本発明は、互いに直交する複数のサブキャリアを多重伝送するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式を適用する無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムに係り、特に、空間多重を利用して複数の論理的なチャネルを形成したMIMO(Multi Input Multi Output)通信にOFDM変調方式を適用した無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムに関する。
さらに詳しくは、本発明は、送信機から時分割で送られるMIMOチャネル毎の既知トレーニング信号を利用して受信機側でMIMO合成用のチャネル行列を学習する無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムに係り、特に、サブキャリア毎に挿入位置を入れ替えるトーン・インターリーブ操作して各MIMOチャネル用のトレーニング信号の送信が行なわれる無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムに関する。
旧来の有線通信方式における配線から解放するシステムとして、無線ネットワークが注目されている。無線ネットワークに関する標準的な規格として、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11などを挙げることができる。
例えばIEEE802.11a/gでは、無線LANの標準規格として、マルチキャリア方式の1つであるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式が採用されている。OFDM変調方式では、各サブキャリアがシンボル区間内で相互に直交するように各キャリアの周波数が設定されている。サブキャリアが互いに直交するとは、任意のサブキャリアのスペクトラムのピーク点が常に他のサブキャリアのスペクトラムのゼロ点と一致していることを意味する。OFDM変調方式によれば、送信データを周波数の異なる複数のキャリアに分配して伝送するので、各キャリアの帯域が狭帯域となり、周波数利用効率が非常に高く、周波数選択性フェージング妨害に強い。
OFDM送信機は、シリアルで送られてきた情報を情報伝送レートより遅いシンボル周期毎にシリアル/パラレル変換して出力される複数のデータを各サブキャリアに割り当ててサブキャリア毎に振幅及び位相の変調を行ない、その複数サブキャリアについて逆FFTを行なうことで周波数軸での各サブキャリアの直交性を保持したまま時間軸の信号に変換して送信する。また、OFDM受信機は、この逆の操作、すなわちFFTを行なって時間軸の信号を周波数軸の信号に変換して各サブキャリアについてそれぞれの変調方式に対応した復調を行ない、パラレル/シリアル変換して元のシリアル信号で送られた情報を再生する。
また、IEEE802.11aの規格では最大で54Mbpsの通信速度を達成する変調方式をサポートしているが、さらなる高ビットレートを実現できる無線規格が求められている。
無線通信の高速化を実現する技術の1つとして、MIMO(Multi−Input Multi−Output)通信が注目を集めている。これは、送信機側と受信機側の双方において複数のアンテナ素子を備え、空間多重した伝送路(以下、「MIMOチャネル」とも呼ぶ)を実現する通信方式である。すなわち、送信機において複数のアンテナに送信データを分配して送出する。一方、受信機では複数のアンテナにより受信した空間信号に信号処理を行なうことによって、各信号をクロストークなしに取り出すことができる(例えば、特許文献1を参照のこと)。例えば、IEEE802.11nでは、1次変調にOFDMを用いたOFDM_MIMO方式が採用されている。
MIMO通信方式によれば、周波数帯域を増大させることなく、アンテナ本数に応じて伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成することができる。また、空間多重を利用するので、周波数利用効率はよい。MIMOはチャネル特性を利用した通信方式であり、単なる送受信アダプティブ・アレーとは相違する。
図4には、MIMO通信システムを概念的に示している。MIMO送信機には、2本のアンテナ、すなわち送信アンテナ1と送信アンテナ2を備え、一方のMIMO受信機も2本の受信アンテナ1と受信アンテナ2を備えている。ここで、送信アンテナ1と受信アンテナ1の伝搬路を伝搬路a、送信アンテナ2と受信アンテナ1の伝搬路を伝搬路b、送信アンテナ1と受信アンテナ2の伝搬路を伝搬路c、送信アンテナ2と受信アンテナ2の伝搬路を伝搬路dとする。そして、送信機は、送信アンテナ1に対して送信データ系列X1を送信アンテナ2に対して送信データ系列X2を割り当て、受信機は、受信アンテナ1において受信データ系列Y1を受信し、受信アンテナ2において受信データ系列Y2を受信したものとする。この場合の伝搬路状況は、以下の式(1)のように表現することができる。
このときのチャネル行列Hを次式(2)のように定義すると、次々式(3)のようにチャネル行列Hの逆行列H-1をアンテナ受信重み行列Wとして求めることができる。
したがって、次式(4)に示すように、受信信号系列Y1及びY2にチャネル行列Hの逆行列H-1を乗算することで、受信信号系列X1及びX2が求まる。
なお、図4では送受信アンテナがともに2本の場合を示したが、アンテナ本数が2本以上であれば、同様にしてMIMO通信システムを構築することができる。送信側では、複数の送信データに空間/時間符号を施して多重化し、M本の送信アンテナに分配してMIMOチャネルに送信する。これに対し、受信側では、MIMOチャネル経由でN本の受信アンテナにより受信した受信信号を空間/時間復号して受信データを得ることができる。理想的には、送受信アンテナのうち少ない方の数(MIN[M,N])だけのMIMOストリームが形成される。
MIMO受信機は、上述したように、空間多重された受信信号yから各ストリーム信号xを空間分離するためには、何らかの方法によりチャネル行列Hを取得し、さらに所定のアルゴリズムによってチャネル行列Hから受信重み行列Wを求める必要がある。
