペプチドによって得られたグルカンは、輸液などの医薬組成物に使用することができる。
本発明のポリペプチドによって得られたグルカンは、農薬組成物または動物医薬組成物に使用することができる。
本発明のポリペプチドによって得られたグルカンは、接着用組成物に使用することができる。本発明のグルカンは、接着性および粘着性を有する。従って、従来、澱粉あるいはデキストリン又はこれらの誘導体が使用される接着分野に利用可能である。接着用組成物には、例えば、製紙、紙加工業における表面サイズ剤、コーティング剤、層間接着剤など、食品工業における結着剤など、繊維、建材工業における糊剤、粘結剤などが含まれる。
本発明のポリペプチドによって得られたグルカンは様々な物質を包接あるいは吸着する。サイキロデキストリンや既存のアミロースにも包接、吸着能力を有するが、本発明のグルカンは水に対する溶解度がアミロースやシクロデキストリンに比べて著しく高いため、より広い応用範囲が期待できる。さらにシクロデキストリンよりも重合度が著しく高いため、シクロデキストリンとは異なるゲスト特異性を有していると考えられる。物質はアミロースやシクロデキストリンに包接もしくは吸着されることによりその性質が変化したり、新たな性質を獲得したりできる。例えば、溶解度の向上、揮発性物質の不揮発化、不安定物質の安定化、不快臭のマスキングなどがよく知られている。本発明のグルカンに吸着あるいは包接させる物質としては特に制限なく、たとえばわさび、醤油、お茶、さんしょ、ゆず、香料、調味料、色素などの食品、メントール、リノール酸などの医薬品がある。このようにしてできた包接物または吸着物は食品、医薬品として用いることができる。例えば、上記のような食品、および入浴剤、飲み薬、粉末薬などの医薬品に利用可能である。
本発明のポリペプチドによって得られたグルカンは、糊液の粘度の低さに注目して、生物崩壊性プラスチックの原料や、澱粉からたとえばシクロデキストリンを製造する際の中間物質など、澱粉加工工業における原料として使用することができる。
(好ましい実施形態の説明)
1つの局面において、本発明は、アミロマルターゼ改変体を提供する。このアミロマルターゼ改変体またはアミロマルターゼポリペプチドは、そのアミノ酸配列において、アミロマルターゼポリペプチドのインヒビターであるアカボースと相互作用するアミノ酸残基の位置において、野生型アミロマルターゼのアミノ酸残基以外のアミノ酸に置換されていることを特徴とする。アカボースと相互作用するアミノ酸残基が野生型のアミノ酸残基とは異なるものに置換されていることによって、本発明は、酵素活性の上昇および/または副反応である加水分解活性を顕著に低下させることができた。特に、同一の改変により酵素活性の上昇および加水分解活性の低下を同時に達成したことは、従来の技術では予想不可能であり、顕著な効果といえる。
好ましくは、アカボースと相互作用する領域は、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼのアミノ酸配列の53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンからなる群より選択される少なくとも1つの残基に対応する残基である。そのような残基は、X線構造解析、コンピュータモデリングなどの技術を使用することにより、当業者は、Thermus aquaticus ATCC 33923株以外の由来のアミロマルターゼにおける対応するアミノ酸残基を容易に同定することができる。
1つの実施形態において、改変は、ある残基について野生型のアミノ酸以外の他のアミノ酸に置換することを包含する。そのような他のアミノ酸は、所望の効果(例えば、酵素活性の上昇、加水分解活性の低下)を奏するようなものであればどのようなものでもよい。好ましくは、同一の箇所の改変が酵素活性の上昇および加水分解活性の低下の両方を達成するようなものである。
好ましい実施形態において、本発明のアミロマルターゼポリペプチドにおいて導入される置換、付加または欠失は、配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼの54位チロシンに対応する残基において、チロシン以外のアミノ酸を有することを包含する。このアミノ酸置換は好ましくは、非保存的置換である。そのような非保存的置換は、本明細書において記載されるように親水性指数および/または疎水性指数を考慮することで行うことができる。Thermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼは、実施例にも記載されるような結晶構造解析により、54位のチロシンがアカボースと相互作用することが明らかになっている。そのようなチロシンを、他のアミノ酸に変更することが酵素活性の上昇および加水分解活性の低下を担うことが実施例などにも示されるように明らかにされたことから、アミロマルターゼ全般において、この54位のチロシンに対応するアミノ酸を別のアミノ酸(配列番号2の配列ではチロシン以外)に置換することによって、酵素活性の上昇および加水分解活性の低下が生じたアミロマルターゼを生成することができる。
配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むアミロマルターゼを利用する好ましい実施形態において、54位チロシンを置換するチロシン以外のアミノ酸は、非保存的置換となるアミノ酸であることが好ましい。別の好ましい実施形態では、このチロシン以外のアミノ酸は、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、アルギニン、セリンおよびスレオニンからなる群より選択され得る。別の好ましい実施形態では、このチロシン以外のアミノ酸は、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸である。別の好ましい実施形態において、このチロシン以外のアミノ酸は、グリシン、プロリン、スレオニンおよびトリプトファンからなる群より選択される。特に、54位チロシンがスレオニンまたはグリシンのいずれかに置換されたアミロマルターゼは、酵素活性が上昇したことに加え、加水分解活性が顕著に消失したという効果を顕著に同時に達成しており、このような効果は予想外の格別な効果であるといえる。もっとも好ましくは、この54位チロシンを置換するチロシン以外のアミノ酸は、グリシンである。54位チロシンがスレオニンに置換されたアミロマルターゼは、酵素活性が上昇したことに加え、加水分解活性がほとんど消失したという効果を達成しており、これは、正しく従来の技術では達成することができなかった顕著な効果であるといえる。
本発明のアミロマルターゼポリペプチドは、天然のアミノ酸のみからなっていてもよいが、所望の活性(アミロマルターゼ活性および上述の改善された活性)を発揮する限り非天然のアミノ酸またはアミノ酸アナログを含んでもよい。
