JP4598353B2 - 蒸気ボイラ装置の運転方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、蒸気ボイラ装置の運転方法、特に、蒸気ボイラに給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用すると共に、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラに供給する給水に混合して再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法に関する。
【0002】
【従来の技術とその課題】
蒸気ボイラに給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を負荷装置等において利用すると共に、当該蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラに供給する給水に混合して再利用する蒸気ボイラ装置が知られている。このような蒸気ボイラ装置では、復水を給水の一部として再利用しているため、給水の絶対量を減少させることができ、蒸気ボイラの経済的な運転が可能になる。
【0003】
ところで、上述のような蒸気ボイラ装置は、蒸気ボイラにおいて発生した蒸気を負荷装置等に供給するための蒸気配管および復水を回収して給水に混合するための復水配管等として、主として鋼管を利用している。このため、蒸気ボイラ装置は、運転期間の長期化に伴って、蒸気配管や復水配管内に腐食が生じる場合がある。このような腐食は、蒸気配管や復水配管の寿命を短縮し、蒸気ボイラ装置の継続的で安定な運転を妨げる原因となる。そこで、蒸気ボイラ装置では、通常、蒸気配管内や復水配管内に腐食を抑制するための薬剤を注入し、腐食の進行を抑制している。
【0004】
ところで、上述のような腐食は、一般に、給水中に含まれる炭酸水素イオンが蒸気ボイラ内で熱分解して生じる炭酸ガスが蒸気中に混入し、それが蒸気や復水のpHを低下させることにより生じるものと考えられている。このため、蒸気ボイラ装置においては、上述の薬剤として、pH調整剤を用いている。ここで、pH調整剤は、蒸気や復水に含まれる炭酸ガスを中和して蒸気や復水のpHを高めることにより腐食を抑制するものであり、通常、脂肪族アミノアルコール系化合物が用いられている。
【0005】
しかしながら、蒸気配管や復水配管の腐食は、蒸気や復水のpH低下のみを原因として生じるものではなく、給水中に含まれる溶存酸素が蒸気と共に蒸気配管や復水配管に供給されること、或いは、蒸気ボイラ装置の運転停止時に復水配管内が負圧になって外部の空気が流入し、復水中の溶存酸素濃度が高まること等の原因によって生じることも判明している。すなわち、腐食は、蒸気や復水のpH低下のみではなく、蒸気や復水に含まれる溶存酸素の影響によっても進行し得る。したがって、上述の薬剤としてpH調整剤を用いた場合、蒸気や復水のpH低下による腐食の発生は有効に抑制することができるが、蒸気や復水に含まれる溶存酸素の影響による腐食の発生を抑制するのは困難である。
【0006】
本発明の目的は、蒸気ボイラに給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用すると共に、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラに供給する給水に混合して再利用する蒸気ボイラ装置について、蒸気系や復水系の配管等に生じる腐食を効果的に抑制することにある。
【0007】
本発明の方法は、蒸気ボイラに給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用すると共に、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラに供給する給水に混合して再利用する、蒸気配管および復水配管を備えた蒸気ボイラ装置の運転方法であり、蒸気および復水のうちの少なくとも一方に対してオレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩のうちの少なくとも一つの脂肪酸塩を添加することで、蒸気配管および復水配管の内周面にオレイン酸およびステアリン酸のうちの少なくとも一つの脂肪酸の皮膜を形成する工程を含んでいる。
【0008】
この運転方法において、蒸気および復水のうちの少なくとも一方に対して添加された脂肪酸塩は、蒸気若しくは復水中において脂肪酸となる。この脂肪酸は、蒸気系や復水系の配管の内周面に皮膜を形成する。この皮膜は、蒸気若しくは復水が配管の内周面に直接触れるのを抑制することができるため、蒸気若しくは復水のpH低下による腐食および蒸気若しくは復水に含まれる溶存酸素の影響による腐食の両方を効果的に抑制することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1を参照して、本発明の運転方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の一例を説明する。図において、蒸気ボイラ装置1は、蒸気発生部2と蒸気利用部3とを主に備えている。
【0011】
