JP4599521B2 - 銅合金中の鉛除去方法 - Google Patents

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Description

本発明は、青銅や黄銅などの銅合金中に含まれる鉛の除去方法に関するものであり、特に錫を含む銅合金のスクラップから鉛を除去してリサイクルする場合に用いられる銅合金中の鉛の除去方法に関するものである。
特開平10−140254号公報(以下、特許文献1という)に、鉛を含む黄銅溶湯中に金属カルシウム及び/又は銅カルシウム合金を添加し、鉛をカルシウムとの化合物にして除去する方法が知られている。このとき得られる化合物の大きさが数ミクロン程度しかなく、黄銅溶湯をフィルター処理し、鉛化合物を分離除去している。
前に本発明者らは、鉛を含む銅合金から鉛を除去する際に、カルシウム添加によって生成されるCa−Pb系化合物の粒径を大きくし、かつそれを溶湯の上面に浮上分離させ鉛を分離・除去する方法を研究し、添加剤としてカルシウムシリコン(例えばCaSi)を用いたが、鉛除去率は最高43.7%であった。(非特許文献1)
特開平10−140254号公報 山田宏作、外4名、「黄銅スクラップの鉛除去」、ジャーナル オブ アドバンスト サイエンス、第13巻、第3号、2001年、p273〜276。
しかしながら、特許文献1には、鉛を除去するため黄銅溶湯にフィルター処理が必要であり、溶湯に高圧をかけ、かつ温度を長時間凝固点以上に保持するという問題があり、高価な付帯設備を必要とする。また、カルシウムシリコンを用いて鉛化合物を生成させ、これを単に浮上分離する方法では鉛の除去率は50%以下であり、鉛除去率は満足できる値に達しなかった。
本出願人等が先に出願した特願2003−176348号明細書に記載した発明においては、カルシウムシリコンらを脱鉛剤として先に添加し、次にフッ化ナトリウムらを添加しており、その逆順は記載されていない。また、この方法では錫を含んだ銅合金に脱鉛剤を添加すると鉛よりも錫と反応して錫化合物を生成し、次にフッ化ナトリウムらを添加しても鉛化合物は浮上分離せずに鉛除去率は65%以下にとどまっている。しかも合金成分である錫を除去してしまうおそれがあった。
そこで本発明は、高価で特殊な設備を必要とせず、しかも錫を含んだ銅合金でも合金成分はそのままに鉛除去を達成できる方法を提供しようとするものである。
上記目的を達成するため、本発明は、銅合金の溶湯中に先に錫ブロック剤を添加・混合して錫ブロック剤と銅合金中の錫とを化合させる手段で、次に添加する脱鉛剤と錫が化合することを阻止し、脱鉛剤が銅合金中の鉛と選択的に化合し鉛化合物を生成させ、銅合金成分である錫成分を失わせることなく鉛化合物を浮上分離させて排除することを特徴とする。
ここで銅合金とは、銅を主成分とする合金をいい、黄銅又は青銅を主な対象とするが、特にこれらに限定するものではない。
錫ブロック剤とは、フッ化ナトリウム、又はケイフッ化ナトリウムである。このような錫ブロック剤を用いることで、銅合金中の錫が脱鉛剤と化合することを阻止することができる特徴がある。例えば錫ブロック剤としてフッ化ナトリウムを用いた場合、Sn−F−Na系化合物を先に生成させることで、次に脱鉛剤を添加したとき脱鉛剤と錫とが化合物にならないようにし、脱鉛剤が鉛と選択的に化合することを特徴とする。
また、鉛と脱鉛剤とで生成された鉛化合物は、錫ブロック剤に結合する傾向がみられるため、必要に応じて脱鉛剤の添加後に追加で錫ブロック剤を凝集剤として添加し、鉛化合物の粒子を凝集し浮上分離を促進させることができる。このとき、黒曜石,シラス等を含むアルミノケイ酸塩ガラスも凝集剤として効果がある。
脱鉛剤とは、カルシウムシリコン又は金属カルシウムである。銅合金中に含まれる鉛と選択的に反応して化合物を生成し、その化合物の凝固点が銅合金より高く、かつ比重が軽いものが好ましい。このような脱鉛剤を用いることで、銅合金中に含まれる錫や亜鉛成分を失わせることなく、鉛のみを銅合金の溶湯中から分離・除去しようとするものである。
金属カルシウムが鉛と化合物を作りやすいことは知られているが、カルシウムシリコンも同様の効果を示すことがわかった。ここでカルシウムシリコンとは、カルシウムとケイ素の合金及びCaSi、CaSi、CaSiなどの化合物とこれらの混合物が含まれる。カルシウムとケイ素の質量比は1:4〜4:1のものが好ましい。
