JP4596896B2 - 導電性グラスライニング、導電性グラスライニング製構造物及び導電性グラスライニングの施工方法 - Google Patents

導電性グラスライニング、導電性グラスライニング製構造物及び導電性グラスライニングの施工方法 Download PDF

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Description

本発明は、化学工業、医薬品工業、食品工業等で使用される耐食性を有する導電性グラスライニング、当該グラスライニングから構成されるグラスライニング製構造物、及び導電性グラスライニングの施工方法に関するものである。
シリカ質(SiO)とアルミナ質(Al)からなるガラス層を金属表面に強固に焼成結合したものが琺瑯で、そのうち、特に耐酸性、耐アルカリ性、耐熱性に優れているものをグラスライニング(GL)と呼ぶ。GL機器等に用いられるGLは、低炭素鋼板又はステンレス鋼板等の金属基材に下引き釉薬を焼き付けた後、高耐食性の上引き釉薬を焼き付けて製造される。
GL素材は、表面抵抗率が1×1013〜1014Ω/sq.程度の絶縁材料であるため、GL機器等の内部で非水系有機溶媒等を撹拌すると、ときには高電圧の静電気が帯電し、GL機器等にアースを施していても静電気によるGLの絶縁破壊が起こりうるという問題が顕在していた。
この問題を解決する手段として、フリットを含むGL組成物であって、直径0.01〜0.5ミクロン、長さ0.5〜1500ミクロン、長さ/直径の形状比50以上の金属繊維を、前記フリット100重量部に対して0.001〜0.05重量部含有することを特徴とし、体積方向(金属基材方向)へ帯電荷を逃がす二層構造の導電性GLが特許文献1に開示されている。
また、フリットを含むGL組成物であって、直径0.1〜30ミクロン、長さ0.005〜3mm、長さ/直径の形状比50以上のセラミックス繊維を前記フリット100重量部に対して0.05〜1.5重量部含有することを特徴とし、体積方向へ帯電荷を逃がす二層構造の導電性GLが特許文献2に開示されている。
しかし、特許文献1及び特許文献2に開示される導電性GLには、実際に高電圧静電気放電が発生した場合には、高電圧の帯電荷がGL層を通過して金属基材へと流れるためにGL層が絶縁破壊されやすいという問題点があった。また、GL層全体に導電性物質を含有しているために放電試験によるピンホール試験が実施できないという品質管理上の問題点、さらに導電性物質の使用量が多く、高価な導電性物質を使用すると製造コストが高くなるという経済上の問題点も存在した。
特開平11−116273号公報 特開平11−189431号公報
上記問題点を解消するものとして、少なくとも三層以上のGL層からなり、その最表層が粉末状又は繊維状の導電性物質を含む導電性GLであることを特徴とする導電性GLが考えられるが、こうした三層構造の導電性GLは、表面方向(沿面方向)に帯電荷を逃がすことを特徴としている。最表層の導電性GL層から帯電荷を逃がすためには、最表層の導電性GLをアースする必要があるが、最表層の導電性GL層のアースが不十分であると、最表層の導体が電気的に絶縁された状態となり、導電性GL層で静電気の帯電が発生する。この状態で万が一、放電が発生すると放電箇所に導電性グラスライニングの帯電荷が集中して放電エネルギーが非常に大きくなり、GL機器内部の内容物によっては、引火、爆発の危険性が高まるという問題が生じる。そのため、このような三層構造のGL構造物においては、導電性GL層のアースを十分に行い、帯電荷を導電性GLから金属基材へ逃がすことが重要である。
そこで本発明は、導電性GL層等を用いて、帯電荷を表面方向、すなわち、最表層GLから金属基材へ帯電荷を逃がすことにより、帯電防止性能を十分に発揮できるようにしたGL及びGL製構造物を提供することを目的とする。また、そのようなGLの施工方法を提供することを目的とする。
本発明は、導電性物質を含有しない下引きGL層及び上引き通常GL層と、導電性物質を含有する上引き導電性GL層の少なくとも三層のGL層から構成され、さらにその最表層の導電性GL層が金属基材にアースされていることを特徴とする導電性GLに関する。また、本発明は、前記導電性GLから構成されるGL製機器、GL製容器等のGL製構造物、及びその施工方法に関する。
