JP4599785B2 - 内燃機関のピストン温度制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、筒内噴射式の内燃機関においてピストンの温度を制御する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料消費率の向上の観点から、成層燃焼を行う内燃機関が開発されている。一般に、成層燃焼を行うガソリン機関では、筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射方式を採用し、高負荷又は高速回転時にあっては吸気行程噴射により均質燃焼を行って出力の向上を図る一方、低負荷低速回転時にあっては圧縮行程噴射により成層燃焼を行って燃料消費率の向上を図るようにしている。
【0003】
かかる成層燃焼時には、もともと発熱量が少ない上、圧縮行程噴射のため燃料がピストン表面から奪う熱の量が多いことから、ピストン温度が低くなるのに対し、均質燃焼時には、もともと発熱量が多い上、吸気行程噴射のため燃料がピストン表面から奪う熱の量が少ないことから、ピストン温度が上昇するという不具合がある。
【0004】
そこで、例えば、特開平10−68319号公報には、高負荷又は高速回転時にあっては、吸気行程噴射を行うとともにオイルジェットによるピストン冷却を実行することによりピストンの耐熱性を確保する一方、低負荷低速回転時にあっては、圧縮行程噴射を行うとともにオイルジェットによるピストン冷却を停止することによりピストンの温度を上昇させて燃料の微粒化及び気化を促進する筒内噴射式ガソリン機関が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、筒内噴射式の機関では、筒内に噴射された燃料がピストン及び吸入空気から気化熱を奪うことで気化している。そのため、機関の負荷が上昇してピストン非冷却状態からピストン冷却状態に切り換わる際には、燃料量の増加に伴う気化熱の増加とオイルジェットによるピストン冷却とが同時に生ずるため、ピストンが過冷却状態となり、燃焼室温度も低下し、その結果、燃料の気化が妨げられて混合気濃度が不安定となり燃焼が悪化する場合がある。その場合には、HCの増加、燃料消費率の悪化、燃焼変動の増大といった問題が生ずる。
【0006】
一方、機関の負荷の減少によってピストン冷却状態からピストン非冷却状態に切り換わる際には、その逆にピストンが過熱状態となって燃焼が悪化する場合がある。
【0007】
また、ピストン非冷却状態とピストン冷却状態との切り換えの前後では、定常状態に達したときのピストン温度に大きな差があるため、切り換え時点から定常状態でのピストン温度に達する時点までに相当の時間がかかるという問題もある。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピストンの温度を制御するオイルジェットを備えた内燃機関において、負荷の増減に伴ってピストンの非冷却状態と冷却状態との切り換えが生ずる過渡時にあっても、燃焼の悪化を生ずることがなく、しかも迅速に次の定常状態へと移行可能なように制御するピストン温度制御装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の第1の面によれば、ピストンへオイルを供給するオイルジェットを備えた内燃機関においてピストンの温度を制御する装置であって、機関負荷の増減に伴ってピストン非冷却状態とピストン冷却状態との切り換えが生じる過渡時に、該オイルジェットによるオイルの供給と停止のみを利用してピストンを中間的な冷却状態とする冷却状態制御手段を設けたことを特徴とする、内燃機関のピストン温度制御装置が提供される。
【0010】
上述の如く構成された、この本発明の第1の面による内燃機関のピストン温度制御装置においては、ピストン非冷却状態とピストン冷却状態との切り換えが生じる過渡時に中間的な冷却状態が生ずることにより、ピストンの過冷却や過熱による燃焼悪化が抑制される。供給オイル量を徐々に変化させる制御では、オイルがピストンに当たらなくなった時点あるいは当たるようになった時点で冷却状態が急変してしまうこと、及びオイルがピストンに当たる/当たらないの境界がその時のオイル粘度などによって異なること、から中間的な状態に制御することが難しいが、オイルの供給と停止のみで中間的な冷却状態とする手段を用いることにより、確実に中間状態とすることができる。
