JP2001069981A - デカルバミラーゼの立体構造およびその利用法 - Google Patents

デカルバミラーゼの立体構造およびその利用法

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JP2001069981A JP24679799A JP24679799A JP2001069981A JP 2001069981 A JP2001069981 A JP 2001069981A JP 24679799 A JP24679799 A JP 24679799A JP 24679799 A JP24679799 A JP 24679799A JP 2001069981 A JP2001069981 A JP 2001069981A
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孝尚 中井
Soichi Morikawa
壮一 守川
Kiyoto Ishii
清人 石井
Hironori Nanba
弘憲 難波
Reika Yajima
麗嘉 矢島
Yasuhiro Ikenaka
康裕 池中
Satomi Takahashi
里美 高橋
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Kanegafuchi Chemical Industry Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 デカルバミラーゼのX線結晶構造解析により
その立体構造を明らかにし、その立体構造を利用して基
質であるD−N−カルバモイル−α−アミノ酸類に対す
る反応性の向上等を目指した分子設計を行うことによ
り、工業利用により有利な優れたデカルバミラーゼ変異
体を提供すること。 【解決手段】 X線結晶構造解析により決定したデカル
バミラーゼの立体構造および変異体の立体構造モデルお
よび基質、生成物等との複合体の立体構造モデル、およ
びこれら立体構造を利用した分子設計手法、およびこの
方法を利用してデカルバミラーゼ変異体を得る方法、お
よびこの方法で得られたデカルバミラーゼ変異体、なら
びにデカルバミラーゼと構造が類似するタンパク質の変
異体を設計および製造する方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、D−N−カルバモ
イル−α−アミノ酸を対応するD−α−アミノ酸に変換
する酵素(以下、デカルバミラーゼという)の結晶に関
する。また、本発明は、該結晶を用いたX線結晶構造解
析により決定されたデカルバミラーゼの立体構造および
その利用、特に、該立体構造を利用したデカルバミラー
ゼの耐熱性、有機溶剤耐性、空気酸化に対する耐性等の
安定性、酵素反応の至適pHの変更および比活性向上に
関するアミノ酸の変異を設計する方法に関する。さら
に、本発明は、上記立体構造を利用してデカルバミラー
ゼ変異体を製造する方法、得られたデカルバミラーゼ変
異体、および、その利用に関する。
【0002】
【従来の技術】光学活性なD−α−アミノ酸類は医薬中
間体として重要な化合物であり、特に半合成ペニシリン
類または半合成セファロスポリン類の製造中間体である
D−フェニルグリシン、D−パラヒドロキシフェニルグ
リシンなどが工業的に有用な化合物例として挙げられ
る。このようなD−α−アミノ酸類の製造法としては、
対応するD−N−カルバモイル−α−アミノ酸類のカル
バモイル基を除去してこれらを得る方法が公知であり、
この際のカルバモイル基の除去は化学的方法または微生
物の酵素反応を利用する方法によって行われる。
【0003】カルバモイル基の除去を行う酵素は、デカ
ルバミラーゼと呼ばれる。この酵素は、D−N−カルバ
モイル−α−アミノ酸のD−α−アミノ酸類への変換を
触媒する。この酵素は、シュードモナス属、アグロバク
テリウム属、アエロバクター属、アエロモナス属、プレ
ビバクテリウム属、バチルス属、フラボバクテリウム
属、セラチア属、ミクロコッカス属、アースロバクター
属、アルカリゲネス属、アクロモバクター属、モラキセ
ラ属、パラコッカス属、ブラストバクター属、およびコ
マモナス属から同定されている。デカルバミラーゼのア
ミノ酸配列および/または核酸配列は、アグロバクテリ
ウム属から決定されており、例えば、Agrobact
erium radiobacter NRRL B1
1291およびAgrobacterium sp.
KNK712(カネカ菌)が挙げられる。
【0004】一般に、酵素は常温または高温でこれを反
応に用いる工業利用の際の条件に耐え得るほど十分な安
定性を有していない場合が多く、その安定性が生産物の
コストに影響する場合が多い。また、酵素反応を有利に
進行させる手段として、固定化酵素または固定化菌体等
のいわゆる「バイオリアクター」として繰り返し反応に
用いることが行われているが、この際にも酵素の安定性
によって使用回数が制限され、生産物のコストに与える
影響が大きい。
【0005】有用な反応を触媒する酵素を有効に工業利
用するためには、安定性などの物性または触媒能の高い
優れた酵素を迅速かつ効率的に創製する手法が望まれ
る。物性または機能を改良した酵素を取得する方法とし
ては、酵素をコードする遺伝子に化学処理または酵素処
理などにより人為的な変異を加え、変異を含んだ組換え
体DNAを宿主細胞に導入して、目的の機能および/ま
たは物性を有する酵素をスクリーニングするいわゆるラ
ンダムスクリーニング法がよく知られている。一方、近
年の構造生物学の進歩に伴い、酵素などの数多くのタン
パク質の立体構造がX線結晶解析またはNMR解析によ
り明らかにされてきており、その立体構造および分子設
計手法を用いたタンパク質の物性または機能改変も盛ん
に行われるようになっている。
【0006】ここで、「タンパク質の立体構造」とは、
あるアミノ酸配列を有するタンパク質がある条件下で折
り畳まれて形成される、ある条件およびそのアミノ酸配
列によって規定されるタンパク質の三次元構造のことを
いう。タンパク質の立体構造は、例えば、X線結晶構造
解析または核磁気共鳴によって決定され得る。
【0007】デカルバミラーゼの物性の改変について
は、ランダムスクリーニング法により耐熱性の向上した
酵素生産株(E.coli JM109)をスクリーニ
ングすることに成功し、工業利用に有利なデカルバミラ
ーゼ変異体が取得されている(国際公開WO94/03
613号パンフレット)。また、部位特異的変異誘発に
より、安定性の向上した変異体(特開平9−17306
8号公報)が取得されている。しかし、これらの例は、
アミノ酸の一次配列のみに基づいて変異体を作製したも
のであって、酵素の立体構造を利用した合理的な分子設
計手法を活用したものではない。
【0008】これまでにデカルバミラーゼおよびその類
縁酵素であって、その立体構造が明らかにされたものは
知られていない。デカルバミラーゼは、アミノ酸配列が
既に知られているタンパク質の配列データベース、PI
R Release57(米国国立バイオテクノロジー
情報センター、NCBI)に対する配列類似性解析から
アミダーゼ、ニトリラーゼ等の加水分解酵素と25〜3
0%程度の弱い配列類似性を有することが明らかになっ
ている。しかしながら、弱い配列類似性を有するこれら
の酵素の立体構造は、これまでいずれも明らかにはされ
ていない。そのため、分子設計手法でしばしば用いられ
る類似タンパク質の立体構造を用いたいわゆるホモロジ
ーモデリングの手法(例えば、Swiss−Pdbvi
ewer(モデリングプログラム)(Swiss In
stitute of Bioinformatics
(SIB)、ExPASy Molecular Bi
ology Server(http://www.e
xpasy.ch/ より入手可能));Guex、
N.およびPeitsch,M.C.(1997)SW
ISS−MODEL and the Swiss−P
dbViewer:An environment f
or comparative protein mo
deling、Electrophoresis 1
8、2714−2723)により、デカルバミラーゼの
立体構造を推定することは事実上不可能であった。ま
た、仮に類縁酵素の立体構造が決定されたとしても、3
0%に満たない弱い配列類似性では、合理的な分子設計
手法を適用するために十分な精度をもって立体構造モデ
ルを得ることは難しい。酵素反応の至適pHの変更、比
活性向上に関するアミノ酸変異等を精度良く予測し、そ
れに基づき分子設計するためには、デカルバミラーゼの
精密な原子座標データが必須である。デカルバミラーゼ
の立体構造を決定することができれば、精密な立体構造
の解析、およびこれに基づく合理的な分子設計手法を適
用することが可能となり、ひいては工業利用に有利な改
変酵素を迅速かつ効率的に取得することも可能となる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような
課題を解決すべく、現在工業利用に供されているデカル
バミラーゼの単結晶を取得し、X線結晶構造解析により
その立体構造を明らかにすることを目的とする。本発明
はまた、デカルバミラーゼの立体構造を利用して、基質
であるD−N−カルバモイル−α−アミノ酸類に対する
反応性の向上、反応pHの最適化、熱および空気酸化に
対する安定性向上等を目指した分子設計を行うことによ
り、工業利用により有利な優れたデカルバミラーゼ変異
体を提供すること、および得られたデカルバミラーゼ変
異体を利用したD−α−アミノ酸の製造方法を提供する
ことを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決するために鋭意検討を行った結果、デカルバミラ
ーゼの単結晶およびその重原子誘導体結晶を取得し、こ
れら結晶の重原子同型置換法および多波長異常分散法を
用いたX線結晶構造解析によりデカルバミラーゼの精密
な立体構造を決定し、そしてこれらの立体構造を基に特
性の改善された変異体を作製することにより、本発明を
完成するに至った。
【0011】本発明は、直方晶系の空間群P2112お
よび配列番号1に示されるアミノ酸配列、または直方晶
系の空間群P2111および配列番号2に示されるア
ミノ酸配列を有する、デカルバミラーゼ結晶に関する。
結晶が直方晶系の空間群P2 112および配列番号1に
示されるアミノ酸配列、または空間群P2111およ
び配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する、デカル
バミラーゼ結晶に関する。一つの実施態様において、上
記結晶は直方体形状の単位格子を有し、単位格子定数:
a=66.5〜68.5Å、b=135.5〜138.
