以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図において互いに同一あるいは相当する部材には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
図1は本発明の実施の形態に係る状態解析装置としての呼吸モニタ1の構成例を示すブロック図である。呼吸モニタ1は、演算装置20と、周期的な動きのある対象物の状態を示す測定データを取得する測定装置としてのFGセンサ10とを含んで構成される。演算装置20は、例えば、パソコンやマイコンといったコンピュータである。また演算装置20は、呼吸モニタ1を操作するための情報を入力する入力装置35と、呼吸モニタ1の処理状態を表示するディスプレイ40とを有している。入力装置35は、例えばタッチパネル、キーボードあるいはマウスである。ディスプレイ40は、典型的にはLCD(Liquid Crystal Displays、液晶表示装置)である。ディスプレイ40に表示される呼吸モニタ1の処理状態は、例えば後述のFGセンサ10によって取得される測定データ、後述のスペクトル比較部27によって比較されるスペクトル、後述の第1状態判別部24、第2の状態判別部25による対象物2の状態の判別結果等である。本図では、入力装置35とディスプレイ40は、演算装置20に外付けするものとして図示されているが、内蔵されていてもよい。なおFGセンサ10については図11で詳述する。
演算装置20は、周期的な動きのある対象物の状態を示す測定データに基づいて、判定対象時点の前後の第1の所定期間以前の第2の所定期間の周期的な動きの大きさに関するデータの確率分布と、第1の所定期間の周期的な動きの大きさに応じて、判定対象時点における対象物の状態が異常か否かを判別する第1の状態判別手段としての第1の状態判別部24を備える。
さらに、演算装置20は、第3の所定期間の測定データに基づく値の基準値との比較結果に応じて、判定対象時点における対象物の状態が異常か否かを判別する第2の状態判別手段としての第2の状態判別部25を備える。また、演算装置20は、典型的には、周期的な動きのある対象物2の状態を示す測定データに基づいて、第3の所定期間のスペクトルを算出するスペクトル算出手段としてのスペクトル算出部26と、スペクトルに基づいて、当該スペクトルの低周波成分と高周波成分とを比較するスペクトル比較手段としてのスペクトル比較部27とを備え、典型的には第2の状態判別部25はスペクトル比較部27の比較結果に基づいて、対象物2の異常を判別するように構成される。
さらに、演算装置20は、前記測定データに基づいて、前記周期的な動きとともに起こる非周期的な動きを判定して検出する非周期的動き検出手段としての体動検出部28を備え、第1の状態判別部24は、第1の所定期間又は第2の所定期間を体動検出部28で非周期的動きの検出された期間を除いた期間とするように構成される。
なお、本実施の形態の主な所定期間には、第1の所定期間から第8所定期間までがある。これらの所定期間については、順次後述で説明していく。ただし、順番は必ずしも番号順ではない。
また、ここでは、第1の状態判別部24と、第2の状態判別部25とは、それぞれ別個に構成されるものとして説明するが、一体に構成してもよい。
ここで、対象物は、本実施の形態では、人物2であるものとして説明するが、牛やブタ等の家畜であってもよい。なお家畜はネコやイヌ等のペットも含むものとする。以下対象物は人物2として説明する。ここでは人物2はベッド3上で人工呼吸を行っている場合で説明する。ここで、周期的な動きとは、例えば、人間2の呼吸運動であり、非周期的な動きとは、例えば、人間2の呼吸運動以外の体動(以下特に断りのない限り単に「体動」という。)である。なお、人間2の呼吸運動は、実際にはその周期や振幅等、呼吸運動を示す後述の波形データに不安定性があり、極端な場合には振幅が失われることもあるが、多少の不安定性であれば、無視して解析することができる。人物2の体動とは、例えば寝返りといった呼吸より周期性に乏しく、呼吸より大きい人物2の動きである。さらに呼吸より大きい人物2の動きとは、例えば動きの大きさ、あるいは動きの変化の大きさで呼吸に対して特徴づけられるものである。
ここで、人物2が異常であるとは、本実施の形態では、人工呼吸を行っている人物2の人工呼吸回路が異常である状態、典型的には、実質的に人工呼吸が働かない状態をいう。すなわち、呼吸モニタ1は、人工呼吸を行っている人物2の人工呼吸回路の異常を検出する装置であり、例えば、筋ジストロフィー患者や筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者などの人工呼吸を監視し、人工呼吸の事故を防止することを目的とした装置である。
人工呼吸は、筋ジストロフィー患者や筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の延命に重要な役割を担っているが、その一方で、人工呼吸のトラブルも頻繁に起こっている。特に、自発呼吸やコミュニケーション能力の低い患者の場合、人工呼吸のトラブルは直接重大な事故に結びつくので、人工呼吸器(不図示)の警報機能に頼るだけでなく、二重、三重の安全措置が必要である。
そこで人工呼吸の監視を行う呼吸モニタ1では、幾つかの異常、危険の検出が必要である。例えば、1つ目は、気管切開による人工呼吸をしている患者など、自発呼吸がほとんど無い患者において人工呼吸回路の切断などにより呼吸ができなくなった場合、すなわち呼吸停止の検出である。この場合、後述のFGセンサ10が取得する呼吸運動波形がほぼ消失し、一刻も早い発見、通報が求められる。2つ目は、一定の自発呼吸がある患者において、人工呼吸が実質的に働かなくなった場合である。この場合、患者の呼吸の状態が変わること、言い換えれば、呼吸の変調が予想されるが、呼吸停止ほど明確でなく、発見が難しい。その代わり、なるべく早期に見つけることが望ましいが、発見に少々時間がかかってもすぐに重篤な事故になることはない。
本実施の形態では、人物2が異常であるとは、さらに具体的に言えば、例えば、自発呼吸のない人物2の人工呼吸器が外れて呼吸が停止した状態、多少の自発呼吸のある人物2の人工呼吸器が外れて人工呼吸が実質的に働かなくなった状態、言い換えれば、人物2の人工呼吸にトラブルがある状態をいう。
また本実施の形態では、測定データは、FGセンサ10で測定されたデータである。人物2の状態を示す測定データとは、人物2の測定範囲(例えば人物2の胸部や腹部を含む範囲)での一定時間内の動きに関する量、さらに具体的には、体表面の上下方向移動速度に関する量である。また、人物2の状態を示す測定データは、人物2の動きを複数の点で測定した測定結果に基づいたデータであり、複数の点での各測定値の総和に基づく第1の測定データとしての呼吸データと、複数の点での各測定値の絶対値の総和のデータである第2の測定データとしての体動データとの両方またはいずれか一方を含んでいる。なお絶対値の総和は各測定値の二乗の値の総和を含む概念である。ここでは、測定データは呼吸データと体動データとの両方を含んでいる。また、呼吸データ及び体動データは、さらに各々測定点の数又は測定値に一定以上の変動があった測定点の数で除算したデータとしてもよい。
図2は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタに用いる、呼吸データ及び体動データが形成する波形パターンの例について示した概要図である。測定データは、例えば図2に示すような波形パターンを形成する。なお図2(a)は、人物2の正常呼吸を測定した場合の呼吸データを単純化した一例である。また、図2(b)は体動を示すデータを含む呼吸データの典型例であり、図2(c)は体動を示すデータを含む体動データの典型例である。図2(b)、図2(c)に示すように、呼吸以外の身体の動き(体動)がある場合には、体動データは大きい値の分布を持ち、同時に呼吸データの振れ幅も大きくなり周期性を失う。またここでは測定データのサンプリング間隔(1データの取得間隔)は例えば0.1〜0.25秒である。またここでは、人物2の動きを複数の点で測定した各測定値は、一定時間内の人物2の動き、言い換えれば人物2の動きの速度に関する値である。従って、各測定点の測定値を加え合わせれば、一定期間内の一定方向への全体的な平均的位置変化に関するデータを得ることができる(呼吸データ)。また各測定値の絶対値を加え合わせれば、全体の動きの総量に関するデータを得ることができる(体動データ)。なおここでは、呼吸データと体動データとの両方を用いる場合で説明するが、例えば呼吸データのみでも以下で説明する全てのプロセスを行うことができる。
なお、FGセンサ10から取得された測定データの本装置による状態の判別は、一定期間の測定データを取得してからまとめ行ってもよいし、人物2の状態推移に伴って、データの取得に対してリアルタイムに行ってもよい。本実施の形態では、上述したように、呼吸モニタ1が人工呼吸を行っている人物2の人工呼吸回路の異常を検出する装置であるから、状態の判別は、人物2の状態推移に伴って、データの取得に対してリアルタイムに行う場合で説明する。
またここで、判定対象時点とは、人物2の異常を判別する時点のことであり、当該時点は時間経過とともに順次移動していく。判定対象時点の間隔は、各時点でほぼ等間隔に設定され、例えば、測定データのサンプリング間隔等に合わせて適宜決めればよい。すなわち、ここでは判定対象時点の間隔は、(1データの取得間隔)は例えば0.1〜0.25秒程度である。
以下、再び図1を参照して上記各構成について詳細に説明する。
第1の状態判別部24は、具体的には第2の所定期間の呼吸の動きの大きさに関するデータの確率分布に基づいて、第1の所定期間の呼吸の動きの大きさに関して、その分布から求められる所定範囲の分布状態の発生確率が第2の確率(第1の確率については後述する。)以下となる所定範囲を推定し、第1の所定期間の周期的な動きの大きさに関するデータの分布状態が当該所定範囲に含まれるか否かに基づいて人物2の異常を判別するように構成される。
ここで、図3は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1に用いる、第1の所定期間としての観察期間T1及び第2の所定期間としての基準データ取得期間T2について説明する図である。なお、本図は、図中向かって左側が過去側、右側が未来側の時系列となるように図示している。
第1の所定期間は、判定対象時点の前後の期間であり、実際に判定対象時点での人物2の異常を判別するために呼吸の動きの大きさに関するデータを観察する期間である。本実施の形態では、呼吸モニタ1はリアルタイムに状態を判別する装置であるので、第1の所定期間は判定対象時点以前の期間とする。なお、リアルタイムに判断するのではない場合は、第1の所定期間は、判定対象時点をまたぐような期間であっても良い。以下、特に断りのない限り、第1の所定期間を観察期間T1という。
第2の所定期間は、観察期間T1以前の期間であり、観察期間T1のデータの確率分布の発生確率が第2の確率以下となる分布の範囲を推定する基準となるデータを取得するための期間である。本実施の形態では、第1の状態判別部24は、第2の所定期間のデータの確率分布から観察期間T1のデータの確率分布の発生確率が第2の確率以下となる分布の範囲を推定するように構成されるので、第2の所定期間は、より確実な推定ができるように、観察期間T1にできるだけ近い期間、すなわち、観察期間T1の直前の期間とする。なお、第2の所定期間は、観察期間T1以前の期間であれば、観察期間T1から若干間隔のあいた期間であっても良い。なお、基準データ取得期間T2は、観察期間T1と一部重なっていても良い。以下、特に断りのない限り、第2の所定期間を基準データ取得期間T2という。
なお、観察期間T1と基準データ取得期間T2の長さは、第1の状態判別部24による判別を正確に行うため、典型的には同等の長さの期間とすることが好適であり、両期間とも、例えば30秒から5分程度、好ましくは30分から3分程度とすると良い。本実施の形態では、観察期間T1と基準データ取得期間T2の長さは、各々30秒から1分程度とする。