上式(2)で示されるチャネル行列Hは、一般的には、送信側並びに受信側で既知の系列を送受信することで、送受アンテナ組み合わせ分の経路の伝搬路(式(2)の例で言えば、a、b、c、d)を行列形式に並べたものである。送信側アンテナ本数がNで受信側アンテナ本数がMのときは、チャネル行列はM×N(行×列)の行列となる。
また、チャネル行列Hから受信重み行列Wを求める比較的簡単なアルゴリズムとして、Zero Force(ゼロ化規範)や、MMSE(Minimum Mean Square Error)などが知られている。Zero Forceは、完全にクロストークを取り除く論理に基づいた方法であり、一方のMMSEは、信号電力と2乗エラー(クロストーク電力と雑音電力の和)の比を最大化する論理に基づいた方法である。さらに、クローズドループ型のMIMO伝送の理想的な形態の1つとして、チャネル行列Hを特異値分解してUDVHを求め、送信側のアンテナ重み行列としてVを与えるとともに、受信側のアンテナ重み行列としてUHを与える特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)を利用したSVD−MIMO方式が知られている。
ここで、複数のトレーニング信号を同時に無対策で送信すると受信側ではどのアンテナから送信されたものかが判別することができなくなるので、送信機側から送信アンテナ毎のトレーニング信号を時分割(すなわち時間的に直交させて)送信し、受信機側では各受信アンテナで受信したトレーニング信号を基にチャネル行列Hを取得するという時分割法を適用する。送信機側では、トレーニング系列をOFDM変調して送信ブランチ毎に時分割送信し、受信機側では、サブキャリア毎にチャネル行列の取得手続きを行なう。
図5には、MIMOチャネル毎のトレーニング信号を送るためのデータ・パケットの構成例を示している。但し、i番目のMIMOストリームのj番目のサブキャリアにおける送信重みベクトルをV(i,j)と表している。時間軸上では、データ・パケットは、同期獲得用のプリアンブルに続いて、MIMOチャネル毎の送信重みベクトルVで重み付けされたトレーニング系列からなる既知信号送信区間がMIMOチャネル数分だけ配置され、その後に各MIMOストリームのユーザ・データが空間多重された情報信号送信区間が配置される。また、周波数軸上では、パケットを構成する各送信区間における直交するサブキャリアが連続して配置される。
図5に示す例では、2×2のアンテナ構成すなわち2本のMIMOチャネルからなる通信システムを想定し、送信用の重みは2個の2×1の送信重みベクトルV1及びV2で構成される。送信側では、ユーザ・データの送信に先立ち、送信重みベクトルV1及びV2でそれぞれ重み付けした2つのトレーニング系列がMIMOチャネル毎に時間的に区間分けされた既知信号送信区間1及び2を利用して送信される。そして、情報信号送信区間では、すべてのMIMOチャネルの信号が空間多重して送信される。受信機側では、サブキャリア毎にVで重み付けされたトレーニング系列を受信してチャネル行列Hを取得し、チャネル行列Hから空間多重信号の空間分離に使用する受信用重みを算出し、空間多重されたユーザ・データに受信用重みを乗算することで各ストリーム信号に空間分離することができる。
図6には、周波数軸上で信号帯域に連続して配置された各送信区間のサブキャリアの受信電力を例示している。但し、一般的なOFDM伝送方法として、信号帯域の中心となるサブキャリア(ベースバンド信号上でのDCキャリアに相当する)はDCヌル・キャリアとして抜かれている(すなわち信号伝送に寄与しない)。
基本的には、MIMOチャネル毎にそのチャネル特性は異なる。MIMOチャネル毎に時分割された既知信号送信区間では、そのまま受信電力差として現われる。これらの受信電力は、情報信号送信区間の受信電力とも異なる。図6に示した例では、既知信号送信区間1では受信電力は高く、既知信号送信区間2では受信電力は低くなっている。図中の一点鎖線で示したレベルは、各区間の信号帯域内の平均電力値を表しており、このように各区間で受信電力差が生じてしまう。
このような大きな受信電力差をカバーするためには、受信側のダイナミック・レンジを大きく取る必要が有る。より具体的に言えば、ADC(A/D変換器)に高い分解能が要求される。分解能の低いADCでは、小電力信号受信時において量子化誤差に対する充分な信号電力を得ることができなくなるからである。ところが、ADCの分解能拡大(ビット幅の拡張)は、消費電流の増大を招き、特にポータブル機器に実装する場合には、大きな問題となる。
既知トレーニング信号受信時における許容すべきダイナミック・レンジを低減する方策の1つとして、各MIMOチャネル用のトレーニング信号を挿入する既知信号送信区間をサブキャリア毎に入れ替える「トーン・インターリーブ」操作が挙げられる。トーン・インターリーブとは、周波数軸上で隣り合うサブキャリアのMIMOチャネルへの時分割規則が同一とならないようにすることである。
図7には、図6に示した既知信号送信区間1及び2に対しトーン・インターリーブ操作を施した例を示している。この場合、既知信号送信区間は、単にMIMOチャネル毎に時分割されるだけでなく、その振り分け方法(すなわち時分割規則)がサブキャリア毎に変えられる。すなわち、各MIMOチャネル1及び2用のトレーニング信号を挿入する位置がサブキャリア毎に既知送信区間1及び2に交互に切り替えられている。より具体的に言えば、信号帯域の両端のサブキャリアでは、MIMOチャネル1は既知信号送信区間1へ、MIMOチャネル2は既知信号送信区間2へ割当られ、その1つ隣のサブキャリアでは、MIMOチャネル1は既知信号送信区間2へ、MIMOチャネル2は既知信号送信区間1へと割り当てられている。以降のサブキャリアでは、同様に隣り合うサブキャリアとは既知信号送信区間への振り分け方法を逐次切り替えている。