別の局面において、本発明は、本発明のアミロマルターゼポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。核酸分子の製造法および使用法は、本明細書において詳述されており、当業者は、その目的に応じてこの核酸分子を製造および使用することができる。
他の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。そのようなベクターは、本発明の核酸分子のほかに、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、翻訳終止配列、翻訳開始配列、複製起点などの調節エレメントを含んでいてもよい。
他の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含む、細胞を提供する。そのような細胞は、微生物細胞であってもよい。そのような細胞は、真核生物または原核生物のものであり得る。簡便さの点からE.coliを使用することが好ましい。好ましくは、この細胞は、本発明のベクターにより形質転換されたものであり得る。あるいは、本発明の核酸分子がゲノムに組み込まれたものでもよい。
他の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含む、生物組織を提供する。そのような生物組織は、本発明の核酸分子を含む細胞から再生することができる。そのような生物組織としては、植物組織、動物組織などが挙げられるがそれに限定されない。そのような組織の再生法は当該分野において周知である。
他の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含む、トランスジェニック生物を提供する。そのようなトランスジェニック生物は、単細胞生物の場合は、上記細胞と同じであるが、多細胞生物の場合、その生物全体をいう。そのようなトランスジェニック生物としては、例えば、植物、動物などが挙げられるがそれに限定されない。
別の局面において、本発明は、本発明のアミロマルターゼポリペプチドを食品素材に、上記素材の加熱処理前または加熱処理直後に添加する工程であって、上記アミロマルターゼが上記食品素材中のデンプンから環状グルカンを生成する、工程、を含む、食品の製造方法を提供する。このような環状グルカンの生成工程自体は周知であるが、本発明のアミロマルターゼポリペプチドを従来のものに代えて使用することにより、従来方法に比べて、効率よく環状グルカンを含む食品を製造することができる。また、この方法を用いれば、加水分解産物という望ましくない夾雑物が顕著に低減した食品を製造することができる。
好ましい実施形態では、上記食品が、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品からなる群より選択される。
別の局面において、本発明は、本発明のアミロマルターゼポリペプチドを含有することを特徴とする、食品素材、食品添加物および/または食品改質剤を提供する。このようなアミロマルターゼポリペプチドを含ませる工程自体は周知であるが、本発明のアミロマルターゼポリペプチドを従来のものに代えて使用することにより、従来の食品素材などに比べて、効率よくおよび/または望ましくない反応が低減したものを提供することができる。
別の局面において、本発明は、直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、本発明のアミロマルターゼポリペプチドとを反応させる工程を包含する、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンまたはその誘導体の製造方法を提供する。上記直鎖のα−1,4−グルカンまたは糖類と、アミロマルターゼポリペプチドとを反応させる工程自体は周知であるが、本発明のアミロマルターゼポリペプチドを使用することによって、従来方法に比べて、効率よく環状グルカンまたはその誘導体を製造することができる。また、この方法を用いれば、加水分解産物という望ましくない夾雑物が顕著に低減したグルカンまたはその誘導体を製造することができる。
別の局面において、本発明はまた、直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、本発明のアミロマルターゼポリペプチドとを反応させる工程を包含する、食品素材、食品添加物、食品改質剤、飲食用組成物、輸液または接着用組成物の製造方法を提供する。直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類とアミロマルターゼポリペプチドとを反応させる工程自体は周知であるが、本発明のアミロマルターゼポリペプチドを使用することによって、従来方法に比べて、効率よく環状グルカンまたはその誘導体などを含む食品素材、食品添加物、食品改質剤、飲食用組成物、輸液または接着用組成物を製造することができる。また、この方法を用いれば、加水分解産物という望ましくない夾雑物が顕著に低減したグルカンまたはその誘導体を製造することができる。
別の局面において、本発明は、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列または該アミノ酸配列をコードする核酸配列の情報を含む、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。また別の局面において、本発明は、本発明のアミロマルターゼポリペプチドの立体構造データの情報を含む、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気テープ、磁気ディスク(例えば、フロッピー(登録商標)ディスクなど)、光磁気ディスク(例えば、MOなど)、光ディスク媒体(例えば、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW、DVD+RW、DVD−ROM、メモリーカードなど)などが挙げられる。また、記録媒体は、ハードディスクでもよい。そのような有用な情報を記録した記録媒体は、さらに、酵素活性および加水分解活性に関するデータを含み得る。このようなデータを含むことにより、これらの記録媒体は、さらなる好ましいアミロマルターゼを生成するために有用である。
別の好ましい実施形態において、本発明は、本発明のアミロマルターゼポリペプチドによって得られたグルカンを提供する。本発明のアミロマルターゼによって得られたグルカンを含む組成物は、加水分解産物が顕著に低減していることから、有用である。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
