JP4603548B2 - Tfpi−2タンパク質を用いた卵巣子宮内膜症の診断法 - Google Patents

Tfpi−2タンパク質を用いた卵巣子宮内膜症の診断法 Download PDF

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Description

本出願は、2003年9月24日に出願した米国仮特許出願第60/505,572号の恩典を主張し、その内容は全体として参照として本明細書に組み入れられる。
発明の分野
本明細書において、組織因子経路インヒビター(TFPI-2)が子宮内膜症の有力な診断標的および治療標的であることが示される。したがって本発明は、TFPI-2タンパク質を指標として用いた卵巣子宮内膜症の診断法、および診断に用いられるキットに関する。
発明の背景
子宮内膜症は一般的な婦人科疾患であり、生殖年齢の女性の少なくとも10%が罹患している(Rice (2002) Ann. N.Y. Acad. Sci. 955: 343-352)。子宮内膜症は、子宮内膜腺および間質が子宮外に存在することと定義される。その最も一般的な症状は、進行性月経困難症、性交疼痛症、慢性骨盤痛、および不妊症である。卵巣嚢胞を伴う子宮内膜症は、超音波検査または磁気共鳴映像法(MRI)などの技法により診断され得る;しかしながら、上記の症状は子宮内膜症に特異的ではないため、卵巣嚢胞を伴わない子宮内膜症は、外科的侵襲を行わずに診断するのは困難である(Rice (2002) Ann. N.Y. Acad. Sci. 955: 343-52)。例えば、卵巣癌の腫瘍マーカーの1つであるCA125の濃度は、子宮内膜症の女性の血清中で上昇する場合があるが、その特異性が低いことから(Evers et al. (1995) 「Progress Management of Endometriosis」 ed. Cautinho, Parthenon Publishing Groups, Carnforth, 175-84)、この疾患にとってそれほど有用なマーカーではない。さらに、主訴が月経困難症であって、身体的異常が認められない患者では、子宮内膜症を特発性月経困難症と区別することは困難である。
子宮内膜症の治療は通常、外科的切除を伴い、かつ/またはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)作動薬およびアンドロゲンなどのホルモン剤による薬物治療を伴う。しかし、更年期障害(ほてりおよび肩こり)、性器出血、および骨脱灰などの副作用のために長期の薬物治療は望ましくなく、子宮内膜症の臨床管理は非常に困難な場合が多い。この疾患の現行の治療法には、再発率が高いという問題もある。具体的には、手術から5年後の再発率は約20%であり(Redwine (1991) Fertil. Steril. 56: 628-34)、薬物治療の5年後の再発率は53%にも及ぶこと(Waller and Shaw (1993) Fertil. Steril. 59: 511-5)が報告されている。
子宮内膜症の様々な研究では、以下の理由から、基礎となる遺伝的および病態生理学的な機構はほとんど明らかにされていない;(i) 子宮内膜嚢胞の上皮細胞は衰えて剥がれ落ちる場合が多く、そのため十分な試料材料を得るのが非常に困難であること;および(ii) 通常の試料採取法において間質細胞の混入の影響がかなり大きいこと。こうした問題を克服するために、本発明者らは先行研究において、嚢胞から上皮細胞を掻き取って顕微解剖し、それらを高純度で得た(Jimbo et al. (1997) Am. J. Pathol. 150: 1173-8)。
cDNAマイクロアレイ技術は、正常細胞および悪性細胞における遺伝子発現の包括的なプロファイルを構築し、悪性細胞と対応する正常細胞における遺伝子発現を比較することを容易にした(Okabe et al. (2001) Cancer Res. 61: 2129-37;Kitahara et al. (2001) Cancer Res. 61: 3544-9;Lin et al. (2002) Oncogene 21: 4120-8;Hasegawa et al. (2002) Cancer Res. 62: 7012-7)。このアプローチは癌細胞の複雑な性質の解明を可能にし、発癌機構の理解の一助となる。腫瘍において脱制御される遺伝子を同定することにより、個々の癌のより正確で緻密な診断が可能となり、また新規治療標的の開発が可能となる(Bienz and Clevers (2000) Cell 103: 311-20)。マイクロアレイ技術の医学的応用には、(i) 腫瘍形成に寄与する遺伝子の発見、(ii) 有用な診断バイオマーカーおよび抗癌剤の新規分子標的の発見;および(iii) 化学感受性の付与に関わる遺伝子の同定が含まれる。最近、マイクロアレイ技術によって同定されたある種の癌の発症に関連する分子が、癌に有効な新規薬剤を開発するための優れた標的であることが臨床的に証明された。ゲノム全域にわたる観点から腫瘍の基礎となる機構を見い出し、診断および新規治療剤の開発のための標的分子を発見するため、本発明者らは、23,040個のヒト遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて、種々の組織に由来する腫瘍の発現プロファイルを解析した(Okabe et al. (2001) Cancer Res. 61: 2129-37;Hasegawa S. et al. (2002) Cancer Res. 62: 7012-7;Kaneta et al. (2002) Jpn. J. Cancer Res. 93: 849-56;Kitahara et al. (2002) Neoplasia 4: 295-303;Lin et al. (2002) Oncogene 21: 4120-8;Nagayama S. et al. (2002) Cancer Res. 62: 5859-66;Okutsu et al. (2002) Mol. Cancer Ther. 1: 1035-42;Kikuchi et al. (2003) Oncogene 22: 2192-205)。例えば、肝細胞癌(HCC)の発現プロファイルの解析を通じて、本発明者らは、腫瘍細胞において高頻度で上方制御される遺伝子、VANGL1遺伝子を発見し、さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドでその発現を抑制することにより、HCC細胞の増殖が有意に低下し、アポトーシス細胞死が誘導されることを実証した(Yagyu et al. (2002) Int. J. Oncol. 220:1173-8)。
子宮内膜症は、いくつかの点で悪性腫瘍と類似している。例えば、子宮内膜症細胞は、局所転移のみならず遠隔転移し得る。すなわち、子宮内膜症細胞は、癌細胞と同様の方法で他の組織に接着、浸潤し、損傷し得る。そこで、子宮内膜症の性質を解明するため、本発明者らはcDNAマイクロアレイ解析を行った(Arimoto et al. (2003) Int. J. Oncol. 22: 551-60)。本発明者らは、ゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイ解析により、子宮内膜症組織とこれに対応する正所性の子宮内膜との発現パターンを比較して、子宮内膜嚢胞において高頻度に上方制御されているいくつかの遺伝子を同定した。