このように周波数軸上で隣り合うサブキャリアの時分割規則を変えることにより、MIMOチャネル毎の特性差に起因する受信電力差が送信区間の受信電力差となって現われることを防ぐことができる。すなわち、信号帯域内の平均電力値を、同図の一点鎖線で示すように、各区間を通じてほぼ一定のレベルとすることができる。要するに、既知信号送信区間にトーン・インターリーブを施すことにより、AGCが許容すべきダイナミック・レンジを低減することができる。
ところで、チャネル特性は、基本的に時間の関数であり、時々刻々と変化する。このため、チャネル特性を取得するMIMO受信機側においては、時分割送信されるトレーニング信号の受信電力差に伴うダイナミック・レンジの問題とは別に、チャネルの位相変動に対する補正に関わる問題がある。
比較的短いスパンで見た場合のチャネルの位相変動は、主として搬送波周波数の送受間誤差と局部発信の位相雑音に起因しており、受信機側では時々刻々とその補正(チャネルの位相補正)を行なわなければならない。この位相補正を怠ると、高次のQAM系(例えば、256QAM)では復調に支障を来たし、高速伝送に不備を生ずることとなる。
また、上述したようにMIMOチャネル毎の既知トレーニング信号を時分割送信する場合、既知信号送信区間毎に情報信号区間との時間差が異なる。すなわち、時間差に応じてチャネルの位相変動量が異なることから、既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行なう必要がある。
図8には、既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行なう様子を図解している。情報信号送信区間でのチャネル特性は、各々の既知信号送信区間1及び2内で推定した結果からの経過時間の分だけ位相変動を受けている。図8に示した例で言えば、時刻t0からt1にわたる既知信号送信区間1に属するチャネルと、時刻t2からt3にわたる既知信号送信区間2に属するチャネルとでは、その経過時間が異なる分だけ、結果として受ける位相変動も異なってくる。このため、チャネルの位相補正は、既知信号送信区間に属するサブキャリア毎に別々に行なわなければ、正確を期し難くなるという訳である。既知信号送信区間毎にチャネルの位相オフセット量Ψ1及びΨ2を算出する式を以下に示しておく。但し、ψ(t)は位相の時間変動である。
チャネルの位相補正は、具体的には、情報信号送信区間に挿入されているパイロット信号を用いて行なう。このパイロット信号には、情報信号の代わりに既知信号が載せられている。よって、時間変動後のチャネル特性を推定する情報源として用いることが可能である。
図9には、パイロット信号を用いて、既知信号送信区間毎に位相オフセット値を検出する様子を図解している。同図に示す例では、信号帯域の両端(すなわち周波数軸上の左右それぞれの両端)より3つ内側に位置する各サブキャリアにそれぞれパイロット信号が割り当てられている。比較的受信電力の大きい空間サブチャネル1によって検出される位相オフセット値は、既知信号送信区間1からの位相変動に対応し、受信電力の小さな空間サブチャネル2によって検出される位相オフセット値は、既知信号送信区間2からの位相変動に対応している。
図9に示す例では、パイロット信号が割り当てられる周波数サブチャネルの既知信号送信区間の時分割規則がすべて同一となっている。すなわち、各パイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアではいずれも、比較的受信電力の大きな空間サブチャネル1のトレーニング信号を既知信号送信区間1に割り当てるとともに、受信電力が小さな空間サブチャネル2のトレーニング信号を既知信号送信区間2に割り当てるという時分割規則が適用されている。
このような場合、空間サブチャネルのチャネル特性に伴う受信電力差が、各既知信号送信区間における位相オフセット検出の確からしさにそのまま影響を及ぼす。図9を用いてより具体的に説明する。受信機側で既知信号送信区間毎にチャネルの位相オフセット量を検出する場合、既知信号送信区間1に属するチャネルのための位相オフセット検出は比較的受信電力の高い空間サブチャネル1のトレーニング信号FT1及びRT1を用いて行なわれるので、その検出値Fψ1及びRψ1から得られる位相オフセット値Ψ1は比較的高精度となる。これに対し、既知信号送信区間2に属するチャネルのための位相オフセット検出は受信電力の低い空間サブチャネル2のトレーニング信号FT2及びRT2を用いて行なわれるので、その検出値Fψ2及びRψ2から得られる位相オフセット値Ψ2は低精度となってしまう。このため、既知信号送信区間2に対応するチャネルの位相補正は、誤差が生じ易く、結果としてこの点が復調性能のネックとなり、全体のパフォーマンスの低下を招来してしまう。
通信品質が良好なMIMOチャネルには高次のQAM系の変調方式が適用され、逆に劣悪なMIMOチャネルにはデータレートの低い変調方式が適用されることになる。後者のMIMOチャネルからはチャネルの位相オフセット量を高精度に検出することはできない。ここで、トレーニング信号の送信に際しトーン・インターリーブを施さない場合であれば、良好なMIMOチャネルに関しては良好なトレーニング信号を用いて高い精度のチャネル位相補正を行なうことができることから、低データレートであるMIOMチャネルに関しては位相補正が正確でなくてもある程度諦めることが可能である。
ところが、既知信号送信区間にトーン・インターリーブを施している場合であっても、各既知信号送信区間において、情報信号送信区間に挿入されているパイロット信号と同じ周波数位置となるすべてのサブキャリアに対し同じ時分割規則が適用されている場合、一方の既知信号送信区間から得た位相オフセット量が劣悪なものとなり、この結果、良好なMIMOチャネルにおける復調性能にも影響を及ぼし、システム全体のパフォーマンスの低下を招来する。図9に示した例では、既知信号送信区間2に属するチャネルの位相オフセット検出は受信電力の低いトレーニング信号のみを用いて行なわれ、その結果として位相オフセット量が劣悪なものとなり、既知信号送信区間毎の位相オフセット検出値の確からしさに著しい偏りが生じてしまう。