ここで、人物2の呼吸の動きの大きさは、例えば、少なくても1周期分の期間を含む一定期間内(例えば、5〜15秒)の呼吸データ(図2(a)参照)の振幅、ピーク値、ボトム値、一回換気量に相当する量等を用いることができる。なお、ここで、ピークとは測定データが形成する波形パターンの山の部分であり、ボトムは谷の部分である(図2(a)参照)。またここでは振幅とはピークとボトムの差である。
本実施の形態では、人物2の呼吸の動きの大きさは、人物2の一回換気量に相当する量、いわゆる、準一回換気量を用いる。準一回換気量とは、ゼロクロスからゼロクロスまでの測定データ、ここでは呼吸データ(図2(a))を積分することにより得られる値である(実際は、さらに面積を乗じたものが換気量となるが、面積は変化しないものとして無視する。)。ゼロクロスとは、周期的な動きも値がゼロになること、例えば、図2(a)のように、横軸を時間、縦軸を速度として、横軸が速度0で縦軸と交差するものとしたとき、速度が時間軸と交差すること、又はその交差した点をいう。すなわち、速度がゼロとなることあるいはゼロとなる点のことである。ここでは、「ゼロクロスからゼロクロスまで」とは、連続する2回のゼロクロスの間で、測定データが予め決められた正又は負のいずれかの符号を持った期間のことをいう。準一回換気量は、厳密な一回換気量ではなく、一回換気量に相当する値であるため「準」と記載している。
すなわち、第1の状態判別部24は、人物2の呼吸の動きの大きさとしてゼロクロスからゼロクロスまでの呼吸データ(図2(a))を積分することにより得られる準一回換気量を算出するように構成される。
人物2の呼吸の動きの大きさとして準一回換気量を用いることで、呼吸データの振幅とインターバルの両方の変化を反映することができる。すなわち、振幅が小さくなり、インターバルが短くなれば、準一回換気量はより小さくなり、振幅のみを用いる場合よりも精度よく呼吸の動きの大きさの変化を反映するということができる。
図4は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1に用いる準一回換気量に関するデータの分布の一例を示した図であり、(a)はヒストグラムと、平均値と標準偏差とがほぼ等しい正規分布の確率密度曲線、(b)は累積分布曲線を示す。ヒストグラムにおいて各度数を全度数で除することにより、各クラス(階級)の相対度数、すなわち、確率分布を得ることができる。同様に、累積度数分布についても全度数で除することにより、累積相対度数分布、すなわち、累積分布を得ることができる。ここで確率分布とは、典型的には、ある事象と当該事象が生起する確率との対応関係を、生起し得る全事象について示すものである。測定値から得られる確率分布や累積分布は、データ数に限りがあるため不連続である。これらを用いて後述する判定閾値を求める際に、より細かく、あるいは連続的な値が欲しい場合は、測定値の確率分布を平均値と標準偏差とがほぼ等しい正規分布にあてはめて累積分布曲線を求めたり、累積分布曲線を補完して用いる。
ヒストグラムとは、数量化できる要因や特性のデータについて、横軸の目盛りに特性値、ここでは人物2の呼吸の動きの大きさをとり、当該データが存在する範囲をいくつかのクラス(階級)に分け、当該クラスの幅を底辺とし、クラスに含まれるデータの度数に比例する面積をもつ柱(長方形)を並べたものである。図4(a)のヒストグラムでは、横軸をクラス(階級)、縦軸を度数(右側)及び正規分布の確率密度(左側)としている。本図中、棒グラフで示したものが度数分布、実線で示したものが正規分布である。
クラス(階級)は、例えば、測定データ(図2(a))の出力の大きさに対応するものであり、本実施の形態では、人物2の呼吸の動きの大きさ、すなわち、準一回換気量に対応する値である。また、クラスは本図では、データの分布に基づいて等間隔に設定されている。また、クラスの幅は、一定期間内の全測定データの平均値と標準偏差を基準として、0から平均値+標準偏差×2までをN分割してもよい。ここでNは全データ数により決定するとよい。例えば通常10〜数十である。あるいは、暫定的に設定したクラスの幅で求めた再頻値の4倍を50分割する等でもよい。また、クラスの幅は、一定期間内のデータ数や、予め計測しておいた一晩(7〜10時間程度)でのデータの分布範囲、バラツキ等から適宜求めることもできる。
相対度数は、各クラス(階級)の度数を全度数で除したもので、相対度数分布は、各クラスの確率分布に相当する。また、相対度数を累積したものが累積相対度数であり、この分布曲線は累積分布関数に相当する。累積度数は、度数を累積させたものであり、ここでは、所定のクラス(階級)以下の度数を合計したものである。図4(b)の累積相対度数分布図では、横軸をクラス(階級)、縦軸をクラス(階級)の発生確率(相対度数)としている。累積相対度数分布図は、相対度数分布そのものを用いても良いし、上述したように、さらに補完法を用いても良い。また、データの平均値と標準偏差から正規分布を仮定してもよい。本図中、点でプロットしたものが累積相対度数分布、実線で示したものが正規分布である。例えば、累積相対度数分布を用いた場合、「5」以下のクラス(階級)が発生する確率は、0.6×100=60%程度となる。
第1の状態判別部24は、上述したように、基準データ取得期間T2(図3参照)の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて、観察期間T1(図3参照)の準一回換気量に関して、その分布から求められる所定範囲の分布状態の発生確率が第2の確率以下となる前記所定範囲を推定する。
呼吸筋が衰えた患者の場合、人工呼吸を行っている間は平均的な換気量の変動の中に、各回の変動として大きな呼吸が混ざることが多い。これに対して、自発呼吸の場合、大きい呼吸ができず、平均的換気量の低下と共に、換気量最大値も低下すると考えられる。したがって、本実施の形態では第1の状態判別部24による判別には、予め設定した検出時間に対応する期間の準一回換気量の最大値が一定以下に下がる確率を用いることが好適であるため、これを用いる。
まず、第1の状態判別部24は、判定対象時点から過去側に観察期間T1(図3参照)を設定し、さらに観察期間T1の始点から過去側に観察期間T1と同等の長さの期間をとって基準データ取得期間T2(図3参照)とする。さらに、第1の状態判別部24は、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布(図4参照)に基づいて、基準データ取得期間T2での状態が、観察期間T1でも継続したと仮定した場合に、観察期間T1における準一回換気量の最大値が判定閾値以下となる確率が予め仮定する第2の確率以下となるように判定閾値を決定する。言い換えれば、第1の状態判別部24は、基準データ取得期間T2(図3参照)の準一回換気量に関するデータの確率分布と第2の確率に基づいて、観察期間T1での準一回換気量の最大値に対する判定閾値を算出する。
第2の確率は、典型的には、観察期間T1内の準一回換気量の最大値が判定閾値を超えない確率である。言い換えれば、判定閾値は、第2の確率が観察期間T1内の準一回換気量の最大値が当該判定閾値を超えない確率となるように設定される。第2の確率は、例えば、医学的な見地から導き出される任意な確率や呼吸モニタ1の目標とする誤報頻度等を用いればよく、本実施の形態では呼吸モニタ1の目標とする誤報頻度を用いることとする。以下特に断りのない限り、第2の確率は目標とする誤報頻度として説明する。
判定閾値は、具体的には以下に示す(1)式に基づいて算出することができる。すなわち、観察期間T1及び基準データ取得期間T2の長さをt0秒、呼吸数をnv/分、目標とする誤報頻度をte秒に1 回と設定し、基準データ取得期間T2内において一回分の準一回換気量が判定閾値以下である確率をPtとする。準一回換気量を呼気→吸気と吸気→呼気のそれぞれにおいて求めるものとすれば、観察期間T1における準一回換気量のデータ数は(nv・t0/60)・2=nv・t0/30となるので、次式(1)を得ることができる。
左辺は、判定閾値以下の準一回換気量が、観察期間T1の間連続する確率を表し、右辺は、誤報頻度の目標値(平均誤報間隔中の準一回換気量データ数の逆数)を表す。
判定閾値は、(1)式から得られるPtと、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布(図4参照)とに基づいて求めることができる。例えば、呼吸数nv/分=20 回/分、目標とする誤報頻度を30日(te秒=2592000秒)に1 回、すなわち、1/2592000で、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さをt0秒=30秒とすると、確率Pt≒0.488となる。例えば、Pt≒0.488であれば、図4(b)の累積相対度数分布図を用いると、対応するクラスは「4.8」程度となり、ここではより安全を考えて判定閾値は「5」とすればよい。したがって、実際の観察期間T1で最大値となる準一回換気量のクラス(階級)が「5」以下となれば、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの確率分布は、基準データ取得期間T2の確率分布から推定される観察期間T1のデータの分布状態の発生確率が目標とする誤報頻度以下となるような所定範囲の分布状態に含まれることになる。
すなわち、目標とする誤報頻度を(1)式に代入して基準データ取得期間T2内において一回分の準一回換気量が判定閾値以下である確率Ptを算出し、当該算出された確率Ptと基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布から、判定閾値を算出することが、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて、観察期間T1の準一回換気量に関して、その分布から求められる所定範囲の分布状態の発生確率が目標とする誤報頻度以下となるようなデータの分布状態の所定範囲を推定することにあたる。判定閾値以下の範囲が、発生確率が目標とする誤報頻度以下となるデータの分布状態の所定範囲である。
第1の状態判別部24は、実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値と対応する基準データ取得期間T2のデータから算出された判定閾値を比較して、当該最大値が判定閾値を下まわった場合に、人物2が異常であると判別する。すなわち、実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値と判定閾値とを比較することが、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布状態が上記のようにして推定された所定範囲に含まれるか否かの判断にあたる。
具体的に言えば、実際の観察期間T1のデータの分布状態が推定された分布状態の所定範囲に含まれるとは、発生確率が目標とする誤報頻度以下となる分布、すなわち、以上で説明した例で言えば、実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値のクラス(階級)がクラス(階級)=「5」以下の分布の範囲に含まれることである。すなわち、図4(b)を参照すると、実際の観察期間T1の確率分布が、クラス(階級)=「5」を境界として、本図中向かって左側におさまっているような状態である。結局、観察期間T1内の準一回換気量の最大値に着目し、当該最大値が判定閾値以下であれば、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布状態は、発生確率が目標とする誤報頻度以下となるような分布の所定範囲の分布状態に含まれることになる。
したがって、第1の状態判別部24は、観察期間T1内の準一回換気量の最大値が当該閾値を下まわった場合に、判定対象時点の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布状態の発生確率が予め設定した目標とする誤報頻度よりもさらに発生しにくい特異な確率となる分布範囲であることから、人物2が異常の状態であると判別することができる。