具体的に、本発明は、金属基材と、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引きGL層及び上引き通常GL層と、ガラスフリットに導電性物質を添加して焼成した最表層の上引き導電性GL層の少なくとも三層のGL層から構成される導電性GLであって、最表層の導電性GL層を金属素材にかかるように施工することにより、最表層の導電性GL層が直接金属基材にアースされていることを特徴とする導電性GLに関するものである。このような構成とすることにより、導電性ガスケット等によりアースを取りつけることが困難な部位においてもアースをとることができ、帯電荷を表面方向に逃がすことが可能となる。また、製造工程を増やすことなく簡易にアースをとれる。
また本発明は、金属基材と、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引きGL層及び上引き通常GL層と、ガラスフリットに導電性物質を添加して焼成した最表層の上引き導電性GL層の少なくとも三層のGL層から構成される導電性GLであって、導電性物質を添加して焼成した低温焼成導電性GL部材によって最表層と金属基材がアースされていることを特徴とする導電性GLに関するものである。このような構成とすることにより、少なくとも三層の導電性GLを製造した後、導電性物質を添加して焼成した低温焼成導電性GL部材によって、容易に導電性GLをアースすることができる。
低温焼成導電性GLは、下引きGLをベースとしたものであることが好ましい。アースに利用する導電性GLとして、下引きGLをベースとしたものを利用することにより、金属基材と最表層の上引き導電性GL層の密着性を良くすることが可能である。
低温焼成導電性GLの焼成温度は、850℃以下であることが好ましい。焼成温度を850℃以下とすることにより、通常下引きGL層よりも低い温度で焼成させることが可能となる。
アース部分において、低温焼成導電性GL層に添加される導電性物質の割合を最表層に添加される導電性物質の割合よりも高くすることが好ましい。
また、本発明は、上記いずれかの導電性グラスライニングから構成されるグラスライニング製構造物に関する。
グラスライニング製構造物は、フランジ部に導電性ガスケットを用いることにより、構造物の一部にアースを取れば、構造物全体の帯電を防止することが可能となる。
さらに、本発明は、金属基材と、ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引きGL層及び上引き通常GL層と、ガラスフリットに導電性物質を添加して焼成した最表層の上引き導電性GL層の少なくとも三層のGL層から構成される導電性GLにおいて、少なくとも下引きGL層と上引き通常GL層を施工した後に、導電性物質を添加した低温焼成導電性GL層を施工し、低温焼成導電性グラスライニング層によって最表層と金属基材をアースすることを特徴とする導電性GLの施工方法を提供する。
本発明の導電性GLは、導電性部材によって最表層の導電性GL層と金属基材がアースされているために、表面方向に逃がした帯電荷を良好に金属基材へ逃がすことができる。これにより導電性GLの帯電防止性能を十分に発揮することができる。
特に、請求項2に係る発明によると、GL製品のGL層全層を導電性GLに施工する場合に比べて製造工程を増やすことなく簡易にアースを取ることができる。
また、請求項3に係る発明によると、導電性GL層と金属基材をアースする導電性GL部材は施工済みの通常GL層に比較して低温で焼成されるために、最終工程での施工が可能であり、施工済GL層にほとんど影響を与えない。さらに、特定の導電性物質を使用しても、発泡等を起こすことなく施工・焼成が可能である。
また、請求項4に係る発明によると、低温焼成導電性GL部材は、下引きGLをベースとしたものであるため、導電性GL層と金属基材を強固にアースすることが可能となる。
図1に、グラスライニング製構造物の一例として反応装置の断面図を図示した。図1に示すように、GL製機器は、内部をGL加工されており、上かがみ部3と下かがみ部5、及びこれらを接続するための本体フランジ部4からなっている。また、反応装置においては被処理物を撹拌するための撹拌翼及び攪拌軸(インペラ部2)や、被処理物を取り出す底部ノズル6、様々な機器を装着するためのフランジ部1等からなる。