本発明の目的は、送信機から情報信号の送信に先立って各MIMOチャネル学習用の既知トレーニング信号を複数の既知送信区間に時間的に区間分けして送信する際に、各MIMOチャネル用のトレーニング信号を挿入する既知信号送信区間をサブキャリア毎に入れ替えるトーン・インターリーブ操作を行なうことにより、MIMOチャネル毎の特性差に起因する受信電力差を緩和することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、各MIMOチャネル用のトレーニング信号がトーン・インターリーブ操作して送られてくる際に、受信機側において、情報送信区間内のパイロット信号を用い、既知送信区間毎にチャネルの位相オフセット値を検出して、チャネルの位相変動に対する補正を好適に行なうことができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、受信機側において、情報送信区間内のパイロット信号を用い、トーン・インターリーブされた既知送信区間毎にチャネルの位相オフセット値を検出する際に、MIMOチャネル間の通信品質の差の影響によりチャネルの位相補正の正確さが低下しないようにすることができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、各MIMOチャネル用のトレーニング信号がトーン・インターリーブ操作して送られてくる際に、受信機側において、既知送信区間毎にチャネルの位相オフセット値を確からしさの偏りなく検出することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、周波数軸上で相互に直交する複数のサブキャリアからなるOFDM信号を、複数のアンテナを持つ送信機と複数のアンテナを持つ受信機が対となって形成される複数の論理的なチャネルを利用して空間多重伝送する無線通信システムであって、
前記送信機は、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を時間的に区間化された複数の既知信号送信区間に振り分けて時分割送信した後に、情報信号を送信する情報信号送信区間で、前記周波数軸上の複数の特定位置のサブキャリアにパイロット信号を挿入しながらすべてのサブキャリアにわたり空間多重して送信し、
前記受信機は、前記の複数の既知信号送信区間に振り分けて時分割送信された既知トレーニング信号を基に各空間チャネルの特性を取得し、該チャネル特性から算出される受信重み行列を前記情報信号送信区間の受信信号に乗算して空間分離するとともに、前記情報信号送信区間に挿入されたパイロット信号を利用して前記の既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行ない、
前記既知信号送信区間では、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を振り分ける時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一となる状態を避けて攪拌され、且つ、複数のパイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける前記時分割規則がすべて同一となる状態ではない、
ことを特徴とする無線通信システムである。
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない(以下、同様)。
本発明は、複数のアンテナを持つ送信機と複数のアンテナを持つ受信機が対となって形成される複数の論理的なチャネルを利用したMIMO通信システムに関する。MIMO通信方式によれば、周波数帯域を増大させることになく、アンテナ本数に応じて伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成することができる。また、本発明では、周波数利用効率を上げるとともにマルチパス環境における遅延歪みの問題などを解決するために、OFDM変調方式を適用している。
MIMO通信方式の無線通信システムでは、受信機は、空間多重された受信信号から各ストリームの情報信号を空間分離するためには、何らかの方法によりチャネル行列Hを取得し、さらに所定のアルゴリズムによってチャネル行列Hから受信重み行列Wを求める必要がある。このため、送信機は、情報信号の空間多重送信に先立ち、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を時間的に区間化された複数の既知信号送信区間に振り分けて時分割送信する。また、既知トレーニング信号受信時における許容すべきダイナミック・レンジを低減するために、送信機は、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を振り分ける時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一とならないように、攪拌すなわちトーン・インターリーブ操作を施している。ここで、「時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一とならないように」するとは、時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて相違する状態の他に、一部のサブキャリアにおいては同一であっても他の一部のサブキャリアが同一でない状態も含まれる。
このような場合、受信機は、前記の複数の既知信号送信区間に振り分けて時分割送信された既知トレーニング信号を基に各空間チャネルの特性を取得し、該チャネル特性から算出される受信重み行列を前記情報信号送信区間の受信信号に乗算して空間分離するとともに、前記情報信号送信区間に挿入されたパイロット信号を利用して前記の既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行なうことができる。
ところが、トレーニング信号の送信に際しトーン・インターリーブ操作を施した場合、パイロット信号の挿入位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける時分割規則がすべて同一となっていると、空間サブチャネルのチャネル特性に伴う受信電力差が、各既知信号送信区間における位相オフセット検出の確からしさにそのまま影響を及ぼすという問題が生じる。