なお、第1の状態判別部24は、上述した(1)式から算出される確率Ptから判定閾値を求め、異常判定を行う際に、自発呼吸の能力が低く呼吸低下が大きい患者に対して、早期発見を重視して観察期間T1、基準データ取得期間T2を短くした場合は、確率Ptが小さくなって判定閾値が比較的低い値になる。逆に自発呼吸の能力が高かったり、長い周期的な呼吸低下を伴う睡眠呼吸障害の症状等を持つ患者の場合に、観察期間T1、基準データ取得期間T2を長く取ると確率Ptが1 に近づき、したがって、判定閾値は観察期間T1における準一回換気量のピーク値に近づくので、わずかな準一回換気量の低下でも、それが続く場合には異常として検出できることになる。
例えば、上述したように、呼吸数nv/分=20 回/分、目標とする誤報頻度を30日(te秒=2592000秒)に1回、すなわち、1/2592000で、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さをt0秒=30秒とすると、確率Pt≒0.488となる。一方、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さをt0秒=240秒とすると、Pt≒0.914 となる。これは、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さをt0秒=30秒でも、呼吸の大きさの分布が平均値の上下で対照な通常考えられる分布をしていれば、閾値はそれまでの平均値にほぼ近く、その閾値以下の呼吸が30秒間続いたときに異常と判定されることを示す。また、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さをt0秒=240秒としたときは、閾値はそれまでのピークに近づき、呼吸の低下がわずかでもそれが240秒続けば、異常として検出できることになる。これにより、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さをt0に応じて最も高い閾値により判定を行うことが可能となる。また、睡眠呼吸障害の症状等の周期的な呼吸低下や呼吸停止を起こす患者の場合、観察期間T1をこの周期より長く設定することにより、誤報を回避することが可能である。
図5は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1に用いる測定データと準一回換気量の最大値の推移についての第1の具体例を示した図であり、(a)は測定データの推移、(b)、(c)は準一回換気量の最大値の推移を示している。図5(a)中、上段が測定データとしての呼吸データ(Respiratory movement、図2(a)参照)、下段が測定データとしての体動データ(Body movement、図2(c)参照)である。また、図5(b)、(c)は、図5(a)の測定データに対応した準一回換気量(Quasi tidal volume)の推移を示しており、本図中、濃い実線は観察期間T1内の準一回換気量の最大値(評価値;Evaluation value)の推移、薄い実線は判定閾値(Threshold)の推移を示している。また、(b)と(c)との相違点は後述するように、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さt0が異なる点にある。
図5(b)、(c)に示す観察期間T1内の準一回換気量の最大値と判定閾値は、それぞれ観察期間T1、基準データ取得期間T2の終了時点でプロットしたものなので、第1の状態判別部24は、判定対象時点での当該最大値が判定閾値以下となったか否かを観察期間T1の長さ分だけ過去の時点の判定閾値と比較して判定することになる。
図5に示す第1の具体例は、(a)に示す呼吸データから明らかなように、睡眠呼吸障害等により周期的な無呼吸を伴う患者の呼吸の例である。(b)では、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さt0=60秒に設定している。この場合、図中矢印で示す判定対象時点での観察期間T1内の準一回換気量の最大値は判定閾値を下まわっている。したがって、第1の状態判別部24は、当該時点では人物2が異常な状態であると判別する。一方、(c)では、観察期間T1、基準データ取得期間T2の長さt0=90秒に設定している。この場合、図中矢印で示す判定対象時点での観察期間T1内の準一回換気量の最大値は閾値を上回っている。したがって、第1の状態判別部24は、当該時点では人物2が異常な状態であるとは判別しない。すなわち、誤った判断にはならない。
ここで、例えば、人工呼吸器が外れて患者に十分な空気が送られなくなったときには、自発呼吸のある患者は、自発呼吸を開始するが、概ねその自発呼吸は弱いため、呼吸数が上がる傾向がある。すなわち、判定対象時点の呼吸の周期が短くなる傾向にある。そこで、第1の状態判別部24は、上述したように、観察期間T内の準一回換気量の最大値が判定閾値を下まわり、加えて、判定対象時点の呼吸の動きの周期、例えば、呼吸インターバルが変動した場合に、人物2が異常であると判別するように構成してもよい。
判定対象時点の呼吸の周期(呼吸インターバル)は、判定対象時点直前の第6の所定期間の呼吸データ(図2(a)参照)から算出すればよい。なお、呼吸の周期として呼吸インターバルの代わりに、呼吸インターバルの逆数、すなわち、呼吸数(呼吸レート)が変動した場合に、人物2が異常であると判別するように構成してもよい。また、以下、特に断りのない限り、呼吸の周期を算出するための期間である第6の所定期間を呼吸周期算出期間T6という。
呼吸周期算出期間T6は、典型的には、少なくとも通常の呼吸一周期分を含む期間とすればよく、例えば、5〜t0秒程度とするとよい。ここでは、呼吸周期算出期間T6は、60秒程度とする。ちなみに、大人の場合の通常の呼吸の範囲は、呼吸の周期(呼吸インターバル)であれば2.4秒〜6秒程度、呼吸数(呼吸レート)であれば1分間に10〜25回程度である。
第1の状態判別部24は、判定対象時点の呼吸の周期(呼吸インターバル)が、1つ前の判定対象時点の呼吸の周期(呼吸インターバル)に対して、例えば、±30%程度以上、典型的には、±20%程度以上ずれた場合に、呼吸の周期が変動したと判断するように構成する。なお、特に呼吸インターバルが短くなる場合(呼吸数が増加する場合)のみを異常の判断の条件としてもよい。また、判定対象時点の周期は、観察期間T1内の各判定対象時点毎に得られる呼吸の周期の平均値を用いてもよい。
この場合、第1の状態判別部24は、観察期間T内の準一回換気量の最大値が判定閾値を下まわったと判定し、さらに、判定対象時点の呼吸の周期(呼吸インターバル)が変動した場合に、人物2が異常であると判別するように構成することで、当該周期の変動がない場合には、人工呼吸が正常に行われている証拠になるので、仮に準一回換気量だけが変動しても、人工呼吸の異常は起こっていないと判別することができる。これにより、観察期間T内の準一回換気量の最大値が判定閾値を下まわったか否かだけでは、呼吸の異常を判別しにくいような場合、例えば、正常な人工呼吸をしているにもかかわらず呼吸の大きさが下がってしまうことがあるような場合に、誤った判別を防止することができる。また、睡眠呼吸障害等による周期的な呼吸低下や呼吸停止は、多くの場合低下時に呼吸数の増加を伴わないので、長い周期の呼吸低下を伴う患者を監視する場合に、観察期間T1をこの周期より短く設定したとしても自発呼吸、すなわち呼吸の低下の判定が可能であり、より迅速な異常の判別が可能である。
なお、本実施の形態では、第1の状態判別部24は、観察期間T1、基準データ取得期間T2を、後述する体動検出部28により検出された体動を示すデータ(図2(a)、(b)参照)の存在する期間である体動期間を除いた期間とするように構成される。
図6は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1で観察期間T1に体動期間が重なった場合について説明する図である。図6(a)に示すように、後述する体動検出部28により検出された体動期間と、観察期間T1とが重なる場合には、体動期間の測定データを除いた残りの測定データに、前記除いた期間に相当する期間の測定データを加えて、観察期間T1の測定データとする。具体的には、例えば観察期間T1に体動期間が重なる場合には、観察期間T1(1分)のさらに過去側の測定データから、前記除いた期間に相当する期間の測定データを加えるようにするとよい(図6(b)参照)。なお、人物2の監視がリアルタイムではない場合や、測定データの取得と第1の状態判別部24による状態の解析との間にタイムラグがある場合等で同様に観察期間T1に体動期間が重なる際に、観察期間T1(1分)の判定対象時点に続く未来側の測定データから、前記除いた期間に相当する期間の測定データを加えるようにしてもよい(図6(c))。即ち、体動期間を含まない連続した1分間(観察期間T1)の測定データを確保できるようにする。基準データ取得期間T2と体動期間とが重なった場合も同様である。
第1の状態判別部24は、観察期間T1、基準データ取得期間T2から体動期間を除くことで、呼吸以外の体動が起こっているときのデータを排除することができ、体動の影響を受けずに呼吸の異常の判定を行うことができ、誤った判別を防止することができる。なお、第1の状態判別部24は、一度体動が検出されたら、それが収まるまで、体動が検出されなくなってから一定期間(例えば3〜5秒間)、呼吸の状態の判別を行わないように構成しても良い。また、5秒以上の長い体動が起こったときには、呼吸データの感度が変化した可能性があるものとして、それまでの呼吸データをリセットし、あらためて観察期間T1でのデータ蓄積を開始するものとしてもよい。
また、上述では、図5(b)、(c)に示す観察期間T1内の準一回換気量の最大値と判定閾値は、それぞれ観察期間T1、基準データ取得期間T2の終了時点でプロットしたものなので、第1の状態判別部24は、判定対象時点での当該最大値が判定閾値以下となったか否かを観察期間T1の長さ分だけ過去の時点の判定閾値と比較して判定することになると説明したが、体動期間が存在した場合には、判定対象時点での当該最大値と観察期間T1+体動期間の長さ分だけ過去の時点の判定閾値とを比較して判定することになる。なお、図5(b)、(c)では、体動期間(Invalid period by body movement)を破線で図示している。
以上のように、第1の状態判別部24は、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布と、観察期間T1の準一回換気量に応じて、判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別することで、本発明は、人物2にできる限り負担をかけずに、安全に呼吸の状態を判別することができる。すなわち、人物2の危険な状態でのデータを取ること無しに、少ない誤報で異常判定を行うことができる。また、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布と目標とする誤報頻度に応じて判定閾値を設定することで、人物2固有の睡眠呼吸障害の症状等の状況に応じて可能な限り高い閾値を設定することができるので、誤報を防止しつつ、検出漏れを防ぐことができる。また、以上のように準一回換気量の最大値に基づいて判別を行うことは、特に、神経筋疾患患者等は人工呼吸がはずれた場合には大きな呼吸ができなくなり、準一回換気量の最大値も大きくならないことから好適である。
なお、以上の説明では、第1の状態判別部24は、観察期間T1内での準一回換気量の最大値のとる確率に基づいて状態の判別をするものとして説明したが、例えば、平均値や観察期間T1のデータの合計、例えば全度数の和が一定以下になる確率や、観察期間T1の各データの発生確率の積など、基準データ取得期間T2のデータの確率分布から推定される様々な観察期間T1のデータ分布の確率等を用いることができる。
ところで、以上の説明では、判定閾値を算出することで、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて、観察期間T1の準一回換気量に関して、その分布から求められる所定範囲の分布状態の発生確率が目標とする誤報頻度以下となる所定範囲を推定し、実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値と判定閾値とを比較することで、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布状態が推定された所定範囲に含まれるか否かの判断を行い人物2の異常を判別したが、判定閾値を求めることなく判別を行ってもよい。