錫ブロック剤は、銅合金の溶湯に対し、0.01〜15質量%添加・混合することを特徴とする。
錫ブロック剤の添加量が0.01質量%未満では鉛の除去効果がみられず、15質量%を越えて添加しても鉛除去率の向上はみられないからである。
脱鉛剤は、銅合金の溶湯に対し、0.01〜15質量%添加・混合することを特徴とする。
脱鉛剤の添加量が0.01質量%未満では鉛の除去効果がみられず、また15質量%を越えて添加しても鉛の除去率の向上はみられないからである。
また、銅合金の溶湯に対し、錫ブロック剤又は/及び脱鉛剤を1.0〜10.0質量%添加・混合するとより好ましい結果が得られ、錫ブロック剤及び脱鉛剤も必要以上に使用することがない。
錫ブロック剤及び脱鉛剤を銅合金の溶湯に添加するときの温度について、銅合金の少なくとも凝固点を越え、かつ1300℃以下であることを特徴とする。
銅合金の溶湯の温度が凝固点以下となると、溶湯の一部で凝固が始まるおそれが生じ、また1300℃以上を越える温度では溶湯中の他の金属、例えば亜鉛が蒸発し、合金の組成が大きく変化することが懸念されているからである。
本発明によれば、錫と鉛を含有する銅合金から容易に鉛を除去することができる。 特に、銅合金に含まれる錫や亜鉛などの必要とされる合金成分を消耗するおそれもなく、鉛を除去した青銅や黄銅の銅合金を取得することができ、銅合金の再利用が可能となり、国際的な鉛の使用規制に対応することもできる。
すなわち、本願発明方法によれば、銅合金中に含まれる錫が脱鉛剤と化合することを阻止し、脱鉛剤が鉛と選択的に化合するようにして、銅合金成分である錫成分を失わせることなしに、高効率で容易に鉛を除去することができるのである。
以下に本願発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態を示すフローチャートである。銅合金として、黄銅又は青銅を記載しているが特にこれに限定するものではない。
銅合金の溶湯に錫ブロック剤を添加・混合し、次に脱鉛剤を添加・混合して鉛化合物を生成し溶湯表面に浮上分離させ、さらに鉛化合物の浮上具合に応じて凝集剤を追加で添加・混合し、浮上してきた鉛化合物を除去することで鉛を除去した青銅や黄銅などの銅合金を得ることができる。
Figure 0004599521
(脱鉛剤の添加量0.01〜15質量%を選択した根拠)
(銅合金=黄銅:JIS CAC203)
表1では、脱鉛剤及びフッ化ナトリウムの添加量と鉛除去率の関係について黄銅:JIS CAC203についての実験結果を示す。
脱鉛剤・フッ化ナトリウムともに0.01質量%未満の添加量では効果がほとんどなく、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上の添加量が望ましい。
脱鉛剤・フッ化ナトリウムの添加量は15質量%以下としたが、必要以上に添加しても鉛除去率が向上しないため好ましくは10質量%以下が望ましい。
Figure 0004599521
(錫ブロック剤及び/又は脱鉛剤の添加量0.01〜15質量%を選択した根拠)
(銅合金=青銅:JIS CAC406)
表2で、錫ブロック剤及び脱鉛剤の添加量と鉛除去率の関係について青銅:JIS CAC406についての実験結果を示す。
錫ブロック剤、脱鉛剤ともに0.01質量%未満の添加では効果がほとんどないものと考えられ、15質量%を越えて添加しても鉛除去率の向上はみられなかった。
Figure 0004599521
(錫ブロック剤を先に添加する根拠)
(銅合金=青銅:JIS CAC406)
表3で、先に脱鉛剤を添加し、次に錫ブロック剤を添加したときの脱鉛剤及び錫ブロック剤の添加量と鉛除去率の関係について青銅:JIS CAC406についての実験結果を示す。錫ブロック剤を先に添加した場合(表2)と比べ、鉛除去率が低下している。
Figure 0004599521
(処理温度範囲の選択・決定の根拠)
銅合金=青銅:JIS CAC406
表4に青銅:JIS CAC406について処理温度と、亜鉛の消耗及び溶湯の凝固の有無の関係について実験結果を示した。
Figure 0004599521
(処理温度範囲の選択・決定の根拠)
銅合金=黄銅:JIS CAC203
表5に黄銅:JIS CAC203について処理温度と、亜鉛の消耗及び溶湯の凝固の有無の関係について実験結果を示した。
次に本願発明をいくつかの実施例により具体的に説明する。