0Å、c=66.5〜68.5Åを有し得る。また、上
記アミノ酸配列が配列番号1であり得る。別の実施態様
において、上記結晶は直方体形状の単位格子を有し得、
そして単位格子定数:a=68.5〜70.5Å、b=
138.0〜140.5Å、c=68.5〜73.0Å
を有し得る。他の実施態様において、上記結晶は直方体
形状の単位格子を有し得、そして、単位格子定数:a=
81.5〜82.5Å、b=133.0〜135.0
Å、c=119.5〜121.5Åを有し得る。また、
上記アミノ酸配列は配列番号2であり得る。1つの局面
において、本発明は結晶中のデカルバミラーゼ1分子当
たり少なくとも1つ以上の重金属原子を含む結晶を提供
し得る。一つの実施態様において、上記重金属原子は水
銀、金、白金、鉛、イリジウム、オスミウムおよびウラ
ンのうちいずれかであり得る。他の実施態様において、
本発明はデカルバミラーゼ結晶を液体窒素下で凍結させ
ることにより調製される凍結結晶を提供し得る。
【0012】別の局面において、本発明は、デカルバミ
ラーゼ結晶の製造方法であって、1〜50mg/mlの
濃度でデカルバミラーゼの溶液を与える工程、5〜30
重量%の濃度でポリエチレングリコール(PEG)ある
いはメトキシポリエチレングリコール(PEGMME)
を含有し、かつ6.0〜9.0のpHを与える濃度の緩
衝剤を含有する沈澱剤溶液を与える工程、該デカルバミ
ラーゼ溶液を該沈澱剤溶液と混合する工程、および得ら
れる混合溶液を、該溶液中のデカルバミラーゼ結晶が既
定の大きさ以上に成長するまで既定の期間放置する工程
を包含する、方法を提供する。1つの実施態様におい
て、本発明の方法はまた、混合する工程が、デカルバミ
ラーゼ溶液の液滴を前記沈澱剤溶液の液滴と混合させる
ことを包含し、そして放置する工程が、混合工程で得ら
れる混合液滴を密閉容器中で沈澱剤溶液を保持する溶液
溜め部上に懸垂させることを包含し、ここで、該溶液溜
め部中の該沈澱剤溶液の蒸気圧は該混合液滴の蒸気圧よ
り低い。本発明の方法はまた、混合する工程が、前記デ
カルバミラーゼ溶液の液滴を上記沈澱剤溶液の液滴と混
合させることを包含し、そして上記放置する工程が、混
合工程で得られる混合液滴を密閉容器中で沈澱剤溶液を
保持する溶液溜め部の液滴台に静置させることを包含
し、ここで、該際溶液溜め部中の該沈澱剤溶液の蒸気圧
は該混合液滴の蒸気圧より低い。別の実施態様におい
て、本発明の方法における混合溶液を放置する期間は1
日から3週間である。他の実施態様において、本発明の
方法は、上記デカルバミラーゼの溶液を与える工程の後
に、該デカルバミラーゼ溶液をサイズ排除半透膜内に配
置させる工程をさらに包含し、そして前記混合する工程
が、該半透膜を通して沈澱剤溶液を該デカルバミラーゼ
溶液中に拡散させることをさらに包含する。他の実施態
様において、本発明の方法における上記混合する工程
が、上記沈澱剤溶液を前記デカルバミラーゼ溶液に徐々
に添加することを包含し、そして上記放置する工程が、
得られる混合溶液を密閉容器内で放置することを包含す
る。別の局面において、本発明は、図1に示すタンパク
質立体構造トポロジーを有する立体構造により特徴付け
られるデカルバミラーゼに関する。一つの実施態様にお
いて、本発明は、4本のαヘリックスおよび12本のβ
ストランドの二次構造を含む4層サンドイッチ構造を有
する、デカルバミラーゼに関する。本発明の好ましい実
施態様において、酵素反応に関与するアミノ酸残基は、
システイン1残基、グルタミン酸2残基、およびリジン
1残基であり、酵素反応の基質がD−N−カルバモイル
−α−アミノ酸であって、図3に示す基質結合様式を有
する活性部位の立体構造により特徴付けられる。本発明
の別の実施態様において、本発明は、デカルバミラーゼ
活性を有する酵素分子であって、少なくとも、配列番号
1または2における以下のアミノ酸:46位のGlu、
126位のLys、145位のGlu、および171位
のCysに対応するアミノ酸から形成される活性部位腔
を有する、酵素分子に関する。別の実施態様において、
活性部位腔において、基質であるD−N−カルバモイル
−α−アミノ酸は、反応時に前記配列番号1または2の
126位のLys、143位のHis、145位のGl
u、174位のArg、175位のArg,および19
7位のThrに対応するアミノ酸と相互作用する。他の
実施態様では、上記活性部位腔において、前記配列番号
1または2の46位のGlu、145位のGluおよび
171位のCysに対応するアミノ酸は水分子を介して
水素結合している。なお別の実施態様において、上記D
−N−カルバモイル−α−アミノ酸は、D−N−カルバ
モイル−フェニルグリシン、D−N−カルバモイル−パ
ラヒドロキシフェニルグリシン、D−N−カルバモイル
−フェニルアラニン、D−N−カルバモイル−バリン、
D−N−カルバモイル−アラニン、D−N−カルバモイ
ル−システイン、D−N−カルバモイル−アスパラギン
酸、D−N−カルバモイル−グルタミン酸、D−N−カ
ルバモイル−グリシン、D−N−カルバモイル−ヒスチ
ジン、D−N−カルバモイル−イソロイシン、D−N−
カルバモイル−リジン、D−N−カルバモイル−ロイシ
ン、D−N−カルバモイル−メチオニン、D−N−カル
バモイル−アスパラギン、D−N−カルバモイル−プロ
リン、D−N−カルバモイル−グルタミン、D−N−カ
ルバモイル−アルギニン、D−N−カルバモイル−セリ
ン、D−N−カルバモイル−スレオニン、D−N−カル
バモイル−トリプトファン、D−N−カルバモイル−チ
ロシンからなる群から選択される。さらに別の実施態様
において、本発明は、本発明のデカルバミラーゼの立体
構造から分子設計手法により構築された、デカルバミラ
ーゼあるいはその変異体とD−N−カルバモイル−α−
アミノ酸あるいはD−α−アミノ酸との複合体立体構造
により特徴付けられるデカルバミラーゼ複合体に関す
る。
【0013】本発明の一つの局面において、本発明は、
デカルバミラーゼ変異体を設計する方法であって、デカ
ルバミラーゼの請求項14、16、または21のいずれ
か1項に記載の立体構造に基づいて物性および/または
機能を改変したデカルバミラーゼ変異体を設計する工
程、を包含する、方法に関する。別の局面において、本
発明は、デカルバミラーゼ変異体を設計する方法であっ
て、デカルバミラーゼ活性を有する酵素の結晶を生成す
る工程、該結晶のX線結晶構造解析により立体構造を決
定する工程、および決定した該結晶の立体構造に基づい
て物性および/または機能の向上したデカルバミラーゼ
変異体を設計する工程を包含する方法に関する。さらに
別の局面において、本発明は、デカルバミラーゼ変異体
を製造する方法であって、該方法が、デカルバミラーゼ
活性を有する酵素の結晶を生成する工程、該結晶のX線
結晶構造解析により該結晶の立体構造を決定する工程、
決定した該結晶の立体構造に基づいて物性および/また
は機能の向上したデカルバミラーゼ変異体を設計する工
程、および該デカルバミラーゼ変異体を産生する工程を
包含する、方法に関する。一つの実施態様において、本
発明の方法で使用される上記立体構造は、本発明のデカ
ルバミラーゼの立体構造である。別の実施態様におい
て、上記デカルバミラーゼ変異体を設計する工程は、酵
素の基質特異性の変更、酵素比活性の変更、酵素の安定
性向上、至適pHの最適化および酵素の水溶性の変更か
らなる群から選択される1以上の酵素特性の改変を目的
とする。さらに別の実施態様において、上記デカルバミ
ラーゼ変異体の製造方法は、酵素の安定性向上を目的と
する。好ましくは、酵素の安定性向上に関する変異体の
設計は空気酸化による活性低下を招くアミノ酸残基を置
換する変異を含む。他の実施態様において、上記酵素特
性の改変は、酵素比活性の変更および至適pHの最適化
を含む。
【0014】別の局面において、本発明は、本発明の方
法によって得られたデカルバミラーゼ変異体に関する。
本発明はまた、本発明の立体構造を利用してデカルバミ
ラーゼのインヒビターをスクリーニングおよび/または
設計する方法を提供する。さらに別の局面において、本
発明は、デカルバミラーゼ結晶の立体構造またはデカル
バミラーゼの立体構造を利用して、アミノ酸一次配列が
デカルバミラーゼと少なくとも30%の類似性を有する
別のポリペプチド酵素またはタンパク質酵素を改変方法
を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】本明細書において、「デカルバミラーゼ活
性」とは、D−N−カルバモイル−α−アミノ酸を、そ
のアミノ酸を修飾しているカルバモイル基を除去してD
−α−アミノ酸に変換する活性をいう。「デカルバミラ
ーゼ」とは、デカルバミラーゼ活性を有する酵素をい
う。デカルバミラーゼの例としては、配列番号1または
配列番号2のアミノ酸配列を有する酵素が挙げられる。
配列番号1のアミノ酸配列を有するデカルバミラーゼ
は、Agrobacterium sp. KNK71
2から単離され配列決定された。配列番号2のアミノ酸
配列を有する酵素は、配列番号1からランダム変異によ
るスクリーニングにより、E.coli変異株から得た
酵素である。
【0017】本明細書において、デカルバミラーゼまた
は他の酵素の変異体の「変異体」とは、もとの酵素のア
ミノ酸配列のアミノ酸が少なくとも1つ以上置換、付
加、もしくは欠失、または修飾されたアミノ酸配列を有
し、もとの酵素の活性の少なくとも一部を保持する改変
された酵素をいう。「活性断片」とは、あるタンパク質
酵素またはポリペプチド酵素のアミノ酸配列の一部を有
する断片であって、もとの酵素の活性の少なくとも一部
を保持する断片をいう。ここで、「活性の少なくとも一
部」とは、代表的には、もとの酵素の少なくとも10%
の比活性、好ましくは元の酵素の少なくとも50%の比
活性をいうが、所望によって、10%未満の比活性をい
う場合もある。
【0018】本明細書において、「ネイティブ結晶」と
は、デカルバミラーゼを硫安、ポリエチレングリコール
などの沈澱剤および添加塩類等を適切な組成で含有する
緩衝液中で、単結晶にまで成長させたものであって、重
金属原子を含有しない結晶をいう。
【0019】本明細書において、「重原子誘導体結晶」
とは、以下のいずれかの結晶をいう:(i)調製したネ
イティブ結晶を水銀、金、白金、鉛、イリジウム、オス
ミウムおよびウランなどの重金属化合物を含んだ溶液に
浸漬することで、結晶性を崩すことなく、結晶中のデカ
ルバミラーゼに重金属原子を共有結合あるいは配位結合
等により結合させた結晶、(ii)硫安、ポリエチレン
グリコールなどの沈澱剤および添加塩類等を適切な組成
で含有する緩衝液であって、さらに適切な濃度で上記重
金属化合物を含有する溶液中で、デカルバミラーゼを単
結晶にまで成長させた結晶、および(iii)デカルバ
ミラーゼのメチオニンおよび/またはシステイン残基が
セレノメチオニンおよび/またはセレノシステインに置
換した変異体を用いて得られる結晶。
【0020】本発明の一つの実施態様において、配列番
号1または2のアミノ酸配列を有するデカルバミラーゼ
の結晶は、用いる溶液の濃度およびpHを規定の範囲内
(デカルバミラーゼの濃度については、1〜50mg/
ml、ポリエチレングリコールまたはメトキシポリエチ
レングリコールの濃度については5〜30重量%、pH
については6.0〜9.0)に細心に調節しながら、ポ
リエチレングリコール(PEG)またはメトキシポリエ
チレングリコール(PEGMME)、緩衝剤および任意
の添加塩類を含有する沈澱剤溶液から成長させ得る。タ
ンパク質の結晶成長に一般的に用いられる三種類の基本
技術のいずれか、すなわち蒸気拡散法、透析法およびバ
ッチ法(Methods in Enzymolog
y、第114巻、Diffraction Metho
ds forBiologicalMacromole
culesPartAまたは第276巻 Macrom
olecular Crystallography
Part A)のいずれかを用い得るが、蒸気拡散法が
好ましい。
【0021】蒸気拡散法は、沈澱剤を含むタンパク質溶
液の液滴を、より高濃度の沈澱剤を含む緩衝液(外液)
の入った容器中に置き、密封後静置しておく方法であ
る。液滴の置き方によって、懸滴(hanging−d
rop)法およびシッティングドロップ(sittin
g drop)法がある。懸滴(ハンギングドロップ)
法は、タンパク質溶液の小さな液滴をカバーグラス上に
配置し、カバーグラスを溶液溜め(リザーバー)上で反
転させ、密封する。他方、シッティングドロップ法で
は、リザーバー内部にに適切な液滴台を設置し、タンパ
ク質溶液の小滴を液滴台上に配置し、カバーグラス等で
リザーバーを密封する。リザーバー中の溶液は沈澱剤を
含有し、沈澱剤はタンパク質小滴中にも少量存在する。
蒸気拡散法で使用する沈澱剤溶液は、以下の成分を含有
するように形成させる:(a)分子量4000〜900
0、好ましくは平均分子量7500と10〜20重量%
の濃度とを有するPEGまたはPEGMME、(b)添
加塩として0.1〜0.5Mの濃度を有する食塩、塩化
リチウム、塩化マグネシウム(最良の結果は0.2M塩
化リチウムによって得られる)、および(c)pH6.
5〜8.0、好ましくはpH7.5を与えるに十分な量
の緩衝剤。0.05〜0.1MのHEPES(Sigm
a、St Louis,MO,USA)がこの目的に使
用できる。リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびト
リス(ヒドロキシメチル)アミノメタンマレート等の他
の緩衝剤もまた用い得る。
【0022】「バッチ法」とは、タンパク質溶液に沈澱
剤溶液を少しずつ加え、わずかに濁ったところ不溶物を
遠心分離して除去後、上清を小さな試験管に入れて密封
した後に静置しておく方法をいう。また、「透析法」と
は、タンパク質溶液を沈澱剤の入った緩衝液(外液)に
対して、半透膜を用いて透析する方法をいう(Meth
ods in Enzymology、第114巻、D
iffractionMethods forBiol
ogicalMacromoleculesPart
A)。
【0023】本明細書において、「既定の大きさ」と
は、X線結晶構造解析で測定可能な最低限の大きさをい
い、本発明のデカルバミラーゼの場合、好ましくは0.
