JP4597414B2 - フェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法及びインダクタ - Google Patents

フェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法及びインダクタ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波領域において高性能を有するフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法、及びそのフェロックスプレ−ナ薄膜を使用したインダクタに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話等電子機器の小型化、軽量化が進むにつれ、高周波領域で使用される高周波回路部品の小型化、高性能化が要望されている。
そこで、高周波回路の入出力インピ−ダンス整合用や発振回路等に使用される高周波インダクタとして、高周波領域における軟磁気特性に優れ、磁気損失も少ないスピネルフェライト(鉄の酸化物)や金属薄膜等を磁性材料として用いた巻き線型、積層型、薄膜型等のチップインダクタ等が多々使用されている。
【0003】
このスピネルフェライトや金属薄膜を磁性材料としたインダクタは、数百MHzまでの周波数帯域では高性能を有するが、GHz帯域では、渦電流や自然共鳴の発生による損失が増加するため、空心のインダクタが使用されているのが現状である。
ところで、上記GHz帯領域において損失が少ない材料として、フェロックスプレ−ナが知られている。フェロックスプレ−ナとは、Fe3+イオンと、2価の金属イオンMe2+(Me=Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mg等)の他に、O2-と同程度のイオン半径を有する2価の金属イオンX2+(X=Ba、Sr、Pb等)を含むマグネトプラムバイト型酸化物のうち、その結晶構造のC面内に容易磁化面を有するY型及びZ型のマグネトプラムバイト型酸化物のことを指す。この結晶構造は、Me2+とFe3+との酸化物からなるスピネル構造を有する層と、X2+とO2-との酸化物からなる層とが交互に重なり、全体として六方晶構造を有している。
【0004】
このフェロックスプレ−ナは、強い磁気異方性によってスピネルフェライトよりも高い自然共鳴周波数を有するため、薄膜化が実現できれば、小型で、且つGHz帯領域での損失が少ない高周波インダクタへの利用が期待できる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、フェロックスプレ−ナは、上述したように複雑な結晶構造を持った多成分複合酸化物であるため、薄膜の製造中に、目的とするフェロックスプレ−ナ以外の異相が容易に発生してしまう不具合があった。
この異相の多くは、フェロックスプレ−ナ薄膜の成長途中に、拡散や昇華によって膜中から構成元素であるMe2+が不足した構成(例えばBaFe2 4 等)をしており、フェロックスプレ−ナ薄膜よりも安定で成長速度が速いため、基板との界面付近に多量に成長する。
【0006】
ここで、発生する異相が強磁性体である場合には、異相の共鳴吸収により試料全体の自然共鳴周波数を低下させ、また、異相が反強磁性体である場合には、スピンのピンニング効果により軟磁性特性を劣化させてしまうため、フェロックスプレ−ナの磁気特性の劣化を引き起こしてしまう。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、薄膜の成長途中において異相の発生しないフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法、及びそのフェロックスプレ−ナ薄膜を用いたインダクタを提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、請求項1に係る発明は、単結晶基板上にエピタキシャル成長によって成膜されるフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、少なくとも前記フェロックスプレ−ナ薄膜を構成する金属元素を含む金属酸化物薄膜が上面に成膜された前記単結晶基板上に、エピタキシャル成長によってフェロックスプレ−ナ薄膜を成膜するフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法としている。
【0008】