すなわち、第1の状態判別部24は、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布から求められる所定範囲の分布状態が発生する第1の確率を推定し、当該第1の確率に基づいて人物2の異常を判別してもよい。
ここで、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布から求められる所定範囲とは、例えば、上述したような実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値によって規定されるデータの分布状態の範囲である。
例えば、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布として図4(b)の累積相対度数分布図を用いた場合、実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値のクラスが「5」であれば、当該最大値以下となる準一回換気量の発生確率は、0.6×100=60%程度となる。観察期間T1内での全ての準一回換気量が当該最大値以下であれば、観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布状態は、最大値が「5」以下であるという所定の範囲の分布状態に含まれるデータの分布状態となる。そして、当該所定範囲の分布状態が発生する確率、すなわち、第1の確率は当該最大値以下となる準一回換気量が観察期間T1内の全度数分独立に起こるものとして求めることができことから、当該最大値以下となる準一回換気量の発生確率=0.6を全度数分だけ掛け合わせることで算出することができる。例えば、観察期間T1内の全度数が30回である場合、クラス(階級)=「5」に対応する発生確率である0.6を30乗した0.000000221程度が第1の確率となる。このようにして、第1の状態判別部24は、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて第1の確率を推定することができる。
すなわち、第1の確率は、観察期間T1で基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの分布が継続したと仮定した場合に、当該基準データ取得期間T2のデータの確率分布から推定される確率であって、観察期間T1内での実際の準一回換気量に関するデータの分布状態が、観察期間T1内での実際の準一回換気量に関するデータの分布から求められる所定範囲の分布状態に含まれる確率である。
第1の状態判別部24は、算出した第1の確率と目標とする誤報頻度とを比較し、第1の確率が目標とする誤報頻度を下まわった場合に、第1の確率が目標とする誤報頻度よりもさらに発生しにくい特異な確率であることから、人物2が異常であると判別することができる。
なお、ここでは、第1の確率を、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて推定される確率であって、観察期間T1内での実際の準一回換気量に関するデータの分布状態が、実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値から求められるデータの分布状態の所定範囲に含まれる確率として説明したが、例えば、平均値、最小値、中央値(Median)、最頻値(Mode)から求められるデータの確率分布の範囲に含まれる確率分布が発生する確率としてもよい。
なお、前述では基準データ取得期間T2(例えば、30秒)の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて、観察期間T1(例えば、30秒)の準一回換気量に関して、その分布から求められる所定範囲の分布状態の発生確率が目標とする誤報頻度(例えば、1/259200)以下となるような所定範囲(例えば、クラス=「5」以下の範囲)を推定するのに対して、ここでは、観察期間T1で実際の観察期間T1内での準一回換気量のデータの最大値から求められる所定範囲の分布状態が発生する第1の確率を推定する。しかしながら、実質的には実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値が一定の値以下であるか否かに応じて人物2の異常を判別していることになり、結局は、観察期間T1の準一回換気量に関して、その分布から求められる所定範囲の分布状態の発生確率が目標とする誤報頻度以下となるような所定範囲を推定して、実際の観察期間T1の準一回換気量に関するデータの分布状態が、推定された分布状態の所定範囲に含まれるか否かの判断を行っているのに等しい。
同様に、第1の状態判別部24は、目標とする誤報頻度を(1)式に代入して所定範囲のデータの分布状態の発生確率が目標とする誤報頻度以下となる場合での一回分の準一回換気量の範囲の発生確率を算出し、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布に基づいて、観察期間T1内の準一回換気量最大値が実際に測定された観察期間T1内での準一回換気量の最大値以下となる確率を算出し、当該発生確率同士を比較して人物2の異常を判別してもよい。しかしながら、この場合も、結局は実際の観察期間T1内での準一回換気量の最大値が一定の値以下であるか否かに応じて人物2の異常を判別していることになる。
再び、図1を参照する。第2の状態判別部25は、上述したように、第3の所定期間の測定データに基づく値の基準値との比較結果に応じて、判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別するように構成される。さらに、本実施の形態では、第2の状態判別部25は、上述したように、スペクトル比較部27の比較結果に基づいて、人物2の異常を判別するように構成される。
スペクトル算出部26は、上述したように、呼吸の動きのある人物2の状態を示す測定データ、ここでは呼吸データ(図2(a))に基づいて、第3の所定期間のスペクトルを算出する。ここで、スペクトルは、振幅スペクトルでもよいし、パワースペクトルでもよい。本実施の形態では、スペクトルは、スペクトルの実部と虚部の二乗和に相当するパワースペクトルを用いる。パワースペクトルは、振幅スペクトルよりも周波数分布が強調されるので、スペクトルの低周波成分と高周波成分とを比較して、人物2の異常を判別する際には好適である。
具体的には、スペクトル算出部26は、判定対象時点直前の第3の所定期間の呼吸データ(図2(a))を離散フーリエ変換すること、典型的にはFFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)によって判定対象時点のパワースペクトルを算出する。
また、第3の所定期間は、FFTを実行するための呼吸データ(図2(a))を蓄積するための時間であり、例えば、判定対象時点より以前の少なくとも1周期分を含む期間、例えば5〜60秒、好ましくは5秒〜32秒、ここでは判定対象時点直前の8秒である。なお、以下、特に断りのない限り、呼吸データ(図2(a))を蓄積するための時間である第3の所定期間をデータ蓄積時間T3という。
図7は、本実施の形態に係る呼吸モニタ1のスペクトル算出部26によって算出されるパワースペクトルの一例を示した図である。実際に正常な呼吸運動がある場合には、正常な呼吸数に近い範囲の周波数のパワースペクトルが大きくなり、正常な呼吸運動がなくなると、当該パワースペクトルが小さくなる。一方、呼吸運動にはない範囲、すなわち、ノイズ範囲の周波数のパワースペクトルは、正常な呼吸運動の有無にかかわらずその変化は小さい。ここで、正常な呼吸数に近い範囲の周波数とは、例えば、10〜50回/分の周波数成分であり、それ以外のノイズ成分の範囲の周波数は、典型的には、正常な呼吸数に近い周波数成分よりも高い範囲の周波数成分となる。したがって、パワースペクトルの低周波成分と高周波成分とを比較することによって対象物2の異常、すなわち、ここでは、人物2の正常な呼吸の有無、あるいは停止に近いレベルまでの低下を判別することができる。
ここで、典型的には、低周波成分の範囲は60回/分以下、高周波成分の範囲は60回/分以上であり、本実施の形態では、低周波成分の範囲は上述のように10〜50回/分、高周波成分の範囲は80〜120回/分とする。なお、低周波成分の範囲と高周波成分の範囲とは、一部が重複するようにしてもよく、例えば、低周波成分の範囲を10〜70回/分、高周波成分の範囲を60〜120回/分としてもよい。
スペクトル比較部27は、具体的には、低周波成分のパワースペクトルの総和(以下、特に断りのない限り「信号成分」という)と、高周波成分のパワースペクトルの総和(以下、特に断りのない限り「ノイズ成分」という)を算出する。各成分のパワースペクトルの総和は、各成分のパワースペクトルをそれぞれ単純に足し合わせてもよいし、各成分のパワースペクトルを周波数について積分して算出してもよい。スペクトル比較部27は、算出した信号成分とノイズ成分を比較する。スペクトル比較部27は、当該比較結果の信号をディスプレイ40に送信し、当該比較結果をディスプレイ40に表示する。
図8は、本実施の形態に係る呼吸モニタ1の実際の測定により取得した呼吸データ、スペクトル比較部27によって比較される信号成分、ノイズ成分のデータの波形パターンの一定時間分(6分程度)の例を示したものである。
第2の状態判別部25は、スペクトル比較部27により比較される信号成分と、ノイズ成分との比較結果に基づいて、信号成分がノイズ成分を第4の所定期間連続的に下まわった場合に、人物2が異常である、ここでは、人物2の呼吸が停止したと判別するように構成される。
すなわち、ここでは、データ蓄積時間T3の呼吸データ(図2(a))をFFTすることによって得られる低周波成分のパワースペクトルの総和、すなわち、信号成分がデータ蓄積時間T3の測定データに基づく値であり、高周波成分のパワースペクトルの総和、すなわち、ノイズ成分が比較のための基準値である。すなわち、第2の状態判別部25は、信号成分がノイズ成分を下まわるか否かに基づいて、判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別する。また、言い換えれば、第2の状態判別部25は、判定対象時点の周期的な動きの大きさに関するデータとしての信号成分が、該データが最小閾値としてのノイズ成分を下まわるか否かに基づいて判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別する。
ここで、第4の所定期間は、呼吸の停止を評価するのに十分な期間であり、典型的には、少なくとも判定対象時点より以前の1周期分を含む期間、例えば5〜32秒、好ましくは5秒〜16秒、ここでは8秒である。以下、特に断りのない限り、人物2の異常を評価・判別するための期間である第4の所定期間を判別評価期間T4という。なお、ここで、判別評価期間T4連続的に下まわるとは、必ずしも一度もその条件から外れてはいけないという意味ではなく、実質的に連続していればよく、瞬間的に外れても判別に影響がなければよい。以下の説明でも、特に断りのない限り同様である。
以上のように、第2の状態判別部25は、例えば、1つの固定された閾値を用いずに、信号成分とノイズ成分との相対的な比較結果に基づいて呼吸の停止を判別することで、人物2の姿勢や上掛けの状況、外乱光の状況等、環境条件により、後述するFGセンサ10により取得される測定データの検出感度やノイズレベルが変化する場合でも、当該変化に適切に対応した、より正確な判別を下すことができる。また、信号成分とノイズ成分との相対的な比較結果によって第2の状態判別部25による判別を行うので、例えば、人工呼吸回路が人物2の体位変換時に外れた場合や、介護時に外して付け忘れた場合、寝返り等の体動により人物2の体勢が変わった場合等に、改めてある程度の時間をかけて閾値を設定し直す必要がなく、人物2の呼吸停止を迅速に検出することができる。