【0011】
また、本発明の第2の面によれば、前記本発明の第1の面によるピストン温度制御装置において、前記冷却状態制御手段は、オイル供給の実行状態と停止状態との切り換えを遅延する手段である。
【0012】
この本発明の第2の面によるピストン温度制御装置においては、気化熱の増減とオイルによる熱の持ち去り状態の変化との間に時間的なずれが生ずることにより、ピストンが中間的な冷却状態となる。
【0013】
また、本発明の第3の面によれば、前記本発明の第1の面によるピストン温度制御装置において、前記冷却状態制御手段は、間欠的にオイル供給を行わせる手段である。
【0014】
この本発明の第3の面によるピストン温度制御装置においては、オイルによる熱の持ち去り状態の変化が緩和されることにより、ピストンが中間的な冷却状態となる。
【0015】
また、本発明の第4の面によれば、前記本発明の第3の面によるピストン温度制御装置において、前記冷却状態制御手段は、低負荷に対応する非冷却領域と高負荷に対応する冷却領域との境界近傍に設けられた中間領域において作動する。
【0016】
また、本発明の第5の面によれば、前記本発明の第4の面によるピストン温度制御装置において、前記中間領域は、負荷が増加する場合には該冷却領域に一時的に設けられ、負荷が減少する場合には該非冷却領域に一時的に設けられる。
【0017】
また、本発明の第6の面によれば、前記本発明の第3の面によるピストン温度制御装置において、前記冷却状態制御手段は、切り換え過渡時に所定時間作動する。
【0018】
また、本発明の第7の面によれば、前記本発明の第1〜6の面によるピストン温度制御装置において、前記冷却状態制御手段は、負荷の変化が所定の増減割合以上であることに基づいて作動する。
【0019】
負荷(燃料量)の変化が緩やかである場合には、気化熱の変化が小さいため、この本発明の第7の面によるピストン温度制御装置のように、定常状態の制御に合わせる方が、燃焼が良好となる。
【0020】
また、本発明の第8の面によれば、前記本発明の第7の面によるピストン温度制御装置において、前記内燃機関は少なくとも成層燃焼運転と均質燃焼運転とが可能であり、前記冷却状態制御手段は、非冷却状態と冷却状態との切り換え及び成層燃焼と均質燃焼との切り換えの両方が同時に生ずることに基づいて作動する。
【0021】
負荷の増加が緩やかである場合、燃料の増加が少ないため、気化熱の増加によるピストン表面温度減少の影響よりも燃焼モードの変更によるピストン表面温度上昇の影響が大きく、ピストン温度は上昇し易い。そのため、この本発明の第8の面によるピストン温度制御装置においては、速やかに冷却を開始することにより、燃焼悪化が抑制される。同様に、負荷の減少が緩やかである場合、気化熱の減少によるピストン表面温度上昇の影響よりも燃焼モードの変更によるピストン表面温度減少の影響が大きいため、速やかに非冷却状態に移行することにより、燃焼悪化が抑制される。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストン温度制御装置の構成を示す図である。この内燃機関は、筒内噴射式直列多気筒ガソリン機関であって均質燃焼及び成層燃焼を行うものである。機関のシリンダブロックには、上下方向へ延びる複数個の気筒10が紙面の厚み方向へ並設され、各気筒10内には、冠面に円盤状のキャビティ12aを有するピストン12が往復動可能に収容されている。各ピストン12は、コネクティングロッド14を介し共通のクランクシャフト(図示せず)に連結されている。
【0024】
また、機関のシリンダヘッドには、直接、筒内に燃料を噴射するインジェクタ16が取付けられている。インジェクタから噴射される燃料は、吸気通路18、吸気ポート20及び吸気バルブ22を介して筒内へ導入される空気と筒内において合流して混合気となる。なお、均質燃焼を行う場合には吸気行程で噴射が行われる一方、成層燃焼を行う場合には圧縮行程においてピストン12のキャビティ12aに向けて噴射が行われる。
【0025】