3×0.3×0.1mmであり得る。また、「既定の期
間」とは、結晶の大きさが既定の大きさ以上に達するの
に十分な期間をいい、本発明のデカルバミラーゼの場
合、好ましくは1日〜3週間であり得る。
【0024】上記のように調製したX線結晶構造解析に
適した既定の大きさを有する配列番号1のデカルバミラ
ーゼのネイティブ結晶は、(1)菱形板状の外形を有
し、そして(2)同一外形を有する結晶であっても、異
なる単位格子定数を有し得る。また、X線結晶構造解析
には適さないが、沈澱剤、緩衝液等の条件を適切に選択
することによって、針状あるいは柱状の外形を有する小
型あるいは微小結晶が得られる。このような結晶の用途
に関して酵素の微小結晶をグルタルアルデヒド等のタン
パク質架橋試薬によって架橋することによって、有機溶
媒を含む状態においても酵素反応を長期間安定に行うこ
とを可能とするCLEC(Cross−Linked
Enzyme Crystal)と呼ばれる技術が報告
されている(N.L.St.Clair & M.A.
Navia、(1992) J.Am.Chem.So
c.114,7314−7316)。本発明によって得
られるデカルバミラーゼの結晶は、CLEC技術の適用
範囲を拡大するものである。
【0025】本発明の1つの実施態様において、X線結
晶構造解析に有効な重原子誘導体結晶、すなわちネイテ
ィブ結晶の結晶性を保持しつつ、結晶中のタンパク質に
重金属原子が結合した結晶が提供される。重原子誘導体
結晶は、タンパク質のX線結晶構造解析の基本技術であ
る重原子同型置換法および多波長異常分散法を適用する
際に利用される。デカルバミラーゼの重原子誘導体結晶
は、ネイティブ結晶が溶解、崩壊せず少なくとも数日以
上安定に保存され得る、所要の濃度を与える重金属化合
物を含有させた溶液に結晶を浸漬する浸漬法により調製
し得る。浸漬法に使用される重金属化合物は、金、白
金、イリジウム、オスミウム、水銀、鉛、ウラン、サマ
リウムなどを含む金属塩あるいは有機金属化合物であ
る。重金属浸漬法では、0.1〜100mM濃度の重金
属化合物、例えば水銀化合物であるEMTS(エチル水
銀チオサリチル酸ナトリウム塩)、カリウムジシアノ金
(I)などを含有し、所望のpHを与える適切な沈澱剤
および添加塩組成を有する保存溶液が使用し得る。保存
溶液の好ましい例は、20〜30重量%ポリエチレング
リコール6000および0.2M塩化リチウムを含む
0.01M HEPES緩衝液(pH7.5)である。
重金属原子が結晶中に導入、すなわち結晶中のタンパク
質に結合しているかどうかの判定は、浸漬法により調製
した結晶のX線回折強度データを収集し、あらかじめ取
得しているネイティブ結晶の回折強度データと比較する
ことによって行い得る。
【0026】あるいは、デカルバミラーゼを生産する微
生物(例えば、アグロバクテリウム属のDNAを有する
組換えE.coliなど)を重金属原子であるセレンを
含有したセレノメチオニンあるいはセレノシステインを
含む培地で生育、培養することにより、デカルバミラー
ゼ中のメチオニンあるいはシステイン残基がセレノメチ
オニンあるいはセレノシステインに置換した変異体が取
得され得る。このように浸漬法を用いることなく重金属
原子をタンパク質中に導入したデカルバミラーゼが取得
されれば、上記条件等を用いた結晶化により重原子誘導
体結晶を調製し得る。
【0027】一般に、タンパク質の結晶は、X線により
かなり損傷を受けることが知られているので、X線結晶
構造解析を成功させるためには、損傷を受け難い結晶を
取得することが重要である。近年では、結晶を凍結さ
せ、凍結状態のままで回折データを測定することで高品
質、高分解能の回折データを取得する試みが行われてい
る(Methods in ENZYMOLOGY 第
276巻、Macromolecular Cryst
allography、Part A、C.W.Car
ter、Jr.およびR.M.Sweet編、[13]Pr
acticalCryocrystallograph
y(D.W.Rodgers))。一般に、タンパク質
結晶の凍結には、凍結による結晶の崩壊を防ぐ目的で、
グリセロールなどの凍結安定化剤を含む溶液で処理する
などの工夫がなされる。本発明においては、デカルバミ
ラーゼのネイティブ結晶および重原子誘導体の凍結結晶
は、凍結安定化剤を添加することなく、結晶化小滴ある
いは浸漬溶液中の結晶を取り出し、液体窒素に直接浸漬
して瞬時に凍結させることで調製し得る。凍結結晶はま
た、凍結安定化剤を添加した保存液に浸漬した結晶に対
して上記瞬時に凍結させる操作を行うことによっても調
製し得る。
【0028】類縁タンパク質の立体構造が未知であり、
その立体構造を利用した分子置換法による構造解析が不
可能なデカルバミラーゼなどの新規タンパク質の立体構
造決定においては、重原子同型置換法(Methods
in ENZYMOLOGY 第115巻、Diff
ractipn Methods for Biolo
gical Macromolecules、 Par
t B、H.W.Wyckoff、C.H.W.Hir
s、およびS.N.Timasheff編、ならびにM
ethods in ENZYMOLOGY 第276
巻、Macromolecular Crystall
ography、Part A、C.W.Carte
r、Jr.およびR.M.Sweet編)または多波長
異常分散法(S.N.Timasheff編、ならびに
Methods in ENZYMOLOGY 第27
6巻、Macromolecular Crystal
lography、Part A、C.W.Carte
r、Jr.およびR.M.Sweet編)が適用され得
る。すなわち、ネイティブ結晶および重原子誘導体結晶
の回折データ間の回折強度差、あるいは異なる波長で測
定した回折データ間の回折強度差から、電子密度を計算
するための初期位相を求めることにより立体構造を決定
し得る。重原子同型置換法または多波長異常分散法を適
用するデカルバミラーゼの立体構造決定においては、重
金属原子として例えば水銀、金、白金、ウラン、セレン
原子などを含有した重原子誘導体結晶を用い得る。好ま
しくは、水銀化合物EMTSまたはカリウムジシアノ金
(I)を利用した浸漬法により得られる重原子誘導体結
晶が用いられる。
【0029】ネイティブ結晶および重原子誘導体結晶の
回折データは、R−AXIS IIc(理学電機)ある
いはSPring−8(西播磨大型放射光施設)のタン
パク質結晶構造解析用ビームラインを用いて測定し得
る。多波長異常分散法を適用するための複数波長での回
折データ測定は、SPring−8のタンパク質結晶構
造解析用ビームラインを用いて実施し得る。測定した回
折画像データは、R−AXIS IIc付属のデータ処
理プログラムまたはプログラムDENZO(マックサイ
エンス)または同様な画像処理プログラム(または単結
晶解析用ソフトウェア)を用いて、反射強度データに処
理される。ネイティブ結晶の反射強度データ、複数波長
での重原子誘導体結晶の反射強度データ波長の測定によ
り得られた反射強度データから、差パターソン図を利用
して結晶中のタンパク質に結合した重金属原子の位置を
求めた後、プログラムPHASES(W.Furey、
University of Pennsylvani
aあるいはCCP4(British Biotech
nology & Biological Scien
ce Research Counsil、SERC)
または同様の回折データ解析プログラムを用いて重原子
位置パラメータを精密化することにより初期位相が決定
される。決定された初期位相は、プログラムDM(CC
P4パッケージ)または同様な位相改良プログラム(電
子密度改良プログラム)を用いた溶媒平滑化法およびヒ
ストグラムマッチング法に従って、デカルバミラーゼ結
晶中の溶媒領域を30〜50%、好ましくは35%とし
て、低分解能から高分解能まで徐々に位相拡張計算を行
うことにより信頼性の高い位相へと改良される。タンパ
ク質の結晶は、その体積の30〜60%がタンパク質以
外の溶媒分子(主として水分子)で占有されている。本
明細書において、溶液中の溶媒分子の占める体積を「溶
媒領域」とする。一般に、得られたタンパク質結晶が非
結晶学的な対称を有する場合には、非結晶学的対称(N
CS)平均化と呼ばれる電子密度の平均化を行うことに
より、さらに位相の信頼性を高めることが可能である。
デカルバミラーゼの結晶は、結晶の密度測定の結果から
非対称単位中に2分子が含まれることがわかっており、
結晶中のデカルバミラーゼ分子は非結晶学的な2回軸を
持つことが推定される。溶媒平滑化法を適用した後の位
相を用いて計算した電子密度図および精密化した重原子
座標から、並進および回転を含む非結晶学的対称マトリ
ックスが算出される。同時に溶媒平滑化法で得られた電
子密度図から、マスクと呼ばれるタンパク質の分子が存
在する領域を同定し得る。非結晶学的対称マトリックス
およびマスクを用いて、プログラムDMなどによりNC
S平均化計算を行うことにより、信頼性の高い位相に改
良され、立体構造モデルの構築に用いる電子密度図が得
られる。
【0030】デカルバミラーゼの立体構造モデルは、プ
ログラムオー(プログラムO)(A.Jones、Up
psala Universitet、スウェーデン)
により3次元グラフィックス上に表示した電子密度図か
ら、以下の手順で構築し得る。まず、特徴的なアミノ酸
配列を有する複数の領域(トリプトファン残基を含む部
分配列など)を電子密度図上で探し出す。次に、見出し
た領域を起点にしてアミノ酸配列を参照しながら、電子
密度に適合するアミノ酸残基の部分構造をプログラムO
を用いて3次元グラフィックス上で構築する。、順次こ
の作業を繰り返すことにより、デカルバミラーゼのすべ
てのアミノ酸残基を相当する電子密度に適合させ、分子
全体の初期立体構造モデルを構築する。構築された立体
構造モデルは、それを出発モデル構造として、構造精密
化プログラムであるXPLOR(A.T.Brunge
r、Yale University)の精密化プロト
コルに従って、立体構造を記述する三次元座標が精密化
される。また、デカルバミラーゼ(例えば、配列番号1
に示されるデカルバミラーゼ)のネイティブ結晶の立体
構造およびデカルバミラーゼ変異体(例えば、配列番号
2に示される配列を有するデカルバミラーゼ変異体)ネ
イティブ結晶の立体構造は、得られたEMTS誘導体結
晶の立体構造を用いた分子置換法により初期位相を求
め、前記の電子密度改良、モデル構築、構造精密化手順
に従うことにより各々の立体構造を決定し得る。このこ
とにより、本発明のデカルバミラーゼの立体構造の決定
が完成される。決定したデカルバミラーゼの立体構造に
ついて、タンパク質立体構造の公的データバンクである
プロテインデータバンク(PDB)に登録されている種
々のタンパク質(デカルバミラーゼと機能において類似
する酵素を含む)の立体構造との比較を行い得る。デカ
ルバミラーゼと同様の脱カルバミル化反応を触媒するN
−カルバミル−ザルコシン−アミドハイドラーゼの立体
構造が知られているが(プロテインデータバンクID、
1NBA)、デカルバミラーゼの立体構造は、この酵素
の立体構造との構造類似性は認められない。プロテイン
データバンクに立体構造が登録されているタンパク質の
中では、ペニシリンアシラーゼ(1PNK)、グルコサ
ミン−6−ホスフェイト合成酵素(1GDO)、グルタ
ミンホスフォリボシルピロホスフェイト アミドトラン
スフェラーゼ(1ECF)、およびプロテオソーム(1
PMA)などがその立体構造に含まれるドメインと呼ば
れる部分構造において、2層に積層したβシートの両側
にαヘリックス構造が密着した4層サンドイッチと呼ば
れる構造を有しており、デカルバミラーゼの立体構造と
の類似性が認められる。しかし、これらドメイン構造と
デカルバミラーゼの立体構造とでは、αヘリックスおよ
びβストランドの幾何学的な並び、いわゆるタンパク質
立体構造トポロジー(T.P.Floresら、(19
94)、Prot.Eng.7、31−37)が異なっ
ている。すなわち、デカルバミラーゼの立体構造は、β
シート構造内において平行βストランドを有することを
特徴とするものであり(図1)、4層サンドイッチ構造
を有するタンパク質としても、デカルバミラーゼは新規
の立体構造である。このように、「トポロジー」とは、
本明細書中において、タンパク質の二次構造単位の並び
または空間配置のことをいう。
【0031】本明細書において、「αヘリックス」と
は、タンパク質またはポリペプチドの二次構造の一つで
あり、アミノ酸が3.6残基ごとに1回転したピッチが
5.4の螺旋構造を有するエネルギー的に最も安定な構
造の1つをいう。αヘリックスを形成しやすいアミノ酸
としては、グルタミン酸、リジン、アラニン、およびロ
イシンなどが挙げられる。逆に、αヘリックスを形成し
にくいアミノ酸としては、バリン、イソロイシン、プロ
リン、およびグリシンなどが挙げられる。また、本明細
書において、「βシート」とは、タンパク質またはポリ
ペプチドの二次構造の一つであり、ジグザグに伸びたコ
ンホメーションを有する二本以上のポリペプチド鎖が平
行に並び、ペプチドのアミド基およびカルボニル基が、
それぞれ隣接するペプチド鎖のカルボニル基およびアミ
ド基との間に水素結合を形成することによりエネルギー
的に安定なシート状により合わさった構造をいう。な
お、「平行βシート」とは、βシートのうち、隣接する
ポリペプチド鎖のアミノ酸配列の並び方が同じ方向のも
のをいい、「逆平行βシート」とは、βシートのうち、
隣接するポリペプチド鎖のアミノ酸の並び方が逆方向の
ものをいう。さらに、本明細書において、「βストラン
ド」とは、βシートを形成するジグザグに伸びたコンフ
ォメーションを有する1本のペプチド鎖をいう。
【0032】デカルバミラーゼのカルボキシ末端約30
残基の領域(配列番号1または2のアミノ酸280位付
近〜カルボキシ末端303位)は、分子間相互作用によ
り二量体形成に関与していることが明らかとなった。ま
た、本研究に供したデカルバミラーゼ結晶中では、二量
体がさらに分子間相互作用により四量体を形成している
ことが明らかとなった。デカルバミラーゼの4層サンド
イッチ構造は、4本のαヘリックスおよび12本のβス
トランドの2次構造単位よりなる。表1においては、す
べての2次構造単位を示した。
【0033】
【表1】
【0034】以下、本発明のデカルバミラーゼの立体構
造の特徴についてまとめた。
【0035】(1)6本のβストランドからなるβシー
トが2層に積層し、その両側に各2本のαヘリックスが
密着した4層サンドイッチと呼ばれる構造を有する(図
1および図2)。図1において、アミノ末端から数えて
1,3,5、および6番目のαへリックス4本(それぞ
れ、α1、α3,α5、およびα6と称する)が密着し
ている。
【0036】(2)βシートは、6本の平行βストラン
ドから主として形成され、立体構造既知のタンパク質に
は見られない配向を有する(図1)。
【0037】(3)酵素反応を触媒するアミノ酸残基と
してシステイン1残基、グルタミン酸2残基、リジン1
残基、ヒスチジン1残基およびアルギニン2残基を含
む、立体構造既知の酵素にない基質結合様式を有する
(図3)活性部位を形成している(図4)。
【0038】(4)カルボキシ末端約30残基の領域
が、分子間相互作用により二量体構造を形成している。
【0039】なお、上記立体構造の具体的な座標データ
に関しては、プロテインデータバンク(PDB、Pro
tein Data Bank、The Resear
chCollaboratory For Struc
tual Bioinformatics(RCSB)
が運営)にCompound:N−Carbamyl−
D−Amino Acid Amidohydrola
se、Exp.Method:X−ray Diffr
actionとして登録予定であり、本明細書中でこの
データを援用する。
【0040】本発明のデカルバミラーゼの立体構造決定
が完成することによって、酵素の触媒活性に関与する残
基を推定し得、さらに酵素単独の立体構造だけでなく、
酵素に基質(例えば、D−N−カルバモイル−ヒドロキ