これに対し、本発明に係る無線通信システムでは、各パイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおいて、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分ける時分割規則がすべて同一とならないようにしている。すなわち、すべてのサブキャリアにおいて相違する状態の他に、一部のサブキャリアにおいては同一であっても他の一部のサブキャリアが同一でない状態にしている。
例えば、信号帯域の中心となるサブキャリアがヌル・キャリアとして抜いてOFDM伝送が行なわれる場合に、このヌル・キャリアを境として信号帯域の前半及び後半のそれぞれに配置されたパイロット信号に相当する既知信号送信区間のサブキャリアでは、各空間チャネルの既知トレーニング信号を振り分ける既知信号送信区間を異ならせるようにする。
送信機は、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分ける時分割規則をすべてのサブキャリアにおいて同一とならないように攪拌するとともに、前記複数のパイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける前記時分割規則がすべて同一とならないようにしたトレーニング信号を、パケットを送信する度に生成すればよい。あるいは、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を振り分ける時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一とならないように攪拌され、且つ、複数のパイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける前記時分割規則がすべて同一ではないように構成されたトレーニング・パターンを静的に保持し、パケットを送信する度にこれを読み出して既知信号送信区間を形成するようにしてもよい。
このように、パイロット信号が挿入される各位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける時分割規則を不均一化することによって、受信機側で既知送信区間毎にチャネルの位相オフセットを検出する際に、これら検出値の確からしさの偏りがなくなるので、受信機における復調性能のネックを取り除き、システム全体のパフォーマンスの低下を防止することができる。
また、本発明の第2の側面は、周波数軸上で相互に直交する複数のサブキャリアからなるOFDM信号を、複数の送信アンテナを用いて空間多重送信するための処理をコンピュータ・システム上で実行するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムであって、前記コンピュータ・システムに対し、
時間的に区間化された複数の既知信号送信区間を設け、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分ける時分割規則をすべてのサブキャリアにおいて同一となる状態を避けて攪拌するとともに、前記複数のパイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける前記時分割規則がすべて同一となる状態ではないように、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分けて時分割送信する既知トレーニング信号送信手順と、
前記既知信号送信区間の送信に続いて、情報信号を送信する情報信号送信区間で、前記周波数軸上の複数の特定位置のサブキャリアにパイロット信号を挿入しながら、すべてのサブキャリアにわたり空間多重して送信する情報信号送信手順と、
を実行させることを特徴とするコンピュータ・プログラムである。
本発明の第2の側面に係るコンピュータ・プログラムは、コンピュータ・システム上で所定の処理を実現するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムを定義したものである。換言すれば、本発明の第2の側面に係るコンピュータ・プログラムをコンピュータ・システムにインストールすることによってコンピュータ・システム上では協働的作用が発揮され、本発明の第1の側面に係る無線通信システムにおけるMIMO送信機として動作することができる。
本発明によれば、各MIMOチャネル用のトレーニング信号がトーン・インターリーブ操作して送られてくる際に、受信機側において、情報送信区間内のパイロット信号を用い、既知送信区間毎にチャネルの位相オフセット値を検出して、チャネルの位相変動に対する補正を好適に行なうことができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
また、本発明によれば、各MIMOチャネル用のトレーニング信号がトーン・インターリーブ操作して送られてくる際に、受信機側において、既知送信区間毎にチャネルの位相オフセット値を確からしさの偏りなく検出することができる、優れた無線通信システム、無線通信装置及び無線通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
本発明によれば、受信機側において、情報送信区間内のパイロット信号を用い、トーン・インターリーブされた既知送信区間毎にチャネルの位相オフセット値を検出する際に、MIMOチャネル間の通信品質の差の影響によりチャネルの位相補正の正確さが極端に低下することを未然に回避し、システム全体のパフォーマンス劣化を防ぐことができる。
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