蒸気発生部2は、給水装置4と蒸気ボイラ5とを主に備えている。給水装置4は、蒸気ボイラ5に給水を供給するためのものであり、補給水の注水路20、注水路20からの補給水を貯留するための給水タンク21および給水路22を主に備えている。注水路20は、軟水装置23と脱酸素装置24とをこの順に有している。軟水装置23は、水道水や地下水などの原水をナトリウム型強酸性陽イオン交換樹脂により処理し、原水中に含まれる各種の硬度分や重金属イオンをナトリウムイオンに置換して軟水に変換するためのものである。また、脱酸素装置24は、軟水装置23で得られた軟水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するためのものである。給水路22は、給水タンク21から延びかつ蒸気ボイラ5に連絡しており、給水タンク21内に貯留された給水を蒸気ボイラ5に送り出すための給水ポンプ25を有している。
【0012】
蒸気ボイラ5は、給水装置4から供給される給水を加熱して蒸気を発生するためのものであり、給水を加熱するための加熱バーナー26を備えている。この蒸気ボイラ5は、例えば、運転圧力が1MPa以下のもの、例えば「ボイラ及び圧力容器安全規則」に記載された貫流ボイラであり、軟水仕様のものである。
【0013】
蒸気利用部3は、蒸気ヘッダ6、第一蒸気利用装置7および第二蒸気利用装置8を主に備えている。蒸気ヘッダ6は、蒸気ボイラ5において発生した蒸気を第一蒸気利用装置7および第二蒸気利用装置8に分配するためのものであり、蒸気ボイラ5からの蒸気供給管27が連絡している。また、蒸気ヘッダ6には、薬注装置9が設けられている。薬注装置9は、薬剤を貯蔵するための薬剤タンク30と、薬剤タンク30と蒸気ヘッダ6とを連絡する薬注配管31とを備えている。薬注配管31は、薬剤タンク30内の薬剤を蒸気ヘッダ6内に供給するための薬注ポンプ32を有している。
【0014】
薬剤タンク30に貯蔵されている薬剤は、脂肪酸塩の水分散液である。ここで用いられる脂肪酸塩は、オレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩のうちの少なくとも一つである。オレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩は、天然物に由来する脂肪酸と食品添加物とを原料としており、人体若しくは環境に対する安全性の高い物質である。また、オレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩は、それ自体が乳化性を有するため、上述の薬剤は、オレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩のうちの少なくとも一つを純水に加えて混合、分散させると容易に調製することができる。
【0015】
第一蒸気利用装置7は、蒸気ボイラ5で発生した蒸気を利用して所用の物理的機能を発揮するものであり、例えば熱交換器である。この第一蒸気利用装置7には、蒸気ヘッダ6からの第一蒸気配管40が連絡しており、当該第一蒸気配管40を通じて蒸気ヘッダ6から蒸気が供給されている。
【0016】
また、第一蒸気利用装置7には、復水配管41が接続されている。復水配管41は、第一蒸気利用装置7において利用された蒸気が凝縮して得られる凝縮水(復水)を給水タンク21に供給するためのものであり、第一蒸気利用装置7から延びかつスチームトラップ42を有している。
【0017】
第二蒸気利用装置8は、蒸気ボイラ5で発生した蒸気をそのまま利用するものであり、例えば、食品工場において用いられる食品加工用の蒸し器である。この第二蒸気利用装置8には、蒸気ヘッダ6からの第二蒸気配管43が連絡しており、当該第二蒸気配管43を通じて蒸気ヘッダ6から蒸気が供給されている。
【0018】
なお、上述の蒸気ボイラ装置1において、第一蒸気配管40、第二蒸気配管43および復水配管41等は、主として鋼管を用いて形成されている。
【0019】
次に、上述の蒸気ボイラ装置1の運転方法について説明する。
蒸気ボイラ装置1を運転する場合は、注水路20から給水タンク21に補給水を供給し、この補給水を給水タンク21に貯留する。なお、給水タンク21に貯留される給水は、軟水装置23および脱酸素装置24で処理されたもの、すなわち、脱酸素処理された軟水である。そして、給水ポンプ25を作動させ、給水タンク21に貯留された給水を給水路22を通じて蒸気ボイラ5に供給する。蒸気ボイラ5は、加熱バーナー26により給水を加熱し、蒸気を発生する。発生した蒸気は、蒸気供給管27を通じて蒸気ヘッダ6に供給される。
【0020】
蒸気ヘッダ6に供給された蒸気の一部は、第一蒸気配管40を通じて第一蒸気利用装置7に供給される。これにより、第一蒸気利用装置7は、所用の熱交換機能を発揮する。第一蒸気利用装置7を通過した蒸気は、潜熱を失って一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ42において蒸気と水とが分離されて復水(ドレン水)になる。この復水は、復水配管41を通じて給水タンク21内に回収され、そこで注水路20からの補給水と混合されて蒸気ボイラ5への給水として再利用される。
【0021】