(実施例1:Thermus aquaticus ATCC 33923株菌体抽出液からのアミロマルターゼの精製)
(1)アミロマルターゼの精製
Thermus aquaticus ATCC 33923株を、33リットルの培地(1% マルトース、0.4%イーストイクストラクト、0.8%ポリペプトン、0.2% NaCl,pH7.5)で70℃、18時間振とうした。菌体を遠心分離により集め、10mM KHPO−NaHPO(pH7.5)(緩衝液A)で洗浄した後、この緩衝液に再び懸濁し、超音波により菌体を破砕した。これを遠心分離して上清を粗酵素液とした。粗酵素液に終濃度1Mとなるように硫酸アンモニウムを添加し、4℃にて、一晩放置した後、1M硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで平衡化したフェニルトヨパールカラム(TOSOH製)にロードした。300mM硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで洗浄した後、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を300mMから0mMに変化させることによって酵素を溶出させ、活性画分を回収した。得られた酵素液を緩衝液Aに対して透析した。
透析した酵素液を緩衝液Aで平衡化したSource 15Qカラム(ファルマシア製)にロードした。緩衝液Aで洗浄した後、緩衝液中のNaCl濃度を0mMから400mMに変化させることによって酵素を溶出させ、活性画分を回収した。得られた酵素液を緩衝液Aに対して透析した。
透析した酵素液を150mM NaClを含む50mM KHPO−NaHPO(pH7.5)で平衡化したSuperdex 75pgカラム(ファルマシア製)にロードし、緩衝液Aで酵素を溶出させた。得られた酵素液を緩衝液Aに対して透析して、精製酵素液とした。精製酵素はSDSポリアクリルアミトゲル電気泳動で単一バンドを示した。SDS−PAGEにおける移動度から求めたアミロマルターゼの分子量は、57,000であった。
(2)アミロマルターゼの活性測定
アミロマルターゼの活性は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で、10%(w/v)マルトトリオースにアミロマルターゼを70℃で10分間作用させたときに生じるグルコースを、定量することにより測定した。
1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1ユニットとし、活性のユニットを算出した。
(実施例2:Thermus aquaticus ATCC 33923株アミロマルターゼの部分アミノ酸配列決定)
(1)実施例1で得た酵素液を、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む48.4%アセトニトリル溶離液で平衡化したHPLC用C4カラム(Vydac 214TP54(0.46×25cm)、Vydac製)に酵素液をロードし、溶離液中のアセトニトリル濃度を48.4%から52.4%まで変化させることにより酵素を溶出した。得られた酵素液を減圧濃縮した。ペプチドシークエンサーを用いて、酵素のN末端アミノ酸配列を決定した(M−E−L−P−R−A−(配列番号3))。
(2)精製アミロマルターゼトリプシン消化断片のアミノ酸配列の決定
上記(1)と同様にして、HPLC用C4カラムから酵素を溶出した。得られた酵素液を、減圧乾燥した後、8M尿素、0.4M NHHCO、4.5mM ジチオトレイトール(DTT)、10mMヨードアセトアミド(Iodeacetoamide)を含む溶液に溶解し、トリプシンを加えて、37℃にて24時間 反応させた。このようにして得られたトリプシン消化断片を、0.06% TFAを含む1.6%アセトニトリル溶離液で平衡化したHPLC用ODSカラム(Vydac 218TP54(0.46×25cm)、Vydac製)にロードし、溶離液中のアセトニトリル濃度を1.6%から78.4%まで変化させることにより溶出した。他のピークと良好に分離した3本のピーク画分を集め、減圧濃縮した。ペプチドシーケンサーにより、これらのペプチド断片のN末端アミノ酸配列を決定した(S−V−A−R−L−A−V−Y−P−V−Q−D−V−L−A−;M−N−Y−P−G−R−P−S−G−N−?−A−;I−I−G−D−M−P−I−F−V−A−E−D−(それぞれ配列番号4〜6))。
(実施例3:Thermus aquaticus ATCC 33923株アミロマルターゼ遺伝子の単離)
(A)Thermus aquaticus ATCC 33923株のゲノムライブラリーの作製
(A1)ゲノムDNAの調製
本菌株を1000mlの0.89% トリプトン、0.4%イーストイクストラクト、0.2%塩化ナトリウムを含む培地を入れた2Lの坂口フラスコ中で、70℃で、10〜16時間、振とう培養した。遠心分離により菌体を回収し、ゲノムDNAをフェノール法(SaitoおよびMiura、Biochimica et Biophysica Acta,72,619(1963))により調製した。
(A2)ゲノムDNAのλ−ZAP expressへの挿入
上記(A1)で得られたゲノムDNAを、制限酵素Sau3AIを用いて部分消化した後、塩化ナトリウム密度勾配遠心分離にかけ、5〜10KbpのDNA断片を有する画分を得た。得られたDNA断片画分と、BamHIで処理したλ−ZAP expressベクター(ストラタジーン社製)とを、T4DNAリガーゼを用いて連結した。この反応液をインビトロパッケージングキットであるラムダイン(ニッポンジーン社製)を用いて処理し、組換えλファージ懸濁液を得た。
(A3)組換えλファージの大腸菌への導入
大腸菌VCS257株を、10mMの塩化マグネシウムを含むL培地(10g/l トリプトン(Difco)、5g/l イーストイクストラクト(Difco)、10g/l NaCl、pH7.0)で振とう培養し、10mMの塩化マグネシウム溶液20mlに懸濁した。次いで、組換えλファージと混合して37℃で20分間保温した。その後、L寒天培地(10g/l トリプトン(Difco)、5g/l イーストイクストラクト(Difco)、10g/l NaCl、pH7.0、1.5%(w/v)Agar)上に、L上層寒天培地(10g/l トリプトン(Difco)、5g/l イーストイクストラクト(Difco)、10g/l NaCl、pH7.0、0.8%(w/v)Agar)を用いて重層し、37℃で一晩インキュベートして、溶菌斑が点在するプレートを得た。
(B)Thermus aquaticus ATCC 33923株のゲノムライブラリーのオリゴヌクレオチドプローブによるスクリーニング