シフェニルグリシン)を結合させた複合体の立体構造モ
デルを分子モデリングの手法(Swiss−PDBVi
ewer(前出)、Autodock(Oxford
Molecular)、Guex、N.およびPeit
sch,M.C.(1997) SWISS−MODE
L and the Swiss−PDBViewe
r:An environment for comp
arative protein modeling、
Electrophoresis 18、2714−2
723;Morris,G.Mら、J.Computa
tional Chemistry、19:1639−
1662、1998;Morris,G.M.ら、J.
Computaer−Aided Molecular
Design、10、294−304、1996;G
oodsell、D.S.ら、J.Mol.Recog
nition、9:1−5、1996)により容易に構
築し得る。本立体構造および立体構造モデルから、活性
部位に存在し、触媒反応群のアミノ酸残基に関する構造
および活性部位における反応機構に関する知見を入手し
得る。デカルバミラーゼの活性部位は、Glu46、L
ys126、His143、Glu145、Cys17
1、Arg174およびArg175のアミノ酸残基を
含む腔(窪み)から形成されている(図4)。アミダー
ゼ、ニトリラーゼなど、デカルバミラーゼと弱い配列類
似性を有する酵素とのアミノ酸配列比較により見出され
る保存されたアミノ酸残基の解析から、Glu46、L
ys126、Glu145、Cys171が触媒反応に
強く関与していることが示唆される。特にCys171
は、酵素反応の中間体であるアシル中間体を形成するの
に必須な触媒残基と推定され(図3)、デカルバミラー
ゼがシステインヒドラーゼであることを示している。本
知見は、Cys171のSer171への変異で触媒活
性が失われる実験事実にも一致している(R.Grif
antiniら、(1996)、J.Biol.Che
m.271,9326−9331)。Arg174およ
びArg175の役割は、基質であるD−N−α−カル
バミルアミノ酸のカルボキシル基を静電相互作用によっ
て、安定化することに寄与していると考えられる。
【0041】これら立体構造より得られた知見に基づい
て、デカルバミラーゼの安定性向上または酵素活性の向
上を目的とした改変設計を行い得る。本明細書におい
て、酵素の「安定性」とは、通常の生体環境よりも高い
温度(例えば70℃)で酵素を変性させた後でも、酵素
活性が熱変性前と比較して、少なくとも10%、好まし
くは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50
%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましく
は少なくとも90%残存していることをいう。安定性の
向上は、例えば、ΔTm(変性温度の差分)で測定し得
る。本明細書において「酵素活性」とは、デカルバミラ
ーゼについて言及する場合、D−N−カルバモイル−α
−アミノ酸を対応するD−α−アミノ酸に変換する活性
をいう。
【0042】本明細書において、変異体分子の「設計方
法」または「分子設計手法」とは、変異前のタンパク質
またはポリペプチド分子(例えば、天然型分子)のアミ
ノ酸配列および立体構造を解析することによって、各ア
ミノ酸がどのような特性(例えば、触媒活性、他の分子
との相互作用など)を担うかを予測し、所望の特性の改
変(例えば、触媒活性の向上、タンパク質の安定性の向
上など)をもたらすために適切なアミノ酸変異を算出す
ることをいう。この設計方法は、好ましくはコンピュー
ターを用いて行われる。このような設計方法で用いられ
るコンピュータープログラムの例としては、本明細書に
おいて言及されるように、以下が挙げられる:構造を解
析するプログラムとして、X線回折データの処理プログ
ラムであるDENZO(マックサイエンス);位相を決
定するための処理プログラムとして、PHASES(U
niv.of Pennsylvania、PA、US
A);初期位相の改良のためのプログラムとして、プロ
グラムDM(CCP4パッケージ、SERC);3次元
グラフィックスを得るためのプログラムとしてプログラ
ムO(Uppsala Universitet、Up
psala、スウェーデン);立体構造精密化プログラ
ムとして、XPLOR(Yale Universit
y、CT、USA);そして、変異導入モデリングのた
めのプログラムとして、Swiss−PDBViewe
r(前出)。
【0043】本明細書中において、変異体の設計に利用
されるアミノ酸変異としては、アミノ酸の置換のほか
に、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた挙げられ
る。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、
例えば、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ま
しくは1〜5個のアミノ酸で置換することをいう。アミ
ノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例え
ば、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましく
は1〜5個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸
の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1
〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜
5個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾
は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、
アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル
化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定
されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然の
アミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはア
ミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0044】用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミ
ノ酸のL-異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリ
シン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セ
リン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チ
ロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒス
チジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン
酸、グルタミン、γ-カルボキシグルタミン酸、アルギ
ニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されな
い限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。
【0045】用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質
中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非
天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロ
フェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フル
オロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロ
ピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−
フェニルアラニンが挙げられる。
【0046】「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸では
ないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する
分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチ
オニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げ
られる。
【0047】本発明のさらなる実施態様において、デカ
ルバミラーゼの変異体はまた、アンモニウム塩(アルキ
ルまたはアリールアンモニウム塩を含む)、硫酸塩、硫
酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、
チオ硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、安息香酸塩、スルホン
酸塩、チオスルホン酸塩、メシレート(メチルスルホン
酸)塩、エチルスルホン酸塩、およびベンゼンスルホン
酸塩のようなペプチドの塩の形態を取り得る。
【0048】以下、変異体を生成するためのタンパク質
のアミノ酸の変異について議論する。アミノ酸の置換な
どを実施する方法は、化学合成、または遺伝子工学を利
用する技術においてアミノ酸をコードするDNA配列の
コドンを変化させることを含むが、これらに限定されな
い。
【0049】あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明ら
かな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域ま
たは基質分子の結合部位のようなタンパク質構造におい
て他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物
学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力お
よび性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミ
ノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベ
ルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持
するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の
明らかな損失なしに、種々の改変が、開示されたペプチ
ドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにお
いて行われ得る。
【0050】上記のような改変を設計する際に、アミノ
酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相
互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指
数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Ky
te.JおよびDoolittle,R.F.J.Mo
l.Biol. 157(1):105−132,19
82)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質
の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子
(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗
原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それ
らの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り
当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バ
リン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルア
ラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.
5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.
8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.
7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.
9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);
ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);
グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.
5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.
9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0051】あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有す
る他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様
の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性
おいて等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分
野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎
水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内で
あることがより好ましく、および±0.5以内であるこ
とがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなア
ミノ酸の置換は効率的であることことが当該分野におい
て理解される。米国特許第4、554、101号に記載
されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り
当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+
3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミ
ン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラ
ギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン
(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5
±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.
5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.