本発明は、それぞれ複数のアンテナを持つ送信機と受信機が対となって空間多重信号の伝送を行なうMIMO通信に関する。MIMO通信方式では、送信機において複数のアンテナに送信データを分配して送出し、受信機では複数のアンテナにより受信した空間信号に信号処理を行なうことによって、各信号をクロストークなしに取り出す。MIMO通信方式によれば、周波数帯域を増大させることになく、アンテナ本数に応じて伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成することができる。また、空間多重を利用するので、周波数利用効率はよい。
また、本発明に係る通信システムは、OFDM変調方式を併用したMIMO_OFDM通信システムである。OFDM変調方式は、各サブキャリアがシンボル区間内で相互に直交するように各サブキャリアの周波数を設定したマルチキャリア伝送方式である。サブキャリアが互いに直交するとは、任意のサブキャリアのスペクトラムのピーク点が常に他のサブキャリアのスペクトラムのゼロ点と一致していることを意味する。OFDM変調方式によれば、周波数利用効率が非常に高く、周波数選択性フェージング妨害に強い。
図1には、本発明の一実施形態に係るMIMO_OFDM通信装置の構成を示している。
各送受信アンテナ11−1及び11−2には、スイッチ12−1及び12−2を介して、それぞれ送信系統並びに受信系統が並列的に接続され、他の無線通信装置宛てに信号を所定の周波数チャネル上で無線送信し、あるいは他の無線通信装置から送られる信号を収集する。但し、スイッチ12−1及び12−2は送受信アンテナ11−1及び11−2を送信系統又は受信系統の一方と排他的に接続し、送受信をともに並行しては行なえないものとする。
各送信系統は、符号化部21と、IFFT22と、ガード付与部23と、プリアンブル/トレーニング付与部24と、アンテナ毎のD/A変換器25及び送信用アナログ処理部26を備えている。
符号化部21は、通信プロトコルの上位レイヤから送られてきた送信データを誤り訂正符号で符号化するとともに、BPSK、QPSK、16QAM、64QAM、256QAMなどの所定の変調方式により送信信号を信号空間上にマッピングする。さらに、符号化後の送信信号を所定の送信重み行列で乗算することにより、空間多重により複数のMIMOチャネルを得る。この時点で、パイロット・シンボル挿入パターン並びにタイミングに従って、既知のデータ系列をパイロット・シンボルとして変調シンボル系列に挿入することができる。サブキャリア毎あるいはサブキャリア数本の間隔で、既知パターンからなるパイロット信号が挿入される。
IFFT22では、変調されたシリアル形式の信号を、並列キャリア数並びにタイミングに従って、並列キャリア数分のパラレル・データに変換してまとめた後、所定のFFTサイズ並びにタイミングに従ってFFTサイズ分の逆フーリエ変換を行なう。
ガード付与部23は、シンボル間干渉の除去のため、1OFDMシンボルの前後にガード・インターバル区間を設ける。ガード・インターバルの時間幅は、伝搬路の状況、すなわち復調に影響を及ぼす遅延波の最大遅延時間によって決定される。そして、直列の信号に直し、周波数軸での各キャリアの直交性を保持したまま時間軸の信号に変換して、送信信号とする。
プリアンブル/トレーニング付与部24は、RTS、CTS、DATAパケットなどの送信信号の先頭にプリアンブル信号やトレーニング信号を付加する。
複数のトレーニング信号を同時に無対策で送信すると受信側ではどのアンテナから送信されたものかが判別することができなくなる。そこで、MIMOチャネル本数に相当する個数だけ時間的に区間化された複数の既知信号送信区間を設け、送信機は、MIMOチャネル毎のトレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分けて時分割送信するようにしている。本実施形態では、既知トレーニング信号受信時における許容すべきダイナミック・レンジを低減するために、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を振り分ける時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一とならないようにトーン・インターリーブ操作が施される。すなわち、時分割規則が一部のサブキャリアにおいては同一であっても、他の一部のサブキャリアが同一でない状態にしている。また、受信機側で既知送信区間毎にチャネルの位相オフセットを検出する際にこれら検出値の確からしさの偏りをなくすために、送信機は、パイロット信号が挿入される各位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける時分割規則に関してもインターリーブ操作を施している。これらの詳細については後述に譲る。
アンテナ毎の送信信号は、それぞれのD/A変換器25によりアナログのベースバンド信号に変換され、さらにそれぞれの送信用アナログ処理部26によりRF周波数帯にアップコンバートされてから、各アンテナ11より各MIMOチャネルへ送出される。
一方、各受信系統は、アンテナ毎の受信用アナログ処理部31及びA/D変換器32と、同期獲得部33と、周波数オフセット補償部34と、FFT35と、空間分離部36と、位相回転補償部37と、復号器38で構成される。
各アンテナ11より受信した信号を、それぞれの受信用アナログ処理部31でRF周波数帯からベースバンド信号にダウンコンバートし、それぞれのA/D変換器32により、デジタル信号に変換する。
各アンテナ系統のデジタル・ベースバンド信号は、同期獲得部33により検出された同期タイミングに従って、シリアル・データとしての受信信号をパラレル・データに変換してまとめられる(ここでは、ガード・インターバルまでを含む1OFDMシンボル分の信号がまとめられる)。
周波数オフセット補償部34は、受信信号に含まれる周波数誤差を推定し、この推定値に基づいてそれぞれのデジタル・ベースバンド信号に対し初期の周波数補正を行なう。
FFT35は、有効シンボル長分の信号をフーリエ変換により時間軸の信号を周波数軸の信号に変換し、受信信号をサブキャリア信号に分解する。