この混合気に着火するために、シリンダヘッドには気筒毎にスパークプラグ24が取付けられている。均質燃焼の場合、吸気行程噴射により筒内に均一な混合気が形成された後に点火が行われる。一方、成層燃焼の場合、圧縮行程において噴射された燃料がスパークプラグ24付近に多くあるときに点火が行われ、その部分の混合気が燃焼する。燃焼した混合気は、排気ガスとして排気バルブ26、排気ポート28及び排気通路30を介して大気中に排出される。
【0026】
この機関では、高負荷又は高速回転時にあっては吸気行程噴射により均質燃焼運転を行って出力の向上が図られる一方、低負荷低速回転時にあっては圧縮行程噴射により成層燃焼運転を行って燃料消費率の向上が図られる。
【0027】
そして、前述のように、成層燃焼運転時には、もともと発熱量が少ない上、圧縮行程噴射のため燃料がピストン表面から奪う熱の量が多いことから、ピストン温度が低くなるのに対し、均質燃焼時には、もともと発熱量が多い上、吸気行程噴射のため燃料がピストン表面から奪う熱の量が少ないため、ピストン温度が上昇する。
【0028】
そのため、この機関では、ピストン12の温度が冷却手段により制御され得るように構成されている。すなわち、ピストン12の冷却のために、ピストン12の内部には、円環状の空洞がピストンオイルギャラリ12bとして設けられている。このピストンオイルギャラリ12bには、オイルジェット40から噴射されたオイルが供給される。
【0029】
また、シリンダブロックには、オイルジェット40から噴射されるオイルのためのサブオイルギャラリ42が設けられている。そして、サブオイルギャラリ42には、電磁弁44を介して機関のメインオイルギャラリ46からオイルが供給される。
【0030】
すなわち、電磁弁44がオンにされると、サブオイルギャラリ42とメインオイルギャラリ46とが連通し、オイルジェット40からピストンオイルギャラリ12bに向けてオイルが噴射され、そのオイルがピストン12から熱を奪うことにより、ピストン12が冷却される。
【0031】
一方、電磁弁44がオフにされると、サブオイルギャラリ42とメインオイルギャラリ46との接続が遮断され、オイルジェット40からピストンオイルギャラリ12bに向けてのオイル噴射が停止されることにより、ピストン12が非冷却状態すなわち断熱状態とされる。
【0032】
電子制御装置(ECU)50は、燃料噴射制御、点火時期制御等に加え、機関運転状態に基づいて電磁弁44のオン/オフ制御、すなわち電磁弁44内のコイルへの通電のオン/オフ制御を実行するマイクロコンピュータシステムである。
【0033】
図2は、ピストン温度の制御マップの一例を示す図であり、横軸は機関回転速度、縦軸は機関負荷を示す。機関負荷としては、例えば、現在のアクセル開度が全開時に対してどれだけの割合であるかを百分率として示す数値である負荷率が使用される。
【0034】
この図に示されるように、境界線Lを境に、低負荷低速回転の領域は、圧縮行程噴射による成層燃焼運転が行われる領域に対応しており、オイルジェット40からピストンオイルギャラリ12bに向けてのオイル噴射が停止される非冷却領域(断熱領域)とされる。
【0035】
一方、境界線Lを境に、高負荷高速回転の領域は、吸気行程噴射による均質燃焼運転が行われる領域に対応しており、オイルジェット40からピストンオイルギャラリ12bに向けてのオイル噴射が実行される冷却領域とされる。
【0036】
さて、前述のように、本発明は、負荷の増減に伴ってピストンの非冷却状態と冷却状態との切り換えが生ずる過渡時にあっても、燃焼の悪化を生ずることのないように制御することを目的としており、かかる過渡時には、オイルの供給と停止のみを利用してピストンを中間的な冷却状態とすることで当該目的を達成する。最初に、オイル供給の実行状態と停止状態との切り換えを遅延することにより、かかる中間的な冷却状態を実現する実施形態について説明する。
【0037】
図3は、ECU50において実行されるピストン温度制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。このルーチンは、ECU50において一定周期で実行される。まず、ステップ102では、現在の機関運転状態として回転速度及び負荷が検出される。