さらに、本実施の形態に係る呼吸モニタ1は、第1の状態判別部24と第2の状態判別部25とを組み合わせることで、第1の状態判別部24又は第2の状態判別部25のいずれか一方が人物2の呼吸の異常を判別した場合に呼吸の異常を検出することができるので、包括的かつ漏れのない判別をすることができる。なお、呼吸モニタ1は、第1の状態判別部24と第2の状態判別部25の両方が人物2の呼吸の異常を判別した場合に、はじめて呼吸の異常を検出するように構成してもよい。この場合は、誤報をより少なくすることができる。
なお、以上の説明では、第2の状態判別部25は、信号成分がノイズ成分を判別評価期間T4だけ連続的に下まわった場合に、人物2の呼吸が異常であると判別したが、信号成分とノイズ成分の大きさを単純に比較する方法以外にも、差や比を用いる等、種々の比較の方法が選択可能である。信号成分とノイズ成分との相対的な関係は、パワースペクトルの低周波数成分の範囲と高周波数成分の範囲の選び方などによって異なることがある。そこで、例えば、当該各範囲の選び方等に応じて、比較の際に、一方あるいは両方の信号にバイアスを加えたり係数をかけたりすることで、信号成分がノイズ成分を下まわる前に人物2の呼吸の異常を判別する構成にすることができる。
なお、以上の説明では、呼吸データから離散フーリエ変換によりパワースペクトルを算出するためのデータ蓄積時間T3は、8秒程度であるものとして説明した。図7で示したように、8秒間の呼吸データのサンプリングによりパワースペクトルを求めた場合、パワースペクトルは、7.5回/分程度の呼吸数分解能で得ることができる。より精密な呼吸数を知りたい場合は、データのサンプリング時間を長くとる必要があり、このような短いサンプリング時間では細かい精密な呼吸数は分からないが、ここでは大まかな高周波成分と低周波成分の量が分かれば良いので、短時間のサンプリングで得られるデータで十分に呼吸の異常の判別が可能である。従って結果として、より迅速に呼吸の異常の判別をすることができることになる。以上で説明した実施の形態では、データ蓄積時間T3として8秒程度、判別評価期間T4として8秒程度、合計の16秒程度で呼吸の停止の判別が可能である。
なお、第2の状態判別部25は、低周波成分のスペクトルの総和の第5の所定期間の平均が前記高周波成分のスペクトルの総和の第5の所定期間の平均を下まわった場合に、対人物2が異常であると判別するように構成してもよい。第5の所定期間は、過去の判定対象時点が複数含まれていればよく、例えば判別評価期間T4と同様に5〜30秒、好ましくは5秒〜15秒、典型的には8秒である。さらに好ましくは、呼吸モニタ1による人物2のリアルタイムな監視に差し支えのない時間であるとよい。以下、特に断りのない限り、スペクトルの総和の平均値を取るための期間である第5の所定期間をスペクトル平均化期間T5という。
すなわち、この場合、スペクトル比較部27は、判定対象時点の信号成分、ノイズ成分を算出し、さらに、判定対象時点直前のスペクトル平均化期間T5内の信号成分、ノイズ成分を用いて、各々の平均値を算出する。判定対象時点直前のスペクトル平均化期間T5内の信号成分、ノイズ成分は、過去の判定対象時点で算出した信号成分、ノイズ成分である。スペクトル比較部27は、当該算出した信号成分の平均値とノイズ成分の平均値を比較する。
このようにすることで、第2の状態判別部25は、スペクトル平均化期間T5の長さにもよるが、上述した判別評価期間T4を短くしたり、極端な場合には判別評価期間T4を0秒とし、信号成分の平均値がノイズ成分の平均値を下まわった時点で、判別評価期間T4の経過を待たずに、人物2が異常であると判別するように構成することができる。
また、図8の図中破線で囲んだ部分には、上述した体動を示すデータ(図2参照)が現れている。例えば、体位変換や介護等により体動があった場合には、図中破線で囲んだ部分に示すように、ノイズ成分が大きくなることがある。この際、ノイズ成分が信号成分を上回ることもあり得るので、誤って呼吸の停止があったと判別してしまう場合がある。そこで、第2の状態判別部25は、判定対象時点の動きが後述する体動検出部28(図1参照)によって体動であると判定された場合、すなわち、判定対象時点が後述する体動期間である場合は、呼吸停止の判別を行わないようにしてもよい。これにより、誤った判別を防止することができる。またその際、一度体動が検出されたら、それが収まるまで、体動が検出されなくなってから一定期間(例えば3〜5秒間)、呼吸停止の判別を行わないようにしてもよい。また、データ蓄積時間T3、判別評価期間T4、スペクトル平均化期間T5等を、観察期間T1、基準データ取得期間T2と同様に、体動期間を除いた期間とするようにしてもよい。
また、ここでも第1の状態判別部24による判別の場合と同様に、人物2が睡眠時無呼吸など、人工呼吸に起因しない呼吸異常を持っている患者である場合には、その呼吸異常によって、人物2の呼吸停止を誤って判別しないように、判別評価期間T4をその患者の最も長い無呼吸時間より長くするとよい。すなわち、判別評価期間T4は、入力装置35(図1参照)を操作して、対象物2の特性等に応じて任意に調節すればよい。また、信号成分がノイズ成分を下まわっている期間が判別評価期間T4連続しても、連続した期間が最も長い無呼吸時間より短い場合には、第2の状態判別部25による判別を行わないようにしてもよい。これにより、同様に、第2の状態判別部25による判別の誤りを防止することができる。なお、この場合、上述したスペクトル平均化期間T5も同様に最も長い無呼吸時間より少し長くするとよい。
なお、以上の説明では、第2の状態判別部25は、データ蓄積時間T3の測定データに基づく値としてパワースペクトルの信号成分を用い、信号成分がノイズ成分を下まわるか否かに基づいて、すなわち、信号成分のノイズ成分との比較結果に応じて判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別するものとして説明したが、データ蓄積時間T3の測定データに基づく値の基準値との比較結果に応じて、判定対象時点における前記対象物の状態が異常か否かを判別する構成であれば別の形態でもよい。例えば、最も単純には、第2の状態判別部25は、測定データに基づく値としての準一回換気量を用い、当該準一回換気量に対して固定的な最小閾値を設けて基準値とし、判定対象時点の準一回換気量が当該閾値を下まわるか否かに基づいて、人物2の状態が異常か否かを判別するように構成してもよい。言い換えれば、準一回換気量の最小値に応じて判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別するように構成してもよい。また、測定データに基づく値として信号成分とノイズ成分との差を用い、当該差に対して最小閾値を設けて基準値として、信号成分とノイズ成分との差が当該閾値を下まわるか否かに基づいて、人物2の状態が異常か否かを判別するように構成してもよい。
再び図1を参照する。体動検出部28は、上述したように周期的な動きのある対象物、すなわち呼吸運動のある人物2の状態を示す測定データに基づいて、呼吸運動とともに起こる非周期的な動き、すなわち体動を判定して検出し、さらに、当該測定データ中から対象物の体動を示すデータの存在する期間である体動期間を検出するように構成される。
本実施の形態では、体動検出部28は、判定対象時点直前の第7の所定期間内の測定データ、ここでは、体動データ(図2(c)参照)の分布状況に基づいて体動基準値を算出するように構成する。以下、特に断りのない限り、体動基準値を算出するための期間である第7の所定期間を体動基準値算出期間T7という。体動基準値算出期間T7は、体動基準値を算出するための期間であり、例えば、判定対象時点直前の1〜2分程度とするとよい。
ここで体動データの分布状況は、例えば、体動基準値算出期間T7の体動データ(測定値)の平均値+標準偏差×aにより算出し、これを体動基準値とする。ここでaは定数である。このaを例えば3とすればデータがガウス分布をしている場合、体動データ(測定値)の99.85%は、この式により算出した値の範囲に入るので、そこから外れたものは、通常の分布ではなく、体動であると判定できる。すなわち、体動検出部28は、判定対象時点の体動データ(測定値)が上記のようにして算出する体動基準値を超えた場合に、判定対象時点での動きが体動であると判定する。
体動検出部28は、判定対象時点の人物2の動きが体動であると判定した場合、さらに、当該測定データ中から人物2の体動を示すデータの存在する期間である体動期間を検出するように構成される。体動期間は、実際に体動があると判定された期間でよいが、上述したように、体動が検出された期間の前後数秒は、測定データ(例えば呼吸データ)が多少不安定となることが予め予測できるので、実際に体動があると判定された期間に、当該期間の前後数秒を加えた期間を、体動期間とすることが好適である。なお、体動検出部28が上述のように、判定対象時点の動きが体動であるか否かを検出することは、言い換えれば、判定対象時点が体動期間であるか否かを判定することでもある。
なお、リアルタイムに推移していく判定対象時点のデータから順次この作業を行っていけば、過去の判定対象時点が体動であるかが次の判定対象時点で判っているので、体動である時点、すなわち体動を示す期間は、体動基準値算出期間T7から除外することが好ましい。すなわち、体動を示す測定データは以降の体動基準値の計算に入れないようにすることが好ましい。このようにすることでより正確に体動を検出することができるようになる。また、体動検出部28は、体動データ(測定値)が上記のようにして算出する体動基準値を、例えば1〜5秒程度連続的に超えた場合に、体動であると判定するように構成してもよい。
またここで、本実施の形態の呼吸モニタ1はリアルタイムに人物2を監視するものであるため、判定対象時点に用いる体動基準値は、判定対象時点にすでに算定されていることが好ましい。本実施の形態では、判定対象時点に実際に用いる体動基準値には、1つ前の時点(1時点過去に遡った判定対象時点)までの体動基準値算出期間T7内のデータを用いて算出した体動基準値を用いる。すなわち、言い換えれば、判定対象時点に用いる体動基準値と、判定対象時点までの体動基準値算出期間T7内のデータを用いて算出した体動基準値とは異なるものである。
なお、体動検出部28は、第8の所定期間内の測定データ(例えば体動データ)に基づいて、判定対象時点の人物2の体動を判定するための体動判定値を算出し、算出した体動判定値と、体動の判定の基準となる体動基準値とを比較し、その比較結果に基づいて人物2の体動を判定するように構成してもよい。以下、特に断りのない限り、体動判定値を算出するための期間である第8の所定期間を体動判定値算出期間T8という。
この場合、体動判定値算出期間T8は、人物2の動きが周期的か非周期的かを判定することのできるに十分なある幅をもった時間帯内であり、例えば、体動判定値の算出に後述のように情報エントロピーやCV値を使うような場合には、5〜10秒程度とするとよい。さらに、体動判定値算出期間T8は、本実施の形態に係る呼吸モニタ1が人物2の状態推移をリアルタイムに監視する装置であるから、典型的には、判定対象時点直前期間とするとよい。体動判定値は、測定データ(例えば体動データ)から求める各時点での2次パラメータである。
さらにこの場合、体動判定値は体動判定値算出期間T8内の測定データ(例えば体動データ)のバラツキに関する量とするとよい。バラツキに関する量とは、例えば情報エントロピーや変動係数(CV値)である。まずCV値とは、「CV値=標準偏差/平均値」で算出できるものであり、変動の大きさをバイアスレベルで正規化する意味を持つ。従って、測定データのバイアスレベルの変動や、計算期間と比較してゆっくりした変化に対しては大きく反応せず、バイアスの状態に比較して大きい急な変動に反応することになる。
また情報エントロピーとは、物理学で用いられるエントロピーを事象の不確かさとして考え、ある情報による不確かさの減少分が、その情報の情報量であるとすると、情報を受け取る前後の不確かさの相対値である。例えば、サイコロを振ったとき、結果を見る前はどの目が出たかまったく分からないので、不確かさ即ち情報エントロピーは最大である。奇数の目が出たという情報を受け取ると、情報エントロピーは減少する。1の目が出たことを知れば、結果は一意に確定し、情報エントロピーは最小となる。また情報量は確率に対して単調減少関数である。珍しい事象が起きたことを知れば、その情報量は大きいが、珍しい事象は当然めったに起こらない。それほど珍しくはないが多少変わったことが起きたということをそのたびに知れば、長い間観察した総情報量は大きくなる場合もある。このような観点から見た長い間の平均的な情報量が情報エントロピーである。具体的には情報エントロピーH(X)は例えば次式(2)で算出される。ここで、p(x)は、複数の事象の集合Xの中で、事象xが起こる確率を示す。