空間分離部36は、パケットのヘッダに付加されているチャネル行列推定用のプリアンブル部のFFT出力を基に、チャネル行列Hをサブキャリア毎に生成し、このチャネル行列からアンテナ受信重み行列Wを算出する。そして、各アンテナからの受信信号にアンテナ受信重み行列Wを乗算することによって、パケットのデータ部のFFT出力をサブキャリア毎にMIMO合成して、独立した複数のMIMOストリームに分離する。
空間分離部36は、プリアンブルを用いて推定されるチャネル行列Hから、例えばZero ForceやMMSEなどのアルゴリズムに基づいて、その逆行列H-1をアンテナ受信重み行列Wとして算出することができる。あるいは、チャネル行列Hを特異値分解して、アンテナ重み行列Wとしての受信用重み行列UHを得るようにしてもよい。
位相回転補償部37は、MIMO合成された各MIMOチャネルに含まれる位相オフセット量を検出して位相補正を行なうことによりチャネルの位相変動の影響を除去する。比較的短いスパンで見た場合のチャネルの位相変動は、主として搬送波周波数の送受間誤差と局部発信の位相雑音に起因しており、特に高次のQAM変調を適用するチャネルでは時々刻々とチャネルの位相補正を行なう必要がある。本実施形態では、情報送信区間に挿入されているパイロット信号を用いて位相オフセット量の検出を行なう。また、MIMOチャネル毎の既知トレーニング信号を時分割送信する場合には(前述)、送受信時間の差に応じてチャネルの位相変動量が異なることから、既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行なうようにしている。
復号部38は、位相回転補正後に、位相空間(constallation)上の変調点から元の値に復調する。
本発明に係る無線通信システムでは、OFDM伝送にMIMO通信方式を採用しているので、周波数帯域を増大させることになく、アンテナ本数に応じて伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成することができる。
同通信システムでは、受信機側でチャネル行列を取得する目的で、送信機は、情報信号の空間多重送信に先立ち、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を時間的に区間化された複数の既知信号送信区間に振り分けて時分割送信する。また、既知トレーニング信号受信時においてAD変換器32が許容すべきダイナミック・レンジを低減するために、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を振り分ける時分割規則をサブキャリア毎にトーン・インターリーブ操作している。
また、受信機側では、AD変換器32におけるダイナミック・レンジの問題とは別に、各MIMOチャネルに含まれる位相オフセット量を検出して位相補正を行なうことによりチャネルの位相変動の影響を除去する必要がある。位相回転補償部37では、情報信号送信区間に挿入されたパイロット信号を利用してチャネル位相オフセット量を検出することができる。また、MIMOチャネル毎の既知トレーニング信号を時分割送信する場合、既知信号送信区間毎に情報信号区間との時間差に応じてチャネルの位相変動量が異なることから、既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行なうようにしている。
ここで、トレーニング信号の送信に際しトーン・インターリーブ操作を施した場合、パイロット信号が割り当てられる周波数サブチャネルの既知信号送信区間の時分割規則がすべて同一となっていると、空間サブチャネルのチャネル特性に伴う受信電力差が、各既知信号送信区間における位相オフセット検出の確からしさにそのまま影響を及ぼすという問題が生じる(例えば、図9を参照のこと)。
そこで、本実施形態では、送信機は、各パイロット信号が挿入される位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおいて、空間チャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分ける時分割規則がすべて同一とならないようにしている。パイロット信号が挿入される各位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける時分割規則を不均一化することによって、受信機側で既知送信区間毎にチャネルの位相オフセットを検出する際に、これら検出値の確からしさの偏りがなくなるので、受信機における復調性能のネックを取り除き、システム全体のパフォーマンスの低下を防止することができる。
図2には、トレーニング信号に対してトーン・インターリーブ操作を施すとともに、パイロット信号が割り当てられているサブキャリアについても、MIMOチャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分ける時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一にならないようにしたデータ・パケットの構成例を示している。但し、2×2のアンテナ構成の送受信機からなるMIMO通信システムを想定し、2本のMIMOチャネルが形成されているものとする。
同図では、周波数軸上で信号帯域に連続して配置された各送信区間のサブキャリアの受信電力を例示している。信号帯域の中心となるサブキャリアはDCヌル・キャリアとして抜かれている(すなわち信号伝送に寄与しない)。
例えばここでは、MIMOチャネル1では受信電力は高く、他方のMIMOチャネル2では受信電力は低くなる場合を例示している。但し、各MIMOチャネル用のトレーニング信号を挿入する既知信号送信区間をサブキャリア毎に入れ替えるトーン・インターリーブ操作が行なわれ、周波数軸上で隣り合うサブキャリアのMIMOチャネルへの時分割規則が同一とならないようになっている。より具体的に言えば、周波数軸上の一方の端部のサブキャリアでは、MIMOチャネル1は既知信号送信区間1へ、MIMOチャネル2は既知信号送信区間2へ割当られ、その1つ隣のサブキャリアでは、MIMOチャネル1は既知信号送信区間2へ、MIMOチャネル2は既知信号送信区間1へと割り当てられている。