請求項1に記載のフェロックスプレ−ナの製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜を、少なくともフェロックスプレ−ナ薄膜を構成する金属元素を含む金属酸化物薄膜が上面に成膜された単結晶基板上に成膜するようにしたことによって、フェロックスプレ−ナ薄膜の成長途中に拡散や昇華によって膜中から抜けてしまう金属元素を補うことができる。よって、金属元素の欠如した異相の発生を抑制することが可能となる。
【0009】
ここで、金属酸化物薄膜として、それぞれのフェロックスプレ−ナ薄膜に出来やすい異相において欠如している金属元素を予め調査し、その金属元素を含む金属酸化物薄膜を成膜するようにすれば、より効果的に異相の発生を抑制することが可能となる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、金属酸化物薄膜及びフェロックスプレ−ナ薄膜を、レ−ザアブレ−ション法によって成膜させるものとしている。
【0010】
請求項2に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、金属酸化物薄膜及びフェロックスプレ−ナ薄膜を、レ−ザアブレ−ション法によって成膜させることによって、1000℃以上の高い融点を有する金属酸化物薄膜やフェロックスプレ−ナ薄膜を容易に成長させることが可能となる。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜が、化学式Ba2 Me2 Fe1222(Meは二価の金属イオン)で示されるY型マグネトプラムバイト構造を有するものとしている。
【0011】
請求項3に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜を、フェロックスプレ−ナ薄膜の中でも特に結晶磁気異方性の大きな化学式Ba2 Me2 Fe1222(Meは二価の金属イオン)で示されるY型マグネトプラムバイト構造を有するものとしたことによって、より高い自然磁気共鳴周波数を有するフェロックスプレ−ナ薄膜を得ることが可能となる。
【0012】
ここで、2価の金属イオンMeを、Zn、Co、Ni、Cu、Mn、Mgのいずれか一種或いは組み合わせて使用するようにすれば、より大きな透磁率を有するフェロックスプレ−ナ薄膜を得ることができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜が、化学式Ba2 Co2 Fe1222で示されるとともに、金属酸化物薄膜がCoOであるものとしている。
【0013】
請求項4に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜を、Y型マグネトプラムバイト構造を有するフェロックスプレ−ナ薄膜の中で最も大きな結晶磁気異方性を有する化学式Ba2 Co2 Fe1222で示されるものとしたことによって、GHz帯域でもより高い透磁率と少ない損失を示すフェロックスプレ−ナ薄膜を得ることが可能となる。また、金属酸化物薄膜をCoO薄膜としたことによって、Ba2 Co2 Fe1222で示されるフェロックスプレ−ナ薄膜の成長中に膜中から抜けやすいCoを補うことができる。このため、反強磁性体で、且つ、膜の軟磁性特性を低下させる異相BaFe2 4 の発生を抑制することが可能となる。よって、軟磁性特性が良好で、高い自然磁気共鳴周波数を有するフェロックスプレ−ナ薄膜を得ることが可能となる。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜の膜厚を1μm以上とするとともに、金属酸化物薄膜を当該フェロックスプレ−ナ薄膜の1〜3%の膜厚としたものとしている。
請求項5に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜の膜厚を1μm以上としたが、これはBa2 Co2 Fe1222薄膜の相が1μm以下の膜厚では成長しにくいためである。また、CoO薄膜の膜厚をフェロックスプレ−ナ薄膜の1〜3%の膜厚としたが、これは3%以上の膜厚であると、Coが過剰に膜中に導入されることで異相が発生しやすく、1%以下であると、Coの不足により異相BaFe2 4 が発生しやすくなるためである。よって、フェロックスプレ−ナ薄膜と金属酸化物薄膜との膜厚を上記の範囲とすることで、異相の存在しないフェロックスプレ−ナ薄膜を得ることが可能となる。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、前記エピタキシャル成長による前記フェロックスプレ−ナ薄膜の成膜を、酸素圧力が1mTorr以上、前記単結晶基板温度が1000℃以上の条件下で行われるものとしている。