本発明において、アース方法の一つであるガスケットは、後述するようにフランジ部1、本体フランジ部4、底部ノズル部6において好適に使用できる。
最表層のGL層を金属基材にアースする場合、施工が容易であることからどの部位においても使用することができるが、金属基材にかかる部位で発泡が起こる可能性を考慮すると、シールを必要としない箇所、外観上の問題を考慮する必要がない場所において使用するのが好ましい。
また、低温焼成導電性GL層、特に下引きGLをベースにしたGL層によりアースする場合、発泡の問題もなく、金属基材との接着性もよいため、どの部位においても好適に使用することができる。
ここで、低温焼成導電性GLとは、通常の下引きGLよりも焼成温度が低く、上引きGLと同等か、又はそれよりも低い温度で焼成可能なGLを指す。具体的には、850℃以下で焼成可能なGLが好ましく、さらに830℃以下で焼成可能なGLがより好ましい。
また、金属製ビス等の金属部材を埋め込む場合も、上記同様に全ての部位に適用できるが、被処理物によっては、金属の選定や腐食の問題が起こることから、被処理物に接しない部位において適用することが好ましい。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り下記に限定されるものではない。
本発明の実施例1として、少なくとも三層のGL層から構成される導電性GLの端部を、低温焼成導電性GL部材によってアースする場合について説明する。なお、実施例1では、導電性物質として二酸化ルテニウム(RuO)を用いた。
(スリップ作製)
実施例1の導電性GLの製造に使用したガラスフリットの組成を表1に示した。本発明の導電性GLの各GL層の製造に使用できるガラスフリットは、表1に限定されるものではなく、慣用的に使用されている任意のものを使用可能である。実施例1では、ガラスフリット:RuO=9:1の重量比、すなわちガラスフリットに対してRuOを10重量%となるように、RuOを上引き用ガラスフリットに混合したものを上引き導電性GLのスリップとした。なお、後述する比較例の製造にも、実施例1と同じガラスフリットを用いた。
Figure 0004596896
上記ガラスフリット(及びRuO)をポットミルに投入した後、さらに水を投入し、施釉ができる状態になるまでフリットを粉砕した。粉砕終了後、ガラス粒子の粒度分布を、日機装製マイクロトラック粒度計Micro Track Series 9200 FRAを用いて測定し、ガラス粒子の平均粒子径(重量累積粒度分布の50%径)が20〜40μmであることを確認した。粒度分布が上記範囲内であればスリップ完成とした。スリップ中のガラス粒子の平均粒子径は、1〜100μm、好ましくは10〜60μmであることがスリップ吹き付け作業及び焼成後のGLの品質の観点から好ましい。
導電性物質としては、この実施例で用いたRuOのような金属酸化物以外に、金属、セラミックス、炭素を用いることができる。また、これら導電性物質でコートされたガラスビーズや繊維を用いることも可能である。例えば、金属でメッキしたガラスビーズであってもよい。導電性と耐腐食性の観点からは、金属及び金属酸化物は、貴金属及び貴金属酸化物であることが好ましい。
GL層中に導電性物質を均等に分散させ、また最表層の導電性GL層の表面を平滑にするため及び導電性物質の添加量をできるだけ少なくするためには、ガラスフリットと混合する導電性物質は、微細な粉末状であることが好ましい。
具体的には、粉末状の導電性物質の平均粒子径(重量累積粒度分布の50%径)は、1μm以下、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下であり、HORIBA製LA-700 Particle Size Analyzerを用いて測定する。また、粉末状の導電性物質の比表面積は、10m/g以上、好ましくは18m/g以上、さらに好ましくは30m/g以上である。また、上引き導電性GL層の表面を平滑にすることにより、上引き導電性GL層表面への処理物の付着を低減できる。上引き導電性GL層の表面は、平均粗度(Ra)を0.05〜0.09μm程度とすることが好ましい。