(B1)アミロマルターゼ遺伝子単離のためのオリゴヌクレオチドプローブの作製
実施例2で決定したThermus aquaticus ATCC 33923株アミロマルターゼの部分アミノ酸配列(A−V−Y−P−V−Q−D−V)に対応する合成オリゴDNA(5’−GCIGTITAYCCIGTICARGAYGT−3’(配列番号7)(核酸の記載はIUPAC核酸コードに従う))を作製した。この合成オリゴDNAを、放射線ラベルして、アミロマルターゼ遺伝子単離のためのプローブとして使用した。
(B2)アミロマルターゼ遺伝子を含む組換えλファージの選択
上記(A3)で作製したプレートにナイロンフィルター(アマシャム社製)を密着させ、アルカリ処理して、溶菌斑中の組換えλファージDNAを変性させ、フィルターに固定した。このフィルターを(B1)で作製したプローブの溶液に浸して、ハイブリダイゼーションを行った。X線フィルムに密着させてシグナルを検出することにより、アミロマルターゼ遺伝子を含む組換えλファージを選択した。
(B3)アミロマルターゼ遺伝子を含む組換えλファージのプラスミドベクターへのサブクローニング
上述(B2)で得られた組換えλファージと、大腸菌(XLI−Blue MRF株)と、ヘルパーファージ(ExAssist)とを混合して、37℃で15分間保温した。その後、5mlのL培地を加え、37℃で、4〜6時間振とう培養した。その培養液を、70℃で、20分間加熱処理した後、遠心分離することにより上清を取り出し、ファージ溶液を得た。このファージ溶液20μlと大腸菌(XLOLR株)200μlとを混合して、37℃で15分間保温した。そして、その一部もしくは全量を、50μg/μlのカナマイシンを含有するL寒天培地にプレーティングし、10〜18時間、37℃で、保温した。出現したコロニーからプラスミドDNAを、アルカリ−SDS法(Sambrookら、Molecular Cloning、前出)により抽出して、アミロマルターゼ遺伝子を含むプラスミドDNAを得た。
(C)Thermus aquaticus ATCC 33923株アミロマルターゼ遺伝子の塩基配列決定
上記で得られたプラスミドDNAについて、DNAシークエンサー(ABI社製)を用いて塩基配列を決定した。Thermus aquaticus ATCC 33923株のアミロマルターゼ遺伝子の全塩基配列を配列表の配列番号1に示す。配列表の配列番号2は、対応するアミノ酸配列である。
(実施例4:Thermus aquaticus ATCC 33923株アミロマルターゼの諸性質)
実施例1で精製したアミロマルターゼの酵素学的性質を、当業者に周知の方法を用いて分析した。本酵素の反応至適温度は65〜70℃であり、反応至適pHは5.5であった。また、本酵素は80℃にて10分間の熱処理を行っても、ほぼ100%の残存活性を有しており、ほとんど失活が認められなかった。しかし、100℃、10分間の熱処理により完全に失活した。
(実施例5:Thermus aquaticus ATCC 33923株由来の組換えアミロマルターゼの産生)
実施例3で得たThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼ遺伝子の核酸配列情報を用いて組換えアミロマルターゼを産生した。
(A)アミロマルターゼ遺伝子のPCRによる増幅
上記実施例で得られたThermus aquaticus ATCC 33923株由来ゲノムDNAまたはプラスミドを鋳型とし、2種類のオリゴヌクレオチド(P1:5’−TTTCATATGGAGCTTCCCCGCGCTTTCGGTCTGCTT−3’(配列番号8)、P2:5’−TTTGAATTCGGGCTGGTCCACCTAGAGCCGTTCCGT−3’)(配列番号9)をプライマーとして用いて、終濃度10%のグリセロールを含む条件下でPCR(98℃10秒、68℃1分を25サイクル)を行った。この増幅により、アミロマルターゼの構造遺伝子のN末側に制限酵素NdeI部位、およびC末端側に制限酵素EcoRI部位が付加されたアミロマルターゼ遺伝子を得た。増幅DNAを制限酵素NdeIおよびEcoRIで完全消化した後、アガロース電気泳動を行い、アミロマルターゼ遺伝子を含む約1.5kbのDNA断片を回収した。
(B)発現ベクターの作製市販の大腸菌発現ベクターpGEX−5X−3(Pharmacia)のBamHI部位に、以下の配列:
(配列番号10および11)
を有するオリゴヌクレオチドアダプターを挿入し、プラスミドpGEX−Ndeを得た(図2を参照)。
新たに作製した、発現プラスミドpGEX−NdeのNdeI−EcoRI部位に、(A)で調製したアミロマルターゼ遺伝子を含む約1.5kbのDNA断片を導入し、アミロマルターゼ発現プラスミドpFQG8を得た(図2を参照)。
(C)耐熱性アミロマルターゼの大腸菌における発現アミロマルターゼ発現プラスミドpFQG8で形質転換された大腸菌TG−1株を終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む1リットルのLB培地(1% トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1% NaCl、pH7.5)で対数増殖期後期まで(約6時間)、37℃で培養した後、最終濃度0.1mMのIPTGを加えた。さらに37℃で16時間培養を継続した後、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を300mlの緩衝液Aで2回洗浄し、次いで60mlの緩衝液Aに分散させた。超音波により菌体を破砕し、遠心上清を粗酵素液とした。このようにして得られた粗酵素液のアミロマルターゼ活性は、30ユニット/mlであり、Thermus aquaticus ATCC 33923株を培養した際に得られる活性の約500倍(培養液1ml当たり)であった。
(実施例6:Thermus aquaticus ATCC 33923株由来の組換えアミロマルターゼの結晶構造解析)
結晶構造解析用のアミロマルターゼの精製は、Przylas I.et al.J.Mol.Biol.296,873−886(2000)の記載に準じて行った。具体的には以下のとおりである。
アミロマルターゼは、組換えプラスミドpFQG8を有するE.coli MC1062株中で発現させた(Terada et al.(1999)Appl.Environ.Microbiol.65,910−915.)。発現させたアミロマルターゼは、Terada et al.(1999)の方法に従って、以下の改変を行うことにより精製した。