組織因子経路インヒビター(TFPI-2)は胎盤タンパク質5(PP5)としても知られ、組織因子経路インヒビターと相同な、直列に配列された3つのKunitz型プロテイナーゼインヒビタードメインを含むセリンプロテイナーゼインヒビターである(Sprecher et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 3353-7;Rao et al. (1996) Arch. Biochem. Biophys. 335: 82-92;Miyagi et al. (1994) J. Biochem. 116: 939-42)。このタンパク質は、選択的にグリコシル化された27 kDa、31 kDa、および33 kDaという3種のアイソフォームとして(Rao et al. (1996) Arch. Biochem. Biophys. 335: 82-92)、いくつかの内皮細胞種の細胞により構成的に分泌される(Iino et al. (1998) Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 18: 40-6)。TFPI-2はプラスミンに加えて、トリプシン、キモトリプシン、血漿カリクレイン、カテプシンG、VIIa因子、およびXIa因子の強力なインヒビターであるが、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)、組織プラスミノーゲンアクチベーター、またはトロンビンのインヒビターではない(Sprecher et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3353-7;Rao et al. (1995) Arch. Biochem. Biophys. 319:55-62;Rao et al. (1995) Arch. Biochem. Biophys. 317: 311-4;Rao et al. (1995) J. Invest. Dermatol. 104: 379-83;Petersen et al. (1996) Biochemistry 35:266-72)。細胞馴化培地、細胞外基質(ECM)、および細胞質画分を用いたこの遺伝子の定量から、この遺伝子によってコードされるタンパク質の大半がECM中に存在することが明らかとなった(Rao et al. (1996) Arch. Biochem. Biophys. 335: 82-92)。さらに、Neaudらは、TFPI-2がそれ自体で肝細胞癌細胞の肝細胞増殖因子誘導性浸潤を増強することを報告したが(Neaud et al. (2000) J. Biol. Chem. 275: 35565-9)、一方で、TFPI-2の発現がヒト神経膠腫の進行過程において逆相関することが示された(Rao et al (2001) Clin. Cancer Res. 7: 570-6)。TFPI-2に関する様々な婦人科研究が、妊娠進行の観点から行われている。しかし、今日までに、TFPI-2が子宮内膜症の発症に関連するという報告はない。
浸潤は、子宮内膜症に特有の特徴である。移植理論によれば、子宮内膜症は、腹腔中へと逆行性月経を起こした子宮内膜断片から発症する。子宮内膜症病変に進展するためには、これらの断片が腹膜下空間(subperitoneal space)に付着し、ECMタンパク質との相互作用によって浸潤する必要がある。浸潤のタンパク質分解経路は、uPAおよびプラスミンなどのセリンプロテアーゼ、マトリックスメタロプロテイナーゼ、ならびにプロテアーゼインヒビターを含む多く成分のバランスに依存する(Shapiro (1998) Curr. Opin. Cell Biol. 10: 602-8;Toi et al. (1998) Breast Cancer Res. Treat. 52: 113-24;Andreasen et al. (1997) Int. J. Cancer 72: 1-22)。ECMと関連したTFPI-2の役割は不明であるが、TFPI-2が主にECM中に見い出されることから、TFPI-2はセリンプロテアーゼによる基質代謝回転の制御に重要である可能性がある。さらにNeaudらは、TFPI-2が、3種類の異なるヒト肝細胞癌細胞株および安定なトランスフェクタントにおいて浸潤活性を誘導することを報告した(Neaud et al. (2000) J. Biol. Chem. 275: 35565-9)。一方、TFPI-2が、高浸潤性のHT1080細胞株のインビトロ浸潤を強く阻害すること(Rao et al. (1998) Int. J. Cancer 76: 749-56)、およびヒト神経膠腫の進行において逆相関すること(Rao et al. (2001) Clin. Cancer Res. 7: 570-6)が実証されている。Neaudらの報告にあるように、TFPI-2は、間接的な抗浸潤作用および直接的な浸潤促進作用の両方を有する可能性がある。他のプロテアーゼインヒビター、例えばプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1もまた、2つの作用を共有する(Deng et al. (1996) J. Cell Biol. 134: 1563-71)。疾患が良性であっても、子宮内膜症細胞が転移性かつ浸潤性の両方であり得るという興味深い現象は、TFPI-2がこのような2つの作用を有し、子宮内膜症細胞の浸潤を調節し得るという事実によって説明することができる。
発明の概要
本発明は、ある種の遺伝子の発現が卵巣子宮内膜症と相関するという発見に基づく。より詳細には、本発明者らは、半定量RT-PCRおよび免疫組織化学法により(図1および5)、組織因子経路インヒビター-2(TFPI-2)遺伝子が子宮内膜嚢胞において過剰発現されることを発見した。
したがって本発明は、対象由来生物試料中の卵巣子宮内膜症関連タンパク質、すなわちTFPI-2タンパク質の発現レベルを決定し、次いで検出されたタンパク質発現レベルを対照レベルと比較することにより、対象における子宮内膜症を診断する方法を提供する。
本発明との関連において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるタンパク質発現レベルを指し、正常対照レベルおよび卵巣子宮内膜症対照レベルを含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであっても、または複数の発現パターンに由来していてもよい。例えば対照レベルは、以前に試験された発現パターンのデータベースであってよい。正常健常個体とは卵巣子宮内膜症の臨床症状が見られない個体であり、正常対照レベルは、そのような正常健常個体または卵巣子宮内膜症に罹患していないことがわかっている個体の集団で検出されるTFPI-2のタンパク質発現レベルを含む。比較目的のため、正常対照レベルは典型的に、例えば、正常健常対象におけるTFPI-2の発現レベルに基づく。この正常対照レベルに基づいて、許容範囲が、例えば基準値±2 S.D.に設定される。診断マーカータンパク質の測定値に基づいて正常対照レベルおよび許容範囲を設定する方法は、当技術分野において周知である。例えば、本発明のTFPI-2の正常対照レベルは20 ng/mL血清未満、好ましくは10 ng/mL血清未満、より好ましくは5 ng/mL血清未満である。一方、卵巣子宮内膜症対照レベルは、卵巣子宮内膜症と診断された患者において検出されるTFPI-2のタンパク質発現レベルを含む。
変化、例えば対照レベルと比較した場合のTFPI-2のタンパク質発現レベルの増加は、対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることを意味する。具体的には、対象試料中の発現レベルが正常対照レベルと比較して増加している場合、対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることが示される。さらに、TFPI-2のタンパク質発現レベルが、卵巣子宮内膜症対照レベルと比較して増加しているかまたは同等であれば、対象が卵巣子宮内膜症を罹患していることが示される。
本発明に従って、TFPI-2の発現レベルは、その発現レベルが対照レベルと比較して10%、25%、50%、またはそれ以上増加した場合に、変化したと判定し得る。または、TFPI-2の発現レベルは、その発現レベルが対照レベルと比較して1倍、2倍、5倍、またはそれ以上増加した場合に、変化したと判定し得る。
本発明で用いる対象由来生物試料は、試験対象(例えば、卵巣子宮内膜症を有することがわかっているか、または卵巣子宮内膜症を有すると疑われる対象)から採取された、血清、血液、および組織試料を含むがこれらに限定されない任意の試料であってよい。血液および血液由来試料は、本発明の診断の試料として特に好ましい。血液由来試料の例には、血清および血漿が含まれる。
本発明はまた、検出試薬、好ましくはTFPI-2タンパク質に結合する抗体を含む診断キットも提供する。本キットは、本発明に従って子宮内膜症を診断するために使用し得る。