なお、後述する図2(a)〜(d)にそれぞれ示す実施例1〜4のGL端部では、ガスケットが接する場合がある。シーリング性を保つためにも、施工後のGL表面はできるだけ平坦であることが好ましい。表面平滑度を問題としない用途においては、金属繊維や炭素繊維のような繊維状の導電性物質も、本発明の導電性GLに用いることが可能である。
導電性物質が焼成後、焼成前とは別の形態、例えば酸化物や複合酸化物となる場合もあり、この焼成後の形態でも導電性に寄与しうる。その一例として、導電性物質にRuOを用いた場合で説明すると、RuOが一緒に焼成されるガラス成分によっては、PbRu7−X、BiRu7−X、TlRuのようなパイクロア構造の複合酸化物となって導電経路の形成に寄与する。
(金属基材への施釉と焼成)
実施例1の導電性GLを図2(a)に示す。実施例1は、金属基材7の上に、下引きGL層8、上引き通常GL層9及び上引き導電性GL層10を順に焼成させ、GL端部に低温焼成導電性GL部材11を施工した三層構造である。GL層の端部を介して、最表層の上引き導電性GL層10から金属基材7に渡って低温焼成導電性GL部材11が施工されている。金属基材7としては、低炭素鋼やステンレス鋼のような慣用される金属基材を用いることが可能であるが、実施例1では、軟鋼を用いた。なお、実施例1では、スプレーを用いるという周知の方法で各層のスリップを金属基材上に所定の順番で施釉し、焼成させた。
まず、金属基材7に下引きGL層8を0.2mmの厚みでスプレーを用いて施釉し、920℃で焼成した。
次に、下引きGL層8の上に、0.6mmの上引き通常GL層9を設けるべく、スプレーによる施釉及び850℃の焼成を複数回繰り返し行った。なお、本発明の導電性GLにおいては、下引きGL層+上引き通常GL層の厚みを0.8〜2.2mmとすることが望ましい。
本発明の低温焼成導電性GL部材11によってアースされた導電性GLでは、下引きGL層8と上引きGL層9は導電性物質を含有せず、上引きGL層9の上に、さらに導電性物質を含有する上引き導電性GL層10を有することを特徴とする。すなわち、下引きGL層8と上引き通常GL層9を施釉・焼成した後であっても、下引きGL層8と上引きGL層9が導電性物質を含有しないために、放電によるピンホール試験を実施可能である。
このように、上引き導電性GL層10を施釉・焼成する前の段階で、製品(仕掛品)の一次検査としてピンホールの発生をチェックすることができるため、万が一、最終製品の最表層の上引き導電性GL層10にピンホールが存在していても、金属基材7と上引き導電性GL層10との間に、ピンホールのない下引きGL層8及び上引きGL層9が存在するため、最表層の上引き導電性GL層10に存在するピンホールからの浸食により、金属基材7が腐食・溶出することを効果的に防止することができる。
次に、上引きGL層9の上に、上引き導電性GL層10を0.1〜0.3mmの厚みでスプレーを用いて施釉し、850℃で焼成した。実施例1では、上引き導電性GL層10の厚みを0.2mmとした。また、GL層を焼成するたびに厚みを測定し、各GL層の厚みが規定内にあることを確認した。
なお、導電性物質としてRuOを用いる場合、880℃を超えるとRuOが気体となる反応が生じ気泡が生じるため、上引き導電性GL層の焼成は、880℃以下で行わなければならない。
本発明の低温焼成導電性GL部材によってアースされた導電性GLは、最表層の上引き導電性GL層10と金属基材7の間に、少なくとも二層のGL層を有しているため、上引き導電性GL層10は帯電を防止し、帯電した静電気を上引き導電性GL層10端部のアースへと逃がすことができる厚みであれば足りる。すなわち、貴金属等の高価な導電性物質を含有する導電性GL層の厚みを、従来の全層導電性GLの導電性GL層の厚みよりも薄くすることが可能であり、全層を導電性GLとする場合に比べ、製造コストを下げることができる。
ここで、上引き導電性GL層10を薄くしすぎると、表面抵抗率を下げることができず、静電気の帯電防止効果が低下する。また、静電気放電が発生した場合に、静電気を上引き導電性GL層の表面方向に逃がすことができなくなる。
逆に、厚くしすぎると導電性物質の使用量が多くなり、製造コストが上昇する。また、静電気放電が発生した場合に、従来の全層導電性GLと同様、静電気が導電性GL層から金属基材へと逃げやすくなり、GL層の絶縁破壊が発生しやすくなる。