なお、情報エントロピーは測定データのヒストグラムから求めることができる。ヒストグラムは例えば図9に示すようなものである。図9では縦軸を度数、横軸をクラス(階級)としている。なお、クラスは例えば測定データの出力の大きさに対応するものであり、図示では測定データの分布に基づいて、等間隔に設定されている。具体的にはクラスの幅は、全測定データの平均値と標準偏差を基準として、0から平均値+標準偏差×2までをN分割してもよい。ここでNは全データ数により決定するとよい。例えば通常10〜数十である。あるいは、暫定的に設定したクラスの幅で求めた再頻値の4倍を50分割する等でもよい。ここで、あるクラスのxの生起確率p(x)=クラスの度数/全データ数となる。なお、図中一番右のクラス(Nクラス)は、Nクラス以上のデータがすべてカウントされているため、度数が大きくなっている。
またこの際には、図9のように縦軸を度数、横軸をクラス(階級)としたヒストグラムを求める場合、クラスの幅(横軸)をLogスケールにしたヒストグラムとするとよい。それによって、クラスの幅がクラスの中心値に比例して変化することになり、信号(例えば測定データ)の感度の変動に対して不変な情報エントロピーを求めることができる。なお、ヒストグラムのクラスの幅は、体動判定値算出期間T8内のデータ数や、予め計測しておいた一晩(7〜10時間程度)での体動データの分布範囲、バラツキ等から求めることができる。
なお、体動判定値は、判定対象時点の周囲の周波数分布から算出してもよい。ここで、判定対象時点の周囲とは、例えば、判定対象時点を含む、又は隣接する体動判定値算出期間T8のことであり、典型的には、判定対象時点直前の体動判定値算出期間T8である。周波数分布は、例えば、ハイパスフィルタを通した出力、フーリエ変換による周波数成分の分布、ウェーブレット変換によるスケールに対する出力の分布に反映されるものである。これにより取出された測定データ(例えば体動データ)の大きさ(出力値等)の分布に基づいて体動判定値を算出するようにしてもよい。
また、上記のようにして体動判定値を算出し、比較する場合の基準となる体動基準値は、個々の測定データ(例えば体動データ)に関係なく、基準となる値を1つの値に決めても良いし、リアルタイムに推移していく判定対象時点毎の複数の体動判定値の分布や、予め計測しておいた一晩(7〜10時間程度)分の体動判定値の分布から決めてもよい。また、体動検出部28は、判定対象時点以前の体動基準値算出期間T7内の測定データ(例えば体動データ)に基づいて、人物2の体動の判定の基準となる体動基準値を算出し、判定対象時点の体動判定値と体動基準値とを比較して、その比較結果に基づいて人物2の体動を判定するように構成してもよい。
また、体動検出部28による体動の判定は、例えば体動基準値算出期間T7での測定データ(例えば体動データ)の分布から体動閾値を設定して体動基準値とし、この体動閾値と判定対象時点の体動データとの比較により判定してもよい。ここで上記の体動閾値Thm(図9に図示)は、例えば図9のヒストグラムの最頻値の度数の一定割合(例えば60%(即ちe―1/2))となる位置までの最頻値からの距離の一定倍(例えば3倍)を最頻値に加えた位置として決定できる。なお、図中ヒストグラムのピークの右側は、体動による影響を受けているので、左側でピークに対する度数の割合を評価するとよい。
なお、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1は、人物2が、第1の状態判別部24、又は第2の状態判別部25によって異常であると判別された際に、警報を発する警報装置36を備えるとよい。警報装置36(図1参照)は、例えば、スピーカ等の警報音を発する手段を有し、人物2が異常であると判別された際に、当該警報音を発し、医師や看護士等に人物2の異常を知らせる。この場合、第1の状態判別部24、第2の状態判別部25は、人物2の呼吸が異常であると判別した際に、警報信号を警報装置36(図1参照)に送信するように構成するとよい。警報装置36(図1参照)は、警報信号を受信すると警報音を発するように構成される。また、この場合、第1の状態判別部24、第2の状態判別部25が警報信号を生成する構成でなくても、第1の状態判別部24、第2の状態判別部25とは別体の不図示の警報手段によって警報信号を生成する構成としてもよい。すなわち、呼吸モニタ1は、第1の状態判別部24、第2の状態判別部25により人物2の呼吸が異常であると判別された際に、当該異常の判別に基づいて警報信号を生成し、該警報信号を警報装置36(図1参照)に送信する警報手段を備える構成としてもよい。また、図1では、警報装置36は外付けとして図示してあるが内蔵としてもよい。
また、演算装置20(図1参照)は、警報装置36(図1参照)が作動した場合に、インターフェイス(不図示)を介して、警報の発生を外部に通報するように構成してもよい。通報は、例えば音声、文字、記号、室内照明を含む光の強弱又は、振動などによるものである。またインターフェイス(不図示)は、一般電話回線、ISDN回線、PHS回線、または、携帯電話回線、LANなどの通信回線に対して接続する機能を備えている。
図10は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1のFGセンサ10の模式的斜視図である。本図を参照して、呼吸モニタ1に適した測定装置であるFGセンサ10について説明する。FGセンサ10は、対象領域としてのベッド3に所定の照明パターン11a、言い換えれば複数の輝点11bを投影する投影装置11と、投影装置11により投光された光、すなわち、複数の輝点11bが投影されたベッド3を撮像する撮像装置12と、撮像装置12により撮像された画像に基づいて、人物2の状態を示す測定データを生成する測定部14とを含んで構成される。なお、本実施の形態では測定部14は演算装置20と一体に構成されている場合で説明する。
図11は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1のFGセンサ10の概略構成を示すブロック図である。測定部14は、撮像装置12により異なる2時点に取得された2フレームの画像から、複数の輝点の前記2フレーム間の移動量を算出する移動量算出手段としての移動量算出部141と、移動量算出部141により算出された移動量を時系列に並べてなる移動量波形データを生成する移動量波形生成手段としての移動量波形生成部142とを備えている。
ここで、異なる2時点の像に基づく、輝点の移動の測定について説明する。異なる2時点の像は、任意の時点とそのわずかに前の時点とするとよい。わずかに前とは、人物2の動きを検出するのに十分な時間間隔だけ前であればよい。この場合、人物2のわずかな動きも検出したいときは短く、例えば人物2の動きが大きくなり過ぎず、実質的にはほぼ動き無しとみなせる程度の時間、例えば0.1秒程度とすればよい。あるいはテレビ周期の1〜10周期(1/30〜1/3)とするとよい。また、人物2の大まかな動きを検出したいときは長く、例えば10秒程度としてもよい。但し、本実施の形態のように、人物2の呼吸も検出する場合では長くし過ぎると、正確な呼吸の検出が行えなくなるので、例えば1分などにするのは適切でない。以下、任意の時点(現在)で取得した像を取得像、取得像よりわずかに前(過去)に取得した像を参照像として説明する。なお、参照像は、記憶部(不図示)内に保存される。
さらに、本実施の形態では、異なる2時点の像は、取得像(Nフレーム)と、取得像の1つ前に取得した像(N−1フレーム)とする。すなわち参照像は、取得像の1つ前に取得した像である。また、像の取得間隔は、例えば装置の処理速度や、上述のように検出したい動きの内容により適宜決めるとよいが、例えば0.1〜3秒、好ましくは0.1〜0.5秒程度とするとよい。ここでは0.1〜0.25秒とする。また、より短い時間間隔で像を取得し、平均化またはフィルタリングの処理を行うことで、例えばランダムノイズの影響を低減できるので有効である。なお、測定部14については後で詳しく説明する。
図10に戻って、FGセンサ10の設置例について説明する。図中ベッド3上に、人物2が睡眠状態で横たわって存在している。ここでは、人物2の上には、さらに寝具4がかけられており、人物2の一部と、ベッド3の一部とを覆っている。この場合には、FGセンサ10は、寝具4の上面の高さ方向の一定時間内の動きに関する量を測定している。また寝具4を使用しない場合には、FGセンサ10は、人物2そのものの高さ方向の一定時間内の動きに関する量を測定する。なお、人物2の高さ方向の動きは、例えば人物2の呼吸や体動に伴う動きである。
FGセンサ10を構成している投影装置11と、撮像装置12は、測定範囲であるベッド3の鉛直方向上方に配置されている。なお測定範囲は、人物2の胸部や腹部を含む範囲に設定されている。図示では、人物2のおよそ頭部上方に投影装置11が、ベッド3のおよそ中央部、または中央部よりやや頭部寄り上方に撮像装置12が配置されている。投影装置11は、ベッド3上に照明パターンとしてのパターン11aを投光している。パターン11aは複数の輝点光である。また、撮像装置12の画角は、人物2の上半身に相当する部分を含むベッド3のおよそ中央部分を撮像できるように設定される。撮像装置12はほぼ垂直にベッド3を見下ろすように設置されていが、ある程度傾けて設置してもよい。なおここでは、撮像装置12により撮像できる人物2上に投光された複数の輝点11bの各位置が各測定点に対応する。
投影装置11と撮像装置12とは、ある程度距離を離して設置するとよい。このようにすることで、距離d(基線長d、図13参照)が長くなるので、変化を敏感に検出できるようになる(検出感度がよくなる)。なお、基線長は長く取ることが好ましいが、短くてもよい。但しこの場合には、呼吸等の小さな動きを検出しにくくなるが、後述のように、輝点の重心位置を検出するようにすれば、小さな動き(呼吸)の検出も可能である。
ここで基線長d(図13参照)について説明する。ここでは、FGセンサ10は、図13で後述するように、パターンを形成する輝点の移動を測定するものである。この際に、例えば、対象物(ここでは人物2)の高さ又は高さ方向の動きが大きくなればなるほど、輝点の移動量も大きくなる。このため、図13で後述する概念によると、輝点の移動量が大きいと、比較すべき輝点の隣の輝点を飛び越してしまう現象が起こることがある。この場合、隣の輝点から移動したと判断され、測定される輝点の移動量は小さくなってしまうことがある。すなわち、正確に輝点の移動量を測定できない。基線長が短い場合には、輝点の移動量は小さく、上記の飛び越えが起こりにくいが、微小な動きに対してはノイズとの区別が難しくなる。また、基線長d(図13参照)が長い場合には、例えば対象物の僅かな動きであっても、輝点の移動量に大きく反映されるので、微小な高さ又は高さ方向の動きを測定することができるが、例えば大きな動きがあった場合に飛び越えが起きることがある。
図12は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1の投影装置11を説明する模式的斜視図である。本図を参照して、呼吸モニタ1に適した投影装置11について説明する。なおここでは、説明のために、測定範囲を平面102とし、後述のレーザ光束L1を平面102に対して垂直に投射する場合で説明する。投影装置11は、可干渉性の光束を発生する光束発生手段としての光束発生部105と、ファイバーグレーティング120(以下、単にグレーティング120という)とを備えている。光束発生部105により投射される可干渉性の光束は、典型的には赤外光レーザである。光束発生部105は、平行光束を発生するように構成されている。光束発生部105は、典型的には不図示のコリメータレンズを含んで構成される半導体レーザ装置であり、発生される平行光束は、レーザ光束L1である。そしてレーザ光束L1は、断面が略円形状の光束である。ここで平行光束とは、実質的に平行であればよく、平行に近い光束も含む。なお、略円形状とは略楕円形状を含む。