別に定義しない限り、本明細書において使用するすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解される意味と同じ意味をもつ。本明細書において記載した方法および材料と類似または同等の方法および材料を、本発明を実施または検証するにあたって使用することができるが、適切な方法および材料を以下に説明する。本明細書において言及する刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は単に説明を目的としたものであり、制限する意図はない。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語は、特に明記しない限り「少なくとも1つの」を意味する。
子宮内膜症の性質を解明するため、本発明者らは、cDNAマイクロアレイ解析を行った(Arimoto et al. (2003) Int. J. Oncol. 22: 551-60)。ゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイ解析により、子宮内膜症組織とこれに対応する正所性の子宮内膜との発現パターンを比較することにより、本発明者らは子宮内膜嚢胞において高頻度に上方制御されているいくつかの遺伝子を同定した。この上方制御される遺伝子の中から、組織因子経路インヒビター2(TFPI-2)をコードする1つの遺伝子が発見された。この遺伝子は、正常なヒトの生命維持に重要な臓器の組織において比較的低い発現を示し、したがって、この発現が生命の維持に必須であるとは考えにくい。そのため、ターゲティングなどにより生物におけるこの遺伝子の発現を抑制しても、生命維持に重要な臓器で高く発現される遺伝子の抑制に付随する致死的な副作用は起こらないと考えられる。さらに、TFPI-2は分泌タンパク質であることが知られている。分泌タンパク質の検出は、そのタンパク質に対する抗体、および組織よりも採取が容易である末梢血などの生物試料を検出に用いることができるため、非分泌タンパク質と比較して比較的容易である。
そこで本発明者らは、このタンパク質が子宮内膜症の好ましい診断マーカーとして機能する可能性があると考えた。胎盤におけるTFPI-2の発現レベルは、正常ヒト組織の中で最も高い。TFPI-2が正常男性および非妊娠女性の血液中を極めて低濃度で循環する一方で、妊娠女性の血漿ではそのレベルは40倍〜70倍増加する(Butzow et al. (1988) Clin. Chem. 34: 1591-3)。子宮内膜嚢胞でTFPI-2が発現するということは、このタンパク質が、妊娠女性の血清と同様に子宮内膜症患者の血清中にも分泌される可能性があるということを意味する。この予想が正しいならば、TFPI-2は子宮内膜症のより優れた診断マーカーとなる可能性がある。子宮内膜症患者の血清におけるこのタンパク質の検出によって、この疾患の新規診断法が確立されると予想された。
したがって本研究において、本発明者らは、子宮内膜症患者に由来する血清中のTFPI-2タンパク質を検出するための酵素結合免疫吸着測定(ELISA)系を確立し、TFPI-2タンパク質の検出される発現レベルが、試験した血清のうち、進行期の子宮内膜症患者の血清中で上昇していることを実証した。この結果から、TFPI-2タンパク質の産生および血清への分泌が、疾患の進行に応答して増加することが示唆された。これまでは、CA125が子宮内膜症の最も一般的なマーカーであった。しかし、上記したように、子宮内膜症のマーカーとしてのCA125の特異性は低く、TFPI-2が妊娠女性の血清中でのみ検出され、非妊娠女性および男性の血清中では検出されないことから、TFPI-2タンパク質の子宮内膜症のマーカーとしての特異性はより高いと考えられる。したがって、本発明の知見により、TFPI-2タンパク質が子宮内膜症を診断するための有効なマーカーであることが実証される。
本発明は、TFPI-2タンパク質がヒト卵巣子宮内膜症に関与することを実証する。正常ヒト成体組織ではこのタンパク質の発現が比較的低いため、このタンパク質をコードする遺伝子は治療の標的として非常に高い可能性を有する。本研究において、本発明者らは、この遺伝子の発現が子宮内膜症の進行または維持において重要な役割を担うことを報告し、故に、この遺伝子産物が子宮内膜症の薬剤を開発するための有望な標的であることを報告する。
卵巣子宮内膜症の診断
本発明は、卵巣子宮内膜症の診断法を提供する。本発明の方法に従って、卵巣子宮内膜症に罹患している対象を診断することができる。本発明の方法に従って診断される対象は、好ましくは、ヒト、非ヒト霊長類(サル、ヒヒ、チンパンジーなど)、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウマ、およびウシを含む哺乳動物である。
卵巣子宮内膜症は、対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現を試験することによって診断され得る。具体的には、本発明の卵巣子宮内膜症の診断法は、TFPI-2タンパク質の発現レベルを決定する(測定する)段階を含む。TFPI-2タンパク質の発現を決定し得るが、所望であれば、このタンパク質の発現を、状態(例えば、卵巣子宮内膜症または非卵巣子宮内膜症)に従って発現レベルが変化することがわかっている他のタンパク質と共に決定することができる。
本発明の方法によれば、対象に由来する生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを、同じタンパク質の対照レベルと比較する。対象由来生物試料は、TFPI-2タンパク質の発現が卵巣子宮内膜症患者において検出可能な限り、任意の試料であってよく、これには試験対象から採取された血液、血清、および組織試料が含まれるが、これらに限定されない。好ましい対象由来生物試料には血液および血清が含まれるが、それは、このような試料が末梢血管から容易に採取できるためである。
「対照レベル」という語句は、参照試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを指す。参照試料は、本診断法において試験する生物試料と同じ種類の試料であるべきである。すなわち、対象由来生物試料が血液である場合には、対照レベルを決定するための参照試料として血液が用いられる。参照試料は、比較するパラメータ(すなわち、子宮内膜症または非子宮内膜症)がわかっている対象または対象集団に由来する。または、対照レベルは、アッセイのパラメータまたは条件がわかっている対象に由来する分子情報のデータベースから計算され得る。
卵巣子宮内膜症を診断する本方法によれば、対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを、このタンパク質の複数の対照レベルと比較し得る。対照レベルは、異なる既知パラメータ(すなわち、子宮内膜症または非子宮内膜症)を有する生物試料に由来し得る。したがって、対象由来生物試料中のこのタンパク質の発現レベルを、卵巣子宮内膜患者に対応する対照レベル(卵巣子宮内膜症対照レベル)と比較し、次いで非卵巣子宮内膜症患者に対応する対照レベル(正常対照レベル)と比較することができる。そのため、対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであっても、または複数の発現パターンであってもよい。例えば対照レベルは、以前に試験された試料に由来する発現パターンのデータベースであってよい。
対照レベルと比較した場合の対象由来生物試料における発現レベルが卵巣子宮内膜症を表すかどうかは、対照レベルを決定するために用いた試料の種類に依存する。例えば、対照レベルが非子宮内膜症個体に由来する参照試料で検出される場合、対象由来生物試料と参照試料との間の発現レベルの類似により、対象が子宮内膜症でないことが示される。本明細書では、このような対照レベルを「正常対照レベル」と称する。正常対照レベルとは、正常健常個体または卵巣子宮内膜症に罹患していないことがわかっている個体の集団で検出される発現レベルを表す。正常健常個体とは、卵巣子宮内膜症の臨床症状が見られない個体である。逆に、対照レベルが子宮内膜症患者に由来する参照試料において検出される場合、対象由来生物試料と参照試料との間の発現プロファイルの類似により、対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることが示される。本明細書では、このような対照レベルを「卵巣子宮内膜症対照レベル」または「疾患対照レベル」と称する。「卵巣子宮内膜症(または疾患)対照レベル」という語句は、子宮内膜症に罹患している患者または患者の集団において認められるTFPI-2タンパク質の発現プロファイルを指す。