請求項6に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、エピタキシャル成長によるフェロックスプレ−ナ薄膜の成膜を酸素圧力が1mTorr以上としたが、これより小さな圧力では、膜中の酸素欠損が発生しやすく膜の結晶性が低下する恐れがあるからである。また、単結晶基板温度を1000℃以上としたが、これより低い基板温度では、1000℃以上の融点を有するフェロックスプレ−ナ薄膜が成長しない恐れがあるからである。
【0018】
請求項に係る発明は、請求項4に記載の方法で使用される単結晶基板であって、上面に、CoOからなる金属酸化物薄膜が成膜されているフェロックスプレ−ナ薄膜の製造用単結晶基板としている。請求項に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造用単結晶基板によって、請求項に記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法を容易に実現することが可能となる。
【0019】
請求項に係る発明は、請求項1〜のいずれかに記載の方法で成膜されたフェロックスプレ−ナ薄膜が、磁性材料として用いられているインダクタとしている。請求項に記載のインダクタにおいて、請求項1〜のいずれかに記載の方法で成膜されたフェロックスプレ−ナ薄膜を磁性材料として用いることによって、GHz帯域でも高いインダクタンス及びQ値(QualityFactor)を得ることが可能となる。
【0020】
請求項に係る発明は、請求項1〜のいずれかに記載の方法で成膜されたフェロックスプレ−ナ薄膜にアニ−ル処理を施す工程と、前記アニ−ル処理を施したフェロックスプレ−ナ薄膜の上面に導体薄膜を塗布する工程と、前記導体薄膜をパタ−ニングして、所定の導体パタ−ンを形成する工程と、を有するインダクタの製造方法としている。
【0021】
請求項に記載のインダクタの製造方法において、フェロックスプレ−ナ薄膜にアニ−ル処理を施す工程を有することによって、磁気粒子の歪みを除去し、フェロックスプレ−ナ薄膜の保磁力を狭くするため、磁気特性を良好にすることが可能となる。よって、GHz帯域での損失が少ないインダクタを提供することが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明におけるフェロックスプレ−ナ薄膜の製造工程を説明する断面図である。図2は、本発明のフェロックスプレ−ナ薄膜の一製造工程において、単結晶基板上に金属酸化物薄膜を成膜させた試料をX線回折装置を用いて分析した結果を示す図である。図3は、本発明におけるフェロックスプレ−ナ薄膜を成膜させた試料をX線回折装置を用いて分析した結果を示す図である。図4は、本発明との比較例として、単結晶基板上に直接フェロックスプレ−ナ薄膜を成膜させた試料をX線回折装置を用いて分析した結果を示す図である。図5は、本発明におけるフェロックスプレ−ナ薄膜及び金属酸化物薄膜をレ−ザ−アブレ−ション法により成長させるための装置を示す模式図である。
【0023】
本発明におけるフェロックスプレ−ナ薄膜3は、化学式Ba2 Co2 Fe1222で示されるY型マグネトプラムバイト構造を有し、MgAl2 4 からなる単結晶基板1の一面に、エピタキシャル成長によって成膜されている。
ここで、Y型マグネトプラムバイトとは、Fe3+イオンと、2価の金属イオンMe2+(Me=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg等)と、Ba2+イオンとからなるフェライト(鉄の酸化物)であり、化学式Ba2 Me2 Fe1222で示される組成比で表されるものである。その結晶構造は、Me2+とFe3+との酸化物からなるスピネル構造を有する層と、Ba2+とO2-との酸化物からなる層と、が交互に積層した全体として六方晶構造を有している。ここで、本実施の形態では、Me=Coとして構成している。
【0024】
次に、本発明のフェロックスプレ−ナ薄膜3の製造方法について、図1及び図5を用いて説明する。
まず、MgAl2 4 からなる単結晶基板1を、図5に示す装置内の1×10-9Torr以下の真空度に保持された真空チャンバ−16内に導入し、真空チャンバ−16内の酸素圧力を200mTorrとなるように、酸素導入ノズル15から酸素ガスを導入する。その後、加熱装置13によって、単結晶基板1を約1100℃に加熱する。
【0025】
次に、エネルギ−密度約1J/cm2 、パルス照射5Hzの条件下で、CoOの焼結体をタ−ゲット11として、レ−ザ装置12から照射されるKrFエキシマレ−ザによって、レ−ザアブレ−ションを行う。ここで、図1(A)に示すように、単結晶基板1の上面に、CoOからなる金属酸化物薄膜2を膜厚が900Åとなるように堆積させる。尚、CoOからなる金属酸化物薄膜2が予め堆積された市販の単結晶基板を使用しても構わない。