【0038】
次いで、ステップ104では、前回の本ルーチンの走行において機関運転状態が図2の非冷却領域にあったか否かが判定される。前回、非冷却領域にあったと判定される場合には、ステップ106に進み、今回、機関運転状態が非冷却領域にあるか否かが判定される。
【0039】
ステップ106において今回は非冷却領域にない、即ち冷却領域にあると判定される場合には、非冷却領域から冷却領域への遷移が起こったこととなるため、ステップ108に進み、オイル供給の停止状態から実行状態への遅延時間が所定の冷却遅延タイマーにセットされる。この冷却遅延タイマーは、一定の時間がセットされると零になるまで自動的にデクリメントされていくダウンカウンタとして構成されるタイマーである。
【0040】
この冷却遅延タイマーにセットされるべき時間を定めたマップの一例が図4に示される。この図に示されるように、冷却遅延時間は、機関負荷の増加割合に応じて定められ、ある一定の負荷増加割合ΔE1までは0であるが、その後、負荷増加割合がΔE2、ΔE3、ΔE4と増大するにつれて、10秒、20秒、30秒と増大せしめられる。なお、単に、一定時間(例えば、30秒)として設定してもよい。
【0041】
図3に戻り、ステップ104において、前回、非冷却領域になかった、即ち冷却領域にあったと判定される場合には、ステップ110に進み、ステップ106と同様に、今回、機関運転状態が非冷却領域にあるか否かが判定される。
【0042】
ステップ110において今回は非冷却領域にあると判定される場合には、冷却領域から非冷却領域への遷移が起こったこととなるため、ステップ112に進み、オイル供給の実行状態から停止状態への遅延時間が所定の非冷却遅延タイマーにセットされる。この非冷却遅延タイマーは、前述の冷却遅延タイマーと同様に構成され、そのタイマーにセットされるべき非冷却遅延時間は、機関負荷の減少割合に応じて定められる。
【0043】
ステップ106において前回に引き続き今回も非冷却領域にあると判定される場合、又はステップ112の実行後には、ステップ114に進み、非冷却遅延タイマーの値が0であるか否かが判定される。タイマー値が0である場合には、ステップ118に進み、オイル噴射の停止状態とされる。一方、タイマー値が0でない場合には、ステップ120に進み、オイル噴射の実行状態とされる。
【0044】
また、ステップ110において前回に引き続き今回も冷却領域にあると判定される場合、又はステップ108の実行後には、ステップ116に進み、冷却遅延タイマーの値が0であるか否かが判定される。タイマー値が0である場合には、ステップ120に進み、オイル噴射の実行状態とされる。一方、タイマー値が0でない場合には、ステップ118に進み、オイル噴射の停止状態とされる。
【0045】
ステップ118又は120の実行後、本ルーチンは終了する。このような図3に示す制御によれば、例えば、負荷の急増により非冷却領域(断熱領域)から冷却領域への遷移が起こった場合には、図5に示されるように、オイル噴射により実際にピストンの冷却が開始されるのが一定時間だけ遅延せしめられることとなる。
【0046】
なお、図2に示される制御マップに代えて、図6に示されるような制御マップが使用される場合もある。この図において、境界線Lを境に、低負荷低速回転の領域は、圧縮行程噴射による成層燃焼運転が行われる領域に対応している。一方、境界線Lを境に、高負荷高速回転の領域は、吸気行程噴射による均質燃焼運転が行われる領域に対応している。
【0047】
そして、成層燃焼領域内の低負荷低速回転側R1は、非冷却領域とされる一方、成層燃焼領域内の高負荷高速回転側R2は、冷却領域とされる。また、均質燃焼領域内の低負荷低速回転側R3は、非冷却領域とされる一方、均質燃焼領域内の高負荷高速回転側R4は、冷却領域とされる。
【0048】
このように非冷却領域や冷却領域がそれぞれ複数の領域から構成される場合には、図3のステップ108やステップ112において遅延時間を決定するに際し、どの非冷却領域からどの冷却領域への移行であるか、又はどの冷却領域からどの非冷却領域への移行であるかに応じて、遅延時間を定めることができる。
【0049】