対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルは、試料の発現レベルが対照レベルと0.1倍、0.5倍、1.0倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍、またはそれ以上異なる場合に、変化していると見なされる。または、対象由来生物試料中の発現レベルが、対照レベルと比較して1%、5%、10%、25%、50%、またはそれ以上増加していれば、対象試料中の発現レベルが変化していることが示される。
対象由来生物試料において検出されるTFPI-2タンパク質の発現レベルが、正常対照レベルと比較して増加していれば、対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることが示される。対照的に、対象由来生物試料において検出されるTFPI-2タンパク質の発現レベルが、卵巣子宮内膜症対照レベルと類似していれば、対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることが示される。
対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現が、正常対照レベルと比較して変化していれば、対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることが示される。
必要な場合には、対象由来生物試料中の発現レベルと対照レベルとの比較を、測定するパラメータまたは条件に発現が依存しない対照タンパク質を考慮して行うことができる。「対照タンパク質」とは、その発現レベルが、試験する個体の子宮内膜症状態または非子宮内膜症状態で差異がないことががわかっているタンパク質である。試験試料および参照試料中の対照タンパク質の発現レベルを用いて、比較する集団のレベルを標準化することができる。
本発明の方法に従って、タンパク質発現レベルは、TFPI-2タンパク質に対する抗体を用いた免疫測定法を含むがこれに限定されない、当技術分野において周知の方法によって決定することができる。本発明との関連において、タンパク質の発現レベルを測定するのに適した免疫測定法には、対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の検出に使用され得る限り、すべての種類の既知の免疫測定法が含まれ、これらに限定されないが、競合アッセイおよび非競合アッセイ;ホモジニアスアッセイおよびヘテロジニアスアッセイ;同種アッセイ、異種アッセイ、および異種抗体アッセイ;ならびに放射性同位元素、酵素、ランタニド、蛍光物質、発光物質、フリーラジカルなどの標識物質を用いるアッセイが含まれる。競合アッセイは、少量の抗体に対する標識物質および非標識物質の競合的結合を含む。例示的な競合アッセイには、放射性同位元素で抗原を標識する放射性免疫測定法(RIA);標識物質として酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA);例えば、標識物質としてランタニドを用いる解離増強ランタニド蛍光免疫測定法(dissociation-enhanced lanthanide flurorometric immunoassays(DELFIA(登録商標)))を含む、時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA);紫外線照射時に蛍光を発する蛍光物質を用いる蛍光免疫測定法(FIA);および化学発光物質を用いる発光免疫測定法(LIA)が含まれるが、これらに限定されない。非競合アッセイでは、標的物質を過剰の抗体に曝露し、次いで標識抗体で検出するサンドイッチ結合が行われる。競合アッセイと同様に、非競合アッセイもまた放射性同位元素、酵素、ランタニド、蛍光物質、発光物質などを用いて行うことができ、非競合アッセイには、これらに限定されないが、免疫放射測定法(IRMA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫蛍光測定法(IFMA)、時間分解免疫蛍光測定法(TR-IFMA)、免疫発光測定法(ILMA)などが含まれる。ホモジニアスアッセイでは溶液状態で測定を行い、ヘテロジニアスアッセイは固体基質上で抗体を固定化する段階を含む。「同種アッセイ」という用語は、検出すべき標的、標準物質試料、および抗体がすべて同じ種に由来するアッセイ系を指す。逆に、異種アッセイでは、抗原を検出するためのある動物種のための検出系を、別種の動物に利用する(例えば、ウシ対ヤギ、ラット対マウスなど)。異種アッセイで良好な結果が得られない場合には、同種の標準物質試料および異種抗体を使用するとRIAなどで成功することがあるが、この方法は異種抗体アッセイと分類される。
本発明の好ましい免疫測定法はELISAである。本発明の本方法の好ましい態様に従って、タンパク質の発現レベルは、TFPI-2タンパク質に対するポリクローナル抗体を標識抗体として、およびTFPI-2タンパク質に対するモノクローナル抗体を固定化抗体として用いるELISAによって決定される。対象由来生物試料中の少量のTFPI-2タンパク質は、このような方法によって効率的に検出されることが期待される。
本発明は、抗体の使用、特に、TFPI-2タンパク質に対する抗体またはそのような抗体の断片の使用に言及する。本明細書で用いる「抗体」という用語は、抗体合成に用いられた抗原を含む分子(すなわち、TFPI-2タンパク質またはその断片)、またはこれと近縁の抗原と特異的に相互作用する(結合する)特定の構造を有する免疫グロブリン分子を指す。TFPI-2タンパク質に結合する抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの任意の形態であってよく、これには、ウサギなどの動物にポリペプチドを免疫することによって得られる抗血清、すべてのクラスのポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに遺伝子組換えによって産出されたヒト化抗体が含まれる。
さらに、本発明との関連において、抗体は、抗原(すなわちTFPI-2タンパク質)に結合し、そのような結合が検出され得る限り、抗体の断片または修飾抗体であってよい。例えば抗体断片は、Fab、F(ab')2、FvまたはH鎖およびL鎖に由来するFv断片が適切なリンカーで連結された1本鎖Fv(scFv)であってよい(Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83)。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインまたはペプシンなどの酵素で処理することにより作製され得る。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co et al. (1994)J. Immunol. 152: 2968-76;Better M. and Horwitz (1989) Methods Enzyme. 178:476-96;Pluckthun and Skerra (1989) Methods Enzyme. 178: 497-515;Lamoyi (1986) Methods Enzyme. 121:652-63;Rousseaux et al. (1986) Methods Enzyme. 121: 663-9;Bird and Walker (1991) Trends Biotechnol. 9: 132-7を参照のこと)。
抗体は、タンパク質を固定化するための基質および抗体を検出するための標識を含むが、これらに限定されない、種々の分子との結合によって修飾することができる。または、修飾抗体は、抗体の化学修飾によって得ることができる。そのような修飾法は当分野において慣習的である。