【0026】
ここで、図2に示すX線回折からわかるように、CoOからなる金属酸化物薄膜2は単結晶基板1に対して(111)面が配向して成長していることが確認できる。
次いで、真空チャンバ−16内の酸素圧力及び単結晶基板1の温度は上記条件のまま変化させず、Y型マグネトプラムバイト(Ba2 Co2 Fe1222)の焼結体をタ−ゲット11として、上記条件と同様のレ−ザアブレ−ションを行う。ここで、図1(B)に示すように、上記CoOからなる金属酸化物薄膜2の上面に、フェロックスプレ−ナ(Ba2 Co2 Fe1222)薄膜3を膜厚が4μmとなるように、エピタキシャル成長させる。
【0027】
このフェロックスプレ−ナ薄膜3の成長中、拡散や昇華によって膜中から金属元素Coが抜けた異相(BaFe2 4 )が発生しやすく、しかも、この異相はフェロックスプレ−ナ薄膜3よりも安定で成長速度が速いため、単結晶基板1との界面付近に存在するようになる。ここで、予め成膜させたCoOからなる金属酸化物薄膜2は、発生した異相の成長を抑制するとともに、この異相にCoを補うことでフェロックスプレ−ナの相に変化させる。そのため、図1(C)に示すように、フェロックスプレ−ナ薄膜3の成長後には、CoOからなる金属酸化物薄膜2は存在せず、単結晶基板1上にはフェロックスプレ−ナ薄膜3のみが成膜されているようになる。
【0028】
ここで、図3に示すX線回折からわかるように、上記方法で製造されたフェロックスプレ−ナ薄膜3には、単結晶基板1を構成するMgAl2 4 のピ−クと、フェロックスプレ−ナ薄膜3を構成するBa2 Co2 Fe1222のピ−クのみが存在している。つまり、本発明におけるフェロックスプレ−ナ薄膜3は、単結晶基板1面に対し、C面が配向した単結晶薄膜となっており、異相のピ−クは殆ど存在していないことを示している。また、図2と比較してわかるように、図3にはCoOからなる金属酸化物薄膜2のピ−クが存在していないことから、金属酸化物薄膜2がフェロックスプレ−ナ薄膜3の相に変化したと考えられる。
【0029】
このフェロックスプレ−ナ薄膜3及び金属酸化物薄膜2の組成分析は、X線回折及びEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて行い、それぞれの組成比を確認することができた。
ここで、レ−ザアブレ−ション法(レ−ザスパッタリング法)とは、タ−ゲット11となる物質に高エネルギ−密度のレ−ザ光を照射して、そのタ−ゲット11を瞬時に気化する方法である。そして、その気化した成分を、加熱した単結晶基板1上でエピタキシャル成長させることで、フェロックスプレ−ナ薄膜3を成膜させている。尚、図5における符号10はレ−ザアブレ−ション装置で、14はマスクで、17はタ−ゲットホルダで、18は回転シャフトである。
【0030】
次に、比較例として、単結晶基板1上に直接フェロックスプレ−ナ薄膜3を成膜させた試料をX線回折装置を用いて分析した結果を図4に示す。
比較例におけるフェロックスプレ−ナ薄膜3は、実施例と同様の単結晶基板1及び同条件の下、単結晶基板1上にフェロックスプレ−ナ(Ba2 Co2 Fe1222)薄膜3を成長させた。
【0031】
ここで、図4に示すX線回折からわかるように、比較例におけるフェロックスプレ−ナ薄膜3には、フェロックスプレ−ナ薄膜3を構成するBa2 Co2 Fe1222及び単結晶基板1のピ−クの他に、Coの欠如した異相(BaFe2 4 )のピ−クが多数存在している。この比較例により、本発明のフェロックスプレ−ナ薄膜3の製造方法において、単結晶基板1上に予め金属酸化物薄膜2を成膜させることで、異相の発生を抑制していることを確認することができる。
【0032】
上記フェロックスプレ−ナ薄膜3の製造方法において、単結晶基板1の上面に、CoOからなる金属酸化物薄膜2を成膜したのち、この金属酸化物薄膜2の上面に、エピタキシャル成長によってBa2 Co2 Fe1222からなるフェロックスプレ−ナ薄膜3を成膜するようにしたことによって、その成長途中に拡散や昇華によって膜中から抜けてしまうCoを補うことができる。このため、Coの欠如した異相(BaFe2 4 )の発生を抑制するとともに、その異相をBa2 Co2 Fe1222からなるフェロックスプレ−ナの相に変える。よって、異相の存在しないフェロックスプレ−ナ薄膜3を得ることが可能となる。
【0033】
また、フェロックスプレ−ナ薄膜3及び金属酸化物薄膜2を、レ−ザ−アブレ−ション法によって成膜させたことによって、1000℃以上の高い融点を持つものが多いフェロックスプレ−ナ薄膜3及び金属酸化物薄膜2を容易に成長させることが可能となる。