またここでは、グレーティング120は、平面102に平行に(Z軸に直角に)配置される。グレーティング120に、レーザ光L1を、Z軸方向に入射させる。するとレーザ光L1は、個々の光ファイバー121により、そのレンズ効果を持つ面内で集光したのち、発散波となって広がって行き、干渉して、投光面である平面102に複数の輝点アレイであるパターン11aが投光される。なお、グレーティング120を平面102に平行に配置するとは、例えば、グレーティング120を構成するFG素子122の各光ファイバー121の軸線を含む平面と、平面102とが平行になるように配置することである。
また、グレーティング120は、2つのFG素子122を含んで構成される。本実施の形態では、各FG素子122の平面は、互いに平行である。以下、各FG素子122の平面を素子平面という。また、本実施の形態では、2つのFG素子122の光ファイバー121の軸線は、互いにほぼ直交している。
FG素子122は、例えば、直径が数10ミクロン、長さ10mm程度の光ファイバー121を数10〜数100本程度、平行にシート状に並べて構成したものである。また、2つのFG素子122は、接触して配置してもよいし、それぞれの素子平面の法線方向に距離を空けて配置してもよい。この場合には、2つのFG素子122の互いの距離は、パターン11aの投光に差支えない程度とする。レーザ光束L1は、典型的には、グレーティング122の素子平面に対して垂直に入射させる。
このように、投影装置11は、2つのFG素子122を含んで構成されたグレーティング120が光学系となるので、複雑な光学系を必要とすることなく、光学筐体を小型化できる。さらに投影装置11は、グレーティング120を用いることで、単純な構成で、複数の輝点11bをパターン11aとして対象領域に投光できる。なお、パターン11aは、典型的には正方格子状に配列された複数の輝点11bである。また、輝点の形状は楕円形を含む略円形である。
図13は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1の輝点の移動の概念について説明する概念的斜視図である。本図を参照して撮像装置12について説明する。撮像装置12は、結像光学系12aと撮像素子15を有するものである。撮像素子15は、典型的にはCCD撮像素子である。また、撮像素子15として、CCDの他にCMOS構造の素子が最近盛んに発表されており、それらも当然使用可能である。特にこれらの中には、素子自体にフレーム間差算や二値化の機能を備えたものがあり、これらの素子の使用は好適である。
好適である。
また、撮像装置12は、前述の光束発生部105(図12参照)により発生されるレーザ光束L1の波長の周辺部以外の波長の光を減光するフィルタ12bを備えるとよい。フィルタ12bは、典型的には干渉フィルタ等の光学フィルタであり、結像光学系12aの光軸上に配置するとよい。このようにすると、撮像装置12は、撮像素子15に受光する光のうち、投影装置11より投影されたパターン11aの光の強度が相対的にあがるので、外乱光による影響を軽減できる。また、光束発生部105(図12参照)により発生されるレーザ光束L1(図12参照)は、典型的には赤外光レーザの光束である。また、レーザ光L1(図12参照)は、継続的に照射してもよいし、断続的に照射してもよい。断続的に照射する場合には、撮像装置12による撮像を、照射のタイミングに同期させて行うようにする。
ここで、輝点の移動の概念について説明する。ここでは、判りやすく、対象領域を平面102、対象物を物体103として説明する。さらにここでは、説明のために、参照像は、物体103が平面102に存在しないときのパターン11aの像であり、取得像は、物体103が平面102に存在しているときのパターン11aとして説明する。
図中物体103が、平面102上に載置されている。またXY軸を平面102内に置くように、直交座標系XYZがとられており、物体103はXY座標系の第1象限に置かれている。一方、図中Z軸上で平面102の上方には、投影装置11と、撮像装置12とが配置されている。撮像装置12は、投影装置11によりパターン11aが投光された平面102を撮像する。即ち平面102上に載置された物体103を撮像する。
撮像装置12の結像光学系としての結像レンズ12aは、ここでは、その光軸がZ軸に一致するように配置されている。そして、結像レンズ12aは、平面102あるいは物体103上のパターン11aの像を、撮像装置12の撮像素子15の結像面15’(イメージプレーン)に結像する。結像面15’は、典型的にはZ軸に直交する面である。さらに、結像面15’内にxy直交座標系をとり、Z軸が、xy座標系の原点を通るようにする。平面102から結像レンズ12aと等距離で、結像レンズ12aからY軸の負の方向に距離d(基線長d)だけ離れたところに、投影装置11が配置されている。物体103と平面102には、投影装置11により複数の輝点11bが形成するパターン11aが投光される。
投影装置11により平面102に投光されたパターン11aは、物体103が存在する部分では、物体103に遮られ平面102には到達しない。ここで物体103が存在していれば、平面102上の点102aに投射されるべき輝点11bは、物体103上の点103aに投射される。輝点11bが点102aから点103aに移動したことにより、また結像レンズ12aと投影装置11とが距離d(基線長d)だけ離れているところから、結像面15’上では、点102a’(x,y)に結像すべきところが点103a’(x,y+δ)に結像する。即ち、物体103が存在しない時点と物体103が存在する時点とは、輝点11bの像がy軸方向に距離δだけ移動することになる。
これは、例えば図14に示すように、撮像素子15の結像面15’に結像した輝点は、高さのある物体103により、δだけy軸方向に移動することになる。
このように、この輝点の移動量δを算出することにより、物体103上の点103aの位置が三次元的に特定できる。即ち、例えば点103aの高さがわかる。このように、ある点が、物体103が存在しなければ結像面15’上に結像すべき点と、結像面15’上の実際の結像位置との差を算出することにより、物体103の高さの分布、言い換えれば三次元形状が測定できる。あるいは物体103の三次元座標が測定できる。また、輝点11bの対応関係が不明にならない程度に、パターン11aのピッチ、即ち輝点11bのピッチを細かくすれば、物体103の高さの分布はそれだけ詳細に測定できることになる。
以上のような概念に基づいて、輝点の移動量を算出することで対象物の高さが測定できる。但しここでは、取得像と、取得像の1つ前に取得した像即ち参照像に基づいて、高さ方向の動きを測定するので、輝点の移動量を見ることになる。このため、例えば人物2の絶対的な高さは測定できなくなるが、人物2の高さ方向の動きを検出することが目的であるので問題は無い。
再び図11に戻って、測定部14について詳述する。移動量算出部141は、図14で説明したように、輝点の移動量を算出するものである。移動量算出部141は、以上のような、輝点の移動量の算出を、パターン11aを形成する複数の各輝点毎に行うように構成される。即ち、複数の輝点の位置がそれぞれ測定点となる。移動量算出部141は、パターン11aを形成する複数の各輝点毎に算出した輝点の移動量を移動量波形生成部142へ出力する。即ち、算出した各輝点の移動量が、各測定点での測定値となる。言い換えればここでは人物2の動きを複数の点で測定した各測定値は、各輝点の移動量に対応する。
なお、任意の時点とそのわずかに前の時点の異なる2時点の像に基づく、輝点の移動の測定で得られる波形(例えば輝点の移動量の総和など)は、距離の微分波形、即ち速度変化を表す波形になる。また例えば、高さ変化を表すような波形を得たいときは、前記波形を積分すれば距離の波形、即ち高さ変化を示す波形になる。
ここで、取得像と参照像は、例えば撮像装置12により撮像された像であるが、それぞれの像上での、輝点の位置情報も含む概念である。即ち、取得像と参照像は、各々の時点で、投影装置11の投光により形成されたパターン11aの像である。なお、本実施の形態では、参照像は、例えば、いわゆる像としてではなく、各輝点の位置に関する、座標等の位置情報の形で不図示の記憶手段に保存される。このようにすると、後述する輝点の移動量を算出する際に、例えば輝点の座標や方向を比較するだけで済むので処理が単純になる。さらに、ここでは、輝点の位置は、輝点の重心位置とする。このようにすることで、僅かな輝点の移動も計測することができる。
また、輝点の移動量は、参照像上の各輝点の位置情報と、取得像上の各輝点の位置情報とを比較することで、輝点の移動量を算出できる。なお、それぞれの移動量は、例えば、輝点の位置が移動した画素数(何画素移動したか)を計数することで求められる。但し、輝点の位置を重心位置として求めれば、1画素より小さい単位で移動量を算出することが可能である。算出される輝点の移動量は、輝点の移動方向を含む概念である。即ち、計測される輝点の移動量には、移動した方向の情報も含まれる。このようにすると、後述のように、差分像を生成しないで済むので処理を単純化できる。
なお上記では、輝点の位置情報を比較する場合で説明したが、参照像と取得像との差分像を作成してもよい。この場合、この差分像から対応する輝点の位置に基づいて、輝点の移動量を算出する。このようにすると、移動した輝点のみが差分像上に残るので、処理量を減らすことができる。
また移動量波形生成部142は、移動量算出部141で算出された各輝点の移動量を時系列に並べてなる移動量波形データを生成するものである。なおここでは、移動量算出部141で算出された輝点の移動量は、上述のように、取得像(Nフレーム)と、取得像の1つ前に取得した像(N−1フレーム)との異なる時点に取得された2フレームの画像に基づいて算出されている。言い換えれば任意の時点とそのわずかに前の時点の異なる2時点の像に基づいて算出されている。このため、生成する移動量波形データは、(例えば各輝点の移動量の総和をとった場合)は、単位時間あたりの体積変動波形、あるいはおおまかな単位時間あたりの平均的高さの変動波形、即ち体積変動の推移あるいは平均的高さの変動の推移を表す波形になる。また例えば、高さの推移を表すような波形を得たいときは、前記波形を積分すれば距離の波形、即ち高さ推移を示す波形になる。
ここで、移動量の総和をとった場合は、概ね、単位時間あたりの体積変動量を示す。各輝点の移動が個々の高さ変動を示しているため総和を取ることで体積変動となる。また各輝点の移動量は、各輝点位置での単位時間あたりの輝点位置の変化(即ち輝点移動速度)であり、単位時間での高さ変化に概ね相当する。
移動量波形生成部142は、以上のように生成された移動量波形データを測定データとして演算装置20の第1の状態判別部24(図1参照)、スペクトル算出部26(図1参照)、体動検出部28(図1参照)等へ出力するものである。即ち、移動量波形生成部142は、少なくとも上述した輝点の移動量の総和の移動量波形データである呼吸データと、例えば輝点の移動量の絶対値の総和の移動量波形データである体動データとの両方の波形データを含む測定データを出力するものである。
なお、FGセンサで取得される測定データの検出感度やノイズレベルは、外乱光の状況等の環境条件やベッド3上での人物2の姿勢や位置等に影響されることがある。ベッド3上での人物2の姿勢や位置等に影響される場合としては、例えば、基線長d(図13参照)を長くするため投影装置11(図10参照)をベッド3(図10参照)の中心から外して設置した際に、パターン11a(図10参照)の投影が斜めに行われることになり、ベッド3上での輝点の密度、言い換えれば、輝点の間隔が投影装置11から離れるにしたがって広くなり、結果的に投影装置11に近い位置と遠い位置とでは、検出感度やノイズレベルが異なることになる場合がある。
図15は、本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1による処理工程の概略を示すフロー図である。本図を参照して呼吸モニタ1による人物2の異常の監視方法について説明する。なお、呼吸モニタ1の構成については適宜図1又は図11を参照する。なお、呼吸モニタ1の構成の説明と重複する説明はできる限り省略するものとする。