3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イ
ソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェ
ニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−
3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然
として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得
ることが理解される。このようなアミノ酸置換におい
て、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1
以内であることがより好ましく、および±0.5以内で
あることがさらにより好ましい。
【0052】本発明において、「保存的置換」とは、ア
ミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ
酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のよ
うに類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業
者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:
アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラ
ギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびア
スパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロ
イシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】酵素の比活性向上および反応の至適pHの
最適化を目指した分子設計においては、立体構造から得
られた触媒反応機構に関する情報は極めて有用である。
本発明においては、デカルバミラーゼのCys171の
側鎖スルフィド(SH)基のpKaを変化させることに
よって、比活性および至適pHの変化を伴うアミノ酸変
異を設計し得る。具体的には、タンパク質の静電ポテン
シャル計算(高橋ら、(1992)、Biopolym
ers 32,897−909)により、SH基のpK
aに対するアミノ酸変異の効果を見積もることができ、
適切なアミノ酸変異を設計し得る。例えば、Cys17
1の硫黄原子近傍の静電場をより正の電場にし、Cys
171のチオール基(SH)の解離を促進させ、かつG
lu46および/またはGlu145の側鎖カルボキシ
基近傍の静電場にはあまり影響しない変異が望ましい。
【0054】本発明のデカルバミラーゼの立体構造か
ら、デカルバミラーゼ中に存在する5つのシステイン残
基は、触媒活性および空気酸化に対する耐性等の機能、
物性に関与していることが推定される。デカルバミラー
ゼのシステイン残基の役割については、上記菌株(Ag
robacterium sp.KNK712(カネカ
菌))由来のデカルバミラーゼと比較して、高い配列相
同性を有する、異なる菌株(Agrobacteriu
m radiobacter NRRL B1129
1)由来のデカルバミラーゼについて、アミノ酸変異な
らびに変性剤およびCys修飾試薬の組合せによる研究
がなされている(R.Grifantiniら、(19
96)、J.Biol.Chem.271,9326−
9331)。この研究では、5残基のシステインはいず
れもジスルフィド結合の形成には関与しないこと、Cy
s171に対応するA. radiobacter N
RRLB11291由来のデカルバミラーゼのCys1
72のSerへの置換で触媒活性が失われるが、それ以
外のシステインの変異では触媒活性に影響がないことか
ら、Cys171が触媒活性に必須であることが推定さ
れている。これは、他の類縁酵素においても、対応する
システイン残基が保存されていることからも強く示唆さ
れる。本明細書中において、「対応する」アミノ酸と
は、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子におい
て、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドに
おける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または
有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子
にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性
に同様の寄与をするアミノ酸をいう。
【0055】配列番号1および2のアミノ酸配列を有す
るデカルバミラーゼでは、また、Cys192およびC
ys249は化学修飾を受け難く、分子内に埋もれてい
ることが、そしてCys242およびCys278は容
易に化学修飾を受け、分子表面のループ構造部分に位置
していることが推定されている。配列番号1のCys2
42およびCys278に対応する、A. radio
bacter NRRL B11291の2残基(それ
ぞれ、Cys243およびCys279)のシステイン
をアラニンに置換することで安定性を向上した変異体が
取得されている(特開平8−84584号公報)。上記
のように、Cys242およびCys278について
は、立体構造から分子表面に存在することが確認され、
これらCys残基がデカルバミラーゼの空気酸化に対す
る耐性に関与していることが示唆される。分子内に埋も
れたCys192およびCys249については、空気
酸化に対する耐性向上への寄与は大きくないと推定され
るが、側鎖体積あるいは分子内空孔を補完するように、
より嵩高い疎水性アミノ酸残基に置換した変異体を作製
することにより、熱または有機溶剤に対する安定性の向
上したデカルバミラーゼが創製され得る。
【0056】デカルバミラーゼの空気酸化による酵素活
性の低下および保存安定性には、システイン残基だけで
なくメチオニン残基の関与も考えられ得る。本発明のデ
カルバミラーゼの立体構造から、デカルバミラーゼ中に
ある9つのメチオニン残基のうち、完全に分子内部に埋
もれたものが5残基存在する一方で、完全に分子外部に
露出したものが2残基(Met238およびMet24
3)ターン構造部分に存在し、この2残基はデカルバミ
ラーゼの空気酸化に対する耐性に大きく関わっているこ
とが推定される。本明細書において「ターン」構造また
は「βターン」構造とは、タンパク質の立体構造におい
て、二次構造の間で、ペプチド主鎖の進み方向を大きく
変化させる3つ以上のアミノ酸残基からなる局所構造を
いう。また、Met4およびMet72は、分子表面近
傍に存在し、ほとんど分子内部に埋もれているが溶媒分
子等ものの容易に接触し得る部位にあるため、これらも
デカルバミラーゼの空気酸化に対する耐性に関与してい
る可能性がある。これら構造的知見から、デカルバミラ
ーゼの空気酸化に対する耐性向上が期待される別のアミ
ノ酸置換を設計し得る。すなわち、Met4およびMe
t72を、側鎖体積あるいは分子内空孔を補完し、かつ
空気酸化を受けない疎水性アミノ酸残基に置換した変異
体を作製することにより耐性向上を達成し得る。Met
238およびMet243は、完全に分子外部に露出し
ていることから、好ましくはこれら残基を空気酸化を受
けない中性あるいは親水性アミノ酸に置換することによ
り耐性の向上を達成し得る。さらに、デカルバミラーゼ
のアミノ酸Met238からMet243までの領域に
より構成されるターン構造部分には、空気酸化に弱いC
ys242も含まれることから、これら3残基を適切な
アミノ酸に置換した3重変異体を作製、あるいは3残基
を含むターン構造を欠失した変異体を作製することによ
って、空気酸化に対する耐性を向上し得る。また、これ
ら残基を含むターン構造の配列を他のタンパク質のβタ
ーン構造と入れ替えることによっても、空気酸化に対す
る耐性を向上し得る。システインおよびメチオニンの変
異体設計においては、これら残基を他のアミノ酸にコン
ピューター上で変異させ、変異体の安定性について構造
エネルギーを解析することにより、最適なアミノ酸を選
択し得る。
【0057】システイン残基およびメチオニン残基以外
にも、タンパク質分子内の空孔(例えば、デカルバミラ
ーゼのアミノ酸Asn92の近傍に形成される空孔)を
補填するアミノ酸変異、エネルギー的に不利なコンフォ
メーションを有するアミノ酸(例えば、デカルバミラー
ゼのアミノ酸Pro203およびVal236)の変
異、およびαヘリックス構造の安定化など、一般的に知
られているタンパク質の安定化要因に着目した設計も行
い得る。
【0058】前記アミノ酸変異による改変設計と異なる
設計戦略として、デカルバミラーゼの酵素活性に関与し
ないと推定される領域を欠失させ、デカルバミラーゼを
より低分子量の酵素へと改変することにより安定性を向
上させ得る。例えば、活性部位から離れた位置にあるル
ープ状構造領域の一部または全部を欠失させることによ
り、より緻密なデカルバミラーゼへと改変し得る。ま
た、デカルバミラーゼのカルボキシ末端から約30残基
の領域は、二量体形成に関与していることが本発明者ら
により推定された。デカルバミラーゼは、一般的な緩衝
液中において触媒能を示す場合は、二量体あるいは四量
体として存在すると推定される。他方、タンパク質の変
性状態からの巻き戻り過程からは、単量体タンパク質の
方が有利であると推定される。カルボキシ末端約30残
基の領域の一部または全部を欠失することにより、二量
体形成を阻害し、安定な単量体を調製し得る。工業的に
は、デカルバミラーゼは担体に固定化したいわゆる固定
化酵素として利用されるが、この場合も単量体の方が、
より効率的な固定化を達成し得る。
【0059】本発明におけるデカルバミラーゼ変異体
は、上記の方法以外にも、多くの方法により設計または
調製され得る。例えば、デカルバミラーゼ活性を有する
酵素の配列は、本発明を用いて変異に望ましいと同定さ
れた部位において、オリゴヌクレオチド特異的変異誘発
または他の従来の技術(例えば、欠失)手段により変異
され得る。あるいは、デカルバミラーゼの変異体は、特
定のアミノ酸の、天然に存在しないアミノ酸での部位特
異的置換により作製され得る。例えば、デカルバミラー
ゼ変異体は、特定のシステインまたはメチオニン残基
の、セレノシステインまたはセレノメチオニンとの置換
により作製され得る。これは、天然システインまたはメ
チオニンのいずれか(あるいは両方)を涸渇させ、かつ
セレノシステインまたはセレノメチオニン(あるいは両
方)を富化した増殖培地上で、野生型ポリペプチドまた
は変異体ポリペプチドのいずれかを発現し得る宿主生物
を増殖させることにより達成され得る。相同組換え法を
用いる場合、合成オリゴヌクレオチドを用いて、デカル
バミラーゼをコードするDNA配列中に変異が導入され
得る。これらのオリゴヌクレオチドは所望の変異部位に
隣接するヌクレオチド配列を含む。変異は、デカルバミ
ラーゼの完全長DNA配列、あるいはそのフラグメント
ポリペプチドをコードする任意の配列中に作製され得
る。
【0060】本発明に従って、上記方法または当該分野
で公知の代替方法により産生される変異デカルバミラー
ゼDNA配列は、発現ベクターを用いて発現され得る。
当該分野で周知であるように、発現ベクターは、典型的
には宿主ゲノムから独立した宿主細胞中での自己複製を
可能にするエレメント、および選択目的のための1つ以
上の表現型マーカーを含む。所望のデカルバミラーゼ変
異体コード配列を囲むDNA配列の挿入の前または後
に、発現ベクターはまた、プロモーター、オペレータ
ー、リボソーム結合部位、翻訳開始シグナル、および必
要に応じてリプレッサー遺伝子または種々のアクチベー
ター遺伝子ならびに終止シグナルをコードする制御配列
を含む。いくつかの実施態様において、産生された変異
体の分泌が所望される場合、「シグナル配列」をコード
するヌクレオチドがデカルバミラーゼ変異体コード配列
の前に挿入され得る。制御配列の制御下での発現のため
には、所望のDNA配列は、制御配列に作動可能に連結
されなければならない。すなわち、制御配列の制御下に
あるデカルバミラーゼ変異体をコードする配列は、この
配列の発現産物の産生を可能にするために、適切なリー
ディングフレームを維持するように開始シグナル(すな
わちATG)を有さなければならない。
【0061】広範な周知の利用可能な発現ベクターは、
いずれも本発明の変異されたデカルバミラーゼコード配
列を発現するのに有用である。これらは、公知の細菌プ
ラスミド(例えば、 pBR322)、より広い宿主域
のプラスミド(例えば、RP4、ファージDNA)、2
μプラスミドまたはそれらの誘導体のような酵母プラス
ミドならびにプラスミドおよびファージDNAの組合わ
せから得られるベクターのような、染色体DNA配列、
非染色体DNA配列および合成DNA配列のセグメント
からなるベクターを包含する。
【0062】さらに、DNA配列に作動可能に連結した
場合、その発現を制御する、任意の広範な発現制御配列
が、本発明による変異されたDNA配列を発現するため
にこれらのベクター中で使用される。このような有用な
発現制御配列としては、例えば、ウイルスの遺伝子発現
を制御することが公知である他の配列およびこれらの組
み合わせが挙げられる。
【0063】広範な種の宿主がまた、本発明によるデカ
ルバミラーゼ変異体の産生に有用である。これらの宿主
として、例えば、E.coli、Bacillusおよ
びStreptomycesのような細菌、酵母のよう
な真菌、CHO細胞のような動物細胞、植物細胞および
トランスジェニック宿主細胞が挙げられる。
【0064】すべての発現ベクターおよび発現系が、本
発明の変異DNA配列を発現し、そしてデカルバミラー
ゼ変異体を産生するのに、同じ様式で機能するとは限ら
ないことが理解されるべきである。全ての宿主が同一の
発現系を用いて等しく良好に機能するわけではない。し
かし、当業者は、過度な実験を行うことなくそして本発
明の範囲を逸脱することなく、適切なベクター、発現制
御配列および宿主を選択し得る。
【0065】例えば、選択の際は、そのベクターの複製
能力が考慮されねばならない。発現制御配列の選択の
際、種々の要因がまた考慮されるべきである。これら
は、例えば、系の相対的強度、その制御能力、本発明の
デカルバミラーゼ変異体をコードするDNA配列との適
合性、特に潜在的二次構造に関する適合性がまた考慮さ
れるべきである。宿主は、選択されたベクターとの適合
性、宿主に対するデカルバミラーゼ変異体の毒性、成熟
産物を分泌する能力、タンパク質を適切に折り畳む能力
および適切な高次構造を形成する能力、発酵要求性、宿
主からのデカルバミラーゼ変異体の精製の容易さおよび
安全性の考察により選択されるべきである。これらのパ
ラメーター内で、当業者は有用な量の変異デカルバミラ
ーゼを産生し得る、種々のベクター/発現制御系/宿主
の組合わせを選択し得る。
【0066】これらの系または他の系で産生されるデカ
ルバミラーゼ変異体は、デカルバミラーゼ活性を有する
天然の酵素を精製するために使用される工程を含む種々
の従来の工程により、精製され得る。
【0067】一旦、デカルバミラーゼへの変異が所望の
位置(例えば、活性部位、安定性に関する部位、または
結合部位など)で作製されると、得られた変異体は、目