抗体は、従来法により、放射性同位元素(3H、14C、32P、33P、35S、125I、131Iなど)、酵素(アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、グルコース酸化酵素、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼなど)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンなど)、ランタニド(ユーロピウム(EU)など)、発光物質(ルミノール、アクリジニウムエステルなど)、フリーラジカル(ピペリジン-N-オキシド誘導体、ピロリジン-N-オキシド誘導体、オキサゾリジン-N-オキシド誘導体など)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質で、直接または間接的に標識することができる。抗体は、架橋剤(例えば、N,N'-オルトフェニレンジマレイミド、4,4'-ジチオピリジンなど)を用いることにより、上記の標識物質で直接標識することができる。抗体の間接的標識法は、抗体を、ビオチン、ジニトロフェニル、およびピリドキサルなどの低分子量ハプテンと結合する段階を含み、この場合の検出はハプテンに結合する物質を含む。
抗体を放射性同位元素で標識する場合は、検出または測定を液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識した抗体を、酵素の基質を添加して、発色のような基質の酵素的変化を吸光光度計で検出することにより、検出または測定してもよい。または、本発明の方法にペルオキシダーゼなどの酵素を用いることができ、実施例1の項目「TFPI-2濃度の測定」に記載するように、過酸化水素の存在下でo-フェニレンジアミンを反応させ、A490の波長で吸光度を測定することにより、ペルオキシダーゼを検出することができる。さらに、標識として蛍光物質を使用する場合は、蛍光光度計を用いて結合しているタンパク質を検出または測定することができる。さらに、実施例1の項目「TFPI-2濃度の測定」に記載するように、ELISA用のTFPI-2タンパク質に対するポリクローナル抗体を、例えば、ECL Protein Biotinylation Module(Amersham Biosciences)を用いてビオチン化してもよい。生物試料中のタンパク質と結合させた後、ポリクローナル抗体上に結合しているビオチンをアビジンと反応させる。ビオチンに結合したアビジンを測定する方法は当技術分野において周知であり、アビジンを検出可能な酵素と結合させておく方法が含まれる。Euなどのランタニドを標識物質として使用する場合、340 nm波長の光を励起することにより発せられる蛍光(615 nm)を検出することができる。ランタニドを用いるキットは市販されている(例えば、解離増強ランタニド蛍光免疫測定法(DELFIA)という名称のPerkinElmer製のキット)。フリーラジカル標識は、電子スピン共鳴(ESR)のスペクトラムの変化に基づいて検出することができる。
抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル、但し、試料中の抗原を高効率で検出できることからポリクローナルが好ましい)を固定化するための基質は全く制限されず、これには、ポリスチレン、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリアセタール、フッ素プラスチック、ガラス、セルロース、アガロース、金属などでできたプレート、ビーズ、繊維、ウェルなどの形態の基質が含まれるが、これらに限定されない。抗体の基質への固定化は、任意の従来の化学結合法または物理吸着法に従って行い得る。抗体は、抗体を認識する二次抗体(例えば、抗IgG抗体)、または抗体の定常領域に結合するプロテインAもしくはプロテインGを用いて、間接的に基質上に固定化してもよい。
対象における卵巣子宮内膜症の治療有効性の評価
本明細書において同定する、差次的に発現されるTFPI-2タンパク質はまた、卵巣子宮内膜症の治療経過のモニタリングも可能とする。本発明の方法によれば、血液または血清などの生物試料を、卵巣子宮内膜症の治療を受けている対象から採取する。評価法は、上記した本発明の卵巣子宮内膜症の診断法に類似した方法で行い得る。
具体的には、必要に応じて、治療前、治療中、または治療後の様々な時点で、対象から生物試料を採取し得る。次に、生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを決定し、これを対照レベル、例えば卵巣子宮内膜症の状態(すなわち、子宮内膜症または非子宮内膜症)が既知である個体に由来する参照試料と比較する。対照レベルは、関心の対象となる治療に曝露していない生物試料において決定される。
対照レベルが卵巣子宮内膜症を罹患していない個体から採取された生物試料に由来する場合(すなわち、正常対照レベル)、対象由来生物試料中の発現レベルと正常対照レベルが同様であることは、治療が有効であることを表す。対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルと正常対照レベルに差がある場合は、臨床転帰または予後がそれほど望ましくないことを表す。
さらに、治療後に採取された対象由来生物試料において決定されるTFPI-2タンパク質発現レベル(すなわち、治療後レベル)を、治療を開始する前に採取された対象由来生物試料において決定されるTFPI-2タンパク質発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較し得る。治療後試料中のTFPI-2の発現レベルの減少もまた、治療が有効であることを示唆する。
本明細書において用いる「有効である」という用語は、治療が、病理学的に上方制御されるタンパク質(TFPI-2タンパク質)の発現の減少、または対象における子宮内膜嚢胞の大きさ、蔓延度、もしくは増殖能の低下をもたらすことを表す。治療を予防的に適用する場合、「有効である」とは、治療によって卵巣子宮内膜嚢胞の形成が遅延するかまたは妨げられることを表す。子宮内膜嚢胞の評価は、標準的な臨床手順を用いて行われ得る。
治療の有効性は、卵巣子宮内膜症を診断または治療するための任意の既知の方法と関連して決定される。卵巣子宮内膜症は例えば、子宮外における子宮内膜腺および間質の外科的同定と共に、例えば進行性月経困難症、性交疼痛症、慢性骨盤痛、および不妊症といった症候性異常を同定することにより診断される。
卵巣子宮内膜症を有する対象の予後評価
本発明はさらに、血液などの対象由来生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを対照レベルと比較することによる、卵巣子宮内膜症を有する対象の予後評価法を提供する。または、対象に由来する生物試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを、一連の病期にわたって測定し、対象の予後を評価することができる。評価法は、上記した本発明の卵巣子宮内膜症の診断法に類似した方法で行い得る。
例えば、正常対照レベルと比較して、対象由来試料中のTFPIタンパク質の発現レベルが増加していることは、対象の予後がそれほど望ましくないことを表す。逆に、対象由来試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルと正常対照レベルが比較された時、同様であることは、対象の予後がより望ましいことを表す。
キット
本発明はまた、上記の卵巣子宮内膜症の診断法を行うために用いられる1つまたは複数の材料(試薬および実験機器)を含むキットを提供する。好ましくは、キットは検出試薬、すなわちTFPI-2タンパク質に結合する1つまたは複数の抗体を含む。抗体(固体基質に結合してあるか、または基質に結合するための試薬と共に個別に包装される)などの試薬、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または抗体を検出する手段は、個別の容器中に包装されることが好ましい。