静電気が帯電しにくく、静電気放電による破壊に強く、かつ製造コストを抑えた導電性GLとするため、本発明の導電性GLにおいては、上引き導電性GL層10の厚みが、0.02mm以上さらには0.05mm以上0.5mm以下であることが好ましい。実施例1では、上引き導電性GL層10=0.2mm、上引き通常GL層9+下引きGL層8=0.8mmである。
(低温焼成GL部材の施工)
上記三層のGL層を施釉した後、低温焼成導電性GL部材11を、施工済みGL層に影響しない830℃以下で最後に焼成した。この際、低温焼成導電性GL部材11を施工する箇所のみ部分焼成することも可能である。実施例1の低温焼成導電性GL部材11は、上引き導電性GLと同様、ガラスフリット:RuO=9:1の重量比となるように、RuOを表1に示す低温焼成下引きGL用ガラスフリットに混合したものをスリップとして用い、0.2〜0.3mmの厚さで施工した。
このように低温焼成導電性GL部材11によりアース処理を行うことにより、金属基材7とGL層(8〜10)の密着性を高くし、破損、シーリング時の洩れなどを効果的に防止することができる。
(表面抵抗率)
一般的な静電気の帯電圧と表面抵抗率(Ω/sq.)の関係を、表2に示した。表面抵抗率が1E+10(Ω/sq.)以下であれば、帯電がほとんど起こらないことは、このように経験的に知られている。
Figure 0004596896
GL層へのRuO添加量とRuO添加後のGL層の表面抵抗率(Ω/sq.)の関係を図3に示した。表面抵抗率の測定は、GL層(1mm)の表層(0.2〜0.3mm)にRuOを添加して行った。また、測定は、湿度4.7〜5.6%、気温20〜25℃の条件下で行い、試料GLは、測定ボックス内で一晩乾燥させた。
この図におけるRuO添加量は、ガラスフリットに対する添加RuOの重量%を表している。導電性物質としてRuOを用いる場合には、ガラスフリットに対して4〜5重量%添加すれば導電性GLの表面抵抗率を1E+6(Ω/sq.)以下にすることができ、本実施例の10重量%添加した導電性GLの実測値は、2.5E+4(Ω/sq.)であり、非常に帯電しにくいことが確認された。RuO添加量を増加させるほど表面抵抗率は小さくなったが、RuOは高価であるため、添加量は少ないほど製造コストが安くなる。
製品としての添加量は、15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは6重量%以下とするのが実用的である。一方、導電性の観点からは、製品としてのRuO添加量は、好ましくは1〜10重量%であり、製造コストを考慮すると、さらに好ましくは4〜6重量%である。
(帯電圧半減時間)
実施例1のGLと、下引きGL層と上引き通常GL層の両方に導電性物質を含有する(ガラスフリットに対しRuOを10重量%添加した)導電性GL(比較例)について、帯電圧半減時間を測定した。比較例の金属基材は、本実施例に用いた軟鋼と同じである。比較例は、下引き導電性GL層0.2mm+上引き導電性GL層0.8mmとなるように施釉・焼成した。各GL試料は50mm四方の大きさであり、それぞれ金属基材部分にアースを施した。この状態で、針電極に8.0kVを印加して、コロナ放電を起こし、GL試料に20秒間帯電させた。そして、帯電圧が半分になるのに要する時間(秒)を測定した。その結果を表3に示した。
Figure 0004596896
実施例1及び比較例共に、半減時間が約0.3秒と極めて短時間で帯電圧が半減した。このことから、実施例1は、全層が導電性GLである比較例と同様にアースが良好にとれており、静電気放電が発生しにくいGLであることが確認された。
(高電圧パルスを用いた破壊試験)
比較例及び実施例1について、静電気放電が発生した状態を想定して、高電圧パルスを用いた破壊試験を行なった。その試験結果を表4に示した。なお、実験条件は、表4に示した通りであり、各GL試料には帯電圧半減時間測定時と同様にアースを施した。
Figure 0004596896
比較例は、導電性GL層を有し、かつアースを施していたにもかかわらず、25kVで絶縁破壊が発生した。上述したように、比較例のような全層導電性GLは、静電気を導電性GL層から金属基材へと逃す効果を有しており、本来、静電気が帯電しにくい構造である。このことは表3に示した表面抵抗率からも明らかである。しかし、何らかの原因により大きな静電気が帯電し、今回実験した高電圧パルスのような静電気放電が発生した場合には、静電気の大部分が放電発生箇所のGL層を通過して体積方向に逃げてしまうために、GL層の絶縁破壊が発生しやすいものと考えられた。