疎水性相互作用クロマトグラフィーの後に、アミロマルターゼを20mM Tris−HCl(pH7.2)に対して透析した。SDS−PAGEでは単一バンドが観察された。このバンドについて、高分離能のアニオン交換クロマトグラフィー(HR 10/10 MonoQ,Amersham Pharmacia Biotech,Uppsala,Sweden)で2mM−200mMの塩化ナトリウムのリニアグラジエントで分離したところ、3つのピークとして現れた。主要なピークである第一のピークをプールし、5mM Tris−HCl(pH7.6)、1mM DTT、100mM NaClに対して透析し、10mg/mlの濃度にまで濃縮して以下の結晶解析を行った。第二のピークから得られたものも同様にプールし結晶化させて解析したが、結晶構造は同じであった。
精製したアミロマルターゼを懸滴(ハンギングドロップ)蒸気拡散法を用いて結晶化した。最良の結晶は、291Kにおいて、アミロマルターゼ溶液と、17%(w/v)PEG8000、100mM Hepes(pH7.5)および10%(v/v)エチレングリコールのリザーバ溶液とを等量で混合するし3週間経過したときに得られた。データ収集のために、結晶を30%エチレングリコールを含む母液に移し、段階的に凍結保護液を加えた。結晶は、空間群P6に属し、単位格子定数は、a=b=154Åおよびc=64Åであった。
重原子誘導体結晶は、20mM PCMBS(4日)、1mM HgCl(2日)、5mM KPtCl(2日)、5mM KAu(CN)(4日)、1mM KPt(SCN)(2日)、および5mM(CHPbAc(7日)を含む母液中に結晶を浸すことにより合計6つ作製した。
高解像度の生データは、100Kで、DESY/EMBL(Hamburg,Germany)のBW7aビームラインを用いて結晶構造解析を行うことにより生成した。位相調節のための生データのセットおよび誘導体データセットは、回転アノード源からのCu−Kα照射を用いて室温で収集した。すべての場合において、MarResearch画像化プレート検出器を用いて測定しDenzo/Scalepackを用いてデータ処理した(Otwinowski,Z.(1993).pp.56−62,SERC,Daresbury Laboratory,Warrington,UK.)。3.4の冗長度を持つネイティブ酵素の高解像度データを構造の精密化のために用いた。I/σ比は全データセットについて15.1であり、87.5%の反射は、I/σ>1であった(外シェルについて72.9%)。
MIR位相は、室温の生データセットと組み合わせて重原子誘導体から誘導した。CCP4パッケージ(CCP4,1994)を用いた誘導体の重原子同型置換体Pattersonマップの実験により、各々の誘導体について単重原子部位が判明した。これらの部位を精密化し、位相をSHARPというプログラムを用いて算出した(De La Fortelle,E.& Bricogne,G.(1997).Methods Enzymol.276,472−494.)。位相は、SOLOMON(CCP4,1994)を用いることによって溶媒平滑化を行うことにより改善した。得られたマップは、高品質のものであり、プログラムOを用いて初期モデルを作成するのに十分であった(Jones,T.A.,Zou,J.Y.,Cowan,S.W.& Kjeldgaard,M.(1991). Crystallographic Computing (Moras,D.,Podany,A.D.& Thierry,J.C.,eds),pp.413−432,Oxford University Press,Oxford)。得られたデータを以下の表に示す。
結晶データの精密化は、室温のデータセット(native−2)に対して行った後、精密化を、高解像度の凍結データセットを用いて継続した(native−1)。精密化手順には、シミュレーションアニーリングおよび最尤度標的に対して結合体勾配エネルギーを最小化することが含まれた。これは、CNSというプログラム(Bruenger,A.T.,Adams,P.D.,Clore,G.M.,Delano,W.L.,Gros,P.O.,Grose−Kunstleve,R.W.,Jiang,J.S.,Kuszewski,J.,Nilges,M.,Pannu,N.S.,Read,R.J.,Rice,L.M.,Simonson,T.& Waren,G.L.(1998).Acta Crystallog.sect.D,54,905−921.)で実行される。バルクな溶媒補正を行った。最終的なモデルには、500すべてのアミノ酸残基および739の水分子が含まれた。水分子は、Fo−Fc差電子密度マップから自動的に拾い、グラフィックスステーションで人間がチェックした。個々のΒ係数を、すべての非水素原子に対して精密化した。最終的なR値(Rfree)値は、19.6%(22.6%)であった。座標誤差はLuzzatiプロットによれば0.23Åと見積もられた。全アミノ酸残基のうち90.6%は、最も好ましい領域にあり、1.0%は一般的に許容され得る(Asp370、Glu253)か、または許容されない位置にあった(Phe251,Ser252)(プログラムPROCHECK(Laskowski,R.A.,MacArthur,M.W.,Moss,D.&Thornton,J.M.(1993).J.Appl.Crystallog.26,283−291.435−446.Schmidt,A.K.,Cottaz,S.,Driguez,H.& Schulz,G.E.(1998)))。得られたデータを以下の表に示す。
このようにして得られた座標データは、RCSBプロテインデータバンクに登録した(登録番号1CWY)。
このようにして得られた座標データを下に、Przylas et al.(2000)Eur.J.Biochem.267、6903−6913に記載されるように、野生型アミロマルターゼとインヒビターであるアカボースとの結合体について結合様式の三次元図を作成した。その手順を以下に示す。