また、パケットの情報送信区間には、位相オフセット値を検出するための複数のパイロット信号が挿入されている。図2に示す例では、信号帯域の両端(すなわち周波数軸上の左右それぞれの両端)より3つ内側に位置する各サブキャリアにそれぞれパイロット信号が割り当てられている。
ここでは、受信機側で既知送信区間毎にチャネルの位相オフセットを検出する際に、これら検出値を確からしさの偏りがなくなるようにするために、パイロット信号が挿入される各位置に相当する既知信号送信区間のサブキャリアにおける時分割規則を不均一化するようにしている。
図2に示すように、信号帯域の中心となるサブキャリアがヌル・キャリアとして抜いてOFDM伝送が行なわれる場合に、このヌル・キャリアを境として信号帯域の前半及び後半のそれぞれに配置されたパイロット信号に相当する既知信号送信区間のサブキャリアでは、各空間チャネルの既知トレーニング信号を振り分ける既知信号送信区間を異ならせるという時分割規則が適用される。
すなわち、中心のヌルチャネルを対称とする位置にパイロット信号が割り当てられているので、既知信号送信区間の時分割規則を左右非対称とすることで、パイロット信号に対応する周波数サブチャネルの時分割規則が重ならない(同一とならない)ようにしている。具体的には、信号帯域の前端から3つ目のサブキャリアでは、MIMOチャネル1用のトレーニング信号を既知信号送信区間1に割り当てるとともにMIMOチャネル2用のトレーニング信号を既知信号送信区間2に割り当てる一方、信号帯域の後端から3つ目のサブキャリアでは、MIMOチャネル1用のトレーニング信号を既知信号送信区間2に割り当てるとともにMIMOチャネル2用のトレーニング信号を既知信号送信区間1に割り当てている。
このような場合、受信機側で既知信号送信区間毎にチャネルの位相オフセット量を検出する場合、既知信号送信区間1に属するチャネルのための位相オフセット検出は、比較的受信電力の高い空間サブチャネル1のトレーニング信号FT1と受信電力の低い空間サブチャネル2のトレーニング信号RT2とを用いて行なわれる。また、既知信号送信区間2に属するチャネルのための位相オフセット検出は、受信電力の低い空間サブチャネル2のトレーニング信号FT2と比較的受信電力の高い空間サブチャネル1のトレーニング信号RT1を用いて行なわれる。
図2に示した通信方法によれば、まず第一に、隣り合う周波数サブチャネルの時分割規則を同一としないというトレーニング信号のトーン・インターリーブに関する規範を踏襲し、受信側のダイナミック・レンジに関わる問題解決の骨子を崩さずに済む。そして、情報信号送信区間に挿入される複数のパイロット信号に対応する周波数サブチャネルに対しても、その時分割規則が同一とならないようにすることで、既知信号送信区間のチャネル位相補正の精度が著しく劣化しないようにすることができる。
パイロット信号に対応する周波数サブチャネルの既知信号送信区間毎の受信電力をほぼ均一化することで、位相オフセット検出値の区間毎の確度がほぼ均一化され、すなわち、チャネルの位相補正の精度に偏りが無くなる。よって、位相補正の誤差の偏りに伴う復調のボトルネックが無くなり、全体のパフォーマンス低下を未然に防ぐことが可能となる。
図3には、本発明の効果を示すシミュレーション結果の一例を示している。同図は、IEEE802.11a/gの仕様に準拠したMIMO受信機におけるパケットエラー率(PER)の一計算例であり、トレーニング信号をサブキャリア毎にトーン・インターリーブ操作するとともにパイロット信号に対応する位置のサブキャリアで時分割規則を異ならせた本発明の特性(Proposed)と、パイロット信号に対応する位置のサブキャリアで時分割規則を同じにした従来手法の特性(Conventional)とを比較している。同図から、本発明を適用することによってパケットエラー率が低下し、大きな改善効果が認められる。主な計算諸元を以下に示す。
周波数サブチャネル帯域幅(サブキャリア帯域幅):312.5KHz
周波数サブチャネル数(サブキャリア本数):52本
送信アンテナ数:2、受信アンテナ数:2 (すなわち、空間サブチャネル数:2)
パケット長:1000バイト
変調方式:256QAM/空間サブチャネル1、16QAM/空間サブチャネル2
畳み込み符号化率:3/4
チャネルモデル:IEEE 802.11のTask Group nで規定された Channel−B / NLOS
送受間の搬送波周波数ズレ:約−14ppm
位相雑音印加:−90dBc/Hz@100Hz〜10kHz、−130dBc/Hz@10MHz〜
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
図1は、本発明の一実施形態に係るMIMO_OFDM通信装置の構成を示した図である。
図2は、トレーニング信号に対してトーン・インターリーブ操作を施すとともに、パイロット信号が割り当てられているサブキャリアについても、MIMOチャネル毎の既知トレーニング信号を各既知信号送信区間に振り分ける時分割規則がすべてのサブキャリアにおいて同一にならないようにしたデータ・パケットの構成例を示した図である。
図3は、本発明の効果を示すシミュレーション結果の一例を示した図である。
図4は、MIMO通信システムを概念的に示した図である。
図5は、MIMOチャネル毎のトレーニング信号を送るためのデータ・パケットの構成例を示した図である。
図6は、周波数軸上で信号帯域に連続して配置された各送信区間のサブキャリアの受信電力を例示した図である。
図7は、図6に示した既知信号送信区間1及び2に対しトーン・インターリーブ操作を施した例を示した図である。
図8は、既知信号送信区間毎にチャネルの位相補正を行なう様子を示した図である。
図9は、パイロット信号を用いて、既知信号送信区間毎に位相オフセット値を検出する様子を示した図である。
符号の説明
11…アンテナ
12…スイッチ
21…符号化部
22…IFFT
23…ガード付与部
24…プリアンブル/トレーニング付与部
25…D/A変換器
26…送信用アナログ処理部
31…受信用アナログ処理部
32…A/D変換器
33…同期獲得部
34…周波数オフセット補償部
35…FFT
36…空間分離部
37…位相回転量補償部
38…復号部