的のいくつかの特性のいずれかについて試験され得る。
【0068】例えば、変異体は、生理学的pHにおける
荷電の変化についてスクリーニングされ得る。これは変
異前のデカルバミラーゼの等電点(pI)と比較したデ
カルバミラーゼ変異体の等電点を測定することにより決
定される。等電点は、Wellner, D.、Ana
lyt. Chem.、43、597頁 (1971)
の方法によるゲル電気泳動により測定される。表面荷電
が変化した変異体は、本発明の構造情報により提供され
るように、酵素の表面に位置する置換アミノ酸によって
変化したpIを有するデカルバミラーゼタンパク質であ
る。
【0069】さらに、変異体は、変異前のデカルバミラ
ーゼと比較して高い比活性についてスクリーニングされ
得る。変異体の活性は、例えば、本明細書中に記載のア
ッセイ(下記の実施例7を参照のこと)を用いて、 D
−N−カルバモイル−α−アミノ酸のD−α−アミノ酸
類への変換能力を測定することにより決定される。
【0070】本発明のデカルバミラーゼ変異体を利用し
て製造されたD−α−アミノ酸類は、医薬中間体(例え
ば、D−フェニルグリシンおよびD−パラヒドロキシフ
ェニルグリシン)として、医薬(例えば、合成ペニシリ
ンおよび合成セファロスポリン)の製造に利用し得る。
このように製造した医薬を含有する薬学的組成物もま
た、本発明に従って提供され得る。薬学的組成物は、賦
形剤、安定剤、キャリアなどを含む薬学的に受容可能な
任意の補助成分を含有し得る。
【0071】本発明のデカルバミラーゼ変異体を利用し
て製造されたD−α−アミノ酸類を農薬中間体(例え
ば、D−バリン)として、農薬(例えば、フルバリネー
ト)の製造に利用し得る。このように製造した農薬を含
有する農薬組成物もまた本発明に従って提供され得る。
本明細書中において、農学組成物は、賦形剤、安定剤、
キャリアなどの農学的に受容可能な任意の補助成分を含
有し得る。
【0072】本発明のデカルバミラーゼ変異体を利用し
て製造されたD−α−アミノ酸類を食品添加物の中間体
(例えば、D−アラニンおよびD−アスパラギン酸)と
して、食品添加物(例えば、アリテーム)の製造に利用
し得る。
【0073】本発明のさらに他の実施態様において、デ
カルバミラーゼ変異体またはそれに類似する酵素のイン
ヒビターが設計され、そして製造され得る。インヒビタ
ーは、デカルバミラーゼの構造情報を利用して設計され
得る。当業者は、例えば、Segel,I.H.、En
zyme Kinetics、J.Wiley &So
ns、(1975)による標準式を用いるコンピュータ
ー適合酵素反応速度論データにより、インヒビターが競
合的、不競合的、または非競合的であることを同定し得
る。さらに、デカルバミラーゼまたはその類似酵素の反
応中間体(例えば、基質または反応生成物との複合体の
立体構造)の情報を用いて、インヒビターを設計するこ
とが可能である。このような情報は、公知のデカルバミ
ラーゼまたはその類似酵素インヒビターとして公知の化
合物の改良アナログの設計、および新規クラスのインヒ
ビターの設計に有用である。
【0074】本発明のさらに別の実施態様において、本
発明のデカルバミラーゼの立体構造を利用して、デカル
バミラーゼのアミノ酸配列に類似するポリペプチド酵素
またはタンパク質酵素(例えば、アミダーゼまたはニト
リラーゼ)を改変し得る。改変は、上記の変異体の設計
と同様の指針に従って行われ得る。ここで、「類似す
る」ポリペプチド酵素またはタンパク質酵素は、好まし
くは、そのアミノ酸配列が、配列番号1または2に示さ
れるデカルバミラーゼのアミノ酸配列と、全長アミノ酸
配列について、代表的には少なくとも30%、好ましく
は、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも8
0%同一であり、特にデカルバミラーゼの活性部位を規
定する領域(配列番号1または2のアミノ酸Glu4
6、Lys126、Glu145、およびCys171
を含む、アミノ酸番号38〜49,108〜127,1
43〜148および164〜177の範囲)内のアミノ
酸について、代表的には、少なくとも60%、好ましく
は少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好
ましくは95%同一である。
【0075】ある酵素についての特性を、類似する酵素
の立体構造を用いて変換した例には、エクスパンダーゼ
(Expandase)と称する酵素の基質特異性変換
に類似構造を有するイソペニシリン合成酵素の立体構造
を利用した研究がある。国際公開WO97/02005
号パンフレットを参照のこと。この文献においては、立
体構造がすでに決定されたイソペニシリン合成酵素(R
oach(1995)、Nature、375、700
〜704頁)と一次構造(アミノ酸配列)に類似性があ
り、その立体構造が類似することが示唆されていたエク
スパンダーゼの基質認識に関与するアミノ酸残基を両方
の酵素の配列比較によって同定し、それらのアミノ酸残
基の変異によってエクスパンダーゼの基質特異性を変換
してペニシリンGに作用する変異酵素を作製することに
成功している。
【0076】アミノ酸配列の同一性の比較は、例えば、
以下の配列分析用ツールを用いて算出し得る:FAST
A(W.R.PearsonおよびD.J.Lipma
n、PNAS85、2444−2448(198
8));BLAST(S.F.Altschul、T.
L.Madden、A.A.Schaffer、J,−
H.、Zhang、Z.Zhang、W.Mille
r、およびD.J.Lipman(1997)Nuc
l.Acids.Res.25:3389−3402
(1997));UnixベースのGCGWiscon
sinPackage(ProgramManualf
ortheWisconsinPackage、Ver
sion8、1994年9月、GeneticsCom
puterGroup、575ScienceDriv
eMadison、Wisconsin、USA537
11;Rice、P.(1996)ProgramMa
nualforEGCGPackage、PeterR
ice、TheSangerCentre、Hinxt
onHall、Cambridge、CB101RQ、
England)およびtheExPASyWorld
WideWeb分子生物学用サーバー(GenevaU
niversityHospitalandUnive
rsityofGeneva、Geneva、Swit
zerland)およびMacVector 6.0
(帝人システムテクノロジー)。
【0077】本発明に従って、上記方法を利用して得ら
れた、デカルバミラーゼのアミノ酸配列に類似するポリ
ペプチド酵素またはタンパク質酵素の変異体が提供され
得る。これらの酵素の変異体は、その野生型酵素に代え
て、例えばバイオリアクターなどで、使用され得る。
【0078】本発明に従って、デカルバミラーゼなどの
上記分子の立体構造の3次元座標データおよび/または
分子設計手法および/または改変方法のプログラムを記
録した電磁気記憶媒体もまた提供され得る。電磁気媒体
としては、例えば、磁気テープ、磁気ディスク、光磁気
ディスク、光ディスク媒体などが挙げられる。
【0079】以下の実施例にて、本発明をさらに詳細に
説明するが、これらは本発明の例示の目的で提供される
ものであり、なんら本発明を限定するものではない。
【0080】
【実施例】以下の実施例で使用した試薬類は、言及した
場合を除き、ナカライテスク、和光純薬、またはSIG
MA(St Louis、MO、USA)から入手し
た。
【0081】(実施例1)デカルバミラーゼのネイティ
ブ結晶の調製 公知の方法(H.Nanbaら、Biosci.Bio
technol.Biochem.62、875−88
1(1998)を参照のこと)により得られたデカルバ
ミラーゼを10〜20mg/mlの濃度に調製したデカ
ルバミラーゼ溶液(0.001M HEPES緩衝液、
pH7.5)10μlおよび沈澱剤として15〜20重
量%ポリエチレングリコール6000(ナカライテスク
社製)、0.2M塩化リチウムを含む0.1M HEP
ES緩衝液、pH7.5(シグマ社製)10μlを液滴
台上で混合し、前記沈澱剤組成をもつ溶液300μlを
リザーバー溶液として密封した後、蒸気拡散法により2
0〜25℃で結晶化を行った。結晶化開始後、約2日か
ら二週間程度で0.3×0.3×0.1mm〜0.6×
0.6×0.3mmの寸法にまで結晶が成長した。
【0082】(実施例2)デカルバミラーゼの重原子誘
導体結晶の調製 実施例1で得られたネイティブ結晶を顕微鏡下、液滴台
上の小滴より取り出し、水銀化合物の一つであるEMT
S(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム塩)濃度を
0.5〜1.0mMに調製した20重量%ポリエチレン
グリコール6000(ナカライテスク製)、0.2M塩
化リチウムを含む0.1M HEPES緩衝液(pH
7.5)に終夜浸漬させることにより重原子誘導体を調
製した。
【0083】(実施例3)デカルバミラーゼ結晶の凍結 実施例1および2で調製したデカルバミラーゼのネイテ
ィブ結晶および重原子誘導体結晶を、グリセロール等の
凍結安定化剤を添加することなく、結晶化液滴から取り
出し、直接液体窒素に浸漬して瞬間凍結した。
【0084】(実施例4)デカルバミラーゼ結晶のX線
回折データの収集 多波長異常分散法による解析を行うため、放射光施設S
Pring−8で回折データ測定を行った。測定には、
液体窒素中で凍結したEMTS誘導体結晶を用いて行っ
た。測定は、水銀の異常分散を考慮した3波長(0.9
8、1.00、1.27Å)で行った。3波長の回折デ
ータはすべて1個の結晶から収集することできた。測定
した53フレーム分の回折画像データをデータ処理プロ
グラムDENZO(McScience)にて処理した
結果を表2に示した。デカルバミラーゼのネイティブ結
晶については、1.00Å波長を用いて凍結状態で回折
データ測定を行い、その処理結果を表3に示した。な
お、独立反射数、単位格子定数または格子定数などの用
語についてはX線解析入門(角戸正夫ら、東京化学同
人)を参照のこと。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】(実施例5)重原子座標の決定および位相
改良 EMTS誘導体結晶について測定した3波長の回折デー
タのうち1.00Åのデータをネイティブ結晶のデータ
と仮定して0.98Åをアノマラス(anomalou
s)、1.27Åをアイソモルファス(isomorp
hous)データとして、差パターソン関数およびアノ
マラス差パターソン関数を計算し、そのハーカー面(差
パターソン図と呼ばれる。図5〜図7)を描き、ハーカ
ー面上の強度の強いピーク位置とそのクロスベクトルに
相当する顕著なピーク位置から重原子位置の同定を試み
た。各のハーカー面で強度の強いパターソンピークを2
つの差パターソン図(1.00−0.98Åのデータ間
および1.00−1.27Åのデータ間)から選び出
し、2つの水銀原子(水銀1および水銀2)を同定し、
その座標を求めた。確認は、まず、水銀1のみの座標を
用いて位相を計算し、その位相を使って差フーリエ計算
から水銀2の座標を計算し、水銀2の自己ピークおよび
水銀1−水銀2の交差ピークが差パターソン図に存在す
るかどうかで判定することにより行った。これら以外に
結合した水銀原子の位置を見いだすために、水銀1およ
び2の座標を用いて重原子位置パラメータの精密化およ
び位相計算を行い、差フーリエ計算によりその位置を求
め、水銀2を同定した場合と同様に自己ピークおよび交
差ピークの確認を行った。その結果、さらに4個の水銀
原子に相当する自己ピークおよび交差ピークを確認する
ことができ、水銀3、水銀4、水銀5および水銀6の座
標を決定した。
【0088】波長1.00Åで測定した1.8Å分解能
のEMTS誘導体結晶のデータを用いて、求めた6個の
水銀原子座標(重原子パラメータ)をプログラムMLP
HARE(CCP4パッケージ)(SERC)を用いて
精密化し、初期位相を決定した。精密化後のフィギャー
・オブ・メリット(figure of merit)
の平均値は0.50であった。その後、プログラムDM
(CCP4パッケージ、SERC)を用いた溶媒平滑化
法およびヒストグラムマッチング法をデカルバミラーゼ
結晶中の溶媒領域を35%として低分解能から高分解能
まで徐々に位相を拡張することで初期位相の改良を行っ
た。また、デカルバミラーゼの結晶は、結晶の密度測定
の結果から非対称単位中に2分子が含まれることがわか
っており、非結晶学的な対称を利用して、NCS平均化
と呼ばれる電子密度の平均化を行うことにより位相改良
を行った。まず、この方法を適用するために、デカルバ
ミラーゼ結晶中の非結晶学的な2回軸の決定を行った。
溶媒平滑化法を適用した後の位相を用いて電子密度図を
計算し、3次元グラフィックス上で重原子位置および電
子密度図を表示し、水銀原子の座標間の中点同士を結ん
だ2本の線がZ軸(結晶学的な2回軸の1つ)上で直行
していることがわかった。したがってデカルバミラーゼ
分子は、この2本の非結晶学的な2回軸および結晶学的
な2回軸の計3本が(222)の対称を持っていると推
定された。電子密度図の各セクションを詳細に観察し、
それぞれ2分子の中心座標を決定し、並進および回転を
含む非結晶学的対称マトリックスを算出した。同時に溶
媒平滑化法で得られた電子密度図からマスクと呼ばれる
タンパク質の分子が存在する領域を同定した。求めた非
結晶学的対称マトリックスおよびマスクを用いて、プロ
グラムDMを用いてNCS平均化計算を行った。その結
果、2分子間の相関係数は、0.92と高い相関を示
し、自由R因子(free R−factor)は2
4.5%であった。改良された電子密度図は極めて明瞭
(例えば、図8を参照のこと。図8において、ペプチド
主鎖のつながりが連続した電子密度として観察され、図
中央には46位のGlu、171位のCys、および1
45位のGluと同定されるアミノ酸側鎖に対応する電
子密度が観察される。)で、αヘリックスまたはβシー
トなどの二次構造部分はアミノ酸の主鎖の流れを明確に
追うことができ、また芳香族アミノ酸側鎖などの電子密
度も明瞭であった。
【0089】(実施例6)デカルバミラーゼの立体構造
モデルの構築および精密化 実施例5で得られた電子密度図からプログラムオー
(O)(UppsalaUniversitet)を用
いて、3次元グラフィックス上でデカルバミラーゼの立
体構造モデルを組み立てた。電子密度をアミノ酸配列に
対応させるため、まず、トリプトファン残基など特徴的
な電子密度を有する部分アミノ酸配列に相当する電子密
度を電子密度図上で見出し、アミノ酸配列を参照しなが
ら電子密度に適合するアミノ酸残基の部分構造をプログ
ラムOを用いて構築し、順次この作業を繰り返すことに
より、デカルバミラーゼのすべてのアミノ酸残基(30
3残基)を相当する電子密度に適合させ、分子全体の初
期立体構造モデルを構築した。得られた立体構造モデル
を出発モデル構造として、立体構造精密化プログラムで
あるXPLORの精密化プロトコル(XPLORマニュ
アル、Yale University)に従って立体
構造の精密化を行った。精密化は、電子密度図からのず
れの大きい局所構造の修正および水分子に相当する電子
密度を同定し精密化計算に水分子を含める操作を繰り返
し、R値および自由R値(free R−facto
r)を指標に精密化を進めた。水分子を加えたネイティ
ブ結晶における最終モデル構造のR値は、500−1.