ここで、金属酸化物薄膜2をCoOとしたが、それぞれのフェロックスプレ−ナ薄膜3に出来やすい異相に欠如している金属元素を予めX線回折等で調査し、その金属元素を含む金属酸化物薄膜2を成膜するようにすれば、より効果的に異相の発生を抑制することが可能となる。
【0034】
さらに、フェロックスプレ−ナ薄膜3を、Y型マグネトプラムバイト構造を有する化学式Ba2 Co2 Fe1222で示される酸化物としたことによって、より大きな結晶磁気異方性を有するため、より高い自然磁気共鳴周波数を有するフェロックスプレ−ナ薄膜3を得ることが可能となる。
また、上記と同様の条件の下、CoOからなる金属酸化物薄膜2を成膜した単結晶基板1上に、Y型マグネトプラムバイト構造を有する化学式Ba2 Ni2 Fe1222で示されるフェロックスプレ−ナ薄膜3を成膜すると、前述した実施形態と同様に、異層の存在しないフェロックスプレ−ナ薄膜3を得ることが可能となる。ここで、金属酸化物薄膜2として、フェロックスプレ−ナ薄膜3を構成する元素以外の金属元素を含むものとしたことによって、膜中の遷移金属の一部を置換することが可能となり、フェロックスプレ−ナ薄膜3における磁気特性の向上が期待できる。この金属酸化物薄膜2を構成する金属元素として、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg等の遷移金属とすると、特に磁気特性の向上に有効である。
【0035】
次に、上記フェロックスプレ−ナ薄膜を磁性材料としたインダクタ20について説明する。図6は、本発明におけるインダクタの平面図である。図7は、本発明におけるインダクタの製造工程を示す断面図である。
本発明におけるインダクタ20は、上述の方法で製造されたフェロックスプレ−ナ薄膜3を磁性材料とした薄膜インダクタ20であり、図6に示すように、単結晶基板1上に成膜されたフェロックスプレ−ナ薄膜3と、その上面に形成され、平面コイルを構成する所定形状の導体薄膜4と、から構成されている。
【0036】
上記構成のインダクタ20において、磁性材料を、GHz帯域において自然磁気共鳴周波数を有し、絶縁物であるフェロックスプレ−ナ薄膜3としたことによって、GHz帯域で高い透磁率を有するとともに、渦電流損失が小さなインダクタ20を得ることが可能となる。
また、磁性材料が薄膜化されているため、インダクタ20自体を小型化することができ、このインダクタ20を高周波回路部品とすることで、携帯電話等電子機器の小型化、軽量化を実現することも可能となる。
【0037】
次に、本発明におけるインダクタ20の製造方法について説明する。
まず、図1に示す方法によって、単結晶基板1上にフェロックスプレ−ナ薄膜3を成膜させる。次に、図7(A)に示すように、このフェロックスプレ−ナ薄膜3にアニ−ル処理を施す。次いで、図7(B)に示すように、アニ−ル処理が施されたフェロックスプレ−ナ薄膜3の上面に導体薄膜4を塗布する。次いで、この導体薄膜4の上面に、フォトリソグラフィによって所定形状のレジストパタ−ンを形成し、エッチングを施すことで、図7(C)に示すように、平面コイルを構成する所定形状のパタ−ンを有する導体薄膜4を形成する。ここで、平面コイルの平面形状は、図6に示すようなつづれ折り状に限らず、例えば渦巻き状としても構わない。そして、この平面コイルの一部に電極(図示しない)を形成することで、導電を得ることを可能とする。
【0038】
上記インダクタ20の製造方法において、導体薄膜4を成膜する前のフェロックスプレ−ナ薄膜3にアニ−ル処理を施すようにしたことによって、フェロックスプレ−ナ薄膜3の磁性粒子の歪みを除去し、保磁力を狭くするため、GHz帯域において磁気特性が良好で、且つ渦電流損失の少ないインダクタ20を得ることが可能となる。よって、このインダクタ20を用いることで、高周波領域での磁気特性が良好で、小型化、軽量化を可能とした電子機器(図示しない)を形成することが可能となる。
【0039】
ここで、本実施の形態におけるフェロックスプレ−ナ薄膜として、Y型マグネトプラムバイト構造を有するものとしたが、これに限らず、例えば化学式Ba3 Co2 Fe2441で示されるZ型マグネトプラムバイト構造を有するフェロックスプレ−ナ薄膜としても構わない。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明におけるフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法によれば、異相の存在しないフェロックスプレ−ナ薄膜を提供することが可能となる。よって、高周波領域においても高い自然磁気周波数を有し、渦電流の損失の小さなフェロックスプレ−ナ薄膜を提供することが可能となる。