まず、輝点移動量取得工程として、移動量算出部141によりベッド3上に投影される複数の各輝点11b(図10参照)毎に、撮像装置12により異なる時点に取得された2フレームの画像から、複数の輝点11b(図10参照)の前記2フレーム間の輝点移動量を算出する(S100)。次に、測定データ生成工程として、移動量波形生成部142によって、移動量算出部141により算出された輝点移動量を時系列に並べてなる移動量波形データとして測定データを生成する(S102)。具体的には、移動量波形生成部142は、輝点移動量の総和の移動量波形データである呼吸データと、例えば輝点の移動量の絶対値の総和の移動量波形データである体動データとを生成する。
次に、体動検出部28により、1つ前の判断対象時点までの体動基準値算出期間T7内の測定データ(例えば体動データ)に基づいて算出される体動基準値と判断対象時点の体動データ(測定値)とを比較して、判定対象時点の動きが体動であるか否か、すなわち、判定対象時点が体動期間に含まれるか否かを判定する(S104)。ここで、判定対象時点が体動期間である場合(S104;YES)には、現時点での呼吸モニタ1による人物2の異常の判定は行わず、続けて、監視を継続するか否かを判定する(S114)。監視を継続する場合(S114;YES)には、輝点移動量取得工程(S100)に戻って、以降の各処理を繰り返し実行する。監視を継続しない場合(S114;NO)には、監視を終了する。判定対象時点が体動期間でない場合(S104;NO)には、次段の体動基準値算出工程(S106)に移行する。
なお、呼吸モニタ1による監視の開始直後の場合には、次段の体動基準値算出工程(S106)は未だ実行されておらず体動基準値は算出されていないので、最初のS104では現在の判定対象時点は体動期間でないと擬制して体動基準値算出工程(S106)に移行してもよいし、開始直後の場合にのみ用いる体動基準値を予め設定しておいてもよい。
体動基準値算出工程では、体動検出部28により判定対象時点までの体動基準値算出期間T7内の測定データ(例えば体動データ)に基づいて、体動基準値を算出する(S106)。現在の判定対象時点までのデータ(判定対象時点のデータを含む)を用いて算出された体動基準値は、次の判定対象時点での体動の検出に用いられる。なお、体動検出部28は、体動基準値算出期間T7には既に体動期間であると判別されている期間を含めずに体動基準値を算出する。なお、体動基準値算出工程(S106)は、判定対象時点が体動期間であるか否かを判断する工程(S104)の前に行ってもよい。この場合、判定対象時点に実際に用いる体動基準値として、1つ前の時点(1時点過去に遡った判定対象時点)で算出した体動基準値を用いるのではなく、判定対象時点直前(判定対象時点のデータを含まない)の体動基準値算出期間T7内の測定データ(例えば体動データ)に基づいて体動基準値を算出し、そのまま当該判定対象時点に用いる体動基準値とすればよい。これは、判定対象時点の測定データが体動であるか否かは次段で判断されるので、ここでは判定対象時点の測定データを体動基準値の算出に用いてもよいか否かが分からないからである。
次に、第1の状態判別工程として、測定データに基づいて、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布と、観察期間T1内の準一回換気量に応じて、判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別する(S108)。本実施の形態では、第1の状態判別部24は、上述したように、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布と目標とする誤報頻度に基づいて判定閾値を算出し、当該判定閾値と観察期間T1内の準一回換気量の最大値とを比較する。準一回換気量の最大値が判定閾値を下まわった場合(S108;YES)には、第1の状態判別部24は、人物2の呼吸が異常であると判別し、警報信号を警報装置36に送信し、警報装置36が警報を発する(S118)。準一回換気量の最大値が判定閾値を下まわらなかった場合(S108;NO)は、次のパワースペクトル算出工程(S110)に移行する。
なお、S108では、第1の状態判別部24は、観察期間T1又は基準データ取得期間T2と体動期間が重なる場合には、観察期間T1又は基準データ取得期間T2から体動期間の測定データを除いた残りの期間に、前記除いた期間に相当する期間を過去側から加えて観察期間T1又は基準データ取得期間T2とする。
また、呼吸モニタ1による監視の開始直後の場合には、基準データ取得期間T2を確保できないことから判定閾値を算出することができない場合がある。この場合は、現在の判定対象時点では異常がないと擬制して、次段のパワースペクトル算出工程(S110)に移行してもよいし、開始直後の場合にのみ用いる判定閾値を予め設定しておいてもよい。
パワースペクトル算出工程(S110)では、スペクトル算出部26により判定対象時点直前のデータ蓄積時間T3(ここでは、8秒程度)の呼吸データから、FFTを用いて判定対象時点のパワースペクトルを算出する。次に、スペクトル比較部27は、低周波成分のパワースペクトルの総和を取って信号成分を、高周波成分のパワースペクトルの総和を取ってノイズ成分を算出し、比較する。
次に、第2の状態判別工程として、第2の状態判別部25は、スペクトル比較部27による信号成分とノイズ成分との比較結果に基づいて信号成分がノイズ成分を下まわっているか否かを判断し(S112)、信号成分がノイズ成分を下まわっていない場合(S112;NO)は、次のS114に移行する。信号成分がノイズ成分を下まわっている場合(S112;YES)には、第2の状態判別部25は、信号成分がノイズ成分を下まわっている期間が判別評価期間T4(ここでは、8秒程度)連続的に経過したか否かを判定する(S116)。判別評価期間T4経過していない場合(S116;NO)にはS114に移行する。判別評価期間T4経過している場合(S116;YES)には、第2の状態判別部25は、人物2の呼吸が異常であると判別し、警報信号を警報装置36に送信し、警報装置36が警報を発する(S118)。S114では監視を継続するか否かを判定し、監視を継続する場合(S114;YES)には、輝点移動量取得工程(S100)に戻って、以降の各処理を繰り返し実行する。監視を継続しない場合(S114;NO)には、監視を終了する。
なお、ここで、演算装置20の各部での各処理、上述の方法は、コンピュータにインストールして、該コンピュータを呼吸モニタとして作動させ、各処理を実行するようにコンピュータを制御するソフトウエアプログラムとして実現することが可能であり、係るソフトウエアプログラムを記録する記録媒体としても実現可能である。ソフトウエアプログラムはコンピュータ内蔵のプログラム部(不図示)に記録されて使用されても良く、外付けの記憶装置やCD−ROMに記録され、プログラム部(不図示)に読み出されて使用されても良く、またインターネットからプログラム部(不図示)にダウンロードされて使用されても良い。
以上で説明した本発明の実施の形態に係る呼吸モニタ1又はソフトウエアプログラムによれば、第1の状態判別部24は、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布と、観察期間T1の準一回換気量に応じて、判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別することで、人物2にできる限り負担をかけずに、安全に呼吸の状態を判別することができる。すなわち、人物2の危険な状態でのデータを大量に取得すること無しに、少ない誤報で異常判定を行うことができる。また、基準データ取得期間T2の準一回換気量に関するデータの確率分布と目標とする誤報頻度に応じて判定閾値を設定することで、人物2固有の睡眠呼吸障害の症状等の状況に応じて可能な限り高い閾値を設定することができるので、誤報を防止しつつ、検出漏れを防ぐことができる。また、以上のように準一回換気量の最大値に基づいて判別を行うことは、特に、神経筋疾患患者等は人工呼吸がはずれた場合には大きな呼吸ができなくなり、準一回換気量の最大値も大きくならないことから好適である。
さらに、第2の状態判別部25は、例えば、1つの固定された閾値を用いずに、信号成分とノイズ成分との相対的な比較結果に基づいて呼吸の停止を判別することで、人物2の姿勢や上掛けの状況、外乱光の状況等、環境条件により、後述するFGセンサ10により取得される測定データの検出感度やノイズレベルが変化する場合でも、当該変化に適切に対応した、より正確な判別を下すことができる。また、信号成分とノイズ成分との相対的な比較結果によって第2の状態判別部25による判別を行うので、例えば、人工呼吸回路が人物2の体位変換時に外れた場合や、介護時に外して付け忘れた場合、寝返り等の体動により人物2の体勢が変わった場合等に、改めてある程度の時間をかけて閾値を設定し直す必要がなく、人物2の呼吸停止を迅速に検出することができる。
さらに、第1の状態判別部24と第2の状態判別部25とを組み合わせることで、第1の状態判別部24又は第2の状態判別部25のいずれか一方が人物2の呼吸の異常を判別した場合に呼吸の異常を検出することができるので、包括的かつ漏れのない判別をすることができる。
また、体動検出部28により検出される体動期間が観察期間T1、基準データ取得期間T2等と重なる場合に、観察期間T1、基準データ取得期間T2等から体動期間を除外して状態の判別を行うのでより正確な判別をすることができる。
を用いないことで、より正確な判別をすることができる。
したがって、例えば、自発呼吸がほとんど無い患者において人工呼吸回路の切断などにより呼吸ができなくなった場合、すなわち、患者の呼吸が停止した場合や、一定の自発呼吸がある患者において人工呼吸が実質的に働かなくなった場合など、人工呼吸のトラブルが直接重大な事故に結びつくことを最大限防止することができる。
また、呼吸モニタ1は、測定装置としてFGセンサ10を用いるので、人物2の状態を示す測定データを人物2に接触することなく取得でき、人物2に負担をかけることが無く、健常人の就寝時呼吸監視や入院患者の呼吸監視に加えて、常時人工呼吸を行っている筋ジストロフィやALSの患者の人工呼吸監視に最適である。さらに、呼吸のような人物2の小さな動きでも正確に測定できる。また、人物2の自然な状態でのデータが取れなかったり、睡眠中にセンサが外れてデータが欠落する恐れもない。また、人物2の体に直接センサ類を付ける必要がないことから、設置に要する人手も少なくてすみ、コスト的にも心理的にも負荷を低減することができる。
なお、以上で説明した第1の状態判定部24は、周期的な動きのある人物2の状態を示す測定データに基づいて、判定対象時点の前後の観察期間T1(例えば、図3参照)の準一回換気量に関するデータの最大値と、最大閾値としての判定閾値との比較に基づいて、判定対象時点における人物2の状態が異常か否かを判別するものということができる。すなわち、人物2が周期的な呼吸を行っているにもかかわらず、呼吸の動きの大きさが小さくなるような場合でも呼吸の異常(例えば、呼吸の低下)を判別することができ、人物2に周期的な動きがあるにもかかわらず存在しうる異常を判別することができる。さらに、第2の状態判定部25は、判定対象時点の準一回換気量に関するデータが最小閾値を下まわるか否かに基づいて、判定対象時点における対象物2の状態が異常か否かを判別するものということができる。すなわち、ここでは、信号成分に対するノイズ成分の値が最小閾値となる。これにより、異常の検出漏れを防止することができる。
なお、以上の説明では、呼吸モニタ1は、人工呼吸を行っている人物2の人工呼吸回路の異常を検出する装置であり、例えば、人工呼吸の事故を防止することを目的とした装置であるものとして説明した。しかしながらこれに限らず、人工呼吸の事故を防止する目的でなくても、例えば、単に呼吸が停止した状態、呼吸が低下した状態を判別する装置としてもよいことはいうまでもない。すなわち、この場合は、人物2が異常であるとは、単に呼吸が停止した状態、呼吸が低下した状態等の危険な呼吸の状態をいう。