一方、実施例1は、表面抵抗値が比較例とほぼ同じであり、さらに帯電しにくいGLであることが確認された。さらに、印加パルス電圧が30kVの場合でも絶縁破壊が発生しなかった。これは、実施例1の導電性GLが比較例と異なり、帯電した静電気を最表層の導電性GL層の表面方向に逃がしやすいためと考えられた。すなわち、実施例1の導電性GLは、最表層の上引き導電性GL層10の下部に、導電性を有しない通常GL層(8及び9)を二層有するために、高電圧パルスが発生した場合であっても、静電気が通常GL層を通じて断面方向に金属基材7へと逃げにくく、上引き導電性GL層10の表面からアースに向かって静電気が逃げやすいと考えられた。
このように、実施例1は、基材金属部分のみにアースを施しても、比較例と比較して、表面抵抗値がほぼ同じであり、帯電圧半減時間も短いために静電気が帯電しにくかった。また、万が一、高電圧の静電パルスが発生した場合でも絶縁破壊が起こりにくいGLであることが確認された。さらに、仕掛品の一次検査としてピンホール試験を行うことが可能であり、製品の品質管理の質を向上でき、導電性物質の使用量を数分の一に抑えることができる、という優れた特性を有している。
実施例1は、三層構造の導電性GLであったが、最表層が導電性物質を含有する導電性GLであり、その最表層と金属基材を低温焼成導電性GL部材でアースする限り、最表層の下層に導電性を有しない通常GLを三層以上形成し、全部で四層以上からなる導電性GLとしても、本発明の目的は達成される。本発明の導電性GL層は、GL構造物内部の全面に施工してもよく、また、GL機器内部の非水系有機溶媒や粉体等が接触する部分にのみ施工して導電性物質の使用量をできるだけ抑えるようにしてもよい。
実施例1においては、部材の端部でアースをとる構成としたが、これに限定されず、例えば図2(b)に示すように、一度施工したGL層を削り取り、低温焼成導電性GLを施工する構成としてもよい。この場合、アースをとる場所が端部に制限されないという利点がある。また、低温焼成GLを利用するため、既に焼成したGL層(特に下引きGL層)に影響を与えることもない。
本発明の別の実施例として、図2(c)に示すように、下引きGL層8及び上引き通常GL層9を施工し、上引き導電性GL層10を焼成する前に、焼成済みのGL層(8及び9)を削り取り、下引きGL層8と同じ厚みに低温焼成導電性GL層11を施工した後、上引き導電性GL層10を形成する構成としてもよい。この場合も、三層構造の導電性GLの製造方法と同じ工程を行うだけであり、既に焼成したGL層に影響を与えることがない。さらに、上引き導電性GL層10を最表層に施工するため、外観上も良好なGL構造物を得ることができ、耐食性についても良好である。
本発明のさらに別の実施例として、図2(d)に示すように、下引きGL層8及び上引き通常GL層9を施工し、上引き導電性GL層10を焼成する前に、焼成済みのGL層(8及び9)を削り取り、下引きGL層8及び上引き通常GL層9と同じ厚みに低温焼成導電性GL層11を施工した後、上引き導電性GL層10を形成する構成としてもよい。この実施例も、上引き導電性GL層10を最表層に施工するため、外観上も良好なGL構造物を得ることができ、耐食性も良好である。
実施例1〜4においては、いずれもアースのためのGLとして低温焼成導電性GLを利用していることから、通常のGL層を施工後にアース処理を施すことが可能であるため、前述したピンホール検査等を通常GL層施工後に実施でき、品質管理が容易であるという利点がある。また焼成温度も通常の下引きGL、上引きGLに比べ低いことから、既に施工されたGL層に影響を与えることもない。
実施例3及び4では、低温焼成導電性GLとして下引きGLをベースにしたものを利用した場合でも、表層は通常GLをベースとした導電性GLを利用しているため、耐蝕性があり、内容物に接する部分において施工することも可能である。
また、下引きGLをベースとした低温焼成導電性GLを利用することにより、金属基材中のC、Mn、H等の反応によりGL層が脆くなるのを防止することができる。例えば、CはCO及びCOとなりGL中にピンホールを生じさせる可能性があり、MnはGLに割れを生じさせ、Hは冷却時にHが生じ、それぞれ、GLが破損する可能性がある。
