JP4593731B2 - スローアウェイチップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属加工に用いられるスローアウェイチップに関するもので、特に、ボーリング加工等の仕上げに好適に用いられるスローアウェイチップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上記スローアウェイチップとして、実公平7−4090号に記載される考案のスローアウェイチップの如く、ブレーカ壁に凹部を設けることにより、切屑の排出性を高め、同時に、切削抵抗を低減しようとしたものが開発され、実用化されている。
【0003】
図6乃至図8は、このような従来のスローアウェイチップを示すものである。
【0004】
図6に示すように、このスローアウェイチップ30は、そのコーナー部9に、すくい面4を中央陸部5から段落ちさせ、すくい面4と中央陸部5との間に斜めのブレーカ壁7を生じさせ、さらに上記すくい面4は、陸部5の面と平行な基準線S(図7)に対して、チップ厚み方向にθ3°傾けてあるスローアウェイチップを前提にしたものである。
【0005】
そして、このスローアウェイチップ30のすくい面4と陸部5の双方にまたがる位置には楕円球凹部61が設けられている。この楕円球凹部61は、楕円の軸芯T(長軸)がスローアウェイチップ30の厚み方向に前記θ3°よりも大きく傾くようにしたものであり、且つ、図8に示すように、すくい面4を掘り下げる深さを有している。
【0006】
かかる従来のスローアウェイチップ30の構成によれば、すくい面4を通過した切屑が楕円球凹部内61に進入してこの凹部61の曲面壁62で歪みを受け、カールする。このとき、凹部61の曲面壁62が円弧面であること、この曲面壁62が本来のブレーカ壁よりも切刃から遠く離れた位置であるので、切削抵抗を低減することができる。
【0007】
さらに、上記スローアウェイチップ30は、楕円球凹部61の長軸Tの傾きθ4°をすくい面4の傾きθ3°よりも大きくしたことにより、切刃角θ5°を大きく保って、切刃の強度を低下させないようにするとともに、全体として斜面下方に大きく傾いた楕円球凹部61の作用でもって切屑を強制的に誘導されて流出させることを狙いとしたものであった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術は、切屑のカールが一定せず不安定であったり、切屑の排出方向が不安定であったりして、切屑の絡みつきや、切屑が仕上げ面に損傷を与えてしまうことなどがあった。
【0009】
その原因としては、まず、上記従来のスローアウェイチップ30は、前記ブレーカ壁7とすくい面4との境界線までの距離d1を小さくした側の直線切刃に平行で且つ前記ノーズアール部3の先端と交わる直線における前記ノーズアール部3の先端から前記ブレーカ壁7とすくい面4との境界線までの距離d1が1.15〜1.5mm程度と比較的大きく設定されていた。そのため、曲面壁62の切屑が当たる位置が不安定で、その結果、切屑のカール径が不安定となったり、切屑の排出方向が不安定となり易い。
【0010】
また、上記従来のスローアウェイチップにおいて、すくい面の傾きよりも楕円球凹部の長軸の傾きを大きくした構成が切屑を斜面下方に強制的に誘導する作用を発揮していない。そのうえ、すくい面の傾きθ3が7°程度と小さいので、切屑を斜面下方に誘導することができておらず、切屑の排出方向が不安定となり易い。
【0011】
さらに、上記楕円球凹部は、切屑の排出側での切屑カールの保持性が弱く、カール径が不安定に大きくなる傾向がある。
【0012】
本発明は、このような従来技術の問題点を克服し、切屑が一定の径でカールされて形成され絡みつきが無く(安定した切屑の処理性)、切屑の排出方向が安定するとともに、切削抵抗を抑制すること目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため請求項1記載のスローアウェイチップは、コーナー部の先端に、すくい面と逃げ面との稜線部位に形成されノーズアール部で交わる2つの直線切刃と、2つの直線切刃の一方側である第1直線切刃の側で前記ノーズアール部の先端から前記すくい面との境界線までの距離が他方側である第2直線切刃の側における前記距離より小さくなるように前記境界線を前記2つの直線切刃に対し傾けたブレーカ壁とを備え、前記ブレーカ壁に切屑排出方向における後方に大きく窪んだ凹部を形成し、該凹部の上稜線のうち前記第1直線切刃に近接する部位に直線部分を備え、該直線部分は前記第1直線切刃から離れるにつれて前記境界線に対して後方側に傾斜していることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、ノーズアール近傍から切屑が発生し、すくい面を通って短い直線切刃の側から凹部内に進入する。切屑は、この部分の曲面で確実にカールし、さらに、大きく窪んだ凹部の後方側に進んで、その広い曲面で切屑のカールが確実に維持される。したがって、切屑は、送り方向前方に順次、安定的に流れ出ていく。