生のアミロマルターゼの原子座標を出発モデルとしてアミロマルターゼとアカボースとの結合体の立体構造精密化を行った。プログラムCNS(Bruenger,A.T.et al.(1998)、Acta Crystallogr.D54,905〜921)を用いて剛体およびシミュレーションアニーリングを行った後、連続密度を2つのアカボースの両方について観察した。アカボースインヒビターに関するトポロジーおよびパラメータをXPLO2Dというプログラム(Kleywegt,G.A.&Jones,T.A. (1997),Methods Enzymol.277,208〜230)を用い、ブタアミラーゼとアカボース複合体の構造(1PPI)をもとに生成した。すべてのパラメータを手動でチェックしてグルコース残基について予想されるいす形コンフォメーションおよびシクリトール環について予想される半いすコンフォメーションと一致していることを確かめた。これらの標準的な形状からの逸脱を試験するために、二面角についての拘束なしに精密化を行った。拘束ありの精密化での結果とは有意な逸脱は観察されなかった。このことは、アカルビオシン単位とマルトース単位とが標準的なコンフォメーションにあることを示す。糖単位の間の連結を規定する二面角は拘束しなかった。何サイクルかの精密化(プログラムCNS)および手動での再構築(プログラムO(Jones,T.A.,Zou,J.Y.,Cowan,S.W.& Kjeldgaard,M.(1991) Improved methods for the building of protein models.In Crystallographic Computing.(Moras,D.,Podany,A.D.& Thierry,J.C.,eds),pp.413〜432,Oxford University Press,Oxford,UK)によって、500アミノ酸残基、2つのアカボース分子、2つのエチレングリコール分子および603の水分子すべてのを含む最終的なモデルを生成した。最終のR値は19.2%(Rfreeは21.9%)であった。さらに詳細なデータ収集および精密化をしたものを以下の表3に示す。
活性部位に結合したアカボース分子の平均のB係数は37Åであった。これは、水素結合を介して周りのタンパク質側鎖に結合したもの(主鎖原子について28Åであり、側鎖原子について28Å)の平均B係数よりも大きい。Gln256残基のみもまた、38Åといういくらか高い平均B係数を示した。アカボース単位であるA〜Dは、ほぼ同じB係数を有した(それぞれ39Å、37Å、35Åおよび37Å)。周りの残基に対して比較したアカボースのB係数が高い原因は、結合溝におけるアカボースの自由度が高いことである可能性があるが、結合部位が完全に占有されていない可能性もある。同様の状況が第二のアカボース結合部位に存在した。第二のアカボース結合部位では、4つすべてのアカボース単位について49Åという値が観察された。プログラムPROCHECK(Laskowski,R.A.,MacArthur,M.W.,Moss,D.& Thornton,J.M.(1993)J.Appl.Crystallogr.26,283〜291)およびWHATCHECK(Vriend.G.(1990) J.Mol.Graph.8.52〜56)を用いて、構造を評価し、プログラムOおよびWHATIFを用いて構造解析を行った。得られた結果を図3および4に示す。図3は、第一のアカボースに関する模式図であり、図4は第二のアカボースに関する模式図である。
これを元に、基質と相互作用することが予測される代表的な残基として、53位グリシン、54位チロシン、55位グリシン、56位アスパラギン酸、98位グリシン、101位チロシンおよび153位グリシンを選出した(図4を参照)。
(実施例7:Thermus aquaticus ATCC 33923株由来の組換えアミロマルターゼの改変体の産生)
実施例5と同様にしてThermus aquaticus ATCC 33923株由来の組換えアミロマルターゼの発現ベクターを作製した。本実施例では、実施例6で基質と相互作用することが判明した基のうち、例示として54位のチロシンをタンパク質をコードする他の天然アミノ酸すべて(すなわち、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、およびリジン)に置換した。その結果得られた配列番号2において、54位のチロシンがそれぞれのアミノ酸に変更されている以外は、配列番号2と同じ配列を有し、その改変体をコードする核酸分子は、同様に対応した変異を有する。他のアミノ酸への置換は、部位特異的変異誘発法を使用した。その詳細な説明を以下に記載する。
耐熱性アミロマルターゼの大腸菌における発現アミロマルターゼ発現プラスミドpFQG8を鋳型とし、2種類のオリゴヌクレオチドプライマー、ただし、アラニン置換では5’−ttgggccccacgggc gcc ggcgactccccctacc−3’(配列番号16)と5’−ggtagggggagtcgcc ggc gcccgtggggcccaagg−3’(配列番号17)、アルギニン置換では5’−ttgggccccacgggc cgg ggcgactccccctacc−3’(配列番号12)と5’−ggtagggggagtcgcc ccg gcccgtggggcccaagg−3’(配列番号13)、スレオニン置換では5’−ttgggccccacgggc acg ggcgactccccctacc−3’(配列番号14)と5’−ggtagggggagtcgcc cgt gcccgtggggcccaagg−3’(配列番号15)を用いて、緩衝液、DNA複製酵素はQuick Change Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社)のものを用いてPCRを、pFQG8 25ng、2種類のオリゴヌクレオチドプライマー各20pmol、濃縮反応緩衝液 5μl、dNTP 1μl、を混合し、95℃ 30秒、55℃ 1分、68℃ 13分を16サイクルの条件で行った。PCR後、サンプルを氷中に2分間置いて、Dpn Iを1μl加えて混合し、37℃で1時間反応させた後、1μlを用いて大腸菌BL21(STRATAGENE社)を形質転換させ、終濃度100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地(1% トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1% NaCl、1.5% 寒天、pH7.5)で37℃で一夜培養した。得られた形質転換体を適当数(10クローン程度)選択し、終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む2mlのLB培地(1% トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1% NaCl、pH7.5)で37℃で一夜培養後プラスミドを抽出してDNAシーケンスを行い、目的部分の変異とアミロマルターゼ遺伝子全域のDNAシーケンスを確認した後、改変体をコードする遺伝子を含むプラスミドとした。
改変体をコードする遺伝子を含むプラスミドで形質転換された大腸菌TG−1株を終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む1リットルのLB培地(1% トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1% NaCl、pH7.5)で対数増殖期後期まで(約6時間)、37℃で培養した後、最終濃度0.1mMのIPTGを加えた。さらに37℃で16時間培養を継続した後、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を300mlの緩衝液Aで2回洗浄し、次いで60mlの緩衝液Aに分散させた。超音波により菌体を破砕し、遠心上清を粗酵素液とした。その後、実施例1(1)に記載の野生型アミロマルターゼの精製と同様の方法により精製しアミロマルターゼ改変体を得た。