さらに、低温焼成導電性GLに添加する導電性物質の割合を最表層GLに添加する導電性物質の割合よりも多くすることにより、帯電荷を逃がしやすくすることができる。
この導電性物質の添加割合は、最表層GLと同じか、又は1〜5重量%以上高めに添加するのが好ましい。導電性物質の添加量が少ないと、帯電荷を逃がしにくくなるおそれがあり、一方、添加量が多すぎると製造コストが高くなるため好ましくない。
なお、低温焼成導電性GL層の厚みは、特に限定されないが、施工上0.05mm以上であることが好ましい。
また、実施例2〜3で説明したように、GL層を施工した後、GL層を削り取り、再度、低温焼成導電性GL層を施工する方法をとらずに、最初から施釉分けを行い、通常GL部と低温焼成導電性GL部を混在するGL層を形成してもよい。
図4に示す本発明の別の実施例は、最表層の上引き導電性GL層10を、金属基材7に直接施工することによってアースを取るため、施工が容易なものとなる。
図5に示す本発明の別の実施例は、最表層の上引き導電性GL層10と金属基材7を、金属材料(金属製ビス12)及びセメント13を利用してアースを取る構成としている。この実施例の導電性GLは、上引き導電性GL層10の施工後、部分的にアースを設置することが可能であり、設置現場でも最終施工が可能である。
具体的には、上引き導電性GL層10を施工後、被処理部を削り取りセメント13を塗り、セメント13及び金属基材7にネジを切り、セメント13を覆うように金属製ビス12を締め付ける。これによって、上引き導電性GL層10と金属基材7をアースすることができる。
実施例6で用いる金属製ビスに利用できる金属としては、タンタル、ハステロイ、チタン、ステンレス(SUS316)等が挙げられる。使用する金属は、内容物の物性に合わせて選択される。
実施例6のGLは、内容物に接する部分についても実施することができるが、隙間腐食や金属腐食の観点から、内容物に接触しない部分に使用することが好ましい。
本発明の実施例のように、導電性部材により最表層の導電性GL層と金属基材間をアースすることにより、少なくとも三層構造からなり、その最表層が導電性であるGLが本来有している帯電防止効果、耐放電効果を十分に発揮させることが可能である。構造物内部で非水系有機溶媒や微粉末を撹拌、混合した場合でも静電気が帯電しにくく、かつ、万が一、静電気放電が発生しても、従来の導電性GLよりも絶縁破壊されにくい、安全性の高いGL機器、GL容器等のGL構造物を製造することが可能となる。
(導電性GL構造物)
図1に示した反応装置を、実施例1〜6に例示したような導電性GLで作製すれば、装置内部で発生した帯電を、速やかに上引き導電性GL層から金属基材を経て、アースへと逃がすことが可能となる。
図1には図示していないが、フランジ部1、本体フランジ部4等に導電性ガスケットを用いることが、帯電防止の観点から好ましい。
このような構成をとることで、最表層の上引き導電性GL層が金属基材に直接アースされ、フランジ周辺におけるGLの静電気による破損を防ぐことができる。これは、ガスケットが絶縁性であると、内容物との摩擦により帯電され、沿面放電が発生するおそれがあるが、導電性ガスケットを使用することにより、それを防止することができるからである。
なお、導電性ガスケットとしては、例えば、テフロン(登録商標)にカーボンを混合したガスケットを利用することができる。
通常、GL機器は耐食性に優れており、使用される用途としても耐食性を求められることが多いため、このような機器に使用されるガスケットとしては高耐食性のPTFE性ガスケットを用いることが多い。しかし、PTFEはGL以上に絶縁性の強い材質であり、GL以上に帯電が発生しやすいことから、通常のガスケットを使用すると、帯電圧が非常に高くなり、内容物との間で沿面放電が発生すると、フランジ周辺のGLに破損が生じるおそれがある。
これに対し、図1に示す本発明の導電性GL製構造物は、フランジ部に導電性ガスケットを使用し、ガスケットと金属基材をアースさせる構成とすることにより、上引き導電性GL層と金属基材を十分にアースしつつ、フランジ周辺におけるGLの破損を防ぐことができる。また、導電性GLに挟まれるように導電性ガスケットを配置した場合、ポンディング効果により、電気的に絶縁された箇所をなくすることができる。