キットのアッセイ形式は、対象由来生物試料中のTFPI-2が本キットを用いて検出され得る限り、全く制限されない。キットは、試料中のタンパク質を検出するための当技術分野において周知の任意の種類の免疫測定法を含む、免疫測定法形式であることが好ましい。例えば、ELISAは本発明の診断を行う好ましい方法である。ELISAを行うための本発明のキットは好ましくは、(1) TFPI-2タンパク質に結合する、検出可能に標識されたポリクローナル抗体;および(2) 固体基質上に固定化された、TFPI-2タンパク質に結合するモノクローナル抗体を含む。または、キットは好ましくは、(1) TFPI-2タンパク質に結合する、検出可能に標識されたポリクローナル抗体;(2) 固体基質上に固定化され得る、TFPI-2タンパク質に結合するモノクローナル抗体;および(3) 基質上に(2)の抗体を固定化するための試薬を含む。キットは、(3)の試薬を用いて(2)の抗体を固定化するための基質をさらに含み得る。
チメロサールなどの保存剤を、キット中に含まれる酵素標識抗体に添加してもよい。さらに、グリセロールなどの安定剤を添加してもよい。標識抗体は、凍結乾燥に供し、冷暗条件下で保存することによって、長期保存することができる。固定化抗体にはアジ化ナトリウムなどの保存剤を添加することができ、抗体は冷条件下で保存することが好ましい。
さらに、対照試料(正常対照レベルおよび/または卵巣子宮内膜症対照レベルを有する)もまた本発明のキット中に含まれ得る。正常対照試料は健常対象から採取することができ、子宮内膜症対照試料は子宮内膜症と診断された対象から採取することができる。または、本発明の子宮内膜症対照試料は、正常対照試料にTFPI-2タンパク質を添加して調製することができる。さらに、標識抗体を検出するための試薬(基質など)がキットに含まれる。好ましくは、アッセイを行うための指示書(書面、テープ、VCR、CD-ROMなど)もまた、キットに含まれ得る。
TFPI-2に関する様々な婦人科研究が、妊娠の進行との関連に関して行われている。しかし、今日までに、このタンパク質が子宮内膜症の発症に関連するという報告はされてない。したがって本発明者らは、この遺伝子の安定な形質転換体を確立して、TFPI-2が細胞から分泌されるかどうかを調べ、また半定量RT-PCRおよび免疫組織化学法により、子宮内膜嚢胞においてこの遺伝子が過剰発現されることを実証した(図1および5)。
以下の実施例の項目で詳述するように、本発明は、TFPI-2タンパク質がヒト卵巣子宮内膜症に関与している可能性を実証する。この転写産物の発現が正常ヒト成体組織において比較的低いことから、この遺伝子自体を治療の新規標的とすることが可能である。
レーザーキャプチャーダイセクションとゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイを組み合わせることで得られた、本明細書に記載する卵巣子宮内膜症の遺伝子発現解析により、卵巣子宮内膜症の予防および治療の標的として、特定の遺伝子が同定された。TFPI-2タンパク質の発現に基づき、本発明は、卵巣子宮内膜症を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
本明細書に記載する方法は、卵巣子宮内膜症の予防、診断、および治療のためのさらなる分子標的を同定する段階にも有用である。本明細書に報告するデータは、卵巣子宮内膜症の包括的な理解を深め、新規診断方法の開発を促し、さらに治療薬および予防薬の分子標的を同定するための手がかりを提供する。このような情報は卵巣子宮内膜症の一層深い理解に寄与し、卵巣子宮内膜症の診断、治療、および最終的には予防に向けた新規方法を開発するための指標を提供する。
以下の実施例は、本発明を説明するため、および本発明の作製および使用に際して当業者を支援するために提示する。本実施例は、本発明の範囲をそれ以外に制限することをどのような場合においても意図しない。
[実施例1]材料および一般的方法
1. 組織調製
術前のインフォームドコンセントを行った後、産婦人科で嚢胞切除を受けた6名の患者から子宮内膜嚢胞を採取した。免疫組織化学法のため、切除直後に組織切片をO.C.T化合物(サクラ精機)中に封入した。
2. 血清
腹腔鏡下手術を行う1日前に、患者36名から血清を採取した。患者2名はrASRM I期に、13名はIII期に、および21名はIV期にあると分類された。対照として、4〜40歳の明らかに健常な女性12名および男性8名から血清試料を収集した。
3. 半定量RT-PCR
以前に記載されている通りに、半定量RT-PCR実験を行った(Ono et al., (2000) Cancer Res. 60: 5007-11)。子宮内膜嚢胞を採取して全RNAを抽出し、先行研究に従って、全RNAを用いたT7に基づくRNA増幅を行った(Arimoto et al. (2003) Int. J. Oncol. 22: 551-60)。各試料に由来する増幅RNAの3 μg分割量を、ランダムプライマー(Roche)およびSuperscript II(Life Technologies, Inc)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを得た。各cDNA混合物を希釈し、次に以下のプライマーセットを用いてPCR増幅した
‐TFPI-2フォワードプライマー:5’-TGACAGCATGAGGAAACAAATC-3’(SEQ ID NO: 1) およびリバースプライマー:5’-ACGACCCCAAGA AATGAGTG-3’ (SEQ ID NO: 2);
‐GAPDHフォワードプライマー: 5’-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3’ (SEQ ID NO: 3) およびリバースプライマー:5’-GGTTGAGC ACAGGGTACTTTATT-3’ (SEQ ID NO: 4)。
GAPDHの発現を内部対照とした。産物強度が増幅の直線期内に確実に収まるように、PCR反応のサイクル数を最適化した。
4. ノーザンブロッティング
種々のヒト組織に由来する2 μgのポリ(A)+ RNAを含む多組織ノーザンブロットメンブレン(Clontech)を、TFPI-2の32P標識部分cDNA断片とハイブリダイズさせた(TFPI-2フォワードプライマー:5’-GGAAAATTCGGAAGAAGCAA-3’ (SEQ ID NO: 5) およびリバースプライマー:5’-ACGACCCCAA GAAATGAGTG-3’ (SEQ ID NO: 2)。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は、他所に記載されている(Nakagawa et al. (2000) Oncogene 19:210-6)。
5. 大腸菌(Escherichia coli)における組換えタンパク質産生およびポリクローナル抗体の作製
シグナルペプチド(TFPI2:N末端の22残基)を含まないTFPI-2をコードするヒト cDNAクローン(GenBankアクセッション番号D29992)を大腸菌発現ベクターpET28a(Novagen)に挿入し、BL21-CodonPlus(登録商標)(DE3)-RILコンピテント細胞(Stratagene)に形質転換することで、組換えタンパク質を調製した。0.5 mMイソプロピルβ-D-チオガラクトシド(IPTG)で、37℃で3時間インキュベートしてタンパク質発現を誘導し、遠心して細胞を回収した。組換えTFPI-2を発現した大腸菌細胞のペレットを、6 M塩酸グアニジン、10 mM Tris、および10 mMイミダゾールを含む100 mMリン酸ナトリウム(無水)(pH 8.0)に溶解した。ヒスチジンタグ化TFPI-2タンパク質を、BD TALON(商標)Metal Affinity Resins(BD Biosciences)で精製した。次いで、6 M塩酸グアニジンを8 M尿素で交換した。希釈して尿素の濃度を4 Mに下げることにより、これらの精製組換えタンパク質をリフォールディングした。このタンパク質溶液をウサギに毎週注射し、10回免疫した後に抗血清を回収した(MBL)。精製組換えタンパク質を共有結合させたAffi-Gel 10(Bio-Rad)を用いるアフィニティクロマトグラフィーで、特異的抗体を単離した。
6. 細胞株