本例では、銅合金として青銅を用い、図1に示すフローチャートにしたがって脱鉛処理を実施した。
すなわち、青銅(銅合金)の溶湯に錫ブロック剤を添加し、銅合金中の錫と化合させ、次に脱鉛剤を添加して銅合金中の鉛と化合させ鉛化合物を生成し、溶湯表面に浮上分離させることで鉛を除去した合金を得ることができた。このとき、必要に応じて脱鉛剤の添加後に追加で錫ブロック剤を凝集剤として添加し、鉛化合物の粒子を凝集し浮上分離を促進させることができる。また、黒曜石,シラス等を含むアルミノケイ酸塩ガラスも凝集剤として効果がある。
図2は、本発明で使用した高周波誘導加熱装置の概略図である。黒鉛るつぼ11の周囲に巻回された高周波コイル12に高周波電流を通電することにより黒鉛るつぼ11及び銅合金を加熱して溶湯15とする。
錫ブロック剤及び脱鉛剤を溶湯15に添加・混合すると、溶湯15の表面には錫ブロック剤及び脱鉛剤の作用により生成した化合物13が浮上する。
その化合物13を、撹拌棒17の棒状の垂直部18の先端に水平方向に突設されたかきあげ部19でかきあげて、除去物14として排除する。
なお、図3は撹拌棒17の側面図であり、図4は水平の渦巻形状のかきあげ部19の平面図を示す。
以下の実験条件により青銅から鉛を除去した。
(1)脱鉛処理対象銅合金として鉛4.9質量%および錫4.5質量%の青銅を用い、その重量は5kgを使用した。
(2)錫ブロック剤としてフッ化ナトリウムを用い、その重量は400gを使用した。
(3)脱鉛剤としてはカルシウムシリコンを用い、その重量は400gを使用した。
青銅を加熱して完全に溶解させた後、1100℃付近の溶湯温度で錫ブロック剤を添加し、次に脱鉛剤を添加し浮上した鉛化合物を除去した。その結果、鉛は0.64質量%となり鉛除去率87%となった。また、錫は4.5質量%のままで、錫の減少はなかった。
(EPMA面分析結果)
銅合金の溶湯に脱鉛剤としてカルシウムシリコンを添加・混合した後、錫ブロック剤としてフッ化ナトリウムを添加・混合したときのEPMA面分析結果を図5の1に、フッ化ナトリウムを添加・混合した後、カルシウムシリコンを添加・混合したときのEPMA面分析結果を図5の2に示した。
図は各元素の分布状態を示しており、白色ほど濃度が高いことを示す。
図5の1では、カルシウムが、錫と同じ位置に分布しており、脱鉛剤のカルシウムと錫が化合していることを示している。本来、カルシウムは鉛と化合することで鉛除去可能となるが、この場合、カルシウムが鉛より錫と化合するため鉛化合物の生成を阻害している。
図5の2では、カルシウムと鉛が同じ位置に分布している。先に錫ブロック剤を添加・混合すると、錫とカルシウムの反応がブロックされ、カルシウムか鉛と優先的に化合することを示している。これによって、鉛除去率が向上する。
つまり、錫ブロック剤を先に添加・混合する鉛除去方法の効果があることがわかる。
本発明方法のフローチャートである。 本発明実施例における実験装置の概略図である。 本発明実施例における撹拌棒の側面図である。 本発明実施例における撹拌棒の平面図である。 EPMA面分析結果 1.脱鉛剤を添加後、錫ブロック剤を添加した場合 2.錫ブロック剤を添加後、脱鉛剤を添加した場合
符号の説明
11 黒鉛るつぼ
12 高周波コイル
13 浮遊物
14 除去物
15 溶湯
16 熱電対温度計
17 撹拌棒
18 垂直部
19 かきあげ部

Claims (3)

  1. 鉛と錫を含む銅合金の溶湯中にフッ化ナトリウム0.01〜15質量%添加・混合し、次に脱鉛剤としてのカルシウムシリコン又は金属カルシウム0.01〜15質量%添加・混合して鉛化合物を生成させ、生成した鉛化合物を銅合金の溶湯から浮上分離させて排除することを特徴とする銅合金中の鉛除去方法。
  2. 鉛と錫を含む銅合金の溶湯中にフッ化ナトリウムを1.0〜10質量%添加・混合し、次に脱鉛剤としてのカルシウムシリコン又は金属カルシウム1.0〜10質量%添加・混合して鉛化合物を生成させ、生成した鉛化合物を銅合金の溶湯から浮上分離させて排除することを特徴とする銅合金中の鉛除去方法。
  3. 銅合金の溶湯にフッ化ナトリウム又は脱鉛剤を添加するときの温度が銅合金の少なくとも凝固点を超え、1300℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅合金中の鉛除去方法。
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