次に、間欠的にオイル供給を行わせることにより、中間的な冷却状態を実現する実施形態について説明する。この実施形態においては、例えば、図7に示されるピストン温度制御マップが使用される。図2の制御マップと同様に、図7の制御マップにおいても、境界線Lを境に、低負荷低速回転の領域は、圧縮行程噴射による成層燃焼運転が行われる領域に対応しており、オイル噴射が停止される非冷却領域(断熱領域)とされる一方、境界線Lを境に、高負荷高速回転の領域は、吸気行程噴射による均質燃焼運転が行われる領域に対応しており、オイル噴射が実行される冷却領域とされる。
【0050】
ただし、この実施形態においては、図7に示されるように、境界線Lをほぼ中央付近に含む帯状の領域が中間領域として定義される。そして、この中間領域にあっては、間欠的にオイル噴射が行われる。すなわち、図8に示されるように、電磁弁44がオフにされてオイルジェット40からのオイル噴射が停止される時間と、電磁弁44がオンにされてオイルジェット40からのオイル噴射が実行される時間とが交互に繰り返される。なお、このようなオン/オフ繰り返し制御におけるオン時間及びオフ時間は、電磁弁44の制御応答遅れを考慮して、数秒単位に設定される。
【0051】
図9は、図7の制御マップを用いたピストン温度制御の手順を示すフローチャートである。このルーチンは、一定時間周期で実行される。まず、ステップ202では、機関運転状態として現在の回転速度及び負荷が検出される。
【0052】
次いで、ステップ204では、検出された機関運転状態と図7に示されるマップとから、現在の機関運転状態が中間領域を除く非冷却領域に属するか否かが判定される。
【0053】
現在の機関運転状態が中間領域を除く非冷却領域に属すると判定された場合には、ステップ206に進み、オイル噴射の停止状態とされる。
【0054】
一方、現在の機関運転状態が中間領域を除く非冷却領域には属しないと判定された場合には、ステップ208に進み、現在の機関運転状態が、図7に示される中間領域に属するか否かが判定される。
【0055】
ステップ208で中間領域にあると判定された場合には、ステップ210に進み、前述したオイルの間欠噴射が実行される。
【0056】
一方、ステップ208で中間領域にないと判定された場合には、結果的に、中間領域を除く冷却領域にあることとなるため、ステップ212に進み、オイルの連続的な噴射が実行される。
【0057】
図10は、回転速度を一定として負荷とピストン温度との関係を、上述の中間領域に基づく制御(オン/オフ繰り返し制御)を実施する場合と実施しない場合とについて示す特性図である。この図に示されるように、中間領域に基づく制御を実施しない場合には、非冷却領域と冷却領域との切り換え点においてピストン温度の段差が生ずるのに対し、中間領域に基づく制御を実施する場合には、かかる段差が生ずることがなく、その後、どちらの領域に移行したとしても、速やかに所望のピストン温度へと変化することとなる。
【0058】
なお、図7に示される中間領域は、過渡状態における一時的な領域となることを前提としており、その中間領域では、常にオイルの間欠噴射が行われることとなるが、その中間領域に一定時間以上留まるときには、本来の非冷却領域に属するか又は冷却領域に属するかを判断して、制御するようにしてもよい。すなわち、中間領域において所定時間だけ間欠噴射がされるようにしてもよい。
【0059】
また、図7に示される中間領域に代えて、以下のように中間領域を設けてもよい。すなわち、機関負荷が増加して非冷却領域から冷却領域へと移行する場合にあっては、図11(A)に示されるように、定常時の冷却領域に一時的に中間領域が設けられるようにする。そうすることにより、その中間領域に一定時間以上、留まる場合には、オイル間欠噴射からオイル連続噴射へと制御状態を移行させることができる。
【0060】
また、機関負荷が減少して冷却領域から非冷却領域へと移行する場合にあっては、図11(B)に示されるように、定常時の非冷却領域に一時的に中間領域が設けられるようにする。そうすることにより、その中間領域に一定時間以上、留まる場合には、オイル間欠噴射からオイル噴射停止状態へと制御状態を移行させることができる。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ピストンの温度を制御するオイルジェットを備えた内燃機関において、負荷の増減に伴ってピストンの非冷却状態と冷却状態との切り換えが生ずる過渡時にあっても、燃焼の悪化を生ずることがなく、しかも迅速に次の定常状態へと移行可能なように制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストン温度制御装置の構成を示す図である。