【0015】
このとき、ノーズアール部からブレーカ壁までの距離を小さく設定したことにより、切屑が凹部の曲面壁に当たる位置が安定し、その結果、前記凹部内での切屑処理性が安定する。
【0016】
なお、ブレーカ壁の位置をノーズアール部に近づけると、通常は、切削抵抗が増し、ビビリ振動や、ノーズアール部の損傷などの問題が起こりやすくなるが、本スローアウェイチップでは、前述のように切屑処理性を向上させたことにより、切削抵抗を抑制することが可能である。
【0017】
かかる特徴を有する本発明のスローアウェイチップの実施形態を、以下、図により詳細に説明する。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1乃至図5に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
【0019】
図中、1はスローアウェイチップ、20,21はすくい面と逃げ面の交差稜で形成される直線切刃であり、隣接する直線切刃20,21が交わるコーナー部にはノーズアール部3が形成されている。4は陸部5から段落ちさせてチップの各コーナー部に設けたすくい面、6はこの面から立ち上がるブレーカ壁7に設けられた凹部である。
【0020】
図1を参照して、ノーズアール部3の先端からすくい面4とブレーカ壁7との境界線(以下、立ち上がり境界線71)までの長さは、前記直線切刃20,21のそれぞれの側で異なり、一方が長く、他方が短い構成であり、これと対応して、ブレーカ壁7と陸部5とが交わる稜線8および上記立ち上がり境界線71は、短い直線切刃20に対し、図1の平面視でα°の傾きを有している。
【0021】
図2は、スローアウェイチップ1を略円柱状のホルダーHに固定し、加工対象の貫通孔Wのボーリング加工を行う形態を示す。図2において、矢印Aは送り方向であり、上記スローアウェイチップ1の使用コーナーにおいて、長い直線切刃21が送り方向前方に配置されるとともに、短い直線切刃20が送り方向後方に配置されている。切屑Cは、長い直線切刃21の側の上側、すなわち、送り方向前方の上側に排出されるので、切屑Cが仕上げ面に損傷を与える恐れがない。
【0022】
図3を参照して、前記ブレーカ壁7に設けた凹部6は、切屑排出方向における後方に大きく窪んだ形状となっている。仕上げ加工において、切込みが極めて小さいため切屑Cはノーズアール部3近傍から発生し、すくい面4を通って前記短い直線切刃20の側から前記凹部6内に進入する。凹部6内に進入した切屑Cは、この部分(図中、符号Xで示す領域)の曲面壁で確実にカールし、さらに、大きく窪んだ凹部6の後方側(図中、符号Yで示す領域)に進んで、そのカールが確実に維持され、送り方向A前方に順次流れ出ていく。
【0023】
上記凹部6の形状としては、同図に示すような半滴状とすることができる。図3の平面視において、短い直線切刃20に近接する凹部6の領域Xで、凹部6の上稜線72は略直線状である。他方、長い直線切刃21に近接する凹部6の領域Yで、凹部6の上稜線72は湾曲している。
【0024】
上記凹部6の上稜線72における直線部分は、上記立ち上がり境界線71に対し後方側に傾斜角β°でもって傾いている。この傾斜角β°としては、25°〜35°の範囲であることが好ましい。傾斜角β°が25°未満の場合は、切屑のカールピッチが粗くなる為、切屑がかさばったり、加工硬化した切屑が発生し、ワーク仕上面を傷付ける傾向があり、他方、35°を超えると、切屑Cのカール径が一定でなく切屑処理が不安定となる傾向がある。
【0025】
他方、上記凹部6の上稜線72の湾曲部分は、その曲率半径Rが0.2〜0.8mmの範囲であることが好ましい。この曲率半径Rが0.2mm未満の場合あるいは曲率半径Rが0.8mmよりも大きい場合のいずれも、切屑の流れが不安定となる傾向がある。
【0026】
また、上記凹部6は、中央の窪み長P1に対し、凹部6の最大窪み長P2が、1.1〜1.4倍の範囲であることが好ましい。この比が1.1未満の場合、切屑Cのカールピッチが粗くなる傾向があり、他方、1.4以上の場合、カール径が一定でなく切屑処理が不安定となる傾向がある。
【0027】