また、蒸気ヘッダ6に供給された蒸気の一部は、第二蒸気配管43を通じて第二蒸気利用装置8に供給される。第二蒸気利用装置8に供給された蒸気は、例えば穀類の蒸し煮用の蒸気としてそのまま利用され、第二蒸気利用装置8から放出される。
【0022】
上述のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、薬注装置9の薬注ポンプ32を作動させ、薬剤タンク30内に貯蔵された薬剤を薬注配管31を通じて蒸気ヘッダ6内に注入する。蒸気ヘッダ6内に注入された薬剤、すなわち脂肪酸塩は、蒸気ヘッダ6において蒸気に混合され、第一蒸気配管40、第二蒸気配管43および復水配管41に対して供給される。そして、これらの配管に供給された脂肪酸塩は、脂肪酸となって配管の内周面に防食性の皮膜を形成し、これらの配管の内周面に対して蒸気や復水が直接的に触れるのを抑制する。この結果、これらの配管は、蒸気や復水のpH低下や溶存酸素による腐食の進行が抑制される。因みに、脂肪酸が金属に対する腐食抑制効果を発揮することは、例えば、下記の文献に記載されており、既に知られている。
【0023】
◎防錆防食技術マニュアル編集委員会編「JIS 使い方シリーズ 防錆防食技術マニュアル」、1986年7月9日、財団法人日本規格協会発行、92頁
◎防錆・防食技術総覧編集委員会編「防錆・防食技術総覧」、2000年5月17日、株式会社産業技術サービスセンター発行、326頁
◎腐食防食協会編「防食技術便覧」、昭和51年11月28日、日刊工業新聞社発行、664〜665頁
【0024】
上述のように、この実施の形態に係る蒸気ボイラ装置1の運転方法では、蒸気ボイラ5において発生した蒸気に対して脂肪酸塩を添加しているので、pH調整剤を腐食抑制剤として用いる場合に比べ、蒸気系や復水系の配管、すなわち、第一蒸気配管40、第二蒸気配管43および復水配管41等に生じる腐食を容易にかつ効果的に、しかも安価に抑制することができる。
【0025】
さらに、この運転方法は、薬剤として、人体や環境に対する安全性の高い脂肪酸塩を用いているため、蒸気を汚染しにくい。したがって、この運転方法によれば、蒸気をそのまま食品加工に利用する上述の第二蒸気利用装置8に対しても安全な蒸気を供給することができるので、食品の安全性を確保することができる。
【0026】
なお、この実施の形態では、薬注装置9を蒸気ヘッダ6に対して設置することにより、蒸気に脂肪酸塩を添加したが、薬注装置9を第一蒸気配管40および第二蒸気配管43に対して個別に設けて蒸気に脂肪酸塩を添加するようにした場合も本発明を同様に実施することができる。また、脂肪酸塩は、薬注装置9を復水配管41に対して設置することにより、復水中に添加するようにしてもよい。さらに、脂肪酸塩は、薬注装置9を第一蒸気配管40および第二蒸気配管43並びに復水配管41のそれぞれに個別に設けることにより、蒸気および復水の両方に添加されてもよい。
【0027】
また、上述の実施の形態では、1台の蒸気ボイラ5を備えた蒸気ボイラ装置1の運転方法について説明したが、蒸気ボイラ5を複数台備えた蒸気ボイラ装置についても本発明を同様に実施することができる。この場合、蒸気ヘッダ6は、複数の蒸気ボイラ5からの蒸気を集中させると共に、複数の蒸気利用装置に分配するように機能させる。さらに、上述の実施の形態では、2台の蒸気利用装置を備えた蒸気ボイラ装置の運転方法について説明したが、蒸気利用装置を1台だけ備えた蒸気ボイラ装置についても本発明を同様に実施することができる。
【0028】
【発明の効果】
本発明では、蒸気ボイラに給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用すると共に、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラに供給する給水に混合して再利用する蒸気ボイラ装置において、蒸気および復水のうちの少なくとも一方に対してオレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩のうちの少なくとも一つの脂肪酸塩を添加しているので、蒸気系や復水系の配管等に生じる腐食を容易にかつ効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の運転方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の一例の概略図。
【符号の説明】
1 蒸気ボイラ装置
5 蒸気ボイラ
9 薬注装置
40 第一蒸気配管
41 復水配管
43 第二蒸気配管
Claims (1)
- 蒸気ボイラに給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用すると共に、前記蒸気が凝縮して得られる復水を前記蒸気ボイラに供給する前記給水に混合して再利用する、蒸気配管および復水配管を備えた蒸気ボイラ装置の運転方法であって、
前記蒸気および前記復水のうちの少なくとも一方に対してオレイン酸アンモニウム塩およびステアリン酸アンモニウム塩のうちの少なくとも一つの脂肪酸塩を添加することで、前記蒸気配管および前記復水配管の内周面にオレイン酸およびステアリン酸のうちの少なくとも一つの脂肪酸の皮膜を形成する工程を含む、
蒸気ボイラ装置の運転方法。
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