また、絶縁性のガスケットは、帯電しやすいことから、粉体等が付着しやすい。特に、排出、投入ノズルでは付着しやすく、GL製の乾燥機器においては、この付着が顕著に現れる。この付着が進むと、配管が詰まるおそれがあり、洗浄も困難である。さらに、付着量が多い程、歩留まりが低くなる原因となり好ましくない。
これに対し、図1に示す本発明の導電性GL製構造物は、導電性ガスケットを使用しているため、粉体等の製品の付着が起こりにくくなり、配管の詰まりを抑制し、かつ、付着による製品の歩留まり低下を抑えることができる。
このように、本発明の導電性部材によってアースされた導電性GLは、少なくとも三層構造からなり、その最表層が導電性である導電性GLの性能を十分に発揮させるものであり、アースをとることが困難なインペラ部分においても十分にアースを取ることができる。また、このような導電性GLを形成した後、導電性GLを変質させることなく、容易に低温焼成導電性GL部材を焼成して製造可能であるために、コストパフォーマンスにも優れている。さらに、最表層の導電性GL層を形成する前に放電試験によりピンホールチェックを行うことが可能であり、製品の品質管理上も従来の導電性GLにない有用性を有する。
本発明の導電性GLは、GL機器、GL容器等のGL構造物に施工することにより、経済性及び安全性の高い製品の製造に利用することが可能である。
グラスライニング製品である反応装置の断面図である。 図2(a)〜(d)は、本発明の実施例1〜4をそれぞれ示す図である。 RuO添加量と表面抵抗率との関係を表すグラフである。 本発明の実施例5を示す図である。 本発明の実施例6を示す図である。
符号の説明
1:フランジ部
2:インペラ部
3:上かがみ部
4:本体フランジ部
5:下かがみ部
6:底部ノズル
7:金属基材
8:下引きGL層
9:上引き通常GL層
10:上引き導電性GL層
11:低温焼成導電性GL部材
12:金属製ビス
13:セメント

Claims (7)

  1. 金属基材と、
    ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引きグラスライニング層及び上引きグラスライニング層と、
    ガラスフリットに導電性物質を添加して焼成した最表層の上引き導電性グラスライニング層の少なくとも三層のグラスライニング層から構成される導電性グラスライニングであって、
    導電性物質を添加して焼成した低温焼成導電性グラスライニング層によって最表層と金属基材がアースされていることを特徴とする導電性グラスライニング。
  2. 前記低温焼成導電性グラスライニング層が下引きグラスライニングをベースにしたものであることを特徴とする請求項1に記載の導電性グラスライニング。
  3. 前記低温焼成導電性グラスライニング層の焼成温度が850℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の導電性グラスライニング。
  4. アース部分において、低温焼成導電性グラスライニング層に添加される導電性物質の割合が、最表層に添加される導電性物質の割合よりも高いことを特徴とする請求項2又は3に記載の導電性グラスライニング。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1項に記載の導電性グラスライニングから構成されるグラスライニング製構造物。
  6. フランジ部に導電性ガスケットを用いることを特徴とする請求項5に記載のグラスライニング製構造物。
  7. ガラスフリットに導電性物質を添加せずに焼成した下引きグラスライニング層及び上引きグラスライニング層と、ガラスフリットに導電性物質を添加して焼成した最表層の上引き導電性グラスライニング層の少なくとも三層のグラスライニング層を金属基材上に施工する導電性グラスライニングの施工方法であって、
    少なくとも下引きグラスライニング層と上引きグラスライニング層を施工した後に、導電性物質を添加した低温焼成導電性グラスライニング層を施工し、
    低温焼成導電性グラスライニング層によって最表層と金属基材をアースすること
    を特徴とする導電性グラスライニングの施工方法。
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