(実施例8:アミロマルターゼ改変体の諸性質)
実施例7で作製したアミロマルターゼ改変体の酵素学的性質を、実施例5の天然型アミロマルターゼとともに当業者に周知の方法を用いて分析した。
まず、アミロマルターゼ改変体および実施例5で精製した野生型アミロマルターゼについて、シクロアミロースの合成能を調べた。合成能のアッセイは、1時間終濃度0.2%(w/v)の酵素合成アミロースAS−110を含む緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、9%(v/v)DMSO)中で、0.022ユニット/mlのアミロマルターゼ改変体もしくは野生型アミロマルターゼを70℃で作用させ、反応開始1時間後のシクロアミロースの収率を測定することで行なった。結果を図5に示す。
図5からも明らかなように、これらの結果から明らかなように、フェニルアラニン(Y54F)以外のすべての変異酵素において野生型酵素(Y)に比べてシクロアミロースの収率が増加したことが認められた。また、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、アルギニン、セリンおよびスレオニンへの変換では野生型酵素の2倍以上の収率でシクロアミロースが回収された。したがって、本発明の改変は、アミロマルターゼの活性を顕著に上昇させることになる。この活性の上昇は、上述の結晶構造解析から、基質に対する反応性が上昇した結果であると考えられる。
次に、シクロアミロースにアミロマルターゼ改変体および実施例5で精製した野生型アミノマルターゼを作用させ、加水分解の程度を測定した。具体的には、終濃度0.5%(w/v)の重合度20〜50程度のシクロアミロースを含む緩衝液(50mM酢酸ナトリウム(pH5.5))中で、アミロマルターゼ改変体もしくは野生型アミロマルターゼを70℃作用させ、反応開始1時間後の還元糖量の増加量を測定することで加水分解活性を測定した。1分間に1μmolの還元糖量を増加させる酵素量を1ユニットとし、アミロマルターゼ1mgあたりの比活性を算出した。得られた結果に関し、野生型の加水分解活性を1としたときの各改変体の相対活性をグラフとしたものを図6に示す。
図6からも明らかなように、また、フェニルアラニンおよびリジン以外のすべての変異酵素において、野生型に比べて加水分解活性が低下していた。特に、グリシン、プロリン、スレオニンおよびトロプトファンにおいてその加水分解活性の低下は顕著であり、約20%未満に低下していた。従来の野生型アミロマルターゼは、いったんシクロアミロースの合成を行っても、同時に存在する加水分解作用により、直鎖状となり、収率の低下を招いていた。本発明のアミロマルターゼ改変体はその作用が弱くなっていることが示された。したがって、本発明の変異酵素における置換アミノ酸は、非保存的置換に該当するアミノ酸が好ましいことが明らかになった。したがって、実質的に任意のアミノ酸置換が本発明の変異酵素における酵素活性の改善および/または副反応の減少において効果があることが示された。また、シクロアミロース合成に使用する場合は、どの改変体を使用してもよいが、特に54位のチロシンがスレオニンまたはグリシン、より好ましくはグリシンに置換されたものが特に好ましいことがわかった。
(実施例9:環状グルカンの生産)
(A)環状α−1,4−グルカンの生産(本発明のアミロマルターゼを用いたシクロアミロースの生産)
終濃度0.2%の酵素合成アミロースAS−110(中埜酢店製)を含む、1mlの緩衝液(50mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、9%(v/v)DMSO)中で、実施例7で得られた精製アミロマルターゼ改変体0.022ユニットを70℃で作用させた。未反応の非環状アミロースをグルコアミラーゼによりグルコースに分解した後に、反応産物中のシクロアミロースを定量した。本発明のアミロマルターゼ改変体はアミロースを環状化し、反応開始1時間後までに最大反応収率に達した。比較として、Thermus aquaticus ATCC 33923株野生型アミロマルターゼを、同様の条件で作用させた。この場合、最大収率に達するのは6時間後であった。従って、本発明のアミロマルターゼ改変体は、基質に対する反応性が増加しており、シクロアミロースを生産するための酵素として従来のものより適していることが明らかである。
反応24時間目のサンプルをグルコアミラーゼ消化して、未反応の非環状アミロースをグルコースに分解した後、シクロアミロースをエタノール沈殿して精製した。このようにして得られたシクロアミロースをダイオネクス社製の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、分析カラム:CarboPacPA100)により分析した。溶出は、流速:1ml/分、NaOH濃度:150mM、酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM(Gradient curve NO.3)、45分−850mM(Gradient curve No.7)、47分−850mMの条件で行った。
精製されたシクロアミロースは、重合度21以上の混合物であった。なおシクロアミロースの重合度は、、重合度9から31のシクロアミローススタンダード(Koizumiら、J.ChromatographyA,vol.852,pp.407−416,(1999))の溶出位置より決定した。
従って、本発明のアミロマルターゼ改変体は従来の野生型アミロマルターゼよりも酵素活性が上昇しおよび/または所望されない加水分解活性が低下していることが実証された。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明により、従来の野生型アミロマルターゼよりも酵素活性が上昇しおよび/または所望されない加水分解活性が低下したアミロマルターゼ改変体が提供され、糖加工産業において多大なる有用性がある。本発明はまた、基質濃度が高い状態でも高収率を維持することができる変異酵素が提供されたことによって、工業用にシクロアミロースおよび環状グリカンが大量生産できるという有用性がある。