図3を参照して、前記短い直線切刃20に平行で且つ前記ノーズアール部3の先端から前記立ち上がり境界線までの距離dは0.3〜1.0mmである。ブレーカ壁7の位置をこの程度にノーズアール部3に近づけることにより、切屑処理が安定する。すなわち、ノーズアール部3からブレーカ壁7までの距離を短くすることによって上記凹6部内の曲面壁へ切屑が当たる位置が安定し、その結果、安定した切屑処理が実現可能である。また、このようにブレーカ壁7の位置をノーズアール部3に近づけると、通常、切削抵抗が増し、ビビリ振動や、ノーズアール部の破損等の問題が起こりやすくなるものであるが、本スローアウェイチップ1は、上記凹部6による切屑処理の安定性および切屑排出方向の安定性の作用によって切屑がスムーズに排出される結果、切削抵抗を抑制できる。
【0028】
なお、前記距離dが0.3mmより短い場合、切削抵抗が過大となり、ビビリ振動等を起こしやすくなり、他方、1.0mmを超えると、前記凹部6内の曲面壁に切屑が当たる位置が変わり易くなる。その結果、前述の上記凹部6の作用が発揮できずに、切屑が切れにくく、絡みやすくなってしまう
また、図1のI−I線部断面図である図4に示すように、すくい面4は、チップコーナー角の2等分線方向に正のすくい角θ1°を有している。さらに、図1のII−II線部断面図である図5に示すように、すくい面4は前記立ち上がり境界線に平行な方向に正のすくい角θ2°を有し、これにより、前記短い直線切刃20から長い直線切刃21にかけて、すくい面4の高さ位置が漸減する構成となっている。
【0029】
上記スローアウェイチップ1は、上記チップコーナー角の2等分線方向のすくい角θ1°により、切削抵抗を小さくすることができる。さらに、上記立ち上がり境界線71に平行なすくい角θ2°によってすくい面4が短い直線切刃20の側から長い直線切刃21の側に下っているので、その方向へ切屑が流れることを促進する。これにより切屑の排出性を補強することが可能である。
【0030】
前記立ち上がり境界線71に平行な方向でのすくい角θ2°としては12〜20°の範囲が好ましい。このすくい角が12°未満の場合、切屑が上に飛び散ったり、焼けた切屑が発生し易くなる傾向がある。他方、20°を超える場合、切屑の流れが不安定になり、また、切刃に欠損が発生し易くなる傾向がある。
【0031】
【実験例】
実験例1
図1乃至図5に示すスローアウェイチップ1において、前記短い直線切刃20における前記ノーズアール部3の先端から前記立ち上がり境界線までの距離d(ブレーカ幅)と立ち上がり境界線71に平行な方向でのすくい角θ2°を変えて切削試験を行い、切屑処理性および仕上面の状態について観察・評価した。
【0032】
上記切削実験の条件は次のとおりである:
周速V=300m/min
切込みd=0.25mm
送りf=0.06mm
被削材=S50C
乾式
表1に切削実験の結果を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から明らかなように、前記ブレーカ幅dが0.3〜1.0mmのとき、総合的に良い結果が得られた。特に、0.4〜0.8mmのときに非常に結果が良かった。これに対して、前記ブレーカ幅dが0.2mm、1.2mmのときには、切屑の排出方向(切屑の流れ)がどの場合も不安定であった。
【0035】
また、前記立ち上がり境界線71に平行な方向でのすくい角θ2°については、すくい角が12°〜20°の場合、前記ブレーカ幅が0.3〜1.0mmのときに、○:安定したカールの切屑が排出され、仕上面良好、◎:大変安定したカールの切屑が排出され、仕上面良好、という良い結果が得られた。特に15°、17°の場合の結果が非常に優れていた。これに対して、前記すくい角θ2°が7°、10°、23°の場合は、いずれも切屑の流れが不安定となるか、或いは、切屑が細かく切れ過ぎたり焼けたりするなど切屑の処理性に難があった。
【0036】
実験例2
図1乃至図5に示すスローアウェイチップにおいて、図3に示す領域Yにおける凹部の上稜線72の曲率半径Rと領域Xにおける凹部の上稜線72と立ち上がり境界線71がなす傾斜角β°を変え、その切削試験を行い、切屑処理性および仕上面の状態について観察・評価した。切削条件は実験例1と同じである。
【0037】
表2にその結果を示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表1から明らかなように、前記曲率半径Rが0.2〜0.8mmのとき、総合的に高い評価となった。特に、0.3〜0.6mmのときに非常に結果が良かった。これに対して、前記曲率半径Rが0.1mm、1.0mmのときには、切屑の流れがどの場合も不安定であった。