7Å分解能の反射データに対して、19.6%であっ
た。
【0090】(実施例7)デカルバミラーゼの安定化設
計 デカルバミラーゼの安定化設計の一例として、エネルギ
ー的に不利なアミノ酸残基を変異することにより安定性
の向上が見られた例を示す。本発明の立体構造から計算
した203位のプロリン、Pro203の主鎖二面角
(φ −60°、ψ −44°)は、αヘリックス構造
に特徴的な二面角を有している。一般にプロリン残基
は、ヘリックス構造を不安定化する、あるいは壊す残基
として働くことが知られている。デカルバミラーゼの2
03位にプロリンが存在することで、主鎖構造に歪みを
生じ、構造を不安定化すると推定される。この部位は、
ヘリックス構造に特徴的な二面角を有することから、ヘ
リックス構造に適したアミノ酸残基に置換することによ
り、天然状態の構造エネルギーを安定化しうる。例え
ば、αヘリックス構造を取りやすいアミノ酸残基とし
て、アラニン(Ala)、グルタミン酸(Glu)、ロ
イシン(Leu)、セリン(Ser)などに置換しう
る。203位のアミノ酸を天然型20種類のアミノ酸に
変異し、それぞれの構造については、AMBERのポテ
ンシャルパラメーター(Weiner、P.A.ら、
J.Comp.Chemistry 7(2):230
−252,1986)により構造エネルギーを算出し、
構造エネルギー値の低いアミノ酸変異がより望ましい変
異であるとして、この部位での最適アミノ酸変異を求め
た。その結果、アスパラギン酸>スレオニン>セリン>
バリン>グルタミン酸>イソロイシン>アラニン>フェ
ニルアラニン>チロシン>ロイシン>ヒスチジン>アス
パラギン>グルタミン>システイン>プロリンとなっ
た。実施例1で調製したアミノ酸変異体の変性温度を表
4に示す(国際公開番号WO94/03613)。以下
のいずれの変異においても、安定性の向上(ΔTm=
3.4〜8.2℃)が認められる。これらは、プロリン
以外のアミノ酸に変異したことで、主鎖構造の歪みを解
消したと考えるのが妥当である。また、グルタミン酸
(ΔTm=8.2℃)に変異したものが最も高い安定性
を示すが、これはグルタミン酸への変異により、グルタ
ミン酸の側鎖カルボキシル基が近傍にある139位のア
ルギニン側鎖のグアニジノ基とイオン結合あるいは水素
結合を形成することができ、新たに加わった相互作用の
寄与として他の変異体に比べ高い安定性を示すと考えら
れる。His変異体の安定性の増加が、ΔTm=3.4
℃と他の変異体に比べて小さいのは、pH7.0付近で
ヒスチジンが正電荷を持った場合、139位のアルギニ
ンとの静電的な反発により、主鎖の歪みを解消すること
による安定化の寄与分を減じたためと考えられる。
【0091】計算により求めた203位の最適アミノ酸
変異の安定性の順位は、実験により求めた変性温度の向
上の大きさと完全には一致しないが、いずれも天然型デ
カルバミラーゼのプロリン残基よりも構造エネルギーの
低い(安定な)方から数えて上位に位置し、実験結果と
よく一致した。
【0092】
【表4】
【0093】変性温度は、上記のように調製した(粗)
酵素液を各温度にて10分間の熱処理、熱変性による不
溶物を除去した後の活性を測定し、残存比活性50%を
示す温度と定義する。残存比活性の測定は以下のように
行った。1.0重量%になるようにN−カルバモイル−
D−α−パラヒドロキシフェニルグリシンを0.1Mリ
ン酸緩衝液pH7.0に溶解した基質溶液1mlに、酵
素溶液0.1mlを加え、40℃、20分間反応させ、
20%トリクロロ酢酸0.25mlを添加して酵素反応
を停止させた後、活性を変換されたD−α−パラヒドロ
キシフェニルグリシンを内部標準としてD−フェニルア
ラニンを用いて高速液体クロマトグラフィーにより定量
することにより算出した。変異株は、スクリーニングで
得られた変異株の識別番号を示す。ΔTmは、変異前の
デカルバミラーゼの変性温度からの差異を示す。
【0094】
【発明の効果】本発明によれば、デカルバミラーゼおよ
びデカルバミラーゼ変異体の立体構造および変異体の立
体構造モデルが提供される。本酵素の立体構造は、耐熱
性、有機溶剤耐性、空気酸化に対する耐性等の安定性、
酵素反応の至適pHの変更および比活性向上に関するア
ミノ酸変異の合理的な分子設計に有用である。このこと
によって、工業利用に有利な改変酵素を迅速かつ効率的
に取得することが可能となる。さらには、本酵素の立体
構造が類縁関係にあるアミダーゼまたはニトリラーゼな
どの酵素群の中で唯一決定されたものであり、これら酵
素群の工業利用分野で有意義に応用され得ることは明ら
かである。
【0095】
【配列表】 SEQUENCE LISTING <110> Kaneka Corporation <120> Three-dimensional structure of decarbamilase and the use thereof <130> J199247416 <140>ND <141>1999-08-31 <160> 2 <170> PatentIn Ver. 2.0 <210> 1 <211> 303 <212> PRT <213> Agrobacterium sp. <400> 1 Thr Arg Gln Met Ile Leu Ala Val Gly Gln Gln Gly Pro Ile Ala Arg 1 5 10 15 Ala Glu Thr Arg Glu Gln Val Val Val Arg Leu Leu Asp Met Leu Thr 20 25 30 Lys Ala Ala Ser Arg Gly Ala Asn Phe Ile Val Phe Pro Glu Leu Ala 35 40 45 Leu Thr Thr Phe Phe Pro Arg Trp His Phe Thr Asp Glu Ala Glu Leu 50 55 60 Asp Ser Phe Tyr Glu Thr Glu Met Pro Gly Pro Val Val Arg Pro Leu 65 70 75 80 Phe Glu Lys Ala Ala Glu Leu Gly Ile Gly Phe Asn Leu Gly Tyr Ala 85 90 95 Glu Leu Val Val Glu Gly Gly Val Lys Arg Arg Phe Asn Thr Ser Ile 100 105 110 Leu Val Asp Lys Ser Gly Lys Ile Val Gly Lys Tyr Arg Lys Ile His 115 120 125 Leu Pro Gly His Lys Glu Tyr Glu Ala Tyr Arg Pro Phe Gln His Leu 130 135 140 Glu Lys Arg Tyr Phe Glu Pro Gly Asp Leu Gly Phe Pro Val Tyr Asp 145 150 155 160 Val Asp Ala Ala Lys Met Gly Met Phe Ile Cys Asn Asp Arg Arg Trp 165 170 175 Pro Glu Ala Trp Arg Val Met Gly Leu Arg Gly Ala Glu Ile Ile Cys 180 185 190 Gly Gly Tyr Asn Thr Pro Thr His Asn Pro Pro Val Pro Gln His Asp 195 200 205 His Leu Thr Ser Phe His His Leu Leu Ser Met Gln Ala Gly Ser Tyr 210 215 220 Gln Asn Gly Ala Trp Ser Ala Ala Ala Gly Lys Val Gly Met Glu Glu 225 230 235 240 Asn Cys Met Leu Leu Gly His Ser Cys Ile Val Ala Pro Thr Gly Glu 245 250 255 Ile Val Ala Leu Thr Thr Thr Leu Glu Asp Glu Val Ile Thr Ala Ala 260 265 270 Val Asp Leu Asp Arg Cys Arg Glu Leu Arg Glu His Ile Phe Asn Phe 275 280 285 Lys Gln His Arg Gln Pro Gln His Tyr Gly Leu Ile Ala Glu Leu 290 295 300 <210> 2 <211> 303 <212> PRT <213> E.coli <400> 2 Thr Arg Gln Met Ile Leu Ala Val Gly Gln Gln Gly Pro Ile Ala Arg 1 5 10 15 Ala Glu Thr Arg Glu Gln Val Val Val Arg Leu Leu Asp Met Leu Thr 20 25 30 Lys Ala Ala Ser Arg Gly Ala Asn Phe Ile Val Phe Pro Glu Leu Ala 35 40 45 Leu Thr Thr Phe Phe Pro Arg Trp Tyr Phe Thr Asp Glu Ala Glu Leu 50 55 60 Asp Ser Phe Tyr Glu Thr Glu Met Pro Gly Pro Val Val Arg Pro Leu 65 70 75 80 Phe Glu Lys Ala Ala Glu Leu Gly Ile Gly Phe Asn Leu Gly Tyr Ala 85 90 95 Glu Leu Val Val Glu Gly Gly Val Lys Arg Arg Phe Asn Thr Ser Ile 100 105 110 Leu Val Asp Lys Ser Gly Lys Ile Val Gly Lys Tyr Arg Lys Ile His 115 120 125 Leu Pro Gly His Lys Glu Tyr Glu Ala Tyr Arg Pro Phe Gln His Leu 130 135 140 Glu Lys Arg Tyr Phe Glu Pro Gly Asp Leu Gly Phe Pro Val Tyr Asp 145 150 155 160 Val Asp Ala Ala Lys Met Gly Met Phe Ile Cys Asn Asp Arg Arg Trp 165 170 175 Pro Glu Ala Trp Arg Val Met Gly Leu Arg Gly Ala Glu Ile Ile Cys 180 185 190 Gly Gly Tyr Asn Thr Pro Thr His Asn Pro Glu Val Pro Gln His Asp 195 200 205 His Leu Thr Ser Phe His His Leu Leu Ser Met Gln Ala Gly Ser Tyr 210 215 220 Gln Asn Gly Ala Trp Ser Ala Ala Ala Gly Lys Ala Gly Met Glu Glu 225 230 235 240 Asn Cys Met Leu Leu Gly His Ser Cys Ile Val Ala Pro Thr Gly Glu 245 250 255 Ile Val Ala Leu Thr Thr Thr Leu Glu Asp Glu Val Ile Thr Ala Ala 260 265 270 Val Asp Leu Asp Arg Cys Arg Glu Leu Arg Glu His Ile Phe Asn Phe 275 280 285 Lys Gln His Arg Gln Pro Gln His Tyr Gly Leu Ile Ala Glu Leu 290 295 300
【図面の簡単な説明】
【図1】 デカルバミラーゼのタンパク質立体構造トポ
ロジー図。βストランド構造を三角印で、αヘリックス
構造を丸印で示した。「N−term」はアミノ末端
を、「C−term」はカルボキシ末端を、それぞれ表
す。
【図2】 デカルバミラーゼのリボン−ストランド図。
βストランド構造を板状に、αヘリックス構造を螺旋で
示した。触媒活性に関与するアミノ酸側鎖をボール−ス
ティック表記で示した。
【図3】 デカルバミラーゼの活性部位における基質結
合様式の模式図。R−は、D−α−アミノ酸の側鎖であ
る。残基番号および三文字表記によるアミノ酸名を示し
た。
【図4】 デカルバミラーゼの触媒活性部位の立体構
造。βストランド構造を板状に、αヘリックス構造を螺