【0041】
また、本発明におけるインダクタによれば、フェロックスプレ−ナ薄膜を磁性材料として使用することによって、小型で、高周波領域において高性能を有するインダクタを提供することが可能となる。よって、高周波回路の小型化、さらには電子機器の小型化を実現することが可能となる。
さらに、本発明におけるインダクタの製造方法によれば、フェロックスプレ−ナ薄膜にアニ−ル処理を施すことによって、磁気特性の良好なインダクタを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法を説明する断面図である。
【図2】本発明に係るフェロックスプレ−ナ薄膜の一製造工程において、単結晶基板上に金属酸化物薄膜を成膜させた試料をX線回折装置を用いて分析した結果を示す図である。
【図3】本発明に係る方法で製造したフェロックスプレ−ナ薄膜をX線回折装置を用いて分析した結果を示す図である。
【図4】本発明との比較例として、単結晶基板上に直接フェロックスプレ−ナ薄膜を成膜させた試料をX線回折装置を用いて分析した結果を示す図である。
【図5】本発明に係るフェロックスプレ−ナ薄膜及び金属酸化物薄膜をレ−ザ−アブレ−ション法により成長させるための装置を示す模式図である。
【図6】本発明に係るインダクタを示す平面図である。
【図7】本発明に係るインダクタの製造方法を説明する断面図である。
【符号の説明】
1 単結晶基板
2 金属酸化物薄膜
3 フェロックスプレ−ナ薄膜
4 導体薄膜
10 レ−ザアブレ−ション装置
11 タ−ゲット
12 レ−ザ装置
13 加熱装置
14 マスク
15 酸素導入ノズル
16 真空チャンバ
17 タ−ゲットホルダ
18 回転シャフト
20 インダクタ

Claims (9)

  1. 単結晶基板上にエピタキシャル成長によって成膜されるフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法において、少なくとも前記フェロックスプレ−ナ薄膜を構成する金属元素を含む金属酸化物薄膜が上面に成膜された前記単結晶基板上に、エピタキシャル成長によってフェロックスプレ−ナ薄膜を成膜することを特徴とするフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法。
  2. 前記金属酸化物薄膜及び前記フェロックスプレ−ナ薄膜を、レ−ザアブレ−ション法によって成膜させることを特徴とする請求項1記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法。
  3. 前記フェロックスプレ−ナ薄膜が、化学式Ba2 Me2 Fe1222(Meは二価の金属イオン)で示されるY型マグネトプラムバイト構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法。
  4. 前記フェロックスプレ−ナ薄膜が、化学式Ba2 Co2 Fe1222で示されるとともに、前記金属酸化物薄膜がCoOであることを特徴とする請求項3記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法。
  5. 前記フェロックスプレ−ナ薄膜の膜厚を1μm以上とするとともに、前記金属酸化物薄膜を当該フェロックスプレ−ナ薄膜の1〜3%の膜厚としたことを特徴とする請求項4記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法。
  6. 前記エピタキシャル成長による前記フェロックスプレ−ナ薄膜の成膜を、酸素圧力が1mTorr以上、前記単結晶基板温度が1000℃以上の条件下で行われることを特徴とする請求項4又は5記載のフェロックスプレ−ナ薄膜の製造方法。
  7. 請求項4に記載の方法で使用される単結晶基板であって、上面に、CoOからなる金属酸化物薄膜が成膜されていることを特徴とするフェロックスプレ−ナ薄膜の製造用単結晶基板。
  8. 請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって成膜されたフェロックスプレ−ナ薄膜が、磁性材料として用いられていることを特徴とするインダクタ。
  9. 請求項1〜のいずれかに記載の方法によって成膜されたフェロックスプレ−ナ薄膜にアニ−ル処理を施す工程と、前記アニ−ル処理を施したフェロックスプレ−ナ薄膜の上面に導体薄膜を塗布する工程と、前記導体薄膜をパタ−ニングして、所定の導体パタ−ンを形成する工程と、を有することを特徴とするインダクタの製造方法
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