【0040】
また、前記傾斜角β°については、25°〜35°の場合、前記曲率半径Rが0.2〜0.8mmのときに、○:安定したカールの切屑が排出され、仕上面良好、◎:大変安定したカールの切屑が排出され、仕上面良好、という良い結果が得られた。特に25°、30°の場合の結果が非常に優れていた。これに対して、前記傾斜角β°が20°、23°、38°、40°の場合は、いずれも切屑の流れが不安定となるか、或いは、切屑が細かく切れ過ぎたり焼けたりするなど切屑の処理性に難があった。
【0041】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、コーナー部の先端に、すくい面と逃げ面との稜線部位に形成されノーズアール部で交わる2つの直線切刃と、2つの直線切刃の一方側である第1直線切刃の側で前記ノーズアール部の先端から前記すくい面との境界線までの距離が他方側である第2直線切刃の側における前記距離より小さくなるように前記境界線を前記2つの直線切刃に対し傾けたブレーカ壁とを備え、前記ブレーカ壁に切屑排出方向における後方に大きく窪んだ凹部を形成し、該凹部の上稜線のうち前記第1直線切刃に近接する部位に直線部分を備え、該直線部分は前記第1直線切刃から離れるにつれて前記境界線に対して後方側に傾斜していることにより、切屑が凹部の短い直線切刃の側で確実にカールし、さらに、凹部の後方側で切屑のカールが確実に維持され、送り方向前方に順次、安定的に流れ出ていく。
【0042】
また、ノーズアール部からブレーカ壁までの距離を小さく設定しているので、凹部内の曲面壁に切屑が当たる位置が安定し、その結果、切屑処理性と切屑の排出方向が安定する。そして、これら切屑処理性および切屑の排出方向の安定性により、切削抵抗を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態例に係るスローアウェイチップの平面図である。
【図2】図1のスローアウェイチップを用いた、ボーリング加工の形態を示す説明図である。
【図3】図1のスローアウェイチップの要部を示す平面図である。
【図4】図1のI−I線に沿った断面図である。
【図5】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図6】従来のスローアウェイチップの平面図である。
【図7】図6のV−V線に沿った断面図である。
【図8】図6のVI−VI線に沿った断面図である。
【符号の説明】
1,10 スローアウェイチップ
20,21 直線切刃
3 ノーズアール部
4 すくい面
5 陸部
6,60 凹部
7 ブレーカ壁
8 稜線
Claims (6)
- コーナー部の先端に、すくい面と逃げ面との稜線部位に形成されノーズアール部で交わる2つの直線切刃と、2つの直線切刃の一方側である第1直線切刃の側で前記ノーズアール部の先端から前記すくい面との境界線までの距離が他方側である第2直線切刃の側における前記距離より小さくなるように前記境界線を前記2つの直線切刃に対し傾けたブレーカ壁とを備え、
前記ブレーカ壁に切屑排出方向における後方に大きく窪んだ凹部を形成し、該凹部の上稜線のうち前記第1直線切刃に近接する部位に直線部分を備え、該直線部分は前記第1直線切刃から離れるにつれて前記境界線に対して後方側に傾斜していることを特徴とするスローアウェイチップ。 - 前記第1直線切刃に平行で且つ前記ノーズアール部の先端と交わる直線における前記距離が0.3〜1.0mmであることを特徴とする請求項1記載のスローアウェイチップ。
- 前記凹部の最大窪み長がその中央の窪み長の1.1〜1.4倍であることを特徴とする請求項1または2記載のスローアウェイチップ。
- 前記すくい面は、前記ノーズアール部の先端から前記ブレーカ壁と前記すくい面との境界線までの距離を小さくした側の直線切刃から他方の直線切刃にかけて、高さ位置が漸減する12〜20°の傾きを有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のスローアウェイチップ。
- 前記凹部の上稜線のうち前記第2直線切刃に近接する部位に湾曲部分を備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のスローアウェイチップ。
- 前記すくい面と前記ブレーカ壁との境界線は直線状であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のスローアウェイチップ。
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