ヒト子宮内膜腺癌HEC-151細胞株は北里大学(日本、相模原市)から供与され、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むイーグル最小必須培地でこれを維持した。ヒト神経膠腫細胞株、Hs.683は、American Type Culture Collection(米国、バージニア州、マナッサス)から購入した。Hs.683細胞およびCos-7細胞は、10% FBSを含むダルベッコ改変イーグル培地で維持した。細胞は、5% CO2を含む加湿雰囲気中で37℃で維持した。
7. ウエスタンブロッティング
試料をSDS-PAGEにより還元条件下で分離し、Hybond(商標)ECL(商標)ニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech)に転写した。ブロット後の膜をBlock Ace(商標)粉末(大日本製薬)でブロッキングし、ウサギ抗TFPI-2(0.34 μg/ml)特異的ポリクローナル抗体で処理した。洗浄した後、ブロットを西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗ウサギIgG(Amersham Biosciences)で処理し、増強化学発光(ECL;Amersham Biosciences)で感光させた。
8. 免疫蛍光染色
細胞をLab-Tek(登録商標)II Chamber Slide System(Nalge Nunc International)に再プレーティングし、次に4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液で固定し、0.1% Triton X-100のPBS溶液により4℃で3分間透過処理した。3% BSAのPBS溶液を用いて室温で1時間ブロッキングした後に、細胞をウサギ抗TFPI-2抗体(0.34 μg/ml)と共に室温で1時間インキュベートした。これらの抗体をローダミン結合ヤギ抗ウサギ二次抗体でそれぞれ染色し、BX51顕微鏡(Olympus)で観察した。以下の安定な形質転換体の項で説明するように、安定な形質転換体もまた、マウス抗myc 9E10モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology、0.2 μg/ml)と共にインキュベートし、FITC結合ウサギ抗マウス二次抗体で染色した。
9. 免疫組織化学染色および交差阻害アッセイ
パラホルムアルデヒドで固定され、パラフィンで包埋された、完成された組織切片をBiochain Institute, Incから購入した。製造業者の手順に従ってDAKO EnVision(商標)+ System、HRP(DAB)(Dako)を使用し、切片を染色した。ポリクローナル抗体は、2.5 μg/ml(抗TFPI-2抗体で用いた。免疫染色阻害のため、抗体を、抗原(1.5μg)として使用された対応する組換えタンパク質と共に4℃で一晩プレインキュベートした。
10. 安定な形質転換体の作製
COS-7細胞を播種し、製造業者の手順に従って、FuGENE6 Transfection Reagent(Roche)を用いて、pcDNA3.1/myc-His(著作権)(-)-TFPI-2(Invitrogen)または対照としての空ベクターをトランスフェクションした。細胞を、0.4 mg/mlのG418を含む培地で最長3週間培養した。個々のクローンをクローニングシリンダーで単離した。TFPI-2を発現した細胞クローン(RT-PCR、ウエスタンブロッティング、および免疫蛍光染色により確認)を、0.4 mg/mlのG418を含む培地で維持し、さらなる試験に用いた。
11. TFPI-2濃度の測定
TFPI-2の濃度は、ビオチン化抗TFPI-2ポリクローナル抗体を用いたELISAによって測定した。まず、100μlのウサギ抗TFPI-2抗体(50 mmol/l炭酸ナトリウム(pH 9.5)中、10μg/ml)を96ウェルマイクロタイトレーションプレート(Maxisorp Immunoplate、Nunc)の各ウェルに添加し、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS-0.1% Tween 20で3回洗浄した後、各ウェルを200μlPBS-2% BSAで37℃にて2時間ブロッキングした。次いで、プレートをPBS-Tween 20で再度3回洗浄した。次に、血清試料100μlを各ウェルに添加し、プレートを37℃で2時間インキュベートした。その後、プレートをPBS-Tween 20で3回洗浄し、100μlのビオチン標識抗TFPI-2抗体(PBS-1% BSA中、1μg/ml)を各ウェルに添加した。抗体のビオチン化は、製造業者の手順に準じてECL Protein Biotinylatieon Module(Amersham Biosciences)を用いて行った。37℃で2時間インキュベートした後、プレートをPBS-Tween 20で3回洗浄し、100μlのペルオキシダーゼ結合アビジン(DAKO、PBS-1% BSAで4000倍に希釈)により室温で2時間処理した。次いで、プレートをPBS-Tween 20で6回洗浄し、100μlのo-フェニレンジアミン(DAKO、蒸留水12 mlおよび30%過酸化水素5μl中4錠)を各ウェルに添加した。プレートを室温で適当な時間(3〜5分)インキュベートした後、100μlの0.5 mol/l硫酸を各ウェルに添加して、吸光度(A490)を測定した。試料中のTFPI-2の濃度は、組み換えTFPI-2濃度に対するA490の検量線から補間した。
[実施例2]半定量RT-PCRによる、子宮内膜症におけるTFPI-2発現の確認
cDNAマイクロアレイを用いて、患者23名の卵巣子宮内膜嚢胞において、23,040個の遺伝子の遺伝子発現プロファイルを解析した(Arimoto et al. (2003) Int. J. Oncol. 22:551-60)。上方制御される遺伝子のうち、分泌期にあって遺伝子のシグナル強度がカットオフ値より高かった、情報として参照できる9症例のすべてにおいて過剰発現され、かつ増殖期にある症例の50%を上回る症例において下方制御されることが見出されたTFPI-2タンパク質をコードする遺伝子に注目し、さらなる研究を行うために選択した。さらに、半定量RT-PCR解析を行い、分泌期におけるTFPI-2の発現上昇を確認した(図1)。
[実施例3]TFPI-2タンパク質の発現
以前に記載されているようにTFPI-2が分泌タンパク質であるかどうかを調べるため、pcDNA3.1(-)-TFPI-2-myc-hisをCOS7細胞にトランスフェクションして、このタンパク質を安定に過剰発現する哺乳動物細胞の集団を確立した。いくつかの形質転換体における発現および細胞内局在性を、ウェスタンブロッティング(図2A)および免疫蛍光染色(図2B)により確認した。以前に記載されている通り、抗TFPI-2ポリクローナル抗体を伴ったTFPI-2センス形質転換体では、顕著な3本のTFPI-2バンド(約33、31、および27 kDa)が認められ、また対応するTFPI-2タンパク質は培養液(センス)中にも検出されたが、ベクタートランスフェクタント(モック)では認められなかった(図2A;左パネル)。さらに、抗TFPI-2ポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティング(図2A、右パネル)および免疫蛍光染色(図2C)により、HEC-151細胞およびHs.683細胞においてTFPI-2タンパク質の内因性発現が検出されたことから、TFPI-2タンパク質が分泌タンパク質のように細胞質中に局在することが明らかにされた。これらの結果から、TFPI-2が分泌タンパク質であることが示唆される。
[実施例4]免疫組織化学法による、子宮内膜嚢胞および正常ヒト組織におけるTFPI-2タンパク質発現の検出
ノーザンブロット解析により、TFPI-2は初め、胎盤で特異的に発現されることが実証された(図3、上パネル)。次に、ヒト正常組織において免疫組織化学染色を行い、TFPI-2タンパク質が胎盤の合胞体栄養細胞層および脱落膜細胞で発現されることが実証された;静脈周囲の肝細胞および心筋細胞の細胞質では弱い発現が認められ、脳、腎臓、肺、および骨格筋では染色(すなわち発現)はほとんど認められなかった(図4A)。