【図2】ピストン温度の制御マップの一例を示す図である。
【図3】ECUにおいて実行されるピストン温度制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図4】負荷増加割合に応じて冷却遅延時間を定めたマップを示す図である。
【図5】非冷却状態から冷却状態への切り換えの遅延を説明するための図である。
【図6】ピストン温度制御マップの他の例を示す図である。
【図7】ピストン温度制御マップの更に他の例を示す図である。
【図8】中間領域におけるオイル間欠噴射を説明するためのタイムチャートである。
【図9】他の実施形態に係るピストン温度制御ルーチンの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】回転速度を一定として負荷とピストン温度との関係を、中間領域に基づく制御を実施する場合と実施しない場合とについて示す特性図である。
【図11】中間領域の他の設定例について説明するための図である。
【符号の説明】
10…気筒
12…ピストン
12a…キャビティ
12b…ピストンオイルギャラリ
14…コネクティングロッド
16…インジェクタ
18…吸気通路
20…吸気ポート
22…吸気バルブ
24…スパークプラグ
26…排気バルブ
28…排気ポート
30…排気通路
40…オイルジェット
42…サブオイルギャラリ
44…電磁弁
46…メインオイルギャラリ
50…電子制御装置(ECU)

Claims (6)

  1. ピストンへオイルを供給するオイルジェットを備えた内燃機関においてピストンの温度を制御する装置であって、機関負荷の増減に伴って、ピストンへのオイルの供給が停止されるピストン非冷却状態と、ピストンへオイルが供給されるピストン冷却状態との切り換えが生じる過渡時に、該オイルジェットによるオイルの供給と停止のみを利用してピストンを中間的な冷却状態とする冷却状態制御手段を設け、前記冷却状態制御手段は、オイル供給の実行状態と停止状態との切り換えを遅延する手段であることを特徴とする、内燃機関のピストン温度制御装置。
  2. ピストンへオイルを供給するオイルジェットを備えた内燃機関においてピストンの温度を制御する装置であって、機関負荷の増減に伴って、ピストンへのオイルの供給が停止されるピストン非冷却状態と、ピストンへオイルが供給されるピストン冷却状態との切り換えが生じる過渡時に、該オイルジェットによるオイルの供給と停止のみを利用してピストンを中間的な冷却状態とする冷却状態制御手段を設け、前記冷却状態制御手段は、間欠的にオイル供給を行わせる手段であり、前記冷却状態制御手段は、低負荷に対応する非冷却領域と高負荷に対応する冷却領域との境界近傍に設けられた中間領域において作動することを特徴とする、内燃機関のピストン温度制御装置。
  3. 前記中間領域は、負荷が増加する場合には該冷却領域に一時的に設けられ、負荷が減少する場合には該非冷却領域に一時的に設けられる、請求項に記載の内燃機関のピストン温度制御装置。
  4. 前記冷却状態制御手段は、切り換え過渡時に所定時間作動する、請求項に記載の内燃機関のピストン温度制御装置。
  5. 前記冷却状態制御手段は、負荷の変化が所定の増減割合以上であることに基づいて作動する、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の内燃機関のピストン温度制御装置。
  6. 前記内燃機関は少なくとも成層燃焼運転と均質燃焼運転とが可能であり、前記冷却状態制御手段は、非冷却状態と冷却状態との切り換え及び成層燃焼と均質燃焼との切り換えの両方が同時に生ずることに基づいて作動する、請求項に記載の内燃機関のピストン温度制御装置。
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