旋で示し、触媒活性に関与するアミノ酸側鎖をボール−
スティック表記で表し、残基番号および三文字表記によ
るアミノ酸名を示した。
【図5】 1.00Åおよび0.98Åの回折データか
ら計算した差パターソン図のハーカー面。
【図6】 1.00Åおよび1.27Åの回折データか
ら計算した差パターソン図のハーカー面。
【図7】 0.98Åをアノマラス(anomalou
s)データとして計算したアノマラス差パターソン図の
ハーカー面。
【図8】 本発明の立体構造を示す、触媒活性部分の代
表的な電子密度図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 石井 清人 兵庫県明石市大蔵谷東山478番地の6 302 号室 (72)発明者 難波 弘憲 兵庫県加古川市尾上町旭3−41 グランド ゥール尾上409号室 (72)発明者 矢島 麗嘉 兵庫県明石市小久保120番地の55 A804号 室 (72)発明者 池中 康裕 兵庫県神戸市西区井吹台東町5丁目21番3 号 (72)発明者 高橋 里美 兵庫県神戸市垂水区神和台1丁目13番13号 Fターム(参考) 4B024 AA01 AA03 AA20 BA11 4B050 CC03 CC07 DD02 FF03C FF03E FF17C FF17E FF18C HH01 KK05 LL05

Claims (32)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 直方晶系の空間群P2112および配列
    番号1に示されるアミノ酸配列、または直方晶系の空間
    群P2111および配列番号2に示されるアミノ酸配
    列を有する、デカルバミラーゼ結晶。
  2. 【請求項2】 前記結晶が直方体形状の単位格子を有
    し、単位格子定数:a=66.5〜68.5Å、b=1
    35.5〜138.0Å、c=66.5〜68.5Åを
    有し、そして前記アミノ酸配列が配列番号1である、請
    求項1に記載のデカルバミラーゼ結晶。
  3. 【請求項3】 前記結晶が直方体形状の単位格子を有
    し、単位格子定数:a=68.5〜70.5Å、b=1
    38.0〜140.5Å、c=68.5〜73.0Åを
    有し、そして前記アミノ酸配列が配列番号1である、請
    求項1に記載のデカルバミラーゼ結晶。
  4. 【請求項4】 前記結晶が直方体形状の単位格子を有
    し、単位格子定数:a=81.5〜82.5Å、b=1
    33.0〜135.0Å、c=119.5〜121.5
    Åを有し、そして前記アミノ酸配列が配列番号2であ
    る、請求項1に記載のデカルバミラーゼ結晶。
  5. 【請求項5】 結晶中のデカルバミラーゼ1分子当たり
    少なくとも1つ以上の重金属原子を含む請求項1から4
    のいずれか1項に記載の結晶。
  6. 【請求項6】 重金属原子が水銀、金、白金、鉛、イリ
    ジウム、オスミウムおよびウランのうちいずれかである
    請求項5に記載の結晶。
  7. 【請求項7】 請求項1から6のいずれか1項に記載の
    デカルバミラーゼ結晶を液体窒素下で凍結させることに
    より調製される凍結結晶。
  8. 【請求項8】 デカルバミラーゼ結晶の製造方法であっ
    て、1〜50mg/mlの濃度でデカルバミラーゼの溶
    液を与える工程、5〜30重量%の濃度でポリエチレン
    グリコール(PEG)あるいはメトキシポリエチレング
    リコール(PEGMME)を含有し、かつ6.0〜9.
    0のpHを与える濃度の緩衝剤を含有する沈澱剤溶液を
    与える工程、該デカルバミラーゼ溶液を該沈澱剤溶液と
    混合する工程、および得られる混合溶液を、該溶液中の
    デカルバミラーゼ結晶が既定の大きさ以上に成長するま
    で既定の期間放置する工程を包含する、方法。
  9. 【請求項9】 前記混合する工程が、前記デカルバミラ
    ーゼ溶液の液滴を前記沈澱剤溶液の液滴と混合させるこ
    とを包含し、そして前記放置する工程が、混合工程で得
    られる混合液滴を密閉容器中で沈澱剤溶液を保持する溶
    液溜め部上に懸垂させることを包含し、ここで、該溶液
    溜め部中の該沈澱剤溶液の蒸気圧は該混合液滴の蒸気圧
    より低い、請求項8に記載の方法。
  10. 【請求項10】 前記混合する工程が、前記デカルバミ
    ラーゼ溶液の液滴を前記沈澱剤溶液の液滴と混合させる
    ことを包含し、そして前記放置する工程が、混合工程で
    得られる混合液滴を密閉容器中で沈澱剤溶液を保持する
    溶液溜め部の液滴台に静置させることを包含し、ここ
    で、該際溶液溜め部中の該沈澱剤溶液の蒸気圧は該混合
    液滴の蒸気圧より低い、請求項8に記載の方法。
  11. 【請求項11】 前記混合溶液を放置する期間が1日〜
    3週間である、請求項8に記載の方法。
  12. 【請求項12】 前記デカルバミラーゼの溶液を与える
    工程の後に、該デカルバミラーゼ溶液をサイズ排除半透
    膜内に配置させる工程をさらに包含し、そして前記混合
    する工程が、該半透膜を通して沈澱剤溶液を該デカルバ
    ミラーゼ溶液中に拡散させることを包含する、請求項8
    に記載の方法。
  13. 【請求項13】 前記混合する工程が、前記沈澱剤溶液
    を前記デカルバミラーゼ溶液に徐々に添加することを包
    含し、そして前記放置する工程が、得られる混合溶液を
    密閉容器内で放置することを包含する、請求項8に記載
    の方法。
  14. 【請求項14】 以下の図に示すタンパク質立体構造ト
    ポロジーを有する立体構造により特徴付けられるデカル
    バミラーゼまたはその活性断片: 【化1】
  15. 【請求項15】 4本のαヘリックスおよび12本のβ
    ストランドを含む二次構造を含む4層サンドイッチ構造
    を有する、デカルバミラーゼまたはその活性断片。
  16. 【請求項16】 酵素反応に関与するアミノ酸残基がシ
    ステイン1残基、グルタミン酸2残基、およびリジン1
    残基であり、酵素反応の基質がD−N−カルバモイル−
    α−アミノ酸であって、以下の図に示す基質結合様式を
    有する活性部位の立体構造により特徴付けられる、デカ
    ルバミラーゼまたはデカルバミラーゼ変異体、あるいは
    それらの活性断片: 【化2】 ここで、置換基Rは、D−N−カルバモイル−α−アミ
    ノ酸の側鎖である。
  17. 【請求項17】 D−N−カルバモイル−α−アミノ酸
    を基質とするデカルバミラーゼ活性を有する酵素分子で
    あって、少なくとも、配列番号1または2における以下
    のアミノ酸:46位のGlu、126位のLys、14
    5位のGlu、および171位のCys、に対応するア
    ミノ酸から形成される活性部位腔を有する、酵素分子ま
    たはその活性断片。
  18. 【請求項18】 前記活性部位腔において、前記D−N
    −カルバモイル−α−アミノ酸が、反応時に前記配列番
    号1または2の126位のLys、143位のHis、
    145位のGlu、174位のArg、175位のAr
    g、および197位のThrに対応するアミノ酸と相互
    作用し得る、請求項17に記載の酵素分子またはその活
    性断片。
  19. 【請求項19】 前記活性部位腔において、前記配列番
    号1または2の46位のGlu、145位のGlu、お
    よび171位のCysに対応するアミノ酸が水分子を介
    して水素結合している、請求項17または18に記載の
    酵素分子またはその活性断片。
  20. 【請求項20】 前記D−N−カルバモイル−α−アミ
    ノ酸が、D−N−カルバモイル−フェニルグリシン、D
    −N−カルバモイル−パラヒドロキシフェニルグリシ
    ン、D−N−カルバモイル−フェニルアラニン、D−N
    −カルバモイル−バリン、D−N−カルバモイル−アラ
    ニン、D−N−カルバモイル−システイン、D−N−カ
    ルバモイル−アスパラギン酸、D−N−カルバモイル−
    グルタミン酸、D−N−カルバモイル−グリシン、D−
    N−カルバモイル−ヒスチジン、D−N−カルバモイル
    −イソロイシン、D−N−カルバモイル−リジン、D−
    N−カルバモイル−ロイシン、D−N−カルバモイル−
    メチオニン、D−N−カルバモイル−アスパラギン、D
    −N−カルバモイル−プロリン、D−N−カルバモイル
    −グルタミン、D−N−カルバモイル−アルギニン、D
    −N−カルバモイル−セリン、D−N−カルバモイル−
    スレオニン、D−N−カルバモイル−トリプトファン、
    およびD−N−カルバモイル−チロシンからなる群から
    選択される、請求項16〜19のいずれか1項に記載の
    酵素分子またはその活性断片。
  21. 【請求項21】 請求項14または15に記載のデカル
    バミラーゼの立体構造から分子設計手法により構築され
    た、デカルバミラーゼまたはその変異体あるいはそれら
    の活性断片とD−N−カルバモイル−α−アミノ酸ある
    いはD−α−アミノ酸との複合体立体構造により特徴付
    けられる、デカルバミラーゼ複合体。
  22. 【請求項22】 デカルバミラーゼ変異体を設計する方
    法であって、デカルバミラーゼの請求項14、16、ま
    たは21のいずれか1項に記載の立体構造に基づいて物
    性および/または機能を改変したデカルバミラーゼ変異
    体を設計する工程を包含する、方法。
  23. 【請求項23】 デカルバミラーゼ変異体を設計する方
    法であって、デカルバミラーゼ活性を有する酵素の結晶
    を生成する工程、該結晶のX線結晶構造解析により該結
    晶の立体構造を決定する工程、および決定した立体構造
    に基づいて物性および/または機能の向上したデカルバ
    ミラーゼ変異体を設計する工程を包含する、方法。
  24. 【請求項24】 前記立体構造が、請求項14、16、
    または21のいずれか1項に記載のデカルバミラーゼの
    立体構造である、請求項23に記載の方法。
  25. 【請求項25】 デカルバミラーゼ変異体を製造する方
    法であって、デカルバミラーゼ活性を有する酵素の結晶
    を生成する工程、該結晶のX線結晶構造解析により該結
    晶の立体構造を決定する工程、決定した立体構造に基づ
    いて物性および/または機能の向上したデカルバミラー
    ゼ変異体を設計する工程、および該デカルバミラーゼ変
    異体を産生する工程を包含する、方法。
  26. 【請求項26】 前記立体構造が、請求項14、16、
    または21のいずれか1項に記載のデカルバミラーゼの
    立体構造である、請求項25に記載の方法。
  27. 【請求項27】 前記デカルバミラーゼ変異体を設計す
    る工程が、酵素の基質特異性の変更、酵素比活性の変
    更、酵素の安定性向上、酵素の至適pHの最適化、およ
    び酵素の水溶性の変更からなる群から選択される1以上
    の酵素特性の改変を目的とする、請求項26に記載の方
    法。
  28. 【請求項28】 前記酵素特性の改変が、酵素の安定性
    向上を含む、請求項27に記載の方法。
  29. 【請求項29】 酵素の安定性向上に関する変異体の設
    計が、空気酸化による活性低下を招くアミノ酸残基を置
    換する変異を含む、請求項28に記載の方法。
  30. 【請求項30】 前記酵素特性の改変が、酵素比活性の
    変更および酵素の至適pHの最適化を含む、請求項27
    に記載の方法。
  31. 【請求項31】 請求項25〜30のいずれか1項に記
    載の製造方法によって得られたデカルバミラーゼ変異
    体。
  32. 【請求項32】 請求項1〜7のいずれか1項に記載の
    デカルバミラーゼ結晶の立体構造または請求項14、1
    6、または21のいずれか1項に記載のデカルバミラー
    ゼの立体構造を利用して、アミノ酸一次配列がデカルバ
    ミラーゼと類似する別のポリペプチド酵素またはタンパ
    ク質酵素を改変する方法。
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