さらに、TFPI-2抗体が胎盤または小腸において対応するタンパク質を特異的に認識し得るかどうかを試験するため、交差阻害アッセイを行った。結果として、これらの細胞の染色が減少したことから、いずれのポリクローナル抗体も対応するタンパク質と特異的に反応することが示された(図4B)。
さらに、子宮内膜嚢胞切片中のTFPI-2タンパク質の発現を、免疫組織化学法により試験した。抗TFPI-2抗体により、タンパク質の陽性染色が子宮内膜嚢胞の上皮細胞に認められたが(図5、左パネル)、陰性対照として抗ウサギIgGを用いた場合には、同じ子宮内膜嚢胞組織に陽性染色は認められなかった。
[実施例5]子宮内膜症血清中のTFPI-2タンパク質の検出
TFPI-2が子宮内膜症の診断マーカーとなるかどうかの可能性をさらに試験するため、特異的TFPI-2ポリクローナル抗体を用いたELISAアッセイを行い、血清中のTFPI-2タンパク質の濃度を測定した。アッセイによって得られた用量反応曲線は、TFPI-2の20〜320 ng/mlの範囲にわたり直線的であった(図6A)。この検量線を用いて、ELISAによって検出される子宮内膜症患者の血清中のTFPI-2タンパク質の濃度を算出した。男性および非妊娠女性の血清中のTFPI-2濃度はどちらも1 ng/ml未満であることが報告されている(Butzow et al., (1998) Clin. Chem. 34: 1591-3)。さらに、この報告されている濃度に基づき、用量反応曲線が、本研究で対照として調査した健常男性8名および健常女性12名について測定された濃度を含む範囲内で直線的であることが確認された。36例の子宮内膜症血清試料のうち8例では、TFPI-2レベルが>20 ng/ml(範囲26.2〜66.3 ng/ml、中央値31.0 ng/ml)であったのに対し、20例の対照試料ではすべてのTFPI-2レベルが<20 ng/mlであった(図6B、p=0.023)。さらに、TFPI-2タンパク質は、rASRM IV期患者の21例の血清のうち6例で検出された(p=0.0097)。
産業上の利用可能性
本発明は、TFPI-2レベルが正常対照と比較して子宮内膜症患者の血清中で上昇しているという発見を含む。したがって、TFPI-2遺伝子およびタンパク質は、新規診断マーカー(すなわち、血液または血清)として有用性がある。TFPI-2レベルを指標として使用することで、本発明は子宮内膜症患者の診断法を提供する。
本発明を本発明の特定の態様に関して詳細に説明したが、上記説明は事実上、例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様の説明を意図することが理解されるべきである。日常的な実験を通して、当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変がなされ得ることを容易に理解すると考えられる。したがって、本発明は上記説明によって規定されることを意図しておらず、特許請求の範囲およびそれらの等価物によって規定されることを意図する。
分泌期におけるTFPI-2の発現を示す。増幅したRNAから調製したcDNAを用いた半定量RT-PCRによって、TFPI-2およびGAPDHの発現を試験した。「C」は対照を表す。図1の結果から、分泌期にある14症例のうち9症例において、TFPI-2の発現が上方制御されていることが実証される。 TFPI-2タンパク質の細胞内局在性を示す。図2(A)は、pcDNA3.1-myc/His-センスプラスミドまたはモックをトランスフェクトしたCOS-7細胞の抽出物を用いた、mycタグ化TFPI-2タンパク質のウェスタンブロット解析の結果を示す。「細胞」は細胞溶解物を指し;「培地」は馴化培地を指す。さらに、HEC-151細胞およびHs.683細胞において、TFPI-2の内因性発現を検出した。図2(B)は、TFPI-2安定トランスフェクタントおよびモック安定トランスフェクタントの免疫蛍光染色の結果を示す。図2(C)は、抗TFPI-2抗体によるHEC-151細胞およびHs.683細胞の免疫蛍光染色の結果を示す。TFPI-2の外因性発現パターンと内因性発現パターンは同一であった。 TFPI-2 mRNAのノーザンブロット解析の結果を示す。「材料および方法」の項目に記載したように、多組織ノーザンブロットメンブレン(Clontech)を、TFPI-2のcDNA断片とハイブリダイズさせた。RNAサイズマーカーはキロベース対(kb)で示してある。 TFPI-2タンパク質の免疫組織化学染色の結果を示す。図4(A)は、抗TFPI-2抗体によるヒト成体正常組織切片の免疫組織化学染色の結果を示す。胎盤に強い染色が認められ、それよりもかなり弱い染色が肝臓および心臓で認められ、脳、腎臓、肺、および骨格筋では染色は認められなかった。図4(B)は、交差阻害アッセイの結果を示す。組み換えTFPI-2タンパク質は、胎盤におけるTFPI-2染色を阻害した。 免疫組織化学法によって試験した、子宮内膜嚢胞におけるTFPI-2タンパク質の発現パターンを示す。抗TFPI-2抗体により、強い染色が子宮内膜嚢胞の上皮細胞で、またある程度間質細胞でも認められた(左パネル)。陰性対照である抗ウサギIgGを用いた場合には、同じ子宮内膜嚢胞組織において陽性染色は認められなかった(右パネル)。上のパネルは低倍率(X100)での画像を示し、下のパネルは高倍率(X200)での画像を示す。矢印は嚢胞の上皮細胞を表す。 図6(A)は、段階希釈した組み換えTFPI-2を用いてプロットした、TFPI-2 ELISAの検量線を示す。プロットした点はそれぞれ、重複した測定値の平均値を表す。図6(B)は、子宮内膜症患者および対照から採取された血清中のTRPI-2の検出の結果を示す棒グラフである。TFPI-2は、36例の子宮内膜症血清試料のうち8例で(p=0.023)、21例のrASRM IV期試料のうち6例で(p=0.0097)検出された。20例の対照試料では、TFPI-2の発現は検出されなかった。

Claims (10)

  1. 対象から採取された血液または血液由来試料中のTFPI-2タンパク質の発現レベルを卵巣子宮内膜症のマーカーとして決定する段階を含む、対象における卵巣子宮内膜症のマーカーを検出する方法であって、前記マーカーは、その発現レベルが正常対照レベルと比較して増加している場合、該対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることを示し、または該発現レベルが疾患対照レベルと比較して同等である場合には、該対象が卵巣子宮内膜症に罹患していることを示す方法。
  2. 発現レベルが免疫測定法によって決定される、請求項1記載の方法。
  3. 免疫測定法がELISAである、請求項2記載の方法。
  4. TFPI-2タンパク質に対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が、それぞれELISAの標識抗体および固定化抗体として用いられる、請求項3記載の方法。
  5. 血液由来試料が血清または血漿である、請求項1記載の方法。
  6. TFPI-2タンパク質に結合する1つまたは複数の抗体を含む、血中の卵巣子宮内膜症のマーカーを検出するためのキットであって、
    (1) TFPI-2タンパク質に結合する、検出可能に標識された抗体、および(2) 固体基質上に固定化された、TFPI-2タンパク質に結合する抗体を含むキット
  7. 検出可能に標識された抗体がポリクローナルであり、固体基質上に固定化された抗体がモノクローナルである、請求項6記載のキット。
  8. TFPI-2タンパク質に結合する1つまたは複数の抗体を含む、血中の卵巣子宮内膜症のマーカーを検出するためのキットであって、(1) TFPI-2タンパク質に結合する、検出可能に標識された抗体、(2) 固体基質上に固定化され得る、TFPI-2タンパク質に結合する抗体、および(3) 固体基質上に(2)の抗体を固定化するための試薬を含むキット
  9. 検出可能に標識された抗体がポリクローナルであり、固体基質上に固定化され得る抗体がモノクローナルである、請求項8記載のキット。
  10. 正常対照試料および子宮内膜症対照試料のいずれかまたは両方をさらに含む、請求項6〜請求項9のいずれかに記載のキット。
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