公知の野生型アミロマルターゼの相同性を示す図である。ボックスで囲んだ残基は、相同な残基であり、右下向きの斜線で示した残基は、同一の残基である。左下向きの斜線で示した残基は、同一の残基であり、かつ、触媒性の側鎖を有する残基である。下向きの三角形で示した領域に囲まれる領域は、特に保存された領域である(region1、region2、region3、region4および250s loop)。 アミロマルターゼ発現ベクターの作製工程を示す模式図である。 野生型アミロマルターゼのアカボースとの結合様式を示す三次元図である。 54位のTyrの付近の野生型アミロマルターゼのアカボースとの結合様式を示す三次元図である。 本発明のアミロマルターゼ改変体および野生型アミロマルターゼのシクロアミロース合成能を示す図である。基質に対する変換率を100%とした。 本発明のアミロマルターゼ改変体および野生型アミロマルターゼのシクロアミラーゼの加水分解活性を示す図である。野生型の加水分解活性を1とした。
(配列表の説明)
配列番号1:Thermusaquaticus ATCC 33923株の野生型核酸配列;
配列番号2:同上のアミノ酸配列;
配列番号3:部分アミノ酸配列1;
配列番号4〜6:部分アミノ酸配列2〜4;
配列番号7:合成オリゴ(実施例3);
配列番号8および9:PCRプライマー;
配列番号10および11:アダプター配列;
配列番号12、14、16、18、20:ポテト、E.coli、SynechocystisPCC6803、Clostridium butyricum、Chlamydia pneumoniaeのアミロマルターゼア核酸配列;
配列番号13、15、17、19、21:ポテト、E.coli、SynechocystisPCC6803、Clostridium butyricum、Chlamydia pneumoniaeのアミロマルターゼアミノ酸配列;
配列番号16〜27;改変体を作製する際に使用されたPCRプライマー。

Claims (18)

  1. 配列番号2に示されるThermus aquaticus ATCC 33923株由来のアミロマルターゼポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の54位チロシンの、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸への置換を含むアミロマルターゼポリペプチド。
  2. 前記配列番号2のアミノ酸配列の54位チロシンの、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸への置換は、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、アスパラギン、アルギニン、セリンまたはスレオニンへの置換を含む、請求項1に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  3. 前記配列番号2のアミノ酸配列の54位チロシンの、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸への置換は、グリシンまたはスレオニンへの置換を含む、請求項1に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  4. 前記配列番号2のアミノ酸配列の54位チロシンの、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸への置換は、グリシンへの置換を含む、請求項1に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  5. 配列番号2のアミロマルターゼポリペプチドに比較して、酵素活性の上昇および加水分解活性の低下の両方の特性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  6. 前記加水分解活性の低下は、配列番号2のアミロマルターゼポリペプチドに比較して少なくとも10%以上の低下を含む、請求項5に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  7. 前記酵素活性の上昇は、配列番号2のアミロマルターゼポリペプチドに比較して少なくとも10%以上の上昇を含む、請求項5に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  8. 前記配列番号2のアミノ酸配列の54位チロシンの、チロシン、フェニルアラニンおよびリジン以外のアミノ酸への置換は、非保存的置換である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアミロマルターゼポリペプチド。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む、核酸分子。
  10. 請求項9に記載の核酸分子を含む、ベクター。
  11. 請求項9に記載の核酸分子を含む、細胞。
  12. 請求項9に記載の核酸分子を含む、生物組織。
  13. 請求項9に記載の核酸分子を含む、ヒト以外のトランスジェニック生物。
  14. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のアミロマルターゼポリペプチドを食品素材に、該素材の加熱処理前または加熱処理直後に添加する工程であって、該アミロマルターゼポリペプチドは該食品素材中のデンプンから環状グルカンを生成する、工程、を含む、食品の製造方法。
  15. 前記食品が、米飯類、和菓子、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類、餃子およびシュウマイの皮、水産練り商品、冷凍もしくは冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料、スポーツ食品、ならびに栄養補助食品からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
  16. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドを含有する、食品素材、食品添加物または食品改質剤。
  17. 直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドとを反応させる工程を包含する、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンまたはその誘導体の製造方法。
  18. 直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリペプチドとを反応させる工程を包含する、食品素材、食品添加物、食品改質剤、飲食用組成物、輸液または接着用組成物の製造方法。
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